説明

黒鉛球状化処理方法

【課題】 鉄被覆Mgワイヤーをワイヤーフィーダー法によって溶融鋳鉄に添加し、黒鉛を球状化処理してダクタイル鋳物用溶融鋳鉄を溶製するに当たり、Mgを高い歩留まりで溶融鋳鉄中に添加する。
【解決手段】 鋼板または鋼管からなる被覆材で被覆された鉄被覆Mgワイヤー14を上方から溶融鋳鉄17に供給して溶融鋳鉄中の黒鉛を球状化処理するに際し、前記被覆材の溶融鋳鉄中における溶解位置が溶融鋳鉄の浴深さ(L)の1/2以上の深さの位置になるように、溶融鋳鉄の浴深さ及び被覆材の厚みに応じて鉄被覆Mgワイヤーの溶融鋳鉄中への供給速度を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶解炉などで溶解された溶融鋳鉄に、金属MgやMg合金を、鋼板或いは鋼管などで被覆して成形した鉄被覆Mgワイヤーを添加して、溶融鋳鉄中の黒鉛を球状化する黒鉛球状化処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダクタイル鋳鉄管などのダクタイル鋳物は、鋼材と同等の引張強度を有し、その伸び及び靱性などの機械試験値は普通鋳鉄の十数倍に達し、更に、普通鋳鉄と同等の優れた耐食性を有しており、そのため、これらの特性が要求される地中埋設管などの、より厳しい環境下での各種配管材などに広く採用されている。
【0003】
このダクタイル鋳物は、鉄スクラップを主たる鉄源原料としてキュポラ或いは電気炉などの溶解炉によって溶解された溶融鋳鉄に、黒鉛球状化剤として金属MgやFe−Si−Mg合金などのMg合金を添加し、C:3〜4質量%(以下「%」と記す)、Si:2〜3%、Mn:0.2〜0.5%、Mg:0.01〜0.06%を含有するダクタイル鋳物用溶融鋳鉄を溶製し、これを遠心鋳造機などの鋳造設備によって鋳造することで製造されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
Mgは、沸点(1103℃)が低く、溶融鋳鉄の温度域では蒸気圧が高いため、溶融鋳鉄には本来溶解しにくい。このような性質の金属MgやMg合金を、高い添加歩留まりで溶融鋳鉄に添加する方法として、置注ぎ法、蓋付取鍋添加法、プランジャ法、圧力添加法、ワイヤーフィーダー法などの種々の添加方法が実施されている(例えば、非特許文献1参照)。これらは何れも、金属MgやMg合金の溶解する雰囲気の圧力を高め、Mgガスとなってロスする分を少なくした添加方法である。
【0005】
このなかで、ワイヤーフィーダー法では、金属MgやMg合金を芯材とし、この芯材を鋼板或いは鋼管などの被覆材で被覆・成形した鉄被覆Mgワイヤーを、溶融鋳鉄中に供給し、被覆材が溶解した後に芯材と溶融鋳鉄とが接触することによって、金属MgやMg合金が溶融鋳鉄中に添加される。そのために、ワイヤーフィーダー法では、供給した鉄被覆Mgワイヤーの長さを管理することで、金属MgやMg合金の添加量を制御することができ、しかも、供給した鉄被覆Mgワイヤーの長さは、鉄被覆Mgワイヤーを供給するピンチロール或いはメジャーロールなどによって自動的に計測されるため、前述した他の添加法に比べて大幅に作業付加が削減されるというメリットがある。換言すれば、ワイヤーフィーダー法を適用することにより、黒鉛球状化処理作業を極めて簡単に無人化することが可能となる。
【0006】
しかしながら、従来、ダクタイル鋳物用溶融鋳鉄を溶製する際に、ワイヤーフィーダー法を用いた事例(例えば特許文献2参照)はあるものの、鉄被覆Mgワイヤーを高い添加歩留まりで添加することのできる具体的な添加方法を提案した事例はない。
【0007】
【特許文献1】特開平6−246415号公報
【特許文献2】特開2004−238674号公報
【非特許文献1】改訂4版鋳物便覧,日本鋳物協会編,昭和61年1月20日発行、p.560−565
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、金属MgやMg合金を鋼板或いは鋼管などで被覆して成形した鉄被覆Mgワイヤーを、ワイヤーフィーダー法によって溶融鋳鉄に添加し、黒鉛を球状化処理してダクタイル鋳物用溶融鋳鉄を溶製するに当たり、Mgを高い歩留まりで溶融鋳鉄中に添加することのできる黒鉛球状化処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究・検討を行った。その結果、溶融鋳鉄中に供給した鉄被覆Mgワイヤーの被覆材が溶解する時点を、溶融鋳鉄の浴深さの1/2以上の深さ位置とし、鉄被覆Mgワイヤーの芯材と溶融鋳鉄との接触がそれ以降に起こるようにすることで、溶融鋳鉄の静圧が寄与してMgガスの発生が抑制され、高い歩留まりでMgを添加できるとの知見が得られた。
【0010】
また、被覆材の溶解時間は、被覆材の厚みから一義的に求めることができ、溶融鋳鉄の浴深さ及び被覆材の厚みに応じて決まる所定の供給速度以上とすることで、常に、被覆材の溶解位置を浴深さの1/2以上の深さ位置にすることができるとの知見が得られた。
【0011】
本発明は上記知見に基づいてなされたものであり、第1の発明に係る黒鉛球状化処理方法は、鋼板または鋼管からなる被覆材で被覆された鉄被覆Mgワイヤーを上方から溶融鋳鉄中に供給して溶融鋳鉄中の黒鉛を球状化処理するに際し、前記被覆材の溶融鋳鉄中における溶解位置が溶融鋳鉄の浴深さの1/2以上の深さの位置になるように、溶融鋳鉄の浴深さ及び被覆材の厚みに応じて鉄被覆Mgワイヤーの溶融鋳鉄中への供給速度を調整することを特徴とするものである。
【0012】
第2の発明に係る黒鉛球状化処理方法は、第1の発明において、溶融鋳鉄の浴深さをL、被覆材の厚みをtとしたときに、前記鉄被覆Mgワイヤーを、下記の(1)式によって算出される供給速度以上の供給速度で供給することを特徴とするものである。但し、(1)式において、Vl は供給速度(mm/秒)、Lは浴深さ(mm)、tは被覆材の厚み(mm)である。
【0013】
【数1】

【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、少なくとも溶融鋳鉄の浴深さの1/2深さの位置までは、鉄被覆Mgワイヤーの被覆材を溶解させずに残留させるので、芯材である金属MgやMg合金は浴深さの1/2より深い位置で溶融鋳鉄と接触し、溶融鋳鉄の静圧が作用するためにMgガスの発生が抑制され、高い添加歩留まりでMgを溶融鋳鉄に添加することができる。その結果、極めて高価である金属MgやMg合金の使用量が削減され、ダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の製造コストを大幅に削減することができ、工業上有益な効果がもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本発明を具体的に説明する。図1は、本発明に係る黒鉛球状化処理方法を実施する際に用いた黒鉛球状化処理設備の側面概略図である。
【0016】
図1に示すように、黒鉛球状化処理設備1は鋼製の架台2で骨組みが構成され、処理容器である取鍋15を、架台2で四隅を囲まれた中に搬入・搬出するための搬送手段として、ローラーテーブル3が設置されている。このローラーテーブル3には、ローラーテーブル3に取り付けられたローラー駆動電動機(図示せず)によって回転可能な複数個のローラー4が設置されている。ローラー4の表面には、凹状の溝(図示せず)が設けられており、また、取鍋15の底面には、一対のレール16が設置されており、取鍋15は、レール16をローラー4の凹状の溝に乗せた状態でローラーテーブル3によって支持され、ローラー4が回転することでローラー4の上を移動するようになっている。
【0017】
ローラーテーブル3によって黒鉛球状化処理設備1の所定位置まで搬入された取鍋15の直上には、取鍋15の上部開口部を覆うための蓋5が配置されている。蓋5はチェーン7と接続し、チェーン7の他方の端部は蓋昇降装置6と接続しており、蓋昇降装置6によって巻き上げ或いは巻き下げられるチェーン7を介して蓋5は昇降し、取鍋15の上部開口部を覆うようになっている。チェーン7は複数配置されており、それぞれのチェーン7がそれぞれ独立して蓋昇降装置6に接続されている。蓋昇降装置6は、電動機(図示せず)によって駆動される。
【0018】
また、取鍋15の上方所定位置の架台2には、取鍋15に収容された溶融鋳鉄17の浴面に対して鉛直方向に向いた直線状のガイドパイプ8が取り付けられている。ガイドパイプ8は蓋5を貫通しており、蓋5とガイドパイプ8との間には、蓋5が十分に昇降可能なように、間隙が設けられている。このガイドパイプ8の斜め上方には、対向するロールとの間で鉄被覆Mgワイヤー14を挟み、電動機(図示せず)によって回転して鉄被覆Mgワイヤー14を供給する機能を備えた一対のピンチロール9が設置されている。また、複数個(図1では4個)のガイドロール11が取付冶具12によって架台2に取り付けられている。この場合、ピンチロール9と複数個のガイドロール11とは、或る一点(図1ではP)を中心とする所定の半径の円周に沿って並んで配置されており、ガイドパイプ8の上端とピンチロール9と複数個のガイドロール11とによって、円弧状(この場合、実質半円状)のワイヤー供給経路10が形成されている。ガイドパイプ8の軸心方向は、この円弧状のワイヤー供給経路10の接線方向と合致するように配置されている。また、取鍋15から離れた位置には、コイル状に巻かれた鉄被覆Mgワイヤー14aを置くためのワイヤー保持台13が設けられている。
【0019】
即ち、ワイヤー保持台13に置かれたコイル状の鉄被覆Mgワイヤー14aは、対向するピンチロール9の間に挟まれて巻き戻され、線状の鉄被覆Mgワイヤー14となって、円弧状のワイヤー供給経路10及びガイドパイプ8を経由して、取鍋15に収容された溶融鋳鉄17に供給されるようになっている。この黒鉛球状化処理設備1では、2本の鉄被覆Mgワイヤー14を同時に供給することが可能であり、従って、ガイドパイプ8、一対のピンチロール9、円弧状のワイヤー供給経路10、及びワイヤー保持台13がそれぞれ独立して一基ずつ配置されているが、図1では、片方のみを図示している。鉄被覆Mgワイヤー14の供給量は、ピンチロール9によって自動的に計測され、その計測結果が制御盤(図示せず)に出力されるようになっている。
【0020】
鉄被覆Mgワイヤー14は、図2にその概略断面図を示すように、金属Mg、或いはFe−Si−Mg合金、Fe−Si−Mg−R.E (稀土類元素)合金、Fe−Si−Mg−R.E −Ca合金、Ni−Mg合金などのMg合金を芯材18とし、この芯材18を、薄鋼鈑或いは薄鋼管を被覆材19として被覆・成形したクラッド線材である。コイル状の鉄被覆Mgワイヤー14aは、ドラムなどに巻く必要はなく、図1に示すように、ワイヤー保持台13の上に置くだけで構わない。
【0021】
このような構成の黒鉛球状化処理設備1を用いたダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の黒鉛球状化処理方法を以下に説明する。
【0022】
鉄スクラップや銑鉄などの鉄源とコークスなどの炭材とを原料として、キュポラ或いは電気炉などの溶解炉で溶解し、更に必要に応じて脱硫処理を施して溶融鋳鉄17を溶製し、溶製した溶融鋳鉄17を取鍋15に注湯する。そして、溶融鋳鉄17を収容した取鍋15をクレーン、搬送台車などの適宜の搬送手段によって黒鉛球状化処理設備1に搬送し、取鍋15をローラーテーブル3の上に載せる。図1に示す形態例では、搬送台車を用いて取鍋15を黒鉛球状化処理設備1に搬送した例であるが、図1ではローラーテーブル3に対面する搬送台車を省略している。
【0023】
ローラーテーブル3を作動させ、取鍋15がローラーテーブル3の上を所定位置まで搬入されたなら、取鍋15をストッパー(図示せず)によってローラーテーブル3の上で固定し、蓋昇降装置6を駆動して蓋5を下降させ、蓋5によって取鍋15の上部開口部を覆う。次いで、ピンチロール9を所定の回転速度で駆動させ、鉄被覆Mgワイヤー14を取鍋15に供給する。鉄被覆Mgワイヤー14の供給量は、ピンチロール9の回転数から自動的に計測される。
【0024】
この場合、鉄被覆Mgワイヤー14の被覆材19が、少なくとも溶融鋳鉄17の浴深さ(L)の1/2深さの位置に達するまでは溶解しないようにするために、溶融鋳鉄17の浴深さ(L)と被覆材19の厚みとに応じて、鉄被覆Mgワイヤー14の供給速度、つまりピンチロール9の回転速度を調整する。具体的には次のようにして実施することができる。
【0025】
図3は、本発明者等が、被覆材19の厚みを変更して、被覆材19の溶解時間、つまり室温の被覆材19が1445℃の溶融鋳鉄17に浸漬してから溶解するまでに必要とする時間を、伝熱計算によって求めた結果である。図3に示すように、被覆材19の厚みが厚くなるほど溶解時間は長くなり、溶解時間は下記の(2)式によって近似できることが分かった。尚、(2)式において、Tは溶解時間(秒)、tは被覆材19の厚み(mm)である。
【0026】
【数2】

【0027】
本発明者等は、室温の鉄被覆Mgワイヤー14を瞬時に溶融鋳鉄17に浸漬させ、鉄被覆Mgワイヤー14の芯材であるMgが蒸発して溶融鋳鉄17の表面で発光するまでの時間を高速度カメラで測定した結果と、(2)式により算出される溶解時間とは良く一致することを確認している。また、溶融鋳鉄17の温度が1445℃から±50℃程度乖離したとしても、被覆材19の溶解時間は(2)式で表されることを確認している。
【0028】
従って、使用する鉄被覆Mgワイヤー14の被覆材19の厚みと、使用する取鍋15における溶融鋳鉄17の浴深さ(L)とに応じて、被覆材19の溶解位置が浴深さの1/2以上の深さ位置になるように、鉄被覆Mgワイヤー14の供給速度を設定すればよい。具体的には、被覆材19の厚みによって定まる溶解時間Tが経過するまでに鉄被覆Mgワイヤー14を、浴深さ(L)の1/2以上の深さ位置まで供給することのできる供給速度で供給すればよい、換言すれば、供給速度と溶解時間Tとの積が浴深さ(L)の1/2以上となるようにすればよい。即ち、前述した(1)式によって算出される供給速度Vl よりも速い供給速度で供給すればよい。例えば、被覆材19の厚みが0.4mmで、浴深さ(L)が590mmのときには、供給速度を325mm/秒(=19.5m/分)以上とすればよいことが分かる。
【0029】
尚、鉄被覆Mgワイヤー14の供給速度を過剰に速くすると、鉄被覆Mgワイヤー14の被覆材19が溶解しないまま取鍋15などの処理容器の底面に衝突することになり、処理容器の底部の耐火物を損傷する恐れもあるので、処理容器の底面に到達するまでには被覆材19が溶解するように、供給速度の上限を定めることが好ましい。つまり、下記の(3)式から算出される供給速度Vu を上限とし、この供給速度以下の供給速度で供給することが好ましい。但し、(3)式において、Vuは供給速度(mm/秒)、Lは浴深さ(mm)、tは被覆材の厚み(mm)である。
【0030】
【数3】

【0031】
このようにして鉄被覆Mgワイヤー14を溶融鋳鉄17に供給する。取鍋15に収容された溶融鋳鉄17は、添加されるMgによって黒鉛球状化処理が施され、溶融鋳鉄17は、例えば、C:3〜4%、Si:2〜3%、Mn:0.2〜0.5%、Mg:0.01〜0.06%を含有するダクタイル鋳物用溶融鋳鉄に溶製される。
【0032】
所定量の鉄被覆Mgワイヤー14が取鍋15の内部に供給され、Mgによる黒鉛球状化処理が終了したならば、ピンチロール9を停止し、次いで、蓋昇降装置6を駆動させて蓋5を所定位置まで上昇させる。また、蓋5と取鍋15とが分離されたならば、ローラーテーブル3のローラー4を駆動させ、取鍋15を黒鉛球状化処理設備1から搬出する。その後、ダクタイル鋳物用溶融鋳鉄を収容した取鍋15を次工程の除滓設備や遠心鋳造機などの鋳造設備に、クレーンや搬送台車などの適宜の搬送手段を用いて搬送する。
【0033】
このようにして溶融鋳鉄17に黒鉛球状化処理を施すことにより、少なくとも溶融鋳鉄17の浴深さ(L)の1/2深さの位置までは、鉄被覆Mgワイヤー14の被覆材19は溶解せずに残留するので、芯材18である金属MgやMg合金は浴深さの1/2より深い位置で溶融鋳鉄17と接触し、溶融鋳鉄17の静圧が作用するためにMgガスの発生が抑制され、高い添加歩留まりでMgを溶融鋳鉄17に添加することができる。
【実施例1】
【0034】
図1に示す黒鉛球状化処理設備を用い、深さが1000mmの取鍋に収容された溶融鋳鉄に鉄被覆Mgワイヤーを添加して黒鉛球状化処理を実施する際に、鉄被覆Mgワイヤーの供給速度を変化させて、供給速度とMgの歩留まりとの関係について調査した。取鍋内の溶融鋳鉄の浴深さは590mmであった。また、使用した鉄被覆Mgワイヤーは、Fe−Si−Mg−R.E −Ca合金を芯材とし、厚み0.4mmの鋼板を被覆材とする、外径13mmの鉄被覆Mgワイヤーである。溶融鋳鉄中への鉄被覆Mgワイヤーの供給速度を10〜34m/分の範囲に変更して所定量の鉄被覆Mgワイヤーを添加した。
【0035】
Mgの歩留まりは、黒鉛球状化処理後のダクタイル鋳物用溶融鋳鉄を遠心鋳造機で鋳造して得た鋳鉄管のMg濃度と、添加したMgの質量とから算出した。図4に、鉄被覆Mgワイヤーの供給速度とMg歩留まりとの関係を示す。Mg添加時の溶融鋳鉄の温度が異なるとMg歩留まりに差が生じ、鉄被覆Mgワイヤーの供給速度とMg歩留まりとの関係が不明瞭になることから、図4に示す結果は、鉄被覆Mgワイヤー添加時の溶融鋳鉄温度が1440〜1449℃の操業の結果のみを表示している。
【0036】
図4に示すように、鉄被覆Mgワイヤーの供給速度が速くなるほどMgの歩留まりが上昇し、供給速度が20m/分以上の場合には、45%程度の高い歩留まりが安定して得られることが分かった。
【0037】
この操業条件、つまり浴深さが590mmで、被覆材の厚みが0.4mmである条件を、前述した(1)式に代入して供給速度Vl を求めると、供給速度Vl として19.5m/分の供給速度が得られる。即ち、19.5m/分以上の供給速度であれば、被覆材の溶解位置が浴深さの1/2位置よりも深い位置となることが分かる。
【0038】
伝熱計算による(1)式の結果と図4に示すMg歩留まりの結果とを対比した結果、鉄被覆Mgワイヤーの被覆材の溶解位置を溶融鋳鉄の浴深さの1/2以上の深さ位置とすることにより、Mgの歩留まりを安定して高位に維持させることが可能となることが、確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明を実施する際に用いた黒鉛球状化処理設備の側面概略図である。
【図2】本発明で使用する鉄被覆Mgワイヤーの概略断面図である。
【図3】被覆材の溶解時間を伝熱計算によって求めた結果を示す図である。
【図4】実施例1における鉄被覆Mgワイヤーの供給速度とMg歩留まりとの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
1 黒鉛球状化処理設備
2 架台
3 ローラーテーブル
4 ローラー
5 蓋
6 蓋昇降装置
7 チェーン
8 ガイドパイプ
9 ピンチロール
10 ワイヤー供給経路
11 ガイドロール
12 取付冶具
13 ワイヤー保持台
14 鉄被覆Mgワイヤー
15 取鍋
16 レール
17 溶融鋳鉄
18 芯材
19 被覆材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板または鋼管からなる被覆材で被覆された鉄被覆Mgワイヤーを上方から溶融鋳鉄中に供給して溶融鋳鉄中の黒鉛を球状化処理するに際し、前記被覆材の溶融鋳鉄中における溶解位置が溶融鋳鉄の浴深さの1/2以上の深さの位置になるように、溶融鋳鉄の浴深さ及び被覆材の厚みに応じて鉄被覆Mgワイヤーの溶融鋳鉄中への供給速度を調整することを特徴とする黒鉛球状化処理方法。
【請求項2】
溶融鋳鉄の浴深さをL、被覆材の厚みをtとしたときに、前記鉄被覆Mgワイヤーを、下記の(1)式によって算出される供給速度以上の供給速度で供給することを特徴とする、請求項1に記載の黒鉛球状化処理方法。
Vl=(L/2)×[1/(-0.18t2+2.07t+0.11)] …(1)
但し、(1)式において、Vl は供給速度(mm/秒)、Lは浴深さ(mm)、tは被覆材の厚み(mm)である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−316331(P2006−316331A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−142283(P2005−142283)
【出願日】平成17年5月16日(2005.5.16)
【出願人】(000231877)日本鋳鉄管株式会社 (48)
【Fターム(参考)】