説明

1,4−ブタンジオールの精製方法

【課題】ガンマブチロラクトンを含有する粗1,4−ブタンジオールを蒸留により精製することにより高純度の1,4−ブタンジオールを高収率で得ると共に、熱回収も可能な1,4−ブタンジオールの精製方法を提供する。
【解決手段】1,4−ブタンジオールを85重量%以上含み、ガンマブチロラクトンを0.01〜5重量%含有する粗1,4−ブタンジオールを蒸留して、純度99重量%以上の精製1,4−ブタンジオールを得る方法であって、該粗1,4−ブタンジオール中に水を1〜10重量%含有させると共に、2塔形式の蒸留塔を採用し、第1塔の塔頂温度を120℃以下として水及びガンマブチロラクトンを含む液を留出させ、第2塔の塔頂温度を160℃以上で制御して塔頂から熱回収すると共に塔上部から精製1,4−ブタンジオールを留出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は1,4−ブタンジオールの精製方法に係り、詳しくはガンマブチロラクトンを含有する粗1,4−ブタンジオールを蒸留により精製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,4−ブタンジオール(以下、「1,4BG」と略記することがある)は工業用溶剤、あるいは、様々な用途や誘導体の原料として使用される極めて有用な物質である。例えば、1,4−ブタンジオールを原料として得られるテトラヒドロフランは、一般的には溶剤として使用されるが、ポリエーテルポリオール(具体的には、ポリテトラメチレンエーテルグリコール)の原料としても使用される。また、1,4−ブタンジオールはポリブチレンテレフタレートなどのポリエステルを製造する際の原料モノマーとしても使用される。
【0003】
1,4−ブタンジオールを工業的に製造する方法は従来から種々開発されており、例えば、ブタジエンを出発原料として、ブタジエン、酢酸及び酸素を用いてアセトキシ化反応を行ってジアセトキシブテンを得、このジアセトキシブテンと水とを加水分解反応させることで1,4−ブタンジオールを製造する方法、マレイン酸、コハク酸、無水マレイン酸及び/又はフマル酸を原料として、それらを水素化して1,4−ブタンジオールを含む粗水素化生成物を得る方法、アセチレンを原料してホルムアルデヒド水溶液と接触させて得られるブチンジオールを水素化して1,4−ブタンジオールを製造する方法などが挙げられる。
【0004】
上記いずれの方法においても、製造された1,4BG含有組成物には、ガンマブチロラクトン(以下「GBL」と略記することがある)などの副生物が含まれているため、これらの不純物を除去することが製品1,4BGの品質向上の観点から重要となる。
【0005】
従来、ガンマブチロラクトンを含有する粗1,4BGを精製する方法として、蒸留による方法が知られている。例えば、特許文献1には、1,4−ブチンジオールの水素化により得られる水含有の粗製生成物中に、1,4BG以外にもガンマブチロラクトンが含まれることが記載されており、この粗製生成物から蒸留塔を用いてガンマブチロラクトンを分離することが記載されている。
特許文献1では、具体的には、1,4−ブタンジオールよりも低沸点の成分及び水を除去した1,4−ブタンジオールを3つの蒸留塔に送り、1,4−ブタンジオールよりも高沸点の成分を第1の塔の塔底から取り出して第3の塔に供給し、1,4−ブタンジオールを第1の塔の塔頂から第2の塔に供給し、第2の塔の塔底生成物を第3の塔に供給し、第2の塔の側流から精製1,4−ブタンジオールを取り出す。この特許文献1の実施例において、第1の塔は塔底温度約175℃で、第2の塔は塔底温度約165℃で運転される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2010−518174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
粗1,4−ブタンジオールの蒸留精製においては、不純物が十分に低減された高純度1,4−ブタンジオールを得ることが重要である。また、運転においては、蒸留塔のエネルギーの有効利用のために、塔頂から熱回収を行うことが望まれる。
しかしながら、1,4−ブタンジオールとガンマブチロラクトンは加熱により高沸点副生物を生成し、蒸留塔の塔底から分離される1,4−ブタンジオール中に不純物として含有されることが明らかとなった。更に、この反応は可逆反応であるため、次工程で高沸点生成物を蒸留分離する際に、塔頂から得られる1,4−ブタンジオール中にガンマブチロラクトンが混入する問題があった。
特許文献1に記載される方法では、粗1,4−ブタンジオール中のガンマブチロラクトン濃度が低く、更には、用いる蒸留塔の数が多いため、ガンマブチロラクトンの混入が回避可能となっているが、この方法では汎用的な精製法とは言えず、設備コストの面でも好ましくない。
【0008】
なお、特許文献1には、蒸留塔内でのガンマブチロラクトンと1,4−ブタンジオール共存による高沸成分の生成についての記載は無く、またガンマブチロラクトンと1,4−ブタンジオールを分離する蒸留以前に水分を除去することが記載されている。
【0009】
本発明は、ガンマブチロラクトンを含有する粗1,4−ブタンジオールを蒸留により精製することにより、高純度の1,4−ブタンジオールを得ると共に熱回収も可能な1,4−ブタンジオールの精製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ガンマブチロラクトンを含有する1,4−ブタンジオールは一定温度以上の条件で高沸化すること、即ち、ガンマブチロラクトンと1,4−ブタンジオールは120℃以上の温度領域で高沸成分を形成し、更なる温度上昇に伴って、この高沸成分の生成速度が大幅に加速されていくことを見出した。
1,4−ブタンジオールを蒸留精製する際に、軽沸点成分であるガンマブチロラクトンから高沸成分を生成することは、蒸留塔で精製する1,4−ブタンジオールへ高沸成分が混入することを意味し、1,4−ブタンジオールの純度低下による品質の悪化が課題となる。また、1,4−ブタンジオールが高沸成分となることで1,4−ブタンジオール自体が消耗し、蒸留による1,4−ブタンジオールの回収率(収率)が低下する。
【0011】
本発明者らは、ガンマブチロラクトンと1,4−ブタンジオールの高沸化を防止すると共に、熱回収を図るべく更に検討を重ねた結果、蒸留に供する粗1,4−ブタンジオール中に所定量の水を含有させると共に、2塔形式の蒸留塔を採用し、第1塔の塔頂温度を120℃以下とすることにより高沸成分の生成を防止し、第2塔の塔頂温度を160℃以上で制御して熱回収することにより、上記課題を解決することができることを見出した。
【0012】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0013】
[1] 1,4−ブタンジオールを85重量%以上含み、ガンマブチロラクトンを0.01〜5重量%含有する粗1,4−ブタンジオールを蒸留して、純度99重量%以上の精製1,4−ブタンジオールを得る方法であって、該粗1,4−ブタンジオール中に水を1〜10重量%含有させると共に、前段の蒸留塔で軽沸分を留出させて除去した液を後段の蒸留塔で蒸留する2塔形式の蒸留塔を採用し、第1塔の塔頂温度を120℃以下として水及びガンマブチロラクトンを含む液を留出させ、第2塔の塔頂温度を160℃以上で制御して塔頂から熱回収すると共に塔上部から精製1,4−ブタンジオールを留出させることを特徴とする1,4−ブタンジオールの精製方法。
【0014】
[2] 前記第1塔の塔底から抜き出され、前記第2塔に導入される缶出液のガンマブチロラクトン濃度が0.01重量%以下であることを特徴とする[1]に記載の1,4−ブタンジオールの精製方法。
【0015】
[3] 前記第1塔における前記粗1,4−ブタンジオールの供給温度が150℃以下であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の1,4−ブタンジオールの精製方法。
【0016】
[4] 前記第2塔の塔底温度が200℃以下であることを特徴とする[1]ないし[3]のいずれかに記載の1,4−ブタンジオールの精製方法。
【0017】
[5] 前記第1塔から留出させる水及びガンマブチロラクトンを含む液が、1,4−ブタンジオールを含有することを特徴とする[1]ないし[4]のいずれかに記載の1,4−ブタンジオールの精製方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ガンマブチロラクトンを含有する粗1,4−ブタンジオールを蒸留により精製するに当たり、蒸留塔に供する粗1,4−ブタンジオールに所定量の水を含有させると共に、2塔形式の蒸留塔を採用し、第1塔の塔頂温度を120℃以下とすることにより、ガンマブチロラクトンと1,4−ブタンジオールとが共存する第1塔での高沸成分の生成を抑制して、水とガンマブチロラクトンを効率的に留出させることができる。水とガンマブチロラクトンを留出した後、第2塔に導入された液中には、ガンマブチロラクトンが殆ど含まれておらず、従って、この第2塔では塔頂温度を160℃以上としても、高沸成分生成の問題はない。この第2塔は塔頂温度160℃以上の高温であることから、効率的に熱回収することができると共に、高純度1,4−ブタンジオールを高収率で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例及び比較例において粗1,4−ブタンジオールの精製を行った蒸留塔を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0021】
本発明の1,4−ブタンジオールの精製方法は、1,4−ブタンジオールを85重量%以上含み、ガンマブチロラクトンを0.01〜5重量%含有する粗1,4−ブタンジオールを蒸留して、純度99重量%以上の精製1,4−ブタンジオールを得るに当たり、該粗1,4−ブタンジオール中に水を1〜10重量%含有させると共に、前段の蒸留塔で軽沸分を留出させて除去した液を後段の蒸留塔で蒸留する2塔形式の蒸留塔を採用し、第1塔の塔頂温度を120℃以下として水及びガンマブチロラクトンを含む液を留出させ、第2塔の塔頂温度を160℃以上で制御して塔頂から熱回収すると共に塔上部から精製1,4−ブタンジオールを留出させることを特徴とする。
【0022】
[粗1,4−ブタンジオール]
本発明において、蒸留に供する粗1,4BGは公知の方法により得ることができる。
例えば、ブタジエンのジアセトキシ化により得た1,4−ジアセトキシ−2−ブテンを水素化した後、加水分解することにより粗1,4BGを製造することができる。或いは無水マレイン酸の水素化により得た粗1,4BG、レッペ法によりアセチレンから誘導した粗1,4BG、プロピレンの酸化を経由して得られる粗1,4BG、発酵法により得た粗1,4BGなどを使用することもできる。
【0023】
本発明に係る粗1,4BGはガンマブチロラクトンを含有するが、粗1,4BG中のガンマブチロラクトンの濃度は0.01重量%以上であり、好ましくは0.02重量%以上であり、更に好ましくは0.04重量%以上である。この量が多くなるほど、1,4BGの蒸留プロセスにおけるガンマブチロラクトンとの分離における本発明の効果が大きくなる傾向にある。一方、粗1,4BG中のガンマブチロラクトンの濃度は5重量%以下であり、好ましくは3重量%以下、より好ましくは1重量%以下である。この値が小さくなるほど、ガンマブチロラクトン分離における蒸留塔の負荷を低減できる傾向にある。また、高沸成分の副生量も軽減できる傾向となる。なお、ガンマブチロラクトンの濃度が上記範囲の粗1,4BGは、無水マレイン酸の水素化、コハク酸の水素化、レッペ法などの、ガンマブチロラクトンを副生する1,4BGの製法で得ることができる。粗1,4BG中のガンマブチロラクトン濃度が上記下限よりも低いものは、本発明を適用するには及ばないが、上記上限よりも高いものについては、適宜精製1,4BGを添加してガンマブチロラクトン濃度を下げることにより本発明に係る蒸留に供することもできる。
【0024】
本発明においては、粗1,4BGに1〜10重量%の水を含有させた状態で蒸留に供する。粗1,4BG中の水含有量は、好ましくは1重量%以上、8.0重量%以下、更に好ましくは2重量%以上、7.0重量%以下である。粗1,4BGの水含有量が多すぎると、第1塔における水留出のためのエネルギー使用量が増大しすぎて経済性が悪化し、少な過ぎると第1塔の塔頂温度を充分に低減することができなくなってしまう。水含有量が上記範囲の粗1,4BGは、加水分解工程など前記1,4BG製造プロセスの中間液を使用することも可能であり、粗1,4BGに別途水を添加して調整することも可能である。
【0025】
なお、本発明における粗1,4BGは、水、ガンマブチロラクトン、1,4BG以外の軽沸点成分や高沸点成分を含有していても差し支えないが、粗1,4BG中の1,4BG含有量は85重量%以上であることを必須とし、好ましくは90重量%以上、より好ましくは92重量%以上で、好ましくは99.9重量%以下、より好ましくは99.5重量%以下である。粗1,4BG中の1,4BG含有量が上記下限より低いと蒸留塔の負荷が大きくなり精製効率が悪い。粗1,4BG中の1,4BG含有量が上記上限よりも多いものは、十分に高純度であり、本発明による蒸留精製を適用するには及ばない。
【0026】
[蒸留塔]
本発明では2塔の蒸留塔を使用し、前段の蒸留塔(第1塔)において、120℃以下の塔頂温度で、水、ガンマブチロラクトン、その他の軽沸分を留出させ、これらを除去した液を後段の蒸留塔(第2塔)において、塔頂温度160℃以上の条件で蒸留して塔上部から精製1,4BGを得ると共に、熱回収を行う。
【0027】
本発明では第1塔、第2塔ともに充填塔、棚段塔などの蒸留塔を使用可能である。充填塔、棚段塔などの段数は任意であるが、本発明における第1塔、第2塔ともに、理論段数として2段以上、100段以下が好ましく、特に好ましくは5段以上、40段以下である。蒸留塔の理論段数が少な過ぎると蒸留精製が困難であり、多過ぎるものは、蒸留塔建設の経済性、運転難易度、及び安全管理の点では好ましくない。
【0028】
<第1塔>
第1塔の塔頂圧力は絶対圧力として20mmHg以上、2000mmHg以下が好ましく、更に好ましくは80mmHg以上、760mmHg以下であり、特に好ましくは100mmHg以上、500mmHg以下である。圧力は単独で決定される条件ではなく、塔頂からの留出液の組成を考慮して決定しなくてはならない。本発明では第1塔の塔頂温度を120℃以下とすることが必須であり、留出液組成に基づいて、塔頂温度を120℃以下とできる塔頂圧力の設定並びに制御が必要である。
【0029】
第1塔の塔頂温度は120℃以下であり、好ましくは110℃以下であり、特に好ましくは100℃以下である。また、塔頂温度は20℃以上が好ましく、更に好ましくは40℃以上、特に好ましくは60℃以上である。第1塔の塔頂温度が高すぎると高沸成分の生成が促進され、低すぎると冷却媒体に安価な水を使用することができなくなる。
【0030】
第1塔の還流比は好ましくは0.5以上、20以下であり、更に好ましくは1以上、10以下である。還流比が上記下限未満では必要となる理論段数が増大してしまい、上記上限を超える還流比では蒸留に必要なエネルギー量が増大しすぎてしまう。尚、還流を実施するための還流液を一時的に貯蔵する還流液槽の温度も、塔頂温度と同様に120℃以下とすることが必須である。
【0031】
また、第1塔の原料、即ち第1塔に供給される粗1,4BGの供給温度は好ましくは通常170℃以下であり、特に好ましくは150℃以下である。第1塔の原料供給温度が高すぎると高沸成分の生成が促進され、低すぎると蒸留塔の効果が十分に発揮されなくなる。なお、第1塔の原料供給温度の下限は通常50℃以上である。
【0032】
本発明における第1塔の塔頂からの留出流量は、好ましくは、第1塔へのガンマブチロラクトンと水の供給量の合計流量以上である。そのため、第1塔への単位時間当たりの粗1,4BGの供給流量(重量)を100とした場合に、第1塔の塔頂からの留出流量は、好ましくは1.01以上、更に好ましくは1.5以上、特に好ましくは2.0以上で、好ましくは20以下、より好ましくは15以下、特に好ましくは10以下である。この値が小さすぎた場合には本発明を採用しなくても高沸成分の生成は無視できる範囲となり、この値が大きすぎた場合には、蒸留塔の負荷が増大して経済性が悪化してしまう。また、第1塔の塔頂から抜き出す本留出液の組成は、ガンマブチロラクトン濃度として好ましくは、0.1重量%以上であり、より好ましくは1重量%以上、更に好ましくは10重量%以上であり、特に好ましくは33重量%以上である。また、ガンマブチロラクトン濃度は85重量%以下が好ましく、更に好ましくは80重量%以下、特に好ましくは50重量%以下である。また、この留出液の水濃度としては、好ましくは1重量%以上であり、より好ましくは5重量%以上、更に好ましくは10重量%以上、特に好ましくは20重量%以上で、好ましくは80重量%以下、更に好ましくは65重量%以下、特に好ましくは50重量%以下である。
【0033】
前述の如く、粗1,4BGは、ガンマブチロラクトン、水以外にその他テトラヒドロフラン、ブタノール、ブチルアルデヒドなどの軽沸分を含んでいてもよく、従って、第1塔の留出液はこれらの軽沸分を含んでいてもよい。また、第1塔の留出液は1,4−ブタンジオールを含むことが好ましく、留出液中の1,4−ブタンジオールは0.01重量%以上、50重量%以下が好ましく、特に好ましくは1重量%以上、35重量%以下である。この値が低すぎると還流比増加など蒸留塔負荷が増大し、この値が大きすぎると1,4−ブタンジオールの精製ロスが増大してしまう。
【0034】
ここで第1塔の塔頂から抜き出したガンマブチロラクトンを含む留出液は排水処理、焼却処理も可能であるが、水添触媒に水素雰囲気下で接触させて、ガンマブチロラクトンを1,4BGに変換することも差し支えない。なお、水添触媒には銅、ニッケル、パラジウム、ルテニウムなど市販の水添触媒が使用できる。
【0035】
第1塔の塔底からは粗1,4BGよりも純度の高い1,4BGを得ることができる。この第1塔の塔底から抜き出される缶出液は粗1,4BGよりも純度の高い1,4BGであり、ガンマブチロラクトン濃度が低減していれば差し支えないが、好ましくはガンマブチロラクトン濃度0.04重量%以下であり、更に好ましくは0.02重量%以下であり、特に好ましくは0.01重量%以下である。この缶出液のガンマブチロラクトン濃度は低い程好ましいが、通常0.001重量%以上である。
【0036】
<第2塔>
本発明では、第1塔でガンマブチロラクトンを除去低減した1,4BGを缶出液として抜き出し、第2塔でさらに蒸留精製して、純度99重量%以上の精製1,4BGを得る。
【0037】
第2塔は塔頂温度を160℃以上で制御して、塔頂から熱回収することが必須である。ここで第2塔に供給する1,4BGはガンマブチロラクトンを除去低減した第1塔の塔底液(缶出液)である。この塔底液は、1,4BGよりも高沸の高沸成分を含有していても差し支えない。
【0038】
第2塔は、塔頂あるいは塔上部の側流より精製1,4BGを留出させる。塔頂から精製1,4BGを得る場合にも、塔上部の側流より精製1,4BGを得る場合にも、塔頂温度は160℃以上であり、塔頂部からの熱回収が必須である。
【0039】
第2塔の塔頂圧力は絶対圧力として60mmHg以上、2000mmHg以下が好ましく、更に好ましくは80mmHg以上、760mmHg以下であり、特に好ましくは100mmHg以上、600mmHg以下である。圧力は単独で決定される条件ではなく、塔頂からの留出液の組成を考慮して決定しなくてはならない。本発明では第2塔の塔頂温度を160℃以上とすることが必須であり、留出液組成に基づいて、塔頂温度を160℃以上とできる塔頂圧力の設定並びに制御が必要である。
【0040】
第2塔の塔頂温度は160℃以上であり、好ましくは165℃であり、特に好ましくは170℃以上である。また、塔頂温度は250℃以下が好ましく、更に好ましくは230℃以下、特に好ましくは200℃以下である。第2塔の塔頂温度が低過ぎると高純度1,4BGを効率的に蒸留分離することができず、また、得られる蒸気が低圧となる。また、第2塔の塔頂温度が高すぎると塔内でテトラヒドロフランなどの副生物を生成する。
【0041】
なお、第2塔の塔底温度については、200℃以下であることが好ましく、より好ましくは190℃以下、特に好ましくは180℃以下で、150℃以上が好ましく、160℃以上がより好ましく、170℃以上が更に好ましい。第2塔の塔底温度が高すぎるとテトラヒドロフランなどの副生物を生成し、低過ぎると塔頂で効率のよい熱回収が実施できない。
【0042】
第2塔の還流比は好ましくは0.5以上、20以下であり、更に好ましくは1以上、10以下である。還流比が上記下限未満では必要となる理論段数が増大してしまい、上記上限を超える還流比では蒸留に必要なエネルギー量が増大しすぎてしまう。
【0043】
本発明における第2塔の塔頂からの留出流量(精製1,4BGを塔上部の側流から留出させる場合は、側流との合計流量)は、好ましくは、本蒸留塔への1,4BGの供給量の合計流量である。そのため、第1塔への単位時間当たりの粗1,4BGの供給流量(重量)を100とした場合、本発明に係る粗1,4BGの純度は85%以上であることから、1,4BG自体の流量(重量)は85以上である。そのため、第2塔の塔頂からの留出流量(重量)は好ましくは80以上、更に好ましくは85以上、特に好ましくは90以上で、好ましくは99.9以下、特に好ましくは99以下である。この値が小さすぎた場合には塔底への1,4BG缶出流量が増大し、1,4BGのロス増加あるいは1,4BGの循環量が増大し、経済性が悪化してしまう。一方、この値が大きすぎた場合には、第2塔の缶出流量が低くなりすぎて、塔底での滞留時間が大きくなり、塔底での不純物生成が懸念される。
【0044】
第2塔の塔頂又は塔上部の側流から抜き出す本留出液の組成は、1,4BGの純度99重量%以上が必須である。精製1,4BGには、1,4BG以外に微量のガンマブチロラクトン、水、その他軽沸成分あるいは高沸成分を含有していても良いが、ガンマブチロラクトン濃度として好ましくは、0.04重量%以下であり、より好ましくは0.01重量%以下である。
【0045】
尚、精製1,4BGは塔頂から抜き出すことが好ましいが、塔上部から側流として抜き出すことも差し支えない。この場合には塔頂部位より軽沸点成分を含む1,4BGを留出させることになるが、この場合も塔頂温度を160℃以上に保持することが必須である。
【0046】
第2塔の塔底からは1,4−ブタンジオール及び高沸成分を排出する。この第2塔の塔底から抜き出される缶出液は好ましくは第2塔に供給される1,4BGよりも高沸成分の合計量であり、それ以上の流量として1,4BGを含んでいても差し支えない。
【0047】
<熱交換器>
本発明において、第2塔では蒸留塔で熱回収を行うために、該塔頂部又は1,4BGの留出部に熱交換器を設置することが必須となる。即ち、第2塔の塔頂部又は上部の側流から1,4BGを含むガスを留出させて、該熱交換器内で熱源とする。ここで1,4BGを含むガスは冷却媒体と熱交換器内で熱交換を行う。冷却媒体としては、潜熱が大きく、かつ安価で入手容易であるという点で水が好ましい。熱交換器で加熱された水は加圧水蒸気として熱交換器から排出され、熱源として有効に使用することが可能となる。一方、1,4BGを含むガスは該熱交換器内で冷却され凝縮液となる。この凝縮液はそのまま排出されることも可能であるが、一部あるいは全量を還流液として第2塔内に戻すことも可能である。
【0048】
本発明で用いることのできる熱交換器としては、冷却水を水蒸気として回収可能な構造であれば特に制限されないが、シェル&チューブ式多管熱交換器が好ましく、その中でもケトル型熱交換器が特に好ましい。
【0049】
熱交換器で発生させる水蒸気温度は、自由に選択できるが、好ましくは100〜250℃であり、より好ましくは120〜200℃であり、更に好ましくは125〜160℃の範囲である。発生させる水蒸気の温度が低いと熱源としての価値が低下してしまう。一方、これよりも高い温度の水蒸気を得る場合には、第2塔の塔頂温度は非常に高温であることが求められ、塔の設計圧力が甚大なものとなり、装置作成のために経済性が悪化する。
【0050】
なお、発生させた水蒸気の用途は、製造プラント全体あるいは隣接したプラントに熱供給するなどにより、全体のエネルギー収支を勘案して決定することができる。必要に応じて複数系統の蒸気配管、例えば、高圧用の蒸気配管、中圧用の蒸気配管、低圧用の蒸気配管を配置してもよい。また、発生させた水蒸気は熱源としてだけでなく、圧縮機の動力源やタービン式発電機のエネルギー源として活用することもできる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
[実験例1〜4]
ガラス製の200ccフラスコに、1,4−ブタンジオール51g、ガンマブチロラクトン49gを仕込み、オイルバスを使用して内温度を表1に示す温度まで加熱した。内液温度が表1に示す温度に安定した後、2時間後に加熱を停止した。
内液をサンプリングし、ガスクロマトグラフィーにて分析を行い、クロマトグラフのピーク面積比率より、1,4−ブタンジオール及びガンマブチロラクトンの転化率と、1,4−ブタンジオールとガンマブチロラクトンから生成する高沸成分濃度を調べた。結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1より、1,4−ブタンジオールとガンマブチロラクトンとの混合液を120℃を超える温度に加熱すると高沸成分が生成し、1,4−ブタンジオールが消費されることが分かる。
【0055】
[実験例5]
ガラス製の200ccフラスコに、1,4−ブタンジオール90g、ガンマブチロラクトン10gを仕込み、オイルバスを使用して内温度を160℃まで加熱した。内液温度が安定した後、表2に示す時間で内液をサンプリングし、ガスクロマトグラフィーにて分析を行い、クロマトグラフのピーク面積比率より、ガンマブチロラクトン濃度と生成する高沸成分濃度を調べた。結果を表2に示す。
【表2】

【0056】
表2より、1,4−ブタンジオールとガンマブチロラクトンとの混合液が一定組成で安定し、この反応が平衡反応であることが分かる。
【0057】
[実施例1]
粗1,4−ブタンジオールを図1に示す蒸留塔で精製するシミュレーションを行った。即ち、プロセスシミュレーターである「Aspen Plus」(Aspen Technology,Inc製)を使用し、実際のプロセスに近い条件を計算機上で構築し、シミュレーションを実施した。なお、Aspen Plusは、通常の化学薬品、電解質、固体やポリマーに関する物性推算モデルや純物質パラメータの大規模なデータベースを含むプロセスモデリングソフトであり、実プラントの蒸留や溶媒抽出の設計条件や運転状態を入力して、化学工学的手法に基づき計算により実プラントと同等のデータを再現できるソフトである。
【0058】
図1の第1塔11は25段の理論トレーを有し、ガンマブチロラクトンを含む粗1,4−ブタンジオールは第1塔11の供給ライン1から1000kg/hrの流量で供給される。なお、この供給ライン1は塔底から13段目の理論トレーであり、ガンマブチロラクトンを除去分離した塔底から回収される液(供給ライン3)は第2塔12に供給される。除去されたガンマブチロラクトンは留出ライン2より排出される。第2塔12は25段の理論トレーを有し、供給ライン3は塔底から13段目の理論トレーに供給される。第2塔12の留出液であるライン4が精製1,4BGであり、缶出液ライン5と分離される。
【0059】
第1塔11の塔頂圧力を200mmHg、還流比を1.79として、ガンマブチロラクトン1重量%、水1重量%を含む粗1,4−ブタンジオールを供給して蒸留を行った。このときの原料供給温度は130℃である。その結果、塔頂温度70℃、塔底温度188℃であり、塔頂からガンマブチロラクトン33重量%、水34重量%、1,4BG33重量%の液を30kg/hrで抜き出した。塔底からガンマブチロラクトンを0.01重量%含む1,4BG970kg/hrを得た。この液を第2塔に供給ライン3を経て導入した。
【0060】
第2塔12の塔頂圧力を100mmHg、還流比を1.00として蒸留を行った。その結果、塔頂温度171℃、塔底温度176℃であり、塔頂から1,4BG純度99.99重量%の液を928kg/hr得ることができた。
この際、塔頂温度は171℃であることから熱交換器を設置することで、冷却水を171℃未満の蒸気として回収することが可能となる。
【0061】
[比較例1]
第1塔11の塔頂圧力を60mmHg、還流比を1.79として、ガンマブチロラクトン5重量%を含み、水を含有しない無水の粗1,4−ブタンジオールを1000kg/hrの流量で供給したこと以外は実施例1と同様にして蒸留を行った。
その結果、塔頂温度124℃、塔底温度159℃であり、塔頂からガンマブチロラクトン84重量%、1,4BG16重量%の液を59kg/hr抜き出した。塔底からガンマブチロラクトンを0.01重量%含む1,4BG941kg/hrを得た。この液を第2塔12に供給ライン3を用いて導入した。
第2塔12の塔頂圧力を100mmHg、還流比を1.00として蒸留を行った。その結果、塔頂温度171℃、塔底温度176℃であり、塔頂から1,4BG純度99.95重量%の液を900kg/hr得ることができた。
【0062】
[比較例2]
第1塔11の塔頂圧力を40mmHg、還流比を2.56として、ガンマブチロラクトン0.3重量%を含み、水を含有しない無水の粗1,4−ブタンジオールを1000kg/hrの流量で供給したこと以外は実施例1と同様にして蒸留を行った。
その結果、塔頂温度129℃、塔底温度150℃であり、塔頂からガンマブチロラクトン23重量%、1,4BG77重量%の液を12.9kg/hr抜き出した。塔底からガンマブチロラクトンを0.01重量%含む1,4BG987kg/hrを得た。この液を第2塔12に供給ライン3を用いて導入した。
第2塔12の塔頂圧力を100mmHg、還流比を1.00として蒸留を行った。その結果、塔頂温度171℃、塔底温度176℃であり、塔頂から1,4BG純度99.98重量%の液を947kg/hr得ることができた。
【0063】
以上の結果を表3にまとめて示す。
表3より、本発明によれば、熱回収を図った上で、高純度の精製1,4BGを得ることができることが分かる。
【0064】
【表3】

【符号の説明】
【0065】
11 第1塔
12 第2塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,4−ブタンジオールを85重量%以上含み、ガンマブチロラクトンを0.01〜5重量%含有する粗1,4−ブタンジオールを蒸留して、純度99重量%以上の精製1,4−ブタンジオールを得る方法であって、
該粗1,4−ブタンジオール中に水を1〜10重量%含有させると共に、前段の蒸留塔で軽沸分を留出させて除去した液を後段の蒸留塔で蒸留する2塔形式の蒸留塔を採用し、第1塔の塔頂温度を120℃以下として水及びガンマブチロラクトンを含む液を留出させ、第2塔の塔頂温度を160℃以上で制御して塔頂から熱回収すると共に塔上部から精製1,4−ブタンジオールを留出させることを特徴とする1,4−ブタンジオールの精製方法。
【請求項2】
前記第1塔の塔底から抜き出され、前記第2塔に導入される缶出液のガンマブチロラクトン濃度が0.01重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の1,4−ブタンジオールの精製方法。
【請求項3】
前記第1塔における前記粗1,4−ブタンジオールの供給温度が150℃以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の1,4−ブタンジオールの精製方法。
【請求項4】
前記第2塔の塔底温度が200℃以下であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の1,4−ブタンジオールの精製方法。
【請求項5】
前記第1塔から留出させる水及びガンマブチロラクトンを含む液が、1,4−ブタンジオールを含有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の1,4−ブタンジオールの精製方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−43883(P2013−43883A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185022(P2011−185022)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】