魚類の雌雄判別装置及び魚類の雌雄判別方法
【課題】雌雄判別の精度を高めることが可能な魚類の雌雄判別装置を提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る魚類の雌雄判別装置1は、魚類の体内に照射するための照射光を生成する発光手段10と、魚類の体内の一部を伝播した伝播光又は魚類の体内の一部を反射した反射光を受け、該伝播光の光量又は該反射光の光量に応じた値を有する電気信号を出力する光検出手段20と、魚類の体内に挿入され、照射光を魚類の体内へ導くと共に、伝播光又は反射光を光検出手段20へ導くプローブ50と、光検出手段20からの電気信号の値に基づいて、魚類の雌雄を判別する判別手段41とを備える。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る魚類の雌雄判別装置1は、魚類の体内に照射するための照射光を生成する発光手段10と、魚類の体内の一部を伝播した伝播光又は魚類の体内の一部を反射した反射光を受け、該伝播光の光量又は該反射光の光量に応じた値を有する電気信号を出力する光検出手段20と、魚類の体内に挿入され、照射光を魚類の体内へ導くと共に、伝播光又は反射光を光検出手段20へ導くプローブ50と、光検出手段20からの電気信号の値に基づいて、魚類の雌雄を判別する判別手段41とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚類の雌雄を判別するための装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
魚類においては、その食され方や加工方法、流通手段などにより、雌雄のうち何れか一方が重宝されることがある。例えば、マダラの場合、成熟期になると精巣(以下、白子と称す。)が高く取引されるために、雄は雌に比べて高い魚価で取引される。また、ニシンの場合、卵がカズノコとして珍重されるために雌の方が高価値である。一方、ヨーロッパでは、ニシンの雄を酢付けで食する習慣があるため、雄の方が高価値である。
【0003】
したがって、仲買人や加工業者としては雌雄判別を行いたいが、漁師や漁業関係者のような専門家でも魚体外部からの雌雄判別は困難であり、やむなく雄雌混在した状態での取引がなされている。そのために、適正な価格設定がなされていない。
【0004】
また、サケの場合には、イクラや筋子を製造するための雌サケと肉食に提供される雄サケとによって加工の工程が異なり、これらを判別して加工し流通させた方が、鮮度を保ったりコストを低減させたりするためにも好ましいものである。
【0005】
このように、従来、魚類の雌雄判別を行うことが要望されており、その判別方法について様々な開発がなされてきている。
【0006】
特許文献1には、マダラやニシンなどに対して、外部から光を照射して生殖腺領域における1点の透過特性を計測し、雌の透過光量に比べて雄の透過光量が小さいことを利用して雌雄判別を行う魚類の雌雄判別装置が記載されている。
【0007】
特許文献2には、特許文献1に記載の魚類の雌雄判別装置の改良装置として、測定部位を走査して断面に関する形状の情報を取得し、この情報によって雌雄判別を行う魚類の雌雄判別装置が記載されている。
【特許文献1】特開昭51−100495号公報
【特許文献2】特開平2−76528号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1,2に記載の魚類の雌雄判別装置では、被測定対象の魚のサイズ、部位によるばらつき、光の照射の方法、検出器への光の入り方によって計測結果が大きく異なり、判別の精度を低下させてしまう。また、特許文献2に記載の魚類の雌雄判別装置では、魚類の組織は入射光に対して単なる吸収体ではなく、散乱も生じさせるため、X線CTで内部の構造を測定するように、断面構造を正確に取得することができない。また、例えばマダラなどは、生殖腺領域の外部に光を透過しにくい赤黒い膜を内部に持っているので、S/N良く内部情報を測定することが困難である。
【0009】
そこで、本発明は、雌雄判別の精度を高めることが可能な魚類の雌雄判別装置及び魚類の雌雄判別方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の魚類の雌雄判別装置は、(a)魚類の体内に照射するための照射光を生成する発光手段と、(b)魚類の体内の一部を伝播した伝播光又は魚類の体内の一部を反射した反射光を受け、該伝播光の光量又は該反射光の光量に応じた値を有する電気信号を出力する光検出手段と、(c)魚類の体内に挿入され、照射光を魚類の体内へ導くと共に、伝播光又は反射光を光検出手段へ導くプローブと、(d)光検出手段からの電気信号の値に基づいて、魚類の雌雄を判別する判別手段と、を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の魚類の雌雄判別方法は、魚類の体内にプローブを挿入し、発光手段からの照射光を該魚類の体内へ導くと共に、該魚類の体内の一部を伝播した伝播光又は該魚類の体内の一部を反射した反射光を光検出手段へ導き、伝播光の光量又は反射光の光量に応じた値を有する電気信号に基づいて、魚類の雌雄を判別することを特徴とする。
【0012】
この魚類の雌雄判別装置及び魚類の雌雄判別方法によれば、プローブが、魚類の体内に挿入され、照射光を魚類の体内に導くと共に、魚類の体内の一部を伝播した伝播光又は魚類の体内の一部を反射した反射光を光検出手段へ導くので、被測定対象の魚のサイズ、部位によるばらつき、光の照射の方法、検出器への光の入り方に依存することなく、安定した伝播光又は反射光の計測結果を得ることができる。また、この魚類の雌雄判別装置及び魚類の雌雄判別方法によれば、断面構造を正確に取得する必要がない。また、この魚類の雌雄判別装置及び魚類の雌雄判別方法によれば、例えばマダラなどのように生殖腺領域の外部に光を透過しにくい赤黒い膜を有していても、この膜に依存することなく伝播光又は反射光の計測が可能である。したがって、この魚類の雌雄判別装置及び魚類の雌雄判別方法によれば、雌雄判別の精度を高めることが可能となる。
【0013】
発光手段と光検出手段とは、プローブの内部に配置され、プローブは、発光手段と光検出手段とが魚類の体内に配置されるように、魚類の体内に挿入されることが好ましい。これによれば、発光手段及び光検出手段の物理的なサイズを小さくすることができ、装置の取り扱いが容易となる。
【0014】
また、プローブは、発光手段からの照射光を伝播する第1の導光手段と、伝播光又は反射光を光検出手段へ伝播する第2の導光手段とを有することが好ましい。これによれば、発光手段及び光検出手段をプローブの外部に配置することができ、発光手段及び光検出手段の外形や配置位置などの面で制限を受けることがない。
【0015】
また、発光手段は、2以上の異なる波長の照射光を生成し、判別手段は、光検出手段からの電気信号から得られる分光情報に基づいて、魚類の雌雄を判別することが好ましい。これによれば、分光伝播情報又は分光反射情報に基づいて、すなわち2波長以上の伝播情報又は反射情報に基づいて雌雄判別を行うので、雌雄判別の精度をより高めることが可能となる。
【0016】
また、判別手段は、波長略550nm以下のスペクトルを解析することによって得られる分光情報に基づいて、魚類の雌雄を判別することを好ましい。魚類の雌雄では、波長略550nm以下において異なるスペクトル特性を有しているので、雌雄による分光情報の差をより正確に抽出でき、雌雄判別の精度をより高めることが可能となる。
【0017】
また、光検出手段は分光器であることが好ましい。これによれば、より詳細にスペクトルの情報を測定できるので、雌雄判別の精度をより高めることが可能となる。
【0018】
また、魚類の体内の一部は、卵巣部又は精巣部であり、判別手段は、卵巣部又は精巣部の分光情報に基づいて、魚類の雌雄を判別することが好ましい。魚類の卵巣と精巣とは、異なる分光透過特性及び分光反射特性を有しているので、すなわち波長ごとに異なる透過特性及び反射特性を有しているので、雌雄判別の精度をより高めることが可能となる。
【0019】
また、魚類の体内の一部は、魚類の生殖孔の入り口から続く組織の内部であり、判別手段は、組織の内部での分光情報に基づいて、魚類の雌雄を判別することが好ましい。魚類の生殖孔の入り口から続く組織では、雌雄によって異なる分光透過特性及び分光反射特性を有しているので、雌雄判別の精度をより高めることが可能となる。ここで述べている「生殖孔の入り口から続く組織の内部」は、雄の場合はブドウの房状に形成されている白子へ繋がる管状の組織の部分であり、雌の場合は卵巣へ繋がる管状の組織、または卵巣内の卵そのものを示している。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、魚類の雌雄判別の精度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。
[第1の実施形態]
【0022】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る魚類の雌雄判別装置を電気的に示す図である。図1に示す魚類の雌雄判別装置1は、発光部(発光手段)10と、光検出部(光検出手段)20と、報知部30と、制御部40とを備えている。
【0023】
発光部10は、制御部40からの指令に応じて、魚類の体内に照射するための照射光を生成する。例えば、後述するように、分光反射量に基づいて雌雄判別を行うために、発光部10は、500nmの緑の光と800nmの近赤外の光との2波長の照射光を出射する。発光部10は、ドライブ回路11と発光素子12とを有している。
【0024】
ドライブ回路11は、制御部40からの指令に応じて、発光素子12に駆動電流を供給する。例えば、単一の光検出器で何れの波長の光を検出したかを判別し易くするために、ドライブ回路11は、発光が重ならないように異なるタイミングで異なる波長のパルス電流を発光素子12に供給する(時分割点灯)。発光素子12は、ドライブ回路11からの駆動電流に応じて発光する。発光素子12には、LEDやLDなどを用いることができる。
【0025】
光検出部20は、魚類の体内の一部を散乱・吸収されながら伝播した伝播光又は魚類の体内の一部を反射した反射光を受けて、伝播光の光量又は反射光の光量に応じた値を有する電気信号を生成する。光検出部20は、光検出器21と、電流電圧変換回路22と、増幅・積分回路23と、A/D変換器24とを有している。
【0026】
光検出器21は、伝播光の光量又は反射光の光量に応じた値を有する光電流を生成する。光検出器21には、例えばPDを用いることができる。電流電圧変換回路22は、光検出器21からの光電流を電圧に変換する。増幅・積分回路23は、必要なS/N比となるように、電流電圧変換回路22からの電圧を増幅及び積分する。A/D変換器24は、増幅・積分回路23からのアナログ電圧をディジタル信号に変換して、制御部40へ出力する。
【0027】
報知部30は、制御部40からの指令に基づき、制御部40からの判別結果の報知を行う。例えば、報知部30は2色のLEDを有しており、判別結果に応じて何れか一方のLEDを点灯する。
【0028】
制御部40は、発光部10と、光検出部20と、報知部30とを統括的に制御する。制御部40は、演算を行うCPU(Central Processing Unit)と、CPUに各処理を実行させるためのプログラムや雌雄判別のための閾値等を記憶するROM(ReadOnly Memory)とを有している。このような構成により、制御部40は、判別手段41として機能する。
【0029】
判別手段41は、光検出部20からのディジタル信号から得られる分光情報に基づいて、すなわち、伝播光又は反射光が波長ごとに変換されたディジタル信号の値を用いて、雌雄判別を行う。例えば、判別手段41は、波長500nmの伝播光又は反射光に応じたディジタル信号の値と波長800nmの伝播光又は反射光に応じたディジタル信号の値との比率を求め、この比率と予め記憶された閾値とを比較して雌雄判別を行う。判別手段41は、この判別結果に応じて報知部30に指令を行う。
【0030】
ここで、魚類の体内の分光反射特性として、雌マダラの卵巣(以下、魚卵と称す)部と雄マダラの白子部との分光反射特性を例示する。図2は、雌マダラの魚卵部と雄マダラの白子部との分光反射率を測定した一例を示す図である。図2には、照射光として白色光を用い、雌マダラの魚卵部又は雄マダラの白子部からの反射光を分光器によって分光分析した実測データが示されている。図2では、曲線61が魚卵部の分光反射特性を示しており、曲線62が白子部の分光反射特性を示している。なお、これらの分光反射特性は、波長800nmの値で正規化されている。
【0031】
図2によれば、魚卵と白子との分光反射特性が異なっていることがわかる。具体的には、波長が短くなるにつれて、魚卵の光反射率が相対的に低下していることがわかる(曲線61参照)。一方、白子の光反射率は、波長が短くなっても大きく低下しないことがわかる(曲線62参照)。肉眼で観た場合、魚卵は薄目の赤色である。一方、白子は白色であるが、血管が通っている部分もあり、真っ白ではない。そのために、魚卵と白子との分光反射特性が異なるものと考えられる。
【0032】
これより、例えば、500nmの緑の光と800nmの近赤外の光との2波長の光反射量を測定し、これらの分光反射量の比率が雌雄で異なることを利用して、雌雄判別を行うことができることがわかる。本実施形態では、波長500nmの反射光又は伝播光の光量に応じたディジタル信号の値と波長800nmの反射光又は伝播光の光量に応じたディジタル信号の値との比率を求め、この比率と予め記憶された閾値とを比較して雌雄判別を行うものである。したがって、この閾値は、雌雄の分光反射量比率又は分光伝播量比率の中間の値に応じたディジタル信号の値に設定されればよく、予め実験によって求められればよい。
【0033】
次に、発光部10からの照射光を魚類の体内に導くと共に、伝播光又は反射光を光検出部20へ導くためのプローブについて説明する。図3は、本発明の第1の実施形態に係るプローブの物理的な構成を示す図である。図3(a),(b)には、それぞれ90度異なる角度から見たプローブが示されている。図3に示すプローブ50は、図4に示す生殖孔Aを介して魚類の体内に挿入される挿入部51と持手部52とを有する。
【0034】
挿入部51は、筒状をなしており、プローブ50の先端側の一端には半球状の蓋が形成されている。これにより、挿入部51が魚類の体内に挿入されたときに、内部に傷を付けることを防止することできる。挿入部51の材料としては、透明な樹脂、例えばアクリルやガラスなどを用いることができる。挿入部51の直径は、魚類の生殖孔Aに合わせて適宜設定されればよい。例えば、判別対象の魚がマダラである場合には、挿入部51の直径は7mm程度に設定されればよい。
【0035】
挿入部51の内孔には、発光素子12と光検出器21とが配置される。発光素子12と光検出器21とは離して配置され、これらの間には遮光部材53が設けられている。例えば、本願発明者らは、実験において、発光素子12と光検出器21とを15mm程度離して配置した。これにより、発光素子12から出射した光が、魚類の内部を伝搬せずに、直接光検出器21に入射することを防止することができる。遮光部材53の材料には、例えば黒色の吸光材が用いられる。
【0036】
遮光部材53は、挿入部51における光出射側の管壁の一部51aを欠き削って、そこへ充填されている。このように、発光素子12と光検出器21との間の管壁の一部51aの材料を光が伝播しにくい材料又は構造にすることによって、挿入部51の管壁を伝播して、発光素子12からの光が光検出器21に入射することを防止することができる。
【0037】
挿入部51の他端は持手部52に接続されて支持されている。持手部52は、筒状をなしており、内孔には遮光部材が充填されていることが好ましい。これによれば、持手部52の内孔から外来光が入射することを防止でき、計測精度の向上を図ることができる。更に、挿入部51の内孔における光検出器21より持手部52にも遮光部材が充填されていることが好ましい。これによれば、挿入部51の一部であって、魚類の体内に挿入されない部分から外来光が入射することを防止でき、計測精度の向上を図ることができる。
【0038】
なお、発光素子12と光検出器21とは、挿入部51と持手部52との内孔に配線された電気配線によって、それぞれ、外部のドライブ回路11、電流電圧変換回路22に接続されている。
【0039】
このプローブ50における挿入部51は、挿入部51の内部に配置された発光素子12及び光検出器21が、雌の場合には魚卵の中に埋もれるような場所に配置され、雄の場合には白子の間をぬうような場所に配置されるように、生殖孔Aから魚類の内部に挿入される。判別対象の魚がマダラである場合、生殖孔Aに対する挿入の深さ、すなわち測定位置の深さは5〜7cm程度であることが好ましい。プローブ50では、照射光は挿入方向に延びる軸に対して、90°の方向に出射され、同方向からの反射光を検出することとなる。
【0040】
次に、第1の実施形態の魚類の雌雄判別装置1の動作を説明すると共に、本発明の実施形態に係る魚類の雌雄判別方法について説明する。
【0041】
まず、プローブ50における挿入部51が生殖孔Aから魚類の内部に挿入される。このとき、挿入部51の内部に配置された発光素子12及び光検出器21が、雌の場合には魚卵の中に埋もれるような場所に配置され、雄の場合には白子の間をぬうような場所に配置される。
【0042】
次に、制御部40からの指令により、ドライブ回路11によって波長500nmと波長800nmとの駆動電流が順次に生成され、発光素子12によって波長500nmと波長800nmとの照射光が順次に魚卵又は白子に照射される。すると、これらの照射光は、魚卵又は白子で反射したり、散乱・吸収されながら伝搬したりして、反射光又は伝播光として光検出器21に入射する。
【0043】
その後、光検出器21によって伝播光の光量又は反射光の光量に応じた光電流が生成され、電流電圧変換回路22によって電圧に変換され、増幅・積分回路23によって増幅及び積分されて、A/D変換器24によってディジタル信号に変換される。
【0044】
その後、制御部40が判別手段として機能し、2波長のディジタル信号の比率が求められ、この比率と予め記憶された閾値とが比較されて、雌雄判別が行われる。例えば、マダラの場合、図2に示すように、波長500nmのディジタル信号の値をD5、波長800nmのディジタル信号の値をD8として、2波長のディジタル信号の比率D8/D5が閾値以上であれば雌と判断され、閾値未満であれば雄と判断される。
【0045】
次に、制御部40によって、この判別結果に応じて報知部30に指令が行われ、報知部30によって雌雄の判別結果が報知される。例えば、判別結果が雌の場合には赤色のLEDが点灯され、雄の場合には緑色のLEDが点灯される。
【0046】
以上説明したように、第1の実施形態の魚類の雌雄判別装置1及び本実施形態の魚類の雌雄判別方法によれば、魚類の体内における分光反射率又は分光透過率を計測するので、被測定対象の魚のサイズ、部位によるばらつき、光の照射の方法、検出器への光の入り方に依存することなく、安定した伝播光又は反射光の計測結果を得ることができる。また、例えばマダラなどのように生殖腺領域の外部に光を透過しにくい赤黒い膜を有していても、この膜に依存することなく伝播光又は反射光の計測が可能である。したがって、第1の実施形態の魚類の雌雄判別装置1及び本実施形態の魚類の雌雄判別方法によれば、雌雄判別の精度を高めることが可能となる。
【0047】
また、第1の実施形態の魚類の雌雄判別装置1及び本実施形態の魚類の雌雄判別方法によれば、分光伝播情報又は分光反射情報に基づいて、すなわち2波長の伝播情報又は反射情報に基づいて雌雄判別を行うので、雌雄判別の精度をより高めることが可能となる。
【0048】
また、第1の実施形態の魚類の雌雄判別装置1によれば、発光部10における発光素子12と光検出部20における光検出器21とが、プローブ50の内部に、すなわち同一パッケージに納められているので、発光部10及び光検出部20の物理的なサイズを小さくすることができ、装置の取り扱いが容易となる。
【0049】
また、第1の実施形態の魚類の雌雄判別装置1及び本実施形態の魚類の雌雄判別方法によれば、産卵期を外れた魚類においては卵巣又は精巣が通常と異なる分光特性を示すので、雌雄判別だけでなく、体内に卵を有しているか否か、白子を有しているか否かの判別をも行うことが可能である。
【0050】
故に、第1の実施形態の魚類の雌雄判別装置1及び本実施形態の魚類の雌雄判別方法によれば、雌雄判別後に雌雄何れかのみを選択的に流通させることができるようになり、流通コストの削減が可能となる。また、水揚げされた魚に付加価値をつけることができるようになり、水産物のブランド化が図られる。
[第2の実施形態]
【0051】
次に、本発明の第2の実施形態に係る魚類の雌雄判別装置1Aについて説明する。魚類の雌雄判別装置1Aの電気的な構成は、図1に示す魚類の雌雄判別装置1と同一である。魚類の雌雄判別装置1Aは、魚類の雌雄判別装置1において、図3に示すプローブ50に代えてプローブ50Aを備えている点で第1の実施形態と異なっている。
【0052】
図5は、本発明の第2の実施形態に係るプローブの物理的な構成を示す図である。図5に示すプローブ50Aは、挿入部51に代えて挿入部51Aを備えており、更に光ファイバ(第1及び第2の導光手段)55,56を備えている構成でプローブ50と異なっている。
【0053】
挿入部51Aは、プローブ50Aの先端側の一端に平板状の蓋が形成されている点で挿入部51と異なっている。これにより、プローブ50Aの先端側から照射される照射光及びプローブ50Aの先端側に受ける伝播光や反射光の屈折や干渉などを防止することができる。また、挿入部51Aのエッジ部分は、面取りの処理が施されていることが好ましい。これにより、挿入部51Aが魚類の体内に挿入されたときに、内部に傷を付けることを防止することできる。挿入部51A及び持手部52の内孔には、光ファイバ55,56が配置されている。
【0054】
光ファイバ55は、外部に配置された発光素子12からの照射光を、挿入部51Aの一端を介して魚類の体内へ導く。光ファイバ56は、挿入部51Aの一端を介して入射する伝播光又は反射光を外部の光検出器21へ導く。例えば、本願発明者らは、実験において、直径1mm程度の光ファイバ55,56を用いている。
【0055】
プローブ50Aでは、照射光は挿入方向(棒状のプローブの前方方向)に出射され、同方向からの伝播光又は反射光を検出することとなる。
【0056】
なお、プローブ50Aでは、プローブ50の遮光部材53と同様に、光ファイバ55から出射した光が魚類の内部を伝搬することなく、光ファイバ56に直接入射することを防ぐ対策を施してあることが好ましい。
【0057】
この第2の実施形態の魚類の雌雄判別装置1Aでも、第1の実施形態の魚類の雌雄判別装置1と同様の利点を得ることができる。また、第2の実施形態の魚類の雌雄判別装置1Aによれば、発光部10における発光素子12と光検出部20における光検出器21とをプローブ50の外部に配置することができ、これらの発光素子12及び光検出器21の外形や配置位置などの面で制限を受けることがない。
【0058】
なお、本発明は上記した本実施形態に限定されることなく種々の変形が可能である。
【0059】
本実施形態では、2波長の照射光を用いて分光情報を測定したが、3波長以上の照射光を用いて分光反射情報又は分光伝播情報を測定して雌雄判別に用いてもよい。また、白色光源を用いて分光反射特性又は分光伝播特性を測定し、スペクトルの形や多数スペクトル間の成分の比率から雌雄判別を行ってもよい。白色光源では複数の波長が同時に存在するので、上記した時分割点灯手法を用いることができない。したがって、発光部10に白色光源を用いた場合には、光検出部20に分光器を用いて分光し、スペクトル情報を取得する。白色光源としては、ハロゲンランプ、タングステンランプなどのランプ光源や、白色LEDなどを使用することができる。
【0060】
また、本実施形態では、1つの発光素子12を用いて2波長の照射光を生成したが、照射光の波長ごとに異なる発光素子を複数備えていてもよい。図2によれば、波長550nm付近よりも短波長の領域において魚卵の光吸収量が大きくなっており、この波長550nm付近を挟んで十分な波長差を有する複数の波長の分光反射量又は分光吸収量を測定し、これらの分光反射量又は分光吸収量に基づいて、雌雄判別を行ってもよい。
【0061】
ここで、550nm以下の波長に着目して解析した結果について述べる。本実験では、後述する同軸構造の光ファイバを備えるプローブ、すなわち、図11に示すように、照射用の光ファイバと受光用のファイバとを束ねた構造のプローブを用い、このプローブをマダラの生殖孔内約50mmの深さまで挿入して反射スペクトルを測定した。すなわち、マダラの生殖孔の入り口から続く組織の内部の分光反射量を測定した。スペクトル計測を行ったマダラのサンプル数は53匹であった。なお、光源としては、十分広い波長帯域を有する光源を用いた。
【0062】
図8に、雄マダラの生殖孔の管内部の分光反射率を測定した一例を示し、図9に、雌マダラの生殖孔の管内部の分光反射率を測定した一例を示す。図8及び図9によれば、波長550nm以下では、雄マダラの生殖孔の管内部の分光反射率と雌マダラの生殖孔の管内部の分光反射率とに差異が生じていることがわかる。これより、魚類の生殖孔の入り口から続く組織の内部の分光反射量又は分光吸収量を測定し、これらの分光反射量又は分光吸収量に基づいて、雌雄判別を行ってもよい。また、図8及び図9によれば、波長550nm以下のスペクトルを解析することによって得られる分光反射量又は分光吸収量に基づいて、雌雄判別を行うことが好ましい。
【0063】
また、図8及び図9によれば、波長500nmから波長550nmの範囲のスペクトル特性において、雄マダラではマイナスの勾配を有し、雌マダラではプラスの勾配を有することがわかる。これより、波長500nmから波長550nmの範囲のスペクトル特性の勾配を評価の指標として、雌雄判別を行ってもよい。
【0064】
図10に、図8及び図9における波長500nmから波長550nmの範囲のスペクトル特性の勾配を示す。図10には、53匹のマダラの測定結果が示されている。図10において、点線101に示す値にしきい値を設定して雌雄判別を行った場合に、88%の精度で雌雄判別を行うことができた。
【0065】
本実施形態では、制御部40は雌雄判別のための閾値として予め記憶された固定値を用いたが、制御部は、学習機能及びデータベース機能を備えて判別処理で測定した分光情報を記憶し、例えばこれらの分光情報の平均を求めて閾値を調整してもよい。これによれば、判定精度を更に高めることができる。
【0066】
また、本実施形態では、閾値を1つ設定して雌雄判別を行ったが、これに限定されない。2つの閾値を設定し、1つ目のグループは雄、2つ目のグループは雌、3つ目のグループは雌雄判別が困難なものと分類しても良い。雌雄判別の目的は、判別を必要とする者に確かな結果を与えることであるので、雌雄判別が困難なものについては判別結果から除外して、異なる流通ルートに回したり、職人の手によって正確な判別を行うようにしてもよい。
【0067】
また、本実施形態では、波長500nmから波長550nmの範囲のスペクトルに着目して勾配を評価の指標としたが、これに限定されない。多成分解析などの統計的手法を用いて、より高い精度で雌雄判別を行うことも可能である。
【0068】
なお、本実施形態において測定したスペクトル特性の縦軸は絶対値である必要はない。例えば、プローブの透過率や光源の分光スペクトルの校正により絶対値を示す演算処理が行われていなくても、計測時に再現性が得られるようになっていれば、用いている計測系それぞれに適した閾値を設定して雌雄判別処理を行うことができる。
【0069】
また、本実施形態では、光検出器21と、電流電圧変換回路22と、増幅・積分回路23と、A/D変換器24とを有する光検出部20を例示したが、光検出部は本実施形態に限られるものではない。例えば、光検出部は、電流電圧変換回路22及び増幅・積分回路23に代えて、光検出器の出力電流を直接積分することにより、電荷量電圧変換回路を用いてもよい。また、増幅・積分回路23は、必要なS/N比を得るために設けたものであるので、必須の構成ではなく、必要に応じて設けられればよい。
【0070】
また、本実施形態では、報知部30は2色のLEDを用いた視覚による報知を行ったが、報知部30による報知手法は本実施形態に限定されるものではない。例えば、報知部30は、高低ブザー音を用いた聴覚による報知を行ってもよい。
【0071】
また、第1の実施形態では、プローブ50は1つの光検出器21を備えていたが、プローブ50は、生殖孔Aに対する異なる挿入の深さにおける情報、すなわち異なる深さの測定位置における情報を測定できるように、挿入部51における挿入方向の異なる複数の位置にそれぞれ複数の光検出器を配置して、これらの検出光量または光量比の情報を元に魚類の内部情報をより詳細に測定してもよい。
【0072】
また、第2の実施形態では、プローブ50Aは、照射用の光ファイバ55と受光用の光ファイバ56とを別々に備えたが、照射用の光ファイバと受光用の光ファイバとを同軸構造とした1本の光ファイバを備えて操作できる構造にしても良い。これにより、より簡易的なシステムを構築することができる。
【0073】
図11に、照射用の光ファイバと受光用の光ファイバとを同軸構造とした1本の光ファイバの構造の一例を示す。図11に示すように、取扱いが容易な軟らかさが得られる太さの光ファイバ(例えば50μm)を複数本束ね、中心付近の適当な本数を照射用の光ファイバ111とし、その周囲の残りを受光用の光ファイバ112として、1本の光ファイバ113を構成しても良い。なお、照射用の光ファイバ111は、必ずしも密集している必要はなく、発光素子12からの照射光を魚類の体内に均一に照射できるように、光ファイバ113の径内に均一に分布していても良い。
【0074】
また、報知部30や制御部40の一部又は全部を、発光部10及び光検出部20と分離し、有線又は無線により通信してもよい。この構成によれば、プローブ50,50Aが軽量となり、プローブ50,50Aの取り回しが容易となる。
【0075】
また、本実施形態では、プローブ50,50Aの持手部52の形状は棒状であるが、魚類の体内への挿入の操作をし易くするために、持手部52の形状はピストル型の形状であってもよい。
【0076】
また、本実施形態では、プローブ50,50Aの挿入部50,51Aでは、それぞれ、プローブの先端側の一端が半球状、平板状をなしていたが、挿入部50,51Aの先端形状は本実施形態に限られるものではない。例えば、プローブ50Aの挿入部51Aの先端には、挿入部の内孔に沿う長手方向に対して角度45°のカットが施されて、長手方向に対して角度45°の蓋が形成されていてもよい。これによれば、照射光は挿入方向に延びる軸に対して90°の方向に出射され、同方向からの伝播光又は反射光を検出することとなる。
【0077】
また、本実施形態の魚類の雌雄判別装置は、雌雄判別を自動化する構成を備えていてもよい。図6は、本実施形態の魚類の雌雄判別装置による雌雄判別を自動化するための構成を示す図である。図6に示すように、ベルトコンベア71と、TVカメラ72と、制御用PC73と、プローブ用アーム74とによって、雌雄判別を自動化することが可能である。
【0078】
まず、判別対象の魚をベルトコンベア71で適当な速度で移動させる。次に、判別対象の魚の生殖孔の位置をTVカメラ72で測定し、制御用PC73によって画像処理を行って生殖孔の位置を数値化する。この数値化した情報を基に、プローブ用アーム74によって生殖孔に所定の角度かつ所定の深さまでプローブ50を差し込み、上記した雌雄判別を行う。その後、ベルトコンベア71によって魚が送られる先に判別結果を伝え、判別結果に従って雌雄別々の場所に魚を移動させることが好ましい。
【0079】
なお、ベルトコンベア71に代えて、図7に示すように、魚を固定するための溝を有するV字状の形状をなすベルトコンベア71Aを用いることが好ましい。例えば、図7における上方にTVカメラ72、プローブ用アーム74及びプローブ50が配置され、ベルトコンベア71AにおけるV字状の溝には腹を上として魚が配置される。これによれば、魚を固定することができるので、例えば差込み深さなどのプローブ50の差込み状態を均一化することができる。なお、下方にTVカメラ72、プローブ用アーム74及びプローブ50が配置され、ベルトコンベア71AにおけるV字状の溝には腹を下として魚が配置されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る魚類の雌雄判別装置を電気的に示す図である。
【図2】雌マダラの魚卵部と雄マダラの白子部との分光反射率の一例を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係るプローブの物理的な構成を示す図である。
【図4】図3に示すプローブの挿入箇所を示す図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係るプローブの物理的な構成を示す図である。
【図6】本実施形態の魚類の雌雄判別装置による雌雄判別を自動化するための構成を示す図である。
【図7】図6に示すベルトコンベアの変形例を示す図である。
【図8】雄マダラの生殖孔の管内部の分光反射率を測定した一例を示す図である。
【図9】雌マダラの生殖孔の管内部の分光反射率を測定した一例を示す図である。
【図10】図8及び図9における波長500nmから波長550nmの範囲のスペクトル特性の勾配を示す図である。
【図11】照射用の光ファイバと受光用の光ファイバとを同軸構造とした1本の光ファイバの構造の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0081】
1,1A…魚類の雌雄判別装置、10…発光部(発光手段)、11…ドライブ回路、12…発光素子、20…光検出部(光検出手段)、21…光検出器、22…電流電圧変換回路、23…増幅・積分回路、24…A/D変換器、30…報知部、40…制御部、41…判別手段、50,50A…プローブ、51,51A…挿入部、52…持手部、53…遮光部材、55,56…光ファイバ(第1及び第2の導光手段)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚類の雌雄を判別するための装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
魚類においては、その食され方や加工方法、流通手段などにより、雌雄のうち何れか一方が重宝されることがある。例えば、マダラの場合、成熟期になると精巣(以下、白子と称す。)が高く取引されるために、雄は雌に比べて高い魚価で取引される。また、ニシンの場合、卵がカズノコとして珍重されるために雌の方が高価値である。一方、ヨーロッパでは、ニシンの雄を酢付けで食する習慣があるため、雄の方が高価値である。
【0003】
したがって、仲買人や加工業者としては雌雄判別を行いたいが、漁師や漁業関係者のような専門家でも魚体外部からの雌雄判別は困難であり、やむなく雄雌混在した状態での取引がなされている。そのために、適正な価格設定がなされていない。
【0004】
また、サケの場合には、イクラや筋子を製造するための雌サケと肉食に提供される雄サケとによって加工の工程が異なり、これらを判別して加工し流通させた方が、鮮度を保ったりコストを低減させたりするためにも好ましいものである。
【0005】
このように、従来、魚類の雌雄判別を行うことが要望されており、その判別方法について様々な開発がなされてきている。
【0006】
特許文献1には、マダラやニシンなどに対して、外部から光を照射して生殖腺領域における1点の透過特性を計測し、雌の透過光量に比べて雄の透過光量が小さいことを利用して雌雄判別を行う魚類の雌雄判別装置が記載されている。
【0007】
特許文献2には、特許文献1に記載の魚類の雌雄判別装置の改良装置として、測定部位を走査して断面に関する形状の情報を取得し、この情報によって雌雄判別を行う魚類の雌雄判別装置が記載されている。
【特許文献1】特開昭51−100495号公報
【特許文献2】特開平2−76528号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1,2に記載の魚類の雌雄判別装置では、被測定対象の魚のサイズ、部位によるばらつき、光の照射の方法、検出器への光の入り方によって計測結果が大きく異なり、判別の精度を低下させてしまう。また、特許文献2に記載の魚類の雌雄判別装置では、魚類の組織は入射光に対して単なる吸収体ではなく、散乱も生じさせるため、X線CTで内部の構造を測定するように、断面構造を正確に取得することができない。また、例えばマダラなどは、生殖腺領域の外部に光を透過しにくい赤黒い膜を内部に持っているので、S/N良く内部情報を測定することが困難である。
【0009】
そこで、本発明は、雌雄判別の精度を高めることが可能な魚類の雌雄判別装置及び魚類の雌雄判別方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の魚類の雌雄判別装置は、(a)魚類の体内に照射するための照射光を生成する発光手段と、(b)魚類の体内の一部を伝播した伝播光又は魚類の体内の一部を反射した反射光を受け、該伝播光の光量又は該反射光の光量に応じた値を有する電気信号を出力する光検出手段と、(c)魚類の体内に挿入され、照射光を魚類の体内へ導くと共に、伝播光又は反射光を光検出手段へ導くプローブと、(d)光検出手段からの電気信号の値に基づいて、魚類の雌雄を判別する判別手段と、を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の魚類の雌雄判別方法は、魚類の体内にプローブを挿入し、発光手段からの照射光を該魚類の体内へ導くと共に、該魚類の体内の一部を伝播した伝播光又は該魚類の体内の一部を反射した反射光を光検出手段へ導き、伝播光の光量又は反射光の光量に応じた値を有する電気信号に基づいて、魚類の雌雄を判別することを特徴とする。
【0012】
この魚類の雌雄判別装置及び魚類の雌雄判別方法によれば、プローブが、魚類の体内に挿入され、照射光を魚類の体内に導くと共に、魚類の体内の一部を伝播した伝播光又は魚類の体内の一部を反射した反射光を光検出手段へ導くので、被測定対象の魚のサイズ、部位によるばらつき、光の照射の方法、検出器への光の入り方に依存することなく、安定した伝播光又は反射光の計測結果を得ることができる。また、この魚類の雌雄判別装置及び魚類の雌雄判別方法によれば、断面構造を正確に取得する必要がない。また、この魚類の雌雄判別装置及び魚類の雌雄判別方法によれば、例えばマダラなどのように生殖腺領域の外部に光を透過しにくい赤黒い膜を有していても、この膜に依存することなく伝播光又は反射光の計測が可能である。したがって、この魚類の雌雄判別装置及び魚類の雌雄判別方法によれば、雌雄判別の精度を高めることが可能となる。
【0013】
発光手段と光検出手段とは、プローブの内部に配置され、プローブは、発光手段と光検出手段とが魚類の体内に配置されるように、魚類の体内に挿入されることが好ましい。これによれば、発光手段及び光検出手段の物理的なサイズを小さくすることができ、装置の取り扱いが容易となる。
【0014】
また、プローブは、発光手段からの照射光を伝播する第1の導光手段と、伝播光又は反射光を光検出手段へ伝播する第2の導光手段とを有することが好ましい。これによれば、発光手段及び光検出手段をプローブの外部に配置することができ、発光手段及び光検出手段の外形や配置位置などの面で制限を受けることがない。
【0015】
また、発光手段は、2以上の異なる波長の照射光を生成し、判別手段は、光検出手段からの電気信号から得られる分光情報に基づいて、魚類の雌雄を判別することが好ましい。これによれば、分光伝播情報又は分光反射情報に基づいて、すなわち2波長以上の伝播情報又は反射情報に基づいて雌雄判別を行うので、雌雄判別の精度をより高めることが可能となる。
【0016】
また、判別手段は、波長略550nm以下のスペクトルを解析することによって得られる分光情報に基づいて、魚類の雌雄を判別することを好ましい。魚類の雌雄では、波長略550nm以下において異なるスペクトル特性を有しているので、雌雄による分光情報の差をより正確に抽出でき、雌雄判別の精度をより高めることが可能となる。
【0017】
また、光検出手段は分光器であることが好ましい。これによれば、より詳細にスペクトルの情報を測定できるので、雌雄判別の精度をより高めることが可能となる。
【0018】
また、魚類の体内の一部は、卵巣部又は精巣部であり、判別手段は、卵巣部又は精巣部の分光情報に基づいて、魚類の雌雄を判別することが好ましい。魚類の卵巣と精巣とは、異なる分光透過特性及び分光反射特性を有しているので、すなわち波長ごとに異なる透過特性及び反射特性を有しているので、雌雄判別の精度をより高めることが可能となる。
【0019】
また、魚類の体内の一部は、魚類の生殖孔の入り口から続く組織の内部であり、判別手段は、組織の内部での分光情報に基づいて、魚類の雌雄を判別することが好ましい。魚類の生殖孔の入り口から続く組織では、雌雄によって異なる分光透過特性及び分光反射特性を有しているので、雌雄判別の精度をより高めることが可能となる。ここで述べている「生殖孔の入り口から続く組織の内部」は、雄の場合はブドウの房状に形成されている白子へ繋がる管状の組織の部分であり、雌の場合は卵巣へ繋がる管状の組織、または卵巣内の卵そのものを示している。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、魚類の雌雄判別の精度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。
[第1の実施形態]
【0022】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る魚類の雌雄判別装置を電気的に示す図である。図1に示す魚類の雌雄判別装置1は、発光部(発光手段)10と、光検出部(光検出手段)20と、報知部30と、制御部40とを備えている。
【0023】
発光部10は、制御部40からの指令に応じて、魚類の体内に照射するための照射光を生成する。例えば、後述するように、分光反射量に基づいて雌雄判別を行うために、発光部10は、500nmの緑の光と800nmの近赤外の光との2波長の照射光を出射する。発光部10は、ドライブ回路11と発光素子12とを有している。
【0024】
ドライブ回路11は、制御部40からの指令に応じて、発光素子12に駆動電流を供給する。例えば、単一の光検出器で何れの波長の光を検出したかを判別し易くするために、ドライブ回路11は、発光が重ならないように異なるタイミングで異なる波長のパルス電流を発光素子12に供給する(時分割点灯)。発光素子12は、ドライブ回路11からの駆動電流に応じて発光する。発光素子12には、LEDやLDなどを用いることができる。
【0025】
光検出部20は、魚類の体内の一部を散乱・吸収されながら伝播した伝播光又は魚類の体内の一部を反射した反射光を受けて、伝播光の光量又は反射光の光量に応じた値を有する電気信号を生成する。光検出部20は、光検出器21と、電流電圧変換回路22と、増幅・積分回路23と、A/D変換器24とを有している。
【0026】
光検出器21は、伝播光の光量又は反射光の光量に応じた値を有する光電流を生成する。光検出器21には、例えばPDを用いることができる。電流電圧変換回路22は、光検出器21からの光電流を電圧に変換する。増幅・積分回路23は、必要なS/N比となるように、電流電圧変換回路22からの電圧を増幅及び積分する。A/D変換器24は、増幅・積分回路23からのアナログ電圧をディジタル信号に変換して、制御部40へ出力する。
【0027】
報知部30は、制御部40からの指令に基づき、制御部40からの判別結果の報知を行う。例えば、報知部30は2色のLEDを有しており、判別結果に応じて何れか一方のLEDを点灯する。
【0028】
制御部40は、発光部10と、光検出部20と、報知部30とを統括的に制御する。制御部40は、演算を行うCPU(Central Processing Unit)と、CPUに各処理を実行させるためのプログラムや雌雄判別のための閾値等を記憶するROM(ReadOnly Memory)とを有している。このような構成により、制御部40は、判別手段41として機能する。
【0029】
判別手段41は、光検出部20からのディジタル信号から得られる分光情報に基づいて、すなわち、伝播光又は反射光が波長ごとに変換されたディジタル信号の値を用いて、雌雄判別を行う。例えば、判別手段41は、波長500nmの伝播光又は反射光に応じたディジタル信号の値と波長800nmの伝播光又は反射光に応じたディジタル信号の値との比率を求め、この比率と予め記憶された閾値とを比較して雌雄判別を行う。判別手段41は、この判別結果に応じて報知部30に指令を行う。
【0030】
ここで、魚類の体内の分光反射特性として、雌マダラの卵巣(以下、魚卵と称す)部と雄マダラの白子部との分光反射特性を例示する。図2は、雌マダラの魚卵部と雄マダラの白子部との分光反射率を測定した一例を示す図である。図2には、照射光として白色光を用い、雌マダラの魚卵部又は雄マダラの白子部からの反射光を分光器によって分光分析した実測データが示されている。図2では、曲線61が魚卵部の分光反射特性を示しており、曲線62が白子部の分光反射特性を示している。なお、これらの分光反射特性は、波長800nmの値で正規化されている。
【0031】
図2によれば、魚卵と白子との分光反射特性が異なっていることがわかる。具体的には、波長が短くなるにつれて、魚卵の光反射率が相対的に低下していることがわかる(曲線61参照)。一方、白子の光反射率は、波長が短くなっても大きく低下しないことがわかる(曲線62参照)。肉眼で観た場合、魚卵は薄目の赤色である。一方、白子は白色であるが、血管が通っている部分もあり、真っ白ではない。そのために、魚卵と白子との分光反射特性が異なるものと考えられる。
【0032】
これより、例えば、500nmの緑の光と800nmの近赤外の光との2波長の光反射量を測定し、これらの分光反射量の比率が雌雄で異なることを利用して、雌雄判別を行うことができることがわかる。本実施形態では、波長500nmの反射光又は伝播光の光量に応じたディジタル信号の値と波長800nmの反射光又は伝播光の光量に応じたディジタル信号の値との比率を求め、この比率と予め記憶された閾値とを比較して雌雄判別を行うものである。したがって、この閾値は、雌雄の分光反射量比率又は分光伝播量比率の中間の値に応じたディジタル信号の値に設定されればよく、予め実験によって求められればよい。
【0033】
次に、発光部10からの照射光を魚類の体内に導くと共に、伝播光又は反射光を光検出部20へ導くためのプローブについて説明する。図3は、本発明の第1の実施形態に係るプローブの物理的な構成を示す図である。図3(a),(b)には、それぞれ90度異なる角度から見たプローブが示されている。図3に示すプローブ50は、図4に示す生殖孔Aを介して魚類の体内に挿入される挿入部51と持手部52とを有する。
【0034】
挿入部51は、筒状をなしており、プローブ50の先端側の一端には半球状の蓋が形成されている。これにより、挿入部51が魚類の体内に挿入されたときに、内部に傷を付けることを防止することできる。挿入部51の材料としては、透明な樹脂、例えばアクリルやガラスなどを用いることができる。挿入部51の直径は、魚類の生殖孔Aに合わせて適宜設定されればよい。例えば、判別対象の魚がマダラである場合には、挿入部51の直径は7mm程度に設定されればよい。
【0035】
挿入部51の内孔には、発光素子12と光検出器21とが配置される。発光素子12と光検出器21とは離して配置され、これらの間には遮光部材53が設けられている。例えば、本願発明者らは、実験において、発光素子12と光検出器21とを15mm程度離して配置した。これにより、発光素子12から出射した光が、魚類の内部を伝搬せずに、直接光検出器21に入射することを防止することができる。遮光部材53の材料には、例えば黒色の吸光材が用いられる。
【0036】
遮光部材53は、挿入部51における光出射側の管壁の一部51aを欠き削って、そこへ充填されている。このように、発光素子12と光検出器21との間の管壁の一部51aの材料を光が伝播しにくい材料又は構造にすることによって、挿入部51の管壁を伝播して、発光素子12からの光が光検出器21に入射することを防止することができる。
【0037】
挿入部51の他端は持手部52に接続されて支持されている。持手部52は、筒状をなしており、内孔には遮光部材が充填されていることが好ましい。これによれば、持手部52の内孔から外来光が入射することを防止でき、計測精度の向上を図ることができる。更に、挿入部51の内孔における光検出器21より持手部52にも遮光部材が充填されていることが好ましい。これによれば、挿入部51の一部であって、魚類の体内に挿入されない部分から外来光が入射することを防止でき、計測精度の向上を図ることができる。
【0038】
なお、発光素子12と光検出器21とは、挿入部51と持手部52との内孔に配線された電気配線によって、それぞれ、外部のドライブ回路11、電流電圧変換回路22に接続されている。
【0039】
このプローブ50における挿入部51は、挿入部51の内部に配置された発光素子12及び光検出器21が、雌の場合には魚卵の中に埋もれるような場所に配置され、雄の場合には白子の間をぬうような場所に配置されるように、生殖孔Aから魚類の内部に挿入される。判別対象の魚がマダラである場合、生殖孔Aに対する挿入の深さ、すなわち測定位置の深さは5〜7cm程度であることが好ましい。プローブ50では、照射光は挿入方向に延びる軸に対して、90°の方向に出射され、同方向からの反射光を検出することとなる。
【0040】
次に、第1の実施形態の魚類の雌雄判別装置1の動作を説明すると共に、本発明の実施形態に係る魚類の雌雄判別方法について説明する。
【0041】
まず、プローブ50における挿入部51が生殖孔Aから魚類の内部に挿入される。このとき、挿入部51の内部に配置された発光素子12及び光検出器21が、雌の場合には魚卵の中に埋もれるような場所に配置され、雄の場合には白子の間をぬうような場所に配置される。
【0042】
次に、制御部40からの指令により、ドライブ回路11によって波長500nmと波長800nmとの駆動電流が順次に生成され、発光素子12によって波長500nmと波長800nmとの照射光が順次に魚卵又は白子に照射される。すると、これらの照射光は、魚卵又は白子で反射したり、散乱・吸収されながら伝搬したりして、反射光又は伝播光として光検出器21に入射する。
【0043】
その後、光検出器21によって伝播光の光量又は反射光の光量に応じた光電流が生成され、電流電圧変換回路22によって電圧に変換され、増幅・積分回路23によって増幅及び積分されて、A/D変換器24によってディジタル信号に変換される。
【0044】
その後、制御部40が判別手段として機能し、2波長のディジタル信号の比率が求められ、この比率と予め記憶された閾値とが比較されて、雌雄判別が行われる。例えば、マダラの場合、図2に示すように、波長500nmのディジタル信号の値をD5、波長800nmのディジタル信号の値をD8として、2波長のディジタル信号の比率D8/D5が閾値以上であれば雌と判断され、閾値未満であれば雄と判断される。
【0045】
次に、制御部40によって、この判別結果に応じて報知部30に指令が行われ、報知部30によって雌雄の判別結果が報知される。例えば、判別結果が雌の場合には赤色のLEDが点灯され、雄の場合には緑色のLEDが点灯される。
【0046】
以上説明したように、第1の実施形態の魚類の雌雄判別装置1及び本実施形態の魚類の雌雄判別方法によれば、魚類の体内における分光反射率又は分光透過率を計測するので、被測定対象の魚のサイズ、部位によるばらつき、光の照射の方法、検出器への光の入り方に依存することなく、安定した伝播光又は反射光の計測結果を得ることができる。また、例えばマダラなどのように生殖腺領域の外部に光を透過しにくい赤黒い膜を有していても、この膜に依存することなく伝播光又は反射光の計測が可能である。したがって、第1の実施形態の魚類の雌雄判別装置1及び本実施形態の魚類の雌雄判別方法によれば、雌雄判別の精度を高めることが可能となる。
【0047】
また、第1の実施形態の魚類の雌雄判別装置1及び本実施形態の魚類の雌雄判別方法によれば、分光伝播情報又は分光反射情報に基づいて、すなわち2波長の伝播情報又は反射情報に基づいて雌雄判別を行うので、雌雄判別の精度をより高めることが可能となる。
【0048】
また、第1の実施形態の魚類の雌雄判別装置1によれば、発光部10における発光素子12と光検出部20における光検出器21とが、プローブ50の内部に、すなわち同一パッケージに納められているので、発光部10及び光検出部20の物理的なサイズを小さくすることができ、装置の取り扱いが容易となる。
【0049】
また、第1の実施形態の魚類の雌雄判別装置1及び本実施形態の魚類の雌雄判別方法によれば、産卵期を外れた魚類においては卵巣又は精巣が通常と異なる分光特性を示すので、雌雄判別だけでなく、体内に卵を有しているか否か、白子を有しているか否かの判別をも行うことが可能である。
【0050】
故に、第1の実施形態の魚類の雌雄判別装置1及び本実施形態の魚類の雌雄判別方法によれば、雌雄判別後に雌雄何れかのみを選択的に流通させることができるようになり、流通コストの削減が可能となる。また、水揚げされた魚に付加価値をつけることができるようになり、水産物のブランド化が図られる。
[第2の実施形態]
【0051】
次に、本発明の第2の実施形態に係る魚類の雌雄判別装置1Aについて説明する。魚類の雌雄判別装置1Aの電気的な構成は、図1に示す魚類の雌雄判別装置1と同一である。魚類の雌雄判別装置1Aは、魚類の雌雄判別装置1において、図3に示すプローブ50に代えてプローブ50Aを備えている点で第1の実施形態と異なっている。
【0052】
図5は、本発明の第2の実施形態に係るプローブの物理的な構成を示す図である。図5に示すプローブ50Aは、挿入部51に代えて挿入部51Aを備えており、更に光ファイバ(第1及び第2の導光手段)55,56を備えている構成でプローブ50と異なっている。
【0053】
挿入部51Aは、プローブ50Aの先端側の一端に平板状の蓋が形成されている点で挿入部51と異なっている。これにより、プローブ50Aの先端側から照射される照射光及びプローブ50Aの先端側に受ける伝播光や反射光の屈折や干渉などを防止することができる。また、挿入部51Aのエッジ部分は、面取りの処理が施されていることが好ましい。これにより、挿入部51Aが魚類の体内に挿入されたときに、内部に傷を付けることを防止することできる。挿入部51A及び持手部52の内孔には、光ファイバ55,56が配置されている。
【0054】
光ファイバ55は、外部に配置された発光素子12からの照射光を、挿入部51Aの一端を介して魚類の体内へ導く。光ファイバ56は、挿入部51Aの一端を介して入射する伝播光又は反射光を外部の光検出器21へ導く。例えば、本願発明者らは、実験において、直径1mm程度の光ファイバ55,56を用いている。
【0055】
プローブ50Aでは、照射光は挿入方向(棒状のプローブの前方方向)に出射され、同方向からの伝播光又は反射光を検出することとなる。
【0056】
なお、プローブ50Aでは、プローブ50の遮光部材53と同様に、光ファイバ55から出射した光が魚類の内部を伝搬することなく、光ファイバ56に直接入射することを防ぐ対策を施してあることが好ましい。
【0057】
この第2の実施形態の魚類の雌雄判別装置1Aでも、第1の実施形態の魚類の雌雄判別装置1と同様の利点を得ることができる。また、第2の実施形態の魚類の雌雄判別装置1Aによれば、発光部10における発光素子12と光検出部20における光検出器21とをプローブ50の外部に配置することができ、これらの発光素子12及び光検出器21の外形や配置位置などの面で制限を受けることがない。
【0058】
なお、本発明は上記した本実施形態に限定されることなく種々の変形が可能である。
【0059】
本実施形態では、2波長の照射光を用いて分光情報を測定したが、3波長以上の照射光を用いて分光反射情報又は分光伝播情報を測定して雌雄判別に用いてもよい。また、白色光源を用いて分光反射特性又は分光伝播特性を測定し、スペクトルの形や多数スペクトル間の成分の比率から雌雄判別を行ってもよい。白色光源では複数の波長が同時に存在するので、上記した時分割点灯手法を用いることができない。したがって、発光部10に白色光源を用いた場合には、光検出部20に分光器を用いて分光し、スペクトル情報を取得する。白色光源としては、ハロゲンランプ、タングステンランプなどのランプ光源や、白色LEDなどを使用することができる。
【0060】
また、本実施形態では、1つの発光素子12を用いて2波長の照射光を生成したが、照射光の波長ごとに異なる発光素子を複数備えていてもよい。図2によれば、波長550nm付近よりも短波長の領域において魚卵の光吸収量が大きくなっており、この波長550nm付近を挟んで十分な波長差を有する複数の波長の分光反射量又は分光吸収量を測定し、これらの分光反射量又は分光吸収量に基づいて、雌雄判別を行ってもよい。
【0061】
ここで、550nm以下の波長に着目して解析した結果について述べる。本実験では、後述する同軸構造の光ファイバを備えるプローブ、すなわち、図11に示すように、照射用の光ファイバと受光用のファイバとを束ねた構造のプローブを用い、このプローブをマダラの生殖孔内約50mmの深さまで挿入して反射スペクトルを測定した。すなわち、マダラの生殖孔の入り口から続く組織の内部の分光反射量を測定した。スペクトル計測を行ったマダラのサンプル数は53匹であった。なお、光源としては、十分広い波長帯域を有する光源を用いた。
【0062】
図8に、雄マダラの生殖孔の管内部の分光反射率を測定した一例を示し、図9に、雌マダラの生殖孔の管内部の分光反射率を測定した一例を示す。図8及び図9によれば、波長550nm以下では、雄マダラの生殖孔の管内部の分光反射率と雌マダラの生殖孔の管内部の分光反射率とに差異が生じていることがわかる。これより、魚類の生殖孔の入り口から続く組織の内部の分光反射量又は分光吸収量を測定し、これらの分光反射量又は分光吸収量に基づいて、雌雄判別を行ってもよい。また、図8及び図9によれば、波長550nm以下のスペクトルを解析することによって得られる分光反射量又は分光吸収量に基づいて、雌雄判別を行うことが好ましい。
【0063】
また、図8及び図9によれば、波長500nmから波長550nmの範囲のスペクトル特性において、雄マダラではマイナスの勾配を有し、雌マダラではプラスの勾配を有することがわかる。これより、波長500nmから波長550nmの範囲のスペクトル特性の勾配を評価の指標として、雌雄判別を行ってもよい。
【0064】
図10に、図8及び図9における波長500nmから波長550nmの範囲のスペクトル特性の勾配を示す。図10には、53匹のマダラの測定結果が示されている。図10において、点線101に示す値にしきい値を設定して雌雄判別を行った場合に、88%の精度で雌雄判別を行うことができた。
【0065】
本実施形態では、制御部40は雌雄判別のための閾値として予め記憶された固定値を用いたが、制御部は、学習機能及びデータベース機能を備えて判別処理で測定した分光情報を記憶し、例えばこれらの分光情報の平均を求めて閾値を調整してもよい。これによれば、判定精度を更に高めることができる。
【0066】
また、本実施形態では、閾値を1つ設定して雌雄判別を行ったが、これに限定されない。2つの閾値を設定し、1つ目のグループは雄、2つ目のグループは雌、3つ目のグループは雌雄判別が困難なものと分類しても良い。雌雄判別の目的は、判別を必要とする者に確かな結果を与えることであるので、雌雄判別が困難なものについては判別結果から除外して、異なる流通ルートに回したり、職人の手によって正確な判別を行うようにしてもよい。
【0067】
また、本実施形態では、波長500nmから波長550nmの範囲のスペクトルに着目して勾配を評価の指標としたが、これに限定されない。多成分解析などの統計的手法を用いて、より高い精度で雌雄判別を行うことも可能である。
【0068】
なお、本実施形態において測定したスペクトル特性の縦軸は絶対値である必要はない。例えば、プローブの透過率や光源の分光スペクトルの校正により絶対値を示す演算処理が行われていなくても、計測時に再現性が得られるようになっていれば、用いている計測系それぞれに適した閾値を設定して雌雄判別処理を行うことができる。
【0069】
また、本実施形態では、光検出器21と、電流電圧変換回路22と、増幅・積分回路23と、A/D変換器24とを有する光検出部20を例示したが、光検出部は本実施形態に限られるものではない。例えば、光検出部は、電流電圧変換回路22及び増幅・積分回路23に代えて、光検出器の出力電流を直接積分することにより、電荷量電圧変換回路を用いてもよい。また、増幅・積分回路23は、必要なS/N比を得るために設けたものであるので、必須の構成ではなく、必要に応じて設けられればよい。
【0070】
また、本実施形態では、報知部30は2色のLEDを用いた視覚による報知を行ったが、報知部30による報知手法は本実施形態に限定されるものではない。例えば、報知部30は、高低ブザー音を用いた聴覚による報知を行ってもよい。
【0071】
また、第1の実施形態では、プローブ50は1つの光検出器21を備えていたが、プローブ50は、生殖孔Aに対する異なる挿入の深さにおける情報、すなわち異なる深さの測定位置における情報を測定できるように、挿入部51における挿入方向の異なる複数の位置にそれぞれ複数の光検出器を配置して、これらの検出光量または光量比の情報を元に魚類の内部情報をより詳細に測定してもよい。
【0072】
また、第2の実施形態では、プローブ50Aは、照射用の光ファイバ55と受光用の光ファイバ56とを別々に備えたが、照射用の光ファイバと受光用の光ファイバとを同軸構造とした1本の光ファイバを備えて操作できる構造にしても良い。これにより、より簡易的なシステムを構築することができる。
【0073】
図11に、照射用の光ファイバと受光用の光ファイバとを同軸構造とした1本の光ファイバの構造の一例を示す。図11に示すように、取扱いが容易な軟らかさが得られる太さの光ファイバ(例えば50μm)を複数本束ね、中心付近の適当な本数を照射用の光ファイバ111とし、その周囲の残りを受光用の光ファイバ112として、1本の光ファイバ113を構成しても良い。なお、照射用の光ファイバ111は、必ずしも密集している必要はなく、発光素子12からの照射光を魚類の体内に均一に照射できるように、光ファイバ113の径内に均一に分布していても良い。
【0074】
また、報知部30や制御部40の一部又は全部を、発光部10及び光検出部20と分離し、有線又は無線により通信してもよい。この構成によれば、プローブ50,50Aが軽量となり、プローブ50,50Aの取り回しが容易となる。
【0075】
また、本実施形態では、プローブ50,50Aの持手部52の形状は棒状であるが、魚類の体内への挿入の操作をし易くするために、持手部52の形状はピストル型の形状であってもよい。
【0076】
また、本実施形態では、プローブ50,50Aの挿入部50,51Aでは、それぞれ、プローブの先端側の一端が半球状、平板状をなしていたが、挿入部50,51Aの先端形状は本実施形態に限られるものではない。例えば、プローブ50Aの挿入部51Aの先端には、挿入部の内孔に沿う長手方向に対して角度45°のカットが施されて、長手方向に対して角度45°の蓋が形成されていてもよい。これによれば、照射光は挿入方向に延びる軸に対して90°の方向に出射され、同方向からの伝播光又は反射光を検出することとなる。
【0077】
また、本実施形態の魚類の雌雄判別装置は、雌雄判別を自動化する構成を備えていてもよい。図6は、本実施形態の魚類の雌雄判別装置による雌雄判別を自動化するための構成を示す図である。図6に示すように、ベルトコンベア71と、TVカメラ72と、制御用PC73と、プローブ用アーム74とによって、雌雄判別を自動化することが可能である。
【0078】
まず、判別対象の魚をベルトコンベア71で適当な速度で移動させる。次に、判別対象の魚の生殖孔の位置をTVカメラ72で測定し、制御用PC73によって画像処理を行って生殖孔の位置を数値化する。この数値化した情報を基に、プローブ用アーム74によって生殖孔に所定の角度かつ所定の深さまでプローブ50を差し込み、上記した雌雄判別を行う。その後、ベルトコンベア71によって魚が送られる先に判別結果を伝え、判別結果に従って雌雄別々の場所に魚を移動させることが好ましい。
【0079】
なお、ベルトコンベア71に代えて、図7に示すように、魚を固定するための溝を有するV字状の形状をなすベルトコンベア71Aを用いることが好ましい。例えば、図7における上方にTVカメラ72、プローブ用アーム74及びプローブ50が配置され、ベルトコンベア71AにおけるV字状の溝には腹を上として魚が配置される。これによれば、魚を固定することができるので、例えば差込み深さなどのプローブ50の差込み状態を均一化することができる。なお、下方にTVカメラ72、プローブ用アーム74及びプローブ50が配置され、ベルトコンベア71AにおけるV字状の溝には腹を下として魚が配置されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る魚類の雌雄判別装置を電気的に示す図である。
【図2】雌マダラの魚卵部と雄マダラの白子部との分光反射率の一例を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係るプローブの物理的な構成を示す図である。
【図4】図3に示すプローブの挿入箇所を示す図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係るプローブの物理的な構成を示す図である。
【図6】本実施形態の魚類の雌雄判別装置による雌雄判別を自動化するための構成を示す図である。
【図7】図6に示すベルトコンベアの変形例を示す図である。
【図8】雄マダラの生殖孔の管内部の分光反射率を測定した一例を示す図である。
【図9】雌マダラの生殖孔の管内部の分光反射率を測定した一例を示す図である。
【図10】図8及び図9における波長500nmから波長550nmの範囲のスペクトル特性の勾配を示す図である。
【図11】照射用の光ファイバと受光用の光ファイバとを同軸構造とした1本の光ファイバの構造の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0081】
1,1A…魚類の雌雄判別装置、10…発光部(発光手段)、11…ドライブ回路、12…発光素子、20…光検出部(光検出手段)、21…光検出器、22…電流電圧変換回路、23…増幅・積分回路、24…A/D変換器、30…報知部、40…制御部、41…判別手段、50,50A…プローブ、51,51A…挿入部、52…持手部、53…遮光部材、55,56…光ファイバ(第1及び第2の導光手段)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚類の体内に照射するための照射光を生成する発光手段と、
前記魚類の体内の一部を伝播した伝播光又は前記魚類の体内の一部を反射した反射光を受け、該伝播光の光量又は該反射光の光量に応じた値を有する電気信号を出力する光検出手段と、
前記魚類の体内に挿入され、前記照射光を前記魚類の体内へ導くと共に、前記伝播光又は前記反射光を前記光検出手段へ導くプローブと、
前記光検出手段からの電気信号の値に基づいて、前記魚類の雌雄を判別する判別手段と、
を備えることを特徴とする、魚類の雌雄判別装置。
【請求項2】
前記発光手段と前記光検出手段とは、前記プローブの内部に配置され、
前記プローブは、前記発光手段と前記光検出手段とが前記魚類の体内に配置されるように、前記魚類の体内に挿入される、
ことを特徴とする、請求項1に記載の魚類の雌雄判別装置。
【請求項3】
前記プローブは、前記発光手段からの前記照射光を伝播する第1の導光手段と、前記伝播光又は前記反射光を前記光検出手段へ伝播する第2の導光手段とを有することを特徴とする、請求項1に記載の魚類の雌雄判別装置。
【請求項4】
前記発光手段は、2以上の異なる波長の前記照射光を生成し、
前記判別手段は、前記光検出手段からの電気信号から得られる分光情報に基づいて、前記魚類の雌雄を判別する、
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の魚類の雌雄判別装置。
【請求項5】
前記判別手段は、波長略550nm以下のスペクトルを解析することによって得られる前記分光情報に基づいて、前記魚類の雌雄を判別することを特徴とする、請求項4に記載の魚類の雌雄判別装置。
【請求項6】
前記光検出手段は、分光器であることを特徴とする、請求項4又は5に記載の魚類の雌雄判別装置。
【請求項7】
前記魚類の体内の一部は、卵巣部又は精巣部であり、
前記判別手段は、前記卵巣部又は前記精巣部の前記分光情報に基づいて、前記魚類の雌雄を判別する、
ことを特徴とする、請求項6に記載の魚類の雌雄判別装置。
【請求項8】
前記魚類の体内の一部は、前記魚類の生殖孔の入り口から続く組織の内部であり、
前記判別手段は、前記組織の内部での前記分光情報に基づいて、前記魚類の雌雄を判別する、
ことを特徴とする、請求項6に記載の魚類の雌雄判別装置。
【請求項9】
魚類の体内にプローブを挿入し、発光手段からの照射光を該魚類の体内へ導くと共に、該魚類の体内の一部を伝播した伝播光又は該魚類の体内の一部を反射した反射光を光検出手段へ導き、
前記伝播光の光量又は前記反射光の光量に応じた値を有する電気信号に基づいて、前記魚類の雌雄を判別する、
ことを特徴とする、魚類の雌雄判別方法。
【請求項1】
魚類の体内に照射するための照射光を生成する発光手段と、
前記魚類の体内の一部を伝播した伝播光又は前記魚類の体内の一部を反射した反射光を受け、該伝播光の光量又は該反射光の光量に応じた値を有する電気信号を出力する光検出手段と、
前記魚類の体内に挿入され、前記照射光を前記魚類の体内へ導くと共に、前記伝播光又は前記反射光を前記光検出手段へ導くプローブと、
前記光検出手段からの電気信号の値に基づいて、前記魚類の雌雄を判別する判別手段と、
を備えることを特徴とする、魚類の雌雄判別装置。
【請求項2】
前記発光手段と前記光検出手段とは、前記プローブの内部に配置され、
前記プローブは、前記発光手段と前記光検出手段とが前記魚類の体内に配置されるように、前記魚類の体内に挿入される、
ことを特徴とする、請求項1に記載の魚類の雌雄判別装置。
【請求項3】
前記プローブは、前記発光手段からの前記照射光を伝播する第1の導光手段と、前記伝播光又は前記反射光を前記光検出手段へ伝播する第2の導光手段とを有することを特徴とする、請求項1に記載の魚類の雌雄判別装置。
【請求項4】
前記発光手段は、2以上の異なる波長の前記照射光を生成し、
前記判別手段は、前記光検出手段からの電気信号から得られる分光情報に基づいて、前記魚類の雌雄を判別する、
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の魚類の雌雄判別装置。
【請求項5】
前記判別手段は、波長略550nm以下のスペクトルを解析することによって得られる前記分光情報に基づいて、前記魚類の雌雄を判別することを特徴とする、請求項4に記載の魚類の雌雄判別装置。
【請求項6】
前記光検出手段は、分光器であることを特徴とする、請求項4又は5に記載の魚類の雌雄判別装置。
【請求項7】
前記魚類の体内の一部は、卵巣部又は精巣部であり、
前記判別手段は、前記卵巣部又は前記精巣部の前記分光情報に基づいて、前記魚類の雌雄を判別する、
ことを特徴とする、請求項6に記載の魚類の雌雄判別装置。
【請求項8】
前記魚類の体内の一部は、前記魚類の生殖孔の入り口から続く組織の内部であり、
前記判別手段は、前記組織の内部での前記分光情報に基づいて、前記魚類の雌雄を判別する、
ことを特徴とする、請求項6に記載の魚類の雌雄判別装置。
【請求項9】
魚類の体内にプローブを挿入し、発光手段からの照射光を該魚類の体内へ導くと共に、該魚類の体内の一部を伝播した伝播光又は該魚類の体内の一部を反射した反射光を光検出手段へ導き、
前記伝播光の光量又は前記反射光の光量に応じた値を有する電気信号に基づいて、前記魚類の雌雄を判別する、
ことを特徴とする、魚類の雌雄判別方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−22277(P2009−22277A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−160515(P2008−160515)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【出願人】(503021630)
【出願人】(507206251)株式会社水産生物研究室 (1)
【出願人】(501461874)株式会社日本作品研究所 (2)
【出願人】(507206712)
【出願人】(507206723)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【出願人】(503021630)
【出願人】(507206251)株式会社水産生物研究室 (1)
【出願人】(501461874)株式会社日本作品研究所 (2)
【出願人】(507206712)
【出願人】(507206723)
【Fターム(参考)】
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