説明

鳥インフルエンザウイルスに対するキメラワクチン抗原

本発明は、鳥インフルエンザウイルス(AIV)に対するキメラワクチン抗原について述べる。前記ワクチン抗原は、細胞免疫系だけでなく、体液性免疫系も刺激するタンパク質分子に結合したウイルスサブユニットを基にする。本キメラ抗原は、本発明の基盤を構成するキメラ分子の正確な三次元的折りたたみ(three−dimensional folding)を保証する発現系において生産することができる。前記キメラ抗原を含むワクチン組成物は、高い赤血球凝集素阻害抗体価を刺激する、鳥類及びワクチン接種された哺乳動物の両方に強力で早期の免疫反応、及びウイルス抗原に対する強力な特異的細胞反応を誘発する。キメラ抗原、及び得られたワクチン組成物も、予防的使用のためのワクチンとして、ヒト及び動物衛生の分野に適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトの医学及び獣医学の分野の、特に、鳥類及び哺乳動物の両方において、鳥インフルエンザウイルスに対する強力で早期の免疫反応を発生させる体液性免疫系及び細胞免疫系の両方を高める共刺激分子と結合した、鳥インフルエンザウイルスのウイルスサブユニットを含む新規なキメラ抗原に関する。
【背景技術】
【0002】
鳥インフルエンザ(AI)は、世界的に分布している呼吸器疾患である。接触感染性が高い本疾患は、ニワトリ、シチメンチョウ、アヒル、ガチョウ、ホロホロチョウだけでなく、多種多様な家禽及び野鳥に影響を及ぼす可能性がある。すべての鳥類の種が、感染を起こしやすく、渡りをする水鳥種が、本疾患を引き起こすウイルスの主要な自然宿主である可能性がある。
【0003】
家禽類における鳥インフルエンザウイルス感染は、その病原性レベルが高いか低いかによって区別される2つの疾患型を引き起こす。「病原性の低い」形態は、見過ごされる可能性があり、一般に、軽度の症状だけを生じさせる(硬い羽、産卵の減少など)。それにもかかわらず、病原性の高い形態は、家禽内でより急速に伝播する。この形態は、48時間の期間に、90〜100%までに達する可能性のある死亡率を有する、いくつかの内部器官を攻撃する疾患を引き起こす可能性がある。
【0004】
鳥インフルエンザの原因であるウイルスは、オートミクソビリダエ(Ortomixoviridae)科に属する。インフルエンザウイルスは、その抗原性の差異に基づいて、A、B及びC型に分けられる。その遺伝物質は、セグメントに分かれた負極性のリボ核酸(RNA)である。インフルエンザウイルスA及びBは、8つのセグメントを持ち、一方、インフルエンザウイルスCは、7つのセグメントのみ持つ。ウイルスゲノムがセグメントに分かれるという事実は、原型とは異なる特性を有するウイルスを生み出す遺伝的組換えを支持する(Capua;Alexander(2004)「鳥インフルエンザ:最近の発生(Avian Influenza:Recent Developments)」、Avian Pathol.33:393−404)。
【0005】
ウイルスエンベロープは、2つの主要な糖タンパク質の血球凝集素(HA)及びノイラミニダーゼ(NA)を含む。HAタンパク質は、細胞受容体への結合タンパク質であり、ウイルスの標的細胞への侵入のために重要な、ウイルスエンベロープと細胞膜との結合を媒介する。本タンパク質は、中和抗体の反応を誘発する。HAタンパク質上の突然変異は、伸展のより大きい又はより小さい抗原変異株を生じさせる。NAタンパク質は、細胞からのウイルスの放出を助けて宿主細胞のシアル酸を切断し、粘液を分解し、ウイルスの組織へのアクセスを容易にする。また、鳥インフルエンザウイルスのNAも、抗原変化を受ける。
【0006】
通常、鳥インフルエンザのウイルスは、家禽及びブタ以外の他の種に感染しない。鳥インフルエンザウイルスによるヒト感染症の最初の症例は、1997年に香港で記録され、このとき、H5N1株が18名に対して急性呼吸疾患を引き起こし、このうち6名が死亡した。これら個々の感染は、同一の菌株により発生した香港におけるトリ集団に対する病原性の高い鳥インフルエンザの流行と同時に起きた。2003年2月、香港において、鳥インフルエンザH5N1の集団発生により、最近、南中国を旅行したある家族のうちの1名が死亡したとき、新しい警戒が発令された。家族の別の小児がこの旅行中に死亡したが、この男児の死因は不明である。
【0007】
最近、AIの別の2種のウイルス株がヒトにおいて疾患を引き起こしている。1999年に香港において、小児でAI H9N2の軽症2例が出現し、2003年12月中旬に別の症例が報告された。一般に、家禽においてH9N2サブタイプは、病原性は高くない。それにもかかわらず、病原性の高いH9N2鳥インフルエンザウイルスは、2003年2月にオランダにおいて始まり、2カ月後に獣医師1名の死亡、及び別の83名では軽度疾患を引き起こした。
【0008】
1997年から現在まで、ヒトに感染可能な鳥インフルエンザの集団発生が、より頻繁に発生しており、ウイルスがアジア及びヨーロッパから多数の国を通して広がっている。そのときまで、H5N1株は、ヒトにおけるインフルエンザの主要な原因因子であった。2005年10月までに、H5N1に感染した200名が報告されており、死亡率は約55%であった。アジア及びヨーロッパの13の国が影響を受け、1億2,000万羽を超えるトリが死亡又は隔離されている。
【0009】
AIの集団発生の各々は、通常、億単位のトリの屠殺及び衛生管理規則の採用に至り、このことは概して大きな経済的損失を意味する。家禽における鳥インフルエンザの集団発生中に、感染したトリ、又はそのようなトリの分泌物及び排泄物に汚染した表面に接触したヒトが接触感染するリスクが存在する。トリ間の感染の伝播は、ヒトの直接感染の機会を増加させる。より多くのヒトが感染すれば、時間と共にリスクも増加し、ヒトが鳥インフルエンザ株及びヒトインフルエンザ株に感染すれば、新規なサブタイプの出現の「混合レシピエント」の役目を果たす可能性がある。ヒトインフルエンザウイルスの十分な遺伝子を有するこの新しいサブタイプは、ヒトからヒトへ容易に感染する可能性があり、1918年に生じ、2,500万人から5,000万人が死亡した「スペイン風邪」として知られる汎流行を生じさせたH1N1の変異株のような、完全に伝播性の汎流行株に形質転換することになる。
【0010】
最優先課題は、家禽集団間の汎流行のさらなる蔓延を食い止めることである。この戦略は、ウイルスへのヒトの曝露の機会を減少させるために有効である。現在流行しているインフルエンザウイルスの菌株に対して有効なワクチンを、感染したトリへの曝露のリスクの高いヒトへのワクチン接種に使用することによって、鳥インフルエンザ株及びヒトインフルエンザ株によるヒト感染を生じる可能性を減少させることが可能であり、このようにして、両方のウイルス株の間の遺伝子交換が生じるリスクを減少させる。
【0011】
今日、ヒトだけでなく、トリにおいても本疾患を予防するための、インフルエンザに対するワクチンの生産の手順は、ニワトリの胚でのウイルス増殖に基づいている。続いて、この方法によって生産されたウイルスを、化学的に不活性化し、半精製する。それにもかかわらず、そのような技術では、起こり得る汎流行の危機に対応することはできない。この手順を通して、ワクチンの開発及び生産は、数カ月かかる。
【0012】
潜在的菌株の同定後、適切な増殖特性を得るために、増殖性の高い菌株による吸収が必要である。さらに、最近の動物間流行病の原因であるH5株が、ヒトの数例の感染例と関連し、ワクチン生産で使用されるニワトリ胚で致死性となることはより重要である。これらワクチンの生産は、病原株の操作をさらに意味する。このため、結果としてのプロセスの増強及び危機の場合におけるスケールアップを実施するための困難により、安全条件BL3の下での作業が必要である。
【0013】
卵に対して急性アレルギーのヒトが、インフルエンザに対するワクチン製剤の残留する卵タンパク質により、過敏症の即時反応を起こす可能性があることが実証されている。1976年、ブタインフルエンザに対するワクチンが、ギラン−バレー症候群の頻度の増加に結びついた(Schonbergerら、(1979)「米国の全米免疫接種プログラムにおけるワクチン接種後の症候群(Syndrome following vaccination in the National Immunization Program,United States)」、1977−1977,Am.J.Epidemio,110−105−23)。現在まで、他の菌株からの以降のワクチン調製物による本疾患の発生増加は観察されていない。
【0014】
培養細胞に基づくウイルスの生産は、ニワトリの胚における生産システムと交換するための魅力的な代替法として登場した。そのような戦略は、培養細胞におけるインフルエンザウイルスの生産とそれに続くウイルスの精製ステップを意味している。この手順の利点として、1)培養細胞は操作が容易で、短期間で拡大する、2)これらのシステムで生産されたインフルエンザワクチンは、第I相及び第II相臨床試験で評価されており、安全で、少なくともニワトリの胚で生産されたワクチンと同等に有効であることが実証されている(Brandsら、(1999)「Influvac:インフルエンザワクチンをベースとした安全なマディンダービーイヌ腎細胞培養(Influvac:a safe Madin Darby Canine Kidney(MDCK)cell culture based on influenza vaccine)」Dev Biol Stand.98:93−100;Perchesonら、(1999)「哺乳動物の細胞又は発育鶏卵において増殖された新規な分離インフルエンザBウイルスワクチンの反応原性及び免疫原性について研究した第I相ランダム化対照臨床試験(A Phase I,randomized controlled clinical trial to study the reactogenicity and immunogenicity of a new split influenza B virus vaccines grown in mammalian cells or embryonated chicken eggs)」、J.Virol.72:4472−7)。それにもかかわらず、本戦略は、依然として高収率を可能にする再吸収されたウイルスを必要とする限界を持つ。また、本プロセスは、ウイルス遺伝子に細胞系の特定の突然変異を導入する可能性があり、これらは原則として、結果として潜在的にワクチンの効果を低下させるHAタンパク質の構造的及び抗原的変化を特徴とする変異株の選択につながる可能性がある(Meiklejohnら、(1987)「インフルエンザウイルスワクチンの抗原性の変動及び有効性(Antigen drift and efficacy of influenza virus vaccines)」、J Infect Dis.138:618−24;Robertsonら、(1985)「卵での増殖に対するインフルエンザBウイルスの適応に伴う血球凝集素の変化(Alterations in the hemagglutinin associated with adaptation of influenza B virus to growth in eggs)」、Virology 143:166−74;Schildら、(1983)「インフルエンザウイルス抗原変異株の宿主−細胞選択に関するエビデンス(Evidence for host−cell selection of influenza virus antigenic variants)」、Nature 303:706−9)。さらなる限界には以下が含まれる、1)病原性ウイルスの生産及び操作は、高能力の施設を要求する;2)通常は、細胞培養に基づく生産システムは、費用がかかり、技術的に厳しい。
【0015】
インフルエンザウイルスに対する保護は、異なる15のサブタイプが存在するHAタンパク質、またより小さな尺度では記録された9つのサブタイプが存在するNAタンパク質に対する免疫反応の結果である(Suarez,Schultz(2000)「鳥インフルエンザウイルスの免疫学:概説(Immunology of avian influenza virus:a review)」、Dev.Comp.Immunol.24:269−283;Swayne,Halvorson,(2003)、「インフルエンザ(Influenza)」、Saif,Y.M.,Barnes,H.J.,Fadly,A.M.,Glisson,J.R.,McDougald,L.R.,Swayne,D.E編、「家禽の疾患(Diseases of Poultry)」、第11版Iowa State University Press,Ames,IA,135−160ページ)。核タンパク質又は基質タンパク質などの内部タンパク質に対する免疫反応は、本分野に対する保護を保証するには十分ではない。実際に、保護は、ワクチンに含まれるHAに特有のサブタイプによって提供される。
【0016】
鳥インフルエンザに対するワクチンは、生ウイルスベクターへのHA遺伝子の挿入及びその後の家禽免疫接種におけるこれら組換えベクターの使用を通して生産されている。生組換えウイルスベクターワクチンの使用は、以下のようないくつかの利点を持つ、1)これらは、体液だけでなく、細胞の反応を誘発することが可能な生ワクチンである、2)これらは、小型のニワトリにおいて投与し、早期の保護を誘発することができる。例えば、家禽ポックスウイルスをベースとした組換え体を、1日齢のトリに投与し、1週間後にマレック病に対する早期の防御を誘発させることができる(Arriolaら、(1999)Experiencias de campo en el uso de vacunos contra influenza aviar.In;Proceedings Curso de Enfermedades Respiratorias de las Aves,Asociacion Nacional de Especialistas en Ciencias Avicolas:3−13)。この種のワクチンは、ワクチン接種がされたトリと感染したトリの区別を容易にする。なぜならば、鳥インフルエンザウイルスに共通の核タンパク質又は基質のような抗原に対する抗体を誘発しないためである。それにもかかわらず、これらのワクチンは、十分に複製されない可能性があるという欠点を有し、これによりそのワクチン機能を中和することが可能である、組換えウイルスベクターに対する抗体をすでに有するトリにおいて、不完全な防御免疫を誘発する(Lyschowら、(2001)。「血球凝集素(H5)遺伝子を発現している伝染性喉頭気管炎ウイルス組換え体を用いた生ウイルスワクチン接種による致死性A鳥インフルエンザウイルス感染症からのニワトリの保護(Protection of chickens from lethal A avian influenza virus infection by live−virus vaccination with infectious laryngotracheitis virus recombinants expressing the hemagglutinin(H5)gene)」、Vaccine 19:4249−4259;Swayneら、(2000)「鶏痘ワクチンで予備免疫したニワトリにおけるインフルエンザに対する一貫した保護を提供するための鳥インフルエンザ血球凝集素遺伝子を含む組換え鶏痘ウイルスワクチンの失敗(Failure of a recombinant fowl pox virus vaccine containing an avian influenza hemagglutinin gene to provide consistent protection against influenza in chicken pre immunized with a fowl pox vaccine)」、Avian Dis.44:132−137)。組換えウイルスベクターを若齢のニワトリで使用すると、母体由来抗体の効果は、使用されたウイルスベクターの種類及び移行した母体由来抗体のレベルによって変動する可能性がある。生組換えベクター使用の別の限界は、宿主の範囲が制限され(例えば、伝染性喉頭気管炎は、ガチョウでは複製されない)、結果的には、これらのワクチンが、有効性が実証されている種に制限されるということである。
【0017】
インフルエンザに対する有効なワクチン候補の出現は、起こり得る汎流行時に、迅速な反応を保証する著明な変化を必要とする。主に組換えHAの使用に基づくサブユニットワクチンの使用は、この戦略が病原性ウイルスの操作を含まず、結果として、この生産が特別な安全条件を必要としないので、魅力的な代替となる。HAに対する抗体は、本ウイルスを中和することが可能で、インフルエンザによる感染に対する自然免疫の基盤を成す(Clements 1992)「ワクチンにおける『インフルエンザワクチン』:免疫学的問題に対する新しいアプローチ(“Influenza Vaccines”,in Vaccines:New Approaches to Immunological Problems)」Ronald W.Ellis編、129−150ページ(Butterworth−Heinemann,Stoneham,MA)。HAは、斜方晶形態のウイルスエンベロープに存在する。各モノマーは、1つのジスルフィド架橋によって結合したHA1及びHA2の2つの鎖として存在する。HAは、約85kDaの分子量を有し、その後HA1及びHA2に分かれるグリコシル化前駆体ポリペプチドとして宿主細胞において産生される。HA分子の抗原変異株は、インフルエンザの集団発生及び免疫接種後の感染の制限的制御に関与する。
【0018】
現在まで、インフルエンザに対するサブユニットの潜在的ワクチンとして、組換えHAの生産がバキュロウイルス発現系により実施される方法が記載されている(Smithら、US5858368;Smithら、US6245532)。昆虫の細胞で生産されるHAが、ヒト(第I相及び第II相の臨床試験において)及び家禽において評価され、両方の場合において、この安全性が実証されている。しかし、この種のワクチンは、主に、誘発することが可能な中和抗体の力価が弱いために、あまり良好な結果は得られなかった。ワクチン抗原として、HA単独では、赤血球凝集反応に関する抗体阻害物質の低い力価、及び細胞反応の低下に反映する抗原性が非常に低い。抗原性が低いため、本抗原によって有効に免疫反応を誘発するためには、高用量の投与、及びしばしば複数回の再投与が必要である。これらの不便性のため、及び鳥インフルエンザに対する有効なワクチンの需要に応えるために、非常に大量の生産が、培養細胞に基づくあらゆる生産システムに関連するその後の費用と共に必要とされる。これらの限界に加えて、計画実施の複雑さ及び1単位で免疫化される動物数が何万にも達する可能性のある家禽での複数用量の投与に関連する追加費用も念頭に置く必要がある。
【0019】
したがって、鳥インフルエンザの予防における重要な問題は、ワクチン接種後に強力で早期の免疫反応を産生することが可能で、同時に、費用/良好な有益性の関係を可能にするサブユニットワクチンが、現在まで存在しないことである。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、鳥インフルエンザウイルスエンベロープ由来のHAの細胞外セグメント及びCD154分子の細胞外セグメントを含むことを特徴とする、鳥インフルエンザウイルスに対する当該のワクチンのキメラ抗原を提供することで、前述の問題を解決する。そのようなキメラタンパク質は、哺乳動物及び鳥類を鳥インフルエンザウイルス感染から保護する早期の免疫反応を誘発する。そのようなワクチン抗原の獲得は、卵での増殖を必要とはせず、生産物として、有害な免疫反応の少ない、より純粋なワクチンを提供する。そのうえ、ウイルスの不活性化又は本ウイルスの膜成分の抽出を必要とせず、抗原エピトープの変性及びその中の化学反応物質の残留物により引き起こされるヒトにおけるワクチンの安全性に関連した他の不都合を避ける。さらに、卵の非存在下で生産されるインフルエンザワクチンは、卵による適応及び継代中に生じる不均一性を避ける。このことは、高い有効性につながるインフルエンザの汎流行株によりよく適合するワクチンに結びつく。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の実施形態において、膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインを欠いたHAの分泌変異体(secretable variant)を使用する。HAの分泌変異体は、好ましくは、インフルエンザウイルスに対する高い力価の中和抗体の獲得を保証する免疫系の刺激配列(stimulating sequence)に結合している(分子アジュバント)。
【0022】
好ましい実施形態において、キメラワクチン抗原は、本質的に、それぞれ配列同定(配列ID)番号6、配列番号8及び配列番号4に記載された配列で同定されるトリ、ブタ又はヒト起源のCD154分子の細胞外セグメントのアミノ酸配列を含むことを特徴とする。
【0023】
本発明の実施形態において、キメラワクチン抗原は、本質的にウイルスサブタイプH5(配列番号2)、H7(配列番号9)及びH9(配列番号10)のHAの細胞外セグメントのアミノ酸配列を含むことを特徴とする。
【0024】
本発明の文脈において、「本質的に」という用語は、キメラ抗原の一部であるアミノ酸配列が番号付けされた配列と高いレベルの相同性を有するが、この抗原の高い変動性により、鳥インフルエンザウイルスのHA由来のいずれのアミノ酸配列も、本発明の目的のキメラ抗原の一部である可能性があることを指す。そのようなキメラ抗原は、流行性Aサブタイプ(H5N1)、サブタイプH9N1、ウイルスサブタイプH7の分離株、ヒトに感染させるタイプB、並びに他の哺乳動物及び鳥類の種を感染させるインフルエンザウイルスを含むが、これらに限定されるものではない。
【0025】
本発明の目的のために、キメラ抗原を、組換え、合成又は化学的共役法により得ることができる。HAをコードする配列を、従来技術の逆転写及びその後のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって作成し得る。しかし、本発明の実施形態において、HAをコードする配列は、病原性ウイルスに対する作業で必要とされる特別な安全条件下での作業の必要なしに、相当に短い期間で当該の配列を得ることを保証する完全な合成物である。
【0026】
また、合成配列の使用は、所望の発現系に従ってコドン使用頻度の最適化を可能にする。同様の方法において、HAの合成遺伝子のデザインは、その抗原性を増加させる目的で、タンパク質の一次構造の変化に翻訳される正確な突然変異の取り込みを可能にする。
【0027】
好ましい実施形態で、キメラ抗原は、C末端配列が、98%より高い純度レベルで、組換えタンパク質の精製を促進する6つのヒスチジンのペプチドを融合している、サブユニットHA1及びHA2によって構成されたヘテロ二量体である。次に、ヒスチジンの尾部のC末端で、4つの反復単位のGly4Ser(4G4S)によって構成されたスペーサーペプチドが融合している。スペーサーペプチド配列のC末端で、分子アジュバントとしてのCD154分子の細胞外ドメインが融合している。HAとCD154分子の間に位置するペプチド4G4Sは、正確な三次元的構造を得るために、両方の分子に十分な立体的自由を与えることを意図している。
【0028】
本発明の目的のキメラ分子HA−CD154は、3つのポリペプチドHA−CD154の非共有結合によって構成された三量体であることができる。使用する発現系の依存において、各モノマーHA−CD154は、結合してヘテロ二量体HA1−HA2/CD154の三量体に一致することができるヘテロ二量体分子を生成する2つの分子(HA1及びHA2/CD154)に分かれる可能性がある。CD154細胞外ドメインに対応するアミノ酸配列は、これら分子の三量体形成を決定する。本発明の目的のワクチン抗原の三量体構造は、免疫系のプロフェッショナルな抗原提示細胞(APC)表面のCD40受容体とキメラ分子の相互作用のために非常に重要である。
【0029】
一旦、血流に放出されると、本発明のワクチン抗原は、特に、免疫系のAPC細胞表面のCD40受容体と相互作用する。CD40受容体との相互作用の後、キメラ分子HA−CD154はAPC細胞によって内部に取り入れられ、次に処理され、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスIのコンテクストに示される。同時に、このキメラタンパク質の樹状細胞(DC)への結合は、活性化(CD80及びCD86)及びDC上にあるCCR−7ケモカイン受容体の二次的シグナルのレベルの増加を誘発し、このことにより、HAを取り込んだDCの局所リンパ節への移行を引き起こす。これらのイベントは、免疫化された動物の脾臓においてHA−特異的CD8+細胞障害性T細胞の濃度増加を誘発する。
【0030】
また、キメラタンパク質HA−CD154は、特にB細胞と相互作用することが可能である。B細胞表面のIgMの分子とHAとの最初の相互作用は、抗原特異的B細胞の表面の受容体CD40とキメラ分子のCD154の部分との相互作用を促進する。B細胞におけるこの刺激は、キメラ分子の内在化、その処理及びMHCクラスIIコンテクストにおける提示を誘発する。これらのイベントは、Tリンパ球CD4+の活性化、及びその後の2型ヘルパーT細胞の反応の活性化をもたらし、これによりB細胞での免疫グロブリンのクラススイッチ、その成熟及び増殖を誘発する。
【0031】
本発明の好ましい実施形態において、キメラワクチン抗原を、遺伝子改変した哺乳動物のミルクから得る。本発明の目的のワクチン抗原を、好ましくは授乳過程中の哺乳動物のミルクにおいて生産する。この目的で、所望のタンパク質をコードした配列が、乳腺に特異的なプロモーターの制御下で挿入されたトランスジェニック動物のミルクにおいて、又はアデノウイルスベクターを使用することによる非トランスジェニック動物の乳腺上皮の直接的形質転換を通して生産を実施することができる。
【0032】
別の好ましい実施形態において、CD154分子の細胞外ドメインに融合したHAに基づくキメラ抗原を、遺伝子改変された酵母菌の培養、又はコーディング遺伝子を含むアデノウイルスベクターで形質導入した哺乳動物の細胞培養において生産した。
【0033】
また、前述のキメラ抗原を含む鳥類及び哺乳動物におけるインフルエンザウイルスに対する防御免疫反応を引き起こすことが可能なワクチン組成物も本発明の目的である。本発明の特定の実施形態において、そのようなワクチン組成物は、トリ、ブタ及びヒトにおいてインフルエンザウイルスに対する防御免疫反応を引き起こす。ワクチン組成物を、予防の形で、全身又は粘膜経路によりヒトを含む動物に投与することができる。そのような組成物を用いたワクチン接種を通して、インフルエンザウイルスの感染に関係した莫大な人的、物質的及び経済的損失が避けられる。
【実施例】
【0034】
(実施例1)
ウイルスA/ベトナム/1203/2004、並びにヒト、ブタ及びニワトリCD154分子由来の血球凝集素の細胞外ドメインをコードする遺伝子断片の獲得。
極めて病原性の高いウイルスA/ベトナム/1203/2004に由来するHA分子のコード配列を、化学的に合成した。一次タンパク質配列を、全米バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information;NCBI)のデータベースより入手した(アクセス番号AY818135)。合成は、配列番号1として記載された配列で同定された配列のヒマラヤ山羊(Capra hircus)での発現のために最適化されたコドン使用頻度を使用することにより実施した。合成遺伝子は、タンパク質の膜貫通及び細胞質ドメインを除外したアミノ酸1から537までのHAのアミノ酸配列をコードする(配列番号2)。遺伝子合成の間に、さらなる制限部位KpnI及びXhoIを、コーディング配列の5’末端に組み込んだ。翻訳効率を増加させる目的で、コザック(Kozak)コンセンサス配列を、開始コドンの直前に組み込んだ。HAコード断片の3’末端を、以下の順序で組み込んだ:NheI制限部位、6ヒスチジン断片のコード断片、制限部位EcoRI、終止コドン及び制限部位EcoRV。
【0035】
また、ヒト、ブタ及びニワトリCD154分子の細胞外ドメインのコード配列も、化学的に合成した。合成を、NCBIデータベースから参考文献AJ243435(セキショクヤケイ(Gallus gallus)に関する)、AB040443(イノシシ(Sus scrofa)に関する)及びX67878(ヒト(Homo sapiens)に関する)に従って実施した。ヒマラヤ山羊における発現のために最適化されたコドン使用頻度を、ニワトリCD154(配列番号5)及びブタCD154(配列番号7)分子の合成のために使用した。ヒトCD154(配列番号3)のコドン使用頻度は変更しなかった。Gly−Gly−Gly−Gly−Serの4つの反復単位によって構成されたペプチドをコードするセグメントを、これらの立体的自由度を確実にする目的で、3つの分子のアミノ酸末端に組み込んだ。
【0036】
制限部位EcoRIを、CD154分子の細胞外ドメインのコード断片の5’末端に組み込んだ。SalI制限部位を、3’末端(終止コドンの直後)に組み込んだ。合成ヌクレオチド配列から得られたポリペプチドは、配列番号6(セキショクヤケイに関する)、配列番号8(イノシシに関する)及び配列番号4(ヒトに関する)として記載された配列で同定されるように見える。
【0037】
(実施例2)
血球凝集素発現カセットの構築。
HAの人工遺伝子は、KpnI/EcoRVで消化し、次に前もって同じ酵素で消化した発現ベクターpAEC−SPT(Herreraら、(2000)Biochem Biophys.Res.Commun.279:548−551)に挿入した。得られたベクターを、pHAと名づけた。ベクターpHAを、制限エンドヌクレアーゼEcoRI(HAの終止コドンの直前のヒスチジン尾部の後で切断する)及びエンドヌクレアーゼSalI(ベクターpHAからHAの3’末端の複数のクローン部位を切断する)で消化した。CD154遺伝子を、エンドヌクレアーゼEcoRI及びSalIを用いて、GeneArtより供給されたプラスミドベクターから除去し、ベクターpHAにクローン化した。これらのクローニングから、3つの哺乳動物細胞発現ベクターを生成した:pHA−CDp(ニワトリのCD154のドメインを含む)、pHA−CDc(ブタのCD154のドメインを含む)、pHA−CDh(ヒトのCD154のドメインを含む)。すべての場合で、HAのキメラ遺伝子は、ヒトサイトメガロウィルス前期プロモーター(Cytomegalovirus Immediate−Early Promoter;pCMV)の制御下であった。
【0038】
(実施例3)
HA遺伝子を含むアデノウイルスベクター(ΔE1ΔE3)の構築。
複製欠損アデノウイルスベクターを、AdEasyシステムを基に構築した(Tong−Chuan Hら、(1998)「組換えアデノウイルスを作成するための簡略システム(A simplified system for generating recombinant adenoviruses)」PNAS USA、95:2509−2514)。プラスミドpAdTrack−CMVを、トランスファーベクターとして使用した。AdEasyに基づくシステムは、組換えアデノウイルス構造の迅速及び単純な代替を構成する。HA並びにCD154分子のヒト、ブタ及びニワトリ変異体の細胞外ドメインに融合したHAのコード配列を、エンドヌクレアーゼXhoI及びSalIで除去し、pAdTrack−CMVベクターのXhoI部位にクローン化した。得られたベクター(ptrack−HA、ptrack−HACDp、ptrack−HACDh、ptrack−HACDc)を、PmeI消化によって直線化し、pAdEasyベクターで菌種BJ5183に共電気穿孔した。感染性ビリオンを得るために、組換えウイルスのゲノムを、エンドヌクレアーゼPacIで消化し、HEK−293細胞系に形質移入した。4種のウイルスベクター:Ad−HA、Ad−HACDp、Ad−HACDh及びAdHACDcを作成した。すべてのベクターを、HEK−293細胞系において、5×1012コロニー形成単位(CFU)の力価に達するまで増幅した。生産されたウイルスを、CsCl中で二回、遠心分離によって精製し、貯蔵緩衝液に対して透析し(10mMトリスpH8.0、2mM MgCl、4%サクロース(Sacarose))、その後の使用のために−70℃で保存した。
【0039】
(実施例4)
ヤギ乳腺上皮の直接導入:
使用したヤギは、授乳期間の3カ月目で、1日当たり平均1.3リットルのミルクを出した。0日目、動物に、処置中のストレスを減らすために、ジアゼパム10mgの用量を筋肉内経路で投与した。槽の大部分のミルクを除くために、動物から多量に搾乳し、乳腺を、37℃の食塩水を用いた注入によって2回すすぎ、その後搾乳した。すべての注入は、蠕動ポンプにつないだカテーテルを使用して、乳頭管(nipple’s channel)を直接通して実施した。注入は、ゆっくりと実施し、一方、同時に、注入されている乳房にマッサージを行った。
【0040】
ヤギでは、乳房が2つの独立した半分に分かれている可能性がある。EGTA30mMを補充し、10CFU/mlのウイルス負荷を含むPBS溶液を、各乳腺に注入した。乳房の各半分に注入した容量は、乳房の容量によってさまざまであった(平均して、乳房の媒質で600ml)。注入後、溶液が管及び槽の全体に達して均一的に分布することを促進するために、乳房にマッサージを行った。翌日、注入した溶液を、搾乳により除去した。槽及び乳管に残る最大量のアデノウイルスベクターを取り除く目的で、再度、乳腺をPBS注入によってすすいだ。
【0041】
注入した動物からのミルクの採取を、注入の48時間後に開始し、手指による搾乳により実施した。1日2回搾乳を行い、1回は朝に、もう1回は午後の終わりに実施した。大部分の採取したミルクは、以降のタンパク質の精製のために−70℃で保存した一方、少量の試料は、バッチごとのHA変異体の内容物を検出及び定量化するために使用した。
【0042】
ミルクのHA変異体の検出を以下のように実施した。分離緩衝液の4容量を(10mMトリスHCl、10mM CaCl)、150μlのミルク試料に加え、氷上で30分間インキュベートした後、試料を4℃、15,000gで30分間遠心した。血清画分を回収し、タンパク質10μlを7%ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(Sodium Dodecyl Sulphate−Polyacrylamide Gel Electrophoresis;SDS−PAGE)で分離した。タンパク質を、ニトロセルロースフィルターへ移し、HAの存在を、ニワトリ高度免疫血清を使用することによって検出した。ホースラディシュペルオキシダーゼ(Horseradish Peroxidase;HRP)に共役したマウス抗ニワトリ抗体を、二次抗体として使用した。免疫反応バンドを、Amersham Pharmacia Biotechの強化化学ルミネセンス(Enhanced Chemiluminiscence;ECL)によって視覚化した(図1)。HAの変異体は、大部分はポリペプチド鎖(HA0及びHA0−CD154)の形態で生産したが、両方の分子において、ドメインHA1の存在も観察することができる。
【0043】
HA変異体の定量化を、CIGBにより開発されたH5特異的ELISAにより実施した。E1ΔE3アデノウイルスベクターを注入した動物において、HAの変異体を、注入の11日後まで検出し、HA、HACDp、HACDh及びHACDcタンパク質の採取の最初の7日間における平均発現が、それぞれ0.94g/L、0.86g/L、0.78g/L、0.87g/Lであった。
【0044】
(実施例5)
メタノール資化性酵母(Pichia pastoris)発現ベクターの構築。
P.パストリス(P.pastoris)発現ベクターpPS10を、制限エンドヌクレアーゼNaeIで酵素的に消化し、次に末端脱リン酸化及びHA、HACDp、HACDh及びHACDcコード遺伝子のさらなる挿入のためにアルカリリン酸塩で処理した。
【0045】
タンパク質HA、HACDp、HACDh及びHACDcのコード配列を、エンドヌクレアーゼBclI(切断部位は、HAの分泌ペプチドの直後で見られる)及びSmaI(切断部位は、停止コドンの直後で見られる)を用いた消化によって除去した。得られた末端を、先端をブラント(平滑)化させるためにクレノウポリメラーゼで処理し、次に各バンドをpPS10ベクターにクローン化し、pPS−HA、pPS−HACDp、pPS−HACDh及びpPS−HACDc酵母菌発現ベクターを得た。すべての場合で、HAの異なる変異体のコード配列は、アルコールオキシダーゼプロモーター(AOX1)の制御下であり、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)のSuc2由来の分泌ペプチドに融合した。
【0046】
形質変換の前に、プラスミドを、制限エンドヌクレアーゼSphIを用いた消化によって開環した。P.パストリスの菌株MP36を、電気穿孔法によって発現ベクターpPS−HA、pPS−HACDp、pPS−HACDh及びpPS−HACDcで形質転換した。そのような菌株は、形質転換後、表現型His+を得る栄養要求性変異体his3である。
【0047】
ドットブロット法によって同定された形質転換クローンを、サザンブロット法により解析し、表現型Mut(メタノールの使用が低い)及びHis+と対応する、組換えプラスミドの発現カセットに対するP.パストリスの遺伝子AOX1の置換によって組込みが生じたことを判定した。AOX1の遺伝子置換は、ベクターとゲノムの間のAOX1及び3’AOX1のプロモーター領域の交差によって生じる。
【0048】
これらの交差のため、遺伝子AOX1のコード領域の欠失が生じる。表現型Mutによる組換え株は、遺伝子AOX2でのオキシダーゼアルコール(AOX)の生産を修復するが、メタノールに関するこの増殖率は低い。
【0049】
HAの異なる変異体をコードする遺伝子は、メタノールを通して誘導性であるプロモーターAOX1の制御下にある。P.パストリスは、低レベルの自身のタンパク質のみ分泌し、その培地はタンパク質の補充を必要としない、したがって、分泌される異種タンパク質が培地の総タンパク質の大部分を構成すること(80%まで)が予期できる。組換え抗原の生産は、5L発酵槽で培地へのメタノールの添加及び培地のpHを8.0に維持することによって実施した。図2で示すように、P.パストリスで生産されたHAの大部分は、グリコシル化され、培地に分泌された。
【0050】
(実施例6)
HA、HACDp、HACDh及びHACDc抗原の精製。
ヤギミルク由来のHA、HACDh、HACDh及びHACDcの精製のために、脂肪を4℃、10,000rpmでの30分間の遠心によって除去した。無脂肪乳を、緩衝液トリスHCl pH8.0、CaCl 10mMに希釈1:5(v/v)した。4℃で1時間後、カゼインを10,000での20分間の遠心によって沈降させた。
【0051】
抗原をそれぞれ含むミルク血清を、5μM、0.8μM及び2μMのフィルターのガラスプレフィルターでの連続的濾過によって清澄化した。清澄化した血清を、リン酸緩衝液(50mM NaHPO pH8.0、150nM NaCl、10mMイミダゾール)で透析濾過し、Ni−NTAセファロースカラムにローディングした。イミダゾール50mMによる洗浄ステップを実施し、組換えタンパク質を、リン酸緩衝液中200mMイミダゾールで溶出した。
【0052】
P.パストリスで生産された抗原HA、HACDp、HACDh及びHACDcの精製については、一旦、発酵を終了し、細胞を遠心で培地から分離した。組換え抗原を含む媒体を、5μM、0.8μM及び2μMのフィルターにおける連続的濾過によって清澄化した。残りの精製は、ミルクから抗原を精製することに従った処置と同様の方法で実施した。
【0053】
(実施例7)
ニワトリでのHA及びHACDワクチン抗原に基づくワクチン組成物の免疫原性の評価。
免疫接種:本試験で使用したHA及びHACDp抗原を、SDS−PAGEの濃度測定分析によって測定可能である、98%を超える純度まで非変性法によって精製した。タンパク質の同一性は、質量分析法によるアミノ酸分析、及びH5に対して高度免疫血清を使用する「ウエスタンブロット法」によって確認した。両方の抗原を、油アジュバントモンタニド(Montanide)ISA720で調合した。免疫接種のために、3週齢のニワトリを使用した。使用される用量に従って、各10羽の8群を作成した。群の4羽に、抗原HAを基にした調合物を投与し、一方、別の4羽にHACDpを基にした調合物を投与した。動物を、最終調合物200μlで群ごとに抗原1μg、3μg、6μg又は12μgの皮下投与によって免疫化した。1mlのシリンジに結合した18G針を免疫接種のために使用した。抗体を投与しないプラセボ群を、本試験に組み入れた。血清学的反応の分析のための血液試料を、ワクチン接種の28日後に採取した。
【0054】
赤血球凝集反応阻害及びELISA:赤血球凝集反応アッセイ(IHA)の阻害のために、血清をU底マイクロタイタープレートに連続的に希釈した(最初の希釈1:2)。不活性ウイルス抗原A/ベトナム/1203/2004の血球凝集素4単位(前もってニワトリ赤血球の0.5%リン酸緩衝食塩水(PBS)懸濁液に対して滴定によって測定した)を各ウェルに加えた。混合物を室温で1時間インキュベートし、一旦この時間が経過すると、PBS中0.5%のニワトリ赤血球の同容量を各ウェルに加えた。赤血球凝集反応の力価阻害物質(titers inhibitors)を30分後に読み取った。H5に対して特異的な抗体をELISAによって決定した。プレートを、AdHAベクターに感染させた細胞培養から生産及び精製したHAタンパク質の0.5μg/ウェルで被覆した。ELISAによって得られた力価を、同様の方法で希釈した陰性試料より、平均+標準偏差の2倍、優れた光学濃度を提供する高い希釈として表した。
【0055】
サイトカイン発現アッセイ:HA又はHACDpの6μgで免疫化したニワトリの脾臓を、ワクチン接種の30日後に無菌的に収集した。均一な細胞懸濁液を得るために、脾臓を小さな断片に切断し、120μMの穴径のスチールフィルターに通した。細胞を、1,000で10分間遠心して収集し、PBSに懸濁した。細胞懸濁液を、1:1(v/v)の関係でヒストパック(Histopaque)カラム1083(Sigma)にゆっくりと加え、1,000rpmで30分間遠心した。単核細胞を、インターフェーズリング(interphase ring)で収集し、PBSで3回洗浄し、RPMI1640媒質のミリリットル当たり、1×10の濃度に調整した。細胞を、ウェル当たり5×10細胞の割合で24ウェルプレートに播種した。
【0056】
リンパ球増殖アッセイを実施するために、細胞をCO 5%下の41℃で18時間、1μg/mlの濃度のタンパク質HAの添加によって刺激した。陰性対照として、プラセボでワクチン接種したニワトリの脾臓の細胞を採取した。陽性対照として、コンカナバリン(concanavaline)A(ConA)でインキュベートした脾臓細胞を使用した。培養物を18時間後に収集し、サイトカイン遺伝子の導入を評価するために総リボ核酸(RNA)を精製した。総RNAを、トリリエイジェント(Tri−Reagent)(Sigma)法を使用することによって精製した。RNAの試料は、水に懸濁し、260nmで分光測定によって定量化した。
【0057】
インターロイキン2(IL−2)、インターフェロンガンマ(IFN−γ)及びグリセルアルデヒド−ホスホデヒドロゲナーゼ(GAPDH)のRNAメッセンジャーの相対レベルを測定する目的で、1991年のSvetic及び共同研究者(Svetic,Aら、(1991)、「インビボでのマウスIgD抗体に対するヤギ抗体による一次免疫化後のサイトカイン遺伝子発現(Cytokine Gene Expression after in vivo primary immunization with goat antibody to mouse IgD antibody)」、J.Immunol.147:2391−2397)の記載のように、逆転写アッセイ及びさらなるPCR(RT−PCR)を3回実施した。RNAを、製造者の指示に従って逆転写システムキット(Promega)を使用して3回逆転写した。予備研究で、分析するすべての遺伝子に対して、PCRの各サイクルで増幅したDNA量のプロフィールを作成した。使用したサイクル数は、増幅曲線の指数領域内で選択した。サイクルの最適数は、IL−12及びIFN−γでは35、GAPDHでは28であった。
【0058】
陽性対照細胞(Con Aでインキュベートした)及び陰性対照細胞(プラセボ群から誘導及び非刺激)の両方を、各試験に組み入れた。構成遺伝子GAPDHを、各PCRで増幅し、当該の遺伝子を評価する前に、各反応に対する最初の相補DNAの同様な量を保証するために使用した。
【0059】
PCRの後、最終反応物15μlを、2%アガロースゲル電気泳動法によって分析し、濃度測定分析によって半定量化した。バンドの輝度を、画像解析「コダック1D(Kodak 1D)」の計算プログラムを使用して測定した。結果は、当該のバンドにおけるピクセルの輝度値の平均として、及び構成遺伝子GAPDHに対して得た輝度に関するこの値の平均として推定した遺伝子の相対的発現として報告した。
【0060】
ニワトリで得られた結果は、ワクチン抗原HA及びHACDpを含む油中水型調合物(water in oil formulation)が、ワクチン接種した動物に対して体液性免疫反応及び細胞免疫反応を誘発したことを示している。両方の場合で、免疫反応は、使用した用量に依存していた(図3A)。HA又はHACDpの6μgでワクチン接種した動物における赤血球凝集反応の抗体阻害物質の動態は、ワクチン接種後の第4週において、キメラ抗原HACDpがHA抗原でワクチン接種された動物において発生したIHA抗体の反応より約10倍高い反応を誘発できることを示した(図3B)。また、末梢血の単核細胞を抗原HAに曝露させると、IFN−γ及びIL−12の非常に顕著な発現が、キメラ抗原HACDpでワクチン接種される動物で観察された(表1)。この結果は、CD154のHAへの融合が、特にHA分子に対して、細胞レベルで強い反応を誘発することが可能であることを示している。
【0061】
表1:細胞媒介免疫反応
【表1】


インビトロの生産におけるIFN−γ及びIL−12の相対的レベルは、本群におけるすべての動物の算術平均として示す。
【0062】
(実施例8)
HA及びHACDh抗原に基づくワクチン組成物のヒトにおける免疫原性。
HA及びHACDhタンパク質を含むワクチン組成物の安全性、反応原性及び免疫原性について、ヒトにおける臨床試験で評価した。両方のタンパク質を、98.5%より高い純度レベルで得て、水酸化アルミニウムに吸着させて調合した。選択基準として、過去6カ月にいかなるワクチン接種も受けておらず、いかなるインフルエンザ症状も示していない25歳から40歳の健常な男性を採用した。各8名の6つの実験群を、投与する抗原の用量(25μg、50μg又は100μg)及び抗原のタイプ(HA又はHACDh)を基に作成した。0週時に、すべてのボランティアに免疫化し、4週間後に2回目の免疫接種を行った。投与は、組成物0.5mlの筋内注射によって行われた。
【0063】
血液試料を、ワクチン接種時、及び2週間の間隔で以降の3週間に採取した。赤血球凝集反応の抗体阻害物質のレベル測定のために、血清試料を、コレラ菌(Vibrio cholera)由来のレセプター破壊酵素で処理し、続いて非特異的阻害物質の不活化のために65℃で加熱した。ウイルスA抗原/ベトナム/1203/2004に対する赤血球凝集反応を阻害する抗体を、0.5%ニワトリ赤血球を使用したマイクロタイトレーションの標準アッセイにより測定した。
【0064】
ウイルスA/ベトナム/1203/2004由来のH5タンパク質に対して特異的なIgG免疫グロブリンレベルを、ELISAによって評価した。プレートは、細胞培養で生産したHAタンパク質で被覆した。次に、各血清の連続的希釈を実施した。よく洗浄した後、ウサギで生産し、HRPと複合化した抗ヒトIgG抗体を各ウェルに加えた。発色は、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジンで実施した。ELISAの力価は、抗原を含むウェルの光学濃度が抗原のない対応するウェルの少なくとも2倍である高い希釈として表した。
【0065】
末梢血単核細胞(PBMC)を、フィコールアイソパック(Ficoll Isopaque)勾配(ICN Biomedical Inc.オハイオ州Aurora)の分離によって単離し、免疫学的アッセイのために凍結保存した。解凍した後、製造業者の指示に従って、PBMCをIFN−γ ELISPOT(Ebioscience)のために使用した。簡単に述べると、プレートを、捕獲抗体で終夜被覆した。2つの洗浄ステップの後、プレートを、RPMI−1640媒質で1時間ブロックした。すべてのウェルにHA抗原を加え、5×10の細胞を播種した。培養物を、5%CO、37℃で、48時間インキュベートした。細胞を、デカンタントし、プレートを、ビオチンと複合化した抗インターフェロン抗体で2時間インキュベートした。2つの洗浄ステップの後、HRPと複合化したアビジンを、各ウェルに加えた。発色は、基質として3−アミノ−9−エチルカルバゾールを含む溶液を使用して実施した。結果は、HA及びHACDh組換え抗原を含むワクチンが、局所の有害反応を生じさせないことを示した。
【0066】
HACDhキメラタンパク質で免疫化されたボランティアと同様に、HAで免疫化されたボランティアでは、細胞免疫反応及び体液性免疫反応は、投与したタンパク質の用量と比例して増加した。それにもかかわらず、HAとHACDh変異体との比較は、キメラタンパク質が、HAの等価用量に対して4.2倍高い体液性反応(図4)、及びHAの等価用量によって生じる反応より5.2倍高い細胞反応を誘発することが可能であることを示した。
【0067】
(実施例9)
HA及びHACDc抗原に基づくワクチン組成物のブタにおける免疫原性。
体重が18〜20kgのランドレース種ブタを使用した。動物を、評価する抗原及び用量によって6つの実験群に割り付けた。ブタ8頭を、実験群当たり使用した。HA及びHACDcに関して、20μg、40μg及び80μgの用量を評価した。両方のワクチン抗原を、油中水型乳濁液として調合し、2mlの用量で頚筋に対する注射によって接種した。アジュバント及びリン酸塩食塩液1:1(v/v)によって構成されたプラセボを、同様な方法で接種した。
【0068】
血液試料を、ワクチン接種の時点、及び続く3カ月間で7日ごとに採取した。IHAの抗体価を測定する前に、血清試料を、非特異的阻害物質を不活性化するためにコレラ菌由来のレセプター破壊酵素で処理した。IHAの抗体価は、0.5%ニワトリ赤血球を使用したマイクロタイトレーションの標準アッセイにより測定した。細胞レベルでの免疫反応を、HA抗原で刺激したPBMCにおけるIFN−γ及びIL−12のRNAレベルの相対的推定によって評価した。
【0069】
免疫化した動物において、正常な臨床パラメータの変化は観察されなかった。このことは、ワクチン組成物に対する有害反応が存在しないことを示唆する。組換え抗原HA及びHACDcを含むワクチンが、局部特性の極めてわずかな有害反応しか引き起こさないという結果を示した。両群において、IHA抗体価での用量依存、並びにHA抗原の存在下においてサイトカインを増殖及び産生させる細胞の能力として表される細胞反応が観察された。HACDcキメラ抗原で免疫化された群では、体液だけでなく細胞レベルで免疫反応の著しい増強が観察された。そのようなタンパク質は、IHAにおいて抗体の力価を、HAの対応する用量によって生じた力価より2.5倍高く誘発することができた。また、IFN−γ及びIL−2発現レベルに関連した細胞反応能力は、HACDcキメラ抗原で免疫化された動物では、HAの同等量で免疫化されたブタのものと比較して、それぞれ4.5及び6倍高かった。
【0070】
(実施例10)
鳥インフルエンザウイルスの異なるサブタイプ由来の血球凝集素に基づくキメラ抗原の発現。
コードヌクレオチド配列を、HA細胞外ドメインに関して鳥インフルエンザウイルスA/オランダ/33/03(H7N7)(配列番号9)及びA/香港/1073/99(H9N2)(配列番号10)から合成した。
【0071】
両方の遺伝子をヒマラヤ山羊における発現に最適なコドン使用頻度を使用することによってデザインし、制限部位XhoI(5’)及びEcoRI(3’)に隣接させた。両方の遺伝子を、ブタCD154分子の細胞外ドメインを含むアデノウイルストランスファーベクターpAdtrackに直接クローン化した。得られた組換えクローンを、HEK−293T細胞系に形質移入し、72時間後、キメラ分子の発現を培地で検出した。両方の融合タンパク質は、主に三量体として発現し、固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(Immobilized metal ion affinity chromatography)の1回のステップによって培地から精製することができた。
【0072】
ウイルスA/オランダ/33/03(H7N7)及びウイルスA/香港/1073/99(H9N2)由来のHAのキメラ変異体を含むアデノウイルストランスファーベクターを、pAdEasyプラスミドベクターに含まれるアデノウイルスゲノム内に相同的組換えによって組み込み、そこから、両方のタンパク質を含むアデノウイルスを生成及び増幅させた。
【0073】
CD154の細胞外ドメインに融合した前述の分離株由来のHAを、ヤギミルクにおいて高濃度で生産した。この戦略は、合成遺伝子が利用できる時期から55日より短い期間でHAのキメラ変異体の数グラムを生産することを可能にした。
【0074】
両方のキメラ抗原の精製後、ブタでの免疫原性実験を、油中水型調合物で、2mlの用量での頚筋に対する筋肉注射によって投与した動物当たり20μgの一定量を使用して実施した。有害反応は、観察されなかった。血清学的解析は、両方のタンパク質が、ワクチン接種後の最初の28日以内に、1:800より高いIHA抗体価に達する強力な体液性免疫反応を誘発することができることを示した。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】それぞれAdHA及びAdHACDpアデノウイルスベクターで形質導入したヤギのミルクにおけるHA及びHACDp抗原の発現。アデノウイルス形質導入の5日後のミルク血清試料に存在するタンパク質を、還元条件(●)又は非還元条件(Δ)下で7.5%のSDS−PAGEにより分離した。抗原HA及びHACDpの免疫同定を、H5N3株に対する過免疫のニワトリ血清を用いた「ウエスタンブロット法」によって実施した。
【図2】表現型Mutを示す組換えP.パストリス(P.pastoris)クローンの発現解析。培地に存在する所望のタンパク質のウエスタンブロット。レーン1:HA;レーン2:HACDh;レーン3:非形質転換MP36;レーン4:分子量マーカー。
【図3】ワクチン接種したニワトリにおける変異体HAとHACDpとの免疫反応の比較。(A)各10羽のニワトリの8つの実験群を抽出し、この群に、HA又はHACDpの1、3、6又は12μgの固有用量を皮下投与した。ワクチン接種の28日後、赤血球凝集反応の抗体阻害物質の力価を測定した。この結果を、各群について算術平均+/−標準偏差として表す。(B)HA及びHACDpの6μgでワクチン接種したニワトリにおける赤血球凝集反応の抗体阻害物質の動態。データは、各試料抽出での群の全動物の算術平均として表す。
【図4】IHA抗体の動態。ワクチンを、矢印によって示される週に投与した。不連続線は、1:80の力価を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鳥インフルエンザウイルスエンベロープ由来のHAタンパク質の細胞外セグメント及びCD154分子の細胞外セグメントを含むことを特徴とする、鳥インフルエンザウイルスに対するキメラワクチン抗原。
【請求項2】
トリ(配列番号6)、ブタ(配列番号8)又はヒト(配列番号4)由来のCD154分子の細胞外セグメントのアミノ酸配列を本質的に含むことを特徴とする、請求項1に記載のキメラワクチン抗原。
【請求項3】
ウイルスサブタイプH5(配列番号2)、H7(配列番号9)及びH9(配列番号10)由来のHAの細胞外セグメントのアミノ酸配列を本質的に含むことを特徴とする、請求項1に記載のキメラワクチン抗原。
【請求項4】
組換え法、合成法又は化学的共役によって得られる、請求項1に記載のキメラワクチン抗原。
【請求項5】
遺伝子改変した哺乳動物のミルクから得られる、請求項1に記載のキメラワクチン抗原。
【請求項6】
乳腺の直接遺伝形質転換によって非トランスジェニック哺乳動物のミルクから得られる、請求項5に記載のキメラワクチン抗原。
【請求項7】
乳腺の直接遺伝形質転換がアデノウイルスベクター形質導入を使用することによって実施される、請求項6に記載のキメラワクチン抗原。
【請求項8】
トランスジェニック哺乳動物のミルクから得られる、請求項5に記載のキメラワクチン抗原。
【請求項9】
遺伝子改変の酵母菌から得られる、請求項4に記載のキメラワクチン抗原。
【請求項10】
請求項1から9までに記載のキメラ抗原を含むことを特徴とする、鳥類及び哺乳動物における鳥インフルエンザウイルスに対する防御免疫反応を生じさせることが可能なワクチン組成物。
【請求項11】
トリ、ブタ及びヒトにおいて鳥インフルエンザウイルスに対する防御免疫反応を生じさせることが可能な、請求項10に記載のワクチン組成物。
【請求項12】
全身又は粘膜経路によって動物に予防的に投与することができる、請求項10に記載のワクチン組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2009−528305(P2009−528305A)
【公表日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−556645(P2008−556645)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【国際出願番号】PCT/CU2007/000009
【国際公開番号】WO2007/098718
【国際公開日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(304012895)セントロ デ インジエニエリア ジエネテイカ イ バイオテクノロジア (46)
【Fターム(参考)】