説明

高齢者向け機能食品および医薬組成物

【課題】高齢者向けの機能食品および高齢者向けの医薬組成物、特に経皮内視鏡的胃瘻造設術によって外部から栄養物を高齢患者の発熱症状抑制用の機能食品および医薬組成物を提供すること。
【解決手段】L−ロイシン、L−グルタミンおよびL−アルギニンまたはそれらの医薬上許容し得る塩よりなるアミノ酸と医薬上許容し得る担体または賦形剤とを含有する高齢者の発熱症状抑制用の機能食品または医薬組成物。特に、経口摂取または胃瘻を介して経腸摂取するものであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高齢者向けの機能食品および高齢者向けの医薬組成物の技術に関する。より詳細には、本発明は、胃瘻栄養法により栄養摂取している高齢者の発熱症状抑制用の機能食品および医薬組成物の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
介護を必要とする高齢者の40%以上および寝たきりの高齢者の半数以上は、タンパク質・エネルギー低栄養状態(PEM:protein energy malnutirition)に陥っており、このPEMは種々の疾患の併発および疲労回復の遅れをもたらし、高齢者における疾患症状の慢性化の要因となっている。一方、このように介護を要する高齢者では、通常の食餌による栄養状態の改善が難しく、経皮内視鏡的胃瘻(いろう)造設術(Percutaneous Endoscopic Gastrostomy、本明細書においては以後「PEG」という)によって、外部から栄養物を直接腸に投与することで栄養状態の改善が行われている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
PEGは栄養物を直接腸へ投与できることから、食道機能の低下など、摂食障害を伴うことが多い要介護高齢者の栄養状態を効率よく改善できるが、一方で施術後に慢性的な発熱症状を伴うという問題がある。
【0004】
さらに、発熱の原因がウイルスや一般細菌などの感染性疾患によるもの、アレルギー、自己免疫疾患、腫瘍熱などの非−感染性炎症性疾患によるもの、熱中症、脱水症状、甲状腺機能亢進症などの非−炎症性発熱疾患によるものなど多岐にわたるため、症状の主訴自体が的確に行えない要介護高齢者や寝たきりの高齢者では、従来常套的に行われる個々の病因に応じた解熱剤や抗生剤の点滴治療などでは、薬物相互作用による副作用被害や、長期連続投与による薬物耐性獲得などへの懸念もあり、治療効果と安全性を両立した投薬治療が難しいという問題もある。
【0005】
従って、本発明の目的は、高齢者向けの発熱症状抑制用の機能食品および高齢者向けの医薬組成物、特に、PEG施術高齢患者の発熱症状抑制用の機能食品および医薬組成物を提供することにある。
【0006】
一方で、特許文献1には、発熱性消耗性疾患における栄養補給を目的とした、桂皮、芍薬、甘草、大棗及び生姜からなる生薬群より選ばれる1種又は2種以上、ビタミン及びアミノ酸を含有する疲労改善内服薬が開示されている。
当該特許文献1には、発熱性消耗性疾患のほか、期待される効能・効果として、肉体疲労、病中病後、食欲不振、栄養障害、妊娠授乳期や貧血、冷え性などの場合の栄養補給、滋養強壮、虚弱体質が記載されているが、その明細書には健常な実験動物(マウス)を用いた自発運動量の増加結果のみが示され、発熱性疾患に対する実質的な効果は何ら示されていない。
【特許文献1】特開2007−161675号公報
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、かかる課題に鑑み鋭意検討した結果、特定のアミノ酸を組み合わせて含有する組成物が、従来の点滴などによる侵襲的な投与を行うことなく治療計画的にも高齢者患者に大きな負担を課することなく、経口摂取または胃瘻を介して経腸摂取することにより発熱症状を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
[1]L−ロイシン、L−グルタミンおよびL−アルギニンまたはそれらの医薬上許容し得る塩よりなるアミノ酸と医薬上許容し得る担体または賦形剤とを含有する高齢者の発熱症状抑制用の機能食品または医薬組成物;
[2]高齢者が経皮内視鏡的胃瘻造設術を施した高齢者である前記[1]に記載の機能食品または医薬組成物;
[3]経口摂取する前記[1]または[2]に記載の機能食品または医薬組成物;および
[4]胃瘻を介して経腸摂取する前記[1]または[2]に記載の機能食品または医薬組成物
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本願の[1]〜[4]に係る発明によれば、有効成分がアミノ酸であって、タンパク質やポリペプチド製剤とは異なり消化を必要としないため、代謝活性が低下した高齢者でも迅速に体内に吸収し得て、高齢者の慢性的な発熱症状を安全に改善し得る機能食品および医薬組成物を提供することができる。また、過剰投与による副作用のリスクが著しく低く、他の薬剤との薬物相互作用のリスクが非常に低く、長期連続投与しても抗生剤のように薬物耐性の獲得による二次的な院内感染の心配がなく、また、PEG施術患者においては点滴などの新たな侵襲的手法を用いることなく栄養物を投与できる点で、患者に対する負担が少ないなど高齢者患者に対して安全かつ効果的に投与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、高齢者向けの機能食品および医薬組成物に関する。また、特には、本発明は、経口剤または胃瘻を介した経腸栄養剤として有効な医薬組成物に関する。
本発明の機能食品および医薬組成物に含まれるアミノ酸は、アミノ酸がL−ロイシン、L−グルタミンおよびL−アルギニンまたはそれらの医薬上許容し得る塩である。これらのアミノ酸の含有量はアミノ酸の合計量として700〜1600mg/用量で機能食品および医薬組成物に含有することができる。より具体的には、L−ロイシンは450〜750mg/用量が好ましく、500〜700mg/用量がより好ましく、550〜650mg/用量が最も好ましい。また、L−グルタミンは150〜450mg/用量が好ましく、200〜400mg/用量がより好ましく、250〜350mg/用量が最も好ましい。さらに、L−アルギニンは100〜400mg/用量が好ましく、150〜350mg/用量がより好ましく、200〜300mg/用量が最も好ましい。
【0011】
本発明の機能食品または医薬組成物には、有効成分としての上記アミノ酸の他に賦形剤、抗酸化剤、着色剤、矯味矯臭剤、香料、界面活性剤、可塑剤などを含有して、液剤、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、チュアブル剤などの経口または経腸剤として製剤化することができる。
【実施例】
【0012】
本発明の機能食品または医薬組成物を高齢者が長期摂取した場合の効果について検討した。
【0013】
試験対象
主病に加えて医師が低栄養または貧血傾向と診断したPEG施術患者11名(平均年齢80.8歳、うち男性6名および女性5名)を対象とした。
【0014】
試験方法および結果
一日当たりL−ロイシン600mg、L−グルタミン300mg、L−アルギニン250mgを含むアミノ酸顆粒製剤(モル組成比:L−ロイシン 57:L−アルギニン 18:L−グルタミン 25)を、そのまま経口でまたは経腸栄養剤(アイソカル2K/ネスレニュートリション株式会社製)に溶解して2ヶ月間摂取した。摂取前、摂取開始4週間後および摂取開始8週間後に摂取患者と非−摂取患者の体温データを比較したところ、発熱(37℃以上)の頻度に差違が認められた。具体的には、摂取1ヶ月目(2008年2月1日〜2月28日)では非−摂取群と摂取群の間に差違は認められなかったが、摂取2ヶ月目(2008年3月1日〜3月31日)では非−摂取群において有意な増加が認められたのに対し、摂取群では増加が認められなかった。
従って、本発明の機能食品または医薬組成物には、高齢者における発熱症状の改善効果が認められた。
【0015】
次に、本発明の機能食品または医薬組成物を経腸栄養剤(アイソカル2K/ネスレニュートリション株式会社製)に溶解し、PEGを介して経腸投与した投与した場合の効果についても検討した。
その結果を表1に示す。
【0016】
【表1】

【0017】
その結果、PEG施術後の本発明品非−摂取群においては、全ての患者で1ヶ月目に比べて摂取2ヶ月目に発熱日数の増加が見られたのに対して、摂取群では、1ヶ月目に比べて摂取2ヶ月目に発熱日数の減少が見られた。またこのとき、長期連続投与による何らの副作用的症状も確認されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明の機能食品および医薬組成物は、高齢者、特に経皮内視鏡的胃瘻造設術を施した高齢者の発熱症状の抑制に有効であり、経口摂取または胃瘻を介した経腸摂取する発熱症状抑制用の機能食品または医薬組成物として、食品、医薬品の分野において利用することができる。また、本発明の機能食品および医薬組成物は、有効成分がアミノ酸であるため、薬物相互作用のリスクが非常に低く、長期連続投与しても抗生剤のように薬剤耐性の獲得による二次的な院内感染の心配がなく、また、PEG施術患者においては点滴などの新たな侵襲的手法を用いることなく栄養物を投与できる点で患者に対する負担が小さい。
従って、本発明の機能食品および医薬組成物は、到来する高齢者社会において患者のクオリティー・オブ・ライフをも考慮した機能食品および医薬組成物として、非常に安全かつ有効に高齢者に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は本発明の機能食品または医薬組成物を胃瘻を介して経腸摂取した場合の入院患者における発熱頻度を示す棒グラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
L−ロイシン、L−グルタミンおよびL−アルギニンまたはそれらの医薬上許容し得る塩よりなるアミノ酸と医薬上許容し得る担体または賦形剤とを含有する高齢者の発熱症状抑制用の機能食品または医薬組成物。
【請求項2】
高齢者が経皮内視鏡的胃瘻造設術を施した高齢者である請求項1に記載の機能食品または医薬組成物。
【請求項3】
経口摂取する請求項1または2に記載の機能食品または医薬組成物。
【請求項4】
胃瘻を介して経腸摂取する請求項1または2に記載の機能食品または医薬組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2010−77102(P2010−77102A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−250766(P2008−250766)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(591074231)常盤薬品工業株式会社 (20)
【Fターム(参考)】