説明

1,9,10−アンスリジン化合物及びそれを用いた有機発光素子

【課題】 新規な1,9,10−アンスリジン化合物を提供する。
【解決手段】 下記一般式[I]で示される1,9,10−アンスリジン化合物。
【化1】


(式中、R1〜R7は、水素原子、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアラルキル基、置換あるいは無置換のアリール基,置換あるいは無置換の複素環基、置換あるいは無置換の縮合多環芳香族基、置換あるいは無置換の縮合多環複素環基、置換あるいは無置換のアリールオキシ基、置換アミノ基、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、シアノ基から選ばれる基を表わし、同じであっても異なっていてもよい。但し、R1〜R7の少なくとも1つは、置換あるいは無置換のアリール基,置換あるいは無置換の複素環基、置換あるいは無置換の縮合多環芳香族基、置換あるいは無置換の縮合多環複素環基から選ばれる。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な有機化合物およびそれを用いた有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は、陽極と陰極間に蛍光性有機化合物または燐光性有機化合物を含む薄膜を挟持した素子である。各電極から電子およびホール(正孔)を注入することにより、蛍光性化合物または燐光性化合物の励起子を生成させ、この励起子が基底状態にもどる際に放射される光を利用する素子である。
【0003】
有機発光素子における最近の進歩は著しく、低印加電圧で高輝度、発光波長の多様性、高速応答性、薄型、軽量の発光デバイス化が可能であることから、広汎な用途への可能性を示唆している。しかしながら、現状では発光効率などの初期特性や長時間の発光による輝度劣化などの耐久特性の更なる向上が必要である。これらの初期特性や耐久特性は、素子を構成するホール注入層、ホール輸送層、発光層、ホールブロック層、電子輸送層や電子注入層などのすべての層が起因している。
【0004】
これまで知られているホールブロック層、電子輸送層、電子注入層に用いる材料としては、フェナントロリン化合物、アルミニウムキノリノール錯体、オキサジアゾール化合物やトリアゾール化合物などが挙げられる。これらの材料を発光層または電子輸送層に用いた例としては、特許文献1〜9が挙げられるが、これらのEL素子の初期特性および耐久特性は十分ではない。
【0005】
【特許文献1】特開平5−331459号公報
【特許文献2】特開平7−82551号公報
【特許文献3】特開2001−267080号公報
【特許文献4】特開2001−131174号公報
【特許文献5】特開平2−216791号公報
【特許文献6】特開平10−233284号公報
【特許文献7】米国特許4,539,507号明細書
【特許文献8】米国特許4,720,432号明細書
【特許文献9】米国特許4,885,211号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、新規な1,9,10−アンスリジン化合物を提供することにある。
【0007】
また本発明の目的は、新規な1,9,10−アンスリジン化合物を用い、高発光輝度で高発光効率な有機発光素子を提供することにある。さらに耐久性が高く、長時間の発光による輝度劣化が小さい有機発光素子を提供することにある。
【0008】
また本発明の目的は、製造が容易でかつ比較的安価に作成可能な有機発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明の1,9,10−アンスリジン化合物は、下記一般式[I]〜[III]で示されることを特徴とする。
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、R1〜R7は、水素原子、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアラルキル基、置換あるいは無置換のアリール基,置換あるいは無置換の複素環基、置換あるいは無置換の縮合多環芳香族基、置換あるいは無置換の縮合多環複素環基、置換あるいは無置換のアリールオキシ基、置換アミノ基、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、シアノ基から選ばれる基を表わし、同じであっても異なっていてもよい。但し、R1〜R7の少なくとも1つは、置換あるいは無置換のアリール基,置換あるいは無置換の複素環基、置換あるいは無置換の縮合多環芳香族基、置換あるいは無置換の縮合多環複素環基から選ばれる。)
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、R13、R14は、水素原子、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアラルキル基、置換あるいは無置換のアリール基,置換あるいは無置換の複素環基、置換あるいは無置換の縮合多環芳香族基、置換あるいは無置換の縮合多環複素環基、置換あるいは無置換のアリールオキシ基、置換アミノ基、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、シアノ基から選ばれる基を表わし、同じであっても異なっていてもよい。
【0014】
Ar3は、2価の置換あるいは無置換の芳香環基,2価の置換あるいは無置換の複素環基、2価の置換あるいは無置換の縮合多環芳香族基、2価の置換あるいは無置換の縮合多環複素環基から選ばれる基を表わす。)
【0015】
【化3】

【0016】
(式中、R15〜R17は、水素原子、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアラルキル基、置換あるいは無置換のアリール基,置換あるいは無置換の複素環基、置換あるいは無置換の縮合多環芳香族基、置換あるいは無置換の縮合多環複素環基、置換あるいは無置換のアリールオキシ基、置換アミノ基、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、シアノ基から選ばれる基を表わし、同じであっても異なっていてもよい。
【0017】
Ar4は、3価の置換あるいは無置換の芳香環基,3価の置換あるいは無置換の複素環基、3価の置換あるいは無置換の縮合多環芳香族基、3価の置換あるいは無置換の縮合多環複素環基から選ばれる基を表わす。)
【0018】
また、本発明の有機発光素子は、陽極及び陰極からなる一対の電極と、該一対の電極間に挟持された一または複数の有機化合物を含む層を少なくとも有する有機発光素子において、前記有機化合物を含む層の少なくとも一層が上記1,9,10−アンスリジン化合物の少なくとも一種を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の1,9,10−アンスリジン化合物を用いた有機発光素子は、低い印加電圧で高輝度な発光が得られ、耐久性にも優れている。特に、本発明の1,9,10−アンスリジン化合物を含有する有機層は、電子輸送層として優れ、かつ発光層としても優れている。
【0020】
さらに、素子の作成も真空蒸着あるいはキャステイング法等を用いて作成可能であり、比較的安価で大面積の素子を容易に作成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0022】
まず、本発明の1,9,10−アンスリジン化合物について説明する。
【0023】
本発明の1,9,10−アンスリジン化合物は、上記一般式[I]〜[III]で示される。
【0024】
一般式[I]で示される1,9,10−アンスリジン化合物としては、R2〜R6が、水素原子、置換あるいは無置換のアルキル基、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、シアノ基から選ばれる基を表わし、R1、R7が、置換あるいは無置換のアラルキル基、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基、置換あるいは無置換の縮合多環芳香族基、置換あるいは無置換の縮合多環複素環基、置換あるいは無置換のアリールオキシ基、置換アミノ基から選ばれる基を表わす化合物が好ましい。
【0025】
上記一般式[I]〜[III]における置換基の具体例を以下に示す。
【0026】
アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、ter−ブチル基、オクチル基などが挙げられる。
【0027】
アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基などが挙げられる。
【0028】
アリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基などが挙げられる。
【0029】
複素環基としては、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基、ビピリジル基、ターピリジル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基などが挙げられる。
【0030】
縮合多環芳香族基としては、フルオレニル基、ナフチル基、フルオランテニル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ピレニル基、テトラセニル基、ペンタセニル基、ペリレニル基、トリフェニレニル基などが挙げられる。
【0031】
縮合多環複素環基としては、キノリル基、カルバゾリル基、アクリジニル基、フェナジル基、フェナントロリル基などが挙げられる。
【0032】
アリールオキシ基としては、フェノキシル基、フルオレノキシル基、ナフトキシル基などが挙げられる。
【0033】
置換アミノ基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、ジアニソリルアミノ基、フルオレニルフェニルアミノ基、ジフルオレニル基、ナフチルフェニルアミノ基、ジナフチルアミノ基などが挙げられる。
【0034】
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などが挙げられる。
【0035】
2価または3価の芳香環基、複素環基、縮合多環芳香族基、縮合多環複素環基としては、上記アリール基、複素環基、縮合多環芳香族基、縮合多環複素環基を2価または3価としたものなどが挙げられる。
【0036】
上記置換基が有してもよい置換基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、ter−ブチル基、オクチル基などのアルキル基、ベンジル基、フェネチル基などのアラルキル基、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基などのアリール基、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基、ビピリジル基、ターピリジル基、オキサゾリル基、オキサジアゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基などの複素環基、フルオレニル基、ナフチル基、フルオランテニル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ピレニル基、テトラセニル基、ペンタセニル基、ペリレニル基、トリフェニレニル基などの縮合多環芳香族基、キノリル基、カルバゾリル基、アクリジニル基、フェナジル基、フェナントロリル基などの縮合多環複素環基、フェノキシル基、フルオレノキシル基、ナフトキシル基などのアリールオキシ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、ジアニソリルアミノ基、フルオレニルフェニルアミノ基、ジフルオレニル基、ナフチルフェニルアミノ基、ジナフチルアミノ基などの置換アミノ基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子、トリフルオロメチル基、シアノ基などが挙げられる。
【0037】
次に、本発明の1,9,10−アンスリジン化合物の代表例を以下に挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
【化4】

【0039】
【化5】

【0040】
【化6】

【0041】
【化7】

【0042】
【化8】

【0043】
【化9】

【0044】
【化10】

【0045】
本発明の1,9,10−アンスリジン化合物は、一般的に知られている方法で合成できる。例えば、J.Org.Chem.,46,833(1981)、J.Heterocycl.Chem.,13,961(1976)、Z.Chem.18,382(1978)などに記載の方法である。1,9,10−アンスリジン化合物中間体を得て、さらにパラジウム触媒を用いたSuzuki Coupling法(例えばChem.Rev.,95,2457,(1995)などの合成法で得ることができる。
【0046】
本発明の1,9,10−アンスリジン化合物は、従来の化合物に比べ電子輸送性、発光性および耐久性の優れた化合物である。これは有機発光素子の有機化合物を含む層、特に、電子輸送層、発光層として有用である。また真空蒸着法や溶液塗布法などによって形成した層は結晶化などが起こりにくく経時安定性に優れている。特に、本発明の1,9,10−アンスリジン化合物の中で、比較的HOMOが低いものはホールブロック性が高く、ホールブロック層や電子輸送層として特に好ましい。
【0047】
次に、本発明の有機発光素子について詳細に説明する。
【0048】
本発明の有機発光素子は、陽極及び陰極からなる一対の電極と、該一対の電極間に狭持された一または複数の有機化合物を含む層を少なくとも有する有機発光素子である。そして、前記有機化合物を含む層の少なくとも一層が上記本発明の1,9,10−アンスリジン化合物の少なくとも一種を含有する。
【0049】
本発明の有機発光素子は、1,9,10−アンスリジン化合物の少なくとも一種を含有する層が、ホールブロック層、電子輸送層、発光層または電子注入層であることが好ましい。
【0050】
本発明の有機発光素子においては、本発明の1,9,10−アンスリジン化合物を真空蒸着法や溶液塗布法により陽極及び陰極の間に形成することができる。その有機層の厚みは10μmより薄く、好ましくは0.5μm以下、より好ましくは0.01〜0.5μmの厚みに薄膜化することが好ましい。
【0051】
図1〜図6に本発明の有機発光素子の好ましい例を示す。
【0052】
図1は本発明の有機発光素子の一例を示す断面図である。図1は基板1上に陽極2、発光層3及び陰極4を順次設けた構成のものである。ここで使用する発光素子はそれ自体でホール輸送能、エレクトロン輸送能及び発光性の性能を単一で有している場合や、それぞれの特性を有する化合物を混ぜて使う場合に有用である。
【0053】
図2は本発明の有機発光素子における他の例を示す断面図である。図2は基板1上に陽極2、ホール輸送層5、電子輸送層6及び陰極4を順次設けた構成のものである。この場合は発光物質はホール輸送性かあるいは電子輸送性のいづれかあるいは両方の機能を有している材料をそれぞれの層に用いる。そしてこの場合は発光性の無い単なるホール輸送物質あるいは電子輸送物質と組み合わせて用いる場合に有用である。また、この場合、発光層はホール輸送層5あるいは電子輸送層6のいずれかから成る。
【0054】
図3は本発明の有機発光素子における他の例を示す断面図である。図3は基板1上に陽極2、ホール輸送層5、発光層3,電子輸送層6及び陰極4を順次設けた構成のものである。これはキャリヤ輸送と発光の機能を分離したものである。そしてこれはホール輸送性、電子輸送性、発光性の各特性を有した化合物と適時組み合わせて用いられ極めて材料選択の自由度が増すとともに、発光波長を異にする種々の化合物が使用できる。そのため発光色相の多様化が可能になる。さらに、中央の発光層3に各キャリヤあるいは励起子を有効に閉じこめて発光効率の向上を図ることも可能になる。
【0055】
図4は本発明の有機発光素子における他の例を示す断面図である。図4は図3に対してホール注入層7を陽極2側に挿入した構成であり、陽極2とホール輸送層5の密着性改善あるいはホールの注入性改善に効果があり、低電圧化に効果的である。
【0056】
図5および図6は本発明の有機発光素子における他の例を示す断面図である。図5および図6は、図3および図4に対してホールあるいは励起子(エキシトン)を陰極側に抜けることを阻害する層(ホール/エキシトンブロッキング層8)がある。そしてこれらの図はこの層を発光層3、電子輸送層6間に挿入した構成である。イオン化ポテンシャルの非常に高い化合物をホール/エキシトンブロッキング層8として用いる事により、発光効率の向上に効果的な構成である。
【0057】
ただし、図1〜図6はあくまでごく基本的な素子構成であり、本発明の化合物を用いた有機発光素子の構成はこれらに限定されるものではない。例えば、電極と有機層界面に絶縁性層を設ける、接着層あるいは干渉層を設ける、ホール輸送層がイオン化ポテンシャルの異なる2層から構成される、など多様な層構成をとることができる。
【0058】
本発明の1,9,10−アンスリジン化合物は、従来の化合物に比べ電子輸送性、発光性および耐久性の優れた化合物であり、図1〜図6のいずれの形態でも使用することができる。
【0059】
本発明の有機発光素子は、好ましくは電子輸送層、発光層の構成成分として本発明の1,9,10−アンスリジン化合物を用いるものである。そしてこれまで知られているホール輸送性化合物、発光性化合物あるいは電子輸送性化合物などを必要に応じて一緒に使用することもできる。
【0060】
以下にこれらの化合物例を挙げる。
【0061】
【化11】

【0062】
【化12】

【0063】
【化13】

【0064】
【化14】

【0065】
【化15】

【0066】
【化16】

【0067】
本発明の有機発光素子において、本発明の1,9,10−アンスリジン化合物を含有する層および他の有機化合物を含有する層は、一般には真空蒸着法あるいは、適当な溶媒に溶解させて塗布法により薄膜を形成する。特に塗布法で成膜する場合は、適当な結着樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。
【0068】
上記結着樹脂としては広範囲な結着性樹脂より選択でき、たとえばポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ブチラール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリスルホン樹脂、尿素樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらは単独または共重合体ポリマーとして1種または2種以上混合してもよい。
【0069】
陽極材料としては仕事関数がなるべく大きなものがよく、例えば、金、銀、白金、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム等の金属単体あるいはこれらの合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化錫インジウム(ITO),酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物が使用できる。また、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフェニレンスルフィド等の導電性ポリマーも使用できる。これらの電極物質は単独で用いてもよく、複数併用することもできる。
【0070】
一方、陰極材料としては仕事関数の小さなものがよく、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、インジウム、銀、鉛、錫、クロム等の金属単体あるいは複数の合金またはこれらの塩などを用いることができる。酸化錫インジウム(ITO)等の金属酸化物の利用も可能である。また、陰極は一層構成でもよく、多層構成をとることもできる。
【0071】
本発明で用いる基板としては、特に限定するものではないが、金属製基板、セラミックス製基板等の不透明性基板、ガラス、石英、プラスチックシート等の透明性基板が用いられる。また、基板にカラーフィルター膜、蛍光色変換フィルター膜、誘電体反射膜などを用いて発色光をコントロールする事も可能である。
【0072】
なお、作成した素子に対して、酸素や水分等との接触を防止する目的で保護層あるいは封止層を設けることもできる。保護層としては、ダイヤモンド薄膜、金属酸化物、金属窒化物等の無機材料膜、フッソ樹脂、ポリパラキシレン、ポリエチレン、シリコーン樹脂、ポリスチレン樹脂等の高分子膜、さらには、光硬化性樹脂等が挙げられる。また、ガラス、気体不透過性フィルム、金属などをカバーし、適当な封止樹脂により素子自体をパッケージングすることもできる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明していくが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0074】
<合成例1[例示化合物No.5の合成]>
【0075】
【化17】

【0076】
J.Org.Chem.,46,833(1981)に記載の合成法に準じ、2,8−ジクロロ−1,9,10−アンスリジン[4](白色結晶)を[1]からのトータル収率11%で得た。
【0077】
【化18】

【0078】
500ml三ツ口フラスコに、2,8−ジクロロ−1,9,10−アンスリジン[4]1.0g(4.00mmol)、9,9−ジメチルフルオレン−2−ボロン酸[5]2.9g(12.0mmol)、トルエン160mlおよびエタノール80mlを入れ、窒素雰囲気中、室温で攪拌下、炭酸ナトリウム16g/水80mlの水溶液を滴下した。次いでテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)0.23g(0.20mmol)を添加した。室温で30分攪拌した後77度に昇温し4時間攪拌した。反応後、有機層をクロロホルムで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、アルミナカラム(クロロホルム展開溶媒)で精製し、例示化合物No.5(白色結晶)1.8g(収率80%)を得た。
【0079】
<合成例2[例示化合物No.9の合成]>
【0080】
【化19】

【0081】
500ml三ツ口フラスコに、2,8−ジクロロ−1,9,10−アンスリジン[4]1.0g(4.00mmol)、フェナンスレン−9−ボロン酸[6]2.7g(12.2mmol)、トルエン160mlおよびエタノール80mlを入れた。窒素雰囲気中、室温で攪拌下、炭酸ナトリウム16g/水80mlの水溶液を滴下し、次いでテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)0.23g(0.20mmol)を添加した。室温で30分攪拌した後77度に昇温し4時間攪拌した。反応後有機層をクロロホルムで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、アルミナカラム(クロロホルム展開溶媒)で精製し、例示化合物No.9(白色結晶)1.6g(収率73%)を得た。
【0082】
<合成例3[例示化合物No.22の合成]>
【0083】
【化20】

【0084】
500ml三ツ口フラスコに、2,8−ジクロロ−1,9,10−アンスリジン[4]5.0g(20.0mmol)、フェニルボロン酸2.0g(16.0mmol)、トルエン200mlおよびエタノール100mlを入れた。窒素雰囲気中、室温で攪拌下、炭酸ナトリウム30g/水150mlの水溶液を滴下し、次いでテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)1.16g(1.00mmol)を添加した。室温で30分攪拌した後77度に昇温し1時間攪拌した。反応後有機層をクロロホルムで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、アルミナカラム(クロロホルム展開溶媒)で精製し、2−クロロ−8−フェニル−1,9,10−アンスリジン[7](白色結晶)1.8g(収率31%)を得た。
【0085】
【化21】

【0086】
200ml三ツ口フラスコに、2−クロロ−8−フェニル−1,9,10−アンスリジン[7]1.0g(3.44mmol)、4,4‘−ビフェニルジボロニックアシッド[8]0.33g(1.37mmol)、トルエン60mlおよびエタノール30mlを入れた。窒素雰囲気中、室温で攪拌下、炭酸ナトリウム6g/水30mlの水溶液を滴下し、次いでテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)0.08g(0.07mmol)を添加した。室温で30分攪拌した後77度に昇温し4時間攪拌した。反応後有機層をクロロホルムで抽出し無水硫酸ナトリウムで乾燥後、アルミナカラム(クロロホルム展開溶媒)で精製し、例示化合物No.22(黄色結晶)0.68g(収率75%)を得た。
【0087】
<実施例1>
図3に示す構造の素子を作成した。
【0088】
基板1としてのガラス基板上に、陽極2としての酸化錫インジウム(ITO)をスパッタ法にて120nmの膜厚で成膜したものを透明導電性支持基板として用いた。これをアセトン、イソプロピルアルコール(IPA)で順次超音波洗浄し、次いでIPAで煮沸洗浄後乾燥した。さらに、UV/オゾン洗浄したものを透明導電性支持基板として使用した。
【0089】
透明導電性支持基板上に下記構造式で示される化合物のクロロホルム溶液をスピンコート法により20nmの膜厚で成膜しホール輸送層5を形成した。
【0090】
【化22】

【0091】
さらに下記構造式で示されるIr錯体およびCBP(重量比8:100)を真空蒸着法により20nmの膜厚で成膜し発光層3を形成した。蒸着時の真空度は1.0×10-4Pa、成膜速度は0.2〜0.3nm/secの条件で成膜した。
【0092】
【化23】

【0093】
さらに、例示化合物No.1を真空蒸着法により30nmの膜厚で成膜し電子輸送層6を形成した。蒸着時の真空度は1.0×10-4Pa、成膜速度は0.2〜0.3nm/secの条件で成膜した。
【0094】
次に、陰極4として、アルミニウムとリチウム(リチウム濃度1原子%)からなる蒸着材料を用いて、上記有機層の上に真空蒸着法により厚さ50nmの金属層膜を形成し、さらに真空蒸着法により厚さ150nmのアルミニウム層を形成した。蒸着時の真空度は1.0×10-4Pa、成膜速度は1.0〜1.2nm/secの条件で成膜した。
【0095】
さらに、窒素雰囲気中で保護用ガラス板をかぶせ、アクリル樹脂系接着材で封止した。
【0096】
この様にして得られた素子に、ITO電極(陽極2)を正極、Al−Li電極(陰極4)を負極にして、10Vの直流電圧を印加すると22mA/cm2の電流密度で電流が素子に流れ、5100cd/m2の輝度で緑色の発光が観測された。
【0097】
さらに、電流密度を6.0mA/cm2に保ち100時間電圧を印加したところ、初期輝度910cd/m2から100時間後870cd/m2と輝度劣化は小さかった。
【0098】
<実施例2〜12>
例示化合物No.1に代えて、表1に示す化合物を用いた他は実施例1と同様に素子を作成し、同様な評価を行った。結果を表1に示す。
【0099】
<比較例1〜3>
例示化合物No.1に代えて、下記構造式で示される化合物を用いた他は実施例1と同様に素子を作成し、同様な評価を行った。結果を表1に示す。
【0100】
【化24】

【0101】
【表1】

【0102】
<実施例13>
図3に示す構造の素子を作成した。
【0103】
実施例1と同様に、透明導電性支持基板上にホール輸送層5を形成した。
【0104】
さらに下記構造式で示されるフルオレン化合物を真空蒸着法により20nmの膜厚で成膜し発光層3を形成した。蒸着時の真空度は1.0×10-4Pa、成膜速度は0.2〜0.3nm/secの条件で成膜した。
【0105】
【化25】

【0106】
さらに例示化合物No.5を真空蒸着法により20nmの膜厚で成膜し電子輸送層6を形成した。蒸着時の真空度は1.0×10-4Pa、成膜速度は0.2〜0.3nm/secの条件で成膜した。
【0107】
次に、実施例1と同様にして、陰極4を形成後、封止した。
【0108】
この様にして得られた素子に、ITO電極(陽極2)を正極、Al−Li電極(陰極4)を負極にして、5Vの直流電圧を印加すると75mA/cm2の電流密度で電流が素子に流れ、3500cd/m2の輝度で青色の発光が観測された。
【0109】
さらに、電流密度を30mA/cm2に保ち100時間電圧を印加したところ、初期輝度1800cd/m2から100時間後1200cd/m2と輝度劣化は小さかった。
【0110】
<実施例14〜22>
例示化合物No.5に代えて、表2に示す化合物を用いた他は実施例13と同様に素子を作成し、同様な評価を行った。結果を表2に示す。
【0111】
<比較例4〜6>
例示化合物No.5に代えて、比較化合物No.1、2、3を用いた他は実施例13と同様に素子を作成し、同様な評価を行った。結果を表2に示す。
【0112】
【表2】

【0113】
<実施例23>
図2に示す構造の素子を作成した。
【0114】
実施例1と同様に、透明導電性支持基板上にホール輸送層5を形成した。
【0115】
さらに例示化合物No.3を真空蒸着法により40nmの膜厚で成膜し発光層兼電子輸送層6を形成した。蒸着時の真空度は1.0×10-4Pa、成膜速度は0.2〜0.3nm/secの条件で成膜した。
【0116】
次に、実施例1と同様にして、陰極4を形成後、封止した。
【0117】
この様にして得られた素子に、ITO電極(陽極2)を正極、Al−Li電極(陰極4)を負極にして、5Vの直流電圧を印加すると40mA/cm2の電流密度で電流が素子に流れ、1600cd/m2の輝度で青色の発光が観測された。
【0118】
さらに、電流密度を30mA/cm2に保ち100時間電圧を印加したところ、初期輝度1000cd/m2から100時間後750cd/m2と輝度劣化は小さかった。
【0119】
<実施例24〜27>
例示化合物No.3に代えて、表3に示す化合物を用いた他は実施例23と同様に素子を作成し、同様な評価を行った。結果を表3に示す。
【0120】
<比較例7〜9>
例示化合物No.3に代えて、比較化合物No.1、2、3を用いた他は実施例23と同様に素子を作成し、同様な評価を行った。結果を表3に示す。
【0121】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】本発明における有機発光素子の一例を示す断面図である。
【図2】本発明における有機発光素子の他の例を示す断面図である。
【図3】本発明における有機発光素子の他の例を示す断面図である。
【図4】本発明における有機発光素子の他の例を示す断面図である。
【図5】本発明における有機発光素子の他の例を示す断面図である。
【図6】本発明における有機発光素子の他の例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0123】
1 基板
2 陽極
3 発光層
4 陰極
5 ホール輸送層
6 電子輸送層
7 ホール注入層
8 ホール/エキシトンブロッキング層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[I]で示されることを特徴とする1,9,10−アンスリジン化合物。
【化1】

(式中、R1〜R7は、水素原子、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアラルキル基、置換あるいは無置換のアリール基,置換あるいは無置換の複素環基、置換あるいは無置換の縮合多環芳香族基、置換あるいは無置換の縮合多環複素環基、置換あるいは無置換のアリールオキシ基、置換アミノ基、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、シアノ基から選ばれる基を表わし、同じであっても異なっていてもよい。但し、R1〜R7の少なくとも1つは、置換あるいは無置換のアリール基,置換あるいは無置換の複素環基、置換あるいは無置換の縮合多環芳香族基、置換あるいは無置換の縮合多環複素環基から選ばれる。)
【請求項2】
2〜R6が、水素原子、置換あるいは無置換のアルキル基、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、シアノ基から選ばれる基を表わし、R1、R7が、置換あるいは無置換のアラルキル基、置換あるいは無置換のアリール基、置換あるいは無置換の複素環基、置換あるいは無置換の縮合多環芳香族基、置換あるいは無置換の縮合多環複素環基、置換あるいは無置換のアリールオキシ基、置換アミノ基から選ばれる基を表わすことを特徴とする請求項1に記載の1,9,10−アンスリジン化合物。
【請求項3】
下記一般式[II]で示されることを特徴とする1,9,10−アンスリジン化合物。
【化2】

(式中、R13、R14は、水素原子、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアラルキル基、置換あるいは無置換のアリール基,置換あるいは無置換の複素環基、置換あるいは無置換の縮合多環芳香族基、置換あるいは無置換の縮合多環複素環基、置換あるいは無置換のアリールオキシ基、置換アミノ基、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、シアノ基から選ばれる基を表わし、同じであっても異なっていてもよい。
Ar3は、2価の置換あるいは無置換の芳香環基,2価の置換あるいは無置換の複素環基、2価の置換あるいは無置換の縮合多環芳香族基、2価の置換あるいは無置換の縮合多環複素環基から選ばれる基を表わす。)
【請求項4】
下記一般式[III]で示されることを特徴とする1,9,10−アンスリジン化合物。
【化3】

(式中、R15〜R17は、水素原子、置換あるいは無置換のアルキル基、置換あるいは無置換のアラルキル基、置換あるいは無置換のアリール基,置換あるいは無置換の複素環基、置換あるいは無置換の縮合多環芳香族基、置換あるいは無置換の縮合多環複素環基、置換あるいは無置換のアリールオキシ基、置換アミノ基、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、シアノ基から選ばれる基を表わし、同じであっても異なっていてもよい。
Ar4は、3価の置換あるいは無置換の芳香環基,3価の置換あるいは無置換の複素環基、3価の置換あるいは無置換の縮合多環芳香族基、3価の置換あるいは無置換の縮合多環複素環基から選ばれる基を表わす。)
【請求項5】
陽極及び陰極からなる一対の電極と、該一対の電極間に挟持された一または複数の有機化合物を含む層を少なくとも有する有機発光素子において、前記有機化合物を含む層の少なくとも一層が請求項1〜4のいずれかに記載の1,9,10−アンスリジン化合物の少なくとも一種を含有することを特徴とする有機発光素子。
【請求項6】
前記1,9,10−アンスリジン化合物の少なくとも一種を含有する層が、ホールブロック層、電子輸送層、発光層または電子注入層であることを特徴とする請求項5に記載の有機発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−1879(P2007−1879A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−180392(P2005−180392)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】