説明

高設栽培装置及びこれを用いた高設栽培方法

【課題】 貯水シートに貯水される水の水位を変動させることができるとともに自動で制御することができるようにし、貯水シートに貯水される水の水位の維持を安定させて、被栽培物の収量を向上させる。
【解決手段】 横断面U字状に形成され被栽培物1が植え付けられる培地Mを保持する透水性の培地保持シート10と、横断面U字状に形成されて培地保持シート10の下側を収容し水Wを貯水する非透水性の貯水シート20と、培地保持シート10及び貯水シート20を地面より高い位置で支持する支持体40と、貯水シート20に貯水される水Wの水位が最小水位Lになったとき貯水シート20に自動的に水Wを供給し貯水シート20に貯水される水Wの水位が最大水位Hになったとき貯水シート20への水Wの供給を自動的に停止する水供給手段50とを備え、貯水シート20に貯水された水Wを培地保持シート10を介して培地Mに浸透させ被栽培物1の根部1aに吸収させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イチゴやメロン等の果物や野菜等の植物からなる被栽培物を地面よりも所定高さ高い位置で栽培する高設栽培装置及びこれを用いた高設栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の高設栽培装置としては、例えば、特許文献1(特開2002−281832号公報)に記載されたものが知られている。
図5に示すように、この高設栽培装置Saは、透水性のシート部材で形成され下方に撓んで横断面U字状に形成されて内側面側で被栽培物100が植え付けられる培地Maを保持する培地保持シート101と、非透水性のシート部材で形成され下方に撓んで横断面U字状に形成されて培地保持シート101の下側101aを収容し被栽培物100の栽培に係る水Waを貯水する貯水シート102と、複数の棒状体103aを組んで形成され培地保持シート101及び貯水シート102を地面より所定高さ高い位置で支持する支持体103とを備えて構成されている。
【0003】
培地保持シート101は、左右部分が細かい目で織られ中央部分が粗い目で織られている織物、または、左右部分において細かい孔が開けられ中央部分において比較的大きな孔が開けられているプラスチックシートで構成されている。この培地保持シート101を使用すると、培地Maに植え付けられた被栽培物100の根部100aは、培地保持シート101の中央部分から下方に突出するようになる。また、貯水シート102は、少なくとも一部が透明に形成されており、肥料や農薬等を含んだ水Waが貯水される。更に、この貯水シート102の外側を遮光シート104で覆っている。
【0004】
この高設栽培装置Saを用いた高設栽培方法は、培地保持シート101に培地Maを保持させるとともに培地Maに被栽培物100を植え付け、貯水シート102に肥料や農薬等を含んだ水Waを貯水させ、被栽培物100の根部100aが貯水シート102に突出するようにする。このとき、貯水シート102は、その少なくとも一部が透明に形成されているので、根部100aにとって有害である光を遮断するために、貯水シート102の外側を遮光シート104で覆う。
【0005】
そして、定期的に遮光シート104をめくり上げて、被栽培物100の根部100aの状態を肉眼で見て把握するとともに、目視により貯水シート102に貯水された水Waの水位を確認する。貯水シート102に貯水された水Waの水位が下がって、肥料や農薬等を含んだ水Waが少なくなったら、水Waを適宜供給するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−281832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、この従来の高設栽培装置Sa及びこれを用いた高設栽培方法においては、遮光シート104をめくり上げて目視で貯水シート102に貯水された水Waの水位を確認しているため、作業者が逐一適宜のタイミングで確認作業をしなければならず、そのため、貯水シート102に貯水される水Waの水位の維持が不安定であるという問題があった。
尚、貯水シート102に貯水される水Waの水位を常時一定にする場合には、被栽培物100の根部100aが貯水シート102に貯水される水Waに常時浸漬することになるので、培地Maや被栽培物100の根部100aに酸素が混入しづらくなり、それだけ、根部100aに悪影響を及ぼしやすくなって、被栽培物100の収量が悪くなるという欠点がある。
【0008】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたもので、貯水シートに貯水される水の水位を変動させることができるとともに自動で制御することができるようにし、貯水シートに貯水される水の水位の維持を安定させて、被栽培物の収量を向上させる高設栽培装置及びこれを用いた高設栽培方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的を達成するため、本発明の高設栽培装置は、透水性のシート部材で形成され下方に撓んで横断面U字状に形成されて内側面側で被栽培物が植え付けられる培地を保持する培地保持シートと、非透水性のシート部材で形成され下方に撓んで横断面U字状に形成されて上記培地保持シートの下側を収容し被栽培物の栽培に係る水を貯水する貯水シートと、上記培地保持シート及び上記貯水シートを地面より所定高さ高い位置で支持する支持体とを備え、上記貯水シートに貯水された水を上記培地保持シートを介して培地に浸透させ被栽培物の根部に吸収させるようにした高設栽培装置において、上記貯水シートに貯水される水の水位が最小水位になったとき該貯水シートに自動的に水を供給し、上記貯水シートに貯水される水の水位が最大水位になったとき該貯水シートへの水の供給を自動的に停止する水供給手段を備えた構成としている。
【0010】
これにより、被栽培物を地面より高い位置で栽培するときは、支持体で培地保持シート及び貯水シートを地面より所定高さ高い位置で支持させ、培地保持シートの内側面に培地を保持させるとともに培地に被栽培物を植え付ける。この状態で、水供給手段により、貯水シートに被栽培物の栽培に係る水を最大水位になるまで供給して貯水させる。貯水シートに貯水された水の水位が最大水位になると、水供給手段により、自動的に水の供給が停止される。そして、培地保持シートの少なくとも最下部が貯水シートに貯水された水に浸漬するようにし、この培地保持シートを介して培地に水を浸透させ、培地から被栽培物の根部に吸収させるようにする。
【0011】
貯水シートに最大水位まで貯水された水は、被栽培物の根部が吸収したり、自然蒸発したりすることにより、徐々にその水位が減っていく。そして、貯水シートに貯水された水の水位が最小水位になると、水供給手段により、自動的に貯水シートに水が供給される。
【0012】
即ち、貯水シートに貯水される水の水位を、最小水位と最大水位との間で変動させることができるとともに自動で制御することができる。貯水シートに貯水される水の水位を自動で制御することができるので、貯水シートに貯水される水の水位の維持を安定させることができる。また、貯水シートに貯水される水の水位を最小水位と最大水位との間で変動させることができるので、培地や被栽培物の根部が貯水シートに貯水された水に常時浸漬することがなく、そのため、培地や被栽培物の根部に適度の酸素が混入されるようになるので、根部を良好に保って被栽培物を生育することができ、それだけ、被栽培物の収量を向上させることができる。
【0013】
そして、必要に応じ、上記水供給手段を、水を貯留する貯留タンクと、該貯留タンクに水源から水を給水する給水パイプと、上記貯留タンクに貯留された水を上記貯水シートに供給する供給パイプと、上記貯水シートに貯水された水の水位が上記最小水位になったとき上記貯留タンクからの水供給を許容し上記貯水シートに貯水された水の水位が上記最大水位になったとき上記貯留タンクからの水供給を不能にする供給制御手段とを備えて構成している。
この場合、上記供給パイプを、上記貯留タンクの水位と上記貯水シートの水位とが同位になるように該貯留タンクと該貯水シートとの間に連通させて接続し、上記供給制御手段を、上記給水パイプに上記貯留タンクの水位が所定第一高さになったとき該給水パイプを閉じ、上記貯留タンクの水位が所定第一高さより低い所定第二高さになったとき上記給水パイプを開くフロート弁で構成することが有効である。即ち、貯留タンクに貯留される水が所定第一高さのときの水位と貯水シートに貯水される水が最大水位のときの水位とは同位になり、貯留タンクに貯留される水が所定第二高さのときの水位と貯水シートに貯水される水が最小水位のときの水位とは同位になる。
【0014】
これにより、貯水シートに貯水された水の水位が最小水位になると、貯留タンクに貯留された水の水位が所定第二高さになり、この状態になると、供給制御手段(フロート弁)により給水パイプが開いて、水源から貯留タンクに水が給水されるとともに、貯留タンクからの水供給を許容して貯留タンクから貯水シートに水が供給されるようになる。そして、貯水シートに貯水された水の水位が最大水位になると、貯留タンクに貯留された水の水位が所定第一高さになり、この状態になると、供給制御手段(フロート弁)により給水パイプが閉じて、水源から貯留タンクへの水の給水が停止されるとともに、貯留タンクからの水供給を不能にして貯留タンクから貯水シートへの水の供給を停止させるようになる。この場合、貯留タンクに貯留された水の水位と貯水シートに貯水された水の水位とは、常時同位になるので、貯水シートに貯水される水の水位を制御しやすい。また、供給制御手段をフロート弁で構成したので、水供給手段を簡易な構成とすることができ、そのため、本装置を簡易な構成にすることができる。
【0015】
また、必要に応じ、上記培地保持シートの内側面に水を吸水する吸水シートを付設した構成としている。即ち、吸水シートで培地を包持するようになる。
これにより、培地保持シートの少なくとも最下部が貯水シートに貯水された水に浸漬すると、吸水シートも少なくとも最下部が貯水シートに貯水された水に浸漬するようになる。この吸水シートは、浸漬した部分で水を吸水し、その後、毛細管現象によって吸水した水が上昇して吸水シート全体に水が行き渡る。この吸水シートは培地を包持しているので、吸水シートが吸水した水が培地に浸透していくようになり、そのため、貯水シートに貯水された水を培地全体に浸透させることができる。
【0016】
更に、必要に応じ、上記培地を杉皮で構成している。
杉皮は排水性,通気性に優れた材質であるため、この杉皮を培地に用いることにより、貯水シートに貯水された水を培地全体に浸透させやすくなるとともに、培地や被栽培物の根部に酸素を通しやすくなって根部を良好に保つことができる。また、粉砕された杉皮は軽量であるため培地を培地保持シートに保持させる作業を簡易にすることができる。更に、使用後は堆肥として圃場へ投入することで廃棄性を向上させることができる。
【0017】
また、上記目的を達成するため、本発明の高設栽培方法は、上記の高設栽培装置を用いて被栽培物を栽培する高設栽培方法であって、被栽培物の栽培に係る量の肥料を培地に混合してから上記培地保持シートに該培地を保持させ、その後、該培地に被栽培物を植え付け、この状態で、上記水供給手段により上記貯水シートに水を供給し、上記貯水シートに貯水される水の水位を変動させながら被栽培物の根部に水を吸収させて被栽培物を栽培する構成としている。
【0018】
これにより、貯水シートに貯水された水が培地保持シートを介して培地に浸透すると、培地に混合された肥料が水によって溶出し、この溶出した肥料が水と混和して、被栽培物の根部から吸収されるようになる。従来のように、肥料を含んだ水(液肥)を貯水シートに貯水すると定期的な液肥組成の調整が必要になるが、本方法ではその必要がなく、それだけ、作業効率を向上させることができる。また、貯水シートに貯水される水の水位を変動させるので、培地や被栽培物の根部が貯水シートに貯水された水に常時浸漬することがなく、そのため、培地や被栽培物の根部に適度の酸素が混入されるようになるので、根部を良好に保って被栽培物を生育することができ、それだけ、被栽培物の収量を向上させることができる。
【0019】
更に、上記目的を達成するため、本発明の高設栽培方法は、上記の高設栽培装置を用いて被栽培物を栽培する高設栽培方法であって、上記培地保持シートに培地を保持させ、該培地に被栽培物を植え付けた直後に被栽培物の栽培に係る量の肥料を該培地表面に施肥し、この状態で、上記水供給手段により上記貯水シートに水を供給し、上記貯水シートに貯水される水の水位を変動させながら被栽培物の根部に水を吸収させて被栽培物を栽培する構成としている。
【0020】
これにより、貯水シートに貯水された水が培地保持シートを介して培地に浸透すると、培地表面に施肥された肥料が水によって溶出し、この溶出した肥料が水と混和して、被栽培物の根部から吸収されるようになる。溶出した肥料が確実に水と混和するように、培地表面に肥料を施肥した後、肥料と培地とを軽く混合させておくことが望ましい。従来のように、肥料を含んだ水(液肥)を貯水シートに貯水すると定期的な液肥組成の調整が必要になるが、本方法ではその必要がなく、それだけ、作業効率を向上させることができる。また、貯水シートに貯水される水の水位を変動させるので、培地や被栽培物の根部が貯水シートに貯水された水に常時浸漬することがなく、そのため、培地や被栽培物の根部に適度の酸素が混入されるようになるので、根部を良好に保って被栽培物を生育することができ、それだけ、被栽培物の収量を向上させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の高設栽培装置によれば、貯水シートに貯水される水の水位を、最小水位と最大水位との間で変動させることができるとともに自動で制御することができる。貯水シートに貯水される水の水位を自動で制御することができるので、貯水シートに貯水される水の水位の維持を安定させることができる。また、貯水シートに貯水される水の水位を最小水位と最大水位との間で変動させることができるので、培地や被栽培物の根部が貯水シートに貯水された水に常時浸漬することがなく、そのため、培地や被栽培物の根部に適度の酸素が混入されるようになるので、根部を良好に保って被栽培物を生育することができ、それだけ、被栽培物の収量を向上させることができる。
【0022】
また、本高設栽培装置を用いた高設栽培方法によれば、被栽培物の栽培に係る量の肥料を培地に混合してから培地保持シートに培地を保持させ、その後、培地に被栽培物を植え付けた場合は、貯水シートに貯水された水が培地保持シートを介して培地に浸透すると、培地に混合された肥料が水によって溶出し、この溶出した肥料が水と混和して、被栽培物の根部から吸収されるようになり、培地保持シートに培地を保持させ、培地に被栽培物を植え付けた直後に被栽培物の栽培に係る量の肥料を培地表面に施肥した場合は、貯水シートに貯水された水が培地保持シートを介して培地に浸透すると、培地表面に施肥された肥料が水によって溶出し、この溶出した肥料が水と混和して、被栽培物の根部から吸収されるようになる。従来のように、肥料を含んだ水(液肥)を貯水シートに貯水すると定期的な液肥組成の調整が必要になるが、本方法ではその必要がなく、それだけ、作業効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態に係る高設栽培装置を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る高設栽培装置を示す一部拡大正面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係り、貯水シートに貯水される水の水位を一定にした場合と変動させた場合との収量を示す表である。
【図4】本発明の実施の形態に係り、培地に肥料を予め混合した場合と貯水シートに液肥を貯水した場合との収量を示す表である。
【図5】従来の高設栽培装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面に基づいて本発明の実施の形態に係る高設栽培装置及びこれを用いた高設栽培方法を説明する。本実施の形態では、被栽培物としてのイチゴを、粉砕した杉皮からなる培地に植え付けて、地面より所定高さ高い位置で栽培する場合について説明する。先ず、高設栽培装置について説明する。
【0025】
図1及び図2には、本発明の実施の形態に係る高設栽培装置Sを示している。本装置Sは、透水性のシート部材で形成され下方に撓んで横断面U字状に形成されて内側面10a側で被栽培物1としてのイチゴ1が植え付けられる培地Mを保持する培地保持シート10と、非透水性のシート部材で形成され下方に撓んで横断面U字状に形成されて培地保持シート10の下側10bを収容しイチゴ1の栽培に係る水Wを貯水する貯水シート20と、培地保持シート10及び貯水シート20を地面より所定高さ高い位置で支持する支持体40と、貯水シート20に貯水される水Wの水位が最小水位Lになったとき貯水シート20に自動的に水Wを供給し、貯水シート20に貯水される水Wの水位が最大水位Hになったとき貯水シート20への水Wの供給を自動的に停止する水供給手段50とを備えてなる。
【0026】
培地保持シート10は、矩形状のシート部材で形成され、糸状の化学繊維を縦横に織り込むことによって微細な目を持つように形成されている。この培地保持シート10は、長手方向に沿う両端部11が支持体40に支持されており、内側面10a側で複数株のイチゴ1が所定間隔で植え付けられた培地Mを保持し、保持したとき培地Mに植え付けられたイチゴ1の根部1aが内側面10aから外方に突出しないように微細な目に織られている。実施の形態では、下方に撓んだ最下部10cは、支持体40に支持された両端部11よりも15cm下方に位置している。尚、最下部10cと支持体40に支持された両端部11との距離は、必ずしも15cmでなくても良く、保持する培地Mの容量によって適宜に変更して差支えない。
【0027】
また、この培地保持シート10の内側面10aには、水Wを吸水する吸水シート30が付設されている。実施の形態では、この吸水シート30は、ポリエステル繊維で形成され、培地保持シート10で培地Mを保持したとき培地Mに植え付けられたイチゴ1の根部1aが吸水シート30の内側面30aから外方に突出可能な比較的粗い目に織られている。この吸水シート30は、培地保持シート10の内側面10a全面に付設されており、培地Mを包持している。
【0028】
貯水シート20は、矩形状の非伸縮性のシート部材で形成されている。この貯水シート20は、長手方向に沿う両端部21が支持体40に支持されており、内側面20aでイチゴ1の栽培に係る水Wを貯水し、この貯水シート20に貯水された水Wを、培地保持シート10を介して培地Mに浸透させ、イチゴ1の根部1aに吸収させるようにしている。実施の形態では、支持体40に支持された貯水シート20の両端部21は、支持体40に支持された培地保持シート10の両端部11よりも5cm下方に位置しており、貯水シート20の下方に撓んだ最下部20bは、支持体40に支持された両端部21よりも20cm下方に位置している。即ち、この貯水シート20の最下部20bは、培地保持シート10の最下部10cより10cm下方に位置している。尚、支持体40に支持された貯水シート20の両端部21と支持体40に支持された培地保持シート10の両端部11との距離は、必ずしも5cmでなくても良く、また、貯水シート20の最下部20bと支持体40に支持された両端部21との距離は、必ずしも20cmでなくても良く、適宜変更して差支えない。
【0029】
支持体40は、下端41aが地面に垂直に打ち込まれる垂直棒41と、地面に平行に設けられる平行棒42とを備えて構成されている。垂直棒41は、培地保持シート10及び貯水シート20の幅方向に沿って所定間隔で一対設けられ、この一対の垂直棒41が培地保持シート10及び貯水シート20の長手方向に沿って所定間隔で複数設けられている。平行棒42は、培地保持シート10を支持する上側平行棒42aと、貯水シート20を支持する下側平行棒42bとを備えて構成され、この上側平行棒42a及び下側平行棒42bが、培地保持シート10及び貯水シート20の長手方向に沿って設けられた複数の垂直棒41に夫々一本ずつ架設されて一対ずつ設けられている。このように組まれた一組の支持体40が、培地保持シート10及び貯水シート20の幅方向に沿って所定間隔で複数組設けられている。この支持体40は、実施の形態では、垂直棒41の上端41bは地面より90cm高い位置に位置しており、一対の垂直棒41は25cm間隔に設けられている。また、上側平行棒42aは各垂直棒41の上端41bに架設されており、下側平行棒42bは上側平行棒42aよりも5cm下方位置に設けられている。更に、一組の支持体40は培地保持シート10及び貯水シート20の幅方向に沿って40cm間隔で複数設けられている。尚、各垂直棒41及び平行棒42の間隔は上述したものに限定されるものではなく、適宜変更して差支えない。
【0030】
このように組まれた夫々の支持体40で、培地保持シート10及び貯水シート20を支持させる。詳しくは、一対の上側平行棒42aに培地保持シート10を掛けて、固定部材を用いて固定するとともに、一対の下側平行棒42bに貯水シート20を掛けて、固定部材を用いて固定する。
【0031】
水供給手段50は、水Wを貯留する貯留タンク51と、貯留タンク51に水源52から水Wを給水する給水パイプ53と、貯留タンク51に貯留された水Wを貯水シート20に供給する供給パイプ54と、貯水シート20に貯水された水Wの水位が最小水位Lになったとき貯留タンク51からの水供給を許容し貯水シート20に貯水された水Wの水位が最大水位Hになったとき貯留タンク51からの水供給を不能にする供給制御手段55とを備えて構成されている。
【0032】
貯留タンク51は、貯留タンク51に貯留される水Wの水位と貯水シート20に貯水される水Wの水位とが同位になるように貯水シート20の近傍に位置している。また、給水パイプ53は、貯留タンク51の上側側部と水源52とを接続している。
供給パイプ54は、貯留タンク51に貯留される水Wの水位と貯水シート20に貯水される水Wの水位とが同位になるように、貯留タンク51の下側側部と貯水シート20の最下部20bとの間に連通して接続されている。
【0033】
供給制御手段55は、給水パイプ53に貯留タンク51の水位が所定第一高さHaになったとき給水パイプ53を閉じ、貯留タンク51の水位が所定第一高さHaより低い所定第二高さLaになったとき給水パイプ53を開くフロート弁55aで構成されている。貯留タンク51に貯留される水Wが所定第一高さHaのときの水位は、貯水シート20に貯水される水Wが最大水位Hのときの水位と同位であり、貯留タンク51に貯留される水Wが所定第二高さLaのときの水位は、貯水シート20に貯水される水Wが最小水位Lのときの水位と同位である。
【0034】
次に、高設栽培方法について説明する。本実施の形態に係る高設栽培方法は、上記のように構成された高設栽培装置Sを用いて行なわれる。
【0035】
先ず、イチゴ1の栽培に係る量の肥料を培地Mに混合し、次に、この培地Mを培地保持シート10に保持させ、その後、培地Mにイチゴ1を所定間隔で植え付ける。この状態で、水供給手段50により貯水シート20に水Wを供給し、貯水シート20に貯水される水Wの水位を変動させながらイチゴ1の根部1aに水Wを吸収させてイチゴ1を栽培していく。
【0036】
詳しくは、水源52から貯留タンク51に水Wを給水するとともに、貯留タンク51から貯水シート20に水Wを供給し、貯留タンク51に貯留される水Wの水位が所定第一高さHaになるようにし且つ貯水シート20に貯水される水Wの水位が最大水位Hになるようにする。この状態では、培地保持シート10の少なくとも最下部10cが貯水シート20に貯水された水Wに浸漬するようになる。そして、貯水シート20に貯水された水Wの水位が最大水位Hになると、貯留タンク51に貯留された水Wの水位が所定第一高さHaになり、この状態になると、フロート弁55aにより給水パイプ53が閉じて、水源52から貯留タンク51への水Wの給水が停止されるとともに、貯留タンク51からの水供給を不能にして貯留タンク51から貯水シート20への水Wの供給を停止させるようになる。即ち、貯水シート20に貯水された水Wの水位が最大水位Hになると、水供給手段50により、自動的に水Wの供給が停止される。
【0037】
貯水シート20に最大水位Hまで水Wを貯水させ、この水Wに培地保持シート10の少なくとも最下部10cが浸漬すると、培地保持シート10の内側面10aに付設された吸水シート30も、その少なくとも最下部30bが貯水シート20に貯水された水Wに浸漬するようになる。この吸水シート30は、浸漬した部分で水Wを吸水し、その後、毛細管現象によって吸水した水Wが上昇して吸水シート30全体に水Wが行き渡る。この吸水シート30は培地Mを包持しているので、吸水シート30が吸水した水Wが培地Mに浸透していくようになり、そのため、貯水シート20に貯水された水Wを培地M全体に浸透させることができる。
【0038】
貯水シート20に貯水された水Wが培地保持シート10及び吸水シート30を介して培地Mに浸透すると、培地Mに混合された肥料が水Wによって溶出し、この溶出した肥料が水Wと混和して、イチゴ1の根部1aから吸収されるようになる。
【0039】
そして、貯水シート20に最大水位Hまで貯水された水Wは、イチゴ1の根部1aが吸収したり、自然蒸発したりすることにより、徐々にその水位が減っていき、貯水シート20に貯水された水Wの水位が最小水位Lになると、貯留タンク51に貯留された水Wの水位が所定第二高さLaになり、この状態になると、フロート弁55aにより給水パイプ53が開いて、水源52から貯留タンク51に水Wが給水されるとともに、貯留タンク51からの水供給を許容して貯留タンク51から貯水シート20に水Wが供給されるようになる。即ち、貯水シート20に貯水された水Wの水位が最小水位Lになると、水供給手段50により、自動的に貯水シート20に水Wが供給される。
【0040】
そして、貯水シート20に供給される水Wは、貯水される水Wの水位が最大水位Hになると、自動的に停止され、以後は、上記のように貯水シート20への水Wの供給,停止を自動的に繰り返し行なってイチゴ1を栽培していく。
【0041】
このように、貯水シート20に貯水される水Wの水位を、最小水位Lと最大水位Hとの間で変動させることができるとともに自動で制御することができる。貯水シート20に貯水される水Wの水位を自動で制御することができるので、貯水シート20に貯水される水Wの水位の維持を安定させることができる。また、貯水シート20に貯水される水Wの水位を最小水位Lと最大水位Hとの間で変動させることができるので、培地Mやイチゴ1の根部1aが貯水シート20に貯水された水Wに常時浸漬することがなく、そのため、培地Mやイチゴ1の根部1aに適度の酸素が混入されるようになるので、根部1aを良好に保ってイチゴ1を生育することができ、それだけ、イチゴ1の収量を向上させることができる。
【0042】
また、供給パイプ54を、貯留タンク51の水位と貯水シート20の水位とが同位になるように貯留タンク51と貯水シート20との間に連通させて接続したので、貯留タンク51に貯留された水Wの水位と貯水シート20に貯水された水Wの水位とが常時同位になり、そのため、貯水シート20に貯水される水Wの水位を制御しやすい。また、供給制御手段55をフロート弁55aで構成したので、水供給手段50を簡易な構成とすることができ、そのため、本装置Sを簡易な構成にすることができる。
【0043】
更に、従来のように、肥料を含んだ水(液肥)を貯水シート20に貯水すると定期的な液肥組成の調整が必要になるが、本発明では、培地Mにイチゴ1の栽培に係る量の肥料を予め混合しておくので、その必要がなく、それだけ、作業効率を向上させることができる。また、培地Mにイチゴ1の栽培に係る量の肥料を予め混合すると、従来のように肥料を含んだ水(液肥)を貯水シート20に貯水した場合に比較して、イチゴ1の実の収量を向上させることができる。
【0044】
更にまた、杉皮は排水性,通気性に優れた材質であるため、この杉皮を培地Mに用いることにより、貯水シート20に貯水された水Wを培地M全体に浸透させやすくなるとともに、培地Mやイチゴ1の根部1aに酸素を通しやすくなって根部1aを良好に保つことができる。また、粉砕された杉皮は軽量であるため培地Mを培地保持シート10に保持させる作業を簡易にすることができる。更に、使用後は堆肥として圃場へ投入することで廃棄性を向上させることができる。
【0045】
また、上記のように構成された高設栽培装置Sを用いて行なう高設栽培方法としては、培地保持シート10に培地Mを保持させ、この培地Mにイチゴ1を植え付けた直後にイチゴ1の栽培に係る量の肥料を培地M表面に施肥し、この状態で、水供給手段50により貯水シート20に水Wを供給し、貯水シート20に貯水される水Wの水位を変動させながらイチゴ1の根部1aに水Wを吸収させてイチゴ1を栽培しても良い。この場合、培地M表面に肥料を施肥した後、肥料と培地Mとを軽く混合させておくことが望ましい。水供給手段50により貯水シート20に水Wを供給し、貯水シート20に貯水された水Wが培地保持シート10及び吸水シート30を介して培地Mに浸透すると、培地M表面に施肥された肥料が水Wによって溶出し、この溶出した肥料が水Wと混和して、イチゴ1の根部1aから吸収されるようになる。そして、上記と同様に、水供給手段50により、貯水シート20に貯水される水Wの水位を自動的に変動させながらイチゴ1の根部1aに水Wを吸収させてイチゴ1を栽培していく。この場合も、上記と同様の作用,効果を奏する。
【0046】
<実験例>
以下、実験例を示す。
〔実験例1〕
この実験は、被栽培物1としてイチゴを用い、貯水シート20に貯水される水の水位を一定にしてイチゴ1を栽培した場合と変動させてイチゴ1を栽培した場合との実の収量の違いを見たものである。これは、平成17年7月5日に採苗したイチゴ品種「さちのか」を、同年9月5日に培地Mに植え付け、貯水シート20に一定量の肥料を加えた水(液肥)を最大水位H(培地Mの表面から5cm下方の位置)で常時一定になるように供給した場合と、一定量の肥料を加えた水(液肥)を最大水位H(培地Mの表面から5cm下方の位置)と最小水位L(培地保持シート10の最下部10cが浸漬しない位置)との間で変動させた場合とで、夫々6ヶ月間実験を行なった。また、本発明の高設栽培装置Sを施設内に設置し、この施設内の気温を7℃以上になるように暖房機で加温し、培地M内の地温も15℃前後となるように電熱線で加温し、更に、白熱灯により平成17年11月10日〜翌年2月20日まで明期3時間延長となるように電照した。
図3に実験結果を示す。この結果から、3L,2L,L,M,S,A,Bの全てのサイズにおいて、その収量は、貯水シート20に貯水される水(液肥)の水位を変動させた場合の方が高くなっており、商品果収量及び総収量を見ても、その収量は、貯水シート20に貯水される水(液肥)の水位を変動させた場合の方が高くなっている。即ち、貯水シート20に貯水される水(液肥)の水位を最小水位Lと最大水位Hとの間で変動させると、貯水シート20に貯水される水(液肥)の水位を一定にした場合に比較して収量が向上することを示している。
【0047】
〔実験例2〕
この実験は、被栽培物1としてイチゴを用い、貯水シート20に貯水される水Wの水位を変動させる本願発明の高設栽培方法において、培地Mにイチゴ1の栽培に係る量の肥料を予め混合してイチゴ1を栽培した場合と、肥料を含んだ水(液肥)を貯水シート20に貯水してイチゴ1を栽培した場合との実の収量の違いを見たものである。培地Mに肥料を予め混合する場合は、一株あたりの重量を3通り準備して実験を行なった。これは、平成17年7月5日に採苗したイチゴ品種「さちのか」を、同年9月5日に培地Mに植え付け、同日に栽培に係る量の肥料を培地M表面に施肥した後に混合し、貯水シート20に水Wを貯水させ、貯水シート20に貯水された水Wの水位を最大水位H(培地Mの表面から5cm下方の位置)と最小水位L(培地保持シート10の最下部10cが浸漬しない位置)との間で変動させた場合と、貯水シート20に一定量の肥料を加えた水(液肥)を貯水し、貯水シート20に貯水された水(液肥)の水位を最大水位H(培地Mの表面から5cm下方の位置)と最小水位L(培地保持シート10の最下部10cが浸漬しない位置)との間で変動させた場合とで、夫々6ヶ月間実験を行なった。また、本発明の高設栽培装置Sを施設内に設置し、この施設内の気温を7℃以上になるように暖房機で加温し、培地M内の地温も15℃前後となるように電熱線で加温し、更に、白熱灯により平成17年11月10日〜翌年2月20日まで明期3時間延長となるように電照した。
図4に実験結果を示す。この結果から、3L,2L,L,M,S,A,Bの全てのサイズにおいて、その収量は、培地Mに肥料を予め混合した場合の方が高くなっており、商品果収量及び総収量を見ても、その収量は、培地Mに肥料を予め混合した場合の方が高くなっている。即ち、培地Mにイチゴ1の栽培に係る量の肥料を予め混合すると、肥料を含んだ水(液肥)を貯水シート20に貯水した場合に比較して収量が向上することを示している。
【0048】
尚、上記実施の形態において、被栽培物1をイチゴ1としたが、必ずしもこれに限定されるものではなく、メロン等の他の果物や野菜等の植物であっても良く、適宜変更して差支えない。
また、上記実施の形態において、吸水シート30をポリエステル繊維を用いて形成したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、吸水性の素材であれば良く、適宜変更して差支えない。
【符号の説明】
【0049】
S 高設栽培装置
M 培地
H 最大水位
L 最小水位
Ha 所定第一高さ
La 所定第二高さ
1 被栽培物(イチゴ)
1a 根部
10 培地保持シート
11 端部
20 貯水シート
21 端部
30 吸水シート
40 支持体
41 垂直棒
42 平行棒
42a 上側平行棒
42b 下側平行棒
50 水供給手段
51 貯留タンク
52 水源
53 給水パイプ
54 供給パイプ
55 供給制御手段
55a フロート弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透水性のシート部材で形成され下方に撓んで横断面U字状に形成されて内側面側で被栽培物が植え付けられる培地を保持する培地保持シートと、非透水性のシート部材で形成され下方に撓んで横断面U字状に形成されて上記培地保持シートの下側を収容し被栽培物の栽培に係る水を貯水する貯水シートと、上記培地保持シート及び上記貯水シートを地面より所定高さ高い位置で支持する支持体とを備え、上記貯水シートに貯水された水を上記培地保持シートを介して培地に浸透させ被栽培物の根部に吸収させるようにした高設栽培装置において、
上記貯水シートに貯水される水の水位が最小水位になったとき該貯水シートに自動的に水を供給し、上記貯水シートに貯水される水の水位が最大水位になったとき該貯水シートへの水の供給を自動的に停止する水供給手段を備えたことを特徴とする高設栽培装置。
【請求項2】
上記水供給手段を、水を貯留する貯留タンクと、該貯留タンクに水源から水を給水する給水パイプと、上記貯留タンクに貯留された水を上記貯水シートに供給する供給パイプと、上記貯水シートに貯水された水の水位が上記最小水位になったとき上記貯留タンクからの水供給を許容し上記貯水シートに貯水された水の水位が上記最大水位になったとき上記貯留タンクからの水供給を不能にする供給制御手段とを備えて構成したことを特徴とする請求項1記載の高設栽培装置。
【請求項3】
上記供給パイプを、上記貯留タンクの水位と上記貯水シートの水位とが同位になるように該貯留タンクと該貯水シートとの間に連通させて接続し、上記供給制御手段を、上記給水パイプに上記貯留タンクの水位が所定第一高さになったとき該給水パイプを閉じ、上記貯留タンクの水位が所定第一高さより低い所定第二高さになったとき上記給水パイプを開くフロート弁で構成したことを特徴とする請求項1または2記載の高設栽培装置。
【請求項4】
上記培地保持シートの内側面に水を吸水する吸水シートを付設したことを特徴とする請求項1乃至3何れかに記載の高設栽培装置。
【請求項5】
上記培地を杉皮で構成したことを特徴とする請求項1乃至4何れかに記載の高設栽培装置。
【請求項6】
上記請求項1乃至5何れかに記載の高設栽培装置を用いて被栽培物を栽培する高設栽培方法であって、
被栽培物の栽培に係る量の肥料を培地に混合してから上記培地保持シートに該培地を保持させ、その後、該培地に被栽培物を植え付け、この状態で、上記水供給手段により上記貯水シートに水を供給し、上記貯水シートに貯水される水の水位を変動させながら被栽培物の根部に水を吸収させて被栽培物を栽培することを特徴とする高設栽培方法。
【請求項7】
上記請求項1乃至5何れかに記載の高設栽培装置を用いて被栽培物を栽培する高設栽培方法であって、
上記培地保持シートに培地を保持させ、該培地に被栽培物を植え付けた直後に被栽培物の栽培に係る量の肥料を該培地表面に施肥し、この状態で、上記水供給手段により上記貯水シートに水を供給し、上記貯水シートに貯水される水の水位を変動させながら被栽培物の根部に水を吸収させて被栽培物を栽培することを特徴とする高設栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−227008(P2010−227008A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78260(P2009−78260)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(390025793)岩手県 (38)
【Fターム(参考)】