説明

高速差動伝送ケーブル

【課題】ケーブルの導体太さを増加させることなく低損失化された複数の信号線対からなるフラット状の高速差動伝送ケーブルを提供する。
【解決手段】電気導体11の2本を一組として差動伝送する信号線対S(Sp,Sn)とし、該信号線対をフラット状に複数配列し、絶縁樹脂を押出して被覆した高速差動伝送ケーブルである。複数本の単心線または撚り線からなる電気導体11を所定の間隔Pで平行一列に並べて絶縁樹脂からなる絶縁体12で一体に被覆し、絶縁体12の外周を金属箔テープ13を縦添えして覆ったものである。また、前記の金属箔テープ13の外周を絶縁樹脂からなる外被で覆った構成としてもよい。なお、信号線対S間には、グランド線Gが配される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルデータ等を高速で伝送するのに用いられるフラット状の高速差動伝送ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルデータを高速で伝送しようとする場合、データ信号を高レベルから低レベル(あるいは低レベルから高レベル)に移行するまでの時間(遷移時間と言われている)を短くする必要がある。遷移時間を短くするには、信号振幅を小さくすればよい。しかし、信号振幅を小さくすると、外部雑音に弱くなるという問題がある。そこで、一対の信号線を使って逆位相の信号を伝送し、データ受信側では、伝送信号の差分をデータとする差動伝送方法が知られている。この方法は、伝送信号の受信側で、逆位相の信号の差分を出力するものである。この差分出力は、送信側の信号信幅を小さくしても受信側での信号振幅は2倍となる。伝送路中で入り込むノイズは、一対の信号線に同じように重畳されるため相殺される。
【0003】
上記の信号伝送は、低電圧差動信号方式(LVDS:Low Voltage Differential Signaling )と言われているもので、データ信号を一対の導線で小さい電圧変化の差動信号で伝送し、高速・低消費電力・低ノイズを実現することができる。このような信号伝送方式は、1本のケーブルで映像信号・音声信号・制御信号を伝送する統合インタフェイスであるHDMI(High-Definition Multimedia Interface )およびパソコンとハードディスクを接続するインタフェイスであるシリアルATA(Advanced Technology Attachment)などに使用するのに効率的であるとされている。
【0004】
上記のような用途で、高速差動信号を伝送するのに、例えば、特許文献1に開示のようなケーブルを使用することが知られている。このケーブルには、例えば、図5に示すような差動ケーブルの複数本を、スダレ状に並べたスダレケーブルと称されているものがある。このスダレケーブル9は、図5(A)に示すような一対の信号線をシールドしてなる差動ケーブル8を、図5(B)に示すように、複数本平行一列に並べて隣り合う差動ケーブル同士を熱融着させて形成される。
【0005】
各差動ケーブル8は、中心導体1を誘電体層2で被覆し、その外周にスキン層3を設けて信号線とし、この信号線の2本(4a,4b)を平行に並べて形成される。次いで、平行に並べられた信号線4aと4bの両外側には、ドレイン線5a,5bが配設される。そして、この配置構造を保持しつつ、その外周に金属箔テープからなる外部導体6が巻き付けられ、さらにその外側をジャケット層7で被覆して最終構造される。
【0006】
中心導体1は、例えば、7本の銀メッキ軟銅線を撚って、外径が0.609mm(AWG24番)とした撚り線が用いられる。誘電体層2は、多孔質PTFE(四フッ化エチレン樹脂)テープを0.37mmの厚さで中心導体1の外周に被覆して形成される。スキン層3は、厚さが0.09mmのFEP(四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体樹脂)で形成され、誘電体層2の外面を覆っている。
【0007】
ドレイン線5a,5bは、中心導体1よりも細径で、7本の銀メッキ軟銅線を撚って外径が0.306mm(AWG30番)とした撚り線が用いられる。外部導体6は、金属蒸着テープ等を螺旋状、または、縦添えで巻き付けて形成される。ジャケット層7は、厚さ0.25mmでノンハロゲン難燃性オレフィン樹脂で形成され、長径側の外径を4.3mmとし、これを複数組平行一列に並べて長径側の側面同士を融着し、一体化させている。
【特許文献1】特開2002−304921号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
プラズマディスプレイや液晶ディスプレイが大型化するにつれて、その機器内配線材として使用される信号伝送ケーブルも長くなる。現在、数十cm程度の長さで配線されているのを、例えば、2m以上の長さで配線しようとする。この場合、伝送損失の問題が生じ、現行のケーブルを単に長くすればよいということでは対応することが難しくなる。例えば、信号伝送ケーブルが高周波領域で使用される場合、信号線を被覆している誘電体層の誘電損失も、周波数が高くなるにつれて大きくなる。特に、HDMIの使用周波数は825MHz以上であり、この場合の伝送損失は、無視することができない値となる。
【0009】
信号伝送ケーブルの伝送損失の増加を回避するには、中心導体等の太さを大きくする必要があるが、図5に開示のスダレケーブルでは、ケーブル径が大きくなる。このため、柔軟性が低下して取り扱い性が悪くなるとともに、配線スペースの問題も生じてくる。
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたもので、ケーブル径を増加させることなく低損失化された複数の信号線対からなるフラット状の高速差動伝送ケーブルの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による高速差動伝送ケーブルは、電気導体の2本を一組として差動伝送する信号線対とし、該信号線対をフラット状に複数配列し、絶縁樹脂を押出して被覆した高速差動伝送ケーブルで、複数本の単心線または撚り線からなる電気導体を所定の間隔で平行一列に並べて絶縁樹脂からなる絶縁体で一体に被覆し、絶縁体の外周を金属箔テープを縦添えして覆ったものである。また、前記の金属箔テープの外周を絶縁樹脂からなる外被で覆った構成としてもよい。
【0011】
前記の複数組の各信号線対間には、グランド線を配して信号線対間のカップリングを低減させる。また、金属箔テープにドレイン線を電気的に接触させて配設し、金属箔テープの接地接続をしやすくする。なお、複数本の電気導体の間隔は、0.5mm以下の狭ピッチに設定して、所定の伝送特性が得られるようにする。また、絶縁体と金属箔テープとは接着剤により接着され、そのための接着剤が縞鋼板の模様で絶縁体または金属箔テープに塗布される。
【0012】
また、前記の金属箔テープは、絶縁体に1.5重以上巻き付けて難燃性をもたせる。金属箔テープの外周が外被で覆われている場合は、外被をポリウレタン樹脂とエチレン酢酸ビニル共重合樹脂との混合樹脂で形成して難燃性をもたせる。
その他、絶縁体にカーボンブラックを0.4重量%〜0.6重量%添加して、YAGレーザによる金属箔の加工を容易にする。また、ケーブルの折り曲げられる箇所には金属箔テープが切断しない最小曲げ半径よりも大きな曲げ半径の曲げ規制部材を取り付けた構成としてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、信号線の径を太くすることなく低損失の高速差動伝送ケーブルを実現することができ、電子機器間または電子機器内の配線距離が長くなる場合にも、損失増加を抑制して、高速での信号伝送を効率よく行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図により本発明の実施の形態を説明する。図1は外被を有しないケーブルの断面を示し、図2は外被を有するケーブルの断面を示す。図において、10a,10bは高速差動伝送ケーブル、11は電気導体、12は絶縁体、13は金属箔テープ、14はドレイン線、15は外被、Sp,Snは信号線、Sは信号線対、Gはグランド線を示す。
【0015】
本発明の高速差動伝送ケーブル10aは、図1に示すように、複数本の電気導体11を所定の間隔で平行一列に並べて形成される。これらの複数本の電気導体11は、絶縁樹脂からなる絶縁体12で被覆され、その外側にシールド導体としての金属箔テープ13がケーブル長手方向に縦添えして巻き付けられる。また、必要に応じて、ドレイン線14が金属箔テープ13に電気的に接触するように、絶縁体12との間に配設される。なお、このドレイン線14は、ケーブルの側縁の片側または両側に配設されるのが好ましい。
【0016】
電気導体11は、銅やアルミ等の電気良導体またはこれらに錫や銀メッキを施した単心線あるいは撚り線を用いることができる。電気導体11は、外形が縦と横でほぼ等しい丸線形状のものが望ましい。フラットケーブルには、平形導体を用いるものもあるが、丸線形状の導体を使用することにより、差動伝送される信号間のカップリングを強くすることができる。また、信号間のカップリングを強くすることで、シールド導体(金属箔テープ13)に誘起される渦電流、および、それによるジュール損失を小さくし、低減衰とすることができる。
【0017】
また、電気導体11は、可撓性の点からは単心線より撚り線の方が好ましく、例えば、外径0.06mmの導線を7本撚り(AWG34番に相当、外径0.18mm)したものを用いることができる。この電気導体は、所定のピッチPで同一平面上で、平行一列に並べて、絶縁樹脂の押出し成形による絶縁体12で一体に被覆して、フラット状の多心絶縁ケーブル形状とされる。
【0018】
絶縁体12は、電気導体11間を電気的に絶縁するとともに、高周波領域での使用に対しては、電気導体11間および金属箔テープとの間に介在して、静電結合を形成するコンデンサとして機能する。このため、絶縁体12は誘電体とも言われ、その誘電正接(tanδ)および比誘電率(ε)は、伝送ケーブルの特性を左右するパラメータともなる。絶縁体12の誘電正接は、誘電損失を少なくするという点から小さい方が望ましく、また、比誘電率はケーブル径を細くするには小さい方が望ましい。
【0019】
したがって、絶縁体12の誘電正接および比誘電率のいずれも、低い方が伝送損失も小さく、高周波の信号を効率よく伝送することができると言える。しかし、機器との接続で所定の特性インピーダンスを確保することも必要で、誘電体材料と形状的な組み合わせで考慮する必要がある。
【0020】
本発明においては、例えば、この絶縁体12を形成する絶縁樹脂には、ポリオレフィン系の樹脂が用いられ、例えば、ポリエチレン樹脂等を用いることができる。ポリエチレン樹脂は、誘電正接が4×10−4 程度であり、比誘電率が2.3〜2.4で、ポリエステル樹脂(例えば、PETで誘電正接が2×10−3 程度、比誘電率が2.9〜3.0 )より小さく、好ましい材料と言える。なお、この絶縁体12は、所定の間隔で配列された複数本の電気導体11に対して、押出機を用いて押出し成形されていることが望ましい。
【0021】
絶縁体12を押出し成形する場合、絶縁体12の上下の平面は、電気導体11間で凹みが生じないようなフラットな面で形成されていることが望ましい。これにより、各電気導体11と絶縁体12の外周に巻き付けられる金属箔テープ13との間隔を一定にし、均一な特性インピーダンスとすることができる。
【0022】
金属箔テープ13は、上記のように電気導体11のうちの信号線との間で、所定の静電容量分布を形成して、所定の特性インピーダンスが得られるようにしている。この他、金属箔テープ13は、絶縁体12の外周を覆って、外部からの雑音信号(ノイズ信号)の侵入あるいは外部への信号の漏出を防止するシールド導体としての機能を備えている。
【0023】
この金属箔テープ13は、アルミまたは銅などの金属箔13aをポリエチレンテレフタレート(PET)等のプラスチック基材13bに貼り合わせて、或いは、蒸着して形成される。金属箔13aおよびプラスチック基材13bには、厚さが数μm〜数十μmのものが使用可能で、金属箔テープ13の全体としての厚さは、0.01mm〜0.05mmのものが使用される。例えば、金属箔13aとして厚さ9μmの銅箔を用い、テープ基材13bとして厚さ6μmのPETを用いて、全体厚さが15μmのCuPETテープとしたものを使用することができる。
【0024】
この金属箔テープ13は、その金属箔面を内側にして、絶縁体12に縦添えされ絶縁体12の幅で折り曲げられて、少なくともその重ね合わせ部分は接着剤13cにより接着固定される。金属箔テープ13の金属箔面を内側とすることにより、ケーブル外面に金属箔が露出しないため、外被がなくてもケーブルとしての一定範囲の耐久性を持たせることができる。
【0025】
また、金属箔テープ13は、電気導体11との間でインピーダンス整合をとる必要があるため、電気導体11との離間距離が一定である必要がある。このためには、金属箔テープ13の外周を外被15で覆わない場合は、金属箔テープ13は、絶縁体12にしっかりと貼り付いていることが好ましい。しかし、全面で隙間なく接着剤が塗布されている必要はなく、後述するように、金属箔テープ13が絶縁体12から浮くことが無いように貼り付いていれば、縞状等に接着剤が部分的に塗布されるのでもよい。
【0026】
ドレイン線14は、金属箔テープ13自体で接地接続が容易な場合は、必ずしも必要とするものではない。しかし、ドレイン線14を用いることにより金属箔テープ13の接地接続を容易にすることができ、必要に応じて設けられる。このドレイン線14は、上述した電気導体11とは別に配設され、ケーブルの側縁の片側または両側で絶縁体12と金属箔テープ13で挟むようにして配設される。なお、ドレイン線14には、電気導体11と同じものを用いてよいが、電気導体11よりは細いもの或いは太いものであってもよい。例えば、外径0.08mmの導線を7本撚り(AWG32番に相当、外径0.24mm)したものを用いることができる。
【0027】
図2は、前述の金属箔テープ13が巻き付けられた外被無しの高速差動伝送ケーブル10aに対し、金属箔テープ13の外側を外被15で覆った高速差動伝送ケーブル10bを示すものである。高速差動伝送ケーブル10bは、外被15で覆う構成以外の部分については、図1で説明した構成と実質的には同じ構成とすることができるので、詳細な説明を省略する。
【0028】
外被15は、ジャケットとも言われ、金属箔テープ13を含めてケーブル全体の保護のために設けられる。この外被15は、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン或いは後述のポリウレタン樹脂とエチレン酢酸ビニル共重合樹脂との混合樹脂等を、押出機を用いて押出し成形するか、樹脂テープを巻き付けて形成することができる。外被15は、金属箔テープ13を電気的に絶縁して保護するともに、その機械的強度を補強し、屈曲等に耐える強度をさらに強める。
【0029】
金属箔テープ13の外周が外被で被覆される場合、金属箔テープ13は、その金属箔面が外側になるように巻き付けてもよい。この場合、外被15で覆うことにより保護され耐久性を持たせることができる。また、金属箔テープ13が、金属箔面が外側になるように巻き付けられた場合、ドレイン線14は、金属箔テープ13の外側に配設する。そして、外被15で金属箔面に接するように押し付ける形態とされる。また、外被15で金属箔テープ13を覆う場合は、金属箔テープ13は絶縁体12に必ずしも接着しなくてよい。
【0030】
本発明による高速差動伝送ケーブル10a,10bは、以上のように形成された多心のケーブルを隣り合う電気導体11の2本を一組として、1つの信号線対とされたものである。図1および図2に示すように、信号線対は、少なくとも2以上の複数(例えば、5対のS1〜S5)を有する。そして、これらの信号線対を形成する一方の信号線(Sp1〜Sp5)を正電位の信号用,他方の信号線(Sn1〜Sn5)を反対の負電位の信号用とされる。また、電気導体11の本数に余裕がある場合は、各信号線対Sの間の電気導体をグランド線Gとして、隣り合う信号線対S間の信号の結合を低減し、クロストークが生じないようにしてもよい。
【0031】
上述の高速作動伝送ケーブル10a,10bを用いた伝送路において、送信側では、例えば、上記の信号線対S1では、信号線Sp1で極性が正レベルの(+V1)信号を伝送し、信号線Sn1で極性が負レベルの(−V1)信号を伝送する。そして、受信側では、両者の信号レベルの差「(+V1)−(−V1)」をとることにより、2V1のレベル信号を受信することができる。また、伝送経路中で侵入する外部雑音信号は、信号線Sp1とSn1に同相で加わるが、受信側で差信号をとることによりキャンセルされる。信号線対Sは、複数を平行一列に並べる形態で設けられ、それぞれの信号線対(S1〜S5)は、互いに異なる信号を個別に伝送することができる。
【0032】
各信号線対S間に配されたグランド線Gは、グランド電位とされる。グランド線Gは、各信号線対(S1〜S5)の両側を挟むように配され、信号線SpとSnの両者に対して電気的、物理的にバランスする配置状態とするのが好ましい。しかし、ケーブル両端に位置する信号線対S1とS5の外側は、信号線対Sが存在しないことから省略することもできる。また、この他に、信号線対Sに影響を与えない形態で、例えば、信号線群の配列ピッチの数倍の距離をおいたところに電源線等を備えていてもよい。
【0033】
信号線Sp,Sn、およびグランド線Gを形成する電気導体11の配列ピッチPは、電気的な絶縁が確保できる距離で、また、信号線SpとSnとの間の結合度を考慮すると、電気導体11の外径が0.18mm(AWG34番相当)の場合、0.5mm程度とすることができる。また、絶縁体12の被覆幅D1は、特性インピーダンスが所定値(例えば、100Ω)となるように、絶縁体12の誘電率を考慮して選択される。また、外被15を有する場合、外被の被覆幅D2は、被覆厚さが0.2mm程度で、内部の電気導体11の太さ、絶縁体12の被覆厚さによるが、1.0mm〜3.0mm程度とされる。
【0034】
上記の構成において、特性インピーダンス大きくするには、電気導体11の径を細くするか、または絶縁体12の厚さを大きくするが、特性的には絶縁体12の厚さを増加させるのが好ましい。反対に特性インピーダンスを小さくするには、電気導体11の径を太くするか、または絶縁体12の厚さを小さくするが、特性的には電気導体11の太さを増加させるのが好ましい。
【0035】
また、ケーブルの伝送損失としては、通常、5.0dB/使用長まで許容される。2mの使用長では、2.5dB/mが許容される。また、伝送損失は、使用周波数によっても異なるが、例えば、HDMIの使用周波数825MHzにおいて、電気導体11を7本撚り線で外径が0.18mm(AWG34番相当、)を用い、導体ピッチPを0.5mm、絶縁体12の厚さD1を導体ピッチPと同じ0.5mmとする。そして、絶縁体12にポリエチレンを用いた場合、伝送損失は1.5dB〜2.0dB/mと推定される。
【0036】
他方、図5に示すような極細の同軸構造を用いたスダレケーブルで、上記と同じ導体ピッチを0.5mmで形成し、所定の特性インピーダンスを得るには、中央導体の太さを外径0.03mmの7本撚り(AWG40番に相当、外径0.09mm)の細径にする必要がある。この結果、上記と同じ使用周波数825MHzにおける伝送損失は、4dB〜5dB/mとなり、本発明の場合と比べて2倍の損失となる。他方、従来構造で、本願発明と同等の伝送損失となるようにするには、スダレケーブルの幅、厚さが増大し、配線スペースが増大し、取り扱い性も低下する。
【0037】
図3は、金属箔テープの接着に関する実施の形態を説明する図である。図3(A)は、本発明による接着剤の付与形態の一例を説明する図、図3(B)はドレイン線と金属箔テープの電気接触と接着状態を説明する図、図3(C)は金属箔テープの接着部と非接着部について説明する図である。図中、16は接着縞、16a,16bは短尺バー状の接着縞、17は接着縞、18は空隙、19は接着面、20は非接着面を示す。
【0038】
金属箔テープ13は、図1,2の構成例で説明したように、金属箔テープ13の金属箔と電気導体11間の離間距離が一定に保持され、特性インピーダンスがケーブル全長に亘って均一にされていることが望ましい。外被15がない場合、金属箔テープ13と絶縁体12とが互いに接着され、一体的にされていることが好ましい。このため、接着剤が金属箔テープ13または絶縁体12のいずれかの接着面に付与される。接着剤には、例えば、ポリエステル系の接着剤を使用することができる。
【0039】
金属箔テープ13と絶縁体12との接着は、その全面で一様に接着する必要はない。このため、その接着面には、接着剤をゼブラ状、格子状、水玉状、縞鋼板状などの種々の形態で塗布して接着することができる。しかしながら、これらの塗布形状や塗布状態によっては、種々の問題を生じることがある。例えば、図1,2に示すドレイン線14を用いる場合、ドレイン線14が移動したり動いたりしないように、接着剤で固定されていることが望ましい。しかし、接着剤が金属箔テープ13側に塗布される場合、接着剤は、通常、電気絶縁性のものが用いられるので、金属箔テープ13とドレイン線14との電気接触が損なわれる恐れがある。
【0040】
図3(B)は、ドレイン線14を金属箔テープ13の金属箔面に接触する形態を示している。この図に示すように、ドレイン線14は、接着剤の塗布により生じる接着縞17の幅aで接着して保持される。接着縞17間には、間隔bの空隙18ができていて、ドレイン線14は、この空隙18内に落ち込むように屈曲して金属箔テープ13に電気的に接触する。したがって、空隙18の間隔bが狭いと、ドレイン線14と金属箔テープ13との接触状態が低下する。なお、接着縞17の幅aと空隙18の間隔bとは、a/b≦2であれば、問題ないことが判明した。
【0041】
また、図3(C)に示すように、金属箔テープ13と絶縁体12との接着面19と非接着面20とが斜め縞状である場合、例えば、非接着面20のN−Nラインに沿って折り曲げると、金属箔テープが非接着面20で浮いた状態になり、ケーブルのインピーダンスが変化する。さらに、この状態で繰り返し折り曲げられると、折りスジが生じて金属箔に破断が生じる恐れがある。
【0042】
以上のような事項を考慮すると、外被が無くかつドレイン線が有る場合は、接着剤の塗布形態としては、図3(A)に示すような、すべり止めの鋼板として知られる縞鋼板(チェッカードプレートとも言う)の模様に塗布するのが好ましいことが判明した。図3(A)は、展開された金属箔テープ13の接着面に縞鋼板模様で接着縞16を形成した例を示している。なお、外被15が無くかつドレイン線14も無い場合は、金属箔テープ13と絶縁体12とが接する部分の全面が接着していればよく、接着剤の塗布の仕方はいずれでもよい。
【0043】
外被15で金属箔テープ13を覆う場合は、外被15が金属箔テープ13を押さえ込むので、金属箔テープ13を絶縁体12に接着してもしなくてもよい。この場合、図3(A)に示したように、縞鋼板模様の接着縞16は、絶縁体の片面に接着する形態でもよく、全面に形成してもよい。
【0044】
この縞鋼板模様は、直交する短尺バー状の接着縞16aと16bを、交互に配し、全体を長手方向あるいは幅方向に傾斜させたものである。例えば、接着縞16a,16bの1片の幅を0.5mm、長さを4.5mm程度とし、任意の密度で絶縁体または金属箔テープ側の接着面に塗布する。この、縞鋼板模様の接着縞16を用いることにより、例えば、図3(B)で説明した「a/b」を「1/8」程度にすることが可能であり、これによりドレイン線と金属箔とを十分に接触させることができる。また、図3(C)で説明したような直線状の非接着面20が生じないようにすることができ、金属箔テープ13が筋状に浮き上がることもない。
【0045】
また、近年は、難燃性を備えたケーブルの要求が高く、UL規格の垂直燃焼試験VW−1に合格する硬度の難燃性ケーブルが求められている。
図4は、本発明によるケーブルの難燃性を高める構成例を示す図である。図1に示した外被無しのケーブルでは、金属箔テープ13を縦添えで巻き付けた重ね合わせ部分が、巻き付け状態を接着により保持する程度の狭い重なり量で形成されている。しかしながら、金属箔テープ13の巻き付けの重なり量が少ないと、燃焼により重なり部分の接着剤が融解する。そして、この重なり部分からテープ内側のポリエチレン樹脂が気化して洩れ出し、これが燃焼してケーブルの延焼を助長することになる。
【0046】
したがって、図4に示すように、金属箔テープ13の巻き付けの重なり部分を大きくすることが望ましい。試験の結果、金属箔テープ13を1.5重に巻き付けることで、燃焼ガスの漏れを抑制することができた。したがって、金属箔テープ13は、絶縁体の外周に1.5重以上に巻き付け、巻き付けの重なり部分を0.5巻き分以上とするのが好ましい。
また、金属箔テープ13の金属箔は、アルミ箔の場合、7μmの厚さでは穴があき難燃性試験に不合格となり、10μm以上の厚さが必要であった。銅箔の場合は、7μmの厚さで難燃性試験に合格した。したがって、難燃性を高めるには、銅箔テープを用いるのが好ましい。
【0047】
また、図2の外被を有するケーブルでは、外被材料に難燃性のものを用いることにより、難燃性を高めることができる。難燃性の外被としては、従来、ハロゲン系難燃剤を添加した難燃ポリエチレンやポリ塩化ビニル樹脂が用いられているが、環境問題からハロゲンを含まないハロゲンフリーの難燃性ケーブルの要求が高くなっている。本発明においては、ケーブルの外被として、ポリウレタン樹脂とエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)樹脂との混合樹脂(例えば、特開2008−117609号公報参照)を用いて、ケーブルの難燃化を実現している。難燃性の外被で金属箔テープ13を覆う場合は、金属箔テープ13は一部重なってさえいればよい。
【0048】
コネクタ接続等のための端末形成に際しては、シールド導体部分はYAGレーザを用いて切断することが望ましい。なお、絶縁体部分の切断には、通常、COレーザが用いられる。しかし、絶縁体が透明ないし自然色であると、YAGレーザでシールド導体を切断するときに絶縁体の内部の導体を劣化させることがある。一方、絶縁体を着色してYAGレーザが透過しにくくすると、今度は、COレーザによる絶縁体の切断がしにくくなる。
【0049】
本発明においては、絶縁体にカーボンブラックを添加して、絶縁体の色を薄黒とするのが望ましい。なお、カーボンブラックの添加量は、0.5wt%程度(0.4重量%〜0.6重量%)とするのが好ましい。この程度のカーボンブラックの添加量であれば、YAGレーザが内部の導体に影響を与えることなく、金属箔テープのみを切断することができる。また、絶縁体に対しては、COレーザによる切断が確保できる。
【0050】
また、シールド導体を有するフラットケーブルでは、外被の有無に関係なく、極端に折り曲げ(最小曲げ径以下での曲げ)られると、シールド導体を形成している金属箔テープの金属箔に亀裂が入ったり切断されたりすることがある。このため、ケーブルが所定の曲げ半径以下の半径で曲げられないように、折り曲げられる箇所には、金属箔テープが切断しない最小曲げ半径よりも大きな曲げ半径とする曲げ規制手段を、備えていることが望まれている。
【0051】
本発明においては、ケーブルが所定の曲げ径以下には曲げられないような、曲げ規制部材を予め曲げが想定される個所に接着等で設けておく。曲げ規制部材は、円筒、円柱、半円筒、半円柱の棒状部材で形成することができる。なお、これらの曲げ規制部材の湾曲面の半径は、例えば、ケーブルの90°の折り曲げに対しては、曲げ半径1.5mm程度、180°の折り曲げに対しては、曲げ半径2.5mm程度とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明による高速差動伝送ケーブル(外被無し)の構成例を説明する図である。
【図2】本発明による高速差動伝送ケーブル(外被有り)の構成例を説明する図である。
【図3】本発明における金属箔テープの接着に関する実施形態を説明する図である。
【図4】本発明による高速差動伝送ケーブルの難燃化について説明する図である。
【図5】従来技術を説明する図である。
【符号の説明】
【0053】
10a,10b…高速差動伝送ケーブル、11…電気導体、12…絶縁体、13…金属箔テープ、14…ドレイン線、15…外被、16…接着縞、16a,16b…短尺バー状の接着縞、17…接着縞、18…空隙、19…接着面、20…非接着面、Sp,Sn…信号線、S…信号線対、G…グランド線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気導体の2本を一組として差動伝送する信号線対とし、該信号線対をフラット状に複数配列し、絶縁樹脂を押出して被覆した高速差動伝送ケーブルであって、
複数本の単心線または撚り線からなる電気導体を所定の間隔で平行一列に並べて絶縁樹脂からなる絶縁体で一体に被覆し、前記絶縁体の外周を金属箔テープを縦添えして覆ったことを特徴とする高速差動伝送ケーブル。
【請求項2】
前記金属箔テープの外周を絶縁樹脂からなる外被で覆ったことを特徴とする請求項1に記載の高速差動伝送ケーブル。
【請求項3】
前記複数組の各信号線対間に、グランド線が配されていることを特徴とする請求項1または2に記載の高速差動伝送ケーブル。
【請求項4】
前記金属箔テープにドレイン線が電気的に接触して配設されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の高速差動伝送ケーブル。
【請求項5】
前記複数本の電気導体の間隔は、0.5mmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の高速差動伝送ケーブル。
【請求項6】
前記絶縁体と前記金属箔テープとが接着されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の高速差動伝送ケーブル。
【請求項7】
接着剤が稿鋼板の模様で前記絶縁体または前記金属箔テープに塗布されていることを特徴とする請求項6に記載の高速差動伝送ケーブル。
【請求項8】
前記金属箔テープは、前記絶縁体に1.5重以上巻き付けられていることを特徴とする請求項6に記載の高速差動伝送ケーブル。
【請求項9】
前記外被は、ポリウレタン樹脂とエチレン酢酸ビニル共重合樹脂との混合樹脂で形成されていることを特徴とする請求項2に記載の高速差動伝送ケーブル。
【請求項10】
前記絶縁体にカーボンブラックが0.4重量%〜0.6重量%添加されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の高速差動伝送ケーブル。
【請求項11】
少なくとも1箇所で折り曲げられ、折り曲げられる箇所には前記金属箔テープが切断しない最小曲げ半径よりも大きな曲げ半径の曲げ規制部材が取り付けられていることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の高速差動伝送ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−32685(P2009−32685A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−168505(P2008−168505)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】