説明

高速反転パルス電源装置

【課題】損失が小さく、小型でコストが低く、どのようなパルス幅であっても良好な波形の反転パルス電流を供給することができる高速反転パルス電源装置を提供する。
【解決手段】中性点に対しプラス、マイナス両極性の直流を出力するスイッチング方式の両極性直流電源を設け、両極性直流電源のプラス極と中性点との間に半導体スイッチ11aと半導体スイッチ11bを直列に接続し、両極性直流電源の中性点と両極性直流電源のマイナス極との間に半導体スイッチ12aと半導体スイッチ12bを直列に接続し、半導体スイッチ11a、11bの接続点と半導体スイッチ12a、12bの接続点との間にコンデンサ14を接続し、両極性直流電源のプラス極とマイナス極との間に半導体スイッチ15aと半導体スイッチ15bを直列に接続し、半導体スイッチ15a、15bの接続点と中性点との間から出力を取り出すようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気めっき等に使用する高速反転パルス電源装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ある種の電気めっきでは周期的に反転する電流を流すとその鍍膜の物性が良くなることが知られており、銅めっきでは古くからPR銅めっきとして実用化されている。この銅のPRめっきは数秒以上の周期で極性を反転させるものであるが、近年百マイクロ秒ないし数ミリ秒単位の周期で高速に極性を反転させると、ある種のめっきのめっき品質に顕著な改善効果があることが見出されており、クロムめっきやニッケルめっき等にも使用されるようになってきている。こうしためっきをするための高速反転パルス電源装置としては例えば特許文献1に示されるようなものが提案されており、本願出願人は特許文献1に示される電源装置の問題点を解決した高速反転パルス電源装置に関し特願2007−322698として出願中である。
【0003】
この特許文献1で開示されている電源装置は、第1直流電源装置と、第2直流電源装置と、上記第1直流電源装置の一方の出力端と、上記第2直流電源装置の他方の出力端及び負荷の一端との間に設けられた第1リアクトルと、高速でオン、オフする第1主スイッチング素子との直列回路と、上記第2直流電源装置の一方の出力端と、上記第1直流電源装置の他方の出力端及び負荷の他端との間に設けられた第2リアクトルと、上記第1主スイッチング素子のオン、オフに対応し相補的にオフ、オンする第2主スイッチング素子との直列回路と、上記第1リアクトルの出力と上記第1直流電源装置の他方の出力端との間に上記第1主スイッチング素子のオン、オフに対応し相補的にオフ、オンする第1補助スイッチング素子と、上記第2リアクトルの出力と上記第2直流電源装置の他方の出力端との間に、上記第2主スイッチング素子のオン、オフに対応し相補的にオフ、オンする第2補助スイッチング素子と、第1、第2補助スイッチング素子とそれぞれ並列に接続され、第1、第2クランプ用ダイオードと上記第1、第2クランプ用ダイオードにそれぞれ直列に接続され定常時ピーク電圧で充電される第1、第2クランプ用コンデンサにより構成される第1、第2クランプ回路と、上記第1又は第2補助スイッチング素子の両端をそれぞれ検出する第1又は第2電圧検出器と、上記第1又は第2電圧検出器の検出信号が所定電圧以上のときに上記第1又は第2補助スイッチング素子をオンさせる制御装置とにより構成されたものである。
【0004】
この構成では第1補助スイッチング素子がオンの間は第1直流電源装置の出力が第1リアクトルにより短絡され、また、第2補助スイッチング素子がオンの間は第2直流電源装置の出力が第2リアクトルにより短絡されてそれぞれのリアクトルにエネルギーが蓄積される。第1主スイッチング素子がオンになると第1補助スイッチング素子がオフになり、第1リアクトルに蓄積されたエネルギーは正の電流として負荷に供給され、第2主スイッチング素子がオンになると第2補助スイッチング素子がオフになり、第2リアクトルに蓄積されたエネルギーは負の電流として負荷に供給されることになる。
【0005】
この方式はリアクトルに流しておいた電流を負荷に移行させるものであり、各通電時の電流の立ち上がりは良好であるが、通電時以外も、変圧器、補助スイッチング素子、リアクトルに電流を流し続けることから損失が大きくなり、使用率が低くても大型のリアクトルを要することから装置を小型にできないという問題があった。この問題を解決した特願2007−322698の発明は、正極性電流供給用の電源の出力と負極性電流供給用の電源を設けて正極性電流供給用の電源の出力と負極性電流供給用の電源の出力とを極性を逆にして並列接続したものであり、負極性電流供給用の電源はパルス変圧器を介して電流を供給するようにしたものである。
【0006】
これにより通電時以外の時間に変圧器、補助スイッチング素子、リアクトル等に電流を流し続けることがないので損失が小さくなり、大型のリアクトルを必要としないことから装置を小型化することが可能となった。ところが、負極性パルスの電流はパルス変圧器を介して供給しているため、極端に長い幅の負極性パルスが必要な場合にはそのパルス電力を通過させるに充分な電圧時間積を有するパルス変圧器が必要となり、パルス変圧器を大型にしなければならないという問題があった。この問題を解決する方法として本願出願人は正極性電流供給用の電源を構成するDC−DCコンバータとは別に第二のDC−DCコンバータを設け、該第二のDC−DCコンバータの出力をパルス変圧器の二次コイルと直列に接続して長い幅の負極性パルスを第二のDC−DCコンバータから供給することを考えた。しかしながらこの方法ではDC−DCコンバータが2個必要になりコストがかさむという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−129397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の問題点を解決し、損失が小さく、小型でコストが低く、どのようなパルス幅であっても良好な波形の反転パルス電流を供給することができる高速反転パルス電源装置を提供するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の問題を解決するためになされた本発明の高速反転パルス電源装置は、中性点に対しプラス、マイナス両極性の直流を出力するスイッチング方式の両極性直流電源を設け、両極性直流電源のプラス極と中性点との間に第一の半導体スイッチと第二の半導体スイッチを直列に接続し、両極性直流電源の中性点と両極性直流電源のマイナス極との間に第三の半導体スイッチと第四の半導体スイッチを直列に接続し、第一の半導体スイッチと第二の半導体スイッチの接続点と第三の半導体スイッチと第四の半導体スイッチの接続点との間にコンデンサを接続し、両極性直流電源のプラス極とマイナス極との間に第五の半導体スイッチと第六の半導体スイッチを直列に接続し、第五の半導体スイッチと第六の半導体スイッチの接続点と中性点との間から出力を取り出すことを特徴とするものである。
【0010】
ここにおいて、正極性パルス期間の終了時に第一の半導体スイッチと第四の半導体スイッチをオンにし、負極性パルス期間の開始時に第二の半導体スイッチと第六の半導体スイッチをオンにし、負極性パルス期間中第六の半導体スイッチをオンにし、負極性パルス期間の終了時に第一の半導体スイッチと第四の半導体スイッチをオンにし、正極性パルス期間の開始時に第三の半導体スイッチと第五の半導体スイッチをオンにし、正極性パルス期間中第第五の半導体スイッチをオンにする駆動信号を順次生成するとともに、正極性パルス期間中または負極性パルス期間中出力電流が設定値になるように両極性直流電源を制御する制御手段を設けることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、正極性パルス期間の終了時と負極性パルス期間の終了時に第一の半導体スイッチと第四の半導体スイッチをオンにすることにより回路のインダクタンスに蓄えられているエネルギーをコンデンサに回収して蓄えることができ、特に負荷回路のインダクタンスに蓄えられたエネルギーを回収することで正極性パルス及び負極性パルスの電流を急速に立ち下げることができる。また、負極性パルス期間の開始時には第二の半導体スイッチと第六の半導体スイッチを、正極性パルス期間の開始時には第三の半導体スイッチと第五の半導体スイッチをそれぞれオンにすることによりコンデンサに蓄えられているエネルギーを負荷に放出することができ、負極性パルス及び正極性パルスの電流を急速に立ち上げることができる。
【0012】
このように回路のインダクタンスに蓄えられているエネルギーをコンデンサに回収することにより電流を急速に立ち下げ、コンデンサに回収して蓄えられているエネルギーを負荷に放出することにより電流を急速に立ち上げるので、パルス電流の立ち上がり時間、立ち下り時間が短くなるだけでなく、エネルギーが失われないので高効率となる効果がある。また、パルス電流が立ち上がった後は両極性直流電源から電流が供給されることになるが、両極性直流電源をスイッチング方式としていることから追従性がよく、良好な波形のパルス電流が供給される利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の構成を示す結線図である。
【図2】動作時の要部の波形図である。
【図3】動作時の電流の経路を示す図である。
【図4】動作時の電流の経路を示す図である。
【図5】動作時の電流の経路を示す図である。
【図6】動作時の電流の経路を示す図である。
【図7】動作時の電流の経路を示す図である。
【図8】動作時の電流の経路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明を実施するための最良の形態について、図を参照しながら具体的に説明する。
図1は本発明の第一の実施の形態を示す主回路の結線図であって、整流器1により交流入力端子2から供給される交流電力を直流電力に変換する直流電源のプラス極に半導体スイッチ3a、3bのプラス極が接続してあり、該半導体スイッチ3a、3bのマイナス極にはそれぞれマイナス極を直流電源のマイナス極に接続した半導体スイッチ4a、4bのプラス極が接続してある。
【0015】
半導体スイッチ3a、4aの接続点と半導体スイッチ3b、4bの接続点との間には変圧器5の一次コイルが接続してあり、該変圧器5の二次コイルにはセンタータップ6を設けるとともに両端にそれぞれダイオード7a、7bのアノードとダイオード8a、8bのカソードが接続してある。ダイオード7a、7bのカソードは相互に接続したうえリアクトル9の一端に、ダイオード8a、8bのアノードは相互に接続したうえリアクトル10の一端にそれぞれ接続してあり、これらの整流器1、半導体スイッチ3a、3b、4a、4b、変圧器5及びダイオード7a、7b、8a、8bは中性点に対しプラス、マイナス両極性の直流を出力するスイッチング方式の両極性直流電源を構成し、センタータップ6が中性点、リアクトル9の他端がプラス極、リアクトル10の他端がマイナス極となる。
【0016】
両極性直流電源のプラス極であるリアクトル9の他端には第一の半導体スイッチである半導体スイッチ11aのプラス極が接続してあり、該半導体スイッチ11aのマイナス極には第二の半導体スイッチである半導体スイッチ11bのプラス極を接続し、半導体スイッチ11bのマイナス極は両極性直流電源の中性点であるセンタータップ6に接続してある。また、センタータップ6には第三の半導体スイッチである半導体スイッチ12aのプラス極が接続してあり、該半導体スイッチ12aのマイナス極には第四の半導体スイッチである半導体スイッチ12bのプラス極を接続し、半導体スイッチ12bのマイナス極は両極性直流電源のマイナス極であるリアクトル10の他端に接続してある。
【0017】
これにより両極性直流電源のプラス極と中性点との間には半導体スイッチ11aと半導体スイッチ11bが直列に接続されることになり、中性点と両極性直流電源のマイナス極との間には半導体スイッチ12aと半導体スイッチ12bが直列に接続されることになる。これらの半導体スイッチ11aと半導体スイッチ11bの接続点と、半導体スイッチ12aと半導体スイッチ12bの接続点との間には、コンデンサ電流検出器13を介してコンデンサ14が接続してある。
【0018】
また、両極性直流電源のプラス極には第五の半導体スイッチである半導体スイッチ15aのプラス極が接続してあり、該半導体スイッチ15aのマイナス極には第六の半導体スイッチである半導体スイッチ15bのプラス極が接続してあり、半導体スイッチ15bのマイナス極は両極性直流電源のマイナス極に接続してある。これにより両極性直流電源のプラス極とマイナス極の間には半導体スイッチ15aと半導体スイッチ15bが直列に接続されることになる。半導体スイッチ15aと半導体スイッチ15bの接続点は出力端子16aに接続してあり、出力端子16bは出力電流検出器17を介してセンタータップ6に接続してある。上記の回路を構成する半導体スイッチ3a、3b、4a、4b、半導体スイッチ11a、11b、12a、12b及び半導体スイッチ15a、15bは逆方向に導通するダイオードを内蔵したものとし、高速な素子とするのが望ましい。
【0019】
図中18は制御装置であり、正極性パルス及び負極性パルスの時間すなわち各パルス幅をそれぞれ設定してタイミング信号を生成するタイミング回路と、正極性パルス及び負極性パルスの出力電流をそれぞれ設定して電流基準信号を生成する電流設定回路と、出力電流を制御するPWM変調回路とが設けてある。また、制御装置18にはコンデンサ電流検出器13から得られるコンデンサ電流検出信号、出力電流検出器17から得られる出力電流検出信号、出力電圧検出信号及びコンデンサ14の両端の電圧を検出して得られるコンデンサ電圧検出信号が入力してある。
【0020】
これらの回路を設け、各検出信号を入力した制御装置18はタイミング信号及びコンデンサ電流検出信号、出力電流検出信号、出力電圧検出信号、コンデンサ電圧検出信号等の条件により半導体スイッチ11a、11b、12a、12b及び半導体スイッチ15a、15bを個別にオンさせる駆動指令信号を生成して駆動装置19に与えるように構成してあり、タイミング信号及び電流基準信号と出力電流検出信号により半導体スイッチ3a、4bと半導体スイッチ3b、4aとを交互にオンさせる駆動指令信号を生成して駆動装置20に与えるように構成してある。駆動装置19は駆動指令信号に基づき、絶縁するとともに増幅して各半導体スイッチ11a、11b、12a、12b及び半導体スイッチ15a、15bのゲートに加えるようにしてあり、駆動装置20は駆動指令信号に基づき、絶縁するとともに増幅して各半導体スイッチ3a、3b、4a、4bのゲートに加えるようにしてある。
【0021】
前記のように構成した制御装置18は以下のように動作するものとしてある。運転開始時は正極性パルス期間となり、半導体スイッチ15aに駆動信号を与え、半導体スイッチ3a、4bと半導体スイッチ3b、4aに交互に駆動信号を与える。正極性パルス期間の終了時には半導体スイッチ3a、3b、4a、4b、15aに駆動信号を与えるのを止め、半導体スイッチ11a、12bに駆動信号を与える。コンデンサ電流検出信号によりコンデンサ14の電流がゼロになると負極性パルス期間に入り、負極性パルス期間の開始時には半導体スイッチ3a、3b、4a、4b、11b、15bに駆動信号を与え、出力電流検出信号により出力電流が設定値に達したことが検出されるか、コンデンサ電圧検出信号によりコンデンサ14の電圧がゼロになったことが検出されると半導体スイッチ11bに駆動信号を与えるのを止め、負極性パルス期間中は引き続き半導体スイッチ3a、3b、4a、4b、15bに駆動信号を与える。
【0022】
負極性パルス期間の終了時には半導体スイッチ3a、3b、4a、4b、15bに駆動信号を与えるのを止め、半導体スイッチ11a、12bに駆動信号を与える。コンデンサ電流検出信号によりコンデンサ14の電流がゼロになると正極性パルス期間に入り、正極性パルス期間の開始時には半導体スイッチ3a、3b、4a、4b、12a、15aに駆動信号を与え、出力電流検出信号により出力電流が設定値に達したことが検出されるか、コンデンサ電圧検出信号によりコンデンサ14の電圧がゼロになったことが検出されると半導体スイッチ12aに駆動信号を与えるのを止め、正極性パルス期間中は上記のように引き続き半導体スイッチ3a、3b、4a、4b、15aに駆動信号を与える。
【0023】
以下このように構成された高速反転パルス電源装置の動作について説明する。基本的には正極性のパルスと負極性のパルスを交互に出力するものであるが、めっき用の場合正極性通電期間に鍍膜が形成されるので、通常正極性通電時間は負極性通電期間の数倍以上に設定される。図2は2個の正極性のパルスが出力される間に1個の負極性のパルスが出力されるときの要部の波形を示すもので、A、Bはそれぞれ半導体スイッチ15a、15bの駆動信号、C、D及びE、Fはそれぞれ半導体スイッチ11a、11b及び半導体スイッチ12a、12bの駆動信号、Gは半導体スイッチ3aと4bの駆動信号、Hは半導体スイッチ3bと4aの駆動信号であり、Jは出力電流、Kは出力電圧、Lは両極性直流電源のプラス側の出力電圧、M及びNはコンデンサ14の電流と電圧である。両極性直流電源のマイナス側の出力電圧がLとは極性が逆で絶対値が同じであることはいうまでもなく、波形Lの点線は平均電圧を示している。
【0024】
交流入力端子2から供給された交流電力は整流器1により直流電力に変換され、半導体スイッチ3a、3b、4a、4bの回路に供給される。正極性パルス期間中は半導体スイッチ15aに駆動信号が与えられ、半導体スイッチ3a、4bと半導体スイッチ3b、4aには交互に駆動信号が与えられる。これにより半導体スイッチ15aがオン、半導体スイッチ3a、4bと半導体スイッチ3b、4aが交互にオンとなり、変圧器5の一次コイルに交流電流が流れる。変圧器5の二次コイルに誘起した交流電力はダイオード7a、7bにより整流され、リアクトル9と半導体スイッチ15aを通して出力端子16aがプラス、出力端子16bがマイナスの正極性パルスが出力される。
【0025】
負荷は等価的にインダクタンスLと抵抗Rの直列回路と見なすことができるので変圧器5の二次側以降では図3に実線矢印で示すリアクトル9、半導体スイッチ15a、出力端子16a、インダクタンスL、抵抗R、出力端子16b、出力電流検出器17の経路を通って電流が流れることになり、負荷には正極性のパルス電流が流れる。出力電流は出力電流検出器17により検出され、検出された出力電流検出信号と設定された正極性パルス電流の電流基準信号との誤差は増幅されてPWM変調回路に与えられる。PWM変調回路はその誤差が最小になるように半導体スイッチ3a、4bと半導体スイッチ3b、4aに与える駆動信号をパルス幅制御し、正極性パルス電流は正極性パルス電流の設定値に制御される。ここで、出力端子16aに陽極板、出力端子16bに被めっき物を接続し、めっき液に浸漬しておけばめっき皮膜が形成される。
【0026】
正極性パルス期間が終了すると半導体スイッチ3a、3b、4a、4b、15aには駆動信号が与えられなくなり、半導体スイッチ11a、12bに駆動信号が与えられる。これにより半導体スイッチ15a、半導体スイッチ3a、3b、4a、4bはすべてオフ、半導体スイッチ11a、12bがオンとなる。リアクトル9には流れていた正極性パルス電流によりエネルギーが蓄えられており、そのエネルギーにより図4に鎖線矢印で示すリアクトル9、半導体スイッチ11a、コンデンサ14、コンデンサ電流検出器13、半導体スイッチ12aの経路を通って電流が流れ、リアクトル9に蓄えられていたエネルギーがコンデンサ14に移行する。このとき半導体スイッチ12aでは内蔵される逆方向のダイオードを通して電流が逆方向に流れるものである。
【0027】
また、インダクタンスLにもエネルギーが蓄えられており、そのエネルギーにより図4に実線矢印で示すインダクタンスL、抵抗R、出力端子16b、出力電流検出器17、半導体スイッチ11b、コンデンサ14、コンデンサ電流検出器13、半導体スイッチ12b、半導体スイッチ15b、出力端子16aの経路を通って電流が流れ、インダクタンスLに蓄えられていたエネルギーもコンデンサ14に移行する。リアクトル9及びインダクタンスLに蓄えられていたエネルギーがコンデンサ14に移行することによりコンデンサ14の電圧は上昇し、正極性パルス電流は急速に減少してゼロになる。エネルギーの移行が終了するとコンデンサ14には電流が流れなくなるので、これがコンデンサ電流検出器13により検出され、負極性パルス期間に入ることになる。
【0028】
負極性パルス期間の最初では、半導体スイッチ11b、15bに駆動信号が与えられ、半導体スイッチ3a、4bと3b、4aには交互に駆動信号が与えられる。これにより半導体スイッチ11b、15bがオン、半導体スイッチ3a、4bと3b、4aが交互にオンになり、コンデンサ14に蓄えられていたエネルギーは図5に実線矢印で示す半導体スイッチ11b、出力電流検出器17、出力端子16b、抵抗R、インダクタンスL、出力端子16a、半導体スイッチ15b、半導体スイッチ12b、コンデンサ電流検出器13の経路を通って放出されることになる。このときコンデンサ14の電圧はリアクトル9及びインダクタンスLに蓄えられていたエネルギーが移行していることにより上昇しており、インダクタンスLに高い電圧が加わることとなって負極性パルス電流が急速に立ち上がる。
【0029】
負極性パルス電流が負極性パルス電流の設定値に達するか、コンデンサ14に蓄えられていたエネルギーが完全に放出されて電圧がゼロになるかした時点で、半導体スイッチ11bに駆動信号が与えられなくなり、半導体スイッチ11bはオフになる。これらの条件は制御装置18に出力電流検出信号及びコンデンサ電圧検出信号が入力されていることにより検知される。半導体スイッチ3a、4bと3b、4aが交互にオンとなり変圧器5の一次コイルに交流電流が流れているので二次コイルに誘起した交流電力はダイオード8a、8bにより整流され、図6に実線矢印で示す出力電流検出器17、出力端子16b、抵抗R、インダクタンスL、出力端子16a、半導体スイッチ15b、リアクトル10の経路を通って負極性パルス電流が継続して流れ、その電流はPWM変調回路により負極性パルス電流の設定値に制御される。この負極性の通電では被めっき物に過剰に付着しためっき皮膜の先端部を溶解することを主な目的としている。
【0030】
負極性パルス期間が終了すると半導体スイッチ3a、3b、4a、4b、15bには駆動信号が与えられなくなり、半導体スイッチ11a、12bに駆動信号が与えられる。これにより半導体スイッチ3a、3b、4a、4b、15bはすべてオフ、半導体スイッチ11a、12bがオンとなる。リアクトル10には流れていた負極性パルス電流によりエネルギーが蓄えられており、そのエネルギーにより図7に鎖線矢印で示す半導体スイッチ11b、コンデンサ14、コンデンサ電流検出器13、半導体スイッチ12b、リアクトル10の経路を通って電流が流れ、リアクトル10に蓄えられていたエネルギーがコンデンサ14に移行する。
【0031】
また、インダクタンスLにもエネルギーが蓄えられており、そのエネルギーにより図7に実線矢印で示すインダクタンスL、出力端子16a、半導体スイッチ11a、コンデンサ14、コンデンサ電流検出器13、半導体スイッチ12a、出力電流検出器17、出力端子16b、抵抗Rの経路を通って電流が流れ、インダクタンスLに蓄えられていたエネルギーもコンデンサ14に移行する。リアクトル10及びインダクタンスLに蓄えられていたエネルギーがコンデンサ14に移行することによりコンデンサ14が充電され、出力電流は急速に減少してゼロになる。エネルギーの移行が終了するとコンデンサ14には電流が流れなくなるので、これがコンデンサ電流検出器13により検出され、正極性パルス期間に入ることになる。
【0032】
正極性パルス期間の最初では、半導体スイッチ12a、15aに駆動信号が与えられ、半導体スイッチ3a、4bと3b、4aには交互に駆動信号が与えられる。これにより半導体スイッチ12a、15aがオン、半導体スイッチ3a、4bと半導体スイッチ3b、4aが交互にオンとなり、コンデンサ14に蓄えられていたエネルギーは図8に実線矢印で示す半導体スイッチ11a、半導体スイッチ15a、出力端子16a、インダクタンスL、抵抗R、出力端子16b、出力電流検出器17、半導体スイッチ12a、コンデンサ電流検出器13の経路を通って放出され、正極性パルス電流が急速に立ち上がることになる。
【0033】
正極性パルス電流が正極性パルス電流の設定値に達するか、コンデンサ14に蓄えられていたエネルギーが完全に放出されて電圧がゼロになるかした時点で、半導体スイッチ12aに駆動信号が与えられなくなり、半導体スイッチ12aはオフになる。半導体スイッチ3a、4bと半導体スイッチ3b、4aが交互にオンとなり変圧器5の一次コイルに交流電流が流れているので前記のように図3に実線矢印で示すリアクトル9、半導体スイッチ15a、出力端子16a、インダクタンスL、抵抗R、出力端子16b、出力電流検出器17の経路を通って正極性パルス電流が継続して流れ、その電流はPWM変調回路により正極性パルス電流の設定値に制御される。このようにして再度正極性パルス期間となり、以後同様に正極性パルス期間と負極性パルス期間とが繰り返される。
【0034】
ここにおいて一般的には負極性パルスの電流の方が正極性パルスの電流より大きいので、正極性パルス電流の立ち上がりに必要なエネルギーは負極性パルス電流の立ち上がりに必要なエネルギーより小さく、また、負極性パルス期間の終了時にコンデンサ14に蓄えられるエネルギーよりも小さい。図2では正極性パルス期間の初めでコンデンサ14に蓄えられたエネルギーが全て放出される以前に正極性パルス電流が立ち上がった様子が示されており、そのため正極性パルス期間中コンデンサ14に電圧が残存しているのである。
【0035】
以上説明したように、本発明によれば、正極性パルス期間の終了時と負極性パルス期間の終了時には回路のリアクトル9、10、インダクタンスL等に蓄えられているエネルギーをコンデンサ14に移行させて蓄えており、負極性パルス期間の開始時と正極性パルス期間の開始時にはコンデンサ14に蓄えられているエネルギーを負荷に放出しているので、パルス電流を急速に立ち下げあるいは立ち上げることができるだけでなく、回路に蓄えられるエネルギーを有効に負荷に供給することができ、損失が少なく効率が高いという利点がある。また、パルス電流が立ち上がった後は両極性直流電源から電流が供給されることになるが、両極性直流電源をスイッチング方式としていることから追従性がよく、良好な波形のパルス電流が供給される利点がある。
【符号の説明】
【0036】
1 整流器
2 交流入力端子
3a、3b、4a、4b 半導体スイッチ
5 変圧器
6 センタータップ
7a、7b、8a、8b ダイオード
9、10 リアクトル
11a、11b、12a、12b 半導体スイッチ
13 コンデンサ電流検出器
14 コンデンサ
15a、15b 半導体スイッチ
16a、16b 出力端子
17 出力電流検出器
18 制御装置
19、20 駆動装置
L インダクタンス
R 抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性点に対しプラス、マイナス両極性の直流を出力するスイッチング方式の両極性直流電源を設け、両極性直流電源のプラス極と中性点との間に第一の半導体スイッチと第二の半導体スイッチを直列に接続し、両極性直流電源の中性点と両極性直流電源のマイナス極との間に第三の半導体スイッチと第四の半導体スイッチを直列に接続し、第一の半導体スイッチと第二の半導体スイッチの接続点と第三の半導体スイッチと第四の半導体スイッチの接続点との間にコンデンサを接続し、両極性直流電源のプラス極とマイナス極との間に第五の半導体スイッチと第六の半導体スイッチを直列に接続し、第五の半導体スイッチと第六の半導体スイッチの接続点と中性点との間から出力を取り出すことを特徴とする高速反転パルス電源装置。
【請求項2】
正極性パルス期間の終了時に第一の半導体スイッチと第四の半導体スイッチをオンにし、負極性パルス期間の開始時に第二の半導体スイッチと第六の半導体スイッチをオンにし、負極性パルス期間中第六の半導体スイッチをオンにし、負極性パルス期間の終了時に第一の半導体スイッチと第四の半導体スイッチをオンにし、正極性パルス期間の開始時に第三の半導体スイッチと第五の半導体スイッチをオンにし、正極性パルス期間中第第五の半導体スイッチをオンにする駆動信号を順次生成するとともに、正極性パルス期間中または負極性パルス期間中出力電流が設定値になるように両極性直流電源を制御する制御手段を設けたことを特徴とする請求項1に記載の高速反転パルス電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−1624(P2011−1624A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147444(P2009−147444)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(000150202)株式会社中央製作所 (35)
【Fターム(参考)】