説明

高輝度応力発光材料およびその製造方法、並びにその利用

明るい環境下でも目視できる高輝度応力発光材料およびその製造方法とその利用の代表的な一例とを提供する。本発明にかかる応力発光材料は、摩擦による静電気に由来する発光機構、摩擦によるマイクロプラズマに由来する発光機構、歪による圧電効果に由来する発光機構、格子欠陥に由来する発光機構、および発熱に由来する発光機構の少なくとも何れかの発光機構により発光する条件を満たしている。例えば、応力発光材料として、少なくとも1種のアルミン酸塩からなる母体材料を含有する場合には、歪による圧電効果に由来する発光機構を実現するために、上記母体材料には、自発分極性を有する結晶構造が含まれる構成、具体的には、α−SrAlを挙げることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的外力を加えることにより発光する応力発光材料およびその製造方法、並びに、その利用に関するものであり、特に、高輝度に発光することが可能であり、より応用分野を広げることが可能な応力発光材料およびその製造方法と、当該応力発光材料を有効に発光させる発光方法に代表される、応力発光材料の利用の代表的な一例に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、摩擦、剪断力、衝撃力、振動等の機械的作用を加えて内部に応力を生じさせることにより発光させる応力発光材料が種々提案されている。このような応力発光材料の母体材料(母材)としては、例えば、アルミン酸塩やケイ酸塩、ワイルド半導体等が知られている。具体的には、例えば、本発明者らは、(1)非化学量論的組成を有するアルミン酸塩の少なくとも一種からなり、かつ機械的エネルギーによって励起されたキャリアが基底状態に戻る際に発光する格子欠陥を有する物質を含む高輝度応力発光材料を提案しており、具体的な一例としては、MAl3+x(ただし、式中MはMg、Ca、SrまたはBaであり、xは0.8<x<1である。)等を挙げている(例えば、文献1:特開2001−49251(平成13(2001)年2月20日公開)等参照。)。
【0003】
また、本発明者らは、(2)MNで表される化合物(ただし、式中MおよびNはMg、Sr、Ba、Znの群、およびGa、Alの群からそれぞれ選ばれる少なくとも1つ以上の金属元素である。)で構成される酸化物を母体材料とする応力発光材料を提案している(例えば、文献2:特開2002−194349(平成14(2002)年7月10日公開)等参照。)。
【0004】
さらに、本発明者らは、(3)高輝度応力発光材料の製造方法として、例えば、一般式MAl2x+3y/2(ただし、式中Mはアルカリ土類金属、遷移金属または希土類金属であり、x・yは整数である)で表され、Mのアルカリ土類金属として、Mg、Ca、BaおよびSrの群から選択される金属元素であるアルミン酸を修飾ゾルゲル方による製造方法も提案している(例えば、文献3:特開2002−220587(平成14(2002)年8月9日公開)等参照。)。
【0005】
しかしながら、これまで開発された応力発光材料は、機械的外力により有効に発光することが可能であるものの、発光輝度が不十分な場合があり、利用分野・応用分野が限定されるという課題を有している。
【0006】
具体的には、例えば、周囲の外光が比較的少ないような環境下では、上述した従来の応力発光材料でも目視できる程度に十分な強度で応力発光することが可能である。ところが、日中やこれに順ずる程度に周囲の外光が多い場合、すなわち周囲がかなり明るい環境下では、これら応力発光材料の発光輝度が相対的に低いものとなり、目視で確認することが困難となる場合がある。
【0007】
発光材料の利用分野・応用分野を広げるためには、明るい環境下でも目視できる程度に強い発光輝度を実現できることが要求されるが、従来の技術では、このような応力発光材料を得ることは実質的に困難となっていた。
【発明の開示】
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、明るい環境下でも目視できる高輝度応力発光材料およびその製造方法とその利用の代表的な一例とを提供することにある。
【0009】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、応力発光材料における発光機構を明らかにすることにより、これまでにない高輝度な応力発光が可能になることを独自に見出すとともに、明らかとなった発光機構に基づき、応力発光材料の有効な発光方法を見出すことにも成功し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明にかかる応力発光材料は、機械的作用を加えることにより発光する応力発光材料であって、摩擦による静電気に由来する発光機構、摩擦によるマイクロプラズマに由来する発光機構、歪による圧電効果に由来する発光機構、格子欠陥に由来する発光機構、および発熱に由来する発光機構の少なくとも何れかの発光機構により発光する条件を満たしていることを特徴としている。
【0011】
上記応力発光材料の一例としては、少なくとも1種のアルミン酸塩からなる母体材料を含有しているとともに、歪による圧電効果に由来する発光機構を実現するために、上記母体材料には、自発分極性を有する結晶構造が含まれるものを挙げることができる。
【0012】
上記応力発光材料においては、上記母体材料がα−SrAlであるものを最も好ましい一例として挙げることができる。
【0013】
上記応力発光材料においては、さらに、格子欠陥に由来する発光機構を実現するために、上記母体材料に、少なくとも2種の金属イオンを欠陥中心の中心イオンとして添加することが好ましい。この中心イオンの添加により、母体材料の自発分極性を有する結晶構造中に、格子欠陥が形成される。さらに、当該応力発光材料では、結晶構造中にトンネル構造を有しているとともに、トンネル中に配置する元素はイオン結合で配置される。すなわち、上記中心イオンがトンネル中に配置することになる。
【0014】
上記中心イオンとしては、具体的には、添加された上記中心イオンが、α−SrAlのSrサイトを置換している例を挙げることができ、このとき、上記中心イオンとして添加される金属イオンが、Srよりもイオン径が小さいものである場合には、当該金属イオンとして、Mg、Na、Zn、Cu、Eu、Tm、Ho、Dy、Nd、Pr、Ca、Sn、Mnからなる群より選択される少なくとも1種を挙げることができる。また、上記中心イオンとして添加される金属イオンが、Srよりもイオン径が大きいものである場合には、当該金属イオンとして、Baおよび/またはKを挙げることができる。
【0015】
さらに、上記中心イオンとしては、Srよりもイオン径が小さいものおよび大きいものの両方が添加されると効率的であるため特に好ましい。また、上記中心イオンとして添加され、α−SrAlのSrサイトを置換している金属イオンの総添加量は、Srを基準として0.1〜40モル%の範囲内で添加されることが好ましい。5〜25モル%の範囲内で添加されることがより好ましい。また、上記中心イオンとして、Srよりもイオン径が小さい金属イオンと、Srよりもイオン径が大きい金属イオンとの両方を添加する場合に、全金属イオンの添加量が化学量論よりも少ないことが好ましい。
【0016】
上記応力発光材料においては、添加された上記中心イオンが、α−SrAlのAlサイトを置換している例も挙げることができる。このとき、上記中心イオンとして添加される金属イオンが、Alよりもイオン径が小さいものであれば、当該金属イオンとして、例えば、Si、Bが好ましく用いられる。また、上記中心イオンとして添加される金属イオンが、Alよりもイオン径が大きいものであれば、当該金属イオンとして、例えば、Ga、Inが好ましく用いられる。また、上記中心イオンとして添加され、α−SrAlのAlサイトを置換している金属イオンは、Alを基準として0.1〜20モル%の範囲内で添加されることが好ましい。
【0017】
上記応力発光材料においては、上記中心イオンとして添加される金属イオンとして、価数の異なる金属イオンを少なくとも2種以上添加することが好ましい。例えば、金属イオンとして+1価および+2価のものを同時に添加してもよいし、+2価および+3価のものを同時に添加してもよいし、+1価、+2価および+3価のものを同時に添加してもよい。
【0018】
上記母体材料に自発分極性を有する結晶構造が含まれる上記応力発光材料においては、材料の歪エネルギーに比例して発光するようになっている。
【0019】
上記応力発光材料の他の例としては、少なくとも1種のアルミン酸塩からなる母体材料を含有しているとともに、摩擦による静電気およびマイクロプラズマに由来する発光機構を実現するために、上記母体材料には、対称中心を有する構造が含まれるものを挙げることができる。
【0020】
上記応力発光材料においては、さらに、格子欠陥に由来する発光機構を実現するために、上記母体材料に、少なくとも1種の金属イオンを欠陥中心の中心イオンとして添加することが好ましい。
【0021】
また、上記応力発光材料の具体例としては、上記母体材料が、Zn−Al−O欠陥構造を有するスピネル構造の材料であるものを挙げることができ、より具体的には、上記母体材料が、ZnAl:Mnであるものを挙げることができる。また、上記母体材料は、格子欠陥が生成する温度範囲で還元処理を行ったものであることが好ましい。
【0022】
本発明にかかる応力発光材料の製造方法は、機械的外力を加えることにより発光する応力発光材料の製造方法であって、摩擦による静電気に由来する発光機構、摩擦によるマイクロプラズマに由来する発光機構、歪による圧電効果に由来する発光機構、格子欠陥に由来する発光機構、および発熱に由来する発光機構の少なくとも何れかの発光機構により発光する条件を満たすように、構造を制御することを特徴としている。
【0023】
上記製造方法においては、歪による圧電効果に由来する発光機構を実現するために、上記応力発光材料に含有される母体材料に、自発分極性を有する結晶構造を形成するように、原料を混合して焼成することが好ましい。また、格子欠陥に由来する発光機構を実現するために、上記応力発光材料に含有される母体材料に、少なくとも1種の金属イオンを欠陥中心の中心イオンとして添加することが好ましい。さらに、摩擦による静電気およびマイクロプラズマに由来する発光機構を実現するために、上記応力発光材料に含有される母体材料に、対称中心を有する構造が含まれるように、原料を混合して焼成することが好ましい。加えて、発熱に由来する発光機構を実現するために、上記応力発光材料に含有される母体材料におけるサーモルミネッセンスのピークが当該応力発光材料の使用温度近傍にあるように原料を混合して焼成することが好ましい。サーモルミネッセンスのピークは複数のピークがあるものが好ましい、使用温度近傍の100℃の範囲内にブロードのピークがあるものが望ましい。
【0024】
本発明の利用方法は特に限定されるものではないが、上記応力発光材料を成形してなる応力発光体や、上記応力発光材料と高分子材料とを混合し、平板状に成形してなる応力発光体等を挙げることができる。なお、成形の方法や形状等は特に限定されるものではない。特に、自発分極性を有する結晶構造が含まれる応力発光材料を用いる場合、当該応力発光材料を支持体上に積層した積層構造を含む応力発光体を好ましく採用することができる。このとき、ダイアフラム構造を有することがより好ましい。
【0025】
本発明の他の利用方法としては、上記応力発光体を用いて、これに経時変化する外力を加えることを特徴とする応力発光材料の発光方法を挙げることができる。このとき、さらに、応力発光体に経時変化する外力を加えながら紫外線を照射することが好ましい。また、摩擦に由来する発光機構を実現する応力発光材料の場合、当該応力発光材料を摩擦材料で摩擦することが好ましい。
【0026】
このときの摩擦材料としては特に限定されるものではないが、上記摩擦材料は電気抵抗の高い材料であることが好ましい。具体的には、体積抵抗率(25℃、50%RH)が1014Ω・cm以上の電気抵抗を示す材料であることが好ましい。このような材料としては、例えば、ポリエチレンを好ましく用いることができる。
【0027】
本発明のさらに他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分わかるであろう。また、本発明の利益は、添付図面を参照した次の説明で明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明にかかる応力発光材料の一例である、α−SrAlの構造を示す模式図である。
【図2】本発明にかかる応力発光材料において、摩擦発光材料における静電気の発生と電場発光の励起機構を説明する模式図である。
【図3】実施例1において、応力発光材料Zn−Al−O系のXRDパターンを示すチャートである。
【図4】実施例1において、応力発光材料Zn−Al−O系を還元処理したときの重量減少曲線を示すグラフである。
【図5】実施例1において、応力発光材料Zn−Al−O系の蛍光強度を示すグラフである。
【図6】実施例1において、応力発光材料Zn−Al−O系のサーモルミネッセンス曲線を示すチャートである。
【図7】実施例1において、応力発光材料の一例であるZnAl:Mnのサーモルミネッセンス強度について、還元処理温度に対する依存性を示すグラフである。
【図8】実施例1において、応力発光材料の一例であるZnAl:Mnの摩擦発光強度の還元処理依存性、および摩擦発光の応答曲線を示すグラフである。
【図9】実施例1において、応力発光材料の蛍光(PL)、サーモルミネッセンス(ThL)、および摩擦発光(ML)のスペクトルを示すチャートである。
【図10(a)】図10(a)は、実施例1において、還元温度と摩擦発光強度との相関性を示すグラフである。
【図10(b)】図10(b)は、実施例1において、1200℃で還元処理したZnAl:Mnについて残光強度と摩擦発光強度との関係を示すグラフである。
【図11(a)】図11(a)は、実施例1において、摩擦材料別の摩擦発光の強度を示すグラフである。
【図11(b)】図11(b)は、実施例1において、摩擦材料別の表面電位を示すグラフである。
【図12】実施例1において、応力発光材料の電場発光スペクトルを示すチャートである。
【図13】実施例2〜8において、サンプルの応力発光、印加される応力等を計測する計測システムの一例を示す模式図である。
【図14(a)】図14(a)は、実施例3において、α−SrAl相と発光しない結晶相とが共存した場合の応力発光強度の変化を示すグラフである。
【図14(b)】図14(b)は、実施例3において、α−SrAl相と発光しない結晶相とが共存した場合の応力発光強度の変化を示すグラフである。
【図15】実施例3において、α−SrAl相が共存した場合の発光強度と応力との関係を示すグラフである。
【図16】実施例3において、α−SrAl相が共存した場合の応力発光のスペクトルを示すグラフである。
【図17】実施例4において、Srサイトに格子欠陥を形成した場合のα−SrAl相における発光強度と格子欠陥濃度との関係を示すグラフである。
【図18】実施例5において、高い応力発光強度を示した応力発光材料におけるサーモルミネセンスの例を示すチャートである。
【図19】実施例6において、応力発光材料に応力印加したときの発光変化曲線を示すグラフである。
【図20】実施例6において、応力発光材料における発光強度と応力との相関関係を示すグラフである。
【図21】実施例6において、応力発光材料における発光強度と歪速度との相関関係を示すグラフである。
【図22】実施例7において、1Hzの応力サイクルを加えたときに、紫外線照射を行ったときと行わなかったときの応力発光ピークの変化を示すグラフである。
【図23】実施例7において、紫外線照射しながら1Hzの応力サイクルを加えたときの発光強度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の一実施形態について図1および図2に基づいて説明すると以下の通りである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。以下の説明では、本発明を完成させるに至った応力発光材料の発光機構、本発明にかかる応力発光材料およびその製造方法、並びに、本発明の利用の順で、本発明をより詳細に説明する。
【0030】
(I)応力発光材料の発光機構
これまで、高輝度で発光する応力発光材料としては様々なものが提案されており、また、加える外力の種類によっても発光特性が異なっていたが、その詳細な発光機構については明らかではなかった。本発明者は、この点に鑑み、発光のために加えられる機械的作用に基づいて発光に必要とする励起源を明らかにすることで、その発光機構を解明するとともに、高輝度に発光する応力発光材料の結晶構造および組成、並びに有効な発光方法を始めて明らかにした。
【0031】
具体的には、本発明では、摩擦による静電気に由来する発光機構、摩擦によるマイクロプラズマに由来する発光機構、歪による圧電効果に由来する発光機構、格子欠陥に由来する発光機構、および発熱に由来する発光機構の少なくとも何れかの発光機構による発光を実現するように応力発光材料を製造する。
【0032】
(I−1)摩擦により発光する場合の発光機構
応力発光材料のうち、摩擦により発光する材料では、摩擦による静電気の発生、マイクロプラズマの発生、格子欠陥の存在、摩擦による発熱の少なくとも何れかの機構により発光する。
【0033】
具体的には、摩擦等により静電気が生じ、静電気により局部的な電場発光が励起され発光する。また、摩擦により表面の原子結合が破壊されるに伴い、マイクロプラズマが発生し、これによって、プラズマ励起が生じて発光が生じる。さらに、後述するように、格子欠陥を有する場合、摩擦により格子欠陥にトラップされた電子または正孔(ホール)が放出されて、再結合することにより発光が生じる。加えて、後述するように、摩擦による発熱で光を放出する機構も存在する。特に、対称中心を有する構造の材料系の場合には、歪により発光することが難しい材料であっても、表面の結晶構造が非対称となることでより摩擦発光しやすくなる。
【0034】
言い換えれば、応力発光材料において摩擦に由来する発光機構を実現するためには、当該応力発光材料に含有される母体材料に、対称中心を有する構造が含まれるように、原料を混合して焼成すればよいことになる。本発明では、後述するように、摩擦励起に対して強く発光する材料の一例として、Zn−Al−O欠陥構造を有するスピネル構造の結晶材料を見出している。
【0035】
(I−2)歪エネルギーにより発光する場合の発光機構
応力発光材料のうち、歪エネルギーにより発光する材料では、歪エネルギーの形成によって、圧電効果、格子欠陥、および変形による発熱の少なくとも何れかの機構により発光する。
【0036】
圧電効果による発光では、歪形成力が加えられることで材料に歪エネルギーが生じ、当該歪エネルギーに伴う圧電効果により電気が発生し、これにより電場発光する。したがって、圧電効果により発光する材料は圧電体であるため、結晶構造に対称中心が存在しないことが重要となる。さらに、対称中心が存在しない材料の中では、特に自発分極が存在する構造が重要であることが見出された。
【0037】
言い換えれば、応力発光材料において歪による圧電効果に由来する発光機構を実現するためには、当該応力発光材料に含有される母体材料に、自発分極性を有する結晶構造を形成するように、原料を混合して焼成すればよいことになる。本発明では、後述するように、圧電効果により強く発光する材料の一例として、α−SrAl相の結晶材料を見出している。なお、格子欠陥および発熱による発光については、上記のように摩擦による発光とも共通するため、次の項で説明する。
【0038】
(I−3)摩擦および歪形成に共通する発光機構
摩擦による発光でも歪形成による発光でも、上記のように、格子欠陥および発熱に由来する発光機構を実現することができる。
【0039】
具体的には、まず、格子欠陥による発光では、材料に格子欠陥が存在すると、摩擦や歪エネルギーにより格子欠陥にトラップされている電子と正孔(ホール)とが再結合することが可能となるため、これにより発光する。具体的には、摩擦や歪エネルギーが生じたとき、上記格子欠陥の中心では、周囲の結晶場が歪の揺らぎにより変化するため、トラップされている電子または正孔が励起され、その結果これらが再結合することにより発光が生じる。したがって、格子欠陥となるサイトでは、結晶中の結合が緩やかなものであるとともに、当該サイトが結晶中で歪を受けやすい位置を占めることが好ましい。それゆえ、材料中の格子欠陥の制御は極めて重要なものとなる。
【0040】
言い換えれば、応力発光材料において格子欠陥に由来する発光機構を実現するためには、上記応力発光材料に含有される母体材料に、少なくとも1種、好ましくは2種以上の金属イオンを欠陥中心の中心イオンとして添加すればよいことになる。本発明では、後述するように、α−SrAl相の結晶材料において、SrサイトやAlサイトを金属イオンが置換するように、各種金属を添加している。
【0041】
次に、発熱による発光では、摩擦が加えられると材料が発熱し、歪形成により材料が変形し、この変形に伴い熱が発生する。発熱による発光では、この発熱(温度上昇)に伴いサーモルミネッセンス(熱発光)により発光する。このようにサーモルミネッセンスを利用した発光機構では、サーモルミネッセンスのピークの位置と形が重要となり、応力発光材料の用途等を考慮すれば、当該応力発光材料の使用温度近傍にそのピークがあることが好ましい。例えば、応力発光材料を室温(15〜25℃の範囲内)付近で用いる場合には、この温度範囲内にサーモルミネッセンスのピークがあることが好ましい。サーモルミネッセンスのピークは複数のピークがあるものがより好ましい、使用温度近傍の100℃の範囲内にブロードのピークがあるものが望ましい。
【0042】
言い換えれば、応力発光材料において発熱に由来する発光機構を実現するために、上記応力発光材料に含有される母体材料におけるサーモルミネッセンスのピークが当該応力発光材料の使用温度近傍となるように原料を混合して焼成すればよいことになる。
【0043】
(II)本発明にかかる応力発光材料およびその製造方法
上記(I)の項で説明した内容をまとめれば、応力発光材料における発光機構としては、摩擦由来、歪による圧電効果由来、格子欠陥由来、および発熱由来の少なくとも4種類が存在することになる。これら4種類の発光機構のうち、少なくとも1種類、好ましくは2種類以上、さらに好ましくは全種類の発光機構を同時に複数発揮できる材料系では、各発光機構の相乗効果が得られるため、これまでにない高い発光輝度を実現することが可能になる。ただし、格子欠陥由来、および発熱由来の発光機構に基づく発光の部分は経時的に減衰することがある。
【0044】
そこで、本発明者らは、この指針に基づき多くの実験を重ねた結果、高輝度の応力発光材料を開発することに成功した。以下に、本発明にかかる応力発光材料として、(1)摩擦により強く発光する材料、(2)歪形成により強く発光する材料のそれぞれについて、最も好ましい一例を挙げて本発明を説明する。
【0045】
(II−1)摩擦により強く発光する材料
本発明にかかる応力発光材料のうち、摩擦により発光する材料(便宜上、摩擦発光材料と称する)は、上述したように、(1)摩擦等により生じた静電気で電場発光が励起されること、(2)摩擦により生じたマイクロプラズマでプラズマ発光が励起されること、(3)格子欠陥にトラップされた電子と正孔とが再結合することにより発光すること、(4)摩擦により生じた熱でサーモルミネセンスが励起されることの少なくとも何れかにより応力発光する材料を指す。このような摩擦発光材料は、電場発光が励起される場合は、良い電場発光材料であるともいえる。摩擦発光材料は接触面の摩擦により発光するため、接触する相手材料(摩擦材料)により生ずる静電力やマイクロプラズマの強さ、あるいは温度変化が異なり、また、静電気やマイクロプラズマの強さ、あるいは温度変化の起こり易い環境も異なる。この場合、水分や湿気によって低下することがある。
【0046】
本発明にかかる摩擦発光材料は、特に限定されるものではないが、少なくとも1種のアルミン酸塩からなる母体材料を含有し、当該母体材料には、摩擦に由来する発光機構を実現するために、対称中心を有する構造が含まれるものであればよい。ここでいう「対称中心を有する構造」とは、ペロブスカイト型構造、スピネル構造、コロンバイト構造等の構造を指す。なお、摩擦発光材料における発光機構をより具体的に説明すると、図2に示すようになる。
【0047】
本発明にかかる摩擦発光材料においては、母体材料が対称中心を有する構造を含むことに加え、電場発光性やプラズマ発光性を有することが好ましい。また、電荷を保持できる材料、つまり荷電性が高く減衰時間の長い材料も好ましい。後述する実施例でも示すが、摩擦により起電して、さらに電場発光性があるものは高輝度の応力発光(摩擦発光)を示すことが分かる。すなわち、電場発光性を有するとは、材料の結晶中に格子欠陥を有することであり、これにより、摩擦由来の発光機構と格子欠陥由来の発光機構との2種類の機構を同時に実現することができるので、より高輝度の応力発光を実現することができる。
【0048】
上記対称中心を有する構造を含む摩擦発光材料としては、具体的には、例えば、ZnAl:Mn、ZnGa:Eu、MgAl:Ce、MgGa:Mn、CaNo:Tb等を挙げることができるが、中でも、ZnAl:Mnのように、Zn−Al−O欠陥構造を有するスピネル構造の材料をより好ましく用いることができる。このような構造の材料は、上記のように、摩擦由来の電場発光機構およびプラズマ発光機構と、格子欠陥由来の発光機構との3種類の機構を同時に実現することができるだけでなく、後述する実施例に示すように、サーモルミネッセンスを高いものとすることが可能となる。
【0049】
すなわち、蓄光材料については、サーモルルミネッセンスが高いことが知られており、特に室温付近にサーモルミネセンスのピークを有することから、全ての蓄光材料は、摩擦による発熱に由来して発光することは明らかである。
【0050】
<摩擦発光材料の製造方法>
本発明にかかる摩擦発光材料の製造方法は特に限定されるものではなく、公知の方法を好適に用いることができる。具体的には、組成比の原料を酸化雰囲気中で母体結晶構造が形跡できるように合成すればよい。ここで、本発明にかかる摩擦発光材料においては、上記母体材料として、格子欠陥が生成する温度範囲で還元処理を行ったものが好ましい。これにより、Zn−Al−O欠陥構造を有するスピネル構造の材料を効率的かつ確実に製造することができる。
【0051】
(II−2)弾性変形により歪が生じて強く発光する材料
本発明にかかる応力発光材料のうち、圧縮応力や引張り応力等の弾性変形により歪が生じて強く発光する材料(便宜上、歪発光材料と称する)は、上記のように、歪が生じて、圧電効果、格子欠陥、発熱の少なくとも何れかに由来する発光機構により発光する応力発光材料を指す。
【0052】
<圧電効果に由来する発光機構>
本発明にかかる歪発光材料は、特に限定されるものではないが、歪による圧電効果に由来する発光機構を実現するために、上記母体材料には、自発分極性を有する結晶構造が含まれるものを挙げることができる。より具体的には、例えば、上記母体材料としてα−SrAlを挙げることができる。
【0053】
xSrO.yAlの材料系に関して、組成に関係なく応力発光する知見が得られている(例えば、SrAl、SrAl11、SrAl、SrAl1425等)。そこで、これら材料系について共通する構造を見出したところ、何れも、実際にはSrAlに由来していることが明らかとなった。
【0054】
α−SrAlの結晶構造は単斜晶で、この結晶相は自発分極性を有する。後述する実施例に示すように、単斜晶以外の結晶構造では自発分極性が見られず、自発分極性を有する結晶相は弾性領域で応力発光を示す。
【0055】
自発分極性を有する結晶相は強誘電性を有していることから、弾性領域で応力発光する歪発光材料は強誘電性を有することになる。このときの応力発光は、圧電による歪エネルギーを電気に変換し、さらに、電場発光性により光を放出する。したがって、上記歪発光材料は圧電および電場発光の相乗効果により電場発光体となっている。つまり、歪による圧電効果に由来する発光機構を実現する歪発光材料は強誘電体であり、かつ、電場発光体となっている。
【0056】
上記歪発光材料においては、前述したように、結晶構造に対称中心が存在しないことが重要となる。したがって、本発明で用いることのできる母体材料としては、上記α−SrAl以外にも、結晶構造に対称中心が存在しない構造の材料系を有効に用いることができる。例えば、アルミン酸以外にも多くの材料系を利用することができ、タングステン酸塩、ニオブ酸塩、チタン酸塩等を利用することができる。
【0057】
<格子欠陥に由来する発光機構>
本発明にかかる歪発光材料においては、歪による圧電効果に由来する発光機構以外にも、前述したように、格子欠陥に由来する発光機構が実現されていてもよい。具体的には、例えば、母体材料に、少なくとも1種の金属イオンを欠陥中心の中心イオンとして添加すればよい。特に、母体材料として、自発分極性を有する結晶構造が含まれるものを用いた場合、上記中心イオンの添加により、母体材料の自発分極性を有する結晶構造中に、格子欠陥を形成することができる。
【0058】
例えば、母体材料として上記α−SrAlを例に挙げると、当該α−SrAlの構造は、図1に示すように、AlOの四面体6つでフレームが形成され、そのトンネル内にSrが配置された構成となる。そこで、SrまたはAlのサイトを置換するように、上記中心イオンを添加することで、自発分極性を有する結晶構造中に格子欠陥を形成することができる。このように、本発明では、母体材料として、結晶構造中にトンネル構造を有しているとともに、トンネル中に配置する元素はイオン結合で配置される材料が好ましく用いられる。
【0059】
まず、添加された上記中心イオンが、α−SrAlのSrサイトを置換している場合には、中心イオンとして添加される金属イオンが、Srよりもイオン径が小さいものである場合と、Srよりもイオン径が大きいものである場合とを挙げることができる。このように、Srと比較してイオン径が異なる金属イオンを添加することによって、結晶構造を歪みやすくすることが可能となり、弾性領域での発光強度をより向上させることが可能になる。
【0060】
上記Srよりもイオン径が小さい金属イオンとしては特に限定されるものではなく、I−VIIIの何れの金属イオンであっても用いることができる。Sr2+のイオン径は0.132nmであるので、これよりも小さいイオン径を有する金属イオンを選択すればよい。より具体的には、Ca、Mg、Na、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mn、Co、Ni、Sn、Cu、Zn、Y、Cd、Mo、Ta、W、Fe、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等を挙げることができる。これら金属イオンは1種のみを用いてもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0061】
上記金属イオンの中でも、Mg、Na、Zn、Cu、Eu、Tm、Ho、Dy、Sn、Mn、Nd、Pr、Ca、からなる群より選択される少なくとも1種が用いられることが好ましい。上記群より選択される金属イオンを用いることにより、結晶構造をより歪みやすくすることが可能となり、弾性領域での発光強度を向上させることが可能となる。
【0062】
次に、Srよりもイオン径が大きい金属イオンとしても特に限定されるものではないが、具体的には、Ba、K、Pbを挙げることができるが、中でも、Baおよび/またはKが用いられることが好ましい。これら金属イオンは1種のみを用いてもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0063】
Srサイトを置換する金属イオンとしては、Srよりもイオン径が小さいものと大きいものとの両方を添加することが好ましい。これによって、結晶構造をより一層歪みやすくすることが可能となり、弾性領域での発光強度をさらに向上することが可能となる。
【0064】
上記応力発光材料においては、上記中心イオンとして添加される金属イオンとして、価数の異なる金属イオンを少なくとも2種以上添加することが好ましい。例えば、金属イオンとして上記のようにSrを採用した場合、Srは+2価のイオンである(Sr+2)であるため、価数の異なる金属イオン、例えば、+1価、+3価、+4価、+5価、+6価の少なくとも何れかの価数の金属イオンを添加することが好ましい。これにより、有効に格子欠陥を形成することができるため、有利となる。
【0065】
上記のように、α−SrAlを例に挙げると、Srサイトは構造的にはAlOにより形成されるフレーム中に存在するトンネルに入っていることになるため、構造的には自由度が高くなる。その結果、上記のように、様々な種類の金属イオンでSrサイトを置換することが可能になる。これは、α−SrAl以外の母体材料を採用する場合でも同様である。このようにトンネル構造やひずみ易い構造を有すると応力発光を実現する上で有利となる。
【0066】
上記中心イオンとして添加され、α−SrAlのSrサイトを置換している金属イオンの添加量は特に限定されるものではなく、α−SrAlの結晶構造を維持できる範囲内であればよいが、好ましくは、Srを基準として0.1〜40モル%の範囲内で添加すればよい。この範囲内であれば、結晶構造を維持できるとともに、結晶構造を歪みやすくすることが可能になり、弾性領域での発光強度を有効に向上することが可能となる。
【0067】
さらに、中心イオンとして、Srよりもイオン径が小さい金属イオンと、Srよりもイオン径が大きい金属イオンとの両方を添加する場合には、全金属イオンの添加量が化学量論よりも少ないことが好ましい。このように添加量を設定することで、弾性領域での発光強度をより高いものとすることが可能となる。
【0068】
次に、添加された上記中心イオンが、α−SrAlのAlサイトを置換している場合にも、中心イオンとして添加される金属イオンが、Alよりもイオン径が小さいものである場合と、Alよりもイオン径が大きいものである場合とを挙げることができる。ここで、Srサイトに比較してAlサイトは、AlOの四面体を構築しているため、Srサイトのように、置換できる金属イオンの選択範囲は広くない。
【0069】
Al3+のイオン径は0.053nmであるので、これより小さいイオン径の金属イオンとしては、B、Siを挙げることができる。このうち、Bを用いることがより好ましい。Bを添加することで、発光強度をより向上させることが可能となる。一方、Alのイオン径よりも大きいイオン径を有する金属イオンとしては、Ga、In、Tl、Zr、Ti、V、Nbを挙げることができる。このうち、Ga、Inを用いることがより好ましい。
【0070】
Alサイトを置換する金属イオンの場合も、Srサイトを置換する金属イオンと同様に、Alよりもイオン径が小さいものと大きいものとの両方を添加することが好ましい。また、Alサイトを置換している金属イオンの添加量は特に限定されるものではなく、α−SrAlの結晶構造を維持できる範囲内であればよいが、好ましくは、Alを基準として0.1〜20モル%の範囲内で添加すればよい。
【0071】
<発熱に由来する発光機構>
本発明にかかる歪発光材料においては、歪による圧電効果、格子欠陥に由来する発光機構の他に、発熱による発光機構が実現されてもよい。この発光機構は、摩擦発光材料においても実現することができる。具体的には、例えば、全ての蓄光材料は摩擦により発熱に由来する発光が可能である。
【0072】
<歪発光材料の製造方法>
本発明にかかる歪発光材料の製造方法は特に限定されるものではなく、上記各発光機構を実現できるような結晶構造を形成するように、公知の方法を用いて製造すればよい。具体的には、α−SrAlを例に挙げると、上記母体材料に、自発分極性を有する結晶構造を形成するように、原料を混合して焼成すればよい。このときの原料としては、例えば、SrCOおよびAlを用いることができる。さらに、欠陥中心の中心イオンとなる金属イオンを添加する場合には、当該金属イオンの酸化物を原料または最終的に酸化物になる原料に混合すればよい。後述する実施例では、Euを中心イオンとして用いるため、Euを添加しているが、もちろん本発明はこれに限定されるものではない。
【0073】
上記焼成の条件は特に限定されるものではなく、各イオンが所望の比率となるように原料を所定量混合して公知の焼成条件で焼成すればよい。後述する実施例では、空気中で仮焼きした後に焼成工程に入っている、これにより最適な結晶構造と格子欠陥レベルを形成することができる。焼成工程での雰囲気は特に限定されるものではなく、不活性ガス雰囲気下であればよいが、必要に応じてH2等のガスを所定量混合した雰囲気としてもよい。焼成温度は、後述する実施例では、1000〜1700℃の範囲内となっているがこれに限定されるものではなく、公知の温度範囲内とすることができるが、結晶構造を十分に形成することが温度範囲の選定条件となる。
【0074】
(III)本発明の利用
本発明の利用としては、特に限定されるものではなく、上記応力発光材料を用いて応力発光を行うあらゆる分野に利用することができる。例えば、上記応力発光材料を具体的な形状に加工して応力発光体として用いる用途を挙げることができる。
【0075】
(III−1)応力発光体
応力発光体の具体的な構成は特に限定されるものではないが、例えば、(1)粉末や焼結体、(2)他の材料と混合して成形する構成、(3)支持材料の表面に塗布する構成等を挙げることができる。粉末や焼結体は、本発明で得られる応力発光材料をほぼそのまま利用する構成であり、粉末の粒径や粒度分布、焼結体の形状や大きさ等は特に限定されるものではない。
【0076】
他の材料と混合して成形する構成としては、具体的には、例えば、歪の形成による発光機構を利用するものの場合には、応力発光材料と高分子材料とを混合して平板状に成形した構成とすることができる。応力発光材料と混合する樹脂としては特に限定されるものではないが、例えば、エポキシ樹脂を挙げることができる。混合量は特に限定されるものではなく、応力発光材料を平板状に形成してその形状を維持できる程度の量を混合すればよい。後述する実施例では、重量比1:1で混合している。混合条件も特に限定されるものではなく、公知の方法を用いればよい。
【0077】
また、支持材料の表面に塗布する構成としては、具体的には、例えば、応力発光材料を支持体上に積層した積層構造を含む構成のものを挙げることができる。積層構造を含む構成の場合、応力発光材料の積層対象となる支持体としても特に限定されるものではなく、金属、繊維、ゴム、布、高分子材料、紙、ガラス、セラミックス等何れであってもよいが、小さい歪エネルギーで発光する場合には、弾性係数の低い材料を用いることが好ましい。弾性係数が低すぎると、歪の変化速度が低下し、歪エネルギーも低下して発光効率が低下し、一定の応力で比較した場合の発光強度が低下する傾向にあるため好ましくない。このような条件を満たす支持体材料としては、アクリル樹脂やエポキシ樹脂等の合成樹脂、紙、ゴム等のエラストマー材料を挙げることができる。中でも紙は、実施例にも示すように、日光下のように周囲の外光が多い場合でも指で触るだけで目視できるほど、非常に明るい発光を実現することができるため好ましい。
【0078】
なお、弾性係数が低くても応力緩和の強い材料、例えばゴム等のエラストマー材料では、後述する実施例に示すように応力発光はそれほど大きくない。これは応力の変化速度が緩和されると考えられるためである。逆に言えば、支持体材料にエラストマー材料を用いることによって、同じ数値の応力を加えても発光の強度を変化させることも可能となる。それゆえ、支持体材料については、その用途や求められる発光強度に応じて適宜選択すればよい。
【0079】
本発明にかかる応力発光材料を支持体上に積層する方法は特に限定されるものではなく、公知の方法でペースト状や塗料にして塗布してもよいし、予め膜状に形成してから支持体表面に積層してもよい。積層される応力発光材料の厚みについても特に限定されるものではないが、一般的には、1〜1000μmの範囲内であることが好ましく、10〜500μmの範囲内であることがより好ましい。この範囲内であれば応力の印加により応力発光材料に効率的に歪を生じさせることができる。
【0080】
上記支持体に応力発光材料を積層する場合には、公知の接着剤を用いてもよい。特に、支持体に応じて適切な接着強度を発揮できる接着剤を選択して用いることで、応力発光体の耐久性を向上させることが可能となる。それゆえ、応力の印加の繰り返しや継続的な応力の印加等により応力発光体の亀裂や破壊を有効に回避することができる。具体的な接着剤としては特に限定されるものではないが、シリコン系、ポリイミド系、デンプン系、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系、エポキシ樹脂系、ポリアミド樹脂系、シアノアクリレート系接着剤を好ましく用いることができる。これら接着剤は他の系の接着剤と比べても応力緩和が小さいと考えられるとともに、強固な接着力を揮できるため好ましい。
【0081】
積層構造を有する応力発光体のより具体的な形状は特に限定されるものではなく、歪形成力を効率的に印加できるような形状であればよいが、薄膜状またはフィルム状となっていることが好ましく、さらに、ダイアフラム構造を有していることが好ましい。ダイアフラム構造は、柔軟な膜を用いた隔壁構造であり、圧力変化を検出したり、変位を発生させたりする用途に広く用いられる。本発明では、印加された歪形成力を有効に応力発光に利用できる点からもダイアフラム構造を採用することが好ましい。
【0082】
例えば、後述する実施例では、紙コップの底を利用してダイアフラム構造を実現している。紙コップの底(すなわち、支持体としての紙)に本発明にかかる応力発光材料を積層することによりダイアフラム構造の応力発光体を形成することができる。
【0083】
(III−2)発光方法
本発明の利用には、本発明にかかる応力発光材料の発光方法も含まれる。応力発光方法の具体的な手法は特に限定されるものではなく、応力発光材料の発光機構に応じて適切な方法を選択すればよい。
【0084】
<摩擦に由来する発光機構の場合>
具体的には、例えば、摩擦に由来する発光機構を実現する応力発光材料の場合には、当該応力発光材料またはこれを用いて適切な形状に形成される応力発光体を、任意の摩擦材料で摩擦することにより発光させればよい。
【0085】
このとき用いられる摩擦材料としては、特に限定されるものではないが、摩擦による静電力(起電力)、摩擦によるマイクロプラズマ、摩擦による格子欠陥にトラップされた電子と正孔との再結合、摩擦によるサーモルミネセンスの励起の優れたものを選択することが好ましい。言い換えれば、摩擦に由来する発光機構では、摩擦による起電力、マイクロプラズマ、電子と正孔との再結合、サーモルミネセンスの励起は、摩擦材料の種類に依存することになるので、所望の発光レベルに応じて摩擦材料を選択すればよい。
【0086】
基本的には、発光強度が高いほど好ましいため、上記4種類の発光機構が生じやすい摩擦材料を選択することが好ましい。このときの摩擦材料としては特に限定されるものではないが、上記摩擦材料は電気抵抗の高い材料であることが好ましい。具体的には、体積抵抗率(25℃、50%RH)が1014Ω・cm以上、より好ましくは1016Ω・cm以上の電気抵抗を示す材料であることが好ましい。このような材料としては、例えば、ポリエチレンを好ましく用いることができる。具体的には、Zn−Al−O欠陥構造を有するスピネル構造の母体材料の場合では、後述する実施例に示すように、上記摩擦材料としてポリエチレンを選択すると上記4種類の発光機構を生じやすくすることができるため好ましい。また、摩擦材料の表面に耐磨耗コーティングをしたものが好ましい。
【0087】
<歪形成力に由来する発光機構の場合>
次に、圧電効果や格子欠陥(あるいは発熱)に由来する発光機構、すなわち歪形成力に由来する発光機構を実現する応力発光材料の場合には、上述した平板状の応力発光体や積層構造を含む応力発光体を用いて、これに外力を加えることにより発光させればよい。
【0088】
ここで、一般に、応力発光体では、格子欠陥などの構造を有すると、強い紫外線や放射線を照射した直後では、応力発光のピークが非常に強く、その後減衰して一定になる傾向にあることが知られている。そこで、本発明にかかる応力発光材料の発光方法では、応力発光材料に対して、外力を加えながら紫外線を照射してもよい。これにより減衰することなく、応力発光させることが可能となることを見出した。このときの紫外線や放射線の照射条件は特に限定されるものではなく、効率的な応力発光を可能とするような照射条件とすればよい。例えば、照射時間は特に限定されるものではなく、紫外線を一定時間照射してもよいしパルス照射してもよい。照射強度も特に限定されるものではなく、公知の強度を採用すればよい。ただし、発光波長と同じ波長を利用すると発光測定が困難となるため用いられない。
【0089】
(III−3)本発明の具体的な応用例
本発明では、上述した応力発光体や応力発光材料の発光方法を利用することにより、本発明にかかる応力発光材料をより具体的な技術分野に応用することができる。例えば、本発明を利用して、厳しい温度環境で動作する圧力センサや、薄くて柔軟なシート状の圧力センサ等といった、新方式の圧力センサや生体機能測定センサ等の開発に応用することが可能である。また、本発明にかかる応力発光材料をセンシング材料として、公知またはこれから開発されるシステムとを融合させることにより、新たなセンシング分野を構築することも可能となる。特に、本発明を利用すれば、直接画像化が可能となり、2次元、3次元の計測が可能となる。
【実施例】
【0090】
本発明について、実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
【0091】
〔実施例1〕
本発明にかかる応力発光材料のうち、摩擦に由来する発光機構を実現する材料について、図3〜図12に基づいて具体的に説明する。
【0092】
ZnO、Al、MnCOを、Zn0.95Mn0.05Alとなるように秤量し、エタノール中で十分に混合した後、乾燥して粉砕した。その後、まず1250℃の温度で、空気中で8時間焼成することにより試料を得た。当該試料の結晶構造について、X線回折機器により解析した結果、図3の(a)に示すように、純スピネル構造の材料が得られた。
【0093】
次に、得られたスピネル構造の材料(ZnAl:Mn)について、300〜1300℃まで5%H−Ar中で還元処理を行った。図4には、還元処理中の重量減少曲線を示す。600℃以下での重量減少は吸着水分や酸素の脱離によるもので、1200℃では急激に重量は減少している。これはスピネル結晶中のZn、Oの脱離によるものである。したがって、上記欠陥構造を有するスピネル構造の材料を製造する場合には、格子欠陥が生成する温度での還元処理が有効であることが分かった。
【0094】
また、還元処理時における蛍光強度のグラフを図5に示す。このグラフから明らかなように、欠陥構造を有するスピネル構造の材料では、1200℃を超えると蛍光強度は減少し始めることが分かった。
【0095】
次に、上記ZnAl:Mnについて1分間10℃の速度で昇温しながら蛍光分光度計によりサーモルミネセンスの実験を行った。その結果を図6に示す。この結果から明らかなように、欠陥構造を有するスピネル構造の材料は、他の構造の材料と比較してもサーモルミネッセンスは最も高いことが明らかとなった。
【0096】
次に、摩擦試験用試料としては、ZnAl:Mnのセラミックスのペレットと、ZnAl:Mn粉末とエポキシ樹脂の混合ペレットの2種類を用いた。混合ペレットは1gの摩擦発光材料(ZnAl:Mn)と3.5gのエポキシ樹脂とを混合し、φ25×15mmのペレットに成形して得られた。摩擦試験は、これらの摩擦試験サンプルを摩擦試験機のサンプル台に固定して、一定荷重(2N)と一定試験速度(2.8cm/s)で摩擦しながらその摩擦発光をフォトカウンターにより測定し、還元処理温度依存性について評価した。その結果を図7のグラフに示す。このグラフからも明らかなように、欠陥構造を有するスピネル構造の材料では、1200℃を超えるとサーモルミネッセンスの強度は減少し始めることが分かった。また、摩擦発光強度の還元処理依存性、および摩擦発光の応答曲線を評価した。その結果を図8のグラフに示す。上記欠陥型構造を有するスピネル構造の材料では、摩擦発光が高いことがわかった。
【0097】
また、上記ZnAl:Mnについて、マルチチャンネル分光器を用いて蛍光(PL)、サーモルミネッセンス(ThL)、および摩擦発光(ML)時のスペクトルを測定した。その結果を図9に示す。同図から明らかなように、380−480nmのピーク、すなわちNガスの発光のピークが見られないことから、観測された摩擦発光は、N2ガス放電による摩擦発光ではなく、ZnAl:Mn中の中心イオン(Mn)からの発光であることが分かった。
【0098】
次に、365nmのUVランプで1時間紫外線を照射した後、暗室で残光と摩擦発光をそれぞれ計測することにより、残光強度と応力発光(摩擦発光)の相関性を解析した。その結果を図10(a)・図10(b)に示す。図10(a)では、還元温度と摩擦発光強度との相関性を示し、図10(b)では、1200℃で還元処理したZnAl:Mnについて残光強度と摩擦発光強度との関係を示す。この結果から残光が低下しても摩擦発光が長時間保持されることが分かった。
【0099】
次に、上記ZnAl:Mnについて、摩擦発光と表面電位との相関性について、摩擦発光測定と同時に表面電位計を用いて表面電位を計測することにより解析した。その結果を図11(a)・図11(b)に示す。図11(a)では、摩擦材料別の摩擦発光の強度を示し、図11(b)では、摩擦材料別の表面電位を示す。この結果から明らかなように、ZnAl:Mnを摩擦材料で摩擦したときの発光は、摩擦で生成した表面電位に由来した発光であることが明らかとなった。また、摩擦によって静電力の高いものが発光輝度を高めることに有用であることも分かった。この実験では、真鍮やポリエーテルエーテルケトンよりもポリカーボネート、ポリエチレンが好ましく、特に、ポリエチレンが好ましいことがわかる。
【0100】
次に、電場発光用試料としては、欠陥構造を有するスピネル構造材料(Zn−Al−O)の粉末を2t/cmの静水圧でφ20×1mmのペレット状に成形し、1200℃、5%H−Ar中で還元処理し、さらに、得られた欠陥型スピネル構造のセラミックスの両面に、それぞれAl電極とITO透明電極を形成したものを用いた。この試料を用いて、60Hz、1.5Vの交流電圧を加えながら分光蛍光度計により電場発光スペクトルを測定した。その結果を図12に示す。この結果では、520nm付近のピークが得られていることから、この欠陥型構造を有するスピネル構造の材料では、電場発光性が強いことが分かる。
【0101】
〔実施例2〕
高純度試薬SrCO、Al、Euを用いて、Sr0.99Eu0.01Al1219、Sr0.99Eu0.01Al、Sr3.99Eu0.01Al1425、Sr0.99Eu0.01Al、Eu0.01Sr2.99Alとになるようにそれぞれ所定量を秤量し、十分に混合した。その後、まず空気中で800℃の温度で仮焼きし、その後、1000〜1700℃の温度範囲で、Ar+5%Hの雰囲気中で焼成を行った。これにより上記各組成の応力発光体を調製した。得られた応力発光体の結晶構造はX線回折により同定したが、それぞれ純相が得られた。
【0102】
得られた粒子状(粉末状)の応力発光材料とエポキシ樹脂とを重量比で1:1となるように混合し、縦×横×高さ=54mm×19mm×5mmの直方体のサンプル(すなわち応力発光体)を成形した。
【0103】
次に、図13に示すように、撮像部10、スペクトル測定部20、発光強度測定部30、サンプル固定部40からなる計測システムを用いて、一定の速度で応力を印加しながら発光強度、応力(歪形成力)、および歪を同時に測定した。なお、図13に示す計測システムでは、撮像部10がICCDカメラ11およびコンピュータ12からなっており、スペクトル測定部20はマルチチャネルスペクトルアナライザ21およびコンピュータ22からなっており、発光強度測定部30がPM(光電子倍増管)31、光子カウンター32、コンピュータ33からなっているが、この構成に限定されるものではない。マルチチャネルスペクトルアナライザ21はガラスファイバー23を介して集光レンズ24に、PM31はガラスファイバー34を介して集光レンズ35に接続されており、それぞれ発光強度等を測定するようになっている。
【0104】
直方体のサンプル50は、サンプル固定部40において横方向の面(19.2mm×7.5mmの面)に歪ゲージ41を取り付けた状態で固定し、縦方向(54mmの辺に沿った方向)から荷重セル42により荷重をかけて応力を印加するようになっている。そして、撮像部のICCDカメラにより、サンプルの全面を撮像するとともに、グラスファイバでスペクトル測定部および発光強度測定部につなげられた測定プローブにより発光強度等を測定するようになっている。なお、実験は、応力の印加による歪形成速度を変えながら行った。得られた弾性領域の発光強度を表1に示す。
【0105】
【表1】

表1の結果から明らかなように、これまで応力発光材料と知られているSrAlなどの結晶系では、弾性領域での応力発光しないことが明らかになった。
【0106】
上記表1に示すように、α−SrAlのみは弾性領域の応力発光を示す。その結晶構造は単斜晶であり、この結晶相は自発分極が存在するが、他の結晶構造は自発分極が無い。それゆえ、自発分極性を有する結晶相は弾性領域での応力発光する。この規則は他の応力発光体にも適用できることが長年の材料開発実験でも証明された。また、自発分極を有する結晶相は強誘電性があることから、弾性領域での応力発光体は強誘電性を有することにもなる。また、その発光は圧電による歪エネルギーを電気に変換し、さらに、電場発光性により光を放出する。このように、弾性領域での応力発光することができる応力発光材料は強誘電体であり、かつ電場発光体であることがわかる。
【0107】
〔実施例3〕
実施例2と同様にして、SrCO、Eu、およびAlを任意のさまざまの組成で混合することにより、α−SrAl相と共存する結晶相を合成した。図14(a)および図14(b)にα−SrAl相と発光しない結晶相とが共存した場合の応力発光強度の変化を示す。その結果、SrAl相が共存すれば応力発光を示すものの、発光強度は低下した。一方、α−SrAl相のみである場合には最も高い発光強度が示された。また、共存したときの発光強度は、図15、図16に示すように、α−SrAl相のみの場合と同様に、発光強度は応力の変化に伴って変化し、発光スペクトルは520nmのピークとなっていた。
【0108】
〔実施例4〕
上記実施例2・3から、α−SrAl相のみの場合が最も高い発光強度を示すことがわかったので、さらに歪やすくするため、結晶構造に格子欠陥を作ることが有利と考えた。そこで、Srサイトに格子欠陥を形成するように、Sr2+イオンを、化学量論より低くして格子欠陥制御型の試料を製造した。その結果、図17に示すように、最適量の格子欠陥を形成することにより、発光強度は飛躍的に向上した。これに対して、欠陥量が少なすぎると格子欠陥の効果が不十分となり発光強度が低下し、多すぎると結晶構造が崩れて発光強度が低下した。α−SrAl相のみの純相構造を保ちながら、格子欠陥を導入すれば発光強度は大きく向上できることがわかった。
【0109】
〔実施例5〕
さらに歪みやすく高輝度発光させるために、Sr2+サイトにSr2+イオンより価数の大きいイオン、価数の小さいイオン、イオン半径の大きいイオン、イオン半径の小さいイオンの少なくとも1種を添加することが有利と考えた。そこで、高純度試薬を用いて、SrCO、Eu、Al、KI、NaI、CaCO、BaCO、B、MgCO、Ho等を所定組成になるようにそれぞれ所定量を秤量し、十分に混合した後、実施例2と同様にして各組成の応力発光材料を製造した。得られた応力発光材料の中から、高い発光強度を示すものを表2に示す。
【0110】
【表2】

何れの応力発光材料においても、結晶構造をX線回折により同定し、α−SrAl相を有することを確認した。SrサイトとAlサイトとの両方に格子欠陥を形成した応力発光材料において、特に、両方のサイトに3種類以上の価数の異なるイオンを添加したものは、弾性領域において最も高い応力発光を示した。
【0111】
高い応力発光強度を示した材料のサーモルミネッセンスチャートの例を図18に示す。複数のサーモルミネッセンスのピークがあるとともに、広い温度範囲にわたって発光するという特徴が見られることがわかった。これは複数の格子欠陥を添加したことに由来している。室温付近にサーモルミネッセンスを有していることから、変形の歪によりサーモルミネッセンス(発熱による発光機構)が格子欠陥による発光機構と同時に発揮することができる。すなわち、歪による複数の発光機構が同時に発現し、発光をより向上させる効果が得られた。
【0112】
〔実施例6〕
(Sr0.600.02Ho0.02Mg0.10Ba0.15)(Al1.950.05)Oの組成を有する応力発光材料(粉末)とエポキシ樹脂とを重量比で1:1となるように混合し、前記実施例2と同様に、図13に示す計測システムを用いて、応力を印加しながら発光強度、応力および歪を同時に測定した。その結果を図19、図20、図21に示す。
【0113】
図19では、応力を印加するときの発光強度の変化曲線を示す。応力の増大とともに発光は直線的に強くなっている。このように、種々のピーク応力で実験して得られた応力発光のピーク値と応力のピーク値とをプロットすると、図20に示すように、直線的に比例していることが分かった(ただし、ε=0.3×10−31/s)。また、図21に示すように、種々の歪速度で実験したときに得られた応力発光値と歪速度との関係をプロットする、直線的に比例していることが分かった(ただしσmax=2.28MPa)。
【0114】
ここで、開始時刻tから時刻tまでの時間における応力発光強度について、時間で積分した値について見れば、次の式(1)に示すように、時刻tと時刻tの間に歪エネルギー密度の変化に比例関係が成立する。
【0115】
【数1】

弾性領域では、次の式(2)に示すように、応力と歪との積を時間で積分した値に比例する。ただし比例係数はk/2となる。
【0116】
【数2】

上記式(2)を微分すると、次の式(3)に示す関係が成立する。
【0117】
【数3】

任意の時刻tの応力と任意の時刻tの歪速度との積に比例定数kをかけた値は、任意の時刻tにおける応力発光強度と開始時刻tにおける応力発光強度との差分に等しい。この式(3)の結果は、図20および図21に示す実験結果と一致しており、応力発光強度は応力と歪速度との両方に比例する。したがって、応力発光強度は歪エネルギーに比例し、歪速度が一定の時には応力分布に比例する。それゆえ、応力発光材料を対象物体に塗布できれば、対象物体の応力分布は発光画像に比例するので、遠隔にモニタリングすることが可能となる。
【0118】
上記式(3)から、一定の応力と、応力の変化速度から、大きな応力発光を得るための有効な発光方法として、
1.弾性係数の低い対象物を選択する。
2.応力緩和のない構造を選択する。
という2点が重要となる。
【0119】
〔実施例7〕
応力発光材料の粉末とエポキシ樹脂とを混合して得られるペーストを様々な試験片(40×3×200mm)の上に、平板状(膜状、フィルム状)で厚さ10μm、50μm、100μmとなるように塗布し積層した。図13に示す装置に引張り治具を用いて、上記試験片に繰り返し応力サイクルを加え、応力と応力発光の相関を測定した。周波数1Hzの応力サイクルを印加したときに、50μmの応力発光体フィルムからの応力発光強度を比較した結果を表3に示す。
【0120】
【表3】

この結果から明らかなように、試験片の弾性係数が低いほど、一定の応力での発光が強い。しかしながら、ゴムのような応力緩和の強いものでは、弾性係数は低いが、応力発光はそれほど大きくないことがわかった。これは、応力の変化速度が緩和されるためであると考えられる。また、積層時に、試験片に合う接着剤を混入すると、実験中に応力発光膜には亀裂や破壊は全く認められなかったことから、非常に有効であることがわかった。接着剤は市販のシアノアクリレート系のもの、高密度エポキシ系のものが特に有効であった。理由としては、他の接着剤よりも応力の緩和が小さいためであると考えられる。
【0121】
また、応力発光材料は薄いフィルムに成形すれば、破壊しにくく、よく歪み、応力発光強度が高いことが明らかとなった。また、フィルムの支持体は、フィルムと同程度の弾性係数を有する材料を用いることが有効であることが分かった。
【0122】
〔実施例8〕
上記実施例7において、周波数1Hzの応力サイクルを印加したときの応力発光ピークの変化について、紫外線照射を行わなかった場合と行った場合とを比較した。なお、紫外線照射の条件は365nmの紫外線を1分間照射した。その結果、図22に示すように、繰り返し応力に対して最初は減衰してから安定になるが、減衰した分の応力発光は紫外線照射により回復することが分かった。また、紫外線照射を行いながら1Hzの応力サイクルを印加したときの応力発光ピークの変化を評価した。その結果、図23に示すように、繰り返し応力に対して安定に応答することが分かった。
【0123】
〔実施例9〕
応力発光材料を市販の紙コップの底に10ミクロン程度の厚みとなるように塗布することで、積層構造を有する応力発光体を製造した。当該紙コップの底(外面)から指で軽く押すと、日光の下でも非常に明るい発光が観察された。発光輝度としては、少なくとも10cd/m以上が得られた。これにより、応力発光材料を有効に発光させる方法の一つとして、ひずみを加えやすいダイアフラム構造が極めて有効であることがわかった。
【0124】
なお、本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0125】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明では、以上のように、高輝度の応力発光材料を得るために、基本となる5つの発光機構を明らかにし、それに基づいて非常に高い輝度を実現できる応力発光材料とその利用方法を開発したものである。それゆえ、従来よりも高輝度で、残光が長い、応答時間が長い等の特性を有する、優れた応力発光材料を効率的に得ることができるという効果を奏する。
【0127】
以上のように、本発明では、これまで明らかではなかった発光機構を明らかにすることにより、従来よりも高輝度の応力発光材料を効率的に得ることができる。それゆえ、本発明は、応力発光材料および/または応力発光体の製造等の素材産業に好適に用いることができるだけでなく、新規なセンシング技術への応用も期待されるので、センサ等の製造のように各種電子部品や電子・光学機器の産業分野にも応用することが可能であり、他にも安全管理分野や、計測分野、ロボット分野、玩具分野等、幅広い産業分野に多くの応用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械的作用を加えることにより発光する応力発光材料であって、
摩擦による静電気に由来する発光機構、摩擦によるマイクロプラズマに由来する発光機構、歪による圧電効果に由来する発光機構、格子欠陥に由来する発光機構、および発熱に由来する発光機構の少なくとも何れかの発光機構により発光する条件を満たしていることを特徴とする応力発光材料。
【請求項2】
上記応力発光材料には、少なくとも1種のアルミン酸塩からなる母体材料を含有しているとともに、
歪による圧電効果に由来する発光機構等を実現するために、上記母体材料には、自発分極性を有する結晶構造が含まれることを特徴とする請求項1に記載の応力発光材料。
【請求項3】
上記母体材料がα−SrAlであることを特徴とする請求項2に記載の応力発光材料。
【請求項4】
さらに、格子欠陥に由来する発光機構を実現するために、上記母体材料に、少なくとも2種の金属イオンを欠陥中心の中心イオンとして添加することを特徴とする請求項2または3に記載の応力発光材料。
【請求項5】
上記中心イオンの添加により、母体材料の自発分極性を有する結晶構造中に、格子欠陥が形成されることを特徴とする請求項4に記載の応力発光材料。
【請求項6】
結晶構造中にトンネル構造を有しているとともに、トンネル中に配置する元素はイオン結合で配置されることを特徴とする請求項4に記載の応力発光材料。
【請求項7】
添加された上記中心イオンが、α−SrAlのSrサイトを置換していることを特徴とする請求項4ないし6の何れか1項に記載の応力発光材料。
【請求項8】
上記中心イオンとして添加される金属イオンが、Srよりもイオン径が小さいものであることを特徴とする請求項7に記載の応力発光材料。
【請求項9】
上記Srよりもイオン径が小さい金属イオンとして、Mg、Na、Zn、Cu、Eu、Tm、Ho、Dy、Sn、Mn、Nd、Pr、Caからなる群より選択される少なくとも1種が用いられることを特徴とする請求項8に記載の応力発光材料。
【請求項10】
上記中心イオンとして添加される金属イオンが、Srよりもイオン径が大きいものであることを特徴とする請求項7の何れか1項に記載の応力発光材料。
【請求項11】
上記Srよりもイオン径が大きい金属イオンとして、Baおよび/またはKが用いられることを特徴とする請求項10に記載の応力発光材料。
【請求項12】
上記中心イオンとしては、Srよりもイオン径が小さいものおよび大きいものの両方が添加されることを特徴とする請求項7ないし11の何れか1項に記載の応力発光材料。
【請求項13】
中心イオンとして添加され、α−SrAlのSrサイトを置換している金属イオンは、Srを基準として0.1〜40モル%の範囲内で添加されることを特徴とする請求項7ないし11の何れか1項に記載の応力発光材料。
【請求項14】
中心イオンとして、Srよりもイオン径が小さい金属イオンと、Srよりもイオン径が大きい金属イオンとの両方を添加する場合に、全金属イオンの添加量が化学量論よりも少ないことを特徴とする請求項7ないし13の何れか1項に記載の応力発光材料。
【請求項15】
添加された上記中心イオンが、α−SrAlのAlサイトを置換していることを特徴とする請求項4ないし14の何れか1項に記載の応力発光材料。
【請求項16】
上記中心イオンとして添加される金属イオンが、Alよりもイオン径が小さいものであることを特徴とする請求項15に記載の応力発光材料。
【請求項17】
上記Alよりもイオン径が小さい金属イオンとして、Si、Bが用いられることを特徴とする請求項16に記載の応力発光材料。
【請求項18】
上記中心イオンとして添加される金属イオンが、Alよりもイオン径が大きいものであることを特徴とする請求項15ないし17の何れか1項に記載の応力発光材料。
【請求項19】
上記Alよりもイオン径が大きい金属イオンとして、Ga、Inが用いられることを特徴とする請求項18に記載の応力発光材料。
【請求項20】
中心イオンとして添加され、α−SrAlのAlサイトを置換している金属イオンは、Alを基準として0.1〜20モル%の範囲内で添加されることを特徴とする請求項15ないし19の何れか1項に記載の応力発光材料。
【請求項21】
上記中心イオンとして添加される金属イオンとして、価数の異なる金属イオンを少なくとも2種以上添加することを特徴とする請求項4ないし20の何れか1項に記載の応力発光材料。
【請求項22】
材料の歪エネルギー密度に比例して発光することを特徴とする請求項2ないし21の何れか1項に記載の応力発光材料。
【請求項23】
上記応力発光材料には、少なくとも1種のアルミン酸塩からなる母体材料を含有しているとともに、
摩擦による静電気およびマイクロプラズマに由来する発光機構を実現するために、上記母体材料には、対称中心を有する構造が含まれることを特徴とする請求項1に記載の応力発光材料。
【請求項24】
さらに、格子欠陥に由来する発光機構を実現するために、上記母体材料に、少なくとも1種の金属イオンを欠陥中心の中心イオンとして添加することを特徴とする請求項23に記載の応力発光材料。
【請求項25】
上記母体材料が、Zn−Al−O欠陥構造を有するスピネル構造の材料であることを特徴とする請求項23または24に記載の応力発光材料。
【請求項26】
上記母体材料が、ZnAl:Mnであることを特徴とする請求項25に記載の応力発光材料。
【請求項27】
上記母体材料は、格子欠陥が生成する温度範囲で還元処理を行ったものであることを特徴とする請求項23ないし26の何れか1項に記載の応力発光材料。
【請求項28】
機械的外力を加えることにより発光する応力発光材料の製造方法であって、
摩擦による静電気に由来する発光機構、摩擦によるマイクロプラズマに由来する発光機構、歪による圧電効果に由来する発光機構、格子欠陥に由来する発光機構、および発熱に由来する発光機構の少なくとも何れかの発光機構により発光する条件を満たすように、構造を制御することを特徴とする応力発光材料の製造方法。
【請求項29】
歪による圧電効果に由来する発光機構を実現するために、上記応力発光材料に含有される母体材料に、自発分極性を有する結晶構造を形成するように、原料を混合して焼成することを特徴とする請求項28に記載の応力発光材料の製造方法。
【請求項30】
格子欠陥に由来する発光機構を実現するために、上記応力発光材料に含有される母体材料に、少なくとも1種の金属イオンを欠陥中心の中心イオンとして添加することを特徴とする請求項28または29に記載の応力発光材料の製造方法。
【請求項31】
摩擦による静電気およびマイクロプラズマに由来する発光機構を実現するために、上記応力発光材料に含有される母体材料に、対称中心を有する構造が含まれるように、原料を混合して焼成することを特徴とする請求項28ないし30の何れか1項に記載の応力発光材料の製造方法。
【請求項32】
発熱に由来する発光機構を実現するために、上記応力発光材料に含有される母体材料におけるサーモルミネッセンスのピークが、当該応力発光材料の使用温度近傍となるように原料を混合して焼成することを特徴とする請求項28ないし31の何れか1項に記載の応力発光材料の製造方法。
【請求項33】
請求項1ないし27の何れか1項に記載の応力発光材料を成形してなる応力発光体。
【請求項34】
請求項1ないし27の何れか1項に記載の応力発光材料と高分子材料とを混合し、平板状に成形してなる応力発光体。
【請求項35】
請求項1ないし22の何れか1項に記載の応力発光材料を支持体上に積層した積層構造を含む応力発光体。
【請求項36】
ダイアフラム構造を有することを特徴とする請求項35に記載の応力発光体。
【請求項37】
請求項33ないし36の何れか1項に記載の応力発光体を用いて、これに経時変化する外力を加えることを特徴とする応力発光材料の発光方法。
【請求項38】
さらに、応力発光体に経時変化する外力を加えながら紫外線を照射することを特徴とする請求項37に記載の応力発光材料の発光方法。
【請求項39】
請求項33または36に記載の応力発光材料を摩擦材料で摩擦することを特徴とする応力発光材料の発光方法。
【請求項40】
上記摩擦材料として、25℃、50%RHでの体積抵抗率が1014Ω・cm以上の電気抵抗を示す材料が用いられることを特徴とする請求項39に記載の応力発光材料の発光方法。
【請求項41】
上記摩擦材料が、ポリエチレンであることを特徴とする請求項40に記載の応力発光材料の発光方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10(a)】
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【図10(b)】
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【図11(a)】
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【図11(b)】
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【図12】
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【図13】
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【図14(a)】
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【図14(b)】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【国際公開番号】WO2005/097946
【国際公開日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【発行日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−512143(P2006−512143)
【国際出願番号】PCT/JP2005/006971
【国際出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】