説明

魚釣用具の構成部品

【課題】視認性が良好で高耐久性を維持しつつ、低コストで重量増が生じることのない表示部が施された魚釣用具の構成部品を提供する。
【解決手段】本発明に係る魚釣用具の構成部品であるスピニングリールのスプール7は、樹脂で形成され、視認可能な意匠表示や機能表示等の表示部8が設けられている。この表示部8は、レーザ光の照射により、樹脂の内部にマーキングを施こすことで形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚釣りに際して用いられる各種の魚釣用具に関し、詳細には、前記魚釣用具を構成する構成部品に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、上記した魚釣用具には、アイテム名やサイズ、デザイン等の意匠表示、及び糸巻量や重り等の適応荷重などの機能表示が、印刷や塗装、レーザ彫刻や金型成形時の凹凸、ダブルアルマイト等によって表示されているのが一般的である。その中でも特に、印刷や塗装は、多色展開が可能、安価、部品形状に影響され難い等の効果があり、かつ特殊装備が不要なため、一般的に広く用いられている。
【0003】
しかし、魚釣用具の場合、海の磯や砂浜、内陸の河川敷や源流域の藪のように、足場の不安定なところで使用されることが多く、誤って他物と接触が発生する等、傷を作り易い環境で使用されている。このため、表面に施された塗装や印刷が剥離したり、或いは凹凸部分が磨耗する等、意匠表示や機能表示など(以下、「表示部」とも称する)の視認性が低下し、最悪の場合、消滅してしまうことがある。
【0004】
また、釣竿では、竿本体の軸径の細い部分や、リールシート等の竿の握持時に指や掌で摩擦が生じる部分などに表示部が施されており、魚釣用リールでは、スピニングリールのように、スプールのスカートのサミング操作時に指と接触する部分などに表示部が施されていることが多い。従って、このような魚釣用具を構成する構成部品に施された表示部は摩擦や剥離等によって消滅し易く、改善することが望まれている。
【0005】
上記したような塗装や印刷の剥離を防止するために、特許文献1には、物品本体の表面に合成樹脂被膜層を形成し、その外層に金属を物理蒸着した装飾層(表示部)を形成した後、透明、又は半透明の保護層を形成した構成が開示されている。また、特許文献2には、非光輝性領域の本体表面に突出した高さ位置に光輝性領域(表示部)を形成し、その表面をクリア層で保護した構成が開示されている。
【特許文献1】特開平7−79669号公報
【特許文献2】特開平9−182546号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した特許文献1及び特許文献2に開示された構成は、いずれも構成部品の本体上に形成された表示部の表面に、透明又は半透明の保護層を形成したものであるが、表示部を形成した後に保護層を形成する構成であることから、工数が増えてコストが嵩んでしまい、高価格帯の製品にしか用いることはできない。また、保護層を、前記表示部を施した部分のみに部分的に施す構成とした場合、剥離し易いという不具合が改善されないため、本体の広範囲もしくは全体に保護層を形成する必要があり、更にコストが高騰すると共に、重量も増加してしまう。
【0007】
特に、保護層を塗装で形成する場合、塗膜の密着性が悪い素材を本体に用いると剥離が生じ易くなるため、材料の選択の余地が少なくなってしまう。また、保護層を塗装や印刷で形成する場合、耐久性が塗料の材質や膜厚によって左右されるため、耐久性を考慮すると、重量増を免れるのは困難となり、また、軽量化のために樹脂材料を用いても、その効果を充分に得ることができず、改善することが望まれている。
【0008】
本発明は、上記した問題に着目して成されたものであり、視認性が良好で高耐久性を維持しつつ、低コストで重量増が生じることのない表示部が施された魚釣用具の構成部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するために、本発明に係る魚釣用具の構成部品は、樹脂で形成され、視認可能な意匠表示や機能表示等の表示部が設けられた部品本体を有しており、前記表示部は、レーザ光の照射により、前記樹脂の内部にマーキングを施こすことで形成されることを特徴とする。
【0010】
上記した構成において、樹脂で形成された部品本体に対してレーザ光を照射すると、樹脂の内部で発色が起こり、レーザ光を照射しない部分との間でコントラストが発生することから、レーザ光の照射位置を適宜変更することによって、樹脂の内部に所望のマーキング(文字列、模様列などの表示部)を施すことが可能となる。このように、樹脂の内部にマーキングが施されて表示部が形成されることから、表面部分に摩擦が作用したり、当たりが発生しても、形成されたマーキングが剥がれたり、消滅するようなことが無くなり、保護層を形成することなく、良好な視認性で、耐久性に優れた表示部が得られるようになる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る魚釣用具の構成部品によれば、文字や意匠のような表示部を、レーザ光の照射によって樹脂の内部にマーキングを施すことで形成するため、表面部分に摩擦が作用したり、当たりが発生しても、表示部が消滅することが無く、良好な視認性で、耐久性に優れた表示部となる。また、これに伴い、保護層を形成する必要が無くなって、軽量化が図れると共に、コストを削減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る魚釣用具の構成部品の実施形態について、添付図面に沿って具体的に説明する。
【0013】
図1は、魚釣用具であるスピニングリールを示しており、その構成部品であるスプール(図2)に表示部8を形成したものである。すなわち、スピニングリール1は、公知のように、ハンドル3の回転操作によってロータ5を回転駆動させると共に、スプール7を前後動させて、スプール7の釣糸巻回胴部7aに釣糸を巻回するよう構成されている。前記スプール7は、樹脂、例えば、ナイロン、ポリカーボネート、アクリル等によって一体形成されており、釣糸巻回胴部7aから後方側部分、いわゆるスカート7bに、巻回される釣糸の糸巻量表示やアイテム名表示等の表示部8が形成される。
【0014】
この場合、前記表示部8は、本体(部品本体9)の表面側からレーザ光を照射しながら樹脂の内部にマーキングを施すことによって形成されている。具体的には、図3に示すように、樹脂によって一体形成された部品本体9(スプール7)を治具(図示せず)によって固定しておき、スカート7bの所定の位置に、例えばYAGレーザ等のレーザ装置10によってレーザ光を照射することによって形成される。
【0015】
なお、現時点においては、レーザ光を樹脂に照射することでマーキングが施され、これによって表示部8が形成される明確な理由は究明されていないが、これは、レーザ光を照射することで照射部分が高温化し、物性が変化して発色する(照射しない部分との間でコントラストが生じる)ことに依存するものと考えられる。そして、この発色(色彩や濃度)については、樹脂の種類(素材)や、透明、又は顔料等を含浸して着色された樹脂(不透明な樹脂、或いは半透明な樹脂)によって異なることが確認された。例えば、透明なポリカーボネートやナイロンは黒く発色する傾向にあり、透明なアクリルについては白く発色する傾向にあることが確認された。
【0016】
また、レーザ光の出力、及び/又は照射時間を調整することによって、発色の濃淡を調整することが可能である。この場合、レーザ光の照射焦点を、図3に示すように、樹脂の内部に位置合わせしておくことで、素材によっては、図4に示すように、樹脂の厚さ方向全体に亘って表示部8を形成することができ、或いは、図5に示すように、その両表面部に至ることがなく、内部のみに表示部8を形成することも可能である。このように、表示部8は、少なくとも樹脂の内部に形成されていれば良く、それが表面領域に至るまで形成されている構成、或いは形成されていないような構成であっても良く、両者を組み合わせて1つの表示部を形成したものであっても良い。
【0017】
なお、レーザ光の出力を強くして照射時間を長くし過ぎると、表面部分が溶融して凹凸状となってしまうため好ましくはない。また、1回の照射時間を短くし、この照射回数を変えることによっても、濃淡を調整することが可能である。
【0018】
具体的に、表示部8は、固定される構成部品(スプール7)に対して、レーザ装置10によって照射されるレーザ光の焦点位置を、表示する文字に従ってトレースすることで形成することが可能である。
【0019】
上記したように、レーザ光を照射して、樹脂内部にまでレーザマーキングを施して表示部8を形成することにより、使用時における摩擦等によって表面が磨耗しても、部品の内部までマーキングが施されているので、磨耗後の表面に常に表示部8が記された状態となる。すなわち、従来の印刷、塗装等によって表示部を形成した構成と比較して、表示部の磨耗による視認性悪化や表示部の剥離等による機能表示や意匠表示の欠如が発生することはない。従って、本実施形態のようなスプールについての糸巻量表示やアイテム名表示等の重要な機能表示が長期にわたって残存することとなり、糸の巻き替え時の無駄糸の発生や、スプール変更時のサイズ間違い等のトラブルを容易に回避することが可能となる。また、表示部8を保護するための保護層(透明なクリア層等)を別途、形成する必要がなくなるため、魚釣用具全体として軽量化が図れると共に、製造コストを低減することが可能になる。
【0020】
また、部品を構成する素材を透明樹脂、或いは半透明樹脂とすることによって、部品の内部の視認性が向上することに加え、透明(半透明)材料を透過して視認できる部材(本実施形態においては、ロータ部分)に着色することで、意匠的に特徴を持たせることができるようになる。さらに、透明(半透明)材料を透過して視認できる部材の着色を、マーキングとのコントラストが強い色彩とすることで、より視認性を向上することが可能となる。
【0021】
また、図5に示すように、樹脂の内部のみにマーキングを施すことにより、或いは表示部8を形成する領域の表面を非凹凸状にしておくことで、表示部8の形成領域の段差を無くすことができ、これにより磨耗を格段に減少させて、表示部の耐久性を更に向上させることが可能となる。
【0022】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記したようなスピニングリールを構成する部品に限定されることはなく、種々の魚釣用具に適用することが可能である。
【0023】
例えば、図6(a)及び(b)に示すように、ルアーフィッシング等に用いられる釣竿20のグリップ部21を構成部品とし、これを上記したような樹脂で一体形成すると共に、握持保持されるトリガー22部分の前方領域に、表示部28を形成したものであっても良い。或いは、図7(a)及び(b)に示すように、中通し釣竿30の釣糸導入ガイド31の主要部32を構成部品とし、これを上記したような樹脂で一体形成すると共に、その側面や上面部に表示部38を形成したものであっても良い。更に、図示しないが、釣竿の端部を閉塞するキャップ、或いは、それ以外の各種の魚釣用具(クーラボックス、小物入れ、ルアー等)に適用することが可能である。
【0024】
また、表示部が形成される構成部品の母材については、樹脂に限定されることはなく、ABSや金属等、各種の素材であっても良い。この場合、金属で構成するのであれば、例えば表面に樹脂層を施しておき、その樹脂層に対してレーザ照射によって表示部を形成しても良く、これによって、樹脂層の内部に表示部を形成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】魚釣用具の一例であるスピニングリールの全体構成を示す図。
【図2】スピニングリールの構成部品であるスプールを示す図。
【図3】構成部品に対して表示部を形成する工程を示す図。
【図4】構成部品に形成された表示部の一例を示す断面図。
【図5】構成部品に形成された表示部の別の例を示す断面図。
【図6】魚釣用具としての釣竿の構成部品であるグリップ部を示しており、(a)は側面図、(b)は下面図。
【図7】魚釣用具としての中通し釣竿の構成部品である釣糸導入ガイド部分を示しており、(a)は側面図、(b)は平面。
【符号の説明】
【0026】
1 スピニングリール(魚釣用具)
7 スプール(構成部品)
9 部品本体
8,28,38 表示部
20 釣竿(魚釣用具)
21 グリップ部(構成部品)
30 中通し釣竿(魚釣用具)
31 釣糸導入ガイド(構成部品)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂で形成され、視認可能な意匠表示や機能表示等の表示部が設けられた部品本体を有する魚釣用具の構成部品において、
前記表示部は、レーザ光の照射により、前記樹脂の内部にマーキングを施こすことで形成されることを特徴とする魚釣用具の構成部品。
【請求項2】
前記部品本体を構成する樹脂は、透明又は半透明の材料であることを特徴とする請求項1に記載の魚釣用具の構成部品。
【請求項3】
前記表示部は、前記レーザ光の照射焦点を前記部品本体の内部に合わせて、前記部品本体の内部にのみマーキングを施すことで形成されることを特徴とする請求項2に記載の魚釣用具の構成部品。
【請求項4】
前記表示部を備えた部品本体は、前記表示部の表面が非凹凸であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の魚釣用具の構成部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−141355(P2006−141355A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−339496(P2004−339496)
【出願日】平成16年11月24日(2004.11.24)
【出願人】(000002495)ダイワ精工株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】