説明

高耐食性Ni系複合めっき皮膜

【課題】
母材金属、特にアルミニウム合金の表面に形成し、航空機や船舶あるいは港湾等の金属部品で塩水が吹き付ける過酷な環境で使用に耐え得る高耐食性を備え、Cdめっき皮膜に代わる環境負荷の少ない高耐食性Ni系複合めっき皮膜を提供する。
【解決手段】
金属部品1の表面に、シアン化銅めっき皮膜4と光沢硫酸銅めっき皮膜5を順次積層形成し、その上に高濃度のリンを含むNi−Pめっき皮膜6又はNi−P−Snめっき皮膜を形成し、あるいは高濃度のリンを含むNi−Pめっき皮膜とNi−P−Snめっき皮膜を順次積層形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐食性Ni系複合めっき皮膜に係わり、更に詳しくはCd代替としても使用可能な環境負荷の少ない高耐食性Ni系複合めっき皮膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属製品にめっき皮膜を形成して耐食性を付与しているが、船舶や港湾等で塩水が吹き付ける過酷な環境で使用に耐え得る高耐食性のめっき皮膜は案外少ない。通常は、塗料を厚塗りして高耐食性を持たせているが、塗料は耐摩耗性や耐衝撃性に乏しく、また電気機器・部品等ではネジ部もあって、その上から塗料を塗るとメンテナンスができなくなる。
【0003】
また、電気機器・部品では、電磁シールド等のため導電性が必要な場合もあり、アルミニウム合金がベース金属として使用されることが多い。しかし、アルミニウムはイオン化傾向が大きく、そのままでは腐食し易いのでアルマイト処理して酸化皮膜を形成して使っている。通常、船舶用途では、CASS試験96時間をクリアーすることが要求されているが、アルマイト処理だけではそのような過酷な環境で使用に耐えるだけの十分な耐食性は得られない。その上、部品間の導通も必要であるので絶縁性のアルマイト皮膜や塗料は使用できない。Cdめっき皮膜は、めっきが均質で、亜鉛よりはやや小さいイオン化傾向を持ち、犠牲電極として良好な性質を持つため古くから利用されてきた。Cdめっき皮膜は、特に耐海水腐食性に優れており、またクロメート処理したものでもハンダ付け性がきわめて良好なため、航空機部品、船舶部品、電機部品等に根強い需要がある。尚、Cdは、アルミニウムや銅には及ばないが導電率は比較的高く、ニッケルと同程度である。しかし、Cdや六価Crは環境衛生にとって好ましくないにも係わらず、それに代わる高耐食性のめっき皮膜が無かったのでRoHS指令等においても例外的に用途を限定して使用が認められ、航空機、船舶、防衛関連部品において現在も使用されているのである。
【0004】
例えば、特許文献1には、合成樹脂製ハウジングの表面に厚さ0.25〜2μmの無電解銅めっき層を形成した上に、厚さ10〜20μmの電気銅めっき層を形成し、さらにその上に厚さ5〜10μmのニッケルめっき層を形成して電磁シールド層を設ける点が開示されている。この特許文献1の技術は、本来導電性がないハウジングの表面に銅めっき層を形成して導電性を付与して電磁シールド層として機能させ、さらに銅めっき層の防錆や腐食などに対して耐久性を持たせるためにニッケルめっき層を保護層として形成したのである。そのため、過酷な環境で使用に耐えるように、高耐食性を付与するというものではなく、耐食性に対して最適化はされてない。
【0005】
また、特許文献2には、アルミニウム及びマグネシウム合金上に銅層及びニッケル層を形成する方法において、活性化溶液によりアルミニウム及びマグネシウム合金を前処理する工程と、湿式電気めっきによりアルミニウム及びマグネシウム合金上に直接銅層を形成する工程と、湿式電気めっきにより銅層上にニッケル層を形成する工程とからなるアルミニウム及びマグネシウム合金上に銅―ニッケルめっき層を形成するめっき方法が開示されている。ここで、銅めっき層を形成する前に活性化処理としてNa427を12〜15重量部、CH3COONa及びNH3OHを10〜15重量部、および添加剤を用い、アルミニウム及びマグネシウム合金を前処理する。また、銅めっき液として、シアン銅めっき溶液(CuCN 30〜60重量部、NaCN 40〜60重量部、添加剤5%)と硫酸銅めっき液(CuSO4・5H2O 300〜400重量部、H2SO4 30〜50重量部、塩素イオン 30〜50重量部、添加剤2%)からなる溶液にて銅層を形成する。ニッケルめっき液として、NiSO4・6H2Oを150重量部、NH4Clを15重量部、ZnSO4・7H2Oを35重量部からなる溶液にてニッケル層を形成する。
【0006】
しかし、特許文献2に記載のめっき皮膜の耐食性、防錆効果については、十分に検討されたものではなく、耐食性試験はニッケル層の上に、更にチタニウム層及び陽極酸化されたチタニウム層を蒸着したものについて3%NaOH水溶液に5日間浸漬して行われたのであり、しかもCASS試験96時間のような過酷なものではない。そのため、特許文献2に記載のめっき皮膜は、めっき皮膜の質や層構造を最適化して高耐食性を付与するというものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−270489号公報
【特許文献2】特開2005−200709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、母材金属、特にアルミニウム合金の表面に形成し、航空機や船舶あるいは港湾等の金属部品で塩水が吹き付ける過酷な環境で使用に耐え得る高耐食性を備え、Cdめっき皮膜に代わる環境負荷の少ない高耐食性Ni系複合めっき皮膜を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前述の課題解決のために、金属部品の表面に、シアン化銅めっき皮膜と光沢硫酸銅めっき皮膜を順次積層形成し、その上に高濃度のリンを含むNi−Pめっき皮膜又はNi−P−Snめっき皮膜を形成したことを特徴とする高耐食性Ni系複合めっき皮膜を構成した(請求項1)。
【0010】
また、本発明は、金属部品の表面に、シアン化銅めっき皮膜と光沢硫酸銅めっき皮膜を順次積層形成し、その上に高濃度のリンを含むNi−Pめっき皮膜とNi−P−Snめっき皮膜を順次積層形成したことを特徴とする高耐食性Ni系複合めっき皮膜を構成した(請求項2)。
【0011】
また、本発明は、金属部品の表面に、高濃度のリンを含むNi−Pめっき皮膜を形成し、その上にNi−P−Snめっき皮膜又はNi−フッ素樹脂複合めっき皮膜を形成したことを特徴とする高耐食性Ni系複合めっき皮膜を構成した(請求項3)。
【0012】
また、本発明は、金属部品の表面に、Ni−P−Snめっき皮膜を形成し、その上にNi−P−Wめっき皮膜を形成したことを特徴とする高耐食性Ni系複合めっき皮膜を構成した(請求項4)。
【0013】
ここで、金属部品の表面に形成するめっき皮膜の合計厚さが少なくとも20μmであることが好ましい(請求項5)。
【0014】
また、Cu系めっき皮膜の合計厚さが少なくとも10μm、Ni系めっき皮膜の合計厚さが少なくとも10μmであることがより好ましい(請求項6)。
【0015】
そして、前記高濃度のリンを含むNi−Pめっき皮膜は、少なくとも次亜リン酸ナトリウム100〜150g/L、硫酸ニッケル100〜125g/Lを含むめっき浴を用いて形成した(請求項7)。
【0016】
また、前記Ni−P−Snめっき皮膜は、少なくとも塩化第二錫5〜25g/L、次亜リン酸ナトリウム20〜30g/L、硫酸ニッケル20〜30g/Lを含むめっき浴を用いて形成した(請求項8)。
【発明の効果】
【0017】
以上にしてなる請求項1に係る発明の高耐食性Ni系複合めっき皮膜は、金属部品の表面に、シアン化銅めっき皮膜と光沢硫酸銅めっき皮膜を順次積層形成し、その上に高濃度のリンを含むNi−Pめっき皮膜又はNi−P−Snめっき皮膜を形成したので、CASS試験96時間をクリアーできる優れた耐食性を備えるのである。シアン化銅めっき皮膜は金属表面に対する付きまわりが良く、皮膜表面が凹凸であるので優れたアンカー効果を有し、光沢硫酸銅めっき皮膜は表面が平坦化し、ピンホールが生じにくい表面となる。そして、高濃度のリンを含むNi−Pめっき皮膜又はNi−P−Snめっき皮膜は、ピンホールのない耐食性に非常に優れ膜質となるのである。このようにシアン化銅めっき皮膜と光沢硫酸銅めっき皮膜からなる下層のCu系めっき皮膜と、高濃度のリンを含むNi−Pめっき皮膜又はNi−P−Snめっき皮膜からなる上層のNi系めっき皮膜の組合せにより高度な耐食性を備えるのである。
【0018】
請求項2に係る発明の高耐食性Ni系複合めっき皮膜は、金属部品の表面に、シアン化銅めっき皮膜と光沢硫酸銅めっき皮膜を順次積層形成し、その上に高濃度のリンを含むNi−Pめっき皮膜とNi−P−Snめっき皮膜を順次積層形成したので、請求項1と同等以上の高い耐食性を付与することができる。
【0019】
また、請求項3に係る発明の高耐食性Ni系複合めっき皮膜は、金属部品の表面に、高濃度のリンを含むNi−Pめっき皮膜を形成し、その上にNi−P−Snめっき皮膜又はNiとフッ素樹脂複合めっき皮膜を形成したので、下層に耐食性に優れた高濃度のリンを含むNi−Pめっき皮膜を有するとともに、上層に更に耐食性に優れたNi−P−Snめっき皮膜又はNi−フッ素樹脂複合めっき皮膜を有するので非常に耐食性が高くなる。
【0020】
また、請求項4に係る発明の高耐食性Ni系複合めっき皮膜は、金属部品の表面に、Ni−P−Snめっき皮膜を形成し、その上にNi−P−Wめっき皮膜を形成したので、下層に耐食性に優れたNi−P−Snめっき皮膜を有するとともに、上層に更に耐食性に優れたNi−P−W合金めっき皮膜を有するので非常に耐食性が高くなる。
【0021】
これらの発明において、金属部品の表面に形成するめっき皮膜の合計厚さが少なくとも20μmであると、CASS試験96時間をクリアーできるだけの耐食性を付与することができ、またあまりめっき皮膜が厚くなり過ぎないので、精密部品やネジ部を有する部品にも適用することができる。また、Cu系めっき皮膜の合計厚さが少なくとも10μm、Ni系めっき皮膜の合計厚さが少なくとも10μmであると、皮膜の厚さバランスが良くなり耐食性にとって効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1発明のめっき皮膜の層構成を示す断面図である。
【図2】同じく第1発明のめっき皮膜の層構成の他の実施形態を示す断面図である。
【図3】同じく第1発明のめっき皮膜の層構成の更に他の実施形態を示す断面図である。
【図4】第2発明のめっき皮膜の層構成を示す断面図である。
【図5】同じく第2発明のめっき皮膜の層構成の他の実施形態を示す断面図である。
【図6】第3発明のめっき皮膜の層構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、添付図面に示した実施形態に基づき、本発明を更に詳細に説明する。図1〜図3は第1発明の高耐食性Ni系複合めっき皮膜の代表的なめっき皮膜の層構成を示し、図中符号1は金属部品、2はCu系めっき皮膜、3はNi系めっき皮膜をそれぞれ示している。
【0024】
第1発明は、金属部品1の表面に、少なくとも厚さ10μmのCu系めっき皮膜2を形成し、その上に少なくとも厚さ10μmのNi系めっき皮膜3を形成し、これらめっき皮膜の合計厚さが少なくとも20μmである層構成を有している。
【0025】
具体的には、対象とする前記金属部品1が、アルミニウム合金(A2024BD)である。そして、前記Cu系めっき皮膜2として、シアン化銅めっき皮膜4と、光沢硫酸銅めっき皮膜5を用い、それぞれの厚さは少なくとも5μmとする。また、前記Ni系めっき皮膜3として、高濃度のリンを含むNi−P(以下、Ni−P(高リン)と略称する)めっき皮膜6と、Ni−P−Snめっき皮膜7の何れか一方又は双方を用い、一方のみ用いる場合には少なくとも厚さ10μmであり、双方用いる場合にはそれぞれの厚さは少なくとも5μmとする。
【0026】
図1は、金属部品1の表面に、シアン化銅めっき皮膜4と光沢硫酸銅めっき皮膜5を順次積層形成し、その上にNi−P(高リン)めっき皮膜6を形成した層構成である。また、図2は、金属部品1の表面に、シアン化銅めっき皮膜4と光沢硫酸銅めっき皮膜5を順次積層形成し、その上にNi−P−Snめっき皮膜7を形成した層構成である。そして、図3は、金属部品1の表面に、シアン化銅めっき皮膜4と光沢硫酸銅めっき皮膜5を順次積層形成し、その上にNi−P(高リン)めっき皮膜6とNi−P−Snめっき皮膜7を順次積層形成した層構成である。
【0027】
前記シアン化銅めっき皮膜4は、金属表面に対する付きまわりが良く、皮膜表面が凹凸であるので優れたアンカー効果を有することが特徴である。また、前記光沢硫酸銅めっき皮膜5は、表面が平坦化し、ピンホールが生じにくい表面となることが特徴である。このようなCu系めっき皮膜2の下層を形成することにより、上層に形成するNi系めっき皮膜3に対する密着性に優れ、また緻密な膜質となって耐食性に優れるのである。また、アルミニウム合金の部品の表面に、アルミニウムよりも導電率の高いCu系めっき皮膜2を形成し、その厚さも10μm以上とすることにより、優れた電磁シールド効果を備えるのである。更に、上層に形成したNi系めっき皮膜3は磁性体であるので、磁気シールド効果も備えている。従って、第1発明の高耐食性Ni系複合めっき皮膜は、電子機器の部品に好適に適用することができる。
【0028】
また、第2発明は、図4及び図5に示し、金属部品1の表面に、少なくとも厚さ10μmのNi−P(高リン)めっき皮膜6を形成し、その上に少なくとも厚さ10μmのNi−P−Snめっき皮膜7を形成した層構成(図4)、あるいは金属部品1の表面に、少なくとも厚さ10μmのNi−P(高リン)めっき皮膜6を形成し、その上に少なくとも厚さ10μmのNi−フッ素樹脂複合めっき皮膜8を形成した層構成(図5)である。
【0029】
そして、第3発明は、図6に示し、金属部品1の表面に、少なくとも厚さ10μmのNi−P−Snめっき皮膜7を形成し、その上に少なくとも厚さ10μmのNi−P−Wめっき皮膜9を形成した層構成である。
【実施例】
【0030】
本発明に係る実施例1〜7と比較例1〜9を作成し、CASS試験によって耐食性を評価した。何れも母材金属はアルミニウム合金(A2024BD)である。表1に実施例と比較例のめっき皮膜の層構成と各めっき皮膜の厚さを示し、下欄に耐食性を5段階で評価した結果を示した。耐食性評価の基準は表2に示している。
【0031】
ここで、CASS(Copper-Accelerated Acetic Acid Salt Spray)試験とは、試験液を酢酸酸性(pH3.1〜3.3)の塩化ナトリウム−塩化第二銅水溶液を用い、試験室温度を50±10.5℃とする非常に厳しい腐食環境試験である。具体的には、5%塩水中に塩化第二銅0.26g/L、pHを酢酸酸性3.2とし、噴霧の温度を約50℃とし、塩水噴霧試験装置と同様の装置で試験を行い、試験時間と装置から取り出す回数で試験の過酷度を調整する。この試験方法は、塩水噴霧試験よりも腐食条件が過酷であるため、試験時間がかなり短縮でき且つ再現性もよいのが特徴である。アルミニウム及びアルミニウム合金の製品に施した陽極酸化皮膜のCASS試験については、JIS H 8681−2の規格がある。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
表1の見方は、各めっき皮膜の層構成が上欄から下欄へなるにつれて下層から上層に対応し、厚さの数値が記載されためっき皮膜が実際に形成されたものであり、ブランクは無視する。例えば、実施例2では、母材金属の表面に、厚さ5μmのシアン化銅めっき皮膜、厚さ5μmの光沢硫酸銅めっき皮膜、厚さ5μmのNi−P(高リン)めっき皮膜、厚さ5μmのNi−P−Snめっき皮膜が順次積層形成された層構成である(図3参照)。
【0035】
そして、シアン化銅めっき浴組成は表3、光沢硫酸銅めっき浴組成は表4、Ni−P(高リン)めっき浴組成は表5、Ni−P−Snめっき浴組成は表6にそれぞれ示している。
【0036】
【表3】

【0037】
【表4】

【0038】
【表5】

【0039】
【表6】

【0040】
その他の本発明の実施例に使用しためっき浴組成を表7及び表8に示す。Ni−フッ素樹脂複合めっき浴組成は表7、Ni−P−Wめっき浴組成は表8にそれぞれ示している。
【0041】
【表7】

【0042】
【表8】

【0043】
そして、比較例で使用しためっき浴組成を表9及び表13に示す。中濃度のリンを含むNi−P(以下、Ni−P(中リン)と略称する)めっき浴組成は表9、光沢ニッケルめっき浴組成は表10、無光沢硫酸銅めっき浴組成は表11、ピロリン酸銅めっき浴組成は表12、スルファミン酸ニッケルめっき浴組成は表13にそれぞれ示している。
【0044】
【表9】

【0045】
【表10】

【0046】
【表11】

【0047】
【表12】

【0048】
【表13】

【0049】
実施例1〜7の耐食性は評価4又は5であり、比較例1〜9の耐食性は評価1〜3である。因みに、カドミウムめっき皮膜の耐食性は評価1である。以下に、表1に基づいて耐食性に対する定性分析を試みる。
【0050】
先ず、実施例4と比較例4を比較すると、実施例4の光沢硫酸銅めっき皮膜を無光沢硫酸銅めっき皮膜に置き換えたのが比較例4である。厚さや層構成が略同じであるにも係わらず、Ni系めっき皮膜の下地として光沢硫酸銅めっき皮膜を形成すると耐食性が格段に優れることが分かる。シアン化銅めっき皮膜は、母材金属に対する付きまわりが良い反面、表面が梨地状の凹凸が多い面となる。光沢硫酸銅めっき皮膜は、光沢剤が添加されていることにより、シアン化銅めっき皮膜の凹凸を埋め、表面を平滑化する作用が働き、その上に形成するNi系めっき皮膜にピンホールが生じず、緻密で均質な膜質となるのである。それに対して、無光沢硫酸銅めっき皮膜では、表面が梨地状となり、その上に無電解めっき処理しても光沢銅のような平滑化はされない。梨地の凹凸等がピットに繋がる可能性もあり、光沢銅を用いることは効果的である。
【0051】
次に、実施例4と比較例3を比較すると、実施例4の光沢硫酸銅めっき皮膜を光沢ニッケルめっき皮膜に置き換えたのが比較例3である。厚さや層構成が略同じであるにも係わらず、Ni系めっき皮膜の下地として同じ光沢めっき皮膜でも光沢硫酸銅めっき皮膜を形成すると耐食性が格段に優れることが分かる。同様に、実施例4と比較例5,6を比較すると、実施例4の光沢硫酸銅めっき皮膜をピロリン酸銅めっき皮膜やスルファミン酸ニッケルめっき皮膜に置き換えると耐食性が極端に悪くなることが分かる。このように、表層が同じでも中間層の違いによって耐食性が大きく変わるのである。尚、実施例2と実施例3を比較すると、中間のNi−P(高リン)めっき皮膜の厚さが変化しても少なくとも5μmあれば耐食性に大差はないことが分かる。しかし、更なる耐食性及び信頼性の観点から実施例3が最も好ましい。
【0052】
次に、表層の違いについて検討する。実施例1と比較例1を比較すると、表層のNi系めっき皮膜が、Ni−P(高リン)めっき皮膜であるのが実施例1で、Ni−P(中リン)めっき皮膜であるのが比較例1である。厚さや層構成が略同じであるにも係わらず、リンを高濃度に有する実施例1が比較例1よりも耐食性が優れていることが分かる。同様に、実施例4と比較例1を比較すると、表層がNi−P(中リン)めっき皮膜よりもNi−P−Snめっき皮膜の方が耐食性に優れていることが分かる。更に、実施例1と実施例4を比較すれば、表層がNi−P(高リン)めっき皮膜よりもNi−P−Snめっき皮膜である方が若干耐食性に優れていることが分かる。また、実施例2と比較例2を比較すると、下層のCu系めっき皮膜は同じであるが、Ni系めっき皮膜の層構成が、Ni−P(高リン)めっき皮膜とNi−フッ素樹脂複合めっき皮膜の積層構造よりも、Ni−P(高リン)めっき皮膜とNi−P−Snめっき皮膜の積層構造の方が耐食性に優れている。
【0053】
そして、第2発明については、実施例5と比較例8を比較すれば、両者とも表層が厚さ10μmのNi−P−Snめっき皮膜であるにも係わらず、下地層が厚さ10μmのNi−P(高リン)めっき皮膜である実施例5の方が、厚さ10μmのNi−P(中リン)めっき皮膜である比較例8よりも耐食性が格段に優れていることが分かる。実施例6では、下地層が厚さ10μmのNi−P(高リン)めっき皮膜であれば、表層が厚さ10μmのNi−フッ素樹脂複合めっき皮膜であっても十分な耐食性があることが分かる。しかし、厚さ20μmのNi−P(高リン)めっき皮膜のみからなる比較例9は耐食性がやや悪いので実施例から除外したが、実用に供することができる程度の耐食性は備えている。
【符号の説明】
【0054】
1 金属部品
2 Cu系めっき皮膜
3 Ni系めっき皮膜
4 シアン化銅めっき皮膜
5 光沢硫酸銅めっき皮膜
6 Ni−P(高リン)めっき皮膜
7 Ni−P−Snめっき皮膜
8 Ni−フッ素樹脂複合めっき皮膜
9 Ni−P−Wめっき皮膜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部品の表面に、シアン化銅めっき皮膜と光沢硫酸銅めっき皮膜を順次積層形成し、その上に高濃度のリンを含むNi−Pめっき皮膜又はNi−P−Snめっき皮膜を形成したことを特徴とする高耐食性Ni系複合めっき皮膜。
【請求項2】
金属部品の表面に、シアン化銅めっき皮膜と光沢硫酸銅めっき皮膜を順次積層形成し、その上に高濃度のリンを含むNi−Pめっき皮膜とNi−P−Snめっき皮膜を順次積層形成したことを特徴とする高耐食性Ni系複合めっき皮膜。
【請求項3】
金属部品の表面に、高濃度のリンを含むNi−Pめっき皮膜を形成し、その上にNi−P−Snめっき皮膜又はNi−フッ素樹脂複合めっき皮膜を形成したことを特徴とする高耐食性Ni系複合めっき皮膜。
【請求項4】
金属部品の表面に、Ni−P−Snめっき皮膜を形成し、その上にNi−P−Wめっき皮膜を形成したことを特徴とする高耐食性Ni系複合めっき皮膜。
【請求項5】
金属部品の表面に形成するめっき皮膜の合計厚さが少なくとも20μmである請求項1〜4何れかに記載の高耐食性Ni系複合めっき皮膜。
【請求項6】
Cu系めっき皮膜の合計厚さが少なくとも10μm、Ni系めっき皮膜の合計厚さが少なくとも10μmである請求項1又は2記載の高耐食性Ni系複合めっき皮膜。
【請求項7】
前記高濃度のリンを含むNi−Pめっき皮膜は、少なくとも次亜リン酸ナトリウム100〜150g/L、硫酸ニッケル100〜125g/Lを含むめっき浴を用いて形成した請求項1〜3何れかに記載の高耐食性Ni系複合めっき皮膜。
【請求項8】
前記Ni−P−Snめっき皮膜は、少なくとも塩化第二錫5〜25g/L、次亜リン酸ナトリウム20〜30g/L、硫酸ニッケル20〜30g/Lを含むめっき浴を用いて形成した請求項1〜4何れかに記載の高耐食性Ni系複合めっき皮膜。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−137195(P2011−137195A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−296784(P2009−296784)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(596055213)有限会社プロトニクス研究所 (2)
【Fターム(参考)】