説明

鶏糞肥料の製造方法

【課題】低コストの自然物(スギ皮)のみを使用しての鶏糞の発酵処理によって、速成脱臭を実現し、脱臭処理された鶏糞肥料を提供する。
【解決手段】、鶏糞にスギ皮細断物を10%以上混合して攪拌し、発酵温度を60〜80℃を維持させながら、且つ適時加水を行なって含水率を40〜50%の範囲を維持させて48時間以上の発酵脱臭処理を行い、前記発酵脱臭処理後に乾燥処理を行って製出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鶏糞肥料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生鶏糞や乾燥鶏糞は、肥料効果を備えているが、生鶏糞は含水率が高く、取り扱いに不便であり、また生鶏糞も乾燥鶏糞も土壌中の発酵でメタンガスやアンモニアガスを発生させるので、通常は、発酵処理して悪臭成分を低減(放出)させて使用しているが、悪臭が残ってしまい、環境汚染の問題があった。
【0003】
従前より脱臭対策として、鶏糞肥料にゼオライトを加えて悪臭成分を吸着させたり、硫酸第一鉄、L−アスコルビン酸ナトリウム等の脱臭剤を加えることが知られている(特許文献1:特開2002−293683号公報)。
【0004】
また鶏糞肥料の製造過程で脱臭する手段として、特許文献2(特開平7−267766号公報)に、生状態の鶏糞を予備発酵(空気を十分に混入させた状態でシート掛けし、2〜3日後に温度上昇が始まり90℃程度まで上昇させ、乾燥と脱臭を行なう)させ、水分60%で精製木酢酸を散布して二次発酵を行うことが開示されており、鶏糞中のアンモニアが酢酸アンモニウムに反応変化し脱臭を実現している。
【0005】
またスギの樹皮の畜糞処理への適用は公知である。その具体的例として特許文献3(特開平6−284815号公報)に、スギの樹皮とヒノキの樹皮の細切り混合物(3:1)を牛舎の敷きワラ代用品として使用し、糞尿との混合割合が乾燥物比率で10:1とし、30〜80℃で3ヶ月発酵(切り返し週1回)させ、人工培土として使用することが開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2002−293683号公報。
【特許文献2】特開平7−267766号公報。
【特許文献3】特開平6−284815号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1記載のL−アスコルビン酸ナトリウム等を混合して発酵させて略完全に脱臭するには、250時間(10日以上)以上を必要とし、作業日数において、問題がある。また特許文献2記載の精製木酢酸を添加しての発酵脱臭は、木酢酸液の散布と発酵を予備発酵(一週間)と本発酵(2〜3日)の二段階で繰り返し、やはり作業日数の点で問題があり、また精製木酢酸の散布を全体に均等に散布混合する必要から作業性の点でも煩瑣であるという問題があり、前記の混入物も特別な脱臭剤(L−アスコルビン酸ナトリウム、精製木酢酸液)を使用するのでコストの面でも課題がある。
【0008】
スギ皮などの樹木の粉砕物を畜糞に混入して発酵させる手段は特許文献3に開示されているか、特許文献3には、人工培土の前提となる樹木粉砕物の混入比率が10:1で、且つ牛糞で10日の発酵処理を必要とすることが示されているに過ぎなく、そのまま鶏糞の脱臭を目的とした発酵処理には適用することが出来ない。
【0009】
本発明は、基本的に低コストの自然物(スギ皮)のみを使用しての鶏糞の速成脱臭発酵方法を提案したものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る鶏糞肥料の製造方法は、鶏糞にスギ皮細断物を10%以上混合して攪拌し、発酵温度を60〜80℃を維持させながら、且つ適時加水を行なって含水率を40〜50%の範囲を維持させて48時間以上の発酵脱臭処理を行い、前記発酵脱臭処理後に乾燥処理を行ってなることを特徴とするものである。
【0011】
而して臭気の強い鶏糞は、スギ皮裁断物との混合攪拌物を特定の条件で発酵処理すると、アンモニア,アルキルアミン及びメルカプタン系の悪臭原因物質が、スギ皮に付着している微生物の作用で分解されて生成されるカルボン酸やフェノールを官能基に持つ有機物質と、静電的或いは疎水的に結合し、更にその複合体がスギ皮の主成分であるリグニンやセルロースなどの高分子有機物質と疎水性相互作用により結合し、揮発しにくい成分となり悪臭が抑制されるものである。
【0012】
またスギ皮細断物の混合比率が10%より少ない場合には、スギ皮の吸着効果が悪臭抑制作用を満たすのに充分とはいえない。また発酵温度条件は、種々実験した結果、60℃以下では菌体の活動が低く、80℃以上では、有効な菌体が死滅し発酵が停止し、完熟発酵に至らずに乾燥物となってしまう。
【0013】
また含水率においても、低含水率であると発酵時間が短くなり完熟発酵に至らず、高含水率であると嫌気性となり悪臭抑制の発酵とならないので、前記の所定の範囲においては、鶏糞の著しい脱臭効果が認められもので、鶏糞肥料(スギ皮裁断物の混入比率が大きいときには土壌改良材として使用する)として有効に利用できるものである。
【0014】
また本発明は、特に前記の発酵処理において、発酵促進用の有効土壌菌類群を添加してなるもので、更なる脱臭効果が認められるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明は上記のとおりであるから、特別な脱臭剤を添加することなく鶏糞との発酵相性が良い自然物(スギ皮)を使用したもので、鶏糞の肥料化(脱臭)を低コストで且つ短期間で実現でき、鶏糞の有効利用性を高めたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に本発明の実施形態例について説明する。本発明を実証するため試料1は、生鶏糞250gと生のスギ皮細断物250gを混合したもので、試料2は、生鶏糞250gと生のスギ皮細断物250gに更に発酵促進用の有効土壌菌類群2.5gを加えたものである。
【0017】
尚スギ皮細断物は、繊維方向長さが5cm程度となるように切断したものであり、発酵促進用の有効土壌菌類群は、土壌より抽出し培養したもので、好気性菌(酵母菌、セルロース分解菌、窒素固定菌)、嫌気菌(セルロース分解菌、窒素固定菌)、糸状菌(芳香族化合物分解菌)、マンガン酸化菌(有機栄養菌)、マンガン還元菌(クロカビ属群−原生担子菌類)、アンモニア酸化菌(亜硝酸菌)、硝酸菌、硝化生成細菌、放射菌(キチン分解菌)、硫黄細菌(緑色硫黄細菌科類)、メタン酸化菌、有胞子細菌、セルロース放線菌、セルロース糸状菌、リグニン分解菌、鉄酸化菌、鉄還元菌、硫酸還元菌が含まれている。
【0018】
試料1,2は、共に水分調整(0.2Lの加水)を行い、発酵機(株式会社泉精機製作所製ICM−2000)を使用して攪拌発酵を行った。発酵温度は60〜80℃の範囲内を推移するように攪拌(空気供給)を行い、且つ適時加水を行い(0.2Lを24時間後と48時間後に加水した)、含水率約40〜50%を維持するようにした。
【0019】
次に前記の発酵過程の試料と比較例の臭い強度を測定したもので、測定手段は、ポリエチレン容器に試料並びに比較例(100%生鶏糞、鶏糞を60日間切り返し処理したもの)を同量封入し、室温(20℃)で30分放置後に、臭い測定機器(神栄株式会社製ハンディ臭いモニターOMX−SR)で測定した。測定結果は図1の結果表のとおりである。
【0020】
この結果からスギ皮細断物を混合すると、鶏糞及びスギ皮に付着している微生物によってタンパク質、脂肪、繊維が分解されると共に、悪臭成分も分解され、48時間充分に消臭され、特に発酵促進のための有効土壌菌群の添加でより確実に行なわれることが確認できた。
【0021】
48時間の発酵後は、そのまま乾燥処理しても良いし、更に1日程度発酵を継続させて、発酵熱による水分蒸発を行なって乾燥処理と熟成を行うようにしても良い。特に商品として出荷する場合には含水率10%程度が望ましい。
【0022】
また本発明は前記の実証例に限定されるものではなく、スギ皮細断物の混入量を少なくとも10%以上とすれば良いものであり(最適な混合比率は前記の50%程度である)、混入比率を多くすると悪臭抑制効果は高くなるが、肥料効果が低減し、且つコスト面で問題が生じてしまう。
【0023】
また発酵時の含水率についても、鶏糞とスギ皮細断物との混合物の発酵において、混合物全体の完熟発酵に至るために、発酵が効率的に継続する条件として、所定の範囲を維持する必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明方法の実証例の臭い強度測定結果表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鶏糞にスギ皮細断物を10%以上混合して攪拌し、発酵温度を60〜80℃を維持させながら、且つ適時加水を行なって含水率を約40〜50%の範囲を維持させて48時間以上の発酵脱臭処理を行い、前記発酵脱臭処理後に乾燥処理を行ってなることを特徴とする鶏糞肥料の製造方法
【請求項2】
乾燥処理の一部を発酵脱臭処理後の熟成発酵で行ってなる請求項1記載の鶏糞肥料の製造方法。
【請求項3】
発酵促進用の有効土壌菌類群を添加してなる請求項1又は2記載の鶏糞肥料の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−35457(P2009−35457A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−202708(P2007−202708)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(506129751)白根陸送株式会社 (2)
【出願人】(507262741)日本クリナース株式会社 (2)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】