説明

(S)−3−[(1−ジメチルアミノ)エチル]−フェニル−N−エチル−N−メチル−カルバミン酸の効率的製造方法

【課題】アルツハイマー病、ダウン症候群、ハンチントン舞踏病、フリードリヒの運動失調等の疾病の治療に有用なリバスチグミンおよび医薬学上許容し得るその塩類の製造方法を提供する。
【解決手段】アルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩、重炭酸塩、アルコキシドからなる群から選択される塩基の存在下、不活性有機溶媒中、高温で(S)−3−(1−ジメチルアミノエチル)フェノールとエチルメチル塩化カルバモイルとを反応させる工程と、下式(I)で示される(S)−3−[(1−ジメチルアミノ)エチル]−フェニル−N−エチル−N−メチル−カルバミン酸(リバスチグミン)を分離する工程とを含むリバスチグミンおよび医薬学上許容し得るその塩類の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、置換フェニルカルバミン酸および医薬学上許容し得るその塩類の製造方法に関する。これら化合物は現在医薬学的に注目されている。置換フェニルカルバミン酸および医薬学上許容し得るその塩類は、中枢神経系においてコリン作用を起こすのに有用であり、アルツハイマー病、ダウン症候群、ハンチントン舞踏病、フリードリヒの運動失調等の疾病の治療に有用である。
【化1】

【0002】
(S)−3−[(1−ジメチルアミノ)エチル]−フェニル−N−エチル−N−メチル−カルバミン酸(I)は、米国特許第5,602,176号明細書で参照された医薬品組成物の活性成分である。この化合物は、脳におけるアセチルコリンエステラーゼ活動の選択的抑制を誘導するためにも使用される。
【背景技術】
【0003】
化合物(I)、すなわち(S)−3−[(1−ジメチルアミノ)エチル]−フェニル−N−エチル−N−メチル−カルバミン酸(I)の製造方法は文献で知られている。
【化2】

【0004】
化合物(I)の製造のためには、国際公開第2004/037771号パンフレットで参照されたように、中間体3−(1−ジメチルアミノエチル)フェノールが必要である。前記中間体は、第1の工程においてTi(OiPr)すなわちチタンテトライソプロポキシド、水素化ホウ素ナトリウム、ジメチルアミンを使用することにより製造される。第2の工程では、HBrが使用される。この製法は、Ti(OiPr)を使用するために高価となる。Ti(OiPr)は可燃性液体であり刺激性であるので、取り扱いが難しい。また、反応の後処理のためにアンモニアが使用され、さらに反応残渣チタン残留物は、排水処理問題を引き起こし環境汚染物として残る。水素化ホウ素ナトリウムは、使用される高価な還元剤の一つであり、その取り扱いは危険であり、反応の後処理だけでなく添加のためには極めて熟練した要員を必要とする。HBrは取り扱い中に重度の火傷を引き起こす。HBrもまた毒性である。また、J.Labeled(Comp. and Radiopharm.1997年、39(8)、651−668)は、脱メチル化の同じ工程のためにHBrを使用している。メトキシ官能基の脱メチル化のためにHBrを使用することは最終製品の品質上不利である。工業規模という点では、このような試薬の使用量は非常に大きく、従って、このような安全でない試薬の使用を避ける必要がある。
【0005】
欧州特許第359647号明細書はモルヒナン類似体の製造方法を開示し、ここでは、オルト−メトキシ化合物の脱メチル化のためにメタンスルホン酸のようなスルホン酸を使用する。しかしながら、工業規模では、このような高価で侵食性があり毒性の試薬は避ける必要がある。
【0006】
米国特許第4,948,807号明細書および米国特許第5,602,176号明細書に開示される化合物(I)の製法は、イソシアナートまたはカルバモイルハロゲン化物(carbamoly halides)を介しており、ここでは化合物(I)は、低アルキルとしてフェニルカルバミン酸の置換基を有する。イソシアナート、特には置換基として低アルキル基を有するものは、その毒性のため危険である。乾燥したアセトニトリルまたはベンゼンのような溶剤の使用は、イソシアナートまたはカルバモイルハロゲン化物を介した化合物(I)の製造のために必要である。このような溶剤は自然爆発を引き起こし得るので、このような高価で発癌性の溶剤を使用した工業的製法は避ける必要がある。水素化ナトリウムのような塩基は、反応処理だけでなく貯蔵、取り扱いという点でいくつかの安全対策を要するので、大規模な反応に関してはその使用を避けることが必要である。また、使用する水素化ナトリウムは2倍等量ほどであり、これは安全上の問題とは別に反応の後処理中に制御しがたい発熱状態を引き起こし様々な不純物の生成をもたらす。
【0007】
国際公開第03/101917号パンフレットは、鍵中間体の一つが、4−ニトロフェニルクロロホルメートから得られるN−エチル−N−メチル−4−ニトロフェニル・カルバミン酸である製法を開示する。この製法は、3−(1−ジメチルアミノエチル)フェノールの製造について教示しない。むしろ、この製造方法は、[1−(3−メトキシフェニル)エチル]ジエチルアミンを使用することによる。その脱メチル化反応は50%硫酸とDL−メチオニンを使用することにより行われる。工業規模でのDL−メチオニンの使用は、それが皮膚、眼、呼吸器の刺激物であるので避ける必要がある。また、DL−メチオニンの使用は製造費を増加させる。その反応時間は、また、少なくとも28時間であり、これはリバスティグマイン(rivastigmine)までの全反応シーケンスを終了するための時間を増加させる。したがって、3−(1−ジメチルアミノエチル)フェノールを得るには多くの工程を経る。したがって、3−(1−ジメチルアミノエチル)フェノールを得るための工程数を削減する必要がある。
【0008】
Jiangらは(Huadong Shifan Daxue Xuebao,Ziran Kexueban(2001),(1),61−65./CAN 136:183572 AN 2001:429602)、リバスティグマインが次の4工程によりケトンから得られることを開示している。すなわち(i)ケトンをオキシムに転換する、(ii)アミンに還元しその後(iii)アミンの脱メチル化を行う、最後に(iv)それをカルバミン酸に転換し、ラセミ体N−エチル−3−[(1−ジメチルアミノ)エチル]−N−メチル−フェニル−カルバミン酸(II)を得る。したがって、ラセミ体カルバミン酸(II)を得るためのみに、事実上4回の官能基変換がある。官能基変換の回数が多いことは、主に収量損失だけでなく、試薬および溶剤の高コスト、高いリアクター占有率、多くの設備、より多くの労力等をもたらす。したがって、中間体および、ひいては最終リバスティグマインの効率的な製造の必要性は、工業界にとって極めて重要なことである。
【0009】
国際公開第2005/061446号パンフレットは、ヒドロキシフェニルケトンを出発物質とするリバスティグマインの製造方法を開示する。上記出発化合物を、トリエチルアミンとエチルメチル塩化カルバモイル(ethyl methyl carbamoyl)で処理し、フェニルカルバミン酸ケトンを得る。これを、シアノホウ水素化ナトリウム存在下でジメチルアミンによって処理するとアミノアルキルフェニル・カルバミン酸を得る。これを次に、水性メタノール中でジ−O−p−トルイル酒石酸により分割しリバスティグマインを得る。この方法は、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(sodium cyanoborohydride)のような毒性の化合物を採用するという欠点を有し、工業規模で採用された場合、極めて危険である。こうして製造されたリバスティグマインは、所望の純度を得るために数回結晶化されなければならない。この繰り返される精製工程は全収量をかなり低下させる。
【0010】
したがって、工程数が削減された製造方法を開発する必要がある。同様に、製造方法を経済的に実現可能にし、工業的に使いやすく、環境に優しくするためには、Ti(OiPr)の使用を避ける必要がある。水素化ホウ素ナトリウムの使用を避ければ、製法をより単純に、より安全にすると同時に、極めてコスト効率のよいものにするであろう。また、HBrの使用は避ける必要がある。製造方法は、イソシネートと塩化カルバモイルの使用をさけるべきである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、Ti(OiPr)、水素化ホウ素ナトリウムおよびHBrの使用を回避することである。本発明の別の目的は、大規模製造に対し経済的である製法を提供することである。さらに、別の目的はイソシネートと塩化カルバモイルを使用しない製法を提供することである。さらに、本発明の別の目的は、カルボニルジイミダゾールを使用することによりリバスティグマインを提供することである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明による製造方法は反応スキーム−1に従う。化合物(III)を触媒存在下でアンモニアと反応させ、還元アミノ化の生成物3−(1−アミノエチル)フェノールすなわち化合物(IV)を得る。使用する触媒はラネーニッケルである。反応に使用する溶剤はメタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール等のアルコールである。好ましいアルコール溶剤はメタノールである。
【化3】

【0013】
反応スキーム−Iに示すように、本発明によると、ラセミ体アミン(IV)すなわち3−(1−アミノエチル)フェノールは、ジメチルアミン生成物(V)すなわち3−(1−ジメチルアミノエチル)フェノールにされる。アミンの脱メチル化はギ酸とホルムアルデヒドを使用することにより行われる。こうしてラセミ化合物(V)すなわち3−(1−ジメチルアミノエチル)フェノールが得られる。化合物(V)を使用することにより、次の2つの方法が採用される。方法−1:フェノール化合物(V)のカルバミン酸への転換、続いてカルバミン酸の分割。方法−2:3−(1−ジメチルアミノエチル)フェノールの分割、続いてカルバミン酸の生成。
【0014】
方法−I:
a)3−ヒドロキシル−1−フェニルエチルアミン(III)の製造
方法−Iの第1の工程は、アンモニア存在下でラネーニッケルにより化合物(III)を還元アミノ化することを含む。
【0015】
本実施形態では、化合物(IV)の製造方法は、化学式(III)の3−ヒドロキシアセトフェノンをアルコール、水、またはその混合液等のヒドロキシル化溶剤からなる群から選択される有機溶剤に添加する工程を含む。使用するアルコールは、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、n−ブタノール等からなる群から選択される。好ましいアルコールはメタノールである。
【0016】
還元アミノ化は、純粋なアルコール中で、または水を混合したアルコール中で行われる。水酸化アンモニウム、次いでラネーニッケルが添加される。この混合物は、反応が完了するまで水素ガス存在下、オートクレーブ内で加圧されながら加熱される。ラネーニッケルは濾過により除去され、濾液は濃縮された。場合によっては、この残留物はその酸付加塩を生成することにより精製される。
【0017】
b)3−(1−ジメチルアミノエチル)フェノール(V)の製造
本工程は、ギ酸存在下でホルムアルデヒドと反応させることによりアミノ基をメチル化する方法に関する。
【0018】
化学式(IV)の3−(1−ジメチルアミノエチル)フェノールを、過剰ギ酸とホルムアルデヒド存在下、還流温度でメチル化した。化学式(V)の化合物は、無機塩基が水溶液によって中和され、有機溶剤により抽出され、そして有機層が濃縮されたことにより単離された。
【0019】
c)3−[1−(ジメチルアミノ)エチル]フェニルN−エチル−N−メチルカルバミン酸(II)の製造
この工程は、有機溶剤中および塩基存在下で、エチルメチル塩化カルバモイルと化学式(V)の化合物とを反応させることによるカルバミン酸の製造に関する。
【0020】
化学式(V)の3−[1−(ジメチルアミノ)エチル]フェノールを、脂肪族炭化水素、エステル、塩素化炭化水素、ニトリル等からなる群から選択される有機溶剤、好ましくはアセトニトリルのようなニトリルに添加した。エチルメチル塩化カルバモイルをその反応混合物に添加した。そして反応の完了まで反応混合物を加熱した。化学式(II)の化合物は反応混合物を、室温まで冷却し、有機溶剤により抽出することで単離された。有機層を濃縮し化学式(II)の化合物を得た。上記の得られた化学式(II)のカルバミン酸は分割され、(S)−N−エチル−3−[(1−ジメチルアミノ)エチル]−N−メチル−フェニル−カルバミン酸(I)を得た。
【0021】
方法−2:
3−(1−ジメチルアミノエチル)フェノールは、光学活性な酒石酸、ジ−O−トリル酒石酸、ジベンジル酒石酸、マンデル酸、カンファースルホン酸等からなる群から選択されるような様々な分割剤を使用して分割される。さらなる反応では、光学的に純粋な化合物(V−a)が、所望のカルバミン酸すなわち(S)−N−エチル−3−[(1−ジメチルアミノ)エチル]−N−メチル−フェニル−カルバミン酸(I)の製造のために使用される。
【0022】
カルバミン酸の生成は、アミン単位とフェノール酸単位との間にカルボニル基を挿入するための試薬であるカルボニルジイミダゾール、トリホスゲン、メチル炭酸などを用いて、様々な方法により行われる。カルボニル挿入試薬は、最初に、フェノール酸OH基と反応され、次にアミン成分と反応されてうる。場合によっては、カルボニル挿入試薬を最初にアミンと反応させ、次に、フェノール酸OH基と反応させる。あるいは、4−ニトロフェニルクロロホルメートを3−(1−ジメチルアミノエチル)フェノールと反応させ、次に、前記生成物とN−エチルメチルアミンを反応させる。反応が速く化学式(II)の生成物の単離が容易であったので、カルボニル挿入試薬のうち最適な試薬と認められたものはカルボニルジイミダゾールであった。方法−IIは、化合物(V)の製造までは方法−Iと同様である。
【0023】
i)化学式(V−a)の(S)−3−(1−ジメチルアミノエチル)フェノールを得るための化学式(V)の3−(1−ジメチルアミノエチル)フェノールの分割
方法−IIにおける第1の工程は、化学式(V)の3−(1−ジメチルアミノエチル)フェノールを得て、カンファースルホン酸を利用することにより化合物(V)を分割し、化学式(V−a)の(S)−3−(1−ジメチルアミノエチル)フェノールを得る。
【0024】
ii)リバスティグマインの製造
a)カルボニルジイミダゾールとエチルメチルアミンを利用することによるリバスティグマインの製造
リバスティグマインの製造は、カルボニルジイミダゾール(CDI)存在下で(S)−3−(1−ジメチルアミノエチル)フェノールまたはそのラセミ混合物とエチルメチルアミンとを反応させることを含む。この反応は、フェノール酸素とエチルメチルアミンの窒素原子間にカルボニル基を挿入することにより化合物(V−a)のカルバミン酸誘導体すなわち化学式(I)のリバスティグマインを製造することを含む。エチルメチル塩化カルバモイル、イソシアナート、ホスゲンのような危険な試薬を避け、カルボニルジイミダゾールが初めてリバスティグマインの製造のために使用されたと指摘することは適切である。
【0025】
その反応は、(S)−3−(1−ジメチルアミノエチル)フェノール(V−a)またはそのラセミ体である化学式(V)を有機溶剤へ添加することを含む。この有機溶剤は、脂肪族炭化水素系溶剤、エステル、塩素化溶剤等からなる群から選択される。好ましい溶剤は塩素化溶剤である。塩素化溶剤は、ジクロロメタン、二塩化エチレンおよびクロロホルムからなる群から選択される。好ましい塩素化溶剤はジクロロメタンである。使用される塩素化溶剤の量は、化合物(V−a)または(V)の1グラム当たり2〜20体積である。使用される溶剤の好ましい量は、化合物(V−a)または(V)の1グラム当たり4〜10体積である。
【0026】
カルボニルジイミダゾールをこの反応混合物に添加する。添加するカルボニルジイミダゾールの量は、化合物(V−a)または(V)の1モル当たり、1.5〜3.0モルである。添加するカルボニルジイミダゾールの好ましい量は、化合物(V−a)または(V)の1モル当たり、1.75〜2.0モルである。反応混合物は、10〜15時間の間還流され、その反応はHPLCにより観察される。反応混合物は0〜10℃で冷却され、エチルメチルアミンを添加する。添加するエチルメチルアミンの量は、化合物(V−a)または(V)の1モル当たり、1.0〜3.0モルである。添加するエチルメチルアミンの好ましい量は、化合物(V−a)または(V)の1モル当たり、1.75〜2.25モルである。反応混合物は室温で4〜6時間撹拌される。
【0027】
反応完了後、混合物は水で急冷される。有機層は分離され、無機塩基の希薄水溶液で洗浄される。無機塩基は、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等から選択される。好ましい無機塩基は水酸化ナトリウムである。有機層は、塩酸、硫酸のような鉱酸の希薄溶液で洗浄される。好ましい鉱酸は塩酸である。次に、有機層は水酸化アンモニウムの希薄溶液で処理され、有機溶剤により抽出される。有機溶剤は、脂肪族炭化水素、塩素化炭化水素、エステル等からなる群から選択される。好ましい有機溶剤は、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等からなる群から選択される脂肪族炭化水素である。
【0028】
抽出後、有機層は濃縮され、99%の光学純度を有する化学式(I)の化合物、または化学式(II)の化合物すなわちラセミ体リバスティグマインを得る。ラセミ体リバスティグマインが、標準的な方法により分割されることにより、化学式(I)のリバスティグマインを得る。
【0029】
こうして、最終工程において化学式(II)のラセミ体リバスティグマインの分割を回避することにより、そして、カルボニルジイミダゾールやエチルメチルアミンのように、有害でなく、安全で、容易に入手可能な試薬を使用することにより、その製法は費用効率が高く、環境にやさしく、工業目的に好適なものとなる。
【0030】
エチルメチル塩化カルバモイルを使用した(S)−3−(1−ジメチルアミノエチル)フェノール(V−a)からのリバスティグマインの製造
本方法は、弱無機塩基または弱有機塩基存在下での(S)−3−(1−ジメチルアミノエチル)フェノール(V−a)とエチルメチル塩化カルバモイルとの反応を含む。
【0031】
上記反応を開示する従来技術の方法は、工業規模で有害な水素化ナトリウムのような強塩基の利用を開示していることを指摘することは適切である。さらに、リバスティグマインを製造するために所望の中間体(S)−3−(1−ジメチルアミノエチル)フェノール(V−a)の異性体が使用される際、必要とされるエチルメチル塩化カルバモイルの量が半分のみとなり、これにより本製法を、工業規模的に費用効率が高いものにするということに留意することは重要である。
【0032】
化学式(V)の3−[1−(ジメチルアミノ)エチル]フェノールを、脂肪族炭化水素、エステル、塩素化炭化水素、ニトリル等からなる群から選択される有機溶剤に添加した。好ましい溶剤はニトリルである。ニトリルは、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル等からなる群から選択される。好ましい溶剤はアセトニトリルである。使用するアセトニトリルの量は、化合物(V−a)の1グラム当たり5〜20倍の体積のアセトニトリルである。アセトニトリルの好ましい体積は、化合物(V−a)の1グラム当たり10〜15倍の体積のアセトニトリルである。無機塩基または有機塩基からなる群から選択される塩基を、混合物に添加する。好ましい塩基は無機塩基である。無機塩基は、アルカリ金属の炭酸塩、重炭酸塩、アルコキシド、またはアルカリ土類金属の炭酸塩、重炭酸塩からなる群から選択される。好ましい無機塩基はアルカリ金属の炭酸塩である。無機塩基は、炭酸リチウム、炭酸ナトリウムまたは炭酸カリウムからなる群から選択される。好ましい無機塩基は炭酸カリウムである。使用する炭酸カリウムの量は、化学式(V−a)の化合物の1モル当たり1.0〜4.0モルである。炭酸カリウムの好ましい量は、化学式(V−a)の化合物の1モル当たり2.75〜3.25モルである。
【0033】
エチルメチル塩化カルバモイルを反応混合物に添加した。添加したエチルメチル塩化カルバモイルの量は、化学式(V−a)の化合物の1モル当たり1.0〜1.5モルである。その反応は60〜90℃の温度で行われた。好ましい温度は70〜80℃であった。
【0034】
反応の完了後、混合物は室温まで冷却され濃縮された。残留物は水で希釈され、そして有機溶剤により抽出され化学式(I)の生成物を得た。こうして、本利点は、半分の量のみのエチルメチル塩化カルバモイルを利用することによって、本製法を工業規模的に費用効率が高い好適なものにする点にある。
【0035】
本発明の製法について、実施例を参照し以下に説明するが、これらは単なる例示であって、いかなる方法も本発明の範囲を限定するように解釈すべきでない。
【実施例】
【0036】
3−ヒドロキシル−1−フェニルエチルアミン(IV)の製造
オートクレーブ中で80℃、10kg/cmの水素圧力、ラネーニッケル(5gm)存在下で、アンモニア性メタノール(250ml)により、3−ヒドロキシアセトフェノン(25gm)が還元アミノ化された。12〜14時間後、生成物は、ラネーニッケルを除去し濾液を濃縮することにより単離された。その生成物は、その塩酸塩を作成し、酢酸エチル(100ml)により抽出し苛性溶液によりpH11〜12になるまで中和することにより、さらに精製され、70%の収量を得た。
収量:21.25gm
%収量:85%
HPLC純度:98−99%
【0037】
3−(1−ジメチルアミノエチル)フェノール(V)の製造
ホルムアルデヒドの2等量、ギ酸の4等量により、3−ヒドロキシ−1−フェニルエチルアミン(10gm)がN−アルキル化された。その反応は90℃で10〜12時間行われた。反応混合物は苛性溶液により中和され、酢酸エチル(3×50l)により抽出された。さらなる濃縮により、70%収量の所望生成物を得た。
収量:80−90gm
%収量:70%
HPLC純度:97%
【0038】
3−[1−(ジメチルアミノ)エチル]フェニル−N−エチル−N−カルバミン酸メチル(II)の製造
3−(1−ジメチルアミノエチル)フェノール(10gm)とエチルメチル塩化カルバモイル(10gm)の縮合反応は、炭酸カリウム(25gm)とアセトニトリル(150ml)存在下で70〜80℃で行われた。反応の完了後、反応混合物は30〜35℃の水(250ml)の中で急冷され、そして酢酸エチル(100ml)により抽出された。酢酸エチルを留去させることにより、70%収量の所望化合物を得た。
収量:80−85gm
%収量:66.0%
HPLC純度:99%
【0039】
(−)−S−3−[1−(ジメチルアミノ)エチル]フェニル−N−エチル−N−カルバミン酸メチル(I)の製造
メタノール(20ml)と水(10ml)中に(+)−O、O’−ジトルイル酒石酸(ditoluyltartaric acid)(16gm)を用いてラセミ化合物(10gm)を分割し、低温状態下で6gmの所望異性体を得た。純粋な異性体は水とメタノール(1:2)の混合液中における結晶化(3度)後に得られた。酒石酸塩(6gm)を苛性溶液により処理し、ジクロロメタンで抽出し、真空内で濃縮して2gmの浅黄色の油を得た。
収量:20−25gm
%収量:20%(w/w)
HPLC純度:99%
【0040】
(S)−3−(1−ジメチルアミノエチル)フェノール(V−a)の製造
3−(1−ジメチルアミノエチル)フェノール(25g、0.15モル)を酢酸エチル(125ml)に添加し、次にD−(+)−10−カンファースルホン酸(35g、0.15モル)を添加した。反応混合物は還流温度まで加熱された。メタノール(17ml)を添加した。反応混合物は30分間還流され、10℃で濾過され、化学式(V−a)の化合物を得た。場合によって、得られた塩を、さらに、酢酸エチルとメタノールの混合液から再結晶させた。
収量:6.25−7.5gm
%収量:25−30%
HPLC純度:98%
【0041】
エチルメチル塩化カルバモイルを利用した(S)−3−(1−ジメチルアミノエチル)フェノール(V−a)からのリバスティグマインの製造
無水炭酸カリウム(31.5gm、0.228モル)およびアセトニトリル(250ml)存在下で、(S)−3−(1−ジメチルアミノエチル)フェノール(V−a;25gm;0.15モル)とエチルメチル塩化カルバモイル(20gm、0.165モル)とを反応させ、加熱した。反応の完了後、反応混合物は濾過され、濾液は濃縮され生成物を得た。生成物は、場合によって、酸塩基処理により精製された。
収量:27gm
%収量:74%
純度:99%(HPLCによる)
【0042】
CDIおよびエチルメチルアミンを介した3−[1−(ジメチルアミノ)エチル]フェニル−N−エチル−N−カルバミン酸メチルの製造
3−(1−ジメチルアミノエチル)フェノール(10gm、0.06モル)をジクロロメタン(50ml)に添加し、次に、カルボニルジイミダゾール(20g、0.123モル)を添加した。反応混合物は12時間還流され、次に、反応混合物は5〜10℃まで冷却された。エチルメチルアミン(7.08gm;2.0モル)を混合物に添加し、反応完了まで4〜6時間撹拌した。反応を停止するために水(100ml)を添加した。ジクロロメタン層は分離され、10〜15℃で10%NaOH溶液50mlにより処理された。次に、有機層は希塩酸により処理され、アンモニア溶液により中和され、ヘキサンにより抽出された。ヘキサン層は濃縮され化合物(I)を得た。
【0043】
リバスティグマイン水素酒石酸(hydrogen tartrate)の製造
(−)−S−3−[1−(ジメチルアミノ)エチル]フェニル−N−エチル−N−カルバミン酸メチル(I)(100gm;1.0モル)とL−酒石酸(60gm;l.0モル)をアセトン(1000ml)に添加し、この混合液を60℃で1.0時間加熱し、透明な混合液を得た。次に、化合物(I)の酒石酸塩を完全に析出させるために、これを冷却した。化合物の酒石酸塩を濾過し乾燥した。
収量:135gm
%収量:85%
HPLC純度:99%
【0044】
本製法の利点は、以下の2点である。
1.本方法は、カルバモイル官能基(carbamoyl function)を得るためにN,N−カルボニルジイミダゾールのような容易に入手可能で、産業上安全な原料を利用する。N,N−カルボニルジイミダゾールは、リバスティグマインの製造のためにこれまで使用されていないことに留意されたい。
【0045】
2.N−エチル−N−メチル塩化カルバモイルのようなカルバミン酸の製造に使用される試薬は非常に高価である。特に、望ましくない異性体(存在しない)が当該反応に関与しないので、カルバミン酸の製造に使用されるN,N−カルボニルジイミダゾール等の試薬は、その使用量が半分のみですむことになる。したがって、本製造方法は工業的に費用効率が高い。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式(I)のリバスティグマインの製造方法であって、
【化1】

アルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩、重炭酸塩、アルコキシドからなる群から選択される塩基の存在下かつ高温で、不活性有機溶媒中で化学式(V−a)の(S)−3−(1−ジメチルアミノエチル)フェノールとエチルメチル塩化カルバモイルとを反応させる工程と、
【化2】

化学式(I)の化合物を分離する工程と、を含む方法。
【請求項2】
前記有機溶媒は、脂肪族炭化水素、エステル、塩素化炭化水素、ニトリルからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記有機溶媒は、ニトリルである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ニトリルは、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリルからなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ニトリルは、アセトニトリルである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記アセトニトリルの体積は、前記化合物(V−a)の1グラム当たり10〜15mlである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記塩基は、アルカリ金属の炭酸塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記塩基は、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムからなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記塩基は、炭酸カリウムである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記炭酸カリウムの量は、前記化合物(V−a)の1モル当たり1.0〜4.0モルである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記エチルメチル塩化カルバモイルの量は、前記化合物(V−a)の1モル当たり1.0〜1.5モルである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
化学式(I)の前記化合物は、反応混合物を水で急冷し、次に有機溶媒により抽出し、そして前記有機層を濃縮することにより前記反応混合物から分離される、請求項1に記載の方法。


【公開番号】特開2012−72171(P2012−72171A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259013(P2011−259013)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【分割の表示】特願2007−539647(P2007−539647)の分割
【原出願日】平成17年10月29日(2005.10.29)
【出願人】(506369162)エムキュア ファーマシューティカルズ リミテッド (7)
【Fターム(参考)】