説明

1−クロロアセトアミド−1,3,3,5,5−ペンタメチルシクロヘキサンを調製する方法

【課題】1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサン(ネラメキサン)またはその薬剤学的に許容可能な塩の合成過程の反応中間体である1-クロロアセトアミド-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンを調製する方法であって、下記ステップ(iii)からなる。:ステップ(iii):酸存在下で1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンとクロロアセトニトリルとを反応させる。ここで、ステップ(iii)で使用する1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンは、ハロゲン化メチルマグネシウムと3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンとの反応から得られるもので、精製ステップを経ていないものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1-クロロアセトアミド-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンを調製する方法に関する。前記化合物は、1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサン(ネラメキサン)またはその薬剤学的に許容可能な塩の調製における反応中間体である。
【背景技術】
【0002】
1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサン(ネラメキサン)、及びその薬剤学的に許容可能な塩は、耳鳴症や眼震症といった疾患および症状を患う患者の持続的な治療のための有用な薬剤である。
【0003】
これらの薬剤を調製する複数の方法が既に知られている。
【0004】
一の方法においては、市販のイソホロンを、次の反応スキームによる5つのステップからなる一連の反応(反応シーケンス)により、ネラメキサンに変換する(W.Danyszら; Current Pharmaceutical Design, 2002, 8, 835-843)。
【化1】

【0005】
前記反応シーケンスの第一ステップ(ステップ(i))においては、塩化銅触媒を用いたヨウ化メチルマグネシウムの共役付加によって、イソホロン(1)を3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノン(2)に変換する。
【0006】
第二ステップ(ステップ(ii))においては、ヨウ化メチルマグネシウムを用いたグリニャール反応によって、3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノン(2)を1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサノール(3)に変換する。
【0007】
ダニス(Danysz)は、下記Chiurdogluの方法によって化合物(3)を調製することを開示する。この技術水準文献の開示によると、3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンが臭化メチルマグネシウムと反応して各シクロへキサノールを生成する。377頁のセクション5においては、化合物(3)を蒸留(22Torr、沸点91から92℃)に供する(すなわち精製する)。したがって、ダニス(Danysz)が使用した化合物(3)は精製物である。
【0008】
第三ステップ(ステップ(iii))においては、リッター反応にて、クロロアセトニトリルにより前記シクロヘキサノール(3)を1-クロロアセトアミド-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサン(6)に変換する。
【0009】
ダニス(Danysz)は、下記Jirgensonsの方法に従って化合物(6)を調製することを開示する。この技術水準文献の開示では、シクロへキサノールとクロロアセトニトリルとのリッター反応により、対応するアミドが生成する(1709ページのスキーム、化合物1a、化合物2a)。一般的な反応手順に従って、生成したアミドをクーゲルロール(Kugelrohr)短経路蒸留に供する。すなわち精製ステップに供する(1710ページ、右段、第一および第二パラグラフ)。従って、ダニス(Danysz)が使用した化合物(6)は精製物である。
【0010】
次に第四ステップ(ステップ(iv))においては、チオ尿素でもってアミド(6)中のクロロアセトアミド基を開裂させる。得られたアミンを前記反応シーケンスの第五ステップ(ステップ(v))においては塩酸を用いて酸性化することで、塩酸塩型のネラメキサン(1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサン)(7)が生成する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】W. Danyszら、Current Pharmaceutical Design, 8, 835-843 (2002).
【非特許文献2】Chiurdogluら、Bulletin des Societes Chimiques Belges, 63, 357-378 (1954).
【非特許文献3】Jirgensonsら; Synthesis 2000, No.12, 1709-1712.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の一の目的は、経済的な工業規模での有利な実施を可能とする、1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンまたはその薬剤学的に許容可能な塩の調製方法を提供すべく、上述の反応シーケンスにおける一つ一つの反応ステップのうちの一つまたは複数について、改良を加えることにある。他の目的は、ネラメキサンまたはその薬剤学的に許容可能な塩を製造する過程で生成する、廃棄物および/または未反応物質(すなわち、これらの少なくとも一方)の量を最小化することである。さらなる目的は、ネラメキサンまたはその薬剤学的に許容可能な塩についての、収率および/または選択性および/または生成物の品質(すなわち、これらのうちのいずれか、または任意の組み合わせ)につき、最適化または改善することである。特には、本願は、上記のステップ(iii)、すなわち1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンとクロロアセトニトリルとの反応について、改良を加えようとするものである。このような改良された方法は、経済的な工業規模でネラメキサン、またはその薬剤学的に許容可能な塩を有利に製造する上での必要条件であると考えることができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、下記ステップ(iii)からなる1-クロロアセトアミド-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンを調製する方法に関する。:
ステップ(iii):1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンと、クロロアセトニトリルとを酸存在下で反応させる。;
ここで、ステップ(iii)にて反応させる1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンは、ハロゲン化メチルマグネシウムと3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンとの反応から得られたままで精製ステップを経ていないものである。
【0014】
一実施形態において、この方法は、ステップ(iii)の前に、下記ステップ(ii)を含む。:
ステップ(ii):ハロゲン化メチルマグネシウム存在下で3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンを1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンに変換する。
【0015】
一実施形態において、前記ハロゲン化メチルマグネシウムは塩化メチルマグネシウムである。
【0016】
一実施形態において、上記の未精製の1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンには、85〜98重量%の範囲の量の1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンが含まれる。
【0017】
一実施形態において、前記酸は、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、またはそれらの混合物からなる群から選択される。
【0018】
一実施形態において、1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンとクロロアセトニトリルと酢酸との混合物に硫酸を添加する。
【0019】
一実施形態において、1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンと酢酸とは重量比1:1.5〜1:2.5で用い、1モル当量の1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサン当たり、1.5〜2.5モル当量のクロロアセトニトリルと、2.5〜3.5モル当量の硫酸とを使用する。
【0020】
一実施形態において、ステップ(iii)の温度は0℃から30℃までの範囲に維持する。
【0021】
一実施形態において、ステップ(iii)で得られた1-クロロアセトアミド-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンは精製ステップに供さない。
【0022】
他の態様において、本発明は、下記ステップ(iii)からなる1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンまたはその薬剤学的に許容可能な塩を調製する方法に関する。:ステップ(iii):1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンとクロロアセトニトリルとを酸存在下で反応させる。ここで、ステップ(iii)で反応させる1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンは、ハロゲン化メチルマグネシウムと、3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンとの反応から得られたままであって、精製ステップを経ていないものである。
【0023】
1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンを調製する前記の方法中におけるステップ(iii)は、上記に規定された実施形態のうちの、いずれか単独またはそれらの組み合わせに従って実施することができる。
【発明の効果】
【0024】
ハロゲン化メチルマグネシウムと3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンとの反応から得られたままで精製ステップを経ていない1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンをステップ(iii)で使用することによって、高収率の粗製1-クロロアセトアミド-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンが得られるということが、期せずして明らかとなった。この収率は90〜100重量%である。蒸留、再結晶化、またはクロマトグラフィーといった、反応中間体についての複雑なクリーニングのステップは、一般的に生成物の損失の原因となるが、本発明の方法によればこのステップを省略することが可能である。また、背景技術のセクションで述べた、ネラメキサンまたはその薬剤学的に許容可能な塩を調製する反応シーケンスにおける次の反応ステップ(iv)にて、前記目標化合物(1-クロロアセトアミド-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサン)は未精製形態で使用し得る。これらの理由から、本新規簡易方法は有利かつ経済的な工業規模で実施し得る。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、1-クロロアセトアミド-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンを調製する方法に関する。
【0026】
本発明は具体的には、下記ステップ(iii)からなる1-クロロアセトアミド-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンを調製する方法に関する。:
ステップ(iii):1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンとクロロアセトニトリルとを酸存在下で反応させる。
【0027】
ここで、」ステップ(iii)にて反応させる1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンは、ハロゲン化メチルマグネシウムと3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンとの反応から得られたままのもので、精製ステップを経ていないものである。
【0028】
したがって、本発明の方法には、予めハロゲン化メチルマグネシウムと3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンとの反応から得られたままで精製ステップでの精製を経ていない1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンを、ステップ(iii)で反応させることが含まれる。ステップ(iii)で出発物質として用いる1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンの形態を、本明細書中では「未精製形態」と呼ぶ場合もある。
【0029】
用語「精製ステップを経ていない」は、化合物1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンそのものについての、再結晶化、蒸留、クロマトグラフィー、またはそれらの組み合わせを除外するものである。
【0030】
用語「精製ステップを経ていない」は、標準的な抽出・分離のステップを許容する。そのようなステップは、1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンと溶媒とを含む混合物から前記溶媒を蒸留除去すること、1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンを溶媒によって水相から抽出すること、無水硫酸ナトリウムなどを用いて1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンと溶媒とを含む混合物について乾燥(脱水)すること、1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンを減圧下で乾燥すること、または、1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンを液体で洗浄することなどである。
【0031】
「再結晶化」、「蒸留」または「クロマトグラフィー」による精製とは、有機化合物のような化学物質を精製するために実験室規模および工業規模の両方で用いられる古典的な方法である。
【0032】
再結晶化とは、混合物中に含まれる複数の化合物の単一溶媒または混合溶媒に対する溶解度の差異に基づいて、混合物を分離する方法である。ある化合物を再結晶化によって精製する場合、前記化合物を適当な溶媒に溶解し、次に冷却する。その結果、所望の精製化合物が溶液から沈降(再結晶化)する。しかし、所望の化合物が不溶性であるところの他の溶媒を、所望の化合物の沈殿が始まるまで前記溶液に添加することも可能である。したがって、本発明の趣旨における用語「再結晶化」とは、精製物を形成させるべく、化合物を溶解状態にし、そして、前記溶解状態から沈降するか、または、沈殿させるようにすることを意味する。
【0033】
蒸留とは、混合物中に含まれる複数の化合物の沸騰液体混合物中における揮発度の差異に基づいて、混合物を分離する方法である。従って本発明の趣旨においては、用語「精製」の定義において使用する用語「蒸留」とは、「蒸留」するためには先ず化合物(本明細書中では1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサン)を液相から気相に相転移させる必要があり、次に凝縮させて精製物を形成させることを意味する。
【0034】
化学におけるクロマトグラフィーとは、混合物中に含まれる複数の化合物の固定相−移動相間での分配の差異に基づいて混合物を分離する方法である。一般的な方法はカラムクロマトグラフィーであり、種々の調製法に使用し得る。
【0035】
そのため、1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンは、再結晶化、蒸留、またはクロマトグラフィーから選択される精製ステップに供さない。
【0036】
ハロゲン化メチルマグネシウムと3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンとの反応から得られてステップ(iii)に使用する1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンは、室温などの周囲温度においては液体である。一実施形態において、前記化合物は蒸留しない。すなわち蒸留に供さない。すなわち、精製化合物を形成するために1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンを液相から気相に相転移して凝縮させることはしない。
【0037】
一実施形態において、液体の1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンをクロマトグラフィーに供することはしない。すなわち、精製物を形成するために1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンを固定相−移動相間に分配することはしない。
【0038】
一実施形態において、液体の1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンは溶解状態にはせず、精製物を形成するべく前記溶解状態から沈殿させることはしない。
【0039】
したがって、本発明は、ステップ(iii)からなる1-クロロアセトアミド-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンを調製する方法に関する。:
ステップ(iii):1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンとクロロアセトニトリルとを酸存在下で反応させる。;
ここで、上記の1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンは、ハロゲン化メチルマグネシウムと3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンとの反応から液体として得られ、この液体を、蒸留による精製ステップ、クロマトグラフィーによる精製ステップ、または再結晶による精製ステップに供することはしない。
【0040】
一実施形態において、ハロゲン化メチルマグネシウムと、3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンとの反応(ステップ(ii))によって1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンを調製し、これを精製ステップに供することはしない。
【0041】
一実施形態において、背景技術のセクションで述べた方法(ステップ(ii))によって、すなわち、ヨウ化メチルマグネシウムと、3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンとの反応によって、1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンを調製することができる。
【0042】
しかし他の実施形態においては、ハロゲン化メチルマグネシウムとして臭化物または塩化物を使用することができる。
【0043】
一実施形態において、前記ハロゲン化メチルマグネシウムは塩化メチルマグネシウムである。
【0044】
一実施形態において、1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンを調製するべく、塩化メチルマグネシウムのテトラヒドロフラン溶液に、3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンのテトラヒドロフラン溶液を添加する。
【0045】
一実施形態において、1モル当量の3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノン当たり、約1.2〜1.75モル当量の塩化メチルマグネシウムを使用する。
【0046】
一実施形態において、温度管理条件下でグリニャール試薬と3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンとの反応を実施する。
【0047】
一実施形態において、温度が比較的狭い温度範囲に維持されるように前記反応を実施する。
【0048】
一実施形態において、ステップ(ii)の反応は、−5℃から30℃、0℃から30℃、0℃から25℃、0℃から20℃、5℃から20℃、10℃から25℃、または15℃から25℃の温度で実施する。
【0049】
1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンを単離するために、3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンとグリニャール試薬との反応後、過剰量のグリニャール試薬が用いられた場合の過剰分を分解すべく、また、塩基性マグネシウム化合物を分解すべく、反応後の反応混合物を水で処理するのであっても良い。
【0050】
一実施形態において、1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンの形成を助けるべく、塩酸といった酸、またはアンモニウム塩を添加する。
【0051】
一実施形態において、ステップ(ii)で形成される生成物は、塩化メチレン、トルエンまたは石油エーテルのような適当な有機溶媒でもって、上記の水性混合物について抽出を行うことによって得られ単離される。抽出の次に、前記溶媒を蒸留除去する。得られ単離された状態の粗製1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンを含む残留物を、前記粗生成物を蒸留またはクロマトグラフィーといった精製ステップにかけることなく、本発明の方法のステップ(iii)に使用する。
【0052】
他の一実施形態において、抽出の次に前記抽出物を従来の方法によって乾燥してもよい。例えば、硫酸ナトリウムによって抽出物を乾燥してもよい。前記硫酸塩をろ過して分離した後、溶媒を蒸留操作により除去してもよい。得られ単離された状態の粗製1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンを含む残留物について、前記粗生成物を蒸留またはクロマトグラフィーのような精製ステップにかけることなく、本発明の方法のステップ(iii)に使用する。
【0053】
一実施形態において、粗製1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンの収率は90〜100重量%の範囲である。
【0054】
一実施形態において、前記粗生成物には85〜98重量%の量の1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンが含まれる(ガス液体クロマトグラフィーにより測定可能)。
【0055】
一実施形態において、前記粗生成物には94から98重量%の量の1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンが含まれる。
【0056】
ステップ(iii)における1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンから1-クロロアセトアミド-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンへの変換は、酸存在下での1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンとクロロアセトニトリルとの反応により、リッター反応にて実施する。
【0057】
一実施形態において、上述の従来技術に記載の方法に従って、ステップ(iii)のリッター反応を実施してもよい。
【0058】
一実施形態において、前記酸は硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、またはそれらの混合物からなる群から選択される。
【0059】
一実施形態において、前記酸は濃酸の状態で使用する。
【0060】
一実施形態において、硫酸と酢酸とを用いる。一実施形態において、硫酸は濃硫酸であり、酢酸は氷酢酸である。
【0061】
一実施形態において、ステップ(ii)で得られ分離された状態の1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンを酢酸中に加えて用意し、この混合物に、クロロアセトニトリルと硫酸との混合物を添加する。
【0062】
他の一実施形態において、クロロアセトニトリルと、ステップ(ii)で得られ分離された状態の1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンとを酢酸中に加えて用意し、この混合物に硫酸を添加する。
【0063】
一実施形態において、1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンと酢酸とを重量比1:1.5〜1:2.5となるように用意する。一実施形態において、重量比は1:2である。
【0064】
他の一実施形態において、1モル当量の1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサン当たり、1.5〜2.5モル当量のクロロアセトニトリルと、2.5〜3.5モル当量の硫酸とを使用する。
【0065】
一実施形態において、1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンと酢酸とを重量比1:1.5〜1:2.5となるように用意し、1モル当量の1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサン当たり、1.5〜2.5モル当量のクロロアセトニトリルと、2.5〜3.5モル当量の硫酸とを使用する。
【0066】
他の一実施形態において、約2モル当量のクロロアセトニトリルと3モル当量の硫酸とを使用する。
【0067】
一実施形態において、1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンと酢酸とを重量比1:2で用意し、1モル当量の1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサン当たり2モル当量のクロロアセトニトリルと3モル当量の硫酸とを使用する。
【0068】
一実施形態において、0℃から30℃、0℃から20℃、0℃から15℃、または5℃から10℃の範囲に反応温度が維持されるように、硫酸の添加またはクロロアセトニトリルと硫酸との混合物の添加を実施する。
【0069】
前記反応は概ね、目標化合物の1-クロロアセトアミド-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンの方向に比較的速く進行する。一実施形態において、前記反応は2時間で終了してもよく、または1時間で終了してもよい。
【0070】
前記反応混合物をワークアップするために、反応終了後に前記反応混合物を水、氷または氷水に注いでもよい。沈殿する1-クロロアセトアミド-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンをろ過によって単離し得る。
【0071】
前記沈殿物は水で洗浄してもよい。
【0072】
一実施形態において、粗製1-クロロアセトアミド-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンの収率は、90〜100重量%、94〜100重量%、または98〜100重量%の範囲内である。
【0073】
一実施形態において、ステップ(iii)で得られた1-クロロアセトアミド-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンをさらに精製することはしない。すなわち精製ステップには供さない。
【0074】
周囲温度下では、ステップ(iii)で得られる1-クロロアセトアミド-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンは固体である。一実施形態において、前記化合物の再結晶化を行うことはしない。
【0075】
他の一実施形態において、1-クロロアセトアミド-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンをクロマトグラフィーに供することはしない。
【0076】
このような粗生成物のままで、背景技術のセクションで述べた反応シーケンスにおける、1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンまたはその薬剤学的に許容可能な塩に変換するためのステップ(iv)にて使用することができる。
【0077】
したがって、ステップ(iii)で得られる1-クロロアセトアミド-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンは固体であり、前記固体は再結晶による精製ステップには供さない。すなわち、精製化合物を形成するべく、前記固体を溶解状態にすること、及び、沈殿物にすることはせず、前記溶解状態から沈殿させることはない。
【0078】
他の態様において、本発明は、ステップ(iii)からなる1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンまたはその薬剤学的に許容可能な塩を調製する方法に関する。:
ステップ(iii):1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンとクロロアセトニトリルとを酸存在下で反応させる。
【0079】
ここで、ステップ(iii)にて反応させる1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンは、ハロゲン化メチルマグネシウムと、3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンとの反応から得られたままで、蒸留またはクロマトグラフィーの精製ステップを経ていないものである。
【0080】
本願開示の目的において、用語「薬剤学的に許容可能な塩」とは、ネラメキサン塩であてって、哺乳類生物(例えばヒト)へ投与された際に、生理学的に許容できるものであって、有害な反応を通常はもたらさないものをいう。用語「薬剤学的に許容可能な塩」は、通常、哺乳類生物、特にヒトに対する使用について、連邦政府または州政府の規制当局により承認されたもの、または、米国薬局方もしくは他の一般に承認された薬局方のリストに掲載されたものを意味する。
【0081】
1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンからその薬剤学的に許容可能な塩への変換は、従来の方式により、該塩基と、1モル当量以上の選択された酸とを不活性な有機溶媒中にて混合することにより実現される。前記塩の単離は、塩の溶解度が低い非極性溶媒(例えばエーテル)によって沈殿を誘導するといった、当分野の公知技術により行われる。非毒性であって所望の薬理活性と実質的に干渉しない限り、前記塩の特質は、決定的に重要なものではない。
【0082】
薬剤学的に許容可能な塩の例は、塩酸、臭化水素酸、メタンスルホン酸、酢酸、コハク酸、マレイン酸、クエン酸、及び、これらと同様の酸でもって形成される塩である。
【0083】
さらなる薬剤学的に許容可能な塩には次のような酸の付加塩が含まれるが、これらに限定されない。すなわち、ヨウ化水素酸、過塩素酸、硫酸、硝酸、リン酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、マロン酸、フマル酸、酒石酸、安息香酸、炭酸、桂皮酸、マンデル酸、エタンスルホン酸、ヒドロキシエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、シクロヘキサンスルファミン酸、サリチル酸、p−アミノサリチル酸、2−フェノキシ安息香酸、および2−アセトキシ安息香酸といった酸でもって形成される酸付加塩が含まれる。
【0084】
1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンを調製する上記の方法においては、上記の実施形態のいずれか一つに従ってステップ(iii)を実施する。
【0085】
ステップ(ii)および(iii)によって調製した化合物の蒸留、再結晶化、またはクロマトグラフィーのような複雑なクリーニングステップは一般的に生成物の損失の原因となるが、このステップは本発明の方法によれば省略可能である。ステップ(ii)のグリニャール反応(実施例1参照)の収率は95%であり、ステップ(iii)のリッター反応(実施例2参照)の収率は94%である。すなわち二つのステップによる総収率は約88%である。背景技術のセクションで開示した反応シーケンスでは、対応する収率は約73%である(グリニャール反応の収率85%、リッター反応の収率86%)。
【0086】
ステップ(iii)によって調製した化合物は、背景技術のセクションで述べた、ネラメキサンまたはその薬剤学的に許容可能な塩を調製する反応シーケンスにおける次のステップ(iv)において、未精製形態で使用し得る。よって本発明の新規簡易法は有利で経済的な工業規模で実施し得る。
【実施例】
【0087】
<実施例1>
153gの3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンと、153gのテトラヒドロフランとの混合物を、93gの塩化メチルマグネシウムと、372gのテトラヒドロフランとの撹拌混合物に滴下により添加する。この混合物の温度が5℃と15℃との間に維持されるように滴下速度を選択する。滴下による添加が終了した後、この混合物を60分間撹拌する。次に、希釈した塩酸が、過剰の塩化メチルマグネシウムを分解するべく、また、塩基性マグネシウム化合物を分解するべく、添加される。この混合物について、石油エーテルで二回抽出を行う。これら二回の抽出物を合わせ、溶媒を蒸留して除去する。粗製1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンの収率は定量的な値である(170g)。前記粗生成物中の目標化合物の含有量は、約95重量%である(ガス液体クロマトグラフィーによる)。
【0088】
<実施例2>
150gのクロロアセトニトリルと、320gの氷酢酸と、実施例1で得られた170gの粗製1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンとの撹拌混合物に、294gの濃硫酸を滴下により添加する。この混合物の温度が5℃と15℃との間に維持されるように滴下速度を選択する。滴下による添加が終了した後、この混合物をさらに60分間撹拌する。次に、この混合物を氷水に注ぐ。沈殿する目標化合物1-クロロアセトアミド-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンをろ過して分離する。乾燥後、230gの目標化合物1-クロロアセトアミド-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンが得られた。収率はほぼ定量的な値である(94重量%)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記ステップ(iii)からなり、ステップ(iii)の反応に使用される1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンは、ハロゲン化メチルマグネシウムと3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンとの反応から得られたままであって、精製ステップを経ていないものであることを特徴とする、1-クロロアセトアミド-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンを調製する方法。:
ステップ(iii):1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンとクロロアセトニトリルとを酸存在下で反応させる。
【請求項2】
ステップ(iii)の前に、下記ステップ(ii)を含む請求項1に記載の方法。:
ステップ(ii):ハロゲン化メチルマグネシウム存在下で3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンを1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンに変換する。
【請求項3】
前記ハロゲン化メチルマグネシウムが塩化メチルマグネシウムである請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
未精製の1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンが85から98重量%の範囲の量の1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンを含む請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記酸が硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、またはそれらの混合物からなる群から選択される請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンとクロロアセトニトリルと酢酸との混合物に硫酸が添加される請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンと、酢酸との重量比が1:1.5〜1:2.5であり、1モル当量の1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサン当たり、1.5〜2.5モル当量のクロロアセトニトリルと、2.5〜3.5モル当量の硫酸とが使用される請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
ステップ(iii)において温度が0℃から30℃の範囲に維持される請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
ステップ(iii)で得られる1-クロロアセトアミド-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンが精製ステップに供されない請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
下記ステップ(iii)からなり、ステップ(iii)の反応に使用される1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンは、ハロゲン化メチルマグネシウムと3,3,5,5-テトラメチルシクロヘキサノンとの反応から得られたままで精製ステップを経ていないであることを特徴とする、1-アミノ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンまたはその薬剤学的に許容可能な塩を調製する方法。:
ステップ(iii)においては1-ヒドロキシ-1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサンとクロロアセトニトリルとを酸存在下で反応させる。
【請求項11】
請求項2から9のいずれか一つに従ってステップ(iii)が実施される請求項10に記載の方法。

【公表番号】特表2012−531386(P2012−531386A)
【公表日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516584(P2012−516584)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【国際出願番号】PCT/EP2010/003920
【国際公開番号】WO2011/000537
【国際公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(509295413)メルツ・ファルマ・ゲーエムベーハー・ウント・コ・カーゲーアーアー (14)
【Fターム(参考)】