説明

高速走査型プローブ顕微鏡

【課題】合成高分子の一本鎖の動態の観察が可能な高速走査型プローブ顕微鏡を提供する。
【解決手段】 上部が開放され内部に有機溶媒を収容する溶液セルと、試料表面が下向きとなる状態で当該試料を前記有機溶媒に浸る位置で保持する試料ホルダと、前記溶液セルの内部において前記有機溶媒に浸る位置でかつ前記試料表面に対向する位置に配置される探針と、前記溶液セルを移動させずに前記試料ホルダを前記探針に対して移動させるアクチュエータとを備え、前記溶液セルと前記アクチュエータとが分離している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型プローブ顕微鏡に関し、特に合成高分子の一本鎖の動態の観測が可能な高速走査型プローブ顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、走査型プローブ顕微鏡(SPM)を用いてDNA、RNA、蛋白質、糖質等の生体高分子の機能発現の機構や動作原理が明らかにされつつある。
また、このような生体高分子の機能を持つ合成高分子の創製や、合成高分子鎖一本の構造と機能の解明、更には合成高分子を利用した分子デバイス等の開発に対する期待が高まっている。
走査型プローブ顕微鏡は探針を機械的に走査して試料表面の情報を得る装置の総称であり、特に広く使用されている原子間力顕微鏡(AFM)は、探針をその自由端に持つカンチレバーと、カンチレバーの変位を検出する光学式変位センサーと、探針と試料とを相対的に走査するスキャナとを備えている。
そして、スキャナによって試料に対して探針を相対的にXY方向(水平方向)に走査しながら、光学式変位センサーの出力を一定に保つように探針のZ方向(垂直方向)の位置を制御し、これをマッピングすることによって、試料表面の画像を得る仕組みになっている。なお、通常の原子間力顕微鏡は1画像の取得に数分間を要するため、得られる画像は静止画像になる。
【0003】
例えば、図23に示す特許文献1に開示された原子間力顕微鏡は、試料を三次元的に走査するピエゾスキャナ6の上に試料7を載置し、カンチレバー1を固定しているカンチレバーホルダ2とピエゾスキャナ6の間をシール3によって密封することで溶液セル8とし、この溶液セル8の内部に溶液4を満たす構成になっている。
また、図24に示す特許文献2に開示された原子間力顕微鏡は、溶液中で試料2を保持する液中セル12をスキャナ1上に取付け、液中セル12の上部に設けたガラス窓5の内面にカンチレバ台4を貼り付け、ガラス窓5と液中セル12の間をゲルリング3でシールするとともに、ガラス窓5の外面周縁に圧電素子7を取付け、圧電素子7を駆動してガラス窓5ごとカンチレバ8を振動させる構成となっている。
特許文献1及び2に開示された原子間力顕微鏡によれば、溶液中で生体高分子の静態を観測することができる。
【0004】
ところで、近年、1画像を1秒以下で取得できる高速の原子間力顕微鏡が市販されている。この高速原子間力顕微鏡によれば溶液中の試料の様子を動画で取得できるため、生体高分子の動態観察が可能になる。
本明細書においては1画像あたり1秒以下、換言するとフレームレートが1fps(Frames Per Second)以上で画像を取得できる走査型プローブ顕微鏡及び原子間力顕微鏡をそれぞれ「高速走査型プローブ顕微鏡」及び「高速原子間力顕微鏡」と表記し、1fps未満の走査型プローブ顕微鏡及び原子間力顕微鏡をそれぞれ「通常の走査型プローブ顕微鏡」及び「通常の原子間力顕微鏡」と表記する。
【0005】
ここで、上記特許文献1及び2に記載された原子間力顕微鏡では1fps以上の高速で画像を取得することは困難であった。
すなわち、高速原子間力顕微鏡においてはスキャナが高速に探針(または試料)を走査する必要があるが、一般的にスキャナの走査周波数はXYZ各軸方向の共振周波数によって制限される。そして、共振周波数を高めるためにはスキャナの質量を可能な限り抑えることが重要である。
しかし、上記いずれの原子間力顕微鏡においても、溶液セル(液中セル)がスキャナと一体になって移動する構成であるため、溶液セルによってスキャナの質量が増加せざるを得ず、高速走査が困難である。
【0006】
また、例えば図25に示すような原子間力顕微鏡が知られている(特許文献3参照)。
この原子間力顕微鏡は、上部を開放した液中セル32を用いており、試料ホルダ34は、試料33の観察表面が下向きとなって液体31に浸されるように配置される。また、カンチレバー35は探針35aを有し、探針35aが上向きとなって試料33の観察表面と対向するように配置される。そして、光源38及び光検出器39は液中セル32の下方に配置され、カンチレバー35の撓みを検出する撓み検出光学系を構成する。液中セル32は透明材料で形成されており、光源38からの照射光は液中セルを透過し、カンチレバー35で反射して、再度液中セルを透過して光検出器39に至るようになっている。
この原子間力顕微鏡によれば液中セル32はスキャナ(圧電アクチュエータ37、断熱部材36、試料ホルダ34等)と分離しており、独立して駆動するため、上記特許文献1及び2に記載された原子間力顕微鏡と比較してより高速な走査が可能となる。
また、特許文献4〜6にも同様に、溶液と分離したスキャナが独立駆動する構成の原子間力顕微鏡が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11―118813号公報
【特許文献2】特開平9―269223号公報
【特許文献3】特開平9−54098号公報
【特許文献4】特開2005−106790号公報
【特許文献5】特開2004−156959号公報
【特許文献6】特開2006−153574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献3に記載された原子間力顕微鏡によれば以下のような問題がある。
すなわち、断熱部材36が圧電アクチュエータ37と試料ホルダ34の間に位置し、これらが一体的に駆動する構成となっているため、断熱部材36の質量の影響を受けて高速原子間力顕微鏡に必要な程度の高い共振周波数を得ることができないという問題がある。
また、高速原子間力顕微鏡ではカンチレバー側の共振周波数も高める必要があり、大気中におけるカンチレバーの共振周波数が500kHz以上、好ましくは1MHz以上であることが望まれる。そして、カンチレバーの共振周波数を高めるためには通常の原子間力顕微鏡で使用するカンチレバーよりも小型化する必要がある。
【0009】
上述の通り、原子間力顕微鏡では光学式変位センサーのレーザー光をカンチレバー自由端の背面(探針の反対側の面)に照射し、反射光を受光することでカンチレバーの変位を検出しているが、高速原子間力顕微鏡用の小型のカンチレバーを使用する場合、カンチレバー背面の面積が小さくなるため、レーザー光を正確に照射するには、図2に示すように対物レンズ等でスポット径を絞り小径化した上で更にレーザー光がカンチレバーの背面に対してほぼ垂直に入射するように設定する必要がある。レーザー光がカンチレバーの背面に対して斜めに入射すると、入射光と反射光を同一の対物レンズに通すことができなくなり、小型カンチレバーの変位を検出できなくなるためである。
なお、仮に高速原子間力顕微鏡において図26(a)に示すようにカンチレバー100の配置を試料ホルダ101と平行にした場合、高い共振周波数で駆動するカンチレバー100と試料ホルダ101との間に存在する溶液から受ける抵抗が高まり、カンチレバー100の駆動制御が困難になるため、図26(b)に示すようにカンチレバー100の探針100a側を試料ホルダ101に近づけて斜めに配置することでカンチレバー100と試料ホルダ101をできるだけ離すと共にレーザー光Aをカンチレバー100に対してほぼ垂直に入射させるのが好ましい。
【0010】
ところが、特許文献3に記載された原子間力顕微鏡は光源38とカンチレバー35の間に対物レンズ等のレーザー光を絞り込む工夫がなされておらず、また、レーザー光がカンチレバー背面に対して斜めに入射及び反射していることから、レーザー光を小型のカンチレバー背面に漏れなく正確に照射することは極めて困難である。また、対物レンズを導入したとしても斜め方向に進む反射光を光検出器で受光することも困難である。
これらを考慮すると、特許文献3に記載された原子間力顕微鏡は高速走査に対応しておらず、この構成をそのまま高速原子間力顕微鏡に適用した場合には上述した種々の問題が生じることは明らかである。
また、特許文献4〜6に記載された原子間力顕微鏡はいずれも透明板の上に溶液を載せることで、溶液の表面張力を利用して当該溶液を透明板上に保持するものである(特許文献4の[0056]、特許文献5の[0039]、特許文献6の[0028]参照)。
ここで、特許文献4〜6では使用する溶液の種類について特定されていないが、試料として主に生体試料を想定している点を考慮すると(特許文献4の[0024]、特許文献5の[請求項1]、特許文献6の[0021]等参照)、少なくとも溶液として有機溶媒を使用することは困難である。
なぜなら、第一に有機溶媒は蛋白質等からなる生体試料を変質させてしまうという問題があり、第二に有機溶媒の表面張力は生体試料観測用として通常用いられる水等の溶液の表面張力と比較して小さいため、有機溶媒を特許文献4〜6のような透明板上に載せた場合には液滴が自立せず、透明板表面に拡がってしまい、観測不能となるからである。
一方、試料として生体試料ではなく合成高分子を用い、さらに合成高分子鎖一本一本を基板表面に分散させてその動態を観測するためには、溶液として有機溶媒を使用することが必須の条件であり、溶液を保持するための装置構成も有機溶媒に特化したものであることが好ましい。溶液として水等を使用した場合、何本もの合成高分子鎖が凝集してしまうからである。
【0011】
本発明はこのような問題に鑑み、合成高分子の一本鎖の動態の観察が可能な高速走査型プローブ顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の高速走査型プローブ顕微鏡は、上部が開放され内部に有機溶媒を収容する溶液セルと、試料表面が下向きとなる状態で当該試料を前記有機溶媒に浸る位置で保持する試料ホルダと、前記溶液セルの内部において前記有機溶媒に浸る位置でかつ前記試料表面に対向する位置に配置される探針と、前記溶液セルを移動させずに前記試料ホルダを前記探針に対して移動させるアクチュエータとを備え、前記溶液セルと前記アクチュエータとが分離していることを特徴とする。
また、前記溶液セルの内部において前記試料を挟む電極配置で電場を発生させる電場印加手段を備えることを特徴とする。
また、前記有機溶媒を加熱する加熱手段と、前記アクチュエータを冷却する冷却手段とを兼ね備えることを特徴とする。
また、前記有機溶媒の温度を検出する温度検出手段と、前記温度検出手段からの検出信号に基づいて、前記有機溶媒の温度が所望の温度となるように前記加熱手段を制御する温度制御手段とを備えることを特徴とする。
また、前記探針を有するカンチレバーの振幅を検出する振幅検出用光学系手段を備え、前記振幅検出用光学系手段から前記カンチレバーに照射される照射光及び当該照射光による前記カンチレバーからの反射光が前記カンチレバーに対して垂直であり、前記試料ホルダの試料保持面が撓みがない状態の前記カンチレバーに対して非平行であることを特徴とする。
また、前記試料が合成高分子であることを特徴とする。
また、前記溶液セルの周囲を覆うことで有機溶媒の蒸発を防止する蒸発防止手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の高速走査型プローブ顕微鏡によれば、アクチュエータが探針に対して溶液セルを移動させずに試料ホルダを移動させる。つまり、溶液セルとアクチュエータとが分離しており、アクチュエータが重量物となる溶液セルを移動させないため、高い共振周波数を維持して走査することが可能となり、溶液セルを用いるタイプの走査型プローブ顕微鏡において高速化を実現できる。
そして、溶液セル内に有機溶媒を収容するので、試料として合成高分子を用いる場合には、有機溶媒に溶けた状態の合成高分子鎖を一本一本分散させた状態で試料ホルダに固定することで、合成高分子の一本鎖についてフレームレート1fps以上で画像を取得することが可能となり、ナノメートルのオーダーで合成高分子鎖一本の動態の観測が可能となる。
合成高分子として例えばポリエチレンなどのポリオレフィンの分岐構造とその分子運動性を解明できる。分岐構造は材料特性に直接関係するが、これまで、ポリオレフィンの分岐構造は厳密には理解されていなかった。なぜなら、それを解明する手段が無かったためである。ポリオレフィンは容量比での生産量が鉄鋼を超え、世界で最も生産されている材料といえる。本発明によるとこのポリオレフィンの材料特性を解明可能な手段を提供できる。
また、複数の有機溶媒を混合することで混合有機溶媒中での合成高分子鎖一本の動態の観測が可能となる。
なお、本明細書中において「走査型プローブ顕微鏡」とは探針と試料とを相対的に走査して試料の表面情報を得る装置を指し、少なくとも原子間力顕微鏡、走査型磁気力顕微鏡(MFM)、走査型電気容量顕微鏡(SCaM)、走査型近接場光学顕微鏡(SNOM)、走査型熱顕微鏡(SThM)を含むものとする。
【0014】
また、電場印加手段によって試料の周囲に電場の勾配を生じさせた状態での観測が可能となり、合成高分子鎖一本の電場応答性の動態を測定することができる。
また、加熱手段によって有機溶媒を加熱することにより、各温度帯での試料の動態変化を観測することが可能となり、また温度変化に伴う試料の動態変化も観測することが可能となる。
また、冷却手段によってアクチュエータを冷却できるので、加熱手段による熱がアクチュエータに伝達し、アクチュエータの伸縮特性が変化することを防止できる。
アクチュエータとしてピエゾ素子を利用する場合には、ピエゾ素子の伸縮特性を一定に保つことにより、特に高い温度領域におけるピエゾ素子の伸び係数(nm/V)の変化によって計測値(nm)に誤差が生じてしまう事態を防止できる。
また、温度検出手段及び温度制御手段を備えることで、有機溶媒を所望の温度に調整することができる。
また、振幅検出用光学系手段からカンチレバーに照射される照射光及び反射光をカンチレバーに対して垂直にし、撓みがない状態のカンチレバーに対して試料保持面を非平行とすることで高速走査に適した構成を得られる。
なお、上述の通り、高速原子間力顕微鏡においては対物レンズでレーザー光のスポット径を絞った上でカンチレバーに照射するのが一般的である。従って、カンチレバーへの入射光及びカンチレバーからの反射光が同一の対物レンズを通過する構成になっている場合には、これら入射光及び反射光はカンチレバーに対して垂直であるものとする。
また、仮に対物レンズが存在しない場合であっても、カンチレバーに入射する直前に配置されている光学系手段の光軸がカンチレバーに対して垂直になるように設計されている場合にも、入射光及び反射光はカンチレバーに対して垂直であるものとする。
また、試料として合成高分子を用いることにより合成高分子鎖一本の動態の観測が可能となる。
また、蒸発防止手段によって、低沸点の有機溶媒を使用する場合でも有機溶媒の蒸発を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】高速原子間力顕微鏡の外観の一部を示す斜視図である。
【図2】高速原子間力顕微鏡の構成を示す図面である。
【図3】溶液セルの構成を示す斜視図である。
【図4】第二の実施の形態における溶液セルの構成を示す斜視図である。
【図5】第二の実施の形態における高速原子間力顕微鏡の構成を示す図面である。
【図6】第三の実施の形態における高速原子間力顕微鏡の構成を示す図面である。
【図7】第三の実施の形態における溶液セルの構成を示す斜視図である。
【図8】第四の実施の形態における溶液セルの構成を示す図面である。
【図9】図3の溶液セルの変形例を示す斜視図である。
【図10】図4の溶液セルの変形例を示す斜視図である。
【図11】図7の溶液セルの変形例を示す斜視図である。
【図12】実施例1における合成高分子の構造を示す図面である。
【図13】実施例1における合成高分子鎖一本の動態を示す図面(a)〜(c)である。
【図14】実施例2における合成高分子の構造を示す図面である。
【図15】実施例2における合成高分子鎖一本の動態を示す図面である。
【図16】実施例2における合成高分子鎖一本の動態を示す図面である。
【図17】実施例3における合成高分子の構造を示す図面である。
【図18】実施例3における合成高分子鎖一本の動態を示す図面である。
【図19】実施例4における合成高分子の構造を示す図面である。
【図20】実施例4における合成高分子鎖一本の動態を示す図面である。
【図21】実施例5における合成高分子の構造を示す図面A、高分子鎖の分子モデルを示す図B、合成高分子鎖一本の動態を示す図C、フレーム1の線1‐2のラインプロファイルを示す図Dである。
【図22】実施例5における合成高分子鎖一本の光分解反応の動態を示す図面A、全観測時間での分子像の面積の時間変化を示す図面Bである。
【図23】従来の原子間力顕微鏡の構成を示す図面である。
【図24】従来の原子間力顕微鏡の構成を示す図面である。
【図25】従来の原子間力顕微鏡の構成を示す図面である。
【図26】試料ホルダとカンチレバーの位置関係を示す図面(a)及び(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[第一の実施の形態]
本発明の高速走査型プローブ顕微鏡の第一の実施の形態として高速原子間力顕微鏡について説明する。
図1〜図3に示すように、本実施の形態の高速原子間力顕微鏡10は有機溶媒Sを収容する溶液セル20、試料SAを保持する試料ホルダ30、アクチュエータ40、探針51を有するカンチレバー50、振幅検出用光学系手段60、アクチュエータ40の駆動を制御するフィードバックコントローラ70及びデータ収録・制御手段71、コンピュータとしての処理手段72及び表示手段73等から概略構成されている。
【0017】
溶液セル20は上部が開放された平面視四角形の箱状の部材であり、底面の中央部に開口20aを有している。そして、底面の下側は光反射率の低いガラス等の透明部材20bで覆われている。
溶液セル20はベース11(図8参照)に脱着自在に取り付けられている。そして、溶液セル20の内部に有機溶媒Sを収容するようになっている。
溶液セル20の側面及び底面はステンレス鋼(例えばJIS規格SUS303)などの金属材料やPEEK(登録商標 ポリエーテルエーテルケトン)等の耐熱性、耐有機溶媒性、高加工性を有する材料で構成するのが好ましい。
有機溶媒の種類は試料SAとして使用する合成高分子の種類に応じて適宜変更可能であるが、例えばキシレン、オルトジクロロベンゼン、メタジブロモベンゼン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、トルエン、ヘキサン、テトラヒドロフラン、ノルマルオクチルベンゼン、デカメチルテトラシロキサン等を用いることができる。また、有機溶媒中の有機化合物の濃度も適宜調節可能である。
【0018】
試料ホルダ30は試料SAの表面が下向きとなる状態で当該試料SAを有機溶媒Sに浸る位置で保持するためのものである。本実施の形態においては試料ホルダ30は円柱状に形成されている。試料ホルダ30はガラスや金属等の耐有機溶媒性を有する材料で構成するのが好ましい。
試料ホルダ30の底面には試料保持面31が形成されており、この試料保持面31においてマイカ、シリコン、グラファイト等の周知の基板材料を利用して有機溶媒Sに溶けた合成高分子鎖一本一本を基板表面に分散させて固定するようになっている。また、マイカ等を基材とし表面を金で蒸着してAu(111)面を調製した基板も使用できる。
また、詳しい説明は後述するが、試料保持面31は撓みがない状態のカンチレバー50に対して非平行となるように設定されている。
【0019】
試料SAとしては合成高分子全般が挙げられるが、例えばポリオレフィン系樹脂として、ポリエチレン、LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)、HDPE(直鎖状高密度ポリエチレン)、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体および分岐ポリオレフィンが挙げられ、またエステル系樹脂として、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリシクロヘキサンテレフタレート樹脂、ポリエステルエラストマー等の芳香族ポリエステル樹脂、ポリブチレンサクシネート樹脂、ポリカプロラクトン樹脂等の脂肪族ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート/サクシネート樹脂等の脂肪族芳香族ポリエステル樹脂が挙げられ、またスチレン系樹脂として、ポリスチレン、SBR(スチレン・ブタジエン共重合体)、SBS(スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体)、水添SBS(水添スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体)、SEPS(水添スチレン・イソプレン・スチレン共重合体)、HIPS(耐衝撃性ポリスチレン)、AS樹脂(アクリロニトリル・スチレン共重合体)、ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体)、MBS樹脂(メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体)、MABS樹脂(メチルメタクリレート・アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体)、AAS樹脂(アクリロニトリル・アクリルゴム・スチレン共重合体)、AES樹脂(アクリロニトリル・エチレンプロピレン系ゴム・スチレン共重合体)等が挙げられ、更にアクリル系樹脂として、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸プロピル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、メタクリル酸メチル−アクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸メチル−メタクリル酸エチル共重合体、メタクリル酸メチル−メタクリル酸ブチル共重合体、メタクリル酸メチル−アクリル酸エチル共重合体等が挙げられる。また共役系高分子として、ポリ置換アセチレン、ポリアリーレンエチニレン、ポリチオフェンなどのパイ共役系およびポリシラン類などのシグマ共役系が挙げられる。
【0020】
アクチュエータ40は試料ホルダ30に連結し、溶液セル20を移動させずに試料ホルダ30を探針51に対して移動させるものである。アクチュエータ40は高速原子間力顕微鏡10の筐体12に取り付けられている。
アクチュエータ40としては電気の入力エネルギーを変位・力に変換する圧電セラミクスであるピエゾ素子を利用した圧電アクチュエータを使用している。
アクチュエータ40の下部に試料ホルダ30が接合されており、フィードバックコントローラ70及びデータ収録・制御手段71からの制御信号により、試料ホルダ30及び試料SAをX,Y,Z方向に移動させるようになっている。XY方向への移動はXYアクチュエータ41、Z方向への移動はXYアクチュエータ41の下部に接合するZアクチュエータ42を駆動することにより行う。
また、試料ホルダ30を上下に長い構造とすることで、アクチュエータ40が溶液セル20中の有機溶媒Sに浸らないようになっている。
なお、図2中に矢印で示す通り、本明細書中においてX方向とは試料ホルダ30の試料保持面31を含む平面内の任意の一方向を指し、Y方向とは当該平面内でX方向に直交する方向を指し、Z方向とは当該平面に直交する方向を指すものとする。
【0021】
カンチレバー50はその先端部に探針51を有する可撓性のある部材である。
溶液セル20の内側面にはカンチレバー保持部21が設けられている。カンチレバー保持部21は溶液セル20と同じ材料で構成するのが好ましい。
カンチレバー保持部21と溶液セル20の底部との間に形成されるスリット22の間隔はねじ23により調節可能になっており、開いた状態のスリット22にカンチレバー50の後端部を挿入した状態でねじ23を締めることによりスリット22の間隔が狭まり、カンチレバー50をいわゆる片持ち梁の状態で保持している。
本実施の形態のカンチレバー50は高速走査を可能とすべく、共振周波数を高めるために窒化シリコンを素材とし、長さ10μm、幅2μm、厚さ0.1μm程度に形成されており、通常の原子間力顕微鏡で使用するカンチレバーと比較して小型になっている。このカンチレバー50はバネ定数が0.1N/m、溶液中での共振周波数が800kHz前後となり、高速原子間力顕微鏡10に適したバネ定数と共振周波数を確保している。
探針51は溶液セル20の内部において有機溶媒Sに浸る位置でかつ試料SAの表面に対向する位置に配置されている。
なお、図示は省略するが、溶液セル20の直下であってカンチレバー保持部21の近傍にカンチレバー50を励振させるためのピエゾ素子をベース11(図8参照)に配置しており、このピエゾ素子の振動が溶液セル20及びカンチレバー保持部21を介してカンチレバー50に伝達される構成になっている。
【0022】
振幅検出用光学系手段60は光てこ法によりカンチレバー50の振動振幅を検出するためのものであり、光源61と光検出器62を備える。
光源61としてはレーザー光源を用いることができ、光検出器62としては例えば2分割フォトダイオードを用いることができる。
光源61及び光検出器62は溶液セル20の近傍に配置されている。光源61から照射されたレーザー光Aは、偏光ビームスプリッター63を通過して対物レンズ64によってその光径が絞られた後、溶液セル20の透明部材20b及び開口20aを通過し、カンチレバー50の探針51が設けられている側(表面)と反対側の面(背面)に至る。カンチレバー50背面からの反射光は再度開口20a、透明部材20b及び対物レンズ64を通過し、偏光ビームスプリッター63で進路が変更され、光検出器62で受光されることで走査時のカンチレバー50の振幅を検出するようになっている。なお、レーザー光Aが光源61からカンチレバー50を経て光検出器62に至るまでの光路中、実際には上記対物レンズ64及び偏光ビームスプリッター63以外の複数の光学部材を通過することになるが、これら光学部材の図示及び詳細な説明は省略する。
【0023】
光源61の光軸Lはカンチレバー50に対してほぼ垂直となるように設定されているため、カンチレバー50への照射光及びカンチレバー50からの反射光は共にカンチレバー50に対してほぼ垂直となる。
一方、試料ホルダ30の試料保持面31は撓みがない状態のカンチレバー50に対して非平行となるように設定されている。本実施の形態においては撓みのない状態のカンチレバー50は水平状態となるように設定されており、光源61の光軸Lは水平面に直交するように設定されており、試料保持面31は水平面に対して約10度傾斜するように設定されている。
これにより、小型のカンチレバー50の背面に対して小径のレーザー光Aを正確に照射することが可能となり、原子間力顕微鏡の高速化に寄与している。
【0024】
次に、高速原子間力顕微鏡10の動作について説明する。
まず、固体状態の合成高分子を有機溶媒で溶かすことにより希薄溶液を調製し、合成高分子鎖一本一本を有機溶媒中に分散させる。そして、この溶液を試料保持面31に滴下することで高分子鎖を一本一本が分散した状態で固定する。
次に観測に用いる有機溶媒Sで満たした状態の溶液セル20に対し試料ホルダ30を試料SAの表面が下向きとなる状態で有機溶媒Sに浸る位置でセットする。
ここで、固体状態の高分子を溶解する有機溶媒と観測で使用する有機溶媒は必ずしも同じである必要はない。固体状態の高分子を溶解する有機溶媒には良溶媒を使用しなければならないという制限がある。一方で、観測で使用する有機溶媒には特に制限はなく、高分子鎖一本が良く見える溶媒であれば良い。一例として、固体状態のπ共役高分子を溶解する有機溶媒としてテトラヒドロフランを使い、観測で使用する有機溶媒としてノルマルオクチルベンゼンを使うことがある。ここで、テトラヒドロフランは良溶媒であり、ノルマルオクチルベンゼンは固体状態の高分子を溶解しにくい溶媒であるが、この方が高分子鎖の運動性を抑えられて、高速原子間力顕微鏡で綺麗にイメージングできるという効果を得られる。勿論、溶解させる溶媒も観測で使用する溶媒も同じ良溶媒を使用することもある。高分子鎖一本の動態が高品質にイメージング出来ることを条件にして適宜選択すればよい。
そして、光源61及び光検出器62を駆動させると共に探針51と試料SAの表面との間に原子間力が作用する程度に試料SAを探針51に接近させる。フィードバックコントローラ70は光検出器62からの出力信号と予め規定されている目標値との差分を算出し、この差分がゼロとなるようZアクチュエータ42の駆動をフィードバック制御し、カンチレバー50の振幅値が一定となるように試料ホルダ30をZ方向に移動させる。このZ方向の移動量はその時点でのXY座標における高さに相当し、フィードバックコントローラ70はこのZ方向の移動量をデータ収録・制御手段71に出力する。データ収録・制御手段71は当該出力信号をデータとして収録する。
また、データ収録・制御手段71は処理手段72からの出力信号に基づき探針51が試料SAの表面を相対的に走査するようにXYアクチュエータ41を駆動制御し、試料ホルダ30をXY方向に移動させる。
そして、データ収録・制御手段71はこのXY方向の移動量及び上記Z方向の移動量を処理手段72に出力する。この出力信号は試料SA表面に対する探針51のX,Y,Z方向の相対位置、つまり試料SAの表面形状を示すことになる。したがって、処理手段72においてデータ収録・制御手段71からの出力信号をマッピングすることで、表示手段73には試料SAの高分子鎖一本一本の表面形状が画像として表示される。
高速原子間力顕微鏡10におけるフレームレートは1fps以上であるため、合成高分子鎖一本一本の構造変化や機能を直接的に動画像として観測することができる。
【0025】
[第二の実施の形態]
次に、本発明の高速走査型プローブ顕微鏡の第二の実施の形態について説明する。なお、上記第一の実施の形態と同様の構成となる箇所については同一符号を付して説明を省略する。
図4に示すように、本実施の形態の高速原子間力顕微鏡13は、上記第一の実施の形態の高速原子間力顕微鏡10に電場印加手段80を付加したものである。
電場印加手段80は溶液セル20の内部において試料SAの周囲に電場を発生させるものであり、対向する一対の電極81と電源82とを備える。電場とは電荷が分布することにより形成される電気力の働く空間をいい、電界ともいう。
一対の電極81は溶液セル20の内部において、有機溶媒Sに浸る位置であって試料SAを左右から挟むように配置されている。一対の電極81は可能な限り試料SAの近傍に配置するのが好ましい。これにより試料SAの周囲に生じる電場の勾配を大きくすることができるからである。
【0026】
電極81としては、例えば有機溶媒中で金属イオン化し難く、かつ導電性を有するプラチナ及びイリジウム、あるいは酸化物系セラミックス(例えば、ITO、ATO、酸化アンチモン)をコーティングした材料を使用できる。また、電極81としては均一な電場が得られる点で平板電極が好ましい。また、電極81は、一対の電極81間の距離を調節できるように可動式にしてもよく、これにより最適な電界強度を設定しやすくなる。
なお、電源82によって電極81に印加する電圧は直流電圧であってもよいし交流電圧であってもよい。
このように、第一の実施の形態で示した高速原子間力顕微鏡10に電場印加手段80を付加することによって、試料SAの周囲に電場の勾配を生じさせた状態での観測が可能となり、合成高分子鎖一本の電場応答性の動態を測定することができる。
なお、図5に示すように、一対の電極81を試料ホルダ30側(アクチュエータ40側)に取り付けてもよい。この場合、各電極81が有機溶媒Sに浸った状態で試料ホルダ30に接触しない位置であってかつ可能な限り試料SAに近接するように試料保持面31の左右に取り付けるのが好ましい。仮に各電極81を試料ホルダ30に接触させるものとすると、アクチュエータ40側の重量増加につながり、高速走査に支障をきたすためである。
【0027】
[第三の実施の形態]
次に、本発明の高速走査型プローブ顕微鏡の第三の実施の形態について説明する。なお、上記第一の実施の形態と同様の構成となる箇所については同一符号を付して説明を省略する。
図6及び図7に示すように、本実施の形態の高速原子間力顕微鏡14は、上記第一の実施の形態の高速原子間力顕微鏡10に加熱手段83、冷却手段84、温度検出手段85、温度制御手段86を付加したものである。
加熱手段83は溶液セル20中の有機溶媒Sを加熱するためのものであり、本実施の形態においてはニクロム線83aを用いている。
ニクロム線83aはその周囲をガラス等の絶縁性物質で被覆されており、溶液セル20の内側面に固定されている。ニクロム線83aを溶液セル20の内側面に取り付けることで溶液セル20の外側面に取り付ける場合と比較して急速加熱が可能となる。
【0028】
冷却手段84はアクチュエータ40を冷却するためのものであり、本実施の形態においてはアクチュエータ40の周囲に冷却水を通すための管84aを設置している。
温度検出手段85は溶液セル20中の有機溶媒Sの温度を検出するためのものであり、本実施の形態においては温度センサー(熱電対)85aを溶液セル20の内部に設置している。
温度制御手段86は温度検出手段85からの検出信号に基づいて有機溶媒Sの温度が所望の温度となるように加熱手段83の駆動を制御すると共に冷却手段84の駆動を制御するためのものである。
【0029】
本実施の形態の高速原子間力顕微鏡14では、試料SAの測定中に加熱手段83によって有機溶媒Sを加熱することができる。加熱範囲の上限としては有機溶媒Sの沸点のマイナス30℃程度にとどめておくことが好ましい。沸点近傍まで温度を上昇させてしまうと有機溶媒Sから気泡が発生する可能性があり、特に加熱手段83の近傍で気泡が発生すると試料SAを安定して観測することが困難になるためである。例えば有機溶媒Sとしてキシレン(沸点139℃)を使用する場合、室温から110℃程度までの範囲で有機溶媒Sの温度を調整することができ、オルトジクロロベンゼン(沸点180℃)を使用する場合、室温から150℃程度までの範囲で調整することができる。
なお、溶液セル20の材料としてPEEKを使用する場合には耐熱温度を考慮して、有機溶媒Sの温度を上限140℃程度にとどめておくのが好ましく、140℃を超える場合にはステンレス鋼を使用することが好ましい。
【0030】
このように、加熱手段83によって有機溶媒Sを加熱することができるので、各温度帯での合成高分子鎖一本の動態を観測することが可能となり、また温度変化に伴う動態変化も観測することが可能となる。
また、アクチュエータ40としてピエゾ素子を利用した圧電アクチュエータを使用する場合には、高温になると伸縮特性が変化するというピエゾ素子の特性を考慮して冷却手段84によって冷却水を循環させることでアクチュエータ40を冷却することができる。有機溶媒Sの温度を85℃以上にする場合には、有機溶媒Sの熱が試料ホルダ30を介してアクチュエータ40にまで伝達されるので冷却手段84を使用することが好ましい。この際、循環する冷却水によってアクチュエータ40による走査に悪影響が出るほどの振動が発生しないように流速を低速で制御する。
なお、有機溶媒Sの温度調整を厳密に行う必要がない場合には温度検出手段85及び温度制御手段86を取り除いてもよく、また、有機溶媒Sの温度を例えば85℃以下の範囲にとどめる場合には冷却手段84を取り除いてもよい。
また、加熱手段83を溶液セル20の内部に取り付けるものとしたが、これに限らず溶液セル20の周囲を覆うように取り付けてもよい。この場合ニクロム線83aの周囲を絶縁性物質で被覆する必要はない。
また、加熱手段83はベース11に埋め込んで取り付けてもよい。
また、加熱手段83としては上記ニクロム線83a以外に例えば周知のガラスヒーターを透明部材20bとして利用し、溶液セル20の底面全体から加熱する構成としてもよい。これによりニクロム線83aよりも均一かつ急速に有機溶媒Sを所望の温度に加熱できる。
また、加熱手段83として例えばアルミナ基板に高温耐熱性を持つ白金系抵抗体を取りつけアルミナシートで絶縁等したいわゆるマイクロセラミックヒーターを用いても良い。
また、温度検出手段85と温度制御手段86を周知のサーミスタが兼用する構成としても良い。
また、本実施の形態の高速原子間力顕微鏡14に上記第二の実施の形態で示した電場印加手段80を付加してもよい。この場合、合成高分子鎖一本の温度変化に伴う電場応答性を観測することが可能になる。
【0031】
[第四の実施の形態]
次に、本発明の高速走査型プローブ顕微鏡の第四の実施の形態について説明する。なお、上記第一の実施の形態と同様の構成となる箇所については同一符号を付して説明を省略する。
図8に示すように、本実施の形態の高速原子間力顕微鏡15は、上記第一の実施の形態の高速原子間力顕微鏡10に蒸発防止手段87を付加したものである。
蒸発防止手段87は溶液セル20の周囲を覆うことで有機溶媒Sの蒸発を防止するためのものであり、本実施の形態においては筒状でかつ側面に耐有機溶媒性の柔軟な蛇腹構造を持つ部材(例えば、ポリテトラフルオロエチレン製)を溶液セル20が取りつけられているベース11とアクチュエータ40が取りつけられている筐体12(図8においては図示省略)との間に架設している。これにより溶液セル20の周囲がほぼ気密状態になり、低沸点の有機溶媒S(例えばテトラヒドロフラン)を使用する場合であっても有機溶媒Sが蒸発して溶液セル20内の溶媒量が減少することを防止できる。
【0032】
なお、上記各実施の形態で説明した高速原子間力顕微鏡の測定方法としては、カンチレバー50を振動させながら試料SAに近づけ、カンチレバー50の振幅が一定になるように測定する間欠接触法が好ましい。
また、図示は省略するが、上記各実施の形態における高速原子間力顕微鏡において、溶液セル20の内部又は外部に電磁コイル等の周知の磁場発生装置を取り付けることで合成高分子鎖一本の磁場応答性も測定できる構成にしてもよい。
また、マイクロシリンジを用いて溶液セル20内に各種溶液を注入することで、合成高分子鎖一本の当該溶液に対する反応性を測定できる構成にしてもよい。
また、対物レンズ64を通して各種波長の光を試料SAに照射することで、合成高分子鎖一本の当該波長の光に対する反応性を測定できる構成にしてもよい。(下記、実施例5参照)。この場合、カンチレバー50の振幅検出用として使用しているレーザー光(通常は赤色レーザー光)以外の波長の光を使用するのが好ましい。
また、上記各実施の形態では、基板表面に分散させて固定した合成高分子鎖一本一本を観測するものとしたが、これに限らず、例えば材料として利用されている高分子フィルムなどの表面の高分子鎖一本を観測することも可能である。つまり、合成高分子鎖一本一本を分散させずにそのまま観測することもできるので、機能性高分子フィルム等の材料特性を直接観測・評価することが可能となる。
また、上記各実施の形態では溶液セル20の有機溶媒Sを収容する部分の形状を平面視四角形状としたが(図3、4及び7参照)、これに限らず、例えば図9〜11に示すように有機溶媒収容部24の形状を半円形状にしてもよい。特に、図11に示すように有機溶媒収容部24の内側面に加熱手段83を取り付ける場合には、平面視四角形状の場合と比較して有機溶媒Sをより均一に加熱でき、加熱効率の点で優れる。
また、溶液セル20を平面視した場合に、カンチレバー励振用のピエゾ素子が存在する位置付近の面積(図9〜11中の符号25で示す範囲)をできるだけ大きくすることが好ましい。上述の通り、カンチレバー励振用のピエゾ素子を溶液セル20の直下であってカンチレバー保持部21の近傍に配置しているため、符号25で示す範囲の面積を大きくすることで、ピエゾ素子の振動を確実にカンチレバー50まで伝達することができ、振動伝達効率の点で優れるからである。
【実施例1】
【0033】
次に、上記第二の実施の形態で示した高速原子間力顕微鏡13の実施例について説明する。
合成高分子としてペンダント基にかさ高い光学活性なメンチル基を有する置換フェニルアセチレンポリマー[(-)-poly(MtOCAPA);Mw=1.0x106,Mw/Mn=3.3、図12参照]を使用し、マイカ基板表面に高分子鎖一本一本を分散して吸着させ、有機溶媒としてノルマルオクチルベンゼンを使用し、室温下でイメージングした。カンチレバーは市販品(BL-AC10EGS, Olympus)または試作品(BL-AC7EGS,Olympus)を用いた。
今回、試料保持面の両側から電場印加手段として二つのPt/Ir電極を有機溶媒中に入れ、電場(30kV/m)を印加してイメージングしたところ、電場の印加開始から数秒後より徐々に高分子鎖一本のミクロブラウン運動の速度が増加し、その後、マイカ基板表面から脱着する現象を発見した(図13(a)〜(c)参照)。
これは、電圧印加によってマイカ表面の電荷密度が高まることで生じた、基板表面と高分子鎖の相互作用の低下に基づく現象と考察した。これにより、合成高分子鎖一本の運動性を電場で制御できる可能性が見出された。
以上の通り、キラルらせんπ共役高分子鎖一本の電場応答性の動態をイメージングすることができた。
【実施例2】
【0034】
次に、上記第一の実施の形態で示した高速原子間力顕微鏡10の実施例について説明する。
[キラルらせんπ共役高分子]
合成高分子としてかさ高い光学活性なコレステリル基をパラ位に有する置換フェニルアセチレンポリマー[(+)-poly(ChOCAPA)、図14参照]を使用し、THF溶液からマイカ基板表面に高分子鎖を分散した状態で吸着させ、有機溶媒としてオルトジクロロベンゼン/ノルマルオクチルベンゼン混合溶媒中室温下でイメージングした(図15のフレーム1〜13参照)。
その結果、紐状構造体が観測され、そのサイズから高分子鎖一本であることが確認された。さらに、らせん粗密構造が確認され、フレーム毎にその微細構造が変化する動態が観測された。この構造動態は、らせんピッチの変化に基づくものと考察した。また、他の観測領域では、高分子鎖が糸鞠状に絡まって形成されるグロビュールとそれに相互作用する高分子鎖一本の動態が観測された(図16のフレーム1〜30参照)。その結果、分子運動性が高い高分子鎖の末端が分子間相互作用し易い部位であることが判明した。
【実施例3】
【0035】
次に、上記第一の実施の形態で示した高速原子間力顕微鏡10の他の実施例について説明する。
[ポリオレフィン]
合成高分子としてエチレン‐プロピレン共重合体(Mw=1.78x105,Mw/Mn=11.7,プロピレン含有率:53wt%、図17参照)をキシレン溶液から基板上に分散した状態で吸着させ、デカメチルテトラシロキサン中室温下でイメージングした(図18参照)。
その結果、170nm程度の長さの紐状構造体が観測され、その動態から高分子鎖一本であると考察された。解析の結果、その高さは、ランダムコイル部位と考察されるグロビュールの箇所で約2nmであった。また、細い紐状に観測された箇所では高さは0.5nm以下であり、分子モデルに基づき、この部位は比較的伸びた状態の一本鎖であると考察された。興味深いことに、高分子鎖の両端に各々存在するグロビュール(図18のフレーム1中の黒色矢印参照)の間で、新たにランダムコイルが形成される過程が観測され(図18のフレーム1〜3中の白色矢印参照)、さらに、これが高分子鎖一本の内部で伝播する現象(図18のフレーム5〜16中の白色矢印参照)が発見された。
図18はポリオレフィンの1分子構造の動態イメージングを達成したものであり、現時点で世界初の成果である。
【実施例4】
【0036】
次に、上記第一の実施の形態で示した高速原子間力顕微鏡10の他の実施例について説明する。
合成高分子としてかさ高い光学活性なコレステリル基をパラ位に有する置換フェニルアセチレンポリマー[(-)-poly(ChOCPA)、図19参照]を使用し、THF溶液を3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APS)で化学修飾したマイカ基板表面に高分子鎖が分散した状態で吸着させ、有機溶媒としてノルマルオクチルベンゼン中室温下でイメージングした(図20参照)。
【0037】
その結果、紐状構造体が観測され、そのサイズから高分子鎖一本であることが確認された。そして、キラルらせん高分子鎖一本に吸着した分子(図20のフレーム1〜13中の矢印参照)が高分子鎖に沿って輸送される分子モーター動態をイメージング(フレームレート:5.0fps)することに成功した。この分子輸送は100nm以上の長距離に渡り、かつ4分間以上の長時間観測された。輸送される物質の瞬間速度は、100nm/sに到達した。特に、図20のフレーム3から6にかけて、高分子鎖が屈曲している領域においても、分子が脱着することなく高分子鎖に沿って輸送された。
図20は合成高分子鎖一本に乗った物質がモノレール輸送されるという分子モーター機能をイメージングしたものであり、現時点で世界初の成果である。
【実施例5】
【0038】
次に、対物レンズを通して特定波長の光を試料に照射することで、合成高分子鎖一本の当該波長の光に対する反応性を測定した実施例について説明する。
図21Aに、本実施例に用いたπ共役キラルらせん高分子(-)-poly(MtOCAPA)の化学構造を示す。以前、この高分子鎖が二本絡み合って右巻きの二重らせんを形成する高次構造をSTMイメージングで確認している。さらに、この高分子鎖には構造多様性が確認され、特に高分子鎖一本中にらせん粗密構造が存在することをAFMイメージングで明らかにしている。
図21Bに、(-)-poly(MtOCAPA)の高分子鎖の分子モデルを示す。これは、分子軌道計算(PM5)で構造最適化された繰り返しユニット構造を結合二面角+140度でhead-to-tail結合させて作成した初期構造を分子力場計算(拡張MM3, SCIGRESS software, Fujitsu, Japan)で最適化した高分子鎖一本のモデルである。このモデルから、高分子鎖1本の幅は2.4nmであり、ペンダント基間のピッチは1.9nmである。
【0039】
室温におけるノルマルオクチルベンゼン中マイカ基板上の高分子鎖の高速AFM像を図21Cに示す。フレーム1で示した線1-2のラインプロファイル(図21D)から分かるとおり、この高さは2nmであり、高分子鎖一本の分子モデル(図21B)の幅の2.4nmにほぼ一致していることから、この紐状の構造体は高分子鎖一本であることが確認される。高分子鎖の直接観測によって、高分子鎖の多様な構造と柔軟な分子運動が確認出来た。この分子運動は、室温におけるノルマルオクチルベンゼン中でマイカ基板表面に部分的に吸着した高分子鎖の固液界面におけるミクロブラウン運動である。一方、高分子鎖一本の中で、殆ど動かない部分が確認されるが、これらは基板と強く物理吸着している部位であると考察される。
【0040】
フレーム1から20までは、405nmレーザー照射なしでイメージングした。高分子鎖は切断されることなく、ミクロブラウン運動している。このことから、短針接触が高分子鎖の動態に与える影響は無視出来ることが分かる。
次いで、フレーム21から405nmレーザー(0.2mW,CW,円偏光)の照射を開始した。ここで、フレーム21の上方に確認される像の乱れは、レーザー光の照射開始によって生じたものである。レーザーを照射して直ちに高分子鎖が切断され始め、時間の経過と共に高分子鎖の切断が進行している。
【0041】
ここで、Percecらが既に、cis-Poly(phenylacetylene)の光分解について反応機構を提案している。そこで我々は、実験結果を踏まえて、このπ共役高分子鎖の光分解は、以下の五段階の機構で生じる反応と考察した。
第一段階)光励起:π共役主鎖中のπ電子が波長405nmの光子を吸収して(ε405=1,822/M/cm(inTHF),モノマー単位換算)励起一重項状態に遷移する。
第二段階)系間交差:π共役高分子鎖一本中の励起一重項のπ電子が系間交差によって励起三重項に遷移する。
第三段階)光増感:ノルマルオクチルベンゼン中に溶存する酸素分子O2の内、π共役高分子鎖中の三重項励起子と相互作用した基底三重項酸素分子O2(3Σg-)のπ*電子へ、高分子鎖中の三重項エネルギーが移動し、励起一重項酸素分子O2(1Δg)が生成する。
第四段階)付加環化:一重項酸素分子(寿命10-3s)が近傍の高分子鎖の二重結合へ[2+2]付加環化反応する。
第五段階)分子鎖切断:引き続いて生じるrearrangementで高分子鎖が切断される。生成した鎖末端の構造はケトンとアルデヒドである。
この反応機構は、高分子鎖の光分解反応前後の赤外吸収スペクトルを比較して、反応後のC=O吸収ピーク強度が反応前に比べて相対的に増加したこと、レーザー光を照射しないと反応は生じないこと、そして照射レーザー光出力を上げると反応速度が高くなったことから支持される。また光分解反応は、上記第一段階の光励起が生じなくなるまで続く。この時点で、多くは三量体程度にまで断片化されているものと分子軌道計算の結果から推測される。また、この光分解反応が蛍光観測におけるクエンチングの原因である。
【0042】
高分子鎖一本の光分解反応の動態を解明するために、図22Aに示したとおり、孤立した高分子鎖一本をイメージングした。そしてついに、高分子鎖一本中の化学反応が生じる場所と時間、およびその過程を直接観測することに成功した。観測時間0sから2sまでは、405nmレーザー光を照射していない。観測されている紐状体の高さは2nmであり、分子モデルのサイズ(図21B)とほぼ一致することから、高分子鎖一本であると考察した。加えて、観測領域内にある高分子鎖の長さは200nmであるが、これは平均重合度から算出した平均鎖長(210nm)とほぼ同じであるので、高分子鎖一本の反応を議論する観測対象として適している。そして、観測時間2.1sから、405nmレーザー光の照射を開始したところ、先ず、像の左端にある高さ3nmのグロビュールのサイズが小さくなる現象が確認され、これが光分解反応であると考察した。
【0043】
ここで、光分解反応の進行に伴って観測される分子像が小さくなる理由は、以下のとおりと考えている。先ず、グロビュールを形成している高分子鎖が切断によって断片化する。次いで、この断片が溶媒のノルマルオクチルベンゼン分子の分子衝突によって基板表面から脱着して、溶媒中に拡散するためである。その後の光分解反応によって、高分子鎖の切断が確認された箇所とその順番を図22Aの上部に矢印で示してある。これらは、高分子鎖が屈曲しているまたは運動性が高い箇所である。特に、矢印3で示した箇所では、観測時間5.0sから6.0sにおいて、高分子鎖が切断されると、その分子鎖末端で連続して分解反応が生じて分子鎖が短くなって行くことが分かる。この高分子鎖長の分解速度を計測した結果、klength=16.7nm/sで短くなっていることが分かった。この速度と分子モデル(L=5.05units/nm,二面角:+140度)を元に、ポリマーの繰返し単位での分解速度を算出すると、krepeating-unit=84.3units/sであった。図22Bに、全観測時間での分子像の面積の時間変化を示した。これは、観測領域におけるπ共役高分子鎖一本の平均反応速度の時間変化である。このグラフから分かる様に、レーザー光照射によって直ちに分解反応が進行している。特に重要なことは、光分解反応が段階的に進行しており、量子現象として化学反応が観測されていることである。また、この実験条件における高分子鎖一本の励起頻度は、χ=4.49x104photons/s/moleculeと計算された。つまり、高分子一本鎖のπ電子系は、レーザー光照射を開始した初期状態において、分子鎖中の励起される場所までは特定できないものの、1秒間に平均44,900回光励起されていることが算出された。
【0044】
しかしながら、AFMで観測された光分解反応の速度は、上述のとおり、分解反応速度を計測した領域(図22A矢印3の場所。時間は5.0s-6.0s)で、繰り返し単位毎に鎖末端で順次分解反応が生じたとしても、84.3単位毎秒である。これらの値から導かれる反応量子収率は、φ=0.188%である(但し、この反応量子収率は反応初期状態の値である。励起頻度は、光分解反応の進行と共に低下する)。この反応量子収率の低さは、上述の反応機構の第二段階の三重項励起子の生成確率が低いことが主な原因と考察した。すなわち、光励起された高分子鎖のπ電子からのエネルギー移動による一重項酸素分子(1Δg状態)の生成効率が低いために、結果として、光分解反応速度が低かったと考察した。また、光励起されたπ電子の多くは、放射過程(主に蛍光)と無放射過程を経て基底状態に遷移する。
【0045】
興味深いことに、この領域において光分解反応が生じると(矢印3)、連続して右一方向に反応が進んだ。この現象は、以下の様に考察された。分解反応で生成した鎖末端と基板の吸着力が低かったため、鎖末端の運動性が高かった。分子の運動性が高まれば一重項酸素分子との衝突確率が上がるので、結果として、この領域での反応速度が高くなり連続して反応が観測されたものと考察した。一方、反応速度に異方性(つまりhead-to-tailで反応するかtail-to-headで反応するかで反応速度が異なること)はあるのであろうか?このらせん高分子には、図21Bに示すとおり、らせん主鎖に対するペンダント基の配向に構造異方性がある。この構造異方性が反応の方向性に偏りを与える可能性は考えられるが、現在のところ詳細は不明である。これについては、今後の研究で明らかになるであろう。
本実施例によって、初めてポリマー1分子の化学反応をリアルタイムで直接イメージングすることに成功した。この手法を広く活用することで、今後、ビニルポリマーを含む多くの高分子材料の表面における劣化過程を1分子レベルで動態イメージングし、高分子材料の耐久性向上に向けた機構解明に資することが出来るものと期待される。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は合成高分子の一本鎖の動態の観察が可能な高速走査型プローブ顕微鏡である。合成高分子として例えばポリオレフィンの材料特性を解明可能な手段であり、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0047】
L 光軸
S 有機溶媒
SA 試料
10 高速原子間力顕微鏡
13 高速原子間力顕微鏡
14 高速原子間力顕微鏡
15 高速原子間力顕微鏡
20 溶液セル
30 試料ホルダ
31 試料保持面
40 アクチュエータ
50 カンチレバー
51 探針
60 振幅検出用光学系手段
61 光源
62 光検出器
70 フィードバックコントローラ
71 データ収録・制御手段
72 処理手段
73 表示手段
80 電場印加手段
81 電極
82 電源
83 加熱手段
84 冷却手段
85 温度検出手段
86 温度制御手段
87 蒸発防止手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部が開放され内部に有機溶媒を収容する溶液セルと、
試料表面が下向きとなる状態で当該試料を前記有機溶媒に浸る位置で保持する試料ホルダと、
前記溶液セルの内部において前記有機溶媒に浸る位置でかつ前記試料表面に対向する位置に配置される探針と、
前記溶液セルを移動させずに前記試料ホルダを前記探針に対して移動させるアクチュエータとを備え、前記溶液セルと前記アクチュエータとが分離していることを特徴とする高速走査型プローブ顕微鏡。
【請求項2】
前記溶液セルの内部において前記試料を挟む電極配置で電場を発生させる電場印加手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の高速走査型プローブ顕微鏡。
【請求項3】
前記有機溶媒を加熱する加熱手段と、前記アクチュエータを冷却する冷却手段とを兼ね備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の高速走査型プローブ顕微鏡。
【請求項4】
前記有機溶媒の温度を検出する温度検出手段と、
前記温度検出手段からの検出信号に基づいて、前記有機溶媒の温度が所望の温度となるように前記加熱手段を制御する温度制御手段とを備えることを特徴とする請求項3に記載の高速走査型プローブ顕微鏡。
【請求項5】
前記探針を有するカンチレバーの振幅を検出する振幅検出用光学系手段を備え、
前記振幅検出用光学系手段から前記カンチレバーに照射される照射光及び当該照射光による前記カンチレバーからの反射光が前記カンチレバーに対して垂直であり、
前記試料ホルダの試料保持面が撓みがない状態の前記カンチレバーに対して非平行であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の高速走査型プローブ顕微鏡。
【請求項6】
前記試料が合成高分子であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の高速走査型プローブ顕微鏡。
【請求項7】
前記溶液セルの周囲を覆うことで有機溶媒の蒸発を防止する蒸発防止手段を備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の高速走査型プローブ顕微鏡。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図21】
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【図22】
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