説明

高耐食プラント機器

【課題】長期の使用期間にわたって接合部の破損に対する信頼性の高いライニング構造を有した高耐食プラント機器を提供する。
【解決手段】高耐食材料のライニング板と支持部、鉄鋼材料等の構造材料部からなり、ライニング板と支持部は摩擦攪拌された接合部をもち、支持部は間隙をもって構造材料部に対して幾何学的構造により組み込まれている、もしくは締結されていることによって信頼性の高いライニングを有する高耐食プラント機器を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐食金属材料を使用したライニング構造をもつ高耐食プラント機器に係り、ライニングの破損を抑制し、長期間運転可能な高耐食プラント機器に関する。
【背景技術】
【0002】
腐食性の高いガスや液体を用いるプラント機器において、機器を構成する反応器、配管などは使用期間を通じて腐食に対して材料の健全性を保持する必要がある。腐食環境に接する材料は、経済性も考慮しつつ、使用期間と腐食寿命を評価して選定されている。しかし、厳しい腐食環境である場合は、素材や製造コストの高い高耐食材料を用いることになる。特に大きな構造物では、高耐食材料そのもので製造すると、素材や製造コストが高くなるほか、構造強度設計において材料の強度が低い場合は板厚を大きくしなければならない困難さを生じることや、現行の製造技術では製造できないこともある。そこで、構造強度を保持する鉄鋼材料などの構造材料の表面を、高耐食材料のコーティングやライニングで覆い、腐食環境に対して耐食性をもたせる方法を採用する場合がある。
【0003】
腐食環境に対して耐食性をもたせるため、構造強度を保持する鉄鋼材料などの構造材料の表面を高耐食材料で覆う方法として、高耐食材料溶加材を用いた溶接または高耐食材料粉末の溶射による高耐食材料コーティングや、高耐食材料板材を構造材料に圧延または爆発圧着により接合したライニングが従来から施されてきた。
【0004】
ジルコニウムやジルコニウム合金、チタンやチタン合金(以下、ジルコニウムやチタン等)は、耐食性が優れることから、化学製品製造プラントや化学処理プラントに使用されている。ジルコニウムやチタン等を接合する場合、溶接時に大気から混入した酸素や窒素が酸化物や窒化物を形成し接合部の脆化を招くことから、真空チャンバ内や、大気から厳密に遮断するためシールドボックスを用いた不活性ガス内といった高度な雰囲気制御の下で溶接することが必要である。溶接時のシールドボックス構造やシールド装置が、特許文献1,2に開示されている。
【0005】
摩擦攪拌接合法は、被接合材料よりも硬い材質のツールを回転させながら被接合材料の接合部に挿入し、ツールと被接合材料の間で発生する摩擦熱によって被接合材料を接合する方法である。固相接合であるため、溶接よりも接合による変形や被接合材料への熱影響が小さいことが知られている。接合だけでなく、表面改質の手段として摩擦攪拌を用いることもある。高耐食材料板材を構造材料と摩擦攪拌接合法により接合しライニングとする方法が、例えば特許文献3に開示されている。ジルコニウムやチタン等の活性金属を非酸化性の不活性ガス雰囲気中で摩擦攪拌接合法により表面の酸化を抑制して接合する方法が、特許文献4,5に開示されている。
【0006】
高耐食材料のライニングを用いたプラント機器は、ライニングによって腐食の進行を防いでいることから、ライニングが破損し貫通すると外側の構造材料が腐食環境に曝されることになり、機器にとって重大な損傷となりうる。
【0007】
ライニングと構造材料の接合部は、接合の影響でライニング母材とは材質が異なるほか引張残留応力が存在し、構造的にも応力が集中しやすい形状となっていることが多いため、運転中の振動による高サイクル疲労,起動・停止に伴う低サイクル疲労,運転中の腐食環境と重畳することによる応力腐食割れや腐食疲労といった様々な損傷モードにより破損しやすい。特にライニング材と構造材料の熱膨張係数に大きな差があり、プラント機器の停止時と運転時の温度差が大きい場合、起動・停止に伴う低サイクル疲労による破損の可能性が高くなる。ライニングを構造材料と直接接合した接合部は、異材継手であるため、その希釈部では溶接時やプラント運転時において異相の析出などにより脆化する可能性があるなど、信頼性が低いことが多い。ライニングに用いられる材料によっては、溶接による接合部が粗大な凝固組織となるため、ライニング母材に対して接合部の強度が低いアンダーマッチの継手となり、引張応力が負荷された場合に接合部が大きく変形し母材に先んじて破断する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2045923号公報
【特許文献2】特許第3562014号公報
【特許文献3】特開2006−255711号公報
【特許文献4】特開2000−301363号公報
【特許文献5】特開2002−248583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、長期の使用期間にわたって接合部の破損に対する信頼性の高いライニング構造を有した高耐食プラント機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の高耐食プラント機器は、高耐食材料のライニング板と支持部、構造材料部を備えた高耐食プラント機器であって、前記ライニング板と支持部は摩擦攪拌された接合部で接続され、前記支持部は構造材料部との間隙を介して、構造材料部に対して幾何学的構造により締結、もしくは組み込まれていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、長期の使用期間にわたって接合部の破損に対する信頼性の高いライニング構造を有した高耐食プラント機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のライニング構造例を示す断面模式図である。
【図2】本発明のライニング構造例を示す断面模式図である。
【図3】本発明のライニング構造例を示す断面模式図である。
【図4】本発明のライニング構造例をライニング側からみた模式図である。
【図5】本発明のライニング構造例をライニング側からみた模式図である。
【図6】本発明のライニング構造例をライニング側からみた模式図である。
【図7】本発明のライニング構造例をライニング側からみた模式図である。
【図8】本発明のライニング構造の製造方法例を示す断面模式図である。
【図9】本発明のライニング構造の製造方法例を示す断面模式図である。
【図10】本発明のライニング構造の製造方法例を示す断面模式図である。
【図11】本発明のライニング構造の製造方法例を示す断面模式図である。
【図12】本発明のライニング構造例を示す断面模式図である。
【図13】本発明のライニング構造の作製方法例を示す断面模式図である。
【図14】本発明のライニング構造の作製方法例を示す断面模式図である。
【図15】本発明のライニング構造の作製方法例を示す断面模式図である。
【図16】公知例のライニング構造例を示す断面模式図である。
【図17】熱膨張によるひずみ発生に関する本発明と公知例のライニング構造を比較した断面模式図である。
【図18】本発明のライニング構造を適用した溶解槽の概念図である。
【図19】本発明のライニング構造を適用した濃縮缶の概念図である。
【図20】本発明のライニング構造を適用した酸回収蒸発缶の概念図である。
【図21】本発明のライニング構造を適用した廃液濃縮缶の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明は、高耐食材料のライニング板が摩擦攪拌された接合部でつながった支持部を介して構造材料部に固定されることによって、ライニングの接合部における破損を抑制した高耐食プラント機器を提供するものである。
【0015】
ライニング板は構造材料部に直接接合されておらず、支持部を介して構造材料部に間接的に固定されていることから、ライニング板と構造材料部の熱膨張率などの材料特性差に伴うひずみは構造材料部と支持部の間隙で吸収され、それによる応力が接合部に負荷されない。ライニング板と支持部の接合部は、信頼性の高い共金接合であり、かつ摩擦攪拌によって母材よりも強度が高くなりオーバーマッチな継手となるため、接合部で破損する可能性を小さくできる。
【0016】
ライニングと構造材料の接合部は、接合の影響でライニング母材とは材質が異なるほか引張残留応力が存在し、構造的にも応力が集中しやすい形状となっていることが多いため、運転中の振動による高サイクル疲労,起動・停止に伴う低サイクル疲労,運転中の腐食環境と重畳することによる応力腐食割れや腐食疲労といった様々な損傷モードにより破損しやすい。
【0017】
高耐食材料として、ジルコニウム,ジルコニウム合金,チタン,チタン合金,ステンレス鋼もしくはニッケル合金がライニングに多く用いられている。熱膨張係数が、ジルコニウムおよびジルコニウム合金では5.9×10-6-1、チタンおよびチタン合金では8.5×10-6-1である一方、構造材料として用いられる鉄鋼材料では10〜20×10-6-1、ニッケルおよびニッケル合金では12〜14×10-6-1、銅および銅合金では17〜23×10-6-1、アルミニウムおよびアルミニウム合金では23〜24×10-6-1であることから、ジルコニウム,ジルコニウム合金,チタンおよびチタン合金は、構造材料として用いられる金属に対して熱膨張係数が小さい。また、オーステナイト系ステンレス鋼の熱膨張係数17〜18×10-6-1は、炭素鋼や低合金鋼の熱膨張係数10〜12×10-6-1と比べると大きい。このように、ライニング材として用いられる高耐食材料と構造材料の熱膨張係数に大きな差がある場合があり、プラント機器の停止時と運転時の温度差が大きいと、起動・停止に伴う低サイクル疲労による破損の可能性が高くなる。
【0018】
本発明の高耐食プラント機器では、ライニング板は構造材料部に直接接合されておらず、支持部を介して構造材料部に間接的に固定され、支持部と構造材料部に設ける間隙は、高耐食プラント機器の運転時温度と構造を踏まえ、熱膨張による寸法変化から設定されている。このことから、ライニング板と構造材料部の熱膨張率などの材料特性差に伴うひずみは支持部と構造材料部の間隙で吸収され、それによる応力が接合部に負荷されない。
【0019】
支持部が組み込まれる構造材料部の孔は、開口部に対して深部の寸法を大きくし、構造材料部の孔の寸法に対して前述の間隙をもって設計された支持部が組み込まれることで、締結することなしに支持部に接合されるライニング板を構造材料部に固定することができる。構造材料部の孔の開口部よりも大きな支持部は、直接開口部から挿入するのは困難であり、構造材料部の側面や裏面から支持部を挿入する必要がある。そこで、支持部を構造材料部の孔に挿入し、摩擦攪拌も含めた圧力負荷により構造材料部の孔深部にある支持部を変形させて、支持部が構造材料部の孔から脱離しないように固定する製造方法を採用すれば、支持部を構造材料部の孔開口部から挿入することができ、製造効率を上げることができる。
【0020】
ライニングを構造材料と直接接合した接合部は、異材継手であるため、その希釈部では溶接時やプラント運転時において異相の析出などにより脆化する可能性があるなど、信頼性が低いことが多い。本発明では、ライニング板は支持部を介して構造材料部に固定され、ライニング板と支持部の接合部は共金接合であることから、異材継手にみられる脆化現象に対して信頼性が高い。
【0021】
ライニングに用いられる高耐食材料は、溶接による接合部が粗大な凝固組織となる場合に、ライニング母材に対して接合部の強度が低いアンダーマッチの継手となり、引張応力が負荷された場合に接合部が大きく変形し母材に先んじて破断する可能性がある。本発明では、摩擦攪拌によって母材よりも接合部の強度が高くなりオーバーマッチな継手となるため、接合部で破損する可能性を小さくできる。
【0022】
ジルコニウム,ジルコニウム合金,チタンもしくはチタン合金の溶接接合部は、溶接の際に大気から酸素や窒素が混入すると、酸化物や窒化物を形成され溶接接合部の脆化を招く。大気から遮断するため、真空チャンバ,不活性ガスシールドボックスなどを使って高度な雰囲気制御の下で、溶接を実施する必要がある。ジルコニウム,ジルコニウム合金,チタンもしくはα系チタン合金の溶接接合部は、溶接後急冷されるため針状α相組織を呈するが、このような雰囲気制御の下で溶接すると、粒径数百μmの粗大な凝固組織を呈し、母材の強度に比べて接合部の強度が低くなることがある。
【0023】
本発明のライニング材と支持部の接合部は、摩擦攪拌により接合、もしくは酸素および窒素分圧100Pa以下の真空中もしくは不活性ガス雰囲気中で予め溶接した溶接金属部を摩擦攪拌する。摩擦攪拌の際、接合部は固相状態で塑性流動されるので、大気からの酸素や窒素の混入は溶接と比べると極めて小さいが、表面の酸化を抑えるため摩擦攪拌施工時に毎分20L以上の流量で不活性ガスを接合部に吹付けて施工部をシールドする。
【0024】
本発明のライニング板と支持部の接合部は、接合プロセス時に大気からの酸素および窒素の混入を抑制し、少なくとも母材仕様値の酸素濃度および窒素濃度それぞれの上限値以下とすることで脆化が抑えられる。ジルコニウムもしくはジルコニウム合金製のライニング板と支持部の接合部は、接合プロセス時に大気からの酸素および窒素の混入を抑制し、少なくとも母材と同じ酸素濃度1600ppm以下,窒素濃度250ppm以下とすることで脆化が抑えられる。また、更に耐食性の要求される使用環境では、ジルコニウム合金接合部の窒素濃度は、80ppm以下とすることが望ましい。チタンもしくはチタン合金では、酸素や窒素濃度の上限値を高くした強度の高い種類が規格化されており、チタンもしくはチタン合金製のライニング板と支持部の接合部は、接合プロセス時に大気からの酸素および窒素の混入を抑制し、少なくとも母材仕様の酸素濃度および窒素濃度の上限値以下とすることで脆化が抑えられる。特に純チタンおよびチタン合金中のガス成分元素濃度が低い種類では、酸素濃度1500ppm以下,窒素濃度300ppm以下とすることで脆化が抑えられる。
【0025】
本発明のライニング板と支持部の接合部は、摩擦攪拌によって結晶粒が微細化して等軸粒組織となるため、形成された酸化物や窒化物そのものによる脆化は抑えられ、平均結晶粒径が0.5から10μmの等軸粒組織からなり、母材とのビッカース硬さの差が0HV以上100HV未満とすることで、顕著な延性の低下を招かずオーバーマッチな継手を得ることができる。
【0026】
上記の製造方法、構造ならびに接合部の特徴を有する高耐食材料のライニングは、長期間にわたって、起動・停止時、運転中での破損を抑制され、それにより高耐食材料本来の耐食性能を発揮した反応容器,配管といった高耐食プラント機器を得ることができる。
【0027】
〔実施例〕
表1,表2および表3は、本発明の実施例として用いられたライニング板および支持部の高耐食材料の化学成分である。表1は、ジルコニウムおよびジルコニウム合金供試材の化学成分である。表2は、チタンおよびチタン合金供試材の化学成分である。表3は、ステンレス鋼およびニッケル合金供試材の化学成分である。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
【表3】

【0031】
ライニング材には、ジルコニウム,ジルコニウム合金,チタン,チタン合金,ステンレス鋼もしくはニッケル合金が多く用いられており、表1はその例である。ジルコニウム合金は、錫,鉄,クロム,ニッケルのほか、ニオブやハフニウムを合金化しているものもあり、酸素,窒素,炭素,水素の含有量が規定されている。チタン合金は、常温での結晶構造からα合金,α−β合金,β合金に分類される。
【0032】
表2のチタン合金1はα合金であり、鉄のほか、クロム,ニッケル,ルテニウムやパラジウムを合金化しているものもあり、酸素,窒素,炭素,水素の含有量が規定されている。表2のチタン合金2はα−β合金であり、鉄,アルミ,バナジウムを合金化しており、酸素,窒素,炭素,水素の含有量が規定されている。
【0033】
表3のステンレス鋼は、クロム,ニッケル,シリコン,マンガンのほか、モリブデン,ニオブ,チタン,タンタルを合金化しているものもあり、リン,硫黄,窒素,炭素の含有量が規定されている。表3のニッケル合金は、クロム,鉄,シリコン,マンガンのほか、モリブデン,タングステン,銅,アルミ,チタン,ニオブ,タンタルを合金化しているものもあり、リン,硫黄,炭素の含有量が規定されている。上述のジルコニウム,ジルコニウム合金,チタン,チタン合金,ステンレス鋼もしくはニッケル合金は、熱間鍛造・圧延の後、固溶化熱処理や材質調整のための熱処理を施し、機械加工により所定の形状に加工される。また、熱間鍛造・圧延や熱処理の後に、冷間圧延にて所定の寸法に成形することもある。ライニング板の表面は、冷間加工まま、機械加工,研磨,酸洗などで仕上げられる。
【0034】
図1に本発明のライニング構造例の断面模式図を示す。高耐食材料のライニング部1は、構造材料部2に対して、ライニング側開口部の寸法よりも深部の寸法の大きい構造材料部の孔4に支持部3が間隙をもちつつ幾何学的に脱離しない構造となって固定されている。さらに、ライニング部1は、支持部3と摩擦攪拌された接合部5で接合されている。支持部3は、図1の紙面方向に奥行きをもつ板もしくは棒の形状である。構造材料部2に用いられる材料は、炭素鋼,低合金鋼,ステンレス鋼などの鉄鋼材料、ニッケルおよびニッケル合金、銅および真鍮などの銅合金、アルミニウムおよびアルミニウム合金であり、機器の運転温度における構造的な強度を担っている。
【0035】
図2に示す本発明のライニング構造例の断面模式図では、高耐食材料のライニング部1は、構造材料部2に対して、ライニング側開口部の寸法に対して裏面開口部の寸法の大きい構造材料部の孔4に支持部3が間隙をもちつつ幾何学的に脱離しない構造となって固定されている。さらにライニング部1は、支持部3と摩擦攪拌された接合部5で接合されている。支持部3は、図2の紙面方向に奥行きをもつ板の形状、もしくは構造材料部2の厚さ方向に平行な棒の形状である。
【0036】
図3に示す本発明のライニング構造例の断面模式図では、高耐食材料のライニング部1は、構造材料部2に対して、ライニング側から裏面に貫く構造材料部の孔4に棒状の支持部3が間隙をもちつつ、構造材料部2の裏面側にある支持部のネジ部6をナット7およびワッシャ8にて構造材料部2と間隙9をもちつつ締結されている。さらにライニング部1は、支持部3と摩擦攪拌された接合部5で接合されている。支持部のネジ部6をナット7およびワッシャ8にて構造材料部と間隙9をもちつつ締結するために、溶接や接着剤などを使ってナット7を固定している。もしくは、ナット7およびワッシャ8の間にスプリングワッシャを挿入して、ナット7を固定するとともに、間隙9に相当するスプリングワッシャの伸縮を付与する。
【0037】
本発明のライニング構造例について、ライニング側からみた模式図を使って説明する。
【0038】
図4では、図1や図2のライニング構造に示した、紙面方向に奥行きをもつ板もしくは棒の形状である支持部3が連続的に摩擦攪拌による接合部5でライニング材と接合されている。
【0039】
図5では、図2のライニング構造に示した、紙面方向に奥行きをもつ板の形状である支持部3が間隔をおいて摩擦攪拌による接合部5でライニング材と接合されている。
【0040】
図6では、図2のライニング構造に示した、紙面方向に奥行きをもつ板の形状である支持部3が向きを変え間隔をおいて摩擦攪拌による接合部5でライニング材と接合されている。
【0041】
図7では、図2や図3のライニング構造に示した、構造材料部2の厚さ方向に平行な棒の形状をした支持部3が摩擦攪拌による接合部5でライニング材と接合されている。
【0042】
本発明のライニング構造の製造方法について、図1に示すライニング構造を例に説明する。
【0043】
図8の製造方法例では、まず構造材料部の孔4に図8に示す断面をもつ棒状の支持材12を構造材料部2の側面から挿入し、次にライニング板10と別のライニング板11を支持材12に突合せ、毎分20Lの流量で不活性ガスであるアルゴンガスを吹付けながら、回転ツール13を200rpmで回転させながら押し当てて、毎分100mmで移動させて接合した。残存した突合せ面がき裂起点となってライニング材をき裂が貫通しないように、少なくともライニング材の板厚方向に平行な突合せ面が摩擦攪拌接合によって消失するように、突合せ開先寸法の設計を行った。
【0044】
図9の製造方法例では、1枚のライニング板10に加工した溝を支持材12に突合せ、図8と同様の方法で摩擦攪拌により接合した。
【0045】
図10の製造方法例では、ライニング板10と支持材12は、酸素および窒素分圧を100Pa未満とした不活性ガスであるアルゴンガス雰囲気下で電流170A,電圧9.8V,溶接速度毎分60mmの条件で予めアーク溶接にて接合されており、その接合部14を毎分20Lの流量で不活性ガスであるアルゴンガスを吹付けながら、回転ツール13を200rpmで回転させながら押し当てて、毎分100mmで移動させて摩擦攪拌した。図2および図3に示すライニング構造においても、支持材12を構造材料部の孔4に構造材料部2の側面もしくは裏面から挿入して、同様の製造方法で接合された。
【0046】
支持材12を構造材料部の孔4に構造材料部2のライニング側面から挿入するライニング構造と製造方法について説明する。
【0047】
図11の製造方法例では、まず構造材料部の孔4に図11に示す断面をもつ紙面奥行き方向を長手方向とする板状、もしくは構造材料部2の板厚方向に平行な棒状の支持材12を構造材料部2のライニング側面から挿入する。構造材料部の孔4はライニング側面の開口部付近の寸法に対して深部の寸法を大きくしている。支持材12は、ライニング側面の開口部付近の幅寸法よりも小さい幅寸法で構造材料部の孔4にライニング側面から挿入できるようにしており、構造材料部の孔4の深さよりも大きい高さをもっている。支持材12の挿入部には、予め空洞や切込を加工し、変形しやすくしている。次にライニング板10と別のライニング板11を支持材12に突合せ、毎分20Lの流量で不活性ガスであるアルゴンガスを吹付けながら、回転ツール13を200rpmで回転させながら押し当てて、毎分100mmで移動させて摩擦攪拌接合した。摩擦攪拌接合の際、支持材12には回転ツール13を押し当てる荷重が負荷され、支持材12の挿入部が変形する。
【0048】
図12に示すとおり、ライニング部1に摩擦攪拌接合された支持部3が挿入部の変形により構造材料部の孔4から脱離できなくなり、ライニング部1は構造材料部2に間隙をもちつつ固定された。
【0049】
摩擦攪拌接合の際に支持材12の挿入部を変形させる方法は、接合とライニング材の固定が同時にできるので効率的である。一方で、支持材12を構造材料部の孔4に強固に固定するのにさらに大きな荷重で支持材12の挿入部を変形させる必要がある場合、図13に示すように治具16を用いて支持材12の突合せ面を保護した上で摩擦攪拌接合の前に荷重を負荷し、図14に示すとおり支持材12の挿入部を変形させて構造材料部2から支持材12が脱離しないようにした。
【0050】
最後に図15のようにライニング板10と別のライニング板11を支持材12に突合せ、毎分20Lの流量で不活性ガスであるアルゴンガスを吹付けながら、回転ツール13を200rpmで回転させながら押し当てて、毎分100mmで移動させて摩擦攪拌接合し、図12に示すライニング構造を得た。
【0051】
表4は、ジルコニウムおよびジルコニウム合金製ライニング構造接合部の炭素,酸素,窒素,水素濃度である。表5は、チタンおよびチタン合金製ライニング構造接合部の炭素,酸素,窒素,水素濃度である。
【0052】
【表4】

【0053】
【表5】

【0054】
表1および表2の母材での濃度と比べると、窒素濃度で10ppm、酸素濃度で30ppm程度の増加がみられるだけであり、母材の仕様上限値を越えるような増加はみられなかった。
【0055】
ライニング材の接合部から切り出した試験片の引張試験結果と硬さ測定結果を表6に示す。
【0056】
【表6】

【0057】
比較のため、酸素および窒素分圧を100Pa未満とした不活性ガスであるアルゴンガス雰囲気下で電流170A,電圧9.8V,溶接速度毎分60mmの条件で予めTIG溶接にて接合された接合部の引張試験結果も示す。
【0058】
TIG溶接接合部の引張試験結果では、純ジルコニウムおよびジルコニウム合金,純チタン,チタン合金1(α相チタン合金)およびチタン合金2(α−β相チタン合金)では、溶接金属部で破断し、強度面でアンダーマッチな継手であった。これらの溶接金属部は粗大なα相組織を呈していた。本発明のライニング材の接合部から切り出した試験片はいずれも、母材部で破断しており、延性も示されていることから、オーバーマッチな継手だといえる。接合部は、母材とのビッカース硬さの差が0HV以上100HV未満であり、粒径0.5〜10μmの等軸微細結晶粒組織を呈していた。
【0059】
特開2006−255711号公報では、ライニング部1を構造材料部2に摩擦攪拌によって直接接合している。そのライニング構造の模式図を図16に示す。摩擦攪拌による接合部5はライニング部1と構造材料部2の界面で希釈部18を形成する異材接合部である。一方、本発明の接合部5は、同材料のライニング材10と支持材12を接合した共金接合部である。異材接合部では、接合時の熱履歴や機器運転での高温保持時に脆化相の析出が懸念される。
【0060】
図17は本発明における熱膨張係数差によるひずみの回避を概念的に示した図である。常温における二つの接合部間の距離L0、常温と機器運転温度の温度差ΔT、ライニング材と構造材料部の熱膨張係数をそれぞれα1とα2とすると、本発明における機器の運転温度での接合部間の距離はライニング材ではL0(1+α1ΔT)、と構造材料部L0(1+α2ΔT)となり、その差の寸法L02−α1)ΔTは支持部3と構造材料部の孔4の間隙寸法未満であるため、接合部5には熱膨張係数差によるひずみに起因する応力は負荷されない。図2や図3に示した構造材料部2を貫通した支持部3においても、常温での構造材料部2の板厚T0とすると、機器の運転温度において構造材料部2の板厚方向に支持部3と構造材料部2に熱膨張係数に伴い寸法差T02−α1)ΔTが生じる。しかし、その寸法差は支持部3と構造材料部の孔4の間隙寸法未満であるため、接合部5には熱膨張係数差によるひずみに起因する応力は負荷されない。
【0061】
硝酸溶液を蒸発させる機器が、常圧での共沸混合物の沸点396K付近で運転される場合、常温と機器運転温度の温度差ΔTは100K、ライニング部1と支持部3に高耐食材料として純ジルコニウム(熱膨張係数5.9×10-6-1)を、構造材料部2に低合金鋼(熱膨張係数11×10-6-1)を採用されているとすると、接合部5間に生じる熱膨張係数に伴う寸法差は5×10-40、板厚方向に生じる熱膨張係数に伴う寸法差は5×10-40である。常温での接合部5間の寸法が1000mm、構造材料部2の板厚が40mmの場合、支持部3と構造材料部の孔4の間隙を板長および板幅方向には0.5mmを越えた寸法に、板厚方向には0.02mmを越えた寸法に設定した。
【0062】
図16に示したライニング材と構造材料部を直接接合した構造では、同じ材料と機器運転温度条件の場合、図17に示すとおり運転温度において接合部5間に拘束し合っているため熱膨張係数差からひずみ5×10-4が生じ、このひずみに対応する応力が接合部5に負荷される。起動・停止毎に応力負荷・除荷が繰り返され、低サイクル疲労を引き起こす可能性がある。
【0063】
上述のとおり、本発明のライニング構造は、ライニング部1が支持部3を介して、熱膨張係数差を考慮して間隙を設けて、構造材料部2に固定されているため、機器運転温度において接合部5に熱膨張係数差に伴う応力は負荷されず、機器の起動・停止に伴う低サイクル疲労によるライニング部1の破損は抑制される。さらにライニング部1と支持部3の接合部5は、共金接合かつ強度面でオーバーマッチな継手となっており、母材強度未満の応力では破断せず、材料損傷に対して信頼性が高い。
【0064】
本発明の高耐食材料ライニング構造は、腐食性のガスや液体に接する容器,配管などに適用することが可能である。
【0065】
図18には、裁断した核燃料棒を装填し、硝酸溶液中で核燃料を溶解する溶解槽の概念図を示す。溶解槽容器の内側に本発明のジルコニウムを使ったライニング構造を擁している。
【0066】
図19にプルトニウム等の核物質が溶解した硝酸溶液を濃縮する濃縮缶の概念図を示す。加熱部や濃縮缶容器ならびに配管の内側に本発明のジルコニウムを使ったライニング構造を擁している。
【0067】
図20に硝酸を回収するための蒸発缶の概念図を示す。加熱部や蒸発缶容器ならびに配管の内側に本発明のジルコニウムを使ったライニング構造を擁している。
【0068】
図21に高レベルの放射性廃棄物を含んだ硝酸溶液を濃縮する濃縮缶の概念図を示す。濃縮缶容器の内側に本発明のジルコニウムを使ったライニング構造を擁している。
【0069】
本発明の高耐食材料ライニング構造を擁した高耐食プラント機器は、ライニング材接合部での破損に伴う機器の損傷が抑制され、本来のライニング材の高耐食性能を発揮し、長期間の運転が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、優れた耐食性が望まれている化学製品製造装置機器,硝酸処理設備機器,原子力核廃棄物再処理設備機器に適用可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 ライニング部
2 構造材料部
3 支持部
4 構造材料部の孔
5 接合部
6 ネジ部
7 ナット
8 ワッシャ
9 間隙
10,11 ライニング板
12 支持材
13 回転ツール
14 溶接部
15 空洞や切込
16 治具
17 荷重
18 希釈部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高耐食材料のライニング板と支持部、構造材料部を備えた高耐食プラント機器であって、
前記ライニング板と支持部は摩擦攪拌された接合部で接続され、前記支持部は構造材料部との間隙を介して、構造材料部に対して幾何学的構造により締結、もしくは組み込まれていることを特徴とする高耐食プラント機器。
【請求項2】
請求項1において、前記高耐食材料は、ジルコニウム,ジルコニウム合金,チタン,チタン合金,ステンレス鋼もしくはニッケル合金であることを特徴とする高耐食プラント機器。
【請求項3】
請求項1において、前記ライニング板と支持部における接合部は、酸素濃度および窒素濃度それぞれが母材仕様値の酸素濃度および窒素濃度それぞれの上限値以下であり、平均結晶粒径が0.5から10μmの等軸粒組織を備え、母材とのビッカース硬さの差が0HV以上100HV未満であることを特徴とする高耐食プラント機器。
【請求項4】
請求項1において、前記間隙は、高耐食プラント機器の運転時温度と構造を踏まえ、熱膨張による寸法変化から設定されていることを特徴とする高耐食プラント機器。
【請求項5】
請求項1において、前記接合部は、摩擦攪拌により接合、もしくは酸素および窒素分圧100Pa以下の真空中、もしくは不活性ガス雰囲気中で予め溶接した溶接金属部を摩擦攪拌されてなることを特徴とする高耐食プラント機器。
【請求項6】
請求項1において、前記支持部が組み込まれる構造材料部の孔は、開口部に対して深部の寸法が大きいことを特徴とする高耐食プラント機器。
【請求項7】
請求項6において、前記支持部を前記構造材料部の孔に挿入し、摩擦攪拌も含めた圧力負荷により支持部を変形させて、支持部が構造材料部の孔から脱離しないように固定されていることを特徴とする高耐食プラント機器。
【請求項8】
請求項1において、前記摩擦攪拌された接合部は、毎分20L以上の流量で不活性ガスを接合部に吹付けて摩擦攪拌されていることを特徴とする高耐食プラント機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2013−755(P2013−755A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131796(P2011−131796)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】