説明

黄銅材用圧延油組成物

【課題】圧延板表面の損傷を抑制し、圧延荷重を低減することができ、また高圧下率でも正常な圧延ができ、さらに圧延板表面の光沢を向上させ、圧延摩耗粉量を低減し得る圧延油組成物を提供すること。
【解決手段】基油に(A)主骨格が飽和又は不飽和の分岐炭化水素鎖からなる炭素数12〜28の脂肪族ジカルボン酸と炭素数1〜6の直鎖脂肪族アルコールとの反応生成物であるジエステル0.5〜30質量%、(B)炭素数13〜48のモノエステル0.5〜40質量%、及び(C)多価アルコールの部分エステル0.01〜10質量%を配合してなる黄銅材用圧延油組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黄銅材用圧延油組成物に関し、詳しくは、黄銅材の圧延に際し、圧延性及び圧延板表面の光沢度を向上させ、圧延板表面に付着する圧延摩耗粉を低減させる黄銅材用圧延油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の圧延において、圧延が正常に行われる場合には、圧延材が通過した部分のワークロールに一定の色調で着色が起こる。これは「ロールコーティング」と呼ばれ、圧延材に直接接触している部分であることから、圧延性や圧延製品の表面性状と大きな関係がある。
圧延に用いられる圧延油には、低圧延荷重で高圧下率が得られること、苛酷な条件下でヒートスクラッチを生じないこと、及び圧延板の光沢が高いことが要求される。特にステンレス鋼材の圧延においては、ロールコーティングむらが起こりやすく、これが転写により圧延板の表面にむらを生じさせて光沢むらを引き起こすことが知られており、この課題を解決することを目的に、基油と特定のジエステル、モノエステル、及びリン系化合物を含むことを特徴とする冷間圧延油組成物が提案されている(例えば、特許文献1、請求項3参照)。
【0003】
ところで、金属の圧延特性は金属の種類により異なり、圧延を行う金属の種類によって最適な圧延油を選定する必要がある。銅系材料の中でも黄銅材の圧延特性は、純銅やリン青銅と異なり、圧延時にロールコーティングが厚く生成しやすい特徴がある。ロールコーティングが厚く生成すると、ワークロールと圧延板表面との凝着が発生しやすくなるため、圧延荷重が増大して生産効率が低下する。生産効率を上げるためには圧延圧下率を高くすることが必要となるが、圧延圧下率を高くすると、圧延板表面に凝着による表面損傷が発生して、製品品質が著しく低下する場合がある。
さらに、圧延板の光沢度を上げるためには、ワークロールの表面を圧延板に転写させる必要があるが、ロールコーティングが厚く生成すると転写が十分に行われず、高い光沢度の圧延板を得ることが困難となる。
【0004】
さらに、高級アルコールやモノエステル系の油性剤を用いた従来の圧延油では、黄銅材を圧延する場合に、湿度が低い時期には潤滑性が低下して生産性の低下や表面品質が低下するという問題があった(非特許文献1参照)。
【0005】
また、銅系材料は各種電子材料に用いられるため、製品表面の汚れによりキズが生じた場合、品質が大きく低下する。そのため、圧延工程で発生した圧延摩耗粉を板表面から除去するために、製品となるまでに複数回の洗浄工程がある。従って、圧延時に圧延板表面に付着する圧延摩耗粉量が少なくなれば、摩耗粉起因のスリキズを抑制することができ、また洗浄工程への負荷を低減することができる。
【0006】
【特許文献1】国際公開03/097774号公報
【非特許文献1】志渡,今住,三反崎,山根:昭和63年度 塑性加工春季講演会論文集,1988年5月,p.297−300
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような状況下でなされたもので、圧延板表面の損傷を抑制し、圧延荷重を低減することができ、また高圧下率でも正常な圧延ができる圧延油組成物を提供することを目的とする。また、季節により圧延性が変化せず、年間を通じて安定して圧延操業ができる圧延油組成物を提供することを目的とする。さらには、圧延板表面の光沢を向上させ、圧延摩耗粉量を低減し得る圧延油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成するために、鋭意研究を重ねた結果、基油に、特定のジエステル、モノエステル、及び多価アルコールの部分エステルを配合してなる圧延油組成物が、黄銅材に対する前記課題を解決し、しかも圧下力を低減させ得ることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成されたものである。
すなわち、本発明は、
(1)基油に(A)主骨格が飽和又は不飽和の分岐炭化水素鎖からなる炭素数12〜28の脂肪族ジカルボン酸と炭素数1〜6の直鎖脂肪族アルコールとの反応生成物であるジエステル0.5〜30質量%、(B)炭素数13〜48のモノエステル0.5〜40質量%、及び(C)多価アルコールの部分エステル0.01〜10質量%を配合してなる黄銅材用圧延油組成物、
(2)さらに(D)ベンゾトリアゾール系化合物100〜1000質量ppmを配合してなる上記(1)に記載の黄銅材用圧延油組成物、及び
(3)さらに(E)フェノール系酸化防止剤0.01〜5質量%を配合する上記(2)に記載の黄銅材用圧延油組成物、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、圧延板表面の損傷を抑制し、圧延荷重を低減することができ、また高圧下率でも正常な圧延ができる圧延油組成物を提供することができる。また、本発明の圧延油組成物は、季節により圧延性が変化せず、年間を通じて安定して圧延操業を可能とする。また、本発明の圧延油組成物を用いることで、圧延摩耗粉の発生量を低減させることができ、圧延後の洗浄工程の負荷を軽減することができる。さらに、本発明の圧延油組成物を用いて圧延した材料は、板表面の光沢を著しく向上させることができ、また摩耗粉量が少ないために、摩耗粉起因の表面のスリキズが抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の圧延油組成物は、基油に(A)主骨格が飽和又は不飽和の分岐炭化水素鎖からなる炭素数12〜28の脂肪族ジカルボン酸と炭素数1〜6の直鎖脂肪族アルコールとの反応生成物であるジエステル0.5〜30質量%、(B)炭素数13〜48のモノエステル0.5〜40質量%、及び(C)多価アルコールの部分エステル0.01〜10質量%を配合することを特徴とする。
【0011】
本発明で用いる基油としては特に限定されず、鉱油及び/又は合成油を使用することができる。鉱油としては、種々のものを挙げることができ、例えば、パラフィン基系原油、中間基系原油あるいはナフテン基系原油を常圧蒸留した残渣油、あるいは常圧蒸留の残渣油を減圧蒸留して得られる留出油、またはこれを常法にしたがって精製することによって得られる精製油、例えば、溶剤精製油、水添精製油、脱ロウ処理油、白土処理油等を挙げることができる。
また、合成油としては、例えば、炭素数8〜14のポリ−α−オレフィン、オレフィンコポリマー(例えば、エチレン−プロピレンコポリマーなど)、あるいはポリブテン、ポリプロピレン等の分岐オレフィンやこれらの水素化物、さらにはポリオールエステル(トリメチロールプロパンの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステルなど)等のエステル系化合物、アルキルベンゼン等を用いることができる。
なお、後に詳述する(C)成分である多価アルコールの部分エステルは乳化剤としても作用するため、さらに適切な乳化剤を加えることで、基油に水を加えたエマルジョン型の圧延油組成物とすることもできる。
本発明においては、基油として、前記鉱油を一種用いてもよいし、二種以上組み合わせて用いてもよく、前記合成油を一種用いてもよいし、二種以上組み合わせて用いてもよい。また、該鉱油一種以上と合成油一種以上を併用することもできる。そして、該基油としては、温度40℃における動粘度が、2〜30mm2/sの範囲にあるものが好ましい。この動粘度が2mm2/s以上であると十分に引火点が高く、引火による火災などの危険性がない。一方、30mm2/s以下であると、圧延板表面にオイルピットが発生して光沢度が低下することがなく、また巻きズレが発生することがなく、さらには焼鈍性の点からも好ましい。以上の点から、より好ましい動粘度は、4〜20mm2/sである。
【0012】
本発明の圧延油組成物は、(A)主骨格が飽和又は不飽和の分岐炭化水素鎖からなる炭素数12〜28の脂肪族ジカルボン酸と炭素数1〜6の直鎖脂肪族アルコールとの反応生成物であるジエステルを配合することを特徴とする。
該脂肪族ジカルボン酸の炭素数が12未満のものでは、耐ヒートスクラッチ性能に劣り、一方28を超えるものは、特に低粘度の基油を用いた場合にジエステルの溶解性が悪くなる。好ましい炭素数は14〜24であり、さらには16〜20が好ましい。
また、該脂肪族ジカルボン酸は主骨格として分岐鎖を有する。分岐鎖を有することにより、ジエステルの基油に対する溶解性が良くなり、所望の性能を有する圧延油組成物が容易に得られるという利点がある。
本発明においては、前記脂肪族ジカルボン酸として、飽和及び不飽和のいずれも用いることができるが、飽和脂肪族ジカルボン酸がより好ましい。この飽和脂肪族ジカルボン酸としては、例えば下記一般式(I)で表される化合物を好ましく挙げることができる。
【0013】
【化1】

【0014】
式中、kは0〜3の整数、m及びnは、それぞれ1〜23の整数を示し、k、m及びnの合計は8〜24の整数である。
本発明において、(A)成分であるジエステルに用いられる、主骨格が飽和又は不飽和の分岐状炭化水素鎖からなる炭素数12〜28の脂肪族ジカルボン酸の具体例としては、下記の化学式で表される化合物などを挙げることができる。
【0015】
【化2】

【0016】
一方、脂肪族アルコールとしては、炭素数1〜6のものが用いられる。この炭素数が6を超えるものではジエステルの溶解性が悪くなる。好ましい炭素数は1〜4である。また、該脂肪族アルコールは直鎖状であることが必要である。分岐鎖を有するものでは、耐ヒートスクラッチ性能が劣る。
このような直鎖状脂肪族アルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノールなどを挙げることができる。
【0017】
本発明においては、(A)成分として、前記の脂肪族ジカルボン酸と脂肪族アルコールから得られたジエステルが用いられるが、該ジエステルは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、圧延油組成物における該ジエステルの含有量は、0.5〜30質量%の範囲で選定される。この含有量が0.5質量%未満では耐ヒートスクラッチ性能の向上効果が充分に発揮されず、本発明の目的が達せられない。一方30質量%を超えるとその量の割には効果の向上が認められず、むしろ経済的に不利となる。該ジエステルの好ましい含有量は1〜20質量%の範囲であり、特に1〜15質量%の範囲が好ましい。
【0018】
本発明の圧延油組成物は、(B)炭素数13〜48のモノエステルを配合することを特徴とする。該モノエステルを配合することにより、光沢むらの低減及び耐ヒートスクラッチ性能の向上効果が発揮される。しかも、このモノエステルを用いることにより、(A)成分であるジエステルの使用量を低減させることができる。
(B)成分のモノエステルとしては、例えば一般式(II)で表される化合物を挙げることができる。
RCOOR’ …(II)
式中、Rは炭素数11〜22のアルキル基、R’は炭素数1〜25のアルキル基を示し、RとR’の合計炭素数は12〜47である。
前記一般式(II)で表されるモノエステルの好ましい炭素数は13〜36の範囲である。該モノエステルの具体例としては、ステアリン酸メチル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸オクチル、パルミチン酸オクチルなどが好ましく挙げられるが、これらの中で、性能及び入手の容易さなどの点から、ステアリン酸ブチル及びパルミチン酸オクチルが好ましい。
【0019】
本発明においては、(B)成分として、前記モノエステルを一種用いてもよく、二種以上組み合わせて用いてもよい。また、圧延油組成物における該モノエステルの含有量は、0.5〜40質量%の範囲が好ましい。この含有量が0.5質量%未満では圧延板の光沢むらの低減及び耐ヒートスクラッチ性能の向上効果が充分に発揮されず、本発明の目的が達せられない場合がある。一方40質量%を超えるとその量の割には効果の向上が認められず、むしろ経済的に不利となる上、低温流動性が悪化する場合がある。以上の点から、該モノエステルの好ましい含有量は3〜30質量%の範囲であり、さらに5〜20質量%の範囲が好ましい。
【0020】
本発明の圧延油組成物は、(C)多価アルコールの部分エステルを配合することを特徴とする。多価アルコールとしては、2〜6価の多価アルコールが挙げられ、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトールなどを挙げることができる。これらのうち特に、グリセリン及びソルビトールが好ましい。また、上記多価アルコールは、これらの化合物をそれぞれ単独で用いても、また二種以上の混合物として用いてもよい。
【0021】
本発明の(C)成分は、上記多価アルコールの末端水酸基の一部をエステル化させたものである。エステル化に用いる酸としては、通常、脂肪酸が挙げられる。脂肪酸としては、一塩基酸でも多塩基酸でも良いが、通常、一塩基酸が用いられる。
また、炭素数12〜24の脂肪酸が好ましく、直鎖状、分岐鎖状のいずれでもよく、また飽和でも、不飽和でもよい。直鎖状の飽和脂肪酸として、具体的には、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデシル酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸などを挙げることができる。直鎖状の不飽和脂肪酸として、具体的には、リンデル酸、5−ラウロレイン酸、ツズ酸、ミリストレイン酸、ゾーマリン酸、ペトロセリン酸、オレイン酸、エライジン酸、コドイン酸、エルカ酸、セラコレイン酸などを挙げることができる。
【0022】
分岐鎖状の飽和脂肪酸として、具体的には、各種メチルウンデカン酸、各種プロピルノナン酸、各種メチルドデカン酸、各種プロピルデカン酸、各種メチルトリデカン酸、各種メチルテトラデカン酸、各種メチルペンタデカン酸、各種エチルテトラデカン酸、各種メチルヘキサデカン酸、各種プロピルテトラデカン酸、各種エチルヘキサデカン酸、各種メチルヘプタデカン酸、各種ブチルテトラデカン酸、各種メチルオクタデカン酸、各種エチルオクタデカン酸、各種メチルノナデカン酸、各種エチルオクタデカン酸、各種メチルエイコサン酸、各種プロピルオクタデカン酸、各種ブチルオクタデカン酸、各種メチルドコサン酸、各種ペンチルオクタデカン酸、各種メチルトリコサン酸、各種エチルドコサン酸、各種プロピルヘキサエイコサン酸、各種ヘキシルオクタデカン酸、4,4−ジメチルデカン酸、2−エチル−3−メチルノナン酸、2,2−ジメチル−4−エチルオクタン酸、2−プロピル−3−メチルノナン酸、2,3−ジメチルドデカン酸、2−ブチル−3−メチルノナン酸、3,7,11−トリメチルドデカン酸、4,4−ジメチルテトラデカン酸、2−ブチル−2−ペンチルヘプタン酸、2,3−ジメチルテトラデカン酸、4,8,12−トリメチルトリデカン酸、14,14−ジメチルペンタデカン酸、3−メチル−2−ヘプチルノナン酸、2,2−ジペンチルヘプタン酸、2,2−ジメチルヘキサデカン酸、2−オクチル−3−メチルノナン酸、2,3−ジメチルヘプタデカン酸、2,4−ジメチルオクタデカン酸、2−ブチル−2−ヘプチルノナン酸、20,20−ジメチルヘンエイコ酸などを挙げることができる。
【0023】
分岐鎖状の不飽和脂肪酸として、5−メチル−2−ウンデセン酸、2−メチル−2−ドデセン酸、5−メチル−2−トリデセン酸、2−メチル−9−オクタデセン酸、2−エチル−9−オクタデセン酸、2−プロピル−9−オクタデセン酸、2−メチル−2−エイコセン酸などを挙げることができる。以上の炭素数12〜24の脂肪酸の中で、ステアリン酸、オレイン酸、16−メチルヘプタデカン酸(イソステアリン酸)などが好ましい。
【0024】
部分エステルとしては、モノカルボン酸エステル、ジカルボン酸エステルまたはその混合物が好ましい。(C)多価アルコールの部分エステルとしては、グリセリンモノオレート、グリセリンジオレート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリンモノイソステアレート、グリセリンジモノイソステアレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタンジオレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンジステアレート、ソルビタンモノイソステアレート、ソルビタンジモノイソステアレートなどを好適なものとして挙げることができ、特に、グリセリンモノオレート、グリセリンジオレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタンジオレートが好ましい。
【0025】
上記(C)成分は、一種又は二種以上を組み合わせて使用してもよい。(C)成分の配合量は、圧延油組成物全量基準で0.01〜10質量%である。この配合量が0.01質量%未満であると、圧下力の低減効果が十分に発揮されず、10質量%を超えると、その量に見合う効果の向上が認められず、むしろ経済的に不利になると共に、ロールスリップが発生する恐れがある。以上の点から、(C)成分の配合量は、圧延油組成物全量基準で0.1〜5質量%の範囲が好ましい。
【0026】
本発明の圧延油組成物は、さらに(D)ベンゾトリアゾール系化合物100〜1000質量ppmを含有することが好ましい。ベンゾトリアゾールは、防錆剤、防食防止剤、腐食防止剤であり、特に銅に対して、防錆・防食効果が高いことが知られている。
しかしながら、本発明の圧延油組成物においては、(D)ベンゾトリアゾール系化合物を前記(A)成分、(B)成分及び(C)成分と併用することで、圧下率をさらに向上させることができる。ここで用いられるベンゾトリアゾール系化合物としては、下記一般式(III)で表されるベンゾトリアゾール及びこれの誘導体が該当する。該誘導体としては、下記一般式(IV)で表されるアルキルベンゾトリアゾール、一般式(V)で表されるN−アルキルベンゾトリアゾール、及び一般式(VI)で表されるN−(アルキル)アミノアルキルベンゾトリアゾールを含むものである。
【0027】
【化3】

【0028】
【化4】

【0029】
式中、R1は炭素数1〜4のアルキル基、好ましくは1または2のアルキル基を示す。具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、及びtert−ブチル基を挙げることができる。aは1〜3、好ましくは1又は2の数を示す。またR1が複数ある場合には、それらは互いに同一でも異なってもよい。
【0030】
【化5】

【0031】
式中、R2及びR3はそれぞれ炭素数1〜4のアルキル基を示し、好ましくは1又は2のアルキル基を示す。具体的には前記R1の例示と同じである。bは0〜3、好ましくは0または1の数である。R2及びR3が複数ある場合には、それらは互いに同一でも異なってもよい。
【0032】
【化6】

【0033】
式中、R4は炭素数1〜4のアルキル基、好ましくは炭素数1又は2のアルキル基を示す。具体的には前記R1の例示と同じである。R5はメチレン基またはエチレン基を示し、メチレン基が特に好ましい。R6およびR7はそれぞれ水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基を示し、好ましくは水素原子又は炭素数1〜9のアルキル基である。具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、各種ウンデシル基、及び各種ドデシル基を挙げることができる。これらは互いに同一でも異なっていてもよい。cは0〜3、好ましくは0又は1の数である。
【0034】
本発明においては、上記ベンゾトリアゾール又はその誘導体の中で、特にベンゾトリアゾール及びN−メチルベンゾトリアゾールが好ましい。
また、本発明の圧延油組成物における(D)ベンゾトリアゾール系化合物の配合量は、上述のように、100〜1000質量ppmの範囲が好ましい。100質量ppm以上であると、十分な圧下率の向上が得られるとともに、本発明の圧延油組成物に対して、十分な防錆・防食効果を付与することができる。また、経済性及び溶解性の点から、1000質量ppm以下であることが好ましい。以上の点から、(D)成分の配合量は200〜500質量ppmの範囲がさらに好ましい。
【0035】
本発明の圧延油組成物には、さらに(E)フェノール系酸化防止剤を配合することができる。フェノール系酸化防止剤を配合することにより、圧延油の酸化劣化の抑制の効果がある。
フェノール系酸化防止剤酸化防止剤としては、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール、などが挙げられ、これらのうち、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾールが特に好ましい。フェノール系酸化防止剤の配合量は、圧延油組成物全量基準で0.01〜5質量%の範囲が好ましく、さらには0.1〜1質量%の範囲が好ましい。
【0036】
本発明の圧延油組成物の粘度については特に制限はないが、40℃での動粘度が2〜20mm2/sであることが好ましい。該動粘度が2mm2/s以上であると十分な潤滑性が得られ、一方、20mm2/s以下であると十分な光沢性が得られる。以上の点より、40℃での動粘度が3〜10mm2/sであることがさらに好ましい。
【0037】
さらに、本発明の圧延油組成物は、所望に応じ、本発明の目的を損なわない範囲で、防錆剤、腐食防止剤、消泡剤等の各種添加剤を配合することができる。
防錆剤及び腐食防止剤としては、例えば、脂肪酸、アルケニルコハク酸ハーフエステル、脂肪酸セッケン、アルキルスルホン酸塩、脂肪酸アミン、酸化パラフィン、アルキルポリオキシエチレンエーテル等が挙げられる。
消泡剤としては、例えばジメチルポリシロキサン,ポリアクリレート等が挙げられる。
これらの添加剤は、それぞれ一種単独で、又は二種以上を混合して使用することができる。また、これらの添加剤の配合量は、通常、それぞれ組成物基準で0.1〜10質量%の範囲であり、好ましくは0.1〜5質量%の範囲である。
【実施例】
【0038】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
評価方法
(1)圧下力(kN);第1表に示す条件及び第2表に示すパススケジュールで圧延を行った際の3パス時の圧下力で評価した。また、圧延板表面損傷の有無は目視及び顕微鏡観察により判定した。評価基準は以下のとおりである。
○;表面損傷なし
×;表面損傷発生
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
(2)光沢性;ASTM D523に準拠し、3パス後の圧延板の光沢度Gs(20°)を測定し、下記の判定基準で評価した。
◎;光沢度620以上で非常に良好であった。
○;光沢度580以上620未満であり良好であった。
×;光沢度580未満であり不良であった。
【0042】
(3)摩耗粉量;3パス後の圧延板1mをガーゼで拭き取り、付着摩耗粉を採取した。摩耗粉による汚れの度合いを目視判定することにより、圧延板表面の付着摩耗粉量を評価した。
◎;わずかに汚れあり
○;軽度の汚れあり
×;中度以上の汚れあり
【0043】
実施例1〜5及び比較例1〜3
第3表に示すように、基油に(A)〜(C)成分及び添加剤を配合し、圧延油組成物を得、上記方法によって評価した。その結果を第3表に示す。
【0044】
【表3】

【0045】
(注)
*1 基油1;パラフィン系鉱油(40℃動粘度8.0mm2/s)
*2 基油2;ナフテン系鉱油(40℃動粘度4.1mm2/s)
*3 ジエステル1;下記式で表される脂肪族ジカルボン酸とメチルアルコールとのジエステル
【0046】
【化7】

【0047】
*4 モノエステル;ステアリン酸ブチル
*5 多価アルコール部分エステル;グリセリンモノオレエートとグリセリンジオレエートの混合物(質量比 1:1)
*6 フェノール系酸化防止剤;2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール
*7 ジエステル2;ジノニルアジペート
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の圧延油組成物を用いることにより、圧延板表面の損傷を抑制し、圧延荷重を低減することができ、また、高圧下率でも正常な圧延が可能である。また、本発明の圧延油組成物は、季節により圧延性が変化せず、年間を通じて安定して圧延操業を可能とする。さらに、本発明の圧延油組成物を用いることで、圧延摩耗粉の発生量を低減させることができ、圧延後の洗浄工程の負荷を軽減することができる。また、本発明の圧延油組成物を用いて圧延した材料は、板表面の光沢を著しく向上させることができ、また摩耗粉量が少ないために、摩耗粉起因の表面のスリキズが抑制される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油に(A)主骨格が飽和又は不飽和の分岐炭化水素鎖からなる炭素数12〜28の脂肪族ジカルボン酸と炭素数1〜6の直鎖脂肪族アルコールとの反応生成物であるジエステル0.5〜30質量%、(B)炭素数13〜48のモノエステル0.5〜40質量%、及び(C)多価アルコールの部分エステル0.01〜10質量%を配合してなる黄銅材用圧延油組成物。
【請求項2】
さらに、(D)ベンゾトリアゾール系化合物100〜1000質量ppmを配合してなる請求項1に記載の黄銅材用圧延油組成物。
【請求項3】
さらに(E)フェノール系酸化防止剤0.01〜5質量%を配合する請求項2に記載の黄銅材用圧延油組成物。

【公開番号】特開2008−74932(P2008−74932A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−254577(P2006−254577)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】