説明

1,4−ジチイン環を有する化合物を含む電荷輸送性有機材料

下記の式(1)で表される1,4−ジチイン環を有する化合物を含む電荷輸送性有機材料。この有機材料からなる薄膜を低分子系有機エレクトロルミネッセンス(OLED)素子及び高分子系有機エレクトロルミネッセンス(PLED)素子中で用いることによって、低駆動電圧、高発光効率等のEL素子特性を向上することができる。また、下記式(1)で表される1,4−ジチイン環を有する化合物を含む電荷輸送性ワニスは、良好なプロセス性を有し、これから得られた薄膜は、高い電荷輸送特性を有するため、コンデンサ電極保護膜への応用や、帯電防止膜、太陽電池、燃料電池への応用にも有効である。
[化1]


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,4−ジチイン環を有する化合物を含む電荷輸送性有機材料、並びにそれを使用した電荷輸送性薄膜及び有機エレクトロルミネッセンス(以下ELと略す)素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、低分子系有機EL(以下OLEDと略す)素子と高分子系有機EL(以下PLEDと略す)素子とに大別される。
OLED素子では銅フタロシアニン(CuPC)層を正孔注入層として設けることによって、駆動電圧の低下、発光効率の向上等の初期特性を向上でき、また寿命特性を向上できることが見出されている(例えば、非特許文献1参照)。
一方、PLED素子では、ポリアニリン系材料(例えば、非特許文献2及び3参照)や、ポリチオフェン系材料(例えば、非特許文献4参照)を正孔輸送層(バッファ層)として用いることによって、同様の効果が得られることが見出されている。
【0003】
また、陰極側においても、金属酸化物(例えば、非特許文献5参照)、金属ハロゲン化物(例えば、非特許文献6参照)、金属錯体(例えば、非特許文献7参照)を、電子注入層として用いることによって、初期特性を向上し得ることが見出され、これらの電荷注入層やバッファ層は、一般的に使用されるようになった。
さらに、最近では、低分子オリゴアニリン系材料を用いた有機溶液系の電荷輸送性ワニスが見出され、これを使用して得られる正孔注入層をEL素子中に挿入することによって、優れたEL素子特性を示すことが分かってきた(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
OLED素子用正孔注入材料においては、蒸着系材料が広く用いられている。この蒸着系材料の問題点としては、非晶質固体であること、昇華性、高耐熱性及び適切なイオン化ポテンシャル(以下Ipと略す)を有する等の様々な特性が必要となること、そのため材料系が限られること、等が挙げられる。
また、蒸着系材料はドーピングが困難であることから、蒸着法によって得られた膜に高い電荷輸送性を発揮させることが難しく、結果として電荷注入効率を上げにくい。さらに、正孔注入材料として使用されるCuPCは、凹凸が激しく、EL素子中のその他の有機層に微量混入することによって特性を低下させるなどの欠点がある。
ところで、共役系オリゴマー又はポリマーは、高い電荷輸送性を有する材料であるが、その多くは溶解性が低くワニスとすることが困難であるため、成膜は蒸着法によってのみ可能な物質が多い。特に無置換チオフェンオリゴマーの場合、5量体以上ではあらゆる溶媒に対してほぼ不溶となる。
【0005】
PLED素子用正孔輸送材料としては、高い電荷輸送性、トルエン等の発光ポリマー溶剤への不溶性、適切なIp等の要求特性がある。現在よく用いられているポリアニリン系材料、ポリチオフェン系材料は、素子劣化を促進する可能性のある水を溶剤として含むこと、溶解性が低いため溶剤の選択肢が限られること、材料の凝集が生じやすいこと、均一な成膜ができる方法が限られること等の問題点を有している。
一方、1,4−ジチイン環を有する化合物の合成については、文献(例えば、非特許文献8〜10参照)で報告されている。非特許文献9及び10に示されている1,4−ジチイン環を有する化合物の製造法は、工程も多く大量製造が困難な方法であるだけでなく、低収率であることから、改良が必要であった。
【0006】
【非特許文献1】アプライド・フィジックス・レターズ(Applied Physics Letters)、米国、1996年、69巻、p.2160−2162
【非特許文献2】ネイチャー(Nature)、英国、1992年、第357巻、p.477−479
【非特許文献3】アプライド・フィジックス・レターズ(Applied Physics Letters)、米国、1994年、64巻、p.1245−1247
【非特許文献4】アプライド・フィジックス・レターズ(Applied Physics Letters)、米国、1998年、72巻、p.2660−2662
【非特許文献5】アイイーイーイー・トランサクションズ・オン・エレクトロン・デバイシイズ(IEEE Transactions on Electron Devices)、米国、1997年、44巻、p.1245−1248
【非特許文献6】アプライド・フィジックス・レターズ(Applied Physics Letters)、米国、1997年、70巻、p.152−154
【非特許文献7】ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(Japanese Journal of Applied Physics)、1999年、第38巻、p.L1348−1350
【非特許文献8】ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサエティ(Journal of American Chemical Society)、1953年、第75巻、p.1647−1651
【非特許文献9】ヘテロサイクルズ(Heterocycles)、1984年、第22巻、p.1527
【非特許文献10】ヘテロサイクルズ(Heterocycles)、1987年、第26巻、p.939−942
【特許文献1】特開2002−151272号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、特に、OLED素子及びPLED素子中で用いた場合に、優れたEL素子特性、即ち、低駆動電圧、高発光効率を可能にする1,4−ジチイン環を有する化合物を含む電荷輸送性有機材料及び電荷輸送性ワニス、並びにこれらを使用した電荷輸送性薄膜及び有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、1,4−ジチイン環を有する化合物が、N,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略す)等の有機溶剤に可溶な材料であることを見出すとともに、電子受容性ドーパント物質又は正孔受容性ドーパントと組み合わせると電荷輸送性を発現し、OLED素子の正孔注入層などの電荷輸送性薄膜として用いることによって、低電圧駆動、発光効率の向上を可能にすることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、下記の〔1〕〜〔11〕の発明を提供する。
〔1〕一般式(1)で表される1,4−ジチイン環を有する化合物を含む電荷輸送性有機材料。
【化1】

(式中、R1、R2、R3、及びR4は、それぞれ独立して水素、水酸基、ハロゲン基、アミノ基、シラノール基、チオール基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、リン酸エステル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、ニトロ基、一価炭化水素基、オルガノオキシ基、オルガノアミノ基、オルガノシリル基、オルガノチオ基、アシル基又はスルホン基を示し、X及びYは、それぞれ独立して置換若しくは非置換、かつ、2価の共役単位であるアニリン、チオフェン、フラン、ピロール、エチニレン、ビニレン、フェニレン、ナフタレン、アントラセン、イミダゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、キノリン、キノキザリン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、フェニレンビニレン、フルオレン、カルバゾール、トリアリールアミン、金属−若しくは無金属−フタロシアニン、及び金属−若しくは無金属−ポルフィリンから選ばれる少なくとも1種を示し、ジチイン環に含まれる2つの硫黄原子は、それぞれ独立してSO基又はSO2基であってもよい。p、q及びrはそれぞれ独立して0又は1以上の整数で、p+q+r≦20を満足する数である。)
〔2〕さらに、電子受容性ドーパント物質又は正孔受容性ドーパント物質を含む〔1〕の電荷輸送性有機材料。
〔3〕前記一般式(1)中のp、q、rが、3≦p+q+r≦10を満足する〔1〕又は〔2〕の電荷輸送性有機材料。
〔4〕〔1〕〜〔3〕のいずれかの電荷輸送性有機材料と、溶剤とを含む電荷輸送性ワニス。
〔5〕〔4〕の電荷輸送性ワニスを使用して作製される電荷輸送性薄膜。
〔6〕〔5〕の電荷輸送性薄膜を含む有機エレクトロルミネッセンス素子。
〔7〕式(2)
【化2】

(式中、R1は、水素、水酸基、ハロゲン基、アミノ基、シラノール基、チオール基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、リン酸エステル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、ニトロ基、一価炭化水素基、オルガノオキシ基を示し、Xは、置換若しくは非置換、かつ、2価の共役単位であるアニリン、チオフェン、フラン、ピロール、エチニレン、ビニレン、フェニレン、ナフタレン、アントラセン、イミダゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、キノリン、キノキザリン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、フェニレンビニレン、フルオレン、カルバゾール、トリアリールアミン、金属−若しくは無金属−フタロシアニン、及び金属−若しくは無金属−ポルフィリンから選ばれる少なくとも1種を示す。pは、0又は1以上の整数を示す。)
又は式(3)
【化3】

(式中、R2は、水素、水酸基、ハロゲン基、アミノ基、シラノール基、チオール基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、リン酸エステル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、ニトロ基、一価炭化水素基、オルガノオキシ基を示し、Yは、置換若しくは非置換、かつ、2価の共役単位であるアニリン、チオフェン、フラン、ピロール、エチニレン、ビニレン、フェニレン、ナフタレン、アントラセン、イミダゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、キノリン、キノキザリン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、フェニレンビニレン、フルオレン、カルバゾール、トリアリールアミン、金属−若しくは無金属−フタロシアニン、及び金属−若しくは無金属−ポルフィリンから選ばれる少なくとも1種を示す。rは0又は1以上の整数を示す。)
で表される化合物と、式(4)
【化4】

(式中、Halは、ハロゲン原子を示す。)
で表される酸ハロゲン化物を酸触媒下反応させて、式(5)
【化5】

(式中、R1、X、p及びHalは、上記と同じ。)
又は式(6)
【化6】

(式中、R2、Y、r及びHalは、上記と同じ。)
で表されるアシル化合物を製造する第1工程と、続いて、式(5)で表されるアシル化合物、式(6)で表されるアシル化合物、及びアルカリ金属硫化物を反応させて、式(7)
【化7】

(式中、R1、R2、X、Y、p及びrは、上記と同じ。)
で表される硫化物を製造する第2工程と、続いて、式(7)表される硫化物にチオカルボニル化試薬を作用させ、閉環する第3工程とを備えることを特徴とする、式(1)で表される1,4−ジチイン環を有する化合物の製造法。
【化8】

(式中、R1、R2、X、Y、p及びrは上記と同じ。R3及びR4は、それぞれ独立して水素、水酸基、ハロゲン基、アミノ基、シラノール基、チオール基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、リン酸エステル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、ニトロ基、一価炭化水素基、オルガノオキシ基、オルガノアミノ基、オルガノシリル基、オルガノチオ基、アシル基又はスルホン基を示し、ジチイン環に含まれる2つの硫黄原子は、それぞれ独立してSO基又はSO2基であってもよい。qは0又は1以上の整数で、p+q+r≦20を満足する数である。)
〔8〕式(2)
【化9】

(式中、R1は、水素、水酸基、ハロゲン基、アミノ基、シラノール基、チオール基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、リン酸エステル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、ニトロ基、一価炭化水素基、オルガノオキシ基を示し、Xは、置換若しくは非置換、かつ、2価の共役単位であるアニリン、チオフェン、フラン、ピロール、エチニレン、ビニレン、フェニレン、ナフタレン、アントラセン、イミダゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、キノリン、キノキザリン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、フェニレンビニレン、フルオレン、カルバゾール、トリアリールアミン、金属−若しくは無金属−フタロシアニン、及び金属−若しくは無金属−ポルフィリンから選ばれる少なくとも1種を示す。pは、0又は1以上の整数を示す。)
又は式(3)
【化10】

(式中、R2は、水素、水酸基、ハロゲン基、アミノ基、シラノール基、チオール基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、リン酸エステル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、ニトロ基、一価炭化水素基、オルガノオキシ基を示し、Yは、置換若しくは非置換、かつ、2価の共役単位であるアニリン、チオフェン、フラン、ピロール、エチニレン、ビニレン、フェニレン、ナフタレン、アントラセン、イミダゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、キノリン、キノキザリン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、フェニレンビニレン、フルオレン、カルバゾール、トリアリールアミン、金属−若しくは無金属−フタロシアニン、及び金属−若しくは無金属−ポルフィリンから選ばれる少なくとも1種を示す。rは0又は1以上の整数を示す。)
で表される化合物と、式(4)
【化11】

(式中、Halは、ハロゲン原子を示す。)
で表される酸ハロゲン化物を酸触媒下で反応させることを特徴とする、式(5)
【化12】

(式中、R1、X、p及びHalは、上記と同じ。)
又は式(6)
【化13】

(式中、R2、Y、r及びHalは、上記と同じ。)
で表されるアシル化合物の製造法。
〔9〕前記酸触媒が、二塩化エチルアルミニウム又は塩化ジエチルアルミニウムである〔8〕のアシル化合物の製造法。
〔10〕〔8〕又は〔9〕で得られた式(5)で示されるアシル化合物、式(6)で示されるアシル化合物、及びアルカリ金属硫化物とを反応させることを特徴とする式(7)で表される硫化物の製造法。
【化14】

(式中、R1、R2、X、Y、p及びrは、上記と同じ。)
〔11〕〔10〕で得られた式(7)で示される硫化物にチオカルボニル化試薬を作用させて閉環させることを特徴とする式(1)で表される1,4−ジチイン環を有する化合物の製造法。
【化15】



(式中、R1、R2、X、Y、p及びrは上記と同じ。R3及びR4は、それぞれ独立して水素、水酸基、ハロゲン基、アミノ基、シラノール基、チオール基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、リン酸エステル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、ニトロ基、一価炭化水素基、オルガノオキシ基、オルガノアミノ基、オルガノシリル基、オルガノチオ基、アシル基又はスルホン基を示し、ジチイン環に含まれる2つの硫黄原子は、それぞれ独立してSO基又はSO2基であってもよい。qは0又は1以上の整数で、p+q+r≦20を満足する数である。)
【発明の効果】
【0010】
本発明の電荷輸送性有機材料を含む電荷輸送性ワニスから電荷輸送性薄膜を電極表面に形成し、これを有機EL素子の電荷注入層として用いることにより、電極と有機層との電荷注入障壁が低下し、駆動電圧駆動の低下及び発光効率を向上することができる。
この電荷輸送性ワニスは、従来使用されている水溶液系の電荷輸送性ワニスと異なり、有機溶剤のみで使用することができ、素子の劣化を招く水分の混入を防ぐことができるだけでなく、ウェットプロセスを用いて容易に塗膜を行うことができるから、成膜を真空蒸着法で行う必要がない。したがって、昇華性、耐熱性に乏しい共役系オリゴマー群についても有機EL素子へ適用することが可能となる。なお、本発明の電荷輸送性有機材料に含まれるジチイン環を有する化合物は、電荷受容性ドーパント物質を用いて容易にドーピングを行うことができる。
本発明の電荷輸送性ワニスは、良好なプロセス性を有し、また、これから得られた薄膜は、高い電荷輸送特性を有するため、コンデンサ電極保護膜への応用や、帯電防止膜、太陽電池、燃料電池への応用にも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例7で得られたOLED素子の発光面写真を示す図である。
【図2】比較例4で得られたOLED素子の発光面写真を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
本発明に係る電荷輸送性有機材料(電荷輸送性ワニス)は、電荷輸送機構の本体である電荷輸送性物質を含むものである。
電荷輸送性有機材料としては、電荷輸送性物質と電荷輸送性物質の電荷輸送性を向上させる電荷受容性ドーパントとの組み合わせでもよい。
電荷輸送性ワニスとしては、電荷輸送性物質と溶剤との2種の組み合わせを含むもの、又は電荷輸送性物質と、電荷受容性ドーパント物質と、溶剤との3種の組み合わせを含むものであり、これらは溶剤によって完全に溶解しているか、均一に分散している。
ここで電荷輸送性とは、導電性と同義であり、正孔輸送性、電子輸送性、正孔及び電子の両電荷輸送性のいずれかを意味する。電荷輸送性ワニスは、そのもの自体に電荷輸送性があるものでもよく、ワニスから得られる固体膜に電荷輸送性があるものでもよい。
本発明の電荷輸送性有機材料(電荷輸送性ワニス)に含まれる電荷輸送性物質は、下記式(1)で表される1,4−ジチイン環を有する化合物である。
【0013】
【化16】

(式中、R1、R2、R3、及びR4は、それぞれ独立して水素、水酸基、ハロゲン基、アミノ基、シラノール基、チオール基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、リン酸エステル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、ニトロ基、一価炭化水素基、オルガノオキシ基、オルガノアミノ基、オルガノシリル基、オルガノチオ基、アシル基又はスルホン基を示し、X及びYは、それぞれ独立して置換若しくは非置換、かつ、2価の共役単位であるアニリン、チオフェン、フラン、ピロール、エチニレン、ビニレン、フェニレン、ナフタレン、アントラセン、イミダゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、キノリン、キノキザリン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、フェニレンビニレン、フルオレン、カルバゾール、トリアリールアミン、金属−若しくは無金属−フタロシアニン、及び金属−若しくは無金属−ポルフィリンから選ばれる少なくとも1種を示し、ジチイン環に含まれる2つの硫黄原子は、それぞれ独立してSO基又はSO2基であってもよい。p、q及びrはそれぞれ独立して0又は1以上の整数で、p+q+r≦20を満足する数である。)
【0014】
式中、p、q及びrは、当該化合物の溶解性を高めるという点から、p+q+r≦20であることが好ましく、p+q+r≦10がより好ましい。さらに、高い電荷輸送性を発現させるという点から、3≦p+q+rであることが好ましく、5≦p+q+rが特に好適である。
【0015】
式中X及びYで示される共役単位は、電荷を輸送できる原子、芳香環、共役基であれば良く、特に限定されるものではないが、好ましくは置換若しくは非置換で2価のアニリン、チオフェン、フラン、ピロール、エチニレン、ビニレン、フェニレン、ナフタレン、アントラセン、イミダゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、キノリン、キノキザリン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、フェニレンビニレン、フルオレン、カルバゾール、トリアリールアミン、金属−若しくは無金属−フタロシアニン、及び金属−若しくは無金属−ポルフィリンを挙げることができる。好ましくはチオフェン、フラン、ピロール、フェニレン、トリアリールアミン等が挙げられる。
【0016】
ここで置換基の具体例としては、それぞれ独立して水酸基、ハロゲン基、アミノ基、シラノール基、チオール基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、リン酸エステル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、ニトロ基、一価炭化水素基、オルガノオキシ基、オルガノアミノ基、オルガノシリル基、オルガノチオ基、アシル基及びスルホン基が挙げられ、これらの官能基に対してさらにいずれかの官能基が置換されていてもよい。
【0017】
一価炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基及びデシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビシクロヘキシル基等のビシクロアルキル基、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、イソプロペニル基、1−メチル−2−プロペニル基、1又は2又は3−ブテニル基及びヘキセニル基等のアルケニル基、フェニル基、キシリル基、トリル基、ビフェニル基及びナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基及びフェニルシクロヘキシル基等のアラルキル基などや、これらの一価炭化水素基の水素原子の一部又は全部がハロゲン原子、水酸基及びアルコキシ基などで置換されたものを例示することができる。
【0018】
オルガノオキシ基としては、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基などが挙げられ、これらのアルキル基、アルケニル基及びアリール基としては、上記で例示したものと同様のものが挙げられる。
オルガノアミノ基としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、ブチルアミノ基、ペンチルアミノ基、ヘキシルアミノ基、ヘプチルアミノ基、オクチルアミノ基、ノニルアミノ基、デシルアミノ基及びラウリルアミノ基等のアルキルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、ジペンチルアミノ基、ジヘキシルアミノ基、ジヘプチルアミノ基、ジオクチルアミノ基、ジノニルアミノ基及びジデシルアミノ基等のジアルキルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基及びモルホリノ基などが挙げられる。
【0019】
オルガノシリル基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリプロピルシリル基、トリブチルシリル基、トリペンチルシリル基、トリヘキシルシリル基、ペンチルジメチルシリル基、ヘキシルジメチルシリル基、オクチルジメチルシリル基及びデシルジメチルシリル基などが挙げられる。
オルガノチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、ヘプチルチオ基、オクチルチオ基、ノニルチオ基、デシルチオ基及びラウリルチオ基などのアルキルチオ基が挙げられる。
【0020】
アシル基としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基及びベンゾイル基等が挙げられる。
一価炭化水素基、オルガノオキシ基、オルガノアミノ基、オルガノシリル基、オルガノチオ基及びアシル基などにおける炭素数は特に限定されるものではないが、一般に炭素数1〜20、好ましくは1〜8である。
好ましい置換基としては、フッ素、スルホン酸基、置換若しくは非置換のオルガノオキシ基、アルキル基及びオルガノシリル基を挙げることができる。
共役単位が連結して形成される共役鎖は、環状である部分を含んでいてもよい。ただし、この環状部分は、高電荷輸送性発現のために、いずれの置換基をも有しないことが望ましい。上記式(1)で示される化合物の具体例としては、以下のものが挙げられる。
【0021】
【化17】

【0022】
【化18】

【0023】
【化19】

【0024】
【化20】

【0025】
【化21】

【0026】
【化22】

【0027】
上記各化合物の中でも、下記化合物を用いることがより好ましい。
【0028】
【化23】

【0029】
1,4−ジチイン環を含む化合物の合成法としては、特に限定されるものではなく、例えば、文献、ヘテロサイクルズ(Heterocycles)、1987年、第26巻、p.939−942及びヘテロサイクルズ(Heterocycles)、1987年、第26巻、p.1793−1796に記載されている方法を挙げることができるが、本発明においては、特に、下記の3工程からなる製造法を用いることが好ましい。
【0030】
【化24】

(式中、R1、R2、X、Y、p及びrは上記と同じ。Halは、ハロゲン原子を示す。)
【0031】
【化25】

(式中、R1、R2、X、Y、p、r及びHalは上記と同じ。)
【0032】
【化26】

(式中、R1、R2、R3、R4、X、Y、p、q、及びrは上記と同じ。)
【0033】
第1工程は出発物質である式(2)又は(3)で示される化合物を、酸触媒を用いてアシル化する工程である。
式(2)及び(3)で示される化合物の具体例としては、チオフェン、2,2’−ビチオフェン(以下、BTと略す)、2,2’:5’,2”−テルチオフェン、ジフェニルアミン、N,N’−ジフェニル−1,4−フェニレンジアミン、フラン、2,2’−ビフラン、2,2’:5’,2”−テルフラン、ピロール、2,2’−ビピロール、2,2’:5’,2”−テルピロール、1,2−ジ(2−チエニル)エチレン、1,2−ジ(2−チエニル)アセチレン、1,2−ジ(2−フリル)エチレン、1,2−ジ(2−フリル)アセチレン、2−フリルチオフェン、5−フリル−2,2’−ビチオフェン、2−フェニルチオフェン、2−ビフェニルチオフェン、5−フェニル−2,2’−ビチオフェン、ベンゼン、ビフェニル、p−テルフェニル、ナフタレン、ビナフチル、アントラセン、イミダゾール、ビイミダゾール、オキサゾール、ビオキサゾール、オキサジアゾール、ビオキサジアゾール、キノリン、ビキノリン、キノキサリン、ビキノキサリン、ピリジン、ビピリジン、ピリミジン、ビピリミジン、ピラジン、ビピラジン、フルオレン、カルバゾール、トリフェニルアミン、無金属フタロシアニン、銅−フタロシアニン、無金属ポルフィリン、白金−ポルフィリン誘導体等が挙げられる。より好ましくは、2,2’−ビチオフェン、2,2’:5’,2”−テルチオフェン、ジフェニルアミン、2,2’−ビピロール等である。
【0034】
アシル化試薬は、式(4)で表されるものであり、具体的には2−クロロアセチルクロリド、2−クロロアセチルフルオリド、2−クロロアセチルブロミド、2−クロロアセチルヨージド、2−フルオロアセチルクロリド、2−ブロモアセチルクロリド、2−ヨードアセチルクロリドが挙げられ、2−クロロアセチルクロリドが特に好適である。
アシル化試薬の使用量は、式(2)又は式(3)で表される出発物質に対して0.8〜1.5倍モルが好適であるが、1.0〜1.2倍モルが特に好ましい。
【0035】
酸触媒としては、ルイス酸が好ましく、二塩化エチルアルミニウムクロリド及び塩化ジエチルアルミニウムクロリドが特に好ましい。
酸触媒の使用量は、式(2)又は式(3)で表される出発物質に対して0.1〜5.0倍モルが好適であるが、1.0〜1.2倍モルが特に好ましい。
反応溶媒は、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、ニトロメタン、アセトニトリル、ジイソプロピルエーテル、シクロヘキサン等の非プロトン性溶媒が好適であるが、ジクロロメタン及びジクロロエタンが特に好ましい。
【0036】
反応溶媒の使用量は、式(2)又は式(3)で表される出発物質に対して重量比1〜200倍量が好ましいが、5〜30倍が特に好ましい。
反応温度は、通常、−80〜50℃程度であるが、−20〜30℃が特に好ましい。
なお、反応の進行は、薄層クロマトグラフィー(以下TLCと略す)、又は液体クロマトグラフィー(以下LCと略す)で検出可能である。
反応終了後、液−液抽出操作、水洗操作、固−液抽出操作、熱時濾過操作、濃縮操作及び乾燥操作による精製が可能であり、これらの簡易的な操作のみで次工程へ進むことができるが、再結晶操作又はシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、更なる純度向上も可能である。
以上の操作によって式(5)又は(6)で表されるアシル化合物が得られる。
【0037】
第2工程は、第1工程で得られた式(5)及び(6)で表されるアシル化合物から、式(7)で表される硫化物を製造する工程である。
式(5)で表されるアシル化合物と、式(6)で表されるアシル化合物との比率は特に限定されないが、1:1であるか、それぞれが同一化合物であることが好ましい。
硫化反応試薬としては、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化セシウム等が挙げられ、中でも硫化ナトリウムが特に好ましい。
硫化反応試薬の使用量としては、反応に使用する(5)で表されるアシル化合物と式(6)で表されるアシル化合物のモル数の和に対して0.2〜1.2倍モルが好ましく、0.45〜0.55倍モルが特に好ましい。
【0038】
反応溶媒は、出発物質及びアルカリ金属硫化物の一部又は全てを溶解するものであれば特に限定されないが、アセトン、2−ブタノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ニトロメタン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、t−ブタノール、2−メトキシエタノール、1,2−プロピレングリコール、ジエチレングリコールジエチルエーテル等の水溶性を有する有機溶媒と水との混合溶媒が好ましい。
【0039】
有機溶媒と水との混合比率は、特に限定されないが、混合溶媒中の水分量を10〜50wt%とすることが好適である。
反応溶媒の使用量は、反応に使用する式(5)で表されるアシル化合物と式(6)で表されるアシル化合物との総量に対し、重量比1〜200倍量が好ましいが、5〜30倍量が特に好ましい。
反応温度は、通常、−20〜100℃程度であるが、0〜60℃が特に好ましい。反応の進行はTLC又はLCで検出可能である。
反応終了後、液−液抽出操作、水洗操作、濃縮操作及び乾燥操作によって精製が可能であり、これらの簡易的な操作のみで次工程に進むことができるが、再結晶操作又はシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより更なる純度向上も可能である。
以上の操作によって式(7)で表される硫化物が得られる。
【0040】
第3工程は、第2工程で得られた式(7)表される硫化物に対し、チオカルボニル化試薬を作用させてこれを環化させ、式(1)で表される1,4−ジチイン環を有する化合物を製造する工程である。
チオカルボニル化試薬としては、ローソン試薬、硫化ナトリウム及び硫化水素等が挙げられるが、ローソン試薬が特に好適である。
チオカルボニル化試薬の使用量は、式(7)表される硫化物を出発物質に対し、0.3〜5.0倍モルが好適であるが、0.8〜1.5倍モルが特に好ましい。
【0041】
反応溶媒は、特に限定されないが、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、ニトロメタン、アセトニトリル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トルエン、キシレン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシドが好ましく、ジクロロエタン、ジオキサン及びトルエンが特に好ましい。
反応溶媒の使用量は、式(7)表される硫化物に対して重量比1〜200倍量が好ましいが、5〜50倍量が特に好ましい。
【0042】
チオカルボニル化反応の反応温度は、通常、0〜120℃程度であるが、10〜80℃が特に好ましい。チオカルボニル化反応の進行は、TLC又はLCによって検出が可能である。
チオカルボニル化反応の終了後、順次環化反応が進行して1,4−ジチイン環が生成するが、環化反応の進行にあたって、これに適した反応温度に変更しても良い。この環化反応の反応温度は0〜120℃が好適であるが、10〜80℃が特に好ましい。なお、環化反応の進行もTLC又はLCによって検出が可能である。
【0043】
環化反応終了後、濃縮操作、シリカゲルクロマトグラフィー操作のみで十分な純度の目的物を得ることが可能である。
以上の操作によって式(1)で表される1,4−ジチイン環を有する化合物が得られる。
先に述べたように、式(1)で表される1,4−ジチイン環を有する化合物を溶剤に溶解又は均一に分散させるか、さらに電荷受容性ドーパント物質と併用することで電荷輸送性ワニスを製造することができる。
【0044】
電荷受容性ドーパント物質としては、高い電荷受容性を持つことが望ましく、溶解性に関しては少なくとも一種の溶剤に溶解するものであれば特に限定されない。
電子受容性ドーパント物質の具体例としては、塩化水素、硫酸、硝酸及びリン酸等の無機強酸;塩化アルミニウム(III)(AlCl3)、四塩化チタン(IV)(TiCl4)、三臭化ホウ素(BBr3)、三フッ化ホウ素エーテル錯体(BF3・OEt2)、塩化鉄(III)(FeCl3)、塩化銅(II)(CuCl2)、五塩化アンチモン(V)(SbCl5)、五フッ化砒素(V)(AsF5)、五フッ化リン(PF5)、トリス(4−ブロモフェニル)アミニウムヘキサクロロアンチモナート(TBPAH)等のルイス酸;ベンゼンスルホン酸、トシル酸、カンファスルホン酸、ヒドロキシベンゼンスルホン酸、5−スルホサリチル酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、特願2003−181025号明細書に記載されている1,4−ベンゾジオキサンジスルホン酸誘導体、特願2004−251774号明細書に記載されているアリールスルホン酸誘導体、特願2003−320072号明細書に記載されているジノニルナフタレンスルホン酸誘導体等の有機強酸;7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノン(DDQ)、ヨウ素等の有機又は無機酸化剤を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0045】
正孔受容性ドーパント物質の具体例としては、アルカリ金属(Li,Na,K,Cs)、リチウムキノリノラート(Liq)、リチウムアセチルアセトナート(Li(acac))等の金属錯体が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
特に好ましい電荷受容性ドーパント物質としては、5-スルホサリチル酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、特願2003−181025号明細書に記載されている1,4−ベンゾジオキサンジスルホン酸誘導体、特願2003−320072号公報に記載されているジノニルナフタレンスルホン酸誘導体等の有機強酸である電子受容性ドーパント物質を挙げることができる。
【0046】
電荷輸送性ワニスを調製する際に用いられる溶媒としては、水;メタノール、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、クロロホルム、トルエン等の有機溶剤を用いることができるが、上述した理由から、有機溶剤が好ましく、特に、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドN−メチルピロリドン及びN,N’−ジメチルイミダゾリジノンが好ましい。
なお、上記溶剤の他に、基板への濡れ性の向上、溶剤の表面張力の調整、極性の調整、沸点の調整等の目的で、焼成時に膜の平坦性を付与する溶剤を、該ワニスに使用する溶剤全体に対して1〜90質量%、好ましくは1〜50質量%の割合で混合しても良い。
このような溶剤の具体例としては、ブチルセロソルブ、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチルカルビトール、ジアセトンアルコール、γ−ブチロラクトン、乳酸エチル、アセトニトリル、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、t−ブタノール、アセトン、2−ブタノン、二硫化炭素、ニトロメタン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
上記電荷輸送性ワニスを基材上に塗布し、溶剤を蒸発させることにより基材上に電荷輸送性塗膜を形成させることができる。
塗布方法としては、特に限定されるものではなく、ディップ法、スピンコート法、転写印刷法、ロールコート法、刷毛塗り、インクジェット法、スプレー法等が挙げられる。
溶剤の蒸発法としては、特に限定されるものではなく、例えば、ホットプレートやオーブンを用いて、適切な雰囲気下、即ち大気、窒素等の不活性ガス、真空中等で蒸発を行い、均一な成膜面を得ることが可能である。
【0048】
焼成温度は、溶剤を蒸発させることができれば特に限定されないが、40〜250℃で行うことが好ましい。この場合、より高い均一成膜性を発現させたり、基材上で反応を進行させたりする目的で、2段階以上の温度変化をつけてもよい。
塗布及び蒸発操作によって得られる電荷輸送性薄膜の膜厚は、特に限定されないが、有機EL素子内で電荷注入層として用いる場合、5〜200nmであることが望ましい。膜厚を変化させる方法としては、ワニス中の固形分濃度を変化させたり、塗布時の基板上の溶液量を変化させたりする等の方法がある。
【0049】
本発明の電荷輸送性ワニスを用いたOLED素子の作製方法、使用材料は、下記のようなものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
使用する電極基板は、洗剤、アルコール、純水等による液体洗浄を予め行って浄化しておくことが好ましく、例えば、陽極基板では使用直前にオゾン処理、酸素−プラズマ処理等の表面処理を行うことが好ましい。ただし陽極材料が有機物を主成分とする場合、表面処理を行わなくともよい。
【0050】
正孔輸送性ワニスをOLED素子に使用する場合、以下の方法を挙げることができる。 陽極基板上に当該正孔輸送性ワニスを塗布し、上記の方法により電極上に正孔輸送性薄膜を作製する。これを真空蒸着装置内に導入し、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、陰極金属を順次蒸着してOLED素子とする。発光領域をコントロールするために任意の層間にキャリアブロック層を設けてもよい。
陽極材料にはインジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)に代表される透明電極が挙げられ、平坦化処理を行ったものが好ましい。高電荷輸送性を有するポリチオフェン誘導体やポリアニリン類を用いることもできる。
【0051】
正孔輸送層を形成する材料としては(トリフェニルアミン)ダイマー誘導体(TPD)、(α−ナフチルジフェニルアミン)ダイマー(α−NPD)、[(トリフェニルアミン)ダイマー]スピロダイマー(Spiro−TAD)等のトリアリールアミン類、4,4',4”−トリス[3−メチルフェニル(フェニル)アミノ]トリフェニルアミン(m−MTDATA)、4,4',4”−トリス[1−ナフチル(フェニル)アミノ]トリフェニルアミン(1−TNATA)等のスターバーストアミン類、及び5,5”−ビス−{4−[ビス(4−メチルフェニル)アミノ]フェニル}−2,2':5',2”−ターチオフェン(BMA−3T)等のオリゴチオフェン類を挙げることができる。
【0052】
発光層を形成する材料としては、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム(III)(Alq3)、ビス(8−キノリノラート)亜鉛(II)(Znq2)、ビス(2−メチル−8−キノリノラート)(p−フェニルフェノラート)アルミニウム(III)(BAlq)及び4,4'−ビス(2,2−ジフェニルビニル)ビフェニル(DPVBi)等が挙げられ、電子輸送材料又は正孔輸送材料と発光性ドーパントを共蒸着することによって、発光層を形成してもよい。
【0053】
電子輸送材料としては、Alq3、BAlq、DPVBi、(2−(4−ビフェニル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール)(PBD)、トリアゾール誘導体(TAZ)、バソクプロイン(BCP)、シロール誘導体等が挙げられる。
発光性ドーパントとしては、キナクリドン、ルブレン、クマリン540、4−(ジシアノメチレン)−2−メチル−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン(DCM)、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)(Ir(ppy)3)及び(1,10−フェナントロリン)−トリス(4,4,4−トリフルオロ−1−(2−チエニル)−ブタン−1,3−ジオナート)ユーロピウム(III)(Eu(TTA)3phen)等が挙げられる。
キャリアブロック層を形成する材料としては、PBD、TAZ、BCP等が挙げられる。
【0054】
電子注入層を形成する材料としては、酸化リチウム(Li2O)、酸化マグネシウム(MgO)、アルミナ(Al23)、フッ化リチウム(LiF)、フッ化マグネシウム(MgF2)、フッ化ストロンチウム(SrF2)、Liq、Li(acac)、酢酸リチウム、安息香酸リチウム等が挙げられる。
陰極材料としては、アルミニウム、マグネシウム−銀合金、アルミニウム−リチウム合金、リチウム、ナトリウム、カリウム及びセシウム等が挙げられる。
【0055】
本発明の電荷輸送性ワニスを用いたOLED素子の作製方法は、特に限定されないが、以下の方法を挙げることができる。
陰極基板上に当該電子輸送性ワニスを塗布して電子輸送性薄膜を作製し、これを真空蒸着装置内に導入し、上記と同様の材料を用いて電子輸送層、発光層、正孔輸送層、正孔注入層を形成した後、陽極材料をスパッタリング等の方法により成膜してOLED素子とする。
【0056】
本発明の電荷輸送性ワニスを用いたPLED素子の作製方法は、特に限定されないが、以下の方法が挙げられる。
上記OLED素子作製において、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層の真空蒸着操作を行う代わりに、発光性電荷輸送性高分子層を形成することによって本発明の電荷輸送性ワニスによって形成される電荷輸送性薄膜を含むPLED素子を作製することができる。
【0057】
具体的には、陽極基板上に、当該正孔輸送性ワニスを塗布して上記の方法により正孔輸送性薄膜を作製し、その上部に発光性電荷輸送性高分子層を形成し、さらに陰極電極を蒸着してPLED素子とする。
あるいは、陰極基板上に、当該電子輸送性ワニスを塗布して上記の方法により電子輸送性薄膜を作製し、その上部に発光性電荷輸送性高分子層を形成し、さらに陽極電極をスパッタリング、蒸着、スピンコート等の方法により作製してPLED素子とする。
【0058】
使用する陰極及び陽極材料としては、上記OLED素子作製時と同様の物質が使用でき、同様の洗浄処理、表面処理を行うことができる。
発光性電荷輸送性高分子層の形成法としては、発光性電荷輸送性高分子材料、又はこれに発光性ドーパントを加えた材料に溶剤を加えて溶解し、又は均一に分散し、当該正孔注入層を形成してある電極基板に塗布した後、溶剤の蒸発により成膜する方法が挙げられる。
【0059】
発光性電荷輸送性高分子材料としては、ポリ(9,9−ジアルキルフルオレン)(PDAF)等のポリフルオレン誘導体、ポリ(2−メトキシ−5−(2’−エチルヘキソキシ)−1,4−フェニレンビニレン)(MEH−PPV)等のポリフェニレンビニレン誘導体、ポリ(3−アルキルチオフェン)(PAT)などのポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾール(PVCz)等を挙げることができる。
【0060】
溶剤としては、トルエン、キシレン、クロロホルム等を挙げることができ、溶解又は均一分散法としては攪拌、加熱攪拌、超音波分散等の方法により溶解あるいは均一に分散する方法が挙げられる。
塗布方法としては、特に限定されるものではなく、インクジェット法、スプレー法、ディップ法、スピンコート法、転写印刷法、ロールコート法、刷毛塗り等が挙げられる。なお、塗布は、窒素、アルゴン等の不活性ガス下で行うことが望ましい。
溶剤の蒸発法としては、不活性ガス下又は真空中、オーブン又はホットプレートで加熱する方法を挙げることができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
以下の方法に従い、2,6−ビス(2,2’−ビチオフェニル)−1,4−ジチイン(以下BBDと略記)を製造した。
【0062】
【化27】

【0063】
第1工程について、以下に記述する。出発物質である2,2’−ビチオフェン(BTと略記、東京化成工業(株)製)12.00g(72.18mmol)に対し、窒素雰囲気下、脱水ジクロロメタン240ml(関東化学(株)製)を加えて溶解し、0℃まで冷却後、二塩化エチルアルミニウムの0.96M n−ヘキサン溶液82.70ml(79.39mmol)を13分間かけて滴下した。反応系を0℃で150分間、20℃で2時間順次攪拌した後、反応系内にクロロホルム250mlを加えて得られた溶液を、勢いよく攪拌した飽和炭酸水素ナトリウム500ml及びクロロホルム250mlの懸濁液中に注加した。分液後、水層をクロロホルム100mlで2回抽出し、合わせた有機層を純水500mlで1回洗浄後、芒硝で乾燥し、減圧下、濃縮乾固して4−クロロアセチル−2,2’−ビチオフェン(CABTと略記)16.95g(69.82mmol、収率97%)を得た。
【0064】
第2工程について、以下に記述する。上記の方法によって得られたCABT 5.32g(21.92mmol)に対し、アセトン106ml(純正化学(株)製)を加えて溶解して得られた溶液中に、硫化ナトリウム9水和物2.632g(10.96mmol)に純水53mlを加えて得られた溶液を15分間かけて滴下した。反応系を20℃で3時間、50℃で30分間順次攪拌した後室温まで放冷し、減圧濃縮してアセトンを留去した。得られた懸濁液をクロロホルム300mlで抽出した後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液100mlで1回、純水100mlで1回順次洗浄し、芒硝乾燥後、減圧下濃縮乾固して2,6−ビス(2,2’−ビチオフェニル)−1,4−ジチイン前駆体(pre−BBDと略記)4.68g(10.48mmol、収率96%)が得られた。
【0065】
第3工程について、以下に記述する。上記の方法によって得られたpre−BBD 1.999g(4.475mmol)に対し、窒素雰囲気下、ローソン試薬2.172g(5.370mmol、東京化成工業(株)製)及び脱水ジクロロエタン(純正化学(株)製、モレキュラーシーブス4Aで乾燥)60mlを順次加え、浴温65℃(内温61℃まで昇温)で40分間攪拌した。室温まで放冷後、減圧下濃縮乾固し、トルエンで1回共沸後、残渣にシリカゲル2.5gを加え、シリカゲルクロマトグラフィーで精製すると(シリカゲル50g、ヘキサン:トルエン=2:1→クロロホルム)、BBD 1.012g(2.276mmol、収率51%)が得られた。
【0066】
得られたBBD1.000g(2.249mmol)に対し、特願2003−181025号明細書に記載の方法によって得られた電子受容性ドーパント物質BDSO−3 1.064g(1.124mmol)、及びジメチルアセトアミド(DMAc)70gを大気中で順次加え、60℃まで攪拌しながら加熱して溶解させ、室温まで放冷してワニスを調製した。得られたワニスは赤橙色透明溶液であり、25℃における粘度は1.6mPa・sであった。
【0067】
40分間オゾン洗浄を行ったITOガラス基板上に、上記で得られたワニスを、スピンコート法によって塗布し、大気中、ホットプレートで焼成して薄膜を得た。焼成条件に対する薄膜のイオン化ポテンシャル(以下Ipと略す)を表1に示す。
同様の方法によって、本ワニスを用いてITOガラス基板上に正孔輸送性薄膜を形成し、真空蒸着装置内に導入し、α−NPD、Alq3、LiF、Alを順次蒸着した。膜厚はそれぞれ40nm、60nm、0.5nm、100nmとし、それぞれ8×10-4Pa以下の圧力となってから蒸着操作を行った。蒸着レートは、LiFを除いて0.3〜0.4nm/sとし、LiFについては0.01〜0.03nm/sとした。蒸着操作間の移動操作は真空中で行った。得られたOLED素子の特性を表2に示す。
【0068】
[実施例2]
実施例1記載の方法により得られたBBD 1.000g(2.249mmol)及び、特願2003−181025号明細書に記載の方法によって得られた電子受容性ドーパント物質BDSO−3 1.064g(1.124mmol)に対し、DMAc70gを加え、60℃まで攪拌しながら加熱して溶解し、室温まで放冷してワニスを調製した。得られたワニスは赤橙色透明溶液であり、−20℃で1週間保存しても固体の析出は見られなかった。
【0069】
【化28】

【0070】
[実施例3]
実施例1記載の方法により得られたBBD 45.5mg(0.102mmol)及び、特願2003−181025号明細書に記載の方法によって得られた電子受容性ドーパント物質BDSO−3 48.4mg(0.0511mmol)に対し、DMAc 2.02gを順次加え、50℃まで攪拌しながら加熱して溶解した後、シクロヘキサノール1.01gを加え攪拌し、室温まで放冷してワニスを調製した。得られたワニスは赤橙色透明溶液であり、−20℃で1週間保存しても固体の析出は見られなかった。
【0071】
[実施例4]
実施例1記載の方法により得られたBBD 30.0mg(0.0675mmol)及び、特願2003−181025号明細書に記載の方法によって得られた電子受容性ドーパント物質BDSO−3 63.9mg(0.0675mmol)に対し、DMAc 2.02gを順次加え、50℃まで攪拌しながら加熱して溶解した後、シクロヘキサノール1.01gを加え攪拌し、室温まで放冷してワニスを調製した。得られたワニスは赤橙色透明溶液であり、−20℃で1週間保存しても固体の析出は見られなかった。
【0072】
[実施例5]
実施例1記載の方法により得られたBBD 17.9mg(0.0403mmol)及び、特願2003−181025号明細書に記載の方法によって得られた電子受容性ドーパント物質BDSO−3 76.0mg(0.0803mmol)に対し、DMAc 2.02gを順次加え、50℃まで攪拌しながら加熱して溶解した後、シクロヘキサノール1.01gを加え攪拌し、室温まで放冷してワニスを調製した。得られたワニスは赤橙色透明溶液であり、−20℃で1週間保存しても固体の析出は見られなかった。
【0073】
[実施例6]
実施例2に記載の方法により得られたワニスを用い、40分間オゾン洗浄を行ったITOガラス基板上にスピンコート法によって塗布を行い、大気中ホットプレートで焼成して薄膜を得た。焼成条件に対する薄膜のイオン化ポテンシャル(以下Ipと略す)を表1に示す。
【0074】
同様の方法によって、本ワニスを用いてITOガラス基板上に正孔輸送性薄膜を形成し、真空蒸着装置内に導入し、α−NPD、Alq3、LiF、Alを順次蒸着した。膜厚はそれぞれ40nm、60nm、0.5nm、100nmとし、それぞれ8×10-4Pa以下の圧力となってから蒸着操作を行い、蒸着レートはLiFを除いて0.35〜0.40nm/sとし、LiFについては0.01〜0.03nm/sとした。蒸着操作間の移動操作は真空中行った。得られたOLED素子に電圧を印加すると発光面全体が均一に発光し、欠陥は見られなかった。得られたOLED素子の特性を表2に示す。
【0075】
[実施例7]
実施例3に記載の方法により得られたワニスを用い、実施例6に記載の方法によってITOガラス基板上に成膜操作を行い、OLED素子を作成した。得られたOLED素子に電圧を印加すると発光面全体が均一に発光し、欠陥は見られなかった。得られたOLED素子の発光面写真を図1に示す。得られた薄膜のIpとOLED特性をそれぞれ表1及び表2に示す。
【0076】
[実施例8]
実施例4に記載の方法により得られたワニスを用い、実施例6に記載の方法によってITOガラス基板上に成膜操作を行い、OLED素子を作成した。得られたOLED素子に電圧を印加すると発光面全体が均一に発光し、欠陥は見られなかった。得られた薄膜のIpとOLED特性をそれぞれ表1及び表2に示す。
【0077】
[実施例9]
実施例5に記載の方法により得られたワニスを用い、実施例6に記載の方法によってITOガラス基板上に成膜操作を行い、OLED素子を作成した。得られたOLED素子に電圧を印加すると発光面全体が均一に発光し、欠陥は見られなかった。得られた薄膜のIpとOLED特性をそれぞれ表1及び表2に示す。
【0078】
[比較例1]
非特許文献10に記載の方法に従ってチオフェン5量体を合成した。得られたチオフェン5量体はDMAcに対して不溶であり、液は無色透明のままであった。
【0079】
【化29】

【0080】
[比較例2]
実施例6と同条件のITOガラス基板を真空蒸着装置内に導入し、正孔注入層を形成せずに、実施例1に記載の方法と同条件でα−NPD、Alq3、LiF、Alを順次蒸着した。使用したITOガラス基板のIpを表1に、得られたOLED素子の特性を表2に示す。5V及び7Vの各電圧において、電流密度、輝度、電流効率のOLED素子特性が実施例6〜8より劣っていることがわかる。
【0081】
[比較例3]
ポリエチレンジオキシチオフェン−ポリスチレンスルホン酸水溶液をスピンコート法により実施例6と同条件のITOガラス基板上に塗布した後焼成し、均一な薄膜とした。焼成条件及び得られた薄膜のIpを表1に示す。
同様の方法によってITOガラス基板上に正孔輸送性薄膜を形成し、実施例1に記載の方法と同条件でOLED素子を作製した。得られたOLED素子の特性を表2に示す。5V及び7Vの各電圧において、輝度、電流効率のOLED素子特性が実施例6〜8より劣っていることがわかる。
【0082】
[比較例4]
正孔注入層としてCuPC(膜厚25nm、蒸着レート0.35〜0.40nm/s)を用い、実施例1に記載の方法と同条件でα−NPD、Alq3、LiF、Alを順次蒸着した。得られたOLED素子の発光面写真を図2に示す。
【0083】
上記実施例及び比較例において、粘度は、東京計器製E型粘度計ELD−50を使用して測定した。膜厚は、日本真空技術製 表面形状測定装置 DEKTAK3STを使用して測定した。電流計は、横河電機製 デジタルマルチメーター 7555を、電圧発生器は、アドバンテスト製 DCボルテージカレントソース R6145を、輝度計は、トプコン製 輝度計 BM−8を使用した。イオン化ポテンシャルは、理研計器製 光電子分光装置 AC−2を使用して測定した。
【0084】
【表1】

【0085】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される1,4−ジチイン環を有する化合物を含む電荷輸送性有機材料。
【化1】

(式中、R1、R2、R3、及びR4は、それぞれ独立して水素、水酸基、ハロゲン基、アミノ基、シラノール基、チオール基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、リン酸エステル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、ニトロ基、一価炭化水素基、オルガノオキシ基、オルガノアミノ基、オルガノシリル基、オルガノチオ基、アシル基又はスルホン基を示し、X及びYは、それぞれ独立して置換若しくは非置換、かつ、2価の共役単位であるアニリン、チオフェン、フラン、ピロール、エチニレン、ビニレン、フェニレン、ナフタレン、アントラセン、イミダゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、キノリン、キノキザリン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、フェニレンビニレン、フルオレン、カルバゾール、トリアリールアミン、金属−若しくは無金属−フタロシアニン、及び金属−若しくは無金属−ポルフィリンから選ばれる少なくとも1種を示し、ジチイン環に含まれる2つの硫黄原子は、それぞれ独立してSO基又はSO2基であってもよい。p、q及びrはそれぞれ独立して0又は1以上の整数で、p+q+r≦20を満足する数である。)
【請求項2】
さらに、電子受容性ドーパント物質又は正孔受容性ドーパント物質を含む請求項1記載の電荷輸送性有機材料。
【請求項3】
前記一般式(1)中のp、q、rが、3≦p+q+r≦10を満足する請求項1又は2記載の電荷輸送性有機材料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の電荷輸送性有機材料と、溶剤とを含む電荷輸送性ワニス。
【請求項5】
請求項4記載の電荷輸送性ワニスを使用して作製される電荷輸送性薄膜。
【請求項6】
請求項5記載の電荷輸送性薄膜を含む有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
式(2)
【化2】

(式中、R1は、水素、水酸基、ハロゲン基、アミノ基、シラノール基、チオール基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、リン酸エステル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、ニトロ基、一価炭化水素基、オルガノオキシ基を示し、Xは、置換若しくは非置換、かつ、2価の共役単位であるアニリン、チオフェン、フラン、ピロール、エチニレン、ビニレン、フェニレン、ナフタレン、アントラセン、イミダゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、キノリン、キノキザリン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、フェニレンビニレン、フルオレン、カルバゾール、トリアリールアミン、金属−若しくは無金属−フタロシアニン、及び金属−若しくは無金属−ポルフィリンから選ばれる少なくとも1種を示す。pは、0又は1以上の整数を示す。)
又は式(3)
【化3】

(式中、R2は、水素、水酸基、ハロゲン基、アミノ基、シラノール基、チオール基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、リン酸エステル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、ニトロ基、一価炭化水素基、オルガノオキシ基を示し、Yは、置換若しくは非置換、かつ、2価の共役単位であるアニリン、チオフェン、フラン、ピロール、エチニレン、ビニレン、フェニレン、ナフタレン、アントラセン、イミダゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、キノリン、キノキザリン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、フェニレンビニレン、フルオレン、カルバゾール、トリアリールアミン、金属−若しくは無金属−フタロシアニン、及び金属−若しくは無金属−ポルフィリンから選ばれる少なくとも1種を示す。rは0又は1以上の整数を示す。)
で表される化合物と、式(4)
【化4】

(式中、Halは、ハロゲン原子を示す。)
で表される酸ハロゲン化物を酸触媒下で反応させて、式(5)
【化5】

(式中、R1、X、p及びHalは、上記と同じ。)
又は式(6)
【化6】

(式中、R2、Y、r及びHalは、上記と同じ。)
で表されるアシル化合物を製造する第1工程と、
続いて、式(5)で表されるアシル化合物、式(6)で表されるアシル化合物、及びアルカリ金属硫化物を反応させて、式(7)
【化7】

(式中、R1、R2、X、Y、p及びrは、上記と同じ。)
で表される硫化物を製造する第2工程と、
続いて、式(7)表される硫化物にチオカルボニル化試薬を作用させ、閉環する第3工程とを備えることを特徴とする、式(1)
【化8】

(式中、R1、R2、X、Y、p及びrは上記と同じ。R3及びR4は、それぞれ独立して水素、水酸基、ハロゲン基、アミノ基、シラノール基、チオール基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、リン酸エステル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、ニトロ基、一価炭化水素基、オルガノオキシ基、オルガノアミノ基、オルガノシリル基、オルガノチオ基、アシル基又はスルホン基を示し、ジチイン環に含まれる2つの硫黄原子は、それぞれ独立してSO基又はSO2基であってもよい。qは0又は1以上の整数で、p+q+r≦20を満足する数である。)
で表される1,4−ジチイン環を有する化合物の製造法。
【請求項8】
式(2)
【化9】

(式中、R1は、水素、水酸基、ハロゲン基、アミノ基、シラノール基、チオール基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、リン酸エステル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、ニトロ基、一価炭化水素基、オルガノオキシ基を示し、Xは、置換若しくは非置換、かつ、2価の共役単位であるアニリン、チオフェン、フラン、ピロール、エチニレン、ビニレン、フェニレン、ナフタレン、アントラセン、イミダゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、キノリン、キノキザリン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、フェニレンビニレン、フルオレン、カルバゾール、トリアリールアミン、金属−若しくは無金属−フタロシアニン、及び金属−若しくは無金属−ポルフィリンから選ばれる少なくとも1種を示す。pは、0又は1以上の整数を示す。)
又は式(3)
【化10】

(式中、R2は、水素、水酸基、ハロゲン基、アミノ基、シラノール基、チオール基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、リン酸エステル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、ニトロ基、一価炭化水素基、オルガノオキシ基を示し、Yは、置換若しくは非置換、かつ、2価の共役単位であるアニリン、チオフェン、フラン、ピロール、エチニレン、ビニレン、フェニレン、ナフタレン、アントラセン、イミダゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、キノリン、キノキザリン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、フェニレンビニレン、フルオレン、カルバゾール、トリアリールアミン、金属−若しくは無金属−フタロシアニン、及び金属−若しくは無金属−ポルフィリンから選ばれる少なくとも1種を示す。rは0又は1以上の整数を示す。)
で表される化合物と、式(4)
【化11】

(式中、Halは、ハロゲン原子を示す。)
で表される酸ハロゲン化物を酸触媒下で反応させることを特徴とする、式(5)
【化12】

(式中、R1、X、p及びHalは、上記と同じ。)
又は式(6)
【化13】

(式中、R2、Y、r及びHalは、上記と同じ。)
で表されるアシル化合物の製造法。
【請求項9】
前記酸触媒が、二塩化エチルアルミニウム又は塩化ジエチルアルミニウムである請求項8記載のアシル化合物の製造法。
【請求項10】
請求項8又は9で得られた式(5)で示されるアシル化合物、式(6)で示されるアシル化合物、及びアルカリ金属硫化物とを反応させることを特徴とする式(7)
【化14】

(式中、R1、R2、X、Y、p及びrは、上記と同じ。)
で表される硫化物の製造法。
【請求項11】
請求項10で得られた式(7)で示される硫化物にチオカルボニル化試薬を作用させて閉環させることを特徴とする式(1)
【化15】

(式中、R1、R2、X、Y、p及びrは上記と同じ。R3及びR4は、それぞれ独立して水素、水酸基、ハロゲン基、アミノ基、シラノール基、チオール基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、リン酸エステル基、エステル基、チオエステル基、アミド基、ニトロ基、一価炭化水素基、オルガノオキシ基、オルガノアミノ基、オルガノシリル基、オルガノチオ基、アシル基又はスルホン基を示し、ジチイン環に含まれる2つの硫黄原子は、それぞれ独立してSO基又はSO2基であってもよい。qは0又は1以上の整数で、p+q+r≦20を満足する数である。)
で表される1,4−ジチイン環を有する化合物の製造法。

【図1】
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【図2】
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【国際公開番号】WO2005/043962
【国際公開日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【発行日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515167(P2005−515167)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016095
【国際出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】