説明

高耐熱型生分解性芳香族ポリエステルの製造方法及び高耐熱型生分解性芳香族ポリエステル

【課題】市販のポリブチレンアジペート−co−ブチレンテレフタレート(PBTA)よりも格段に優れた耐熱性を持つ生分解性芳香族ポリエステルを提供する。
【解決手段】ポリブチレンアジペート−co−ブチレンテレフタレート(PBTA)を例えば真空中に置き、γ線を照射し、高耐熱性を持つ生分解性芳香族ポリエステルを製造する。照射温度は、室温から融点以上である185℃以内が好ましい。照射により橋かけを生じた生分解性芳香族ポリエステルは、融点でも溶融しない高耐熱性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐熱性を有する生分解性芳香族ポリエステルの製造方法及びその方法によって製造される融点でも溶融しない高耐熱型生分解性芳香族ポリエステルに関する。
【背景技術】
【0002】
最近、資源循環型社会に対応するプラスチック材料として、地中に埋設された段階で最終的に水と二酸化炭素に分解され、有害な廃棄物を発生させない、生分解性プラスチックが注目されている。この生分解性プラスチック材料の一つとして、生分解性芳香族コポリエステルであるポリブチレンアジペート−co−ブチレンテレフタレート(PBTA)[ECOFLEX(エコフレックス:ドイツ国BASF社の登録商標)]が知られている。(非特許文献1を参照)
【0003】
エコフレックス化学構造式
【0004】

ここで、化学式中のMは、加工性などを最適化するためのモノマーで、分岐構造及び高分子量化などの働きをする。
【0005】
【非特許文献1】BASFジャパン 2001年「エコフレックス」 (株)ダイヤリサーチマーテック,(株)中央リサーチセンター 2001−1−1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このPBTAは、機械的特性、耐熱性、展延性などの諸物性は優れているが、まだ、実用化には更なる耐熱性の向上や生分解速度の制御等の物性改善が必要であると考えられている。例えば、現時点で市販されているPBTAの融点は105℃〜115℃であり、低密度ポリエチレン(LDPE)の融点111℃とほぼ等しい。このため、一般のショッピング袋、ラップフィルム等への適用に対してはさほど大きな問題がないものの、電気部品、自動車部品等の産業機器への適用に対しては、厳しい温度環境に対応可能であるように、より一層の耐熱性の向上が求められている。
【0007】
従って、本発明の目的は、簡単な方法で、市販のPBTAよりも一層耐熱性にすぐれた生分解性芳香族ポリエステルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の生分解性芳香族ポリエステルを製造する方法では、PBTAに対し電離放射線を照射するという、簡単な方法で、高耐熱性を持つ生分解性芳香族ポリエステルを製造することができる。
【0009】
耐熱性の面から見ると、上述の製造方法において、電離放射線の照射は、真空中で行うことが好ましい。より一層橋かけが促進されるからである。また、電離放射線の照射温度を制御することによっても、橋かけを促進することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって製造された生分解性プラスチックは、PBTAがもともと備えている生分解性に加えて、これまでのPBTAよりも格段に優れた耐熱性を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明に係る生分解性プラスチックの製造方法を示すブロック図である。ここで使用されるPBTAは、上述した化学式を持つ市販のものである。適量のPBTAに対して、図1に示されるように、真空中でγ線を0kGyから900kGyまで、50kGyずつ線量を増大させて照射した。
【0012】
その結果、生分解性については、原材料のPBTAの持つ特性とさほど変化はなかったものの、耐熱性については、吸収線量が200kGy以上において、線量を増大させるに従って極めて良好な特性を得た。以下、それらの結果について図2、図3及び図3を用いて説明する。
【0013】
図2は、PBTAのγ線照射酵素分解データを示す図である。また、図3は、真空中で電子線を照射したPBTAフィルムの熱分析データを示している。
(1)生分解性の特性変化
【0014】
γ線照射前後のPBTAの生分解性の変化を調べるため、酵素分解実験を行った。この実験では、PBTAの未照射フィルム及び照射フィルム試料(1cm×1cm×0.05mm)を、10mg/ml濃度のリパーゼAK(天野エンザイム社)を含んだ0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)5mLに投入し、50℃において240時間酵素分解による重量損失を調べた。酵素および緩衝液は、24時間ごとに交換した。重量損失は、分解前の重量(W)と分解後の重量(W)を測定し、以下の式から求めた。
重量損失(%) = [(W−W/W)]×100
【0015】
上述の実験結果を図2に示す。図2において、横軸は時間(hour)を、縦軸は重量損失(%)を示す。また、図中に折れ線で示したデータは未照射PBTAフィルムの、酵素分解実験での重量損失結果を示し、他のデータは照射PBTAフィルムの、酵素分解実験での重量損失結果を示している。本実験結果ではどのサンプルもほとんど分解されなかった。しかし、500kGy、700kGyと高放射線量を照射したサンプルは、他のサンプルと比較して分解が早かった。これは照射によってフィルムがもろくなったからだと考えられる。以上の実験において、各照射線量のPBTAの重量損失範囲が、ほぼ2.5%以内すなわち測定誤差の範囲内に入っていることから、PBTAの生分解性の特性は、γ線の照射によっては変化しないことがわかった。
(2)耐熱性の特性変化
【0016】
ガラス転移や融解によるPBTAフィルムの熱機械特性は、TMA−50(Shimadzu社製)を用いて測定した。フィルムは5×7mmの長方形に切断したが、1mmずつチェックで挟むので、測定部分は幅5mm×長さ5mm×厚さ0.05mmとなった。また、初期荷重0.5g、昇温速度10℃/min、温度範囲が室温〜200℃、窒素雰囲気下で行った。それらの結果を図3を用いて説明する。
【0017】
前述したように、図3は真空中での電子線照射の結果を示している。図において、符号401は照射量0kGyすなわち未照射のPBTAの特性、402は照射量200kGy、そして403は照射量900kGyのPBTAの特性を示している。なお、空気中でのγ線照射の結果では、照射した線量の違いに関係なく、未照射のフィルムとほとんどかわらないTMA熱挙動を示した。すなわち、電子線の照射によって、PBTAの耐熱性の顕著な向上はみられなかった。
【0018】
一方、図3に示された真空中での電子線照射の結果では、照射線量の増加とともにPBTAの軟化が抑制された。特に、軟化抑制傾向は200kGy付近から顕著になり、900kGyの照射では、極めて顕著な結果となった。換言すると、真空中で、市販のPBTAに200kGy以上の放射線を照射することによって、200℃以上の温度に十分耐え得る耐熱性を持つPBTAが得られた。
【0019】
次に、図4及び図5に、PBTAペレットにγ線を、PBTAフィルムに電子線を照射したときのゲル分率と膨潤度の測定結果を示す。図4(a)及び(b)はPBTAペレットについての結果を示しており、図4(c)及び(d)はPBTAフィルムについての結果を示している。さらに、様々な温度でγ線を照射した場合のゲル分率と膨潤度を、温度と線量との関係で一覧表としたものを図5に示す。
【0020】
図4から、空気中でも真空中でも照射線量が200kGy付近からゲル分率が急激に増大することがわかる。また、これらの図から、特に真空中でのγ線照射は、空気中でのそれよりもゲル分率を高めるために有効であることがわかる。真空中でのγ線照射と空気中でのγ線照射でのゲル分率の差は、ペレットよりもフィルムで顕著に現れている。しかし、空気中でも、場合によっては許容可能なゲル分率が得られることがわかる。一方、膨純度は、ペレットでもフィルムでも、また、真空中でも空気中でも、照射線量が増大するに従ってほぼ同じような傾向で減少している。
【0021】
さらに、図5から、ゲル分率は、γ線の照射量だけでなく、照射温度を増大させると、それに従って増大することがわかる。
【0022】
以上の説明では、γ線を照射しているが、γ線の代わりに、当然に電子線などの他の電離放射線を使用することもできる。また、以上の説明は、好適な例について説明したもので、当業者が行う程度の幾つかの変形が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明によって製造された生分解性プラスチックは、PBTAがもともと備えている生分解性に加えて、これまでのエコフレックスよりも耐熱性において格段に優れているため、環境条件の厳しい電気部品や自動車部品などのプラスチック材料として適している。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る生分解性芳香族ポリエステルの製造方法を示すブロック図である。
【図2】PBTAのγ線照射酵素分解データを示す図である。
【図3】真空中で電子線を照射されたPBTAの熱分析データを示す図である。
【図4】PBTAペレットにγ線を、PBTAフィルムに電子線を照射したときのゲル分率と膨潤度の測定結果を示す図である。
【図5】様々な温度でγ線を照射した場合のゲル分率と膨潤度を、温度と線量との関係で一覧表である。
【符号の説明】
【0025】
401 未照射PBTAの特性
402 200kGy照射PBTAの特性
403 900kGy照射PBTAの特性

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンアジペート−co−ブチレンテレフタレート(PBTA)に電離放射線を照射し、該PBTAに橋かけを生じさせ、高耐熱性を持つ生分解性芳香族ポリエステルを製造する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の生分解性芳香族ポリエステルの製造方法において、前記電離放射線を真空中において照射することを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の生分解性芳香族ポリエステルの製造方法において、照射温度が室温から融点以上である185℃以内であることを特徴とする方法。
【請求項4】
ポリブチレンアジペート−co−ブチレンテレフタレート(PBTA)に電離放射線を照射し、該PBTAに橋かけを生じさせることによって製造される、融点でも溶融しない高耐熱性を持つ生分解性芳香族ポリエステル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−195900(P2008−195900A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−35297(P2007−35297)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】