説明

黒化防止効果を有するソルダペースト及び鉛フリーはんだの黒化防止方法

【課題】はんだの鉛フリー化によって採用されている鉛フリーはんだに有機ハロゲン化物が入った樹脂系フラックスを使用すると、はんだ付け部分が経時的に黒く変色してはんだ内部まで進行し、はんだ付け部が剥離したり、はんだの導電性が低下するという問題があった。
【解決手段】鉛フリーはんだのはんだ付けに有機ハロゲン化物が含有したフラックを使用する際に、有機ハロゲン化物が含有したフラックスにリン化合物を添加するか、または使用する鉛フリーはんだ粉末にリンを添加することにより、はんだ付け後のフラックス残渣中に残留したハロゲンの反応を抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソルダペーストによるプリント基板のはんだ付け方法に関してのものであり、特に鉛フリーはんだ付けにより発生するはんだ合金の黒化防止のはんだ付け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器への電子部品の接合・組立ては、はんだを使用したはんだ付けがコスト面および信頼性の面で一番有利であり、最も普通に行われている。
はんだ付けの方法としては、やに入りはんだをはんだ鏝を使用してはんだ付けするマニュアルソルダリング法、溶融はんだにプリント基板および電子部品を接触させてはんだ付けを行うフローソルダリング法、ソルダペースト、ソルダプリフォーム、ソルダボールなどをリフロー炉で再溶解してはんだ付けを行うリフローソルダリング法があるが、電子部品の小型化に伴い微細部品のはんだ付けに適するリフローソルダリングが最も一般的になっている。
【0003】
はんだを使用したはんだ付けでは、プリント基板および電子部品にはんだが付着し易くなるようにする補助剤としてフラックスが使用される。はんだ付けにおけるフラックスは、プリント基板および電子部品の金属表面の酸化膜を化学的に除去してはんだ付け可能な清浄面を作る表面浄化作用、はんだ付けを行うときにプリント基板および電子部品の金属表面を覆い、酸素との接触を遮断して加熱による再酸化を防止する再酸化防止作用、そして溶融したはんだの表面張力を小さくして、はんだの濡れを助ける界面張力の低下作用の効果などがあるため、はんだ付けには必ずフラックスが使用される。
【0004】
プリント基板および電子部品のはんだ付けに使用されるはんだ付け用フラックスは、樹脂系フラックスと水溶性フラックスの2種類に大別される。
樹脂系フラックスは、主成分の松脂(ロジン)を有機酸や活性剤と一緒にアルコールに溶解したもので、フラックス残渣が残っても絶縁性で、はんだ付け部への悪影響が少ないため、はんだ付け後は無洗浄で使用可能である。
一方、水溶性フラックスは、水溶性の有機酸や活性剤を水に溶解したものであるが、飛散防止のためにアルコールを加えているものもある。
水溶性フラックスでははんだ付け後に洗浄が必要となるので、樹脂系フラックスの使用が一般的である。
【0005】
樹脂系フラックスに使用する溶剤は、フローソルダリングに用いるソルダペースト用のフラックスでは、ジエチレングリコールモノブチルエーテルやジエチレングリコールモノヘキシルエーテルなどのアルコールエーテルなどが良く用いられている。そして、樹脂系フラックスに使用する活性剤はこれらの溶剤に可溶なことが必要で、エチルアミン臭化水素酸塩、ジエチルアミン塩化水素酸塩などのアミンのハロゲン化水素酸塩や有機ハロゲン化物が用いられている。
【0006】
フラックスに用いられる有機ハロゲン化物としては、特開平10−128573に開示されているように、1−ブロモ−2−ブタノール、1−ブロモー2−プロパノール、3−ブロモー1−プロパノール、3−ブロモー1、2−プロパジオール、1、4−ジブロモ−2−ブタノール、1、3−ジブロモー2−プロパノール、2、3−ジブロモー1−プロパノール、1、4ジブロモー2、3−ブタンジオール、2、3−ジブロモー2−ブテン−1、4−ジオール、1−ブロモー3−メチル−1−ブテン、1、4−ジブロモブテン、1−ブロモー1−プロペン、2、3−ジブロモプロペン、ブロモメチルベンジルステアレート、ブロモメチルフェニルステアレート、ブロモ酢酸エチル、α−ブロモカプリル酸エチル、α−ブロモプロピオン酸エチル、β−ブロモプロピオン酸エチル、α−ブロモー酪酸エチル、2、3−ジブロモコハク酸、2−ブロモコハク酸、2、2−ブロモアジピン酸、テトラブロモステアリン酸、ヘキサブロモステアリン酸、ヘキサブロモシクロドデカン、2,4−ジブロモアセトフェノン、1、1−ジプロモテトラクロロエタン、1、2−ジブロモー1−フェニルエタン、1、2−ジブロモスチレンなどがあげられる。これらの有機ハロゲン化物は、フローソルダリング用のポストフラックス、フローソルダリング用のソルダペーストおよびやに入りはんだのフラックスにも用いられている。
【0007】
ところで、はんだを用いてはんだ付けされた電子機器が故障したり、古くなって使い勝手が悪くなったりした場合、修理や無理して使うことなく廃棄処分されていた。電子機器を廃棄処分する場合、電子機器を構成するプラスチック、ガラス、金属等は回収して再使用することがあるが、プリント基板は樹脂部に銅箔が接着され、該銅箔にはんだが付着されており、これらを分離回収して再使用することが困難であるため、細かく破砕して埋めたり、そのまま埋め立て処分されたりしていたものである。近時の化石燃料の多用から地上に降り注ぐ雨は酸性雨となっており、該酸性雨が地中に浸透して埋め立て処分されたプリント基板に接触すると、はんだ中のPb成分を溶出し、Pb成分を含んだ酸性雨がさらに地中深く浸透して地下水に混入する。そしてPb成分を含んだ地下水を長年月にわたって人類が飲用すると、Pb成分が体内に蓄積されて、ついにはPb中毒を起こすといわれている。そのため現在、世界的規模でPbの使用が規制されるようになってきており、プリント基板のはんだ付けに用いられるPb-Snの共晶はんだも規制の対象になってきている。
【0008】
このようにPb-Snはんだの使用が規制されるようになっていることから、現在ではPbを全く含まない鉛フリーはんだの使用が推奨されるようになってきた。鉛フリーはんだとは、SnをベースにAg、Sb、Cu、Zn、Bi、In、Ni、Cr、Fe、P、Ge、Ga等の元素を一種以上添加したものである。現在、提案されている鉛フリーはんだとしてはSn-Ag-Cu系鉛フリーはんだ、Sn-Cu系鉛フリーはんだ、Sn-Ag系鉛フリーはんだ、Sn-Bi系鉛フリーはんだなどがある。Sn-Ag-Cu系鉛フリーはんだとは、Sn、Ag、Cuの合金およびSn、Ag、Cuに微量の添加元素を加えた合金である。その中でも現在実用化されているはんだとしては、Sn-3Ag-0.5Cu(固相線温度217℃、液相線温度220℃)、Sn-8Zn-3Bi(固相線温度190℃、液相線温度197℃)、Sn-2.5Ag-0.5Cu-1Bi(固相線温度214℃、液相線温度221℃)などがある。これらの鉛フリーはんだは、従来のSn63-Pb37はんだに比較して約40℃近くはんだの溶融温度が高い。
【0009】
現在最も実用化されている鉛フリーはんだとして、Sn-Ag-Cu系鉛フリーはんだが挙げられる。Sn-Ag-Cu系鉛フリーはんだは融点が220℃近傍であり、前述のSn-3Ag-0.5Cuの他に、Sn-3.5Ag-0.75Cu、Sn-3.9Ag-0.6Cu、Sn-4.0Ag-0.5Cuなどが実用化されている。またフローソルダリング用の鉛フリーはんだの酸化防止用として、およびぬれ性改善元素としてリンを添加したものもある(特開2003−094195号公報)。
【0010】
また、鉛フリーはんだは従来のPb-Snはんだに比較してぬれ性が悪いので、プリント基板のはんだ付けに用いられるはんだが鉛フリーはんだに置き換わるに従い、はんだ付けに使用されるフラックスも鉛フリーはんだ専用のものが必要になってきた。つまり、鉛フリーはんだは溶融温度が高いので、そこに使用するフラックスも高い温度で使用できるものでなくてはならない。はんだ付けに使用するフラックスは、はんだ付け作業温度に基づいて活性化する必要があるため、鉛フリーはんだ用フラックスの活性剤は、従来のSn-Pbはんだ合金に比較して高い温度で有効に働くものを選定しなければならない。
【0011】
従来のPb-Snはんだ用のフラックスに使用されてきた活性剤のうち、アミンのハロゲン化水素酸塩は150〜200℃前後で活性するものが多いが、有機ハロゲン化物はそれより温度の高い200〜230℃前後で活性する。そのため、鉛フリーはんだ用フラックスの活性剤としては、アミンのハロゲン化水素酸塩と有機ハロゲン化物を共存させる場合でも、有機ハロゲン化物の比重を高めるたフラックスが多くなっている。特にソルダペーストでは、アミンのハロゲン化水素酸塩の量が多いと鉛フリーのはんだ粉末とフラックスが反応しやすく、すぐにソルダペーストの粘度の上昇を招くので、有機ハロゲン化物の比重が高くなっている。
【0012】
ところが、鉛フリーはんだに有機ハロゲン化物が入った樹脂系フラックスを使用すると、はんだ付け部分が黒く変色することが解ってきた。特に120℃、100%RHのような高温、高湿度の環境下で長時間電圧を印可させると、はんだ表面の変色がはんだ内部にまで進行してしまう。このようにはんだが黒く変色をしてしまうと、はんだ付け部が剥離したり、はんだの導電性が低下してしまう。
【特許文献1】特開2003−094195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする問題点は、はんだの鉛フリー化によって採用されている鉛フリーはんだに有機ハロゲン化物が入った樹脂系フラックスを使用すると、はんだ付け部分が経時的に黒く変色してはんだ内部まで進行し、はんだ付け部が剥離したり、はんだの導電性が低下する点である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは鉛フリーはんだが黒く変色する原因が、はんだ付け後の樹脂系フラックス残渣に残った有機ハロゲン化物の残留物にあり、リンの化合物を添加することにより、リンの化合物が樹脂系フラックス残渣中に残った有機ハロゲン化物の残留物と反応してはんだの黒変を防止することを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
ソルダペーストに含まれる樹脂系フラックスがはんだ付けに使用されると、樹脂系フラックス中の溶剤は輝散し、松脂と活性剤に含まれるはんだ付けに必要な官能基は分解して、はんだの酸化物と反応し、はんだの酸化物を除去する働きをする。このときのはんだ付けに不要な部分およびはんだの酸化物と反応後の残渣物をフラックス残渣と呼び、はんだ付け後のはんだ周辺に残ってしまう。フラックス残渣の主成分は主に松脂が熱で変性したもので、この残渣物は水分をはじき、絶縁物として働くので、樹脂系フラックスははんだ付け後の残渣を洗浄しなくとも充分信頼性がある。
【0016】
ところが樹脂系のフラックス残渣の表面は、ポーラスでその表面に水の分子を取り込みやすい。取り込んだ水の粒子は松脂が水を通さないためにフラックス残渣内部まで浸透することはないが、高温、高湿度の環境になるとフラックス残渣と水の分子がいつも接することになる。フラックスの活性剤は、はんだ付け時に分解する。フラックスの活性剤として用いられているアミンのハロゲン化水素酸塩や有機ハロゲン化物は、はんだ付けの熱で分解して遊離ハロゲンを作り、電子部品の端子、プリント基板の銅箔およびはんだ付けされるはんだ材料と反応して酸化物を除去する。
【0017】
同じフラックスの活性剤でも、アミンのハロゲン化水素酸塩と有機ハロゲン化物では反応の方法が違う。アミンのハロゲン化水素酸塩は、フラックス中のアルコールなどの溶剤に一部ハロゲンが解離してイオン状態になっているが、有機ハロゲン化物は溶剤中で解離することが無く、はんだ付け時に初めて熱によって分解、ハロゲンが解離する。そのためアミンのハロゲン化水素酸塩の方が容易に解離反応が起き、はんだ付け後の未解離のハロゲンは存在しなくなる。それに対して有機ハロゲン化物では、分解温度まで加熱されないと解離反応が起きず、加熱条件に因ってははんだ付け後に未解離のハロゲンが残留する可能性もある。さらに、はんだ付けされる電子部品、プリント基板、はんだ材料の酸化の度合いは必ずしも均一ではない。ぬれ性の悪い、酸化した部品もはんだ付けするためには、強い活性力を持ったフラックスが必要になる。特にはんだが鉛フリーに置き換わったため、ソルダペーストに使用される活性剤のハロゲン量も多く使用しなければならなくなっている。
【0018】
有機ハロゲン化物では、はんだ付け用のフラックスの活性力はぬれ性の悪い部品に合わせなければならないため、部分的にははんだ付け後の残渣中に遊離したハロゲン過多の部分ができてしまう。これらのハロゲンは、松脂で覆われて封止されているので反応を起こしてしまうことがないが、高温、多湿の環境下ではフラックス残渣表面に付着した水の分子と反応して徐々にイオン性の物質に変化する。そして、それらのイオンを含有する水分がはんだ付けされたはんだ部分、特にSnの酸化を内部に進行させて、黒くはんだが変化す
るのである。
鉛フリーはんだの黒色変化は、はんだ付け部がフラックス残渣に被った状態の時に発生しやすい。これは、はんだ付け部にフラックスが被ってしまうと、はんだ付け部がいつもフラックス残渣に接することになり、はんだが直接イオン化したハロゲンと接しやすい環境になるためだと思われる。
【0019】
鉛フリーはんだの黒色変化はSnと有機ハロゲン化物との反応なので、Snベースの鉛フリーはんだすべてに発生する。Snベースの鉛フリーはんだとしては、Sn-Ag-Cu系鉛フリーはんだ、Sn-Cu系鉛フリーはんだ、Sn-Ag系鉛フリーはんだ、Sn-Bi系鉛フリーはんだが挙げられる。
【0020】
この鉛フリーはんだの黒色変化を防止するには、残渣中に残った反応性のハロゲンと反応する物質をフラックス中に添加することが考えられる。例えばアミンなど塩基性の物質がその例であるが、アミンなどの塩基の添加はソルダボールの発生などはんだ付け性を低下させてしまう。そのため、塩基で無いものがよい。塩基で無く、残渣中に残った反応性のハロゲンと反応する物質として周期表の第5属の半金属であるリンが挙げられる。Asなども同等の効果を持つと考えられるが、有害であり使用できない。リンは反応性が高いので単体でなく、化合物が用いられる。リンは半金属であるので無機化合物と有機化合物を共に作る性質がある。
【0021】
本発明のリン化合物は、ソルダペースト中のはんだ粉末およびフラックスどちらに添加しても同様な効果をもたらす。本発明は、鉛フリーソルダペーストのはんだ付けに有機ハロゲン化物が含有したフラックを使用する際に、ソルダペーストの鉛フリーはんだ粉末およびフラックスにリン化合物を添加することにより、はんだの黒色変色を防止する方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の鉛フリーはんだのはんだ付けに有機ハロゲン化物が含有したフラックスを使用する際に、リンの化合物を含有したフラックスおよびリンを含有した鉛フリーはんだを使用することにより、鉛フリーはんだの黒色変化を防止でき、はんだ付け部分が経時的に黒く変色してはんだ内部まで進行し、はんだ付け部が剥離したり、はんだの導電性が低下することを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明のリン及びリンの化合物は、ソルダペースト中のはんだ粉末およびフラックスどちらに添加しても同様な効果をもたらす。鉛フリーソルダペーストへのリンの化合物の添加量は、フラックス中ではフラックス重量に対して0.01質量%より少ないと黒化防止効果が現れず、10質量%より多いと他のフラックス成分のバランスが崩れ、ペーストとしての特性が損なわれ、はんだ付けに悪影響を及ぼす。そのため、鉛フリーソルダペーストのフ
ラックス中へのリンの化合物の添加量は、フラックス重量の0.01〜10質量%が望ましい。また、ソルダー粉末中へのリン添加はソルダー重量に対して0.0005質量%より少ないと黒化防止効果が現れず、0.02質量%より多いとソルダー液相線温度の上昇に伴い、はんだ付け温度においても、はんだが完全に溶融しない場合があり、濡れが低下する。但し、はんだ付け温度はワークによって、異なるため、P添加量の上限値ははんだの液相線温度がワークのはんだ付け温度以下となる組成が望ましい。一方で、250℃のはんだ付け温度では、0.02質量%程度のリン添加ははんだのぬれ性に大きく影響をしない。
【0024】
鉛フリーはんだ粉末にリン化合物を添加するときは、リン合金もしくは、はんだ粉末と反応しやすい無機リン化合物が望ましい。本発明に適したリン合金としては、Sn-P、Ag-P、Cu-P、Bi-P、Sn-Ag-Cu-P、Sn-Cu-P合金、無機リン化合物としては、リン酸、リン酸ソーダ、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム、ピロリン酸ソーダ、メタリン酸ソーダ、ヘキサメタリン酸ソーダなどのリン酸やリン酸とアルカリ金属の塩などがあげられる。鉛フリーはんだ粉末へのリン合金もしくは、無機リン化合物の添加ははんだを溶融させた状態で行い、リンと合金化した鉛フリーはんだ粉末を作った方が良い。できあがった鉛フリーはんだ粉末表面に無機リン化合物付着させて添加すると、無機リン化合物が鉛フリーはんだ粉末と過度に反応するので腐食をもたらすことがある。
【0025】
有機ハロゲン化物が含有したフラックスにリン化合物を添加するときは、フラックス中に溶解しやすい有機リン化合物が望ましい。本発明に適した有機リン酸化合物としては、トリフェニルホスァイト、フェニルジイソデシルホスァイト、オクタデシルホスファイト、トリスジフェニルホスァイト、9,10−ジヒドロ−9オキサ−10−ホスファフェナン−10−オキサイド、10−デシドロキシ−9,10−ジヒドロ−9オキサ−10−ホスファフェナントレン、トリス(2,4−ジ−t−ブチル−フェニル)ホスァイトなどフェニルホスァイト類が挙げられる。
【0026】
これらのリンの化合物は、常温ではハロゲンとも反応せず安定しているので、ソルダペーストに添加しても活性剤と反応することもない。ただし、イオン性となったハロゲンとは反応するので、樹脂系フラックスの残渣に含まれる残留ハロゲンが水の存在下でイオン化した時だけに反応する。このようにリンの化合物は、鉛フリーはんだの黒色変化を防止するには最適な物質である。ただし、リンの化合物をソルダペーストのフラックスに用いると、フラックス中の酸性になりやすいため塩基性のものを加えるなどフラックスの配合が限定される。それに対してはんだ粉末にリンの化合物を添加する場合は、特にフラックスの配合を限定する必要がない。そのため、より最善なソルダペースト中のリンの化合物の添加方法は、はんだ粉末中にリンの化合物を添加することである。
【実施例1】
【0027】
下記の配合でソルダペースト用のフラックスを作り、各はんだ合金で作ったはんだ粉末と混和して表1のソルダペーストを作製した。各ソルダペストについて高度加速寿命試験を実施してはんだ接合部のフィレットの劣化を比較した。
【0028】
高度加速寿命試験方法
1.試験基板にソルダペーストを200μmの厚みのメタルマスクで印刷し、リフローはんだ付けする。
2.室温にさました後、温度120℃、湿度100%、印可電圧DC20Vに設定した恒温恒湿度槽中で63時間保管する。
3.63時間後のはんだ接合部のフィレットの黒色変化の様子を確認する。
4.高度加速寿命試験の判定基準
レベル1:黒色化無し
レベル2:黒いすじが見える
レベル3:部分的に黒色化している
レベル4:全体的に黒色化している
判定基準の写真を図1に示す。高度加速寿命試験結果は表1に示す。
【0029】
(表1)
各フラックスおよびはんだ粉末で作ったソルダペーストの高度加速寿命試験結果。

【0030】
1.ソルダペーストの配合
はんだ粉末 89質量%
フラックス 11質量%
2.フラックスの配合
1). フラックス1
重合ロジン 45質量%
アジピン酸 0.5質量%
2,3−ジブロモ-1-プロパノール 2質量%
水素添加ひまし油 5wt%
ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル 残量
2). フラックス2
重合ロジン 45質量%
アジピン酸 0.5質量%
水素添加ひまし油 5質量%
ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル 残量
3). フラックス3
重合ロジン 45質量%
アジピン酸 0.5質量%
2,3−ジブロモ-1-プロパノール 2質量%
9,10-ジヒドロ-9オキサ-10-フォスファフェナン-10-オキサイド 2質量%
水素添加ひまし油 5質量%
ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル 残量
4). フラックス4
重合ロジン 45質量%
アジピン酸 0.5質量%
2,3−ジブロモ-1-プロパノール 2質量%
9,10-シ゛ヒト゛ロ-9オキサ-10-ホスファフェナン-10-オキサイト゛ 2質量%
水素添加ひまし油 5質量%
ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル 残量
3.鉛フリーはんだ粉末
1). はんだ粉末1
Sn-3.0質量%Ag-0.5質量%Cu鉛フリーはんだを粒度25〜36μmの粉末にしたもの
2). はんだ粉末2
Sn-0.7Cu質量鉛フリーはんだを粒度25〜36μmの粉末にしたもの
3). はんだ粉末3
Sn-3.0質量%Ag-0.5質量%Cu鉛フリーはんだに、リンの母合金Sn-Ag-Pを0.0005質量%溶解
して粒度25〜36μmの粉末にしたもの
4). はんだ粉末4
Sn-3.0質量%Ag-0.5質量%Cu鉛フリーはんだに、リンの母合金Sn-Ag-Pを0.002質量%溶解し
て粒度25〜36μmの粉末にしたもの
5). はんだ粉末5
Sn-3.0質量%Ag-0.5質量%Cu鉛フリーはんだに、リンの母合金Sn-Ag-Pを0.02質量%溶解し
て粒度25〜36μmの粉末にしたもの
6). はんだ粉末6
Sn-0.7Cu質量鉛フリーはんだに、リンの母合金Sn-Pを0.0005質量%溶解して粒度25〜36μ
mの粉末にしたもの
7). はんだ粉末7
Sn-0.7Cu質量鉛フリーはんだに、リンの母合金Sn-Pを0.002質量%溶解して粒度25〜36μ
mの粉末にしたもの
8). はんだ粉末8
Sn-0.7Cu質量鉛フリーはんだに、リンの母合金Sn-Pを0.02質量%溶解して粒度25〜36μm
の粉末にしたもの
9). はんだ粉末9
Sn-3.0質量%Ag-0.5質量%Cu鉛フリーはんだに、ゲルマニウムの母合金Sn-Ag-Geを0.01質量
%溶解して粒度25〜36μmの粉末にしたもの
【0031】
高度加速寿命試験の結果からソルダペースト中にリンの化合物を添加したものは、高温、加湿の条件下でもはんだ接合部のフィレットの黒色変化が抑えられるが、ソルダペーストにリンの化合物を添加しなかったものは、はんだ接合部のフィレット内部まで黒色化が進行している(図2)。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、ジカルボン酸を含有したフラックスによる鉛フリーはんだの黒化防止にも効果がある。エポキシ樹脂を含有したフラックスは、エポキシ樹脂の硬化剤としてジカルボン酸およびジカルボン酸の無水物を10質量%以上使用することが多い。このジカルボン酸
もフラックス中では活性化しないが、はんだ付け時に分解して活性力を示す。有機ハロゲン化物ほど急激ではないが、ジカルボン酸もフラックス残渣中に残留すると鉛フリーはんだの黒色変化を起こしてしまう。
ジカルボン酸およびジカルボン酸の無水物を含有したフラックスにリン化合物または、はんだ付けする鉛フリーはんだにリン化合物を添加してやることによって、はんだの黒色変化を防止することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】黒色化レベルを1〜4段階で示した合否判断の写真である。
【図2】黒色化の進んだはんだ接合部の断面写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛フリーはんだ粉末と有機ハロゲン化物を含有したフラックスを混和したものからなるソルダペーストにおいて、該鉛フリーはんだ粉末は、Sn-P合金、Ag-P合金、Cu-P合金、Bi-P合金、Sn-Ag-Cu-P合金、 Sn-Cu-P合金、リン酸、リン酸ソーダ、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム、ピロリン酸ソーダ、メタリン酸ソーダ、ヘキサメタリン酸ソーダから選択される1種以上のリン合金又は、無機リン化合物を溶融はんだ中に添加して、リンと合金化した鉛フリーはんだを用いて粉末としたことを特長とするソルダペースト。
【請求項2】
前記ソルダペーストは、リン合金又は、無機リン化合物を溶融はんだ中に添加して、はんだ中のPの含有量が0.0005〜0.02%となるリンと合金化した鉛フリーはんだを用いて粉末としたことを特長とする請求項1に記載のソルダペースト。
【請求項3】
ソルダペーストを用いてはんだ付けする方法において、請求項1のソルダペーストを用いてはんだ付け部分の黒変を防止する、鉛フリーはんだの黒化防止方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−115855(P2011−115855A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−5551(P2011−5551)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【分割の表示】特願2004−381337(P2004−381337)の分割
【原出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000199197)千住金属工業株式会社 (101)