説明

高耐久性を有する高分子電解質膜およびその製造方法

(a)イオン交換基を有するフッ素系高分子電解質と(b)塩基性重合体とからなる高分子電解質膜であって、所望により、成分(a)の少なくとも一部と成分(b)の少なくとも一部が互いに化学結合している、ことを特徴とする高分子電解質膜。上記高分子電解質膜の製造方法。上記高分子電解質膜がアノードとカソードの間に密着保持されてなる膜/電極接合体、および、該膜/電極接合体を用いた固体高分子形燃料電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、固体高分子形燃料電池用の高分子電解質膜に関する。更に詳細には、本発明は、(a)イオン交換基を有するフッ素系高分子電解質と(b)塩基性重合体からなる高分子電解質膜であって、所望により、成分(a)の少なくとも一部と成分(b)の少なくとも一部が互いに化学結合している、ことを特徴とする高分子電解質膜に関する。本発明の高分子電解質膜は、化学的安定性、機械強度および耐熱性に優れ、高温下の使用の際にも高耐久性を有する。本発明の高分子電解質膜を用いる固体高分子形燃料電池は、高温低加湿条件下(運転温度100℃近辺で、60℃加湿(湿度20%RHに相当))において長時間運転を行っても、高分子電解質膜の破れ(ピンホールの発生など)が起きることがないので、クロスリーク(膜の破れにより燃料と酸化剤が混合すること)が発生せず、厳しい条件下でも長時間安定に使用することができる。本発明は更に、上記高分子電解質膜の製造方法に関する。本発明はまた、上記高分子電解質膜がアノードとカソードの間に密着保持されてなる膜/電極接合体、および、該膜/電極接合体を用いた固体高分子形燃料電池に関する。
従来技術
燃料電池は、電池内で、燃料(水素源)と酸化剤(酸素)から電気化学的反応により電気エネルギーを得るものである。つまり燃料の化学エネルギーから直接電気エネルギーに変換している。燃料源としては、純水素をはじめ水素元素を含む石油、天然ガス(メタン等)、メタノールなどが使用できる。
燃料電池自体は、機械部分がないため騒音の発生が少なく、また外部からの燃料と酸化剤を供給し続け原理的には半永久的に発電させることができるのが特徴である。
電解質は、液体電解質や固体電解質に分類されるが、この中で電解質として高分子電解質膜を用いたものが固体高分子形燃料電池である。
特に、固体高分子形燃料電池は、他と比較して低温で作動することから、自動車等の代替動力源や家庭用コジェネレーションシステム、携帯用発電機として期待されている。
固体高分子形燃料電池には、電極触媒層とガス拡散層が積層されたガス拡散電極がプロトン交換膜の両面に接合された膜電極接合体が少なくとも備えられている。ここで言うプロトン交換膜は、高分子鎖中にスルホン酸基やカルボン酸基等の強酸性基を有し、プロトンを選択的に透過する性質を有する材料である。このようなプロトン交換膜としては、化学的安定性の高いNafion(登録商標、米国デュポン社製)に代表されるパーフルオロ系プロトン交換膜が好適に用いられる。
燃料電池の運転時においては、アノード側のガス拡散電極に燃料(例えば水素)、カソード側のガス拡散電極に酸化剤(例えば酸素や空気)をそれぞれ供給し、両電極間を外部回路で接続することにより作動する。具体的には、水素を燃料とした場合、アノード触媒上にて水素が酸化されてプロトンが生じ、このプロトンがアノード触媒層内のプロトン伝導性ポリマーを通った後、プロトン交換膜内を移動し、カソード触媒層内のプロトン伝導性ポリマーを通ってカソード触媒上に達する。一方、水素の酸化によりプロトンと同時に生じた電子は外部回路を通ってカソード側ガス拡散電極に到達し、カソード触媒上にて上記プロトンと酸化剤中の酸素と反応して水が生成され、このとき電気エネルギーを取り出すことができる。この際、プロトン交換膜はガスバリアとしての役割も果たす必要があり、プロトン交換膜のガス透過率が高いと、アノード側水素のカソード側へのリーク及びカソード側酸素のアノード側へのリーク、即ちクロスリークが発生して、いわゆるケミカルショート(化学的短絡)の状態となって良好な電圧を取り出せなくなる。
このような固体高分子形燃料電池は、高出力特性を得るために80℃近辺で運転するのが通常である。しかしながら、自動車用途として用いる場合には、夏場の自動車走行を想定して、高温低加湿条件下(運転温度100℃近辺で、60℃加湿(湿度20%RHに相当))でも燃料電池を運転できることが望まれている。ところが、従来のパーフルオロ系プロトン交換膜を用いて高温低加湿条件下で燃料電池を長時間運転すると、プロトン交換膜にピンホールが生じクロスリークが発生するという問題があり、十分な耐久性を得られなかった。
パーフルオロ系プロトン交換膜の耐久性を向上させる方法として、フィブリル状PTFEの添加による補強を行う方法(日本国特開昭53−149881号(米国特許第4,218,542号に対応)と日本国特公昭63−61337号(EP94679号に対応)参照)、延伸処理したPTFE多孔膜による補強を行う方法(日本国特公平5−75835号と日本国特表平11−501964号(米国特許第5,599,614号と米国特許第5,547,551号に対応)参照)、無機粒子(Al、SiO、TiO、ZrOなど)の添加による補強を行う方法(日本国特開平6−111827号、日本国特開平9−219206号及び米国特許第5,523,181号参照)が開示されている。(なお、フィブリル状PTFEを用いる上記補強方法においては、プロトン交換膜製造用の原料溶液にフィブリル状PTFEを添加する。延伸処理したPTFE多孔膜を用いる上記補強方法においては、プロトン交換膜の製造後に、該PTFE多孔膜を貼り付けるか、あるいは、プロトン交換膜製造用の原料溶液を該PTFE多孔膜に含浸させてから溶媒を除去してプロトン交換膜を形成する。)また、パーフルオロ系プロトン交換膜の耐熱性を向上する方法として、強酸性架橋基を介して架橋されているパーフルオロ系プロトン交換膜(日本国特開2000−188013号参照)や、ゾルゲル反応を利用してパーフルオロ系プロトン交換膜にシリカを含有させたプロトン交換膜も報告されている(K.A.Mauritz,R.F.Storey and C.K.Jones,in Multiphase Polymer Materials:Blends and Ionomers,L.A.Utracki and R.A.Weiss,Editors,ACS Symposium Series No.395,p.401,American Chemical Society,Washington,DC(1989)参照)。しかしながら、これらの方法では上記問題を解決することはできなかった。
一方、高耐熱性を有するポリベンズイミダゾールに燐酸等の強酸をドープしたプロトン交換膜(以下、強酸ドープ膜と称する)が、100℃以上の高温で燃料電池運転が可能であることが報告されている(日木国特表平11−503262号(米国特許第5,525,436号に対応)参照)。しかしながら、100℃未満での燃料電池運転では液体水が存在するため、強酸が膜から水へ溶出してしまって出力が低下するため、100℃未満での燃料電池運転には不適当であった。従って、運転のオンオフが頻繁に行われ、100℃未満においても燃料電池を運転することが求められる自動車用途に用いることは困難であった。
また、ポリベンズイミダゾールとのポリマーブレンドとして、スルホン化芳香族ポリエーテルケトンとの組成物(日本国特表2002−529546号(米国特許第6,632,847号に対応)参照)や、非プロトン性溶媒の存在下でイオン交換基を有する炭化水素系ポリマーと塩基性ポリマーとをブレンドした後、キャストして得たプロトン交換膜(日本国特表2002−512285号(米国特許第6,300,381B1号に対応)及び日本国特表2002−512291号(米国特許第6,723,757号に対応)参照)が代表例として挙げられる。しかしながら、このような炭化水素系ポリマーとポリベンズイミダゾールとのブレンドポリマーでは化学的安定性が不十分であり、上記のようなクロスリーク発生の問題を解決することはできなかった。
一方、韓国公開特許公報2003−32321号の比較例3中にポリベンズイミダゾールとNafionとのブレンド膜が開示されている。このブレンド膜は、ポリベンズイミダゾールとNafionを各々ジメチルアセトアミドに溶解させ、これらを混合しキャストする事によって製造されている。しかしながら、このような製法では、PBIをNafion中に均一に微分散させることができず、PBIが不均一に分散してまだらな膜になってしまう。つまり、PBIが少なく、所望の効果が得られない部分があちこちに存在してしまうが、このような部分は通常のNafionと同様に化学的安定性が十分でなく、クロスリーク発生の原因となる。従って、このようなブレンド膜では、高温低加湿条件下での燃料電池運転において十分な耐久性を得ることができなかった。
このように、化学的安定性、機械強度および耐熱性に優れ、高温下の使用の際にも高耐久性を有する、実用性の高い高分子電解質膜は従来技術では得られていない。具体的には、高温低加湿条件下(運転温度100℃近辺で、60℃加湿(湿度20%RHに相当))において長時間運転を行ってもクロスリークが発生せず、かつ、運転のオンオフを頻繁に行っても出力特性が低下しない優れた燃料電池を製造するのに有利に用いることのできる高分子電解質膜は従来技術では得られておらず、そのような高分子電解質膜の開発が望まれている。
発明の概要
本発明者等は、従来技術の上記課題を解決するため鋭意検討した。その結果、意外にも、塩基性重合体(b)がフッ素系高分子電解質(a)中に均一に微分散した構造を有する高分子電解質膜によって上記の目的が達成できることを見出した。また、本発明者らは、(a)イオン交換基を有するフッ素系高分子電解質と(b)塩基性重合体とからなるポリマー混合物を、プロトン性溶媒を包含する液状媒体と混合したキャスト液を提供し、該キャスト液を支持体上にキャストして、支持体上に液状塗膜を形成し、そして液状塗膜から該液状媒体を除去して、高分子電解質膜を形成する、ことを特徴とする製造方法によって、塩基性重合体(b)がフッ素系高分子電解質(a)中に均一に微分散した高分子電解質膜を製膜できることを見出した。こうして得られた高分子電解質膜は、化学的安定性、機械強度および耐熱性に優れ、高温下の使用の際にも高耐久性を有するため、この高分子電解質膜を用いた固体高分子形燃料電池は、高温低加湿条件下(運転温度100℃近辺で、60℃加湿(湿度20%RHに相当))において長時間運転を行ってもクロスリークが発生しない。また、上記の高分子電解質膜を用いた固体高分子形燃料電池は、従来のパーフルオロ系プロトン交換膜を用いた燃料電池と同様に、運転のオンオフを頻繁に行っても燃料電池の出力特性が低下しないことが確認された。これらの知見に基づき、本発明を完成した。
従って本発明の1つの目的は、化学的安定性、機械強度および耐熱性に優れ、高温下の使用の際にも高耐久性を有する、実用性の極めて高い高分子電解質膜を提供することにある。
本発明の他の1つの目的は、上記高分子電解質膜の製造方法を提供することにある。
本発明の更に他の1つの目的は、上記高分子電解質膜がアノードとカソードの間に密着保持されてなる膜/電極接合体、および、該膜/電極接合体を用いた固体高分子形燃料電池を提供することにある。
本発明の上記及びその他の諸目的、諸特徴ならびに諸利益は、添付の図面を参照しながら行う以下の詳細な説明及び請求の範囲の記載から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
図1(a)は、実施例1で作製した高分子電解質膜の表面の光学顕微鏡写真(倍率50倍)である。
図1(b)は、実施例1で作製した高分子電解質膜の膜厚方向断面の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
図2は、比較例2で作製した高分子電解質膜の表面の光学顕微鏡写真である(倍率50倍)。
図3は、比較例3で作製した高分子電解質膜の膜厚方向断面のTEM写真である。
図4は、実施例2で作製した高分子電解質膜の膜厚方向断面のTEM写真である。
図5は、実施例3で作製した高分子電解質膜の膜厚方向断面のTEM写真である。
図6(a)は、実施例4で作製した高分子電解質膜の膜厚方向断面のTEM写真である。
図6(b)は、図6(a)のTEM写真を2値化処理して得た画像である(この「2値化処理」とは、適切な画像処理を行うための準備として、図6(a)のTEM写真におけるグレーの部分を白黒いずれかに判断して、黒と判断したグレーの部分を黒くする加工を行うことである)。
図7は、実施例5で作製した高分子電解質膜の膜厚方向断面のTEM写真である。
図面のTEM写真のうち、図7のTEM写真では水平方向が膜厚方向で、その他の図面のTEM写真においては垂直方向が膜厚方向である。
発明の詳細な説明
本発明の1つの態様によると、(a)イオン交換基を有するフッ素系高分子電解質が成分(a)と成分(b)の合計質量に対して50.000〜99.999質量%と
(b)塩基性重合体が成分(a)と成分(b)の合計質量に対して0.001〜50.000質量%と
からなる高分子電解質膜であって、
所望により、成分(a)の少なくとも一部と成分(b)の少なくとも一部が互いに化学結合している、
ことを特徴とする高分子電解質膜が提供される。
本発明の他の1つの態様によると、高分子電解質膜の製造方法であって、
(a)イオン交換基を有するフッ素系高分子電解質が成分(a)と成分(b)の合計質量に対して50.000〜99999質量%と
(b)塩基性重合体が成分(a)と成分(b)の合計質量に対して0.001〜50.000質量%と
からなるポリマー混合物を、プロトン性溶媒を包含する液状媒体と混合したキャスト液を提供し、
該キャスト液を支持体上にキャストして、支持体上に液状塗膜を形成し、そして
液状塗膜から該液状媒体を除去して、高分子電解質膜を形成する、
ことを特徴とする製造方法が提供される。
本発明の更に他の1つの態様によると、本発明の高分子電解質膜がアノードとカソードの間に密着保持されてなる膜/電極接合体であって、アノードはアノード触媒層からなり、プロトン伝導性を有し、カソードはカソード触媒層からなりプロトン伝導性を有することを特徴とする膜/電極接合体が提供される。
本発明の更に他の1つの態様によると、上記の膜/電極接合体を包含し、アノードとカソードが、高分子電解質膜の外側に位置する電子伝導性材料を介して互いに結合されていることを特徴とする固体高分子形燃料電池が提供される。
次に、本発明の理解を容易にするために、本発明の基本的特徴及び好ましい諸態様を列挙する。
1.(a)イオン交換基を有するフッ素系高分子電解質が成分(a)と成分(b)の合計質量に対して50.000〜99.999質量%と
(b)塩基性重合体が成分(a)と成分(b)の合計質量に対して0.001〜50.000質量%と
からなる高分子電解質膜であって、
所望により、成分(a)の少なくとも一部と成分(b)の少なくとも一部が互いに化学結合している、
ことを特徴とする高分子電解質膜。
2.塩基性重合体(b)の量が成分(a)と成分(b)の合計質量に対して0.01〜10.000質量%であることを特徴とする前項1に記載の高分子電解質膜。
3.塩基性重合体(b)が窒素含有芳香族塩基性重合体であることを特徴とする前項1又は2に記載の高分子電解質膜。
4.膜厚方向の断面の15μm×15μmの領域を透過型電子顕微鏡で観察すると海/島構造を示すことを特徴とする前項1〜3のいずれかに記載の高分子電解質膜。
5.イオン交換容量が1g当たり1.0〜1.5ミリ当量であることを特徴とする前項1〜4のいずれかに記載の高分子電解質膜。
6.フッ素系高分子電解質(a)が下記式で表されることを特徴とする前項1〜5のいずれかに記載の高分子電解質膜。
[CFCF−[CF−CF(−O−(CF−CF(CF))−O−(CF−X)]
(式中0≦a<1、0<g≦1、a+g=1、1≦b≦3、1≦f≦8、そしてXは−COOH、−SOH、−PO又は−POHである。)
7.フッ素系高分子電解質(a)が下記式で表されることを特徴とする前項1〜5のいずれかに記載の高分子電解質膜。
[CFCF−[CF−CF(−O−(CF−X)]
(式中0≦a<1、0<g≦1、a+g=1、1≦f≦8、そしてXは−COOH、−SOH、−PO又は−POHである。)
8.窒素含有芳香族塩基性重合体が、ポリ[(2,2’−(m−フェニレン)−5,5’−ビベンゾイミダゾール]であることを特徴とする前項3に記載の高分子電解質膜。
9.膜厚が2〜150μmであることを特徴とする前項1〜8のいずれかに記載の高分子電解質膜。
10.膜厚が50μmのときに、JIS K 7136に従って測定したヘイズ値が25%以下であることを特徴とする前項1〜9のいずれかに記載の高分子電解質膜。
11.膜厚が50μm以外であり、換算ヘイズ値(H50)が25%以下であり、該換算ヘイズ値(H50)は、高分子電解質膜の膜厚が50μmであると仮定して算出されるヘイズ値として定義され、
該換算ヘイズ値(H50)は下記式で算出される、
ことを特徴とする前項1〜10のいずれかに記載の高分子電解質膜。

(式中、tは高分子電解質膜の膜厚(μm)を表し、HはJIS K 7136に従って測定した高分子電解質膜のヘイズ値を表す。)
12.海/島構造の島粒子の合計面積が、膜断面の該15μm×15μmの領域の0.1〜70%であることを特徴とする前項4に記載の高分子電解質膜。
13.海/島構造の島粒子の密度が、膜断面の該15μm×15μmの領域の1μm当たり0.1〜100個であることを特徴とする前項4又は12に記載の高分子電解質膜。
14.該高分子電解質膜に含まれる補強体及び該高分子電解質膜の表面に保持された補強体よりなる群から選ばれる少なくとも1種の補強体を有することを特徴とする前項1〜13のいずれかに記載の高分子電解質膜。
15.高分子電解質膜の製造方法であって、
(a)イオン交換基を有するフッ素系高分子電解質が成分(a)と成分(b)の合計質量に対して50.000〜99.999質量%と
(b)塩基性重合体が成分(a)と成分(b)の合計質量に対して0.001〜50.000質量%と
からなるポリマー混合物を、プロトン性溶媒を包含する液状媒体と混合したキャスト液を提供し、
該キャスト液を支持体上にキャストして、支持体上に液状塗膜を形成し、そして
液状塗膜から該液状媒体を除去して、高分子電解質膜を形成する、
ことを特徴とする製造方法。
16.形成された高分子電解質膜を熱処理する工程を更に包含することを特徴とする前項15に記載の製造方法。
17.該液状媒体が更に非プロトン性溶媒を包含し、プロトン性溶媒と非プロトン性溶媒の合計質量に対して、プロトン性溶媒の量が0.5〜99.5質量%であり、非プロトン性溶媒の量が99.5〜0.5質量%であることを特徴とする前項15又は16に記載の製造方法。
18.プロトン性溶媒が水であることを特徴とする前項15〜17のいずれかに記載の製造方法。
19.前項15〜18のいずれかの方法で得られた高分子電解質膜。
20.前項1〜14のいずれかの高分子電解質膜がアノードとカソードの間に密着保持されてなる膜/電極接合体であって、アノードはアノード触媒層からなり、プロトン伝導性を有し、カソードはカソード触媒層からなり、プロトン伝導性を有することを特徴とする膜/電極接合体。
21.前項19の高分子電解質膜がアノードとカソードの間に密着保持されてなる膜/電極接合体であって、アノードはアノード触媒層からなり、プロトン伝導性を有し、カソードはカソード触媒層からなり、プロトン伝導性を有することを特徴とする膜/電極接合体。
22.前項20の膜/電極接合体を包含し、アノードとカソードが、高分子電解質膜の外側に位置する電子伝導性材料を介して互いに結合されていることを特徴とする固体高分子形燃料電池。
23.前項21の膜/電極接合体を包含し、アノードとカソードが、高分子電解質膜の外側に位置する電子伝導性材料を介して互いに結合されていることを特徴とする固体高分子形燃料電池。
以下に、本発明を詳細に説明する。
(本発明の高分子電解質膜)
本発明の高分子電解質膜は、(a)イオン交換基を有するフッ素系高分子電解質が成分(a)と成分(b)の合計質量に対して50.000〜99.999質量%と(b)塩基性重合体が成分(a)と成分(b)の合計質量に対して0.001〜50.000質量%とからなる高分子電解質膜である。所望により、成分(a)の少なくとも一部と成分(b)の少なくとも一部が互いに化学結合していてもよい。
フッ素系高分子電解質(a)としては特に限定されないが、Nafion(登録商標;米国デュポン社製)、Aciplex(登録商標;日本国旭化成(株)社製)、Flemion(登録商標;日本国旭硝子(株)社製)に代表される、下記化学式(1)で表されるイオン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体が代表例として挙げられる。
[CFCX−[CF−CF(−O−(CF−CF(CF))−O−(CFR−(CFR−(CF−X)] (1)
(式中、X、XおよびXはそれぞれ独立にハロゲン元素または炭素数1以上3以下のパーフルオロアルキル基、0≦a<1、0<g≦1、a+g=1、0≦b≦8、cは0または1であり、d、eおよびfはそれぞれ独立に0〜6の範囲の数(ただし、d+e+fは0に等しくない)、RおよびRはそれぞれ独立にハロゲン元素、炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基またはフルオロクロロアルキル基であり、Xは、−COOZ、−SOZ、−PO、−POHZ(Zは水素原子、金属原子(Na、K、Ca等)、又はアミン類(NH、NHR、NH、NHR、NR(Rはアルキル基、又はアレーン基))
中でも、下記式(2)又は(3)で表されるパーフルオロカーボン重合体が好ましい。
[CFCF−[CF−CF(−O−(CF−CF(CF))−O−(CF−X)] (2)
(式中0≦a<1、0<g≦1、a+g=1、1≦b≦3、1≦f≦8、そしてXは−COOH、−SOH、−PO又は−POHである。)
[CFCF−[CF−CF(−O−(CF−X)] (3)
(式中0≦a<1、0<g≦1、a+g=1、1≦f≦8、そしてXは−COOH、−SOH、−PO 又は−POHである。)
上記のようなパーフルオロカーボン重合体は、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン等のパーフルオロオレフィンや、パーフルオロアルキルビニルエーテル等のコモノマーに由来する単位をさらに含む共重合体であってもよい。
本発明で用いるフッ素系高分子電解質(a)の製造方法は、例えば、米国特許第5,281,680号、日本国特開平7−252322号、米国特許第5,608,022号に記載されている。
本発明の高分子電解質膜におけるフッ素系高分子電解質(a)の含有率は、成分(a)と成分(b)の合計質量に対して50.000〜99.999質量%であり、好ましくは80.000〜99.995質量%、より好ましくは90.000〜99.990質量%、さらに好ましくは95.000〜99.900質量%、最も好ましくは98.000〜99.900質量%である。フッ素系高分子電解質(a)の含有率を上記の範囲(50.000〜99.999質量%)に設定することにより、良好なプロトン伝導度を維持したまま、高耐久性を有する高分子電解質膜を得ることができる。
本発明の高分子電解質膜に用いる塩基性重合体(b)としては、特に限定されないが、窒素含有脂肪族塩基性重合体や窒素含有芳香族塩基性重合体が挙げられる。
窒素含有脂肪族塩基性重合体の例としては、ポリエチレンイミンが挙げられる。窒素含有芳香族塩基性重合体の例としては、ポリアニリン、及び複素環式化合物であるポリベンズイミダゾール、ポリピリジン、ポリピリミジン、ポリビニルピリジン、ポリイミダゾール、ポリピロリジン、ポリビニルイミダゾール等が挙げられる。この中でもポリベンズイミダゾールは耐熱性が高いことから特に好ましい。
ポリベンズイミダゾールとしては、化学式(4)、化学式(5)に表される化合物、化学式(6)で表されるポリ2,5−ベンズイミダゾール等が挙げられる。

ここでRは、

及びアルカン鎖、又はフルオロアルカン鎖などの二価の基である。
ここで各Rはそれぞれ独立に水素原子、アルキル、フェニル、又はピリジルである。
また、上記式中、xは、10以上1.0×10以下の数である。

(式中、lは、10以上1.0×10以下の数、RとRは、上記式(4)で定義したのと同じである)

(式中、mは、10以上1.0×10以下の数であり、
は、上記式(4)で定義したのと同じである)
以上のようなポリベンズイミダゾールの中でも、下記式(7)で表されるポリ[2、2’−(m−フェニレン)−5,5’−ビベンゾイミダゾール]が特に好ましい。

(式中、nは、10以上1.0×10以下の数である)
本発明の高分子電解質膜における塩基性重合体(b)の含有率は、成分(a)と成分(b)の合計質量に対して0.001〜50.000質量%であり、好ましくは0.005〜20.000質量%、より好ましくは0.010〜10.000質量%、さらに好ましくは0.100〜5.000質量%、最も好ましくは0.100〜2.000質量%である。塩基性重合体(b)の含有率を上記の範囲(0.001〜50.000質量%)に設定することにより、良好なプロトン伝導度を維持したまま、高耐久性を有する高分子電解質膜を得ることができる。
本発明の高分子電解質膜においては、膜厚方向の断面の15μm×15μmの領域を透過型電子顕微鏡(以下、「TEM」と称する)で観察したときに海/島構造を示すことが好ましい。ここで言う海/島構造とは、染色処理を施さずに電子顕微鏡観察を行った時の電子顕微鏡像に黒い島粒子が灰色あるいは白色の海(連続相)に分散した状態のことを指す。島粒子の形状は、円形、楕円形、多角形、不定形など、特に限定されない。島粒子の直径(又は長径や最大径)は0.01〜10μmの範囲にある。海/島構造において、黒い島粒子のコントラストは主に塩基性重合体(b)に起因し、白色の海(連続相)の部分は主にフッ素系電解質(a)に起因する。
海/島構造においては、海/島構造の島粒子の合計面積が、膜断面の該15μm×15μmの領域の0.1〜70%であることが好ましく、より好ましくは1〜70%であり、さらに好ましくは5〜50%である。また、海/島構造の島粒子の密度が、膜断面の該15μm×15μmの領域の1μm当たり0.1〜100個であることが好ましい。ここで言う海/島構造における島粒子の合計面積と島粒子の密度は、以下のように求められる。図6(a)に示されるTEM像を例にとって説明する。まず、図6(a)に示されるTEM像をスキャナーで読み取ってデジタル化した後、画像解析装置IP1000(日本国旭化成(株)社製)を用いて、各部分の黒化度(グレースケール256階調)を測定し、横軸がグレースケール、縦軸が個数のヒストグラムを作成する。TEM像が海/島構造もしくはこれに多少類似する構造を示している場合(即ち、主に塩基性重合体(b)からなる黒色部だけの場合、及び、主にフッ素系高分子電解質(a)からなる白色部だけの場合のいずれでもない場合)は、前記ヒストグラムは2山分布となる。2山分布の谷間のグレースケール値を閾値として、それより大きいグレースケール値の部分を黒と判断し、それ以下のグレースケール値の部分を白と判断して、2値化を実施した。(即ち、図6(a)のTEM写真におけるグレーの部分を上記の基準で白黒いずれかに判定して、黒と判定したグレーの部分を黒くする加工を行った。)こうして図6(b)の画像を得た。こうして2値化した画像において、所定領域(膜断面の15μm×15μmの領域に相当する部分)について、画像解析装置IP1000(日本国旭化成(株)社製)を用いて、主に塩基性重合体(b)に相当する、海/島構造の黒い島粒子部分と、主にフッ素系高分子電解質(a)に相当する海部分とを画像処理で分離した。そして、上記15μm×15μmの領域に存在する島粒子の個数と島粒子の合計面積を計測した。上記15μm×15μmの領域に占める島粒子の合計面積の百分率を求めた。また、上記15μm×15μmの領域の1μm当たりの島粒子の個数を求めて、島粒子の密度とした。
このような海/島構造を有することは、塩基性重合体(b)を主体とする部分がフッ素系高分子電解質(a)を主体とする部分中に均一に微分散していることを表しており、より高い耐久性を得ることができる。このような海/島構造の代表例として、図7に示すもの(後述の実施例5)が挙げられる。一方、図3に示す高分子電解質膜(後述の比較例3)は海/島構造を有しておらず、これは塩基性重合体(b)を主体とする部分がフッ素系高分子電解質(a)を主体とする部分中に均一に微分散していないことを表し、高い耐久性を得ることができない。
本発明の高分子電解質膜のイオン交換容量としては特に限定されないが、1g当たり0.50〜4.00ミリ当量が好ましく、より好ましくは0.83〜4.00ミリ当量、最も好ましくは1.00〜1.50ミリ当量である。より大きいイオン交換容量の高分子電解質膜を用いる方が、高温低加湿条件下においてより高いプロトン伝導性を示し、燃料電池に用いた場合、運転時により高い出力を得ることができる。
イオン交換容量は、以下の方法で測定することができる。まず、10cm程度に切り出した高分子電解質膜を110℃にて真空乾燥して、乾燥重量W(g)を求める。この膜を50mlの25℃飽和NaCl水溶液に浸漬してHを遊離させ、フェノールフタレインを指示薬として、0.01N水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定を行い、中和に要したNaOHの等量M(ミリ等量)を求める。このようにして求めたMをWで割って得られる値がイオン交換容量(ミリ等量/g)である。また、WをMで割って1000倍した値が当量質量EWであり、イオン交換基1当量当りの乾燥質量グラム数である。
本発明の高分子電解質膜の厚みは制限されないが、1〜500μmであることが好ましく、より好ましくは2〜150μm、さらに好ましくは5〜75μm、最も好ましくは5〜50μmである。膜厚が厚いほど耐久性は良くなる一方で、初期特性は悪くなるため、上記の範囲(1〜500μm)で膜厚を設定するのが好ましい。
本発明の高分子電解質膜は、膜厚50μmのときに、JIS K 7136に従って測定したヘイズ値が25%以下であることが好ましく、より好ましくは20%以下、最も好ましくは15%以下である。ヘイズ値は光の内部散乱の程度によって影響を受け、膜厚に依存する値である。本発明の高分子電解質膜の膜厚が50μmではない場合は、換算ヘイズ値(H50)が25%以下であることが好ましく、該換算ヘイズ値(H50)は、高分子電解質膜の膜厚が50μmであると仮定して算出されるヘイズ値として定義され、
該換算ヘイズ値(H50)は下記式で算出される。

(式中、tは高分子電解質膜の膜厚(μm)を表し、HはJIS K 7136に従って測定した高分子電解質膜のヘイズ値を表す。)
ヘイズ値が上記範囲である(即ち、膜厚が50μmのときに、JIS K 7136に従って測定したヘイズ値が25%以下であるか、又は、膜厚が50μmではないときに、上記換算ヘイズ値(H50)が25%以下である)ということは、塩基性重合体(b)を主体とする部分がフッ素系高分子電解質(a)を主体とする部分中に均一に微分散していることを表しており、より高い耐久性を得ることができる。
また、本発明の高分子電解質膜におけるフッ素系高分子電解質(a)と塩基性重合体(b)の状態は特に限定されない。例えば、成分(a)と成分(b)が単純に物理混合している状態でもよいし、成分(a)の少なくとも一部と成分(b)の少なくとも一部が互いに反応している状態(例えば、イオン結合して、酸塩基のイオンコンプレックスを形成している状態や、共有結合している状態)でもよい。
上記のようにフッ素系高分子電解質(a)と塩基性重合体(b)が化学結合しているかどうかは、例えばフーリエ変換赤外分光光度計(Fourier−Transform Infrared Spectrome−ter)(以下、「FT−IR」と称する)により確認することができる。つまり、フッ素系高分子電解質(a)と塩基性重合体(b)からなる高分子電解質膜のFT−IR測定を行った時に、フッ素系高分子電解質(a)と塩基性重合体(b)のいずれか以外に由来する吸収ピークが観察されれば、化学結合していると判断できる。例えば、上記式(3)で表されるパーフルオロカーボン重合体と上記式(7)で表されるポリ[(2,2’−(m−フェニレン)−5,5’−ビベンゾイミダゾール](以下、PBIと称する)とからなる本発明の高分子電解質膜の場合には、FT−IR測定を行うと、1460cm−1、1565cm−1、1635cm−1付近に吸収ピークが観察され、化学結合が存在することがわかる。
本発明の高分子電解質膜は、公知の方法で補強が施されていてもよい。公知の補強方法の例としては、フィブリル状PTFEの添加による補強(日本国特開昭53−149881号(米国特許第4,218,542号に対応)と日本国特公昭63−61337号(EP94679号に対応)参照)))、延伸処理したPTFE多孔膜による補強(日本国特公平5−75835号と日本国特表平11−501964号(米国特許第5,599,614号と米国特許第5,547,551号に対応)参照)、無機粒子(Al、SiO、TiO、ZrOなど)の添加による補強(日本国特開平6−111827号、日本国特開平9−219206号及び米国特許第5,523,181号参照)、架橋による補強(日本国特開2000−188013号参照)、ゾルゲル反応を利用して膜内にシリカを含有させることによる補強((K.A.Mauritz,R.F.Storey and C.K.Jones,in Multiphase Polymer Materials:Blends and Ionomers,L.A.Utracki and R.A.Weiss,Editors,ACS Symposium Series No.395,p.401,American Chemical Society,Washington,DC(1989)参照)が挙げられる。 したがって、例えば、本発明の高分子電解質膜は、該高分子電解質膜に含まれる補強体及び該高分子電解質膜の表面に保持された補強体よりなる群から選ばれる少なくとも1種の補強体を有することができる。
(本発明の高分子電解質膜の製造例)
本発明の高分子電解質膜の製造方法を以下に説明するが、以下に例示する製造方法には限定されない。
本発明の高分子電解質膜は、例えば、以下の方法で製造することができる。
高分子電解質膜の製造方法であって、
(a)イオン交換基を有するフッ素系高分子電解質が成分(a)と成分(b)の合計質量に対して50.000〜99.999質量%と
(b)塩基性重合体が成分(a)と成分(b)の合計質量に対して0.001〜50.000質量%と
からなるポリマー混合物を、プロトン性溶媒を包含する液状媒体と混合したキャスト液を提供し、
該キャスト液を支持体上にキャストして、支持体上に液状塗膜を形成し、そして
液状塗膜から該液状媒体を除去して、高分子電解質膜を形成する、
ことを特徴とする製造方法。
上記キャスト液は、例えば、乳濁液(液体中に液体粒子がコロイド粒子あるいはそれより粗大な粒子として分散して乳状をなすもの)、懸濁液(液体中に固体粒子がコロイド粒子あるいは顕微鏡で見える程度の粒子として分散したもの)、コロイド状液体(巨大分子が分散した状態)、又はミセル状液体(多数の小分子が分子間力で会合して出来た親液コロイド分散系)などであり、これらの複合系であってもよい。
プロトン性溶媒を包含する液状媒体を含むキャスト液を用いる上記製造方法により、塩基性重合体(b)がフッ素系高分子電解質(a)中に均一に微分散した高分子電解質膜を製膜できる。ここで言うプロトン性溶媒とは、プロトンを出すことができる官能基を有する溶媒であり、その例として、水、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等)、フェノール類が挙げられる。これらのプロトン性溶媒のうち、最も好ましいものは水である。プロトン性溶媒の量としては特に限定されないが、キャスト液の液状媒体の質量に対して0.5〜99.5質量%であることが好ましく、より好ましくは1〜90質量%であり、最も好ましくは10〜60質量%である。
また、これらのプロトン性溶媒は1種もしくは2種以上を混合して用いてもよい。特に、水とアルコールの混合溶媒を用いることが好ましく、水/エタノール=3/1〜1/3(体積割合)、水/イソプロパノール=3/1〜1/3(体積割合)の混合溶媒を用いることがより好ましい。
キャスト液の液状媒体が更に非プロトン性溶媒を包含することが好ましい。ここで、非プロトン性溶媒とは上記プロトン性溶媒以外の溶媒であり、その例として、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。これらの非プロトン性溶媒は1種もしくは2種以上を混合して用いてもよい。N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシドを用いることが特に好ましい。非プロトン性溶媒の量としては特に限定されないが、キャスト液の液状媒体の質量に対して99.5〜0.5質量%であることが好ましく、より好ましくは99〜10質量%、最も好ましくは90〜40質量%である。
キャスト液中の液状媒体の濃度は限定されないが、キャスト液の質量に対して、20.000〜99.989質量%が好ましく、40.000〜99.895質量%がより好ましく、75.000〜98.990質量%が最も好ましい。
キャスト液中のフッ素系高分子電解質(a)の濃度は限定されないが、キャスト液の質量に対して、0.010〜50.000質量%が好ましく、より好ましくは0.100〜40.000質量%、最も好ましくは1.000〜20.000質量%である。
また、キャスト液中の塩基性重合体(b)の濃度は限定されないが、キャスト液の質量に対して、0.001〜30.000質量%が好ましく、より好ましくは0.005〜20.000質量%、最も好ましくは0.010〜5.000質量%である。
尚、前記キャスト液中のフッ素系高分子電解質(a)と塩基性重合体(b)の質量比(フッ素系高分子電解質(a):塩基性重合体(b))は、特に限定されないが、99.999:0.001〜50.000:50.000の範囲であることが好ましく、より好ましくは99.995:0.005〜80.000:20.000、さらにより好ましくは99.900:0.100〜95.000:5.000、最も好ましくは99.900:0.100〜98.000:2.000である。
このようなキャスト液を用いることで、液状媒体の除去が容易となり、かつ、塩基性重合体(b)を主体とする部分がフッ素系高分子電解質(a)を主体とする部分中に均一に微分散した高分子電解質膜の製造が可能となり、良好なプロトン伝導度を維持したまま、高耐久性を有する高分子電解質膜を得ることができる。
キャスト液は、例えば、塩基性重合体(b)をジメチルアセトアミド等の非プロトン性溶媒に溶解したポリマー溶液(以下、「前段階溶液A」、と称する)と、フッ素系高分子電解質(a)をジメチルアセトアミド等の非プロトン性溶媒に溶解したポリマー溶液(以下、「前段階溶液B」、と称する)を添加して撹拌し、そこに、さらにフッ素系高分子電解質(a)をプロトン性溶媒に溶解したポリマー溶液(以下、「前段階溶液C」、と称する)を添加して撹拌することで得ることができる。
塩基性重合体(b)の一例である窒素含有芳香族塩基性重合体は、一般的に非プロトン性溶媒には溶解するが、プロトン性溶媒には不溶である。しかしながら、上記のように前段階溶液Aと前段階溶液Bを混合した後、これにプロトン性溶媒を含有する前段階溶液Cを添加混合しても、驚くべきことに、窒素含有芳香族塩基性重合体は析出することなく、キャスト液中に溶解もしくは均一微分散した状態を保つことができる。このようになるメカニズムはまだ完全には解明されていないが、窒素含有芳香族塩基性重合体(b)がフッ素系高分子電解質(a)との何らかの相互作用により安定化するためと推察される。
塩基性重合体(b)は、公知文献に記載された重合方法により製造することができる(例えば、実験化学講座28高分子合成第4版、日本化学会編、日本国丸善(株)を参照)。塩基性重合体(b)の重量平均分子量は限定されないが、好ましくは10000〜1000000であり、より好ましくは20000〜100000であり、最も好ましくは50000〜100000である。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定できる。
また、このような重量平均分子量に代わる指標として、固有粘度(dl/g)を用いても良い。固有粘度は、塩基性重合体(b)をジメチルアセトアミドに溶解して得られるポリマー溶液の粘度ηP(mPa・s)とジメチルアセトアミドの粘度ηS(mPa・s)、及び該ポリマー溶液の濃度Cp(g/dL)から、下記式を用いて求めることができる。ここでいう粘度とは、例えば25℃にて円錐平板型の回転式粘度計(E型粘度計)を用いて測定される値である。
固有粘度=ln(ηP/ηS)/Cp
(式中、lnは自然対数を表す。)
塩基性重合体(b)の固有粘度としては、好ましくは0.1〜10.0dL/g、より好ましくは0.3〜5.0dL/g、最も好ましくは0.5〜1.0dL/gである。
塩基性重合体(b)と非プロトン性溶媒をオートクレーブに入れ、40〜300℃で10分〜100時間の加熱処理する等の方法によって前段階溶液Aを得ることができる。前段階溶液Aにおける塩基性重合体(b)の含有率は、前段階溶液Aの質量に対して、好ましくは0.01〜50質量%、より好ましくは0.1〜30質量%以下、最も好ましくは1〜10質量%である。
前段階溶液Bと前段階溶液Cに含まれるフッ素系高分子電解質(a)の代表例であるプロトン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体は、下記式(7)で示される前駆体ポリマーを下記の方法で重合した後、加水分解、酸処理を行って製造することができる。
[CFCX−[CF−CF(−O−(CF−CF(CF))−Oc−(CFR−(CFR−(CF−X)] (7)
(式中、X、XおよびXは、それぞれ独立に、ハロゲン元素または炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基、0≦a<1、0<g≦1、a+g=1、bは0〜8の数、cは0または1、d、eおよびfはそれぞれ独立に0〜6の数(但し、d+e+fは、0に等しくない)、RおよびRはそれぞれ独立に、ハロゲン元素、炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基またはフルオロクロロアルキル基、Xは−COOR、−CORまたは−SO(Rは、炭素数1〜3のアルキル基(フッ素置換されていないもの)、Rはハロゲン元素))
上記式(7)で示される前駆体ポリマーは、フッ化オレフィンとフッ化ビニル化合物とを共重合させることにより製造される。具体的なフッ化オレフィンとしては、CF=CF,CF=CFCl,CF=CCl等が挙げられる。具体的なフッ化ビニル化合物としては、CF=CFO(CF−SOF,CF=CFOCFCF(CF)O(CF−SOF,CF=CF(CF−SOF,CF=CF(OCFCF(CF))−(CFz−1−SOF,CF=CFO(CF−COR,CF=CFOCFCF(CF)O(CF−COR,CF=CF(CF−COR,CF=CF(OCFCF(CF))−(CF−COR(Zは1〜8の整数、Rは炭素数1〜3のアルキル基(フッ素置換されていないもの)を表す)等が挙げられる。
このような前駆体ポリマーの重合方法としては、フッ化ビニル化合物をフロン等の溶媒に溶かした後、テトラフルオロエチレンのガスと反応させ重合する溶液重合法、フロン等の溶媒を使用せずに重合する塊状重合法、フッ化ビニル化合物を界面活性剤とともに水中に仕込んで乳化させた後、テトラフルオロエチレンのガスと反応させ重合する乳化重合法等が挙げられる。上記のいずれの重合方法においても、反応温度は30〜90℃が好ましく、また、反応圧力は280〜1100kPaが好ましい。
このように製造された前駆体ポリマーの、JIS K−7210に基づいた270℃、荷重2.16kgf、オリフィス内径2.09mmで測定されるメルトインデックスMI(g/10分)は限定されないが、0.001以上1000以下が好ましく、より好ましくは0.01以上100以下、最も好ましくは0.1以上10以下である。
次に、前駆体ポリマーを、塩基性反応液体に浸漬させて、10〜90℃で10秒〜100時間の加水分解処理を行う。塩基性反応液体は限定されないが、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物の水溶液が好ましい。塩基性反応液体におけるアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物の含有率は限定されないが、塩基性反応液体の質量に対して10〜30質量%であることが好ましい。塩基性反応液体は、ジメチルスルホキシド、メチルアルコール等の膨潤性有機化合物を含有するのが好ましい。塩基性反応液体における膨潤性有機化合物の含有率としては、塩基性反応液体の質量に対して1〜30質量%であることが好ましい。
このように加水分解処理した後、さらに塩酸等で酸処理を行うことにより、プロトン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体が製造される。プロトン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体のプロトン交換容量は限定されないが、1g当り0.50〜4.00が好ましく、より好ましくは1.00〜4.00、最も好ましくは1.25〜2.50である。
次に、プロトン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体とプロトン性溶媒をオートクレーブに入れ、40〜300℃で10分〜100時間の加熱処理する等の方法により、プロトン性溶媒にプロトン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体を溶解させた前段階溶液Cを得ることができる。ここで言う溶液には、前記パーフルオロカーボン重合体がミセル状に分散した状態も含む。前段階溶液Cにおける前記パーフルオロカーボン重合体の含有率は、前段階溶液Cの質量に対して、好ましくは0.1〜50質量%、より好ましくは0.1〜30質量%、最も好ましくは1〜10質量%である。
前段階溶液Bに関しては、プロトン交換基を有するパーフルオロカーボン重合体と非プロトン性溶媒をオートクレーブに入れ、40〜300℃で10分〜100時間の加熱処理する方法、もしくは前段階溶液Cの溶媒置換(プロトン性溶媒を揮発させた後、非プロトン性溶媒を添加する)を行うことで製造することができる。前段階溶液Bにおける前記パーフルオロカーボン重合体の含有率は、前段階溶液Bの質量に対して、好ましくは0.01〜50質量%、より好ましくは0.1〜30質量%、最も好ましくは1〜10質量%である。
以上のように製造した前段階溶液Aと前段階溶液Bとを公知の攪拌方法により混合し、更に前段階溶液Cを添加し撹拌して混合する。また、所望により濃縮を行う。こうして、キャスト液が得られる。
次にキャスト液を支持体上にキャストして、支持体上に液状塗膜を形成し、そして、液状塗膜から液状媒体を除去することにより、本発明の高分子電解質膜を得ることができる。キャスト方法としては、グラビアロールコータ、ナチュラルロールコータ、リバースロールコータ、ナイフコータ、ディップコータ等の公知の塗工方法を用いることができる。キャストに用いる支持体は限定されないが、一般的なポリマーフィルム、金属箔、アルミナ、Si等の基板等が好適に使用できる。このような支持体は、膜/電極接合体(後述する)を形成する際には、所望により、高分子電解質膜から除去される。また、日本国特公平5−75835号に記載のPTFE膜を延伸処理した多孔質膜にキャスト液を含浸させてから液状媒体を除去することにより、補強体(該多孔質膜)を含んだ高分子電解質膜を製造することもできる。また、キャスト液にPTFE等からなるフィブリル化繊維を添加してキャストしてから液状媒体を除去することにより、日本国特開昭53−149881号と日本国特公昭63−61337号に示されるような、フィブリル化繊維で補強された高分子電解質膜を製造することもできる。
このようにして得られた高分子電解質膜は、所望により、40〜300℃、好ましくは80〜200℃で加熱処理(アニーリング)に付してもよい。(加熱処理により、液状媒体を完全に除去でき、また、成分(a)と成分(b)の構造が安定化する。)更に、本来のイオン交換容量を充分に発揮させるために、所望により、塩酸や硝酸等で酸処理を行ってもよい。(高分子電解質膜のイオン交換基の一部が塩で置換されている場合、この酸処理によりイオン交換基に戻すことができる。)また、横1軸テンターや同時2軸テンターを使用することによって延伸配向を付与することもできる。
(膜/電極接合体)
本発明の高分子電解質膜を固体高分子形燃料電池に用いる場合、本発明の高分子電解質膜がアノードとカソードの間に密着保持されてなる膜/電極接合体(membrane/electrode assembly)(以下、しばしば「MEA」と称する)として使用される。ここでアノードはアノード触媒層からなり、プロトン伝導性を有し、カソードはカソード触媒層からなり、プロトン伝導性を有する。また、アノード触媒層とカソード触媒層のそれぞれの外側表面にガス拡散層(後述する)を接合したものもMEAと呼ぶ。
アノード触媒層は、燃料(例えば水素)を酸化して容易にプロトンを生ぜしめる触媒を包含し、カソード触媒層は、プロトン及び電子と酸化剤(例えば酸素や空気)を反応させて水を生成させる触媒を包含する。アノードとカソードのいずれについても、触媒としては白金もしくは白金とルテニウム等を合金化した触媒が好適に用いられ、10〜1000オングストローム以下の触媒粒子であることが好ましい。また、このような触媒粒子は、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、カーボンブラック、活性炭、黒鉛といった0.01〜10μm程度の大きさの導電性粒子に担持されていることが好ましい。触媒層投影面積に対する触媒粒子の担持量は、0.001mg/cm〜10mg/cm以下であることが好ましい。
さらにアノード触媒層とカソード触媒層は、上記式(2)又は上記式(3)で表されるパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーを含有することが好ましい。触媒層投影面積に対する担持量として、0.001mg/cm〜10mg/cm以下であることが好ましい。
MEAの作製方法としては、例えば、次のような方法が挙げられる。まず、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーをアルコールと水の混合溶液に溶解したものに、触媒として市販の白金担持カーボン(例えば、日本国田中貴金属(株)社製TEC10E40E)を分散させてペースト状にする。これを2枚のPTFEシートのそれぞれの片面に一定量塗布して乾燥させて触媒層を形成する。次に、各PTFEシートの塗布面を向かい合わせにして、その間に本発明の高分子電解質膜を挟み込み、100〜200℃で熱プレスにより転写接合してから、PTFEシートを取り除くことにより、MEAを得ることができる。 当業者にはMEAの作製方法は周知である。MEAの作製方法は、例えば、JOURNAL OF APPLIED ELECTROCHEMISTRY,22(1992)p.1−7に詳しく記載されている。
ガス拡散層としては、市販のカーボンクロスもしくはカーボンペーパーを用いることができる。前者の代表例としては、米国DE NORA NORTH AMERICA社製カーボンクロスE−tek,B−1が挙げられ、後者の代表例としては、CARBEL(登録商標、日本国ジャパンゴアテックス(株))、日本国東レ社製TGP−H、米国SPCTRACORP社製カーボンペーパー2050等が挙げられる。また、電極触媒層とガス拡散層が一体化した構造体は「ガス拡散電極」と呼ばれる。ガス拡散電極を本発明の高分子電解質膜に接合してもMEAが得られる。市販のガス拡散電極の代表例としては、米国DE NORA NORTH AMERICA社製ガス拡散電極ELAT(登録商標)(ガス拡散層としてカーボンクロスを使用)が挙げられる。
(固体高分子形燃料電池)
基本的には、上記MEAのアノードとカソードを高分子電解質膜の外側に位置する電子伝導性材料を介して互いに結合させると、作動可能な固体高分子形燃料電池を得ることができる。当業者には固体高分子形燃料電池の作成方法は周知である。固体高分子形燃料電池の作成方法は、例えば、FUEL CELL HANDBOOK(VAN NOSTRAND REINHOLD、A.J.APPLEBY et.al、ISBN 0−442−31926−6)、化学One Point,燃料電池(第二版),谷口雅夫,妹尾学編,共立出版(1992)等に詳しく記載されている。
電子伝導性材料としては、その表面に燃料や酸化剤等のガスを流すための溝を形成させたグラファイトまたは樹脂との複合材料、金属製のプレート等の集電体を用いる。上記MEAがガス拡散層を有さない場合、MEAのアノードとカソードのそれぞれの外側表面にガス拡散層を位置させた状態で単セル用ケーシング(例えば、米国エレクトロケム社製 PEFC単セル)に組み込むことにより固体高分子形燃料電池が得られる。
高電圧を取り出すためには、上記のような単セルを複数積み重ねたスタックセルとして燃料電池を作動させる。このようなスタックセルとしての燃料電池を作成するためには、複数のMEAを作成してスタックセル用ケーシング(例えば、米国エレクトロケム社製 PEFCスタックセル)に組み込む。このようなスタックセルとしての燃料電池においては、隣り合うセルの燃料と酸化剤を分離する役割と隣り合うセル間の電気的コネクターの役割を果たすバイポーラプレートと呼ばれる集電体が用いられる。
燃料電池の運転は、一方の電極に水素を、他方の電極に酸素または空気を供給することによって行われる。燃料電池の作動温度は高温であるほど触媒活性が上がるために好ましい。通常は、水分管理が容易な50〜80℃で作動させることが多いが、80℃〜150℃で作動させることもできる。
本発明の高分子電解質膜は、クロルアルカリ電解、水電解、ハロゲン化水素酸電解、食塩電解、酸素濃縮器、湿度センサー、ガスセンサー等に用いることも可能である。高分子電解質膜を酸素濃縮器に利用する方法については、例えば、化学工学,56(3),p.178−180(1992)や、米国特許第4,879,016号を参照できる。高分子電解質膜を湿度センサーに利用する方法については、例えば、日本イオン交換学会誌,8(3),p.154−165(1997)や、J.Fang et al.,Macromolecules,35,6070(2002)を参照できる。高分子電解質膜をガスセンサーに利用する方法については、例えば、分析化学,50(9),p.585−594(2001)や、X.Yang,S.Johnson,J.Shi,T.Holesinger,B.Swanson:Sens.Actuators B,45,887(1997)を参照できる。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を実施例と比較例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
実施例と比較例で用いられる評価法および測定法は以下のとおりである。
(ヘイズ値測定)
日本国(株)東洋精機製作所社製ヘイズガードIIを用いて、JIS K 7136に基づき、高分子電解質膜のヘイズ値測定を行った。また、膜厚が50μm以外の場合、換算ヘイズ値H50を下記式にて算出した。

(式中、tは高分子電解質膜の膜厚(μm)を表し、HはJIS K 7136に従って測定した高分子電解質膜のヘイズ値を表す。)
(TEM観察)
高分子電解質膜を0.5mm×15mm程度に切り、エポキシ樹脂(例えば、日本国日新EM社製Quetol−812)で包埋し、ミクロトーム(ドイツ国LEICA社製ULTRACUT(登録商標)UCT)(ダイヤモンドナイフを使用)を用いて膜厚方向に切り、厚さ80〜100nmの超薄切片を作製した。銅製メッシュにこの超薄切片を載せ、透過型電子顕微鏡(日本国日立社製 H7100型)を用いて加速電圧125kVで膜断面を3000倍の倍率で観察した。観察は断面の1箇所を無作為に選んで行った。このTEM像をフィルムに撮影し、現像を経て、印画紙にネガを4倍に引き伸ばして焼き付け、TEM写真を得た。このTEM写真から、前述の方法にて、膜断面の15μm×15μmの領域における海/島構造の島粒子の占有面積率と島粒子の密度(島粒子数/1μm)を求めた。
(OCV加速試験)
高温低加湿条件下における高分子電解質膜の耐久性を加速的に評価するため、以下のようなOCV加速試験を実施した。ここで言う「OCV」とは、開回路電圧(Open Circuit Voltage)を意味する。このOCV加速試験は、OCV状態に保持することで高分子電解質膜の化学的劣化を促進させることを意図した加速試験である。(OCV加速試験の詳細は、平成14年度日本国新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「固体高分子形燃料電池の研究開発(膜加速評価技術の確立等に関するもの)」日本国旭化成(株)成果報告書p.55〜57に記載されている。)
まず、アノード側ガス拡散電極とカソード側ガス拡散電極を向い合わせて、その間に高分子電解質膜を挟み込み、評価用セルに組み込んだ。ガス拡散電極としては、米国DE NORA NORTH AMERICA社製ガス拡散電極ELAT(登録商標)(Pt担持量0.4mg/cm、以下同じ)に、5質量%のパーフルオロスルホン酸ポリマー溶液SS−910(旭化成(株)製、当量質量(EW):910、溶媒組成(質量比):エタノール/水=50/50)を塗布した後、大気雰囲気中、140℃で乾燥・固定化したものを使用した。ポリマー担持量は0.8mg/cmであった。
この評価用セルを評価装置(日本国(株)東陽テクニカ社製燃料電池評価システム890CL)にセットして昇温した後、アノード側に水素ガス、カソード側に空気ガスを200cc/minで流してOCV状態に保持した。ガス加湿には水バブリング方式を用い、水素ガス、空気ガスともに加湿してセルへ供給した。
試験条件としては、セル温度100℃と120℃の2条件で行った。セル温度が100℃の場合は、ガス加湿温度は50℃とし、また、アノード側とカソード側の両方を無加圧(大気圧)とした。また、セル温度が120℃の場合は、ガス加湿温度は60℃とし、アノード側を0.2MPa(絶対圧力)、カソード側を0.15MPa(絶対圧力)に加圧した。
上記試験の開始から10時間ごとに、高分子電解質膜にピンホールを生じたか否かを調べるため、日本国GTRテック(株)製フロー式ガス透過率測定装置GTR−100FAを用いて水素ガス透過率を測定した。評価セルのアノード側を水素ガスで0.15MPaに保持した状態で、カソード側にキャリアガスとしてアルゴンガスを10cc/minで流し、評価セル中をクロスリークによりアノード側からカソード側に透過してきた水素ガスとともにガスクロマトグラフG2800に導入し、水素ガスの透過量を定量化する。水素ガス透過量をX(cc)、補正係数をB(=1.100)、高分子電解質膜の膜厚T(cm)、水素分圧をP(Pa)、高分子電解質膜の水素透過面積をA(cm)、測定時間をD(sec)とした時の水素ガス透過率はL(cc*cm/cm/sec/Pa)は、下記式から計算される。
L=(X×B×T)/(P×A×D)
水素ガス透過率がOCV試験前の値の10倍に達した時点で試験終了とした。
(燃料電池評価)
高分子電解質膜の燃料電池評価を以下のように行う。まず、以下のように電極触媒層を作製する。Pt担持カーボン(日本国田中貴金属(株)社製TEC10E40E、Pt36.4wt%)1.00gに対し、5質量%パーフルオロスルホン酸ポリマー溶液SS−910(日本国旭化成(株)製、当量質量(EW):910、溶媒組成(質量比):エタノール/水=50/50)を11質量%に濃縮したポリマー溶液を3.31g添加、さらに3.24gのエタノールを添加して後、ホモジナイザーでよく混合して電極インクを得た。この電極インクをスクリーン印刷法にてPTFEシート上に塗布した。塗布量は、Pt担持量及びポリマー担持量共に0.15mg/cmになる塗布量と、Pt担持量及びポリマー担持量共に0.15mg/cmになる塗布量の2種類とした。塗布後、室温下で1時間、空気中120℃にて1時間、乾燥を行うことにより厚み10μm程度の電極触媒層を得た。これらの電極触媒層のうち、Pt担持量及びポリマー担持量共に0.15mg/cmのものをアノード触媒層とし、Pt担持量及びポリマー担持量共に0.30mg/cmのものをカソード触媒層とした。
このようにして得たアノード触媒層とカソード触媒層を向い合わせて、その間に高分子電解質膜を挟み込み、160℃、面圧0.1MPaでホットプレスすることにより、アノード触媒層とカソード触媒層を高分子電解質膜に転写、接合してMEAを作製した。
このMEAの両側(アノード触媒層とカソード触媒層の外表面)にガス拡散層としてカーボンクロス(米国DE NORA NORTH AMERICA社製ELAT(登録商標)B−1)をセットして評価用セルに組み込んだ。この評価用セルを評価装置(日本国(株)東陽テクニカ社製燃料電池評価システム890CL)にセットして80℃に昇温した後、アノード側に水素ガスを260cc/min、カソード側に空気ガスを880cc/minで流し、アノード・カソード共に0.20MPa(絶対圧力)で加圧した。ガス加湿には水バブリング方式を用い、水素ガスは90℃、空気ガスは80℃で加湿してセルへ供給した状態にて、電流電圧曲線を測定して初期特性を調べた。
初期特性を調べた後、耐久性試験をセル温度100℃と110℃の2条件で行った。いずれの場合もアノード、カソード共にガス加湿温度は60℃とした。セル温度が100℃の場合、アノード側に水素ガスを74cc/min、カソード側に空気ガスを102cc/minで流し、アノード側を0.30MPa(絶対圧力)、カソード側を0.15MPa(絶対圧力)で加圧した状態で、電流密度0.3A/cmで発電した。セル温度が110℃の場合、アノード側に水素ガスを49cc/min、カソード側に空気ガスを68cc/minで流し、アノード側を0.30MPa(絶対圧力)、カソード側を0.20MPa(絶対圧力)で加圧した状態で、電流密度0.1A/cmで発電した。また、10分ごとに1分間、開回路にして電流値を0にし、OCV(開回路電圧)を調べた。
耐久性試験において、高分子電解質膜にピンホールが生じると、水素ガスがカソード側へ大量にリークするというクロスリークと呼ばれる現象が起きる。このクロスリーク量を調べるため、カソード側排気ガス中の水素濃度をマイクロGC(オランダ国Varian社製CP4900)にて測定し、この測定値が著しく上昇した時点で試験終了とした。
【実施例1】
Nafion/PBI=97.5/2.5(質量比)、イオン交換容量0.77ミリ当量/g、膜厚50μmの高分子電解質膜を以下のように製造した。
5質量%のNafion溶液(NafionTM/HO/イソプロパノール、米国Solution Technology,Inc.社製,当量質量EW(プロトン交換基1当量当りの乾燥質量グラム数)=1100)を前段階溶液C1として使用した。これと同じ前段階溶液C1にジメチルアセトアミド(以下、DMACと称する)を添加し、120℃で1時間還流した後、エバポレータで減圧濃縮を行って、Nafion/DMAC=1.5/98.5(質量比)溶液を前段階溶液B1として製造した。
一方、重量平均分子量が27000であるポリ[2,2’−(m−フェニレン)−5,5’−ビベンズイミダゾール](日本国シグマアルドリッチジャパン(株)社製、以下PBIと称する)をDMACとともにオートクレーブ中に入れて密閉し、200℃まで昇温して5時間保持した。その後、オートクレーブを自然冷却して、PBI/DMAC=10/90(質量%)の組成のPBI溶液を得た。このPBI溶液の固有粘度は0.8(dl/g)であった。さらに、このPBI溶液をジメチルアセトアミドで10倍に希釈して、PBI/DMAC=1/99(質量%)の組成の前段階溶液A1を作製した。
次に100.0gの前段階溶液B1に16.3gの前段階溶液A1を添加し混合した後、97.1gの前段階溶液C1を加えて攪拌し、さらに80℃にて減圧濃縮してキャスト液を得た。このキャスト液中のNafionとPBIの濃度は、各々5.6質量%と0.14質量%であった。
32gの上記キャスト液を直径15.4cmのシャーレに流し込み、ホットプレート上にて60℃1時間及び80℃1時間の熱処理を行い、溶媒を除去した。その後、シャーレをオーブンに入れ160℃で1時間熱処理を行った。その後、オーブンから取り出し、冷却したシャーレにイオン交換水を注ぎ、剥離させたフィルムをろ紙ではさんで乾燥させて、本発明の高分子電解質膜を得た。この膜の表面の光学顕微鏡写真(倍率50倍)を図1(a)に示す。ホコリなど若干の異物の混入が見られるが、膜成分の大きな凝集物はなく綺麗な膜であった。また、この膜は均一に僅かに黄色がかっているが透明性が高く、ヘイズ値は0.6%であった(H50は0.6%)。また、この膜の膜厚方向断面のTEM観察を行ったところ、図1(b)に示すように海/島構造が観察された、島粒子の専有面積率は0.9%、島粒子密度は0.57個/μmであった。
この膜のOCV加速試験を行ったところ、セル温度100℃で200hr以上、120℃で100hr以上の優れた耐久性を示した。さらに、この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池評価を行ったところ、セル温度80℃、電圧0.6Vにおける電流密度は1.00A/cmという良好な初期特性を示した。また、耐久性評価では、セル温度100℃で300hr以上、110℃で480hr以上の優れた耐久性を示した。以上のように、耐久性と初期特性の両方に優れる良い結果が得られた。
比較例1
イオン交換容量0.91ミリ当量/g、膜厚51μmのNafion膜を以下のように製造した。
実施例1で用いたのと同じ5質量%Nafion溶液の32gを直径15.4cmのシャーレに流し込み、ホットプレート上にて60℃1時間及び80℃1時間の熱処理を行い、溶媒を除去した。その後、シャーレをオーブンに入れ160℃で1時間熱処理を行った。その後、オーブンから取り出し、冷却したシャーレにイオン交換水を注ぎ、剥離させたフィルムをろ紙ではさんで乾燥させて、高分子電解質膜を得た。この膜は透明で、ヘイズ値は0.5%であった(H50は0.5%)。また、この膜の膜厚方向断面のTEM観察を行ったところ、海/島構造は観察されなかった。
この膜のOCV加速試験を行ったところ、セル温度100℃では40hr、120℃では20hrで水素ガス透過率が急上昇したため試験を終了した。さらに、この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池評価を行ったところ、セル温度80℃、電圧0.6Vにおける電流密度は1.10A/cmという良好な初期特性を示した。しかしながらセル温度100℃と110℃共に140hrでクロスリークが急上昇して試験を終了した。以上のように、初期特性は良いものの十分な耐久性は得られなかった。
比較例2
韓国公開特許公報2003−32321号の比較例3に記載された方法に基づき、Nafion/PBI=97.5/2.5(質量比)、イオン交換容量0.85ミリ当量/g、膜厚49μmの高分子電解質膜を以下のように製造した。
実施例1で用いたのと同じ5質量%Nafion溶液100gを常温で24時間の間減圧乾燥してゲル状態のNafionを製造した後に、45gのDMACを添加し、6時間撹拌して10質量%のNafion/DMAC溶液を製造した。上記PBI 10g及びLiCl 1gを90gのDMACに添加した後、2気圧及び120℃の条件下で6時間攪拌して10質量%のPBI/DMAC溶液を製造した。この10質量%のPBI/DMAC溶液0.5gに前記Nafion/DMAC溶液20gを混合した後、120℃で6時間激しく攪拌し、Nafion/PBI/DMACブレンド溶液を製造した。
このブレンド溶液の32gを直径15.4cmのステンレスシャーレに展開し、100℃に維持されたオーブン内で2時間乾燥させた後、150℃に昇温して6時間熱処理を行った。その後、オーブンから取り出し、冷却したステンレスシャーレにイオン交換水を注ぎ、剥離させたフィルムをろ紙ではさんで乾燥させて、高分子電解質膜を得た。この膜の表面の光学顕微鏡写真(倍率50倍)を図2に示すが、大きな凝集物が多数観察された。また黄褐色に濁っているとともに場所によって色にムラがあり、PBIが不均一に分布していた。この高分子電解質膜のヘイズ値は76.5%(H50は77.2%)であった。また、この膜の膜厚方向断面のTEM観察を行ったが海/島構造は示していなかった。
この膜のOCV加速試験を行ったところ、セル温度100℃では200hr以上の耐久性を示したが、120℃では70hrで水素ガス透過率が急上昇したため試験を終了した。さらに、この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池評価を行ったところ、セル温度80℃、電圧0.6Vにおける電流密度は1.00A/cmという良好な初期特性を示した。しかしながらセル温度100℃では140hr、110℃では280hrでクロスリークが急上昇して試験を終了した。以上のように、初期特性は良いものの十分な耐久性は得られなかった。
比較例3
韓国公開特許公報2003−32321号の比較例3に記載された方法に基づき、Nafion/PBI=66.7/33.3(質量比)、イオン交換容量0.60ミリ当量/g、膜厚53μmの高分子電解質膜を以下のように製造した。
つまり、比較例2と同様に調製した10質量%のPBI/DMAC溶液の10gに、比較例2と同様に調製した10質量%のNafion/DMAC溶液の20gを混合した後、120℃で6時間激しく攪拌させ、Nafion/PBI/DMACブレンド溶液を製造した。
このブレンド溶液の32gを直径15.4cmのステンレスシャーレに展開し、100℃に維持されたオーブン内で2時間乾燥させた後、150℃に昇温して6時間熱処理を行った。その後、オーブンから取り出し、冷却したステンレスシャーレにイオン交換水を注ぎ、剥離させたフィルムをろ紙ではさんで乾燥させて、高分子電解質膜を得た。この膜は黄褐色に濁っているとともに場所によって色にムラがあり、PBIが不均一に分布していた。この高分子電解質膜のヘイズ値は76.5%であった(H50は74.5%)。また、この膜の膜厚方向断面のTEM観察を行ったが、図3に示すように海/島構造は観察されず、無数の亀裂がみられた。
この膜のOCV加速試験を行ったところ、セル温度100℃では200hr以上の耐久性を示したが、120℃では70hrで水素ガス透過率が急上昇したため試験を終了した。さらに、この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池評価を行おうとしたが、セル温度80℃、100℃、110℃いずれの場合も発電できなかった。
以上の結果を表1に示す。

【実施例2】
フッ素系高分子電解質として、[CFCF0.812−[CF−CF(−O−(CF−SOH)]0.188で表されるパーフルオロスルホン酸重合体(以下、「PFS」と称する)を用いて、PFS/PBI=99.0/1.0(質量比)、イオン交換容量1.25ミリ当量/g、膜厚49μmの高分子電解質膜を以下のように製造した。
まず、PFSの前駆体ポリマーとして、テトラフルオロエチレンとCF=CFO(CF−SOFとのパーフルオロカーボン重合体(MI:3.0)を製造した。この前駆体ポリマーを、水酸化カリウム(15質量%)とジメチルスルホキシド(30質量%)を溶解した水溶液中に、60℃で4時間接触させて、加水分解処理を行った。その後、60℃水中に4時間浸漬した。次に60℃の2N塩酸水溶液に3時間浸漬した後、イオン交換水で水洗、乾燥することで、イオン交換容量1.41ミリ当量/gのPFSを得た。
このPFSをエタノール水溶液(水:エタノール=50.0:50.0(質量比))とともにオートクレーブ中に入れて密閉し、180℃まで昇温して5時間保持した。その後、オートクレーブを自然冷却して、PFS:水:エタノール=5.0:47.5:47.5(質量%)の組成のポリマー溶液を得た。このポリマー溶液をエバポレータで減圧濃縮を行った後、水を添加してPFS/水=8.5/91.5(質量比)溶液を前段階溶液C2として製造した。
これと同じ前段階溶液C2にDMACを添加し、120℃で1時間還流した後、エバポレータで減圧濃縮を行って、PFS/DMAC=1.5/98.5(質量比)溶液を前段階溶液B2として製造した。
次に40.0gの前段階溶液B2に6.5gの実施例1で用いたものと同じ前段階溶液A1を添加し混合した後、68.9gの前段階溶液C2を加えて攪拌し、さらに80℃にて減圧濃縮してキャスト液を得た。このキャスト液中のPFSとPBIの濃度は、各々5.600質量%と0.056質量%であった。
このキャスト液を用いて、実施例1と同じ方法にて本発明の高分子電解質膜を製造した。この膜は均一に僅かに黄色がかっているが透明性が高く、ヘイズ値は3.0%であった(H50は3.1%)。また、この膜の膜厚方向断面のTEM観察を行ったところ、図4に示すように海/島構造が観察され、島粒子の占有面積率は2.3%、島粒子密度は0.5個/μmであった。
この膜のOCV加速試験を行ったところ、セル温度100℃で200hr以上、120℃で100hr以上の優れた耐久性を示した。さらに、この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池評価を行ったところ、セル温度80℃、電圧0.6Vにおける電流密度は1.30A/cm2という極めて良好な初期特性を示した。また、耐久性評価では、セル温度100℃で500hr以上、110℃で500hr以上の優れた耐久性を示した。以上のように、耐久性と初期特性の両方に優れる良い結果が得られた。
【実施例3】
実施例2と同じフッ素系高分子電解質(PFS)、及び前段階溶液を用いて、PFS/PBI=98.1/1.9(質量比)、イオン交換容量1.14ミリ当量/g、膜厚51μmの高分子電解質膜を以下のように製造した。
まず、40.0gの前段階溶液B2に6.5gの前段階溶液A1を添加し混合した後、32.4gの前段階溶液C2を加えて攪拌し、さらに80℃にて減圧濃縮してキャスト液を得た。このキャスト液中のPFSとPBIの濃度は、各々56質量%と0.11質量%であった。
このキャスト液を用いて、実施例2と同じ方法にて本発明の高分子電解質膜を製造した。この膜は均一に僅かに黄色がかっているが透明性が高く、ヘイズ値は3.2%であった(H50は3.1%)。また、この膜の膜厚方向断面のTEM観察を行ったところ、図5に示すように海/島構造が観察され、島粒子の占有面積率は11.6%、島粒子密度は2.9個/μm2であった。
この膜のOCV加速試験を行ったところ、セル温度100℃で200hr以上、120℃で100hr以上の優れた耐久性を示した。さらに、この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池評価を行ったところ、セル温度80℃、電圧0.6Vにおける電流密度は1.25A/cmという極めて良好な初期特性を示した。また、耐久性評価では、セル温度100℃で500hr以上、110℃で500hr以上の優れた耐久性を示した。以上のように、耐久性と初期特性の両方に優れる良い結果が得られた。
【実施例4】
実施例2と同じフッ素系高分子電解質(PFS)、及び前段階溶液を用いて、PFS/PBI=97.5/2.5(質量比)、イオン交換容量1.10ミリ当量/g、膜厚52μmの高分子電解質膜を以下のように製造した。
まず、40.0gの前段階溶液B2に6.5gの前段階溶液A1を添加し混合した後、22.8gの前段階溶液C2を加えて攪拌し、さらに80℃にて減圧濃縮してキャスト液を得た。このキャスト液中のPFSとPBIの濃度は、各々5.6質量%と0.14質量%であった。
このキャスト液を用いて、実施例2と同じ方法にて本発明の高分子電解質膜を製造した。この膜は均一に僅かに黄色がかっているが透明性が高く、この膜のヘイズ値は3.5%であった(H50は3.4%)。また、この膜の膜厚方向断面のTEM観察を行ったところ、図6(a)に示すように海/島構造が観察され、島粒子の占有面積率は23.5%、島粒子密度は14.5個/μmであった。
この膜のOCV加速試験を行ったところ、セル温度100℃で200hr以上、120℃で100hr以上の優れた耐久性を示した。さらに、この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池評価を行ったところ、セル温度80℃、電圧0.6Vにおける電流密度は1.20A/cmという極めて良好な初期特性を示した。また、耐久性評価では、セル温度100℃で500hr以上、110℃で500hr以上の優れた耐久性を示した。以上のように、耐久性と初期特性を両立した良い結果が得られた。
【実施例5】
実施例2と同じフッ素系高分子電解質(PFS)、及び前段階溶液を用いて、PFS/PBI=96.5/3.5(質量比)、イオン交換容量1.05ミリ当量/g、膜厚49μmの高分子電解質膜を以下のように製造した。
まず、40.0gの前段階溶液B2に6.5gの前段階溶液A1を添加し混合した後、14.0gの前段階溶液C2を加えて攪拌し、さらに80℃にて減圧濃縮してキャスト液を得た。このキャスト液中のPFSとPBIの濃度は、各々56質量%と0.20質量%であった。
このキャスト液を用いて、実施例2と同じ方法にて本発明の高分子電解質膜を製造した。この膜は均一に僅かに黄色がかっているが透明性は高く、ヘイズ値は3.8%であった(H50は3.9%)。また、この膜の膜厚方向断面のTEM観察を行ったところ、図7に示すように海/島構造が観察され、島粒子の占有面積率は22.3%、島粒子密度は22.2個/μmであった。
この膜のOCV加速試験を行ったところ、セル温度100℃で200hr以上、120℃で100hr以上の優れた耐久性を示した。さらに、この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池評価を行ったところ、セル温度80℃、電圧0.6Vにおける電流密度は1.20A/cmという極めて良好な初期特性を示した。また、耐久性評価では、セル温度100℃で500hr以上、110℃で500hr以上の優れた耐久性を示した。以上のように、耐久性と初期特性の両方に優れる良い結果が得られた。
【実施例6】
実施例2と同じフッ素系高分子電解質(PFS)、及び前段階溶液を用いて、PFS/PBI=94.8/5.2(質量比)、イオン交換容量0.91ミリ当量/g、膜厚53μmの高分子電解質膜を以下のように製造した。
まず、40.0gの前段階溶液B2に6.5gの前段階溶液A1を添加し混合した後、6.9gの前段階溶液C2を加えて攪拌し、さらに80℃にて減圧濃縮してキャスト液を得た。このキャスト液中のPFSとPBIの濃度は、各々5.6質量%と0.31質量%であった。
このキャスト液を用いて、実施例2と同じ方法にて本発明の高分子電解質膜を製造した。この膜は均一に僅かに黄色がかっているが透明性が高く、ヘイズ値は5.5%であった(H50は5.2%)。また、この膜の膜厚方向断面のTEM観察を行ったところ、実施例2〜5と同じような海/島構造が観察された。
この膜のOCV加速試験を行ったところ、セル温度100℃で200hr以上、120℃で100hr以上の優れた耐久性を示した。さらに、この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池評価を行ったところ、セル温度80℃、電圧0.6Vにおける電流密度は0.800A/cmであり、実施例2〜5に比べて低かった。また、耐久性評価では、セル温度100℃で500hr以上、110℃で500hr以上の優れた耐久性を示した。以上のように、初期特性が実施例2〜5に比べて低いが、耐久性に関しては良い結果が得られた。
【実施例7】
実施例2と同じキャスト液を用いて、PFS/PBI=99.0/1.0(質量比)、イオン交換容量1.25ミリ当量/g、膜厚25μmの高分子電解質膜を製造した。この膜は均一に僅かに黄色がかっているが透明性が高く、ヘイズ値は2.9%であった(H50は5.7%)。また、この膜の膜厚方向断面のTEM観察を行ったところ、実施例2〜5と同じような海/島構造が観察された。
この膜のOCV加速試験を行ったところ、セル温度100℃で200hr以上、120℃で100hr以上の優れた耐久性を示した。さらに、この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池評価を行ったところ、セル温度80℃、電圧0.6Vにおける電流密度は1.40A/cmという極めて良好な初期特性を示した。また、耐久性評価では、セル温度100℃で300hr以上、110℃で300hr以上の優れた耐久性を示した。以上のように、耐久性と初期特性の両方に優れる良い結果が得られた。
【実施例8】
実施例2と同じキャスト液を用いて、PFS/PBI=99.0/1.0(質量比)、イオン交換容量1.25ミリ当量/g、膜厚69μmの高分子電解質膜を製造した。この膜は均一に僅かに黄色がかっているが透明性が高く、ヘイズ値は9.9%であった(H50は7.3%)。また、この膜の膜厚方向断面のTEM観察を行ったところ、実施例2〜5と同じような海/島構造が観察された。
この膜のOCV加速試験を行ったところ、セル温度100℃で200hr以上、120℃で100hr以上の優れた耐久性を示した。さらに、この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池評価を行ったところ、セル温度80℃、電圧0.6Vにおける電流密度は1.30A/cmという極めて良好な初期特性を示した。また、耐久性評価では、セル温度100℃で500hr以上、110℃で500hr以上の優れた耐久性を示した。以上のように、耐久性と初期特性の両方に優れる良い結果が得られた。
【実施例9】
実施例2と同じキャスト液を用いて、PFS/PBI=99.0/1.0(質量比)、イオン交換容量1.25ミリ当量/g、膜厚95μmの高分子電解質膜を製造した。この膜は均一に僅かに黄色がかっているが透明性が高く、ヘイズ値は10.5%であった(H50は5.7%)。また、この膜の膜厚方向断面のTEM観察を行ったところ、実施例2〜5と同じような海/島構造が観察された。
この膜のOCV加速試験を行ったところ、セル温度100℃で200hr以上、120℃で100hr以上の優れた耐久性を示した。さらに、この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池評価を行ったところ、セル温度80℃、電圧0.6Vにおける電流密度は1.20A/cmという良好な初期特性を示した。また、耐久性評価では、セル温度100℃で500hr以上、110℃で500hr以上の優れた耐久性を示した。以上のように、耐久性と初期特性の両方に優れる良い結果が得られた。
【実施例10】
実施例2と同じキャスト液を用いて、PFS/PBI=99.0/1.0(質量比)、イオン交換容量1.25ミリ当量/g、膜厚105μmの高分子電解質膜を製造した。この膜は均一に僅かに黄色がかっているが透明性が高く、ヘイズ値は10.5%であった(H50は5.1%)。また、この膜の膜厚方向断面のTEM観察を行ったところ、実施例2〜5と同じような海/島構造が観察された。
この膜のOCV加速試験を行ったところ、セル温度100℃で200hr以上、120℃で100hr以上の優れた耐久性を示した。さらに、この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池評価を行ったところ、セル温度80℃、電圧0.6Vにおける電流密度は1.00A/cm2であり、実施例7〜9よりも若干低めであった。また、耐久性評価では、セル温度100℃で500hr以上、110℃で500hr以上の優れた耐久性を示した。以上のように、耐久性と初期特性の両方に優れる良い結果が得られた。
【実施例11】
実施例2と同じキャスト液を用いて、PFS/PBI=99.0/1.0(質量比)、イオン交換容量1.25ミリ当量/g、膜厚152μmの高分子電解質膜を製造した。この膜は均一に僅かに黄色がかっているが透明性が高く、ヘイズ値は13.0%であった(H50は4.5%)。また、この膜の膜厚方向断面のTEM観察を行ったところ、実施例2〜5と同じような海/島構造が観察された。
この膜のOCV加速試験を行ったところ、セル温度100℃で200hr以上、120℃で100hr以上の優れた耐久性を示した。さらに、この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池評価を行ったところ、セル温度80℃、電圧0.6Vにおける電流密度は0.70A/cmであり、実施例7〜10よりもかなり低めであった。一方、耐久性評価では、セル温度100℃で500hr以上、110℃で500hr以上の優れた耐久性を示した。以上のように、初期特性は良くないが、耐久性に関しては良い結果が得られた。
【実施例12】
実施例6と同じキャスト液を用いて、PFS/PBI=94.8/5.2(質量比)、イオン交換容量0.91ミリ当量/g、膜厚25μmの高分子電解質膜を製造した。この膜は均一に僅かに黄色がかっているが透明性が高く、ヘイズ値は5.2%であった(H50は10.1%)。また、この膜の膜厚方向断面のTEM観察を行ったところ、実施例2〜5と同じような海/島構造が観察された。
この膜のOCV加速試験を行ったところ、セル温度100℃で200hr以上、120℃で100hr以上の優れた耐久性を示した。さらに、この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池評価を行ったところ、セル温度80℃、電圧0.6Vにおける電流密度は1.10A/cmという良好な初期特性を示した。また、耐久性評価では、セル温度100℃で500hr以上、110℃で500hr以上の優れた耐久性を示した。以上のように、耐久性と初期特性の両方に優れる良い結果が得られた。
比較例4
イオン交換容量1.41ミリ当量/g、膜厚53μmの高分子電解質膜を、実施例2で製造した前段階溶液C2を用いて、以下のように製造した。
前段階溶液C2の32gを直径15.4cmのシャーレに流し込み、ホットプレート上にて60℃1時間及び80℃1時間の熱処理を行い、溶媒を除去した。その後、シャーレをオーブンに入れ160℃で1時間熱処理を行った。その後、オーブンから取り出し、冷却したシャーレにイオン交換水を注ぎ、剥離させたフィルムをろ紙ではさんで乾燥させて、高分子電解質膜を得た。この膜は透明で、ヘイズ値は0.6%であった(H50は0.6%)。また、この膜の膜厚方向断面のTEM観察を行ったところ、海/島構造は観察されなかった。
この膜のOCV加速試験を行ったところ、セル温度100℃では40hr、120℃では20hrで水素ガス透過率が急上昇したため試験を終了した。さらに、この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池評価を行ったところ、セル温度80℃、電圧0.6Vにおける電流密度は1.35A/cmという極めて良好な初期特性を示した。しかしながらセル温度100℃と110℃共に140hrでクロスリークが急上昇して試験を終了した。以上のように、初期特性は良いものの十分な耐久性は得られなかった。
以上の結果を表2に示す。

【実施例13】
塩基性重合体としてポリアニリンを用いた例について以下に記載する。PFS/ポリアニリン=99.0/1.0(質量比)、イオン交換容量1.21ミリ当量/g、膜厚50μmの高分子電解質膜を以下のように製造した。
ポリアニリン(米国POLYSCIENCES Inc.製)をDMACとともにオートクレーブ中に入れて密閉し、150℃まで昇温して5時間保持した。その後、オートクレーブを自然冷却して、ポリアニリン/DMAC=1/99(質量%)の組成の前段階溶液A2を作製した。また、実施例2で用いた前段階溶液B2とC2を用いて以下のようにキャスト液を製造した。
つまり、40.0gの前段階溶液B2に、6.5gの前段階溶液A2を添加し混合した後、68.9gの前段階溶液C2を加えて攪拌し、さらに80℃にて減圧濃縮してキャスト液を得た。このキャスト溶液中のPFSとポリアニリンの濃度は、各々5.600質量%と0.056質量%であった。このキャスト液を用いて、実施例1と同じ方法にて本発明の高分子電解質膜を製造した。この膜は透明性が高く、ヘイズ値は3.0%であった(H50は3.1%)。また、この膜の膜厚方向断面のTEM観察を行ったところ、海/島構造が観察された。
この膜のOCV加速試験を行ったところ、セル温度100℃で200hr以上、120℃で100hr以上の優れた耐久性を示した。さらに、この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池評価を行ったところ、セル温度80℃、電圧0.6Vにおける電流密度は1.00A/cm2という良好な初期特性を示した。また、耐久性評価では、セル温度100℃で300hr以上、110℃で480hr以上の優れた耐久性を示した。以上のように、耐久性と初期特性の両方に優れる良い結果が得られた。
【実施例14】
塩基性重合体としてポリビニルピリジンを用いた例について以下に記載する。PFS/ポリビニルピリジン=99.0/1.0(質量比)、イオン交換容量1.21ミリ当量/g、膜厚50μmの高分子電解質膜を以下のように製造した。
ポリビニルピリジン(日本国 シグマ アルドリッチ ジャパン(株)社製)をDMACとともにオートクレーブ中に入れて密閉し、150℃まで昇温して5時間保持した。その後、オートクレーブを自然冷却して、ポリビニルピリジン/DMAC=1/99(質量%)の組成の前段階溶液A3を作製した。また、実施例2で用いた前段階溶液B2とC2を用いて以下のようにキャスト液を製造した。
つまり、40.0gの前段階溶液B2に、6.5gの前段階溶液A3を添加し混合した後、68.9gの前段階溶液C2を加えて攪拌し、さらに80℃にて減圧濃縮してキャスト液を得た。このキャスト液中のPFSとポリビニルピリジンの濃度は、各々5.600質量%と0.056質量%であった。
このキャスト液を用いて、実施例1と同じ方法にて本発明の高分子電解質膜を製造した。この膜は透明性が高く、ヘイズ値は3.0%であった(H50は3.1%)。また、この膜の膜厚方向断面のTEM観察を行ったところ、海/島構造が観察された。
この膜のOCV加速試験を行ったところ、セル温度100℃で200hr以上、120℃で100hr以上の優れた耐久性を示した。さらに、この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池評価を行ったところ、セル温度80℃、電圧0.6Vにおける電流密度は1.00A/cmという良好な初期特性を示した。また、耐久性評価では、セル温度100℃で300hr以上、110℃で480hr以上の優れた耐久性を示した。以上のように、耐久性と初期特性の両方に優れる良い結果が得られた。
【実施例15】
塩基性重合体としてポリエチレンイミンを用いた例について以下に記載する。PFS/ポリエチレンイミン=99.0/1.0(質量比)、イオン交換容量1.21ミリ当量/g、膜厚50μmの高分子電解質膜を以下のように製造した。
日本国和光純薬工業(株)社製の30質量%ポリエチレンイミン水溶液P−70を前段階溶液A4として用いた。また、実施例2で製造した前段階溶液B2,C2を使用して以下のようにキャスト溶液を作製した。まず、12.00gの前段階溶液B2に0.07gの前段階溶液A4を添加し混合した後、21.20gの前段階溶液C2を加えて攪拌し、さらに80℃にて減圧濃縮してキャスト液を得た。このキャスト液中のPFSとポリエチレンイミンの濃度は、各々5.6質量%と0.056質量%であった。
このキャスト液を用いて、実施例1と同じ方法にて本発明の高分子電解質膜を製造した。この膜は透明性が高く、ヘイズ値は3.0%であった(H50は3.1%)。また、この膜の膜厚方向断面のTEM観察を行ったところ、海/島構造が観察された。
この膜のOCV加速試験を行ったところ、セル温度100℃で200hr以上、120℃で100hr以上の優れた耐久性を示した。さらに、この膜を用いてMEAを作製し、燃料電池評価を行ったところ、セル温度80℃、電圧0.6Vにおける電流密度は1.00A/cmという良好な初期特性を示した。また、耐久性評価では、セル温度100℃で300hr以上、110℃で480hr以上の優れた耐久性を示した。以上のように、耐久性と初期特性の両方に優れる良い結果が得られた。
【実施例16】
実施例2と同じフッ素系高分子電解質(PFS)を用いて、PFS/PBI=99/1(質量比)、イオン交換容量1.14ミリ当量/g、膜厚50μmの高分子電解質膜を以下のように製造した。
PFSをDMACとともにオートクレーブ中に入れて密閉し、180℃まで昇温して5時間保持した。その後、オートクレーブを自然冷却して、PFS/DMAC=1.5/98.5(質量比)の組成の前段階溶液B3を得た。
一方、PFSをイソプロパノール水溶液(水/イソプロパノール=31.0/30.0)とともにオートクレーブ中に入れて密閉し、180℃まで昇温して5時間保持した。その後、オートクレーブを自然冷却して、PFS/水/イソプロパノール=8.5/46.5/45.0(質量比)の組成の前段階溶液C3を得た。
次に、4.00gの前段階溶液B3の中に、撹拌しながら0.65gの前段階溶液A1を徐々に添加、混合して均一なポリマー溶液とした。次いで、撹拌しながら更に6.88gの前段階溶液C3を徐々に添加、混合して、均一なキャスト液を得た。
このキャスト液を直径9.1cmのステンレスシャーレに流し込み、これをオーブン中に入れて160℃に昇温し、8時間熱処理を行った。その後、オーブンから取り出し、冷却したステンレスシャーレにイオン交換水を注ぎ、剥離させたフィルムをろ紙ではさんで乾燥させて、膜厚50μmの本発明の高分子電解質膜を得た。この膜は均一に黄色がかっていた。
この高分子電解質膜について、100℃でOCV加速試験を行い、100時間後のクロスリーク量を測定したところ、2.7×10−12(cc*cm/cm/sec/Pa)であり、評価前のクロスリーク量と変わらず、高温でも優れた耐久性を示した。
産業上の利用の可能性
本発明の高分子電解質膜は、化学的安定性、機械強度および耐熱性に優れ、高温下の使用の際にも高耐久性を有する。本発明の高分子電解質膜を用いる固体高分子形燃料電池は、高温低加湿条件下(運転温度100℃近辺で、60℃加湿(湿度20%RHに相当))において長時間運転を行っても、高分子電解質膜の破れ(ピンホールの発生など)が起きることがないので、クロスリーク(膜の破れにより燃料と酸化剤が混合すること)が発生せず、厳しい条件下でも長時間安定に使用することができる。


【図2】

【図3】

【図4】

【図5】



【図7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)イオン交換基を有するフッ素系高分子電解質が成分(a)と成分(b)の合計質量に対して50.000〜99.999質量%と
(b)塩基性重合体が成分(a)と成分(b)の合計質量に対して0.001〜50.000質量%と
からなる高分子電解質膜であって、
所望により、成分(a)の少なくとも一部と成分(b)の少なくとも一部が互いに化学結合している、
ことを特徴とする高分子電解質膜。
【請求項2】
塩基性重合体(b)の量が成分(a)と成分(b)の合計質量に対して0.01〜10.000質量%であることを特徴とする請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項3】
塩基性重合体(b)が窒素含有芳香族塩基性重合体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の高分子電解質膜。
【請求項4】
膜厚方向の断面の15μm×15μmの領域を透過型電子顕微鏡で観察すると海/島構造を示すことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高分子電解質膜。
【請求項5】
イオン交換容量が1g当たり1.0〜1.5ミリ当量であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の高分子電解質膜。
【請求項6】
フッ素系高分子電解質(a)が下記式で表されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の高分子電解質膜。
[CFCF−[CF−CF(−O−(CF−CF(CF))−O−(CF−X)]
(式中0≦a<1、0<g≦1、a+g=1、1≦b≦3、1≦f≦8、そしてXは−COOH、−SOH、−PO又は−POHである。)
【請求項7】
フッ素系高分子電解質(a)が下記式で表されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の高分子電解質膜。
[CFCF−[CF−CF(−O−(CF−X)]
(式中0≦a<1、0<g≦1、a+g=1、1≦f≦8、そしてXは−COOH、−SOH、−PO又は−POHである。)
【請求項8】
窒素含有芳香族塩基性重合体が、ポリ[(2,2’−(m−フェニレン)−5,5’−ビベンゾイミダゾール]であることを特徴とする請求項3に記載の高分子電解質膜。
【請求項9】
膜厚が2〜150μmであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の高分子電解質膜。
【請求項10】
膜厚が50μmのときに、JIS K 7136に従って測定したヘイズ値が25%以下であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の高分子電解質膜。
【請求項11】
膜厚が50μm以外であり、換算ヘイズ値(H50)が25%以下であり、該換算ヘイズ値(H50)は、高分子電解質膜の膜厚が50μmであると仮定して算出されるヘイズ値として定義され、
該換算ヘイズ値(H50)は下記式で算出される、
ことを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の高分子電解質膜。

(式中、tは高分子電解質膜の膜厚(μm)を表し、HはJIS K 7136に従って測定した高分子電解質膜のヘイズ値を表す。)
【請求項12】
海/島構造の島粒子の合計面積が、膜断面の該15μm×15μmの領域の0.1〜70%であることを特徴とする請求項4に記載の高分子電解質膜。
【請求項13】
海/島構造の島粒子の密度が、膜断面の該15μm×15μmの領域の1μm当たり0.1〜100個であることを特徴とする請求項4又は12に記載の高分子電解質膜。
【請求項14】
該高分子電解質膜に含まれる補強体及び該高分子電解質膜の表面に保持された補強体よりなる群から選ばれる少なくとも1種の補強体を有することを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の高分子電解質膜。
【請求項15】
高分子電解質膜の製造方法であって、
(a)イオン交換基を有するフッ素系高分子電解質が成分(a)と成分(b)の合計質量に対して50.000〜99.999質量%と
(b)塩基性重合体が成分(a)と成分(b)の合計質量に対して0.001〜50.000質量%と
からなるポリマー混合物を、プロトン性溶媒を包含する液状媒体と混合したキャスト液を提供し、
該キャスト液を支持体上にキャストして、支持体上に液状塗膜を形成し、そして
液状塗膜から該液状媒体を除去して、高分子電解質膜を形成する、
ことを特徴とする製造方法。
【請求項16】
形成された高分子電解質膜を熱処理する工程を更に包含することを特徴とする請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
該液状媒体が更に非プロトン性溶媒を包含し、プロトン性溶媒と非プロトン性溶媒の合計質量に対して、プロトン性溶媒の量が0.5〜99.5質量%であり、非プロトン性溶媒の量が99.5〜0.5質量%であることを特徴とする請求項15又は16に記載の製造方法。
【請求項18】
プロトン性溶媒が水であることを特徴とする請求項15〜17のいずれかに記載の製造方法。
【請求項19】
請求項15〜18のいずれかの方法で得られた高分子電解質膜。
【請求項20】
請求項1〜14のいずれかの高分子電解質膜がアノードとカソードの間に密着保持されてなる膜/電極接合体であって、アノードはアノード触媒層からなり、プロトン伝導性を有し、カソードはカソード触媒層からなり、プロトン伝導性を有することを特徴とする膜/電極接合体。
【請求項21】
請求項19の高分子電解質膜がアノードとカソードの間に密着保持されてなる膜/電極接合体であって、アノードはアノード触媒層からなり、プロトン伝導性を有し、カソードはカソード触媒層からなり、プロトン伝導性を有することを特徴とする膜/電極接合体。
【請求項22】
請求項20の膜/電極接合体を包含し、アノードとカソードが、高分子電解質膜の外側に位置する電子伝導性材料を介して互いに結合されていることを特徴とする固体高分子形燃料電池。
【請求項23】
請求項21の膜/電極接合体を包含し、アノードとカソードが、高分子電解質膜の外側に位置する電子伝導性材料を介して互いに結合されていることを特徴とする固体高分子形燃料電池。

【国際公開番号】WO2005/000949
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【発行日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511096(P2005−511096)
【国際出願番号】PCT/JP2004/009220
【国際出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】