説明

1−アルキルカルボニルオキシ−3−置換フェニル−プロペン化合物の製造方法

【課題】香料、医農薬品、有機合成薬品の中間体として有用である1−アルキルカルボニルオキシ−3−置換フェニルプロペン化合物を、簡便且つ収率良く得る製法を提供する。
【解決手段】11〜13族元素、スズ及びランタノイド元素のトリフラート化合物及びハロゲン化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種を含む触媒の存在下、アルコキシ置換ベンゼンとα,β−不飽和アルデヒドとカルボン酸無水物を反応させることを特徴とする、式(4)で表わされる1−アルキルカルボニルオキシ−3−置換フェニルプロペン化合物の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香料、医農薬品、有機合成薬品の中間体として有用である1−アルキルカルボニルオキシ−3−置換フェニル−プロペン化合物の製造法に関する。特に下式(4)においてORがメトキシ基、Rがメチル基、Rが水素原子、mが0、更にnが1である1−メチルカルボニルオキシ−3−(3−メトキシフェニル)−2−メチル−プロペンは、加水分解により香料として有用な3−(3−メトキシフェニル)−2−メチル−プロピオンアルデヒドに誘導することが出来る(非特許文献1)。
【0002】
【化1】

【0003】
(式中、OR及びORは、それぞれ独立した炭素原子数1〜4のアルコキシ基を表わし、これら置換基が隣接する場合、互いに結合してメチレンジオキシ基、若しくはエチレンジオキシ基を形成しても良い。mは0〜4の整数を表し、nは1〜5の整数を表し、Rは炭素原子数1〜10のアルキル基を表わし、R及びRは、それぞれ独立した水素原子又は炭素原子数1〜10のアルキル基を表わし、互いに結合して環を形成しても良い。また、本化合物は、立体異性体を含む。)
【背景技術】
【0004】
前記式(4)に示される1−アルキルカルボニルオキシ−3−置換フェニル−プロペン化合物の合成法としては、例えば、非特許文献1に、1,2−ジメトキシベンゼンとメタリリデンジアセテートとを三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体で活性化した四塩化チタンの存在下に反応させて、1−メチルカルボニルオキシ−3−(3,4−ジメトキシフェニル)−2−メチル−プロペンを合成する方法が記載されているが、収率は62%と不十分であった。同合成法を発明者が追試した結果、収率は12%と更に低く、副生成物を多数生じたことにより反応液は褐色となった(比較例1参照)。
【0005】
また、特許文献2にはアルコキシ置換ベンゼンとα,β−不飽和アルデヒドとを反応させる1−アルキルカルボニルオキシ−3−置換フェニル−プロペン化合物の合成方法が記載されている。しかし、その実施例に記載されているアニソールとメタクロレインと塩化アセチルを化学量論量の四塩化チタンの存在下で反応させる1−メチルカルボニルオキシ−3−(3−メトキシフェニル)−2−メチル−プロペンの合成は、収率が57.2%と不十分であった。
更に、同実施例には、t−ブチルベンゼンとメタクロレイン及び無水酢酸とを化学量論量の四塩化チタンの存在下で反応させる1−メチルカルボニルオキシ−3−(t−ブチルフェニル)−2−メチル−プロペンの合成も記載されているが、その収率も24.8%と不十分であった。
【0006】
同文献に記載の上記の1−メチルカルボニルオキシ−3−(3−メトキシフェニル)−2−メチル−プロペンの合成について、発明者により、塩化アセチルの代わりに無水酢酸を用いて反応を行ったが、1−メチルカルボニルオキシ−3−(3−メトキシフェニル)−2−メチル−プロペンの収率は54.9%であり、収率は向上しなかった(比較例2参照)。
【0007】
その他、特許文献3にはメタクロレインと無水酢酸を塩化亜鉛の存在下で反応させてメタリリデンジアセテートを合成した後、その反応溶液にアニソール、次いでメタクロレインに対して1.2当量の四塩化チタンを加えて反応させる1−メチルカルボニルオキシ−3−(3−メトキシフェニル)−2−メチル−プロペンの合成が記載されており、その収率は80.3%である。しかし、同合成方法では非特許文献1と同様に、空気中の水分でも容易に分解するほど不安定な四塩化チタンを化学量論量以上使用する必要があり、その扱いは煩雑である。また、多くのチタン廃棄物を副産するなど問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭42−9135号公報
【特許文献2】特開昭55−141437号
【特許文献3】特開昭61−161241号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Bull.Soc.Chim.Fr., 1961,p.1194
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、香料、医農薬品、有機合成薬品の中間体として有用である1−アルキルカルボニルオキシ−3−置換フェニル−プロペン化合物を、アルコキシ置換ベンゼンから簡便且つ収率良く得る、工業的に好適な1−アルキルカルボニルオキシ−3−置換フェニル−プロペン化合物の製法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記の課題を解決するために検討した結果、1−アルキルカルボニルオキシ−3−置換フェニル−プロペン化合物の簡便且つ収率の良い製法を見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は次の通りである。
【0012】
元素周期表11〜13族元素、スズ及びランタノイド元素のトリフラート化合物並びにこれら元素のハロゲン化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物を含む触媒の存在下、下式(1)で示されるアルコキシ置換ベンゼンと
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、OR、OR、m及びnは前記と同義である。)
【0015】
下式(2)で示されるα,β−不飽和アルデヒドと
【0016】
【化3】

【0017】
(式中、R、Rは前記と同義である。また、本化合物は、立体異性体を含む。)
【0018】
下式(3)で表わされるカルボン酸無水物を反応させることを特徴とする
【0019】
【化4】

【0020】
(式中、Rは前記と同義である。)
【0021】
下式(4)で表わされる1−アルキルカルボニルオキシ−3−置換フェニル−プロペン化合物の製造法に関する。
【0022】
【化5】

【0023】
(式中、OR、OR、R、R、R、m及びnは前記と同義である。また、本化合物は、立体異性体を含む。)
【発明の効果】
【0024】
本発明により、香料、医農薬品、有機合成薬品の中間体として有用である1−アルキルカルボニルオキシ−3−置換フェニル−プロペン化合物を、アルコキシ置換ベンゼンから簡便且つ収率良く得ることができる。従って、本発明の1−アルキルカルボニルオキシ−3−置換フェニル−プロペン化合物の製造法は、工業的に好適であり産業上の高い利用可能性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について詳細に説明する。
前記式(4)で表わされる1−アルキルカルボニルオキシ−3−置換フェニル−プロペン化合物の製造は、元素周期表11〜13族元素、スズ及びランタノイド元素のトリフラート化合物及びハロゲン化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物を含む触媒の存在下、前記式(1)で示されるアルコキシ置換ベンゼン誘導体と前記式(2)で示されるα,β−不飽和アルデヒドを反応させることにより行うことが出来る。
なお、本発明は、反応を妨げない限り、その他の化合物を添加することが出来るが、四塩化チタンは使用されない。
【0026】
本発明で用いられるアルコキシ置換ベンゼン誘導体は前記式(1)で示される。
前記式(1)において、OR及びORはそれぞれ独立した炭素原子数1〜4のアルコキシ基を表わし、これら置換基が隣接する場合、互いに結合してメチレンジオキシ基、若しくはエチレンジオキシ基を形成しても良い。mは0〜4の整数を表し、nは1〜5の整数を表す。
【0027】
ここで、炭素原子数1〜4のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。なお、これら置換基は異性体も含む。
【0028】
上記アルコキシ置換ベンゼン誘導体の具体的例としては、アニソール、ベラトロール、ハイドロキノンジメチルエーテル、1,4−ベンゾジオキサン、ピロガロールトリメチルエーテル、ヒドロキシハイドロキノントリメチルエーテル、又は1,2−メチレンジオキシベンゼン等が挙げられる。なお、これらは市販のものを使用することができる。
【0029】
本発明で用いられるアルコキシ置換ベンゼン誘導体の使用量は、α,β−不飽和アルデヒド1モルに対して好ましくは1〜50モルであり、更に好ましくは1〜20モルである。
【0030】
本発明で用いられる前記式(2)で示されるα,β−不飽和アルデヒドとしては、市販のものを使用することが出来る。なお、本化合物は、立体異性体を含む。
【0031】
前記式(2)において、R、Rは水素原子、又は炭素原子数1〜10のアルキル基を表わし、互いに結合して環を形成しても良い。
【0032】
ここで、炭素原子数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などが挙げられるが、好ましくはメチル基である。なお、これらの基は各種異性体を含む。 また、RとRが互いに結合して出来る環としては、シクロペンタン環、シクロヘキサン環などが挙げられるが、好ましくはシクロヘキサン環である。
【0033】
α,β−不飽和アルデヒドとしては、アクロレイン、メタクロレイン、クロトンアルデヒド、α,β−ジメチルアクロレイン、α−エチルアクロレイン、β−エチルアクロレイン、β−プロピルアクロレイン、α−シクロヘキシルアクロレインなどが挙げられるが、好ましくはアクロレイン、メタクロレイン、クロトンアルデヒドであり、更に好ましくはメタクロレインである。
【0034】
本発明で用いられる触媒としては、元素周期表11〜13族元素、スズ及びランタノイド元素のトリフラート化合物及びハロゲン化合物からなる群から選ばれた少なくとも1つが用いられる。
ここで元素の族の名称は、18族元素周期表、IUPAC無機化合物命名法、1990年に基づく。
【0035】
周期表11族元素のトリフラート化合物及びハロゲン化合物としては、銅、銀及び金のトリフラート化合物及びハロゲン化合物が挙げられるが、銅、銀及び金のトリフラート化合物が好ましく、更に銅トリフラート化合物が好ましい。
ここで、「トリフラート」はトリフルオロメタンスルホネートを意味する。
【0036】
周期表12族元素のトリフラート化合物及びハロゲン化合物としては、亜鉛のハロゲン化物(弗化亜鉛、塩化亜鉛、臭化亜鉛、沃化亜鉛)、カドミウムのハロゲン化物(弗化カドミウム、塩化カドミウム、臭化カドミウム、沃化カドミウム)、水銀のハロゲン化物(弗化水銀、塩化水銀、臭化水銀、沃化水銀)等が挙げられる。この内、亜鉛のハロゲン化物が好ましく、塩化亜鉛が更に好ましい。
【0037】
周期表13族元素のトリフラート化合物及びハロゲン化合物としては、ホウ素のトリフラート化合物及びハロゲン化合物が挙げられるが、ホウ素のハロゲン化合物が好ましい。
ホウ素のハロゲン化合物としては、フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン錯体、三フッ化ホウ素酢酸錯塩、三フッ化ホウ素二水和物、三フッ化ホウ素n−ブチルエーテル錯体などが挙げられるが、好ましくは三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素酢酸錯塩である。これら化合物は市販のものを使用することが出来る。
【0038】
スズ及びランタノイド元素のトリフラート化合物及びハロゲン化合物としては、スズトリフラート、スズのハロゲン化物(弗化スズ、塩化スズ、臭化スズ、沃化スズ)、セリウムのハロゲン化物(弗化セリウム、塩化セリウム、臭化セリウム、沃化セリウム)、セリウムトリフラート、ジスプロシウムのハロゲン化物(弗化ジスプロシウム、塩化ジスプロシウム、臭化ジスプロシウム、沃化ジスプロシウム)、ジスプロシウムトリフラート、ホルミウムのハロゲン化物(弗化ホルミウム、塩化ホルミウム、臭化ホルミウム、沃化ホルミウム)、ホルミウムトリフラート、エルビウムのハロゲン化物(弗化エルビウム、塩化エルビウム、臭化エルビウム、沃化エルビウム)、エルビウムトリフラート、ツリウムのハロゲン化物(弗化ツリウム、塩化ツリウム、臭化ツリウム、沃化ツリウム)、ツリウムトリフラート、イッテルビウムのハロゲン化物(弗化イッテルビウム、塩化イッテルビウム、臭化イッテルビウム、沃化イッテルビウム)、イッテルビウムトリフラート、ルテチウムのハロゲン化物(弗化ルテチウム、塩化ルテチウム、臭化ルテチウム、沃化ルテチウム)、ルテチウムトリフラート等が挙げられる。又はこれら化合物は、その水和物を包含する。
これらの化合物の中では、塩化スズ、スズトリフラート、セリウムトリフラート、エルビウムトリフラート、又はイッテルビウムトリフラートが好ましい。
【0039】
前記触媒の使用量は、アルケニリデンジアセテート1モルに対して1モル以下であり、好ましくは0.005〜0.5モルである。この範囲より使用量が少ないと反応が24時間では完結せず、多いと過剰量の触媒を分解・廃棄するなど煩雑な操作が必要であり工業的なスケールには適さない。
【0040】
本発明の1−アルキルカルボニルオキシ−3−置換フェニル−プロペン化合物の合成反応は、溶媒を使用して行っても良いが、好ましくは無溶媒である。
【0041】
反応温度は反応にあずかる原料物質の種類等によって異なるが、−10〜80℃であり、好ましくは0〜50℃である。 反応時間は、前記の濃度、温度によって変化するが0.5〜24時間である。
【0042】
この反応は、通常、アルゴン、窒素などの不活性ガス雰囲気、或いはこれらガス気流下で行われる。また、用いられる反応圧は通常、常圧である。
【0043】
合成された1−アルキルカルボニルオキシ−3−置換フェニル−プロペン化合物は、反応終了後、抽出、濃縮、濾過などの通常の後処理を行い、必要に応じて蒸留、再結晶、各種クロマトグラフィーなどの公知の手段で適宣精製することができる。
【実施例】
【0044】
以下に本発明の代表的な実施例を示す。
【0045】
実施例1
アルゴン雰囲気下、20ml容の2ツ口フラスコに含量:88.5重量%のメタクロレイン(0.39g,5.0mmol)、アニソール(5.41g,50.0mmol)、無水酢酸(0.72g,7.1mmol)を加えた。この混合物に内温24℃で三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(0.07g,0.5mmol)を加え、内温24〜25℃で1時間攪拌した。反応終了後、反応液に水(30ml)とアセトニトリル(50ml)を加えた後、高速液体クロマトグラフィーを用いて定量分析を行った結果、目的の1−アセトキシ−2−メチル−3−(4−メトキシフェニル)プロペンの収率は91.9%(収量1.01g)であった。
【0046】
実施例2
アルゴン雰囲気下、20ml容の2ツ口フラスコに含量:88.5重量%のメタクロレイン(0.40g,5.0mmol)、1,2−メチレンジオキシベンゼン(3.06g,25.0mmol)、無水酢酸(0.72g,7.1mmol)を加えた。この混合物に内温23℃で三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(0.07g,0.5mmol)を加え、内温23℃で1時間攪拌した。反応終了後、反応液を水(5ml)で2回洗浄した。得られた有機層を分離して減圧蒸留(8〜10mmHg,80〜84℃)で蒸留した後、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(溶出溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=15/1)にて精製し、無色液体として目的の1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロペン(収率80.5%、収量0.94g)を得た。
1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロペンの物性値を以下に記す。
【0047】
H−NMR(300MHz,CDCl)δ:1.59(3H,d,J=1.5Hz),2.15(3H,s),3.17(2H,s),5.92(2H,s),6.63(1H,dd,J=7.8Hz,J=1.5Hz),6.67(1H,d,J=1.5Hz),6.72(1H,d,J=7.8Hz),7.02(1H,q,J=1.5Hz)
【0048】
13C−NMR(75.5MHz,CDCl)δ=13.43,20.78,40.05,100.86,108.10,109.10,121.31,121.70,131.24,132.79,146.08,147.69,168.26
【0049】
元素分析:
C(%) H(%)
1314としての予想値 66.66 6.02
測定値 66.71 6.16
【0050】
実施例3及び4
実施例1のアニソールに代えて、下表1に示すアルコキシベンゼン(50.0mmol)を用いた以外は、実施例1と同様な反応を行った。結果を下表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
実施例5
実施例2の無水酢酸に代えて表1記載の無水プロピオン酸(0.92g,7.1mmol)を用いた以外は、実施例2と同様な反応を行った。
その結果、1−エチルカルボニルオキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロペン(収率:78.6%(収量0.97g)を得た。
1−エチルカルボニルオキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロペンの物性値を以下に示す。
【0053】
H−NMR(300MHz,CDCl)δ:1.19(3H,t,J=7.5Hz),1.59(3H,d,J=1.5Hz),2.43(2H,q,J=7.5Hz),3.18(2H,s),5.92(2H,s),6.62−6.74(3H,m),7.03(1H,q,J=1.5Hz)
【0054】
MS(FAB)m/z 248(M+)
【0055】
実施例6
実施例2の無水酢酸に代えて表1記載の無水イソ酪酸(1.10g,7.1mmol)を用いた以外は、実施例2と同様な反応を行った。その結果、1−イソプロピルカルボニルオキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロペン(収率78.6%、収量0.97g)を得た。
1−イソプロピルカルボニルオキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロペンの物性値を以下に記す。
【0056】
H−NMR(300MHz,CDCl)δ:1.22(3H,d,J=6.8Hz),1.59(3H,d,J=1.5Hz),2.64(1H,qq,J=6.8Hz),3.18(2H,s),5.29(2H,s),6.62−6.74(3H,m),7.01(1H,q,J=1.5Hz)
【0057】
MS(FAB)m/z 262(M+)
【0058】
実施例7〜18
実施例2の三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体に代えて表2記載の触媒を用いた以外は、実施例2と同様な反応を行った。結果は表2に記す。
【0059】
【表2】


注)MAL :メタクロレイン
MDB :1,2−メチレンジオキシベンゼン
AMDB:1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)
プロペン
OTf :トリフルオロメタンスルホネート
【0060】
比較例1
アルゴン雰囲気下、25ml容の3ツ口フラスコに四塩化チタン(1.18g,6.2mmol)を加え、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(0.016g,0.11mmol)を加えた。内温8〜12℃で1,2−ジメトキシベンゼン(3.40g,24.6mmol)を30分かけて滴下した。次いで、含量:100重量%の2−メチル−3,3−ジアセトキシプロペン(0.75g,6.1mmol)と1,2−ジメトキシベンゼン(0.77g,5.6mmol)の混合物を5分かけて滴下した。この混合物を内温8〜10℃で60分攪拌し、6規定の塩酸(10ml)およびジクロロメタン(10ml)を加えて30分攪拌した。反応終了後、析出した不溶物を濾別し、ジクロロメタンで抽出し、得られた有機層を水洗し、飽和食塩水にて洗浄した後、無水硫酸ナトリウムにて乾燥した。濾過後、濾液を濃縮して粗生成物4.54gを得た。この粗生成物を高速液体クロマトグラフィーを用いて定量分析を行った結果、目的の1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−ジメトキシフェニル)プロペンは収率12.0%(収量0.18g)であった。
また、この反応液は褐色であり、高速液体クロマトグラフィーによる分析により多数の副生成物が確認された。
【0061】
比較例2
アルゴン雰囲気下、20ml容の2ツ口フラスコに含量:88.5重量%のメタクロレイン(0.39g,5.0mmol)、アニソール(5.41g,50.0mmol)、無水酢酸(0.72g,7.1mmol)を加えた。この混合物に内温3℃で四塩化チタン(0.95g,5.0mmol)を加え、内温3℃で1時間攪拌した。反応終了後、反応液にアセトニトリル(50mL)を加えた後、高速液体クロマトグラフィーを用いて定量分析を行った結果、目的の1−アセトキシ−2−メチル−3−(4−メトキシフェニル)プロペンの収率は54.9%(収量0.60g)であった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、香料、医農薬品、有機合成薬品の中間体として有用である1−アルキルカルボニルオキシ−3−置換フェニル−プロペン化合物の製造法に関する。特に式(4)において、Rがメチル基、Rが水素原子である、1−メチルカルボニルオキシ−3−(3−置換フェニル)−2−メチル−プロペン化合物は、3−(置換フェニル)−2−メチル−プロピオンアルデヒド化合物の中間体として、香料化合物を製造する際に非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
元素周期表11〜13族元素、スズ及びランタノイド元素のトリフラート化合物並びにこれら元素のハロゲン化合物からなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物を含む触媒の存在下、下式(1):
【化6】


(式中、OR及びORは、それぞれ独立した炭素原子数1〜4のアルコキシ基を表わし、これら置換基が隣接する場合、互いに結合してメチレンジオキシ基、若しくはエチレンジオキシ基を形成しても良い。mは0〜4の整数を表し、nは1〜5の整数を表わす。)
で示されるアルコキシ置換ベンゼンと下式(2):
【化7】


(式中、R及びRは、それぞれ独立した水素原子又は炭素原子数1〜10のアルキル基を表わし、互いに結合して環を形成しても良い。また、本化合物は、立体異性体を含む。)
で示されるα,β−不飽和アルデヒドと下式(3):
【化8】


(式中、Rは炭素原子数1〜10のアルキル基を表わす。)
で表わされるカルボン酸無水物を反応させることを特徴とする、下式(4):
【化9】


(式中、OR、OR、R、R、m及びnは前記と同義である。また、本化合物は、立体異性体を含む。)
で表わされる1−アルキルカルボニルオキシ−3−置換フェニル−プロペン化合物の製造方法。
【請求項2】
アルコキシ置換ベンゼンが、アニソール、ベラトロール、ハイドロキノンジメチルエーテル、1,4−ベンゾジオキサン、ピロガロールトリメチルエーテル、ヒドロキシハイドロキノントリメチルエーテル及び1,2−メチレンジオキシベンゼンからなる群より選ばれる1種のアルコキシ置換ベンゼンである、請求項1記載の1−アルキルカルボニルオキシ−3−置換フェニル−プロペン化合物の製造方法。
【請求項3】
アルコキシ置換ベンゼンが、式(1)において、OR及びORが互いに結合してメチレンジオキシ基、若しくはエチレンジオキシ基を形成したものである、請求項1記載の1−アルキルカルボニルオキシ−3−置換フェニル−プロペン化合物の製造方法。
【請求項4】
α,β−不飽和アルデヒドが、アクロレイン、メタクロレイン、及びクロトンアルデヒドからなる群より選ばれる1種のα,β−不飽和アルデヒドである、請求項1から請求項3のいずれかに記載の1−アルキルカルボニルオキシ−3−置換フェニル−プロペン化合物の製造方法。
【請求項5】
カルボン酸無水物が、無水酢酸、無水プロピオン酸、及び無水イソ酪酸より選ばれる、請求項1から請求項4のいずれかに記載の1−アルキルカルボニルオキシ−3−置換フェニル−プロペン化合物の製造方法。
【請求項6】
触媒が、銅、銀及び金のトリフラート化合物及びハロゲン化合物;亜鉛のハロゲン化物、カドミウムのハロゲン化物、水銀のハロゲン化物;フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン錯体、三フッ化ホウ素酢酸錯塩、三フッ化ホウ素二水和物、三フッ化ホウ素n−ブチルエーテル錯体;スズトリフラート、スズのハロゲン化物;セリウムのハロゲン化物、セリウムトリフラート、ジスプロシウムのハロゲン化物、ジスプロシウムトリフラート、ホルミウムのハロゲン化物、ホルミウムトリフラート、エルビウムのハロゲン化物、エルビウムトリフラート、ツリウムのハロゲン化物、ツリウムトリフラート、イッテルビウムのハロゲン化物、イッテルビウムトリフラート、ルテチウムのハロゲン化物、ルテチウムトリフラート又はそれらの水和物より選ばれる1種以上の触媒である、請求項1から請求項5のいずれかに記載の1−アルキルカルボニルオキシ−3−置換フェニル−プロペン化合物の製造方法。
【請求項7】
触媒が、銅のトリフラート化合物及びハロゲン化合物;塩化亜鉛、臭化亜鉛;フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン錯体、三フッ化ホウ素酢酸錯塩、三フッ化ホウ素二水和物、三フッ化ホウ素n−ブチルエーテル錯体;スズトリフラート、塩化スズ、臭化スズ;塩化セリウム、臭化セリウム、セリウムトリフラート、塩化ホルミウム、臭化ホルミウム、ホルミウムトリフラート、塩化エルビウム、臭化エルビウム、エルビウムトリフラート、塩化イッテルビウム、臭化イッテルビウム、イッテルビウムトリフラート又はそれらの水和物より選ばれる1種の触媒である、請求項1から請求項5のいずれかに記載の1−アルキルカルボニルオキシ−3−置換フェニル−プロペン化合物の製造方法。
【請求項8】
触媒の使用量が、式(2)で示されるα,β−不飽和アルデヒド1モルに対して、1モル以下であることを特徴とする、請求項1から請求項7のいずれかに記載の1−アルキルカルボニルオキシ−3−置換フェニル−プロペン化合物の製造方法。
【請求項9】
反応温度が、0〜50℃であることを特徴とする、請求項1から請求項8のいずれかに記載の1−アルキルカルボニルオキシ−3−置換フェニル−プロペン化合物の製造方法。
【請求項10】
無溶媒にて反応を行うことを特徴とする、請求項1から請求項9のいずれかに記載の1−アルキルカルボニルオキシ−3−置換フェニル−プロペン化合物の製造方法。

【公開番号】特開2009−137991(P2009−137991A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4186(P2009−4186)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【分割の表示】特願2004−70490(P2004−70490)の分割
【原出願日】平成16年3月12日(2004.3.12)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】