説明

魚醤油中の重金属除去方法

【課題】魚醤油にタンニン又はタンニンを含む食品添加物を添加し、重金属を含む固形物を除去する方法は、タンパク質に結合した重金属のみを除去対象としており、遊離した重金属は除去できない。また、重金属を酸処理液中に溶出させる方法では、重金属類の除去効率を高めるためにpH3〜3.5という低pHで処理することが必要となり、低pHで処理すると魚醤油中の蛋白質が可溶化して溶出し、味が変化するためそのまま調味料として使用できない。
【解決手段】魚醤油に食品添加物のろ過助剤を添加、固液分離すること及び、重金属吸着剤を充填したカラムに魚醤油を通液させることで、魚醤油の酸化還元電位に影響されず、魚醤油のうまみ成分等の有用成分が損なわれることなく、魚醤油から重金属を除去する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は魚醤油中に含まれる重金属類を除去し、魚醤油の安全性を高めかつ魚醤油の特徴(旨味等の有用成分)を損なうことのない食品とすることができる魚醤油の重金属除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イワシ、イカ等の魚介類の内蔵等を利用する魚醤油中には重金属類が多量に含有されていることがある。
しかし、今日まで生産地域住民の食習慣として、恒常的に斯かる魚醤油を摂取してきたものであるが、特定疾患(イタイタイ病のような公害)の発症例は今までのところ報告されていない。
【0003】
このような理由で、従来から魚醤油は重金属の除去処理が施されることなく商品化されているのが実情である。
しかしながら、魚醤油の有用成分の活用、調味料としての全国展開・海外輸出など消費拡大を目指すに際し、食の安全・安心の観点から重金属の含有が問題となり、その除去処理が必要となってくると予想される。
【0004】
魚醤油等の水産加工品から重金属類を除去することに着目した先行技術文献は1つ開示されている。特許文献1は、魚醤油にタンニン又はタンニンを含む食品添加物を添加し、重金属を含む固形物を除去する方法であり、うまみ成分等の有用成分が損なわれることがなく、食品加工用途が可能などの利点がある。
また、水産加工品自体ではないが、帆立貝やイカ等の内臓残渣を廃棄処分することなく有効利用するために、内臓残渣からの重金属の除去方法が開示されている。特許文献2には、蟻酸、乳酸、酢酸等の有機酸や、塩酸、硫酸、リン酸等の鉱酸を用いてpH3〜3.5の弱酸性とし、更に蛋白質分解酵素の作用によって重金属と結合した蛋白質を分解して重金属を蛋白質から解離させて重金属を酸処理液中に溶出させ、溶出した水溶液中の重金属類をキレート剤等によって分離する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−254274号公報
【特許文献2】特開2001−137810 号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
魚醤油にタンニン又はタンニンを含む食品添加物を添加し、重金属を含む固形物を除去する特許文献1の方法は、タンパク質に結合した重金属のみを除去対象としており、遊離した重金属は除去できない課題がある。
【0007】
重金属を酸処理液中に溶出させる特許文献2の方法では、重金属類の除去効率を高めるためにpH3〜3.5という低pHで処理することが必要となり、低pHで処理すると魚醤油中の蛋白質が可溶化して溶出し、味が変化するためそのまま調味料として使用できない。
すなわち、溶出しないで残存した蛋白質においても酵素活性が低下するため、水産エキスとしての利用は可能であっても、魚醤油のような発酵食品自体に対して利用すると、商品の品質低下を来たすという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、魚醤油に食品添加物のろ過助剤を添加、固液分離すること及び、重金属吸着剤を充填したカラムに魚醤油を通液させることで、魚醤油の酸化還元電位に影響されず、魚醤油のうまみ成分等の有用成分が損なわれることなく、魚醤油から重金属を除去するものである。
【0009】
魚醤油中の重金属は、魚醤油の酸化還元電位によりタンパク質との結合状態が決まる。
魚醤油の酸化還元電位を計測することによりろ過助剤を添加する方法、あるいは重金属除去剤を用いる方法の何れかを重点的に用いるようにすれば良く、両方の方法を組み合わせることにより魚醤油の酸化還元電位に拘わらず確実に魚醤中の重金属を除去することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明方法によって魚醤油を処理すると、魚醤中のタンパク質に物理的・化学的吸着している重金属については食品添加物のろ過助剤を添加、固液分離することにより、また、タンパク質から遊離している重金属については重金属除去剤を用いて遊離している重金属をも除去することができ、魚醤油中の重金属類を効率よく所定濃度以下に低減化することができると共に、重金属類を除去した後の魚醤油は旨味を示すアミノ酸を損なうことなく品質を維持し、より安全性を高めた魚醤油として商品化することができる効果を有する。
【0011】
また、より安全性を高めた魚醤油としての調味料のみならず、これを原料に利用したサプリメント等への広範囲な利用が期待できる効果も有する。
そして、本発明方法は、pHを調整する必要もない等の処理条件が少ない簡易な処理方法となり、食品添加物を利用するため製品の安全性にも問題がなく、本方法の利用促進が図れる効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明方法は、魚醤油をろ過助剤と混合させて処理した後、固形物を分離し、タンパク質と結合した重金属を除去する方法と、重金属吸着剤を充填したカラムに魚醤油を通液させる、もしくは重金属除去剤を魚醤油に添加して固液分離することで遊離した重金属を除去する方法を組み合わせて、魚醤油の酸化還元電位に影響されず処理するものである。
【0013】
魚醤油中の重金属は、魚醤油の酸化還元電位によりタンパク質との結合状態が決まる。還元状態(例えば、酸化還元電位−100mV以下)の魚醤油では、重金属はタンパク質に結合しているものが多く存在し、酸化状態(例えば、−20mV以上)の魚醤油では、重金属は遊離しているものが多く存在する。
【0014】
魚醤油の酸化還元電位を計測することによりろ過助剤を添加する方法、あるいは重金属除去剤を用いる方法の何れかを重点的に用いるようにすれば良く、両方の方法を組み合わせることにより魚醤油の酸化還元電位に拘わらず確実に魚醤中の重金属を除去することができる。
酸化還元電位の調整は製造時の嫌気発酵、製造後の空気バブリングによる酸化、食品添加物の還元剤や酸化剤の添加などがある。
【0015】
本発明方法において、ろ過助剤、および重金属除去剤は、食品への使用が許可をされており、調味料としての呈味性を損なうことのないものが望ましい。
【実施例1】
【0016】
酸化還元電位が−40mVの魚醤油10mLに、5.0%タンニン水溶液を1mL加え、撹拌した後、遠心分離(8000rpm、15分)で固液分離した。このタンニン処理液を、キレート樹脂1mLを充填したガラス管に流速5mL/hで通液し、1時間毎に5mLずつ採取した。
原液、タンニン処理液および通液処理した魚醤油のCd濃度を表1に全窒素、遊離アミノ酸量、乳酸量、抗酸化性を表2示す。
Cd除去率は、処理前後のCd濃度から算出した。
【0017】
【表1】

【0018】
【表2】

【実施例2】
【0019】
魚醤油100mLを空気で数時間バブリングし、酸化還元電位−20mV以上になるまで酸化させた。
キレート樹脂1mLを充填したカラム管に、バブリングした魚醤油を流速5mL/hで通液した。
原液および通液処理した魚醤油のCd濃度を表3に全窒素、遊離アミノ酸量、乳酸量、抗酸化性を表4示す。
Cd除去率は、処理前後のCd濃度から算出した。
【0020】
【表3】

【0021】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚醤油に食品添加物のろ過助剤を添加、固液分離すること及び、重金属吸着剤を充填したカラムに魚醤油を通液させることで、魚醤油の酸化還元電位に影響されず、魚醤油のうまみ成分等の有用成分が損なわれることなく、魚醤油中の重金属を除去する方法。
【請求項2】
重金属吸着剤を充填したカラムに魚醤油を通液させることに代えて、重金属除去剤を魚醤油に添加し、固液分離する請求項1記載の魚醤油中の重金属を除去する方法。