説明

高透磁率MnZnフェライトの製造方法

【課題】 高い初透磁率と高い比抵抗を同時に実現し、高インピーダンス特性を有する高透磁率MnZnフェライトの製造方法を提供すること。
【解決手段】 高透磁率MnZnフェライトの焼成工程において、500℃から保持温度までの昇温過程における昇温速度を350℃/hr以上、前記昇温過程における酸素濃度を体積百万分率で10000ppm以下とし、保持温度での酸素濃度を2段階とし、1段目の保持酸素濃度を20vol%以上、2段目の保持酸素濃度を5vol%以上30vol%以下、1段目の保持時間を2時間以上20時間以下、2段目の保持時間を1時間以上4時間以下とし、冷却過程の酸素濃度が、酸素濃度PO2と温度Tの関数であるlog(PO2)=−A/T+Bで規定され、前記関数におけるAは、8000以上18000以下とすることにより、高い初透磁率と高い比抵抗を同時に実現し、高インピーダンス特性を有する高透磁率MnZnフェライトの製造方法が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高透磁率フェライトに関し、特にノイズフィルタ用フェライトコアとして好適な高透磁率MnZnフェライトの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、高性能化の技術革新が著しく、それに伴い使用されるMn−Zn系フェライトの高性能化、例えば高透磁率化、及び低損失化が求められている。なかでも、ノイズフィルタ用のフェライトコアは高いインピーダンスを有することが要求されている。
【0003】
高いインピーダンスを得るためには、初透磁率を高くすること、材料の比抵抗を高くすることが必要である。特に、比抵抗が低いと表皮効果により透磁率の実部であるμ′が低くなり、インピーダンスは低くなる。
【0004】
高透磁率MnZnフェライトの場合は、透磁率の発現機構は可逆的な磁化変化であり、大部分は磁壁移動によって磁化するものと考えられている。従って、この材料で初透磁率を高くするためには、磁壁のスムーズな移動が必要不可欠である。磁壁移動は、結晶中の磁区サイズに依存し、磁区サイズを増大させることで磁壁移動が容易に起こる。磁区サイズを増大させるためには、結晶粒径を均質かつ均一に大きくすること、もしくは磁気異方性を小さくすることが必要である。即ち、高い初透磁率を得るためには、結晶粒径を大きくすること、磁気異方性を小さくすることが重要となる。
【0005】
結晶粒径を大きくするためには、焼成温度を高くすることが必要である。また、Bi23等の粒成長促進材を副成分として添加する方法が用いられている。特許文献1ではBi23を添加し結晶粒径を大きくすることが提案されている。ただし、単に結晶粒径を大きくするだけでは不十分であり、磁壁のピンニングの原因となる空孔を結晶粒内に残存させないことが必要である。
【0006】
磁気異方性を小さくするためには、使用環境温度で結晶磁気異方性定数(K1)が最小となる組成を選定する必要がある。また、焼成工程では正の異方性を持つFe2+量を最適化する必要があり、焼成温度に対する酸素濃度を調整する必要がある。また、組成の不均一性が存在するとスピネル格子サイズの不均一性により歪が発生し、磁歪の影響により磁気異方性が増大するため、ナノレベルでの組成均一性が必要である。
【0007】
材料の比抵抗を高くするためには、結晶粒、もしくは粒界層の比抵抗を高くする必要がある。結晶粒の比抵抗を高くするためには、Fe2+からFe3+への酸化、もしくは置換が有効である。Fe2+の酸化のためには、焼成の冷却過程において酸素rich状態にする必要がある。Fe2+の置換のためには、Ti、Sn等の4価のスピネル置換元素を副成分として添加する手法がとられている。粒界層の比抵抗を高くする方法としては、例えば、特許文献2に示されるように、SiO2、CaO等の粒界層形成材を副成分として添加物する手法がとられている。また、焼成の冷却過程において酸素rich状態とし、粒界層を十分に酸化する必要がある。
【0008】
以上述べたように、高いインピーダンスを有するMnZnフェライトを得るためには、高い初透磁率と高い比抵抗を同時に実現するように、主成分組成、添加物、焼成方法を吟味する必要がある。
【0009】
【特許文献1】特公昭52−29439号公報
【特許文献2】特開2000−299216号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
高い初透磁率を得る目的で、結晶粒径を大きくするためには、焼成温度を高くすることが有効であることを先に述べた。しかしながら、焼成温度を高くしすぎると焼成体表面からZnOが揮発し、組成の不均一性、スピネル格子の不均一性から歪が発生する。この歪の影響により、磁気異方性の増大を招き、初透磁率が低くなる。
【0011】
また、結晶粒径を大きくするためには、Bi23等の粒成長促進材を副成分として添加する方法が有効であることを先に述べた。しかしながら、添加量が多すぎると異常粒成長を促進し、結晶粒内に空孔を取り込むことから初透磁率の低下を招く。また、異常粒は、渦電流損失を増加させ、比抵抗の低下を招く。
【0012】
比抵抗を高くするためには、SiO2、CaO等の粒界層形成材を副成分として添加することが有効であることを先に述べた。しかしながら、これらの粒界層形成材は同時に結晶粒径を抑制する効果をもつことから、比抵抗の向上は見込めるものの、初透磁率の低減を招く。
【0013】
以上述べたように、高い初透磁率と高い比抵抗を同時に実現するMnZnフェライトの作製は困難であるという問題がある。
【0014】
本発明は、このような問題を解決すべくなされたもので、その技術的課題は、高い初透磁率と高い比抵抗を同時に実現し、高インピーダンス特性を有する高透磁率MnZnフェライトの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、昇温過程、保持過程、冷却過程を有する高透磁率MnZnフェライトの焼成工程において、500℃から保持温度までの昇温過程における昇温速度を350℃/hr以上、前記昇温過程における酸素濃度を10000ppm(体積百万分率を示す)以下とすることにより、結晶粒径を大きくすることが可能となる。また、磁壁のピンニングの原因となる空孔を結晶粒内に残存させないので、高い初透磁率を有するMnZnフェライトの製造方法が得られる。
【0016】
また、本発明によれば、高透磁率MnZnフェライトの焼成工程において、保持温度での保持過程における酸素濃度を2段階とし、1段目の保持酸素濃度を20vol%(体積百分率を示す)以上、2段目の保持酸素濃度を5vol%以上30vol%以下、1段目の保持時間を2時間以上20時間以下、2段目の保持時間を1時間以上4時間以下とすることにより、粒成長を促進させ、且つ焼成体表面から揮発するZnOを抑制し、高い初透磁率を有するMnZnフェライトの製造方法が得られる。
【0017】
また、本発明によれば、高透磁率MnZnフェライトの焼成工程において、冷却過程における酸素濃度が、酸素濃度PO2と温度Tの関数であるlog(PO2)=−A/T+Bで規定され、前記関数におけるAは、8000以上18000以下とすることにより、粒界層の酸化による粒界抵抗の向上が図れ、高い比抵抗を有するMnZnフェライトの製造方法が得られる。なお、ここで酸素濃度PO2の単位はvol%(体積百分率)であり、温度Tの単位は絶対温度Kである。前記関数において、Bは保持過程での温度と酸素濃度から規定されるものであり、2段階の保持過程を設定する場合は、2段目の保持温度と保持酸素濃度から決定される。前記関数は、冷却過程における酸素濃度を、保持酸素濃度を基点とし、温度の関数として緩やかに制御することを目的とするものである。また、以上の焼成工程は大気圧下(ほぼ1気圧)で行われることが多いため、酸素濃度はvol%もしくはppmで示されているが、焼成工程が大気圧下以外の条件で行われる場合には、酸素分圧に換算して適用すれば良い。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、昇温過程、保持過程、冷却過程を有する高透磁率MnZnフェライトの焼成工程を以下のように制御することにより、高い初透磁率と高い比抵抗を同時に実現し、高インピーダンス特性を有する高透磁率MnZnフェライトの製造方法が得られ、ノイズフィルタ用のフェライトコアに適した高性能の高透磁率MnZnフェライトを提供できる。
【0019】
即ち、500℃から保持温度までの昇温過程における昇温速度を350℃/hr以上、前記昇温過程における酸素濃度を体積百万分率10000ppm以下とし、保持温度での保持過程における酸素濃度を2段階とし、1段目の保持酸素濃度を20vol%以上、2段目の保持酸素濃度を5vol%以上30vol%以下、1段目の保持時間を2時間以上20時間以下、2段目の保持時間を1時間以上4時間以下とし、冷却過程における酸素濃度が、酸素濃度PO2と温度Tの関数であるlog(PO2)=−A/T+Bで規定され、前記関数におけるAは、8000以上18000以下とすることにより、高い初透磁率と高い比抵抗を同時に実現し、高インピーダンス特性を有する高透磁率MnZnフェライトの製造方法が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
種々の検討を行った結果、500℃から保持温度までの昇温過程における昇温速度を350℃/hr以上、前記昇温過程における酸素濃度を体積百万分率で10000ppm以下とすることにより、保持直前の結晶粒径、及び空孔径を小さくすることができるため、結晶粒内に残存する空孔をなくすことができる。即ち、磁壁のピンニングの原因となる空孔を結晶粒内に残存させないことにより高い初透磁率が得られることが分かった。
【0021】
500℃から保持温度までの昇温過程における昇温速度を350℃/hr以上、前記昇温過程における酸素濃度を10000ppm以下としたのは、昇温速度が350℃/hr以下、もしくは酸素濃度が10000ppm以上であると、保持直前の結晶粒、及び、空孔径が大きくなり、焼成後の結晶粒径が小さくなることに加え、磁壁のピンニングの原因となる空孔を結晶粒内に残存させることになることから初透磁率が小さくなるためである。保持段階で結晶粒は成長するが、保持直前で結晶粒、空孔が大きくなると、粒成長速度は低下するため、保持直前までは、結晶粒径及び空孔径を小さくするような、上述の昇温条件とすることが望ましい。
【0022】
また、保持温度での保持過程における酸素濃度を2段階とし、1段目の保持酸素濃度を20vol%以上、2段目の保持酸素濃度を5vol%以上30vol%以下、1段目の保持時間を2時間以上20時間以下、2段目の保持時間を1時間以上4時間以下とすることにより、大きな結晶粒が得られ、且つ焼成体表面から揮発するZnOを抑制することにより高い初透磁率が得られることが分かった。
【0023】
1段目保持酸素濃度を20vol%以上、2段目保持酸素濃度を5vol%以上30vol%以下、1段目保持時間を2時間以上20時間以下、2段目保持時間を1時間以上4時間以下としたのは、次に述べる理由によるものである。1段目保持時間を2時間以下、2段目保持時間を1時間以下とすると、粒成長が進まず結晶粒径が小さくなり、初透磁率の低下を招く。1段目保持酸素濃度が20vol%以下、2段目保持酸素濃度を5vol%以下、1段目保持時間が20時間以上、2段目保持時間が4時間以上とすると、焼成体表面からZnOが揮発し、初透磁率の低下を招く。また、2段目保持酸素濃度を30vol%以上とすると、冷却過程においてヘマタイトが生成し、初透磁率の低下を招く。
【0024】
冷却過程における酸素濃度が、酸素濃度PO2と温度Tの関数であるlog(PO2)=−A/T+Bで規定され、前記関数におけるAは、8000以上18000以下とすることにより、粒界層の酸化による粒界抵抗の向上が図れ、高い比抵抗が得られることが分かった。なお、ここで酸素濃度PO2の単位はvol%(体積百分率)であり、温度Tの単位は絶対温度Kである。
【0025】
図2は、冷却過程において、各温度Tにおける任意の酸素濃度PO2下でのMnZnフェライトの状態を表す説明図である。冷却過程における酸素濃度が、log(PO2)=−A/T+Bで規定される酸素濃度PO2と温度Tの関数において、Aを8000以上18000以下としたのは、Aが8000以下とすると、図2において、前記関数の傾きが小さくなることを意味し、酸素濃度が高いままなので酸化が進み過ぎ、スピネルからヘマタイトが析出し初透磁率が低くなるためである。また、Aが18000以上であると、図2において、前記関数の傾きが大きくなることを意味し、酸素濃度が急速に低下してしまうので結晶粒、粒界層とも十分に酸化できず、比抵抗が小さくなるためである。
【実施例】
【0026】
(実施例1)
発明品として、52.5mol%のFe23、22.5mol%のZnO、残部MnOの主成分と、これらの主成分100重量部に対し、さらに副成分として0.002wt%のSiO2、CaOに換算して0.025wt%のCa(OH)2、0.06wt%のBi23、0.25wt%のMoO3を添加し、アトライターを用いて2時間混合した。混合後、スプレードライヤーで造粒し、混合粉末を850℃の大気中で2時間予焼した。得られた予焼粉末をアトライターを用いて粉砕した。粉砕後、スプレードライヤーにて造粒し、φ25mm−φ15mm−12mmのトロイダル形状にプレスした。
【0027】
焼成は500℃から1350℃までの昇温過程において、昇温速度を300℃〜700℃/hrとし、酸素濃度を体積百万分率で30ppm〜15000ppmとして昇温した。1350℃の保持温度にて、酸素濃度を2段階に設定し、1段目は50vol%の酸素濃度で、5時間保持した。2段目は20vol%の酸素濃度で、2時間保持した。また、冷却過程の酸素濃度は、log(PO2)=−A/T+Bで規定される酸素濃度PO2と温度Tの関数において、Aを12000として冷却した。
【0028】
また、従来品として、発明品と同様に52.5mol%のFe23、22.5mol%のZnO、残部MnOの主成分と、これらの主成分100重量に対し、さらに副成分として0.002wt%のSiO2、CaOに換算して0.025wt%のCa(OH)2、0.06wt%のBi23、0.25wt%のMoO3を添加し、アトライターを用いて2時間混合した。混合後、スプレードライヤーで造粒し、混合粉末を850℃の大気中で2時間予焼した。得られた予焼粉末をアトライターを用いて粉砕した。粉砕後、スプレードライヤーにて造粒し、φ25mm−φ15mm−12mmのトロイダル形状にプレスした。
【0029】
従来品の焼成は、500℃から1350℃までの昇温過程で、昇温速度を300℃/hrとし、そのときの酸素濃度を20vol%として昇温した。1350℃の保持温度にて、酸素濃度を3vol%とし、2時間保持した。冷却過程の酸素濃度は、log(PO2)=−A/T+Bで規定される酸素濃度PO2と温度Tの関数において、Aを12000として冷却した。
【0030】
表1に、従来品と、昇温過程の昇温速度及び酸素濃度を変えて焼成した発明品の、平均結晶粒径、比抵抗、10kHz及び150kHzにおける初透磁率(表中ではμで示す)、更に、巻線を10ターン巻いたときのインピーダンス(表中ではZで示す)の150kHzにおける値を示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1に示すように、発明品は従来品と比較し、平均結晶粒径が大きく、10kHzにおける初透磁率が高いことがわかる。また、従来品と比較し、比抵抗が高いことから、高周波数帯域の150kHzにおける初透磁率μ、インピーダンスZが高いことがわかる。また、本発明の昇温過程の昇温速度を350℃/hr以上、酸素濃度を体積百万分率で10000ppm以下とした場合に、比抵抗と初透磁率のバランスがとれており、インピーダンスを高くすることができることがわかる。
【0033】
図1に、発明品3と従来品の初透磁率μ、インピーダンスZの周波数特性を示す。発明品は、従来品と比較し、ほぼ全周波数範囲で初透磁率μ、インピーダンスZが高いことが確認できた。この結果から、広帯域にわたり、高い初透磁率と高いインピーダンス特性を有する高透磁率MnZnフェライトが得られおり、ノイズフィルタ用フェライトコアとして有用であることがわかる。
【0034】
(実施例2)
発明品として、52.5mol%のFe23、22.5mol%のZnO、残部MnOの主成分と、これらの主成分100重量部に対し、さらに副成分として0.002wt%のSiO2、CaOに換算して0.025wt%のCa(OH)2、0.06wt%のBi23、0.25wt%のMoO3を添加し、アトライターを用いて2時間混合した。混合後、スプレードライヤーで造粒し、各混合粉末を850℃の大気中で2時間予焼した。得られた予焼粉末をアトライターを用いて粉砕した。粉砕後、スプレードライヤーにて造粒し、φ25mm−φ15mm−12mmのトロイダル形状にプレスした。
【0035】
焼成は500℃から1350℃の昇温過程において、昇温速度を700℃/hrとし、酸素濃度を体積百万分率で5000ppmとして昇温した。1350℃の保持温度にて、酸素濃度を2段階に設定し、1段目は10vol%〜95vol%の酸素濃度で、1時間〜30時間保持した。2段目は3vol%〜40vol%の酸素濃度で、0.5時間〜5時間保持した。また、冷却過程の酸素濃度は、log(PO2)=−A/T+Bで規定される酸素濃度PO2と温度Tの関数において、Aを12000として冷却した。
【0036】
また、従来品として、52.5mol%のFe23、22.5mol%のZnO、残部MnOの主成分と、これらの主成分100重量に対し、さらに副成分として0.002wt%のSiO2、CaOに換算して0.025wt%のCa(OH)2、0.06wt%のBi2O3、0.25wt%のMoO3を添加し、アトライターを用いて2時間混合した。混合後、スプレードライヤーで造粒し、各混合粉末を850℃の大気中で2時間予焼した。得られた予焼粉末をアトライターを用いて粉砕した。粉砕後、スプレードライヤーにて造粒し、φ25mm−φ15mm−12mmのトロイダル形状にプレスした。
【0037】
従来品の焼成は、500℃から1350℃までの昇温過程で、昇温速度を300℃/hrとし、そのときの酸素濃度を20vol%として昇温した。1350℃の保持温度にて、酸素濃度を3vol%とし、2時間保持した。冷却過程の酸素濃度は、log(PO2)=−A/T+Bで規定される酸素濃度PO2と温度Tの関数において、Aを12000として冷却した。
【0038】
表2に、従来品と、保持温度での酸素濃度を2段階に設定し、1段目と2段目の酸素濃度と保持時間を変えて焼成した発明品の、平均結晶粒径、比抵抗、10kHz及び150kHzにおける初透磁率(表中ではμで示す)、更に、巻線を10ターン巻いたときのインピーダンス(表中ではZで示す)の150kHzにおける値を示す。
【0039】
【表2】

【0040】
表2に示すように、発明品は従来品と比較し、平均結晶粒径が大きく、10kHzにおける初透磁率が高いことがわかる。また、従来品と比較し、比抵抗が高いことから、高周波数帯域の150kHzにおける初透磁率μ、インピーダンスZが高いことがわかる。また、本発明の酸素濃度を2段階に設定し、1段目は20vol%以上の酸素濃度で、2時間以上20時間以下で保持し、2段目は5vol%〜30vol%の酸素濃度で、1時間以上4時間以下で保持した場合に、比抵抗と初透磁率のバランスがとれており、インピーダンスを高くすることができることがわかる。
【0041】
(実施例3)
発明品として、52.5mol%のFe23、22.5mol%のZnO、残部MnOの主成分と、これらの主成分100重量部に対し、さらに副成分として0.002wt%のSiO2、CaOに換算して0.025wt%のCa(OH)2、0.06wt%のBi23、0.25wt%のMoO3を添加し、アトライターを用いて2時間混合した。混合後、スプレードライヤーで造粒し、各混合粉末を850℃の大気中で2時間予焼した。得られた予焼粉末をアトライターを用いて粉砕した。粉砕後、スプレードライヤーにて造粒し、φ25mm−φ15mm−12mmのトロイダル形状にプレスした。
【0042】
焼成は500℃から1350℃の昇温過程において、昇温速度を700℃/hrとし、酸素濃度を体積百万分率で5000ppmとして昇温した。1350℃の保持温度にて、酸素濃度を2段階に設定し、1段目は50vol%の酸素濃度で、5時間保持した。2段目は20vol%の酸素濃度で、2時間保持した。また、冷却過程の酸素濃度は、log(PO2)=−A/T+Bで規定される酸素濃度PO2と温度Tの関数において、Aを7000〜19000として冷却した。
【0043】
また、従来品として、52.5mol%のFe23、22.5mol%のZnO、残部MnOの主成分と、これらの主成分100重量に対し、さらに副成分として0.002wt%のSiO2、CaOに換算して0.025wt%のCa(OH)2、0.06wt%のBi23、0.25wt%のMoO3を添加し、アトライターを用いて2時間混合した。混合後、スプレードライヤーで造粒し、各混合粉末を850℃の大気中で2時間予焼した。得られた予焼粉末をアトライターを用いて粉砕した。粉砕後、スプレードライヤーにて造粒し、φ25mm−φ15mm−12mmのトロイダル形状にプレスした。
【0044】
従来品の焼成は、500℃から1350℃までの昇温過程で、昇温速度を300℃/hrとし、そのときの酸素濃度を20vol%として昇温した。1350℃の保持温度にて、酸素濃度を3vol%とし、2時間保持した。冷却過程の酸素濃度は、log(PO2)=−A/T+Bで規定される酸素濃度PO2と温度Tの関数において、Aを12000として冷却した。
【0045】
表3に、従来品と、冷却過程の酸素濃度を、log(PO2)=−A/T+Bで規定される酸素濃度PO2と温度Tの関数において、Aの値を変えた発明品の、平均結晶粒径、比抵抗、10kHz及び150kHzにおける初透磁率(表中ではμで示す)、更に、巻線を10ターン巻いたときのインピーダンス(表中ではZで示す)の150kHzにおける値を示す。
【0046】
【表3】

【0047】
表3に示すように、発明品は、平均結晶粒径が大きく、10kHzにおける初透磁率が高いことがわかる。また、従来品と比較し、比抵抗が高いことから、高周波数帯域の150kHzにおける初透磁率μ、インピーダンスZが高いことがわかる。また、本発明のAを8000〜18000に設定した場合は、比抵抗と初透磁率のバランスがとれており、インピーダンスを高くすることができることがわかる。
【0048】
(実施例4)
表4に、保持温度を変えて焼成した発明品の、平均結晶粒径、比抵抗、10kHz及び150kHzにおける初透磁率(表中ではμで示す)、更に、巻線を10ターン巻いたときのインピーダンス(表中ではZで示す)の150kHzにおける値を示す。焼成は、500℃から保持温度までの昇温過程で、昇温速度を700℃/hrとし、酸素濃度を体積百万分率で5000ppmとして昇温した。1250℃〜1450℃の保持温度にて、酸素濃度を2段階に設定し、1段目は50vol%の酸素濃度で、5時間保持した。2段目は20%の酸素濃度で、2時間保持した。また、冷却過程の酸素濃度は、log(PO2)=−A/T+Bで規定される酸素濃度PO2と温度Tの関数において、Aを12000として冷却した。
【0049】
【表4】

【0050】
上述した実施例1、2、3においては、保持温度を1350℃と設定したが、この温度に限定されるものではなく、表4に示すように、保持温度を変えて実施しても、従来品と比較して良好な特性が得られる。また、保持温度が1300℃〜1400℃の範囲において、比抵抗と初透磁率がバランスよく高い値を得られており、インピーダンスを高くすることができるので、この温度範囲で保持することがより望ましい。
【0051】
以上の結果より、本発明の製造方法を採用することによって、従来品と比較し、高い初透磁率と高い比抵抗を同時に実現し、広周波数帯域にわたって高インピーダンス特性を有する高透磁率MnZnフェライトが得られることがわかった。また、本発明で得られた高透磁率MnZnフェライトを使用することで、高性能のノイズ用フェライトコアを提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】発明品3と従来品の初透磁率μ、インピーダンスZの周波数特性を示す図。
【図2】冷却過程において、各温度Tにおける任意の酸素濃度PO2下でのMnZnフェライトの状態を表す説明図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇温過程、保持過程、冷却過程を有する高透磁率MnZnフェライトの焼成工程において、500℃から保持温度までの昇温過程における昇温速度を350℃/hr以上、前記昇温過程における酸素濃度を体積百万分率で10000ppm以下とすることを特徴とする高透磁率MnZnフェライトの製造方法。
【請求項2】
前記高透磁率MnZnフェライトの焼成工程において、保持温度での保持過程における酸素濃度を2段階とし、1段目の保持酸素濃度を20vol%以上、2段目の保持酸素濃度を5vol%以上30vol%以下、1段目の保持時間を2時間以上20時間以下、2段目の保持時間を1時間以上4時間以下とすることを特徴とする請求項1に記載の高透磁率MnZnフェライトの製造方法。
【請求項3】
前記高透磁率MnZnフェライトの焼成工程において、冷却過程における酸素濃度が、酸素濃度PO2と温度Tの関数であるlog(PO2)=−A/T+Bで規定され、前記関数におけるAは、8000以上18000以下とすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高透磁率MnZnフェライトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−173474(P2009−173474A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−11651(P2008−11651)
【出願日】平成20年1月22日(2008.1.22)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】