説明

高耐熱性シリコーンゴム組成物

【課題】 傑出した耐熱性と十分な難燃性を併せ持つシリコーンゴム組成物を提供する。
【解決手段】 (A):フェニル基を含有しないポリオルガノシロキサンベースポリマー、(B):架橋剤、(C):金属酸化物、(D):カーボンブラック及び(E):難燃剤を主成分とする高耐熱性シリコーンゴム組成物。好ましくは(C)成分の金属酸化物が酸化鉄であり、(E)成分の難燃剤が白金化合物であり、(A)成分100重量部に対し、(C)成分を4.0〜14.0重量部、(D)成分を0.6〜3.0重量部、(E)成分を0.05〜0.4重量部含有する組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高耐熱性シリコーンゴム組成物に関し、詳しくは傑出した耐熱性と十分な難燃性を併せ持ったシリコーンゴム組成物及び該組成物からなるクッション材に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機内部には配管等を機体に固定・支持するためのクッション材が多数使用されている。このうち、例えば、燃料系統の配管の固定・支持用としては、耐燃料性に優れたNBR(アクリロニトリルブタジエンゴム)製のクッション材が、難燃性作動油系統配管やオゾン発生の激しい箇所にはEPDM(エチレン・プロピレン・ジエン共重合ゴム)製のクッション材が、また、振動の激しい箇所には柔軟性の高いVMQ(シリコーンゴム)製クッション材が使用されている。これらのクッション材はいずれもゴム材料を使用することで、配管等の振動を吸収しつつ配管等を固定する機能を発揮している。
【0003】
一方、エンジン周り等は非常に高温になるため、エンジン周り等で使用するクッション材には、耐熱性の高いアスベスト製やPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製のクッション材が使用されている。しかし、かかるアスベスト製やPTFE製のクッション材は柔軟性が乏しく、振動吸収性は十分とはいえないものであった。
【0004】
そこで、本発明者等は航空機のエンジン周り等の高温環境下で使用するクッション材として柔軟性の高いVMQ(シリコーンゴム)を適用すべく、その耐熱性をさらに向上させるとともに、大気中で使用する点からの十分な難燃性の要求をも満たすシリコーンゴムを得ることについて検討した。特許文献1に記載されているように、従来から、フェニル基を含有するポリオルガノシロキサンを主とするシリコーンゴム組成物は耐熱性の点で好ましいことが知られており、かかる側鎖にフェニル基を有するポリオルガノシロキサンを主とするシリコーンゴム組成物の使用を検討したが、300℃を超える高温下に長期間曝されると、その柔軟性は殆ど消失してしまった。そこで、難燃性付与のための難燃剤とともに、耐熱性向上剤として酸化鉄を配合したところ、十分な難燃性が得られず、難燃性向上のために難燃剤を増量すると、耐熱性が低下してしまい、目標とする高レベルの耐熱性を有し、かつ、十分な難燃性を有するシリコーンゴム組成物を得ることはできなかった。
【特許文献1】特開2001−348481号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記事情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、傑出した耐熱性と十分な難燃性を併せ持つ高耐熱性シリコーンゴム組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、耐熱性のポリオルガノシロキサンとして知られているフェニル基を含有するポリオルガノシロキサンは使用せず、フェニル基を含有しないポリオルガノシロキサンをベースポリマーに使用し、これに、難燃剤とともに、金属酸化物(好ましくは酸化鉄)とカーボンブラックをそれぞれ特定量配合して架橋させると、驚くべきことに、得られるシリコーンゴム組成物は極めて高い耐熱性を有し、しかも、十分な難燃性をも有するものとなること見出し、本発明を完成するに到った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)下記(A)〜(E)を主成分とする高耐熱性シリコーンゴム組成物、
(A):フェニル基を含有しないポリオルガノシロキサンベースポリマー
(B):架橋剤
(C):金属酸化物
(D):カーボンブラック
(E):難燃剤
(2)(C)成分の金属酸化物が酸化鉄であり、(E)成分の難燃剤が白金化合物であり、(A)成分100重量部に対し、(C)成分を4.0〜14.0重量部、(D)成分を0.6〜3.0重量部、(E)成分を0.05〜0.4重量部含有することを特徴とする、上記(1)記載の高耐熱性シリコーンゴム組成物、及び
(3)上記(1)又は(2)記載の高耐熱性シリコーンゴム組成物を成形してなるクッション材、に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来では達成困難であった傑出した耐熱性と十分な難燃性とを併せ持った高耐熱性シリコーンゴム組成物を得ることができる。従って、該シリコーンゴム組成物を、例えば、航空機のエンジン周りのような高温環境で、配管等をその振動を吸収しつつ機体に固定するためのクッション材に適用すると、該クッション材は長期に亘って良好な振動吸収性を示すものとなり、しかも、十分な難燃性を有することから、万一発火事故が起きても、容易に欠落しないという極めて好ましい結果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明をより詳しく説明する。
本発明の高耐熱性シリコーンゴム組成物は、常温または加熱等によって硬化させることによりゴム弾性体となるものであり、(A)フェニル基を含有しないポリオルガノシロキサンベースポリマー、(B)架橋剤、(C)金属酸化物、(D)カーボンブラック及び(E)難燃剤を主成分として含有するものである。
【0010】
(A)成分のフェニル基を含有しないポリオルガノシロキサンベースポリマーはゴムのベースポリマーであり、(B)架橋剤とともに、ゴム弾性体を得るための反応機構に応じて適宜に選択される。
【0011】
ポリオルガノシロキサンの架橋反応の反応機構としては、(i)有機過酸化物加硫剤による架橋方法、(ii)縮合反応による方法、 (iii)付加反応による方法等が知られているが、本発明においては、(i)有機過酸化物加硫剤による架橋方法が好適である。従って、(A)成分と(B)成分との好ましい組み合わせは以下のとおりである。
【0012】
(A)成分のポリオルガノシロキサンベースポリマーとしては、1分子中のケイ素原子に結合する有機基としてフェニル基を含まず、かつ、該有機基のうちの少なくとも2個がビニル基である、ポリオルガノシロキサンが用いられる。当該ポリオルガノシロキサンは、市販品をそのまま使用することができ、例えば、東芝シリコーン社製のTSE2527U(商品名)、同社製のTSE2523U(商品名)等が挙げられる。また、(B)成分の硬化剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチル-クミルパーオキサイド、2,5-ジメチル -2,5-ジ -t-ブチルパーオキシヘキサン、ジ -t-ブチルパーオキサイド等の各種の有機過酸化物加硫剤が用いられる。なお、これらの有機過酸化物加硫剤は1種または2種以上の混合物として使用される。
【0013】
かかる有機過酸化物加硫剤の配合量は、(A)成分のポリオルガノシロキサンベースポリマー100重量部に対して0.4〜0.8重量部の範囲とすることが好ましい。有機過酸化物加硫ア剤の配合量が0.4重量部未満では、加硫が十分に行われず、また0.8重量部を超えて配合してもそれ以上の格別の効果がないばかりか、得られるシリコーンゴム成形体の物性に悪影響を与えるおそれがある。
【0014】
(C)成分の金属酸化物は耐熱性向上剤であり、酸化鉄、シリカ、酸化チタン、酸化亜鉛等が挙げられるが、酸化鉄が好ましい。該(C)成分の配合量は、(A)成分のポリオルガノシロキサンベースポリマー100重量部に対して4.0〜14.0重量部の範囲とすることが好ましく、より好ましくは6.0〜10.0重量部である。配合量が4.0重量部未満では硬化後のゴムに十分に高い耐熱性を付与することができず、14.0重量部を超えると、得られるゴムの難燃性が低下する傾向となる。尚、耐熱性向上剤として、当該金属酸化物とともに黒鉛、アルミニウム等を併用してもよい。
【0015】
(D)成分のカーボンブラックは耐熱性及び耐燃性向上剤であり、当該カーボンブラックは、公知のカーボンブラックであればよく、例えば、黒鉛化カーボン、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が例示できる。中でも、入手性、価格の点で、ファーネスブラックが好ましい。該(D)成分のカーボンブラックの配合量は、(A)成分のポリオルガノシロキサンベースポリマー100重量部に対して0.6〜3.0重量部の範囲とすることが好ましく、配合量が0.6重量部未満では硬化後のゴムに十分に高い耐熱性を付与することができず、3.0重量部を超えると、十分な難燃性を確保できない。
【0016】
(E)成分の難燃剤は、白金化合物、塩化マグネシウム、炭酸亜鉛、水酸化アルミニウム、有機リン化合物、臭素化合物等を使用できるが、白金化合物が好ましい。なお、ここでの白金化合物としては、例えば、塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、白金オレフィン錯体、白金ビニルシロキサン錯体、白金カーボン等が挙げられる。
【0017】
当該(E)成分の配合量は、(A)成分のポリオルガノシロキサンベースポリマー100重量部に対して0.05〜0.4重量部が好ましく、より好ましくは0.1〜0.2重量部である。当該配合量が0.05重量部未満では架橋後のゴムに十分に難燃性を付与することができず、0.4重量部を超えると、架橋後のゴムの耐熱性が低下する傾向となる。
【0018】
本発明のシリコーンゴム組成物には、一般的なシリコーンゴムコンパウンドに使用される公知の充填剤、顔料、酸化防止剤、接着助剤、加工助剤等を本発明の目的を阻害しない範囲で配合してもよく、このようなものとしては、通常、煙霧質シリカ、沈殿シリカ、けいそう土等の補強性充填剤、酸化アルミニウム、マイカ、クレイ、マンガン、水酸化セシウム、ガラスビーズ、ガラス繊維、テフロン(PTFE)粉末、ポリジメチルシロキサン、アルケニル基含有ポリシロキサン等が例示される。
【0019】
本発明のシリコーンゴム組成物は、後述するように、空気中、300℃を超える高温下に168時間放置後の伸ひが25%以上、好ましくは40%以上という極めて高い耐熱性を示すが、金属酸化物とカーボンブラックのいずれか一方のみでは、十分な難燃性を達成するために必要な量の難燃剤を含有させつつ、このような極めて高い耐熱性を示すゴム組成物を得ることはできない。
【0020】
本発明のシリコーンゴム組成物は、例えば、次の方法で調製するのが好ましい。
すなわち、(A)成分のポリオルガノシロキサンベースポリマーに(C)成分の金属酸化物を配合、分散し、こうして得られた未加硫ゴム混合物に、残りの(B)成分、(D)成分および(E)成分、さらに必要に応じて添加される他の添加剤をさらに配合し、混練するのが好ましい。これらの作業は、例えば、ニーダー、バンバリーミキサー、ミキシングロール、オープンロール、プラネタリーミキサー等の従来から一般的に用いられている装置によって行うことができる。なお、(C)成分(金属酸化物)、(D)成分(カーボンブラック)及び(E)成分(難燃剤)は、それぞれ、それらを(A)成分のポリオルガノシロキサンベースポリマーと同種のポリオルガノシロキサンに高濃度に配合したマスターバッチを使用するのが好ましい。
【0021】
また、本発明のシリコーンゴム組成物の成形方法は、加圧成形、押出し成形、射出成形、カレンダー成形等の通常の方法を採用できる。また、成形物の架橋は、140〜230℃で行うのがよく、好ましくは160〜175℃で、1分〜30分一次加硫をした後、190〜230℃で、1〜8時間二次加硫を行うのが好ましい。また、加硫時の加圧は100〜200kgf程度が好適である。
【0022】
本発明のシリコーンゴム組成物の成形品は、例えば、各種の機関(機構)内で使用される振動吸収性部材(クッション材)(例えば、航空機のエンジン周りで、配管等をその振動を吸収しつつ機体に固定するため配管固定用のクッション材)、各種電気・電子用部品、建築用部品、シール材、ホース等に有用であり、中でも、振動吸収性部材(クッション材)に特に好適である。
【実施例】
【0023】
以下、実施例および比較例を示して本発明をより具体的に説明する。
[試料作製]
下記表1、2に示す材料を使用して、実施例1〜9、比較例1〜9のシリコーンゴム組成物を調製し、成形・架橋して、試料を作製した。表中の各材料の配合量を示す数値は重量部である。
なお、表1、2中のポリオルガノシロキサンベースポリマーである東芝シリコーン社製のTSE2323-5U、TSE2323-6UおよびTSE2323-7Uは、ケイ素原子に結合した有機基にフェニル基を含むものであり、また、同社製のTSE2527UおよびTSE2523Uはケイ素原子に結合した有機基にフェニル基を含まないものである。
また、架橋剤である東芝シリコーン社製のTC-8は有機過酸化物加硫剤(2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルパーオキシヘキサン)である。
また、酸化鉄である東芝シリコーン社製のME41-Fは酸化鉄マスターバッチであり、難燃剤である東芝シリコーン社製のME400-FRは白金化合物マスターバッチであり、カーボンブラックである東芝シリコーン社製のME41-Bはカーボンブラックマスターバッチである。
組成物の調製および試料作製は、次のようにして行った。まず、ポリオルガノシロキサンベースポリマーに、オープンロールを用いて、架橋剤、酸化鉄(酸化鉄マスターバッチ)、難燃剤(白金化合物マスターバッチ)、カーボンブラック(カーボンブラックマスターバッチ)を順次混練して均一に混合した後、170℃、圧力150kgf、10分のプレス条件で一次加硫を行い、200℃×4時間の条件で二次加硫を行って、厚さ2mmのシリコーンゴムシート(試料A)および硬さ標準片(試料B)を作製した。
【0024】
[評価試験]
各実施例および各比較例で作製した試料A及び試料Bにつき、(1)初期特性(硬さ、伸び)、(2)耐熱性評価(315℃×168時間の熱処理後の特性(伸び、屈曲性)および(3)難燃性(垂直燃焼12秒後から自己消火するまでの時間)を測定した。なお、試料の伸び、硬さ、屈曲性及び難燃性は次の方法で測定(評価)した。
【0025】
(1)硬さ、伸び
硬さ:JIS K 6253に準拠して硬さ標準片を用いてタイプAデュロメータで測定した。
伸び:2mm厚シートよりJIS3号ダンベルを打抜き、ショッパー型引張試験機にてJIS K 6251に準拠して引張試験を実施し、その際の伸びで評価した。
(2)屈曲性
約50×25×2mm厚のシートをギアオーブンにて加熱老化させ、冷却した後、厚さの4倍の直径マンドレルに1回巻き付けた際に、亀裂が発生するか否かで評価した。
(3)難燃性
短冊状試料を垂直に固定し、下から、炎の中心が815℃以上になるような火炎を12秒間当て、炎をはずしてから火が自消するまでの時間で評価した。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
なお、表1、2において、酸化鉄、難燃剤(白金化合物)及びカーボンブラックの配合量は、マスターバッチから逆算してマスターバッチ中の実際の酸化鉄、難燃剤(白金化合物)及びカーボンブラックの量である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)〜(E)を主成分とする高耐熱性シリコーンゴム組成物。
(A):フェニル基を含有しないポリオルガノシロキサンベースポリマー
(B):架橋剤
(C):金属酸化物
(D):カーボンブラック
(E):難燃剤
【請求項2】
(C)成分の金属酸化物が酸化鉄であり、(E)成分の難燃剤が白金化合物であり、(A)成分100重量部に対し、(C)成分を4.0〜14.0重量部、(D)成分を0.6〜3.0重量部、(E)成分を0.05〜0.4重量部含有することを特徴とする、請求項1記載の高耐熱性シリコーンゴム組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の高耐熱性シリコーンゴム組成物を成形してなるクッション材。


【公開番号】特開2006−182902(P2006−182902A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−377474(P2004−377474)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【Fターム(参考)】