高電圧発生装置
【課題】小形に形成しても放電を発生することのない高電圧発生装置を提供する。
【解決手段】複数の電子部品(コンデンサC,ダイオードD)を接続させることによって形成されており高電圧を発生する高圧発生部11と、高圧発生部11を収容している容器2と、高圧発生部11を覆うように容器2内に充填された放電防止物質であるシリコンゴム17とを有する高電圧発生装置1である。容器2はガラスによって形成されており、つなぎ目が無く一体に形成されている容器である。ガラス製の容器2の壁の内部には隙間が形成されることが無いので、容器2を小さく形成しても高圧発生部11から放電が発生することがない。
【解決手段】複数の電子部品(コンデンサC,ダイオードD)を接続させることによって形成されており高電圧を発生する高圧発生部11と、高圧発生部11を収容している容器2と、高圧発生部11を覆うように容器2内に充填された放電防止物質であるシリコンゴム17とを有する高電圧発生装置1である。容器2はガラスによって形成されており、つなぎ目が無く一体に形成されている容器である。ガラス製の容器2の壁の内部には隙間が形成されることが無いので、容器2を小さく形成しても高圧発生部11から放電が発生することがない。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コッククロフト・ウォルトン回路等といった高圧発生部を含んでなる高電圧発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、コッククロフト・ウォルトン回路等といった高圧発生部を用いた高電圧発生装置が知られている。例えば、特許文献1によれば、コッククロフト・ウォルトン回路等といった高圧発生部を塩化ビニル等といったプラスチック製の容器内に収容し、この容器内の大気中に気流を流すことにより放電の発生を防止するようにした高電圧発生装置が開示されている。
【0003】
また、特許文献2によれば、コッククロフト・ウォルトン回路等といった高圧発生部を絶縁樹脂モールドで覆って絶縁するようにした高電圧発生装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平6−031388号公報(第6〜7頁、図1)
【特許文献2】特開平7−312300号公報(第3〜5頁、図1〜4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された高電圧発生装置においては、高圧発生部と容器とが共通の大気中に設けられていただけなので、高電圧発生装置を小形にしたときに、放電を抑えることが難しかった。また、特許文献2に記載された高電圧発生装置においては、高圧発生部と容器との間に絶縁樹脂モールドが充填されているが、やはり高電圧発生装置を小形にしたときに、放電の発生を抑えることが難しかった。絶縁性樹脂モールドを用いても放電の発生を抑えることが難しいことの理由として次の2つの理由が考えられる。
【0006】
第1には、プラスチック製の容器を製造する際にはプラスチック同士を接着剤で接合させるが、そうして接合された部分には微小な隙間が残り、強電界においてはその微小な隙間の所で放電が発生するからである。また、プラスチックの加工精度は高くないため、プラスチック板の表面には予想外に微小な凹凸が存在し、強電界においてはその微小な凹凸の所で放電が発生するからである。
【0007】
第2の理由は次の通りである。コッククロフト・ウォルトン回路等といった高圧発生部には、直流電流であるが交流成分を持った電流が流れるので、絶縁樹脂モールド中に気泡が存在すると、その気泡はコンデンサと等価と考えられる。気泡は一般には大小の複数個が存在し、そのため絶縁樹脂モールド中には大きなコンデンサと小さなコンデンサとの直列接続が存在すると考えられる。この場合には、容量分圧により小さいコンデンサの方に電界が集中する。この状態を長時間(例えば1年以上)続けると、絶縁性樹脂モールドの内部に電気トリーが発生し、やがては急激な放電が発生するのである。
【0008】
電気トリーとは、それ自体公知の現象であり、空隙(ボイド)内の部分放電による放電先端の高電界部分が、固体のもつ固有破壊限界を超えて局部破壊が起こり、それが徐々に樹枝状に進展し、結果的に全体的な破壊に至る劣化現象である。
【0009】
本発明は、従来装置における上記の問題点に鑑みて成されたものであって、小形に形成しても放電を発生することのない高電圧発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、本発明に係る高電圧発生装置を、その背景となる技術を踏まえて、説明する。
1.前提となる技術
(1) まず、次式(1)は、図8に示すように導電性の円筒部材101と導電性の平面部材102との間に電界をかけたときの電界強度を求める式を示している。
ここで、「r」は円筒部材101の半径、「L0」は円筒部材101と平面部材102との間の距離である。
この式は、プリント基板上のプリントパターンと接地電位(0(ゼロ)V(ボルト))との間の電界強度を計算することに応用できる。
【0011】
(2) 電界強度を把握するために図9(a)に示すモデル構成を作製した。このモデル構成では、ガラスエポキシ製のプリント基板103上のプリントパターン104と金属平板105とを対向させて配置している。図9(b)は図9(a)のモデル構成に対応した図8のモデル図を示している。図9(a)において、プリントパターン104のパターン幅W0は2mmであり、パターンの厚みT0は35μmであり、プリント基板103の先端と金属平板105との間の距離L1は33mmであり、プリント基板103の先端からプリントパターン104までの距離L2は1mmである。図9(b)のモデル図では、図9(a)のモデル構成におけるパターンの厚みT0が35μmなので、円筒部材101の半径rは17.5μmであり、円筒部材101と平面部材102との間の距離L3は34mm(L1+L2)である。
【0012】
図9(a)の構成をアクリル系樹脂から成るケースで覆い、その中に絶縁樹脂であるシリコンゴムを充填した。なお、アクリル系樹脂とシリコンゴムとの接着が確実に行われるようにするため、シリコンゴムを注入する前にアクリル系樹脂の表面にプライマを塗布した。シリコンゴムの充填が完了した後、プリント基板103上のプリントパターン104と金属平板105との間に50kVの電圧をかけた。この場合、上式(1)より、電界強度は340kV/mmとなる。距離34mmで50kVを印加したときの電界強度が340kVというのは、かなり高い値である。この条件においては、徐々にシリコンゴムの劣化が始まり、最後にはアクリル系樹脂製の容器の樹脂同士の接合部における微小な隙間を貫通して接地箇所に向かって放電してしまうことがあった。従って、このモデル構成においては、図9(a)の距離L1を小さくすることが難しい。
【0013】
(3) また、電界強度を把握するために図10(a)に示す他のモデル構成を作製した。図10(a)は、高電圧になる物体を、プリントパターンではなく、半径r=1mmの球体106とした。図9(b)は図10(a)のモデル構成に対応した図8のモデル図を示している。符号101は円筒部材である。図10(a)の構成のように通電部分を球体にすれば、上式(1)により電界強度を12.6kV/mmへと緩和できる。
【0014】
(4) 図11は、通電部分を球体にすることにより電界強度を緩和できることを考慮したモデル構成である。具体的には、プリントパターン104に球体106を付設し、球体106と金属平板105との間に電圧50kVをかける構成を示している。この場合でも、上式(1)より、電界強度は12.6kVである。しかしながら、図11に示す構成をアクリル系樹脂等といったプラスチック製の容器内で大気中に設置すれば、やはり放電が発生した。また、その構成をプラスチック製の容器内に設置した上で、その容器内にシリコンゴム等といった絶縁樹脂を充填した場合でも、電圧を長時間印加したときに、経年変化により最終的には放電が発生した。
【0015】
(5) 以上のように、コッククロフト・ウォルトン回路等といった高圧発生部をプラスチック製の容器内に収容する場合には、その容器内にシリコンゴム等を充填した場合でも、放電の発生を防止することが難しかった。その理由は、上述したように、第1に、プラスチック製の容器の接合部に微小な隙間が残ることである。また、第2に、シリコンゴム等の中に複数の気泡が発生し、それらの気泡がコンデンサとして作用し、小さなコンデンサとして機能する気泡に電界が集中し、その結果、放電が発生することである。
【0016】
(6)また、電界強度を把握するために図12に示すモデル構成を作製した。図12の構成では、プリント基板103上にプリントパターン104が形成され、そのプリントパターン104に半田107によって電界緩和ガード108を接続した。電界緩和ガード108は導電性材料である銅によって形成された直径2mmの円筒すなわちパイプである。以上の基板構造は金属ケース109の中に収容され、さらに、その金属ケース109の中に絶縁性プラスチックであるシリコンゴム110が注入口111から注入されて充填された。
【0017】
電界緩和ガード108と金属ケース109との間の距離L4は10mmとした。電界緩和ガード108と金属ケース109との間に50kVの電界をかけたところ、距離L4=10mmにおける電界強度は18.8kV/mmであった。一般にシリコンゴムの絶縁耐圧は24〜25kV/mmであるので、シリコンゴムそれ自体は上記の電界強度18.8kV/mmの環境下で十分な安全性の下に使用できる。しかしながら、どうしても、金属ケース109とシリコンゴムとの間に気泡(すなわちボイド)112が発生した。そして、電界強度が十分にとれていてもこの気泡112の所で微小放電が発生することがある。
【0018】
この微小放電の時定数は、図13(a)に示すように、ボイド容量×シリコン絶縁抵抗で決定される。高分解能電子顕微鏡等といった精密機器においては、リップル電圧を低く抑えて安定度を高める上で微小放電の発生は悪い影響を与えるおそれがある。従って、気泡112の所で発生する微小放電も解消されるべきである。
【0019】
2.本発明に相当する技術
次に、電界強度を把握するために図14に示すモデル構成を作製した。図14の構成では、プリント基板103上にプリントパターン104が形成され、そのプリントパターン104に半田107によって電界緩和ガード108を接続した。電界緩和ガード108は導電性材料である銅によって形成された直径2mmの円筒すなわちパイプである。以上の基板構造をガラス製のケース(以下、ガラスケースという)113の中に収容し、さらに、その金属ケース109の中に絶縁性プラスチックであるシリコンゴム110を充填した。
【0020】
ガラスケース113の外周面に導電性材料であるアルミニウムテープ114を貼着し、このアルミニウムテープ114を接地した。ガラスケース113の厚みT1は1mmである。電界緩和ガード108とアルミニウムテープ114との間の距離L5は10mmとした。
【0021】
電界緩和ガード108とアルミニウムテープ114との間に50kVの電界をかけたところ、距離L5=10mmにおける電界強度は18.8kV/mmであった。本モデル構成においてもシリコンゴム110の中に気泡112が発生することがあった。しかしながら、気泡112が発生しても放電は発生しないか、発生しても極微小であった。その理由は、図13(b)に示す等価回路のように、ガラス絶縁抵抗が加算されたためであると考えられる。仮に放電が発生しても極微小であり、時定数も相当に長いと考えられる。
【0022】
3.本発明に係る高電圧発生装置の構成
本発明は以上のような「1.前提となる技術」及び「2.本発明に相当する技術」に鑑みて成されたものであって、次のように構成されている。
【0023】
本発明に係る高電圧発生装置は、複数の電子部品(コンデンサC,ダイオードD等)を接続させることによって形成されており高電圧を発生する高圧発生部と、当該高圧発生部を収容している容器と、前記高圧発生部を覆うように前記容器内に充填された放電防止物質(シリコンゴム等)とを有する高電圧発生装置において、前記容器はガラスによって形成されており、つなぎ目が無く一体に形成されている容器であることを特徴とする。
【0024】
上記構成において、「つなぎ目」とは、2つの部材が外観的にはつながっているがそのつながり部分が巨視的又は微視的に観察によって確認できる状態となっている部分のことである。さらに、「つなぎ目」は、放電を誘発するような微小な間隙を含んでいるつながり部分のことである。
【0025】
上記構成の本発明に係る高電圧発生装置によれば、容器はガラスによってつなぎ目の無い状態で一体に形成される。つなぎ目が無く一体状態であるので容器壁内には微小な間隙が存在しておらず、そのため、高圧発生部が容器壁の近くにあっても放電を抑えることができる。その結果、放電の発生を抑えることができるにもかかわらず、容器の外観形状(すなわち、高電圧発生装置の外観形状)を小さくすることができる。
【0026】
高圧発生部をプラスチック製の容器に収納した従来の高電圧発生装置においては、高圧発生部から延びる金属棒を容器のプラスチック壁に貫通させたとき、金属棒とプラスチック壁との間を気密に維持することが難しかった。これに対し、本発明においては、金属棒とガラスとの気密(従って、液密)な接着が容易であるので、高圧発生部の端子から延びる端子棒をガラス容器壁を貫通させて外部へ導出させたときでも、金属棒とガラス容器壁との間を気密(従って、液蜜)に維持できる。
【0027】
本発明に係る高電圧発生装置において、前記放電防止物質は、絶縁性樹脂(シリコンゴム等)又は高圧ガスとすることができる。高圧ガスは、例えば、SF6(六フッ化硫黄)である。
高圧発生部を従来のようにプラスチック製の容器に収納した場合、プラスチック製の容器には微小な間隙が存在している可能性が高いので、放電防止物質のガス成分がプラスチック製の容器から漏れ出るおそれがある。これに対し、本発明態様のように、容器をガラスによって形成した場合には、容器をつなぎ目無く一体に形成できるので、ガス成分が容器の外側へ漏れ出ることを防止できる。
【0028】
本発明に係る高電圧発生装置において、前記つなぎ目の無い容器はガラスを溶融して接合することにより形成することができる。
【0029】
本発明に係る高電圧発生装置において、前記複数の電子部品(コンデンサC,ダイオードD等)はリードを備えることができ、当該複数のリードは基板に接続されるものであり、前記リードは前記基板を貫通しない状態で前記基板に接続されることが望ましい。
【0030】
本発明に係る高電圧発生装置において、前記基板上には複数の導電性のパッドが設けることができ、それらのパッド上に導電性の連結材を導電接合することができ、前記電子部品(C,R)のリードは前記連結材に挿入されており、且つ前記パッドを貫通していないことが望ましい。
【0031】
本発明に係る高電圧発生装置において、前記連結材には前記電子部品(C,D)のリードを貫通させる又は非貫通で挿入させることができる孔が設けられていることが望ましい。
【0032】
本発明に係る高電圧発生装置において、前記連結材の前記リードを挿入する部分の表面形状は丸い形状になっていることが望ましい。
【0033】
本発明に係る高電圧発生装置において、前記高圧発生部は複数の電子部品(コンデンサC,ダイオードD等)を基板を介すること無く直接に接続させることによって形成でき、それらの電子部品(C,D)を前記容器の中に収容することができ、当該容器の内部に前記放電防止物質(シリコンゴム等)を充填することができる。
【0034】
本発明に係る高電圧発生装置において、前記高圧発生部はコッククロフト・ウォルトン回路を含んで構成できる。この場合、前記複数の電子部品はコッククロフト・ウォルトン回路を構成する電子部品である複数のコンデンサ(C)及び複数のダイオード(D)ということになる。
【発明の効果】
【0035】
本発明に係る高電圧発生装置において、容器はガラスによってつなぎ目の無い状態で一体に形成される。つなぎ目が無く一体状態であるので容器壁内には微小な間隙が存在しておらず、そのため、高圧発生部が容器壁の近くにあっても放電を抑えることができる。その結果、放電の発生を抑えることができるにもかかわらず、容器の外観形状(すなわち、高電圧発生装置の外観形状)を小さくすることができる。
【0036】
高圧発生部をプラスチック製の容器に収納した従来の高電圧発生装置においては、高圧発生部から延びる金属棒を容器のプラスチック壁に貫通させたとき、金属棒とプラスチック壁との間を気密に維持することが難しかった。これに対し、本発明においては、金属棒とガラスとの気密(従って、液密)な接着が容易であるので、高圧発生部の端子から延びる端子棒をガラス容器壁を貫通させて外部へ導出させたときでも、金属棒とガラス容器壁との間を気密(従って、液蜜)に維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る高電圧発生装置の一実施形態の外観を示す斜視図である。
【図2】図1の高電圧発生装置の内部構造を示す断面図である。
【図3】図2に示した高電圧発生装置の内部に設けられている電気回路を示す回路図である。
【図4】本発明に係る高電圧発生装置の他の実施形態を示す断面図である。
【図5】図4に示す高電圧発生装置で用いられる電子部品の実装状態を示す図である。
【図6】本発明に係る高電圧発生装置のさらに他の実施形態を示す断面図である。
【図7】図6に示す高電圧発生装置を示す断面図である。
【図8】円筒部材と平面部材との間に生じる電界の強度を説明するための図である。
【図9】電圧が印加された部材間に生じる電界の強度を説明するためのモデル構成の一例を示す図である。
【図10】電圧が印加された部材間に生じる電界の強度を説明するためのモデル構成の他の一例を示す図である。
【図11】電圧が印加された部材間に生じる電界の強度を説明するためのモデル構成のさらに他の一例を示す図である。
【図12】電圧が印加された部材間に生じる電界の強度を説明するためのモデル構成のさらに他の一例を示す図である。
【図13】高電圧発生装置の内部に設けられる構成の等価回路を示す回路図である。
【図14】電圧が印加された部材間に生じる電界の強度を説明するためのモデル構成のさらに他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
(高電圧発生装置の第1の実施形態)
以下、本発明に係る高電圧発生装置を実施形態に基づいて説明する。なお、本発明がこの実施形態に限定されないことはもちろんである。また、本明細書に添付した図面では特徴的な部分を分かり易く示すために実際のものとは異なった比率で構成要素を示す場合がある。
【0039】
図1は、本発明に係る高電圧発生装置の一実施形態の外観を示す斜視図である。図2は、図1に示した高電圧発生装置の内部構造を示す縦断面図である。図3は、図2に示した高電圧発生装置の内部に設けられている電気回路を示す回路図である。
【0040】
図1において、本実施形態の高電圧発生装置1は、直方体形状である容器2と、容器2の内部に設けられたプリント基板3とを有する。容器2はガラスによって直方体形状又は立方体形状(以下、方体形状ということがある)に形成されている。
【0041】
容器2は例えば次のようにして形成できる。すなわち、円筒形状のガラス管を、直方筒形状又は立方筒形状のガラス管に変形させた後、基板3を含んだ被収容物をその開放端から容器2の内部へ挿入し、その後、容器2の開放端にガラス板を溶着、すなわち溶かして接着することにより、全ての面が閉じられており、且つ、つなぎ目の無い形状、すなわち一体成形形状に形成される。
【0042】
あるいは、容器2は、例えば、基板3を含む被収容物の周囲において複数の平板状のガラス板の端部同士を溶着することにより、全ての面が閉じられており、且つ、つなぎ目の無い一体成形形状へと形成することもできる。
【0043】
上記の2種類の容器形成方法のそれぞれにおいて、2つのガラスを接合する際には、それらの端部同士を高温にて溶融させた上で接合すなわち接着を行う。一般に、プラスチック製の2枚の板材を接合させる場合には、それらを接着剤によって接合するが、その接合部分にはどうしても微小な隙間が形成されてしまう。また、アクリル板の一部分同士をアクリル棒を用いて溶接し、その溶接部のアクリル板に導入金属棒を貫通させる場合もあるが、このようにしてアクリル板に導入金属棒を貫通させた場合に、どうしても微小な隙間が生じる。これらのことに対し、ガラスの溶接によって形成された本実施形態の容器2は、全く隙間の無いガラス一体成形品となっている。
【0044】
また、プラスチック製の容器の内面にはその性質上、どうしても微小な凹凸が存在する。これに対し、ガラスによって形成された本実施形態の容器2の内面にはガラスの性質上、凹凸が存在せず、極めて滑らかな平面となっている。
【0045】
図2に示すように、容器2の外周面の全面に導電性のテープ、例えばアルミニウムテープ8が密着状態で貼着されている。アルミニウムテープ8は電位的に接地されている。図1では理解を助けるためにアルミニウムテープ8の一部を容器2から剥がした状態を示しているが、アルミニウムテープ8は、もちろん、容器2の表面に密着している。
【0046】
図1において、容器2の長手側の側辺の一部分において複数(本実施形態では3本)の導電性の入力端子棒(例えば、金属棒)4が外部へ張出している。入力端子棒4に隣接して1本の導電性のグランド端子棒(例えば、金属棒)6が設けられている。グランド端子棒6も容器2の外部へ張出している。容器2の短手側の側辺の上部の一部分において樹脂製の出力コネクタ7が容器2の外部へ張出している。
【0047】
図2に示すように、入力端子棒4及びグランド端子棒6は容器2の壁を貫通している。これらの端子棒4,6と容器2(すなわちガラス)とは、それらの間に隙間が生じないように気密状態、従って液蜜状態に密着している。この密着は、容器2を形成しているガラスを溶融及び冷却することにより、金属である端子棒4.6をガラスに接着することによって達成できる。
【0048】
例えば、Fe(鉄)、Ni(ニッケル)、Co(コバルト)を含む合金であるコバール(Kovar)によって端子棒4,6を形成し、コバールの線膨張係数と同じ又は近い線膨張係数をもったガラス、いわゆるコバールガラスを端子棒4,6と容器2との間に介在させ、そしてコバールガラスを溶融して容器2へ接着することにより、端子棒4,6を容器2に気密従って液蜜に接着することができる。このように、ガラスと金属とを気密に接着させることは容易である。なお、端子棒4,6は、コバールによって形成されることに限られず、W(タングステン)、Mo(モリブデン)によって形成することもできる。
【0049】
プラスチック製の出力コネクタ7は、概ね円筒形状の筒体であり、その先端部分の外周面に雄ネジが設けられている。ガラス製の容器2のうち出力コネクタ7が取り付けられる部分には貫通孔が形成され、その貫通孔の内周面に雌ねじが設けられている。出力コネクタ7は、上記の雄ネジと雌ネジとのネジ嵌合により、容器2に気密状態、従って液蜜状態に取り付けられている。
【0050】
図2において、プリント基板3の表面には、それぞれが電子回路である高圧発生部11、ローパスフィルタ12、及びフィードバック抵抗13が実装されている。高圧発生部11は本実施形態では、図3に示すようにコッククロフト・ウォルトン回路によって形成されている。コッククロフト・ウォルトン回路は、それ自体公知の高圧発生回路であり、複数のコンデンサCと複数のダイオードDとをブリッジ接続して成る1つの昇圧段を複数、直列に接続して成る回路である。高圧発生部11は場合によっては、コッククロフト・ウォルトン回路以外の回路によって形成することもできる。
【0051】
図1に示した3本の入力端子棒4のそれぞれの内部側の一端は、図3に示すように、高圧発生部11を構成するコッククロフト・ウォルトン回路の入力端子に接続されている。入力端子棒4の外部側の一端は、容器2の外部に設けられている昇圧トランス14の出力端子に接続されている。本実施形態では、高圧発生部11を構成するコッククロフト・ウォルトン回路の昇圧段が6段であり、昇圧トランス14の出力がAC5kVであり、コッククロフト・ウォルトン回路は昇圧トランス14の出力を12倍して50kVの高電圧を発生させている。
【0052】
なお、接地電位は高圧発生部(コッククロフト・ウォルトン回路)11の入力側につながれており、従って、高圧発生部11の高圧出力は負の電位である。すなわち、高圧発生部11の出力は−(マイナス)50kVである。図3において、符号19はガスアレスタである。ガスアレスタは、雷サージ(すなわち雷雲や雷により直接的又は間接的に発生する異常電圧)から回路を保護する素子であって、内部にガスを封入して成る公知の素子である。
【0053】
ローパスフィルタ12は、複数のコンデンサCと複数の抵抗Rとによって構成されている。ローパスフィルタ12は、それ自体公知の電子回路であり、ある遮断周波数より高い周波数の帯域を通さない、又は減衰させるフィルタである。遮断周波数は設計者によって任意に設定される。本実施形態では、ローパスフィルタ12は、高圧発生部(コッククロフト・ウォルトン回路)11から出力される直流の高電圧に含まれるAC(交流)部分を減らすために用いられている。これは、高分解能電子顕微鏡のようにリップル電圧を嫌う装置のための電源として使用される場合を考慮したものである。従って、リップル電圧が生じても構わない場合には、ローパスフィルタ12を用いなくても良い。
【0054】
フィードバック抵抗13は、複数のコンデンサCと複数の抵抗Rとによって構成されている。フィードバック抵抗13は高圧発生部(コッククロフト・ウォルトン回路)11の出力端子に現れる高電圧を分圧する。こうして分圧された高圧発生部11の出力電圧は図示しないコントローラへフィードバック情報として伝送される。コントローラはこのフィードバック情報に基づいて高圧発生部11の出力電圧を制御する。
【0055】
図2において、容器2の図示下側の端部に樹脂導入口16が設けられている。この樹脂導入口16を通して容器2の内部に、放電防止物質としての絶縁性樹脂、例えばシリコンゴム17が注入され、内部の全体に充填されている。高圧発生部11の周囲をシリコンゴム17で覆ったことにより、高圧発生部11の周辺で放電が発生することを防止でき、その結果、本実施形態の高電圧発生装置1を使用する装置、例えば電子顕微鏡において放電に起因した不都合が発生することを防止できる。
【0056】
なお、樹脂導入口16を通して容器2の内部へシリコンゴム17を注入して内部に充填させたとき、シリコンゴム17の内部に気泡(すなわちボイド)が発生して残留するおそれがある。そのような気泡の残留を防止するため、シリコンゴム17の注入が完了した後、シリコンゴム17に残留する気泡を樹脂導入口16を通して外部へ取り出す処理、いわゆる脱泡処理を行っても良い。
【0057】
以上説明したように、本実施形態では、高圧発生部11を収容する容器2をガラスによって形成した。ガラス同士は溶着(すなわち、加熱して溶融させての接着)により、つなぎ目(すなわち、微小な隙間を含んでいる部分)の無い一体成形品へと形成されている。
【0058】
従来の高電圧発生装置では、容器がアクリル系樹脂等といったプラスチックによって形成されていた。プラスチックによって容器を形成した場合には、プラスチック同士を接着剤によって接着した所には大きな確率で微小な間隙が含まれる。このように容器の壁の内部に微小な間隙が含まれていると、この容器によって高圧発生部を収納した場合、容器で囲まれた空間領域にシリコンゴム等を充填したとしても、上記の微小な間隙の所で放電が発生し、高電圧発生装置それ自身を破損したり、高電圧発生装置の周辺機器に悪影響を及ぼすことがある。
【0059】
これに対し、本実施形態の高電圧発生装置では容器2をガラスによって形成したので容器2はつなぎ目のない一体成形品となり、容器2の壁の内部には隙間が存在しない。このため、容器2によって高圧発生部11を収容した場合、容器2の内面と高圧発生部11の高圧部分との間の距離が小さくても放電が発生することがなくなる。こうして、放電の発生を防止した小型の高電圧発生装置が実現できた。
【0060】
また、図2に示したように入力端子棒4及びグランド端子棒6等といった導電性の端子棒を容器2の壁に貫通させる場合、従来のように容器2がプラスチックによって形成されていたときには、端子棒と容器壁との間を隙間なく封止することは、略不可能であった。そのため、従来は、この隙間部分で放電が発生する可能性が高かった。
【0061】
本実施形態では容器2をガラスによって形成している。一般に、導電性物質、例えば金属とガラスとを気密に接着することは容易である。従って、本実施形態の高電圧発生装置では端子棒4,6が容器2を貫通して外部へ張り出す所においても放電の発生を確実に抑えることができる。
【0062】
以上のように、本実施形態の高電圧発生装置によれば、容器2を小型に形成した場合でも高圧発生部11から放電が発生することを防止できる。これにより、小型で安全な高電圧発生装置を提供できた。
【0063】
(高電圧発生装置の第2の実施形態)
図4及び図5は本発明に係る高電圧発生装置の他の実施形態を示している。図4は高電圧発生装置の平面断面図であり、図5はその高電圧発生装置の内部でプリント基板に実装されている電子部品の基板に対する接合状態を示している。
【0064】
本実施形態の高電圧発生装置21は、直方体形状である容器22と、容器22の内部に設けられたプリント基板23とを有する。容器22はガラスによって方体形状、すなわち直方体形状又は立方体形状に形成されている。容器22は、図2に示した実施形態の場合と同様にしてつなぎ目の無い一体成形形状に形成されている。容器22の外周面の全面に導電性のテープであるアルミニウムテープ28が貼着されている。アルミニウムテープ8は電位的に接地されている。
【0065】
容器22の図中の左側の側辺の一部分において複数(本実施形態では3本)の導電性の入力端子棒24が外部へ張出している。入力端子棒24に隣接して1本の導電性のグランド端子棒26が設けられている。グランド端子棒6も容器22の外部へ張出している。容器22の図中の右側の側辺の下部の一部分において樹脂製の出力コネクタ27が容器22の外部へ張出している。
【0066】
入力端子棒24及びグランド端子棒26は容器22の壁を貫通している。これらの端子棒24,26と容器22(すなわちガラス)とは、それらの間に隙間が生じないように気密状態、従って液蜜状態に密着している。この密着は、容器22を形成しているガラスを溶融及び冷却することにより、金属である端子棒24.26をガラスに接着することによって達成できる。
【0067】
プリント基板23の表面には、それぞれが電子回路である高圧発生部31及びフィードバック抵抗33が実装されている。ローパスフィルタは設けられていない。高圧発生部31はコッククロフト・ウォルトン回路によって形成されている。3本の入力端子棒24のそれぞれの内部側の一端は、高圧発生部31を構成するコッククロフト・ウォルトン回路の入力端子に接続されている。入力端子棒24の外部側の一端は、容器22の外部で図示しない昇圧トランスの出力端子に接続されている。
【0068】
容器22の端子棒24,26が貫通している側面の下部に樹脂導入口36が設けられている。この樹脂導入口36を通して容器22の内部に、放電防止物質としての絶縁性樹脂、例えばシリコンゴム17が注入され、内部の全体に充填されている。高圧発生部31の周囲をシリコンゴム17で覆ったことにより、高圧発生部31の周辺で放電が発生することを防止でき、その結果、本実施形態の高電圧発生装置21を使用する装置、例えばX線発生装置において放電に起因した不都合が発生することを防止できる。
【0069】
本実施形態の高電圧発生装置21においても容器22がガラスによって形成されているので、容器22はつなぎ目のない一体成形品となっており、容器22の壁の内部には隙間が存在しない。このため、容器22によって高圧発生部31を収容した場合、容器22の内面と高圧発生部31の高圧部分との間の距離が小さくても放電が発生することがなくなった。こうして、放電の発生を防止した小型の高電圧発生装置が実現できた。
【0070】
また、容器22がガラスによって形成されているので、容器22を貫通している入力端子棒24及びグランド端子棒26は容器22の壁に気密従って液蜜に接着している。このため、これらの端子部分において放電が発生することは極めて低く抑えられている。
【0071】
以上のように、本実施形態の高電圧発生装置21によれば、容器22を小型に形成した場合でも高圧発生部31から放電が発生することを防止でき、これにより、小型で安全な高電圧発生装置を提供できた。
【0072】
図5は、図4において高圧発生部31を形成しているコッククロフト・ウォルトン回路や、高圧発生部31の後段に接続されたフィードバック抵抗33等で用いられている、抵抗R、ダイオードD、及びコンデンサCのプリント基板23への接続状態を示している。図5において、プリント基板23上で配線パターンがプリントされている部分に銅箔パッド41が任意の形成方法によって形成されている。そして、銅箔パッド41の上に半田付け等によって連結材42が導電接続されている。
【0073】
連結材42は導電材料、例えば銅によって形成されており、丸みを帯びた形状、例えば半球形状に形成されており、その丸みを帯びた部分が基板23から離れる方向を向くように銅箔パッド41上に固定されている。連結材42の略中央には、抵抗RのリードやダイオードDのリードやコンデンサCのリードを挿入できる径を持った孔が空けられている。この孔は、連結材42を貫通する孔であっても良く、連結材42の内部の途中で止まる座グリ孔であっても良い。
【0074】
電子部品である抵抗R、ダイオードD及びコンデンサCのリード、あるいは必要に応じて用いられるその他の電子部品のリードは、連結材42に設けた孔の中に挿入されて位置決めされた上で半田付け等の導電接続手法によって連結材42に固定されている。これにより、抵抗R等といった電子部品がプリント基板23上のプリントパターンに導電接続されて所望の回路が形成されている。
【0075】
抵抗R等のリードを挿入するために連結材42に設けられた孔が貫通孔であっても、連結材42の下方位置にはパッド41が設けられているので、リードはそのパッド41の所で止まり、基板23を貫通することはない。連結材42が貫通孔でなく座グリ孔である場合も、リードは基板23を貫通することはない。
【0076】
従来の電子部品の実装方法においては、プリント基板23に貫通孔を空けておき、電子部品のリードをその貫通孔に挿入した上で、そのリードを半田付けによってプリント基板上に導電接続していた。この方法では、プリント基板の貫通孔から突出したリードに電界が集中して電界強度が高くなり、その部分において放電が発生するおそれが高かった。
【0077】
これに対し、本実施形態では、リードの先端がパッド41で止まるか、連結材42の途中で止まるので、リードの先端部分が基板23を貫通してその下方へ突出することがない。しかも、連結材42は丸みを帯びた形状であって鋭角的な部分が無いので、基板23へのリードの接続部分に電界が集中することが無く、従ってその部分において放電が発生する可能性が著しく低減されている。
【0078】
なお、連結材42の形状は半球状に限られるものではなく、鋭角的な形状で無ければ良い。また、連結材42は銅以外の導電材料によって形成しても良い。また、リードを基板23上に半田付けする際にその半田を丸い形状に成形すれば良いとも考えられるが、半田をそのように丸い形状に形成することは非常に難しいので、やはり、本実施形態のように連結材42を用いることが望ましい。
【0079】
本実施形態によれば、図4において、高圧発生部31を収容する容器22をガラスによって形成したことにより容器22をつなぎ目(すなわち微小な隙間を含む部分)の無い一体成形形状に形成したことと、抵抗やコンデンサ等といった電子部品のリードを丸みを帯びた形状の連結材42を介して基板23に導電接続することにしたこと、との組み合わせにより、高圧発生部31から放電が発生することを極めて低い確率に抑えることが可能となった。このため、高圧発生部31と容器22とを近接させて配置させることができ、それ故、高電圧発生装置21の全体形状を小型に形成することが可能である。
【0080】
なお、高圧発生部31を収容する容器22をガラスによって形成することと、電子部品のリードの基板23への導電接続部に丸い形状の連結材42を設けてリードが基板23から突出することを防止すること、との組み合わせにより高圧発生部31からの放電を防止する効果が高められることは上述の通りであるが、放電を防止するという効果は、電子部品のリードの基板23への導電接続部に丸い形状の連結材42を設けてリードが基板23から突出することを防止するという構成だけによっても達成することが可能である。
【0081】
(高電圧発生装置の第3の実施形態)
図6及び図7は、本発明に係る高電圧発生装置のさらに他の実施形態を示している。図6は、本実施形態の高電圧発生装置51を真空利用機器52の構成要素の1つとして用いた場合の実施形態を示している。ここに示す真空利用機器52は、高電圧発生装置51と、電極53と、ターゲット54と、銃ユニット55と、真空チャンバ56とを有している。
【0082】
真空チャンバ56は、高電圧発生装置51、電極53、ターゲット54、そして銃ユニット55を収容している。真空チャンバ56の内部は、図示しない排気装置の作用により、真空状態又は真空に近い排気状態に保持されている。
【0083】
真空利用機器52は、実際には、電子線アニーリング装置、電子線蒸着装置、イオンスパッタ装置、イオン注入装置等として構成される。銃ユニット55は目標とする装置に応じて、イオン銃として構成されたり、電子銃として構成されたりする。また、目標とする装置に応じて、イオン銃や電子銃にレンズや偏向器が付設される。
【0084】
高電圧発生装置51は、図7に示すように、高圧発生部57と、高圧発生部57を収容したガラス製の容器62と、容器62の内部空間内に充填された放電防止物質としての絶縁性樹脂であるシリコンゴム59と、出力端子60とを有している。容器62の断面形状は円、楕円、長方形、正方形等に設定される。
【0085】
高圧発生部57は、複数のコンデンサCと複数のダイオードDとを接続して成るコッククロフト・ウォルトン回路によって構成されている。複数のコンデンサCと複数のダイオードDはそれらのリードを半田付け又はその他の導電接続手法によって接続されており、プリント基板等といった基板は使用していない。高圧発生部57は入力側INに低電圧を入力し、出力側OUTに高電圧を出力する。
【0086】
本実施形態では、図6において、高電圧発生装置51が真空領域内に設けられている。高電圧発生装置51内の高圧発生部57はガラス製の容器62の内部にシリコンゴム59と共に気密に収納されている。ガラス製の容器62はシリコンゴム59を気密に収納しているので、真空チャンバ56の内部がシリコンゴム59のアウターガスで汚染されることがない。
【0087】
容器62を構成しているガラスは真空圧力に耐えられる厚みを有しており、圧力によって破壊することが無いようになっている。高圧発生部57を構成するコッククロフト・ウォルトン回路は30kV〜200kVを出力できるように構成することができる。そのような出力電圧を考慮すれば、本実施形態の高電圧発生装置51は、例えば、電子線アニーリング装置、電子線蒸着装置、イオンスパッタ装置、イオン注入装置等に好適に使用できる。
【0088】
本実施形態に係る高電圧発生装置51において、高圧発生部57であるコッククロフト・ウォルトン回路はプリント基板を用いて形成されるのではなく、コンデンサCとダイオードDとを直接につないで形成されている。従って、高圧発生部57は小型に形成できる。また、容器62は、つなぎ目の無い一体に形成されたガラスによって形成されているので、容器62を小型に形成した場合でも高圧発生部57から放電が発生することを防止できる。
【0089】
このように本実施形態では、プリント基板を用いないで高圧発生部57を形成したので高圧発生部57それ自体が小型に形成されている。さらに、高圧発生部57を包囲する容器62もガラス製にしたので放電を生じないにもかかわらず小型に形成されている。このため、本実施形態の高電圧発生装置51は、小型で安全な高電圧発生装置となっている。その結果、本実施形態の高電圧発生装置51を用いた電子線アニーリング装置、電子線蒸着装置、イオンスパッタ装置、イオン注入装置等は非常に小型に形成できる。例えばそれらの装置を半導体装置用として半導体工場で用いることを考えれば、半導体工場のフットプリント、すなわち機器が占有する床面積を小さくすることができる。
【0090】
(その他の実施形態)
以上、好ましい実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はその実施形態に限定されるものでなく、請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々に改変できる。
例えば、高圧発生部はコッククロフト・ウォルトン回路に限られず、種々の構成の高圧発生部を採用できる。
【0091】
上記実施形態では放電防止物質としてシリコンゴムを用いた。しかしながら、放電防止物質としては、シリコンゴム以外の絶縁性樹脂を用いることもできるし、絶縁性樹脂以外の適宜の物質、例えば高圧ガス、例えばSF6(六フッ化硫黄)ガスを用いることもできる。アクリル等といった樹脂によって容器を形成した場合には、ガスが外部へ漏れ出てしまい使用に供することが難しいが、ガラス製の容器は気密封止が確実なので放電防止物質としてガスを用いても支障がない。
【符号の説明】
【0092】
1.高電圧発生装置、 2.容器、 3.プリント基板、 4.入力端子棒、 6.グランド端子棒、 7.出力コネクタ、 8.アルミニウムテープ、 11.高圧発生部(コッククロフト・ウォルトン回路)、 12.ローパスフィルタ、 13.フィードバック抵抗、 14.昇圧トランス、 16.樹脂導入口、 17.シリコンゴム(絶縁性樹脂、放電防止物質)、 19.ガスアレスタ、 21.高電圧発生装置、 22.容器、 23.プリント基板、 24.入力端子棒、 26.グランド端子棒、 27.出力コネクタ、 31.高圧発生部、 33.フィードバック抵抗、 36.樹脂導入口、 41.銅箔パッド、 42.連結材、 51.高電圧発生装置、 52.真空利用機器、 53.電極、 54.ターゲット、 55.銃ユニット、 56.真空チャンバ、 57.高圧発生部(コッククロフト・ウォルトン回路)、 59.シリコンゴム(絶縁性樹脂、放電防止物質)、 60.出力端子、 62.容器、 C.コンデンサ(電子部品)、 D.ダイオード(電子部品)、 R.抵抗(電子部品)
【技術分野】
【0001】
本発明は、コッククロフト・ウォルトン回路等といった高圧発生部を含んでなる高電圧発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、コッククロフト・ウォルトン回路等といった高圧発生部を用いた高電圧発生装置が知られている。例えば、特許文献1によれば、コッククロフト・ウォルトン回路等といった高圧発生部を塩化ビニル等といったプラスチック製の容器内に収容し、この容器内の大気中に気流を流すことにより放電の発生を防止するようにした高電圧発生装置が開示されている。
【0003】
また、特許文献2によれば、コッククロフト・ウォルトン回路等といった高圧発生部を絶縁樹脂モールドで覆って絶縁するようにした高電圧発生装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平6−031388号公報(第6〜7頁、図1)
【特許文献2】特開平7−312300号公報(第3〜5頁、図1〜4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された高電圧発生装置においては、高圧発生部と容器とが共通の大気中に設けられていただけなので、高電圧発生装置を小形にしたときに、放電を抑えることが難しかった。また、特許文献2に記載された高電圧発生装置においては、高圧発生部と容器との間に絶縁樹脂モールドが充填されているが、やはり高電圧発生装置を小形にしたときに、放電の発生を抑えることが難しかった。絶縁性樹脂モールドを用いても放電の発生を抑えることが難しいことの理由として次の2つの理由が考えられる。
【0006】
第1には、プラスチック製の容器を製造する際にはプラスチック同士を接着剤で接合させるが、そうして接合された部分には微小な隙間が残り、強電界においてはその微小な隙間の所で放電が発生するからである。また、プラスチックの加工精度は高くないため、プラスチック板の表面には予想外に微小な凹凸が存在し、強電界においてはその微小な凹凸の所で放電が発生するからである。
【0007】
第2の理由は次の通りである。コッククロフト・ウォルトン回路等といった高圧発生部には、直流電流であるが交流成分を持った電流が流れるので、絶縁樹脂モールド中に気泡が存在すると、その気泡はコンデンサと等価と考えられる。気泡は一般には大小の複数個が存在し、そのため絶縁樹脂モールド中には大きなコンデンサと小さなコンデンサとの直列接続が存在すると考えられる。この場合には、容量分圧により小さいコンデンサの方に電界が集中する。この状態を長時間(例えば1年以上)続けると、絶縁性樹脂モールドの内部に電気トリーが発生し、やがては急激な放電が発生するのである。
【0008】
電気トリーとは、それ自体公知の現象であり、空隙(ボイド)内の部分放電による放電先端の高電界部分が、固体のもつ固有破壊限界を超えて局部破壊が起こり、それが徐々に樹枝状に進展し、結果的に全体的な破壊に至る劣化現象である。
【0009】
本発明は、従来装置における上記の問題点に鑑みて成されたものであって、小形に形成しても放電を発生することのない高電圧発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、本発明に係る高電圧発生装置を、その背景となる技術を踏まえて、説明する。
1.前提となる技術
(1) まず、次式(1)は、図8に示すように導電性の円筒部材101と導電性の平面部材102との間に電界をかけたときの電界強度を求める式を示している。
ここで、「r」は円筒部材101の半径、「L0」は円筒部材101と平面部材102との間の距離である。
この式は、プリント基板上のプリントパターンと接地電位(0(ゼロ)V(ボルト))との間の電界強度を計算することに応用できる。
【0011】
(2) 電界強度を把握するために図9(a)に示すモデル構成を作製した。このモデル構成では、ガラスエポキシ製のプリント基板103上のプリントパターン104と金属平板105とを対向させて配置している。図9(b)は図9(a)のモデル構成に対応した図8のモデル図を示している。図9(a)において、プリントパターン104のパターン幅W0は2mmであり、パターンの厚みT0は35μmであり、プリント基板103の先端と金属平板105との間の距離L1は33mmであり、プリント基板103の先端からプリントパターン104までの距離L2は1mmである。図9(b)のモデル図では、図9(a)のモデル構成におけるパターンの厚みT0が35μmなので、円筒部材101の半径rは17.5μmであり、円筒部材101と平面部材102との間の距離L3は34mm(L1+L2)である。
【0012】
図9(a)の構成をアクリル系樹脂から成るケースで覆い、その中に絶縁樹脂であるシリコンゴムを充填した。なお、アクリル系樹脂とシリコンゴムとの接着が確実に行われるようにするため、シリコンゴムを注入する前にアクリル系樹脂の表面にプライマを塗布した。シリコンゴムの充填が完了した後、プリント基板103上のプリントパターン104と金属平板105との間に50kVの電圧をかけた。この場合、上式(1)より、電界強度は340kV/mmとなる。距離34mmで50kVを印加したときの電界強度が340kVというのは、かなり高い値である。この条件においては、徐々にシリコンゴムの劣化が始まり、最後にはアクリル系樹脂製の容器の樹脂同士の接合部における微小な隙間を貫通して接地箇所に向かって放電してしまうことがあった。従って、このモデル構成においては、図9(a)の距離L1を小さくすることが難しい。
【0013】
(3) また、電界強度を把握するために図10(a)に示す他のモデル構成を作製した。図10(a)は、高電圧になる物体を、プリントパターンではなく、半径r=1mmの球体106とした。図9(b)は図10(a)のモデル構成に対応した図8のモデル図を示している。符号101は円筒部材である。図10(a)の構成のように通電部分を球体にすれば、上式(1)により電界強度を12.6kV/mmへと緩和できる。
【0014】
(4) 図11は、通電部分を球体にすることにより電界強度を緩和できることを考慮したモデル構成である。具体的には、プリントパターン104に球体106を付設し、球体106と金属平板105との間に電圧50kVをかける構成を示している。この場合でも、上式(1)より、電界強度は12.6kVである。しかしながら、図11に示す構成をアクリル系樹脂等といったプラスチック製の容器内で大気中に設置すれば、やはり放電が発生した。また、その構成をプラスチック製の容器内に設置した上で、その容器内にシリコンゴム等といった絶縁樹脂を充填した場合でも、電圧を長時間印加したときに、経年変化により最終的には放電が発生した。
【0015】
(5) 以上のように、コッククロフト・ウォルトン回路等といった高圧発生部をプラスチック製の容器内に収容する場合には、その容器内にシリコンゴム等を充填した場合でも、放電の発生を防止することが難しかった。その理由は、上述したように、第1に、プラスチック製の容器の接合部に微小な隙間が残ることである。また、第2に、シリコンゴム等の中に複数の気泡が発生し、それらの気泡がコンデンサとして作用し、小さなコンデンサとして機能する気泡に電界が集中し、その結果、放電が発生することである。
【0016】
(6)また、電界強度を把握するために図12に示すモデル構成を作製した。図12の構成では、プリント基板103上にプリントパターン104が形成され、そのプリントパターン104に半田107によって電界緩和ガード108を接続した。電界緩和ガード108は導電性材料である銅によって形成された直径2mmの円筒すなわちパイプである。以上の基板構造は金属ケース109の中に収容され、さらに、その金属ケース109の中に絶縁性プラスチックであるシリコンゴム110が注入口111から注入されて充填された。
【0017】
電界緩和ガード108と金属ケース109との間の距離L4は10mmとした。電界緩和ガード108と金属ケース109との間に50kVの電界をかけたところ、距離L4=10mmにおける電界強度は18.8kV/mmであった。一般にシリコンゴムの絶縁耐圧は24〜25kV/mmであるので、シリコンゴムそれ自体は上記の電界強度18.8kV/mmの環境下で十分な安全性の下に使用できる。しかしながら、どうしても、金属ケース109とシリコンゴムとの間に気泡(すなわちボイド)112が発生した。そして、電界強度が十分にとれていてもこの気泡112の所で微小放電が発生することがある。
【0018】
この微小放電の時定数は、図13(a)に示すように、ボイド容量×シリコン絶縁抵抗で決定される。高分解能電子顕微鏡等といった精密機器においては、リップル電圧を低く抑えて安定度を高める上で微小放電の発生は悪い影響を与えるおそれがある。従って、気泡112の所で発生する微小放電も解消されるべきである。
【0019】
2.本発明に相当する技術
次に、電界強度を把握するために図14に示すモデル構成を作製した。図14の構成では、プリント基板103上にプリントパターン104が形成され、そのプリントパターン104に半田107によって電界緩和ガード108を接続した。電界緩和ガード108は導電性材料である銅によって形成された直径2mmの円筒すなわちパイプである。以上の基板構造をガラス製のケース(以下、ガラスケースという)113の中に収容し、さらに、その金属ケース109の中に絶縁性プラスチックであるシリコンゴム110を充填した。
【0020】
ガラスケース113の外周面に導電性材料であるアルミニウムテープ114を貼着し、このアルミニウムテープ114を接地した。ガラスケース113の厚みT1は1mmである。電界緩和ガード108とアルミニウムテープ114との間の距離L5は10mmとした。
【0021】
電界緩和ガード108とアルミニウムテープ114との間に50kVの電界をかけたところ、距離L5=10mmにおける電界強度は18.8kV/mmであった。本モデル構成においてもシリコンゴム110の中に気泡112が発生することがあった。しかしながら、気泡112が発生しても放電は発生しないか、発生しても極微小であった。その理由は、図13(b)に示す等価回路のように、ガラス絶縁抵抗が加算されたためであると考えられる。仮に放電が発生しても極微小であり、時定数も相当に長いと考えられる。
【0022】
3.本発明に係る高電圧発生装置の構成
本発明は以上のような「1.前提となる技術」及び「2.本発明に相当する技術」に鑑みて成されたものであって、次のように構成されている。
【0023】
本発明に係る高電圧発生装置は、複数の電子部品(コンデンサC,ダイオードD等)を接続させることによって形成されており高電圧を発生する高圧発生部と、当該高圧発生部を収容している容器と、前記高圧発生部を覆うように前記容器内に充填された放電防止物質(シリコンゴム等)とを有する高電圧発生装置において、前記容器はガラスによって形成されており、つなぎ目が無く一体に形成されている容器であることを特徴とする。
【0024】
上記構成において、「つなぎ目」とは、2つの部材が外観的にはつながっているがそのつながり部分が巨視的又は微視的に観察によって確認できる状態となっている部分のことである。さらに、「つなぎ目」は、放電を誘発するような微小な間隙を含んでいるつながり部分のことである。
【0025】
上記構成の本発明に係る高電圧発生装置によれば、容器はガラスによってつなぎ目の無い状態で一体に形成される。つなぎ目が無く一体状態であるので容器壁内には微小な間隙が存在しておらず、そのため、高圧発生部が容器壁の近くにあっても放電を抑えることができる。その結果、放電の発生を抑えることができるにもかかわらず、容器の外観形状(すなわち、高電圧発生装置の外観形状)を小さくすることができる。
【0026】
高圧発生部をプラスチック製の容器に収納した従来の高電圧発生装置においては、高圧発生部から延びる金属棒を容器のプラスチック壁に貫通させたとき、金属棒とプラスチック壁との間を気密に維持することが難しかった。これに対し、本発明においては、金属棒とガラスとの気密(従って、液密)な接着が容易であるので、高圧発生部の端子から延びる端子棒をガラス容器壁を貫通させて外部へ導出させたときでも、金属棒とガラス容器壁との間を気密(従って、液蜜)に維持できる。
【0027】
本発明に係る高電圧発生装置において、前記放電防止物質は、絶縁性樹脂(シリコンゴム等)又は高圧ガスとすることができる。高圧ガスは、例えば、SF6(六フッ化硫黄)である。
高圧発生部を従来のようにプラスチック製の容器に収納した場合、プラスチック製の容器には微小な間隙が存在している可能性が高いので、放電防止物質のガス成分がプラスチック製の容器から漏れ出るおそれがある。これに対し、本発明態様のように、容器をガラスによって形成した場合には、容器をつなぎ目無く一体に形成できるので、ガス成分が容器の外側へ漏れ出ることを防止できる。
【0028】
本発明に係る高電圧発生装置において、前記つなぎ目の無い容器はガラスを溶融して接合することにより形成することができる。
【0029】
本発明に係る高電圧発生装置において、前記複数の電子部品(コンデンサC,ダイオードD等)はリードを備えることができ、当該複数のリードは基板に接続されるものであり、前記リードは前記基板を貫通しない状態で前記基板に接続されることが望ましい。
【0030】
本発明に係る高電圧発生装置において、前記基板上には複数の導電性のパッドが設けることができ、それらのパッド上に導電性の連結材を導電接合することができ、前記電子部品(C,R)のリードは前記連結材に挿入されており、且つ前記パッドを貫通していないことが望ましい。
【0031】
本発明に係る高電圧発生装置において、前記連結材には前記電子部品(C,D)のリードを貫通させる又は非貫通で挿入させることができる孔が設けられていることが望ましい。
【0032】
本発明に係る高電圧発生装置において、前記連結材の前記リードを挿入する部分の表面形状は丸い形状になっていることが望ましい。
【0033】
本発明に係る高電圧発生装置において、前記高圧発生部は複数の電子部品(コンデンサC,ダイオードD等)を基板を介すること無く直接に接続させることによって形成でき、それらの電子部品(C,D)を前記容器の中に収容することができ、当該容器の内部に前記放電防止物質(シリコンゴム等)を充填することができる。
【0034】
本発明に係る高電圧発生装置において、前記高圧発生部はコッククロフト・ウォルトン回路を含んで構成できる。この場合、前記複数の電子部品はコッククロフト・ウォルトン回路を構成する電子部品である複数のコンデンサ(C)及び複数のダイオード(D)ということになる。
【発明の効果】
【0035】
本発明に係る高電圧発生装置において、容器はガラスによってつなぎ目の無い状態で一体に形成される。つなぎ目が無く一体状態であるので容器壁内には微小な間隙が存在しておらず、そのため、高圧発生部が容器壁の近くにあっても放電を抑えることができる。その結果、放電の発生を抑えることができるにもかかわらず、容器の外観形状(すなわち、高電圧発生装置の外観形状)を小さくすることができる。
【0036】
高圧発生部をプラスチック製の容器に収納した従来の高電圧発生装置においては、高圧発生部から延びる金属棒を容器のプラスチック壁に貫通させたとき、金属棒とプラスチック壁との間を気密に維持することが難しかった。これに対し、本発明においては、金属棒とガラスとの気密(従って、液密)な接着が容易であるので、高圧発生部の端子から延びる端子棒をガラス容器壁を貫通させて外部へ導出させたときでも、金属棒とガラス容器壁との間を気密(従って、液蜜)に維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る高電圧発生装置の一実施形態の外観を示す斜視図である。
【図2】図1の高電圧発生装置の内部構造を示す断面図である。
【図3】図2に示した高電圧発生装置の内部に設けられている電気回路を示す回路図である。
【図4】本発明に係る高電圧発生装置の他の実施形態を示す断面図である。
【図5】図4に示す高電圧発生装置で用いられる電子部品の実装状態を示す図である。
【図6】本発明に係る高電圧発生装置のさらに他の実施形態を示す断面図である。
【図7】図6に示す高電圧発生装置を示す断面図である。
【図8】円筒部材と平面部材との間に生じる電界の強度を説明するための図である。
【図9】電圧が印加された部材間に生じる電界の強度を説明するためのモデル構成の一例を示す図である。
【図10】電圧が印加された部材間に生じる電界の強度を説明するためのモデル構成の他の一例を示す図である。
【図11】電圧が印加された部材間に生じる電界の強度を説明するためのモデル構成のさらに他の一例を示す図である。
【図12】電圧が印加された部材間に生じる電界の強度を説明するためのモデル構成のさらに他の一例を示す図である。
【図13】高電圧発生装置の内部に設けられる構成の等価回路を示す回路図である。
【図14】電圧が印加された部材間に生じる電界の強度を説明するためのモデル構成のさらに他の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
(高電圧発生装置の第1の実施形態)
以下、本発明に係る高電圧発生装置を実施形態に基づいて説明する。なお、本発明がこの実施形態に限定されないことはもちろんである。また、本明細書に添付した図面では特徴的な部分を分かり易く示すために実際のものとは異なった比率で構成要素を示す場合がある。
【0039】
図1は、本発明に係る高電圧発生装置の一実施形態の外観を示す斜視図である。図2は、図1に示した高電圧発生装置の内部構造を示す縦断面図である。図3は、図2に示した高電圧発生装置の内部に設けられている電気回路を示す回路図である。
【0040】
図1において、本実施形態の高電圧発生装置1は、直方体形状である容器2と、容器2の内部に設けられたプリント基板3とを有する。容器2はガラスによって直方体形状又は立方体形状(以下、方体形状ということがある)に形成されている。
【0041】
容器2は例えば次のようにして形成できる。すなわち、円筒形状のガラス管を、直方筒形状又は立方筒形状のガラス管に変形させた後、基板3を含んだ被収容物をその開放端から容器2の内部へ挿入し、その後、容器2の開放端にガラス板を溶着、すなわち溶かして接着することにより、全ての面が閉じられており、且つ、つなぎ目の無い形状、すなわち一体成形形状に形成される。
【0042】
あるいは、容器2は、例えば、基板3を含む被収容物の周囲において複数の平板状のガラス板の端部同士を溶着することにより、全ての面が閉じられており、且つ、つなぎ目の無い一体成形形状へと形成することもできる。
【0043】
上記の2種類の容器形成方法のそれぞれにおいて、2つのガラスを接合する際には、それらの端部同士を高温にて溶融させた上で接合すなわち接着を行う。一般に、プラスチック製の2枚の板材を接合させる場合には、それらを接着剤によって接合するが、その接合部分にはどうしても微小な隙間が形成されてしまう。また、アクリル板の一部分同士をアクリル棒を用いて溶接し、その溶接部のアクリル板に導入金属棒を貫通させる場合もあるが、このようにしてアクリル板に導入金属棒を貫通させた場合に、どうしても微小な隙間が生じる。これらのことに対し、ガラスの溶接によって形成された本実施形態の容器2は、全く隙間の無いガラス一体成形品となっている。
【0044】
また、プラスチック製の容器の内面にはその性質上、どうしても微小な凹凸が存在する。これに対し、ガラスによって形成された本実施形態の容器2の内面にはガラスの性質上、凹凸が存在せず、極めて滑らかな平面となっている。
【0045】
図2に示すように、容器2の外周面の全面に導電性のテープ、例えばアルミニウムテープ8が密着状態で貼着されている。アルミニウムテープ8は電位的に接地されている。図1では理解を助けるためにアルミニウムテープ8の一部を容器2から剥がした状態を示しているが、アルミニウムテープ8は、もちろん、容器2の表面に密着している。
【0046】
図1において、容器2の長手側の側辺の一部分において複数(本実施形態では3本)の導電性の入力端子棒(例えば、金属棒)4が外部へ張出している。入力端子棒4に隣接して1本の導電性のグランド端子棒(例えば、金属棒)6が設けられている。グランド端子棒6も容器2の外部へ張出している。容器2の短手側の側辺の上部の一部分において樹脂製の出力コネクタ7が容器2の外部へ張出している。
【0047】
図2に示すように、入力端子棒4及びグランド端子棒6は容器2の壁を貫通している。これらの端子棒4,6と容器2(すなわちガラス)とは、それらの間に隙間が生じないように気密状態、従って液蜜状態に密着している。この密着は、容器2を形成しているガラスを溶融及び冷却することにより、金属である端子棒4.6をガラスに接着することによって達成できる。
【0048】
例えば、Fe(鉄)、Ni(ニッケル)、Co(コバルト)を含む合金であるコバール(Kovar)によって端子棒4,6を形成し、コバールの線膨張係数と同じ又は近い線膨張係数をもったガラス、いわゆるコバールガラスを端子棒4,6と容器2との間に介在させ、そしてコバールガラスを溶融して容器2へ接着することにより、端子棒4,6を容器2に気密従って液蜜に接着することができる。このように、ガラスと金属とを気密に接着させることは容易である。なお、端子棒4,6は、コバールによって形成されることに限られず、W(タングステン)、Mo(モリブデン)によって形成することもできる。
【0049】
プラスチック製の出力コネクタ7は、概ね円筒形状の筒体であり、その先端部分の外周面に雄ネジが設けられている。ガラス製の容器2のうち出力コネクタ7が取り付けられる部分には貫通孔が形成され、その貫通孔の内周面に雌ねじが設けられている。出力コネクタ7は、上記の雄ネジと雌ネジとのネジ嵌合により、容器2に気密状態、従って液蜜状態に取り付けられている。
【0050】
図2において、プリント基板3の表面には、それぞれが電子回路である高圧発生部11、ローパスフィルタ12、及びフィードバック抵抗13が実装されている。高圧発生部11は本実施形態では、図3に示すようにコッククロフト・ウォルトン回路によって形成されている。コッククロフト・ウォルトン回路は、それ自体公知の高圧発生回路であり、複数のコンデンサCと複数のダイオードDとをブリッジ接続して成る1つの昇圧段を複数、直列に接続して成る回路である。高圧発生部11は場合によっては、コッククロフト・ウォルトン回路以外の回路によって形成することもできる。
【0051】
図1に示した3本の入力端子棒4のそれぞれの内部側の一端は、図3に示すように、高圧発生部11を構成するコッククロフト・ウォルトン回路の入力端子に接続されている。入力端子棒4の外部側の一端は、容器2の外部に設けられている昇圧トランス14の出力端子に接続されている。本実施形態では、高圧発生部11を構成するコッククロフト・ウォルトン回路の昇圧段が6段であり、昇圧トランス14の出力がAC5kVであり、コッククロフト・ウォルトン回路は昇圧トランス14の出力を12倍して50kVの高電圧を発生させている。
【0052】
なお、接地電位は高圧発生部(コッククロフト・ウォルトン回路)11の入力側につながれており、従って、高圧発生部11の高圧出力は負の電位である。すなわち、高圧発生部11の出力は−(マイナス)50kVである。図3において、符号19はガスアレスタである。ガスアレスタは、雷サージ(すなわち雷雲や雷により直接的又は間接的に発生する異常電圧)から回路を保護する素子であって、内部にガスを封入して成る公知の素子である。
【0053】
ローパスフィルタ12は、複数のコンデンサCと複数の抵抗Rとによって構成されている。ローパスフィルタ12は、それ自体公知の電子回路であり、ある遮断周波数より高い周波数の帯域を通さない、又は減衰させるフィルタである。遮断周波数は設計者によって任意に設定される。本実施形態では、ローパスフィルタ12は、高圧発生部(コッククロフト・ウォルトン回路)11から出力される直流の高電圧に含まれるAC(交流)部分を減らすために用いられている。これは、高分解能電子顕微鏡のようにリップル電圧を嫌う装置のための電源として使用される場合を考慮したものである。従って、リップル電圧が生じても構わない場合には、ローパスフィルタ12を用いなくても良い。
【0054】
フィードバック抵抗13は、複数のコンデンサCと複数の抵抗Rとによって構成されている。フィードバック抵抗13は高圧発生部(コッククロフト・ウォルトン回路)11の出力端子に現れる高電圧を分圧する。こうして分圧された高圧発生部11の出力電圧は図示しないコントローラへフィードバック情報として伝送される。コントローラはこのフィードバック情報に基づいて高圧発生部11の出力電圧を制御する。
【0055】
図2において、容器2の図示下側の端部に樹脂導入口16が設けられている。この樹脂導入口16を通して容器2の内部に、放電防止物質としての絶縁性樹脂、例えばシリコンゴム17が注入され、内部の全体に充填されている。高圧発生部11の周囲をシリコンゴム17で覆ったことにより、高圧発生部11の周辺で放電が発生することを防止でき、その結果、本実施形態の高電圧発生装置1を使用する装置、例えば電子顕微鏡において放電に起因した不都合が発生することを防止できる。
【0056】
なお、樹脂導入口16を通して容器2の内部へシリコンゴム17を注入して内部に充填させたとき、シリコンゴム17の内部に気泡(すなわちボイド)が発生して残留するおそれがある。そのような気泡の残留を防止するため、シリコンゴム17の注入が完了した後、シリコンゴム17に残留する気泡を樹脂導入口16を通して外部へ取り出す処理、いわゆる脱泡処理を行っても良い。
【0057】
以上説明したように、本実施形態では、高圧発生部11を収容する容器2をガラスによって形成した。ガラス同士は溶着(すなわち、加熱して溶融させての接着)により、つなぎ目(すなわち、微小な隙間を含んでいる部分)の無い一体成形品へと形成されている。
【0058】
従来の高電圧発生装置では、容器がアクリル系樹脂等といったプラスチックによって形成されていた。プラスチックによって容器を形成した場合には、プラスチック同士を接着剤によって接着した所には大きな確率で微小な間隙が含まれる。このように容器の壁の内部に微小な間隙が含まれていると、この容器によって高圧発生部を収納した場合、容器で囲まれた空間領域にシリコンゴム等を充填したとしても、上記の微小な間隙の所で放電が発生し、高電圧発生装置それ自身を破損したり、高電圧発生装置の周辺機器に悪影響を及ぼすことがある。
【0059】
これに対し、本実施形態の高電圧発生装置では容器2をガラスによって形成したので容器2はつなぎ目のない一体成形品となり、容器2の壁の内部には隙間が存在しない。このため、容器2によって高圧発生部11を収容した場合、容器2の内面と高圧発生部11の高圧部分との間の距離が小さくても放電が発生することがなくなる。こうして、放電の発生を防止した小型の高電圧発生装置が実現できた。
【0060】
また、図2に示したように入力端子棒4及びグランド端子棒6等といった導電性の端子棒を容器2の壁に貫通させる場合、従来のように容器2がプラスチックによって形成されていたときには、端子棒と容器壁との間を隙間なく封止することは、略不可能であった。そのため、従来は、この隙間部分で放電が発生する可能性が高かった。
【0061】
本実施形態では容器2をガラスによって形成している。一般に、導電性物質、例えば金属とガラスとを気密に接着することは容易である。従って、本実施形態の高電圧発生装置では端子棒4,6が容器2を貫通して外部へ張り出す所においても放電の発生を確実に抑えることができる。
【0062】
以上のように、本実施形態の高電圧発生装置によれば、容器2を小型に形成した場合でも高圧発生部11から放電が発生することを防止できる。これにより、小型で安全な高電圧発生装置を提供できた。
【0063】
(高電圧発生装置の第2の実施形態)
図4及び図5は本発明に係る高電圧発生装置の他の実施形態を示している。図4は高電圧発生装置の平面断面図であり、図5はその高電圧発生装置の内部でプリント基板に実装されている電子部品の基板に対する接合状態を示している。
【0064】
本実施形態の高電圧発生装置21は、直方体形状である容器22と、容器22の内部に設けられたプリント基板23とを有する。容器22はガラスによって方体形状、すなわち直方体形状又は立方体形状に形成されている。容器22は、図2に示した実施形態の場合と同様にしてつなぎ目の無い一体成形形状に形成されている。容器22の外周面の全面に導電性のテープであるアルミニウムテープ28が貼着されている。アルミニウムテープ8は電位的に接地されている。
【0065】
容器22の図中の左側の側辺の一部分において複数(本実施形態では3本)の導電性の入力端子棒24が外部へ張出している。入力端子棒24に隣接して1本の導電性のグランド端子棒26が設けられている。グランド端子棒6も容器22の外部へ張出している。容器22の図中の右側の側辺の下部の一部分において樹脂製の出力コネクタ27が容器22の外部へ張出している。
【0066】
入力端子棒24及びグランド端子棒26は容器22の壁を貫通している。これらの端子棒24,26と容器22(すなわちガラス)とは、それらの間に隙間が生じないように気密状態、従って液蜜状態に密着している。この密着は、容器22を形成しているガラスを溶融及び冷却することにより、金属である端子棒24.26をガラスに接着することによって達成できる。
【0067】
プリント基板23の表面には、それぞれが電子回路である高圧発生部31及びフィードバック抵抗33が実装されている。ローパスフィルタは設けられていない。高圧発生部31はコッククロフト・ウォルトン回路によって形成されている。3本の入力端子棒24のそれぞれの内部側の一端は、高圧発生部31を構成するコッククロフト・ウォルトン回路の入力端子に接続されている。入力端子棒24の外部側の一端は、容器22の外部で図示しない昇圧トランスの出力端子に接続されている。
【0068】
容器22の端子棒24,26が貫通している側面の下部に樹脂導入口36が設けられている。この樹脂導入口36を通して容器22の内部に、放電防止物質としての絶縁性樹脂、例えばシリコンゴム17が注入され、内部の全体に充填されている。高圧発生部31の周囲をシリコンゴム17で覆ったことにより、高圧発生部31の周辺で放電が発生することを防止でき、その結果、本実施形態の高電圧発生装置21を使用する装置、例えばX線発生装置において放電に起因した不都合が発生することを防止できる。
【0069】
本実施形態の高電圧発生装置21においても容器22がガラスによって形成されているので、容器22はつなぎ目のない一体成形品となっており、容器22の壁の内部には隙間が存在しない。このため、容器22によって高圧発生部31を収容した場合、容器22の内面と高圧発生部31の高圧部分との間の距離が小さくても放電が発生することがなくなった。こうして、放電の発生を防止した小型の高電圧発生装置が実現できた。
【0070】
また、容器22がガラスによって形成されているので、容器22を貫通している入力端子棒24及びグランド端子棒26は容器22の壁に気密従って液蜜に接着している。このため、これらの端子部分において放電が発生することは極めて低く抑えられている。
【0071】
以上のように、本実施形態の高電圧発生装置21によれば、容器22を小型に形成した場合でも高圧発生部31から放電が発生することを防止でき、これにより、小型で安全な高電圧発生装置を提供できた。
【0072】
図5は、図4において高圧発生部31を形成しているコッククロフト・ウォルトン回路や、高圧発生部31の後段に接続されたフィードバック抵抗33等で用いられている、抵抗R、ダイオードD、及びコンデンサCのプリント基板23への接続状態を示している。図5において、プリント基板23上で配線パターンがプリントされている部分に銅箔パッド41が任意の形成方法によって形成されている。そして、銅箔パッド41の上に半田付け等によって連結材42が導電接続されている。
【0073】
連結材42は導電材料、例えば銅によって形成されており、丸みを帯びた形状、例えば半球形状に形成されており、その丸みを帯びた部分が基板23から離れる方向を向くように銅箔パッド41上に固定されている。連結材42の略中央には、抵抗RのリードやダイオードDのリードやコンデンサCのリードを挿入できる径を持った孔が空けられている。この孔は、連結材42を貫通する孔であっても良く、連結材42の内部の途中で止まる座グリ孔であっても良い。
【0074】
電子部品である抵抗R、ダイオードD及びコンデンサCのリード、あるいは必要に応じて用いられるその他の電子部品のリードは、連結材42に設けた孔の中に挿入されて位置決めされた上で半田付け等の導電接続手法によって連結材42に固定されている。これにより、抵抗R等といった電子部品がプリント基板23上のプリントパターンに導電接続されて所望の回路が形成されている。
【0075】
抵抗R等のリードを挿入するために連結材42に設けられた孔が貫通孔であっても、連結材42の下方位置にはパッド41が設けられているので、リードはそのパッド41の所で止まり、基板23を貫通することはない。連結材42が貫通孔でなく座グリ孔である場合も、リードは基板23を貫通することはない。
【0076】
従来の電子部品の実装方法においては、プリント基板23に貫通孔を空けておき、電子部品のリードをその貫通孔に挿入した上で、そのリードを半田付けによってプリント基板上に導電接続していた。この方法では、プリント基板の貫通孔から突出したリードに電界が集中して電界強度が高くなり、その部分において放電が発生するおそれが高かった。
【0077】
これに対し、本実施形態では、リードの先端がパッド41で止まるか、連結材42の途中で止まるので、リードの先端部分が基板23を貫通してその下方へ突出することがない。しかも、連結材42は丸みを帯びた形状であって鋭角的な部分が無いので、基板23へのリードの接続部分に電界が集中することが無く、従ってその部分において放電が発生する可能性が著しく低減されている。
【0078】
なお、連結材42の形状は半球状に限られるものではなく、鋭角的な形状で無ければ良い。また、連結材42は銅以外の導電材料によって形成しても良い。また、リードを基板23上に半田付けする際にその半田を丸い形状に成形すれば良いとも考えられるが、半田をそのように丸い形状に形成することは非常に難しいので、やはり、本実施形態のように連結材42を用いることが望ましい。
【0079】
本実施形態によれば、図4において、高圧発生部31を収容する容器22をガラスによって形成したことにより容器22をつなぎ目(すなわち微小な隙間を含む部分)の無い一体成形形状に形成したことと、抵抗やコンデンサ等といった電子部品のリードを丸みを帯びた形状の連結材42を介して基板23に導電接続することにしたこと、との組み合わせにより、高圧発生部31から放電が発生することを極めて低い確率に抑えることが可能となった。このため、高圧発生部31と容器22とを近接させて配置させることができ、それ故、高電圧発生装置21の全体形状を小型に形成することが可能である。
【0080】
なお、高圧発生部31を収容する容器22をガラスによって形成することと、電子部品のリードの基板23への導電接続部に丸い形状の連結材42を設けてリードが基板23から突出することを防止すること、との組み合わせにより高圧発生部31からの放電を防止する効果が高められることは上述の通りであるが、放電を防止するという効果は、電子部品のリードの基板23への導電接続部に丸い形状の連結材42を設けてリードが基板23から突出することを防止するという構成だけによっても達成することが可能である。
【0081】
(高電圧発生装置の第3の実施形態)
図6及び図7は、本発明に係る高電圧発生装置のさらに他の実施形態を示している。図6は、本実施形態の高電圧発生装置51を真空利用機器52の構成要素の1つとして用いた場合の実施形態を示している。ここに示す真空利用機器52は、高電圧発生装置51と、電極53と、ターゲット54と、銃ユニット55と、真空チャンバ56とを有している。
【0082】
真空チャンバ56は、高電圧発生装置51、電極53、ターゲット54、そして銃ユニット55を収容している。真空チャンバ56の内部は、図示しない排気装置の作用により、真空状態又は真空に近い排気状態に保持されている。
【0083】
真空利用機器52は、実際には、電子線アニーリング装置、電子線蒸着装置、イオンスパッタ装置、イオン注入装置等として構成される。銃ユニット55は目標とする装置に応じて、イオン銃として構成されたり、電子銃として構成されたりする。また、目標とする装置に応じて、イオン銃や電子銃にレンズや偏向器が付設される。
【0084】
高電圧発生装置51は、図7に示すように、高圧発生部57と、高圧発生部57を収容したガラス製の容器62と、容器62の内部空間内に充填された放電防止物質としての絶縁性樹脂であるシリコンゴム59と、出力端子60とを有している。容器62の断面形状は円、楕円、長方形、正方形等に設定される。
【0085】
高圧発生部57は、複数のコンデンサCと複数のダイオードDとを接続して成るコッククロフト・ウォルトン回路によって構成されている。複数のコンデンサCと複数のダイオードDはそれらのリードを半田付け又はその他の導電接続手法によって接続されており、プリント基板等といった基板は使用していない。高圧発生部57は入力側INに低電圧を入力し、出力側OUTに高電圧を出力する。
【0086】
本実施形態では、図6において、高電圧発生装置51が真空領域内に設けられている。高電圧発生装置51内の高圧発生部57はガラス製の容器62の内部にシリコンゴム59と共に気密に収納されている。ガラス製の容器62はシリコンゴム59を気密に収納しているので、真空チャンバ56の内部がシリコンゴム59のアウターガスで汚染されることがない。
【0087】
容器62を構成しているガラスは真空圧力に耐えられる厚みを有しており、圧力によって破壊することが無いようになっている。高圧発生部57を構成するコッククロフト・ウォルトン回路は30kV〜200kVを出力できるように構成することができる。そのような出力電圧を考慮すれば、本実施形態の高電圧発生装置51は、例えば、電子線アニーリング装置、電子線蒸着装置、イオンスパッタ装置、イオン注入装置等に好適に使用できる。
【0088】
本実施形態に係る高電圧発生装置51において、高圧発生部57であるコッククロフト・ウォルトン回路はプリント基板を用いて形成されるのではなく、コンデンサCとダイオードDとを直接につないで形成されている。従って、高圧発生部57は小型に形成できる。また、容器62は、つなぎ目の無い一体に形成されたガラスによって形成されているので、容器62を小型に形成した場合でも高圧発生部57から放電が発生することを防止できる。
【0089】
このように本実施形態では、プリント基板を用いないで高圧発生部57を形成したので高圧発生部57それ自体が小型に形成されている。さらに、高圧発生部57を包囲する容器62もガラス製にしたので放電を生じないにもかかわらず小型に形成されている。このため、本実施形態の高電圧発生装置51は、小型で安全な高電圧発生装置となっている。その結果、本実施形態の高電圧発生装置51を用いた電子線アニーリング装置、電子線蒸着装置、イオンスパッタ装置、イオン注入装置等は非常に小型に形成できる。例えばそれらの装置を半導体装置用として半導体工場で用いることを考えれば、半導体工場のフットプリント、すなわち機器が占有する床面積を小さくすることができる。
【0090】
(その他の実施形態)
以上、好ましい実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はその実施形態に限定されるものでなく、請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々に改変できる。
例えば、高圧発生部はコッククロフト・ウォルトン回路に限られず、種々の構成の高圧発生部を採用できる。
【0091】
上記実施形態では放電防止物質としてシリコンゴムを用いた。しかしながら、放電防止物質としては、シリコンゴム以外の絶縁性樹脂を用いることもできるし、絶縁性樹脂以外の適宜の物質、例えば高圧ガス、例えばSF6(六フッ化硫黄)ガスを用いることもできる。アクリル等といった樹脂によって容器を形成した場合には、ガスが外部へ漏れ出てしまい使用に供することが難しいが、ガラス製の容器は気密封止が確実なので放電防止物質としてガスを用いても支障がない。
【符号の説明】
【0092】
1.高電圧発生装置、 2.容器、 3.プリント基板、 4.入力端子棒、 6.グランド端子棒、 7.出力コネクタ、 8.アルミニウムテープ、 11.高圧発生部(コッククロフト・ウォルトン回路)、 12.ローパスフィルタ、 13.フィードバック抵抗、 14.昇圧トランス、 16.樹脂導入口、 17.シリコンゴム(絶縁性樹脂、放電防止物質)、 19.ガスアレスタ、 21.高電圧発生装置、 22.容器、 23.プリント基板、 24.入力端子棒、 26.グランド端子棒、 27.出力コネクタ、 31.高圧発生部、 33.フィードバック抵抗、 36.樹脂導入口、 41.銅箔パッド、 42.連結材、 51.高電圧発生装置、 52.真空利用機器、 53.電極、 54.ターゲット、 55.銃ユニット、 56.真空チャンバ、 57.高圧発生部(コッククロフト・ウォルトン回路)、 59.シリコンゴム(絶縁性樹脂、放電防止物質)、 60.出力端子、 62.容器、 C.コンデンサ(電子部品)、 D.ダイオード(電子部品)、 R.抵抗(電子部品)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電子部品を接続させることによって形成されており高電圧を発生する高圧発生部と、
当該高圧発生部を収容している容器と、
前記高圧発生部を覆うように前記容器内に充填された放電防止物質と
を有する高電圧発生装置において、
前記容器はガラスによって形成されており、つなぎ目が無く一体に形成されている容器である
ことを特徴とする高電圧発生装置。
【請求項2】
前記放電防止物質は、絶縁性樹脂又は高圧ガスであることを特徴とする請求項1記載の高電圧発生装置。
【請求項3】
前記つなぎ目の無い容器はガラスを溶融して接合することにより形成されることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の高電圧発生装置。
【請求項4】
前記複数の電子部品はリードを備えており、当該複数のリードは基板に接続されており、前記リードは前記基板を貫通しない状態で前記基板に接続されている
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1つに記載の高電圧発生装置。
【請求項5】
前記基板上には複数の導電性のパッドが設けられており、
それらのパッド上に導電性の連結材が導電接合されており、
前記電子部品のリードは前記連結材に挿入されており、且つ前記パッドを貫通していない
ことを特徴とする請求項4記載の高電圧発生装置。
【請求項6】
前記連結材には前記電子部品のリードを貫通させる又は非貫通で挿入させることができる孔が設けられていることを特徴とする請求項5記載の高電圧発生装置。
【請求項7】
前記連結材の前記リードを挿入する部分の表面形状は丸い形状になっていることを特徴とする請求項5又は請求項6記載の高電圧発生装置。
【請求項8】
前記高圧発生部は複数の電子部品を基板を介すること無く直接に接続させることによって形成されており、
それらの電子部品が前記容器の中に収容されており、
当該容器の内部に前記放電防止物質が充填されている
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1つに記載の高電圧発生装置。
【請求項9】
前記高圧発生部はコッククロフト・ウォルトン回路を含んでおり、
前記複数の電子部品は、コッククロフト・ウォルトン回路を構成する電子部品である複数のコンデンサ及び複数のダイオードである
ことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1つに記載の高電圧発生装置。
【請求項1】
複数の電子部品を接続させることによって形成されており高電圧を発生する高圧発生部と、
当該高圧発生部を収容している容器と、
前記高圧発生部を覆うように前記容器内に充填された放電防止物質と
を有する高電圧発生装置において、
前記容器はガラスによって形成されており、つなぎ目が無く一体に形成されている容器である
ことを特徴とする高電圧発生装置。
【請求項2】
前記放電防止物質は、絶縁性樹脂又は高圧ガスであることを特徴とする請求項1記載の高電圧発生装置。
【請求項3】
前記つなぎ目の無い容器はガラスを溶融して接合することにより形成されることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の高電圧発生装置。
【請求項4】
前記複数の電子部品はリードを備えており、当該複数のリードは基板に接続されており、前記リードは前記基板を貫通しない状態で前記基板に接続されている
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1つに記載の高電圧発生装置。
【請求項5】
前記基板上には複数の導電性のパッドが設けられており、
それらのパッド上に導電性の連結材が導電接合されており、
前記電子部品のリードは前記連結材に挿入されており、且つ前記パッドを貫通していない
ことを特徴とする請求項4記載の高電圧発生装置。
【請求項6】
前記連結材には前記電子部品のリードを貫通させる又は非貫通で挿入させることができる孔が設けられていることを特徴とする請求項5記載の高電圧発生装置。
【請求項7】
前記連結材の前記リードを挿入する部分の表面形状は丸い形状になっていることを特徴とする請求項5又は請求項6記載の高電圧発生装置。
【請求項8】
前記高圧発生部は複数の電子部品を基板を介すること無く直接に接続させることによって形成されており、
それらの電子部品が前記容器の中に収容されており、
当該容器の内部に前記放電防止物質が充填されている
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1つに記載の高電圧発生装置。
【請求項9】
前記高圧発生部はコッククロフト・ウォルトン回路を含んでおり、
前記複数の電子部品は、コッククロフト・ウォルトン回路を構成する電子部品である複数のコンデンサ及び複数のダイオードである
ことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1つに記載の高電圧発生装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−42580(P2013−42580A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176659(P2011−176659)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(507129307)フューテックス株式会社 (4)
【出願人】(596031240)株式会社鬼塚硝子 (11)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(507129307)フューテックス株式会社 (4)
【出願人】(596031240)株式会社鬼塚硝子 (11)
【Fターム(参考)】
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