説明

(S)−1−(4−(5−シクロプロピル−1H−ピラゾール−3−イルアミノ)ピロロ[1,2−f][1,2,4]トリアジン−2−イル)−N−(6−フルオロピリジン−3−イル)−2−メチルピロリジン−2−カルボキサミドの結晶形

式(I)で示される(S)−1−(4−(5−シクロプロピル−1H−ピラゾール−3−イルアミノ)ピロロ[1,2−f][1,2,4]トリアジン−2−イル)−N−(6−フルオロピリジン−3−イル)−2−メチルピロリジン−2−カルボキサミドの結晶形が提供される。(3R,4R)−4−アミノ−1−[[4−[(3−メトキシフェニル)アミノ]ピロロ[2,1−f][1,2,4]トリアジン−5−イル]メチル]ピペリジン−3−オールの1つまたはそれ以上の結晶形を含む医薬組成物、ならびに癌および他の増殖性疾患の治療において(3R,4R)−4−アミノ−1−[[4−[(3−メトキシフェニル)アミノ]ピロロ[2,1−f][1,2,4]トリアジン−5−イル]メチル]ピペリジン−3−オールの1つまたはそれ以上の結晶形を使用する方法もまた提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、(S)−1−(4−(5−シクロプロピル−1H−ピラゾール−3−イルアミノ)ピロロ[1,2−f][1,2,4]トリアジン−2−イル)−N−(6−フルオロピリジン−3−イル)−2−メチルピロリジン−2−カルボキサミドのメタンスルホン酸(MSA)塩の結晶形に関する。本発明はまた、(S)−1−(4−(5−シクロプロピル−1H−ピラゾール−3−イルアミノ)ピロロ[1,2−f][1,2,4]トリアジン−2−イル)−N−(6−フルオロピリジン−3−イル)−2−メチルピロリジン−2−カルボキサミドのMSA塩の結晶形を含む医薬組成物、ならびに癌および他の増殖性疾患の治療において(S)−1−(4−(5−シクロプロピル−1H−ピラゾール−3−イルアミノ)ピロロ[1,2−f][1,2,4]トリアジン−2−イル)−N−(6−フルオロピリジン−3−イル)−2−メチルピロリジン−2−カルボキサミドのMSA塩の結晶形を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、チロシンキナーゼ酵素を阻害する化合物の結晶形、チロシンキナーゼを阻害する化合物を含有する組成物、ならびにチロシンキナーゼ酵素の阻害剤の結晶形を用いて、癌、糖尿病、再狭窄、動脈硬化症、乾癬、アルツハイマー病、血管形成疾患および免疫疾患などのチロシンキナーゼ活性の過剰発現または上方調節によって特徴付けられる疾患を治療する方法に関する。
【0003】
チロシンキナーゼは、細胞増殖、癌発生、アポトーシスおよび細胞分化を含むいくつかの細胞機能に関するシグナル伝達において重要な役割を果たす。これらの酵素の阻害剤は、これらの酵素に依存する増殖性疾患の治療または予防に有用である。強力な疫学的証拠により、構成的な分裂促進シグナルを生じる受容体タンパク質チロシンキナーゼの過剰発現または活性化が、増殖するヒト悪性腫瘍における重要な因子であることが示唆されている。これらの過程に関連しているチロシンキナーゼとして、Abl、CDK群、EGF、EMT、FGF、FAK、Flk−1/KDR、Flt−3、GSK−3、GSKベータ−3、HER−2、IGF−1R、IR、Jak2、LCK、MET、PDGF、Src、Tie−2、TrkA、TrkBおよびVEGFが挙げられる。よって、チロシンキナーゼ酵素を調節し、または阻害するために用いることができる新規な化合物を研究する必要性が存在する。
【0004】
(S)−1−(4−(5−シクロプロピル−1H−ピラゾール−3−イルアミノ)ピロロ[1,2−f][1,2,4]トリアジン−2−イル)−N−(6−フルオロピリジン−3−イル)−2−メチルピロリジン−2−カルボキサミドは、式I:
【化1】

(I)
の構造を有し、本明細書では「化合物I」と称される。化合物Iは、インスリン様増殖因子受容体インヒビター(IGF−1R)であり、それゆえ、抗癌剤として有用である。化合物Iおよび前記化合物の合成方法は、現在の譲受人に譲渡され、出典明示によりその全体が本明細書に取り込まれる特許文献1に開示される。
【0005】
典型的に、医薬組成物の製造において、溶解速度、溶解度、バイオアベイラビリティおよび/または保存安定性などの所望される特性のバランスがとれた活性成分の形態が求められている。例えば、必要な溶解度およびバイオアベイラビリティを有し、さらに、医薬組成物の製造もしくは保存の間に、異なる溶解度および/またはバイオアベイラビリティを有する異なる形態に変換しない十分な安定性を有する活性成分の形態が望まれている。癌のような疾患の治療に適する医薬組成物の製造を可能にする特性および安定性を有する化合物Iの1つまたはそれ以上の形態が望まれている。さらに、例えば、製造過程の間に化合物Iを単離および/または精製できる化合物Iの1つまたはそれ以上の形態が望まれている。
【0006】
単離された形態のN−1およびN−2バルク物質(bulk material)のPXRDパターンは、多くの類似性を示すが、ある特有の低角度ピーク(angle peak)によって容易に区別される。一方の形態がピークを示す場合、もう一方の形態は基準値およびその逆のピークを示す。実際、これらの物質は、主に低い角度で様々なピークの高さと幅のパターンの全範囲を示す。また、化合物の多形混合物のスラリーは、単一形態に変換することが予想される。この場合、当該形態の熱力学的関係の測定中に、両形態を含有するスラリーがより安定な形態にゆっくり変換されることが示された。
【0007】
単離された形態の広範な試験により、1:1 MSA塩のN−1およびN−2の近接した構造および動力学的関係の可能性のため、相純度は、製剤の有効性にあまり大きく影響することが予想されないことが知見されている。よって、N−1および/またはN−2のPXRD特性を有する結晶形が選ばれ、N−1/N−2と呼ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第7,534,792号
【発明の概要】
【0009】
本発明の第1の態様は、形態N−1を含む、化合物I:
【化2】

(I)
のMSA塩の結晶形を提供する。
【0010】
本発明の第2の態様は、形態N−2を含む化合物IのMSA塩の結晶形を提供する。
【0011】
本発明の第3の態様は、形態N−1および/または形態N−2のPXRD特性を有する結晶形を含む、化合物IのMSA塩の結晶形を提供する。
【0012】
本発明のさらなる態様は、化合物IのMSA塩の形態N−2および/または形態N−1のうちの1つまたはそれ以上、ならびに医薬的に許容される担体または希釈剤を含む、医薬組成物を提供する。
【0013】
本発明の別の態様は、癌の治療を必要とする哺乳類に、治療上有効量の化合物IのMSA塩を投与することを特徴とする癌の治療方法であって、化合物IのMSA塩が、N−1および/またはN−2のPXRD特性を有する結晶形である方法を提供する。
【0014】
特定の形態、例えば、「N−1」などを特徴付けるために本明細書で用いられる名称は、類似または同一の物理的および化学的特徴を有するその他の物質のいずれかに限定するものと考慮されるべきではなく、むしろ、これらの表記は、本明細書に示される特性評価情報によって解釈されるべき単なる識別であると理解されるべきである。
【0015】
本発明は、下記に記載の添付した図面によって例示される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、(S)−1−(4−(5−シクロプロピル−1H−ピラゾール−3−イルアミノ)ピロロ[1,2−f][1,2,4]トリアジン−2−イル)−N−(6−フルオロピリジン−3−イル)−2−メチルピロリジン−2−カルボキサミドMSA塩のN−1結晶形の実験(室温)およびシミュレーション(T=25°)上の粉末X線回折パターン(CuKαλ=1.5418Å)を示す。
【図2】図2は、(S)−1−(4−(5−シクロプロピル−1H−ピラゾール−3−イルアミノ)ピロロ[1,2−f][1,2,4]トリアジン−2−イル)−N−(6−フルオロピリジン−3−イル)−2−メチルピロリジン−2−カルボキサミドMSA塩のN−2結晶形の実験(室温)、ハイブリッド(室温)およびシミュレーション(T=−50°)上の粉末X線回折パターン(CuKαλ=1.5418Å)を示す。
【図3】図3は、(S)−1−(4−(5−シクロプロピル−1H−ピラゾール−3−イルアミノ)ピロロ[1,2−f][1,2,4]トリアジン−2−イル)−N−(6−フルオロピリジン−3−イル)−2−メチルピロリジン−2−カルボキサミドMSA塩のN−1/N−2結晶形で実測された選択パターンのPXRDを示す。
【図4】図4は、(S)−1−(4−(5−シクロプロピル−1H−ピラゾール−3−イルアミノ)ピロロ[1,2−f][1,2,4]トリアジン−2−イル)−N−(6−フルオロピリジン−3−イル)−2−メチルピロリジン−2−カルボキサミドMSA塩のN−1結晶形の示差走査熱量測定(DSC)サーモグラムを示す。
【図5】図5は、(S)−1−(4−(5−シクロプロピル−1H−ピラゾール−3−イルアミノ)ピロロ[1,2−f][1,2,4]トリアジン−2−イル)−N−(6−フルオロピリジン−3−イル)−2−メチルピロリジン−2−カルボキサミドMSA塩のN−2結晶形の示差走査熱量測定(DSC)サーモグラムを示す。
【図6】図6は、(S)−1−(4−(5−シクロプロピル−1H−ピラゾール−3−イルアミノ)ピロロ[1,2−f][1,2,4]トリアジン−2−イル)−N−(6−フルオロピリジン−3−イル)−2−メチルピロリジン−2−カルボキサミドMSA塩のN−1結晶形の熱重量分析(TGA)サーモグラムを示す。
【図7】図7は、(S)−1−(4−(5−シクロプロピル−1H−ピラゾール−3−イルアミノ)ピロロ[1,2−f][1,2,4]トリアジン−2−イル)−N−(6−フルオロピリジン−3−イル)−2−メチルピロリジン−2−カルボキサミドMSA塩のN−2結晶形の熱重量分析(TGA)サーモグラムを示す。
【図8】図8は、(S)−1−(4−(5−シクロプロピル−1H−ピラゾール−3−イルアミノ)ピロロ[1,2−f][1,2,4]トリアジン−2−イル)−N−(6−フルオロピリジン−3−イル)−2−メチルピロリジン−2−カルボキサミドMSA塩のN−1結晶形の固体核磁気共鳴(ssNMR)スペクトルを示す。
【図9】図9は、(S)−1−(4−(5−シクロプロピル−1H−ピラゾール−3−イルアミノ)ピロロ[1,2−f][1,2,4]トリアジン−2−イル)−N−(6−フルオロピリジン−3−イル)−2−メチルピロリジン−2−カルボキサミドMSA塩のN−2結晶形の固体核磁気共鳴(ssNMR)スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書で用いられるように、「多形」は、同じ組成を有するが、結晶を形成する分子および/またはイオンの異なる空間配置を有する結晶形を意味する。
【0018】
本明細書で用いられるように、「アモルファス」は、結晶ではない分子および/またはイオンの固体形態を意味する。アモルファス固体は、明確な最大値を有するはっきりしたX線回折パターンを示さない。
【0019】
本明細書で用いられるように、「実質的に純粋な」は、結晶形態に関して用いられる場合、当該化合物の重量に基づいて本化合物の90、91、92、93、94、95、96、97、98および99重量%を含み、約100重量%と同等量を含む、90重量%以上の純度を有する化合物の結晶形の試料を意味する。残りの物質には、化合物のその他の形態、ならびに/あるいは反応不純物および/またはその製造から生じる処理不純物が含まれる。例えば、化合物IのMSA塩の結晶形は、出願時点で公知であり、当該技術分野で一般に受け入れられている方法によって測定される場合、化合物IのMSA塩の結晶形の90重量%以上の純度を有する点で実質的に純粋とされ、残りの10重量%以下の物質には、化合物IのMSA塩のその他の形態および/または反応不純物および/または処理不純物が含まれうる。反応不純物および/または処理不純物の存在は、当該技術分野で公知の分析技術、例えば、クロマトグラフィー、核磁気共鳴分光法、質量分析法または赤外分光法などによって決定されうる。
【0020】
本明細書で用いられるように、パラメータ「分子/非対称ユニット」は、非対称ユニットにおける化合物IのMSA塩の分子数を意味する。
【0021】
本明細書で用いられるように、単位格子パラメータ「分子/単位格子」は、単位格子における化合物IのMSA塩の分子数を意味する。
【0022】
溶解されると、化合物IのMSA塩の結晶形態は、その結晶構造を失い、よって化合物Iの溶液と呼ばれる。本明細書に開示の化合物IのMSA塩の1つまたはそれ以上の結晶形態は、当該化合物が溶解されるか、または懸濁される液体製剤の製造に用いられ得る。
【0023】
治療上有効量の化合物IのMSA塩の結晶形態N−1および/または形態N−2は、本発明の医薬組成物を提供するために、医薬的に許容される担体または希釈剤と組み合わされうる。「治療上有効量」は、単独で投与された場合またはさらなる治療剤とともに投与された場合、疾患もしくは状態または疾患もしくは状態の進行を予防し、抑制し、または軽減するのに有効である量を意味する。
【0024】
本発明は、化合物I:
【化3】

(I)
のMSA塩の結晶形態を提供する。
【0025】
本発明の第1の態様は、化合物IのMSA塩の無溶媒の結晶形態のMSA塩を提供し、「形態N−1」または「N−1形態」と本明細書で記載される。
【0026】
ある実施態様において、この形態は、下記:
格子サイズ:
a=16.3032Å
b=9.5960Å
c=18.0141Å
α=90.0°
β=104.814°
γ=90.0°
空間群:P21
化合物I分子/非対称ユニット:2
体積=2724.6Å3
密度(算出)=1.359g/cm3
(結晶形態の測定は約25℃の温度で行われる)
とほぼ同等の単位格子パラメータによって特徴付けられる。
【0027】
異なる実施態様において、化合物IのMSA塩のこの形態は、図1に示されるシミュレーションされた粉末X線回折パターンと実質的に一致するものおよび/または実質的に図1に示される実測された粉末X線回折パターンと一致するものによって特徴付けられる。
【0028】
別の態様において、5.1±0.1、6.5±0.1、8.5±0.1、10.1±0.1、10.5±0.1、11.3±0.1、14.4±0.1、15.2±0.1、17.8±0.1、19.7±0.1、21.6±0.1の2θ値(約25℃の温度でのCuKαλ=1.5418Å)に粉末X線回折パターンの特徴的ピークを有する化合物IのMSA塩のN−1形態が開示される(結晶形態の測定は約25℃の温度で行われる)。室温での特徴的回折ピーク位置(度(degree)2θ±0.1)は、スピニングキャピラリー(spinning capillary)を備えた回折計(CuKα)で収集した高質パターンおよびNIST(国立標準技術研究所)または他の適した標準物質で校正した2θに基づくものである。
【0029】
さらなる実施態様において、化合物IのMSA塩のこの形態は、表1に実質的に列挙されるような分率原子座標によって特徴付けられる。
表1
T=RTでのMSA塩の形態N−1の分率原子座標
【表1】



【0030】
なおさらなる実施態様において、化合物IのMSA塩のこの形態は、図4に示される示差走査熱量測定のサーモグラムと実質的に一致するものによって特徴付けられる。この形態は、約205〜240℃での吸熱開始によって特徴付けられうる。
【0031】
別の実施態様において、化合物IのMSA塩のこの形態は、無視できる重量減少を示す熱重量分析(TGA)サーモグラムによって特徴付けられる。本発明はまた、図6に示されるTGAサーモグラムと実質的に同一のものを示す化合物IのMSA塩のこの形態を提供する。
【0032】
さらに別の実施態様において、N−1形態は、実質的に純粋な形態で提供される。実質的に純粋な形態における化合物IのMSA塩のこの形態は、例えば、賦形剤および担体から選択される1つまたはそれ以上の他の構成成分が含まれていてもよく;適宜、異なる分子構造の活性な化学物質を有する1つまたはそれ以上の活性な医薬成分が含まれていてもよい医薬組成物中で用いられうる。
【0033】
好ましくは、N−1形態は、シミュレーションされたPXRDパターンに存在していない余分なピークから生じる、実験で測定された粉末X線回折(PXRD)パターンにおける合計ピーク面積の10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは2%以下によって示されるような実質的に純粋な相均一性を有する。最も好ましくは、シミュレーションされたPXRDパターンに存在していない余分なピークから生じる、実験で測定された粉末X線回折(PXRD)パターンにおける合計ピーク面積の1%以下の実質的に純粋な相均一性を有する結晶形態である。
【0034】
例えば、N−1形態は、実質的に純粋な形態で提供されてもよく、実質的に純粋とは、90重量%以上の純度、好ましくは95重量%以上の純度、およびより好ましくは99重量%以上の純度である。
【0035】
異なる実施態様において、本質的に化合物IのMSA塩の形態N−Iからなる組成物が提供される。この実施形態の組成物には、組成物中に、化合物IのMSA塩の重量に基づいて、形態の少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%、より好ましくは少なくとも99重量%が含まれていてもよい。
【0036】
本発明の第2の態様は、化合物IのMSA塩の無溶媒の結晶形態を提供し、本明細書では「形態N−2」または「N−2形態」と呼ばれる。
【0037】
ある実施態様において、化合物IのMSA塩のこの形態は、下記:
格子サイズ:
a=16.250Å
b=9.576Å
c=34.736Å
α=90.0°
β=90.0°
γ=90.0°
空間群:P2111
化合物I分子/非対称ユニット:2
体積=5405Å3
密度(算出)=1.370g/cm3
(前記結晶形態の測定は、約−50℃の温度で行われる)
とほぼ同等である単位格子パラメータによって特徴付けられる。
【0038】
別の態様において、化合物IのMSA塩のこの形態は、下記:
【表2】

(ここで、前記結晶形態の算出は室温で行われる)
とほぼ同等である単位格子パラメータによって特徴付けられる。
【0039】
異なる実施態様において、化合物IのMSA塩のこの形態は、図2に示されるシミュレーションされた粉末X線回折パターンに実質的に一致するものによって、および/または図2に示される実測された粉末X線回折パターンに実質的に一致するものによって特徴付けられる。
【0040】
別の実施態様において、5.1±0.1、6.0±0.1、7.4±0.1、9.3±0.1、10.2±0.1、10.5±0.1、11.0±0.1、11.8±0.1、14.5±0.1、15.3±0.1、17.9±0.1、21.6±0.1の2θ値(約25℃の温度でCuKαλ=1.5418Å)に粉末X線回折パターンの特徴的ピークを有する化合物IのMSA塩のこの形態が開示される(ここで、結晶形態の測定は、約25℃の温度で行われる)。室温での特徴的な回折ピーク位置(度2θ±0.1)は、スピニングキャピラリーを備えた回折計(CuKα)で収集した高質パターンおよびNISTもしくはその他の適当な標準物質で校正した2θに基づく。
【0041】
さらなる実施態様において、化合物IのMSA塩のこの形態は、表2に実質的に記載されるような分率原子座標によって特徴付けられる。
表2
T=−50℃での形態N−2の分率原子座標
【表3】



【0042】
なおさらなる実施態様において、化合物IのMSA塩のこの形態は、図5に示される示差走査熱量測定サーモグラムに実質的に一致するものによって特徴付けられる。N−2形態は、約210〜235℃での吸熱開始によって特徴付けられる。
【0043】
別の態様において、化合物IのMSA塩のこの形態は、約100℃までの無視できる重量減少を示す熱重量分析(TGA)サーモグラムによって特徴付けられる。本発明はまた、図7に示されるTGAサーモグラムと実質的に同一のものを示す化合物IのMSA塩のN−2形態を提供する。
【0044】
なお別の実施態様において、この形態は、実質的に純粋な形態で提供される。実質的に純粋な形態における化合物IのMSA塩のこのN−2形態は、例えば、賦形剤および担体から選択される1つまたはそれ以上の構成成分が適宜含まれていてもよく;適宜、1つまたはそれ以上の異なる分子構造の活性な化学物質を有するその他の活性な医薬成分が含まれていてもよい医薬組成物中で用いられうる。
【0045】
好ましくは、N−2形態は、シミュレーションされたPXRDパターンまたはハイブリッドPXRDパターンに存在しない余分なピークから生じる実験で測定された粉末X線回折(PXRD)パターンにおいて、合計ピーク面積の10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは2%以下によって示されるような実質的に純粋な相均一性を有する。最も好ましくは、シミュレーションされたPXRDパターンに存在しない余分なピークから生じる、実験で測定したPXRDパターンにおける合計ピーク面積の1%以下の実質的に純粋な相均一性を有する結晶形である。
【0046】
例えば、N−2形態は、実質的に純粋な形態で提供されていてもよく、実質的に純粋は、90重量%以上純粋、好ましくは95重量%以上純粋、ならびにより好ましくは99重量%以上純粋である。
【0047】
異なる実施態様において、本質的に化合物Iの形態N−2からなる組成物が提供される。この実施態様の組成物には、組成物中の化合物IのMSA塩の重量に基づいて化合物Iの形態N−2の少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%、より好ましくは少なくとも99重量%が含まれていてもよい。
【0048】
本発明はまた、化合物IのMSA塩が形態N−1である化合物Iの結晶形;および医薬的に許容される担体または希釈剤を含む医薬組成物を提供する。前記医薬組成物には、実質的に純粋な形態で形態N−2が含まれうる。
【0049】
本発明はまた、化合物IのMSA塩が形態N−2である化合物IのMSA塩の結晶形;および医薬的に許容される担体または希釈剤を含む医薬組成物を提供する。前記医薬組成物には、実質的に純粋な形態で形態N−2が含まれうる。
【0050】
本発明は、増殖性疾患の治療を必要とする哺乳類に、治療上有効量の化合物I(ここで、化合物IのMSA塩は、形態N−2および/または形態N−1を含むMSA塩の結晶形で供される)を投与することを特徴とする、増殖性疾患の治療方法をさらに提供する。好ましくは、哺乳類はヒトである。前記方法は、化合物IのMSA塩が本質的に形態N−1からなる化合物Iを投与することを特徴としていてもよい。あるいは、前記方法は、化合物IのMSA塩が本質的に形態N−2からなる化合物IのMSA塩を投与することを特徴としていてもよい。
【0051】
本明細書に記載の2つの多形相の単位格子および結晶構造は、多くの類似性を示す。両形態は、広範囲の水素結合/静電相互作用を有する分子の緻密層を含有するが、層間の相互作用は比較的弱い。層間の領域にはまた、約50Å3/分子の空間が含まれる。2つの多形のPXRDパターンは類似しているが、いくつかの特有の低角度ピーク(2シータ範囲で5〜10度)によって容易に区別され;一方の形態がピークである場合、もう一方の形態はピークではなく、逆も同様である。従来の装置を用いると、2シータ範囲の5〜10度の範囲で非常に弱いか、またはピークなしを示すが、残りのパターンが2つの公知の多形に非常に類似する密接に関連したパターンの物質もまた存在する。強力/高分解能な回折計を用いたさらなる実験により、2つの多形のうちの1つまたは両方の面間隔(d-spacing)に特徴を有する5〜10度の2シータにおける小さなピークが明らかにされた。実際に、このような物質は、低い角度領域において、様々なピークの高さと幅であらゆる種類のパターンを示す。単一の結晶回折パターンおよび粉末パターン指標に基づくと、実測された範囲パターンは、様々な量の積層欠陥を含有する物質から生じるものと理解することができる。全てのピークが鋭いパターンは、積層欠陥が非常に少ないことを意味し、一方で、重要なピークの広がったパターンは、かかる欠陥が多いことを意味する。多くの「区別できる」PXRDパターンが存在しているが、MSA塩の2つの多形相のみが実測された。結晶物質N−1/N−2のPXRDには、図3が含まれる。このPXRDは、本発明の一部として考慮される図3に特に示されていない異なるピーク強度が存在しうるため、限定されるものではない。
【0052】
用途および有用性
化合物Iの結晶形は、現在の譲受人に譲渡され、出典明示によりその全体が本明細書に取り込まれる米国特許第7,534,792号に開示されるように用いられ得る。特に、これらの形態は、Flt−3(Fme様キナーゼ3)、Tie−2、CDK2、VEGFR、FGFRおよびIGFRキナーゼなどのキナーゼにより調節されるシグナル伝達経路に関連しうる疾患(例えば、急性骨髄性白血病)の治療に用いられ得る。
【0053】
より具体的には、化合物Iの結晶形は、下記:
−前立腺、膵管腺、乳房、結腸、肺、卵巣、膵臓および甲状腺の癌を含む、癌;
−神経芽細胞腫、神経膠芽腫および髄芽腫を含む、中枢および末梢神経系の腫瘍;ならびに
−メラノーマおよび多発性骨髄腫を含む、その他の腫瘍
が含まれる(が、これらに限定されない)様々な癌の治療に有用でありうる。
【0054】
一般に、阻害剤は、細胞増殖の調節におけるキナーゼの重要な役割のため、異常な細胞増殖を特徴とするいずれかの疾患過程、例えば、良性前立腺肥厚化、家族性大腸ポリープ症、神経線維腫症、肺線維症、関節炎、乾癬、糸球体腎炎、血管形成または血管の外科手術後の再狭窄、肥大性瘢痕形成および炎症性腸疾患の治療に有用でありうる可逆性細胞増殖抑制剤として作用しうる。
【0055】
化合物Iの結晶形は、チロシンキナーゼ活性の高い発生率を有する腫瘍、例えば、前立腺、結腸、脳、甲状腺および膵臓の腫瘍などの治療に特に有用でありうる。また、本発明の化合物は、肉腫および小児肉腫の治療に有用でありうる。本発明の化合物の組成物(または組み合わせ)の投与によって、哺乳類宿主における腫瘍の発生が減少される。
【0056】
活性成分を含有する本発明の医薬組成物は、経口用途に適当な形態、例えば、錠剤、トローチ、トローチ剤、水性もしくは油性懸濁液、分散性粉末もしくは顆粒剤、乳濁液、硬もしくは軟カプセル剤、またはシロップもしくはエリキシル剤でありうる。経口用途を目的とした組成物は、医薬組成物の製造の技術分野で公知の方法によって調製され得、かかる組成物は、医薬的に洗練され、受け入れられやすい製剤を提供するために、甘味料、香料、着色剤および保存剤からなる群から選択される1つまたはそれ以上の薬剤を含有していてもよい。
【0057】
経口用途のための製剤はまた、活性成分が不活性固体希釈剤、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムまたはカオリンと混合される硬ゼラチンカプセル剤として提供されうるか、あるいは活性成分がポリエチレングリコールなどの水溶性担体、または落花生油、液体パラフィンもしくはオリーブ油などの油媒体と混合される軟ゼラチンカプセル剤として提供されうる。
【0058】
前記医薬組成物は、滅菌注射水溶液の形態でありうる。用いられうる許容可能なベヒクルおよび溶媒は、水、リンガー溶液および等張性塩化ナトリウム溶液である。
【0059】
滅菌注射製剤はまた、活性成分が油相に溶解されている滅菌注射用水中油型マイクロエマルションでありうる。例えば、活性成分は、大豆油およびレシチンの混合液中に最初に溶解されうる。次いで、油性溶液を水およびグリセロール混合液中に入れ、処理してマイクロエマルションを調製する。
【0060】
注射溶液またはマイクロエマルションは、局所ボーラス注入によって患者の血流に注入されうる。あるいは、本化合物の一定の血中濃度を維持するように溶液またはマイクロエマルションを投与するのに有効でありうる。かかる一定濃度を維持するために、持続静脈送達装置が利用されうる。かかる装置の一例は、Deltec CADD−PLUS(登録商標)Model5400静脈ポンプである。
【0061】
前記医薬組成物は、筋肉内および皮下投与のための滅菌注射溶液または油性懸濁液の形態でありうる。この懸濁液は、上記に記載される適当な分散剤もしくは湿潤剤および懸濁化剤を用いて公知技術によって製剤化されうる。
【0062】
本発明による化合物がヒト対象に投与されると、1日の投与量は、通常、年齢、体重、性別および各患者の反応性、ならびに患者の症状の重症度に応じて一般に変動する用量を用いて、処方医師によって決定される。
【0063】
固定用量として製剤化される場合、かかる併用剤は、上記に記載される用量範囲内で本発明の化合物、ならびにその認可された用量範囲内でその他の医薬的に活性な薬剤または治療を用いる。式Iの化合物のMSA塩はまた、併用剤が不適切である場合、公知の抗癌剤もしくは細胞毒性剤とともに連続的に投与されうる。本発明は、投与の順番で限定されるものではなく;式Iの化合物のMSA塩は、公知の抗癌剤もしくは細胞毒性剤の投与前もしくは後のいずれかに投与されてもよい。
【0064】
本化合物は、単回投与または2〜4回の分割投与で、約0.05から200mg/kg/日、好ましくは100mg/kg/日以下の用量範囲で投与されうる。
【0065】
典型的には、医薬的に活性な物質の固形物は、医薬的に活性な物質の製造、安定性および/または効力が固形物に依存しうるため、錠剤もしくはカプセル剤のような固形製剤の調製において重要である。一般に、結晶形態は、例えば、溶解性、密度、溶解速度および安定性などの均一な特性を有する医薬的に活性な物質を提供する。本発明において、化合物IのMSA塩の結晶形態N−1、N−2およびN−1/N−2は、安定な経口製剤の提供および/またはそれを必要とする患者への化合物IのMSA塩の形態の送達のための錠剤またはカプセル剤の製造に適した特性を有する。
【0066】
製造および特性測定の方法
結晶形態は、例えば、適当な溶媒からの結晶化もしくは再結晶化、昇華、融液からの成長、別の相からの固体相変態、超臨界流体からの結晶化およびジェット噴霧を含む様々な方法によって製造されうる。溶媒混合物からの結晶形態の結晶化または再結晶化のための技術には、例えば、溶媒の蒸発、溶媒混合物の低温化、分子および/またはその塩の過飽和溶媒混合物の種晶化、溶媒混合物の凍結乾燥、ならびに貧溶媒(対溶媒(countersolvent))の溶媒混合物への添加が含まれる。ハイスループット結晶化技術は、多形を含む結晶形態を調製するために用いられ得る。
【0067】
多形を含む薬物の結晶、薬物の結晶の製造方法および特性測定方法は、Byrn, S.R. et al., Solid−State Chemistry of Drugs, 2nd Edition, SSCI, West Lafayette、 Indiana (1999)に記載される。
【0068】
溶媒を用いる結晶化技術に関して、溶媒の選択は、典型的に、化合物の溶解性、化合物の安定性および結晶化技術などの1つまたはそれ以上の因子に依存する。合成に用いられる溶媒は、しばしば、操作を容易にするために選択される。溶媒の組み合わせは、例えば、化合物を第1の溶媒に溶解させて溶液を得て、続いて貧溶媒を加えて溶液中の化合物の溶解性を減少させ、結晶を形成させうる。貧溶媒は、化合物が低溶解性を示す溶媒である。
【0069】
結晶を調製するためのある方法において、化合物は、適当な溶媒中で懸濁および/または攪拌されてスラリーを生じ、加熱されて溶解が促進されうる。用語「スラリー」は、本明細書で用いられるように、固形中でさらなる量の化合物を含有して、所定温度で化合物および溶媒の不均一混合物を生じうる化合物の飽和溶液を意味する。
【0070】
種晶は、結晶化を促進するために結晶化混合物に加えられうる。播種(seeding)は、特定の多型の増殖を制御するために、または結晶生成物の粒径分布を制御するために用いられ得る。よって、必要とされる種晶の量の算出は、例えば、Mullin, J.W. et al., "Programmed Cooling of Batch Crystallizers," Chemical Engineering Science, 26:369-377 (1971)に記載されるように、利用可能な種晶のサイズおよび平均生成物粒子の所望サイズに依存する。一般に、小さいサイズの種晶は、バッチ中で結晶の成長を効率的に制御するために必要とされる。小さいサイズの種晶は、大きい結晶をふるいにかけるか、または粉砕することによって作り出されうる。結晶の粉砕は、所望の結晶形からの結晶化度に変化を一切生じないよう(すなわち、アモルファスまたは別の多型への変化)に留意しなければならない。
【0071】
冷却した結晶化混合物は、減圧下で濾過され、単離された固形物は、冷却した再結晶化溶媒などの適当な溶媒で洗浄され、窒素パージ下で乾燥されて所望の結晶形を生じうる。単離された固形物は、生成物の好ましい結晶形の形成を確認するために、固体核磁気共鳴、示差走査熱量測定、粉末X線回折などの適当な分光技術または分析技術によって分析されうる。生じた結晶形は、結晶化方法で元々用いられる化合物の重量を基準にして、約70重量%以上の単離収率、好ましくは90重量%以上の単離収率の量で生成されうる。生成物は、必要に応じて、共粉砕されうるか、またはメッシュスクリーンに通して生成物の塊を崩す(delump)。
【0072】
結晶形は、化合物IのMSA塩を調製するための最終工程の反応媒体から直接調製されうる。これは、例えば、最終工程段階で、化合物IのMSA塩の結晶形が結晶化されうる溶媒または溶媒混合物を用いることによって達成されうる。あるいは、結晶形は、蒸留または貧溶媒添加技術によって得られうる。このための適当な溶媒としては、例えば、アルコール類などのプロトン性極性溶媒およびケトン類などの非プロトン性極性溶媒を含む前記の非極性溶媒および極性溶媒が挙げられる。
【0073】
試料中の1種類より多い結晶形および/または多型の存在は、粉末X線回折(PXRD)または固体核磁気共鳴(ssNMR)分光法などの技術によって決定されうる。例えば、実験で測定されたPXRDパターンと、シミュレーションされたPXRDパターンとの比較での余分なピークの存在は、試料中の1種類より多い結晶形および/または多型を示しうる。シミュレーションされたPXRDは、単結晶X線データから算出されうる。Smith, D.K., "A FORTRAN Program for Calculating X-Ray Powder Diffraction Patterns," Lawrence Radiation Laboratory, Livemore, California, UCRL-7196 (April 1963)を参照のこと。
【0074】
本発明による化合物IのMSA塩の結晶形は、当業者に周知である様々な技術を用いて特徴付けられうる。化合物IのMSA塩の結晶形は、固定した分析温度での形態の単一結晶の単位格子測定に基づいて、標準的な操作条件および温度下で行われる単結晶X線回折法を用いて特徴付けられ、区別されうる。おおよその単位格子定数であるオングストローム(Å)、ならびに結晶格子体積、空間群、1格子あたりの分子および結晶密度は、例えば、25℃の試料温度で測定され得る。単位格子の詳細な説明は、出典明示により本明細書に取り込まれる、Stout et al., Chapter 3, X−Ray Structure Determination: A Practical Guide, Macmillan Co., New York (1968)で提供される。
【0075】
あるいは、結晶格子内の空間関係での原子の特有の配置は、実測された分率原子座標によって特徴付けられうる。結晶構造を特徴付ける別の方法は、回折プロファイルが、純粋な粉末物質を示すシミュレーションされたプロファイルと比較される、粉末X線回折分析によるものであり、好ましくは、両者は、同一の分析温度、および一連の2θ値(通常、4またはそれ以上)として特徴付けられる対象の形態についての測定で行われる。
【0076】
形態を特徴付けるその他の方法として、固体核磁気共鳴(ssNMR)、示差走査熱量測定(DSC)および熱重量分析(TGA)などが用いられうる。これらのパラメータはまた、対象の形態を特徴付けるために組み合わせて用いられうる。MSA塩の形態N−1およびN−2のためのssNMRには、図8および9が含まれる。
【0077】
MSA塩の形態N−1の特徴的な化学シフト(ppm1)は下記のとおりである:
【表4】

1外部TMSとの比較=0.0ppm
【0078】
MSA塩の形態N−2の特徴的な化学シフト(ppm1)は下記のとおりである:
【表5】

1外部TMSとの比較=0.0ppm
【0079】
結晶形は、下記に記載の試験方法のうちの1つまたはそれ以上を用いて分析した。
【0080】
単結晶X線測定(N−1)
グラファイトモノクロメーターでCu Kα照射(λ=1.54056Å)を備えた、Bruker SMART 2K CCD回折計を用いて、室温で回折データを得た。完全な一式のデータを、結晶と検出器の距離を4.98cmで、2θ範囲にわたり、ωスキャンモードを用いて得た。経験的な吸収補正には、回折計(Bruker AXS. 1998, SMART and SAINTPLUS. Area Detector Control and Integration Software, Bruker AXS, Madison, Wisconsin, USA)を有するSADABSルーティン(routine)を利用した。。最終単位格子パラメータを、全てのデータを用いて決定した。
【0081】
全ての構造は、直接的な方法により解析し、完全行列最小二乗技術により精密化し、SHELXTLソフトウェアパッケージ(Sheldrick, G.M., 1997, SHELXTL. Structure Determination Programs. Version 5.10, Bruker AXS, Madison, Wisconsin, USA)を用いた。精密化において最小化した関数は、Σw(|Fo|−|Fc|)2であった。Rは、Σ||Fo|−|Fc||/Σ|Fo|とし、Rw=[Σw(|Fo|−|Fc|)2/Σw|Fo21/2(式中、wは、観測強度における誤差に基づく適当な重み関数である)と定義する。示差FOURIER(登録商標)マップ(difference FOURIER map)を精密化の全段階で試験した。全ての非水素原子を異方性熱置換(anisotropic thermal displacement)パラメータで精密化した。水素結合で結合した水素原子を、最終的な示差FOURIER(登録商標)マップに位置づけ、その他の水素原子の位置は、標準的な結合の長さと角度を用いて理論上の配置から算出した。それらを等方的な温度因子に割り当て、固定パラメータとともに構造因子計算値に含めた。
【0082】
単結晶X線測定(N−2)
データは、Bruker−Nonius(BRUKER AXS, Inc., 5465 East Cheryl Parkway, Madison, WI 53711 USA)CAD4連続回折計で得た。単位格子パラメータは、25高角反射の実験用回折計装置の最小二乗解析により得た。強度は、θ−2θ可変走査法による一定温度でのCuKα照射(λ=1.5418Å)を用いて測定し、ローレンツ偏光因子についてのみ補正した。バックグラウンド計数は、走査時間の半分で走査の両端で収集した。あるいは、単結晶データは、CuKα照射(λ=1.5418Å)を用いてBruker−Nonius Kappa CCD2000システムで収集した。測定した強度データの索引付けおよび処理は、集積プログラムスイート(Collect program suite)(Collect Data collection and processing user interface: Collect: Data collection software, R. Hooft, Nonius B.V.(1998))中のHKL2000ソフトウェアパッケージ(Otwinowski, Z. et al. in Macromolecular Crystallography, Vol. 276, pp. 307-326, Academic, NY, publ., Carter, W.C. Jr. et al., eds. (1997))を用いて実行した。あるいは、単結晶データは、CuKα照射(λ=1.5418Å)を用いてBruker−AXS APEX2 CCDシステムで収集した。測定した強度データの索引付けおよび処理は、APEX2ソフトウェアパッケージ/プログラムスイート(APEX2 Data collection and processing user interface: APEX2 User Manual, v1.27; BRUKER AXS, Inc., 5465 East Cheryl Parkway Madison, WI 53711 USA)で実行した。
【0083】
必要であれば、結晶は、データ収集の間、オックスフォード極低温システム(Oxford Cryosystems Cryostream cooler: Cosier, J. et al., J. Appl. Cryst., 19:105 (1986))の冷却流で冷却した。
【0084】
構造は、直接的な方法によって解析し、マイナー部分に改良を施したSDP(SDP, Structure Determination Package, Enraf-Nonius, Bohemia NY 11716. SDPソフトウェアにおけるf’およびf’’を含む散乱因子は、"International Tables for Crystallography", Vol. IV, Tables 2.2Aおよび2.3.1, Kynoch Press, Birmingham, England (1974)から取得した)ソフトウェアパッケージまたは結晶学パッケージMAXUS(maXus solution and refinement software suite: S. Mackay, C.J. Gilmore, C. Edwards, M. Tremayne, N. Stewart, K. Shankland. maXus:回折データからの結晶構造の解析および精密化のためのコンピュータプログラム)もしくはSHELXTL((APEX2データ収集および処理ユーザーインターフェイス: APEX2 User Manual, Vol. 27; BRUKER AXS, Inc., 5465 East Cheryl Parkway Madison, WI 53711 USA)のいずれかを用いて実測した反射に基づいて精密化した。
【0085】
得られた原子パラメータ(座標および温度因子)は、完全行列最小二乗法により精密化した。精密化において最小化した関数は、Σw(|Fo|−|Fc|)2であった。Rは、Σ||Fo|−|Fc||/Σ|Fo|とし、Rw=[Σw(|Fo|−|Fc|)2/Σw|Fo21/2(式中、wは、観測強度における誤差に基づく適当な重み関数である)と定義する。距離マップは、精密化の全段階で試験した。水素原子は、等方性温度因子を用いて理論上の位置に導入したが、水素パラメータは変えなかった。
【0086】
特に示されていない限り、シミュレーションされた粉末X線回折パターンは、データ収集温度で単結晶原子パラメータから作成した。
【0087】
ハイブリッドPXRDパターン
「ハイブリッド」でシミュレーションされた粉末X線パターンは、文献(Yin. S. et al., American Pharmaceutical Review, 6(2):80 (2003))に記載されるように調製した。室温の格子パラメータは、CellRefine.xlsプログラムを用いて格子精密化を行うことによって得た。プログラムへの入力は、実験上の室温粉末パターンから得られた約10リフレクション(reflection)の2シータ位置を含み;対応するミラー指数hklを低温で収集した単結晶データに基づいて割り当てた。新規な(ハイブリッド)PXRDは、低温で決定した分子構造を方法の第一ステップで得た室温の格子に挿入することによって、(AlexまたはLatticeViewのいずれかのソフトウェアプログラムによって)算出した。この分子は、分子のサイズと形および格子本来の分子の位置を保ちつつ、分子間距離が格子と共に広がるように挿入される。
【0088】
粉末X線回折測定
X線粉末回折データは、Bruker C2 GADDSを用いて得た。照射はCuKα(40KV,50mA)であった。試料−検出器間距離は、15cmであった。粉末試料は、1mmまたはそれ以下の直径の密封したガラスキャピラリー中に置き、前記キャピラリーをデータ収集の間に回転させた。データは、少なくとも1000秒の試料露出時間で3≦2θ≦35°について収集した。得られた二次元の回折弧を積分して、3〜35°2θの範囲で0.02°2θの刻み幅(step size)を用いて、従来の一次元PXRDパターンを作成した。
【0089】
DSC
示差走査熱量測定(DSC)実験は、TA INSTRUMENTS(登録商標)モデルQ1000または2920で行った。試料(約2〜6mg)の重量をアルミニウムパン内で測定し、100分の1ミリグラムまで正確に記録し、DSCに移した。装置は、窒素ガスを用いて50mL/分でパージした。室温から300℃の間で10℃/分の加熱速度でデータを収集した。下向きの吸熱ピークをプロットした。
【0090】
TGA
熱重量分析(TGA)実験は、TA INSTRUMENTS(登録商標)モデルQ500もしくは2950で行った。容器の重量を測って試料(約7〜35mg)を白金皿に載せた。試料の重量を正確に測定し、装置により1000分の1ミリグラムまで記録した。加熱炉は、窒素ガスを用いて100mL/分でパージした。データは、室温から300℃の間で10℃/分の加熱速度で収集した。
【0091】
固体核磁気共鳴(ssNMR)
全ての固体C−13 NMR測定は、Bruker DSX−400、400MHz NMR分光計を用いて行った。高分解能スペクトルは、捕捉の間にTPPMプロトンを脱カップリングする傾斜(ramped)交差分極(RAMP−CP)手順を用いて得た(Bennett, A.E. et al, J. Chem. Phys.,103:6951 (1995); Metz, G. et al., J. Magn. Reson. A, 110:219-227 (1994))。試料の約70mgを4mmのキャニスターデザインジルコニア(canister-design zirconia rotor)に充填し、各実験に用いた。化学シフト(δ)は、38.56ppmに設定した高周波共鳴で外部基準のアダマンタンを基準とした(Earl, W.L. et al., J. Magn. Reson., 48:35-54 (1982))。
【実施例1】
【0092】
実施例
本発明は、発明の好ましい実施態様である下記の実施例によってさらに説明される。これらの実施例は、例示であって限定するものではなく、本願に添付された特許請求の範囲によって定義される発明の精神および範囲にあるその他の実施態様が存在しうることが理解されるべきである。
【0093】
化合物IのMSA塩の形態N−1の結晶化条件:
方法1:
680mgの化合物I(遊離塩基)を4.0mlのエタノール中に溶解させた。149mgのメタンスルホン酸(>99%純度)を1.0mlのエタノール中に溶解させた。前記酸溶液を前記遊離塩基溶液に加えた。得られた混合物を0.2μmのナイロンシリンジフィルターに通して濾過し、N2パージ環境下で蒸発させた。回収した固体試料を過剰量のアセトニトリルで洗浄し、真空濾過により単離してオフホワイト色の粉末を得た。
【0094】
方法2:
24mgの化合物I(遊離塩基)を0.4mlのアセトニトリル中に溶解させた。等モル量のアセトニトリル中のメタンスルホン酸溶液(1.0M)を遊離塩基溶液に加えた。得られた溶液に蓋をし、周囲条件で保存した。固体試料が数時間以内に溶液から晶出した。
【0095】
化合物IのMSA塩の形態N−2の結晶化条件:
方法1:
124mgの化合物I(遊離塩基)を0.8mlのエタノール中に溶解させた。26mgのメタンスルホン酸(>99%純度)を0.2mlのエタノール中に溶解させた。当該酸溶液を遊離塩基溶液に加えた。得られた溶液を0.45μmのPVDFシリンジフィルターに通して濾過し、周囲条件でゆっくり蒸発させて固体を得た。
【0096】
方法2:
化合物I(遊離塩基)およびメタンスルホン酸の1:1混合物を含有するアセトニトリル溶液を、周囲条件で急速に蒸発させて固体を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に図3に示されるような形態N−1および/またはN−2のPXRD特性を有する化合物I:
【化1】

(I)
のMSA塩の結晶形。
【請求項2】
前記形態N−1および/またはN−2が、(CuKαλ=1.5418Å)の2θ値:5.1±0.1、6.5±0.1、8.5±0.1、10.1±0.1、10.5±0.1、11.3±0.1、14.4±0.1、15.2±0.1、17.8±0.1、19.7±0.1、21.6±0.1に粉末X線回折パターンの特徴的ピークを有し、前記結晶形の測定が、NISTまたは他の適した標準物質で校正した2θを用いて、スピニングキャピラリーを備えた回折計(CuKα)で収集した高質パターンに基づいて室温で行われる、請求項1に記載の結晶形。
【請求項3】
形態N−1を含む化合物I:
【化2】

(I)
のMSA塩の結晶形。
【請求項4】
本質的に前記MSA塩の形態N−1からなる、請求項3に記載の結晶形。
【請求項5】
前記MSA塩の形態N−1が、実質的に純粋な形態である、請求項3に記載の結晶形。
【請求項6】
前記MSA塩の形態N−1が、実質的に図1に示されるようなシミュレーションされた粉末X線回折パターンによって特徴付けられる、請求項3に記載の結晶形。
【請求項7】
前記MSA塩の形態N−1が、実質的に図1に示されるような実測された粉末X線回折パターンによって特徴付けられる、請求項3に記載の結晶形。
【請求項8】
前記形態N−1が、(CuKαλ=1.5418Å)の2θ値:5.1±0.1、6.5±0.1、8.5±0.1、10.1±0.1、10.5±0.1、11.3±0.1、14.4±0.1、15.2±0.1、17.8±0.1、19.7±0.1、21.6±0.1に粉末X線回折パターンの特徴的ピークを有し、前記結晶形の測定が、NISTまたは他の適した標準物質で校正した2θを用いて、スピニングキャピラリーを備えた回折計(CuKα)で収集した高質パターンに基づいて室温で行われる、請求項3に記載の結晶形。
【請求項9】
前記形態N−1が、下記:
格子サイズ:
a=16.3032Å
b=9.5960Å
c=18.0141Å
α=90.0°
β=104.814°
γ=90.0°
空間群:P2
化合物I分子/非対称ユニット:2
(ここで、前記結晶形の測定は、約25℃の温度で行われる)
と実質的に同等の単位格子パラメータによって特徴付けられる、請求項3に記載の結晶形。
【請求項10】
前記形態N−1が、下記::
a)格子サイズ:
a=16.3032Å
b=9.5960Å
c=18.0141Å
α=90.0°
β=104.814°
γ=90.0°
空間群:P2
化合物I分子/非対称ユニット:2
(ここで、前記結晶形の測定は、約25℃の温度で行われる)、
b)5.1±0.1、6.5±0.1、8.5±0.1、10.1±0.1、10.5±0.1、11.3±0.1、14.4±0.1、15.2±0.1、17.8±0.1、19.7±0.1、21.6±0.1から選択される(CuKαλ=1.5418Å)の2θ値に粉末X線回折パターンの特徴的ピーク(前記結晶形の測定は、NISTまたは他の適した標準物質で校正した2θを用いて、スピニングキャピラリーを備えた回折計(CuKα)で収集した高質パターンに基づいて室温で行われる);および/または
c)約100℃の温度まで無視できる重量減少を示す熱重量分析サーモグラム
のうちの1つまたはそれ以上によって特徴付けられる、請求項3に記載の結晶形。
【請求項11】
形態N−2を含む、化合物I:
【化3】

(I)
のMSA塩の結晶形。
【請求項12】
前記形態N−2が、5.1±0.1、6.0±0.1、7.4±0.1、9.3±0.1、10.2±0.1、10.5±0.1、11.0±0.1、11.8±0.1、14.5±0.1、15.3±0.1、17.9±0.1、21.6±0.1の2θ値(CuKαλ=1.5418Å)に粉末X線回折パターンの特徴的ピークを有し、前記結晶形の測定が、NISTまたは他の適した標準物質で校正した2θを用いて、スピニングキャピラリーを備えた回折計(CuKα)で収集した高質パターンに基づいて室温で行われる、請求項11に記載の結晶形。
【請求項13】
前記形態N−2が、下記:
格子サイズ:
a=16.250Å
b=9.576Å
c=34.736Å
α=90.0°
β=90.0°
γ=90.0°
空間群:P2
化合物I分子/非対称ユニット:2
(ここで、前記結晶形の測定は、約−50℃の温度で行われる)
と実質的に同等の単位格子パラメータによって特徴付けられる、請求項11に記載の結晶形。
【請求項14】
請求項1に記載の結晶形および医薬的に許容される担体または希釈剤を含む、医薬組成物。
【請求項15】
請求項2に記載の結晶形および医薬的に許容される担体または希釈剤を含む、医薬組成物。
【請求項16】
請求項11に記載の結晶形および医薬的に許容される担体または希釈剤を含む、医薬組成物。
【請求項17】
増殖性疾患の治療を必要とする哺乳類に、治療上有効量の化合物I
【化4】

(I)
を投与することを特徴とする増殖性疾患の治療方法であって、前記化合物Iが請求項1に記載の結晶形として提供されるものである方法。
【請求項18】
前記増殖性疾患が、非小細胞性肺癌または膵臓癌である、請求項17に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2013−518889(P2013−518889A)
【公表日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−552067(P2012−552067)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際出願番号】PCT/US2011/023521
【国際公開番号】WO2011/097331
【国際公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(391015708)ブリストル−マイヤーズ スクイブ カンパニー (494)
【氏名又は名称原語表記】BRISTOL−MYERS SQUIBB COMPANY
【Fターム(参考)】