説明

高耐久性燃料電池触媒とその製造方法

【課題】低コストで且つ大量製造に適した金属担持触媒の製造方法を提供する。
【解決手段】金属Aと金属Bと担体とを備える触媒であって、金属Aが担体に担持されており、且つ金属Aが金属Bによって修飾されている前記触媒の製造方法であって、該方法が、金属Aが担持された担体と金属Bのイオンと還元剤とを接触させて、担体に担持された金属Aを金属Bによって修飾する修飾工程を含み、該修飾工程が、薄膜流体中で金属Bのイオンと還元剤とを反応させて、金属Aを金属Bによって修飾することを含む、前記触媒の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の電極に使用される触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素及び酸素を電気化学的に反応させて電力を得るため、発電に伴って生じる生成物は原理的に水のみである。それ故、地球環境への負荷がほとんどないクリーンな発電システムとして注目されている。
【0003】
燃料電池は、燃料極(アノード)側に水素を含む燃料ガスを、空気極(カソード)側に酸素を含む酸化ガスを供給することにより起電力を得る。ここで、アノード側では酸化反応が、カソード側では還元反応が進行し、全体として外部回路に起電力を供給する。
【0004】
通常、アノード及びカソードは、担体に白金(Pt)等の金属からなる触媒を担持した触媒電極によって構成される。上記の反応速度は、触媒電極に使用される触媒の触媒活性に依存するため、長期間に亘って高い触媒活性を発現する触媒を得ることは、燃料電池の性能向上に不可欠である。
【0005】
特許文献1は、導電性支持体に結合した、金−被覆金属粒子を含み、該金−被覆金属粒子が、金又は金合金製の、原子的に薄い外殻によって少なくとも部分的に封入された、貴金属−含有コアを含むことを特徴とする、酸素−還元電極触媒を記載する。当該文献は、金の外殻(外側サブシェル)に封入された、適当な貴金属又は金属合金(例えばプラチナ)のコアを含む粒子が、燃料電池における酸素−還元電極触媒として有用であることを記載する。
【0006】
上記の構造は、コアシェル構造体として知られている。コアシェル構造体とは、金属Aと金属Bとを含む複合触媒粒子であって、金属Aを主成分とするコア部と、金属Bを主成分とするシェル部とからなり、金属Aが金属Bとは異なる結晶構造を有することを特徴とする(特許文献2)。複合触媒粒子をコアシェル構造体の形態とすることにより、白金の溶解を抑制し、燃料電池を長期間に亘って運転しても、触媒の初期活性を保持することが可能となる。
【0007】
燃料電池の触媒電極に使用される触媒は、通常、触媒活性を有する金属粒子を担体(支持体)に担持することによって製造される。特許文献1は、予め金より低い還元電位を持つ銅のような金属をプラチナナノ粒子上に電着し、その後、金の単原子層をプラチナナノ粒子上に堆積させる自然レドックス置換法による製造方法を記載する。特許文献3は、マイクロリアクターを用いて金属粒子前駆体と樹状分枝分子とを混合して、樹状分枝分子に金属粒子前駆体を結合乃至内包させてなる複合粒子を製造する方法を記載する。マイクロリアクターとは、微小な流路(マイクロ流路)を反応系として用いる装置であって、金属微粒子の製造に使用されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2009-510705号公報
【特許文献2】特開2009-279544号公報
【特許文献3】特開2006-134774号公報
【特許文献4】国際公開第2009/008390号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、特許文献1の方法は電着工程を含むため、電解めっき装置が必要となる。また、当該文献の方法はバッチ処理で実施されるため、触媒を大量製造するためにはバッチ処理を複数回繰り返す必要がある。このため、当該文献の方法は製造コストが高くなり、触媒の大量製造に適さないという問題が存在した。
【0010】
それ故、本発明は、低コストで且つ大量製造に適した金属担持触媒の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記課題を解決するための手段を種々検討した結果、触媒の製造時において、マイクロリアクターを用いて金属イオンの還元反応を実施することにより、従来技術と比較して均一に金属が修飾された触媒を低コストで製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1) 金属Aと金属Bと担体とを備える触媒であって、金属Aが担体に担持されており、且つ金属Aが金属Bによって修飾されている前記触媒の製造方法であって、
該方法が、金属Aが担持された担体と金属Bのイオンと還元剤とを接触させて、担体に担持された金属Aを金属Bによって修飾する修飾工程を含み、
該修飾工程が、
金属Aが担持された担体、金属Bのイオン及び還元剤を、これらのうち少なくとも1種の成分をそれぞれが含有する少なくとも2つの被処理流動体の形態となるように用意し、
少なくとも2つの被処理流動体を、接近及び離反可能に互いに対向して配設され、少なくとも一方が他方に対して相対的に回転する第1処理用面と第2処理用面との間に、圧力を付与しながら導入し、
被処理流動体に付与される圧力により第1処理用面から第2処理用面を離反させる方向に移動させる力を発生させ、
この力によって、第1処理用面と第2処理用面との間を微小な間隔に保ち、
この微小な間隔に保たれた第1処理用面と第2処理用面との間で、少なくとも2つの被処理流動体を合流させ、
合流した被処理流動体を、微小な間隔に保たれた第1処理用面と第2処理用面との間を通過させることによって薄膜流体を形成させ、
該薄膜流体中で金属Bのイオンと還元剤とを反応させて、金属Aを金属Bによって修飾することを含む、前記触媒の製造方法。
(2) 修飾工程が、薄膜流体中で金属Bのイオンと還元剤とを20〜50℃の範囲の温度で反応させることによって実施される、前記(1)の方法。
(3) 第1処理用面及び第2処理用面の一方の他方に対する相対的な回転数が、600〜3600 r.p.m.の範囲である、前記(1)又は(2)の方法。
(4) 圧力を付与しながら導入される被処理流動体の流速が、10〜500 ml/分の範囲である、前記(1)〜(3)のいずれかの方法。
(5) 金属Aが白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、銀及びオスミウムから選択され、金属Bが、金、コバルト、銅、鉄、マンガン、ニッケル、クロム、タングステン、イリジウム、バナジウム、チタン、ケイ素、スズ及びニオブから選択される、前記(1)〜(4)のいずれかの方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、低コストで且つ大量製造に適した金属担持触媒の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の方法に使用される装置を示す略縦断面図である。(A)本発明の方法に使用される装置の一実施形態を示す略縦断面図;(B)本発明の方法に使用される装置の別の実施形態を示す略縦断面図;(C)本発明の方法に使用される装置の別の実施形態を示す略縦断面図;(D)本発明の方法に使用される装置の別の実施形態を示す略縦断面図。
【図2】本発明の方法に使用される装置の要部略底面図である。(A)本発明の方法に使用される装置の一実施形態を示す要部略底面図;(B)本発明の方法に使用される装置の別の実施形態を示す要部略底面図;(C)本発明の方法に使用される装置の別の実施形態を示す要部略底面図;(D)本発明の方法に使用される装置の別の実施形態を示す要部略底面図。
【図3】実施例1-1の触媒における、カーボン担体に担持された金属粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)像及びエネルギー分散型X線分光(EDX)スペクトルを示す図である。
【図4】比較例1-2の触媒における、カーボン担体に担持された金属粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)像及びエネルギー分散型X線分光(EDX)スペクトルを示す図である。
【図5】実施例2-1、2-2及び2-6、並びに比較例2-2及び2-3の触媒に含まれる金属粒子における金の原子組成分布を示す図である。
【図6】実施例2-1並びに比較例2-1及び2-2の触媒電極を用いて耐久試験を行った結果を示す図である。
【図7】マイクロリアクターの回転数と5000サイクル処理後の活性維持率との関係を示す図である。
【図8】A液の流速と5000サイクル処理後の活性維持率との関係を示す図である。
【図9】A液及びB液の温度と5000サイクル処理後の活性維持率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、金属Aと金属Bと担体とを備える触媒の製造方法に関する。以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0016】
1. 触媒
本明細書において、「金属Aと金属Bと担体とを備える触媒」は、金属Aが担体に担持されており、且つ金属Aが金属Bによって修飾されている触媒を意味する。
【0017】
本明細書において、「金属A」は、触媒活性を有する金属であって、上記の触媒において、担体に保持された形態で存在する金属を意味する。金属Aは、単体の形態であってもよく、酸化物又は他の金属との合金の形態であってもよい。いずれの形態も用語「金属A」に包含するものとする。なお、本明細書において、「金属Aの合金」とは、合金の総質量の少なくとも50質量%が金属Aからなる合金を意味する。金属Aの合金における金属Aの質量組成は、限定するものではないが、下記の方法で決定することができる。
【0018】
金属Aとしては、限定するものではないが、例えば、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、銀(Ag)、金(Au)及びオスミウム(Os)を挙げることが出来る。Ptが好ましい。
【0019】
金属Aの合金における他の金属としては、限定するものではないが、例えば、PtCo、PtFe、PtNi、PtMn、PtRh、PdCo、PdFe、PdNi、PdMn及びPdRhを挙げることが出来る。PtCoが好ましい。
【0020】
本明細書において、「金属B」は、触媒活性を有する金属であって、上記の触媒において、金属Aを修飾している金属を意味する。金属Bは、単体の形態であってもよく、酸化物又は他の金属との合金の形態であってもよい。いずれの形態も用語「金属B」に包含するものとする。また、金属Bは、上記の金属Aと異なる金属である。なお、本明細書において、「金属Bの合金」とは、合金の総質量の少なくとも50質量%が金属Bからなる合金を意味する。金属Bの合金における金属Bの質量組成は、限定するものではないが、下記の方法で決定することができる。
【0021】
金属Bとしては、限定するものではないが、例えば、金(Au)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、銀(Ag)、コバルト(Co)、銅(Cu)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、タングステン(W)、イリジウム(Ir)、バナジウム(V)、チタン(Ti)、ケイ素(Si)、スズ(Sn)及びニオブ(Nb)を挙げることが出来る。Auが好ましい。
【0022】
本明細書において、「金属Aが金属Bによって修飾されている」は、金属Aの総質量の少なくとも50質量%と金属Bの総質量の少なくとも50質量%とが、相互に固溶することなく異なる結晶構造を有して結合している形態を意味する。より具体的には、金属Aの表面が金属Bによって完全に又は部分的に被覆されている形態であることが好ましく、特許文献1及び2に記載のように、金属Aを主成分とするコア部と、金属Bを主成分とするシェル部とからなり、金属Aが金属Bとは異なる結晶構造を有するコアシェル構造体の形態であることがより好ましい。ここで、「主成分とする」は、金属A又はBが、上記のコア部又はシェル部全体の総質量の少なくとも50質量%を占めることを意味する。より具体的には、金属Bは、金属AとBとの総原子量に対して5〜50原子%の範囲の量であることが好ましく、10〜30原子%の範囲の量であることがより好ましい。
【0023】
なお、金属A又はBの質量組成は、限定するものではないが、例えば、得られた触媒を灰化させ、金属成分を王水で溶解させて金属溶液とした後、該金属溶液を誘導結合プラズマ(ICP)発光分析することによって決定することができる。また、金属A又はBの原子組成は、限定するものではないが、例えば、得られた触媒について複数の表面部分をエネルギー分散型X線分光(EDX)分析することによって決定することができる。
【0024】
本発明の触媒において使用される担体としては、燃料電池の触媒電極に慣用されるカーボン担体が好ましい。より具体的には、種々の炭素原子を含む材料を炭化、賦活化処理した活性炭を含むカーボン担体が好ましい。また、当該カーボン担体は、電気抵抗が低いことが好ましい。好適なカーボン担体としては、Ketjen(商標) EC(ケチェンブラックインターナショナル製)、アセチレンブラック(ケチェンブラックインターナショナル製)、バルカン(登録商標)XC-72R(Cabot製)、デンカブラック(登録商標)(DENKA製)、Printex(登録商標) XE2(Degussa製)及びPrintex XE2-B(Degussa製)を挙げることが出来る。上記のいずれの担体であっても、本発明の方法を適用することができる。
【0025】
本発明の触媒は、金属Aが金属Bによって均一に修飾されている。このため、本発明の触媒を触媒電極として使用する燃料電池は、従来技術の方法によって製造される触媒を触媒電極として使用する燃料電池と比較して、長期に亘って運転した後の発電性能の低下が緩やかである。具体的には、本発明の触媒を触媒電極として使用する燃料電池は、通常、65〜40%の活性維持率であり、典型的には60〜50%の活性維持率である。
【0026】
なお、電位掃引をnサイクル行った後の触媒の活性維持率(%)は、限定するものではないが、例えば、回転ディスク電極装置を用いて窒素雰囲気下における電位掃引をnサイクル行った後、触媒電極の酸化還元活性を測定して、得られた値から下記の式に基づき算出することができる。
【0027】
活性維持率(%)=(nサイクル後の酸素還元活性)/(初期活性)×100
【0028】
2. 触媒の製造方法
本発明の方法は、金属Aが担持された担体と金属Bのイオンと還元剤とを接触させて、担体に担持された金属Aを金属Bによって修飾する修飾工程を含む。
【0029】
本工程において使用される金属Aが担持された担体は、上記で説明した金属A及び担体の組み合わせからなることが好ましい。Ptが担持されたカーボン担体が好ましい。
【0030】
金属Aを担体に担持する方法は特に限定されず、当業界で公知の任意の方法を用いることが出来る。例えば、担体の分散液と金属Aの塩溶液とを接触させた後、アルカリ処理することによって担体の表面に金属Aの水酸化物を析出させ、これを還元剤と反応させるか又は熱処理することによって、還元された金属Aを担体に担持させることが出来る。
【0031】
本工程において使用される金属Bのイオンは、上記で説明した金属Bのイオンであることが好ましい。Auのイオンが好ましい。この場合、対イオンとしては、限定するものではないが、例えば、塩化物イオン(Cl-)、ヨウ化物イオン(I-)、臭化物イオン(Br-)、シアン化物イオン(CN-)及びチオシアン酸イオン(SCN-)を挙げることができる。Cl-が好ましい。塩化金酸(HAuCl4)の形態でAuのイオンを使用することが特に好ましい。
【0032】
本工程において使用される還元剤は、金属A又は金属Bのイオン種に基づき当業界で公知の還元剤から適宜選択すればよい。かかる還元剤としては、限定するものではないが、例えば、エタノール、イソプロピルアルコールのようなC1〜C10脂肪族アルコール、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン、NaH2PO2及びHCHOを挙げることができる。C1〜C10脂肪族アルコールが好ましく、エタノールがより好ましい。
【0033】
上記の材料を用いて本工程を実施することにより、金属Aの表面を金属Bによって均一に修飾することが可能となる。
【0034】
本工程は、
金属Aが担持された担体、金属Bのイオン及び還元剤を、これらのうち少なくとも1種の成分をそれぞれが含有する少なくとも2つの被処理流動体の形態となるように用意し、
少なくとも2つの被処理流動体を、接近及び離反可能に互いに対向して配設され、少なくとも一方が他方に対して相対的に回転する第1処理用面と第2処理用面との間に、圧力を付与しながら導入し、
被処理流動体に付与される圧力により第1処理用面から第2処理用面を離反させる方向に移動させる力を発生させ、
この力によって、第1処理用面と第2処理用面との間を微小な間隔に保ち、
この微小な間隔に保たれた第1処理用面と第2処理用面との間で、少なくとも2つの被処理流動体を合流させ、
合流した被処理流動体を、微小な間隔に保たれた第1処理用面と第2処理用面との間を通過させることによって薄膜流体を形成させ、
該薄膜流体中で金属Bのイオンと還元剤とを反応させて、金属Aを金属Bによって修飾することを含む。
【0035】
本工程において、金属Aが担持された担体、金属Bのイオン及び還元剤は、これらのうち少なくとも1種の成分をそれぞれが含有する少なくとも2つの被処理流動体の形態で使用される。少なくとも2つの被処理流動体は、予め調製されたものを購入等してもよく、本工程の実施前に自ら調製してもよい。いずれの場合も本工程に包含されるものとする。
【0036】
本工程において、金属Bのイオンは還元剤と反応して金属Bへと還元されることから、被処理流動体は、金属Bのイオンと還元剤とを、実質的に反応し得る量で1つの被処理流動体中に一緒に含有することはない。それ故、少なくとも2つの被処理流動体は、金属Aが担持された担体を含有する被処理流動体と、金属Bのイオンを含有する別の被処理流動体と、還元剤を含有するさらに別の被処理流動体とからなるか、金属Aが担持された担体と金属Bのイオンとを含有する被処理流動体と、還元剤を含有する別の被処理流動体とからなるか、又は金属Aが担持された担体と還元剤とを含有する被処理流動体と、金属Bのイオンとを含有する別の被処理流動体とからなることが好ましい。
【0037】
本明細書において、「第1処理用面」及び「第2処理用面」は、少なくとも2つの被処理流動体によって形成される薄膜流体を保持する面を意味する。第1処理用面及び第2処理用面は、接近及び離反可能に互いに対向して配設されており、且つ少なくとも一方が他方に対して相対的に回転することができる。
【0038】
本工程をさらに詳細に説明する。少なくとも2つの被処理流動体を、第1処理用面と第2処理用面との間に、圧力を付与しながら導入すると、第1処理用面及び/又は第2処理用面は、被処理流動体に付与される圧力を受けて、離反する方向に移動する。これにより、第1処理用面と第2処理用面との間に微小な間隔が生じる。この微小な間隔は、少なくとも2つの被処理流動体を合流させるための流路の一部を構成する。少なくとも2つの被処理流動体は、そこを通過することによって合流し、合流した被処理流動体が、微小な間隔に保たれた第1処理用面と第2処理用面との間を通過することによって薄膜流体が形成される。この薄膜流体は、金属Aが担持された担体と金属Bのイオンと還元剤とを含有しているため、該薄膜流体中で、金属Bのイオンが還元剤と反応して、金属Aが金属Bによって修飾される。
【0039】
上記の工程において、薄膜流体中で金属Bのイオンと還元剤とを反応させる温度は、20〜60℃の範囲であることが好ましく、30〜50℃の範囲であることがより好ましい。
【0040】
上記の条件で本工程を実施することにより、微細な粒径を有しており、且つ活性維持率が高い触媒を製造することが可能となる。
【0041】
本工程において、上記の薄膜流体を形成させる手段としては、例えば特許文献4に記載された装置を使用することが好ましい。当該文献に記載の装置は、特許第4038083号公報に記載された分散乳化装置と同一の原理に基づく。
【0042】
以下、図面に基づいて、本工程において使用される流体処理装置について説明する。
【0043】
図1(A)〜(D)は、本発明の方法に使用される装置の概念を示す略縦断面図である。
本工程は、
各被処理流動体に圧力を付与しながら送液する少なくとも2つの流体圧付与機構p1〜p3と、
圧力が付与された被処理流動体を導入する少なくとも2つの導入口m1〜m3と、
第1処理用部10、及び該第1処理用部10に対して相対的に接近及び離反可能な第2処理用部20の、少なくとも2つの処理用部と、
各処理用部において互いに対向する位置に設けられた第1処理用面1及び第2処理用面2の少なくとも2つの処理用面と、
被処理流動体を排出する排出口32と、
第1処理用面1と第2処理用面2とを相対的に回転させる回転駆動機構と、
流体圧付与機構p1〜p3と導入口m1〜m3とをそれぞれ接続する少なくとも2つの流路d1〜d3とを備える流体処理装置で実施される。
【0044】
上記の装置は、第1処理用部10を保持する第1ホルダ11と、第2処理用部20を保持する第2ホルダ21と、接面圧付与機構4と、回転駆動部と、ケース3とをさらに備える。なお、図面において、回転駆動部は図示を省略する。
【0045】
上記の装置において、第1処理用面1及び第2処理用面2の少なくとも2つの処理用面は、各処理用部10及び20において互いに対向する位置に設けられている。通常、第2処理用部20は、第1処理用部10の上方に配置されるので、第2処理用部20の下方を臨む面、即ち下面に第2処理用面2が設けられている。また、第1処理用部10の上方を臨む面、即ち上面に第1処理用面1が設けられている。
【0046】
図1(A)〜(C)の実施形態では、第1処理用部10及び第2処理用部20はいずれも環状、即ちリング状の形態であり、図1(D)の実施形態では、第1処理用部10及び第2処理用部20はいずれも円盤状、即ちディスク状の形態である。それ故、本明細書において、第1処理用部10を第1リング10又は第1ディスク10と、第2処理用部20を第2リング20又は第2ディスク20と記載することもある。
【0047】
第1処理用部10及び第2処理用部20としては、金属製リング又はディスクの上面又は下面のいずれか一方が鏡面研磨された部材を使用することが好ましい。ここで、第1処理用部10の鏡面研磨された上面が第1処理用面1であり、第2処理用部20の鏡面研磨された下面が第2処理用面2である。
【0048】
ケース3は、第1処理用部10及び第2処理用部20の外周面の外側に配置されており、第1処理用部10及び第2処理用部20の外周面の外側に排出される、生成物を含有する被処理流動体を収容する。それ故、ケース3は、第1ホルダ11及び第2ホルダ21とともに液密な容器を形成する。なお、図1(B)〜(D)では、ケース3の図示を省略しており、図1(D)では、第1ホルダ11及び第2ホルダ21の図示を省略している。
【0049】
ケース3には、ケース3の外側に生成物を含有する被処理流動体を排出するための排出口32が設けられている。
【0050】
回転駆動部は、第1処理用面1及び第2処理用面2のいずれか一方を、他方の処理用面に対して相対的に回転させることができる。図1(A)〜(C)の実施形態では、第1ホルダ11を、第2ホルダ21に対して相対的に回転させることにより、第1処理用面1を第2処理用面2に対して相対的に回転させる。図1(D)の実施形態では、ディスク状の第1処理用部10(第1ディスク10)を、ディスク状の第2処理用部20(第2ディスク20)に対して相対的に回転させることにより、第1処理用面1を第2処理用面2に対して相対的に回転させる。回転駆動部としては、電動式モータを挙げることができる。
【0051】
図1(A)〜(C)の実施形態では、第1ホルダ11の突起部が、回転駆動部の回転軸50である。回転軸50は、回転駆動部から駆動力を受けて、第1ホルダ11を第2ホルダ21に対して相対的に回転させる。これにより、第1処理用面1を、第2処理用面2に対して相対的に回転させることができる。ここで、回転軸50の軸心は、第1ホルダ11において、第1リング10の中心と同心となるような位置に設けられている。
【0052】
図1(D)の実施形態では、第1ディスク10の突起部が、回転駆動部の回転軸50である。回転軸50は、回転駆動部から駆動力を受けて、第1ディスク10を第2ディスク20に対して相対的に回転させる。これにより、第1処理用面1を、第2処理用面2に対して相対的に回転させることができる。ここで、回転軸50の軸心は、第1ディスク10において、第1ディスク10の中心と同心となるような位置に設けられている。
【0053】
流体圧付与機構p1〜p3は、通常、ケース3、第1ホルダ11及び第2ホルダ21によって形成される液密な容器の外側に配置され、流路d1〜d3によって導入口m1〜m3と接続されている。流体圧付与機構p1〜p3は、被処理流動体に圧力を付与することによって、導入口m1〜m3から該被処理流動体を装置の内部へと導入する。流体圧付与機構p1〜p3としては、当業界で慣用されるコンプレッサー、クロマトグラフィー用ポンプ及びマイクロチューブポンプを挙げることができる。
【0054】
導入口m1〜m3は、それぞれ独立して、第1処理用面1若しくは第2処理用面2、又は第1ホルダ11若しくは第2ホルダ21に設けられている。導入口m1〜m3は、いずれも同じ部材上に設けられていてもよく、異なる部材上に設けられていてもよい。但し、導入口m1〜m3の少なくとも1つは、第1処理用面1及び第2処理用面2の少なくともいずれか一方に設けられている。
【0055】
導入口m1〜m3が第1処理用面1又は第2処理用面2に設けられている場合、該導入口は、第1処理用面1又は第2処理用面2の周方向r0及び径方向r1のいずれの位置に設けられていてもよい。但し、少なくとも2つの導入口m1〜m3が第1処理用面1又は第2処理用面2のいずれか一方に設けられている場合、該導入口m1〜m3は、周方向r0及び径方向r1のいずれについても同一の位置に設けられることはない。
【0056】
図1(A)〜(C)の実施形態では、図2(A)〜(C)に示すように、導入口m1は、第2ホルダ21の中央部分22に設けられている。このとき、導入口m2及びm3は、図2(A)に示すように、第2処理用面2の周方向r0について異なる位置で且つ径方向r1について同一の位置に設けられていてもよく、図2(B)に示すように、周方向r0について同一の位置で且つ径方向r1について異なる位置に設けられていてもよく、図2(C)に示すように、周方向r0及び径方向r1のいずれについても異なる位置に設けられていてもよい。
【0057】
図1(D)の実施形態では、導入口m1は、第2処理用面2の外周部分、即ち第2ディスク20の外周部分に設けられている。このとき、導入口m2は、図2(D)に示すように、第2処理用面2の周方向r0及び径方向r1のいずれについても任意の位置に設けることが出来る。但し、第2ディスク20の中心に設けられることはない。
【0058】
第1処理用面1及び第2処理用面2は、被処理流動体が導通される流路の一部を構成している。この流路によって、少なくとも2つの導入口m1〜m3と排出口32とが接続されている。上記の各流路は、いずれも密封されており、液密が保持される。
【0059】
第1処理用部10と第2処理用部20とは、少なくともいずれか一方が、少なくともいずれか他方に接近及び離反可能である。それ故、第1処理用部10と第2処理用部20とにおいて、互いに対向する位置に設けられた第1処理用面1と第2処理用面2とは、互いに接近及び離反可能である。
【0060】
図1(A)〜(D)の実施形態では、第1処理用部10に対して、第2処理用部20が接近及び離反する。しかしながら、本工程において使用される装置はかかる実施形態に限定されるものではなく、第2処理用部20に対して、第1処理用部10が接近及び離反する形態であってもよく、第1処理用部10及び第2処理用部20が互いに接近及び離反する形態であってもよい。
【0061】
接面圧付与機構4は、第1処理用面1と第2処理用面2とを接近させる方向に移動させる力を、第2処理用部20に付与する。図1(A)〜(D)の実施形態では、接面圧付与機構4は、第2ホルダ21に設けられており、第2処理用部20を第1処理用部10に向けて付勢する。
【0062】
第1処理用部10と第2処理用部20のうち、少なくとも第2処理用部20は受圧面23を備え、且つこの受圧面23の少なくとも一部は第2処理用面2により構成されている。受圧面23は、流体圧付与機構p1〜p3が被処理流動体に付与する圧力を受けて第1処理用面1から第2処理用面2を離反させる方向に移動させる力を発生させる。このとき、第2処理用部20は、接圧面付与機構4の付勢に抗して第1処理用部10から離反する方向に移動する。この結果、第1処理用面1と第2処理用面2との間に微小な間隔が生じる。この微小な間隔は、少なくとも2つの被処理流動体を合流させるための流路の一部を構成する。
【0063】
図1(A)〜(D)の実施形態に基づき、本工程をさらに説明する。金属Aが担持された担体、金属Bのイオン及び還元剤から選択される少なくとも1種の成分を含有する第1の被処理流動体は、第1の流体圧付与機構p1によって圧力を付与され、第1の流路d1及び第1の導入口m1を通って、ケース3、第1ホルダ11及び第2ホルダ21によって形成される液密な容器中へと導入される。容器中へ導入された第1の被処理流動体が受圧面23に接触すると、上記で説明した機構に基づき、第1処理用面1と第2処理用面2との間に微小な間隔が生じて流路が形成される。
【0064】
金属Aが担持された担体、金属Bのイオン及び還元剤から選択される少なくとも1種の成分を含有する第2の被処理流動体は、第2の流体圧付与機構p2によって圧力を付与され、第2の流路d2及び第2の導入口m2を通って、液密な容器中へと導入される。第2の被処理流動体は、第1処理用面1と第2処理用面2との間の微小な空間で第1の被処理流動体と合流する。
【0065】
金属Aが担持された担体、金属Bのイオン及び還元剤のうち、第1の被処理流動体及び第2の被処理流動体に含有される成分以外の成分を含有する第3の被処理流動体は、第3の流体圧付与機構p3によって圧力を付与され、第3の流路d3及び第3の導入口m3を通って、液密な容器中へと導入される。第3の被処理流動体は、第1処理用面1と第2処理用面2との間の微小な空間で第1の被処理流動体及び第2の被処理流動体と合流する。
【0066】
ここで、回転駆動部による駆動力を受けて、第1処理用部10が回転し、第1処理用面1と第2処理用面2とは微小間隔を保った状態で相対的に回転する。これにより、第1処理用面1と第2処理用面2との間の微小な間隔を通過する合流した被処理流動体は、微小間隔を保った第1処理用面1と第2処理用面2との間で薄膜流体を形成する。
【0067】
第1処理用面1と第2処理用面2との間に形成される薄膜流体は、第1処理用面1と第2処理用面2とが相対的に回転することにより、実質的に均質な状態を保つように連続的に混合される。この薄膜流体中では、金属Bのイオンが還元剤によって還元され、担体に担持された金属Aが金属Bによって修飾されて、本発明の触媒が生成される。それ故、本発明の方法では、第1処理用面及び第2処理用面の一方の他方に対する相対的な回転数は、600〜3600 r.p.m.の範囲であることが好ましく、1200〜2400 r.p.m.の範囲であることがより好ましい。上記の条件で第1処理用面及び第2処理用面の少なくとも一方を他方に対して相対的に回転させることにより、薄膜流体中の成分を均質な状態を保つように連続的に混合して、金属Bのイオンの還元反応を促進させることが可能となる。
【0068】
第1処理用面1と第2処理用面2とは微小な間隔を保って被処理流動体の流路の一部を形成している。このため、当該流路を通過する合流した被処理流動体に含有される各成分は、微小な間隔の範囲内の粒径となるような剪断力を受ける。ここで、第1処理用面1と第2処理用面2との間隔は、接面圧付与機構4によって付与される接面圧力と、流体圧付与機構p1が第1の被処理流動体に付与する圧力との均衡によって調整される。それ故、本発明の方法では、圧力を付与しながら導入される被処理流動体、好ましくは第1の被処理流動体の流速が10〜500 ml/分の範囲であることが好ましく、60〜300 ml/分の範囲であることがより好ましい。上記の条件で被処理流動体、好ましくは第1の被処理流動体に圧力を付与することにより、均一且つ微細な粒径の触媒粒子を生成させることが可能となる。
【0069】
上記の反応によって生成した触媒粒子を含有する被処理流動体は、第1処理用部10及び第2処理用部20の外周面の外側に排出され、ケース3に設けられた排出口32を通って系外に取り出すことができる。系外に取り出された被処理流動体は、生成物である触媒の他、原料である金属Aが担持された担体、金属Bのイオン及び/又は還元剤も含有し得る。このため、系外でさらなる還元反応が進行することを防止するために、系外に取り出された被処理流動体から還元剤を分離することが好ましい。かかる分離手段としては、濾過及び遠心分離を挙げることができる。系外に取り出された被処理流動体を直ちに濾過処理することが好ましい。上記の分離処理を実施することにより、系外に取り出された被処理流動体から還元剤を分離して、金属Aが過剰に修飾されることを防止することが出来る。
【0070】
以上説明したように、本発明の方法は、簡便な工程で触媒を連続的に製造することが出来る。また、本発明の方法によって製造される触媒は、均一且つ微細な粒径を有しており、活性維持率も高い。それ故、本発明の方法を実施することにより、燃料電池の触媒電極に使用した場合に長期に亘って発電性能を維持し得る高耐久性の触媒を製造することが可能となる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明する。
【0072】
[触媒粉末の調製]
実施例1-1
(i)白金担持カーボン粉末の調製
市販の高比表面積カーボン粉末である、5.0 gのKetjen(商標) EC(ケッチェンブラックインターナショナル製)を1.2 Lの純水に加え、分散させた。この分散液に、3.0 gの白金(Pt)を含有するヘキサヒドロキソ白金硝酸溶液を滴下して、十分に撹拌した。その後、分散液に約100 mlの0.1 Nアンモニア水を添加してpHを約10とした。これにより、形成された白金の水酸化物をカーボン表面に析出させた。次に、この分散液にエタノールを添加し、90℃で還元した。分散液をろ過し、得られた粉末を80℃で10時間真空乾燥させた。
【0073】
得られた触媒粉末の白金担持密度は、触媒粉末の総質量に対して30質量%であった。また、カーボン粉末に担持されたPtの結晶子径は、約2 nmであった。なお、本実施例及び比較例において、白金担持密度は、反応後の廃液中のPt量をICP発光分析法によって定量分析し、反応に用いたPt量から差し引くことで算出した。また、Ptの結晶子径は、XRD測定によって決定した。
【0074】
(ii)金で被覆された白金担持カーボン粉末の調製
本工程では、図1(D)の実施形態に相当する流体処理装置であるマイクロリアクター(ULREA SS-11, エム・テクニック)を用いた。図1(D)に基づき本工程を説明する。
【0075】
17.6 mgの塩化金酸(HAuCl4)を8 Lの純水に加え、十分に分散させた。得られた分散液をA液とする。上記で調製した1.0 gのPt担持カーボン粉末と10 gのエタノールとを2 Lの純水に加え、さらに分散させた。得られた分散液をB液とする。第1の被処理流動体であるA液及び第2の被処理流動体であるB液を第1ディスク10と第2ディスク20との間で混合し、金(Au)イオンを還元した。ここで、第1の流体圧付与機構p1によってA液の流速を264 ml/分とし、第2の流体圧付与機構p2によってB液の流速を66 ml/分として、圧力を付与しながらマイクロリアクター内に導入した。A液及びB液の温度を50℃に調整した。また、第1ディスク10の回転速度を3600 r.p.m.に設定した。
【0076】
反応後の溶液を、マイクロリアクターの排出路32から排出して、濾過器を用いて直ちにカーボン粉末と濾液とに分離した。得られたカーボン粉末を、80℃で10時間真空乾燥させた。
【0077】
実施例1-2
実施例1-1の工程(ii)において、A液の流速を66 ml/分に設定した他は、実施例1-1と同様の方法で触媒を調製した。
【0078】
実施例1-3
実施例1-1の工程(ii)において、還元剤を1 gの水素化ホウ素ナトリウムに変更し、A液及びB液の温度を5℃に設定した他は、実施例1-1と同様の方法で触媒を調製した。
【0079】
実施例1-4
実施例1-1の工程(ii)において、A液の流速を66 ml/分に設定した他は、実施例1-3と同様の方法で触媒を調製した。
【0080】
比較例1-1
実施例1-1の手順(i)で得られたPt担持カーボン粉末をそのまま触媒として使用した。
【0081】
比較例1-2
1.0 gの比較例1-1のPt担持カーボン粉末を1.2Lの純水に加え、分散させた。0.15 gの塩化金酸を含有する塩化金酸水溶液を分散液に滴下し、十分に撹拌した。その後、分散液に0.1 N塩酸を添加してpHを約3とした。この分散液を、50℃の液温に保持しながら10分間撹拌した。
【0082】
上記の分散液に、マイクロチューブポンプを用いて0.064 gのイソプロピルアルコール(IPA)を約0.02 g/秒の一定速度で3秒以内に添加し、Auイオンを還元した。さらに1時間撹拌した後、分散液を濾過し、得られたカーボン粉末を30℃で10時間真空乾燥させた。
【0083】
比較例1-3
比較例1-2において、塩化金酸の量を0.38 gに変更し、IPAの量を0.032 gに変更した他は、比較例1-2と同様の方法で触媒を調製した。
【0084】
比較例1-4
比較例1-2において、塩化金酸の量を0.09 gに変更し、IPAの量を0.008 gに変更した他は、比較例1-2と同様の方法で触媒を調製した。
【0085】
比較例1-5
比較例1-2において、還元剤をエタノールに変更した他は、比較例1-2と同様の方法で触媒を調製した。
【0086】
実施例2-1
(i)白金担持カーボン粉末の調製
市販の高比表面積カーボン粉末である、5.0 gのKetjen(商標)EC(ケッチェンブラックインターナショナル製)を1.2 Lの純水に加え、分散させた。この分散液に、3.0 gの白金(Pt)を含有するヘキサヒドロキソ白金硝酸溶液を滴下して、十分に撹拌した。その後、分散液に約100 mlの0.1 Nアンモニア水を添加してpHを約10とした。これにより、形成された白金の水酸化物をカーボン表面に析出させた。次に、この分散液にエタノールを添加し、90℃で還元した。分散液をろ過し、得られた粉末を80℃で10時間真空乾燥させた。
【0087】
得られた触媒粉末の白金担持密度は、触媒粉末の総質量に対して30質量%であった。また、カーボン粉末に担持されたPtの結晶子径は、約2 nmであった。
【0088】
(ii)金で被覆された白金担持カーボン粉末の調製
本工程では、図1(D)の実施形態に相当する流体処理装置であるマイクロリアクター(ULREA SS-11, エム・テクニック)を用いた。図1(D)に基づき本工程を説明する。
【0089】
17.6 mgの塩化金酸を2 Lの純水に加え、十分に分散させた。得られた分散液をA液とする。上記で調製した1.0 gのPt担持カーボン粉末と10 gのエタノールとを2 Lの純水に加え、さらに分散させた。得られた分散液をB液とする。第1の被処理流動体であるA液及び第2の被処理流動体であるB液を第1ディスク10と第2ディスク20との間で混合し、金(Au)イオンを還元した。ここで、第1の流体圧付与機構p1によってA液の流速を66 ml/分とし、第2の流体圧付与機構p2によってB液の流速を66 ml/分として、圧力を付与しながらマイクロリアクター内に導入した。A液及びB液の温度を50℃に調整した。また、第1ディスク10の回転速度を3600 r.p.m.に設定した。
【0090】
反応後の溶液を、マイクロリアクターの排出路32から排出して、濾過器を用いて直ちにカーボン粉末と濾液とに分離した。得られたカーボン粉末を、80℃で10時間真空乾燥させた。
【0091】
実施例2-2
実施例2-1の工程(ii)において、ディスクの回転数を2400 r.p.m.に設定した他は、実施例2-1と同様の方法で触媒を調製した。
【0092】
実施例2-3
実施例2-1の工程(ii)において、ディスクの回転数を1200 r.p.m.に設定した他は、実施例2-1と同様の方法で触媒を調製した。
【0093】
実施例2-4
実施例2-1の工程(ii)において、ディスクの回転数を600 r.p.m.に設定した他は、実施例2-1と同様の方法で触媒を調製した。
【0094】
実施例2-5
実施例2-1の工程(ii)において、A液の純水量を0.5 Lに変更し、A液の流速を16.6 ml/分に設定した他は、実施例2-2と同様の方法で触媒を調製した。
【0095】
実施例2-6
実施例2-1の工程(ii)において、A液の純水量を8 Lに変更し、A液の流速を264 ml/分に設定した他は、実施例2-2と同様の方法で触媒を調製した。
【0096】
実施例2-7
実施例2-1の工程(ii)において、A液及びB液の温度を20℃に設定した他は、実施例2-1と同様の方法で触媒を調製した。
【0097】
比較例2-1
実施例2-1の手順(i)で得られたPt担持カーボン粉末をそのまま触媒として使用した。
【0098】
比較例2-2
1.0 gの比較例2-1のPt担持カーボン粉末を1.2Lの純水に加え、分散させた。0.15 gの塩化金酸を含有する塩化金酸水溶液を分散液に滴下し、十分に撹拌した。その後、分散液に0.1 N塩酸を添加してpHを約3とした。この分散液を、50℃の液温に保持しながら10分間撹拌した。
【0099】
上記の分散液に、マイクロチューブポンプを用いて0.064 gのイソプロピルアルコール(IPA)を約0.02 g/秒の一定速度で3秒以内に添加し、Auイオンを還元した。さらに1時間撹拌した後、分散液を濾過し、得られたカーボン粉末を30℃で10時間真空乾燥させた。
【0100】
比較例2-3
実施例2-1の工程(ii)において、A液の純水量を20 Lに変更し、A液の流速を660 ml/分に設定した他は、実施例2-2と同様の方法で触媒を調製した。
【0101】
比較例2-4
実施例2-1の工程(ii)において、ディスクの回転数を100 r.p.m.に設定した他は、実施例2-1と同様の方法で触媒を調製した。
【0102】
比較例2-5
実施例2-1の工程(ii)において、A液の純水量を0.2 Lに変更し、A液の流速を6.6 ml/分に設定した他は、実施例2-1と同様の方法で触媒を調製した。
【0103】
比較例2-6
実施例2-1の工程(ii)において、A液及びB液の温度を70℃に設定した他は、実施例2-1と同様の方法で触媒を調製した。
【0104】
比較例2-7
実施例2-1の工程(ii)において、A液及びB液の温度を5℃に設定した他は、実施例2-1と同様の方法で触媒を調製した。
【0105】
[金属粒子の形態]
実施例1-1及び比較例1-2の触媒における、カーボン担体に担持された金属粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)像及びエネルギー分散型X線分光(EDX)スペクトルを図3及び4にそれぞれ示す。
【0106】
図3に示すように、実施例1-1の触媒中の金属粒子は、Ptの表面がAuによって均一に被覆された微細な形状であった。金属粒子1個を含む視野のEDXスペクトルを測定したところ、Au:Ptの原子比は31:69と算出された。この結果から、実施例1-1の触媒中の金属粒子は、所望の修飾状態であることが確認された。
【0107】
一方、図4に示すように、比較例1-2の触媒中の金属粒子は、AuによるPt表面の被覆が不均一であり、Au被覆層の層厚が大きい部分が存在した。金属粒子1個を含む視野のEDXスペクトルを測定したところ、Au:Ptの原子比は69:31と算出された。この結果から、比較例1-2の触媒中の金属粒子は、Auの修飾が過剰な部分が存在する、不均一な形態であることが確認された。
【0108】
実施例2-1、2-2及び2-6、並びに比較例2-2及び2-3の触媒に含まれる金属粒子におけるAuの原子組成分布を図5に示す。図中の結果は、各実施例及び比較例について、複数視野(20未満)のEDXスペクトルを測定し、各EDXスペクトルについてAu及びPtの総原子数に対するAuの原子数の割合(原子%)を算出した結果を分布図にした結果である。
【0109】
図5に示すように、実施例2-1、2-2及び2-6の触媒に含まれる金属粒子は、単一のAu組成ピークを有する均一な組成であったのに対し、比較例2-2及び2-3の触媒に含まれる金属粒子は、幅広のAu組成ピーク又は複数のAu組成ピークを有する不均一な組成であった。
【0110】
[触媒の金属担持密度]
実施例及び比較例の触媒をそれぞれ灰化させ、金属成分を王水で溶解させて金属溶液を得た。この金属溶液をICP発光分析することによって、各触媒の総質量に対する金属担持密度(質量%)を決定した。なお、工程(ii)におけるAuの還元反応は定量的に進行するため、触媒のAu担持量は、触媒調製時のAu添加量に相当する。
【0111】
[表面被覆率の測定]
AuによるPt表面被覆率は、金属のCO吸着量を測定することによって決定した。通常、AuはCOを吸着しないため、AuがPt表面に存在すると、正味のCO吸着量が低下する。それ故、各実施例及び比較例の触媒におけるAuによるPt表面被覆率は、Auで被覆していない比較例1の触媒におけるCO吸着量に対する百分率として、下記の式に基づき算出される。
【0112】
AuによるPt表面被覆率=[(比較例1-1又は2-1の触媒におけるCO吸着量)-(測定試料のCO吸着量)]/(比較例1-1又は2-1の触媒におけるCO吸着量)×100
【0113】
なお、CO吸着量の測定は、CO吸着パルス装置(BEL-METAL-3SP, 日本ベル)を用いて測定した。
【0114】
[活性維持率の測定]
実施例及び比較例の触媒を、それぞれグラッシーカーボン製電極に塗布して触媒電極を調製した。実施例及び比較例の触媒の触媒電極を用いて、回転ディスク電極装置を用いる酸素還元反応測定を実施した。
【0115】
回転ディスク電極装置:北斗電工製
参照極:水素電極(RHE)
作用:グラッシーカーボン製電極(直径5 mm)
対極:Pt電極
電解液:0.1 mol/L過塩素酸
雰囲気:酸素飽和下
【0116】
耐久試験は、窒素雰囲気下で(1.1 V)-(0.6 V)-(1.1 V)の電位掃引を繰り返し行い、1000サイクル毎に酸素飽和溶液中で活性測定することにより実施した。電位掃引をnサイクル行った後の活性維持率(%)は、下記の式に基づき算出される。
【0117】
活性維持率(%)=(nサイクル後の酸素還元活性)/(初期活性)×100
【0118】
実施例及び比較例の触媒の金担持密度、表面被覆率及び5000サイクル処理後の活性維持率を表1に示す。
【0119】
【表1】

【0120】
実施例2-1並びに比較例2-1及び2-2の触媒電極を用いて耐久試験を行った結果を図6に示す。
【0121】
図6に示すように、実施例2-1の触媒電極は、比較例2-1及び2-2の触媒電極と比較して電位サイクル処理後の活性低下が緩やかであった。特に、1000サイクル処理後の時点では、実施例2-1の触媒電極は活性が低下しなかったのに対し、比較例2-1及び2-2の触媒電極はそれぞれ82及び89%まで活性が低下した。
【0122】
マイクロリアクターの回転数と5000サイクル処理後の活性維持率との関係を図7に示す。なお、図中には、比較例2-4並びに実施例2-1〜2-4(いずれも還元剤がエタノールであり、A液及びB液の温度が50℃であり、A液の流速が66 ml/分である)の結果を示す。
【0123】
図7に示すように、ディスクの回転数を600〜3600 r.p.m.の範囲に設定した実施例の電極触媒は、マイクロリアクターを用いない従来技術の方法で調製された比較例2-2の電極触媒、及びディスクの回転数を100 r.p.m.に設定した比較例2-4の電極触媒と比較して高い活性維持率を示した。
【0124】
A液の流速と5000サイクル処理後の活性維持率との関係を図8に示す。なお、図中には、比較例2-3及び2-5並びに実施例2-2、2-5及び2-6(いずれも還元剤がエタノールであり、A液及びB液の温度が50℃であり、ディスクの回転数が2400 r.p.m.である)の結果を示す。
【0125】
図8に示すように、A液の流速を16.6〜264 ml/分の範囲に設定した実施例の電極触媒は、マイクロリアクターを用いない従来技術の方法で調製された比較例2-2の電極触媒、並びにA液の流速を660及び6.6 ml/分にそれぞれ設定した比較例2-3及び2-5の電極触媒と比較して高い活性維持率を示した。
【0126】
A液及びB液の温度と5000サイクル処理後の活性維持率との関係を図9に示す。なお、図中には、比較例2-6及び2-7並びに実施例2-1及び2-7(いずれも還元剤がエタノールであり、ディスクの回転数が3600 r.p.m. であり、A液の流速が66 ml/分である)の結果を示す。
【0127】
図9に示すように、A液及びB液の温度を20〜50℃の範囲に設定した実施例の電極触媒は、マイクロリアクターを用いない従来技術の方法で調製された比較例2-2の電極触媒、並びにA液及びB液の温度を70℃及び5℃にそれぞれ設定した比較例2-6及び2-7の電極触媒と比較して高い活性維持率を示した。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明の方法により、長期に亘って高い発電性能を発揮する燃料電池の電極触媒に使用するための触媒を製造することが可能となる。
【符号の説明】
【0129】
1…第1処理用面
2…第2処理用面
3…ケース
4…接面圧付与機構
10…第1処理用部
20…第2処理用部
11…第1ホルダ
21…第2ホルダ
32…排出口
50…回転駆動部の回転軸
p1, p2, p3…流体圧付与機構
d1, d2, d3…流路
m1, m2, m3…導入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属Aと金属Bと担体とを備える触媒であって、金属Aが担体に担持されており、且つ金属Aが金属Bによって修飾されている前記触媒の製造方法であって、
該方法が、金属Aが担持された担体と金属Bのイオンと還元剤とを接触させて、担体に担持された金属Aを金属Bによって修飾する修飾工程を含み、
該修飾工程が、
金属Aが担持された担体、金属Bのイオン及び還元剤を、これらのうち少なくとも1種の成分をそれぞれが含有する少なくとも2つの被処理流動体の形態となるように用意し、
少なくとも2つの被処理流動体を、接近及び離反可能に互いに対向して配設され、少なくとも一方が他方に対して相対的に回転する第1処理用面と第2処理用面との間に、圧力を付与しながら導入し、
被処理流動体に付与される圧力により第1処理用面から第2処理用面を離反させる方向に移動させる力を発生させ、
この力によって、第1処理用面と第2処理用面との間を微小な間隔に保ち、
この微小な間隔に保たれた第1処理用面と第2処理用面との間で、少なくとも2つの被処理流動体を合流させ、
合流した被処理流動体を、微小な間隔に保たれた第1処理用面と第2処理用面との間を通過させることによって薄膜流体を形成させ、
該薄膜流体中で金属Bのイオンと還元剤とを反応させて、金属Aを金属Bによって修飾することを含む、前記触媒の製造方法。
【請求項2】
修飾工程が、薄膜流体中で金属Bのイオンと還元剤とを20〜50℃の範囲の温度で反応させることによって実施される、請求項1の方法。
【請求項3】
第1処理用面及び第2処理用面の一方の他方に対する相対的な回転数が、600〜3600 r.p.m.の範囲である、請求項1又は2の方法。
【請求項4】
圧力を付与しながら導入される被処理流動体の流速が、10〜500 ml/分の範囲である、請求項1〜3のいずれか1項の方法。
【請求項5】
金属Aが白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、銀及びオスミウムから選択され、金属Bが、金、コバルト、銅、鉄、マンガン、ニッケル、クロム、タングステン、イリジウム、バナジウム、チタン、ケイ素、スズ及びニオブから選択される、請求項1〜4のいずれか1項の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−216292(P2012−216292A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78939(P2011−78939)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(595111804)エム・テクニック株式会社 (38)
【Fターム(参考)】