説明

高親水化担体、触媒担持担体、燃料電池用電極、その製造方法、及びこれを備えた固体高分子型燃料電池

【課題】カーボン中に、反応ガス、触媒、電解質が会合する三相界面を十分に確保し、触媒の利用効率を向上させることができる触媒担持担体の製造方法。この触媒担持担体により、電極反応を効率的に進行させ、燃料電池の発電効率を向上させる。更に、優れた特性を有する電極及びこれを備えた高い電池出力を得ることのできる固体高分子型燃料電池を提供する。
【解決手段】触媒担持カーボンと電解質ポリマーからなる触媒担持担体の製造方法であって、細孔を有するカーボンに触媒を担持する工程と、該触媒担持カーボン表面及び/又は細孔に、重合開始剤となる官能基を導入する工程と、電解質モノマー又は電解質モノマー前駆体を導入し、前記重合開始剤を開始点として該電解質モノマー又は電解質モノマー前駆体を重合させる工程と、該重合させた電解質ポリマーの少なくとも一部を強アルカリで加水分解する工程とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高親水化担体、触媒担持担体、燃料電池用電極、その製造方法、及びこれを備えた固体高分子型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子電解質膜を有する固体高分子型燃料電池は、小型軽量化が容易であることから、電気自動車等の移動車両や、小型コジェネレーションシステムの電源等としての実用化が期待されている。
【0003】
固体高分子型燃料電池のアノード及びカソードの各触媒層内における電極反応は、各反応ガスと、触媒と、含フッ素イオン交換樹脂(電解質)とが同時に存在する三相界面(以下、反応サイトという)において進行する。そのため、固体高分子型燃料電池においては、従来より、比表面積の大きなカーボンブラック担体に白金等の金属触媒を担持した金属担持カーボン等の触媒を高分子電解質膜と同種或いは異種の含フッ素イオン交換樹脂で被覆して触媒層の構成材料として使用される。
【0004】
このように、アノードで起こるプロトンおよび電子の生成は、触媒、カーボン粒子および電解質という三相の共存下で行われる。即ち、プロトンが伝導する電解質と電子が伝導するカーボン粒子が共存し、さらに触媒が共存することで水素ガスが還元される。したがって、カーボン粒子に担持させる触媒が多い方が発電効率が高い。これは、カソードについても同様である。しかしながら、燃料電池に使用される触媒は白金等の貴金属であるため、カーボン粒子に担持させる触媒の量を増やすと燃料電池の製造コストが増大するという問題がある。
【0005】
従来の触媒層作製方法は、ナフィオン(商標名)等の電解質と白金・カーボン等の触媒粉末を溶媒中に分散させたインクをキャストし、乾燥させている。触媒粉末は数nmから数10nmの細孔が多いため、ポリマーである電解質は分子が大きく、ナノサイズの細孔内に入ることができず、触媒表面のみを覆うようになっていると推測される。このため、細孔内の白金が有効に利用できず、触媒性能を低下させる原因となっている。
【0006】
これに対して、下記特許文献1においては、カーボン粒子に担持させる触媒の量を増やすことなく発電効率を向上させることを目的として、表面に触媒粒子を担持させた触媒担持粒子とイオン伝導性ポリマーとを混合した電極ペーストを、触媒金属イオンを含む溶液で処理して触媒金属イオンをイオン伝導性ポリマーにイオン置換し、次に触媒金属イオンを還元する燃料電池の電極の製造方法が開示されている。
【0007】
一方、下記特許文献2においては、耐熱性、耐薬品性が十分にあるイオン交換膜を欠陥なく製造することを目的として、フッ素系重合体からなる基材に重合性モノマーを含浸担持し、該重合性モノマーを前段で電離性放射線の照射により一部反応させ、後段で重合開始剤の存在下加熱により残部を重合させ、必要に応じてイオン交換基を導入するイオン交換膜の製造方法において、前段放射線の照射線量を特定量としている。
【0008】
【特許文献1】特開2002−373662号公報
【特許文献2】特開平6−271687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1のような処理を行ったとしても、発電効率の向上には限界があった。これは、触媒担持カーボンにはポリマーのような高分子が入り込めないナノオーダーの細孔があり、この細孔に吸着された白金等の触媒は、上記のような三相界面、即ち反応サイトとなり得ないことによる。このように、電解質ポリマーがカーボンの細孔に入り込めないことが問題であった。
【0010】
又、特許文献2の方法は、イオン交換膜の製造方法に関するものであり、放射線を照射する等操作が容易ではない。
【0011】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、カーボン中に、反応ガス、触媒、電解質が会合する三相界面を十分に確保し、触媒効率を向上させることを目的とする。これにより、電極反応を効率的に進行させ、燃料電池の発電効率を向上させることを目的とする。更に、優れた特性を有する電極及びこれを備えた高い電池出力を得ることのできる固体高分子型燃料電池を提供することを目的とする。なお、本発明は、固体高分子型燃料電池に限定されず、カーボン担体を用いた各種触媒に広く適用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、リビング重合の手法を用いて、カーボン中のナノオーダーの細孔に高分子電解質をin−situに生成させることはPt等の触媒金属の利用効率の向上のためには有効であるが、高分子電解質を担体にグラフト重合し過ぎると担体同士の接触が妨げられ電子伝導性が低下することに着目し、該高分子電解質の少なくとも一部を強アルカリで加水分解することにより、上記課題が解決することを見出し本発明に至った。
【0013】
即ち、第1に、本発明は、カーボン担体と電解質ポリマーからなる高親水化担体の製造方法であって、細孔を有するカーボン担体の表面及び/又は細孔に、重合開始剤となる官能基を導入する工程と、電解質モノマー又は電解質モノマー前駆体を導入し、前記重合開始剤を開始点として該電解質モノマー又は電解質モノマー前駆体を重合させる工程と、該重合させた電解質ポリマーの少なくとも一部を強アルカリで加水分解する工程とを含むことを特徴とする。本発明の高親水化担体は、表面が電解質ポリマーで薄く被覆されているため親水性に富んでいるとともに、該電解質ポリマーの少なくとも一部が強アルカリで加水分解されているため、高親水化担体同士の物理的及び電気的接触が促進されている。このため、水等に凝集することなく高い分散性を示すと同時に、電気伝導性が向上している。
【0014】
第2に、本発明は、触媒担持カーボンと電解質ポリマーからなる触媒担持担体の製造方法の発明であり、ナノオーダーの細孔を有するカーボンに触媒を担持する工程と、該触媒担持カーボン表面及び/又は細孔に、重合開始剤となる官能基を導入する工程と、電解質モノマー又は電解質モノマー前駆体を導入し、前記重合開始剤を開始点として該電解質モノマー又は電解質モノマー前駆体を重合させる工程と、該重合させた電解質ポリマーの少なくとも一部を強アルカリで加水分解する工程とを含むことを特徴とする。これにより、触媒担持カーボン表面及び/又は細孔に薄く高分子電解質を被覆することができ、細孔内の白金等の触媒を含む全ての担持された触媒の有効利用が可能となるとと同時に、該電解質ポリマーの少なくとも一部が強アルカリで加水分解されているため、高親水化担体同士の物理的及び電気的接触が促進されて触媒担持担体全体の電気伝導性が向上している。
【0015】
電解質ポリマーの少なくとも一部を加水分解するには強アルカリを用いればよい。具体的には、強アルカリとしてKOH及び/またはNaOHを用いて電解質ポリマーの少なくとも一部を加水分解することが好ましい。強アルカリに変えてNaIを用いると、グラフト鎖中のスルホン酸エステル結合が主として加水分解され、本発明で期待する電解質ポリマーの少なくとも一部を強アルカリで加水分解することは困難である。
【0016】
電解質モノマー又は電解質モノマー前駆体は重合後の分子量を最適な範囲とするために、リビング重合を行うことが好ましい。このため、前記重合開始剤として、リビングラジカル重合開始剤又はリビングアニオン重合開始剤が好ましい。リビングラジカル重合開始剤としては特に限定されないが、例えば2−ブロモイソ酪酸ブロマイドが好ましく例示される。電解質モノマーとしては特に限定されず、スルホン酸基、リン酸基、カルボン酸基、アンモニウム基を有する不飽和化合物を用いることができる。又、電解質モノマー前駆体としては特に限定されず、重合後に加水分解等を受けて、スルホン酸基、リン酸基、カルボン酸基、アンモニウム基を生成することのできる不飽和化合物や、重合後にスルホン酸基、リン酸基、カルボン酸基、アンモニウム基を導入することができる不飽和化合物を用いることができる。この中で、スチレンスルホン酸エチルが好ましく例示される。
【0017】
本発明において、触媒の利用効率の観点から、電解質モノマー又は電解質モノマー前駆体を重合させる工程における、電解質重量と触媒担持カーボン重量の和に対する電解質重量の比率を10%未満とすることが好ましい。電解質モノマー濃度又は電解質モノマー前駆体濃度を調節することにより、前記電解質重量と触媒担持カーボン重量の和に対する電解質重量の比率を、所定の比率に設定できる。燃料電池用触媒層では、触媒への電子の供給の面とプロトン供給の面の両面からの検討が必要である。本発明によって、プロトン供給が促進されるが、それだけでは十分ではない。白金利用率の検討から、電子供給の面からは、電解質重量と触媒担持カーボン重量の和に対する電解質重量の比率を10%未満とすることが好ましい。
【0018】
本発明の触媒担持担体はカーボン担体を用いた各種触媒に広く適用することができるが、特に燃料電池電極に好適に用いられる。このように、本発明は、第3に、触媒担持カーボンと電解質ポリマーからなる燃料電池電極の製造方法の発明であり、細孔を有するカーボンの表面及び該細孔を有するカーボン中のナノレベルの細孔に、高分子電解質と触媒が存在させることができる。
【0019】
これにより、本発明で得られる燃料電池電極は、触媒の利用率を向上させるものであって、イオン交換樹脂とカーボン粒子と触媒とを含む燃料電池電極において、カーボンのナノ細孔深くまで沈んだ触媒にも三相界面を形成し、存在する触媒を無駄なく反応に利用することができる。このように、モノマー状態の電解質モノマーと触媒担持体とを混合し、その後、重合してポリマー化するので、担持体の細孔の隙間までイオン交換パスが形成され、触媒の利用率が向上し、材料量が同じでも発電効率が向上する。同時に、電解質ポリマーの少なくとも一部が強アルカリで加水分解されているため、上記電解質ポリマーの存在にもかかわらず、触媒担持体同士の物理的及び電気的接触が促進され、触媒担持体全体としての電気伝導性が著しく向上する。これにより、発電効率が向上する。
【0020】
上記触媒担持カーボンを用いた燃料電池電極の製造方法としては、特に限定されず、上記触媒担持担体をそのまま用いることができる。所望により、更に、電解質モノマー前駆体を表面及び/又は細孔に重合させた触媒担持担体の重合体部分をプロトン化させる工程と、プロトン化生成物を乾燥させた後、水中に分散させる工程と、分散物をろ過処理する工程とを含むこともできる。同様に、更に、電解質モノマーを表面及び細孔に重合させた触媒用担体を触媒ペーストとする工程、該触媒ペーストを所定形状に成形する工程とを含むこともできる。
【0021】
第4に、本発明は、カーボン担体と電解質ポリマーからなる高親水化担体自体の発明であって、細孔を有するカーボンの表面及び/又は細孔に、高分子電解質が存在すると同時に、該電解質ポリマーの少なくとも一部が強アルカリで加水分解されていることを特徴とする。本発明の高親水化担体は、表面が高分子電解質で薄く被覆されているため親水性に富んでいる。このため、水等に凝集することなく高い分散性を示す。同時に、電解質ポリマーの少なくとも一部が強アルカリで加水分解されているため、上記電解質ポリマーの存在にもかかわらず、高親水化担体同士の物理的及び電気的接触が促進され、高親水化担体全体としての電気伝導性が著しく向上する。この性質を利用して、各種触媒用担体や複写機用トナー等の粉体技術に広く応用することができる。
【0022】
第5に、本発明は、触媒担持担体自体の発明であり、触媒担持カーボンと電解質ポリマーからなる触媒担持担体であって、細孔を有するカーボンの表面及び/又は細孔に、高分子電解質と触媒が存在すると同時に、該電解質ポリマーの少なくとも一部が強アルカリで加水分解されていることを特徴とする。これにより、触媒担持カーボン表面及び細孔に薄く高分子電解質を被覆することができ、細孔内の白金等の触媒を含む全ての担持された触媒の有効利用が可能となった。同時に、電解質ポリマーの少なくとも一部が強アルカリで加水分解されているため、上記電解質ポリマーの存在にもかかわらず、高親水化担体同士の物理的及び電気的接触が促進され、高親水化担体全体としての電気伝導性が著しく向上する。これにより、触媒効率が著しく向上する。
【0023】
上述の通り、電解質モノマーは分子量を最適な所望の範囲とするために、リビング重合を行うことが好ましい。このため、重合開始点の生成には、リビングラジカル重合開始剤又はリビングアニオン重合開始剤を用いることが好ましい。リビングラジカル重合開始剤としては特に限定されないが、例えば2−ブロモイソ酪酸ブロマイドが好ましく例示される。電解質モノマーとしては特に限定されず、スルホン酸基、リン酸基、カルボン酸基、アンモニウム基を有する不飽和化合物を用いることができる。又、電解質モノマー前駆体としては特に限定されず、重合後に加水分解等をされて、スルホン酸基、リン酸基、カルボン酸基、アンモニウム基を生成することのできる不飽和化合物を用いることができる。この中で、スチレンスルホン酸エチルが好ましく例示される。
【0024】
本発明の触媒担持担体はカーボン担体を用いた各種触媒に広く適用することができるが、特に燃料電池電極の好適に用いられる。このように、本発明は、第4に、触媒担持カーボンと電解質ポリマーからなる燃料電池電極の発明であり、細孔を有するカーボンの表面及び/又は該細孔を有するカーボン中のナノレベルの細孔に、高分子電解質と触媒が存在させる同時に、該電解質ポリマーの少なくとも一部が強アルカリで加水分解されている。
【0025】
第6に、本発明は、固体高分子型燃料電池の発明であり、アノードと、カソードと、前記アノードと前記カソードとの間に配置された高分子電解質膜とを有する固体高分子型燃料電池であって、前記アノード及び/又はカソードとして上記の燃料電池電極を備えることを特徴とする。
【0026】
このように、先に述べた触媒効率の高い優れた電極特性を有する本発明の電極を備えることにより、高い電池出力を有する固体高分子型燃料電池を構成することが可能となる。また、先に述べたように、本発明の電極は触媒効率が高く耐久性に優れているので、これを備える本発明の固体高分子型燃料電池は高い電池出力を長期にわたり安定して得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、カーボン担体の表面及び細孔に均一に高分子電解質を合成(生成)することが可能となり、カーボン担体の親水性を向上させることができた。又、本発明により、触媒担持カーボンの表面及び細孔に均一に高分子電解質を合成(生成)することが可能となり、電解質と接触しない非活性な触媒量を低減することができた。更に、電解質ポリマーの少なくとも一部が強アルカリで加水分解されているため、上記電解質ポリマーの存在にもかかわらず、触媒担持カーボン同士の物理的及び電気的接触が促進され、触媒担持カーボン全体としての電気伝導性が著しく向上し、触媒効率が促進する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、触媒担持担体を例として、本発明を説明する。図1〜図3に、本発明と従来の触媒担持担体の模式図を示す。図1は、本発明の先行技術となる、触媒、例えば白金を担持したカーボンと電解質ポリマーからなる触媒担持担体であって、カーボンの表面及び/又は細孔に触媒が存在する。それとともに、高分子電解質がカーボンの表面及び細孔に薄く均一に存在する。これにより、カーボン中に、反応ガス、触媒、電解質が会合する三相界面を十分に確保し、触媒効率を向上させることができる。
【0029】
図1の燃料電池電極の作成は、具体的には、カーボンの最表面に重合開始剤を導入し、次に高分子電解質の元となる電解質モノマーを混合し、重合することによってカーボン担体の表面及び/又はナノ細孔中に薄く均一に高分子電解質を形成する。これにより、電解質となりうるモノマーをカーボン表面に固定化する。また分子量が数十〜数百のモノマーであるからナノ細孔深くへも入っていくことができ、その細孔中で重合させれば、多くの沈んでいたコンタクトの取れていなかった触媒を利用することができるようになり、少ない触媒で高い性能を出すことが可能となる。
【0030】
図2は、本発明の、触媒、例えば白金を担持したカーボンと電解質ポリマーからなる触媒担持担体であって、カーボンの表面及び/又は細孔に触媒が存在する。図1と同様に、電解質ポリマーがカーボンの表面及び細孔に薄く均一に存在する。本発明の触媒担持担体では、該電解質ポリマーの少なくとも一部が水酸化カリウム(KOH)などの強アルカリで加水分解されている結果、電解質ポリマーの一部がカーボン担体の表面及び/又は細孔から加水分解されて削除される部分が生じる。これにより、カーボン担体同士の接触が良好となり、図1の触媒担持担体と比べて電子伝導性が向上する。この結果、カーボン中に、反応ガス、触媒、電解質が会合する三相界面を十分に確保し、触媒効率を向上させるとともに、同時に触媒担持カーボン全体としての電気伝導性が著しく向上し、触媒効率が促進する。
【0031】
これに対して、図3は、従来の触媒担持担体であって、触媒担持カーボンとナフィオン溶液等の高分子電解質溶液を適当な溶媒を用いてよく分散し、それを薄膜に形成して乾燥させたものである。図示されるように、細孔の奥にまで触媒が存在するにも関わらず、高分子電解質はカーボンの表面の一部にしか塗布されていない。このような、触媒担持担体が一部に厚く被覆されているため、反応ガス、触媒、電解質が会合する三相界面の存在は不十分であり、触媒効率を向上させることはできない。
【0032】
上記の従来法では、ナフィオンがポリマーの状態で触媒担持カーボンに分散されているが、一方で触媒担持カーボンは1000m/gといった極めて比表面積の大きなカーボンに、粒径2〜3nmといった数分子レベルの極めて小さなサイズの触媒粒子がカーボンナノ細孔に担持されている。よって高分子電解質のような分子量数千〜数万のものが入り込める細孔はわずかで、カーホンの細孔に沈んでいる触媒の大半は、電解質とコンタクトを取れず、反応に寄与できていなかった。従来、カーボンに担持されている触媒の利用率は10%程度ともいわれ、高価な白金等が触媒に用いられている系では、この利用率の向上が長年の課題であった。
【0033】
本発明で用いるリビング重合とは、末端が常に活性を持ち続ける重合、又は末端が不活性化されたものと活性化されたものが平衡状態にある擬リビング重合である。本発明における定義も両者を含む。リビング重合としては、リビングラジカル重合とリビングアニオン重合が知られているが、重合操作性の面からリビングラジカル重合が好ましい。
【0034】
リビングラジカル重合は、重合末端の活性が失われることなく維持されるラジカル重合である。リビングラジカル重合は近年様々なグループで積極的に研究がなされている。その例としては、ポリスルフィドなどの連鎖移動剤を用いるもの、コバルトポルフィリン錯体やニトロキシド化合物などのラジカル捕捉剤を用いるもの、有機ハロゲン化物などを開始剤とし遷移金属錯体を触媒とする原子移動ラジカル重合(AtomTransfar Radical Polymerization:ATRP)などを挙げることができる。本発明において、これらのうちどの方法を使用するかはとくに制約はないが、遷移金属錯体を触媒とし、ハロゲン原子を1又は複数含む有機ハロゲン化合物を重合開始剤とするリビングラジカル重合法が推奨される。
【0035】
これらのリビングラジカル重合方法によると一般的に非常に重合速度が高く、ラジカル同士のカップリングなどの停止反応が起こりやすいラジカル重合でありながら、重合がリビング的に進行し、分子量分布の狭いMw/Mn=1.1〜1.5程度の重合体が得られ、分子量はモノマーと開始剤の仕込み比によって自由にコントロールすることができる。
【0036】
以下、本発明の燃料電池用電極及びこれを備えた固体高分子型燃料電池の好適な実施形態について更に説明する。
【0037】
本発明の固体高分子型燃料電池の電極は、触媒層を備えるが、触媒層と、該触媒層に隣接して配置されるガス拡散層とからなることが好ましい。ガス拡散層の構成材料としては、例えば、電子伝導性を有する多孔質体(例えば、カーボンクロスやカーボンペーパー)が使用される。
【0038】
触媒担持用カーボンとしては、例えばカーボンブラック粒子を用いることができ、触媒粒子としては白金、パラジウム等の白金族金属を用いることができる。
【0039】
本発明は、カーボンの比表面積が200m/gを超える場合にその効果が特に発揮される。すなわち、このような比表面積の大きなカーボンでは表面にナノサイズの微細孔が数多く存在し、ガス拡散性が良好である一方で、ナノサイズの微細孔に存在する触媒粒子は高分子電解質と接触しないために反応に寄与しない。この点、本発明では高分子電解質中に分散した触媒粒子はナノサイズの微細孔にて高分子電解質と接触して有効に活用される。つまり、本発明では、反応効率を維持しつつガス拡散性を向上させることができる。
【0040】
以下、実施例を挙げて本発明の触媒担持担体及び固体高分子型燃料電池について詳しく説明する。
【0041】
[実施例]
図4に、本実施例の反応スキームを示す。
先ず、白金担持炭素粒子10gにリビングラジカル重合の開始剤となる官能基を導入する。触媒カーボンとして、VULCANXC72(担体カーボン)にPtを60wt%担持させた。担体カーボン(1)は炭素縮合環に水酸基、カルボキシル基、カルボニル基等を有している。この中で水酸基がリビングラジカル重合の開始剤と反応する。元来、触媒カーボンは水酸基を有しているが、更に水酸基数を調整するために硝酸処理を行ってもよい。THF中で、2−ブロモイソ酪酸ブロマイドを塩基(トリエチルアミン)の存在下、炭素粒子が有するフェノール性水酸基と反応させて炭素粒子にリビングラジカル重合の開始剤となる官能基を導入した(2)。
【0042】
次に、白金担持炭素粒子にスルホン酸基を側鎖に有するポリマーをグラフト化した。丸底フラスコに上記反応で得られた、リビングラジカル重合の開始点となる官能基を導入した白金担持炭素粒子(2)約9.5gを入れた。アルゴンガスを吹き込み脱酸素を行った後、スチレンスルホン酸エチル(ETSS、東ソー社製)を徐々に注いだ。更に脱酸素を続けた後、触媒である遷移金属化合物である臭化第1ニッケルビストリn−ブチルホスフィン:(NiBr(n−BuP)を添加した。充分撹拌した後、昇温し無溶媒でリビングラジカル重合を開始し、エチルスルホン酸基を側鎖に有するポリマーのグラフト化白金担持炭素粒子を得た(3)。ここで、繰返し単位であるスチレンスルホン酸エチルの重合度nは、スチレンスルホン酸エチルの仕込み量で自由に調整することができ、特に制限はないが、5〜100、好ましくは10〜30程度である。
【0043】
得られたエチルスルホン酸エチル基を側鎖に有するポリマーのグラフト化白金担持炭素粒子分散液約9.0gに強アルカリとして水酸化カリウム(KOH)を入れ、エチルスルホン酸エチル基をスルホン酸カリウムに加水分解・プロトン化した後に、過剰の硫酸でカリウムを水素に置換し、スルホン酸基とした。得られた触媒担持カーボンを純水で洗浄する。その後、ろ過、乾燥し生成物約9.0gを得た。
【0044】
[比較例]
水酸化カリウム(KOH)に変えてヨウ化ナトリウム(NaI)を用いて、エチルスルホン酸エチル基を側鎖に有するポリマーの加水分解を行なった他は実施例と同じ操作を行なった。
【0045】
[白金1g当りの有効表面積]
なお、重合度はスルホン酸基の電位差滴定により求めた。得られた触媒層のサイクリックボルタメトリーにより、白金1g当りの有効表面積を求めた。図5に、グラフト率と白金1g当りの有効表面積の関係を示す。
【0046】
図5の結果より、ヨウ化ナトリウム(NaI)が主としてエチルスルホン酸エチル基の加水分解を促進するのに対して、強アルカリである水酸化カリウム(KOH)はエチルスルホン酸エチル基の加水分解だけでなく、担体と電解質ポリマーの結合、即ち上記(3)式中の炭素粒子担体からグラフト重合の開始点となるエステル基の加水分解にも作用しているものと考えられる。
【0047】
図6−8に、水酸化カリウム(KOH)で加水分解処理された触媒担持担体表面のSEM写真を示す。図6はグラフト率4.2%、図7はグラフト率6.6%、図8はグラフト率9.1%の場合である。図9に、比較例で得られたヨウ化ナトリウム(NaI)で加水分解処理された触媒担持担体表面のSEM写真を示す。図9はグラフト率4.7%の場合を示す。図6及び図7の場合は、エチルスルホン酸エチル基の加水分解だけでなく、担体と電解質ポリマーの結合であるエステル基まで加水分解されているのに対して、図8及び図9の場合は、エチルスルホン酸エチル基の加水分解に留まっているのが分かる。
【0048】
[放電評価]
合成した触媒層を燃料電池用電解質膜に接合し、MEAを作製した。このMEAを用い燃料電池発電試験を行った。電流密度−電圧曲線の結果を、図10に示す。
また、電子伝導率の定量化を4端子法で3回測定し、平均値を求めた。図11に、グラフと化率に対する表面低効率の関係を示す。
【0049】
図10及び図11の結果より、本発明の強アルカリである水酸化カリウム(KOH)で加水分解された触媒担持カーボンは、ヨウ化ナトリウム(NaI)で加水分解された触媒担持カーボンを用いる場合に比べて、更にMEA性能を向上させることが証明された。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、カーボン中に、反応ガス、触媒、電解質が会合する三相界面を十分に確保し、触媒の利用効率を向上させることができる。同時に、電解質ポリマーの少なくとも一部が強アルカリで加水分解されているため、上記電解質ポリマーの存在にもかかわらず、触媒担持体同士の物理的及び電気的接触が促進され、触媒担持体全体としての電気伝導性が著しく向上する。燃料電池に適用することにより、電極反応を効率的に進行させ、燃料電池の発電効率を向上させることができる。更に、優れた特性を有する電極及びこれを備えた高い電池出力を得ることのできる固体高分子型燃料電池を得ることができる。これにより、本発明の触媒担持担体はカーボン担体を用いた各種触媒に広く適用することができ、特に燃料電池電極の好適に用いられ、燃料電池の普及に貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の先行技術である、触媒を担持したカーボンと電解質ポリマーからなる触媒担持担体の模式図を示す。
【図2】本発明の、触媒、例えば白金を担持したカーボンと電解質ポリマーからなる触媒担持担体であって、カーボンの表面及び/又は細孔に触媒が存在すると同時に、該電解質ポリマーの少なくとも一部が強アルカリで加水分解されている触媒担持担体の模式図を示す。
【図3】従来の触媒担持担体の模式図を示す。
【図4】本発明の実施例の反応スキームを示す。
【図5】電解質のグラフト率に対する、白金1g当たりの有効面積を示す。
【図6】実施例で得られた水酸化カリウム(KOH)で加水分解処理された触媒担持担体表面のSEM写真を示す。
【図7】実施例で得られた水酸化カリウム(KOH)で加水分解処理された触媒担持担体表面のSEM写真を示す。
【図8】水酸化カリウム(KOH)で加水分解処理された触媒担持担体表面のSEM写真を示す。
【図9】比較例で得られたヨウ化ナトリウム(NaI)で加水分解処理された触媒担持担体表面のSEM写真を示す。
【図10】燃料電池発電試験における電流密度−電圧曲線の結果を示す。
【図11】グラフと化率に対する、表面低効率の関係を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン担体と電解質ポリマーからなる高親水化担体の製造方法であって、細孔を有するカーボン担体の表面及び/又は細孔に、重合開始剤となる官能基を導入する工程と、電解質モノマー又は電解質モノマー前駆体を導入し、前記重合開始剤を開始点として該電解質モノマー又は電解質モノマー前駆体を重合させる工程と、該重合させた電解質ポリマーの少なくとも一部を強アルカリで加水分解する工程とを含むことを特徴とする高親水化担体の製造方法。
【請求項2】
電解質ポリマーの少なくとも一部をKOH及び/またはNaOHを用いて加水分解することを特徴とする請求項1に記載の高親水化担体の製造方法。
【請求項3】
前記重合開始剤が、リビングラジカル重合開始剤又はリビングアニオン重合開始剤であることを特徴とする請求項1または2に記載の高親水化担体の製造方法。
【請求項4】
前記リビングラジカル重合開始剤が、2−ブロモイソ酪酸ブロマイドであることを特徴とする請求項3に記載の高親水化担体の製造方法。
【請求項5】
前記電解質モノマー又は電解質モノマー前駆体を重合させる工程における、電解質重量と触媒担持カーボン重量の和に対する電解質重量の比率を10%未満とすることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の高親水化担体の製造方法。
【請求項6】
前記電解質重量と触媒担持カーボン重量の和に対する電解質重量の比率を、前記電解質モノマー又は電解質モノマー前駆体を重合させる工程における、電解質モノマー濃度又は電解質モノマー前駆体濃度で調節することを特徴とする請求項5に記載の高親水化担体の製造方法。
【請求項7】
前記電解質モノマー前駆体を重合させた後、重合体を加水分解するか、イオン交換基を導入する工程を有することを特徴とする請求の範囲第1乃至5項のいずれかに記載の高親水化担体の製造方法。
【請求項8】
前記電解質モノマー前駆体が、スチレンスルホン酸エチルであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の高親水化担体の製造方法。
【請求項9】
触媒担持カーボンと電解質ポリマーからなる触媒担持担体の製造方法であって、細孔を有するカーボンに触媒を担持する工程と、該触媒担持カーボン表面及び/又は細孔に、重合開始剤となる官能基を導入する工程と、電解質モノマー又は電解質モノマー前駆体を導入し、前記重合開始剤を開始点として該電解質モノマー又は電解質モノマー前駆体を重合させる工程と、該重合させた電解質ポリマーの少なくとも一部を強アルカリで加水分解する工程とを含むことを特徴とする触媒担持担体の製造方法。
【請求項10】
電解質ポリマーの一部をKOH及び/またはNaOHを用いて加水分解することを特徴とする請求項9に記載の触媒担持担体の製造方法。
【請求項11】
前記重合開始剤が、リビングラジカル重合開始剤又はリビングアニオン重合開始剤であることを特徴とする請求項9または10に記載の触媒担持担体の製造方法。
【請求項12】
前記リビングラジカル重合開始剤が、2−ブロモイソ酪酸ブロマイドであることを特徴とする請求項11に記載の触媒担持担体の製造方法。
【請求項13】
前記電解質モノマー又は電解質モノマー前駆体を重合させる工程における、電解質重量と触媒担持カーボン重量の和に対する電解質重量の比率を10%未満とすることを特徴とする請求項9乃至12のいずれかに記載の触媒担持担体の製造方法。
【請求項14】
前記電解質重量と触媒担持カーボン重量の和に対する電解質重量の比率を、前記電解質モノマー又は電解質モノマー前駆体を重合させる工程における、電解質モノマー濃度又は電解質モノマー前駆体濃度で調節することを特徴とする請求項13に記載の触媒担持担体の製造方法。
【請求項15】
前記電解質モノマー前駆体を重合させた後、重合体を加水分解するか、イオン交換基を導入する工程を有することを特徴とする請求項9乃至14のいずれかに記載の触媒担持担体の製造方法。
【請求項16】
前記電解質モノマー前駆体が、スチレンスルホン酸エチルであることを特徴とする請求項9乃至15項のいずれかに記載の触媒担持担体の製造方法。
【請求項17】
請求項9乃至16項のいずれかに記載の触媒担持担体が燃料電池電極用である燃料電池電極の製造方法。
【請求項18】
更に、電解質モノマー前駆体を表面及び/又は細孔に重合させた触媒担持担体の重合体部分をプロトン化させる工程と、プロトン化生成物を乾燥させた後、水中に分散させる工程と、分散物をろ過処理する工程とを含むことを特徴とする請求項17に記載の燃料電池電極の製造方法。
【請求項19】
更に、電解質モノマー又は電解質モノマー前駆体を表面及び/又は細孔に重合させた触媒担持担体を触媒ペーストとする工程、該触媒ペーストを所定形状に成形する工程とを含むことを特徴とする請求項18に記載の燃料電池電極の製造方法。
【請求項20】
カーボン担体と電解質ポリマーからなる高親水化担体であって、細孔を有するカーボンの表面及び/又は細孔に、高分子電解質が存在し、且つ該高分子電解質の少なくとも一部が強アルカリで加水分解されていることを特徴とする高親水化担体。
【請求項21】
前記高分子電解質重量と触媒担持カーボン重量の和に対する高分子電解質重量の比率が10%未満であることを特徴とする請求項20に記載の高親水化担体。
【請求項22】
前記電解質ポリマーが、前記カーボン担体の表面及び/又は細孔上を重合開始点として電解質モノマー又は電解質モノマー前駆体が重合したものであることを特徴とする請求項20または21に記載の高親水化担体。
【請求項23】
前記重合開始点が、リビングラジカル重合開始剤又はリビングアニオン重合開始剤によるものであることを特徴とする請求項22に記載の高親水化担体。
【請求項24】
前記リビングラジカル重合開始剤が、2−ブロモイソ酪酸ブロマイドであることを特徴とする請求項23に記載の高親水化担体。
【請求項25】
前記電解質モノマーが、スチレンスルホン酸エチルであることを特徴とする請求項20乃至24のいずれかに記載の高親水化担体。
【請求項26】
触媒担持カーボンと電解質ポリマーからなる触媒担持担体であって、細孔を有するカーボンの表面及び/又は細孔に、高分子電解質と触媒が存在し、且つ該高分子電解質の少なくとも一部が強アルカリで加水分解されていることを特徴とする触媒担持担体。
【請求項27】
前記高分子電解質重量と触媒担持カーボン重量の和に対する高分子電解質重量の比率が10%未満であることを特徴とする請求項26に記載の触媒担持担体。
【請求項28】
前記電解質ポリマーが、前記触媒担持カーボン表面及び/又は細孔上を重合開始点として電解質モノマー又は電解質モノマー前駆体が重合したものであることを特徴とする請求項26または27に記載の触媒担持担体。
【請求項29】
前記重合開始点が、リビングラジカル重合開始剤又はリビングアニオン重合開始剤によるものであることを特徴とする請求項28に記載の触媒担持担体。
【請求項30】
前記リビングラジカル重合開始剤が、2−ブロモイソ酪酸ブロマイドであることを特徴とする請求項29に記載の触媒担持担体。
【請求項31】
前記電解質モノマー前駆体が、スチレンスルホン酸エチルであることを特徴とする請求項26乃至30のいずれかに記載の触媒担持担体。
【請求項32】
請求項26乃至31のいずれかに記載の触媒担持担体が燃料電池電極用であることを特徴とする燃料電池電極。
【請求項33】
アノードと、カソードと、前記アノードと前記カソードとの間に配置された高分子電解質膜とを有する固体高分子型燃料電池であって、前記アノード及び/又はカソードとして請求項32に記載の燃料電池用電極を備えることを特徴とする固体高分子型燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−203216(P2007−203216A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−26106(P2006−26106)
【出願日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】