説明

高速アップダウン耐久試験装置

【課題】高速アップダウン耐久試験装置において、ロータ半径が小さくて総使用時間が長くて高速回転に耐え得る駆動機の使用により、耐久試験装置自体の寿命を長くする。
【解決手段】ベースVと一体となった支持ブラケットBに支持される被試験体Tと、該被試験体Tの入力軸1と同心となって前記ベースVに設置される駆動機Mの駆動軸2とがカップリング5,6,8を介して連結されて、前記駆動機Mの回転速度を高速においてアップダウンさせて、前記被試験体Tの疲労強度を確認するための高速アップダウン耐久試験装置において、前記駆動機Mを永久磁石型同期電動機で構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動機の回転速度を高速においてアップダウンさせて、前記駆動機により回転される被試験体の疲労強度を確認するための高速アップダウン耐久試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高速アップダウン耐久試験装置(以下、単に「耐久試験装置」と略す場合もある)とは、例えば特許文献1,2に開示されているように、自動車の変速機等の被試験体(供試体)を高速において加速・減速させて、被試験体の疲労強度、寿命(耐久時間)等を試験室において短時間に評価するための装置である。図1(イ)は、耐久試験装置の模式的構成図であって、耐久試験装置は、ベースVと一体となった支持ブラケットBに支持された被試験体Tと、該被試験体Tの入力軸1と同心となって前記ベースVに支持される駆動機Mと、該駆動機Mの駆動軸2及び前記被試験体Tの入力軸1と同心となるように前記ベースV上に設置された軸受ユニットUとを備え、駆動機Mの回転を軸受ユニットUを介して被試験体Tに伝達されて、被試験体Tを高速において加速・減速させる構成である。駆動機Mの駆動軸2と軸受ユニットUの入力軸3との間に中間軸4が配設されて、各軸2,3,4は、それぞれカップリング5,6を介して連結され、軸受ユニットUの出力軸7と被試験体Tの入力軸1とは、カップリング8を介して連結されている。そして、耐久試験装置においては、高速における加速・減速の程度は、例えば20,000rpm/min/秒の程度で駆動機Mの回転数を増減(アップダウン)させている。即ち、数秒毎に異なる方向の角加速度が与えられた状態で、被試験体を回転させることにより、故意に衝撃力、異常な力等を加えて、被試験体を試験室において短時間で寿命加速試験を行って、その耐久性能が限られた時間内において評価される。
【0003】
そして、従来の耐久試験装置では、駆動機としてかご型誘導電動機を使用したものが多かった。図4は、かご型誘導電動機を構成するアルミダイキャスト製のロータR’の縦断面図であり、図5は、同じくロータR’の仮想的分解斜視図であり、図6は、アルミエンドリング23に異常な力が作用してクラックCが発生することを示す図4の部分拡大図であり、図7は、クラックCが発生したアルミエンドリング23を示す斜視図である。なお、図5の状態を「仮想的分解斜視図」と称したのは、現実にはアルミバー22とアルミエンドリング23とが分離されることはないからである。図4ないし図7において、アルミダイキャスト製のロータR’は、外周部に多数本の軸方向のバー孔20が周方向に沿って所定間隔をおいて形成されたかご体21を備え、アルミダイキャストによって、前記かご体21の各バー孔20に溶融アルミニウムをダイキャストして、各アルミバー22の両端部がアルミエンドリング23で連結された構成である。各アルミバー22の両端部には、短円筒状をしたシュリンクリング25が嵌め込まれる。
【0004】
そして、かご型誘導電動機の低速回転時には、アルミエンドリング23の内周面の位置は、図7で実線で示されるようであるが、高速回転時に加速・減速が繰り返されると、遠心力の作用によって、アルミエンドリング23の内周面、及び端面の各位置は、図6で二点鎖線で示されるように変形される。即ち、アルミエンドリング23の端面が軸方向外方に膨出されると共に、その内周面が半径方向外方に変形させられる。そして、上記変形が百万回程度だけ繰り返されることにより、アルミエンドリング23が塑性変形されて、アルミエンドリング23とシュリンクリング25との間の絞圧がなくなると共に、アルミエンドリング23の部分にクラックCが発生するに至る(図7参照)。
【0005】
アルミダイキャストによるロータR’は、上記不具合の他に以下の不具合も有していた。(1)ロータR’のエンドリング材として電気抵抗の小さな純アルミニウムを使用しているために、機械的強度が小さい(耐力σ0.2 =20N/mm2 )。(2)誘導機であるために、二次銅損が発生して発熱し、熱応力が発生して、前記クラック等の発生を促進させる。(3)磁石のように磁束密度を高く設計できないので、ロータ径が大きくなって遠心力(F=mrω2)も大きくなる。(4)ロータ径が大きくなることにより、自身を回転させるためのトルク(T=mr2/2 ・Δω) が必要となる。但し、m,r,Δωは、それぞれロータ質量,ロータ半径,及びアップダウン角加速度である。
【特許文献1】特開平5−87697号公報
【特許文献2】特開平5−87698号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高速アップダウン耐久試験装置において、ロータ半径が小さくて総使用時間が長くて高速回転に耐え得る駆動機の使用により、耐久試験装置自体の寿命を長くすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために請求項1の発明は、ベースと一体となった支持ブラケットに支持される被試験体と、該被試験体の入力軸と同心となって前記ベースに設置される駆動機の駆動軸とがカップリングを介して連結されて、前記駆動機の回転速度を高速においてアップダウンさせて、前記被試験体の疲労強度を確認するための高速アップダウン耐久試験装置において、前記駆動機は、永久磁石型同期電動機で構成されていることを特徴としている。
【0008】
請求項1の発明によれば、以下の各作用効果が奏される。(1)ロータの磁極として永久磁石を使用した同期電動機であるため、磁束密度を高く設計できるため、ロータ径を小さくできて、高速回転時における遠心力を小さく抑えられる結果、構成部品のクラック発生、破損等を抑制できて、寿命が長くなると共に、ロータ径が小さいために、自身を回転させるのに必要なトルクも小さくなって、電力効率が高くなる。(2)同期電動機であるために誘導電動機と異なり、エンドリングが不要となって、磁石を保持するシュリンクリングとして非磁性高張力鋼(耐力σ0.2 =1000N/mm2 )を選定可能となって、高速回転に耐え得る。(3)同期電動機であるために、二次銅損の発生が少なくなって、熱応力の発生が少なくなり、構成部品のクラック発生、破損等を抑制できる。
【0009】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記被試験体と駆動機を構成する永久磁石型同期電動機との間に軸受ユニットが設置されていることを特徴としている。
【0010】
試験時に被試験体が破損した場合でも、被試験体と駆動機との間に設置された軸受ユニットの存在により、駆動機まで破損されることがなくなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、高速アップダウン耐久試験装置において、駆動機が永久磁石型同期電動機で構成されているために、磁束密度を高く設計できるため、ロータ径を小さくできて、高速回転時における遠心力を小さく抑えられる結果、構成部品のクラック発生、破損等を抑制できて、寿命が長くなると共に、ロータ径が小さいために、自身を回転させるのに必要なトルクも小さくなって、より高速回転に耐え得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、最良の実施形態を挙げて本発明について更に詳細に説明する。図2は、永久磁石型同期電動機のロータRの縦断面図であり、図3は、同じく分解斜視図である。永久磁石型同期電動機とは、ロータRの回転方向(周方向)に沿ってN極とS極とを交互に形成されるようにして、ロータRの外周部に永久磁石からなる磁極片を嵌め込んで、永久磁石による磁極を形成し、ステータにより形成された回転磁界の各磁極と前記ロータRの外周部に形成された各磁極とが、互いに吸引及び反発することにより、回転磁界に対してロータRがすべることなく同期して回転する構成の電動機である。
【0013】
図2及び図3において、永久磁石型同期電動機のロータRは、ロータ軸11の大径部11aの外側に、横断面が円弧状をしたN極とS極の永久磁石からなる各磁極片12が周方向に沿って交互に貼り付けられて、ロータRの高速回転による遠心力により各磁極片12がロータ軸11から剥がれるのを防止するために、前記各磁極片12の外側にシュリンクリング13が嵌め込まれ、更にロータ軸11の大径部11aの両端部にバランスリング14が嵌め込まれた構成である。前記ロータRの極数は4である。このため、ステータのコイルに通電させて回転磁界を発生させると、ロータRの各磁極と回転磁界とは、交互に吸引・反発し合って、ロータRは、回転磁界に対してすべることなく同期して回転される。
【0014】
上記構成の永久磁石型同期電動機を耐久試験装置の駆動機Mとして使用すると、駆動機Mが、ロータRの磁極として永久磁石を使用した同期電動機であるため、磁束密度を高く設計できるため、ロータ径を小さくできる。この結果、高速回転時における遠心力を小さく抑えられて、構成部品のクラック発生、破損等を抑制できて、寿命が長くなると共に、ロータ径が小さいために、自身を回転させるのに必要なトルクも小さくなって、耐久試験装置自体の寿命が長くなる。また、同期電動機であるために誘導電動機と異なり、エンドリングが不要となって、永久磁石で構成された磁極片12を保持するシュリンクリング13として非磁性高張力鋼(耐力σ0.2 =1000N/mm2 )を選定可能となって、より高速回転に耐え得る。更に、同期電動機であるために、二次銅損の発生が少なくなって、熱応力の発生が少なくなり、構成部品のクラック発生、破損等を抑制できる。
【0015】
他の永久磁石型同期電動機のロータとしては、ロータ軸に磁極としての永久磁石が埋め込まれた構成のものがあり、シュリンクリングを用いないで永久磁石をロータ軸に取付けることができて、高速回転に対応できる。
【0016】
また、耐久試験装置の全体構成としては、駆動機と被試験体Tとの間に軸受ユニットUが配置された構成であると、被試験体Tが破損されても、被試験体Tと駆動機との間に設置された軸受ユニットUにより、駆動機までが破損されるのを防止できる利点があるが、図1(ロ)に示されるように、軸受ユニットUを有せずに,中間軸4を介して駆動機と被試験体Tとを連結した構成の耐久試験装置に対しても当然に実施可能である。
【0017】
なお、本発明において使用する永久磁石型同期電動機、及び従来方法で使用されていた誘導電動機のいずれにおいても、数秒毎に異なる方向の角加速度を与えて回転させるには、交流電源の周波数を上記した時間単位で正負の両方向に変換させて行っている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(イ)は、軸受ユニットUを備えた高速アップダウン耐久試験装置の模式図であり、(ロ)は、軸受ユニットUを備えない高速アップダウン耐久試験装置の模式図である。
【図2】永久磁石型同期電動機のロータRの縦断面図である。
【図3】同じく分解斜視図である。
【図4】かご型誘導電動機を構成するアルミダイキャスト製のロータR’の縦断面図である。
【図5】同じくロータR’の仮想的分解斜視図である。
【図6】アルミエンドリング23に異常な力が作用してクラックCが発生することを示す図4の部分拡大図である。
【図7】クラックCが発生したアルミエンドリング23を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0019】
B:支持ブラケット
M:駆動機
R:ロータ
T:被試験体
V:ベース
1:被試験体の入力軸
2:駆動機の駆動軸
5,6,8:カップリング
11:ロータ軸
12:永久磁石による磁極片
13:シュリンクリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースと一体となった支持ブラケットに支持される被試験体と、該被試験体の入力軸と同心となって前記ベースに設置される駆動機の駆動軸とがカップリングを介して連結されて、前記駆動機の回転速度を高速においてアップダウンさせて、前記被試験体の疲労強度を確認するための高速アップダウン耐久試験装置において、
前記駆動機は、永久磁石型同期電動機で構成されていることを特徴とする高速アップダウン耐久試験装置。
【請求項2】
前記被試験体と駆動機を構成する永久磁石型同期電動機との間に軸受ユニットが設置されていることを特徴とする請求項1に記載の高速アップダウン耐久試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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