説明

麹組成物その製造方法およびこれを用いてなる漬け床

【課題】本来麹が有する機能を低下することなく長期保存安定性に優れた麹組成物の提供。
【解決手段】麹100重量部に対し食塩0.5〜10重量部を濃度1〜10重量%の食塩水溶液として、麹100重量部に対しアルコール2〜20重量部(100%換算)を濃度5〜22%のアルコール溶液として添加混合してなる麹組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は長期保存性に優れた麹組成物およびその製造方法に関する。詳しくは長期保存性に優れ、麹漬け、粕漬け、味噌原料等として好適に使用される麹組成物、その製造方法およびこの麹組成物を用いてなる漬け床に関するものである。
【背景技術】
【0002】
味噌は蒸した米や大豆に麹や塩を混ぜて発酵させた所謂発酵食品の代表といわれるものである。又、肉や魚介類、大根や瓜類のみならず各種の野菜類は、保存食として或は食味を増すために麹漬け、酒粕漬け、味噌漬けなどに加工されているが、何れも麹を原料としている。
麹漬けは麹、米、塩などを混ぜて作った麹漬け床に、又粕漬けは酒粕、麹、塩、味噌などを混合して作った酒粕漬け床に野菜や肉魚介類を漬け込み、数日から物によっては数年も漬け込んでから引き上げて食に供される。これらは何れも麹の酵母による殺菌作用と酵素の働きによってそのタンパク質がアミノ酸に分解され食味が増すと言われており、古くから各家庭において、或は商業生産用として利用されている。
しかしながら、これらに使用される麹は、常温、開放状態では数日で腐敗し始めるため、腐敗防止策として真空パック、乾燥、冷蔵などの保存方法が採用されているが何れもその効果は十分ではなく、真空パックでも半年、乾燥品では10日で腐敗が始まる。また10℃以下の冷蔵保存では1年以上の腐敗防止効果はあるが、保存が長期に渡ると麹本来の機能を失うとの欠点を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は主として味噌などの発酵食品や漬物類に使用される麹を、本来、麹が有する機能を低下することなく長期保存を可能にする麹組成物およびその製造方法、更にはそれを用いてなる漬け床を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者はかかる課題を解決すべく鋭意検討した結果、麹に特定量の塩とアルコールを存在せしめる場合には、常温下で保存しても、麹が有する機能を低下することなく長期保存が可能な麹組成物が得られることを見出し本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち、本発明は麹100重量部に対し、食塩0.5〜10重量部およびアルコール2〜20重量部(100%換算)を含有してなる麹組成物を提供するものである。
【0006】
さらに本発明は、麹100重量部に対し食塩0.5〜10重量部を濃度1〜10重量%の食塩水溶液として、麹100重量部に対しアルコール2〜20重量部(100%換算)を濃度5〜22%のアルコール溶液として添加混合することを特徴とする麹組成物の製造方法を提供するものである。
【0007】
また本発明は、麹100重量部に対し、食塩0.5〜10重量部およびアルコール2〜20重量部(100%換算)を含有してなる漬け床を提供するものである。
【0008】
加えて本発明は、麹100重量部に対し食塩0.5〜10重量部を濃度1〜10重量%の食塩水溶液として、麹100重量部に対しアルコール2〜20重量部(100%換算)を濃度5〜22%のアルコール溶液として添加混合することを特徴とする漬け床の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明による麹組成物は、常温下においても腐敗等を生じることなく長期保存が可能であり、長期保存後も、味噌などの発酵食品や麹漬け、粕漬けなどの原料として麹本来の機能を損なうことなく使用可能であり、例えば本発明の麹組成物をそのまま漬け床として使用する場合には、漬け床としての長期保存が可能であると共に、これに肉類、魚介類、野菜等を漬け込む場合には、麹の酵母による殺菌作用と酵素の働きによるものと推測されるが、非常に美味な漬物が得られるとの効果をも発現するものであり、その産業上の利用効果は極めて大なるものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を具体例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる具体例に制限されるものではない。
本発明において使用される麹は、公知の麹であればよく、例えば米麹(黄麹)、黒麹、紅麹、小麦麹、豆麹、糠麸麹、麺子(きょくし)などが挙げられるが、本発明は漬け床として多用される米麹への適用が推奨される。かかる米麹は生麹でもよく、また生麹を特殊な製法で乾燥した市販の乾燥麹、更には蒸し米と乾燥麹などから作った米麹であってもよい。
【0011】
麹と混合する食塩は、麹100重量部に対し食塩約0.5重量部〜約10重量部、好ましくは約1重量部〜約8重量部である。食塩の量が麹100重量部に対し約0.5重量部未満の場合にはカビの発生や腐敗が生じ常温での保存効果がなく、他方10重量部を越える場合にはカビや腐敗は観察されないが、長期保存による麹の活性が著しく低下する。麹と混合するアルコールは特に制限されないが通常果実酒の製造に用いられる焼酎、リキュールなどのアルコールや工業用アルコール等が適用可能である。麹に混合するアルコールの量は、麹100重量部に対しアルコール約2重量部〜約20重量部(100%換算)、好ましくは約5重量部〜約18重量部である。アルコールの量が麹100重量部に対し約2重量部未満の場合には長期保存効果は見られず、他方20重量部を越える場合にはカビや腐敗は観察されないが、長期保存による麹の活性が著しく低下する。
【0012】
麹に対し食塩およびアルコールを添加、混合し、上記麹組成物を製造する場合には、食塩は麹100重量部に対し食塩0.5〜10重量部を濃度約1〜約10重量%の食塩水溶液として、アルコールは麹100重量部に対しアルコール2〜20重量部(100%換算)を濃度5〜22%のアルコール溶液として添加混合する。使用する食塩水溶液の濃度が約1重量%未満の場合にはカビの発生や腐敗が生じ常温での保存効果が見られず、10重量%を越える場合にはカビや腐敗は観察されないが、長期保存による麹の活性が著しく低下する。また、アルコールの濃度が5重量%未満の場合にはカビの発生や腐敗が生じ常温での保存効果が見られず、22重量%を越える場合にはカビや腐敗は観察されないが、長期保存による麹の活性が著しく低下する。
麹に対し食塩水、アルコール溶液の添加、混合方法は特に制限されるものではなく、麹に食塩水、アルコール溶液が均一に混合されればよく、例えばドラムミキサー、万能混合ミキサー等の公知の混合機に麹、食塩水、アルコール溶液を同時、あるいは投入間隔を空けず順次投入し攪拌混合すればよい。
【0013】
本発明の実施に際しては、麹に対して食塩およびアルコールは最初から上記濃度の食塩水溶液やアルコール溶液を添加し混合することが好ましいが、1時間以内、好ましくは30分以内の短時間であれば、麹に上記濃度より高濃度のアルコールや食塩粉末を加えた後、水や液体調味料などを加え、混合することによって最終的にこの濃度範囲にしても良い。
【0014】
このようにして得られた本発明の麹組成物は漬け床としても利用可能である。漬け床としての適用に際しては、そのまま用いてもよいが、好みにより漬け床に用いられる公知の物質、例えば香り付けの果物、風味付けの調味料、甘み付けの蜂蜜や味醂、更にはとうがらし等の香辛料を使用することを本発明は何ら妨げるものではない。
【0015】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
実施例1
〈実験例1〜8〉
低密度ポリエチレン袋に乾燥米麹(商品名TT−90:徳島製麹株式会社製)1kgと表1に記載のアルコール及び食塩を投入し、投入口を密閉した後、両手で袋を上下左右に振り、袋内の麹、食塩及びアルコールを十分混合した。このようにして得られた混合物(麹組成物)を蓋付きの透明樹脂容器に入れ、20℃に温度調整した部屋に5日間保持し、次いで実質的に人の出入りのない部屋のテーブルに載置し、常温下大気中に放置し、麹組成物の経時変化を観察、評価した。観察、評価は本研究作業従事者4名により行った。
尚、実施例に用いた液体調味料はアルコール分0.9%以下、食塩分0.5%以下(商品名:新味料、キング醸造株式会社製)であった。又、実験例7に用いた米麹は蒸し米750gと上記と同じ乾燥米麹250gを混合し55℃に6時間保持して製造したものである。
その結果を表1に示す。
【0016】
【表1】

【0017】
実施例2
〈実験例9〜13〉
実施例1で耐腐敗試験に合格した実験例3、5〜8の麹組成物の麹としての機能(活性状況)を調査すべく、これら麹組成物を漬け床として用い、これに豚肉、鮭、大根を1週間漬け込み判定した。判定は漬け床より取出した豚肉及び鮭はオーブンで焼き、大根は漬物として試食してこれらの食品が麹漬けとなっているかを主婦4名の官能試験により行った。その結果を表2に示す。
【0018】
【表2】

【0019】
表1及び2から明らかな如く、麹単独、または麹に対する食塩やアルコールの量が本発明範囲よりも低い麹組成物は常温に長期間放置すると変質しカビが発生したり異臭がするようになり保存安定性が悪い。また、麹に対する食塩やアルコールの量や濃度が本発明範囲よりも高い麹組成物はカビや異臭はなく一見保存安定性は優れているものの、麹菌本来の機能が著しく低下していることがわかる。これに対して本発明により得られた麹組成物は保存安定性に優れ、かつ長期保存後も麹本来の機能を維持しており、麹組成物そのままで肉類、魚介類、野菜などの優れた漬け床として使用可能であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
麹100重量部に対し、食塩0.5〜10重量部およびアルコール2〜20重量部(100%換算)を含有してなる麹組成物。
【請求項2】
麹が米麹であることを特徴とする請求項1記載の麹組成物。
【請求項3】
麹100重量部に対し、食塩0.5〜10重量部およびアルコール2〜20重量部(100%換算)を含有してなる漬け床。
【請求項4】
麹が米麹であることを特徴とする請求項3記載の漬け床。
【請求項5】
麹100重量部に対し食塩0.5〜10重量部を濃度1〜10重量%の食塩水溶液として、麹100重量部に対しアルコール2〜20重量部(100%換算)を濃度5〜22%のアルコール溶液として添加混合することを特徴とする麹組成物の製造方法。
【請求項6】
麹が米麹であることを特徴とする請求項5記載の麹組成物の製造方法。
【請求項7】
麹100重量部に対し食塩0.5〜10重量部を濃度1〜10重量%の食塩水溶液として、麹100重量部に対しアルコール2〜20重量部(100%換算)を濃度5〜22%のアルコール溶液として添加混合することを特徴とする漬け床の製造方法。
【請求項8】
麹が米麹であることを特徴とする請求項7記載の漬け床の製造方法。

【公開番号】特開2010−279341(P2010−279341A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−151554(P2009−151554)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(591069879)
【Fターム(参考)】