説明

麺の製造方法

【課題】
生麺や冷凍麺に勝るとも劣らない優れた食感を実現しながら、エネルギー消費を極めて少なくでき、さらに短時間の加熱で食べる状態に調理できる、しかも時間が経過しても茹で調理するまでは食感が低下しない麺の製造方法を提供する。
【解決手段】
水分率を38重量%以上であって70重量%以下とする麺の製造方法であって、第1のデンプンに、第1のデンプンより低温で糊化する第2のデンプンを小麦粉に添加して製麺した後、製麺された麺を加熱して表層部のデンプンを糊化して麺芯部のデンプンを表層部よりも糊化しない状態として、表層部と麺芯部とのデンプンの糊化に勾配を持たせることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍麺に勝るとも劣らない極めて優れた食感としながら、エネルギーコストを低減できる麺の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
麺の食感は、表面を柔らかく、内部を硬く腰のある状態として良くできる。全体が柔らかくても、また硬くても優れた食感にはできない。歯で噛んだときに、表面が柔らかくて、内部に腰のある麺が最も優れた食感となる。この状態は、麺の表面から内部に向かって水分勾配を設けて実現できる。すなわち、表面の水分率を内部よりも高くして、優れた食感の麺を実現できる。高い水分率で糊化、すなわちα化して表面を柔らかく、低い水分率で糊化して内部を硬くできるからである。生麺を茹でた直後は、水分勾配ができる状態となって優れた食感となる。それは、生麺が加熱して調理されるとき、表面から内部に水分を浸透させながら、デンプンを糊化させるからである。デンプンは、糊化に多量の水分を必要とし、糊化して多量の水分を保水する。デンプンは、周囲に十分な水分がある状態で加熱されると、極めて短い時間、たとえば数秒で糊化する。生麺を茹でて糊化に時間がかかるのは、水分の浸透に時間がかかるからである。すなわち、生麺を茹でるとき、表面から内部に水分が浸透するに従ってデンプンが糊化される。水分が浸透する時間が、生麺の茹で時間となっている。水分を表面から内部に浸透させながら糊化する生麺は、表面の水分率が高く、内部の水分率が低くなる、すなわち表層部と麺芯部とで水分勾配ができる。糊化したデンプンが水分を保水して、内部への水分浸透を阻止するからである。このため、生麺は優れた食感にできるが、茹で時間が、10〜15分と相当に長くなる欠点がある。茹で時間が長い麺は、たとえ優れた食感があっても、現実の使用状態において極めて大きな弊害となる。それは、たとえば食堂やレストランで注文を受けてから、食べられる状態に調理するのに時間がかかり、待ち時間が長くなって、速やかに対応できなくなるからである。また、家庭においても、食べられる状態に調理するのに、時間がかかることは決して好ましいことではない。
【0003】
この欠点を解消するために、生麺を製造過程で茹でてデンプンを糊化する状態で流通する麺が市販されている。この茹で麺は、すでにデンプンを糊化しているので、食べるときに単に加熱すればよく、調理に要する時間を著しく短縮できる。ただ、この麺は優れた食感にできない致命的な欠点を解消できない。それは、茹でた状態では麺に水分勾配があっても、流通に時間がかかることから、茹でてから食べるまでの間に、麺の内部で水分が均一化されて水分勾配がなくなるからである。水分勾配のなくなった麺は、内部を硬くして腰のある状態にできず、食感が低下して美味な状態には保持できない。さらにこの麺は、茹でる過程で糊化、すなわちα化されたデンプンが、時間が経過するにしたがってβ化して劣化し、味覚が低下してしまう欠点もある。とくに、茹で麺は、冷蔵保存によっても糊化したデンプンの劣化を阻止できない。困ったことに、α化したデンプンのβ化は、冷蔵温度に近い約4℃で最も甚だしく、冷蔵はデンプンのβ化を促進してしまう。
【0004】
この欠点を解消する麺として、茹で麺を冷凍状態に凍結し、凍結状態で流通する冷凍麺が市販されている。茹で麺を冷凍した冷凍麺は、生麺を茹でた直後に冷凍して製造される。冷凍麺は、自由水を凍結して移動しない状態とし、さらにデンプンのβ化も阻止する。このため、冷凍麺は水分勾配がある状態に保持して、時間が経過しても食感が低下するのを少なくできる。また、すでに茹でてデンプンを糊化しているので、解凍した後に、短時間の加熱で食べる状態に調理できる。すなわち、冷凍麺は、時間が経過しても生麺に匹敵する食感を実現しながら、茹で時間を短縮できる理想的な特性を実現する。この特徴が生かされて、冷凍麺は高品質麺を短時間調理で喫食出来る美味な麺として、冷凍技術の発展及びコールドチェンの拡大と共に大きく躍進している。ただ、冷凍麺は、生産工場では茹でるための熱エネルギーを必要とし、加えて、茹で工程及び洗い工程で多量の水を必要とし、さらに加熱した麺を凍結するまで冷却するために多量の冷凍エネルギーを消費し、さらにまた、冷凍麺となった状態では、冷凍保管、冷凍流通させるために、さらに低温に保存するための冷却のエネルギーを消費することから、エネルギー消費が極めて大きくなる欠点がある。とくに、冷凍麺は、輸送においては、構成のほとんどを水と空隙とする食品であることから、冷凍輸送における効率が極めて低くなる欠点もある。更に、冷凍麺は、調理現場に搬送された状態においても冷凍状態に保存する必要があり、調理現場に冷凍庫と解凍釜を必要とする。すなわち、多水分型冷凍加工食品である冷凍麺は、正にエネルギー浪費型食品の典型となっている。また、冷凍麺は、解凍した後冷蔵保存すると食感が急激に低下する欠点がある。それは、冷蔵保存するときに、水分が移動して水分勾配が解消されるからである。
【0005】
冷凍麺のように多量のエネルギーを消費することなく、麺類の茹で時間を短縮する技術は開発されている。(特許文献1ないし3参照)
特許文献1の公報は、家庭で短時間加熱調理して、生麺を茹であげた直後の食感を実現する半調理麺を記載する。この半調理麺は、生麺を短時間加熱処理して水分率を65%以下として製造される。また、この半調理麺は、生麺を短時間加熱処理した後、必要に応じて水冷、及び/又は酢溶液浸漬処理して、水分率を65%以下として製造される。この半調理麺は、短時間の加熱で麺線の表層部のデンプンを糊化している。糊化したデンプンは、麺線の表層を硬化して保護する。このため、時間が経過して味覚が悪くなるのを防止する。また、酢溶液に浸漬することで保存性を改善している。
【0006】
この半調理麺は、短時間の加熱で麺線の表層部のデンプンを糊化するが、表層部のデンプンのみの糊化が極めて難しい。それは、加熱されたデンプンが極めて短時間の加熱で糊化するからである。たとえば、表層部のデンプンを糊化するために表面から加熱すると、熱伝導で麺芯部が加熱されて、麺芯部のデンプンも糊化される。この弊害は、原理的には麺線の加熱時間を短くして抑制できる。しかしながら、いかに短時間の加熱であっても、加熱された表層部から麺芯部への熱伝導を阻止することはできない。このため、現実には麺線の表層部のみのデンプンを糊化するのが極めて難しい。麺線が表層部から麺芯部まで糊化されると、従来の茹で麺と同じになって、好ましい食感が実現できなくなる。
【0007】
さらに、特許文献2は、生麺を瞬間的に加熱してその表層のデンプンをα化して変成被覆層を設け、その後水に浸漬する麺の製造方法を記載している。この方法で製造される麺も、加熱して表層にデンプンのα化された被覆膜を設ける。この被覆膜が麺線を保護する状態で、水分率を調整する。この公報に記載される方法は、生麺を瞬間的に加熱した後、常温まで冷却し、その後、水漬して水分率をコントロールする。この高水分麺は、引用文献1に記載される麺と同じように、麺線表面をα化したデンプン層で保護する。したがって、時間が経過して味覚が低下するのを防止する。
この方法も特許文献1と同じように、生麺を瞬間加熱して変成被覆層を設けるが、瞬間的に加熱された生麺は、表層部から麺芯部に熱伝導によって熱が伝わり、表層部のみのデンプンの糊化は極めて難しい。
【0008】
さらに、特許文献3は、麺線の表面をアルギン酸カルシウムの凝固皮膜で被覆して、表面を保護する。すなわち、この公報の麺線は、α化したデンプン層に代わって、アルギン酸カルシウムの凝固皮膜で被覆する。この麺線は、アルギン酸カルシウムの凝固膜で表面を保護して、麺線の経時的な劣化を防止する。
【特許文献1】特開昭60−259154号公報
【特許文献2】特開昭60−224458号公報
【特許文献3】特開昭60−12946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
麺線の表面に、デンプンを糊化した保護層を設けることができるなら、この保護層でもって、時間が経過して軟弱化し、型崩れして味覚が悪くなるのを防止できる。また、保護層で表面を保護している麺線は、水分率を高くして、食べるときの茹で時間を短縮できる。麺線の内部まで好ましい水分率とする麺線は、麺線を加熱してデンプンをα化する工程で、麺線の内部に水分を浸透させる必要がないからである。うどんの場合、生麺の茹で時間が10〜15分と極めて長いのは、デンプンのα化に時間がかかるのではない。茹でる過程で、麺線の内部まで水を浸透させて、所定の水分率にコントロールしながらα化するのに時間がかかるからである。デンプンは、条件が整えば数秒と極めて短時間の加熱でα化されるので、麺線全体を好ましい水分率にコントロールしている麺線は、短時間で麺線全体のデンプンをα化できる。ただ、全体を食べて美味な水分率、すなわち相当に高い水分率とする麺線は、表面に保護層を設けないかぎり、軟弱化し、型崩れして美味な麺にはできない。特許文献1〜3の高水分麺は、表面に保護層を設けて内部の水分率を食べる状態で好ましい水分率にできる。このため、茹でるときに、麺線の内部に水分を浸透させる時間を必要とせず、短時間で茹でて食べることができる。ただ、現実には、麺線の表面に薄い保護層を設けることが極めて難しい。
【0010】
特許文献1〜3の麺は、茹で麺が、麺線全体のデンプンをα化しているのに代わって、麺線表面のみのデンプンを糊化して保護層とする。ただ、薄い保護層を設けることが極めて難しいことから、本発明者は、麺線の表面に薄い保護層を設ける技術を開発した。(特願2006−242000)
【0011】
この方法は、麺を茹でて表層部をα化した後、麺を有機酸に接触させてphを6以下とし、または塩水に接触させて塩分濃度を1%ないし20%とし、あるいはまた、麺線の浸透圧が塩分濃度1%ないし20%に該当するよう調整する溶液に接触して、麺線の表層部に薄い保護層を設けるものである。この製造方法は、茹で麺の表面に薄くて強い保護層を設け、この保護層で麺線の軟弱化による型崩れをより有効に防止するものである。この方法は、冷凍麺に比較してエネルギー消費を少なくできる。とくに、麺の表面のみを加熱してデンプンを糊化するので、茹で時間を著しく短くしてこの工程におけるエネルギー消費も少なくできる。すなわち、冷凍に消費するエネルギーを少なくしながら、さらに茹でるエネルギーも少なくできる。ただ、この方法によっても、麺の食感を生麺や冷凍麺に勝るとも劣らない極めて優れた状態とするのは難しい。
【0012】
本発明は先に開発した製造方法をさらに改良して、冷却保存することなく、生麺や冷凍麺に勝るとも劣らない優れた食感を実現できる麺の製造方法を提供することにある。
また、本発明の他の大切な目的は、冷凍麺に比較してエネルギー消費を極めて少なくできる麺の製造方法を提供することにある。
さらにまた、本発明の他の大切な目的は、短時間の加熱で食べる状態に調理できると共に、調理するまでの時間が経過しても食感が低下しない麺の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の麺の製造方法は、水分率を38重量%以上であって70重量%以下とする麺の製造方法であって、第1のデンプンと、この第1のデンプンより低温で糊化する第2のデンプンを添加して製麺した後、製麺された麺を加熱して、表層部のデンプンを糊化して麺芯部のデンプンを表層部よりも糊化しない状態とし、表層部と麺芯部とのデンプンに糊化の勾配を持たせている。
【0014】
本発明の麺の製造方法は、表層部のデンプンを糊化して、麺芯部のデンプンを表層部よりも糊化しない状態として、表層部と麺芯部とでデンプンの糊化に勾配を設けている。表層部で糊化するデンプンは、その多くが第2のデンプンである。第2のデンプンが第1のデンプンよりも低温で糊化するからである。麺芯部で表層部よりも糊化しないデンプンは、その多くが第1のデンプンである。第1のデンプンは第2のデンプンよりも糊化し難いからである。表層部のデンプンを糊化させるのは、麺の表層部に糊化したデンプンで保護層を設けて麺の型くずれを防止するためである。表層部と麺芯部とでデンプンの糊化に勾配を設けるのは、茹で調理した状態で表層部と麺芯部とに水分勾配を設けるためである。また、表層部のデンプンを糊化して麺芯部のデンプンを表層部よりも糊化させないのは、表層部で糊化した生地が、麺芯部で糊化しない生地より多くの水分を保持し、茹で調理以前においても、表層部と麺芯部との糊化勾配により、結合水に水分勾配を設けるためである。さらにまた、茹で調理する状態で、糊化界面内側が自由水の移動を制限しながら、麺芯部のデンプンを糊化して、水分勾配を設けるためでもある。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、極めて巧妙な方法で麺に大切な食感を著しく向上することに成功したものである。本発明の製造方法は、加熱されると第1のデンプンより低温で糊化する第2のデンプンを添加して製麺すると共に、製麺された麺を加熱して、表層部のデンプンを糊化し、麺芯部のデンプンを表層部よりも糊化しない状態とし、表層部と麺芯部とでデンプンの糊化に勾配を設けている。この方法で製造して、麺全体での水分率を38重量%ないし70重量%と高くしている。この麺は食するときに熱湯に浸漬して茹で調理される。茹で調理された麺は、熱湯の熱で全体のデンプンがα化、すなわち糊化される。表層部と麺芯部とに糊化の勾配を設けている麺は、時間が経過すると自由水は全体で平衡状態となる。ただ、デンプンは糊化するときに多量の水分を抱えることから、糊化した表層部は多量の水分を含み、糊化の少ない麺芯部は水分率が少なくなる。したがって、糊化に勾配を設けている麺は、茹で調理する前の状態においても、表層部の水分率が麺芯部よりも高くなる状態となって、この状態においてすでに水分勾配ができる。さらに、この麺が熱湯に浸漬して茹で調理されると、麺に含まれるデンプンの糊化は、表層部から麺芯部に進行して全体が糊化される。すなわち、糊化の界面は表層部から麺芯部に進行する。デンプンは糊化するときに周囲から多量の水分を奪うことから、糊化する界面は、周囲から水分を奪いながら表層部から麺芯部に進行する。いいかえると、麺表面のみならず麺芯部からも糊化の界面に水分を補給しながら、糊化の界面は表層部から麺芯部に進行する。したがって、糊化の界面に水分を補給する麺芯部は、糊化の界面が麺芯部に進行するにしたがって水分が少なくなり、麺の全体が糊化する状態では、表層部と麺芯部との水分勾配をさらに大きくなる。糊化の界面が表層部から麺芯部に進行するとき、麺芯部から水分を奪いながら、糊化の界面が麺芯部に進行する。このことも、麺の全体が糊化する状態における表層部と麺芯部との水分勾配を大きくする。したがって、本発明の方法で製造された麺は、茹で調理された状態で、表層部と麺芯部とに大きく水分勾配を設けることができる。すなわち、本発明の方法は、以下の第1〜第2の作用で、茹で調理された状態において表層部と麺芯部とに水分勾配を設けることができる。第1の作用は、表層部と麺芯部との糊化の勾配を設ける状態で、表層部で糊化したデンプンが多量の水分を抱えて水分勾配ができること。第2の作用は糊化の界面が表層部から麺芯部に進行するときに、周囲から水分を奪うことで、麺芯部の水分が少なくなって水分勾配ができること。
したがって、茹で調理された麺は、表層部から芯部に向かって水分勾配ができ、この麺の水分勾配によって、表面を柔らかく、芯部を硬くして、極めて美味な食感を実現する。すなわち、本発明の製造方法は、水分率を特定の範囲とし、しかも先に加熱して表層部のデンプンを糊化して、表層部と麺芯部とでデンプンの糊化に勾配を設けることで、食べるときの茹で調理に要する時間を短縮しながら、水分勾配によって食感を著しく向上する。本発明の麺は、水分率を特定の範囲とし、表層部のデンプンを糊化して表層部と麺芯部とでデンプンの糊化に勾配ができる状態で流通される。この状態にある麺は、流通する状態で冷凍することなく、食べるときには茹で調理して優れた食感にできる。それは、本発明の麺が、従来の冷凍麺のように、冷凍して自由水の移動を阻止して水分勾配を実現するのではなく、前述した第1〜第2の作用で茹で調理した状態では、表層部と麺芯部とに水分勾配ができるからである。この状態で水分勾配を設ける本発明の麺は、デンプンを糊化する表層部の厚さは、麺の加熱条件でコントロールできる。麺の加熱時間を長くすると、表層部のデンプンは厚い層で糊化し、加熱時間を短くするとデンプンが糊化する表層部を薄くできる。また、麺は、全体の水分率をコントロールして、麺全体の食感を硬く、あるいは柔らかくできる。
【0016】
以上のように、本発明は、独特の方法で麺に水分勾配を設けて麺の優れた食感を実現する。このため、水分勾配をコントロールすることで、冷凍麺に勝るとも劣らない食感を実現しながら、冷凍麺と同じように短い茹で時間で調理できる正に理想的な特性を実現する。本発明は、特定の水分率として表面のデンプンを糊化する独特の方法で茹で時間を短縮でき、また、冷凍麺のように、製造工程においては、茹でるための熱エネルギーや、茹でた麺を冷却して凍結するための多量の冷凍エネルギーを消費することなく製造できると共に、製造後においても、冷凍保管、冷凍搬送させるための冷却のエネルギーを必要とせず、また調理現場においても冷凍設備などの特別な設備を必要としない。したがって、製造工程、流通工程、調理工程の全てにおいて、冷凍麺に比較してエネルギーコストを著しく低減でき、また冷凍しないことから設備コストとランニングコストを低減して、著しく合理化できる特徴がある。
【0017】
すなわち、本発明は、従来のいかなる麺も実現できなかった、優れた食感と、短い茹で時間と、少ないエネルギー消費を実現する正に理想的な麺となる。
【0018】
さらに、本発明の請求項2の製造方法は、請求項1の構成に加えて、麺を温水に浸漬して表層部のデンプンを糊化する。この方法は、表層部のデンプンを速やかに均一な層として糊化できる。さらにまた、本発明の請求項3の製造方法は、請求項1の構成に加えて、第2のデンプンを糊化して第1のデンプンを糊化しない温度の加熱水に浸漬して表層部のデンプンを糊化するので、加熱水に浸漬して、第1のデンプンを糊化することなく、表層部の第2のデンプンを糊化できる。この方法は、第1のデンプンを糊化することなく、表層部の第2のデンプンのみを糊化できる。このため、茹で調理において表層部と麺芯部との水分率を大きくできる。それは、茹で調理する工程で、表層部で糊化する第1のデンプンが水分を奪いながら、麺芯部の第1のデンプンを糊化させるからである。
【0019】
さらに、本発明請求項4の麺の製造方法は、請求項1の構成に加えて、表層部のデンプンを糊化した後麺を冷却するので、表層部のみのデンプンを糊化できる。冷却工程で冷却されることで、デンプンの糊化が麺の芯部に進行するのを阻止できるからである。また、本発明の請求項5の製造方法は、請求項1の構成に加えて、麺を冷却水に浸漬して冷却して、麺の含水率を38重量%以上であって70重量%以下とする。この方法は、麺を速やかに冷却しながら、麺の水分率を理想的な状態にコントロールして、麺の食感を著しく向上できる。
【0020】
また、本発明の請求項6の製造方法は、第2のデンプンの添加量を、3重量%以上とするので、第2のデンプンでもって、麺の表層部を低弾性テキスチャに、芯部を高弾性テキスチャとし美味な食感にできる。
【0021】
さらに本発明の請求項7の製造方法は、請求項1の構成に加えて、麺を50℃以上の加熱水に浸漬するので、麺を極めて短い時間加熱水に浸漬して、表面のデンプンを糊化できる。このため、麺の表層部を糊化するために必要な熱量を極めて少なくして、省エネルギーで美味な麺を製造できる。
【0022】
本発明の請求項8の製造方法は、請求項1の構成に加えて、第1のデンプンを小麦粉中デンプンとし、第1のデンプンよりも低温で糊化する第2のデンプンとして、エーテル化デンプンと、アセチル化デンプンと、85℃以下の糊化開始温度を持つデンプンのいずれかを使用する。この方法は、麺の表層部の第2のデンプンを、短時間の加熱で速やかに糊化して、省エネルギーに麺を製造できる。
【0023】
さらにまた、本発明の請求項9の製造は、第2のデンプンに加えて卵白を添加するので、第2のデンプンと卵白で麺に弾力を与えることが出来ると共に水分付加による軟弱化を改善できる。
【0024】
また、本発明に請求項10の製造方法は、芯部生地と表層生地とを積層して多層構造の麺を製麺し、芯部生地が第1のデンプンを含み、表層生地に第2のデンプンを含むように麺を加工する。この方法は、表層生地と芯部生地を、麺の表層部と芯部とに最適な生地として麺を製造できる。このため、より美味な食感の麺を製造できる。とくに、請求項11の製造方法は、表層生地にのみ第2のデンプンを練り込んでなる生地を製造するので、表層部のデンプンのみを糊化することができる。このため、一部糊化工程における加熱水の浸漬時間を正確にコントロールすることなく、麺の表層部のデンプンのみを糊化できる。さらに、本発明の請求項12の製造方法は、請求項10の構成に加えて、芯部生地に第2のデンプンよりも遅れて糊化するデンプンを添加するので、一部糊化工程における芯部の糊化を確実に阻止できる。
【0025】
さらにまた、本発明の請求項13の製造方法は、麺生地混捏時に、糊化して高粘度低弾性テキスチャとなるデンプンの混合された低弾性生地を麺線表層部生地とし、糊化して高弾性テキスチャとなるデンプンの混合された高弾性生地を麺線芯部生地として、低弾性生地と高弾性生地とを多層構造として製麺する。この方法は、確実に安定して、麺の表層部を低弾性テキスチャとして芯部を高弾性テキスチャとして、美味な食感の麺にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の麺の製造方法は、製麺工程の麺生地混捏時に、第1のデンプンに第2のデンプンを添加して製麺する。製麺工程で製麺された麺は、一部糊化工程において加熱して、表層部のデンプンを糊化して麺芯部のデンプンを表層部よりも糊化しない状態として、表層部と麺芯部とのデンプンの糊化に勾配を持たせる。第2のデンプンは、第1のデンプンよりも低温で糊化するので、麺芯部や表層部の第1のデンプンを糊化させないように加熱して、表層部の第2のデンプンを糊化することができる。一部糊化工程は、表層部と麺芯部の第2のデンプンを糊化して、第2のデンプンの糊化に勾配を持たせることもできるが、好ましくは表層部の第2のデンプンを糊化して、麺芯部の第2のデンプンを糊化しないで、第2のデンプンの糊化に勾配を設ける。ただ、本発明は、第2のデンプンを一部糊化工程において、表層部のデンプンを糊化して麺芯部のデンプンを表層部よりも糊化しない状態とし、表層部と麺芯部とのデンプンに糊化の勾配を持たせることを必須の要件とするが、この工程において、麺芯部の第1のデンプンを非糊化状態として、表層部の第2のデンプン及び第1のデンプンを糊化することができる。第2のデンプンと第1のデンプンの糊化は、加熱温度と加熱時間、麺を加熱水に浸漬する方法にあっては加熱水の温度と、加熱水に浸漬する時間とでコントロールできる。
【0027】
本発明の方法で製造された麺は、食するときに茹で調理して加熱される。茹で調理は、麺を熱湯に浸漬してデンプンを糊化する。熱湯に浸漬される麺は、第1のデンプンを糊化する。このとき、第1のデンプンが糊化する界面は表層部から麺芯部に進行する。糊化の界面が麺芯部まで進行して全体のデンプンが糊化される。この状態で麺の表層部と麺芯部に水分勾配ができる。
【0028】
本発明の製造方法は、表層部のデンプンを糊化させて水漬時に軟弱化するのを保護すると同時に、表層部で糊化したデンプンに水分を抱かせることにより、表層部と麺芯部との糊化に勾配を持たせて、水分勾配のある生麺としている。この生麺は、茹で調理される時に、表層部の糊化したデンプンに抱えられた水分により短時間に富水糊化しながら、表面から芯部への水分伝達が糊層界面内側で緩慢になることにより芯部が低水分な状態で糊化し、早く茹であがりながら水分勾配を持つ美味な高水分麺とする。
【0029】
製麺工程は、麺生地混捏時に、第1のデンプンと、この第1のデンプンより低温で糊化する第2のデンプンを練り込んで製麺する。第1のデンプンは小麦粉デンプン又はトウモロコシデンプンである。以下、第1のデンプンを小麦粉デンプンとする実施例を詳述する。ただし、この第1のデンプンには、トウモロコシデンプンも使用できる。
【0030】
第2のデンプンには、第1のデンプンより低温で糊化するデンプンが使用される。この第2のデンプンには、エーテル化デンプンと、アセチル化デンプンと、85℃以下で糊化開始するデンプンのいずれかを単独で、あるいはこれ等を複数種混合して使用する。第2のデンプンの添加量は、少なすぎると、第1のデンプンを糊化しない状態で、表層部の第2のデンプンを糊化することができなくなる。このため、第2のデンプンの添加量は、たとえば3重量%以上、好ましくは5重量%以上とする。また、第2のデンプンの添加量が多すぎると、添加する第2のデンプンが麺の風味と食感に影響を与える。また、第2のデンプン添加量が多すぎると製麺し難くなる。このため第2のデンプンの添加量は、たとえば50重量%以下、好ましくは30重量%以下とする。さらに、製麺工程の麺生地混捏時に、第2のデンプンに加えて卵白を添加することもできる。卵白の添加量は、0ないし5重量%とする。
【0031】
製麺工程は、第1のデンプンである小麦粉デンプンを含む小麦粉に、第2のデンプンの添加された麺生地を所定の太さの麺線に加工して製麺する。また、図1に示すように、芯部生地1と表層生地2とを積層して多層構造の麺を製麺することもできる。表層生地2は、第1のデンプンの小麦粉に第2のデンプンを練り込んでなる生地である。また、多層構造の麺は、小麦粉に第2のデンプンを練り込んだ表層生地と、小麦粉に第2のデンプンよりも遅れて糊化するデンプンを練り込んだ芯部生地とを積層して製麺することもできる。さらに、多層構造の麺は、製麺工程における麺生地混捏時に、糊化して低弾性テキスチャとなるデンプンの混合された低弾性生地を表層生地とし、糊化して高弾性テキスチャとなるデンプンの混合された高弾性生地を芯部生地として、低弾性生地と高弾性生地とを多層構造として製麺することもできる。糊化して低弾性テキスチャとなるデンプンにはエーテル化デンプンが使用でき、また糊化して高弾性テキスチャとなるデンプンにはリン酸架橋デンプンが使用できる。
【0032】
麺の一部糊化工程は、製麺工程で製麺された麺を、第2のデンプンを糊化できる温度以上に加熱して、麺芯部のデンプンを表層部のデンプンよりも糊化しない状態としながら、表層部のデンプンを糊化して、表層部と麺芯部とでデンプンの糊化に勾配を設ける。一部糊化工程は、麺の加熱温度と加熱時間で、表層部の第2のデンプンの糊化と、麺芯部の第1のデンプンの糊化状態をコントロールする。加熱温度が高く、かつ加熱時間が長いと、デンプンが糊化する表層部が厚くなる。反対に、加熱温度が低く、加熱時間が短いと、デンプンが糊化する表層部は薄くなる。この一部糊化工程は、たとえば55℃、好ましくは、麺を80℃以上の温水に浸漬して表層部の第2のデンプンを糊化する。この工程は、表層部のデンプンを糊化するものであって、麺に含まれる全てのデンプンを糊化するのではない。一部糊化工程は、麺の加熱温度と時間を制御して、麺芯部のデンプンを表層部よりも糊化させない状態としながら、表層部のデンプンを糊化する。好ましくは、第1のデンプンを糊化することなく、第2のデンプンを表層部でのみ糊化する。ただ、表層部と麺芯部の第2のデンプンを糊化して、第1のデンプンを麺芯部で表層部よりも糊化させない状態として、デンプンの糊化に勾配を設けることもできる。麺を加熱水に浸漬して表層部のデンプンを糊化する方法は、加熱水の温度を80℃以上として、2秒ないし15秒、好ましくは2秒ないし10秒間浸漬して、表層部の第2のデンプンを糊化できる。麺を温水に浸漬する時間は、加熱水温度が低くなると長く、加熱水温度が高いと短くする。したがって、麺を温水に浸漬する時間は温水温度により変化する。
【0033】
一部糊化工程の後、麺芯部のデンプンの糊化を阻止するために、好ましくは麺を冷却工程で冷却する。冷却工程は、麺を水に浸漬して冷却する。麺を水に浸漬する冷却工程は、麺を冷却してデンプンの糊化を停止しながら、麺の含水率を調整する。水の温度は、デンプンの糊化を停止できる温度、たとえば0℃ないし常温とする。麺の含水率は、水の浸漬時間でコントロールできる。たとえば、麺がうどんであると、水の浸漬時間を10分として含水率は約50重量%、15分として含水率は約55重量%となる。冷却工程は、好ましくは麺の含水率が40重量%以上であって70重量%以下となるように浸漬時間をコントロールする。麺の含水率は、茹で調理した状態における麺の食感に影響を与え、含水率が40重量%よりも少ないと硬すぎ、70重量%よりも多いと柔らかすぎて腰のない状態となる。
【実施例1】
【0034】
本発明の麺の製造方法は、短時間の茹で調理で優れた食感の麺にできることを特徴とする。この特徴は、第1のデンプンに、第1のデンプンよりも低温で糊化する第2のデンプンを添加して特定の水分率とし、さらに表層部と麺芯部とでデンプンの糊化に勾配を設けることで実現する。以下、本発明の製造方法が、麺の表層部と麺芯部とでデンプンの糊化に勾配を設けることで、茹で調理した状態で水分勾配ができることを明らかにするための実施例を、比較例と共に記載する。
【0035】
この実施例は、第1のデンプンを小麦粉デンプンとし、第2のデンプンにエーテル化デンプンを使用する。さらに、この実施例は、表層部と麺芯部とのデンプンに糊化に勾配を設けて、茹で調理した状態で水分勾配ができることを明瞭にするために、図2に示す円盤状の麺試料3を作製する。円盤状の麺試料3は、表層部にある2枚の表層試料4と、芯部にある1枚の芯部試料5とにスライスして、各々の試料の水分率から水分勾配を判定する。図3は以下の工程のフローチャートを示している。
【0036】
[製麺工程]
円盤状の麺試料は以下の工程で制作する。
(1)第1のデンプンとして薄力小麦粉700gを、第2のデンプンのエーテル化澱粉100gに添加し、これに10%食塩水340gを加えて混捏して麺生地とする。
(2)麺生地をロール圧延して厚み15mmの麺帯とし、径70mmの抜き型で打ち抜き、直径を70mm、厚さを15mmとする円盤状の麺試料を作製する。
【0037】
[一部糊化工程]
得られた円盤状の麺試料を加熱水に浸漬して、表層部のデンプンを糊化して、麺芯部のデンプンを表層部よりも糊化しない状態として、デンプンの糊化に勾配を設ける。
この工程は、円盤状の麺試料を沸騰水中にて約10秒間茹で加熱した後、沸騰水から取り出して、500gの常温の冷却水に浸漬して冷却する。冷却水に浸漬して、その後、麺試料の重量が20%増加する状態で、冷却水から引き上げる。その後、48時間冷蔵保存して、麺試料の水分を全体で平衡状態とする。この状態で、麺試料の自由水水分率は、表層部と麺芯部で同じになる。
【0038】
[茹で調理]
麺試料を沸騰水に浸漬して茹で調理してデンプンを糊化する。この工程で、表層部から麺芯部に至る、第2のデンプンと第1のデンプンは糊化される。中心温度を測定し、中心温度が93度に達した時点で沸騰水から引き上げる。
【0039】
[水分勾配の測定]
表層試料と芯部試料とが同じ厚さとなるように、3枚にスライスして、2枚の表層試料と、1枚の芯部試料とする。表層試料の水分率は53.7重量%、芯部試料の水分率は45.8重量%となり、表層部と麺芯部とで7.9重量%の水分率の差ができる。このことから、麺試料は表層部から芯部試料に水分勾配ができることが明らかとなる。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
表1より一部糊化工程後、水分付与、調理茹でに円盤状麺の表層と芯層では水分差が出来ていることが判る。
【0043】
麺試料は、茹で調理で水分率が高くなる。茹で調理は短時間であるから、水分は麺試料の全体には浸透しない。茹で調理で麺試料に付与される水分は、そのほとんどが表層試料に限られる。とくに、麺試料は、厚さを15mmと厚くしているので、水分は表層試料にのみ付与される。茹で調理で表層試料に水分が付与されることは、表層試料の水分率を芯部生地よりも高くする。しかしながら、以上の実施例の麺試料は、茹で調理で表層試料に水分が付与されることで、表層試料の水分率が芯部生地よりも高くなるのではない。それは、茹で調理で表層試料に付与される水分を補正しても、表層試料の水分率が芯部生地よりも高くなるからである。
【0044】
表2は、茹で調理で表層試料に付与される水分を補正した水分率を示している。表2は、茹で調理によって付加された水分は全て表層試料に付与されたと仮定して補正している。茹で調理によって付与された水分を表層重量から差し引き、水分率差を補正計算している。表2に示すように、茹で調理による水分浸透の補正しても、表層試料と芯部試料の水分率の差は5.5重量%となり、本実施例で、表層試料と芯部試料に水分率の差が認められた。つまり、麺試料の表層部と麺芯部とで水分勾配を発生させることが出来ることが証明された。また、実施例の麺試料は、水漬による軟弱化も少なく、表層表面も調理茹でによる糜爛は観察されなかった。
【比較例1】
【0045】
製麺工程において、薄力小麦粉700gを、第2のデンプンのエーテル化澱粉100gを、800gの薄力粉とする以外、実施例1と同様にして円盤状の麺試料を制作し、これを3枚にスライスして表層試料と芯部試料の水分率を測定すると、表層試料の水分率が51.5重量%、芯部試料の水分率が46.6重量%となって、水分率の差は4.9重量%となり、実施例1の水分率差7.9重量%に比較して小さくなる。
【0046】
【表3】

【0047】
【表4】

【0048】
表3より、茹で調理された麺試料は、表層試料と芯部試料で水分差が出来る。ただ、この水分率の差は、茹で調理で表層試料に水分が付与されたことによる水分率の差である。茹で調理で表層試料にのみ水分が付与されたとして、表層試料の水分率を補正すると、表4に示すように、表層試料に水分率が芯部生地よりも低くなる。表層試料の水分率が芯部生地よりも低くなるのは、円盤状の麺試料が水漬及び冷蔵保存により軟弱化し型崩れ状態であったために、調理茹で時に表層部が糜爛し湯中に拡散して固形分が減量したからである。つまり、比較例のものは、麺として耐えうる状態ではなかった。実施例1の麺試料は、表層部の糜爛及び軟弱化もなく比較例1の麺よりはるかに良かった。
【0049】
以上のように、比較例の麺試料においても、茹で調理した状態では、表層試料と芯部試料とで水分率に差ができるが、この水分率の差は、茹で調理において、水分のほとんどが表層試料に含浸されることで発生するもので、表層試料と芯部試料の糊化勾配によるものではない。それは、茹で調理で表層試料に含浸される水分を除いて、表層試料と芯部試料の水分率を測定すると、実施例1の麺試料は、表層試料の水分率が芯部生地よりも5.5重量%も高くなるのに対して、比較例1の麺試料は、表層試料の水分率が芯部試料の水分率より2.1重量%も低くなることから明らかである。
【実施例2】
【0050】
薄力小麦粉700gを、第2のデンプンのエーテル化澱粉100gを添加し、これに10%食塩水390gを加えて混捏して、麺生地とする。この麺生地を製麺して、厚み3mm、幅3mmとする麺線とする。
【0051】
[一部糊化工程]
得られた麺線100gを沸騰水中にて約8秒間茹で加熱して、表層部のデンプンを糊化し、麺芯部のデンプンを表層部よりも糊化しない状態として、表層部と麺芯部にデンプンの糊化に勾配を設ける麺線とする。表層部のデンプンを糊化した後、沸騰水から取り出して、常温の冷却水500gに浸漬して冷却する。冷却水に浸漬して、麺線の重量が生麺時の重量の45〜50重量%増加した状態で冷却水から引き上げて、麺線の水分率を調整する。その後、48時間冷蔵保存して、麺線の水分を全体で平衡状態とする。この状態で、麺線の水分率は、表層部と麺芯部で同じになる。
【0052】
[茹で調理]
麺線を沸騰水に浸漬して茹で調理してデンプンを糊化する。この工程で、表層部から麺芯部に至る、第2のデンプンと第1のデンプンは糊化される。麺線は、1分〜2分の茹で調理で、好ましい食感で美味しく食べることができ、またこの工程で麺線は軟弱化しない。
【比較例2】
【0053】
製麺工程において、薄力小麦粉700gを、第2のデンプンのエーテル化澱粉100gを、800gの薄力粉とする以外、実施例2と同様にして麺線を作製し、これを茹で調理すると、麺線が軟弱化して茹で調理できない。
【0054】
以上の実施例は、第2のデンプンにエーテル化デンプンを使用するが、本発明の麺の製造方法は、エーテル化デンプンに加えて、あるいはエーテル化デンプンに代わって、第2のデンプンとして第1のデンプンよりも低温で糊化する他のすべてのデンプンを添加して製麺することができる。また、第2のデンプンに加えて卵白を添加して製麺することもできる。さらに、以上の実施例は、第1のデンプンに第2のデンプンを添加して、第1のデンプンと第2のデンプンとを均一に分散させる状態で麺線に製麺するが、本発明の麺の製造方法は、図1示すように、芯部生地と表層生地とを積層して多層構造の麺を製麺すると共に、表層生地には第2のデンプンを添加する小麦粉含むようにして製麺することができる。この製造方法は、表層生地にのみ第2のデンプンを練り込んでいる生地を使用することができ、また、芯部生地に第2のデンプンよりも遅れて糊化するデンプンを添加して製麺することができる。
【0055】
また、本発明の麺の製造方法は、糊化して低弾性テキスチャとなるデンプンの混合された低弾性生地を表層生地とし、糊化して高弾性テキスチャとなるデンプンの混合された高弾性生地を芯部生地として、低弾性生地と高弾性生地とを多層構造として製麺することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
うどん等の麺において、茹で時間を大幅に短縮し、エネルギーコストを低減しながら、極めて美味な食感の麺を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施例にかかる麺線の断面図
【図2】実施例と比較例の麺試料を示す斜視図
【図3】実施例1の麺試料を製造する工程を示すフローチャート
【符号の説明】
【0058】
1…芯部生地
2…表層生地
3…麺試料
4…表層試料
5…芯部試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分率を38重量%以上であって70重量%以下とする麺の製造方法であって、第1のデンプンと、この第1のデンプンより低温で糊化する第2のデンプンを添加して製麺した後、製麺された麺を加熱して表層部のデンプンを糊化して麺芯部のデンプンを表層部よりも糊化しない状態として、表層部と麺芯部とのデンプンに糊化の勾配を持たせてなる麺の製造方法。
【請求項2】
麺を温水に浸漬して表層部のデンプンを糊化する請求項1に記載される麺の製造方法。
【請求項3】
第2のデンプンを糊化して第1のデンプンを糊化しない温度の加熱水に浸漬して表層部のデンプンを糊化する請求項2に記載される麺の製造方法。
【請求項4】
加熱して麺表層部のデンプンを糊化した後冷却する請求項1に記載される麺の製造方法。
【請求項5】
表層部のデンプンが糊化された麺を冷却水に浸漬して冷却すると共に、この工程で麺の含水率を38重量%以上であって70重量%以下とする請求項1に記載される麺の製造方法。
【請求項6】
第2のデンプンの添加量が、3重量%以上である請求項1に記載される麺の製造方法。
【請求項7】
麺を50℃以上の加熱水に浸漬して表層部のデンプンを糊化する請求項1に記載される麺の製造方法。
【請求項8】
第1のデンプンに小麦粉中デンプンを使用し、第2のデンプンにエーテル化デンプンとアセチル化デンプンと糊化開始温度85℃以下とするデンプンのいずれかを使用する請求項1又は6に記載される麺の製造方法。
【請求項9】
第2のデンプンに加えて卵白を添加する請求項1に記載される麺の製造方法。
【請求項10】
芯部生地と表層生地とを積層して多層構造の麺を製麺すると共に、芯部生地が第1のデンプンを含み、表層生地には第2のデンプンを含むように麺を加工する請求項1に記載される麺の製造方法。
【請求項11】
芯部生地が第2のデンプンを含まず、表層生地にのみ第2のデンプンを練り込んでなる生地を使用する請求項10に記載される麺の製造方法。
【請求項12】
製麺工程において、芯部生地に第2のデンプンよりも遅れて糊化するデンプンを添加する請求項10に記載される麺の製造方法。
【請求項13】
糊化して低弾性テキスチャとなるデンプンの混合された低弾性生地を表層生地とし、糊化して高弾性テキスチャとなるデンプンの混合された高弾性生地を芯部生地として、低弾性生地と高弾性生地とを多層構造として製麺する請求項1に記載される麺の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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