説明

12−アミノドデカン酸の製造方法及びその製造方法に使用する生体触媒

【課題】ナイロン等の原料として有用な、12−アミノドデカン酸を安価に製造する方法、及びその方法に使用する生体触媒を提供する。
【解決手段】ラウロラクタムに、ラウロラクタムを加水分解する活性を有する生体触媒として、酵素6−アミノヘキサノアート−サイクリックダイマー−ヒドロラーゼ、またはそれを持つ細菌ロドコッカス、クプリアビドス、スフィンゴモナス、またはアシドボラックスを接触させることによる、12−アミノドデカン酸の製造方法。6−アミノヘキサノアート−サイクリックダイマー−ヒドロラーゼ酵素は、これら細菌の該遺伝子を大腸菌等に導入して作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、12−アミノドデカン酸の製造方法及びその製造方法に使用する生体触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
12−アミノドデカン酸は、ナイロン原料、接着剤原料、硬化剤原料等に用いられる、工業的に有用な化合物である。
【0003】
従来、12−アミノドデカン酸の製法は、11−シアノウンデカン酸を還元する方法が知られている(特許文献1参照)。しかし、原料の11−シアノウンデカン酸を得るまでの工程数が長く、安価な12−アミノドデカン酸の製造方法とは言えない。
【0004】
又、安価なラウロラクタムを原料とする12−アミノドデカン酸の製法が検討されている。例えば、濃塩酸を用いたラウロラクタムの加水分解による製法が知られているが(非特許文献1参照)、生成する12−アミノドデカン酸が塩を形成することから、当量以上の酸、塩基が必要であり、更に、その後の用途に用いるためには、脱塩する必要があり、実用的な製造方法とは言い難い。更に、無触媒での加水分解は、高温、高圧の反応条件が必要であり、副生物が生成し、エネルギー的にも好ましくない。
【0005】
このように、安価な12−アミノドデカン酸の製造方法が望まれているにもかかわらず、適切な製造方法は知られていない。
【0006】
一方、菌体、酵素などの生体触媒によるアミノカプロン酸ダイマーなどのアミド結合の加水分解は種々報告されているが(例えば、非特許文献2参照)、ラウロラクタムを菌体、酵素などの生体触媒による加水分解によりアミノドデカン酸を製造する方法は、知られていない。
【0007】
又、微生物から得られる生体触媒である6−アミノヘキサノアート−サイクリック−ダイマー ヒドロラーゼ(6-aminohexanoate-cyclic-dimer hydrolase)は、公知の生体触媒であるが、その作用は、環状アミノヘキサン酸ダイマーにのみ作用し、100種以上のアミド結合を持つ化合物について調べても、作用せず、さらに、ε−カプロラクタムをはじめとする5員環〜7員環の環状アミドも、基質となり得ないことが報告され(非特許文献3、4、5及び6参照)、基質であるラウロラクタムに作用することは知られていない。
【特許文献1】特公昭60−163849号公報。
【非特許文献1】Chem.Ber., vol.98, p3251〜3254, 1965.
【非特許文献2】J.Ferment,Technol., vol.53, No.4, p223, 1975.
【非特許文献3】J.Bacteriol., vol.171, p3187〜3191, 1989.
【非特許文献4】Appl.Microbiol.Biotechnol., vol.54, p461〜466, 2000.
【非特許文献5】Eur.J.Biochem., vol.80,p489〜495, 1977.
【非特許文献6】発酵と工業 40巻 1002頁 1982年。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、従来技術における上記のような課題を解決し、ナイロン原料等として有用な12−アミノドデカン酸を、ラウロラクタムを原料として、安価に製造する方法及びその製造する方法に使用する生体触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、安価に、12−アミノドデカン酸を製造する方法について鋭意検討を行った結果、ラウロラクタムを加水分解して12−アミノドデカン酸を生成する微生物類を見出し、その微生物類から、ラウロラクタムを加水分解する生体触媒(タンパク質)を単離し、その生体触媒(タンパク質)をコードするDNAを特定し、さらに遺伝子組み換え操作により、形質転換体を得ることにより本発明を完成するに至った、
【0010】
即ち、本発明は、ラウロラクタムに、ラウロラクタムを加水分解する活性を有する微生物の菌体又は菌体の処理物を作用させて、12−アミノドデカン酸を生成することを特徴とする、12−アミノドデカン酸の製造方法及びその製造方法に使用する生体触媒を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、安価なラウロラクタムを出発原料として、一工程で、目的とする12−アミノドデカン酸を製造でき、更に、脱塩等の煩雑な後処理工程が必要ないため、工業的に有利な12−アミノドデカン酸の製造方法である。
【0012】
又、この製造方法において、疎水性溶媒及び水の二層系中で、ラウロラクタムに、微生物の菌体又は菌体の処理物(生体触媒)を接触させることにより、反応終了後、濾別のような簡便な操作により、反応混合物中から、目的物である12−アミノドデカン酸が単離され、生体触媒が存在する水相を有機相から分離して得られる生体触媒が、再度、ラウロラクタムの加水分解反応の触媒に使用できるという、予期されない効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明で使用される微生物は、細菌、放線菌、真菌及び酵母の中から、ラウロラクタムを加水分解する活性を有するものから選ばれる。
例えば、細菌に属するものは、アクロモバクター属、アエロバクラター属、アエロモナス属、アグロバクテリウム属、アルカリゲネス属、アルスロバクラター属、バチルス属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属、エンテロバクテリウム属、エルウイニア属、エシェリヒア属、クレブシーラ属、スフィンゴモナス属、シュードモナス属、ミクロバクテリウム属、ミクロコッカス属、ブロタミノバクター属、ブロテウス属、クプリアビドス属、スルシナ属、アシドボラックス属、セラチア属又はキサントモナス属であり得、放線菌に属するものは、アクチノミセス属、アクチノプラネス属、ミコバクテリウム属、ロドコッカス属又はストレプトミセス属であり得、真菌に属するものは、アスペルギルス属、パエシロミセス属又はペニシリウム属であり得、酵母に属するものは、キャンディダ属、ハンゼヌラ属、ピヒア属、ロードトルラ属又はトルロプシス属であり得る。
【0014】
好ましい微生物は、アルカリゲネス属、バチルス属、スフィンゴモナス属、シュードモナス属、クプリアビドス属、アシドボラックス属又はロドコッカス属に属する微生物であり、更に好ましい微生物は、ロドコッカス属、クプリアビドス属、アシドボラック属又はスフィンゴモナス属に属する微生物であり、更により好ましい微生物は、ロドコッカス sp.U224(FERM−P20419)、クプリアビドス sp.U124(FERM−P20418)、クプリアビドス sp.T7(FERM−P20416)、スフィンゴモナス sp.U238(FERM−P20420)又は アシドボラック sp.T31(FERM−P20734)であり、特に好ましい微生物は、ロドコッカス sp.U224(FERM−P20419)、クプリアビドス sp.T7(FERM−P20416)又は アシドボラックス sp.T31(FERM−P20734)であり、最も好ましい微生物は、 ロドコッカス sp.U224(FERM−P20419)又は クプリアビドス sp.T7(FERM−P20416)である。
【0015】
後述するように、微生物 クプリアビドス sp.U124、微生物 クプリアビドス sp T7、微生物 ロドコッカス sp.U224、微生物 スフィンゴモナス sp.U238及び微生物 アシドボラックス sp.T31は、新規な菌株であり、以下の菌学的性質を有する。
【0016】
1.形態学的特徴
形態学的特徴は、以下の表1に示すとおりである。
【表1】

【0017】
2.各種培地における生育状況
1)肉汁寒天平板培養
肉汁寒天平板培地中で、30℃、3日間の培養後の生育状況を表2に示す。
【表2】

【0018】
2)肉汁寒天斜面培養
肉汁寒天斜面培地中で、30℃、3日間の培養後の生育状況を表3に示す。
【表3】

【0019】
3)肉汁液体培養
肉汁液体培地中で、30℃、3日間の培養後の生育状況を表4に示す。
【表4】


又、肉汁ゼラチン培養(30℃、3週間)においては、各菌とも、ゼラチンの液化がみられなかった。
【0020】
3.生理学的性質
各菌の生理学的性質を以下の表5に示す。
【表5】

【0021】
又、次の生理学的性質を有していた。
【0022】
即ち、MRテスト、VPテスト、インドール生成、硫化水素の生成及びでんぷんの加水分解は、各菌とも、マイナスであり、色素生成は、KingA培地及びKingB培地を用いて、寒天平板培養及び液体培養を行ったが、各菌とも、マイナスであり、生育範囲(pH及び温度)は、U124、T7、U224、U238及びT31について、それぞれ、pH5.5〜pH8.5及び19℃〜38℃、pH5.5〜pH9.0及び22℃〜44℃、pH6.0〜pH8.0及び10℃〜32℃、pH5.5〜pH8.0及び10℃〜34℃、及びpH6.0〜pH8.5及び10℃〜41℃であり、酸素に対する態度は、各菌とも、好気性であり、OFテスト(D−グルコース)では、各菌とも、マイナスであった。
【0023】
更に、糖類からの酸及びガスの生成は、L−アラビノース、D−キシロース、L−グルコース、D−マンノトース、D−フラクトース、D−ガラクトース、麦芽糖、ショ糖、乳糖、トレハロース、D−ソルビット、D−マンニット、グリセリン、デンプン、ラフィノース、イヌリン、D−リボース、ソルボース、カルボキシメチルセルローズ及びグリコーゲンの糖類については、各菌とも、マイナスであった。
【0024】
4.抗生物質に対する感受性
各菌の各種の抗生物質に対する感受性を以下の表6に示す。
【表6】

【0025】
又、フェニルアラニン脱アミノ酵素に対する感受性は、各菌とも、マイナスであった。
【0026】
5.その他の諸性質
各菌のその他の諸性質を以下の表7に示す。
【表7】

【0027】
又、アルギニンの分解、リジンの脱炭酸反応、オルニチンの脱炭酸反応、フェニルアラニンの脱アミノ反応、シアン化カリウムの耐性、ホスファターゼ耐性、3−ケト−乳酸の生成及び酒石酸の利用は、各菌とも、マイナスであった。
【0028】
又、16S rDNA塩基配列を解析し、塩基配列データベースとの相同性を検討した
ところ、微生物 U124は、マイクロセク・バクテリアル・フル・ジーン・ライブラリー(MicroSeq Bacterial Full Gene Library)に対する相同性検索の結果、クプリアビドス・ネカター(Cupriavidus necator)に対して、最も高い相同性を有し、その相同率は97.18%であり、微生物 U224は、マイクロセク・バクテリアル・フル・ジーン・ライブラリー(MicroSeq Bacterial Full Gene Library)に対する相同性検索の結果、ロドコッカス・ワラティスラビエンシス(Rhodococcus wratislaviensis)に対して、最も高い相同性を有し、その相同率は99.39%であり、更に、国際塩基配列データーベースに対する相同性検索の結果、ロドコッカス・エスピー(Rhodococcus sp.)NSA6株に対して、最も高い相同性を有し、その相同率は99.5%であり、微生物 U238は、マイクロセク・バクテリアル・フル・ジーン・ライブラリー(MicroSeq Bacterial Full Gene Library)に対する相同性検索の結果、スフィンゴモナス・カプスァタ(Sphingomonas capsulata)に対して、最も高い相同性を有し、その相同率は94.20%であり、更に、国際塩基配列データーベースに対する相同性検索の結果、スフィンゴモナス・サバルクティカ(Sphingomonas subarctica)KFI株(基準株)に対して、最も高い相同性を有し、その相同率は100%であり、微生物 T7は、マイクロセク・バクテリアル・フル・ジーン・ライブラリー(MicroSeq Bacterial Full Gene Library)に対する相同性検索の結果、クプリアビドス・ネカター(Cupriavidus necator)に対して、最も高い相同性を有し、その相同率は97.59%であり、更に、国際塩基配列データーベースに対する相同性検索の結果、クプリアビドス・タイワネンシス(Cupriavidus taiwanensis)LMG 19424(基準株)に対して、最も高い相同性を有し、その相同率は99.7%であり、微生物 T31は、マイクロセク・バクテリアル・フル・ジーン・ライブラリー(MicroSeq Bacterial Full Gene Library)に対する相同性検索の結果、アシドボラックス・テンペランス(Acidovorax temperans)に対して、最も高い相同性を有し、その相同率は99.93%であり、更に、国際塩基配列データーベースに対する相同性検索の結果、アシドボラックス・テンペランス(Acidovorax temperans)CCUG 11779(基準株)に対して、最も高い相同性を有し、その相同率は99.7%であった。
【0029】
以上の菌学的性質及び16S rDNA塩基配列の相同性の結果をもとに、バージイス・マニュアル・オブ・システマティク・バイオロジー(Bergey's Manual of Systematic Biology)を参考にして、菌(微生物)、U124、T7、U224,U238及びT31が、それぞれ、クプリアビドス(Cupriavidus)属、クプリアビドス(Cupriavidus)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属及びアシドボラックス(Acidovorax)属に属することを決定し、微生物 U124は、クプリアビドス sp.(Cupriavidus sp.)と、微生物 T7は、クプリアビドス sp.(Cupriavidus sp.)と、微生物 U224は、ロドコッカス sp.(Rhodococcus sp.)と、微生物 U238は、スフィンゴモナス sp.(Sphingomonas sp.)、及び、微生物 T31は、アシドボラックス sp.(Acidovorax sp.)と命名した。
【0030】
又、微生物 U124、微生物 T7、微生物 U224及び微生物 U238の新菌株を、平成17年2月18日に、産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託した。その微生物受領番号は、微生物 U124、T7、U224及びU238について、それぞれ、FERM P−20418、FERM P−20416、FERM P−20419及びFERM P−20420である。
【0031】
更に、微生物 T31の新菌株を、平成17年12月14日に、産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託し、その微生物受領番号は、FERM P−20734である。
【0032】
本発明を実施するに際し、酵素的に加水分解する方法としては、微生物(後述する、本発明の寄託された微生物のDNAを用いて得られる形質変換体を含む)をその生育に適した培養条件下培養し、原料化合物を培養液中に添加して接触させる方法又は微生物を培養し、必要に応じて、集菌し、得られた微生物菌体、微生物菌体処理物、又は微生物菌体若しくは微生物菌体処理物を必要に応じて、精製して得られた生体触媒を原料化合物と接触させる方法が採用される。
【0033】
微生物の培養方法は、通常、微生物が利用しうる栄養物を含有する培地で培養することができる。
【0034】
栄養物は、一般に微生物の培養に利用される公知のもの利用できる。炭素源は、例えば、グルコース、シュウクロース、マルトースなどの糖類、乳酸、酢酸、クエン酸、プロピオン酸などの有機酸類、エタノール、グリセリンなどのアルコール類、パラフィンなどの炭化水素類、大豆油、菜種油などの油脂類、またはこれらの混合物であり得、好ましくは、グルコースである。
【0035】
又、窒素源は、硫酸アンモニウム、燐酸アンモニウム、尿素、酵母エキス、肉エキス、ペプトン、コーンスチーブリカー、またはこれらの混合物であり得、好ましくは、酵母エキスである。
【0036】
更に、その他の無機塩、ビタミン類などの栄養源を適宜添加することもできる。
【0037】
培養方法は微生物一般に用いられる培養法、例えば、液体培養が用いられる。
【0038】
培養は、好気的に行われ、pHは、4〜9であり得、好適には、6〜8であり、培養温度は、15℃〜50℃であり得、好適には、20℃〜40℃であり、培養時間は、5時間〜96時間であり得、好適には、10時間〜72時間である。
【0039】
原料化合物を培養液中に添加して接触させる方法は、原料化合物を添加し培養することによって行われる。添加時期は、使用する微生物の至適条件、特に培養装置、培地組成、培養温度などのより異なるが、初期培養に添加してもよく、培養の進行にあわせて添加してもよくが、微生物の加水分解能が高まりはじめる時期がよく、微生物の培養開始後1〜3日経過した時点が好ましい。原料の添加量は、培地に対して0.01〜50%であり得、好適には、0.1〜20%である。原料化合物の添加後の培養は好気的条件で、上記培養温度で行われる。培養期間は、原料化合物の添加後、10時間〜3日である。
【0040】
微生物を培養し、得られた微生物菌体、微生物菌体処理物、又は微生物菌体若しくは微生物菌体処理物を必要に応じて、精製して得られた生体触媒を原料化合物と接触させる方法は、上記方法により微生物を少量の基質(ラウロラクタム)の存在下で培養し、微生物の加水分解能が最大となるまで培養する。微生物の加水分解能は、培地組成、培養温度などにより異なるが、通常培養開始後、1〜4日で、最大となるので、この時点で培養を終了する。
【0041】
使用される微生物菌体等は、このように微生物を培養した培養物そのまま、培養物の濃縮物、培養物を遠心分離し若しくはろ過して集菌された菌体(湿菌体)、菌体(湿菌体)を化学的又は物理的処理をした菌体処理物又は菌体(湿菌体)若しくは菌体処理物を精製した生体触媒であり得、好ましくは、菌体(湿菌体)、菌体処理物又は生体触媒である。
【0042】
又、生体触媒は、後述するように、本発明の寄託された微生物のDNAを用いて、遺伝子操作により、得られた大腸菌への形質変換体を培養して得られる酵素も含み、また、公知の6−アミノヘキサノアート−サイクリック−ダイマー ヒドロラーゼ(6-aminohexanoate-cyclic-dimer hydrolase:例えば、J.Bacteriol., vol.171, p3187〜3191, 1989等)をも含む。
【0043】
菌体(湿菌体)は通常、生理食塩水、緩衝液などで洗浄して使用する。
【0044】
又、化学的又は物理的処理をした菌体処理物は、例えば、菌体をアセトン、五酸化リン等を用いて、脱水処理するか又は/及びデシケーター、扇風機等を利用して、乾燥処理して得られる乾燥菌体、菌体を、ツィーン20(Tween20)のような界面活性剤で処理した界面活性剤処理物、菌体を、リゾチームのような溶菌酵素で処理した溶菌酵素処理物、固定化菌体又は菌体を破砕した無細胞抽出物であり得、好ましくは、乾燥菌体である。
【0045】
微生物菌体又は処理物菌体処理物(例えば、乾燥菌体)の精製は、酵素を精製する常法に従って行われる。
【0046】
例えば、微生物を培養して得られた菌体液を超音波処理し、無細胞抽出液として、遠心分離して、除核酸して処理を行う。得られた上清に、飽和量の硫安を加え(例えば、30%飽和、60%飽和、90%飽和等)、通常0℃〜10℃で、10分間〜1時間攪拌した後、遠心分離して、沈殿物を得る。沈殿物は、必要に応じて、緩衝液(例えば、20mMKPB(リン酸緩衝液)等)で透析することもできる。
【0047】
得られた硫安分画画分を、さらに、各種クロマトグラフィー、例えば、イオン交換カラムクロマトグラフィー(例えば、カラムとして、DEAE(ジエチルアミノエチル)−トヨパールゲル、モノQHR5/5等を用いる)、疎水カラムクロマトグラフィー(例えば、カラムとして、ブチル−トヨパールゲル等を用いる)、ゲルろ過クロマトグラフィー(例えば、カラムとして、セファデックス 200 10/30GL等を用いる)等を用いて、さらに精製することができる。また、これらの精製方法は、適宜、順序を代えて、行うこともできる。
【0048】
精製された酵素(生体触媒)の分子量は、常法、例えば、ゲル電気泳動法、ゲルろ過法等で、測定され、それらのN−末端アミノ酸配列は、常法、例えば、エドマン(Edman)法等で測定される。
【0049】
このようにして得られた微生物菌体、又は菌体処理物若しくは微生物菌体処理物を必要に応じて、精製して得られた生体触媒を原料化合物と接触させる方法は、通常水性媒体中、例えば、pH4〜11(好ましくは、pH6〜9のリン酸緩衝液中)で、振とう又は攪拌しながら行う。
【0050】
原料化合物であるラウロラクタムは、反応初期に一括に添加してもよく、反応の進行に従って、分割して添加しても良い。又、原料化合物であるラウロラクタムの濃度は、通常、0.01〜50%(W/V)であり、好ましくは、0.1〜30%(W/V)である。
【0051】
反応温度は、10℃〜70℃であり得、好ましくは、20℃〜65℃であり、更に好ましくは、25℃〜35℃である。
【0052】
反応時間は、反応温度等により異なるが、通常2時間〜5日であり、好ましくは、4時間〜3日である。
【0053】
又、原料化合物であるラウロラクタムの溶解度を高めるため、必要に応じて、水溶性有機溶媒を添加することもできる。
【0054】
使用される水溶性有機溶媒は、例えば、メタノール、エタノールのようなアルコール類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランのようなエーテル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドのようなアミド類又はジメチルスルホキシドのようなスルホキシド類であり、好ましくは、アルコール類、アミド類又はスルホキシド類であり、更に好ましくは、スルホキシド類である。
【0055】
更に、疎水性有機溶媒と水の二層系で加水分解反応を行うこともできる。
【0056】
使用される疎水性有機溶媒は、例えば、ヘキサン、石油エーテルのような脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロルベンゼンのような芳香族炭化水素類又はブチルメチルエーテルのような高級脂肪族エーテルであり得、好ましくは、芳香族炭化水素類であり、更に好ましくは、トルエン又はクロルベンゼンであり、特に好ましくは、トルエンである。
【0057】
ここで、疎水性有機溶媒と水の体積比は、疎水性有機溶媒/水が、9/1〜1/9であり、好ましくは、1/1〜1/5である。この場合、疎水性有機溶媒中のラウロラクタムの濃度は、0.01〜10%(W/V)である。
【0058】
目的物である、12−アミノドデカン酸の単離の容易性(沈殿する12−アミノドデカン酸をろ過等により単離する等)及び加水分解触媒の再利用の観点からは、疎水性有機溶媒と水の二層系で加水分解反応を行うことが好ましい。
【0059】
加水分解反応終了後、目的物である12−アミノドデカン酸は、常法に従って、反応混合物から採取される。例えば、目的物である12−アミノドデカン酸が沈殿する場合には、ろ取することにより、12−アミノドデカン酸が沈殿しない場合には、反応混合物を遠心分離又はろ過して、微生物などの酵素源を除去し、溶媒を留去することにより、目的物である12−アミノドデカン酸が得られる。更に、常法、例えば、再結晶、クロマトグラフィー等を用いて、更に精製することもできる。
【0060】
又、疎水性有機溶媒と水の二層系で加水分解反応を行う場合には、加水分解反応終了後、反応混合物をろ過し、ろ液から水相を分取して、酵素溶液を得、それを再び、加水分解反応反応に使用することができる。
【0061】
次いで、本発明の寄託された微生物のDNAを用いて、遺伝子操作により、大腸菌への形質変換体を得る方法について、説明する。
本発明の寄託された微生物のDNAは、ハイブリダイゼーション法やPCR法等を用いて取得すればよいが、これらを取得できる方法であれば如何なる方法を用いて取得してもよい。
【0062】
例えば、本発明の寄託された微生物の細胞から、Sambrook, J. et al., Molecular Cloning: A laboratory Manual 3rd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001)等に記載される遺伝子工学的方法に準じてDNAを取得することができる。
【0063】
一本鎖又は二本鎖cDNA、cDNAライブラリー又はゲノムDNAライブラリーから、配列番号1、3、5、7又は9で示される塩基配列の部分塩基配列又は当該部分塩基配列に相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いるPCR反応や、上記cDNAライブラリーやゲノムDNAライブラリーから、配列番号1、3、5、7又は9で示される塩基配列又は当該塩基配列の部分塩基配列を有するDNAをプローブとして用いるハイブリダイゼーション法により、本発明遺伝子又は本発明ポリヌクレオチドを取得することができる。
【0064】
PCRに用いられるプライマーとしては、例えば、約15塩基から約50塩基程度の長さのオリゴヌクレオチドであって、配列番号1、3、5、7又は9で示される塩基配列の5’側の翻訳開始点から始まる塩基配列を有するオリゴヌクレオチド、及び、配列番号1、3、5、7又は9で示される塩基配列の3’側の翻訳終了点から始まる塩基配列に相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを挙げることができる。
【0065】
PCRの条件としては、例えば、Taqポリメラーゼ、dNTP混合液、プライマー、鋳型cDNAを含む組成の反応液にて、以下の条件による3工程の増幅サイクルを繰り返して行う。まず変性工程として、例えば約90℃から約96℃、好ましくは約94℃から約95℃で、1分から15分間、好ましくは1分から2分間の保温を行う。次にプライマーのアニーリング工程として、例えば約30℃から約70℃、好ましくは約40℃から約60℃で、約3秒から約3分間、好ましくは約5秒間から約2分間の保温が行われる。さらにDNAポリメラーゼによる伸長工程として、たとえば、約70℃から約75℃、好ましくは約72℃から約73℃で、約15秒間から約5分間、好ましくは約30秒間から約4分間の保温が行われる。この3工程からなる増幅サイクルを、約20回から約50回、好ましくは約25回から約40回行う。このようなPCRで増幅されたDNA断片を、必要に応じて低融点アガロース電気泳動等に供して精製した後、エタノール沈殿又は市販のDNA断片精製用のカラムを用いて、精製及び回収することができる。
【0066】
ハイブリダイゼーション法に用いられるプローブとしては、当該ポリヌクレオチドの部分塩基配列を有するポリヌクレオチド等が挙げられる。ハイブリダイゼーションの条件としては、例えば、6×SSC(0.9M塩化ナトリウム、0.09Mクエン酸ナトリウム)、5×デンハルト溶液(0.1(w/v)フィコール400、0.1(w/v)ポリビニルピロリドン、0.1(w/v)BSA)、0.5(w/v)SDS及び100μg/ml変性サケ精子DNA存在下に、65℃で保温し、次いで1×SSC(0.15M塩化ナトリウム、0.015Mクエン酸ナトリウム)及び0.5(w/v)SDS存在下に、室温で15分間の保温を2回行い、さらに0.1×SSC(0.015M 塩化ナトリウム、0.0015Mクエン酸ナトリウム)及び0.5(w/v)SDS存在下に、68℃で30分間保温する条件等を挙げることができる。
このようにして得られた本発明遺伝子又は本発明ポリヌクレオチドは、例えば、Sambrook, J. et al., Molecular Cloning: A laboratory Manual 3rd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001)等に記載された遺伝子工学的方法に準じてベクターにクローニングすることができる。
【0067】
具体的には例えば、TAクローニングキット(Invitrogen)やpBluescriptII(Stratagene)等の市販のプラスミドベクターを用いてクローニングすることができる。得られた本発明遺伝子又は本発明ポリヌクレオチドの塩基配列は、Maxam Gilbert法やSanger法に準じて確認することができる。
【0068】
次に、実施例を挙げて、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0069】
実施例1
微生物 U224のアセトンパウダーを用いるラウロラクタムの加水分解
(1)TGY液体培地の調製
ポリペプトン5g、イースト抽出物5g及び燐酸2水素カリウム(KHPO)4.2gを純水980mlに溶解し、水酸化ナトリウム水溶液で、pH7に調製した。なお、平板培地の場合には、寒天17gを加えた。
121℃で20分間、滅菌後、別途滅菌したD−グルコースの10%水溶液20mlを無菌的に加え、TGY液体培地1Lを調製した。
【0070】
(2)前培養
微生物 U224のスラントから白金耳を用い、菌体の一部をかき取り、バッフル付き100mlの三角フラスコ中のTGY液体培地に接種し、30℃、旋回振とう(200rpm)で、72時間培養した。
【0071】
(3)本培養、
TGY液体培地200mlを加えた、バッフル付き500mlの坂口フラスコ10本に前培養の培地2mlを接種し、30℃、160rpm(往復振とう)で、60時間培養した。
培養終了後、液体培地を遠心分離(5000rpmで10分)で、集菌し、0.85%食塩水で洗菌した。洗菌後、再び、遠心分離(5000rpmで10分)で、集菌し、湿菌6.2gを得た。
【0072】
(4)アセトンパウダーの調製
1Lビーカーにアセトン0.5Lを加え、ドライアイス−メタノール浴中で、マグネッチックスターラを用いて、攪拌した。そこに、上記で得られた湿菌を純水25mlに再懸濁したものを少しづずつ加えた。その後、3分間攪拌を続けて、ヌッチェでろ過した。得られた固形物を冷アセトン及び冷エーテルで洗浄した後、デシケーター中で、一晩放置し、減圧で乾燥して、アセトン粉末を得た。粉末を回収して、冷蔵保存した。
【0073】
(5)ラウロラクタムの加水分解
2mlチューブに、アセトン粉末1mgをはかり取り、そこに、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)0.8ml及びラウロラクタムのトルエン溶液(1%W/V)0.2mlを加え、ボルッテクスミキサーで混合した。その後、往復振とうして(200rpm)、30℃で、20時間反応させた。
反応終了後、反応混合物を−20℃で凍結させた後、遠心濃縮器を用いて、減圧乾固した。その後,残渣にアセトニトリル1ml及びエステル化剤(ジメチルホルムアミドジメチルアセタール)0.2mlを加え、ボルテックスミキサーで激しく振とうした後、ブロックヒーターを用いて、70℃で、2時間反応させ、アミノドデカン酸メチルに転化させた。
室温まで放冷し、内部標準として、テトラデカン5mgを加えて攪拌し、その溶液1μlを採取して、ガスクロマトグラフィーを用いて、分析し、目的物である12−アミノドデカン酸の収率を決定し、収率41%が得られた。
ガスクロマトグラフィーの測定条件
装置:島津 GC−1700(昇温型)
カラム:DB−1701(30m、0.25mmID)
カラム温度:150℃(5分間)、150℃から280℃に昇温(20℃/分)及び280℃(5分間)
Inj(注入部):270
Det.(検出部):280、FID(検出器)
スプリット比: 1:10
保持時間:12.3分(アミノドデカン酸メチル)、11.3分(ラウロラクタム)、4.8分(テトラデカン:内部標準)
【0074】
実施例2〜4
微生物 U124、微生物 T7及び微生物 U238のアセトンパウダーを用いるラウロラクタムの加水分解
微生物 U224の代わりに、それぞれ、微生物 U124(実施例2)、微生物 T7(実施例3)及び微生物 U238(実施例4)を用いて、実施例1と同様な操作を行い、目的物である12−アミノドデカン酸の収率を決定した。
【0075】
その結果を以下の表8に示す。
【表8】

【0076】
実施例5
微生物 U224を用いるラウロラクタムの加水分解
上記実施例1(1)〜(3)と同様の操作を行い、得られた湿菌体6.2gを0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)20mlに再懸濁し、休止菌体を得た。
【0077】
100mlメジューム瓶に、ラウロラクタムのトルエン溶液(1%W/V)20mlを加え、マグネッチックスターラを用いて,攪拌した。そこに、上記休止菌体10mlを加え、密栓をして、攪拌しながら、30℃で、24時間反応させた。
【0078】
反応終了後、ロータリーエバポレーターで減圧濃縮し、トルエンを留去させ、残った溶液を凍結乾燥させた。得られた残渣に、メタノール100mlを加え、激しく振とうして、抽出した。不溶物をろ過し、ろ液から溶媒を留去して、粗生成物を得た。この粗生成物にエタノール約20mlを加え、ホットプレート上で、還流した。素早くろ過し、ろ液を室温まで放冷し、n−ヘキサンを数滴加え、−18℃で、数時間放置した。生成した結晶をろ取して、目的物である12−アミノドデカン酸96mg(収率44%)を得た。
【0079】
得られた12−アミノドデカン酸(メチルエステル体)のガスクロマトグラムは、標品の12−アミノドデカン酸(メチルエステル体)のそれと一致した。
【0080】
実施例6
微生物 U224由来のラウロラクタム加水分解酵素
(1)微生物 U224の大量培養
5mLのTGY培地(0.5%ポリペプトン、0.5%イースト抽出物、0.1%燐酸2水素カリウム(KHPO)、0.1%D-グルコース、pH 7.0)で、微生物 U224を前培養した(200rpm、30℃で12時間)培養液を500mlのTGY培地に植菌し、バッフル付き2L坂口フラスコ中で、30℃、振とう(96rpm)で、24時間培養した。大型遠心機で集菌し(5000rpmで10分間、4℃)、生理食塩水(0.9% NaCl)で洗浄した後,培地5L分の菌体を、100mLの20mM リン酸緩衝液に懸濁した。
【0081】
(2)超音波及び除核酸処理
100mLの菌体液をガラスビーズ(0.5〜0.75mm)と共に、30分間超音波処理し、無細胞抽出液とした。無細胞抽出液に、プロタミン硫酸ナトリウムを5%加え、10分間攪伴した後、大型遠心機で分離して(3000rpmで10分間、4℃)、上清を得た。
【0082】
上記無細胞抽出液(上清)を用いて、実施例1(5)に準じて、ラウロラクタムの加水分解を行い(30℃、pH 7.0)、ガスクロマトグラフィー分析を行い、目的物である12−アミノドデカン酸の収率を測定し、この収率から、比活性 0.07U/mgを得た。なお、比活性は、酵素1mg当たりの活性ユニット(U)であり、ここで、活性ユニット(U)は、反応温度が30℃で、反応pHが7.0である反応条件において、1分間に、ラウロラクタムの加水分解の目的物である12−アミノドデカン酸が生成する量(μモル)である。つまり、0.07U/mgは、上記無細胞抽出液から得られた粉末酵素1mgあたり、反応温度が30℃で、反応pHが 7.0である反応条件において、1分間に、12−アミノドデカン酸が0.07μモル生成することを意味する。
【0083】
又、上記無細胞抽出液(上清)0.5mLを採り、Bradford法を用いて、タンパク質濃度を測定し、全タンパク質量 1201mgを得た。
【0084】
以下の(3)〜(7)で得られた酵素についても、上記と同様の操作により、比活性及び 全タンパク質量を決定した。
【0085】
(3)硫安分画
無細胞抽出液(上清)を氷中にてスターラーで撹拌しながら、30%飽和となるように粉末状硫安を少しずつ加えた。30分間撹拌した後、遠心分離した(8000rpmで10分間、4℃)。上清を氷中で撹拌しながら、60%飽和となるように粉末状硫安を加え、30分間撹拌した後、遠心分離した。同様に、90%飽和となるように粉末状硫安を加え、遠心分離した。各ステップで得られた沈殿(0〜30%画分、30〜60%画分及び60〜90%画分)を5mLの20mM KPB(リン酸緩衝液)に懸濁し、5Lの同緩衝液(x3回)にて、1晩透析を行った。
透析した30〜60%硫安分画画分の酵素の比活性は、0.12U/mgであり、全タンパク質量は、200mgであった。
【0086】
(4)イオン交換カラムクロマトグラフィー
20mM KPBにより平衡化したDEAE(ジエチルアミノエチル)−トヨパールゲル15mlをカラムに充填し、透析した30〜60%硫安分画画分の酵素をカラムに吸着させた。100mLの20mL KPBでカラムを洗浄した後、20mM KPB 200mL及び500mM NaCl を含む20mM KPB 200mLを用いて、グラジエントによりNaCl濃度を徐々に上げ、酵素を溶出させた。フラクションコレクターを用いて、15mLずつ試験管にフラクションを採取し、各フラクションのラウロラクタム加水分解活性及びタンパク質濃度を測定した。活性が認められたフラクションを集め、1晩透析した。
透析後の酵素の比活性は、0.61U/mgであり、全タンパク質量は、38.1mgであった。
【0087】
(5)疎水カラムクロマトグラフィー
上記(4)における、活性が認められたフラクション39mLに、30%飽和となるように硫安を加え、遠心分離して、上清を得た。硫安30%飽和にした、20mM KPBで平衡化したブチル−トヨパールゲル5mLに酵素液を吸着させた。硫安30%飽和にした、20mM KPBでカラムを洗浄した後、20mM KPB 30mL及び硫安30%飽和にした20mM KPB 30mLを用いて、グラジエントにより硫安濃度を徐々に下げ、酵素を溶出させた。フラクションコレクターを用いて、3mLずつ試験管にフラクションを採取し、各フラクションのラウロラクタム加水分解活性及びタンパク質濃度を測定した。活性が認められたフラクションを集め、1晩透析した。透析した後、酵素液を限外ろ過にて200μLまで濃縮した。
濃縮した酵素(上清)の比活性 1.31U/mgであり、全タンパク質量は、12.8mgであった。
【0088】
(6)イオン交換カラムクロマトグラフィー
中圧高速液体クロマトグラフィー(FPLC、カラム:20mM KPBで平衡化したモノQ HR5/5カラム)を用いた。サンプルループに酵素液200μLを注入し、20mM KPB及び0.5mM NaClを含む20mM KPBの2つの溶媒を用いて、FPLCのグラジエントシステムにより、酵素を溶出させた。各フラクション(0.5mL)のラウロラクタム加水分解活性及びタンパク質濃度を測定した。活性が認められたフラクションを集め。1晩透析した。透析した後、酵素液を限外ろ過にて200μLまで濃縮した。
濃縮した酵素(上清)比活性は、4.67U/mgであり、全タンパク質量は、1.8mgであった。
【0089】
(7)ゲルろ過クロマトグラフィー
中圧高速液体クロマトグラフィー(FPLC、カラム:150mM NaClを含む20mM KPBで平衡化したセファデックス(Sephadex)200 10/30GLカラム)を用いた。サンプルループに酵素液200μLを注入し、150mM NaClを含む20mM KPBの溶媒を用いて、FPLCのシステムにより、酵素を溶出させた。各フラクション(0.5mL)のラウロラクタム加水分解活性及びタンパク質濃度を測定した。活性が認められたフラクションを集め、1晩透析した。
【0090】
透析された酵素の比活性は、6.54U/mgであり、全タンパク質量は、0.1mgあった。
【0091】
透析された酵素の分子量は、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法を用いて、測定し、約47kDa(キロダルトン)であり、HPLCを用いるゲルろ過法(カラム:Sephadex 200HR 10/30、流出溶媒(流速):150mM NaCl含む20mM KPB(0.8mL/分)、検出器:UV検出器、吸光度280nm)を用いて、測定して、約79.5kDa(キロダルトン)であった。
【0092】
なお、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法を以下の条件で行った。
【0093】
泳動ゲルとして、36%アクリルアミド 5.25mL、0.68M トリス(Tris:pH 8.8)8.25mL、1%SDS(ソディウムドデシルサルフェート)1.58mL、10%TEMED(テトラメチルエチレンジアミン)187.5μL、2%APS(アンモニウムパーサルフェート)562.5μL組成のゲルに36% ポリアクリルアミド 0.5mL、0.179M トリス(Tris:pH 6.8)3.5mL、1%SDS0.5mL、10%TEMED125μL、2%APS375.1μL組成の濃縮ゲルを重層したものを用い、緩衝液(グリセロール200μL、1M トリス(Tris)40μL、水360μL、2−メルカプトエタノール200μL及び10%SDS200μL)と等量混合した精製酵素サンプル25μLをランニング緩衝液(トリス3.03g、グリシン 14.14g及びSDS10g)中、30mAで電気泳動を行い、その後、1時間タンパク染色液(CBB(クマジーブリリアントブルー)2.5g、メタノール500mL、酢酸 50mL及び超純水450mL)で染色し、脱色液(メタノール:酢酸:水=3:1:6)でバンドが鮮明になるまで脱色した。
【0094】
透析された酵素酵素のN−末端アミノ酸配列は、エドマン(Edman)法により決定し、その結果を配列番号25に示す。
【0095】
実施例7
微生物 T7由来のラウロラクタム加水分解酵素
微生物 U224の代わりに、微生物 T7を用いて、実施例6と同様の操作を行い、最後に、再度、中圧高速液体クロマトグラフィー(カラム:20mM KPBで平衡化したモノQ HR5/5カラム)を用いて、精製して、目的とする加水分解酵素を得た。
【0096】
また、実施例6と同様にして、得られた酵素の比活性及び全タンパク質量を求めた結果、超音波及び除核酸処理された酵素、ゲルろ過クロマトグラフィーで精製された酵素及び最後に中圧高速液体クロマトグラフィーで精製された酵素の比活性(及び全タンパク質量)は、それぞれ、0.02U/mg(1670mg)、1.24U/mg(0.4mg)及び2.24U/mg(0.2mg)であった。
【0097】
又、最後に中圧高速液体クロマトグラフィーで精製された酵素は、HPLCを用いるゲルろ過法に用いるHPLCにおいて、単一のピークを示し、その保持時間は、実施例6のゲルろ過クロマトグラフィーで精製された酵素とほぼ同一であった。
【0098】
実施例8
微生物 T31の遺伝子組込み大腸菌株由来のラウロラクタム加水分解酵素
(1)前培養
実施例18で得られた微生物 T31の遺伝子組込み大腸菌のスラントから白金耳を用い、菌体の一部をかき取り、バッフル付き1L三角フラスコ中のLB培地(Car(カルベニシリン)100μg/mL)100mLに接種し、37℃、旋回振とう(200rpm)で、16時間培養した。
【0099】
(2)本培養
バッフル付き12Lの培養器(ナルゲン製)中、10Lの Terrific Broth(アンピシリン50μg/mL)に前培養の培地100mLを接種し、37℃で、好気培養した。接種6時間後、終濃度1mMとなるようにIPTG(イソプロピルチオガラクトシド)を加え、インキュベーターの温度を30℃に設定して、さらに、12時間培養した。
培養終了後、液体培地を遠心分離(5,000rpmで10分、4℃)により、集菌し、0.85%食塩水で洗菌した。洗菌した後、再び、遠心分離(5,000rpmで10分)により、集菌し、湿菌体95.2gを得た。得られた湿菌体を超音波破砕し、遠心分離をした後、ストレプトマイシンを添加して、核酸成分を除去した。その後、30〜60%硫安分画画分を分取し、透析チューブにて、透析した後、凍結乾燥して、粉末酵素7.7gを得た。
【0100】
実施例9
微生物 U224Mの遺伝子組込み大腸菌株由来のラウロラクタム加水分解酵素
微生物 T31の遺伝子組込み大腸菌の代わりに、実施例23で得られた、微生物 U224Mの遺伝子組込み大腸菌を用いて、実施例8と同様に、培養及び単離を行い、湿菌体123g及び粉末酵素3.0gを得た。
【0101】
実施例10
微生物 T31の遺伝子組込み大腸菌株由来のラウロラクタム加水分解酵素を用いるラウロラクタムの加水分解
【0102】
(1)2mlチューブに、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)350μL、0.1Mラウロラクタム溶液(19.6mgのラウロラクタムを1mLのトルエン又はDMSO(ジメチルスルホキシド)に溶解させた溶液)50μL及び酵素溶液(微生物 T31の遺伝子組込み大腸菌株由来のラウロラクタム加水分解酵素(実施例8の酵素)10mgを0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)1mLに溶解させた溶液又はこの溶液を水で10倍希釈させた溶液)100μLを加え、往復振とうして(250rpm)、30℃で、1時間反応させた。
反応終了後、実施例1に準じて、後処理及びガスクロマトグラフィー分析を行い、トルエンを用いる溶媒系における、酵素濃度(10mg/mL)及びそれを水で10倍希釈させた酵素濃度(1mg/mL)について、それぞれ、目的物である12−アミノドデカン酸の収率62%及び17%を得た。また、DMSOを用いる溶媒系における、酵素濃度(10mg/mL)及びそれを水で10倍希釈させた酵素濃度(1mg/mL)について、それぞれ、目的物である12−アミノドデカン酸の収率67%及び15%を得た。
【0103】
(2)30mスクリュー管中に、ラウロラクタム0.099g、実施例8の酵素50mg、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)1ml及びクロルベンゼン9mLの混合溶液(なお、ガスクロマトグラフィー分析の内部標準物質として、テトラデカン0.100gを含む)を入れ、密栓して、マグネチックスターラで激しく攪拌しながら、30℃で、反応させた。
反応開始後、3時間及び6時間後に、反応混合物の有機相からサンプル0.1mLを分取し、メタノール0.9mLを加えて、実施例1に準じて、ガスクロマトグラフィー分析を行い、それぞれ、原料であるラウロラクタムの転化率46.4%及び74.1%を得た。
【0104】
(3)110mLのスクリュー管中に、ラウロラクタム0.400g、実施例8の酵素200mg、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)4ml及びトルエン36mLの混合溶液を入れ、密栓して、マグネチックスターラで激しく攪拌しながら、30℃で、6時間反応させた。
反応終了後、反応混合物をろ過し、得られた白色析出物をトルエン及び純水で洗浄・溶解させ、減圧で、溶媒を留去・乾燥させ、白色粉末として、粗12−アミノドデカン酸0.431g得た。
この白色粉末の純度は、ガスクロマトグラフィー分析により、87.4%であった(収率 86%)。
【0105】
(4)30mlスクリュー管中に、ラウロラクタム0.986g、実施例8の酵素50mg、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)1ml及びトルエン9mLの混合溶液(なお、ガスクロマトグラフィー分析の内部標準物質として、テトラデカン0.100gを含む)を入れ、密栓して、マグネチックスターラで激しく攪拌しながら、30℃で、10時間反応させた。
反応終了後、反応混合物の有機相からサンプル0.1mLを分取し、メタノール0.9mLを加えて、実施例1に準じて、ガスクロマトグラフィー分析を行い、原料であるラウロラクタムの転化率99.8%を得た。
又、反応混合物をろ過し、白色析出物をトルエン約5mL及び0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)約1mLで洗浄した。ろ液と洗浄液を合せて、水相を分離させ、反応に1回使用した酵素溶液を得た。
この反応に1回使用した酵素溶液を用いて、上記と同様の加水分解反応、後処理及びガスクロマトグラフィー分析を行い、原料であるラウロラクタムの転化率99.6%を得た。
ついで、同様にして、反応に2回使用した酵素溶液を得て、それを用いて、上記と同様の加水分解反応、後処理及びガスクロマトグラフィー分析を行い、原料であるラウロラクタムの転化率97.4%を得た。
【0106】
実施例11
微生物 U224Mの遺伝子組込み大腸菌株由来のラウロラクタム加水分解酵素を用いるラウロラクタムの加水分解
(1)実施例8の酵素の代わりに、微生物 U224Mの遺伝子組込み大腸菌株由来のラウロラクタム加水分解酵素(実施例9の酵素)を用いる他、実施例10(1)と同様にして、トルエンを用いる溶媒系における、酵素濃度(10mg/mL)及びそれを水で10倍希釈させた酵素濃度(1mg/mL)について、それぞれ、目的物である12−アミノドデカン酸の収率44%及び1.7%を得た。また、DMSOを用いる溶媒系における、酵素濃度(10mg/mL)及びそれを水で10倍希釈させた酵素濃度(1mg/mL)について、それぞれ、目的物である12−アミノドデカン酸の収率25%及び1.6%を得た。
【0107】
(2)実施例8の酵素の代わりに、実施例9の酵素を用いる他、実施例10(2)と同様に反応を行い、反応開始後の3時間及び6時間について、それぞれ、原料であるラウロラクタムの転化率25.6%及び46.1%を得た。
【0108】
実施例12
微生物 T31由来ラウロラクタム加水分解酵素遺伝子の大腸菌(E.coli JM 109)への形質転換
(1)微生物 T31の染色体DNA及びプラスミドの精製
(i)微生物 T31の染色体DNAの抽出
微生物 T31をTGY培地3mLで、30℃、200rpm(振とう)で、12時間培養した。培養液1mLから菌体を遠心分離して(15,000rpmで5分間、4℃)、集菌した。STE緩衝液(NaCl 0.584g、1Mトリス−HCl(pH8.0)1mL及び0.5MEDTA(pH8.0)200μLを超純水で100mLに定量したもの)1mLで洗浄した後,同緩衝液に懸濁した。68℃で、15分間加熱した後、遠心分離し(15,000rpmで5分間、4℃)、上清を除いて、リゾチーム−RNase液(リゾチーム 5mg、10mg/mLRNase10mLを1液:グルコース0.9g、1Mトリス−HCl(pH8.0)2.5mL、0.5MEDTA(pH8.0)2mLを超純水で、100mLに定量したもの1mLで溶解したもの)300μLに懸濁した。37℃で30分間インキュベートした後、プロテイナーゼK/L 液 (プロテイナーゼK10mg/L液1mL)6μLを加え、穏やかに混合し、37℃で10分間インキュベートした。N−ラウロイルザリコシン3mgを加えて、穏やかに混合した後、37℃で3時間インキュベートし、フェノール−クロロホルム処理を穏やかに2回行った。上清300μLに5MNaCL溶液10μLとエタノール600μLを加えて混合した後、遠心分離した(15,000rpmで10分間、4℃)。70%エタノールで洗浄した後、風乾し、TE緩衝液100μLに溶解し、目的とする染色体DNAを得た。
【0109】
(ii)微生物 T31のプラスミドの抽出
TGY培地10mLで,30℃、200rpm(振とう)で、24時間培養した、微生物 T31菌体をディスポチューブ内で、遠心分離して(3,000rpmで10分間、4℃)、集菌した。TE緩衝液で洗浄した後、TENS溶液(50mMトリス(pH8.0)、50mMNaCl、10mM EDTA(pH8.0)、20%サッカロース)400μLに懸濁し、リゾチーム10mgを加えて、37℃で30分間インキュベートした。懸濁液に、10%SDA40μLと5N NaOH40μLを加え、10分間、氷冷し、3M 酢酸ナトリウム(pH5.0)600μLを加えて、再び10分間氷冷した。遠心分離した(15,000rpmで10分間、4℃)後、上清を2回フェノール−クロロホルムで処理し、スピッツ管中でエタノール2.7mLを加え、−80℃で30分間インキュベートして、遠心分離した(3,000rpmで10分間、4℃)。70%エタノールで洗浄した後、TE緩衝液20μLに溶解し、目的とするプラスミドを得た。
【0110】
(2)微生物 T31由来ラウロラクタム加水分解酵素遺伝子の増幅
PCR反応液の組成は,水35μL、10xBlend Taq buffer 5μL、2mM dNTP 5μL、100pmol プライマー1(5'-AGAAGGAGCGCGACAGTGAGCAAGGTGGAC-3':配列番号13)1μL、100 pmolプライマー2(5'-CATCTCCCGCAAGCATCAGGCCGCTGGGATC-3':配列番号14)1μL、Template DNA2μL及びBlend Taq 1μLとした。PCR反応の条件は、(i)98.0℃で5分間、(ii)96℃で10秒間、(iii)50℃で5秒間、(iv)60℃で4分間及び(ii)までを24サイクルとし、(v)4℃で、連続的に続けた。増幅した微生物 T31由来の遺伝子は、アガロースゲル電気泳動により確認した。増幅した遺伝子をVIOGENE(USA)社のGel−M(登録商標)ゲル抽出キットを用いて抽出した。
【0111】
(3)微生物 T31由来ラウロラクタム加水分解酵素遺伝子配列のシーケンシング
遺伝子の両方の鎖についてシーケンシングを行うため、プライマー1、プライマー2、プライマー3(5'-GCGGCGGGGTTCGTTTTGCTCGGCAAA-3':配列番号15)及び、プライマー4(5'-CGAGATAAAGGCGGACTGACGCCCTTC-3':配列番号16)を用いてシーケンス反応を行った。反応液組成は、1.6μLの各プライマー、1.6μLの 16s rDNA(PCR産物)、1μLのBigDyeプレミックスソリューション、1.6μLの5xBigDye シーケンシングバッファーと2.8μLの 滅菌水とし、全量10μLとした。PCR反応の条件は、(i)96℃で2分間、(ii)96℃で10秒間、(iii)50℃で5秒間、(iv)60℃で4分間、(v)(ii)〜(iv)を25回及び(vi)72℃で5分間とした。
【0112】
PCR産物に、1μLの3M 酢酸ナトリウム(pH5.2)、1μLの0.125MEDTAと25μLのエタノールを加え、室温で15分間放置した後、遠心分離により(15,000rpmで15分間、4℃)、沈殿させた。上清を廃棄した後、10μLの Hi Di Formamideを加え、100℃で5分間加熱した後に、氷水で急冷したものをABI PRISM(登録商標)310 Genetic Analyzerで塩基配列の解読をした。得られたシーケンスデータの解析はGenetyxで行い、それぞれのプライマーで増幅した断片を連結した。
【0113】
(4)微生物 T31由来ラウロラクタム加水分解酵素遺伝子 の大腸菌(E.coli JM 109)への形質転換
Ligationの組成は、遺伝子 5μL、pT7 Blue T-Vecter (Novagen)1μL、T4 ligase buffer 1μL、T4 ligase 1μL及び水2mLとし、16℃で一晩反応させた。大腸菌(E.coli JM 109)のコンピテントセル90μLに1μLのpT7 Blue T-Vecterを加え、ヒートショック法で形質転換を行った。80μg/mLのアンピシリンを含むLB培地 (1.0% ポリペプトン、0.5%イースト抽出物及び1.0%NaCl)に生育したコロニーを25株選別し、TLCによる活性とEcoRIとHindIII処理によるインサートの有無の確認を行った。
【0114】
実施例13
微生物 T7由来ラウロラクタム加水分解酵素遺伝子 の大腸菌(E.coli JM 109)への形質転換
微生物 T31の代わりに、微生物 T7を用いて、実施例12と同様な操作を行い、微生物 T7由来ラウロラクタム加水分解酵素遺伝子 の大腸菌(E.coli JM 109)への形質転換体を得た。
【0115】
実施例14
微生物 U124由来ラウロラクタム加水分解酵素遺伝子 の大腸菌(E.coli JM 109)への形質転換
微生物 T31の代わりに、微生物 U124を用いて、実施例12と同様な操作を行い、微生物 U124由来ラウロラクタム加水分解酵素遺伝子 のE.coli JM 109への形質転換体を得た。
【0116】
実施例15
微生物 U224由来ラウロラクタム加水分解酵素遺伝子の大腸菌(E.coli JM 109)への形質転換
微生物 T31の代わりに、微生物 U224を用いて、実施例12と同様な操作を行い、微生物 U224由来ラウロラクタム加水分解酵素遺伝子 の(E.coli JM 109)への形質転換体を得た。
【0117】
実施例16
微生物 U238由来ラウロラクタム加水分解酵素遺伝子 の大腸菌(E.coli JM 109)への形質転換
微生物 T31の代わりに、微生物 U238を用いて、実施例12と同様な操作を行い、微生物 U238由来ラウロラクタム加水分解酵素遺伝子 の大腸菌(E.coli JM 109)への形質転換体を得た。
【0118】
実施例17
微生物 U224M由来ラウロラクタム加水分解酵素遺伝子 の大腸菌(E.coli JM 109)への形質転換
【0119】
(1)微生物 T31の代わりに、U224を用いて、実施例12(1)と同様な操作を行い、得られた微生物 U224由来のプラスミド(pU224)の5つのポイントミューテーションを、QuikChange(登録商標)Multi Site-Directed Mutagenesis Kitを用いて行った。
【0120】
反応組成は、2.5μLのl QuikChange(登録商標)Multi reaction buffer、1μLの dNTP mix、9.5μLの水、50ngのds-DNA template (pU224)、以下の4センス プライマー(sense primer)及び以下の4のアンチセンス プライマー(antisense primer)、それぞれ、50ng及び1μLの QuikChange(登録商標)Multi enzyme blend、
センスプライマー1(5'-AAAACTAATACACCGGAGATGGGCAATCAG-3':配列番号17)、
センスプライマー2(5'-CGCACGGCAATGACGCGGCAGGTTCCGTGC-3':配列番号18)、
センスプライマー3(5'-CTTCCTCAAGGACTACTCGACGATTTGCGA-3':配列番号19)、
センスプライマー4(5'-TCTCGGGCAGTCTGCAGATGCTGGCCTTCA-3':配列番号20)、
アンチセンスプライマー1(5'-CTGATTGCCCATCTCCGGTGTATTAGTTTT-3':配列番号21)、
アンチセンスプライマー2(5'-GCACGGAACCTGCCGCGTCATTGCCGTGCG-3':配列番号22)、
アンチセンスプライマー3(5'-TCGCAAATCGTCGAGTAGTCCTTGAGGAAG-3':配列番号23)、
アンチセンスプライマー4(5'-TGAAGGCCAGCATCCGCAGACTGCCCGAGA-3':配列番号24)
とした。
【0121】
PCR反応の条件は、(i)95℃で1分間、(ii)55℃で1分間、(iii)65℃で8分間及び(iv)(i)〜(iii)を25回とした。反応終了後、1μLのDpnIを 加え、1時間インキュベートした後、大腸菌(E.coli JM109)へ導入した。
【0122】
ミューテーション後のDNAシーケンシングはサイクルシーケンス反応により行った。得られたプラスミドをpU224Mとした。
【0123】
pU224Mのシーケンスは、公知のフラボバクテリウム・エスピー(Flavobacterium sp.)K172株由来の遺伝子(F-nylA)のアミノ酸配列(配列番号12)と一致した。
【0124】
(2)微生物 T31由来のプラスミドの代わりに、pU224Mを用いて、実施例12(2)〜(4)と同様な操作を行い、微生物 U224M由来ラウロラクタム加水分解酵素遺伝子の大腸菌(E.coli JM 109)への形質転換体を得た。
【0125】
実施例18
微生物 T31由来ラウロラクタム加水分解酵素遺伝子の大腸菌(E.coli JM109)における発現系構築
【0126】
(1)ラウロラクタム加水分解酵素遺伝子の増幅
実施例12(4)で調製した、微生物 T31由来ラウロラクタム加水分解酵素遺伝子組み込み大腸菌から、実施例12(1)と同様にして得たプラスミドをTemplate DNAとした。
PCR反応液の組成は、水35μL、10x Blend Taq buffer 5μL、2mM dNTP 5μL、100 pmol/μL プライマー5(5'-ACAGCGAAGCTTTAAGGAGGAATAGACAATGAGCAAGGTGGACCTTTGG-3':配列番号26)1 μL、 100 pmol/μL プライマー6 (5'-GGAGGACGTCTAGATCAGGCCGCTGGGATC-3':配列番号27)1μL、Template DNA 100ng及びBlend Taq 5 unitとした。PCR反応の条件は、(i)98.0℃で5分間、(ii)96℃で10秒間、(iii)50℃で5秒間、(iv)60℃で4分間及び(ii)までを24サイクルとし、4℃で連続的に続けた。
【0127】
(2)ラウロラクタム加水分解酵素遺伝子のpUC19ベクターへの組み換えと大腸菌(E.coli JM109)への形質転換
PCR反応で得られた、それぞれの菌株由来のPCR産物5μLに、1μL HindIIIと1μL XbaIを加え、37℃で1時間インキュベートし、制限酵素処理を行った。ライゲーション反応は、5μL DNA、1μL pUC19(増幅遺伝子と同様の制限酵素処理を行ったもの)、2μL T4 DNA ligase bufferと1μL T4 DNA ligaseとし、16℃で1晩インキュベートした。得られたベクター を、ヒートショック法により、大腸菌(E.coli JM109)に導入した。
【0128】
実施例19
微生物 T7由来ラウロラクタム加水分解酵素遺伝子の大腸菌(E.coli JM109)における発現系構築
実施例13で調製した、微生物 T7由来ラウロラクタム加水分解酵素遺伝子組み込み大腸菌から、実施例18と同様の操作を行い、微生物 T7由来ラウロラクタム加水分解酵素遺伝子の大腸菌(E.coli JM109)における発現系を構築した。
【0129】
実施例20
微生物 U124由来ラウロラクタム加水分解酵素遺伝子の大腸菌(E.coli JM109)における発現系構築
実施例14で調製した、微生物 U124由来ラウロラクタム加水分解酵素遺伝子組み込み大腸菌から、実施例18と同様の操作を行い、微生物 U124由来ラウロラクタム加水分解酵素遺伝子の大腸菌(E.coli JM109)における発現系を構築した。
【0130】
実施例21
微生物 U224由来ラウロラクタム加水分解酵素遺伝子の大腸菌(E.coli JM109)における発現系構築
実施例15で調製した、微生物 U224由来ラウロラクタム加水分解酵素遺伝子組み込み大腸菌から、実施例18と同様の操作を行い、微生物 U224由来ラウロラクタム加水分解酵素遺伝子の大腸菌(E.coli JM109)における発現系を構築した。
【0131】
実施例22
微生物 U238由来ラウロラクタム加水分解酵素遺伝子の大腸菌(E.coli JM109)における発現系構築
実施例16で調製した、微生物 U238由来ラウロラクタム加水分解酵素遺伝子組み込み大腸菌から、実施例18と同様の操作を行い、微生物 U238由来ラウロラクタム加水分解酵素遺伝子の大腸菌(E.coli JM109)における発現系を構築した。
【0132】
実施例23
微生物 U224M由来ラウロラクタム加水分解酵素遺伝子の大腸菌(E.coli JM109)における発現系構築
実施例17で調製した、微生物 U224M由来ラウロラクタム加水分解酵素遺伝子組み込み大腸菌から、実施例18と同様の操作を行い、微生物 U224M由来ラウロラクタム加水分解酵素遺伝子の大腸菌(E.coli JM109)における発現系を構築した。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明は、ナイロン原料、接着剤原料、硬化剤原料等に用いられ、工業的に有用な12−アミノドデカン酸を製造する方法及びその製造する方法に使用する生体触媒に関し、安価なラウロラクタムを出発原料として、1工程で、目的とする12−アミノドデカン酸を製造でき、更に、脱塩等の煩雑な後処理工程が必要ないため、工業的に有利な12−アミノドデカン酸の製造方法である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラウロラクタムに、ラウロラクタムを加水分解する活性を有する生体触媒を接触させて、12−アミノドデカン酸を生成することを特徴とする、12−アミノドデカン酸の製造方法。
【請求項2】
生体触媒が微生物の菌体又はその処理物である請求項1記載の方法。
【請求項3】
微生物が、ロドコッカス(Rhodococcus)属、クプリアビドス(Cupriavidus)属、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属又はアシドボラックス(Acidovorax)属に属する微生物である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
微生物が、ロドコッカス sp.U224(FERM P−20419)、クプリアビドス sp.U124(FERM P−20418)、クプリアビドス sp.T7(FERM P−20416)、スフィンゴモナス sp.U238(FERM P−20420)又はアシドボラックス sp.T31(FERM P−20734)である、請求項2又は3記載の方法。
【請求項5】
生体触媒が6−アミノヘキサノアート−サイクリック−ダイマー ヒドロラーゼである請求項1記載の方法。
【請求項6】
生体触媒が、配列番号2、4、6、8又は10のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
疎水性溶媒及び水の二層系中で、加水分解反応を行うことを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項8】
疎水性溶媒が、芳香族炭化水素類である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
芳香族炭化水素類が、トルエン又はクロルベンゼンである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
ロドコッカス sp.U224(FERM P−20419)。
【請求項11】
クプリアビドス sp.U124(FERM P−20418)。
【請求項12】
クプリアビドス sp.T7(FERM P−20416)。
【請求項13】
スフィンゴモナス sp.U238(FERM P−20420)。
【請求項14】
アシドボラックス sp.T31(FERM P−20734)。
【請求項15】
配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質
【請求項16】
配列番号4記載のアミノ酸配列からなるタンパク質。
【請求項17】
配列番号6記載のアミノ酸配列からなるタンパク質。
【請求項18】
配列番号8記載のアミノ酸配列からなるタンパク質。
【請求項19】
配列番号10記載のアミノ酸配列からなるタンパク質。
【請求項20】
請求項15乃至19記載のタンパク質をコードする遺伝子。
【請求項21】
請求項20記載の遺伝子を含有する組換えベクター。
【請求項22】
請求項21記載の組換えベクターで宿主細胞を形質転換して得られる形質転換体。
【請求項23】
請求項22記載の形質転換体を培養し、請求項15乃至19記載のタンパク質を産生させることを含む、該タンパク質の製造方法。

【公開番号】特開2006−271378(P2006−271378A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−57329(P2006−57329)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】