説明

黒にんにくの製造方法および製造装置

【課題】一定に保持された温度と湿度下で生にんにくを発酵および熟成させ、適切な乾燥により、品質がよく旨味のある黒にんにくを製造する。
【解決手段】生にんにくを入れた多数の密閉容器10を熟成室内101の棚102に静置するとともに、熱風生成装置110で生成した熱風を吸気口104から熟成室内101に供給し、最初の熟成期間を28日間として、排気口105を閉じた状態で熟成室内101の温度を70℃に維持し、後の乾燥期間を3〜5日間として、各密閉容器10の蓋12を開けると共に、排気口105を開口した状態で、熟成室内101の温度を65℃に維持する。各室内温度は室内温度センサー106により検出し、熱風生成装置110で生成される熱風を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒にんにくの製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、にんにくは滋養強壮に効果のある食材として広く使われている。しかし、独特のにんにく臭があることから、生にんにくを発酵させてにんにく臭を除去し、無臭にんにくを得る製造方法が知られている(例えば特許文献1参照)。かかる製造方法によれば、遠赤外線加熱式蒸し焼き器を使用して生にんにくを蒸し焼きにし、生にんにくを30〜40℃の温度に30〜50時間維持して発酵を進行させる第1工程、50〜60℃の温度に30〜50時間維持して乾燥を進行させる第2工程、60〜75℃の温度で100時間以上維持して糖化を進行させる第3工程及び60〜75℃の温度に維持されたにんにくの炭化開始前に加熱を終了する第4工程を含み、かかる工程を経ることにより無臭の黒色のにんにくを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−341912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記製造方法は、生にんにくの発酵から乾燥に至る工程が複雑であり、品質の良い黒にんにくを安定して得ることが難しい。また、熟成後に高温(例えば70℃以上)で乾燥させると、熟成が進行し、熟成品質が低下し、熟成後に低温(例えば40〜55℃)で乾燥させると、乾燥に時間がかかり、乾燥コストが上昇する問題がある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、一定に保持された温度と湿度の下で、生にんにくを発酵および熟成させ、適切な乾燥により、品質がよく旨みのある黒にんにくを安定して製造できる、黒にんにくの製造方法と製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る黒にんにくの製造方法は、
生にんにくを入れた多数の密閉容器を熟成室内の棚に静置するとともに、熱風生成装置で生成された熱風を吸気口から熟成室内に供給し、最初の熟成期間は、排気口を閉じた状態で熟成室内の温度を70℃に維持し、後の乾燥期間は、各密閉容器の蓋を開けると共に、排気口を開口した状態で、熟成室内の温度を65℃に維持することを主要な特徴とする。
【0007】
本発明に係る黒にんにくの製造方法によると、最初の熟成期間で熟成室内の温度を70℃に維持することにより、各密閉容器内が一定温度、一定湿度(略100%)に保持され、その間、各密閉容器内で生にんにくの発酵、熟成がスムーズに進行し、また、その間、熟成されたにんにくの色が当初の白色から茶色、黒色へと変化する。後の乾燥期間で各密閉容器の蓋を開けると共に、排気口を開口した状態で、熟成室内の温度を熟成期間よりも5℃低い65℃に維持することにより、急激な乾燥を防いで、熟成されたにんにくの旨味(甘味、酸味)や色(黒色)を損なうことなく、適正に水分が除去された品質のよい黒にんにくが得られる。また、得られた黒にんにくは、熟成期間の工程で独特のにんにく臭が除去される。
【0008】
特に、熟成期間の70℃からわずかに5℃低い65℃で乾燥させるようにしたのは、70℃以上の温度で乾燥させると熟成がさらに進行して品質が低下する(例えば80℃で乾燥させると熟成が進み過ぎてすっぱくなる)からであり、また、より低温(例えば40℃〜55℃)で乾燥させると、乾燥に時間がかかり過ぎて乾燥コストが上昇するからである。このため、最適な乾燥温度として65度で乾燥させるようにした。
【0009】
本発明に係る黒にんにくの製造方法は、最初の熟成期間を28日間とし、後の乾燥期間を3〜5日間とすることを第2の特徴とする。
【0010】
最初の熟成期間を28日間とするのは、熟成室内の温度70℃下で、最初の25日間で熟成されたにんにくの旨味(ドライフルーツのような甘味とわずかの酸味)が増し、さらに温度70℃下で3日間熟成させると、熟成されたにんにくが最初の白色からきれいな黒色に変化するためである。
【0011】
本発明に係る黒にんにくの製造方法は、熟成室内に導入された熱風を攪拌手段により攪拌させることを第3の特徴とする。
【0012】
本発明に係る黒にんにくの製造方法は、熟成されたにんにくに含まれる水分量を乾燥期間の工程で25〜30%除去することを第4の特徴とする。
【0013】
水分量を25〜30%除去するのは、水分の除去量が25%よりも少ないと、水分量が多すぎて乾燥後のにんにくが柔らかくなり過ぎ、皮をむいても中身を取り出せなくなるからであり、30%よりも多いと、水分量が少なすぎて乾燥後のにんにくが硬くなり過ぎるからであり、水分量を25〜30%除去することにより、熟成乾燥後のにんにくが適度な硬さになり、皮をむき易く、食感もよい。
【0014】
本発明に係る黒にんにくの製造装置は、
吸気口および排気口を備える熟成室と、熱風生成手段と、室内温度センサーを備え、
生にんにくを入れた多数の密閉容器を熟成室内の棚に配置するとともに、熱風生成手段により生成した熱風を吸気口から熟成室内に導入し、
最初の熟成期間は、排気口を閉じた状態で室内温度センサーに基づき熟成室内の室温を70℃に維持し、
後の乾燥期間は、各密閉容器の蓋を開けると共に排気口を開口した状態で、前記室内温度センサーに基づき熟成室内の室温を65℃に維持することを主要な特徴とする。
【0015】
本発明に係る黒にんにくの製造装置は、熟成室内に導入した熱風を攪拌する攪拌手段を備えることを第2の特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明に係る黒にんにくの製造方法によると、生にんにくを入れた多数の密閉容器を熟成室内の棚に静置するとともに、吸気口から熟成室内に熱風を導入し、最初の熟成期間は、排気口を閉じた状態で熟成室内の温度を70℃に維持し、後の乾燥期間は、各密閉容器の蓋を開けると共に、排気口を開口した状態で、熟成室内の温度を65℃に維持することにより、一定に保持された温度と湿度の下で、生にんにくを発酵および熟成させるとともに、適切な乾燥を施すことができ、旨味が増しかつきれいな黒色を呈する黒にんにくを得ることができるという優れた効果を奏する。
【0017】
また、本発明に係る黒にんにくの製造装置によると、上記の優れた黒にんにくを安定的に製造できるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る黒にんにくの製造装置の説明図、
【図2】図1に示す製造装置における熟成室の断面図、
【図3】本発明に係る黒にんにくの製造工程を示す説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。図1ないし図3は本発明の一実施形態を示すもので、図1において、符号Sは本発明に係る黒にんにくの製造装置を示している。
【0020】
黒にんにくの製造装置Sは、生にんにくから黒にんにくを製造する装置で、図1に示すように、熟成室ユニット100と熱風生成装置110から基本構成されている。
【0021】
熟成室ユニット100は、多数個の生にんにくを熟成および乾燥させるもので、図1に示すように、熟成室内101に左右に多段の棚102が設けられ、側部に出入り用の扉103が設けられている。熟成室ユニット100の側面上部には扉103と反対側に吸気口104が設けられ、扉103側に排気口105が設けられている。各棚102には、図2に示すように、多数個の生にんにく1を入れた密閉容器10を多数載せることができる。また、熟成室内101の吸気口104近くには、室内温度センサー106が設けられている。
【0022】
熱風生成装置110は、熱風を生成し、配管111を通して熟成室ユニット100の吸気口104から熟成室内101に熱風を供給するもので、送風ファンおよび電熱部(熱交換部)を備えた電熱機からなる。同電熱機は、電熱部で発熱し送風ファンから送られた外気との熱交換により熱風を生成し、生成した熱風を配管111を通して吸気口104から熟成室内101に送るようになっている。熱風生成装置110には、熟成室内101の熟成条件および乾燥条件に合わせて生成する熱風を任意に設定できる制御部112が設けられている。同制御部112は、熱風の供給開始後、室内温度センサー106により検出された熟成室内101の室内温度が上限管理温度に達すると、同室内温度センサー106からの検出信号により電熱機および送風ファンを停止し、これにより熱風の供給を停止し、また、熟成室内101の室内温度が下限管理温度に低下すると、同室内温度センサー106からの検出信号により電熱機および送風ファンを再び作動させ、熱風を供給するようになっている。
【0023】
熟成室ユニット100の熟成室内101には、図2に示すように、左右の棚102,102間に攪拌機120が設置されている。同攪拌機120は、吸気口104から導入された熱風を攪拌し、熟成室内101の四方すみずみまで熱風を行き渡らせるように作用する。攪拌機120は、熱風生成装置110の作動に連動させてよい。
【0024】
密閉容器10は、多数個の生にんにく1を入れて密閉した状態で、熟成室101の各棚102に静置されることで、熱風により外部から一定温度で加温されることにより、内部の生にんにく1から放出される水分で内部を一定湿度(略100%)に保持し、生にんにく1の発酵、熟成を進行させるようになっている。密閉容器10は、容器本体11と、容器本体11を密閉する着脱可能な蓋12とから構成されている。
【0025】
以上のように構成された黒にんにくの製造装置Sを用いて、黒にんにくを製造する手順について、図3を参照しながら以下に説明する。
【0026】
まず、準備段階として、多数個の生にんにく1を入れた密閉容器10を熟成室内101の各段の棚102に静置する。次いで、出入り用扉103と排気口105をそれぞれ閉じる。かかる状態で、制御部112から熟成条件(室内温度70℃、28日間連続運転)を入力設定し、熱風生成装置110を作動させる。これにより、熱風生成装置110で生成された熱風が配管111を通して吸気口104から熟成室内101に供給される。供給された熱風Wは、左右の棚102間に設置された攪拌機120により、熟成室内101のすみずみまで行き渡る。
【0027】
吸気口104から供給された熱風により熟成室内101は常に70℃に維持される。熟成室内101の室温が上昇し、室内温度センサー106により室内温度が上限管理温度(70℃+1.5℃=71.5℃)に達すると、室内温度センサー106からの検出信号により熱風生成装置110が停止し、これにより熱風の供給が停止される。熟成室内101の室内温度が次第に低下し、下限管理温度(70℃−1.5℃=68.5℃)に達すると、同室内温度センサー106からの検出信号により熱風生成装置110が再び作動し、熱風を熟成室内101に供給する。これにより、熟成室内101は熟成期間の間、常に70℃に維持される。かくして最初の熟成期間では、熟成室内101の室温を70℃に28日間(=672時間)維持する。
【0028】
熟成期間の28日間、熟成室内101の室温を70℃に維持することにより、各密閉容器10内が一定温度、一定湿度(略100%)に保持され、その間、各密閉容器10内で生にんにく1の発酵、熟成がスムーズに進行し、また、その間、熟成されたにんにくの色が当初の白色から茶色、黒色へと変化する。
【0029】
熟成期間の終了後、後の乾燥期間に移行するが、最初に熟成室内101の排気口104を全開するとともに、各段の密閉容器10の蓋12をそれぞれ開ける。そして、制御部112から乾燥条件(室内温度65℃、3〜5日間連続乾燥運転)を入力設定し、熱風生成装置110を作動させる。これにより、熱風生成装置110から供給される熱風により、乾燥期間の間、熟成室内101の室内温度が65℃に維持され、熟成室内101内の熟成されたにんにくが、3〜5日間かけてゆっくりと乾燥され、水分が25〜30%除去された黒にんにくが得られる。
【0030】
ここで、乾燥期間の間、室内温度センサー106からの検出信号により、最初の熟成期間と同様に、熟成室内101の室内温度が上限管理温度(65℃+1.5℃=66.5℃)に達すると熱風生成装置110が停止し、熱風の供給が停止され、また、熟成室内101の室内温度が下限管理温度(例えば65℃−1.5℃=63.5℃)に低下すると、熱風生成装置110が再び作動し、熱風を供給する。これにより、熟成室内101内の室温が乾燥期間の間、常に65℃に維持される。
【0031】
乾燥期間(3〜5日間)の設定は次のように行う。熟成期間(28日間)の終了後、熟成状態のにんにくの重量を測定し(例えば、熟成状態のにんにくが入った密閉容器10の総重量を求め、密閉容器単体の重量を差し引いて熟成状態のにんにくの重量を求める)、乾燥期間の工程で除去する水分量を算出する(例えば熟成期間直後のにんにくの総重量が密閉容器一個あたり3.6kgであり、同にんにくに含まれる水分の目標除去割合を25%とすると、除去する水分の目標値は密閉容器一個あたり合計900gとなる。)。次に、熟成室内101の室温65℃下で1日あたり除去できる水分量を予め求めておき(例えば1日あたり除去できる水分量が密閉容器一個あたり300gとする)、水分の目標除去割合から得られる除去すべき水分の目標値と一日あたり除去できる水分量から乾燥期間を計算する(上記の例の場合、900g÷300g=3日間)。かくして3〜5日間の間で、最適となる乾燥期間を算出し、設定する。
【0032】
そして、熟成された生にんにくを、乾燥期間、すなわち熟成室内101の室温を65℃に維持した状態で3〜5日間かけて乾燥させることで、熟成されたにんにくの急激な乾燥による品質(旨味や黒色)の劣化を防ぎ、熟成後の品質(ドライフルーツのような甘味とわずかな酸味を併せ持つ旨味、きれいな黒色を呈する色合い)をそのまま保持することができる。
【0033】
なお、熱風生成装置110は、電熱機以外に、送風ファンによる送られる外気をバーナーによる火炎熱で熱交換し、熱風を生成するタイプであってもよい。
【0034】
以上説明したように、本発明に係る黒にんにくの製造方法によると、本発明に係る製造装置Sを用いることによって、一定に保持された温度と湿度下で生にんにくを発酵および熟成させるとともに、適正な乾燥を施すことができ、品質がよく旨味のある黒にんにくを製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係る黒にんにくの製造方法および製造装置は、品質の良い黒にんにくを製造する方法と装置として、利用可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 生にんにく
10 密閉容器
11 容器本体
12 蓋
100 熟成室ユニット
101 熟成室内
102 棚
103 扉
104 吸気口
105 排気口
106 室内温度センサー
110 熱風生成装置
111 配管
112 制御部
120 攪拌機
S 黒にんにくの製造装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生にんにくを入れた多数の密閉容器を熟成室内の棚に静置するとともに、熱風生成装置で生成された熱風を吸気口から熟成室内に供給し、最初の熟成期間は、排気口を閉じた状態で熟成室内の温度を70℃に維持し、後の乾燥期間は、各密閉容器の蓋を開けると共に、排気口を開口した状態で、熟成室内の温度を65℃に維持することを特徴とする黒にんにくの製造方法。
【請求項2】
最初の熟成期間を28日間とし、後の乾燥期間を3〜5日間とすることを特徴とする請求項1記載の黒にんにくの製造方法。
【請求項3】
熟成室内に導入された熱風を攪拌手段により攪拌させることを特徴とする請求項1または請求項2記載の黒にんにくの製造方法。
【請求項4】
熟成されたにんにくに含まれる水分量を乾燥期間の工程で25〜35%除去することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の黒にんにくの製造方法。
【請求項5】
吸気口および排気口を備える熟成室と、熱風生成手段と、室内温度センサーを備え、
生にんにくを入れた多数の密閉容器を熟成室内の棚に配置するとともに、熱風生成手段により生成した熱風を吸気口から熟成室内に導入し、
最初の熟成期間は、排気口を閉じた状態で室内温度センサーに基づき熟成室内の室温を70℃に維持し、
後の乾燥期間は、各密閉容器の蓋を開けると共に排気口を開口した状態で、前記室内温度センサーに基づき熟成室内の室温を65℃に維持することを特徴とする黒にんにくの製造装置。
【請求項6】
熟成室内に導入した熱風を攪拌する攪拌手段を備えることを特徴とする請求項5記載の黒にんにくの製造装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−85499(P2013−85499A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227501(P2011−227501)
【出願日】平成23年10月15日(2011.10.15)
【出願人】(511250161)株式会社ナガミネ (1)
【Fターム(参考)】