説明

魚巣ブロック水路構造

【課題】 水棲生物を保護するための多自然型コンクリート水路構造およびその魚巣ブロックを提供して、経済的にしかも確実に水棲生物が住める環境とする。
【解決手段】 コンクリートの二次製品水路の施工において、流水方向へ隣接する水路ブロック間に所定の隙間を開けて設置し、その水路側壁背面に隣接する側壁同士に跨るように内部がほぼ空洞の魚巣ブロックを取り付け、前記水路ブロック間の隙間と空洞間を連通させた。水路の一定の区間の水路底を下げて設置し、その下げた区間の中に隙間を設けて水路を設置する。魚巣ブロック下部に石や泥や人工藻を入れ、隣接する水路ブロック間の隙間部分には金網を張って、石や人工藻が流出しないようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート二次製品の多自然型魚巣ブロック水路構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、河川以外の小型水路工事のほとんどと言っていいほど三面コンクリートの二次製品水路が使用されている。三面コンクリートの二次製品水路には、魚巣ブロックを設けないと生物が棲息する場所、空間が無く、水路の中では生物の棲息や繁殖が困難であった。特に夏の渇水期には水の流れも止まって死の世界となっていた。三面コンクリートの二次製品で比較的多いのは、水路の側壁面に穴を開けて側壁背面に魚巣ブロックを施したものか、側壁を広げて魚巣ブロック部を設けたものがある。(例えば、特許文献1や特許文献2等がある)。
【0003】
【特許文献1】実公平3−42097号公報(第1頁、図1)
【特許文献2】特開平09−242053号公報(第1頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、魚巣ブロック機能のついた従来の三面コンクリートの二次製品水路は、水路本体に穴を開けるとか、水路ブロック本体の側壁を加工して魚巣ブロック部を作るといった特殊な製品を製造して使用しているのが一般的であった。しかしこれらは魚巣ブロック専用の高価な型枠を製作しなければならないため、製品が通常の標準水路に比べ相当割高となり、設計段階で採用し難かった。特に施工時期に急に地元の環境保護団体等から魚巣ブロック設置の要望が出ることがあるが、在庫がないため製造が間に合わず設置できなくて問題になるケースが増えている。
【0005】
また、入札が決定した後の設計変更は、施工主側としても工事費アップとなるため難色を示すことが多く経済的な工法が要求されている。更に、現在のように公共工事費が縮減されている現状では、魚巣ブロック設置の好効果が分かっていても多くの魚巣ブロックを設置することは難しい現状となっている。そこで経済的で機能のしっかりしたものの開発が必要となっている。
【0006】
更に、二次製品水路はできるだけ経済的に仕上げるため小型なものを使用していくように設計されているため、流速が速く、流速のあまり速くない所にしか棲息できないメダカのような小型の淡水魚等が住める環境があまりなかった。大水の時は、底に溜まっている泥や砂、石、藻などと一緒に水棲生物達も全て流れてしまうことも多い。そこで水路の流れに影響されない魚巣ブロックの開発が必要となった。
【0007】
加えて、夏季の渇水期に、水路に水が流れなくなったとき、そこにいた水棲生物は死滅してしまっていた。また、水がある場合でもほとんどが浅い水深のため、水鳥たちの格好の餌となっていた。そこでこれらの問題を解決できる水の溜まる水路構造が必要となった。
【0008】
その他にも、水路をある一定の隙間を確保して設置するときに、隣接する水路ブロック間を一体化するため、その隙間をコンクリート部材で塞いで一体化することも必要となっていた。
【0009】
更に、魚巣ブロック内部にも自然藻が繁茂しやすい環境作りや人工藻の設置もできるようにする必要がある。
【0010】
また、魚巣ブロックの部材も生態系に影響を与えない自然な素材を使用することも必要である。加えて、魚巣ブロックの出入り口には金網を取り付けて大きな魚を入れなくして稚魚の保護を積極的に行う工夫も必要となってきた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、水棲生物を保護するための多自然型コンクリート水路構造およびその魚巣ブロックを、最も経済的にしかも確実に水棲生物が住める環境を提供することを課題とし、これを達成するために本発明では、コンクリートの二次製品水路の施工において、流水方向へ隣接する水路ブロック間に所定の隙間を開けて設置し、その水路側壁背面に隣接する側壁同士に跨るように内部がほぼ空洞の魚巣ブロックを取り付け、前記水路ブロック間の隙間と空洞間を連通させたことを特徴とする魚巣ブロック水路構造とした。
【0012】
具体的には、三面コンクリートの二次製品水路の施工において、隣接する標準の水路を3〜50cmの間(通常10〜20cm程度)を、一定の隙間を確保して設置し、その水路側壁背面に隣接する側壁同士に跨るように内部がほぼ空洞の魚巣ブロックを取り付けた。これは水路本体の魚巣ブロック部も全く標準の水路ブロックを使用するため、特殊な製品を製造することによる不良在庫にもならず、しかも安く、いつでも何処でも設置可能となるものである。特に型枠は側壁背面に使用する魚巣ブロックが主なものであり、その上小さいブロックであって、型枠投資費も最小限となる。この魚巣ブロックも各種サイズ兼用でき、更に経済的となる。
【0013】
更に、二次製品水路は流速が速く、流速のあまり速くない所にしか棲息できないメダカのような小型の淡水魚等が住める環境の確保と、大水の時に、底に溜まっている泥や砂、石、藻などと一緒に水棲生物が流されてしまうのを防止するため、水路内を流れる流速に対して魚巣ブロック内の水がほとんど影響を受けないように、隣接する水路ブロック間の隙間を調整することや、魚巣ブロックの奥行きの長い構造にすることや、魚巣ブロック内部に人工藻を取り付けることにより、水の流れを減速させる等の手段を設けたものである。ちなみに、環境庁が絶滅の恐れがある野生生物の種をまとめたレッドデータブックに記載された淡水魚の中で最も小さいメダカの棲息することができる水の流れの速さは、農林水産省と環境庁の合同調査の結果では毎秒20cm以下の緩やかな場所に限定されている。
【0014】
更に、夏季の渇水期、水路に水が流れなくなったらそこにいた水棲生物は死滅してしまっていた。また、水がある場合でもほとんどが浅い水深のため、水鳥たちの格好の餌と待っていた。そこで通常の水路底より、ある一定の区間の水路底を下げて設置し、その下げた区間の中に隙間を設けて水路を設置すれば計画の流水断面を阻害することも無く、常に、水と泥や藻のある多自然型水路を維持することができるようになった。通常の水路底より、ある一定の区間の水路底を下げて設置するため、夏の渇水期でもこの部分は水が枯渇する事が無く、魚、どじょう、貝、カニ、カワニナ、ホタルの幼虫等が生息することができる。また、砂、泥などが溜まることにより藻類が根付き、これらに産卵する生物も増えることになる。また大水の時は水量が増し流れも速くなり、泥や砂や藻や生物も流されてしまうがこの方法だと奥行きのある魚巣ブロックを設置することより、速い流れから守られ、泥や砂が流出し難くなる。
【0015】
また、水路の幅が色々と使用する場所によって違う場合でも、魚巣ブロックを水路側壁背面の側壁形状にあわせて製造し、水路幅が広くなった場合でも種類を増やさずに同じ魚巣ブロックで対応できるため、経済的な施工ができる。また、魚巣ブロック上部の隙間や底版部を塞いで固定することにより一体型の水路とする事ができる。
【0016】
魚巣ブロック内の泥や砂が流されないように魚巣ブロック底に金網や繊維マット等の固定具を敷き、固定して、それに自然藻や人口藻を取り付けて流出防止を図ることによりより自然の回復を早める事ができる。人工藻は炭素繊維等に浮力の機能を持たせ、水位が下がった場合でも人工藻が空気中に露出しないように追従するようにさせ、メダカ等の卵が産卵していても乾燥して死滅することもないようになる。
【0017】
また、魚巣ブロックに複数の穴を設けて透水性にし、その材質をコンクリート、ポーラスコンクリート、ソイルコンクリート、セラミック、木、炭、土、陶器、石、ゼオライト、石灰岩又はこれらの混合物で製作することにより、強くてより自然の生態系に悪影響を与えないようにした。
【0018】
更に、魚巣ブロック下部に石や泥や人工藻を入れ、隣接する水路ブロック間の隙間部分に金網を張って、石や人工藻が流出しないようにすると共に、ゴミ等が魚巣ブロックに流入するのを防止した。また、金網の網目の大きさを調整をする事により、外来種のブルーギルや、ナマズ等の比較的大きくなった魚種の侵入を防止し、小型魚種や稚魚を保護することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、水路ブロック本体の側壁を加工して魚巣ブロック部を作るといった特殊な製品を製造する必要がない。しかも、魚巣ブロック専用の高価な型枠を製作する必要がないため安価に製作できて、設計段階で採用し易い。特に施工時期に急に魚巣ブロック設置の要望が出ることがあっても、在庫の確保が容易であり、簡易に使用できる。
【0020】
また、入札が決定後の設計変更に対しても工事費アップとならないため、魚巣ブロック設置が容易である。二次製品水路でありながら、流速があまり速くない所にしか棲息できないメダカのような小型の淡水魚等が住める環境が形成できるし、大水の時でも、底に溜まっている泥や砂、石、藻などと一緒に水棲生物達が流れてしまうことがない。
【0021】
更に、夏季の渇水期に、水路に水が流れなくなったときでも水棲生物が死滅しないし、水路側壁背面に隣接する側壁同士に跨るように内部がほぼ空洞の魚巣ブロックを取り付けたので、空洞が隠れ家となって、水鳥たちの餌となることもない。
【0022】
更に、内部に自然藻が繁茂しやすいし、人工藻の設置により魚巣としての十分な機能がある。また、魚巣ブロックの部材も生態系に影響を与えない自然な素材を使用するし、魚巣ブロックの出入り口に金網を取り付けているので、大きな魚が入れなくて、稚魚を保護する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明を図によって説明する。図1は本発明の魚巣ブロック水路構造の実施形態に係わる施工斜視図である。図2は側面からみた図3中のA−A断面図である。図3は平面からみた図2中のB−B断面図の例である。図4は図1に施工されている断面図の例である。本発明では、コンクリートの二次製品水路の施工において、流水方向へ隣接する水路ブロック1a,1b間に所定の隙間Xを開けて設置し、その水路側壁2a,2bの背面に隣接する側壁2a,2b同士に跨るように内部がほぼ空洞11の魚巣ブロック10を取り付け、前記水路ブロック間1a,1bの隙間Xと空洞11間を連通させたことを特徴とする本発明の魚巣ブロック水路構造である。隣接する水路ブロック間の隣接する側壁2a,2b上部の隙間を埋める必要のある場合や固定機能をもたせるには、固定ブロック材3を使用する。
【0024】
図5は図1に使用されている底付きの魚巣ブロック10と、その内部に使用する金網12、繊維マット13の固定具に対して人口藻14を取り付けた状態の斜視図である。図6のように底なしの魚巣ブロック10に金網12、繊維マット13の固定具と人口藻14及び吸出し防止シート15を組み合わせ魚巣ブロックの下部に石や泥や人工藻を入れ、隣接する水路ブロック間の隙間部分に金網を張って、石や人工藻が流出しないようにすると共に、ゴミ等が魚巣ブロックに流入するのを防止するようにするとよい。魚巣ブロック10には天井や側壁へ貫通穴16を設けておくと通水性等を持たせることができる。
【0025】
図7は一定区間の水路底Yを通常の水路底Zより下げて施工した斜視図の例である。図8R>8は図7中のD−D断面図である。このように、ある一定の区間の水路底を下げて設置し、その下げた区間の中に隙間を設けて水路を設置すれば計画の流水断面を阻害することも無く、常に、水と泥や藻のある多自然型水路を維持することができるようになる。通常の水路底より、ある一定の区間の水路底を下げて設置するため、夏の渇水期でもこの部分は水が枯渇する事が無く、魚、どじょう、貝、カニ、カワニナ、ホタルの幼虫等が生息することができる。また、砂、泥などが溜まることにより藻類が根付き、これらに産卵する生物も増えることになる。また大水の時は水量が増し流れも速くなり、泥や砂や藻や生物も流されてしまうがこの方法だと奥行きのある魚巣ブロックを設置することより、速い流れから守られ、泥や砂が流出し難くなる。
【0026】
図9は隣接する水路ブロック間の隙間に固定ブロック材3を取り付けた施工斜視図の例である。図10は図9中のE−E断面図である。固定ブロック材3はボルト3aによって隣接する水路ブロック間へ固定することができる。更に、隣接する水路ブロック間の隙間部分に金網4を張って、石や人工藻が流出しないようにすると共に、ゴミ等が魚巣ブロックに流入するのを防止した。また、金網の網目の大きさを調整をする事により、外来種のブルーギルや、ナマズ等の比較的大きくなった魚種の侵入を防止し、小型魚種や稚魚を保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の魚巣ブロック水路構造の実施形態に係わる施工斜視図である。
【図2】側面からみた同施工状態の図3中のA−A断面図である。
【図3】平面からみた図2中のB−B断面図の例である。
【図4】図2中のC−C断面図の例である。
【図5】図1に使用されている底付きの魚巣ブロックと、金網、繊維マットの固定具に対して人口藻等の斜視図である。
【図6】底無しの魚巣ブロック下に金網、繊維マット、人口藻等を固定した状態の斜視図である。
【図7】一定区間の水路底Yを通常の水路底Zより下げて施工した斜視図の例である。
【図8】図7中のD−D断面図である。
【図9】隣接する水路ブロック間の隙間に固定ブロック材3を取り付けた施工斜視図の例である。
【図10】図9中のE−E断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1a 水路ブロック
1b 水路ブロック
2a 水路側壁
2b 水路側壁
3 固定ブロック材
4 金網
10 魚巣ブロック
11 空洞
12 金網
13 繊維マット
14 人口藻
15 吸出し防止シート
16 貫通穴
X 隙間
Y 下げた水路底
Z 通常の水路底

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートの二次製品水路の施工において、流水方向へ隣接する水路ブロック間に所定の隙間を開けて設置し、その水路側壁背面に隣接する側壁同士に跨るように内部がほぼ空洞の魚巣ブロックを取り付け、前記水路ブロック間の隙間と空洞間を連通させたことを特徴とする魚巣ブロック水路構造。
【請求項2】
コンクリートの二次製品水路が三面コンクリート製品水路であって、隣接する水路を3〜50cmの所定の隙間を確保して設置し、その水路側壁背面に隣接する側壁同士に跨るように内部がほぼ空洞の魚巣ブロックを取り付けたことを特徴とする請求項1記載の魚巣ブロック水路構造。
【請求項3】
水路側壁背面に隣接する側壁同士に跨るように内部がほぼ空洞の魚巣ブロックを取り付け、その内部の水が二次製品水路内を流れる流速に対してほとんど影響を受けない奥行き又は形状を確保するようにしたことを特徴とする請求項1又は2記載の魚巣ブロック水路構造
【請求項4】
隣接する水路の所定区間の水路底を通常の水路底より下げて施工したことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の魚巣ブロック水路構造。
【請求項5】
魚巣ブロックを水路側壁背面の側壁形状にあわせて製造し、その上部の隣接する水路の隙間、又は底版部の隙間、又はその両方の隙間を塞いで固定したことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の魚巣ブロック水路構造。
【請求項6】
魚巣ブロック底部に、炭素繊維が浮くようにした人口藻又は、天然藻を取り付ける金網等の固定装置を設けたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の魚巣ブロック水路構造。
【請求項7】
魚巣ブロックに穴を設けて透水性にし、その材質をコンクリート、ポーラスコンクリート、ソイルコンクリート、セラミック、木、炭、土、陶器、石、ゼオライト、石灰岩又はこれらの混合物としたことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の魚巣ブロック水路構造。
【請求項8】
魚巣ブロック下部に石又は砂を入れ、隣接する水路ブロック間の隙間部分に金網を張ったことを特徴とした請求項1〜7のいずれかに記載の魚巣ブロック水路構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2005−30207(P2005−30207A)
【公開日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−280786(P2004−280786)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【分割の表示】特願2003−101230(P2003−101230)の分割
【原出願日】平成15年4月4日(2003.4.4)
【出願人】(303006709)
【Fターム(参考)】