説明

高速度カメラの画像処理装置、画像処理方法及び高速度カメラ装置

【課題】高速度カメラの画像から鏡面反射が除去できる画像処理装置を提供する。
【解決手段】照度が周期的に変動する蛍光灯等の変動光源51と、その他の光源52とを照明源として被写体40を撮影した高速度カメラ20の画像から蛍光灯51による鏡面反射を除去する画像処理装置10であって、蛍光灯のフリッカ周波数よりも2倍以上高いフレームレートで撮影された高速度カメラ20の各フレームの画像を取得する画像取得手段11と、各フレームの画像から蛍光灯の照度に連動して変化している各画素の輝度値の推移を求め、前記推移から蛍光灯の照度が0のときの各画素の輝度値を推定する輝度値推定手段12と、輝度値推定手段12が推定した輝度値を基に、蛍光灯の鏡面反射を除去した画像の輝度値を生成する鏡面反射除去画像生成手段13とを備える。蛍光灯などで照明された被写体を撮影した高速度カメラの画像から鏡面反射を除去できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速度カメラで撮影された画像からハレーションを除去する画像処理装置、画像処理方法及び高速度カメラ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カメラで被写体を撮影する場合に、光源の光が被写体の一部で鏡面反射してカメラに入射すると、画像に写る被写体の鏡面反射部分にハレーションが現れる。図10(a)の女性は、額の部分にハレーションが起きている。そのため、ハレーション部分の本来の色が、画像から識別できない。また、エッジ抽出の画像処理を実施した場合に、図10(b)に示すように、ハレーション部分も抽出されてしまう。
【0003】
近年、1秒間に100枚以上の撮影が可能な高速度カメラが、様々な分野で活用されている。この高速度カメラは、一般的なビデオカメラでは見ることができない一瞬の動きや短時間の高速現象を撮影するために利用されている。その高速化は、着々と進んでおり、1秒間に2×107コマが撮影できる機種も開発されている。こうした高速度カメラの画像を解析して、種々の高速現象の解明が行われているが、この場合にも、鏡面反射光は、物体認識の邪魔になっており、精確な解析を妨げている。
【0004】
ハレーションを防ぐために、一般的には偏光フィルタを使用して撮影が行われる。しかし、図11に、各種の色を配列し、その表面を透明なアクリル板で覆った配色板を被写体として、偏光フィルタを使用せずに写した画像(a)と、偏光フィルタを使用して写した画像(b)とを対比して示しているが、鏡面反射光のカメラへの入射角が垂直に近い場合は、偏光フィルタを使っても鏡面反射が殆んど除去できない。
【0005】
下記非特許文献1には、ビデオカメラで撮影された画像から、画像処理により鏡面反射成分を除去する方法が提案されている。
この方法は、反射光の輝度Iを、鏡面反射成分の輝度Isと、拡散反射成分の輝度Idとの和により(数1)のように表す二色性反射モデルに基づいて、鏡面反射成分を除去している。
I=Is+Id (数1)
また、この鏡面反射成分を除去する計算を高速で行うため、色空間を図12のようにモデル化している。この色空間は(Ix,Iy,Iz)の要素から成り、I、Is及びIdは、Ix、Iy、Izの要素で表される。この色空間では、(Ix,Iy)平面上でIx軸とのなす角度が色相(hue)を表し、同じく(Ix,Iy)平面上で原点からの距離が彩度(saturation)を表し、また、Iz軸が輝度(intensity)を表している。
この色空間とRGBとは、(数2)に示す関係にある。
【数2】

また、色相(hue)、彩度(saturation)及び輝度(intensity)は、色空間の要素(Ix,Iy, Iz)を用いて次式のように表すことができる。
hue=arctan(Iy/Ix) (数3)
saturation=(Ix2+Iy21/2 (数4)
intensity=Iz (数5)
【0006】
この方法は、被写体を照らす光源が白色で一様であることを前提としている。そして、色空間の色相(hue)ごとの平面(図12の平面)上で、拡散反射だけの画素点では、彩度(saturation)と輝度(intensity)とが比例関係になるので、この性質を利用して、鏡面反射の画素点の彩度(saturation)から、この比例関係にある輝度(intensity)の値を求めて、鏡面反射成分を除去している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】肥後智昭, 宮崎大輔, 池内克史:“二色性反射モデルに基づくリアルタイム鏡面反射成分除去,” 情報処理学会コンピュータビジョンとイメージメディア研究会(CVIM),pp. 211≡218, 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、非特許文献1に記載された方法は、光源が白色で一様であることを前提としているため、蛍光灯や白熱灯のように、その照度が変動する光源の下で撮影された画像には適用できない。
インバータ式でない蛍光灯は、商用電源(交流)の2倍の周波数で照度が変動する。インバータ式の蛍光灯は、商用電源の交流から独自の交流を作り出しており、作り出した交流の2倍の周波数で照度が変動する。
白熱灯は、フィラメントが常時発光しているため、蛍光灯ほど顕著では無いが、やはり交流電源の周波数に依存する周波数で照度が変動している。
【0009】
本発明は、こうした事情を考慮して創案したものであり、照度が変動する光源によって照明された被写体を撮影する場合に、その画像に表れた鏡面反射成分を画像処理によって除去することができる画像処理装置及び画像処理方法を提供し、また、そうした機能を備える高速度カメラ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、照度が周期的に変動する変動光源と、その他の光源とを照明源として被写体を撮影した高速度カメラの画像から前記変動光源による鏡面反射を除去する画像処理装置であって、前記変動光源の照度の周波数よりも2倍以上高いフレームレートで撮影された前記高速度カメラの各フレームの画像を取得する画像取得手段と、前記各フレームの画像から前記変動光源の照度に連動して変化している各画素の輝度値の推移を求め、前記推移から前記変動光源の照度が0のときの各画素の輝度値を推定する輝度値推定手段と、前記輝度値推定手段が推定した輝度値を基に、前記変動光源による鏡面反射を除去した画像の輝度値を生成する鏡面反射除去画像生成手段と、を備えることを特徴とする。
高速度カメラは、被写体を照らす変動光源の照度が変化する1周期の間に複数枚の画像を撮影することができる。これら複数枚の画像の輝度値は、鏡面反射が発生している箇所でも発生していない箇所でも、撮影時点の変動光源の照度に関係している。そのため、これらの画像における輝度値の推移から変動光源の照度が0のときの輝度値を推定することができ、その推定値を基に変動光源による鏡面反射を除去した画像の輝度値を生成することができる。
【0011】
また、本発明の画像処理装置では、前記輝度値推定手段が、前記各フレームの画像から、各画素における輝度値の最大値と最小値とを求め、前記最大値及び最小値を結ぶ直線の延長線上に、前記変動光源の照度が0のときの輝度値を求めるようにしても良い。
変動光源の照度に連動して変化する各画素の輝度値は、略直線状に分布していると見られる。そのため、分布する輝度値の最大値と最小値とを結ぶ直線によって輝度値の分布を近似することができ、変動光源の照度が0のときの輝度値は、この直線上の点として推定することができる。
【0012】
また、本発明の画像処理装置では、前記輝度値推定手段が、前記各フレームの画像から、各画素における輝度値の分布を求め、前記輝度値の分布を表す直線または曲線を最小二乗法によって算出し、前記直線または曲線の延長線上に、前記変動光源の照度が0のときの輝度値を求めるようにしても良い。
輝度値の分布曲線を最小二乗法によって求めることにより、変動光源の照度が0のときの輝度値を、より正確に求めることができる。
【0013】
また、本発明の画像処理装置では、前記鏡面反射除去画像生成手段が、前記輝度値推定手段の求めた前記輝度値に係数βを乗算して、前記変動光源による鏡面反射を除去した画像の輝度値を生成する。
変動光源の照度を0としたときの画像の輝度値は、撮影された画像の輝度値よりも低くなるため、この輝度値に係数βを乗算して補整する。
【0014】
また、本発明は、照度が周期的に変動する変動光源と、その他の光源とを照明源として被写体を撮影した画像から前記変動光源による鏡面反射を除去する高速度カメラ装置であって、前記変動光源の照度の周波数よりも2倍以上高いフレームレートで前記被写体を撮影する撮影手段と、前記撮影手段により撮影された各フレームの画像を保持する画像記録手段と、前記各フレームの画像から前記変動光源の照度に連動して変化している各画素の輝度値の推移を求め、前記推移から前記変動光源の照度が0のときの各画素の輝度値を推定する輝度値推定手段と、前記輝度値推定手段が推定した輝度値を基に、前記変動光源による鏡面反射を除去した画像の輝度値を生成する鏡面反射除去画像生成手段と、を備えることを特徴とする。
この高速度カメラ装置は、撮影した画像から、蛍光灯などで生じたハレーション部分を除去することができる。
【0015】
また、本発明の高速度カメラ装置では、前記輝度値推定手段が、前記各フレームの画像から、各画素における輝度値の最大値と最小値とを求め、前記最大値及び最小値を結ぶ直線の延長線上に、前記変動光源の照度が0のときの輝度値を求めるようにしても良い。
変動光源の照度に連動して変化する各画素の輝度値の分布を、最大値と最小値とを結ぶ直線によって近似することにより、演算が簡略化できる。
【0016】
また、本発明の高速度カメラ装置では、前記輝度値推定手段が、前記各フレームの画像から、各画素における輝度値の分布を求め、前記輝度値の分布を表す直線または曲線を最小二乗法によって算出し、前記直線または曲線の延長線上に、前記変動光源の照度が0のときの輝度値を求めるようにしても良い。
輝度値の分布曲線を最小二乗法によって求めることにより、変動光源の照度が0のときの輝度値を、より正確に求めることができる。
【0017】
また、本発明の高速度カメラ装置では、前記鏡面反射除去画像生成手段が、前記輝度値推定手段の求めた前記輝度値に係数βを乗算して、前記変動光源による鏡面反射を除去した画像の輝度値を生成する。
変動光源の照度を0としたときの各画素の輝度値に対して、一様に係数βを乗算して、変動光源による鏡面反射の無い画像を生成する。
【0018】
また、本発明は、照度が周期的に変動する変動光源と、その他の光源とを照明源として被写体を撮影した高速度カメラの画像から前記変動光源による鏡面反射を除去する画像処理方法であって、前記変動光源の照度の周波数よりも2倍以上高いフレームレートで撮影された高速度カメラの各フレームの画像を取得する第1のステップと、第1のステップで取得した前記各フレームの画像から前記変動光源の照度に連動して変化している各画素の輝度値の推移を求める第2のステップと、第2のステップで求めた前記推移から前記変動光源の照度が0のときの各画素の輝度値を推定する第3のステップと、第3のステップで求めた前記輝度値を基に、前記変動光源による鏡面反射を除去した画像の輝度値を求める第4のステップと、を備えることを特徴とする。
この画像処理方法では、画面上の各画素について、変動光源の照度が0のときの輝度値を推定し、その輝度値を一様に補整することにより、変動光源による鏡面反射を除去した画像の各画素における輝度値を求めている。
【0019】
また、本発明の画像処理方法では、前記第2のステップで、前記各フレームの画像から各画素の輝度値の最大値と最小値とを求め、前記第3のステップで、前記最大値及び最小値を結ぶ直線の延長線上に前記変動光源の照度が0のときの輝度値を求め、前記第4のステップで、当該輝度値に係数βを乗算して、前記変動光源による鏡面反射を除去した画像の輝度値を求めることができる。
この画像処理方法は、短時間での処理が可能である。
【0020】
また、本発明の画像処理方法では、前記第2のステップで、前記各フレームの画像から、各画素における輝度値の分布を求めて、前記輝度値の分布を表す直線または曲線を最小二乗法によって算出し、前記第3のステップで、前記直線または曲線の延長線上に前記変動光源の照度が0のときの輝度値を求め、前記第4のステップで、当該輝度値に係数βを乗算して、前記変動光源による鏡面反射を除去した画像の輝度値を求めるようにしても良い。
輝度値の分布曲線を最小二乗法によって求めることにより、変動光源の照度が0のときの輝度値を、より正確に求めることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、照度が変動する蛍光灯等の光源によって照明された被写体を撮影した高速度カメラの画像から、その光源による鏡面反射成分を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係る画像処理装置の構成を示す図
【図2】光源の照度の変動に伴う画像の輝度値の変化を示す図
【図3】各フレーム画像から求めた輝度値の分布を示す図
【図4】近似直線とαとの関係を示す図
【図5】本発明の実施形態に係る画像処理方法を示すフロー図
【図6】αの値を0.0、0.3及び0.5として蛍光灯の鏡面反射を除去したときの画像を示す図
【図7】図6のエッジ抽出画像
【図8】αの値を0.0、0.5、0.7、0.8及び0.85として白熱灯の鏡面反射を除去したときの画像を示す図
【図9】本発明の実施形態に係る高速度カメラ装置の構成を示す図
【図10】画像に現れた鏡面反射を示す図
【図11】偏向フィルタの有無に関わらず画像に現れる鏡面反射を示す図
【図12】色空間を示す図
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1には、本発明の実施形態に係る画像処理装置の構成を示している。
この装置10は、蛍光灯のように照度が周期的に変動する変動光源51、及び、その他の光源52により照らされた被写体40を撮影する高速度カメラ装置20から各フレームの画像を取得する画像取得手段11と、各フレームの画像から変動光源51の照度が0のときの各画素の輝度値を推定する輝度値推定手段12と、輝度値推定手段12が推定した輝度値を用いて、変動光源51による鏡面反射を除去した画像の輝度値を算出する鏡面反射除去画像生成手段13とを備えており、各画素の輝度値が鏡面反射除去画像生成手段13により設定された画像(即ち、変動光源51による鏡面反射が除去された画像)が表示装置30に表示される。
【0024】
商用電源の交流で発光する蛍光灯が変動光源51である場合は、交流の周波数を50Hzとすると、100Hzの周期で照度が変動する。この場合、高速度カメラ装置20は、100Hzの2倍の200fps(frame per second)以上の撮影が可能な機種を用いて被写体40を撮影する。
その他の光源52は、変動光源51を消灯しても暗闇にならない明るさを与えるものであり、その照度が変動光源51と同期して周期的に変動するものでなければ、どのような光源を用いても良い。例えば、窓からの自然光、インバータ式蛍光灯、白熱灯、天井に設置された複数の照明の合成光などが、その他の光源52として使用できる。
【0025】
この画像処理装置10は、色空間を図12のようにモデル化し、また、反射光の輝度をI=(Ix,Iy,Iz)、鏡面反射成分の輝度をIs、拡散反射成分の輝度をIdとして、それらの関係が(数1)のように表される二色性反射モデルに基づいて鏡面反射成分除去の画像処理を行っている。
【0026】
ところで、変動光源51に照らされている被写体40を撮影した高速度カメラ20の画像は、鏡面反射が発生しているか否かに関わらず、いずれの画素点でも、変動光源51のフリッカに連動して輝度値が変化している。
図2は、それを示している。図2では、図11で用いた配色板を図1の被写体40として、これを1200fpsの高速度カメラ20で撮影し、得られた各フレームの画像から特定の画素におけるIx、Iy、Izの時間的変化を求めている。図2の各グラフの横時は時間(秒)を表し、縦軸は、その画素のRGBの値から(数2)を用いて計算したIx、Iy、Izの値を表している。図2(a)は鏡面反射している白色箇所の画素、図2(b)は鏡面反射していない白色箇所の画素、図2(c)は鏡面反射している赤色箇所の画素、また、図2(d)は鏡面反射していない赤色箇所の画素について、それぞれ調べている。
図2の結果が示すように、変動光源51に照らされている被写体40の画像では、鏡面反射が発生している箇所でも、発生していない箇所でも、変動光源51のフリッカに連動して輝度値が変化している。
【0027】
また、図3は、この高速度カメラ20で撮影した各フレームの画像のそれぞれから、特定の画素における輝度値を求め、それをRGBの色空間上にプロットした図である。プロットした点の集合は、その画素の輝度値の分布を示している。図3(a)は鏡面反射していない緑色箇所の画素、図3(b)は鏡面反射している緑色箇所の画素、図3(c)は鏡面反射していない白色箇所の画素、また、図3(d)は鏡面反射している白色箇所の画素について、それぞれ調べている。
図3から、変動光源51のフリッカに連動する輝度値の変化は、略直線状になると想定できる。図3(a)〜(d)の各図に引いた直線は、輝度値の変化を表す近似直線を示している。
原理上は、この近似直線を延伸した先に変動光源51の照度が0になったときの輝度値の点が存在している。
【0028】
画像処理装置10の輝度値推定手段12は、画像取得手段11が取得した高速度カメラ20の各フレームの画像から、各画素について、この近似直線を求め、その近似直線を延伸した先の変動光源51の照度が0となったときの輝度値を求める。
この演算を簡略化するため、輝度値推定手段12は、各画素について、図3の輝度値の分布からIzが最大となる輝度値と最小となる輝度値とを求め、輝度値が最大の点と最小の点とを結ぶ線を近似直線とする。
そして、Izが最大となるときのI(Ix,Iy,Iz)をImax、Izが最小となるときのIをIminとして、変動光源51の照度が0となったときの輝度値Ioを次式(数6)により算出する。
o=Imax−{1/(1−α)}(Imax−Imin) (数6)
ここで、αは最大照度に対する最小照度の比を表している。Imax、Imin、Ioとαとの関係は、図4のようになる。
【0029】
輝度値推定手段12が算出した輝度値Ioは、変動光源51の照度を0としているため、画像取得手段11が取得した画像の輝度値よりも低くなっている。
これを補整するため、鏡面反射除去画像生成手段13は、輝度値推定手段12が算出した各画素の輝度値Ioに係数βを乗算する。補整された輝度値Irは次式(数7)により算出される。
r=βIo=β[Imax−{1/(1−α)}(Imax−Imin)] (数7)
ここで、βは、変動光源51が無くなった際の照度に対する実際の照度の比に相当している。
鏡面反射除去画像生成手段13は、画像の各画素における輝度値Irを(数7)により算出する。そして、この輝度値Irに対応するRGBの色空間での位置を算出し、変動光源51による鏡面反射を除去した画像を生成する。
【0030】
図5は、この画像処理装置10の処理手順を示している。
画像取得手段11は、高速度カメラ20からnフレーム分のフレーム画像を取得する(ステップ1)。
輝度値推定手段12は、各フレーム画像の画素i(i=1,2,・・・)の輝度値を順番に配列し、これを全ての画素について行う(ステップ2)。
次に、着目する画素iの輝度値の配列から最大値と最小値とを取得し(ステップ3)、(数6)により、最大値及び最小値を結ぶ直線の延長線上に乗る、変動光源51の照度が0のときの輝度値Ioを算出する(ステップ4)。
【0031】
鏡面反射除去画像生成手段13は、(数7)を用いてIoにβを乗算し、変動光源51による鏡面反射を除去した画像の輝度値Irを算出する(ステップ5)。
ステップ3からステップ5の手順を全ての画素に対して行い(ステップ6)、変動光源51による鏡面反射を除去した画像を生成する(ステップ7)。
高速度カメラ20が撮影した更なるフレーム画像が有る場合は、ステップ1からの手順を繰り返す(ステップ8)。
こうした手順により、高速度カメラ20の画像から、蛍光灯などに因る鏡面反射を除去することができる。
【0032】
図6は、図11で用いた配色板を高速度カメラ20で写し、その画像から蛍光灯の鏡面反射を除去する実験を行った結果について示している。
図6(a)は、(数7)のα=0.0とした場合の画像、即ち、蛍光灯の照度が最も低いときの実画像である。写真では明確でないが、矢印の位置に蛍光灯の鏡面反射像が写っている。
図6(b)は、α=0.3と推定して求めた画像であり、図6(c)は、α=0.5と推定して求めた画像である。α=0.3の時(図6(b))には、若干の鏡面反射光が残っているが、α=0.5の時(図6(c))には、鏡面反射光が視認されず、ほぼ完全に除去されていることが確認された。
【0033】
また、図7(a)は、α=0.0の画像(図6(a))にエッジ検出処理を施した結果を示し、また、図7(b)は、α=0.5の画像(図6(c))にエッジ検出処理を施した結果を示している。図7(a)には、蛍光灯の反射像(矢印)に対応するエッジが現れているが、図7(b)では、それが消えている。
このように、適切なαの値を選択することにより、画像から鏡面反射光を、視認できない程度に除去することができる。蛍光灯を光源とする場合は、α=0.5と設定することで、鏡面反射光をほぼ除去することができる。
【0034】
また、図8は、白熱灯を変動光源とした場合の実験結果を示している。図8(a)はα=0.0、図8(b)はα=0.5、図8(c)はα=0.7、図8(d)はα=0.8、また、図8(e)はα=0.85に設定している。α=0.85としたときに鏡面反射がほぼ除去されている。ただし、白熱灯のフィラメントは常に発光しているため、フィラメント部に関しては若干鏡面反射が残っている。
このように、白熱灯を光源とする場合は、α=0.85と設定することで、鏡面反射光をほぼ除去することができる。
【0035】
なお、図1では、画像処理装置10と高速度カメラ装置20とを別体にしているが、画像処理装置10の機能を高速度カメラ装置に組み込むことも可能である。
図9は、この高速度カメラ装置20の構成を示している。この装置20は、変動光源51の照度の周波数よりも2倍以上高いフレームレートで被写体40を撮影する撮影手段21と、撮影手段21で撮影された各フレームの画像を保持する画像記録手段22と、画像記録手段22で保持された各フレームの画像から変動光源51の照度に連動して変化している各画素の輝度値の推移を求め、前記推移から変動光源51の照度が0のときの各画素の輝度値を推定する輝度値推定手段23と、輝度値推定手段23が推定した輝度値を基に、変動光源51による鏡面反射を除去した画像の輝度値を生成する鏡面反射除去画像生成手段24とを備えている。
【0036】
この輝度値推定手段23及び鏡面反射除去画像生成手段24の処理は、画像処理装置10の輝度値推定手段12及び鏡面反射除去画像生成手段13のそれと同じである。
この高速度カメラ装置20は、照度が周期的に変動する変動光源51と、その他の光源52とで照らされた被写体を撮影して、変動光源51による鏡面反射を除いた画像を生成することができ、生成した画像を表示装置30に表示させることができる。
また、この高速度カメラ装置20は、動画を撮影する高速度ビデオカメラ装置であっても良い。
【0037】
なお、変動光源51で照らされた被写体を撮影する高速度カメラ装置20のフレームレートは、変動光源51の照度の周波数よりも2倍以上高いことが望ましい。もし、高速度カメラ装置20のフレームレートが、それより小さいと、高速度カメラ装置20のフレーム画像から得た近似直線の精度が低下し、生成した「鏡面反射を除去した画像」の品質が低下する。
また、「その他の光源52」が存在しない場合には、変動光源51の照度が0となったときの推定輝度は原理上0となる。そのため変動光源51以外の光源が必要である。
【0038】
また、ここでは、各フレームの画像から求める各画素の輝度値の分布を、最大値と最小値とを結ぶ直線で近似する場合について説明したが、輝度値の分布を表す直線または曲線を最小二乗法によって算出し、前記直線または曲線の延長線上に、変動光源の照度が0のときの輝度値を求めるようにしても良い。この方が、演算量は多くなるが、より正確な輝度値を求めることができる。
また、画像処理装置10や高速度カメラ装置20の輝度値推定手段12、23及び鏡面反射除去画像生成手段13、24は、画像処理の高速化に役立つビジョンチップを複数個用いて実現しても良い。各画素の処理を複数のビジョンチップにより並列処理することで、処理時間を大幅に短縮できる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、一瞬の動きや短時間の高速現象を撮影する高速度カメラの画像から鏡面反射を除くことが可能であり、高速度カメラの画像を用いて、人の動き、動植物の変化、車の衝突など、様々な高速現象を解明する分野において、また、鑑賞や娯楽に供する画像や映像の撮影を目的とする分野等において、広く利用することができる。
【符号の説明】
【0040】
10 画像処理装置
11 画像取得手段
12 輝度値推定手段
13 鏡面反射除去画像生成手段
20 高速度カメラ装置
21 撮影手段
22 画像記録手段
23 輝度値推定手段
24 鏡面反射除去画像生成手段
30 表示装置
40 被写体
51 変動光源
52 その他の光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
照度が周期的に変動する変動光源と、その他の光源とを照明源として被写体を撮影した高速度カメラの画像から前記変動光源による鏡面反射を除去する画像処理装置であって、
前記変動光源の照度の周波数よりも2倍以上高いフレームレートで撮影された前記高速度カメラの各フレームの画像を取得する画像取得手段と、
前記各フレームの画像から前記変動光源の照度に連動して変化している各画素の輝度値の推移を求め、前記推移から前記変動光源の照度が0のときの各画素の輝度値を推定する輝度値推定手段と、
前記輝度値推定手段が推定した輝度値を基に、前記変動光源による鏡面反射を除去した画像の輝度値を生成する鏡面反射除去画像生成手段と、
を備えることを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像処理装置であって、前記輝度値推定手段が、前記各フレームの画像から、各画素における輝度値の最大値と最小値とを求め、前記最大値及び最小値を結ぶ直線の延長線上に、前記変動光源の照度が0のときの輝度値を求めることを特徴とする画像処理装置。
【請求項3】
請求項1に記載の画像処理装置であって、前記輝度値推定手段が、前記各フレームの画像から、各画素における輝度値の分布を求め、前記輝度値の分布を表す曲線を最小二乗法によって算出し、前記曲線の延長線上に、前記変動光源の照度が0のときの輝度値を求めることを特徴とする画像処理装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の画像処理装置であって、前記鏡面反射除去画像生成手段は、前記輝度値推定手段が求めた前記輝度値に係数βを乗算して、前記変動光源による鏡面反射を除去した画像の輝度値を生成することを特徴とする画像処理装置。
【請求項5】
照度が周期的に変動する変動光源と、その他の光源とを照明源として被写体を撮影した画像から前記変動光源による鏡面反射を除去する高速度カメラ装置であって、
前記変動光源の照度の周波数よりも2倍以上高いフレームレートで前記被写体を撮影する撮影手段と、
前記撮影手段により撮影された各フレームの画像を保持する画像記録手段と、
前記各フレームの画像から前記変動光源の照度に連動して変化している各画素の輝度値の推移を求め、前記推移から前記変動光源の照度が0のときの各画素の輝度値を推定する輝度値推定手段と、
前記輝度値推定手段が推定した輝度値を基に、前記変動光源による鏡面反射を除去した画像を生成する鏡面反射除去画像生成手段と、
を備えることを特徴とする高速度カメラ装置。
【請求項6】
請求項5に記載の高速度カメラ装置であって、前記輝度値推定手段が、前記各フレームの画像から、各画素における輝度値の最大値と最小値とを求め、前記最大値及び最小値を結ぶ直線の延長線上に、前記変動光源の照度が0のときの輝度値を求めることを特徴とする高速度カメラ装置。
【請求項7】
請求項5に記載の高速度カメラ装置であって、前記輝度値推定手段が、前記各フレームの画像から、各画素における輝度値の分布を求め、前記輝度値の分布を表す曲線を最小二乗法によって算出し、前記曲線の延長線上に、前記変動光源の照度が0のときの輝度値を求めることを特徴とする高速度カメラ装置。
【請求項8】
請求項5から7のいずれかに記載の高速度カメラ装置であって、前記鏡面反射除去画像生成手段は、前記輝度値推定手段が求めた前記輝度値に係数βを乗算して、前記変動光源による鏡面反射を除去した画像の輝度値を生成することを特徴とする高速度カメラ装置。
【請求項9】
照度が周期的に変動する変動光源と、その他の光源とを照明源として被写体を撮影した高速度カメラの画像から前記変動光源による鏡面反射を除去する画像処理方法であって、
前記変動光源の照度の周波数よりも2倍以上高いフレームレートで撮影された高速度カメラの各フレームの画像を取得する第1のステップと、
第1のステップで取得した前記各フレームの画像から前記変動光源の照度に連動して変化している各画素の輝度値の推移を求める第2のステップと、
第2のステップで求めた前記推移から前記変動光源の照度が0のときの各画素の輝度値を推定する第3のステップと、
第3のステップで求めた前記輝度値を基に、前記変動光源による鏡面反射を除去した画像の輝度値を求める第4のステップと、
を備えることを特徴とする画像処理方法。
【請求項10】
請求項9に記載の画像処理方法であって、前記第2のステップで、前記各フレームの画像から各画素の輝度値の最大値と最小値とを求め、前記第3のステップで、前記最大値及び最小値を結ぶ直線の延長線上に前記変動光源の照度が0のときの輝度値を求め、前記第4のステップで、当該輝度値に係数βを乗算して、前記変動光源による鏡面反射を除去した画像の輝度値を求めることを特徴とする画像処理方法。
【請求項11】
請求項9に記載の画像処理方法であって、前記第2のステップで、前記各フレームの画像から、各画素における輝度値の分布を求めて、前記輝度値の分布を表す曲線を最小二乗法によって算出し、前記第3のステップで、前記曲線の延長線上に前記変動光源の照度が0のときの輝度値を求め、前記第4のステップで、当該輝度値に係数βを乗算して、前記変動光源による鏡面反射を除去した画像の輝度値を求めることを特徴とする画像処理方法。

【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−183279(P2010−183279A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−24057(P2009−24057)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【Fターム(参考)】