説明

(−)−テトラヒドロリプスタチンおよびその中間体の製造方法

本発明は、化合物(III)をジアステレオ選択的還元反応に付して、化合物(IV)を得、得られた化合物(VIII)をヘキセニル化、加水分解、スルホニルハライド類等との反応、脱保護および接触還元反応に順次付して、化合物(VIII)を得、次いで、得られた化合物(VIII)とN−ホルミル−L−ロイシンとを、カルボジイミド系縮合剤及び3級アミンの存在下、0℃未満の反応温度で縮合させることを特徴とする、化合物(IV)、化合物(VIII)または(−)−テトラヒドロリプスタチンである化合物(XI)の製造方法に関する。本発明によれば、抗肥満薬として有用な(−)−テトラヒドロリプスタチンまたはその有用な合成中間体を、従来より短い工程で、高い光学純度かつ比較的高い収率で、効率的に製造できる方法を提供することができる。


(式中、Pは水酸基の保護基を示し、Rは炭素数1〜4のアルキル、ベンジルまたは4−ニトロベンジルを示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、抗肥満薬として有用な(−)−テトラヒドロリプスタチンおよびその有用中間体の製造方法に関する。
【背景技術】
抗肥満薬として有用な式(XI):

で表される(−)−テトラヒドロリプスタチンが知られている。
(−)−テトラヒドロリプスタチンの合成法は種々提案されているが、その効率的な製法の一つとして、以下の反応スキームに示される方法が知られている(Chem.Commun.,1999,1743−1744)。

(式中、TBDMSはtert−ブチルジメチルシリルを示し、THPはテトラヒドロピラニルを示し、Cbzはベンジルオキシカルボニルを示す。)
この製造方法においては、上記式10で表される化合物からは、一般的な方法により、7工程で(−)−テトラヒドロリプスタチンに誘導できる。したがって、式10で表される化合物に代表される一般式(IV):

(式中、Pは水酸基の保護基を示し、Rは炭素数1〜4のアルキル、ベンジルまたは4−ニトロベンジルを示す。)で表される化合物(以下、化合物(IV)ともいう。)を鍵中間体として効率的に合成することは、(−)−テトラヒドロリプスタチンの工業的製造において意義のあることである。
上記製造方法では、化合物(IV)をケック(Keck)の不斉アリル化で合成される光学活性1−ペンタデセン−4−オールから8工程で合成しているが、工程が長いばかりでなく、有機セレン化合物を化学量論量用いなければならないなどの問題があり、工業的に有利な方法とは言えなかった。
また、上記製造方法では、式10で表される化合物のエステルのα位をヘキシル化して式11で表される化合物に導く際に、カルバニオンの求核性を上げて収率を向上させるために、ヘキサメチルリン酸アミド(以下、HMPAともいう。)を添加しているが、HMPAは毒性が高いために、工業的製造においては安全衛生上の問題がある。
さらに、上記製造方法では、式(VIII)で表される化合物を(−)−テトラヒドロリプスタチンに誘導するために、N−ベンジルオキシカルボニル−L−ロイシンとN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(以下、DCCともいう。)を大過剰用いて、4−ジメチルアミノピリジン(以下、DMAPともいう。)存在下に縮合させた後、水素還元することによりベンジルオキシカルボニル基を脱保護し、さらに無水ホルミル酢酸でホルミル化するという3工程を要している。式(VIII)で表される化合物を中間体として経由するものとして他に報告されている(−)−テトラヒドロリプスタチンの製造方法においても、同様の方法が採用されている(Tetrahedron lettrs,31(25),3645−3648,1990;J.Chem.Soc.Perkin Trans.1,17,2679−2686,1998)。
しかしながら、この方法では、縮合、脱保護およびホルミル化の3工程を要するため効率的ではない。そこで本発明者等は、係る縮合反応を、N−ベンジルオキシカルボニル−L−ロイシンの代わりにN−ホルミル−L−ロイシンを用いて、室温下DCCと0.1等量のDMAPを用いた通常の縮合条件で行ったところ、ホルミルアミノ基のエピメリ化が顕著に観察された。このエピメリ化反応は、DMAPの添加量を減少させることにより多少抑制されるものの、顕著な効果は見られなかった。
このように式(VIII)で表される化合物から(−)−テトラヒドロリプスタチンに導く際に、N−ホルミル−L−ロイシンと直接縮合させず、迂回をしなければならない理由は、DCCとDMAPによるエステル化条件で、N−ホルミル−L−ロイシンのホルミルアミノ基のエピメリ化が起こるためであると考えられた。
このような迂回経路を要しない(−)−テトラヒドロリプスタチンの製造方法として、水酸基の立体配置がR配置である式(VIII’):

で表される化合物を光延反応により、水酸基の立体配置を反転させて、N−ホルミル−L−ロイシンと縮合させることにより製造する方法が知られている(J.Org.Chem.,53,1218−1221,1998)。しかしながら、水酸基の立体配置がR配置である式(VIII’)で表される化合物を製造するためには長い工程を要するため、必ずしも有利な方法とは言えなかった。
【発明の開示】
本発明は、上記に示した従来の(−)−テトラヒドロリプスタチンの製造方法が抱える様々な問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、抗肥満薬として有用な(−)−テトラヒドロリプスタチンまたはその有用合成中間体を、従来より短い工程で、高い光学純度かつ比較的高い収率で、効率的に製造できる方法を提供することである。
本発明者等は、上記目的を達成するため鋭意研究した。その結果、下記一般式(III)で表される化合物をジアステレオ選択的な還元、特に不斉配位子を有する遷移金属触媒を用いた不斉水素化反応に付することにより、化合物(IV)を効率よく選択的に合成できることを見出した。さらに、化合物(IV)の出発原料としてこれまで用いられていなかった下記一般式(I)で表される化合物を用いることにより、従来法に比して工程数が少なく、しかも有機セレン化合物を用いない化合物(IV)の製造方法を見出した。
また、化合物(IV)のエステルα位をヘキシル化する工程において、n−ヘキシルハライドの代わりに1−ハロ−2−ヘキセンを用いることにより、毒性が強いHMPAの代わりに比較的毒性が低いN,N’−ジメチルイミダゾリジノンを用いることで、高収率にヘキセニル化が進行し、かつ、接触還元により容易にヘキシルに変換できることも見出した。
さらには、下記式(VIII)とN−ホルミル−L−ロイシンとのカルボジイミド系縮合剤(特にDCC)と3級アミンを用いた縮合反応において、反応温度を0℃未満、好ましくは−35℃〜−5℃にすることにより、反応性を保ちながら、エピメリ化を顕著に抑制できることをも併せて見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]一般式(III):

(式中、Pは水酸基の保護基を示し、Rは炭素数1〜4のアルキル、ベンジルまたは4−ニトロベンジルを示す。)で表される化合物(以下、化合物(III)ともいう。)をジアステレオ選択的還元に付して、化合物(IV)を得る工程を含む、化合物(IV)の製造方法。
[2]以下の工程(a)および(b)を含む、化合物(IV)の製造方法;
工程(a):一般式(I):

(式中、Pは水素原子または水酸基の保護基を示し、Xは水酸基、炭素数1〜4のアルコキシまたは塩素原子を示す。)で表される化合物(以下、化合物(I)ともいう。)と、一般式(II):

(式中、Yは水素原子または式(II’):−COOM(式中、Mはカリウムまたはナトリウムを示す。)で表される基(以下、(II’)基ともいう。)を示し、他の記号は前記と同義を示す。)で表される化合物(以下、化合物(II)ともいう。)とを反応させて、一般式(III’):

(式中、各記号は前記と同義を示す。)で表される化合物(以下、化合物(III’)ともいう。)を得て、さらに、Pが水素原子である場合は、水酸基を保護して、化合物(III)を得;
工程(b):得られた化合物(III)をジアステレオ選択的還元に付して、化合物(IV)を得る。
[3]ジアステレオ選択的還元が、不斉配位子を有する遷移金属触媒を用いた不斉水素化反応である上記[1]または[2]記載の製造方法。
[4]不斉配位子が、下記一般式:

(式中、Ra、Rb、Rd、Re、Rg、Rh、Ri、Rj、Rk、Rl、RmおよびRnは、それぞれ独立して置換されてもよいフェニルまたはシクロヘキシルを示し、RcおよびRfは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、アルキル、アルコキシ、または置換されてもよいフェニルを示し、l、m、nおよびoは、それぞれ独立して1〜6の整数を示す。)で表される化合物(以下、それぞれ化合物(L1)〜(L6)ともいう。)から選ばれる光学活性ホスフィン化合物であり、遷移金属がルテニウムである遷移金属触媒を用いる、上記[3]記載の製造方法。
[5]遷移金属触媒が、RaおよびRbがフェニル基であり、Rcが水素原子である化合物(L1);RaおよびRbがp−トリル基であり、Rcが水素原子である化合物(L1);またはRaおよびRbがo−トリル基であり、Rcが水素原子である化合物(L1)から選ばれる光学活性ホスフィン化合物と、ルテニウム(II)ハライドもしくはルテニウム(II)アセテートまたはそれらの錯体とから調製される遷移金属錯体である、上記[4]記載の製造方法。
[6]化合物(I)と化合物(II)とを反応させて、化合物(III’)を得る工程を含む、化合物(III’)または化合物(IV)の製造方法。
[7]以下の工程(c1)、(d1)、(e1)および(f1)を含む、式(VIII):

で表される化合物(以下、化合物(VIII)ともいう。)の製造方法;
工程(c1):化合物(IV)と1−ハロ−2−ヘキセンを、強塩基の存在下反応させて、一般式(V):

(式中、波線はE体またはZ体を示し、各記号は前記と同義を示す。)で表される化合物(以下、化合物(V)ともいう。)を得;
工程(d1):得られた化合物(V)を加水分解に付して、一般式(VI):

(式中、波線および記号は前記と同義を示す。)で表される化合物(以下、化合物(VI)ともいう。)またはその塩を得;
工程(e1):得られた化合物(VI)またはその塩を塩基の存在下、スルホニルハライド類と反応させて、一般式(VII):

(式中、波線および記号は前記と同義を示す。)で表される化合物(以下、化合物(VII)ともいう。)を得;
工程(f1):得られた化合物(VII)を脱保護および接触還元反応に付して、化合物(VIII)を得る。
[8]上記[1]〜[5]のいずれかに記載の方法によって製造される一般式(IV)で表される化合物を用いる、上記[7]記載の製造方法。
[9]以下の工程(c2)、(d2)、(e2)および(f2)を含む、化合物(VIII)の製造方法;
工程(c2):上記[1]〜[5]のいずれかに記載の方法によって製造される化合物(IV)とn−ヘキシルハライドを、強塩基の存在下反応させて、一般式(V’):

(式中、各記号は前記と同義を示す。)で表される化合物(以下、化合物(V’)ともいう。)を得;
工程(d2):得られた化合物(V’)を加水分解に付して、一般式(VI’):

(式中、記号は前記と同義を示す。)で表される化合物(以下、化合物(VI’)ともいう。)またはその塩を得;
工程(e2):得られた化合物(VI’)またはその塩を塩基の存在下、スルホニルハライド類と反応させて、一般式(VII’):

(式中、記号は前記と同義を示す。)で表される化合物(以下、化合物(VII’)ともいう。)を得;
工程(f2):得られた化合物(VII’)を脱保護して、化合物(VIII)を得る。
[10]化合物(VIII)とN−ホルミル−L−ロイシンとを、カルボジイミド系縮合剤及び3級アミンの存在下、0℃未満の反応温度で縮合させる工程を含む、式(XI):

で表される化合物(以下、化合物(XI)ともいう。)の製造方法。
[11]反応温度が−35℃〜−5℃である、上記[10]記載の製造方法。
[12]カルボジイミド系縮合剤がN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミドである、上記[10]または[11]記載の製造方法。
[13]3級アミンが、式(A):

(式中、RおよびRは、同一または異なって、低級アルキル基を示すか、またはRおよびRが、結合する窒素原子と一緒になって、ピロリジン環を形成してもよい。)で表される化合物(以下、化合物(A)ともいう。)である、上記[10]〜[12]のいずれかに記載の製造方法。
[14]化合物(VIII)、N−ホルミル−L−ロイシン及びカルボジイミド系縮合剤を予め混合した後に、3級アミンを添加することを特徴とする上記[10]〜[13]のいずれかに記載の製造方法。
[15]上記[7]〜[9]のいずれかに記載の方法によって製造される化合物(VIII)を用いる、上記[10]〜[14]のいずれかに記載の製造方法。
[16]以下の工程(h)、(i)および(j)を含む、化合物(XI)の製造方法;
工程(h):上記[7]〜[9]のいずれかに記載の方法によって製造される化合物(VIII)とN−ベンジルオキシカルボニル−L−ロイシンとを、カルボジイミド系縮合剤及び3級アミンの存在下縮合させて、式(IX):

(式中、Cbzはベンジルオキシカルボニルを示す。)で表される化合物(以下、化合物(IX)ともいう。)を得;
工程(i):得られた化合物(IX)を脱保護して、式(X):

で表される化合物(以下、化合物(X)ともいう。)またはその塩を得;
工程(j):得られた化合物(X)をホルミル化反応に付して、化合物(XI)を得る。
[17]一般式(Va):

(式中、波線はE体またはZ体を示し、Pは水酸基の保護基を示し、Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル、ベンジルまたは4−ニトロベンジルを示す。)で表される化合物(以下、化合物(Va)ともいう。)またはその塩。
[18]Pが、ベンジルである、上記[17]記載の化合物またはその塩。
[19]一般式(VII):

(式中、波線はE体またはZ体を示し、Pは水酸基の保護基を示す。)で表される化合物。
[20]Pが、ベンジルである、上記[19]記載の化合物。
上記[1]〜[6]、[9]および[16]によれば、化合物(III)をジアステレオ選択的還元、特に不斉配位子を有する遷移金属触媒を用いた不斉水素化反応に付することより、高いジアステレオ選択性と収率で化合物(IV)に変換できることが見出され、従来より短い工程数で、効率的かつ低コストに、抗肥満薬である(−)−テトラヒドロリプスタチンである化合物(XI)並びにその有用な合成中間体である化合物(IV)および化合物(VIII)を合成できる製造方法が提供される。
また、上記[7]、[8]、[12]および[17]〜[20]によれば、化合物(IV)を化合物(VIII)に誘導する際にヘキシル化の代わりにヘキセニル化の工程を採用することにより、毒性が強いHMPAの代わりに比較的毒性が低いN,N’−ジメチルイミダゾリジノン(以下、DMIともいう。)を用いてもHMPAと同様の高収率が達成できるため、安全衛生上の問題が改善され、さらには有用な新規中間体である化合物(Va)および化合物(VII)が提供される。
さらに、上記[10]〜[15]によれば、化合物(VIII)とN−ホルミル−L−ロイシンの縮合反応において、反応温度を0℃未満に制御することにより、ホルミルアミノ基のエピメリ化を有効に抑制することができるので、従来のように化合物(VIII)から3工程をかけて迂回をする必要がなく、化合物(VIII)から(−)−テトラヒドロリプスタチンを1工程で直接製造することができる製造方法が提供される。
発明の詳細な説明
以下、本発明を詳細に説明する。
まず、本明細書で使用している各記号の定義を行う。
本発明におけるアルキルにおいて、語頭(例えば、イソ、ネオ、sec−、tert−など)を付していない限り直鎖状であり、例えば単にプロピルとあれば、直鎖状のプロピルのことである。
およびPで示される「水酸基の保護基」としては、特に限定はなく、例えばベンジル、p−メトキシベンジル、p−ニトロベンジル等の(置換)ベンジルエーテル;メトキシメチル、ベンジルオキシメチル、エトキシメチル、ジメチルメトキシメチル等の置換メチルエーテル;1−エトキシエチル、2−トリメチルシリルエチル、1−ブトキシエチル、1−ベンジルオキシエチル等の置換エチルエーテル;トリメチルシリル、トリエチルシリル、トリイソプロピルシリル、トリ−n−ブチルシリル、tert−ブチルジメチルシリル、tert−ブチルジフェニルシリル等のシリルエーテル;ホルミル、アセチル、ピバロイル、ベンゾイル、2,6−ジメチルベンゾイル等のエステル;メトキシカルボニル、アリロキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニル、tert−ブトキシカルボニル等のカーボネート;その他の保護基として2−テトラヒドロピラニル、2−テトラヒドロフラニル、4−メトキシテトラヒドロピラニル、フェニルアミノカルボニル等を挙げることができ、好ましくはベンジル、p−メトキシベンジル、トリイソプロピルシリル、トリ−n−ブチルシリル、tert−ブチルジメチルシリル、2−テトラヒドロピラニル、1−エトキシエチル等が挙げられる。
RおよびRで示される「炭素数1〜4のアルキル」としては、炭素数1〜4の直鎖状または分枝鎖状のアルキル例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル等が挙げられ、好ましくはメチル、エチル、tert−ブチル等が挙げられる。
およびRで示される「低級アルキル基」としては、炭素数1〜8の直鎖状または分枝鎖状のアルキル、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、sec−ペンチル、tert−ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、イソヘキシル、ヘプチル、オクチル等が挙げられ、好ましくはメチル、エチル等が挙げられる。
Xで示される「炭素数1〜4のアルコキシ」としては、炭素数1〜4の直鎖状または分枝鎖状のアルコキシ、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ等が挙げられ、好ましくはメトキシ、エトキシ、tert−ブトキシ等が挙げられる。
Ra、Rb、Rd、Re、Rg、Rh、Ri、Rj、Rk、Rl、RmおよびRnで示される「置換されてもよいフェニル」における置換基としては、ハロゲン原子、アルキル、アルコキシ等が挙げられ、好ましくはハロゲン原子、アルキル等が挙げられる。該置換基の数は特に限定はなく、1〜3個が好ましく、同一または異なっていてもよい。
当該置換基のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、好ましくは塩素原子、臭素原子である。
当該置換基のアルキルとしては、好ましくは炭素数1〜6、より好ましくは炭素数1〜4の直鎖状または分枝鎖状のアルキル、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、イソヘキシル等が挙げられ、好ましくはメチル、tert−ブチル等が挙げられる。
当該置換基のアルコキシとしては、好ましくは炭素数1〜6、より好ましくは炭素数1〜4の直鎖状または分枝鎖状のアルコキシ、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、ペントキシ、イソペントキシ、ネオペントキシ、ヘキシルオキシ、イソヘキシルオキシ等が挙げられ、好ましくはメトキシ、tert−ブトキシ等が挙げられる。
RcおよびRfで示される「ハロゲン原子」としては、上記置換基のハロゲン原子と同様のものが挙げられ、好ましくは塩素原子、臭素原子である。
RcおよびRfで示される「アルキル」としては、好ましくは炭素数1〜6、より好ましくは炭素数1〜4の直鎖状または分枝鎖状のアルキル、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、イソヘキシル等が挙げられ、好ましくはメチル、tert−ブチル等が挙げられる。
RcおよびRfで示される「アルコキシ」としては、好ましくは炭素数1〜6、より好ましくは炭素数1〜4の直鎖状または分枝鎖状のアルコキシ、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、ペントキシ、イソペントキシ、ネオペントキシ、ヘキシルオキシ、イソヘキシルオキシ等が挙げられ、好ましくはメトキシ、tert−ブトキシ等が挙げられる。
RcおよびRfで示される「置換されてもよいフェニル」における置換基としては、上記Ra等で示される「置換されてもよいフェニル」の置換基と同様のものが挙げられ、好ましくはメチル、tert−ブチル等が挙げられる。該置換基の数は特に限定はなく、1〜3個が好ましく、同一または異なっていてもよい。
化合物(V)、(Va)、(VI)および(VII)における波線は、E体またはZ体あるいはそれらの混合物であることを表す。
化合物(VI)、(VI’)および(Va)はカルボキシル基を有する場合があり、塩を形成してもよい。当該塩としては、例えばアルカリ金属塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩等);アルカリ土類金属塩(例えばカルシウム塩、マグネシウム塩等);有機塩基塩(例えばトリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ピリジン塩、ピコリン塩、ジシクロヘキシルアミン塩等)等が挙げられる。
化合物(X)はアミノ基を有しており、塩を形成してもよい。当該塩としては、例えば無機酸塩(例えば塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等);有機酸塩(例えば酢酸塩、プロピオン酸塩、メタンスルホン酸塩、4−トルエンスルホン酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩等)等が挙げられる。
本発明の製造方法の概要は、以下のスキームに示される。

(式中、波線および各記号は前記と同義を示す。)
すなわち、本発明は、化合物(I)と化合物(II)とを反応させて、化合物(III’)を得て、さらに、Pが水素原子である場合は(以下、Pが水素原子である化合物(III’)を化合物(IIIa)ともいう。)、水酸基を保護して、化合物(III)を得る工程(a);化合物(III)をジアステレオ選択的還元に付して、化合物(IV)を得る工程(b);化合物(IV)と1−ハロ−2−ヘキセンを、強塩基の存在下反応させて、化合物(V)を得る工程(c1);化合物(V)を加水分解に付して、化合物(VI)またはその塩を得る工程(d1);化合物(VI)またはその塩を塩基の存在下、スルホニルハライド類と反応させて、化合物(VII)を得る工程(e1);化合物(VII)を脱保護および接触還元反応に付して、化合物(VIII)を得る工程(f1);化合物(IV)とn−ヘキシルハライドを、強塩基の存在下反応させて、化合物(V’)を得る工程(c2);化合物(V’)を加水分解に付して、化合物(VI’)またはその塩を得る工程(d2);化合物(VI’)またはその塩を塩基の存在下、スルホニルハライド類と反応させて、化合物(VII’)を得る工程(e2);化合物(VII’)を脱保護して、化合物(VIII)を得る工程(f2);化合物(VIII)とN−ホルミル−L−ロイシンとを、カルボジイミド系縮合剤及び3級アミンの存在下、0℃未満の反応温度で縮合させて、化合物(XI)を得る工程(g);化合物(VIII)とN−ベンジルオキシカルボニル−L−ロイシンとを、カルボジイミド系縮合剤及び3級アミンの存在下縮合させて、化合物(IX)を得る工程(h);化合物(IX)を脱保護して、化合物(X)またはその塩を得る工程(i);化合物(X)またはその塩をホルミル化反応に付して、化合物(XI)を得る工程(j)の各工程の一部を含む、(−)−テトラヒドロリプスタチンである化合物(XI)並びにその有用な合成中間体である化合物(IV)および化合物(VIII)の製造方法である。
以下、各工程について説明する。
1.工程(a)
工程(a)は、化合物(I)と化合物(II)とを反応させて、化合物(III’)を得、化合物(III’)のPが水酸基の保護基である場合、すなわち化合物(III)である場合はそのまま次工程に供し、一方、Pが水素原子である場合、すなわち化合物(IIIa)である場合は、さらに水酸基を保護して、化合物(III)を得る方法である。
化合物(I)と化合物(II)とを反応させて、化合物(III’)を得る方法としては、種々のβ−ケトエステルの合成法が適用可能である。
例えば、溶媒中、Xが「炭素数1〜4のアルコキシ」である化合物(I)(以下、化合物(Ia)ともいう。)とYが水素原子である化合物(II)(以下、化合物(IIa)ともいう。)を塩基の存在下、縮合させることによって化合物(III’)を製造する工程(a−1);溶媒中、Xが水酸基である化合物(I)(以下、化合物(Ib)ともいう。)とYが(II’)基である化合物(II)(以下、化合物(IIb)ともいう。)とを活性化剤および2価の金属塩の存在下、縮合、脱炭酸させることによって化合物(III’)を製造する工程(a−2);溶媒中、Pが水酸基の保護基である化合物(Ib)(以下、化合物(Ib2)ともいう。)と化合物(IIb)とを、脱離能を有する複素環、置換スルホニルハライドおよび2価の金属塩の存在下、縮合、脱炭酸させることによって化合物(III)を製造する工程(a−3);溶媒中、Xが塩素原子であり、かつPが水酸基の保護基である化合物(I)(以下、化合物(Ic)ともいう。)と化合物(IIb)とを、2価の金属塩および塩基の存在下、縮合、脱炭酸させることによって化合物(III)を製造する工程(a−4)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
なお、Pが水素原子の場合は、工程(a−3)では水酸基が置換スルホニルハライドと反応する;工程(a−4)では水酸基が酸塩化物と反応するとの理由から、それぞれ適用することは出来ない。
上記工程(a−1)または工程(a−2)等で合成された化合物(III’)のPが水素原子である場合は、化合物(IIIa)の水酸基に公知の種々の方法で上記Pで例示される保護基を導入することによって、化合物(III)を製造することができるが、塩基性が高い条件で保護基を導入しようとすると、エステル交換や脱離反応等の副反応を起こしやすいため、2−テトラヒドロピラニル化反応、1−エトキシエチル化反応、Tetrahedron,4033(1998)やSynthesis,568(1987)等に記載のベンジル化反応、またはシリル化反応等で行うことが好ましく、ベンジル化反応、2−テトラヒドロピラニル化反応、1−エトキシエチル化反応で行うことがより好ましい。
具体的には、溶媒中、化合物(IIIa)と3,4−ジヒドロ−2H−ピランまたはエチルビニルエーテルを、酸の存在下反応させることによって2−テトラヒドロピラニル化または1−エトキシエチル化を行う工程(a’−1);溶媒中、化合物(IIIa)と芳香族アルデヒドを、アルキル置換シロキサン類、トリアルキルシリル化剤、還元剤の存在下反応させることによってベンジル化を行う工程(a’−2);溶媒中、化合物(IIIa)とベンジルアセトイミデート類を強酸の存在下、反応させることによってベンジル化を行う工程(a’−3);溶媒中、化合物(IIIa)とシリル化剤を弱塩基の存在下、反応させることによってシリル化反応を行う工程(a’−4)等が挙げられる。
以下、工程(a−1)〜(a−4)および工程(a’−1)〜(a’−4)について説明する。
1−1.工程(a−1)
工程(a−1)は、下記反応スキームに示すように、溶媒中、化合物(Ia)と化合物(IIa)とを塩基の存在下、縮合させることによって化合物(III’)を製造する方法である。

(式中、R’は炭素数1〜4のアルキルを示し、他の各記号は前記と同義を示す。)
R’で示される「炭素数1〜4のアルキル」としては、炭素数1〜4の直鎖状または分枝鎖状のアルキル例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル等が挙げられ、好ましくはメチル、エチル、tert−ブチル等が挙げられる。
工程(a)において、工程(a−1)を採用することにより、原料である化合物(Ia)を調整する際、加水分解等の工程を経由しなくてもよいので、工程短縮が可能になるという利点がある。
工程(a−1)において、試薬の添加の順序は特に限定はなく、例えば、溶媒中に予め仕込んだ化合物(IIa)と塩基との混合物に、化合物(Ia)を添加する、または、溶媒中に予め仕込んだ化合物(Ia)に、化合物(IIa)と塩基の混合物を添加する等でもよい。
工程(a−1)において使用される塩基としては、いわゆる求核性の小さな強塩基であれば特に限定はなく、例えばリチウムジイソプロピルアミド、リチウムビストリメチルシリルアミド、リチウムジシクロヘキシルアミド等のアルカリ金属アミド類;水素化ナトリウム、水素化リチウム等の水素化アルカリ金属類等が挙げられ、好ましくはリチウムビストリメチルシリルアミド、リチウムジイソプロピルアミド等が挙げられる。
工程(a−1)において、化合物(IIa)の使用量は、Pが水酸基の保護基の場合、化合物(Ia)1モルに対して0.9モル〜4.0モルが好ましく、1.0モル〜2.0モルがより好ましい。Pが水素原子の場合、化合物(Ia)1モルに対して2.0モル〜6.0モルが好ましく、2.5モル〜5.0モルがより好ましい。化合物(IIa)の使用量がこの範囲より少ないと化合物(Ia)が残存し、反応効率が低下する傾向があり、この範囲を越えた場合、逆に化合物(IIa)が残存し、経済的に不利となる傾向があるため好ましくない。
工程(a−1)において、塩基の使用量は、化合物(IIa)1モルに対して0.9モル〜5.0モルが好ましく、1.0モル〜2.0モルがより好ましい。塩基の使用量がこの範囲より少ないと反応の効率が低下する傾向があり、この範囲を越えても、使用量に見合う効果は少なく、経済的に不利となる傾向があるため好ましくない。
工程(a−1)に使用される溶媒としては、当該反応を阻害しないものであればよく、例えばテトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;n−ヘプタン、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素類等を単独または混合して使用することができる。混合溶媒とする場合には、任意の割合で混合すればよい。
溶媒の使用量としては、化合物(Ia)1kgに対して通常1L〜100Lであり、より好ましくは2L〜20Lである。
工程(a−1)の反応温度は、通常−100℃〜80℃、好ましくは−80℃〜20℃の範囲である。反応時間は、用いられる試薬や反応温度にも依存するが、通常0.5時間〜20時間である。
工程(a−1)で製造される化合物(III’)は、常法によって単離、精製することができる。例えば反応液を水に注いだ後、酸性とし、分液後、有機層を洗浄、減圧濃縮することによって、化合物(III’)を単離することができる。単離後、例えばシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付して精製することもできる。また、化合物(III’)は精製することなく用いることもできる。
1−2.工程(a−2)
工程(a−2)は、下記反応スキームに示すように、溶媒中、化合物(Ib)と化合物(IIb)とを活性化剤および2価の金属塩の存在下、縮合、脱炭酸させることによって化合物(III’)を製造する方法である。

(式中、各記号は前記と同義を示す。)
工程(a)において、工程(a−2)を採用することにより、ワンポットで反応が可能で、酸に不安定な保護基を含め、高収率、高品質な化合物(III’)を得ることができるという利点がある。
工程(a−2)において、試薬の添加の順序は特に限定はなく、例えば、溶媒中に予め仕込んだ化合物(IIb)と2価の金属塩との混合物に、化合物(Ib)と活性化剤の混合物を添加する、または、溶媒中に予め仕込んだ化合物(Ib)と活性化剤との混合物に、化合物(IIb)と2価の金属塩を添加する等でもよい。
工程(a−2)において使用される活性化剤は、カルボキシル基の活性化に通常使用されるものであれば特に限定はなく、例えばカルボニルジイミダゾール、カルボニルジトリアゾール等が挙げられ、好ましくはカルボニルジイミダゾールが挙げられる。
工程(a−2)において使用される2価の金属塩としては、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、硫酸マグネシウム等のマグネシウム塩が挙げられ、好ましくは塩化マグネシウムが挙げられる。
工程(a−2)において、化合物(IIb)の使用量は、Pが水酸基の保護基の場合、化合物(Ib)1モルに対して0.9モル〜2.0モルが好ましく、1.1モル〜1.7モルがより好ましい。Pが水素原子の場合、化合物(Ib)1モルに対して1.2モル〜3.0モルが好ましく、1.5モル〜2.5モルがより好ましい。化合物(IIb)の使用量がこの範囲より少ないと化合物(Ib)が残存し、反応効率が低下する傾向があり、この範囲を越えた場合、逆に化合物(IIb)が残存し、経済的に不利となる傾向があるため好ましくない。
工程(a−2)において、活性化剤の使用量は、化合物(Ib)1モルに対して0.9モル〜2.0モルが好ましく、1.0モル〜1.3モルがより好ましい。活性化剤の使用量がこの範囲より少ないと化合物(Ib)が残存し、反応効率が低下する傾向があり、この範囲を越えても、使用量に見合う効果は少なく、経済的に不利となる傾向があるため好ましくない。
工程(a−2)において、2価の金属塩の使用量は化合物(IIb)1モルに対して0.7モル〜2.0モルが好ましく、0.8モル〜1.3モルがより好ましい。2価の金属塩の使用量がこの範囲より少ないと反応の効率が低下する傾向があり、この範囲を越えても、使用量に見合う効果は少なく、経済的に不利となる傾向があるため好ましくない。
工程(a−2)に使用される溶媒としては、当該反応を阻害しないものであればよく、例えばTHF、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;n−ヘプタン、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素類;塩化メチレン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、ジメチルスルホキシド等を単独または混合して使用することができる。混合溶媒とする場合には、任意の割合で混合すればよい。
溶媒の使用量としては、化合物(Ib)1kgに対して通常1L〜100Lであり、より好ましくは2L〜20Lである。
工程(a−2)の反応温度は、通常−40℃〜100℃、好ましくは0℃〜50℃の範囲である。反応時間は、用いられる試薬や反応温度にも依存するが、通常0.5時間〜20時間である。
工程(a−2)で製造される化合物(III’)は、常法によって単離、精製することができる。例えば反応液を水に注いだ後、酸性とし、分液後、有機層を洗浄、減圧濃縮することによって、化合物(III’)を単離することができる。単離後、例えばシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付して精製することもできる。また、化合物(III’)は精製することなく用いることもできる。
1−3.工程(a−3)
工程(a−3)は、下記反応スキームに示すように、溶媒中、化合物(Ib2)と化合物(IIb)とを脱離能を有する複素環、置換スルホニルハライドおよび2価の金属塩の存在下、縮合、脱炭酸させることによって化合物(III)を製造する方法である。

(式中、各記号は前記と同義を示す。)
工程(a)において、工程(a−3)を採用することにより、ワンポットで反応が可能で、高価なカルボニル活性化剤を使用せず、かつ酸に不安定な保護基を含め使用できるという利点がある。
工程(a−3)において、試薬の添加の順序は特に限定はなく、例えば、溶媒中に予め仕込んだ化合物(IIb)と2価の金属塩との混合物に、化合物(Ib2)、脱離能を有する複素環および置換スルホニルハライドの混合物を添加する、または、溶媒中に予め仕込んだ化合物(Ib2)、脱離能を有する複素環および置換スルホニルハライドの混合物に、化合物(IIb)と2価の金属塩を添加する等でもよい。
工程(a−3)において使用される脱離能を有する複素環としては、例えばイミダゾール、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、4−メチルイミダゾール、トリアゾール、ベンゾトリアゾール、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール等が挙げられ、好ましくは1−メチルイミダゾール等が挙げられる。
工程(a−3)において使用される置換スルホニルハライドとしては、例えばp−トルエンスルホニルクロリド、ベンゼンスルホニルクロリド、メタンスルホニルクロリド、ジメチルアミノスルホニルクロリド等が挙げられ、好ましくはp−トルエンスルホニルクロリド、メタンスルホニルクロリド等が挙げられる。
工程(a−3)において使用される2価の金属塩としては、工程(a−2)で例示されたものと同様のものが挙げられ、好ましくは塩化マグネシウムが挙げられる。
工程(a−3)において、化合物(IIb)の使用量は、化合物(Ib2)1モルに対して0.9モル〜5.0モルが好ましく、1.0モル〜3.5モルがより好ましい。化合物(IIb)の使用量がこの範囲より少ないと化合物(Ib2)が残存し、反応効率が低下する傾向があり、この範囲を越えた場合、逆に化合物(IIb)が残存し、経済的に不利となる傾向があるため好ましくない。
工程(a−3)において、脱離能を有する複素環の使用量は、化合物(Ib2)1モルに対して0.9モル〜5.0モルが好ましく、1.0モル〜3.5モルがより好ましい。脱離能を有する複素環の使用量がこの範囲より少ないと化合物(Ib2)が残存し、反応効率が低下する傾向があり、この範囲を越えても、使用量に見合う効果は少なく、経済的に不利となる傾向があるため好ましくない。
工程(a−3)において、置換スルホニルハライドの使用量は、化合物(Ib2)1モルに対して0.9モル〜2.0モルが好ましく、1.0モル〜1.3モルがより好ましい。置換スルホニルハライドの使用量がこの範囲より少ないと化合物(Ib2)が残存し、反応効率が低下する傾向があり、この範囲を越えても、使用量に見合う効果は少なく、経済的に不利となる傾向があるため好ましくない。
工程(a−3)において、2価の金属塩の使用量は化合物(IIb)1モルに対して0.7モル〜2.0モルが好ましく、0.8モル〜1.3モルがより好ましい。2価の金属塩の使用量がこの範囲より少ないと反応の効率が低下する傾向があり、この範囲を越えても、使用量に見合う効果は少なく、経済的に不利となる傾向があり好ましくない。
工程(a−3)に使用される溶媒としては、当該反応を阻害しないものであればよく、例えばTHF、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;n−ヘプタン、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素類;塩化メチレン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等を単独または混合して使用することができる。混合溶媒とする場合には、任意の割合で混合すればよい。
溶媒の使用量としては、化合物(Ib)1kgに対して通常1L〜100Lであり、より好ましくは2L〜20Lである。
工程(a−3)の反応温度は、通常−40℃〜100℃、好ましくは0℃〜50℃の範囲である。反応時間は、用いられる試薬や反応温度にも依存するが、通常0.5時間〜20時間である。
工程(a−3)で製造される化合物(III)は、常法によって単離、精製することができる。例えば反応液を水に注いだ後、酸性とし、分液後、有機層を洗浄、減圧濃縮することによって、化合物(III)を単離することができる。単離後、例えばシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付して精製することもできる。また、化合物(III)は精製することなく用いることもできる。
1−4.工程(a−4)
工程(a−4)は、下記反応スキームに示すように、溶媒中、化合物(Ic)と化合物(IIb)とを、2価の金属塩および塩基の存在下、縮合、脱炭酸させることによって化合物(III)を製造する方法である。

(式中、各記号は前記と同義を示す。)
工程(a)において、工程(a−4)を採用することにより、カルボキシル基の活性化剤等を用いることなく、安価かつ高収率で、高品質な化合物(III)が得られるという利点がある。
工程(a−4)において、試薬の添加の順序は特に限定はなく、例えば、溶媒中に予め仕込んだ化合物(IIb)、2価の金属塩および塩基の混合物に、化合物(Ic)を添加する、または、溶媒中に予め仕込んだ化合物(Ic)に、化合物(IIb)、2価の金属塩および塩基の混合物を添加する等でもよい。
工程(a−4)において使用される2価の金属塩としては、工程(a−2)で例示されたものと同様のものが挙げられ、好ましくは塩化マグネシウムが挙げられる。
工程(a−4)において使用される塩基としては、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ピリジン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン等が挙げられ、好ましくはトリエチルアミン、ピリジン等が挙げられる。
工程(a−4)において、化合物(IIb)の使用量は、化合物(Ic)1モルに対して0.9モル〜3.0モルが好ましく、1.0モル〜2.2モルがより好ましい。化合物(IIb)の使用量がこの範囲より少ないと化合物(Ic)が残存し、反応効率が低下する傾向があり、この範囲を越えた場合、逆に化合物(IIb)が残存し、経済的に不利となる傾向があるため好ましくない。
工程(a−4)において、2価の金属塩の使用量は化合物(IIb)1モルに対して0.7モル〜2.0モルが好ましく、0.8モル〜1.3モルがより好ましい。2価の金属塩の使用量がこの範囲より少ないと反応の効率が低下する傾向があり、この範囲を越えても、使用量に見合う効果は少なく、経済的に不利となる傾向があり好ましくない。
工程(a−4)において、塩基の使用量は、化合物(Ic)1モルに対して0.9モル〜5.0モルが好ましく、1.0モル〜3.5モルがより好ましい。塩基の使用量がこの範囲より少ないと反応の効率が低下する傾向があり、この範囲を越えても、使用量に見合う効果は少なく、経済的に不利となる傾向があるため好ましくない。
工程(a−4)に使用される溶媒としては、当該反応を阻害しないものであればよく、例えばTHF、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;n−ヘプタン、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素類;塩化メチレン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等を単独または混合して使用することができる。混合溶媒とする場合には、任意の割合で混合すればよい。
溶媒の使用量としては、化合物(Ic)1kgに対して通常1L〜100Lであり、より好ましくは2L〜20Lである。
工程(a−4)の反応温度は、通常−40℃〜100℃、好ましくは0℃〜50℃の範囲である。反応時間は、用いられる試薬や反応温度にも依存するが、通常0.5時間〜20時間である。
工程(a−4)で製造される化合物(III)は、常法によって単離、精製することができる。例えば反応液を水に注いだ後、酸性とし、分液後、有機層を洗浄、減圧濃縮することによって、化合物(III)を単離することができる。単離後、例えばシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付して精製することもできる。また、化合物(III)は精製することなく用いることもできる。
1−5.工程(a’−1)
工程(a’−1)は、下記反応スキームに示すように、溶媒中、化合物(IIIa)と3,4−ジヒドロ−2H−ピランまたはエチルビニルエーテルを酸の存在下、反応させることによって、Pが2−テトラヒドロピラニルまたは1−エトキシエチルである化合物(III)(以下、化合物(IIIb)ともいう。)を製造する方法である。

(式中、Pは2−テトラヒドロピラニルまたは1−エトキシエチルを示し、他の記号は前記と同義を示す。)
工程(a’−1)において、試薬の添加の順序は特に限定はなく、例えば、溶媒中に予め仕込んだ化合物(IIIa)に、3,4−ジヒドロ−2H−ピランまたはエチルビニルエーテルと酸の混合物を添加する、または、溶媒中に予め仕込んだ化合物(IIIa)と3,4−ジヒドロ−2H−ピランまたはエチルビニルエーテルの混合物に酸を添加する等でもよい。
工程(a’−1)において使用される酸としては、例えばp−トルエンスルホン酸ピリジニウム、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、三フッ化ホウ素、オキシ塩化リン、酸性イオン交換樹脂等が挙げられ、好ましくはp−トルエンスルホン酸ピリジニウム、p−トルエンスルホン酸等が挙げられる。
工程(a’−1)において、3,4−ジヒドロ−2H−ピランまたはエチルビニルエーテルの使用量は、化合物(IIIa)1モルに対して0.9モル〜2.0モルが好ましく、1.0モル〜1.5モルがより好ましい。3,4−ジヒドロ−2H−ピランまたはエチルビニルエーテルの使用量がこの範囲より少ないと化合物(IIIa)が残存し、反応効率が低下する傾向があり、この範囲を越えた場合、使用量に見合う効果が少なくなり経済的に不利となる傾向があるため好ましくない。
工程(a’−1)において、酸の使用量は、化合物(IIIa)に対して0.0001当量〜0.1当量が好ましく、0.005当量〜0.05当量がより好ましい。酸の使用量がこの範囲より少ないと反応が遅くなる傾向があり、この範囲を越えた場合、使用量に見合う効果が少なくなり経済的に不利となる傾向があるため好ましくない。
工程(a’−1)に使用される溶媒としては、当該反応を阻害しないものであればよく、例えば塩化メチレン、トルエン、THF、クロロベンゼン、n−ヘプタン等を単独または混合して使用することができる。混合溶媒とする場合には、任意の割合で混合すればよい。
溶媒の使用量としては、化合物(IIIa)1kgに対して通常1L〜30Lであり、より好ましくは3L〜15Lである。
工程(a’−1)の反応温度は、通常−30℃〜100℃、好ましくは−10℃〜50℃の範囲である。反応時間は、用いられる試薬や反応温度にも依存するが、通常0.1時間〜8時間である。
工程(a’−1)で製造される化合物(IIIb)は、常法によって単離、精製することができる。例えば反応液を重層水に注いだ後、分液後、有機層を洗浄、減圧濃縮することによって、化合物(IIIb)を単離することができる。単離後、例えばシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付して精製することもできる。また、化合物(IIIb)は精製することなく用いることもできる。
1−6.工程(a’−2)
工程(a’−2)は、下記反応スキームに示すように、溶媒中、化合物(IIIa)と芳香族アルデヒドをアルキル置換シロキサン類、トリアルキルシリル化剤および還元剤の存在下、反応させることによって、Pが置換ベンジルエーテルである化合物(III)(以下、化合物(IIIc)ともいう。)を製造する方法であり、後述の参考例3と類似の方法である。

(式中、Pは置換基を有してもよいベンジルを示し、他の記号は前記と同義を示す。)
で示される「置換基を有してもよいベンジル」の置換基としては、メチル、tert−ブチル、メトキシ、ニトロ等が挙げられ、好ましくはメトキシ、ニトロ等が挙げられる。該置換基の数は特に限定はなく、1〜3個が好ましく、同一または異なっていてもよい。
工程(a’−2)において、試薬の添加の順序は特に限定はなく、例えば、溶媒中に予め仕込んだ化合物(IIIa)と芳香族アルデヒドの混合物に、アルキル置換シロキサン類とトリアルキルシリル化剤の混合物を添加し、さらに還元剤を添加する、または、溶媒中に予め仕込んだ化合物(IIIa)、芳香族アルデヒド、アルキル置換シロキサン類とトリアルキルシリル化剤の混合物に還元剤を添加するを添加する等でもよい。
工程(a’−2)において使用される芳香族アルデヒドとしては、例えばベンズアルデヒド、4−メトキシベンズアルデヒド、4−ニトロベンズアルデヒド、3,5−ジニトロベンズアルデヒド、4−tert−ブチルベンズアルデヒド等が挙げられ、好ましくはベンズアルデヒド、4−メトキシベンズアルデヒド等が挙げられる。
工程(a’−2)において使用されるアルキル置換シロキサン類としては特に限定はなく、例えばヘキサメチルジシロキサン、ポリジメチルシロキサン等が挙げられ、好ましくはヘキサメチルジシロキサン等が挙げられる。
工程(a’−2)において使用されるトリアルキルシリル化剤としては特に限定はなく、例えばトリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリルエステル、トリメチルシリルブロミド、トリメチルシリルクロリド、トリメチルシリルイミダゾール等が挙げられ、好ましくはトリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリルエステル等が挙げられる。
工程(a’−2)において使用される還元剤としては、ソフトな還元剤であれば特に限定はなく、例えばトリエチルシラン、トリブチルシラン、トリメチルシラン、テトラメチルシロキサン等が挙げられ、好ましくはトリエチルシラン等が挙げられる。
工程(a’−2)において、芳香族アルデヒドの使用量は、化合物(IIIa)1モルに対して1モル〜5モルが好ましく、2モル〜4モルがより好ましい。芳香族アルデヒドの使用量がこの範囲より少ないと反応が完結しない傾向があり、この範囲を越えた場合、経済的に不利となるばかりか分離も困難になる傾向があるため好ましくない。
工程(a’−2)において、アルキル置換シロキサン類の使用量は、化合物(IIIa)に対して1当量〜10当量が好ましく、4当量〜8当量がより好ましい。アルキル置換シロキサン類の使用量がこの範囲より少ないと反応が完結しない傾向があり、この範囲を越えた場合、使用量に見合う効果が少なくなり経済的に不利となるばかりか分離も困難になる傾向があるため好ましくない。
工程(a’−2)において、トリアルキルシリル化剤の使用量は、化合物(IIIa)に対して0.2当量〜2当量が好ましく、0.3当量〜1当量がより好ましい。トリアルキルシリル化剤の使用量がこの範囲より少ないと反応が完結しない傾向があり、この範囲を越えた場合、使用量に見合う効果が少なくなり経済的に不利となる傾向があるため好ましくない。
工程(a’−2)において、還元剤の使用量は、化合物(IIIa)に対して2当量〜5当量が好ましく、3当量〜5当量がより好ましい。還元剤の使用量がこの範囲より少ないと反応が完結しない傾向があり、この範囲を越えた場合、使用量に見合う効果が少なくなり経済的に不利となるばかりか分離も困難になる傾向があるため好ましくない。
工程(a’−2)に使用される溶媒としては、当該反応を阻害しないものであればよく、例えばTHF、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、メチル tert−ブチルエーテル、ジグリム、トルエン、キシレン等を単独または混合して使用することができる。混合溶媒とする場合には、任意の割合で混合すればよい。
溶媒の使用量としては、化合物(IIIa)1kgに対して通常3L〜100Lであり、より好ましくは5L〜30Lである。
工程(a’−2)の反応温度は、通常−30℃〜80℃、好ましくは−10℃〜50℃の範囲である。反応時間は、用いられる試薬や反応温度にも依存するが、通常1時間〜24時間である。
工程(a’−2)で製造される化合物(IIIc)は、常法によって単離、精製することができる。例えば反応液を重層水に注いだ後、分液後、有機層を洗浄、減圧濃縮することによって、化合物(IIIc)を単離することができる。単離後、例えばシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付して精製することもできる。また、化合物(II1c)は精製することなく用いることもできる。
1−7.工程(a’−3)
工程(a’−3)は、下記反応スキームに示すように、溶媒中、化合物(IIIa)とベンジルアセトイミデート類を強酸の存在下、反応させることによって、化合物(IIIc)を製造する方法であり、後述の参考例5と類似の方法である。

(式中、各記号は前記と同義を示す。)
工程(a’−3)において、試薬の添加の順序は特に限定はなく、例えば、溶媒中に予め仕込んだ化合物(IIIa)とベンジルアセトイミデート類の混合物に、強酸を添加する、または、溶媒中に予め仕込んだ化合物(IIIa)にベンジルアセトイミデート類と強酸の混合物を添加する等でもよい。
工程(a’−3)において使用されるベンジルアセトイミデート類としては特に限定はなく、例えばベンジル2,2,2−トリクロロアセトイミデート、4−メトキシベンジル2,2,2−トリクロロアセトイミデート、4−ニトロベンジル2,2,2−トリクロロアセトイミデート等が挙げられ、好ましくはベンジル2,2,2−トリクロロアセトイミデート等が挙げられる。
工程(a’−3)において使用される強酸としては特に限定はなく、例えばトリフルオロメタンスルホン酸、メタンスルホン酸、硫酸、過塩素酸等が挙げられ、好ましくはトリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。
工程(a’−3)において、ベンジルアセトイミデート類の使用量は、化合物(IIIa)1モルに対して0.9モル〜2モルが好ましく、1モル〜1.8モルがより好ましい。ベンジルアセトイミデート類の使用量がこの範囲より少ないと反応が完結しない傾向があり、この範囲を越えた場合、使用量に見合う効果が少なくなり、経済的に不利となるばかりか分離が困難になる傾向があるため好ましくない。
工程(a’−3)において、強酸の使用量は、化合物(IIIa)に対して0.01当量〜0.5当量が好ましく、0.03当量〜0.2当量がより好ましい。強酸の使用量がこの範囲より少ないと反応が遅くなる傾向があり、この範囲を越えた場合、使用量に見合う効果が少なくなり経済的に不利となり、また不純物も増加する傾向があるため好ましくない。
工程(a’−3)に使用される溶媒としては、当該反応を阻害しないものであればよく、例えばシクロヘキサン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、トルエン、キシレン、塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン等を単独または混合して使用することができる。混合溶媒とする場合には、任意の割合で混合すればよい。
溶媒の使用量としては、化合物(IIIa)1kgに対して通常1L〜30Lであり、より好ましくは3L〜15Lである。
工程(a’−3)の反応温度は、通常−10℃〜80℃、好ましくは0℃〜40℃の範囲である。反応時間は、用いられる試薬や反応温度にも依存するが、通常0.1時間〜12時間である。
工程(a’−3)で製造される化合物(IIIc)は、常法によって単離、精製することができる。例えば反応液を重層水に注いだ後、分液後、有機層を洗浄、減圧濃縮することによって、化合物(IIIc)を単離することができる。単離後、例えばシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付して精製することもできる。また、化合物(IIIc)は精製することなく用いることもできる。
1−8.工程(a’−4)
工程(a’−4)は、下記反応スキームに示すように、溶媒中、化合物(IIIa)とシリル化剤を弱塩基の存在下、反応させることによって、Pがシリルエーテルである化合物(III)(以下、化合物(IIId)ともいう。)を製造する方法である。

(式中、Pはシリルを示し、他の記号は前記と同義を示す。)
で示されるシリルとしては、例えばトリメチルシリル、トリエチルシリル、トリイソプロピルシリル、トリ−n−ブチルシリル、tert−ブチルジメチルシリル、tert−ブチルジフェニルシリル等が挙げられ、好ましくはトリイソプロピルシリル、トリ−n−ブチルシリル、tert−ブチルジメチルシリル等が挙げられる。
工程(a’−4)において、試薬の添加の順序は特に限定はなく、例えば、溶媒中に予め仕込んだ化合物(IIIa)とシリル化剤の混合物に、弱塩基を添加する;溶媒中に予め仕込んだ化合物(IIIa)にシリル化剤と弱塩基の混合物を添加する;または溶媒中に予め仕込んだ化合物(IIIa)に弱塩基を添加した後、シリル化剤を添加する等でもよい。
工程(a’−4)において使用されるシリル化剤としては、例えばトリメチルシリルクロリド、トリエチルシリルクロリド、トリイソプロピルシリルクロリド、トリ−n−ブチルシリルクロリド、tert−ブチルジメチルシリルクロリド、tert−ブチルジフェニルシリルクロリド等が挙げられ、好ましくはトリイソプロピルシリルクロリド、トリ−n−ブチルシリルクロリド、tert−ブチルジメチルシリルクロリドが挙げられる。
工程(a’−4)において使用される弱塩基としては特に限定はなく、例えばトリエチルアミン、イミダゾール、1−メチルイミダゾール等が挙げられ、好ましくはトリエチルアミン、イミダゾール等が挙げられる。
工程(a’−4)において、シリル化剤の使用量は、化合物(IIIa)1モルに対して0.9モル〜2.5モルが好ましく、1モル〜1.5モルがより好ましい。シリル化剤の使用量がこの範囲より少ないと化合物(IIIa)が残存する傾向があり、この範囲を越えた場合、使用量に見合う効果が少なくなり、経済的に不利となるばかりか分離が困難になる傾向があるため好ましくない。
工程(a’−4)において、弱塩基の使用量は、化合物(IIIa)に対して0.9当量〜2.5当量が好ましく、1当量〜1.5当量がより好ましい。弱塩基の使用量がこの範囲より少ないと反応が完結しない傾向があり、この範囲を越えた場合、使用量に見合う効果が少なくなり経済的に不利となる傾向があるため好ましくない。
工程(a’−4)に使用される溶媒としては、当該反応を阻害しないものであればよく、例えばN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、THF、1,2−ジメトキシエタン、メチル tert−ブチルエーテル、1,4−ジオキサン、トルエン、キシレン、塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン等を単独または混合して使用することができる。混合溶媒とする場合には、任意の割合で混合すればよい。
溶媒の使用量としては、化合物(IIIa)1kgに対して通常1L〜50Lであり、より好ましくは5L〜20Lである。
工程(a’−4)の反応温度は、通常−20℃〜80℃、好ましくは0℃〜40℃の範囲である。反応時間は、用いられる試薬や反応温度にも依存するが、通常0.2時間〜12時間である。
工程(a’−4)で製造される化合物(IIId)は、常法によって単離、精製することができる。例えば反応液を重層水に注いだ後、分液後、有機層を洗浄、減圧濃縮することによって、化合物(IIId)を単離することができる。単離後、例えばシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付して精製することもできる。また、化合物(IIId)は精製することなく用いることもできる。
工程(a−1)で使用される化合物(IIa)は、市販の酢酸エステル類、例えば酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸tert−ブチル等を使用することができる。化合物(IIa)としては、安価で入手容易であることから、酢酸エチル、酢酸tert−ブチル等が好適に用いられる。
工程(a−2)〜(a−4)で使用される化合物(IIb)は、Org.Synth.Coll.Voll.IV,417(1963)の記載に従い、マロン酸ジエステルの部分加水分解によって合成することができ、また市販のものを使用することもできる。化合物(IIb)としては入手容易であることからマロン酸エチルカリウムが好適に用いられる。
また、工程(a−1)〜(a−4)の原料である化合物(Ia)、化合物(Ib)および化合物(Ic)は公知化合物であり、公知の種々の方法で合成することができるが、本発明者らが提案する下記反応スキームに示される方法によって好適に調製することができる。

(式中、各記号は前記と同義を示す。)
すなわち、ドデカノイルクロリド(XII)と式(IIc)で表される化合物(以下、化合物(IIc)ともいう。)とを反応させて式(XIII)で表される化合物(以下、化合物(XIII)ともいう。)を製造する工程(k);化合物(XIII)を不斉水素化反応に付してPが水素原子である化合物(Ia)(以下、化合物(Ia1)ともいう。)を製造する工程(l);化合物(Ia1)の水酸基を保護してPが水酸基の保護基である化合物(Ia)(以下、化合物(Ia2)ともいう。)を製造する工程(m);化合物(Ia2)を加水分解して化合物(Ib2)を製造する工程(n);化合物(Ib2)を塩素化することによって化合物(Ic)を製造する工程(o);化合物(Ia1)を加水分解してPが水素原子である化合物(Ib)(以下、化合物(Ib1)という)を製造する工程(n’)により、各々製造することができる。
工程(k)においては、ドデカノイルクロリド(XII)と化合物(IIc)とを、例えばTetrahedron,2595(1979)に記載の方法に従って反応させることにより化合物(XIII)を製造することができる。
工程(l)においては、後述の工程(c)における不斉金属触媒存在下の不斉水素化反応と同様の方法、具体的にはOrg.Synth.Coll.Voll.IX,589等に記載の方法に従って、化合物(XIII)から化合物(Ia1)を製造することができる。
工程(m)においては、化合物(Ia1)の水酸基に、公知の種々の方法により上記で例示される保護基を導入することにより化合物(Ia2)を製造することができるが、塩基性が高い条件で保護基を導入しようとするとエステル交換や脱離反応等の副反応を起こしやすいため、Tetrahedron,4033(1998)やSynthesis,568(1987)等に記載のベンジル化反応等で行うことが好ましい。
工程(n)および工程(n’)においては、塩基性条件または酸性条件等の通常の加水分解条件により、化合物(Ia2)から化合物(Ib2)を製造することができるが、工程(n)では酸性条件で、保護基Pが脱保護する場合が多いため、例えば、水あるいはメタノール、エタノール等のアルコール類等の単独または混合溶媒中、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基性条件下で加水分解することが好ましい。
工程(o)においては、化合物(Ib2)を通常の酸塩化物を製造する条件に付することによって化合物(Ic)を製造することができる。例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、シメン等の芳香族炭化水素系溶媒またはn−ヘプタン、ヘキサン、オクタン、イソオクタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒等の単独または混合溶媒中、塩化オキザリル、塩化チオニル、オキシ塩化リン、三塩化リン、五塩化リン等の塩素化剤と反応させることにより、化合物(Ic)を製造することができる。なお該酸塩化物を製造する条件は酸性条件であるため、化合物(Ic)において上記で例示された保護基Pのうち、酸性条件で脱保護されやすい保護基(例えば、トリメチルシリル、トリエチルシリル、トリイソプロピルシリル、トリ−n−ブチルシリル、tert−ブチルジメチルシリル、tert−ブチルジフェニルシリル等のシリルエーテル、2−テトラヒドロピラニル、2−テトラヒドロフラニル、4−メトキシテトラヒドロピラニル等)であるものは除かれる。
このようにして製造された化合物(Ia1)、化合物(Ia2)、化合物(Ib1)、化合物(Ib2)および化合物(Ic)は、常法によって単離、精製することができるが、精製することなく、工程(a−1)〜(a−4)の原料として用いることもできる。
工程(a’−1)に使用される3,4−ジヒドロ−2H−ピラン、エチルビニルエーテルおよび酸;工程(a’−2)に使用される芳香族アルデヒド、アルキル置換シロキサン類、トリアルキルシリル化剤および還元剤;工程(a’−3)に使用されるベンジルアセトイミデート類および強酸;並びに工程(a’−4)に使用されるシリル化剤または弱塩基は、それぞれ市販品を用いることができる。
2.工程(b)
工程(b)においては、化合物(III)をジアステレオ選択的還元に付することによって、化合物(IV)を製造することができる。
工程(b)におけるジアステレオ選択的還元の方法としては、種々の立体選択的還元反応が適用可能である。例えば光学活性オキサボロリジン誘導体存在下のボラン還元;光学活性アミノ酸存在下での水素化ホウ素アルカリ金属塩による還元;微生物または酵素を用いた生物的還元;不斉金属触媒存在下の不斉水素化反応;不斉金属触媒存在下の水素移動型還元反応;光学活性BINAL−H等の光学活性水素化金属試薬を用いる方法等が挙げられる。
上記で挙げられた立体選択的還元反応の中でも、少量の触媒で高ジアステレオ選択的に還元できるため、不斉金属触媒存在下の不斉水素化反応が好ましい。
以下、不斉金属触媒存在下の不斉水素化反応による工程(b)(以下、工程(b−1)ともいう。)について詳細に説明する。
工程(b−1)においては、例えば溶媒中、不斉金属触媒存在下、化合物(III)を水素と反応させることにより化合物(IV)を製造することができる。
工程(b−1)における不斉金属触媒は特に限定はないが、不斉配位子を有する遷移金属触媒が好ましく、特に該不斉配位子と遷移金属とで形成される遷移金属錯体が好ましい。
該不斉配位子としては、例えば光学活性ホスフィン化合物、光学活性アミン誘導体、光学活性アミノアルコール誘導体等が挙げられるが、このうち光学活性ホスフィン化合物が好ましい。
該光学活性ホスフィン化合物としては、例えば、化合物(L1)〜化合物(L2)、光学活性な1’,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1−(N,N−ジメチルアミノエチル)フェロセン(BPPFA)、2,3−ビス−(ジフェニルホスフィノ)ブタン(CHIRAPHOS)、1−シクロヘキシル−1,2−ビス−(ジフェニルホスフィノ)エタン(CYCPHOS)、2,3−O−イソプロピリデン−2,3−ジヒドロキシ−1,4−ビス−(ジフェニルホスフィノ)ブタン(DIOP)、1,2−ビス((O−メトキシフェニル)フェニルホスフィノ)エタン(DIPAMP)、5,6−ビス−(ジフェニルホスフィノ)−2−ノルボルネン(NORPHOS)、1,2−ビス−(ジフェニルホスフィノ)プロパン(PROPHOS)、2,4−ビス−(ジフェニルホスフィノ)ペンタン(SKEWPHOS)等が挙げられる。
上記に例示された光学活性ホスフィン化合物のうち、化合物(L1)〜化合物(L2)が好ましく、化合物(L1)がより好ましく、(S)−BINAPもしくは(S)−Tol−BINAPがさらに好ましい。
光学活性アミン誘導体としては、例えば、光学活性な1,2−ジフェニルエチレンジアミン(DPEN)、1,2−シクロヘキサンジアミン、1,2−シクロヘプタンジアミン、1−メチル−2,2−ジフェニルエチレンジアミン、1−イソブチル−2,2−ジフェニルエチレンジアミン、1−イソプロピル−2,2−ジフェニルエチレンジアミン、1−メチル−2,2−ジ(p−メトキシフェニル)エチレンジアミン、1−イソブチル−2,2−ジ(p−メトキシフェニル)エチレンジアミン、1−イソプロピル−2,2−ジ(p−メトキシフェニル)エチレンジアミン、1−ベンジル−2,2−ジ(p−メトキシフェニル)エチレンジアミン、1−メチル−2,2−ジナフチルエチレンジアミン、1−イソブチル−2,2−ジナフチルエチレンジアミン、1−イソプロピル−2,2−ジナフチルエチレンジアミン、N−トシル−1,2−ジフェニルエチレンジアミン、N−トシル−N’−メチル−1,2−ジフェニルエチレンジアミン、3−アミノピロリジン、3−(ジメチルアミノ)ピロリジン、3−(エチルアミノ)ピロリジンなどの光学活性ジアミン化合物等が挙げられ、好ましくは光学活性な1,2−ジフェニルエチレンジアミン、1,2−シクロヘキサンジアミン等が挙げられる。
光学活性アミノアルコール誘導体としては、例えば、光学活性な1−フェニル−2−メチルアミノプロパノール、1,2−ジフェニル−2−アミノエタノール、1,2−ジフェニル−2−メチルアミノエタノール、2−アミノ−1−ブタノール、2−アミノ−1−プロパノール、ノルエフェドリン、フェニルアラニノール、フェニルグリシノール、プロリノール、バリノール、イソロイシノール、ロイシノール、2−アミノ−1−フェニル−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−1−(4−ニトロフェニル)−1,3−プロパンジオール等が挙げられ、好ましくは光学活性な2−アミノ−1−フェニル−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−1−(4−ニトロフェニル)−1,3−プロパンジオール等が挙げられる。
上記遷移金属触媒における遷移金属としては、特に限定はなく、例えばルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金等の第VIII族遷移金属が好ましく、ルテニウム、ロジウムがより好ましく、ルテニウムが特に好ましい。
工程(b−1)における該遷移金属錯体は、上記の一種類の不斉配位子が一の遷移金属に配位したものでもよく、二種以上の不斉配位子が一の遷移金属に同時に配位したもの、例えば[(S)−BINAP][DPEN]RuCl等であってもよい。
工程(b−1)における不斉配位子を有する遷移金属触媒の調製法は特に限定はないが、例えば、好ましい遷移金属触媒である光学活性ホスフィン化合物とルテニウムとから形成される遷移金属錯体(以下、ホスフィン−ルテニウム錯体ともいう。)の場合は、公知の方法、例えばJ.Chem.Soc.,Chem.Commun.,922(1985)に記載の方法に従って調製することができる。具体的には、溶媒中、ルテニウム塩またはその錯体と光学活性ホスフィン化合物とを反応させることによってホスフィン−ルテニウム錯体を調製することができる。なお、このホスフィン−ルテニウム錯体はトリエチルアミン等の三級アミンをさらに配位させたものも好適に用いることができ、その場合該三級アミンをさらに添加する。
ルテニウム塩またはその錯体としては、例えば、ルテニウム(II)ハライド(例、塩化ルテニウム(II)、臭化ルテニウム(II)等)、ルテニウム(II)アセテート、ベンゼンルテニウム(II)クロリドダイマー、ジクロロ(p−シメン)ルテニウム(II)ダイマー、ジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)ルテニウム(II)ポリマー等が挙げられ、好ましくはベンゼンルテニウム(II)クロリドダイマー、ジクロロ(p−シメン)ルテニウム(II)ダイマー、ジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)ルテニウム(II)ポリマー等が挙げられる。
光学活性ホスフィン化合物としては、上記で例示されたものが挙げられ、好ましくは(S)−BINAPまたは(S)−Tol−BINAPである。
ホスフィン−ルテニウム錯体調製における光学活性ホスフィン化合物の使用量は、ルテニウム塩またはその錯体に対して0.5当量〜5当量が好ましく、1当量〜2当量がより好ましい。
ホスフィン−ルテニウム錯体がさらに三級アミンが配位したものである場合、使用される三級アミンとしては、例えば、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ピリジン等が挙げられ、好ましくはトリエチルアミン等が挙げられる。
ホスフィン−ルテニウム錯体がさらに三級アミンが配位したものである場合、三級アミンの使用量としては、生成するホスフィン−ルテニウム錯体に対して1当量〜50当量が好ましく、10当量〜20当量がより好ましい。
ホスフィン−ルテニウム錯体調製に使用される溶媒としては、当該反応を阻害しないものであればよく、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、メタノール、エタノール、2−プロパノール、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、トルエン、キシレン、酢酸エチル等を単独または混合して使用することができる。混合溶媒とする場合には、任意の割合で混合すればよい。溶媒の使用量は、ルテニウム塩またはその錯体1kgに対して5L〜1000Lが好ましく、10L〜200Lがより好ましい。なお、溶媒はホスフィン−ルテニウム錯体の溶媒和物として取り込まれてもよい。
ホスフィン−ルテニウム錯体調製時の反応温度は、通常0℃〜150℃、好ましくは30℃〜120℃の範囲である。反応時間は、通常1分〜12時間である。
調製したホスフィン−ルテニウム錯体は、通常の単離精製方法、例えば溶媒留去後、再結晶、溶媒洗浄等によって精製したものを(b−1)工程において遷移金属触媒として用いることができるが、特に単離精製することなく溶液として用いることもできる。
また、ロジウム、イリジウム、パラジウム、白金等から形成される遷移金属錯体も、J.Org.Chem.,65(1980),J.Organomet.Chem.,213(1992)等の記載に従い、同様に調製することができる。
工程(b−1)における不斉金属触媒の使用量は、化合物(III)に対して0.00001当量〜0.2当量が好ましく、0.0005当量〜0.05当量がより好ましい。不斉金属触媒の使用量がこの範囲より少ないと反応が遅くなる傾向があり、この範囲を越えても、使用量に見合う効果は少なく経済的に不利となる傾向があるため好ましくない。
工程(b−1)に使用される水素の圧力は、1kgf/cm〜150kgf/cmの範囲から選択されるのが好ましく、2kgf/cm〜100kgf/cmの範囲から選択されるのがより好ましい。水素の圧力がこの範囲より低い場合は反応の進行が遅くなる傾向がある一方、この範囲より高くなると特別の耐圧容器が必要となるため、上記範囲で行うのが経済的に好ましいからである。
工程(b−1)における溶媒としては、当該反応を阻害しないものであればよく、例えばメタノール、エタノール、2−プロパノール、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、酢酸、1,4−ジオキサン、酢酸エチル、トルエン、キシレン等を単独または混合して使用することができる。混合溶媒とする場合には、任意の割合で混合すればよい。溶媒の使用量としては、化合物(III)1kgに対して通常0.5L〜100Lであり、より好ましくは1L〜20Lである。
工程(b−1)の反応温度は、通常0℃〜150℃、好ましくは20℃〜100℃の範囲である。反応時間は、用いられる試薬、反応温度や水素の圧力等にも依存するが、通常0.5時間〜24時間である。
工程(b−1)で製造される化合物(IV)は、常法によって単離、精製することができる。例えば反応液を水に注いだ後、溶媒で抽出し、分液後、有機層を洗浄、減圧濃縮することによって、化合物(IV)を単離することができる。単離後、例えばシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付して精製することもできる。
工程(b)の原料である化合物(III)は、例えば、工程(a)の方法に従って製造したものを用いることができる。
3.工程(c1)
工程(c1)は、化合物(IV)と1−ハロ−2−ヘキセンを、強塩基の存在下反応させて、化合物(V)を得る方法である。工程(c1)は、後述の工程(c2)において添加されるHMPAの代わりに毒性が比較的弱いDMIを用いた場合にも、HMPAと同様の収率改善効果が達成できるため、安全衛生上の問題が改善されるという利点がある。
工程(c1)において、試薬の添加の順序は、例えば、溶媒中に予め仕込んだ化合物(IV)と強塩基との反応により予め調製した化合物(IV)のカルバニオンの溶液に、1−ハロ−2−ヘキセンを添加する、または、溶媒中に予め仕込んだ1−ハロ−2−ヘキセンに、化合物(IV)のカルバニオンの溶液を添加する等の順序が好ましい。
工程(c1)において使用される強塩基としては、いわゆる求核性の小さな強塩基であれば特に限定はなく、例えばリチウムジイソプロピルアミド、リチウムビストリメチルシリルアミド、リチウムジシクロヘキシルアミド等のアルカリ金属アミド類;水素化ナトリウム、水素化リチウム等の水素化アルカリ金属類等が挙げられ、好ましくはリチウムビストリメチルシリルアミド、リチウムジイソプロピルアミド等が挙げられる。
工程(c1)において、強塩基の使用量は、化合物(IV)1モルに対して2モル〜4モルが好ましく、2.2モル〜4モルがより好ましい。塩基の使用量がこの範囲より少ないと反応の効率が低下する傾向があり、この範囲を越えても、使用量に見合う効果は少なく、経済的に不利となる傾向があるため好ましくない。
工程(c1)において使用される1−ハロ−2−ヘキセンの幾何異性は特に限定はなく、E体またはZ体あるいはそれらの混合物であってもよい。1−ハロ−2−ヘキセンとしては、例えば(E)または(Z)−1−クロロ−2−ヘキセン、(E)または(Z)−1−ブロモ−2−ヘキセン、(E)または(Z)−1−ヨード−2−ヘキセン等が挙げられ、好ましくは(E)または(Z)−1−ヨード−2−ヘキセン、(E)または(Z)−1−ブロモ−2−ヘキセン等が挙げられる。
工程(c1)において、1−ハロ−2−ヘキセンの使用量は、化合物(IV)1モルに対して1モル〜10モルが好ましく、3モル〜5モルがより好ましい。1−ハロ−2−ヘキセンの使用量がこの範囲より少ないと化合物(IV)が残存し、反応効率が低下する傾向があり、この範囲を越えた場合、使用量に見合う効果が少なくなり、経済的に不利となる傾向があるため好ましくない。
工程(c1)においては、化合物(IV)のカルバニオンの求核性を上げ、1−ハロ−2−ヘキセンとの反応を促進するために、DMIを添加するのが好ましい。DMIを添加するタイミングは特に限定はないが、化合物(IV)のカルバニオンと1−ハロ−2−ヘキセンとの反応の直前または同時に添加するのが好ましい。
DMIの使用量は、化合物(IV)1モルに対して2モル〜10モルが好ましく、2.5モル〜4モルがより好ましい。DMIの使用量がこの範囲より少ないと、反応効率が低下する傾向があり、この範囲を越えた場合、操作性が悪化し、また経済的に不利となる傾向があるため好ましくない。
工程(c1)に使用される溶媒としては、当該反応を阻害しないものであればよく、例えばTHF、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;n−ヘプタン、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素類等を単独または混合して使用することができる。混合溶媒とする場合には、任意の割合で混合すればよい。
溶媒の使用量としては、化合物(IV)1kgに対して通常2L〜10Lであり、より好ましくは2L〜5Lである。
工程(c1)の反応温度は、通常−70℃〜0℃、好ましくは−50℃〜−20℃の範囲である。反応時間は、用いられる試薬や反応温度にも依存するが、通常1時間〜24時間である。
工程(c1)で製造される化合物(V)は、常法によって単離、精製することができる。例えば反応液を希酸性水等に注いだ後、分液後、有機層を洗浄、減圧濃縮することによって、化合物(V)を単離することができる。単離後、例えばシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付して精製することもできる。また、化合物(V)は精製することなく用いることもできる。
4.工程(d1)
工程(d1)は、化合物(V)を加水分解に付して、化合物(VI)またはその塩を得る方法である。化合物(V)の加水分解は常法で行えばよく、例えば、溶媒中、化合物(V)とアルカリ金属化合物との反応することにより化合物(VI)の塩が得られ、その後、必要に応じて酸で中和することにより、あるいは、溶媒中、化合物(V)を無機酸と反応させることにより、化合物(VI)を得ることができる。
工程(d1)で用いる溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、水等、またはこれらの混合溶媒が挙げられ、メタノールと水との混合溶媒、エタノールと水との混合溶媒が好ましい。
工程(d1)における当該溶媒の使用量は、化合物(V)1kgに対して、通常3L〜15L、好ましくは4L〜6Lである。
工程(d1)で用いるアルカリ金属化合物としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられ、水酸化ナトリウムが好ましい。当該アルカリ金属化合物の使用量は、化合物(V)1モルに対して、通常1モル〜5モル、好ましくは1.5モル〜3モルである。アルカリ金属化合物は、そのまま反応系に添加してもよいが、水溶液またはアルコール溶液として添加するのが好ましい。アルカリ金属化合物を溶解するための溶媒の使用量も、上記溶媒の使用量に含まれる。
工程(d1)で用いる無機酸としては、例えば塩酸、硫酸、リン酸などが挙げられ、塩酸、硫酸が好ましい。無機酸の使用量は、化合物(V)1モルに対して、通常1モル〜5モル、好ましくは1.5モル〜3モルである。
工程(d1)において、中和のために用いる酸としては、例えば上記の無機酸と同様なものが挙げられ、その使用量は反応液のpHが通常7以下、好ましくは6以下となる量であればよい。酸での中和を行わない場合、化合物(VI)のアルカリ金属塩が得られる。
工程(d1)において、化合物(V)とアルカリ金属化合物との反応は、化合物(V)とアルカリ金属化合物の種類や使用量などに依存するが、通常30℃〜80℃、好ましくは50℃〜60℃の温度範囲で行われる。反応時間は、1時間〜30時間、好ましくは3時間〜6時間である。
工程(d1)において、化合物(V)と無機酸との反応は、用いる化合物(V)と無機酸の種類や使用量などに依存するが、通常0℃〜30℃、好ましくは10℃〜20℃の温度範囲で行われる。
化合物(VI)の単離、精製は、常法により行うことができ、例えばn−ヘプタン、n−ヘキサン、n−ペンタン等で抽出後、有機層を洗浄、減圧濃縮することによって、化合物(VI)を単離することができる。単離後、例えばシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付して精製することもできるが、以下の方法により精製するのが好ましい。すなわち、トリエタノールアミンとの塩を形成して水に溶解させ、n−ヘプタン、n−ヘキサン、n−ペンタン等で洗浄し、さらに水層を酸性にしてn−ヘプタン、n−ヘキサン、n−ペンタン等で抽出することにより、化合物(VI)を精製することができる。
工程(c1)および工程(d1)で製造される化合物(Va)は新規化合物であり、(−)−テトラヒドロリプスタチンの有用な合成中間体である。
5.工程(e1)
工程(e1)は、化合物(VI)またはその塩を塩基の存在下、スルホニルハライド類と反応させることにより、オキセタン環を形成して、化合物(VII)を得る方法である。
工程(e1)において、試薬の添加の順序は特に限定はなく、例えば、溶媒中に予め仕込んだ化合物(VI)と塩基との混合物に、スルホニルハライド類を添加する、または、溶媒中に予め仕込んだ化合物(VI)とスルホニルハライド類との混合物に、塩基を添加する等でもよい。
工程(e1)において使用されるスルホニルハライド類としては、例えばp−トルエンスルホニルクロリド、ベンゼンスルホニルクロリド、メタンスルホニルクロリド、トリフルオロメタンスルホニルクロリド等が挙げられ、好ましくはベンゼンスルホニルクロリド等が挙げられる。
工程(e1)において、スルホニルハライド類の使用量は、化合物(VI)1モルに対して1モル〜3モルが好ましく、1.5モル〜2.5モルがより好ましい。スルホニルハライド類の使用量がこの範囲より少ないと化合物(VI)が残存し、反応効率が低下する傾向があり、この範囲を越えても、使用量に見合う効果は少なく、経済的に不利となる傾向があるため好ましくない。
工程(e1)において使用される塩基としては、トリエチルアミン、ピリジン、N,N−ジメチルアニリン等が挙げられ、好ましくはピリジン等が挙げられる。
工程(e1)において、塩基の使用量は、化合物(VI)1モルに対して3モル〜10モルが好ましく、5モル〜10モルがより好ましい。塩基の使用量がこの範囲より少ないと反応効率が低下する傾向がある。また、塩基は10モルより多く用いてもよく、10モルを超えた部分は溶媒として機能する。
工程(e1)に使用される溶媒としては、当該反応を阻害しないものであればよく、例えばTHF、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;n−ヘプタン、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素類等を単独または混合して使用することができる。混合溶媒とする場合には、任意の割合で混合すればよい。
溶媒の使用量としては、化合物(VI)1kgに対して通常1L〜30Lであり、より好ましくは2L〜15Lである。
工程(e1)の反応温度は、通常−30℃〜50℃、好ましくは−10℃〜10℃の範囲である。反応時間は、用いられる試薬や反応温度にも依存するが、通常5時間〜40時間である。
工程(e1)で製造される化合物(VII)は、常法によって単離、精製することができる。例えば反応液を水に注いだ後、抽出し、有機層を洗浄、減圧濃縮することによって、化合物(VII)を単離することができる。単離後、例えばシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付して精製することもできる。また、化合物(VII)は精製することなく用いることもできる。
工程(e1)で製造される化合物(VII)は新規化合物であり、(−)−テトラヒドロリプスタチンの有用な合成中間体である。
6.工程(f1)
工程(f1)は、化合物(VII)をPの脱保護およびオキセタン環2位のヘキセニルを接触還元反応に付してn−ヘキシルに還元することにより、化合物(VIII)を得る方法である。
工程(f1)において、脱保護および接触還元反応の順番は特に限定はなく、化合物(VII)を接触還元反応に付して化合物(VII’)に導いた後に脱保護してもよく、あるいは、化合物(VII)を脱保護して、式(VII”):

で表される化合物(以下、化合物(VII”)ともいう。)に導いた後、接触還元反応に付してもよい。また、後述するようにPが置換基を有してもよいベンジルの場合には、接触還元反応によりヘキセニルの還元と脱保護を同時に行うことができるので好ましい。
工程(f1)においては、Pを公知の方法(例えば、T.W.Greene et al,Protective Groups in Organic Synthesis,2nd Ednに記載の方法)により脱保護することができる。例えば、Pが2−テトラヒドロピラニルまたは1−エトキシエチルである場合は、化合物(VII)または化合物(VII’)を酸と反応させることにより(以下、工程(f1−1)ともいう。);Pが置換基を有してもよいベンジルである場合は、化合物(VII)を接触還元反応に付することにより(以下、工程(f1−2)ともいう。);Pがシリルエーテルである場合は、化合物(VII)または化合物(VII’)を酸またはフッ化物塩と反応させることにより(以下、工程(f1−3)ともいう。)それぞれ脱保護することができる。
以下、工程(f1−1)〜(f1−3)について説明する。
6−1.工程(f1−1)
工程(f1−1)は、例えば溶媒中、Pが2−テトラヒドロピラニルまたは1−エトキシエチルである化合物(VII)または化合物(VII’)(以下まとめて、化合物(VIIa)ともいう。)と酸を反応させることにより、それぞれ化合物(VII”)または化合物(VIII)を得る方法である。
工程(f1−1)で用いる酸としては特に限定されないが、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、過塩素酸等の鉱酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸ピリジニウム塩(PPTS)等の有機酸が挙げられ、好ましくはメタンスルホン酸またはp−トルエンスルホン酸である。当該酸の使用量は、化合物(VIIa)1モルに対して、通常0.01モル〜0.5モル、好ましくは0.05モル〜0.3モルである。酸の使用量がこの範囲より少ないと反応が遅くなる傾向があり、使用量が多すぎると副反応が進行する虞がある。
工程(f1−1)で用いる溶媒としては、当該反応を阻害しないものであればよく、例えば、水;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類等、またはこれらの混合溶媒が挙げられ、水、トルエンおよびメタノールの混合溶媒またはメタノールが好ましい。当該溶媒の使用量は、化合物(VIIa)1kgに対して、通常1L〜50L、好ましくは5L〜20Lである。
工程(f1−1)における反応温度は、用いる試薬などに依存するが、通常−20℃〜60℃、好ましくは0℃〜50℃、さらに好ましくは10℃〜40℃である。反応時間は、通常1時間〜10時間、好ましくは3時間〜6時間である。
工程(f1−1)で得られる化合物(VII”)または化合物(VIII)は、常法によって単離、精製することができる。例えば、反応液を水に注ぎ、分液後、有機層を洗浄、乾燥、減圧濃縮することによって、化合物(VII”)または化合物(VIII)を単離することができる。単離後、例えばシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付して精製することもできる。また、化合物(VII”)または化合物(VIII)は、精製することなしに次反応に供することもできる。
6−2.工程(f1−2)
工程(f1−2)は、例えば溶媒中、Pが置換基を有してもよいベンジルである化合物(VII)(以下、化合物(VIIb)ともいう。)を接触還元反応に付することにより、脱保護とヘキセニルの還元を同時に行い、化合物(VIII)を得る方法である。
工程(f1−2)の水素圧は、通常1kgf/cm〜15kgf/cmであり、好ましくは1kgf/cm〜6kgf/cmである。水素圧がこの範囲より低いと反応速度が遅くなり、高いと特別な耐圧装置が必要となるため好ましくない。
工程(f1−2)に用いられる触媒としては、例えばパラジウム炭素、水酸化パラジウム等が挙げられ、パラジウム炭素が好ましい。当該触媒の使用量は、化合物(VIIb)に対して、通常3〜50重量%、好ましくは5〜20重量%である。
当該接触還元反応で用いうる溶媒としては、本反応を阻害しない溶媒であればいずれでもよく、例えばエタノール、メタノール、2−プロパノール、酢酸エチル、THF、n−ヘプタン、n−ヘキサン等を単独または混合して使用することができ、好ましくは酢酸エチル、THFである。混合溶媒とする場合には、任意の割合で混合すればよい。溶媒の使用量は、化合物(VIIb)1kgに対して、通常2L〜30Lであり、好ましくは3L〜15Lである。
工程(f1−2)の反応温度は、通常10℃〜60℃、好ましくは20℃〜50℃の範囲である。反応時間は、用いられる試薬や反応温度、圧力にも依存するが、通常5時間〜60時間である。
工程(f1−2)により得られる化合物(VIII)の単離精製は常法で行うことができる。例えば、反応終了後、濾過等により触媒を除去し、濃縮することにより、化合物(VIII)を単離することができる。さらに、これに晶析溶媒(例えば、n−ヘプタン、n−ヘキサン、n−ペンタンなど)等を加えて晶析させるか、あるいはシリカゲルカラムクラマトグラフィーに付すことにより、化合物(VIII)を精製することができる。
6−2.工程(f1−3)
工程(f1−3)は、例えば、溶媒中、Pがシリルエーテルである化合物(VII)または化合物(VII’)(以下、まとめて化合物(VIIc)ともいう。)を酸またはフッ化物塩と反応させることにより、化合物(VII”)または化合物(VIII)を得る方法である。
工程(f1−3)で用いる酸としては特に限定されないが、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、過塩素酸等の鉱酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸ピリジニウム塩(PPTS)等の有機酸が挙げられ、好ましくは塩酸である。
工程(f1−3)で用いるフッ化物塩としては特に限定されないが、例えば、フッ化テトラ−n−ブチルアンモニウム、フッ化水素ピリジニウム等が挙げられ、好ましくはフッ化テトラ−n−ブチルアンモニウムである。
当該酸またはフッ化物塩の使用量は、化合物(VIIc)1モルに対して、通常0.05モル〜1.5モル、好ましくは0.1モル〜1モルである。酸またはフッ化物塩の使用量がこの範囲より少ないと反応が遅くなる傾向があり、多いと副反応が進行する虞がある。
工程(f1−3)に使用される溶媒としては、当該反応を阻害しないものであればよく、例えばTHF、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;n−ヘプタン、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素類、塩化メチレン、酢酸エチル、メチルイソブチルケトン等を単独または混合して使用することができる。混合溶媒とする場合には、任意の割合で混合すればよい。溶媒の使用量としては、化合物(VIIc)1kgに対して通常1L〜30Lであり、より好ましくは3L〜15Lである。
工程(f1−3)は、通常−20〜60℃、好ましくは0〜50℃の範囲内で行う。反応時間は、通常0.5時間〜12時間、好ましくは1時間〜8時間である。
工程(f1−3)で得られる化合物(VII”)または化合物(VIII)の単離精製は常法で行うことができる。例えば、反応終了後、反応液を水で洗浄し、分液して得られた有機層を濃縮することにより、化合物(VII”)または化合物(VIII)を単離することができる。さらに、晶析させるか、あるいはシリカゲルカラムクラマトグラフィーに付すことにより、化合物(VII”)または化合物(VIII)を単離することができる。
化合物(VII”)を接触還元反応に付して、化合物(VIII)を得る方法は、化合物(VII”)を原料として工程(f1−2)と同様の条件で行えばよい。
工程(c1)〜工程(f1)の原料である化合物(IV)は、公知の方法、例えばChem.Commun.,1999,1743−1744に記載の方法により製造されたものを用いてもよいが、効率的に化合物(IV)を製造できることから、上記[1]〜[5]のいずれかの方法によって製造された化合物(IV)を用いることが好ましい。
7.工程(c2)
工程(c2)は、化合物(IV)とn−ヘキシルハライドを、強塩基の存在下反応させて、化合物(V’)を得る方法である。
工程(c2)において、試薬の添加の順序は、例えば、溶媒中に予め仕込んだ化合物(IV)と強塩基との反応により予め調製した化合物(IV)のカルバニオンの溶液に、n−ヘキシルハライドを添加する、または、溶媒中に予め仕込んだn−ヘキシルハライドに、化合物(IV)のカルバニオンの溶液を添加する等の順序が好ましい。
工程(c2)において使用される強塩基としては、いわゆる求核性の小さな強塩基であれば特に限定はなく、例えばリチウムジイソプロピルアミド、リチウムビストリメチルシリルアミド、リチウムジシクロヘキシルアミド等のアルカリ金属アミド類;水素化ナトリウム、水素化リチウム等の水素化アルカリ金属類等が挙げられ、好ましくはリチウムビストリメチルシリルアミド、リチウムジイソプロピルアミド等が挙げられる。
工程(c2)において、強塩基の使用量は、化合物(IV)1モルに対して2モル〜4モルが好ましく、2.2モル〜3.5モルがより好ましい。塩基の使用量がこの範囲より少ないと反応の効率が低下する傾向があり、この範囲を越えても、使用量に見合う効果は少なく、経済的に不利となる傾向があるため好ましくない。
工程(c2)において使用されるn−ヘキシルハライドとしては、特に限定はなく、例えば塩化n−ヘキシル、臭化n−ヘキシル、ヨウ化n−ヘキシル等が挙げられ、好ましくはn−ヘキシルヨージド等が挙げられる。
工程(c2)において、n−ヘキシルハライドの使用量は、化合物(IV)1モルに対して1モル〜10モルが好ましく、2モル〜5モルがより好ましい。n−ヘキシルハライドの使用量がこの範囲より少ないと化合物(IV)が残存し、反応効率が低下する傾向があり、この範囲を越えた場合、使用量に見合う効果が少なくなり、経済的に不利となる傾向があるため好ましくない。
工程(c2)においては、化合物(IV)のカルバニオンの求核性をあげ、n−ヘキシルハライドとの反応を促進するために、HMPAを添加するのが好ましい。HMPAを添加するタイミングは特に限定はないが、化合物(IV)のカルバニオンとn−ヘキシルハライドとの反応の直前または同時に添加するのが好ましい。
HMPAの使用量は、化合物(IV)1モルに対して1モル〜10モルが好ましく、2モル〜4モルがより好ましい。HMPAの使用量がこの範囲より少ないと、反応効率が低下する傾向があり、この範囲を越えた場合、操作性が悪化し、また経済的に不利となる傾向があるため好ましくない。
工程(c2)に使用される溶媒としては、当該反応を阻害しないものであればよく、例えばTHF、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;n−ヘプタン、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素類等を単独または混合して使用することができる。混合溶媒とする場合には、任意の割合で混合すればよい。
溶媒の使用量としては、化合物(IV)1kgに対して通常1L〜20Lであり、より好ましくは2L〜5Lである。
工程(c2)の反応温度は、通常−70℃〜20℃、好ましくは−50℃〜20℃の範囲である。反応時間は、用いられる試薬や反応温度にも依存するが、通常5時間〜24時間である。
工程(c2)で製造される化合物(V’)は、常法によって単離、精製することができる。例えば反応液を希酸性水等に注いだ後に、分液し、有機層を洗浄、減圧濃縮することによって、化合物(V’)を単離することができる。単離後、例えばシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付して精製することもできる。また、化合物(V’)は精製することなく用いることもできる。
8.工程(d2)
工程(d2)は、化合物(V’)を加水分解に付して、化合物(VI’)またはその塩を得る方法であり、上記工程(d1)と同様の条件で行うことができる。
9.工程(e2)
工程(e2)は、化合物(VI’)またはその塩を塩基の存在下、スルホニルハライド類と反応させて、化合物(VII’)を得る方法であり、上記工程(e1)と同様の条件で行うことができる。
10.工程(f2)
工程(f2)は、化合物(VII’)を脱保護して、化合物(VIII)を得る方法であり、上記工程(f1−1)〜(f1−3)と同様の方法により行うことができる。
工程(c2)〜工程(f2)の原料である化合物(IV)は、公知の方法、例えばChem.Commun.,1999,1743−1744に記載の方法により製造されたものを用いてもよいが、効率的に化合物(IV)を製造できることから、上記[1]〜[5]のいずれかの方法によって製造された化合物(IV)を用いることが好ましい。
11.工程(g)
工程(g)は、例えば、溶媒中、化合物(VIII)とN−ホルミル−L−ロイシンとを、カルボジイミド系縮合剤及び3級アミンの存在下、0℃未満の反応温度で縮合させて、化合物(XI)を得る方法である。
係る縮合反応の反応温度を、0℃未満という低温で行うことにより、N−ホルミル−L−ロイシンのホルミルアミノ基のエピメリ化を工業的生産が可能な程度にまで抑制することができるという利点がある。
このように工程(g)の縮合反応においては反応温度が重要であり、上述のように0℃未満に制御することにより、ホルミルアミノ基のエピメリ化を有効に抑制することができるが、さらにエピメリ化を抑制し、精製の負担を少なくするためには、−5℃以下が好ましく、−15℃以下がより好ましい。反応温度の下限としては特に限定はないが反応速度、反応時間、収率を考慮すると、−35℃以上が好ましく、−25℃以上がより好ましい。0℃以上の反応温度では、ホルミルアミノ基がエピメリ化する割合が多くなるため、精製が困難になり工業的に不利になる傾向があるため好ましくない。また、−35℃未満の反応温度では反応性が悪くなり、反応時間が長くなったり、収率が低下する傾向があるため好ましくない。
工程(g)の縮合反応においては、試薬の添加順序に特に限定はなく、化合物(VIII)および各試薬を同時または順次添加すればよいが、操作性およびホルミルアミノ基のエピメリ化を効率的に抑制し得るという観点からは、溶媒中、化合物(VIII)、N−ホルミル−L−ロイシン及びカルボジイミド系縮合剤を予め混合することによりN−ホルミル−L−ロイシンとカルボジイミド系縮合剤の付加体を形成した後に、3級アミンを添加するのが好ましい。この場合において、当該付加体を充分形成させるために、3級アミンを添加する前に、化合物(VIII)、N−ホルミル−L−ロイシン及びカルボジイミド系縮合剤の混合物を攪拌するのが好ましい。当該攪拌の時間は特に限定されないが、付加体を充分形成させるためには、通常10分以上であり、15分間〜120分間が好ましく、20分間〜60分間がより好ましい。
工程(g)に使用されるN−ホルミル−L−ロイシンの使用量は、化合物(VIII)1モルに対して1.1モル〜5モルが好ましく、1.5モル〜3モルがより好ましい。N−ホルミル−L−ロイシンの使用量がこの範囲より少ないと反応が完結しにくくなり、この範囲を越えた場合、使用量に見合う効果が少なくなり、経済的に不利になる傾向があるため好ましくない。
工程(g)で使用されるカルボジイミド系縮合剤としては特に限定はされず、例えば、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド等が挙げられ、好ましくはN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドが挙げられ、特にN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミドが好ましい。
カルボジイミド系縮合剤の使用量は、化合物(VIII)1モルに対して1.1モル〜5モルが好ましく、1.5モル〜3モルがより好ましい。カルボジイミド系縮合剤の使用量がこの範囲より少ないと反応が完結しにくくなり、この範囲を越えた場合、使用量に見合う効果が少なくなり、また縮合剤との分離が困難になる傾向があるため好ましくない。
工程(g)で使用される3級アミンとしては特に限定はなく、例えば、トリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、N−メチルモルホリン、ピリジン、N−メチルイミダゾール、2−ジメチルアミノピリジンまたは化合物(A)(例えば、4−ピロリジノピリジン、4−ジメチルアミノピリジン等)等が挙げられ、好ましくは2−ジメチルアミノピリジンまたは化合物(A)が挙げられ、特に4−ピロリジノピリジンまたは4−ジメチルアミノピリジンが好ましい。
3級アミンの使用量は、化合物(VIII)1モルに対して0.005モル〜0.5モルが好ましく、0.01モル〜0.1モルがより好ましい。3級アミンの使用量がこの範囲より少ないと反応が遅くなる傾向があるため効率が悪くなり、この範囲を越えた場合、使用量に見合う効果が少なく経済的に不利になりやすく、さらにはホルミルアミノ基のエピメリ化が起こる虞があるため好ましくない。
工程(g)の縮合反応に使用される溶媒としては、当該反応を阻害しないものであればよく、例えば塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン、α,α,α−トリフルオロトルエン等のハロゲン系溶媒、メチルtert−ブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸tert−ブチル、トルエン、キシレン、アセトニトリル等を単独または混合して使用することができる。混合溶媒とする場合には、任意の割合で混合すればよい。
溶媒の使用量としては、化合物(VIII)1kgに対して通常1L〜30Lであり、より好ましくは3L〜15Lである。
反応時間は、用いられる試薬や反応温度にも依存するが、通常0.5時間〜5時間である。なお、上述の化合物(VIII)、N−ホルミル−L−ロイシン及びカルボジイミド系縮合剤を予め混合させ攪拌する時間は、当該反応時間に含まれる。
本発明の縮合反応で製造される化合物(XI)は、常法によって単離、精製することができる。例えば反応液を水に注いだ後に、分液し、有機層を洗浄、減圧濃縮することによって、化合物(XI)を単離することができる。単離後、例えばシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付して精製することもできるが、これに限定されるものではない。
工程(g)の縮合反応の原料であるN−ホルミル−L−ロイシンは、L−ロイシンをホルミル酢酸等の通常のホルミル化剤と反応させることにより製造することができ、また市販品を使用してもよい。
工程(g)の縮合反応の原料である化合物(VIII)は、公知の方法、例えば、Chem.Commun.,1999,1743−1744、Tetrahedron lettrs,31(25),3645−3648,1990またはJ.Chem.Soc.Perkin Trans.1,17,2679−2686,1998等に記載の方法によって製造することができるが、効率的に化合物(VIII)を製造することから、上記[7]〜[9]のいずれかに記載の方法によって製造された化合物(VIII)を使用することが好ましい。
12.工程(h)〜工程(j)
工程(h)〜工程(j)は、Chem.Commun.,1999,1743−1744、Tetrahedron lettrs,31(25),3645−3648,1990またはJ.Chem.Soc.Perkin Trans.1,17,2679−2686,1998等に記載されているものと同様の方法であるが、工程(h)において、反応温度を厳密に制御せずとも、ベンジルオキシカルボニルアミノ基のエピメリ化が進行しにくいため、上記[7]〜[9]の何れかの方法によって製造された化合物(VIII)を(−)−テトラヒドロリプスタチンに導く有効な反応経路の一つとなり得る。
12−1.工程(h)
工程(h)は、例えば溶媒中、化合物(VIII)とN−ベンジルオキシカルボニル−L−ロイシンとを、カルボジイミド系縮合剤及び3級アミンの存在下縮合させて、化合物(IX)を得る方法である。
工程(h)の縮合反応においては、試薬の添加順序に特に限定はなく、化合物(VIII)および各試薬を同時または順次添加すればよいが、操作性の観点からは、溶媒中、化合物(I)、N−ベンジルオキシカルボニル−L−ロイシン及びカルボジイミド系縮合剤を予め混合することによりN−ベンジルオキシカルボニル−L−ロイシンとカルボジイミド系縮合剤との付加体を形成した後に、3級アミンを添加するのが好ましい。この場合において、当該付加体を充分形成させるために、3級アミンを添加する前に、化合物(VIII)、N−ベンジルオキシカルボニル−L−ロイシン及びカルボジイミド系縮合剤の混合物を攪拌するのが好ましい。当該攪拌の時間は特に限定されないが、付加体を充分形成させるためには、通常10分以上であり、15分間〜120分間が好ましく、20分間〜60分間がより好ましい。
工程(h)に使用されるN−ベンジルオキシカルボニル−L−ロイシンの使用量は、化合物(VIII)1モルに対して1.1モル〜5モルが好ましく、1.5モル〜3モルがより好ましい。N−ベンジルオキシカルボニル−L−ロイシンの使用量がこの範囲より少ないと反応が完結しにくくなり、この範囲を越えた場合、使用量に見合う効果が少なくなり、経済的に不利になる傾向があるため好ましくない。
工程(h)で使用されるカルボジイミド系縮合剤としては特に限定はされず、例えば、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド等が挙げられ、好ましくはN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドが挙げられ、特にN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミドが好ましい。
カルボジイミド系縮合剤の使用量は、化合物(VIII)1モルに対して1.1モル〜5モルが好ましく、1.5モル〜3モルがより好ましい。カルボジイミド系縮合剤の使用量がこの範囲より少ないと反応が完結しにくくなり、この範囲を越えた場合、使用量に見合う効果が少なくなり、また縮合剤との精製が困難になる傾向があるため好ましくない。
工程(h)で使用される3級アミンとしては特に限定はなく、例えば、トリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、N−メチルモルホリン、ピリジン、N−メチルイミダゾール、2−ジメチルアミノピリジンまたは化合物(A)(例えば、4−ピロリジノピリジン、4−ジメチルアミノピリジン等)等が挙げられ、好ましくは2−ジメチルアミノピリジンまたは化合物(A)が挙げられ、特に4−ピロリジノピリジンまたは4−ジメチルアミノピリジンが好ましい。
3級アミンの使用量は、化合物(VIII)1モルに対して0.005モル〜0.5モルが好ましく、0.01モル〜0.1モルがより好ましい。3級アミンの使用量がこの範囲より少ないと反応が遅くなる傾向があるため効率が悪くなり、この範囲を越えた場合、使用量に見合う効果が少なく経済的に不利になりやすい。
工程(h)の縮合反応に使用される溶媒としては、当該反応を阻害しないものであればよく、例えば塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン、α,α,α−トリフルオロトルエン等のハロゲン系溶媒、メチルtert−ブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸tert−ブチル、トルエン、キシレン、アセトニトリル等を単独または混合して使用することができる。混合溶媒とする場合には、任意の割合で混合すればよい。
溶媒の使用量としては、化合物(VIII)1kgに対して通常1L〜30Lであり、より好ましくは3L〜15Lである。
反応時間は、用いられる試薬や反応温度にも依存するが、通常0.5時間〜5時間である。反応温度は、通常−30℃〜20℃、好ましくは−20℃〜0℃である。なお、上述の化合物(VIII)、N−ベンジルオキシカルボニル−L−ロイシン及びカルボジイミド系縮合剤を予め混合させ攪拌する時間は、当該反応時間に含まれる。
工程(h)の縮合反応で製造される化合物(IX)は、常法によって単離、精製することができる。例えば反応液を水に注いだ後に、分液し、有機層を洗浄、減圧濃縮することによって、化合物(IX)を単離することができる。単離後、例えばシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付して精製することもできるが、これに限定されるものではない。
12−2.工程(i)
工程(i)は、化合物(IX)のベンジルオキシカルボニル基を脱保護して、化合物(X)またはその塩を得る方法であり、例えば溶媒中、化合物(IX)を接触還元反応に付することにより行うことができる。
当該接触還元反応で用いうる溶媒としては、本反応を阻害しない溶媒であればいずれでもよく、例えばエタノール、メタノール、2−プロパノール、酢酸エチル、THF、n−ヘキサン、n−ペンタン等を単独または混合して使用することができ、好ましくはTHFである。混合溶媒とする場合には、任意の割合で混合すればよい。溶媒の使用量は、化合物(IX)1kgに対して、通常2L〜15Lであり、好ましくは3L〜10Lである。
工程(i)の水素圧は、通常1kgf/cm〜5kgf/cmである。水素圧がこの範囲より低いと反応速度が遅くなり、高いと特別な耐圧装置が必要となるため好ましくない。
工程(i)に用いられる触媒としては、例えばパラジウム炭素、水酸化パラジウム等が挙げられ、パラジウム炭素が好ましい。当該触媒の使用量は、化合物(IX)に対して、通常0.1〜20重量%、好ましくは1〜8重量%である。
工程(i)の反応温度は、通常10℃〜60℃、好ましくは20℃〜50℃の範囲である。反応時間は、用いられる試薬や反応温度、圧力にも依存するが、通常2時間〜5時間である。
工程(i)により得られる化合物(X)の単離精製は常法で行うことができる。例えば、反応終了後、濾過等により触媒を除去し、濃縮することにより、化合物(X)を単離することができる。さらに、これに晶析溶媒(例えば、n−ヘプタン、n−ヘキサン、n−ペンタンなど)等を加えて晶析させるか、あるいはシリカゲルカラムクラマトグラフィーに付すことにより、化合物(X)を精製することができる。
12−3.工程(j)
工程(j)は、化合物(X)をホルミル化反応に付して、化合物(XI)を得る方法である。当該ホルミル化反応は、公知の方法(例えば、T.W.Greene et al,Protective Groups in Organic Synthesis,2nd Ednの349〜350頁に列挙された方法)により行うことができるが、ラセミ化が最小限に抑えられ、副生成物も少なく抑えられるため、例えば、溶媒中化合物(X)とギ酸とを、カルボジイミド系縮合剤及び3級アミンの存在下縮合させて、化合物(XI)を得る方法が好ましい態様として挙げられる。以下、当該態様について説明するが、工程(j)はこれに限定されるものではない。
当該縮合反応においては、試薬の添加順序に特に限定はなく、化合物(X)および各試薬を同時または順次添加すればよい。
ギ酸の使用量は、化合物(X)1モルに対して2.2モル〜5.0モルが好ましく、4.0モル〜4.5モルがより好ましい。ギ酸の使用量がこの範囲より少ないと反応が完結しにくくなり、この範囲を越えた場合、使用量に見合う効果が少なくなり、経済的に不利になる傾向があるため好ましくない。
カルボジイミド系縮合剤としては特に限定はされず、例えば、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド等が挙げられ、好ましくはN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドが挙げられ、特にN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミドが好ましい。
カルボジイミド系縮合剤の使用量は、化合物(X)1モルに対して1.1モル〜3モルが好ましく、2モル〜2.5モルがより好ましい。カルボジイミド系縮合剤の使用量がこの範囲より少ないと反応が完結しにくくなり、この範囲を越えた場合、使用量に見合う効果が少なくなり、また縮合剤との分離が困難になる傾向があるため好ましくない。
使用される3級アミンとしては特に限定はなく、例えば、トリエチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、N−メチルモルホリン、ピリジン、N−メチルイミダゾール、2−ジメチルアミノピリジン、4−ピロリジノピリジン、4−ジメチルアミノピリジン等が挙げられ、好ましくはピリジンが挙げられる。
3級アミンの使用量は、化合物(X)1モルに対して1モル〜5モルが好ましく、2モル〜4モルがより好ましい。3級アミンの使用量がこの範囲より少ないと反応が遅くなる傾向があるため効率が悪くなり、この範囲を越えた場合、使用量に見合う効果が少なく経済的に不利になりやすい。
当該縮合反応に使用される溶媒としては、当該反応を阻害しないものであればよく、例えば塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン、α,α,α−トリフルオロトルエン等のハロゲン系溶媒、メチルtert−ブチルエーテル、12−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸tert−ブチル、トルエン、キシレン、アセトニトリル等を単独または混合して使用することができる。混合溶媒とする場合には、任意の割合で混合すればよい。
溶媒の使用量としては、化合物(X)1kgに対して通常1L〜15Lであり、より好ましくは3L〜10Lである。
反応時間は、用いられる試薬や反応温度にも依存するが、通常0.5時間〜5時間である。反応温度は、通常−20℃〜20℃、好ましくは−5℃〜10℃である。
工程(j)で製造される化合物(XI)は、常法によって単離、精製することができる。例えば反応液を水に注いだ後、酸性水(例えば、クエン酸水溶液等)、アルカリ性水溶液(例えば、重曹水溶液等)または食塩水等で順次洗浄し、分液後、有機層を洗浄、減圧濃縮することによって、化合物(XI)を単離することができる。単離後、例えばシリカゲルカラムクロマトグラフィーまたは結晶化等に付して精製することもできるが、これに限定されるものではない。
【実施例】
以下、本発明について、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
なお、以下の実施例において見掛け収率とは、得られた得量が全て目的の化合物であると仮定し、目的化合物の分子量で割って得られたモル数をもとに算出した収率のことをいう。
参考例1:3−オキソテトラデカン酸エチル
無水塩化マグネシウム(47.9g,0.50mol)をTHF(400mL)に懸濁させ、マロン酸エチルカリウム(77.8g,0.46mol)を添加した。その後、DMF(20mL)、トリエチルアミン(69.4g,0.69mol)を滴下し、35〜50℃で1時間攪拌した。これにドデカノイルクロリド(50.0g,0.23mol)を25〜35℃で滴下し、3時間反応させた。35%塩酸(92.9g)を水(300mL)で希釈し、得られた反応溶液に滴下し、抽出した。その後、飽和重曹水及び15%塩化ナトリウム水溶液で洗浄して、得られた有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水濾過後、濃縮して表題化合物(61.3g)を得た。収率98%
参考例2:(S)−3−ヒドロキシテトラデカン酸エチル
乾燥した容器にアルゴン雰囲気下、ベンゼンルテニウム(II)クロリドダイマー(122.4mg,0.2447mmol)、(S)−BINAP(335.2mg,0.5383mmol)、DMF(15mL,モレキュラーシーブ4Aで乾燥後、蒸留)を仕込み、100℃で10分間加熱攪拌してRuCl(C)(S)−BINAPのDMF溶液を調製した。
3−オキソテトラデカン酸エチル(20.0g,74.0mmol)をエタノール(25mL)に溶解し、アルゴン脱気を行い、アルゴン置換した200mL容量のオートクレーブに入れ、上記で調製したRuCl(C)(S)−BINAPのDMF溶液を仕込み、水素圧5kgf/cm、反応温度100℃で3時間攪拌して不斉水素化反応を行った。反応終了後、反応溶液を濾過、メチルtert−ブチルエーテル(MTBE,120mL)を加え、水(30mL)で2回洗浄した。有機層を濃縮することにより、光学純度87%e.e.の表題化合物(20.0g)を得た。この表題化合物(19.5g)をMTBE溶液中で活性炭処理した後、n−ヘプタン(70mL)により再結晶することにより、光学純度98%e.e.の表題化合物(9.5g)を得た。収率47%
参考例3:(S)−3−ベンジルオキシテトラデカン酸エチル
(S)−3−ヒドロキシテトラデカン酸エチル(8g,29.37mmol)、ベンズアルデヒド(9.35g,88.11mmol)をTHF(150mL)に溶解し、0〜5℃に冷却した。これに、ヘキサメチルジシロキサン(28.60g,176.13mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリルエステル(3.2g,14.40mmol)を加え1.5時間攪拌した。その後、トリエチルシラン(12.09g,103.97mmol)を加え0〜5℃で終夜反応を行った。得られた反応溶液に飽和重曹水(30mL)、酢酸エチル(50mL)を加えて中和、抽出し、水層を酢酸エチル(30mL)で再度抽出した。有機層を合わせて15%塩化ナトリウム水溶液(50mL)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮して表題化合物の粗抽出物(22.8g、ヘキサメチルジシロキサン重合物等を含む)を得た。
参考例4:(S)−3−ベンジルオキシテトラデカン酸
参考例3で得られた(S)−3−ベンジルオキシテトラデカン酸エチルの粗抽出物(22.8g)をメタノール(30mL)に溶解し、10%水酸化カリウム水溶液(22.5g)を添加し、50℃で5時間攪拌した。反応終了後、酢酸を加えてpH6とし、メタノールを留去した。その後、MTBE(50mL)を用いて抽出し、水(20mL)で洗浄し、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを濾過後、濃縮してシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;n−ヘプタン:酢酸エチル=95:5)により精製して淡黄色透明の液体として表題化合物(7.61g)を得た。収率77.5%(参考例3の(S)−3−ヒドロキシテトラデカン酸エチルからの収率)
実施例1:(S)−5−ベンジルオキシ−3−オキソヘキサデカン酸エチル
(S)−3−ベンジルオキシテトラデカン酸(7.60g,22.72mmol)をTHF(15ml)に溶解し、カルボニルジイミダゾール(4.42g,27.27mmol)のTHF(10mL)懸濁液に−5〜0℃で滴下し、そのまま1.5時間攪拌した。これを、無水塩化マグネシウム(2.92g,30.67mmol)のTHF(30mL)溶液にマロン酸エチルカリウム(5.80g,34.08mmol)を加え1時間攪拌した混合物に0〜5℃で滴下し、室温で5時間反応させた。得られた反応溶液に飽和塩化アンモニウム水溶液(30mL)、トルエン(50mL)を加え抽出し、有機層を15%塩化ナトリウム水溶液(50mL)で洗浄して無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを濾過後、濃縮してシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;n−ヘプタン:酢酸エチル=95:5)により精製して無色透明の液体として表題化合物(7.92g)を得た。収率86.2%
H−NMR(CDCl,δ ppm):0.88(t,3H,J=7Hz),1.20−1.43(m,21H),1.45−1.63(m,2H),2.62(dd,1H,J=16Hz,J=5Hz),2.66(dd,1H,J=16Hz,J=8Hz),3.46(s,2H),3.90−3.96(m,1H),4.18(q,2H,J=7Hz),4.48(d,1H,J=12Hz),4.53(d,1H,J=12Hz),7.25−7.35(m,5H).
実施例2:(3S,5S)−5−ベンジルオキシ−3−ヒドロキシヘキサデカン酸エチル
乾燥した容器にアルゴン雰囲気下、ベンゼンルテニウム(II)クロリドダイマー(104.6mg,0.21mmol)、(S)−BINAP(266.9mg,0.43mmol)、DMF(10mL,モレキュラーシーブ4Aで乾燥後、蒸留)を仕込み、100℃で10分間加熱攪拌後、冷却してRuCl(C)(S)−BINAPのDMF溶液を調製した。
(S)−5−ベンジルオキシ−3−オキソヘキサデカン酸エチル(5.4g,13.35mmol)をエタノール(30mL)に溶解し、アルゴン脱気を行い、あらかじめアルゴン置換された200mL容量のオートクレーブに入れた。
これに、前述のRuCl(C)(S)−BINAPのDMF溶液を加え、水素圧5kgf/cm、反応温度100℃で3時間攪拌して不斉水素化反応を行った。反応終了後、反応溶液を濾過しMTBE(100mL)を加え、水(30mL)で2回洗浄した。有機層を濃縮した残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;n−ヘプタン:MTBE=70:30)により精製し、淡黄色透明の液体として表題化合物(5.36g)を得た。収率98.8%
これをHPLCにより分析を行った結果、3,5−syn−ジオール体の選択率は96%d.e.であった。
HPLC分析条件;カラム:CHIRALCEL OD 4.6×250mm,移動相:A ヘキサン,B 20%2−プロパノール/ヘキサン,A/B=87.5/12.5,流量:0.5mL/min,検出器:UV254nm.
H−NMR(CDCl,δppm);0.88(t,3H,J=7Hz),1.20−1.85(m,25H),2.41(dd,1H,J=16Hz,J=5Hz),2.47(dd,1H,J=16Hz,J=8Hz),3.65−3.71(m,1H),3.75(d,1H),4.15(q,2H,J=7Hz),4.14−4.25(m,1H),4.45(d,1H,J=12Hz),4.61(d,1H,J=12Hz),7.25−7.36(m,5H).
参考例5:(S)−3−ベンジルオキシテトラデカン酸エチル
(S)−3−ヒドロキシテトラデカン酸エチル(7.0g,25.70mmol)、ベンジル2,2,2−トリクロロアセトイミデート(7.25g,28.72mmol)をシクロヘキサン(35mL)に溶解した。これに、トリフルオロメタンスルホン酸(0.34mL,3.84mmol)を室温で滴下した。その後、25〜30℃で3時間、さらにベンジル2,2,2−トリクロロアセトイミデート(3.42g,13.55mmol)を加え1時間反応を行った。反応終了後、沈殿物を濾過して得られた溶液を飽和重曹水(30mL)、15%塩化ナトリウム水溶液(30mL)で洗浄し無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを濾過後、溶液を濃縮して表題化合物の粗抽出物(10.45g)を得た。
実施例3:(S)−5−ベンジルオキシ−3−オキソヘキサデカン酸tert−ブチルの合成
リチウムビストリメチルシリルアミド(1.0MTHF溶液,54mL,54.0mmol)を窒素雰囲気下、THF(50mL)に希釈して−60℃に冷却した。これに−60〜−50℃で酢酸tert−ブチル(5.97g,51.40mmol)をTHF(10mL)で希釈した溶液を滴下し30分間攪拌した。その後、参考例5で得られた(S)−3−ベンジルオキシテトラデカン酸エチルの粗抽出物(5.23g)をTHF(10mL)に溶解した溶液を−40℃で滴下し、1時間反応を行った。反応終了後、水(30mL)、トルエン(70mL)を加えて10℃まで昇温し分液後、有機層を15%塩化ナトリウム水溶液(30mL)で2回洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを濾過後、濃縮して得られた橙色透明の液体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;n−ヘプタン:酢酸エチル=95:5)により精製し、淡黄色透明の液体として表題化合物(3.42g,7.9mmol)を得た。収率61.5%(参考例5の(S)−3−ヒドロキシテトラデカン酸エチルからの収率)
H−NMR(CDCl,δppm);0.88(t,3H,J=7Hz),1.20−1.65(m,20H),1.46(s,9H),2.64(dd,1H,J=16Hz,J=4Hz),2.83(dd,1H,J=16Hz,J=7Hz),3.37(s,2H),3.88−3.95(m,1H),4.45−4.57(m,2H),7.25−7.37(m,5H).
実施例4:(3S,5S)−5−ベンジルオキシ−3−ヒドロキシヘキサデカン酸tert−ブチル
乾燥した容器にアルゴン雰囲気下、ベンゼンルテニウムクロリドダイマー(19.27mg,0.039mmol)、(S)−BINAP(52.77mg,0.085mmol)、DMF(3mL,モレキュラーシーブ4Aで乾燥後、蒸留)を仕込み、100℃で10分間加熱攪拌した。その後、室温まで冷却したRuCl(C)(S)−BINAPのDMF溶液をそのまま水素化反応に用いた。
(S)−5−ベンジルオキシ−3−オキソヘキサデカン酸tert−ブチル(1.0g,2.30mmol)をエタノール(20mL)に溶解し、アルゴン脱気を行い、あらかじめアルゴン置換された200mL容量のオートクレーブに入れた。
これに、前述のRuCl(C)(S)−BINAPのDMF溶液を加え、水素圧5kgf/cm、反応温度100℃で3時間攪拌して水素化反応を行った。反応終了後、反応溶液を濾過しトルエン(30mL)を加え、水(10mL)で2回洗浄した。有機層を濃縮した残渣をn−ヘプタンで希釈して濾過した後濃縮し、淡黄色透明の液体として表題化合物(0.97g,収率96.6%)を得た。このものをHPLCにより分析を行った結果、3,5−syn−ジオール体の選択率は97%d.e.であった。
HPLC分析条件;カラム:CHIRALCEL OD 4.6×250mm,移動相:A ヘキサン,B 20%2−プロパノール/ヘキサン,A/B=97/3,流量:0.5ml/min,検出器:UV254nm.
H−NMR(CDCl,δppm);0.88(t,3H,J=7Hz),1.20−1.85(m,22H),1.45(s,9H),2.33(dd,1H,J=16Hz,J=5Hz),2.40(dd,1H,J=16Hz,J=7Hz),3.63−3.72(m,1H),3.69(s,1H),4.10−4.18(m,1H),4.45(d,1H,J=11Hz),4.59(d,1H,J=11Hz),7.26−7.36(m,5H).
参考例6:(S)−3−ベンジルオキシテトラデカン酸
参考例5で得られた(S)−3−ベンジルオキシテトラデカン酸エチルの粗抽出物(5.23g)をメタノール(15mL)に溶解し、10%水酸化カリウム水溶液(11.1g)を添加し、50℃で5時間攪拌した。反応終了後、メタノールを留去し、酢酸を加えてpH6とした。その後、MTBE(50mL)を用いて抽出し、水(20mL)で2回洗浄し、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを濾過後、濃縮してシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;n−ヘプタン:酢酸エチル=95:5)により精製し、淡黄色透明の液体として表題化合物(3.63g)を得た。収率84.4%(参考例5の(S)−3−ヒドロキシテトラデカン酸エチルからの収率)
実施例5:(S)−5−ベンジルオキシ−3−オキソヘキサデカン酸エチル
参考例6で得られた(S)−3−ベンジルオキシテトラデカン酸(1.00g,2.99mmol)をアセトニトリル(10mL)に溶解し、1−メチルイミダゾール(0.74g,8.97mmol)を加え、0〜5℃に冷却した。その後p−トルエンスルホニルクロリド(0.68g,3.59mmol)を0〜5℃で添加し、そのまま1時間攪拌した。これを、無水塩化マグネシウム(0.63g,6.58mmol)のアセトニトリル(10mL)溶液にマロン酸エチルカリウム(1.02g,5.98mmol)を加え1時間攪拌した混合物に0〜5℃で滴下し、室温で4時間反応させた。得られた反応溶液に飽和塩化アンモニウム水溶液(15mL)、トルエン(20mL)を加え抽出し、有機層を15%塩化ナトリウム水溶液(20mL)で洗浄して無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを濾過後、濃縮してシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;n−ヘプタン:酢酸エチル=95:5)により精製して表題化合物(0.61g)を得た。収率50.4%
実施例6:(S)−5−ベンジルオキシ−3−オキソヘキサデカン酸エチル
参考例4と同様の方法で得られた(S)−3−ベンジルオキシテトラデカン酸(1.00g,2.99mmol)をトルエン(8mL)に溶解し、オキザリルクロリド(0.44g,3.44mmol)を室温で滴下し、1時間攪拌した。その後反応液を濃縮し、THF(10mL)で希釈した溶液を、無水塩化マグネシウム(0.63g,6.58mmol)のTHF(10mL)溶液にマロン酸エチルカリウム(1.02g,5.98mmol)を加え、さらにトリエチルアミン(0.91g,8.97mmol)を滴下し1時間攪拌した混合物に20〜30℃で滴下し、室温で3時間反応させた。得られた反応溶液に飽和塩化アンモニウム水溶液(15mL)、トルエン(20mL)を加え抽出し、有機層を15%塩化ナトリウム水溶液(20mL)で洗浄して無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを濾過後、濃縮して表題化合物(1.01g)を得た。収率83.5%((S)−3−ベンジルオキシテトラデカン酸からの収率)
実施例7:(3S,5S)−5−ベンジルオキシ−3−ヒドロキシヘキサデカン酸エチル
乾燥した容器にアルゴン雰囲気下、ジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)ルテニウム(II)ポリマー(13.85mg,0.049mmol)、(S)−BINAP(35.40mg,0.057mmol)、トリエチルアミン(71.52mg,0.707mmol)、トルエン(1.5mL、モレキュラーシーブ4Aで乾燥後、蒸留)を仕込み、還流下4時間加熱攪拌した。その後、溶媒を減圧留去し、残渣をTHF(10mL)に溶解した溶液をそのまま水素化反応に用いた。
(S)−5−ベンジルオキシ−3−オキソデカン酸エチル(1.0g,2.47mmol)をエタノール(20mL)に溶解し、アルゴン脱気を行い、あらかじめアルゴン置換された200mLの容量のオートクレーブに入れた。
これに、前述のRuCl[(S)−BINAP]・EtNのTHF溶液を加え、水素圧5kgf/cm、反応温度100℃で3時間攪拌して水素化反応を行った。反応終了後、反応溶液を濾過し、有機層を濃縮した残渣をn−ヘプタン(20mL)に溶解して析出した不溶物を濾過した。得られた溶液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;n−ヘプタン:酢酸エチル=95:5)により精製し、淡黄色透明の液体として表題化合物(0.82g)を得た。収率81.6%
このものをHPLCにより分析を行った結果、3,5−syn体の選択率は98%d.e.であった。
HPLC分析条件;カラム:CHIRALCEL OD 4.6×250mm,移動相:A ヘキサン,B 20%2−プロパノール/ヘキサン,A/B=87.5/12.5,流量:0.5ml/min,検出器:UV254nm.
参考例7:(S)−3−ヒドロキシテトラデカン酸
参考例2と同様な方法で得られた(S)−3−ヒドロキシテトラデカン酸エチル(10g,36.7mmol)をメタノール(80mL)に溶解し、水酸化ナトリウム(2.2g,55mmol)、水(200mL)を添加し、室温で1.5時間攪拌した。反応終了後、35%塩酸を加え、pH2とした。析出した結晶を濾過し、これをn−ヘプタン(30mL)で再結晶を行なうことにより、白色結晶をして表題化合物(5.8g)を得た。収率64%
実施例8:(S)−5−ヒドロキシ−3−オキソヘキサデカン酸エチル
参考例7で製造された(S)−3−ヒドロキシテトラデカン酸(1.0g,4.09mmol)をTHF(5mL)に溶解し、カルボニルジイミダゾール(0.80g,4.91mmol)のTHF(5mL)懸濁液に−5〜0℃で滴下し、そのまま1.5時間攪拌した。これを、無水塩化マグネシウム(0.86g,9.00mmol)のTHF(10mL)溶液にマロン酸エチルカリウム(1.39g,8.18mmol)を加え1時間攪拌した混合物に0〜5℃で滴下し、室温で終夜反応させた。得られた反応溶液に飽和塩化アンモニウム水溶液(30mL)、トルエン(50mL)を加え抽出し、有機層を15%塩化ナトリウム水溶液(50mL)で洗浄して無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを濾過後、濃縮してシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;n−ヘプタン:酢酸エチル=95:5)により精製し、白色結晶として表題化合物(0.99g)を得た。収率77.0%
H−NMR(CDCl,δppm);0.88(t,3H,J=7Hz),1.20−1.60(m,23H),2.60−2.76(m,2H),3.47(s,2H),4.02−4.11(m,1H),4.19(q,2H,J=7Hz).
実施例9:(5S)−5−(3,4,5,6−テトラヒドロピラン−2−イルオキシ)−3−オキソヘキサデカン酸エチル
(S)−5−ヒドロキシ−3−オキソヘキサデカン酸エチル(0.99g,3.15mmol)をジクロロメタン(5mL)に溶解し、0〜5℃に冷却した。3,4−ジヒドロ−2H−ピラン(0.32g,3.78mmol)、p−トルエンスルホン酸ピリジニウム(15.8mg,0.063mmol)を加え、徐々に昇温して室温で2時間反応した。反応終了後、飽和重層水(3mL)で中和分液し、続いて15%食塩水により洗浄を行い、得られた有機層を無水硫酸ナトリウムにより乾燥した。硫酸ナトリウムを濾過後、濃縮してシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;n−ヘプタン:酢酸エチル=95:5)により精製して微黄色液体として表題化合物(0.88g)を得た。収率70.0%
H−NMR(CDCl,δppm);0.88(t,3H,J=7Hz),1.20−1.80(m,29H),2.56−2.64(m,1H),2.72−2.92(m,1H),3.36−3.54(m,3H),3.47(s,1H),3.53(s,1H),3.78−3.92(m,1H),4.06−4.13(m,1H),4.19(q,2H,J=7Hz),4.54,4.65(t−like,each0.5H,J=5Hz).
実施例10:(2S,3S,5S)−5−ベンジルオキシ−2−(2’−ヘキセニル)−3−ヒドロキシヘキサデカン酸エチル
−50℃に冷却したリチウムジイソプロピルアミドのTHF溶液(26重量%,76.0g,184.5mmol)に、実施例2と同様の方法で合成した(3S,5S)−5−ベンジルオキシ−3−ヒドロキシヘキサデカン酸エチル(25g,61.5mmol(純度換算値19.75g,48.6mmol))のTHF(25ml)溶液を、窒素雰囲気下、−70〜−50℃で滴下し、−70〜−65℃で1時間攪拌し、その後1.5時間で−10℃とした。続いて溶液を−65℃に冷却し、1−ブロモ−2−ヘキセン(37.5g,230.0mmol)、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン(17.6g,153.7mmol)を滴下し、−70〜−65℃で1.5時間、−20℃で8時間反応を行った。反応終了後、飽和塩化アンモニウム水溶液(200g)、酢酸エチル(100ml)を加え抽出した。水層は再度酢酸エチル(100ml)で2回抽出した。有機層を合わせて15%食塩水(100ml)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを濾過後、濃縮して表題化合物の粗抽出物(48.8g,見掛け収率162%)を得た。この粗抽出物の含量をHPLCで測定し(絶対検量線法)、収率を求めたところ、80.6%であった。
H−NMR(CDCl,δppm);7.25−7.35(m,5H),5.43−5.51(m,1H),5.28−5.36(m,1H),4.59(d,1H,J=11Hz),4.44(d,1H,J=11Hz),4.15(q,2H,J=7Hz),3.88−3.94(m,1H),3.63−3.69(m,1H),3.56(d,1H,J=4Hz),2.43−2.48(m,1H),2.26−2.38(m,2H),1.94(q,2H,J=7Hz),1.67−1.73(m,2H),1.53−1.62(m,2H),1.23−1.39(m,23H),0.85−0.90(m,6H).
実施例11:(3S,4S)−3−ヘキシル−4−[(S)−2’−ヒドロキシトリデシル]−2−オキセタノン
(a)(2S,3S,5S)−5−ベンジルオキシ−2−(2’−ヘキセニル)−3−ヒドロキシヘキサデカン酸
実施例10で得られた粗製の(2S,3S,5S)−5−ベンジルオキシ−2−(2’−ヘキセニル)−3−ヒドロキシヘキサデカン酸エチル(48.8g)をエタノール(150ml)に溶解し、水酸化ナトリウム(3.9g,97.2mmol)、水(100ml)を加え、50〜60℃で4時間反応した。反応終了後、反応液を濃縮して水(100ml)で希釈し、10%塩酸水で中和しpH6とした。その後、酢酸エチル(100ml)で3回抽出し、有機層を10%食塩水(100ml)で洗浄して、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを濾過後濃縮し、褐色の液体として(2S,3S,5S)−5−ベンジルオキシ−2−(2’−ヘキセニル)−3−ヒドロキシヘキサデカン酸(32.5g,見掛け収率74.5%)の粗抽出物を得た。
この粗抽出物(11.4g)をn−ヘプタン(50ml)に溶解し、トリエタノールアミン(11g)、メタノール(11ml)、水(11ml)を加え攪拌した。攪拌後分液し、水層をn−ヘプタン(30ml)で洗浄した。水層にn−ヘプタン(50ml)、10%塩酸水(30g)を加え中和抽出して有機層を水(30ml)で洗浄した後、有機層に無水硫酸マグネシウム、活性炭を加え攪拌した。硫酸マグネシウム、活性炭を濾過して濃縮し、橙色透明の液体として(2S,3S,5S)−5−ベンジルオキシ−2−(2’−ヘキセニル)−3−ヒドロキシヘキサデカン酸(7.14g,見掛け収率62.5%)を得た。
H−NMR(CDCl,δppm);7.25−7.37(m,5H),5.46−5.56(m,1H),5.32−5.42(m,1H),4.67(d,1H,J=11Hz),4.42(d,1H,J=11Hz),3.95−3.40(m,1H),3.70−3.78(m,1H),2.42−2.52(m,1H),2.36−2.42(m,2H),1.96(q,2H,J=7Hz),1.50−1.82(m,4H),1.23−1.39(m,20H),0.85−0.92(m,6H).
(b)(3S,4S)−3−(2’−ヘキセニル)−4−[(S)−2”−ベンジルオキシトリデシル]−2−オキセタノン
(a)で得られた(2S,3S,5S)−5−ベンジルオキシ−2−(2’−ヘキセニル)−3−ヒドロキシヘキサデカン酸(7.14g)を無水ピリジン(21ml)に溶解し、0℃に冷却した。これに、ベンゼンスルホニルクロリド(5.7g,32.4mmol)を滴下し、0℃で終夜反応した。反応終了後n−ヘプタン(50ml)、水(50ml)を加え抽出し、有機層を水(50ml)で洗浄した後、シリカゲル、活性炭を加え攪拌した。シリカゲル、活性炭を濾過した後濃縮し、橙色透明の液体として(3S,4S)−3−(2’−ヘキセニル)−4−[(S)−2”−ベンジルオキシトリデシル]−2−オキセタノン(4.93g,見掛け収率71.9%)を得た。
H−NMR(CDCl.δppm);7.23−7.37(m,5H),5.48−5.58(m,1H),5.30−5.40(m,1H),4.53(d,1H,J=11Hz),4.43(d,1H,J=11Hz),4.40−4.50(m,1H),3.50−3.56(m,1H),3.30−3.36(m,1H),2.36−2.42(m,2H),2.12−2.20(m,1H),1.90−2.00(m,3H),1.45−1.70(m,2H),1.23−1.40(m,20H),0.85−0.90(m,6H).
(c)(3S,4S)−3−ヘキシル−4−[(S)−2’−ヒドロキシトリデシル]−2−オキセタノン
(b)で得られた(3S,4S)−3−(2’−ヘキセニル)−4−[(S)−2”−ベンジルオキシトリデシル]−2−オキセタノン(4.90g)を酢酸エチル(50ml)に溶解して5%Pd炭素(0.75g)を加え、常圧、室温下で3日間水素化反応を行った。反応終了後、Pd炭素を濾過し、濃縮し、残渣をn−ヘプタン(20ml)で再結晶して白色結晶の表題化合物(2.10g,見掛け収率53.2%)を得た。
H−NMR(CDCl,δppm);4.47(dt,1H,J=6Hz,J=4Hz),3.78(m,1H),3.31(ddd,1H,J=9Hz,J=7Hz,J=4Hz),1.20−2.05(m,33H),0.86−0.90(m,6H).
実施例12:(2S,3S,5S)−5−ベンジルオキシ−2−ヘキシル−3−ヒドロキシヘキサデカン酸エチル
−60℃に冷却したリチウムジイソプロピルアミドのTHF溶液(26重量%,152.3g,369.7mmol)に、実施例2と同様の方法で製造した(3S,5S)−5−ベンジルオキシ−3−ヒドロキシヘキサデカン酸エチル(50.0g,123.2mmol)のTHF(1ml)溶液を、窒素雰囲気下で滴下し、−10℃まで1.5時間で昇温した。溶液を−20℃に冷却し、ヨウ化n−ヘキシル(78.4g,369.7mmol)、ヘキサメチルリン酸トリアミド(64.1g,357.4mmol)を滴下し、45分で0℃に、ついで1時間で15℃に昇温した。その後、15℃〜25℃で16時間反応を行った。反応終了後、飽和塩化アンモニウム水溶液(100g)、水(80g)、酢酸エチル(45ml)を加え抽出した。水層は再度酢酸エチル(70ml)で2回抽出した。有機層を合わせて5%食塩水(90g)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを濾過後、濃縮して表題化合物の粗抽出物(70.5g,見掛け収率117.1%)を得た。この粗抽出物の含量をHPLCで測定し(絶対検量線法)、収率を求めたところ、72.5%であった。
H−NMR(CDCl,δppm);7.26−7.35(m,5H),4.60(d,1H,J=11Hz),4.43(d,1H,J=11Hz),4.18(q,2H,J=7Hz),3.86−3.91(m,1H),3.64−3.68(m,1H),3.62(d,1H,J=4Hz),2.40(ddd,1H,J=10Hz,J=6Hz,J=4Hz),1.20−1.71(m,35H),0.85−0.90(m,6H).
13C−NMR(CDCl,δppm);14.16,14.24,14.43,22.65,22.79,27.56,28.78,29.29,29.43,29.69,29.71,29.74,29.92,31.72,31.99,33.47,38.70,51.80,60.29,70.56,71.91,79.07,127.50,127.63,128.24,137.94,174.76.
IR(film);ν=3504,2929,2855,1734,1496,1376,1094(cm−1).
実施例13:(3S,4S)−3−ヘキシル−4−[(S)−2’−ヒドロキシトリデシル]−2−オキセタノン
(a)(2S,3S,5S)−5−ベンジルオキシ−2−ヘキシル−3−ヒドロキシヘキサデカン酸
実施例12で得られた(2S,3S,5S)−5−ベンジルオキシ−2−ヘキシル−3−ヒドロキシヘキサデカン酸エチル(70.5g)をエタノール(240ml)に溶解し、水酸化ナトリウム(9.9g,246.5mmol)、水(240ml)を加え、50〜60℃で4時間攪拌した。その後水を加え更に4時間攪拌した。反応終了後、反応液を濃縮してn−ヘプタン(120ml)、10%塩酸(320g)を加えpHを3として中和抽出した。水層は再度n−ヘプタン(60ml)で抽出し、有機層を合わせて10%食塩水(250g)で洗浄し、(2S,3S,5S)−5−ベンジルオキシ−2−ヘキシル−3−ヒドロキシヘキサデカン酸のn−ヘプタン溶液を得た。この溶液にトリエタノールアミン(84.1g)、水(83g)、メタノール(83g)を加えて攪拌後分液し、水層をn−ヘプタン(180ml)で2度洗浄した。その後5%塩酸(220ml)、n−ヘプタン(180ml)を加え中和抽出した。有機層を5%食塩水(230g)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムおよび活性炭を加えて攪拌した後、硫酸マグネシウムおよび活性炭を濾過、濃縮して(2S,3S,5S)−5−ベンジルオキシ−2−ヘキシル−3−ヒドロキシヘキサデカン酸(38.9g,見掛け収率68.5%)を得た。
H−NMR(CDCl,δppm);0.85−0.90(m,3H),0.88(t,J=7Hz,3H),1.26−1.82(m,33H),2.37(dt,J=4,8Hz,1H),3.75(dtbr,J=6,3Hz,1H),3.94(dtbr,J=6,9Hz,1H),4.42(AB,J=11Hz,1H),4.65(AB,J=11Hz,1H),7.25−7.35(Ar,5H).
13C−NMR(CDCl,δppm);14.28,22.83,25.26,26.87,27.91,29.07,29.46,29.77,31.60,32.03,38.27,56.55,70.77,75.26,75.70,127.55,128.28,138.15,171.35.
IR(film);ν=3030,2935,2856,1705,1496,1206,1068(cm−1).
(b)(3S,4S)−3−ヘキシル−4−[(S)−2’−ベンジルオキシトリデシル]−2−オキセタノン
(a)で得られた(2S,3S,5S)−5−ベンジルオキシ−2−ヘキシル−3−ヒドロキシヘキサデカン酸(35.9g)を無水ピリジン(160ml)に溶解し、0℃に冷却した。その後、ベンゼンスルホニルクロリド(18.0g,156.0mmol)を0℃で滴下し、3時間攪拌した。反応終了後、n−ヘプタン(160ml)、水(100g)を加え、抽出した。水層は再度n−ヘプタン(160ml)で抽出し、有機層を合わせて2.5%塩酸(210g)と水(100ml)で洗浄した。水層は再度n−ヘプタン(60ml)で抽出し、その有機層を水(160ml)で洗浄した後、有機層を合わせて無水硫酸マグネシウム、シリカゲル(17.5g)および活性炭(1.8g)を加え攪拌した。硫酸マグネシウム、シリカゲルおよび活性炭を濾過した後濃縮し、橙色透明の液体として(3S,4S)−3−ヘキシル−4−[(S)−2’−ベンジルオキシトリデシル]−2−オキセタノン(28.1g,見掛け収率81.4%)を得た。
H−NMR(CDCl,δppm);0.87(t,J=7Hz,3H),0.88(t,J=7Hz,3H)1.20−1.80(m,30H),1.93(ddd,J=14,6,4Hz,1H),2.17(dt,J=14,6Hz,1H),3.25(dt,J=11,4Hz,1H),3.53(dt,J=12,5Hz,1H),4.39−4.51(m,1H),4.43(d,J=12Hz,1H),4.53(d,J=11Hz,1H),7.25−7.35(Ar,5H).
(c)(3S,4S)−3−ヘキシル−4−[(S)−2’−ヒドロキシトリデシル]−2−オキセタノン
(b)で得られた(3S,4S)−3−ヘキシル−4−[(S)−2’−ベンジルオキシトリデシル]−2−オキセタノン(28.1g)を酢酸エチル(150ml)に溶解し、あらかじめ窒素置換されたオートクレーブに入れた。これに10%Pd炭素(2.7g)を加え、水素圧5kgf/cm、室温下13時間水素化反応を行った。その後、さらに10%Pd炭素(5.4g)を加え、水素圧5kgf/cm、50℃で30時間攪拌した。反応終了後、Pd炭素を濾過し、濃縮して粗製の表題化合物を得た。これをn−ヘプタン(120ml)で再結晶して白色結晶の表題化合物(9.6g,見掛け収率43.5%)を得た。
H−NMR(CDCl,δppm);4.47(dt,1H,J=6Hz,J=4Hz),3.78(m,1H),3.31(ddd,1H,J=9Hz,J=7Hz,J=4Hz),1.20−2.05(m,33H),0.86−0.90(m,6H).
実施例14:(2S,3S,5S)−5−ベンジルオキシ−2−ヘキシル−3−ヒドロキシヘキサデカン酸エチル
−50℃に冷却したリチウムジイソプロピルアミドのTHF溶液(26重量%,4.46g,10.82mmol)に、(3S,5S)−5−ベンジルオキシ−3−ヒドロキシヘキサデカン酸エチル(2.0g,4.92mmol)のTHF(2ml)溶液を、窒素雰囲気下で滴下し、−10℃で1.5時間攪拌した。溶液を−15℃に冷却し、ヨウ化n−ヘキシル(3.1g,14.76mmol)、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン(2.5ml)を滴下し、−20〜15℃で6時間、室温下18時間反応を行った。反応終了後、飽和塩化アンモニウム水溶液(60ml)、酢酸エチル(30ml)を加え抽出した。水層を酢酸エチル(20ml)で3回抽出した。有機層を合わせて15%食塩水(20ml)で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムを濾過後、濃縮して表題化合物の粗抽出物(4.03g,見掛け収率166.9%)を得た。この粗抽出物の含量をHPLCで測定し(絶対検量線法)、収率を求めたところ、65.2%であった。
実施例14にみられるように、(3S,5S)−5−ベンジルオキシ−3−ヒドロキシヘキサデカン酸エチルとヨウ化n−ヘキシルとの反応において、実施例12のHMPAの代わりにDMIを用いると収率が低下した。しかし、1−ブロモ−2−ヘキセンとの反応においては、DMIを用いた場合においても、HPMAと同等の収率で反応が進行した。
実施例15:(3S,4S)−3−ヘキシル−4−[(S)−2’−[(S)−4”−メチル−2”−(N−ホルミルアミノ)−ペンタノイロキシ]トリデシル]−2−オキセタノン〔(−)−テトラヒドロリプスタチンの合成〕
(3S,4S)−3−ヘキシル−4−[(S)−2’−ヒドロキシトリデシル]−2−オキセタノン(50mg,0.14mmol)、及び(S)−N−ホルミル−L−ロイシン(56.1mg,0.35mmol)を塩化メチレン(0.3ml)に溶解し、−10℃に冷却した。これにN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(66.9mg,0.32mmol)を添加し、30分間攪拌した。その後、4−ジメチルアミノピリジン(172mg,1.4mmol)を塩化メチレン(10ml)に溶解した溶液(0.05ml,0.007mmol)を添加し、−10℃で6時間反応を行った。
反応終了後、溶液を濃縮乾固して酢酸エチル(5ml)を加えて沈殿物を濾過し、濾液を15%クエン酸水溶液(5ml)、水(5ml)、飽和重曹水(5ml)、水(5ml)でそれぞれ洗浄した。有機層を濃縮して粗製の表題化合物(63.7mg,収率93%)を得た。これについてH−NMRを測定し、(3S,4S)−3−ヘキシル−4−[(S)−2’−[(S)−4”−メチル−2”−(N−ホルミルアミノ)−ペンタノイロキシ]トリデシル]−2−オキセタノン〔(−)−テトラヒドロリプスタチン〕と(3S,4S)−3−ヘキシル−4−[(S)−2’−[(R)−4”−メチル−2”−(N−ホルミルアミノ)−ペンタノイロキシ]トリデシル]−2−オキセタノン(以下、単にエピマー体ともいう)の4.27−4.31ppmと4.33−4.39に帰属される水素原子の積分値より、(−)−テトラヒドロリプスタチンとエピマー体との比(以下、単に異性体比ともいう)を求めたところ、8:1であった。また同様に、原料である(3S,4S)−3−ヘキシル−4−[(S)−2’−ヒドロキシトリデシル]−2−オキセタノンの積分値を(A)、(−)−テトラヒドロリプスタチンの積分値を(B)、エピマー体の積分値を(C)とし、下式(1)により反応率を求めたところ、100%であった。
反応率(%)=〔(B)+(C)/(A)+(B)+(C)〕×100 (1)
粗製の表題化合物は、フラッシュクロマトグラフィーにより精製し、純粋な(−)−テトラヒドロリプスタチン(50mg)を得た。
H−NMR(CDCl,δppm);8.22(s,1H),5.91(d,1H,J=8Hz),5.06−5.00(m,1H),4.69(ddd,1H,J=8,8,5Hz),4.31−4.27(m,1H),3.22(ddd,1H,J=8,8,4Hz),2.17(ddd,1H,J=15,8,8Hz),2.00(ddd,1H,J=15,5,4Hz),1.86−1.17(m,33H),0.98−0.96(m,6H),0.90−0.86(m,6H).
実施例16〜18:(3S,4S)−3−ヘキシル−4−[(S)−2’−[(S)−4”−メチル−2”−(N−ホルミルアミノ)−ペンタノイロキシ]トリデシル]−2−オキセタノン〔(−)−テトラヒドロリプスタチン〕の合成
(反応温度の検討)
温度および反応時間を表1に示したとおりにした以外は実施例15と同様に操作を行い、異性体比および反応率を求めた。結果を表1に示す。
比較例1:(3S,4S)−3−ヘキシル−4−[(S)−2’−[(S)−4”−メチル−2”−(N−ホルミルアミノ)−ペンタノイロキシ]トリデシル]−2−オキセタノン〔(−)−テトラヒドロリプスタチンの合成〕
反応温度を15℃、反応時間を12時間とした以外は実施例1と同様に行い、異性体比および反応率を求めた。結果を表1に示す。
実施例19:(3S,4S)−3−ヘキシル−4−[(S)−2’−[(S)−4”−メチル−2”−(N−ホルミルアミノ)−ペンタノイロキシ]トリデシル]−2−オキセタノン〔(−)−テトラヒドロリプスタチンの合成〕
反応温度を−30℃、反応時間を20時間とし、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミドと4−ジメチルアミノピリジンを同時に添加した以外は実施例1と同様に行い、異性体比および反応率を求めた。結果を表1に示す。
比較例2:(3S,4S)−3−ヘキシル−4−[(S)−2’−[(S)−4”−メチル−2”−(N−ホルミルアミノ)−ペンタノイロキシ]トリデシル]−2−オキセタノン〔(−)−テトラヒドロリプスタチンの合成〕
反応温度を15℃にした以外は実施例5と同様に行い、異性体比および反応率を求めた。結果を表1に示す。

反応を0℃未満に制御することにより、ホルミルアミノ基のエピメリ化が有効に抑制された。また、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミドと4−ジメチルアミノピリジンを同時に添加することにより、エピメリ化が促進された。
実施例20:(3S,4S)−3−ヘキシル−4−[(S)−2’−[(S)−4”−メチル−2”−(N−ホルミルアミノ)−ペンタノイロキシ]トリデシル]−2−オキセタノン〔(−)−テトラヒドロリプスタチンの合成〕
(3S,4S)−3−ヘキシル−4−[(S)−2’−ヒドロキシトリデシル]−2−オキセタノン(50mg,0.14mmol)、及び(S)−N−ホルミル−L−ロイシン(56.1mg,0.35mmol)を塩化メチレン(0.3ml)に溶解し、−20℃に冷却した。これにN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(66.9mg,0.32mmol)を添加し、30分間攪拌した。その後、4−ピロリジノピリジン(1.0mg,0.007mmol)を添加し、−20℃で12時間反応を行った。
反応終了後、溶液を濃縮乾固して酢酸エチル(5ml)を加えて沈殿物を濾過し、濾液を15%クエン酸水溶液(5ml)、水(5ml)、飽和重曹水(5ml)、水(5ml)でそれぞれ洗浄した。有機層を濃縮して粗製の表題化合物(62.4mg,収率89%)を得た。これについてH−NMRを測定し、実施例1と同様にして異性体比および反応率を求めたところ、異性体比は15:1、反応率は100%であった。粗製の表題化合物をフラッシュクロマトグラフィーにより精製し、純粋な(−)−テトラヒドロリプスタチン55mgを得た。
実施例21:(3S,4S)−3−ヘキシル−4−[(S)−2’−[(S)−4”−メチル−2”−(N−ホルミルアミノ)−ペンタノイロキシ]トリデシル]−2−オキセタノン〔(−)−テトラヒドロリプスタチンの合成〕
(a)(3S,4S)−3−ヘキシル−4−[(S)−2’−[(S)−4”−メチル−2”−(N−ベンジルオキシカルボニルアミノ)−ペンタノイロキシ]トリデシル]−2−オキセタノン
実施例11と同様の方法により合成した(3S,4S)−3−ヘキシル−4−[(S)−2’−ヒドロキシトリデシル]−2−オキセタノン(1.50g,4.23mmol)、(S)−N−ベンジルオキシカルボニルロイシン(1.68g,6.35mmol)を塩化メチレン(5ml)に溶解し、−15℃に冷却した。これにN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(1.14g,5.50mmol)の塩化メチレン(3ml)溶液を−10〜−15℃で滴下し、30分間攪拌した。その後、4−ジメチルアミノピリジン(25.8mg,0.21mmol)を1mlの塩化メチレンに溶解した溶液を滴下し、−15℃で終夜反応を行った。反応終了後、水(0.5ml)を添加して30分間攪拌した後、溶液を濃縮乾固してn−ヘキサン(10ml)を加えて沈殿物を濾過し、15%クエン酸水溶液(8ml)、5%食塩水(8ml)、5%重曹水(8ml)、5%食塩水(8ml)でそれぞれ洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥して濾過後、有機層を濃縮して(3S,4S)−3−ヘキシル−4−[(S)−2’−[(S)−4”−メチル−2”−(N−ベンジルオキシカルボニルアミノ)−ペンタノイロキシ]トリデシル]−2−オキセタノン(2.54g,収率99.8%)を得た。
(b)(3S,4S)−3−ヘキシル−4−[(S)−2’−[(S)−4”−メチル−2”−アミノ−ペンタノイロキシ]トリデシル]−2−オキセタノン
(a)で得られた(3S,4S)−3−ヘキシル−4−[(S)−2’−[(S)−4”−メチル−2”−(N−ベンジルオキシカルボニルアミノ)−ペンタノイロキシ]トリデシル]−2−オキセタノン(2.44g,4.05mmol)をTHF(10ml)に溶解し、5%Pd炭素(90mg)を添加し、常圧下、室温で終夜水素化反応を行った。反応終了後、Pd炭素を濾過し、溶液を濃縮して(3S,4S)−3−ヘキシル−4−[(S)−2’−[(S)−4”−メチル−2”−アミノ−ペンタノイロキシ]トリデシル]−2−オキセタノン(1.95g,収率102.8%)を得た。
(c)(3S,4S)−3−ヘキシル−4−[(S)−2’−[(S)−4”−メチル−2”−(N−ホルミルアミノ)−ペンタノイロキシ]トリデシル]−2−オキセタノン
N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(1.72g,8.34mmol)を塩化メチレン(6ml)に溶解して、0〜2℃に冷却し、ギ酸(0.77g,16.68mmol)の塩化メチレン(2ml)溶液を0〜2℃で滴下し、30分間攪拌した。その後、(b)で得られた(3S,4S)−3−ヘキシル−4−[(S)−2’−[(S)−4”−メチル−2”−アミノ−ペンタノイロキシ]トリデシル]−2−オキセタノン(1.95g,4.17mmol)、ピリジン(1.32g,16.68mmol)を塩化メチレン(5ml)に溶解した溶液を滴下し、0〜3℃で終夜反応した。反応終了後、水(0.5ml)を添加して30分間攪拌した後、溶液を濃縮乾固して酢酸エチル(15ml)を加えて沈殿物を濾過し、15%クエン酸水溶液(10ml)、5%食塩水(10ml)、5%重曹水(10ml)、5%食塩水(10ml)でそれぞれ洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥して濾過後、有機層を濃縮して、粗製の表題化合物(2.09g)を得た。これをn−ペンタンにより再結晶を行い、白色結晶として表題化合物(1.37g,収率66.3%)を得た。
【産業上の利用可能性】
本発明は、抗肥満薬である(−)−テトラヒドロリプスタチンの従来より効率的な製造方法及び有用な合成中間体を提供できるため、有用である。
本出願は、日本で出願された特願2003−12894および特願2003−139175を基礎としており、その内容は本明細書にすべて包含されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(III):

(式中、Pは水酸基の保護基を示し、Rは炭素数1〜4のアルキル、ベンジルまたは4−ニトロベンジルを示す。)で表される化合物をジアステレオ選択的還元に付して、一般式(IV):

(式中、各記号は前記と同義を示す。)で表される化合物を得る工程を含む、一般式(IV)で表される化合物の製造方法。
【請求項2】
以下の工程(a)および(b)を含む、一般式(IV):

(式中、Pは水酸基の保護基を示し、Rは炭素数1〜4のアルキル、ベンジルまたは4−ニトロベンジルを示す。)で表される化合物の製造方法;
工程(a):一般式(I):

(式中、Pは水素原子または水酸基の保護基を示し、Xは水酸基、炭素数1〜4のアルコキシまたは塩素原子を示す。)で表される化合物と、一般式(II):

(式中、Yは水素原子または式(II’):−COOM(式中、Mはカリウムまたはナトリウムを示す。)で表される基を示し、他の記号は前記と同義を示す。)で表される化合物とを反応させて、一般式(III’):

(式中、各記号は前記と同義を示す。)で表される化合物を得て、さらに、Pが水素原子である場合は、水酸基を保護して、一般式(III):

(式中、各記号は前記と同義を示す。)で表される化合物を得;
工程(b):得られた一般式(III)で表される化合物をジアステレオ選択的還元に付して、上記一般式(IV)で表される化合物を得る。
【請求項3】
ジアステレオ選択的還元が、不斉配位子を有する遷移金属触媒を用いた不斉水素化反応である請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
不斉配位子が、下記一般式:

(式中、Ra、Rb、Rd、Re、Rg、Rh、Ri、Rj、Rk、Rl、RmおよびRnは、それぞれ独立して置換されてもよいフェニルまたはシクロヘキシルを示し、RcおよびRfは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、アルキル、アルコキシ、または置換されてもよいフェニルを示し、l、m、nおよびoは、それぞれ独立して1〜6の整数を示す。)で表される化合物から選ばれる光学活性ホスフィン化合物であり、遷移金属がルテニウムである遷移金属触媒を用いる、請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
遷移金属触媒が、RaおよびRbがフェニル基であり、Rcが水素原子である一般式(L1)で表される化合物;RaおよびRbがp−トリル基であり、Rcが水素原子である一般式(L1)で表される化合物;またはRaおよびRbがo−トリル基であり、Rcが水素原子である一般式(L1)で表される化合物から選ばれる光学活性ホスフィン化合物と、ルテニウム(II)ハライドもしくはルテニウム(II)アセテートまたはそれらの錯体とから調製される遷移金属錯体である、請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
一般式(I):

(式中、Pは水素原子または水酸基の保護基を示し、Xは水酸基、炭素数1〜4のアルコキシまたは塩素原子を示す。)で表される化合物と一般式(II):

(式中、Yは水素原子または式(II’):−COOM(式中、Mはカリウムまたはナトリウムを示す。)で表される基を示し、他の記号は前記と同義を示す。)で表される化合物とを反応させて、一般式(III’):

(式中、各記号は前記と同義を示す。)で表される化合物を得る工程を含む、一般式(III’)で表される化合物または一般式(IV):

(式中、Pは水酸基の保護基を示し、他の記号は前記と同義を示す。)で表される化合物の製造方法。
【請求項7】
以下の工程(c1)、(d1)、(e1)および(f1)を含む、式(VIII):

で表される化合物の製造方法;
工程(c1):一般式(IV):

(式中、Pは水酸基の保護基を示し、Rは炭素数1〜4のアルキル、ベンジルまたは4−ニトロベンジルを示す。)で表される化合物と1−ハロ−2−ヘキセンを、強塩基の存在下反応させて、一般式(V):

(式中、波線はE体またはZ体を示し、各記号は前記と同義を示す。)で表される化合物を得;
工程(d1):得られた一般式(V)で表される化合物を加水分解に付して、一般式(VI):

(式中、波線および記号は前記と同義を示す。)で表される化合物またはその塩を得;
工程(e1):得られた一般式(VI)で表される化合物またはその塩を塩基の存在下、スルホニルハライド類と反応させて、一般式(VII):

(式中、波線および記号は前記と同義を示す。)で表される化合物を得;
工程(f1):得られた一般式(VII)で表される化合物を脱保護および接触還元反応に付して、上記式(VIII)で表される化合物を得る。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法によって製造される一般式(IV)で表される化合物を用いる、請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
以下の工程(c2)、(d2)、(e2)および(f2)を含む、式(VIII):

で表される化合物の製造方法;
工程(c2):請求項1〜5のいずれかに記載の方法によって製造される一般式(IV):

(式中、Pは水酸基の保護基を示し、Rは炭素数1〜4のアルキル、ベンジルまたは4−ニトロベンジルを示す。)で表される化合物とn−ヘキシルハライドを、強塩基の存在下反応させて、一般式(V’):

(式中、各記号は前記と同義を示す。)で表される化合物を得;
工程(d2):得られた一般式(V’)で表される化合物を加水分解に付して、一般式(VI’):

(式中、記号は前記と同義を示す。)で表される化合物またはその塩を得;
工程(e2):得られた一般式(VI’)で表される化合物またはその塩を塩基の存在下、スルホニルハライド類と反応させて、一般式(VII’):

(式中、記号は前記と同義を示す。)で表される化合物を得;
工程(f2):得られた一般式(VII’)で表される化合物を脱保護して、上記式(VIII)で表される化合物を得る。
【請求項10】
式(VIII):

で表される化合物とN−ホルミル−L−ロイシンとを、カルボジイミド系縮合剤及び3級アミンの存在下、0℃未満の反応温度で縮合させる工程を含む、式(XI):

で表される化合物の製造方法。
【請求項11】
反応温度が−35℃〜−5℃である、請求項10記載の製造方法。
【請求項12】
カルボジイミド系縮合剤がN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミドである、請求項10または11記載の製造方法。
【請求項13】
3級アミンが、式(A):

(式中、RおよびRは、同一または異なって、低級アルキル基を示すか、またはRおよびRが、結合する窒素原子と一緒になって、ピロリジン環を形成してもよい。)で表される化合物である、請求項10〜12のいずれかに記載の製造方法。
【請求項14】
式(VIII)で表される化合物、N−ホルミル−L−ロイシン及びカルボジイミド系縮合剤を予め混合した後に、3級アミンを添加することを特徴とする請求項10〜13のいずれかに記載の製造方法。
【請求項15】
請求項7〜9のいずれかに記載の方法によって製造される式(VIII)で表される化合物を用いる、請求項10〜14のいずれかに記載の製造方法。
【請求項16】
以下の工程(h)、(i)および(j)を含む、式(XI):

で表される化合物の製造方法;
工程(h):請求項7〜9のいずれかに記載の方法によって製造される式(VIII):

で表される化合物とN−ベンジルオキシカルボニル−L−ロイシンとを、カルボジイミド系縮合剤及び3級アミンの存在下縮合させて、式(IX):

(式中、Cbzはベンジルオキシカルボニルを示す。)で表される化合物を得;
工程(i):得られた式(IX)で表される化合物を脱保護して、式(X):

で表される化合物またはその塩を得;
工程(j):得られた式(X)で表される化合物をホルミル化反応に付して、上記式(XI)で表される化合物を得る。
【請求項17】
一般式(Va):

(式中、波線はE体またはZ体を示し、Pは水酸基の保護基を示し、Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル、ベンジルまたは4−ニトロベンジルを示す。)で表される化合物またはその塩。
【請求項18】
が、ベンジルである、請求項17記載の化合物またはその塩。
【請求項19】
一般式(VII):

(式中、波線はE体またはZ体を示し、Pは水酸基の保護基を示す。)で表される化合物。
【請求項20】
が、ベンジルである、請求項19記載の化合物。

【国際公開番号】WO2004/065346
【国際公開日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【発行日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−507679(P2005−507679)
【国際出願番号】PCT/JP2004/000400
【国際出願日】平成16年1月20日(2004.1.20)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】