説明

魚介廃棄物を原料とした農業用堆肥およびその製造方法

【課題】
乳酸菌、糸状菌および光合成菌を含む有用微生物が繁殖し易く、効果的な発酵を促す魚介廃棄物を原料とした堆肥およびその製造方法を提供することにある。

【解決方法】
魚介廃棄物10を高耐圧の密閉容器20内で高温高圧の下において加熱処理し、この加熱処理された魚介廃棄物10に乳酸菌、糸状菌および光合成菌を含む有用微生物と、その有用微生物の発酵に適した湿度を有する調湿材料とを攪拌混合し、この魚介廃棄物と有用微生物と調湿材料の混合物を温度管理された発酵槽24内で所定期間発酵させてなることを特徴とする農業用堆肥。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚介廃棄物を原料とする農業用堆肥とその製造方法に関し、特に高温高圧の下で処理した魚滓を原料とする農業用堆肥とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来このような魚介廃棄物を利用した農業用堆肥としては、魚類のひれ、尾等の魚介廃棄物を発酵資材として、これに所定の微生物を添加して、これらを回転可能に支持されたドラムの中に投入し、このドラムを回転させて発酵資材を攪拌するというものが知られている。
【0003】
特許文献1に記載の発明は、ドラム状の容器に発酵資材を収納し、この容器を回転させて発酵資材を攪拌するという堆肥製造装置である。この堆肥製造装置は、複数の攪拌棒が固着された軸を、発酵資材を収納する容器内に容器の回転軸と平行に備え、発酵資材を収納した容器自体が回転すると共に、この攪拌棒を備えた軸が容器の回転方向と同じ方向に容器の回転速度よりも早く回転し、容器内部の発酵資材を固着しないように満遍なくほぐしながら攪拌するというものである。
【0004】
特許文献2に記載の発明は、有用微生物群の培養液と、米ぬか及び/又は油カス及び/又は魚かすなどの媒体からなる発酵資材の製造装置である。この発酵資材の製造装置は、この培養液と媒体を収容するドラムと、このドラム内部に配設され、正回転時にこの培養液と媒体を混合し、逆回転時に培養液を混合した媒体をドラムの排出口に向けて排出可能とした攪拌翼を備える攪拌部とから構成されており、これにより簡単に有用微生物群を含む発酵資材を製造できるというものである。
【0005】
これらの方法は、いずれも原料となる魚滓等をホッパー等の機械的方法で粉砕して細かくしているに過ぎず、所定の有用廃棄物以外の腐敗菌等の雑菌が繁殖しやすく、有用微生物の効果的な繁殖及び発酵に十分適した状態にならない、又は製造過程における異臭の発生等の問題点がある。
【特許文献1】特開2000−128681号公報
【特許文献2】特開2004−129519号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、魚介廃棄物及び調湿材料からなる発酵資材に、乳酸菌、糸状菌および光合成菌を含む有用微生物が繁殖し易く、効果的な発酵を促す魚介廃棄物を原料とした堆肥およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明請求項1記載の加熱処理した魚介廃棄物を原料とした堆肥は、魚介廃棄物を高耐圧の密閉容器内で高温高圧の下において加熱処理し、この加熱処理された魚介廃棄物に乳酸菌、糸状菌および光合成菌を含む有用微生物と、その有用微生物の発酵に適した湿度を有する調湿材料とを攪拌混合し、この魚介廃棄物と有用微生物と調湿材料の混合物を温度管理された発酵槽内で所定期間発酵させてなることを要旨とするものである。
【0008】
本発明請求項2記載の加熱処理した魚介廃棄物を原料とした堆肥の製造方法は、魚介廃棄物を高耐圧の密閉容器内で高温高圧の下において加熱処理して魚介廃棄物に有用微生物が繁殖し易い状態にし、次いでその加熱処理された魚介廃棄物に、乳酸菌、糸状菌および光合成菌を含む有用微生物と、その有用微生物の発酵に適した湿気を有する調湿材料とを攪拌混合し、しかる後この魚介廃棄物と有用微生物と調湿材料との混合物を温度管理された発酵槽内で所定期間発酵させることを要旨とするものである。
【0009】
また、本発明の請求項3は、前記密閉容器内で加熱処理された魚介廃棄物に有用微生物と調湿材料とを攪拌混合したものの一部を取り出し、これを所定時間発酵させた後、乾燥粉砕し、この乾燥粉砕したものを加熱処理された魚介廃棄物の発酵を促進する調湿材料として、魚介廃棄物への有用微生物との攪拌混合用に還元することを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0010】
上記請求項1記載の加熱処理した魚介廃棄物を原料とした堆肥は、魚介廃棄物を高温高圧の下において加熱処理してから、乳酸菌、糸状菌および光合成菌を含む有用微生物と、その有用微生物の発酵に適した湿度を有する調湿材料とを攪拌混合しているので、ホッパー等で機械的に粉砕した魚介廃棄物に比べてこれらの有用微生物が多く繁殖している。このような堆肥によれば、植物の育ちが良くなり、良質な作物を多く生産することが可能になるだけではなく、これを更に加工し酪農用飼料、及び環境浄化資材等としても利用することもできる。
【0011】
上記請求項2記載の加熱処理した魚介廃棄物を原料とした堆肥の製造方法によれば、魚介廃棄物を高耐圧の密閉容器内で高温高圧の下において加熱処理するので、魚介廃棄物に上記有用微生物、特に光合成菌が繁殖し易い状態にできる。また、魚介廃棄物を加熱処理してから攪拌混合しているので、魚介廃棄物がほぐれやすく、攪拌混合の処理が容易になる。更に、加熱処理してから発酵させているので、腐敗菌などの不必要な菌の繁殖が抑えられ、発酵過程における異臭等の問題が緩和される。
【0012】
また、上記請求項3のように、前記加熱処理された魚介廃棄物への有用微生物の攪拌混合の際に、予め、前記密閉容器内で加熱処理された魚介廃棄物に有用微生物と調湿材料とを攪拌混合し、これを所定時間発酵させた後、乾燥粉砕したものを調湿材料として用いれば、この調湿材の中に繁殖している多量の前記有用微生物を発酵資材に還元することができ、発酵が促進され、より良質な堆肥を製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。
【0014】
図1は本発明の農業用堆肥の製造工程の概略を示した図である。まず、魚介廃棄物として、例えば水産工場、魚市場等から発生する、魚類のひれ、尾等を用いる。
【0015】
この魚介廃棄物10を高耐圧の密閉容器20内に密封し、この容器をボイラ等をの加熱手段を用いて加熱する。すると、密閉容器20内の魚介廃棄物10も加熱され、沸騰して水蒸気が発生する。このとき、発生した水蒸気の蒸気圧によって、密閉された容器の内部は高圧状態となり、温度は100℃を超えて上昇する。密閉容器内部が5気圧、200℃になるまで魚介廃棄物10を加熱処理する。
【0016】
この加熱処理によって、魚介廃棄物中の腐敗菌等の雑菌が滅菌され、魚介類からエキスが発生し、後の工程で添加される乳酸菌、糸状菌および光合成菌を含む有用微生物、特に光合成菌が繁殖しやすい状態となる。
【0017】
この加熱処理された魚介廃棄物4kgを高耐圧密閉容器20から、攪拌機22へ移し、調湿材料として米ぬか8kgと乳酸菌、糸状菌および光合成菌を含む有用微生物の培養液500mlを添加して、全体が均一になるまで攪拌混合処理し発酵資材12とする。
【0018】
この発酵資材12を温度管理された発酵槽24に投入し、温度20℃から30℃の範囲内で所定の温度で発酵させる。例えば温度を20℃に設定した場合は約30日間、また、温度を30℃に設定した場合は約20日間、発酵資材を発酵槽内で保管して発酵させる。このとき、前記有用微生物は主に嫌気性菌からなるので、可能な限り空気に触れないように、密閉状態とすることが望ましい。
【0019】
このようにして、所定の期間発酵させたものが前記有用微生物を多量に含んだ非常に良質な農業用堆肥となるだけでなく、酪農用飼料や環境浄化資材としても利用することができる。また、上記所定の発酵期間を経て、発酵槽から取り出されたばかりの堆肥は、水分を多く含んだ泥状であるので、成型、乾燥して固形化することもできる。
【0020】
また、加熱処理された魚介廃棄物10と調湿材料、および有用微生物の培養液を攪拌混合処理する際に、調湿材料として、約10日間ほど発酵させた発酵資材12を用いても良い。
【0021】
先ず、魚介廃棄物10を高耐圧の密閉容器20内で高温高圧下で加熱処理し、攪拌機22に投入して、米ぬか等の調湿材料、および、前記有用微生物と攪拌混合した発酵資材12を製造し、これを発酵槽24に投入して約10日間ほど発酵させる。その後これを発酵槽24から取りだし、60℃から70℃の内の所定の温度で乾燥粉砕する。この発酵槽24から取り出した発酵資材の中には、前記攪拌混合処理時に投入した有用微生物が多数繁殖しているが、それ以外の雑菌も処理の途中で混入して繁殖している可能性がある。これを60℃から70℃の温度で、乾燥粉砕することにより、不必要な雑菌は滅菌され、発酵資材の中の微生物のうち、熱に強い光合成菌が特に多く残る。
【0022】
そして、例えば加熱処理した魚介廃棄物4kgに、調湿材料として米ぬか4kg、更に上記10日間ほど発酵させて乾燥粉砕された発酵資材を有用微生物を含んだ調湿材料として4kg、および前記乳酸菌、糸状菌および光合成菌を含む有用微生物の培養液500mlを添加して、攪拌混合すると、上記有用微生物、特に光合成菌が増強された発酵資材とすることができる。
【0023】
これを用いれば、上記と同様の発酵時間と温度で発酵した場合でも、より多くの有用微生物を含んだ農業用堆肥を製造することが可能となる。また、発酵時間を短縮することも可能となる。
【0024】
上記の製造方法で製造した農業用堆肥を10倍の水で希釈し、酸性度を測定したところ、pH4.4〜4.6であった。このような有機堆肥において、酸性度が高いことは、乳酸菌等の有用微生物が多く含まれていることを示しており、一般的にはpH5以下の酸性を示す堆肥は非常にまれであり、本発明の加熱処理した魚介廃棄物を原料とした堆肥およびその製造方法が非常に有用であることを示しているといえる。
【0025】
上記の方法で製造した堆肥を露地栽培のトマトに与えたところ、通常の堆肥を用いて栽培した場合8月下旬から9月初旬までしか実を付けないトマトが、11月下旬まで実を付けた。
【0026】
また、上記の方法で製造した堆肥を用いて、ジャガイモを栽培したところ、中心部まで腐り等の無い、粒の大きいジャガイモができた。
【0027】
更に、サツマイモ、苺、トウモロコシ、スイカ、ミカン等の結実する農作物に上記の方法で製造した堆肥を使用すると、これらの実が非常に甘くなり糖度が増した。
【0028】
また、上記の方法で製造した堆肥を使用して栽培したタマネギと、通常の化学肥料で栽培されたタマネギをの腐り易さを、比較したところ、通常の方法で栽培されたタマネギは、皮を剥いて水洗いしてカットした後、約60日で変色し始めたのに対し、本発明の堆肥を用いて栽培したタマネギは、同じく皮を剥いて水洗いしてカットした後、約360日を経過しても変色しなかった。このように、本発明の堆肥を用いて栽培した作物は、収穫後の日持ちが良くなるという効果があった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の加熱処理した魚介廃棄物を原料とした堆肥およびその製造方法は、農業用の堆肥、酪農用の飼料、更に環境浄化材にも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の農業用堆肥の製造工程の概略を示したものである。
【符号の説明】
【0031】
10 魚介廃棄物
12 発酵資材
20 高耐圧密閉容器
22 攪拌機
24 発酵槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚介廃棄物を高耐圧の密閉容器内で高温高圧の下において加熱処理し、この加熱処理された魚介廃棄物に乳酸菌、糸状菌および光合成菌を含む有用微生物と、その有用微生物の発酵に適した湿度を有する調湿材料とを攪拌混合し、この魚介廃棄物と有用微生物と調湿材料の混合物を温度管理された発酵槽内で所定期間発酵させてなることを特徴とする農業用堆肥。
【請求項2】
魚介廃棄物を高耐圧の密閉容器内で高温高圧の下において加熱処理して魚介廃棄物に有用微生物が繁殖し易い状態にし、次いでその加熱処理された魚介廃棄物に、乳酸菌、糸状菌および光合成菌を含む有用微生物と、その有用微生物の発酵に適した湿気を有する調湿材料とを攪拌混合し、しかる後この魚介廃棄物と有用微生物と調湿材料との混合物を温度管理された発酵槽内で所定期間発酵させることを特徴とする農業用堆肥製造方法。
【請求項3】
前記密閉容器内で加熱処理された魚介廃棄物に有用微生物と調湿材料とを攪拌混合したものの一部を取り出し、これを所定時間発酵させた後、乾燥粉砕し、この乾燥粉砕したものを加熱処理された魚介廃棄物の発酵を促進する調湿材料として、魚介廃棄物への有用微生物との攪拌混合用に還元することを特徴とする請求項2に記載の農業用堆肥製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−290690(P2006−290690A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−115297(P2005−115297)
【出願日】平成17年4月13日(2005.4.13)
【出願人】(505137605)
【Fターム(参考)】