説明

1,2−ジアミノ−シクロヘキサン−白金(II)錯体の製造方法

本発明は、1,2−ジアミノシクロヘキサン−白金(II)錯体の製造方法に、特に、オキサリプラチンのための製造方法に関する。前記方法は、簡単な、経済的な、及び産業上の製造に適用可能である。前記方法は、(DACH)PtCl2と硫酸銀(Ag2SO4)とを反応させ、及び続く硫酸Pt錯体(DACH)Pt(aq)2SO4とシュウ酸バリウム(BaC24)との、又は硫酸Pt錯体(DACH)Pt(aq)2SO4と水酸化バリウム及びシュウ酸との当量混合物とを反応させて、低い銀含有率及び低い硝酸塩含有率を揺する高純度のオキサリプラチンを得ることを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の詳細な説明
本発明は、1,2−ジアミノシクロヘキサン−白金(II)錯体、特にシス−オキサレート−(トランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミン)−白金(II)錯体、例えばオキサリプラチンの製造方法に関する。さらに、本発明は、高純度のオキサリプラチン物質、及び製剤組成物において薬理学的に活性のある化合物としての(例えば癌の治療のための)その使用に関する。
【0002】
"オキサリプラチン"、CAS番号[61825−94−3]は、化学薬品名(SP−4−2)−[(1R,2R))−1,2−シクロヘキサンジアミン−N,N’]−[オキサレート−O,O’]−白金(II)で、Pt(II)−錯体のための一般に使用される名称である。通常の名称は、"シス−オキサレート−(トランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミン)−白金(H)"である。オキサリプラチンは、転移性結腸直腸癌腫に対する細胞増殖抑制薬剤である。根本的に、オキサリプラチン錯体は、3つの異性体:幾何学的異性体であるシス異性体、及び光学異性体(エナンチオマー)である2つのトランス異性体(トランス−d及びトランス−I)の混合物である。オキサリプラチンは、次の式:
【化1】

を有する純粋なトランス−/エナンチオマーである。
【0003】
シス−白金(II)化合物の抗癌活性は一般に公知である一方で、1976年に名古屋大学(日本)でYoshinori Kidani教授によって(US 4,169,846を参照)発見されている。オキサリプラチンは、癌治療において現在しばしば使用されている。
【0004】
US 4,169,846において記載されている方法は、(DACH)PtCl2として略記される(SP−4−2)−ジクロロ−[(1R,2R))−1,2−シクロヘキサンジアミン−N/N’]−白金(II)の反応に基づいて、硝酸銀(AgNO3)の2当量での水中で、得られた固体相の除去、及び続いて得られた[(1R,2R)−1,2−シクロヘキサンジアミン−N,N’]−白金(II)ジアクオ−ジニトレート(以下で(DACH)Pt(アクオ)2−ジニトレート)と略記される)とシュウ酸及び/又はそのアルカリ金属塩との反応である。前記生成物は、再結晶によって精製される必要があり、得られたオキサリプラチンの再収集率は、一般に極めて低い。したがって、一般の手法は、産業上の適用に適していない。
【0005】
オキサリプラチンの製造のための種々の方法は、後に特許文献において開示されている。
【0006】
主な焦点は、製剤学の明確化の要求を満たすためのオキサリプラチンの銀含有率の低減である。European Pharmacopeia 04/2003、Annex 4.4にしたがって、銀含有率は、5ppm未満である必要がある(AASによって検出される)。銀イオン及び(DACH)Pt(II)ジアクオ錯体からの他の不純物の除去のためにアルカリヨウ化物を使用する精製工程は、従来技術においてしばしば報告されている。
【0007】
US 5,290,961(及び対応するEP 617043B1)は、オキサリプラチン製造のための方法を開示しており、第一工程において、銀の2当量以上が化合物(DACH)PtCl2に添加される。その後、沈澱したAgClを除去し、ヨウ化ナトリウム及び/又はヨウ化カリウムを未反応の(DACH)PtCl2、その副生成物、及び未反応の銀をそれらのヨウ化物に転化するために添加し、続いてそれらを除去する。この工程の後、シュウ酸を添加し、オキサリプラチン錯体を形成する。
【0008】
WO 03/004505 A1において、ヨウ化物イオンの添加に基づくより少ない精製工程が報告されている。
【0009】
EP 1680434B1は、微量の不純物の除去のための(NR4)N Iタイプの第四級ヨウ化アンモニウムの添加を開示している。
【0010】
EP 1561754B1は、化合物(DACH)PtI2を製造するための出発材料としてのテトラ−ヨウ素錯体K2PtI4を使用するオキサリプラチンの製造方法を記載している。この中間体を、銀塩、例えばAgNO3と反応させ、沈澱したAgIを取り出し、そして残った(DACH)Pt−(アクオ)2−ジニトレート錯体を、オキサレート化合物の添加によってオキサリプラチンに転化する。
【0011】
2PtI4からも出発する、より少ない製造方法は、ES 2183714A1において開示されている。
【0012】
出発材料としてヨウ化物化合物K2PtI4を使用する方法の欠点は、追加の工程が(二塩化化合物K2PtCl4からのK2PtI4錯体の製造による)方法となり、従って、得られた全ての方法は、時間がかかり、かつ費用がかかる。
【0013】
さらに、ヨウ化物を使用する製造方法は、白金(II)モノヨード及びジヨード錯体による生成物の退色を導く。粗オキサリプラチン生成物は、従って、水から再結晶される必要がある。
【0014】
WO 2007/140804は、固体の不活性材料及びカチオン交換基を含む固体のポリマー材料を種々の反応工程において添加する、オキサリプラチンの製造方法を開示している。
【0015】
EP 881226は、オキサリプラチンの製造のために、脱酸水の使用及び少ない酸素環境を教示している。かかる方法は、産業の製造規模において使用するために非常に時間を消費し、かつ費用がかかる。
【0016】
まとめると、オキサリプラチンの製造のために現在開示されている方法は、種々の欠点を有し、かつ非常に長く時間を消費し、そして費用がかかる。
【0017】
従って、本発明の目的は、早く、単純で、簡単な、経済的な、そして産業上の製造に適用可能なオキサリプラチンの製造方法を提供することであった。前記方法は、高収率及び高純度で、製剤学的使用に適したオキサリプラチン生成物を提供する。さらに、本発明の目的は、使用した個々の工程が、脱酸水又は低い酸素雰囲気を要求する必要がない方法を提供することであった。
【0018】
これらの目的は、本発明の請求項による製造方法によって満たされる。
【0019】
本発明は、以下:
a)テトラクロロ白金酸(II)カリウム[K2PtCl4]とトランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミンとを反応させて、ジクロロ−[(トランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミン−N,N’]−白金(II)錯体を得る工程、
b)ジクロロ−[(トランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミン−N,N’]−白金(II)錯体と硫酸銀(Ag2SO4)とを反応させて、[(トランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミン−N,N’]−白金(II)−ジアクオ−スルフェート及び塩化銀(AgCl)を得る工程、
c)[(トランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミン−N,N’]−白金(II)−ジアクオ−スルフェートとシュウ酸バリウム(BaC24)とを反応させて、オキサリプラチン(シス−オキサレート−(トランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミン)−白金−II)及び硫酸バリウム(BaSO4)を得る工程
を含む、構造式I:
【化2】

のオキサリプラチン(シス−オキサレート−(トランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミン)−白金−II)を製造する方法を提供する。
【0020】
本発明の方法の反応工程a)〜c)を、次の式(1)〜(3)(式中、"DACH"は、前記のトランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミンであり、かつ"aq"は、硫酸Pt錯体中のH2Oリガンドを表す)で示すことができる:
【化3】

【0021】
本発明の好ましい一実施態様において、工程c)において使用されるシュウ酸バリウム(BaC24)は、反応混合物に単離構成成分の形で添加される。したがって、これは、反応中に"その場で"形成される。この場合において、シュウ酸(S224)及び水酸化バリウム(Ba(OH)2)の2つの化合物を、連続して又は同時に化学量論部(すなわち等モル)で撹拌下で反応混合物に添加する:
【化4】

【0022】
従って、好ましい一実施態様において、本発明の方法は、以下:
a)テトラクロロ白金酸(II)カリウム[K2PtCl4]とトランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミンとを反応させて、ジクロロ−[(トランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミン−N,N’]−白金(II)錯体を得る工程、
b)ジクロロ−[(トランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミン−N,N’]−白金(II)錯体と硫酸銀(Ag2SO4)とを反応させて、[(トランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミン−N,N’]−白金(II)−ジアクオ−スルフェート及び塩化銀(AgCl)を得る工程、
c1)[(トランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミン−N,N’]−白金(II)−ジアクオ−スルフェートと水酸化バリウム(Ba(OH)2)とシュウ酸(H224)とを反応させて、オキサリプラチン(シス−オキサレート−(トランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミン)−白金−II)及び硫酸バリウム(BaSO4)を得る工程
を含む、構造式Iのオキサリプラチン(シス−オキサレート−(トランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミン)−白金−II)を製造する方法を提供する。
【0023】
この好ましい実施態様において、市場で容易に入手可能である安価な材料を使用することができる。
【0024】
本発明の製造方法は、さらに、工程b)後に沈澱した塩化銀(AgCl)を除去する工程b’)、及び工程c)/c1)後に沈澱した硫酸バリウム(BaSO4)を除去する工程c’)を有してよい。これらの工程に加えて、不純物の除去並びに/又はオキサリプラチン生成物の単離及び/又は精製のためのさらなる工程を、前記方法に付加してよい。例として、本発明の製造方法は、以下、
a)テトラクロロ白金酸(II)カリウム[K2PtCl4]とトランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミンとを反応させて、ジクロロ−[(トランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミン−N,N’]−白金(II)錯体を得る工程、
b)ジクロロ−[(トランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミン−N,N’]−白金(II)錯体と硫酸銀(Ag2SO4)とを反応させて、[(トランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミン−N,N’]−白金(II)−ジアクオ−スルフェート及び塩化銀(AgCl)を得る工程、
b’)沈澱した塩化銀(AgCl)を除去する工程、
c)/c1)[(トランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミン−N,N’]−白金(II)−ジアクオ−スルフェートとシュウ酸バリウム(BaC24)とを(=工程c))、又は[(トランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミン−N,N’]−白金(II)−ジアクオ−スルフェートと水酸化バリウム(Ba(OH)2)とシュウ酸(H224)とを(=工程c1))反応させて、オキサリプラチン(シス−オキサレート−(トランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミン)−白金−II)及び硫酸バリウム(BaSO4)を得る工程、
c’)沈澱した硫酸バリウム(BaSO4)を除去する工程、及び
d)オキサリプラチン生成物を単離及び/又は精製する工程
を含む、構造式Iのオキサリプラチン(シス−オキサレート−(トランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミン)−白金−II)を製造する方法を提供する。
【0025】
本発明は、早く、簡単な、経済的な、そして産業上の製造に適用可能なオキサリプラチンの製造方法を提供する。前記方法は、高収率及び高純度で、特に低い銀含有率(<5ppm)でオキサリプラチン生成物を提供する。先行技術の方法と比較して、本発明の方法は、ヨウ化化合物の添加に基づく精製工程を使用しない。さらに、化合物K2PtI4を、出発材料として使用しない。
【0026】
一般に、本発明は、2つの重要な特徴で先行技術の製造方法とは異なる。第一に、工程b)において、中間体(DACH)Pt(aq)2錯体の製造のための硫酸銀を(窒化銀の代わりに)使用する。第二に、前記方法は、工程c)においてオキサリプラチン生成物(DACH)Pt(C24)の製造のために、シュウ酸バリウム(BaC24)、又は代わりに水酸化バリウム(Ba(OH)2)とシュウ酸(H224)との等モル混合物を使用する。
【0027】
この方法の組合せは、特に水溶性BaSO4の形で母液からのイオン性不純物(バリウムイオン及び硫化物イオン)の除去を可能にする、非常に効率的な製造方法をもたらす。驚くべきことに、BaSO4の除去後に、オキサリプラチン生成物を、母液から単純な溶剤蒸発及び結晶化によって高純度で単離することができることが見出された。
【0028】
減少させた数の加工工程及びこの方法において使用した洗浄/精製手法のために、生成物の収率は極めて高く、80%までに達する。
【0029】
まとめると、本発明による方法は、製剤学的生成物において薬理学的に活性のある化合物として使用することができる高収率で非常に純粋なオキサリプラチン生成物を提供する。
【0030】
発明の詳細な説明
既に挙げられたように、オキサリプラチン化合物は、3つの異性体の混合物である。オキサリプラチンは、純粋なトランス異性体/エナンチオマーからなる。最終のオキサリプラチン生成物の高い光学純度を達成するために、高い光学純度を有するトランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミン[=(1R,2R)−ジアミノシクロヘキサン(DACH)]リガンドを、前記方法において使用するべきである。
【0031】
工程a:工程a)に関する出発材料であるテトラクロロ白金酸(II)カリウム[K2PtCl4]は市場で容易に入手できる。典型的に、そのPt含有率は、46.0〜47.5質量%の範囲であり、かつ含水率は<1質量%である。
【0032】
本発明の出発材料として適している(1R,2R)−ジアミノシクロヘキサンエナンチオマーは、最小光学純度99.5%を有し、トランス−d(=1S,2S)異性体は<0.1%未満である。適したDACH材料を、新しく開発したエナンチオマー分離技術によって製造し、いくつかの供給業者から入手できる。テトラクロロ白金酸カリウム(K2PtCl4)及びDACHを、室温で、2〜10時間の範囲、有利には4〜8時間の範囲の時間撹拌する。黄色い(DACH)PtCl2が沈澱し、そして例えば濾過装置での濾過によって単離させることができる。この中間体(DACH)PtCl2を、精製水及び有機溶剤、例えばメタノール及び/又はアセトンで洗浄する。乾燥を、有利には真空下で1〜6時間実施する。
【0033】
工程b):一般に、工程b)において使用した硫酸銀を、出発(DACH)PtCl2錯体に対して化学量論量で使用し、例えば出発Pt錯体の1モル当量毎に、硫酸銀の1モル当量を使用する。前記構成成分を、水溶液中で室温(20℃)で撹拌し、典型的な反応時間は、10〜30時間の範囲である。30〜50℃の範囲でわずかに増加した反応温度を、反応時間の延長を避けるために使用してよい。本発明の方法に適した硫酸銀は、約68.0〜69.5質量%の銀含有率、及び<1質量%の含水率を有する。適した生成物は、種々の供給業者から入手できる。
【0034】
工程c)/c1):工程c)において使用したシュウ酸バリウム(BaC24)は、市販されているか、又は水酸化バリウム(Ba(OH)2)とシュウ酸(H224)との等モル量での水中での単純な反応で使用する前に別々に製造されうる。工程1)の場合において、構成成分水酸化バリウム(Ba(OH)2)とシュウ酸(H224)とを、連続して又は同時に反応混合物に添加する。ここで、シュウ酸バリウム(BaC24)は、反応混合物中で"その場で"形成される。水酸化バリウム(Ba(OH)2)を、その一水和物又はその八水和物で使用してよく、シュウ酸を、純又はその二水和物型で使用することができる。これらの出発化合物の全ては、市場で容易に入手できる。
【0035】
一般に、工程c)において、pHを、pH=4〜7の範囲、有利にはpH=5〜6.5の範囲に、シュウ酸バリウム(BaC24)の添加後に調整する。工程c1)において、すなわち水酸化バリウム(Ba(OH)2)及びシュウ酸(H224)が混合物中に別々の化合物として添加される場合に、pHを、同様のpH範囲に調整する。典型的に、工程c)及びc1)を、室温で又は30〜50℃の範囲のわずかに高い反応温度で実施する。
【0036】
工程b’)及びc’):沈澱した塩化銀(工程b’))の除去を、高千恵b)の後に実施し、沈澱した硫酸バリウム(工程c’))の除去を、工程c)又は工程c1)の後に実施する。これらの工程を、当業者に公知の標準の分離又は濾過操作の使用によって実施することができる。分離及び濾過装置、例えば吸引濾過、濾紙、圧搾濾過器、遠心分離等を使用してよい。濾過方法の改良のために、活性炭の水性懸濁液を、濾過方法の開始前に濾紙上に塗布してよい。沈澱したAgCl(工程b’)において得られる)及び硫酸バリウム(工程c’)において得られる)の濾過ケークを、一般に、白金の残存量に関してXRF(X線蛍光)によって解析する。Pt残留量がXRFスペクトルにおける定義されたピークとして見える場合に、対応する濾過ケークを、精製水中で再懸濁し、撹拌し、そして再度濾過する。最終的に、濾過ケークを、Pt回収のために採取してよい。必要であれば、前記濾過方法を繰り返してよく、かつ生成物(DACH)Pt(C24)を含有する濾過された溶液を再度濾過してよい。
【0037】
工程d):生成物の単離及び/又は精製のために、工程c)又は工程c1)において得られた水溶液を、25〜50℃の範囲の温度で、水ジェット真空(10〜20トール)を使用して回転蒸発器(例えば"Rotavapor")中で濃縮する。一般に、水を、ほとんど乾燥状態まで取り出す。ここで、オキサリプラチン生成物が結晶化し、かつ沈澱する。得られた沈澱物を、母液から濾過によって単離し、そして冷たい、高純粋で洗浄し、その後アセトンで洗浄する。最終的に、その生成物を、1〜5時間真空下で乾燥する。
【0038】
生成物純度:典型的に、本発明に従って製造されたオキサリプラチン生成物において、Ag含有率は<5ppm、有利には<3.5ppmである(原子吸光分析、AASによって検出される)。従って、前記生成物は、European Pharmacopeia 04/2003、Annex4.4の規格を満たす。必要であれば、精製水での適した再結晶工程を追加してよい。本発明の方法の一般的な利点は、硝酸塩イオン(NO3-イオン)を使用することである。従って、得られたオキサリプラチン生成物のこのイオンでの汚染は非常に低く、NO3-の含有率は、典型的に<5ppm、有利には<1ppmである(クロマトグラフィーで検出される)。同様に、Na+及びK+の含有率は、典型的に<5ppm、有利には<1ppmである(イオンクロマトグラフィーで検出される)。本発明に従って製造された最終のオキサリプラチン生成物は、非常に高い光学純度を示す。トランス−d(=1S,2S)異性体の濃度は、一般に<0.1%である。前記生成物は、European Pharmacopeia 04/2003、Annex4.4の規格の要求を満たす。
【0039】
原則として、純生成物の合計収率は、60〜80%の範囲、より詳述すれば65〜80%の範囲である(出発物質K2PtCl4において使用されるPtに対して)。生成物塊を、すり鉢中でデアグロメレートしてよい。光に対する保護のために、前記生成物を、暗いプラスチックボトル中に貯蔵する。
【0040】
次の実施例は、本発明の範囲を制限することなく本発明を詳細に説明するものであってよい。
【0041】
実施例
一般的注釈:脱イオン水を、最終生成物の洗浄/すすぎの工程を除いて全ての工程で使用する。ここで、制限された細菌含有率を有する高精製水(European Pharmacopoeia 4に従う)を使用する。
【0042】
解析方法:銀濃度を、AAS(原子吸光分析)によって測定し、XRF(X線蛍光分光法)を残りの白金及び銀の含有率の検出のために使用する。アルカリイオン(Na+、K+等)及びNO3-の含有率を、イオンクロマトグラフィー(IC)によって測定する。
【0043】
実施例1
工程a):(DACH)PtCl2の製造
塩化白金カリウムK2PtCl4(0.256mol;Pt含有率47.0質量%、Umicore社製の対応するPt50.0g)106.4gを、5lのポリプロピレンタンクに置き、そして脱イオン水5l中で溶解する。その後、トランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミン[(R,R)−1,2−ジアミノシクロヘキサン、CAS番号20439−47−8]、光学純度99.5%)30gを添加し、そしてその混合物を、6時間室温で撹拌する。黄色い生成物(DACH)PtCl2が沈澱し、そして濾過装置での濾過によって単離する。その濾過ケークを、脱イオン水、メタン及びアセトンで洗浄し、そして4時間真空で乾燥する。収率>95%。
【0044】
工程b):(DACH)PtCl2と硫酸銀との反応
脱イオン水8lを20lのプロピレンタンク中に装填し、そして、硫酸銀Ag2SO4(0.26mol、Umicore社製)81.6gを撹拌下で添加する。そして、工程a)において製造されたPt錯体(DACH)PtCl2を添加し、そして得られた懸濁液を、20時間室温で撹拌する。沈澱したAgClを、濾過によって取り除く(工程b’))。濾過の開始前に、活性炭素の懸濁液を、濾紙上に適用する。濾過ケークを、脱イオン水で洗浄し、そしてPt回収のために集める。ろ液は、工程c)において使用した、(DACH)Pt(アクオ)2−(II)−スルフェート錯体を含む。
【0045】
工程c’):(DACH)Pt(アクオ)2−(II)−スルフェート錯体とシュウ酸との反応
(DACH)Pt(アクオ)2−(II)−スルフェート錯体を含む工程b)から得られたろ液(約10〜12l)を、20lのプロピレンタンク中に置く。その後、シュウ酸二水和物(H224x2H2O、0.26mol)32.4gと水酸化バリウム八水和物(Ba(OH)2x8H2O、0.26mol)81.6gを、撹拌しながら添加する。その反応混合物を、20時間室温で撹拌する。その懸濁液のpHを、約pH=6で維持する。そして沈澱したBaSO4の濾過を、濾過装置を介して実施する(工程c’))。濾過の開始前に、活性炭素の懸濁液を、濾紙上に適用する。濾過ケークを、脱イオン水1.5lで洗浄し、そしてPt回収のために集める。
【0046】
得られた溶液は、オキサリプラチンを沈澱させるためにRotavapor中で40℃でほとんど乾燥した状態まで蒸発する。得られた沈澱物を、冷却した高精製水(細菌を有さない)0.2〜0.3lで洗浄し、そしてアセトンで洗浄する。光に対して生成物を保護するために、これらの操作を、低い強度の光で実施する。最終的に、その生成物を、2時間真空下で乾燥する。純粋な生成物の合計収率は65%である。
【0047】
その後、その生成物を、不純物に関して解析する。典型的に、原子吸光分析(AAS)によって検出されたAg含有率は、<5ppm、有利には<3.5ppmである。必要であれば、精製水での再結晶工程を追加する。この実施例において、イオンクロマトグラフィーによって検出された硝酸塩含有率は、<1ppmである。
【0048】
実施例2
この実施例を、実施例1に従って実施するが、しかし、シュウ酸バリウム(BaC24)を、水酸化バリウム及びシュウ酸(すなわち工程c))の代わりに使用する。シュウ酸バリウムを、脱イオン水中でシュウ酸二水和物(H224x2H2O)と水酸化バリウム八水和物(Ba(OH)2x8H2O)とを等モル部反応することによって別々に製造する。反応後、沈澱したシュウ酸バリウムを、濾過によって単離し、そして使用前に乾燥する。
【0049】
(DACH)Pt(アクオ)2−(II)−スルフェート錯体を含む実施例1、工程b)において得られたろ液(約10〜12l)を、20lのプロピレンタンク中に置く。その後、シュウ酸バリウム(BaC24、0.26ml)58.8gを撹拌しながら添加する。その反応混合物を、20時間室温で撹拌する。その懸濁液のpHを、約pH=6で維持する。
【0050】
生成物のさらなる単離を、実施例1において記載したように行う。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下:
a)テトラクロロ白金酸(II)カリウム[K2PtCl4]とトランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミンとを反応させて、ジクロロ−[(トランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミン−N,N’]−白金(II)錯体を得る工程、
b)ジクロロ−[(トランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミン−N,N’]−白金(II)錯体と硫酸銀(Ag2SO4)とを反応させて、[(トランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミン−N,N’]−白金(II)−ジアクオ−スルフェート及び塩化銀(AgCl)を得る工程、
c)[(トランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミン−N,N’]−白金(II)−ジアクオ−スルフェートとシュウ酸バリウム(BaC24)とを反応させて、オキサリプラチン(シス−オキサレート−(トランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミン)−白金−II)及び硫酸バリウムを得る工程
を含む、構造式I:
【化1】

のオキサリプラチン(シス−オキサレート−(トランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミン)−白金−II)を製造する方法。
【請求項2】
以下:
a)テトラクロロ白金酸(II)カリウム[K2PtCl4]とトランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミンとを反応させて、ジクロロ−[(トランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミン−N,N’]−白金(II)錯体を得る工程、
b)ジクロロ−[(トランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミン−N,N’]−白金(II)錯体と硫酸銀(Ag2SO4)とを反応させて、[(トランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミン−N,N’]−白金(II)−ジアクオ−スルフェート及び塩化銀(AgCl)を得る工程、
c1)[(トランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミン−N,N’]−白金(II)−ジアクオ−スルフェートと等モル量の水酸化バリウム(Ba(OH)2)及びシュウ酸(H224)とを反応させて、オキサリプラチン(シス−オキサレート−(トランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミン)−白金−II)及び硫酸バリウム(BaSO4)を得る工程
を含む、構造式Iのオキサリプラチン(シス−オキサレート−(トランス−/−1,2−シクロヘキサンジアミン)−白金−II)を製造する方法。
【請求項3】
さらに、塩化銀の除去に関する工程b’)を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
さらに、硫酸バリウムの除去に関する工程c’)を含む、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
さらに、前記オキサリプラチン生成物の単離及び/又は精製に関する工程d)を含む、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
シュウ酸バリウム(BaC24)の添加後に、pHを、pH=4〜7の範囲、有利にはpH=5〜6.5の範囲に調整する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
シュウ酸(H224)及び水酸化バリウム(Ba(OH)2)の添加後に、pHを、pH=4〜7の範囲、有利にはpH=5〜6.5の範囲に調整する、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
工程c1)において、シュウ酸バリウム(BaC24)を、その場で反応混合物中で形成する、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
工程b’)において塩化銀(AgCl)の除去を、及び工程c’)においての硫酸バリウム(BaSO4)除去を、濾過によって実施する、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
工程d)におけるオキサリプラチン生成物の単離及び/又は精製を、溶剤の蒸発によって実施する、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
硝酸塩含有率(NO3-)<5ppm、有利には<1ppm(イオンクロマトグラフィーによって検出される)を有する、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法によって得られる、式Iによるオキサリプラチン。
【請求項12】
製剤組成物において薬理学的に活性のある化合物としての、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法によって得られるオキサリプラチンの使用。

【公表番号】特表2012−530737(P2012−530737A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516565(P2012−516565)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【国際出願番号】PCT/EP2010/003753
【国際公開番号】WO2010/149337
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(501399500)ユミコア・アクチエンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト (139)
【氏名又は名称原語表記】Umicore AG & Co.KG
【住所又は居所原語表記】Rodenbacher Chaussee 4,D−63457 Hanau,Germany
【Fターム(参考)】