説明

高血圧症のリスクの評価方法

【課題】高血圧症のリスクの評価手段を提供すること。
【解決手段】核酸試料について、WNK4をコードする核酸の14717位、ACADSBをコードする核酸の−254位、−512位又はPTK2Bをコードする核酸の24299位における多型の有無を検出し、該多型が存在する場合、高血圧症のリスクがあることの指標として評価する高血圧症のリスクの評価方法;該評価方法を行なうための高血圧症のリスクの評価用試薬;並びに、生検試料に含まれる核酸について、該多型の有無を評価し、該多型が検出された試料を選別することを特徴とする、高血圧症のリスクのある個体由来の生検試料の選別方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高血圧症のリスクの評価手段に関する。さらに詳しくは、本発明は、高血圧症のリスクの評価方法、高血圧症のリスクの評価用試薬及び高血圧症のリスクのある個体由来の生検試料の選別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高血圧症は、血圧が正常域を超えている状態であり、動脈硬化を引き起こす。前記高血圧症のうち、原因疾患が明らかなものを二次性高血圧症といい、明らかでないものを本態性高血圧という。
【0003】
一方、サイアザイド感受性Na-Clコトランスポーターの変異体は、低血圧性のナトリウムの消耗、続発性アルドステロン症、低カリウム血症、アルカローシス、低マグネシウム血症、低カルシウム尿症等を特徴とするギテルマン症候群(Gitelman’s syndrome)と関連することが知られている〔例えば、非特許文献1〜3〕。前記ギテルマン症候群は、常染色体性劣性遺伝病として知られており、サイアザイド感受性Na-Clコトランスポーターにおける変異は、遠位尿細管内において、塩を再吸収するという該サイアザイド感受性Na-Clコトランスポーターの能力を低下させる可能性がある。
【0004】
また、前記サイアザイド感受性Na-Clコトランスポーターの機能は、WNKの機能と密接に関係し、サイアザイド感受性の食塩の取込みを減少させる役割を果たしていることが知られている(非特許文献4及び5)。前記WNKは、TSCの機能を調節し、血圧の異常に関連する可能性が示唆されていた。
【0005】
しかしながら、WNK4遺伝子の多型は、高血圧とは関係しないことが報告されている(非特許文献6)。
【非特許文献1】マストロヤンニ(Mastroianni N.)ら、Am. J. Hum. Genet., 59, 1019-1026, 1996
【非特許文献2】サイモン(Simon DB.)ら、Nat. Genet., 12, 24-30, 1996
【非特許文献3】タケウチ(Takeuchi K.)ら、J. Clin. Endcrinol. Metab., 81, 4496-4499, 1996
【非特許文献4】チョート(Choate KA.)ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 100, 663-668, 2003
【非特許文献5】ウィルソン(Wilson FH.)ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 100, 680-684, 2003
【非特許文献6】ベンジャフィールド(Benjafield AV)ら、Clin Genet., 64, 433-438, 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、1つの側面では、高血圧症のリスクを、簡便に、迅速に判定することを可能にする、高血圧症のリスクの評価方法を提供することにある。また、本発明は、他の側面では、高血圧症のリスクを、簡便に、迅速に評価することを可能にする、高血圧症のリスクの評価用試薬を提供することにある。さらに、本発明は、別の側面では、高血圧症のリスクのある個体由来の生検試料を、簡便に、迅速に選別することを可能にする、高血圧症のリスクのある個体由来の生検試料の選別方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の要旨は、
〔1〕 核酸試料について、
a) WNK4をコードする核酸の14717位(配列番号:1の塩基番号:501)における多型、
b) ACADSBをコードする核酸の−254位(配列番号:2の塩基番号:501)における多型、
c) ACADSBをコードする核酸の−512位(配列番号:3の塩基番号:759)、及び
d) PTK2Bをコードする核酸の24299位(配列番号:4の塩基番号:501)における多型、
からなる群より選ばれた少なくとも1種の多型の有無を検出し、該多型が存在する場合、高血圧症のリスクがあることの指標として評価することを特徴とする、高血圧症のリスクの評価方法、
〔2〕 (1)核酸試料から、下記a’)〜d’):
a’) 配列番号:1に示される塩基配列を含有した核酸若しくはそのアンチセンス核酸又は該塩基配列中における塩基番号:501を含む連続した10〜100ヌクレオチド長の断片の核酸若しくはそのアンチセンス核酸、
b’) 配列番号:2に示される塩基配列を含有した核酸若しくはそのアンチセンス核酸又は該塩基配列中における塩基番号:501を含む10〜100ヌクレオチド長の断片の核酸若しくはそのアンチセンス核酸、
c’) 配列番号:3に示される塩基配列を含有した核酸若しくはそのアンチセンス核酸又は該塩基配列中における塩基番号:759を含む連続した10〜100ヌクレオチド長の断片の核酸若しくはそのアンチセンス核酸、及び
d’) 配列番号:4に示される塩基配列を含有した核酸若しくはそのアンチセンス核酸又は該塩基配列中における塩基番号:501を含む10〜100ヌクレオチド長の断片の核酸若しくはそのアンチセンス核酸、
からなる群より選ばれた少なくとも1種の核酸に対応する核酸を得るステップ、並びに
(2)(I)前記ステップ(1)で得られた核酸の塩基配列、及び/又は
(II)前記ステップ(1)で得られた核酸と前記a’)〜d’)からなる群より選ばれた少なくとも1種の核酸との間の動態の相違、
に基づき、a)〜d)の多型を検出するステップ、
を含む、前記〔1〕記載の評価方法、
〔3〕 動態が、電気泳動における移動度、質量又はTm値を介して評価される、前記〔1〕又は〔2〕記載の評価方法、
〔4〕 下記a’)〜d’):
a’) 配列番号:1に示される塩基配列を含有した核酸若しくはそのアンチセンス核酸又は該塩基配列中における塩基番号:501を含む連続した10〜100ヌクレオチド長の断片の核酸若しくはそのアンチセンス核酸、
b’) 配列番号:2に示される塩基配列を含有した核酸若しくはそのアンチセンス核酸又は該塩基配列中における塩基番号:501を含む10〜100ヌクレオチド長の断片の核酸若しくはそのアンチセンス核酸、
c’) 配列番号:3に示される塩基配列を含有した核酸若しくはそのアンチセンス核酸又は該塩基配列中における塩基番号:759を含む連続した10〜100ヌクレオチド長の断片の核酸若しくはそのアンチセンス核酸、及び
d’) 配列番号:4に示される塩基配列を含有した核酸若しくはそのアンチセンス核酸又は該塩基配列中における塩基番号:501を含む10〜100ヌクレオチド長の断片の核酸若しくはそのアンチセンス核酸、
からなる群より選ばれた少なくとも1種の核酸を含有してなる、前記〔1〕〜〔3〕いずれか1項に記載の評価方法を行なうための、高血圧症のリスクの評価用試薬、
〔5〕 配列番号:5に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号:6に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとからなるプライマー対、配列番号:7に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号:8に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとからなるプライマー対、配列番号:9に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号:10に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとからなるプライマー対及び配列番号:11に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号:12に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとからなるプライマー対からなる群より選ばれた少なくとも1種のプライマー対を含有してなる、前記〔4〕記載の評価用試薬、
〔6〕 下記オリゴヌクレオチド群A)〜D):
A)配列番号:5に示される塩基配列を含有したプライマーと配列番号:6に示される塩基配列を含有したプライマーとからなるプライマー対と、配列番号:15に示される塩基配列を含有したプローブと、配列番号:16に示される塩基配列を含有したプローブとからなるオリゴヌクレオチド群;
B)配列番号:7に示される塩基配列を含有したプライマーと配列番号:8に示される塩基配列を含有したプライマーとからなるプライマー対と、配列番号:17に示される塩基配列を含有したプローブと、配列番号:18に示される塩基配列を含有したプローブとからなるオリゴヌクレオチド群;
C)配列番号:9に示される塩基配列を含有したプライマーと配列番号:10に示される塩基配列を含有したプライマーとからなるプライマー対と、配列番号:19に示される塩基配列を含有したプローブと、配列番号:20に示される塩基配列を含有したプローブとからなるオリゴヌクレオチド群;及び
D)配列番号:11に示される塩基配列を含有したプライマーと配列番号:12に示される塩基配列を含有したプライマーとからなるプライマー対と、配列番号:21に示される塩基配列を含有したプローブと、配列番号:22に示される塩基配列を含有したプローブとからなるオリゴヌクレオチド群
からなる群より選ばれた少なくとも1種のオリゴヌクレオチド群を含有してなる、前記〔4〕記載の評価用試薬、並びに
〔7〕 生検試料に含まれる核酸について、
a) WNK4をコードする核酸の14717位(配列番号:1の塩基番号:501)における多型、
b) ACADSBをコードする核酸の−254位(配列番号:2の塩基番号:501)における多型、
c) ACADSBをコードする核酸の−512位(配列番号:3の塩基番号:759)、及び
d) PTK2Bをコードする核酸の24299位(配列番号:4の塩基番号:501)における多型、
からなる群より選ばれた少なくとも1種の多型の有無を評価し、該多型が検出された試料を選別することを特徴とする、高血圧症のリスクのある個体由来の生検試料の選別方法、
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の高血圧症のリスクの評価方法によれば、高血圧症のリスクを、簡便に、迅速に判定することができるという優れた効果を奏する。したがって、本発明の評価方法により、高血圧症を迅速に診断し、しいては、脳卒中、虚血性心疾患、腎不全等の発症予防につなげることができるという優れた効果を奏する。本発明の高血圧症のリスクの評価用試薬によれば、高血圧症のリスクを、簡便に、迅速に評価することができるという優れた効果を奏する。したがって、本発明の高血圧症の評価用試薬によれば、高血圧症を迅速に診断し、しいては、脳卒中、虚血性心疾患、腎不全等の発症予防につなげることができるという優れた効果を奏する。さらに、本発明の高血圧症のリスクのある個体由来の生検試料の選別方法によれば、高血圧症のリスクのある個体由来の生検試料を、簡便に、迅速に選別することができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、1つの側面では、核酸試料について、
a) WNK4をコードする核酸の14717位(配列番号:1の塩基番号:501)における多型、
b) ACADSBをコードする核酸の−254位(配列番号:2の塩基番号:501)における多型、
c) ACADSBをコードする核酸の−512位(配列番号:3の塩基番号:759)、及び
d) PTK2Bをコードする核酸の24299位(配列番号:4の塩基番号:501)における多型、
からなる群より選ばれた少なくとも1種の多型の有無を検出し、該多型が存在する場合、高血圧症のリスクがあることの指標として評価することを特徴とする、高血圧症のリスクの評価方法に関する。
【0010】
本発明の評価方法によれば、前記a)〜d)からなる群より選ばれた少なくとも1種の多型の存在を指標とするため、血圧に及ぼす影響を評価することができ、簡便に、迅速に高血圧症のリスクを判定することができるという優れた効果を発揮する。
【0011】
本明細書において、「高血圧症」とは、収縮期血圧:140mmHg以上又は拡張期血圧:90mmHg以上、又は降圧剤服用の状態(PTK2Bをコードする核酸については、収縮期血圧:160mmHg以上又は拡張期血圧:95mmHg以上、又は降圧剤服用の状態)をいう。また、「正常状態」とは、収縮期血圧140mmHg未満であり拡張期血圧90mmHg未満であり、かつ降圧剤服用していない状態をいう。
【0012】
前記WNK4〔protein kinase lysine deficient 4〕をコードする核酸は、ジーンバンクアクセッション番号:NT_010755.13に示される塩基配列を有する。前記WNK4は、チョート(Choate KA.)ら〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 100, 663-668, 2003〕において、高血圧症との関連性が否定されていたにもかかわらず、前記WNK4をコードする核酸の14717位(配列番号:1の塩基番号:501)における多型が、高血圧症に関連することが、本発明者らにより見出されたものである。本発明の評価方法においては、ジーンバンクアクセッション番号:NT_010755.13に示される塩基配列の塩基番号:14717(配列番号:1の塩基番号:501)のシトシン残基が、チミン残基に置換していることが、高血圧症のリスクを有することの1つの指標となる。
【0013】
前記ACADSBをコードする核酸は、脂肪酸や分岐鎖アミノ酸の代謝に関与するミトコンドリアの酵素である短鎖/分岐鎖アシル−CoAデヒドロゲナーゼ〔short/branched chain acyl−CoA dehydrogenase〕をコードする核酸であり、ジーンバンクアクセッション番号:NT_030059.12に示される塩基配列を有する。本発明の評価方法においては、ジーンバンクアクセッション番号:NT_030059.12に示される塩基配列の−254位(配列番号:2の塩基番号:501)のグアニン残基が、アデニン残基に置換していること、該ジーンバンクアクセッション番号:NT_030059.12に示される塩基配列の−512位(配列番号:3の塩基番号:759)のアデニン残基が、グアニン残基に置換していることが、高血圧症のリスクを有することの1つの指標となる。
【0014】
前記PTK2Bをコードする核酸は、細胞内シグナル伝達系に関与し、細胞増殖と関連するプロテインチロシンキナーゼ2〔protein tyrosin kinase 2/focal adhesion kinase 2/proline−rich tyrosine kinase 2〕をコードする核酸であり、ジーンバンクアクセッション番号:NT_023666.16に示される塩基配列を有する。本発明の評価方法においては、JSNP ID:IMS−JST013586(配列番号:4の塩基番号:501)のシトシン残基が、アデニン残基に置換していることが、高血圧症のリスクを有することの1つの指標となる。
【0015】
本発明の評価方法としては、具体的には、下記a’)〜d’):
a’) 配列番号:1に示される塩基配列を含有した核酸若しくはそのアンチセンス核酸又は該塩基配列中における塩基番号:501を含む連続した10〜100ヌクレオチド長の断片の核酸若しくはそのアンチセンス核酸、
b’) 配列番号:2に示される塩基配列を含有した核酸若しくはそのアンチセンス核酸又は該塩基配列中における塩基番号:501を含む10〜100ヌクレオチド長の断片の核酸若しくはそのアンチセンス核酸、
c’) 配列番号:3に示される塩基配列を含有した核酸若しくはそのアンチセンス核酸又は該塩基配列中における塩基番号:759を含む連続した10〜100ヌクレオチド長の断片の核酸若しくはそのアンチセンス核酸、及び
d’) 配列番号:4に示される塩基配列を含有した核酸若しくはそのアンチセンス核酸又は該塩基配列中における塩基番号:501を含む10〜100ヌクレオチド長の断片の核酸若しくはそのアンチセンス核酸、
からなる群より選ばれた少なくとも1種の核酸に対応する核酸を得るステップ、並びに
(2)(I)前記ステップ(1)で得られた核酸の塩基配列、及び/又は
(II)前記ステップ(1)で得られた核酸と前記a’)〜d’)からなる群より選ばれた少なくとも1種の核酸との間の動態の相違、
に基づき、前記a)〜d)の多型を検出するステップ、
を含む方法が挙げられる。本発明には、前記a’)〜d’)からなる群より選ばれた核酸からなり、前記a)〜d)の多型を検出するためのプローブも含まれる。
【0016】
前記ステップ(1)において、被検試料である核酸試料から、前記a’)〜d’)からなる群より選ばれた少なくとも1種の核酸に対応する核酸を得る。
【0017】
なお、後述のステップ(2)を、(II)前記ステップ(1)で得られた核酸と前記a’)〜d’)からなる群より選ばれた少なくとも1種の核酸との間の動態の相違に基づき行なう場合において、ハイブリダイゼーション技術又はPCRに基づく評価手段を用いる場合等には、前記ステップ(1)を行なわなくてもよい場合がある。かかる態様も本発明に含まれる。
【0018】
前記核酸試料は、被検対象の個体由来の生検試料〔例えば、皮膚、血液、毛髪、口腔粘膜、各種組織、細胞等〕、落屑等から慣用の核酸抽出法により得られうる。
【0019】
前記ステップ(1)において、前記a’)〜d’)からなる群より選ばれた少なくとも1種の核酸に対応する核酸は、例えば、慣用の核酸増幅法(RT−PCR等)等を行なうことにより得られうる。かかる核酸増幅に用いられうるプライマー対としては、Tm値、二次構造の形成、公知配列等を考慮して、デザインされたオリゴヌクレオチドが用いられうる。前記プライマー対は、前記指標遺伝子の塩基配列と公知データベースに登録された配列とを参照して、慣用のプライマーデザイン用ソフトウェア等によりデザインされうる。前記プライマー対は、適宜、検出に適した標識物質(蛍光物質、放射性物質等)により標識されうる。プライマーの鎖長は、特に限定されないが、例えば、好ましくは、連続した少なくとも15ヌクレオチド、さらに好ましくは、15〜40ヌクレオチド、より好ましくは、17〜30ヌクレオチドであることが望ましい。前記プライマー対としては、例えば、a’)の核酸について、配列番号:6に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号:7に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとからなるプライマー対、b’)の核酸について、配列番号:8に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号:9に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとからなるプライマー対、c’)の核酸について、配列番号:10に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号:11に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとからなるプライマー対、d’)の核酸について、配列番号:12に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号:13に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとからなるプライマー対等が挙げられる。かかるプライマー対も本発明に含まれる。
【0020】
ついで、(I)前記ステップ(1)で得られた核酸の塩基配列、及び/又は
(II)前記ステップ(1)で得られた核酸と前記a’)〜d’)からなる群より選ばれた少なくとも1種の核酸との間の動態の相違、
に基づき、前記a)〜d)の多型を検出する〔ステップ(2)〕。
【0021】
前記(I)の塩基配列は、マキサムギルバート法、PCRを用いたダイレクトシークエンシング等の慣用の配列決定法により決定されうる。
【0022】
ここで、前記ステップ(1)で得られた核酸において、前記a)〜d)の多型の位置に対応する位置において、前記a’)〜d’)からなる群より選ばれた少なくとも1種の核酸とは異なる塩基が見出された場合、多型が存在し、核酸試料の供給源の個体が、高血圧症のリスクを有することの指標として判断される。
【0023】
前記(II)の動態は、例えば、電気泳動における移動度、質量、Tm値等を介して評価される。
【0024】
電気泳動における移動度は、例えば、一本鎖DNA高次構造多型解析等により評価されうる。
【0025】
具体的には、一本鎖DNA高次構造多型解析の場合、ポリアクリルアミドゲル上において、前記ステップ(1)で得られた核酸及び前記a’)〜d’)からなる群より選ばれた少なくとも1種の核酸を泳動し、移動度を測定し、前記ステップ(1)で得られた核酸及び前記a’)〜d’)からなる群より選ばれた少なくとも1種の核酸との間で移動度が異なる場合、多型が存在し、核酸試料の供給源の個体が、高血圧症のリスクを有することの指標として判断される。
【0026】
また、前記電気泳動における移動度は、PCRに基づく一本鎖DNA高次構造多型解析(PCR−SSCP)によっても行なうことができる。この場合、前記ステップ(1)を行なわなくてもよい。前記PCR−SSCPで用いうるプライマー対としては、前記と同様のものが挙げられる。なお、この場合、かかるプライマーは、蛍光物質等の慣用の標識物質で、それぞれのプライマーの末端が標識されたものであってもよい。
【0027】
前記質量は、例えば、マトリックス支援レーザーイオン化飛行時間質量分析計(MALDI TOF MS)、四重極質量分析計等により測定されうる。ここで、前記ステップ(1)で得られた核酸及び前記a’)〜d’)からなる群より選ばれた少なくとも1種の核酸との間で質量が異なる場合、多型が存在し、核酸試料の供給源の個体が、高血圧症のリスクを有することの指標として判断される。
【0028】
前記Tm値は、DNAアレイを用いたハイブリダイゼーション、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法等により評価されうる。
【0029】
前記DNAアレイを用いたハイブリダイゼーションの場合、前記a’)〜d’)からなる群より選ばれた核酸を固定化した支持体〔例えば、ガラス(例えば、スライドグラス)、シリコンチップ等〕が用いられうる。前記DNAアレイを用いたハイブリダイゼーションの場合、前記ステップ(1)において、核酸試料は、該試料中のmRNA、該mRNA由来のcDNAもしくは該cDNAより転写あるいは増幅された核酸を適切な標識物質で標識すればよい。前記標識物質としては、蛍光物質、化学発光物質、発光団を有する物質等が挙げられる。例えば、前記蛍光物質としては、Cy2、FluorX、Cy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、Cy7、イソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)、テキサスレッド、ローダミン等が挙げられる。前記Cy3及びCy5を標識物質として用いた場合、Cy3は532nm、Cy5は635nmの波長でスキャンすることにより検出されうる。前記DNAアレイは、前記a’)〜d’)からなる群より選ばれた核酸に、支持体表面への固定化を容易にしうる修飾基を導入し、ついで、得られた修飾核酸を、慣用のDNAアレイ作製装置を用いて、DNAアレイによるハイブリダーゼションを行ないうる範囲の固定化量、固定化密度で、整列、固定化することにより作製されうる。DNAアレイを用いて、多型を検出する場合、ハイブリダイゼーションにおける条件は、好ましくは、高ストリンジェンシーであることが望ましい。ここで、DNAアレイ上の前記a’)〜d’)からなる群より選ばれた核酸に、前記ステップ(1)で得られた核酸がハイブリダイズしない場合又は対照として前記a’)〜d’)からなる群より選ばれた核酸を用いたハイブリダイゼーションに基づく場合の蛍光強度と比較して、前記ステップ(1)で得られた核酸のハイブリダイゼーションに基づく蛍光強度が減少した場合、多型が存在し、核酸試料の供給源の個体が、高血圧症のリスクを有することの指標として判断される。なお、本発明には、前記a’)〜d’)からなる群より選ばれた核酸が固定化されたDNAアレイも含まれる。
【0030】
前記変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法の場合、変性剤(例えば、尿素等)の濃度勾配により、Tm値の差が、電気泳動の移動度の違いとして検出される。したがって、前記ステップ(1)で得られた核酸及び前記a’)〜d’)からなる群より選ばれた少なくとも1種の核酸を泳動し、移動度を測定し、前記ステップ(1)で得られた核酸及び前記a’)〜d’)からなる群より選ばれた少なくとも1種の核酸との間で移動度が異なる場合、多型が存在し、核酸試料の供給源の個体が、高血圧症のリスクを有することの指標として判断される。
【0031】
また、前記(II)の動態は、TaqMan法、インベーダー法、RNase Aミスマッチ切断法等によっても評価されうる。
【0032】
前記Taqman法の場合、前記a’)〜d’)からなる群より選ばれた少なくとも1種の核酸をプローブとして用いてもよい。ここで、前記プローブは、5’末端側をレポーターとなる蛍光物質で標識し、3’末端側をクエンチャーとなる物質で標識する。この場合、前記ステップ(1)を行なわなくてもよい。また、PCRの際には、核酸試料を鋳型とし、5’ヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼ、例えば、Taq DNAポリメラーゼ等を用いて行なわれうる。TaqMan法に用いられうるプライマー対及びプローブとしては後述の表1に示されるオリゴヌクレオチドが挙げられ、具体的には、例えば、配列番号:5に示される塩基配列を含有したプライマーと配列番号:6に示される塩基配列を含有したプライマーとからなるプライマー対と、配列番号:15に示される塩基配列を含有したプローブと、配列番号:16に示される塩基配列を含有したプローブとからなるオリゴヌクレオチド群;配列番号:7に示される塩基配列を含有したプライマーと配列番号:8に示される塩基配列を含有したプライマーとからなるプライマー対と、配列番号:17に示される塩基配列を含有したプローブと、配列番号:18に示される塩基配列を含有したプローブとからなるオリゴヌクレオチド群;配列番号:9に示される塩基配列を含有したプライマーと配列番号:10に示される塩基配列を含有したプライマーとからなるプライマー対と、配列番号:19に示される塩基配列を含有したプローブと、配列番号:20に示される塩基配列を含有したプローブとからなるオリゴヌクレオチド群;配列番号:11に示される塩基配列を含有したプライマーと配列番号:12に示される塩基配列を含有したプライマーとからなるプライマー対と、配列番号:21に示される塩基配列を含有したプローブと、配列番号:22に示される塩基配列を含有したプローブとからなるオリゴヌクレオチド群;配列番号:13に示される塩基配列を含有したプライマーと配列番号:14に示される塩基配列を含有したプライマーとからなるプライマー対と、配列番号:23に示される塩基配列を含有したプローブと、配列番号:24に示される塩基配列を含有したプローブとからなるオリゴヌクレオチド群等が挙げられる。
【0033】
また、インベーダー法の場合、前記a’)〜d’)からなる群より選ばれた少なくとも1種の核酸に基づき設計されたインベーダープローブのレポーター蛍光が、多型により生じるミスマッチ部分に侵入することで、cleavaseが認識する構造が生成され、該cleavaseによるレポーター蛍光標識部分の切断によって遊離したレポーター蛍光を検出することにより行なわれうる。この場合、蛍光強度が、前記a’)〜d’)からなる群より選ばれた少なくとも1種の核酸を対照として用いた場合に比べ、増加した場合、多型が存在し、核酸試料の供給源の個体が、高血圧症のリスクを有することの指標として判断される。
【0034】
なお、本明細書において、「a’)〜d’)からなる群より選ばれた少なくとも1種の核酸に対応する核酸」とは、核酸試料中に含まれる核酸において、a’)〜d’)からなる群より選ばれた少なくとも1種の核酸の塩基配列の他、該塩基配列中、a)〜d)の多型を有する核酸、該多型の位置以外の位置における高血圧症に無関係である変異を有する核酸をも含むことを意図する。
【0035】
なお、本発明においては、前記a)〜d)の多型により、翻訳産物の発現に影響を及ぼすものである場合、かかる発現産物を指標として、高血圧症のリスクを評価することもできる。この場合、前記翻訳産物に対する抗体又は抗体断片を用いて、発現量、翻訳産物の構造変化等を評価すればよい。前記抗体は、例えば、カレント・プロトコルズ・イン・イムノロジー〔Current Protocols in Immunology、ジョン・E・コリガン(John E. Coligan)編、ジョン・ワイリー&サンズ社(John Weily&Sons,Inc)発行、1992年〕に記載の方法により、前記多型に応じた翻訳産物を用いて、ウサギやマウス等を免疫することにより、容易に作製され得る。前記抗体は、前記翻訳産物に特異的に結合する能力を有するものであれば、ポリクローナル抗体であってもよく、モノクローナル抗体であってもよい。また、得られた抗体を精製後、ペプチダーゼ等により処理することにより、抗体断片が得られる。前記抗体の特異性は、例えば、前記多型に応じた翻訳産物を用い、オクタロニー法、ELISA等により評価されうる。例えば、前記オクタロニー法の場合、前記多型に応じた翻訳産物毎に適切な沈降線の形成を示すことを指標として評価されうる。したがって、前記ミスセンス変異に関する多型の場合、アミノ酸の変化に応じて、抗体を作製すればよく、かかる抗体を用いることにより、ミスセンス変異を検出し、高血圧症のリスクを評価することもできる。
【0036】
また、本発明においては、前記a)〜d)の多型により、オルタナティブスプライシング等を介して転写産物の生成に影響を及ぼすものである場合、かかる転写産物を指標として、高血圧症のリスクを評価することもできる。
【0037】
本発明は、他の側面では、前記a’)〜d’)からなる群より選ばれた少なくとも1種の核酸を含有した、本発明の評価方法を行なうための、高血圧症のリスクの評価用試薬(態様1);前記プライマー対の少なくとも1種を含有した、本発明の評価方法を行なうための、高血圧症のリスクの評価用試薬(態様2)に関する。
【0038】
本発明の高血圧症のリスクの評価用試薬によれば、前記核酸又はプライマー対を含有しているため、高血圧症のリスクを、簡便に、迅速に評価することができるという優れた効果を発揮する。
【0039】
なお、本発明の評価用試薬には、前記a’)〜d’)からなる群より選ばれた少なくとも1種の核酸と、前記プライマー対の少なくとも1種とを含有した、本発明の評価方法を行なうための、高血圧症のリスクの評価用試薬も含まれる。
【0040】
本発明の評価用試薬は、適宜、検出用試薬、対照試料等を含有していてもよい。
【0041】
前記態様1の評価用試薬は、前記DNAアレイとして、前記a’)〜d’)からなる群より選ばれた少なくとも1種の核酸を含有していてもよい。かかる態様の評価用試薬によれば、ハイスループット解析が可能になる。
【0042】
態様2の評価用試薬においては、例えば、用いられる指標、該指標を評価するための手法に応じて、適切なプライマー対を選択できる。
【0043】
また、態様2の評価用試薬は、DNAの可視化用の電気泳動用ゲル等を適宜含有していてもよい。
【0044】
本発明は、別の側面では、生検試料に含まれる核酸について、前記a)〜d)からなる群より選ばれた少なくとも1種の多型の有無を評価し、該多型が検出された試料を選別することを特徴とする、高血圧症のリスクのある個体由来の生検試料の選別方法に関する。
【0045】
本発明の選別方法は、本発明の評価方法と同様の手順で行なうことができる。したがって、本発明の選別方法によれば、高血圧症のリスクのある個体由来の生検試料を、簡便に、迅速に選別することができる。
【0046】
かかる選別方法によれば、医師による疾患の診断を必要とする現場の他、分析、研究等の分野において、多数の生検試料のなかから、高血圧症のリスクのある個体由来の生検試料を、簡便に、迅速に選別することができる。
【0047】
本発明の選別方法により得られた「高血圧症のリスクのある個体由来の生検試料であること」を示す情報は、例えば、電磁的方法〔電気通信回線(単方向、相方向を含む)、電子媒体、書類等を介して、かかる情報を必要とする者、例えば、被検対象の個体、医師等に提供されうる。
【0048】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0049】
吹田市在住の市民から、性及び年齢により階層的に選ばれた「吹田研究」の参加者のうち、国立循環器病センター 集団検診部に来診し、遺伝子解析に同意した1818人を対象者とした。
【0050】
各対象者を、座位にて、少なくとも10分間安静にさせた。その後、水銀血圧計を用いて、各対象者の最高血圧〔収縮期血圧(SBP)〕及び最低血圧〔拡張期血圧(DBP)〕を、2回測定した。なお、各測定の間には、3分間の間隔を設けた。
【0051】
また、絶食から12時間後の対象者の血液試料を、EDTAを含む試験管内に回収した。自動分析装置(東芝株式会社製、商品名:TBA−80)を用いて、米国疾病予防管理センターの脂質標準化プログラムに従って総コレステロール値及びHDLコレステロール値を測定した。
【0052】
かかる測定結果に基づき、対象者を、喫煙者;飲酒者;高血圧症群〔SBPが140mmHg以上であり、かつDBPが90mmHg以上である状態又は現在、降圧剤を用いている状態の対象者〕;高コレステロール血症群〔総コレステロール値が220mg/dL以上である状態又は現在、抗高脂血症薬を用いている状態の対象者〕;糖尿病群〔空腹時血漿血糖が126mg/dL以上若しくは非空腹時血糖が200mg/dL以上である状態、HbA1Cが6.5%以上又は現在、抗糖尿病薬を用いている状態〕に分類した。肥満度指数(BMI)は、体重(kg)/身長(m)2として算出した。
【0053】
1818人の対象者の特徴を、表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
これらの対象者から採血した血液を、商品名:NA−3000核酸分離システム(倉敷紡績株式会社)に供して、ゲノムDNAを抽出した。ついで、高血圧に関連する候補遺伝子を選抜し、ダイレクトシークエンス法により、塩基配列を決定し、多型を評価した。
【0056】
また、得られたゲノムDNAを鋳型として用いて、TaqMan−PCR法により、数十種類の遺伝子における多型のタイピングを行なった。
【0057】
用いたプライマーの一例を、下記表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
商品名:Sequencherソフトウェア(Ann ArborのGene Codes Corporation製)を用いることによって多型を評価した。遺伝子型を特定するための候補を、マイナーアレル頻度が5%よりも大きいSNPとした。SNPが、連鎖不平衡の状態(決定係数が0.5より大きい)の場合に、代表的なSNPの遺伝子型を特定した。ミスセンス変異を起こすSNP(以下、ミスセンスSNPという)は、直接高血圧の影響している場合があるため、マイナーアレル頻度が5%未満のミスセンスSNPについても遺伝子型を特定した。
【0060】
共分散分析を用いてグループ間の平均値を比較し、全体の有意性が実証されれば、一般線形モデルを利用してグループ間の差を評価した。χ2検定によって頻度を比較した。
【0061】
男女別の年齢、BMI、現在の病気(高脂血症及び糖尿病)、ライフスタイル(喫煙及び飲酒)及び降圧剤の使用を含むリスクファクターにおける潜在的な交絡因子を考慮したロジスティック回帰分析によって、遺伝子型と血圧との関連解析を行なった。なお、多変量のリスクファクターについて、95%の信頼区間で調整オッズ比が与えられた。商品名:SAS統計学ソフトウェア(release 8.2、SAS Institute Inc製)を用いてすべての分析を行なった。また、商品名:SNPAlyze version 2.1(DYNACOM Co.,Ltd.製)を用いて、連鎖不平衡を計算した。
【0062】
解析結果を表3に示す。
【0063】
【表3】

【0064】
その結果、WNK4遺伝子、ACADSB遺伝子及びPTK2B遺伝子にSNPが見出された。
【0065】
WNK4遺伝子には、9個のミスセンス変異が存在していた。これらの中で、マイナーアレル頻度が5%を超えるミスセンス変異は、存在していなかった。その結果、WNK4遺伝子の14717位におけるSNP(配列番号:1の塩基番号:501)、すなわち、C14717TのSNPは、男性の高血圧症と有意な関連があった(χ2=7.53、p=0.023)。また、年齢、BMI、高脂血症、糖尿病、降圧剤の使用、喫煙及び飲酒について補正した場合、CT+TT遺伝子型の男性におけるSBP、CC遺伝子型の男性のSBPよりも、3.1mmHg高かった(p=0.042)。
【0066】
年齢、BMI、高脂血症、糖尿病、喫煙及び飲酒について補正した多変量ロジスティック回帰分析の結果、男性において、WNK遺伝子のC14717TのSNPでは、「CCの遺伝子型における高血圧症」に対する「CT+TT遺伝子型における高血圧症」のオッズ比は、1.62であった(p=0.010、95%の信頼区間、1.12〜2.33)。
【0067】
また、SBP 120mmHg以下であり、かつDBP 80mmHg以下である状態又は降圧剤を用いていない状態の対象者を、対照群とし、収縮期血圧160mmHg以上であり、かつ拡張期血圧100mmHg以上である状態又は現在、降圧剤を用いている状態の対象者を、高血圧症群とし、年齢、BMI、高脂血症、糖尿病、喫煙及び飲酒について補正した結果、WNK4遺伝子のC14717Tにおける多型は、男性の高血圧症と有意な関連があることがわかった(CC対CT+TT、p=0.045、オッズ比=1.91、95%の信頼区間:1.02〜3.58)。
【0068】
さらに、ACADSB遺伝子には、−254位におけるSNP(−254G>A;配列番号:2の塩基番号:501)及び−512位におけるSNP(−512A>G;配列番号:3の塩基番号:759)があった。前記−254G>4及び−512A>Gは、連鎖不平衡であり、女性において、オッズ比1.42で高血圧症と相関した。−254D>Aの場合、GG型の女性は、GA+AA型の女性に比べて、SBPの平均値が、2.35mmHg高かった。また、−512A>Gの場合、AA型の女性は、AG+GG型の女性に比べて、SBPの平均値が、2.29mmHg高かった。
【0069】
また、PTK2B遺伝子の場合、ジーンバンクアクセッション番号:NT_023666.16(JSNP ID:IMS−JST013586);配列番号:4の塩基番号:501)のシトシン残基が、アデニン残基に置換していることがが、見出されており、男性において、オッズ比1.39で、高血圧症と相関した。前記SNPの場合、CC型の男性は、CA+AA型の男性に比べて、SBPが高かった。
【0070】
以上のように、WNK4遺伝子、ACADSB遺伝子及びPTK2B遺伝子それぞれにおける遺伝子多型により、高血圧症を診断できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明により、高血圧症及び関連する循環器疾患の診断を行なうことができ、しいては、脳卒中、虚血性心疾患、腎不全等の発症予防や治療につなげることができる。
【配列表フリーテキスト】
【0072】
配列番号:1において、501位のnは、SNPの位置である。
【0073】
配列番号:2において、501位のnは、SNPの位置である。
【0074】
配列番号:3において、759位のnは、SNPの位置である。
【0075】
配列番号:4において、501位のnは、SNPの位置を示す。
【0076】
配列番号:5は、WNK4遺伝子におけるSNPの検出用プライマーの配列である。
【0077】
配列番号:6は、WNK4遺伝子におけるSNPの検出用プライマーの配列である。
【0078】
配列番号:7は、ACADSB遺伝子におけるSNPの検出用プライマーの配列である。
【0079】
配列番号:8は、ACADSB遺伝子におけるSNPの検出用プライマーの配列である。
【0080】
配列番号:9は、ACADSB遺伝子におけるSNPの検出用プライマーの配列である。
【0081】
配列番号:10は、ACADSB遺伝子におけるSNPの検出用プライマーの配列である。
【0082】
配列番号:11は、PTK2B遺伝子におけるSNPの検出用プライマーの配列である。
【0083】
配列番号:12は、PTK2B遺伝子におけるSNPの検出用プライマーの配列である。
【0084】
配列番号:13は、PTK2B遺伝子におけるSNPの検出用プライマーの配列である。
【0085】
配列番号:14は、PTK2B遺伝子におけるSNPの検出用プライマーの配列である。
【0086】
配列番号:15は、WNK4遺伝子におけるSNPの検出用プローブの配列である。
【0087】
配列番号:16は、WNK4遺伝子におけるSNPの検出用プローブの配列である。
【0088】
配列番号:17は、ACADSB遺伝子におけるSNPの検出用プローブの配列である。
【0089】
配列番号:18は、ACADSB遺伝子におけるSNPの検出用プローブの配列である。
【0090】
配列番号:19は、ACADSB遺伝子におけるSNPの検出用プローブの配列である。
【0091】
配列番号:20は、ACADSB遺伝子におけるSNPの検出用プローブの配列である。
【0092】
配列番号:21は、PTK2B遺伝子におけるSNPの検出用プローブの配列である。
【0093】
配列番号:22は、PTK2B遺伝子におけるSNPの検出用プローブの配列である。
【0094】
配列番号:23は、PTK2B遺伝子におけるSNPの検出用プローブの配列である。
【0095】
配列番号:24は、PTK2B遺伝子におけるSNPの検出用プローブの配列である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸試料について、
a) WNK4をコードする核酸の14717位(配列番号:1の塩基番号:501)における多型、
b) ACADSBをコードする核酸の−254位(配列番号:2の塩基番号:501)における多型、
c) ACADSBをコードする核酸の−512位(配列番号:3の塩基番号:759)、及び
d) PTK2Bをコードする核酸の24299位(配列番号:4の塩基番号:501)における多型、
からなる群より選ばれた少なくとも1種の多型の有無を検出し、該多型が存在する場合、高血圧症のリスクがあることの指標として評価することを特徴とする、高血圧症のリスクの評価方法。
【請求項2】
(1)核酸試料から、下記a’)〜d’):
a’) 配列番号:1に示される塩基配列を含有した核酸若しくはそのアンチセンス核酸又は該塩基配列中における塩基番号:501を含む連続した10〜100ヌクレオチド長の断片の核酸若しくはそのアンチセンス核酸、
b’) 配列番号:2に示される塩基配列を含有した核酸若しくはそのアンチセンス核酸又は該塩基配列中における塩基番号:501を含む10〜100ヌクレオチド長の断片の核酸若しくはそのアンチセンス核酸、
c’) 配列番号:3に示される塩基配列を含有した核酸若しくはそのアンチセンス核酸又は該塩基配列中における塩基番号:759を含む連続した10〜100ヌクレオチド長の断片の核酸若しくはそのアンチセンス核酸、及び
d’) 配列番号:4に示される塩基配列を含有した核酸若しくはそのアンチセンス核酸又は該塩基配列中における塩基番号:501を含む10〜100ヌクレオチド長の断片の核酸若しくはそのアンチセンス核酸、
からなる群より選ばれた少なくとも1種の核酸に対応する核酸を得るステップ、並びに
(2)(I)前記ステップ(1)で得られた核酸の塩基配列、及び/又は
(II)前記ステップ(1)で得られた核酸と前記a’)〜d’)からなる群より選ばれた少なくとも1種の核酸との間の動態の相違、
に基づき、a)〜d)の多型を検出するステップ、
を含む、請求項1記載の評価方法。
【請求項3】
動態が、電気泳動における移動度、質量又はTm値を介して評価される、請求項1又は2記載の評価方法。
【請求項4】
下記a’)〜d’):
a’) 配列番号:1に示される塩基配列を含有した核酸若しくはそのアンチセンス核酸又は該塩基配列中における塩基番号:501を含む連続した10〜100ヌクレオチド長の断片の核酸若しくはそのアンチセンス核酸、
b’) 配列番号:2に示される塩基配列を含有した核酸若しくはそのアンチセンス核酸又は該塩基配列中における塩基番号:501を含む10〜100ヌクレオチド長の断片の核酸若しくはそのアンチセンス核酸、
c’) 配列番号:3に示される塩基配列を含有した核酸若しくはそのアンチセンス核酸又は該塩基配列中における塩基番号:759を含む連続した10〜100ヌクレオチド長の断片の核酸若しくはそのアンチセンス核酸、及び
d’) 配列番号:4に示される塩基配列を含有した核酸若しくはそのアンチセンス核酸又は該塩基配列中における塩基番号:501を含む10〜100ヌクレオチド長の断片の核酸若しくはそのアンチセンス核酸、
からなる群より選ばれた少なくとも1種の核酸を含有してなる、高血圧症のリスクの評価用試薬。
【請求項5】
配列番号:5に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号:6に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとからなるプライマー対、配列番号:7に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号:8に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとからなるプライマー対、配列番号:9に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号:10に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとからなるプライマー対及び配列番号:11に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドと配列番号:12に示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとからなるプライマー対からなる群より選ばれた少なくとも1種のプライマー対を含有してなる、請求項4記載の評価用試薬。
【請求項6】
下記オリゴヌクレオチド群A)〜D):
A)配列番号:5に示される塩基配列を含有したプライマーと配列番号:6に示される塩基配列を含有したプライマーとからなるプライマー対と、配列番号:15に示される塩基配列を含有したプローブと、配列番号:16に示される塩基配列を含有したプローブとからなるオリゴヌクレオチド群;
B)配列番号:7に示される塩基配列を含有したプライマーと配列番号:8に示される塩基配列を含有したプライマーとからなるプライマー対と、配列番号:17に示される塩基配列を含有したプローブと、配列番号:18に示される塩基配列を含有したプローブとからなるオリゴヌクレオチド群;
C)配列番号:9に示される塩基配列を含有したプライマーと配列番号:10に示される塩基配列を含有したプライマーとからなるプライマー対と、配列番号:19に示される塩基配列を含有したプローブと、配列番号:20に示される塩基配列を含有したプローブとからなるオリゴヌクレオチド群;及び
D)配列番号:11に示される塩基配列を含有したプライマーと配列番号:12に示される塩基配列を含有したプライマーとからなるプライマー対と、配列番号:21に示される塩基配列を含有したプローブと、配列番号:22に示される塩基配列を含有したプローブとからなるオリゴヌクレオチド群
からなる群より選ばれた少なくとも1種のオリゴヌクレオチド群を含有してなる、請求項4記載の評価用試薬。
【請求項7】
生検試料に含まれる核酸について、
a) WNK4をコードする核酸の14717位(配列番号:1の塩基番号:501)における多型、
b) ACADSBをコードする核酸の−254位(配列番号:2の塩基番号:501)における多型、
c) ACADSBをコードする核酸の−512位(配列番号:3の塩基番号:759)、及び
d) PTK2Bをコードする核酸の24299位(配列番号:4の塩基番号:501)における多型、
からなる群より選ばれた少なくとも1種の多型の有無を評価し、該多型が検出された試料を選別することを特徴とする、高血圧症のリスクのある個体由来の生検試料の選別方法。


【公開番号】特開2006−101789(P2006−101789A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−294318(P2004−294318)
【出願日】平成16年10月6日(2004.10.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】