説明

麹、味噌の製造法及び味噌含有食品

【課題】麹以外の微生物の増殖を防ぎ混入した微生物も死滅させた麹を製造する。食品の風味や味に影響を与えないで保存性の高い味噌含有食品を製造する。
【解決手段】味噌製造における麹を製造する際、ナイシンを10〜10,000IU/g量添加する。好ましくは麹の製造時、ナイシンの添加を2回以上に分けて行う。特には米麹の製造時、製麹に先立って米の蒸し工程前に米を水に浸漬させる時にナイシンを米の浸漬液に添加する。その際、有機酸及び/又はその塩を併せて添加する。更には、当該方法で得られた麹を使用して、発酵、熟成して味噌を製造する。当該製法により得られた味噌を使用して味噌含有食品を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麹カビ以外の微生物の増殖を抑制若しくは死滅させた麹、味噌の製造法に関する。また、本発明は当該製造法により得られた味噌を使用した保存性に優れた味噌含有食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、味噌の製造法としては、一般的には、製麹→大豆・食塩添加→熟成→製品化の工程を有する。中でも、製麹の工程は開放的な環境下で行われることが多く、微生物の繁殖に適した条件であり、麹(カビ)以外にも原料に由来する微生物や酵母が増殖することが想定される。食塩添加後は水分活性が低く微生物が増殖することは少ないが、製麹中に増殖した微生物は死滅することなく存在し続ける。その結果、その出麹として、一般生菌及び耐熱性菌が多く含有したものが得られ、これを使用した味噌もこれら雑菌を保有することとなる。
【0003】
近年、味噌和え、酢味噌、味噌田楽、ラーメン用味噌スープなどの各種惣菜やたれ類に味噌が使用されているが、原料となる味噌に雑菌が多く含まれていると、その味噌を使用した加工食品も腐敗しやすくなるという問題点があった。また、味噌に保存料を添加する方法もあるが、味噌中の微生物の増殖は抑制することができても、殺菌までの効力が無く、味噌を使用した加工食品に味噌由来の微生物が移行することがあり、やはり、腐敗しやすくなることがあった。更には、微生物の少ない味噌を作るため、製麹中に保存料を添加すると、麹がうまく出来ず味噌の風味が悪くなることもあった。このように、味噌を使用した加工食品の腐敗を抑制し、また、風味が良い食品を製造するために、雑菌が含まれない味噌が加工食品業界で強く求められている。
【0004】
無菌・無塩味噌の製造方法として、製麹中ナイシンを生産する乳酸菌を使用し、乳酸発酵することにより、雑菌の少ない味噌の製造方法が知られている(非特許文献1)。この方法では、麹の種類、麹基質の水分の影響で乳酸菌の生育が大きく左右され、安定した汚染微生物の生育抑制効果が得られない。また、乳酸菌の生育が非常に多くなると、麹から出来上がった味噌にも乳酸菌が移行し、乳酸菌の多い味噌になってしまう。このような味噌を使用した食品は、味噌由来の汚染菌や、ナイシン生産乳酸菌が食品の保存中に増殖し、食品の風味を阻害することがある。
【0005】
更に、汚染菌の少ない麹を作る方法として、麹菌を用いて味噌様の食材を製造する工程において、麹菌及びバクテリオシン生産乳酸菌培養液もしくはその上澄みを添加して、除菌された雰囲気下混合する工程を有する製造方法(特許文献1)、穀類を、ナイシン生産能を有する乳酸菌の存在下で水浸漬し、これを常法により加熱変成して得られる穀類を麺基質として用いる麹の製造法(特許文献2)、ナイシン生産性乳酸菌の培養物を添加することにより乳酸菌が接種された蒸し米を製麹する方法(特許文献3)などが記載されている。しかし、これらも、上記と同じ理由で欠点があり、従来の方法では保存性に優れた味噌含有食品を作る事は困難であった。
【0006】
【特許文献1】特開2005-304493号公報
【特許文献2】特開2000-116375号公報
【特許文献3】特開2004-222542号公報
【0007】
【非特許文献1】Biosci.Biotechnol.Biochem.,63(4),642-647,1999
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情に鑑み、特に、製麹中の麹カビ以外の微生物の増殖を防ぎ混入した微生物も死滅させてしまう麹、味噌の製造方法並びに、保存性の向上した味噌含有食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記従来技術の問題点に鑑み、鋭意研究を重ねていたところ、麹の製造時、ナイシン生産性乳酸菌を用いず、直接ナイシンを10〜10,000IU/g量添加することにより、例えば、グラム陽性菌などの麹以外の微生物の増殖を防ぎ混入した微生物も死滅させてしまうことができ、また、当該製麹された麹を使用して製造した味噌は、乳酸菌由来の異味・異臭などもない良好な風味となることを見いだした。
【0010】
更には、ナイシンの添加時期について、製麹に先立ち、麹の原料を水に浸漬させる時にナイシンを浸漬液に添加することにより、ナイシンを麹の原料中に吸収させることができ、浸漬・蒸し・製麹などの各製造工程の段階で麹以外の微生物を死滅させることができることを見いだした。また、当該浸漬液にナイシンと有機酸及び/又はその塩を併せて添加することにより、浸漬・蒸し・製麹などの各製造工程中でナイシンの効力を一定に保つ事ができ、微生物に対する死滅効力が高まることを見いだした。
【0011】
加えて、製麹中に添加する場合には、製麹初期に添加するだけでは、麹のプロテアーゼにより、製麹後期にはナイシンは分解されてしまうことがあるが、ナイシンを製麹初期と中期に分けて添加するなど、2回以上に分けて添加する事で、製麹の間、ナイシンの効力を一定に保つ事ができ、より微生物の死滅効果が高くなることを見いだした。
【0012】
また、当該方法により製造された麹により製造した味噌を、各種加工食品に応用することにより、保存性に優れた味噌含有食品が製造できることを見いだした。
【0013】
本発明はかかる知見に基づいて完成されたものであり、以下の態様を有する。
項1.麹を製造する際、ナイシンを10〜10,000IU/g量添加することを特徴とする麹の製造法。
項2.麹原料を水浸漬する際に、浸漬液にナイシンを添加する項1に記載の麹の製造法。
項3.ナイシンを浸漬液に添加する際に有機酸及び/又はその塩を併せて添加する、項2に記載の麹の製造法。
項4.製麹時に、ナイシンを2回以上に分けて添加する項1に記載の麹の製造法。
項5.項1乃至4のいずれかに記載の方法で製造された麹を使用して、発酵、熟成せしめる味噌の製造法。
項6.項5に記載の方法で製造された味噌を使用して製造された、保存性に優れた味噌含有食品。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法によれば、麹以外の微生物の増殖を防ぎ混入した微生物も死滅させた麹を製造することができ、また、当該製麹された麹を使用して製造した味噌を各種味噌含有食品に使用することにより、食品の風味や味に影響を与えないで保存性の高い味噌含有食品を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の麹の製造法としては、麹及び/又は製麹原料とその浸漬液全量に対して、ナイシンを10〜10,000IU/g量、好ましくは50〜5,000IU/g量、更に好ましくは、100〜2,000IU/g量となるように添加することを特徴とする。
【0016】
ナイシンは、細菌の生産する一群のタンパク質もしくはペプチドであるバクテリオシンの一種であり、翻訳後修飾に由来する分子内環状構造を持つ、分子量3510の疎水性ペプチドである。分子内にランチオニン、デヒドロアラニンなどの特殊なアミノ酸を含む。ナイシンは酸性域で安定で、特にグラム陽性菌に広く殺菌作用を示し、黄色ブドウ球菌、リステリア菌、ボツリヌス菌などの食中毒菌に対しても効果的であるため、麹に含まれる前記グラム陽性菌の死滅に効果的に働く。具体的には細菌の種類としてストレプトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Streptococcus lactis subsp. lactis)種から生産され、ストレプトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス種を培養することにより得ることができる。本発明におけるナイシンとは、培養に用いた培地成分や菌体から精製されたもの、及び培養に用いた培地成分や菌体が含まれたものを本発明のナイシンとして利用することができる。
【0017】
麹の原料としては、米味噌、麦味噌及び豆味噌等の各種味噌の製造に応じて適宜必要な原料を使用することが出来るが、例えば、製麹原料としては、蒸米、蒸麦、蒸豆及び蒸豆の玉(いずれも味噌玉)のいずれか一種を挙げることができる。中でも、本発明では、製麹原料として蒸米を使用する米麹の製造に好適である。
【0018】
ナイシンの添加方法としては、製麹に先立って、製麹原料を水に浸漬させる時に、ナイシンを浸漬液に添加しておくのが好ましい。ナイシンを浸漬工程中に製麹原料に吸収させることにより、浸漬・蒸しの段階で麹以外の微生物を死滅させることができる。
【0019】
更には、ナイシンを浸漬液に添加する際に、有機酸及び/又はその塩を併せて添加しておくことで、ナイシンの安定性を高め、更には不活化を防止することができる。使用可能な有機酸及び/又はその塩としては、酢酸、アジピン酸、クエン酸、グルコン酸、アジピン酸、イタコン酸、グルコノデルタラクトン、α−ケトグルタル酸、コハク酸、酒石酸、乳酸、フィチン酸、フマル酸、リンゴ酸、ソルビン酸、安息香酸、プロピオン酸など有機酸とそのナトリウム塩、カルシウム塩、カリウム塩などを挙げることができる。有機酸及び/又はその塩の添加量としては、米の浸漬液に対して、0.005〜5重量%、好ましくは0.01〜1重量%、更に好ましくは、0.05〜0.5重量%となるように添加することを特徴とする。
【0020】
また、製麹時に添加する場合には、一度に前述の量を添加しても良いが一度に添加すると製麹中のナイシンの効力が失われることがあるため、ナイシンを製麹初期と中期に分けて添加するなど、2回以上に分けて添加する方が好ましい。このように2回以上に分けてナイシンを添加することにより、製麹の間ナイシンの効力を一定に保つ事ができ、より微生物の死滅効果を高くすることができる。最も好ましくは2〜10回に分けて添加するのが、作業効率を考えると好ましい。
【0021】
麹の製造法としては、前述以外は公知の方法で行うことができる。例えば、米味噌、麦味噌及び豆味噌の各種味噌の製造に応じて、製麹原料としては、蒸米、蒸麦、蒸豆及び蒸豆の玉(いわゆる味噌玉)のいずれか一種を選択し、必要に応じて前述のナイシン含有浸漬液による浸漬処理を行った後、蒸し工程を行ったものを使用する。
【0022】
該製麹原料に、種麹としてアスペルギルスオリゼーなどの公知の所望の麹菌及び前述量のナイシンを添加する。このように調製した製麹原料を製麹機により或いは麹室内で、常法により製麹する。
【0023】
本発明では、このようにして得られた出麹を用いて、常法により、例えば製麹後、大豆・食塩添加→熟成→製品化の順に味噌を製造する。このようにして製造した味噌を、必要に応じて殺菌も行っても良い。
【0024】
かくして、この味噌を原料として、各種の味噌含有食品を製造することができ、保存性の高い味噌含有食品を提供することができる。
【0025】
味噌含有食品の一例として、各種のたれ類や惣菜、例えば、味噌和え、酢味噌、柚子味噌、田楽味噌、味噌漬け、焼肉のたれなどのたれ類、ラーメン用味噌、味噌煎餅、味噌鍋の素、味噌を原料に用いたソース、揚げ物、炒め物、おむすび、調理パン、スープ、みそ汁等の液状食品などを挙げることができる。
【0026】
なお、当該味噌含有食品を、例えば、70〜95℃で5分以上の条件で加熱殺菌することにより、一般生菌数を更に減少させた味噌含有食品を製造することができる。
【0027】
ここで加熱殺菌処理には、乾熱殺菌処理、プレート式殺菌処理、蒸気殺菌処理、加圧加熱殺菌処理(オートクレーブ処理、レトルト処理など)、電磁波を利用した殺菌処理(ジュール熱加熱殺菌処理、マイクロ波加熱殺菌処理)、赤外線加熱などが含まれる。
【0028】
なお、本発明の味噌含有食品は、味噌の風味を損なわない限度において、静菌剤を添加することができる。静菌剤としては、制限されないが、リゾチーム、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ナイシン以外のバクテリオシン、ビタミンB、エタノール、アミノ酸、有機酸及び有機酸塩、リン酸塩、ラクトパーオキシダーゼ、植物抽出物、ポリリジン、しらこたん白、キトサン、およびナタマイシンを挙げることができる。ここでアミノ酸には、アラニン、グリシン、ベタイン、システイン、トリプトファン、またはフェニルアラニンが含まれる。また有機酸及び有機酸塩には、酢酸、アジピン酸、クエン酸、グルコン酸、アジピン酸、イタコン酸、グルコノデルタラクトン、α−ケトグルタル酸、コハク酸、酒石酸、乳酸、フィチン酸、フマル酸、リンゴ酸、ソルビン酸、安息香酸、プロピオン酸、及びこれらのアルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩またはカリウム塩)、またはアルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム塩)を挙げることができる。有機酸及び有機酸塩として具体的には、氷酢酸(酢酸)、酢酸ナトリウム(無水)、クエン酸三ナトリウム、グルコン酸カリウム、乳酸ナトリウム、乳酸カルシウム、フマル酸一ナトリウム、およびソルビン酸カリウム等を挙げることができる。ナイシン以外のバクテリオシンとは、ペディオシン、およびラクティシン等を挙げることが出来る。リン酸塩とは、メタリン酸及びその塩類、ピロリン酸及びその塩類、ポリリン酸及びその塩等が挙げられる。植物抽出物とは、既存添加物として指定されているイチジク葉抽出物、カラシ抽出物、クワ抽出物、酵素処理茶抽出物、シソ抽出物、セイヨウワサビ抽出物、タデ抽出物、トウガラシ水性抽出物等が挙げられる。乳酸菌発酵物とは乳成分や大豆、トウモロコシ等を乳酸菌で発酵させた後、加熱殺菌や乾燥し粉末化したもので、これを更に水やエタノールで抽出したものを用いることができる。静菌剤は、これらの中から選ばれる1種又は2種以上を使用することができる。中でも、グリシン、リゾチーム、酢酸ナトリウム、バクテリオシン、グリセリン脂肪酸エステル及びショ糖脂肪酸エステルから選ばれる1種又は2種以上を使用するのが好ましい。
【0029】
当該静菌剤の味噌含有食品に対する使用割合としては、また味噌含有食品100重量%に対して静菌剤が0.00001〜5重量%、好ましくは0.0001〜5重量%、より好ましくは0.0001〜3重量%となるような割合を挙げることができる。
【0030】
なお、味噌含有食品の製造に際しては、その効果を妨げない範囲において、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、レシチン等の乳化剤、カラギーナン、キサンタンガム、ジェランガム、グァーガム、タラガム、タマリンドシードガム、プルラン、キトサン、マクロホモプシスガム、アラビアガム、ペクチン、ローカストビーンガム等のガム質、デンプン、カゼインナトリウム、乳清タンパク質濃縮物、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC),メチルセルロース(MC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、等の高分子化合物及びその分解物、アスパラギン酸、アルギニン、アルギングルタミン酸塩、イソロイシン、グルタミン、グルタミン酸、グルタミン酸カリウム等のアミノ酸及びその塩類、リン酸、メタリン酸、ポリリン酸、ピロリン酸等のリン酸類及びその塩類、しらこたんぱく抽出物、ホオノキ抽出物、タデ抽出物、ローズマリー抽出物、クローブ抽出物等の動・植物由来の抽出物、大豆多糖類、乳糖、ミネラル類、ビタミン類、糖アルコール類、香料、着色料等を配合することができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の内容を以下の実験例、実施例、比較例等を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。なお、文中、「部」は「重量部」および「%」は「重量%」を意味する。
【0032】
試験例1:味噌の調製
(1)麹の調製
(実施例1の製法)
白米100部を15℃の水に一夜浸漬し、これを水切りし、浸漬米125部を得た。本発明品は、浸漬液にナイシンを3,000IU/g、クエン酸を0.1%となるように添加した。浸漬米を蒸し器にて、1時間蒸し蒸し米を得た。蒸し米を30〜35℃まで冷却し、109cfu/gの種麹を蒸し米の1/1000量を、蒸し米に均一になるように接種した。種付けした蒸し米を30℃の麹室で培養し、種付け後17時間後麹を手で揉み解した。種付け後45時間で出麹し、125部の麹を得、食塩15部を加え塩きり麹140部を調製した。
【0033】
(実施例2の製法)
白米100部を15℃の水に一夜浸漬し、これを水切りし、浸漬米125部を得た。浸漬米を蒸し器にて、1時間蒸し蒸し米を得た。蒸し米を30〜35℃まで冷却し、109cfu/gの種麹を蒸し米の1/1000量を、蒸し米に均一になるように接種した。本発明品は、種麹接種と同時にナイシンを1,000IU/gとなるように添加した。種付けした蒸し米を30℃の麹室で培養し、種付け後17時間後麹を手で揉み解した。本発明品は揉み解しの時に、ナイシンを更に500IU/gの濃度になるように追加した。種付け後45時間で出麹し、125部の麹を得、食塩15部を加え塩きり麹140部を調製した。
【0034】
(比較例1の製法)
実施例2の製法のうち、ナイシンを添加しない以外は同様の方法で麹を調製した。
【0035】
(2)大豆の処理
洗浄した大豆100部を20℃の水で一夜浸漬後、0.7kg/cm2(115℃)で30分間加圧蒸煮した。加圧蒸煮した大豆は直ちに15〜23mmの孔を有する味噌こし器を通して砕き210部の加圧蒸煮大豆を得た。
【0036】
(3)仕込み
砕いた加圧蒸煮大豆210部、塩きり麹140部、食塩25部を混合し、発酵槽に堅く充填し表面をビニール布で覆い、板を載せ150部の重石を載せる。
【0037】
(4)熟成
発酵槽を30℃に管理し3ヶ月熟成させ、本発明の味噌を得た。
【0038】
(5)細菌検査
熟成の終わった味噌は標準寒天培地を用い測定した。
【0039】
【表1】

【0040】
比較例1の味噌には一般生菌数が106個/g以上検出されたが、実施例1及び2の味噌からは一般生菌数が10個/g以下であった。
【0041】
試験例2:西京味噌の調製
(1)麹の調製
(実施例3の製法)
白米230部を15℃の水に一夜浸漬し、これを水切りし、浸漬米285部を得た。浸漬米を蒸し器にて、1時間蒸し蒸し米を得た。蒸し米を30〜35℃まで冷却し、109cfu/gの種麹を蒸し米の1/1000量を、蒸し米に均一になるように接種した。本発明品は、種麹接種と同時にナイシンを500IU/gとなるように添加した。種付けした蒸し米を30℃の麹室で培養し、種付け後17時間後麹を手で揉み解した。本発明品は揉み解しの時に、ナイシンを更に500IU/gの濃度になるように追加した。種付け後45時間で出麹し、285部の麹を得た。
【0042】
(比較例2の製法)
実施例3の製法のうち、比較例として、ナイシンの替わりに、ナイシン生産乳酸菌Lactobacillus lactisを3.0×106 を種麹と一緒摂取し培養した。
【0043】
(2)大豆の処理
洗浄した大豆100部を20℃の水で一夜浸漬後、0.7kg/cm2(115℃)で30分間加圧蒸煮した。加圧蒸煮した大豆は直ちに15〜23mmの孔を有する味噌こし器を通して砕き210部の加圧蒸煮大豆を得た。
【0044】
(3)仕込み
砕いた加圧蒸煮大豆210部を熱いうちに麹285部と食塩30部を混合し、発酵槽に空気が入らないより(堅く)充填し表面をビニール布で覆い、板を載せ200部の重石を載せる。
【0045】
(4)熟成
発酵槽を25℃に管理し7日間熟成させ、本発明の西京味噌を得た。
【0046】
(5)細菌検査
熟成の終わった西京味噌の乳酸菌数をB.C.P.加プレートカウント寒天培地を用い測定した。
【0047】
【表2】

【0048】
比較例2の味噌には乳酸菌数が3.2×107個/g検出されたが、実施例3の味噌からは乳酸菌を検出することは出来なかった。また、比較例2の西京味噌を使用して山菜の味噌和えを調製したが、味噌和えは乳酸発酵が進み、乳酸発酵臭が風味に影響を与えた。それに対して、実施例3の西京味噌を添加した山菜の味噌和えは、乳酸発酵臭は感じられず良好な風味であった
【0049】
実施例4:サバの味噌煮
下記表3に掲げる処方のうち、サバの皮に切り目を入れ、酒、だし汁を加えて沸騰させる。砂糖、実施例1又は比較例1で調製した味噌(半分量)を入れ、強火で8分煮た後、残りの味噌を加え、弱火で7分煮込んで、サバの味噌煮を調製した。できあがったサバの味噌煮を25℃にて保存し、一般生菌数を測定した。結果を表4に示す。
【0050】
【表3】

【0051】
【表4】

【0052】
注)菌数が106個/g以上については、腐敗とみなし以後、菌数測定中止
【0053】
表4より、実施例2のナイシンを使用した味噌で作成したサバの味噌煮は、比較例1のナイシン無添加の味噌を使用したものと比較して菌数が少なく、日持ち効果の向上が確認された。
【0054】
実施例5:肉味噌そぼろ
下記表5に掲げる処方のうち、鶏挽肉と酒をポロポロになるまで炒めた後、弱火にし、砂糖、味噌を加えて混合して、肉味噌そぼろを調製した。できあがった肉味噌そぼろを25℃にて保存し、一般生菌数を測定した。結果を表6に示す。
【0055】
【表5】

【0056】
【表6】

【0057】
注)菌数が106個/g以上については、腐敗とみなし以後、菌数測定中止
【0058】
表6より、ナイシン添加の実施例2の味噌で作成した肉味噌そぼろは、ナイシン無添加の比較例1の味噌を使用したものと比較して菌数が少なく、日持ち効果の向上が確認された。
【0059】
実施例6:わかめのぬた
下記表7に掲げる処方のうち、わかめを洗い、水切りした後、味噌、食酢、砂糖を混ぜたものに、水洗いしたわかめを加えあえ、わかめのぬたを調製した。できあがったわかめのぬたを15℃にて保存し、一般生菌数を測定した。結果を表8に示す。
【0060】
【表7】

【0061】
【表8】

【0062】
注)菌数が106個/g以上については、腐敗とみなし以後、菌数測定中止
【0063】
表8より、ナイシンを添加した実施例2の味噌で作成したわかめのぬたは、ナイシン無添加の比較例1の味噌を使用したものと比較して菌数が少なく、日持ち効果の向上が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明により、麹以外の微生物の増殖を防ぎ混入した微生物も死滅させた麹を製造することができ、また、当該製麹された麹を使用して製造した味噌を各種味噌含有食品に使用することにより、食品の風味や味に影響を与えないで保存性の高い味噌含有食品を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
麹を製造する際、ナイシンを10〜10,000IU/g量添加することを特徴とする麹の製造法。
【請求項2】
麹原料を水浸漬する際に浸漬液にナイシンを添加する、請求項1に記載の麹の製造法。
【請求項3】
ナイシンを浸漬液に添加する際に有機酸及び/又はその塩を併せて添加する、請求項2に記載の麹の製造法。
【請求項4】
製麹時に、ナイシンを2回以上に分けて添加する請求項1に記載の麹の製造法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の方法で製造された麹を使用して、発酵、熟成せしめる味噌の製造法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法で製造された味噌を使用して製造された、保存性に優れた味噌含有食品。

【公開番号】特開2007−236384(P2007−236384A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−7347(P2007−7347)
【出願日】平成19年1月16日(2007.1.16)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】