説明

1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸の製造方法

【課題】機能性ポリマー原料や各種化学品中間体として有用である1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸(BTC)の製造方法の提供。
【解決手段】1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレンを過マンガン酸カリウムによって酸化することを特徴とするBTCの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸の製造方法に関し、さらに詳しくはポリイミド樹脂などの機能性ポリマー原料や各種化学品中間体として有用であり、また、エポキシ樹脂の硬化剤やポリエステルなどへの添加剤としての利用や、エステル化反応やアミド化反応を適用した誘導体化やポリマー化も期待できる1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸の製造法は種々提唱されている。例えば、非特許文献1および非特許文献2では、1,2,3,4−テトラメチルベンゼンを酸化して、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸を合成している。
【0003】
非特許文献3でも、合成により得られた1,2,3,4−テトラメチルベンゼンを過マンガン酸カリウムにより酸化して、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸を合成している。非特許文献4では、1,4−ジメチルナフタレンを40%濃硝酸で反応温度170〜180℃、加圧下で酸化して1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸を合成している。
【0004】
特許文献1では、1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレンを濃硝酸により、反応温度150℃で加圧下、あるいは反応温度160〜165℃、ジブロモベンゼン溶媒中にて酸化することで1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸を合成している。特許文献2では、1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレンをブチロラクトン溶媒中、反応温度210℃、圧力20キロで酸素酸化して1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸を合成している。
【0005】
非特許文献5〜8では、1,4−ナフタレンジカルボン酸の過マンガン酸カリウム酸化により1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸を合成している。非特許文献9では、1,3−シクロヘキサジエンから、無水マレイン酸とのディールスアルダー反応、液相硝酸酸化、臭素による酸化的脱水素の3段階の反応で1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸を合成している。非特許文献10では、シクロへキセンを出発物質として同様に1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸を合成している。
【0006】
【特許文献1】米国特許第3,350,443号明細書
【特許文献2】独国特許第1,183,068号明細書
【非特許文献1】Ber.1884,17,2517
【非特許文献2】Ber.1888,21,904
【非特許文献3】Pharmaceutical Society of Japan 1953,73,928
【非特許文献4】J.Chem.Soc.1910,97,1904
【非特許文献5】J.Am.Chem.Soc.1933,55,4305
【非特許文献6】J.Am.Chem.Soc.1939,61,288
【非特許文献7】J.Am.Chem.Soc.1952,74,116
【非特許文献8】Macromolecules 2002,35,8708
【非特許文献9】Bull.Chem.Soc.Jpn.1968,41,1,265
【非特許文献10】Macromolecules 2002,35,8708
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記種々の従来法は、それぞれ問題点や改善すべき課題を有し、特にラボスケールからのスケールアップが難しいという特徴がある。すなわち、1,2,3,4−テトラメチルベンゼンを酸化する製造方法では、原料とする1,2,3,4−テトラメチルベンゼンの入手が容易ではなく、石油中にごく微量含まれている成分の困難を伴う回収や精製、あるいは複雑な有機反応による合成が必要であるといった問題がある。
【0008】
また、1,2,3,4−テトラメチルベンゼンや1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレンを硝酸酸化する製造方法では、耐酸性、耐高圧などの特殊な設備を必要とし、また、大量の窒素酸化物を副生するため、安全性や環境面でも問題がある。
【0009】
また、1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレンを液相酸素酸化する製造方法では、耐高圧などの特殊な設備を必要とし、また、高圧の酸素ガスを使用するために安全性の問題がある。また、1,4−ナフタレンジカルボン酸を酸化する製造方法では、原料とする1,4−ナフタレンジカルボン酸は数段の有機反応による合成が必要であり、また、反応後の1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸の精製・単離操作が容易ではなく、収率も低いといった問題がある。
【0010】
また、1,3−シクロヘキサジエンから、無水マレイン酸とのディールスアルダー反応、液相硝酸酸化、臭素による酸化的脱水素の3段階の反応で製造する方法では、工程数が多く、また、硝酸酸化の工程では、耐酸性の特殊な設備を必要とし、また、大量の窒素酸化物を副生するために安全性や環境面での問題がある。
【0011】
従って本発明の目的は、機能性ポリマー原料や各種化学品中間体として有用である1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸の上記従来の製造方法の問題を解決し、従来法に比べて優れた1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレンを過マンガン酸カリウムによって酸化することを特徴とする1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸の製造方法を提供する。
【0013】
上記方法では、酸化を主反応溶媒としての水中で行うこと;酸化をアルカリ条件下で行うこと;酸化を10℃から120℃の温度で行うこと;酸化を1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレンと過マンガン酸カリウムとの使用モル比を1:8から1:30として行うこと;および酸化を過マンガン酸カリウムと反応溶媒との質量比を1:2から1:50として行うことが好ましい。
【0014】
また、上記方法では、反応終了後に、反応液から不溶分を除去し、中和および乾固により得られた粗生成物から、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸を酢酸により抽出して精製することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明で用いる1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレンは、コールタール中に4質量%前後と多く含有され、分離技術も確立されているフェナントレンから、公知の方法により一段反応で製造できるため、量の制約も技術的な制約も特段ない。また、過マンガン酸カリウムによる1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレンの酸化は、常圧下で穏和な反応条件で行えるため、特殊な耐酸性や耐高圧の設備の必要がなく、汎用設備の使用が可能である。また、安全面、環境面においても問題が少ない。
【0016】
以上のように本発明によれば、フェナントレンの水素添加反応による1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレンの製造、およびその過マンガン酸カリウム酸化という二段階の反応で、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸の製造が可能である。従来法に対して、耐酸性や耐高圧などの特殊な設備を必要としない、全工程が二工程と短い、安全面や環境面において問題が少ないなどの点で優れている。特に、スケールアップ時において従来法より有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。本発明では、1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレンを溶媒中で過マンガン酸カリウムと反応させ、目的とする1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸を製造する。反応溶媒としては、水、その他の過マンガン酸カリウム酸化において一般的な溶媒を用いることが可能である。特に水を主反応溶媒として用いることが好ましい。
【0018】
反応(酸化)温度は、原料仕込み量、溶媒量、溶媒の種類、装置の特性などにより異なるが、反応混合物が固化して反応が進まなくなる温度以上である必要があり、また、溶媒や原料などが揮散により大量に消失する温度以下である必要がある。好ましくは、10℃〜120℃、さらに好ましくは、40℃〜100℃の範囲である。反応時間は、反応温度、原料仕込み量、溶媒量、撹拌効率などにより異なるが、約2〜48時間である。なお、反応は、途中で加熱、撹拌を停止して中断しても、再び昇温、撹拌することで継続が可能である。
【0019】
使用する1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレンと過マンガン酸カリウムとのモル比は、好ましくは1:8〜1:30であり、さらに好ましくは1:12〜1:22の範囲である。過マンガン酸カリウムが少ない場合は、反応中間体や未反応原料の残存が多く、目的物の収率が低下したり、精製が困難になるといった問題が生じる。一方、過マンガン酸カリウムが多い場合には、釜効率が悪い、ロスになる過マンガン酸カリウムが多い、目的物がさらに酸化分解されて収率が低下するといった問題が生じる。
【0020】
また、過マンガン酸カリウムの反応系内への添加は、反応開始時に全量行うことも可能であるし、何回かに分けて行うことも可能である。過剰の過マンガン酸カリウムを使用するのを避けるため、反応終盤において系内の着色度合(特有の紫色)や、原料や反応中間体の残存度合を分析で確認しながら徐々に添加することも可能である。
【0021】
使用する過マンガン酸カリウムと反応溶媒との質量比は、好ましくは1:2〜1:50であり、さらに好ましくは1:3〜1:24の範囲である。反応溶媒が少ない場合は、不溶な過マンガン酸カリウムが酸化剤として機能しなかったり、撹拌異常、反応効率の低下などの問題が生じる。一方、反応溶媒が多い場合には、釜効率が悪い、反応時間が長くかかるといった問題が生じる。
【0022】
反応により得られる反応生成物は必要に応じた精製を行う。非特許文献7や非特許文献3に記載があるように、目的物をカルボン酸のバリウム塩として回収し、酸性度の調整、中和により純度を高め、水や酸で再結晶精製を行う方法が可能である。また、実施例に記載のように、反応混合物中の余剰過マンガン酸カリウムのクエンチ、二酸化マンガンなどの不溶分除去、酸による中和、溶媒乾固により塩を多く含む粗体を得た後、酢酸により1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸を抽出し、溶媒留去して純度を高める方法も可能である。
【0023】
反応溶媒として、水などの1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレンが不溶な溶媒を使用する場合は、反応を促進するために、界面活性剤などの添加剤を用いることが効果的である。また、そのような不均一系の反応の場合は、撹拌速度、撹拌効率が反応速度に大きく影響を与える。
【0024】
以上のような製造方法で得られる1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸は、機能性ポリマー原料や各種化学品中間体として有用である。
【実施例】
【0025】
次に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0026】
<実施例1> 1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸の合成(1)
冷却管を備えた1Lの三口フラスコに、過マンガン酸カリウム80.6g(0.510mol)および蒸留水721gを入れ、撹拌しながら75℃まで加熱、溶解した後、1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン10.0g(0.0537mol、GC純度97.1%)を2分で添加し、反応を開始した。反応中反応温度は75〜80℃に保った。反応が進むにつれ、こげ茶色の不溶分(二酸化マンガン)の増加およびpHの上昇が見られた。
【0027】
反応開始8.6時間後(反応一日目に6.5時間反応して終了、二日目に反応を再開)、過マンガン酸カリウム29.4g(0.186mol)および蒸留水8.8gを追加して反応を継続した。反応開始後14.2〜15時間の間、10%塩酸を102g(0.28mol)加え、pHを9強から7強に低下させた。その後、19.3時間まで反応を継続し終了した。
【0028】
反応混合物を放冷後、メタノール4.15g(0.130mol)を加えて、室温で液層の紫色の着色がなくなるまで(約2時間)撹拌後、吸引ろ過により固形分を除去した。ろ液をもう一度ろ過してわずかに残存する不溶分を除去した後、約200mLまで減圧下で濃縮した(この段階でpHは9弱)。濃縮液を室温で撹拌しながら、濃塩酸17.1g(0.169mol)を1.4時間かけて加え、中和を行った(中和中に固体の析出が見られたが、最後は均一な溶液でpHは1〜2となった)。ろ液をもう一度ろ過した後、減圧下で乾固し、37.9gの薄い肌色の固体を取得した。
【0029】
300mLフラスコに、得られた粗体37.1gと酢酸261.8gを入れ、還流下で3時間撹拌した。熱ろ過により不溶分(白色固体)を除去した後、得られたろ液を乾固して7.73gの固体を取得した。この固体に52.3gの13.4%塩酸を加え、還流下で撹拌後、0℃まで冷却して結晶化を促し、4.68gの湿固体(LC純度約96%)をろ過回収した。さらに、100mLフラスコで、得られた湿固体に66.8gの15.0%塩酸を加え、還流下で撹拌溶解後、熱ろ過し、撹拌しながら室温まで冷却、結晶化させて3.46gの湿固体をろ過回収した。湿固体を減圧乾燥して、目的とする1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸(LC純度97%以上)3.21gを取得した(収率23%)。
【0030】
上記1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸の分析結果は、NMR/1H NMR(400MHz,DMSO−d6)δ(ppm)/13.2−13.7(b,4H,−COOH);7.91(s,2H,ArH)、元素分析/Calcd for C1068:C−47.26%;H−2.38%;O−50.36%/Found:C−47.19%;H−2.33%;O−49.88%、IR/図1参照という結果であり、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸の構造と一致した。
【0031】
また、無水酢酸により無水化して得られた生成物の分析結果は、融点/〜198.4℃、NMR/1H NMR(400MHz,DMSO−d6)δ(ppm)/8.57(s,2H,ArH)、元素分析/Calcd for C1026:C−55.06%;H−0.92%;O−44.01%/Found:C−54.78%;H−0.98%;O−44.22%という結果であり、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物の構造と一致した。この結果からも、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸の生成が立証された。
【0032】
<実施例2> 1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸の合成(2)
冷却管、メカニカルスターラーおよび温度計を備えた2Lの三口フラスコに、過マンガン酸カリウム230.0g(1.455mol)および蒸留水1.60kgを入れ、撹拌しながら73.5℃まで加熱、溶解した後、1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン22.98g(0.1234mol)を1分で添加し、反応を開始した。反応温度は75〜80℃に保ち、撹拌速度は約200rpmで実施した。反応が進むにつれ、こげ茶色の不溶分の増加およびpHの上昇が見られた。反応開始後5.1〜5.7時間の間、10.8%塩酸を134.4g(0.398mol)加え、pHを8強から7強に低下させた。その後、7.5時間まで反応を継続し終了した。
【0033】
反応混合物を放冷後、メタノール27.1g(0.844mol)を加えて、約40℃で6時間撹拌後、吸引ろ過により固形分を除去した。ろ液を約540gまで減圧下で濃縮した後、濃縮液をトルエン60gで洗浄して油分を除去後、室温で撹拌しながら、10.8%塩酸144g(0.427mol)を0.8時間かけて加え、中和を行った。反応生成物をろ過して微量の固形分を除去した後、減圧下で乾固し、63.1gの薄い肌色の固体を取得した(その後の精製については実施例1と同様)。
【0034】
<実施例3> 1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸の合成(3)
冷却管、メカニカルスターラーおよび温度計を備えた2Lの三口フラスコに、過マンガン酸カリウム233.9g(1.480mol)および蒸留水1.54kgを入れ、撹拌しながら74℃まで加熱、溶解した後、1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン24.88g(0.1336mol)を2分で添加し、さらに界面活性剤(L社製台所用洗剤)を0.092g加えて反応を開始した。反応開始5.3時間後にも界面活性剤0.063gを添加した。
【0035】
反応温度は75〜85℃に保ち、撹拌速度は約280〜350rpmで実施した。反応が進むにつれ、こげ茶色の不溶分の増加およびpHの上昇が見られた。反応開始12.9時間後に過マンガン酸カリウム21.1g(0.134mol)および蒸留水68.1g、14.7時間後に過マンガン酸カリウム42.3g(0.268mol)および蒸留水113.3g、17.9時間後に過マンガン酸カリウム22.1g(0.140mol)および蒸留水21.8g、20時間後に過マンガン酸カリウム21.1g(0.134mol)および蒸留水29.2g、23.3時間後に過マンガン酸カリウム21.1g(0.134mol)および蒸留水84.3gを追加して反応を継続し、その後、28.5時間まで反応を継続し終了した(反応一日目に8.9時間、二日目に11.1時間、三日目に8.5時間)。
【0036】
反応混合物を水冷後、メタノール16.1g(0.503mol)を加えて、室温で1.5時間撹拌および12時間静置後、吸引ろ過により固形分を除去し、ろ液を約260gまで減圧下で濃縮した。濃縮液を室温で撹拌しながら、濃塩酸118.8g(1.173mol)を1時間かけて加え、中和を行った。反応混合物を減圧下で乾固し、132.7gの薄い着色の固体を取得した(その後の精製については実施例1と同様)。
【0037】
<実施例4> 1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸の合成(4)
冷却管、メカニカルスターラーおよび温度計を備えた2Lの三口フラスコに、過マンガン酸カリウム237.0g(1.50mol)および蒸留水1.37kgを入れ、撹拌しながら73.6℃まで加熱、溶解した後、1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン28.75g(0.1543mol)を1.5分で添加し、反応を開始した。直後に界面活性剤(L社製台所用洗剤)を0.098g、反応開始17.7時間後には0.063gを追加添加した。反応温度は76〜84℃に保ち、撹拌速度は約350rpmで実施した。
【0038】
反応が進むにつれ、こげ茶色の不溶分の増加およびpHの上昇が見られた。反応開始11時間後に過マンガン酸カリウム79.9g(0.506mol)、17.5時間後に過マンガン酸カリウム49.3g(0.312mol)、23時間後に蒸留水520gを追加して反応を継続し、その後、24.5時間まで反応を行い終了した(反応一日目に10.5時間、二日目に12.5時間、三日目に1.5時間)。
【0039】
反応混合物を放冷後、メタノール23.6g(0.737mol)を加えて、室温で6時間撹拌後、吸引ろ過により固形分を除去し、ろ液を約680gまで減圧下で濃縮した。濃縮液を室温で撹拌しながら、濃塩酸282.8g(2.792mol)を0.4時間かけて加え、その後還流下で3.5時間撹拌して中和を促進した。反応混合物を減圧下で乾固し、124.5gのクリーム色の固体を取得した(その後の精製については実施例1と同様)。
【0040】
<実施例5> 1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸の合成(5)
冷却管および温度計を備えた300mLの三口フラスコに、過マンガン酸カリウム20.5g(0.130mol)および蒸留水187.4gを入れ、撹拌しながら約70℃まで加熱、溶解した後、界面活性剤(L社製台所用洗剤)を0.021gおよび1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン1.862g(0.0100mol)を添加して反応を開始し、すぐに還流温度まで加熱して反応を実施した。反応が進むにつれ、こげ茶色の不溶分の増加およびpHの上昇が見られた。
【0041】
反応開始8時間後に過マンガン酸カリウム4.76g(0.0301mol)および蒸留水40.1g、19時間後に過マンガン酸カリウム1.58g(0.0100mol)および蒸留水11.9gを追加して反応を継続し、その後、29時間まで反応を継続し終了した(反応一日目に8時間、二日目に11時間、三日目に10時間)。
【0042】
反応混合物を放冷後、メタノール1.0g(0.031mol)を加えて、室温で1.5時間撹拌後、吸引ろ過により固形分を除去し、ろ液を96gまで減圧下で濃縮した。濃縮液を室温で撹拌しながら、濃塩酸26.0g(0.257mol)を0.3時間かけて加え、その後還流下で2.9時間撹拌して中和を行った。反応混合物を減圧下で乾固し、8.69gの薄い着色の固体を取得した(LC分析から固体中の約1.1gが目的物であった。その後の精製については実施例1と同様)。
【0043】
<実施例6> 1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸の合成(6)
冷却管を備えた300mLの三口フラスコに、過マンガン酸カリウム4.28g(27.1mmol)および蒸留水82.0gを入れ、室温で撹拌しながら溶解した後、1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン0.4387g(2.355mmol)を添加し、室温で4.1時間反応した。その後49℃まで昇温してさらに1.9時間反応を実施した。反応が進むにつれ、こげ茶色の不溶分の増加が見られた。
【0044】
反応混合物を放冷後、メタノールを加えて、余剰の過マンガン酸カリウムをクエンチし、不溶分を除去して得られたろ液のLC分析を行い、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸が含有されていることを確認した。
【0045】
<実施例7> 1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸の合成(7)
冷却管を備えた300mLの三口フラスコに、過マンガン酸カリウム4.58g(29.0mmol)、蒸留水85.3gおよび濃硝酸(69〜70%)2.76g(30.4mmol)を入れ、撹拌しながら80℃まで加熱後、1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレン0.3652g(1.960mmol)を添加し、還流温度に昇温して4時間反応した。
【0046】
反応混合物を放冷後、不溶分を除去して得られたろ液のLC分析を行い、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸がわずかに含有されていることを確認した。高温、酸性条件下では、分解反応が優先的に起こり、収率が低下したものと思われる。
【0047】
<実施例8> 1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸の合成(8)
GC純度98.9%の1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレンを使用した以外は、実施例1などと同様に行い、純度約99%の1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸を取得することができた。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上説明したように、本発明によれば、機能性ポリマー原料や各種化学品中間体として有用である、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸を従来法より有利に製造することが可能である。さらに詳しくは、耐酸性や耐高圧などの特殊な設備を必要としない、全工程が二工程と短い、安全面や環境面において問題が少ないなどの点で優れている。特に、スケールアップ時において従来法より有利である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】実施例1で得られた1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸のIRスペクトル。
【図2】実施例1〜5における、反応時間に対する反応収率の推移のグラフ(プロット点が実際に得られた結果であり、曲線は補助的に示してある。反応収率はLC分析により反応系内の目的物量を求めて計算した)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレンを過マンガン酸カリウムによって酸化することを特徴とする1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸の製造方法。
【請求項2】
酸化を、主反応溶媒としての水中で行う請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
酸化を、アルカリ条件下で行う請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
酸化を、10℃から120℃の温度で行う請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
酸化を、1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロフェナントレンと過マンガン酸カリウムとの使用モル比を1:8から1:30として行う請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
酸化を、過マンガン酸カリウムと反応溶媒との質量比を1:2から1:50として行う請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
反応終了後に、反応液から不溶分を除去し、中和および乾固により得られた粗生成物から、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸を酢酸により抽出して精製する請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−266182(P2008−266182A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−110118(P2007−110118)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(591067794)JFEケミカル株式会社 (220)
【Fターム(参考)】