説明

14ベータ−ヒドロキシ−バッカチンIII−1,14−カルボネートの調製方法

【課題】抗腫瘍活性を有する新規タキサン誘導体の有用中間体である14β−ヒドロキシ−7−Boc−13−ヒドロキシ−バッカチンIII−1,14−カルボネート調製方法の提供。
【解決手段】7−Boc−13−ケトバッカチンIIIを適切な塩基及び酸化剤で処理し、得られた7−Boc−13−ケト−14−ヒドロキシ−バッカチンIIIの1及び14ヒドロキシ基を炭酸化し、14β−ヒドロキシ−7−Boc−13−ケト−バッカチンIII−1,14−カルボネートを得る。更に13位のケトンを還元し、下記式の目的物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、14β−ヒドロキシ−1,14−カルボネート−バッカチンIIIの調製方法に関する。本発明の方法により得られる生成物は、抗腫瘍活性を有する新規なタキサン誘導体の調製に使用することができる。
【0002】
タキサン類は、近年開発された最も重要な抗腫瘍剤の一つである。パクリタキセル(Paclitaxel)は、タイヘイヨウイチイ(Taxus brevifolia)の樹皮から得られるジテルペン複合体であり、癌の治療用の重要な医薬の一つであると考えられている。現在、優れた薬理活性を有し、かつ薬物動態プロフィールの改善された新規なタキサン誘導体に関して、広範囲な探索が行われている。ある具体的なアプローチは、親構造について種々に修飾されたバッカチンIII誘導体に関する。該化合物の例は、US 5705508、WO 97/43291、WO 96/36622に開示されている14β−ヒドロキシバッカチンIII誘導体に代表される。現在、14β−ヒドロキシ−デアセチルバッカチンIII 1,14−カルボネート誘導体は、前駆体の14β−ヒドロキシ−デアセチルバッカチンIIIから出発して調製されるが、これは、EP 559019に開示されているように、ヒマラヤイチイ(Taxus wallichiana)の葉の抽出物から少量が得られる天然化合物である。大量の14β−ヒドロキシ−1,14−カルボネート−バッカチンIII、及び、したがってその誘導体の容易で効果的な新規な調製方法に対する強いニーズが存在する。
【0003】
今回、14β−ヒドロキシ−バッカチンIII−1,14−カルボネートを、13−ケトバッカチンIII(この化合物は、10−デアセチルバッカチンIIIから、容易に入手できるが、これは言い換えれば、14β−ヒドロキシ−バッカチンIIIと異なりヨーロッパイチイ(Taxus baccata)の葉から大量に容易に単離することができる)から出発する方法により、調製できることが見い出された。
【0004】
したがって、本発明は、14β−ヒドロキシ−バッカチンIII−1,14−カルボネートの調製方法に関するものであり、そしてこれは以下の工程を含む:
a.下記式:
【0005】
【化1】

【0006】
で示される7−Boc−13−ケトバッカチンIIIを適切な塩基及び酸化剤で処理し、下記式:
【0007】
【化2】

【0008】
で示される7−Boc−13−ケト−14−ヒドロキシ−バッカチンIIIを得る工程、
b.1及び14ヒドロキシ基を炭酸化し、下記式:
【0009】
【化3】

【0010】
で示される14β−ヒドロキシ−7−Boc−13−ケト−バッカチンIII−1,14−カルボネートを得る工程、
c.13位のケトンを還元し、7位の保護基を開裂させるか、又はその逆の工程。
【0011】
出発物質の13−ケトバッカチンIIIは、便利には7位で適切な保護基、好ましくはtert−ブトキシカルボニル(Boc)によって、保護されている。工程a)は、適切な塩基、特にカリウムt−ブトキシド(t−BuOK)又はカリウムビス(トリメチルシリル)アミド(KHMDS)での処理により行われる。本反応は、−40〜−78℃で行うことができる。この反応に適切な溶媒は、テトラヒドロフラン又はジエチルエーテルのようなエーテル類、特にヘキサメチルホスホルアミド(HMPA)又は1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)ピリミジノン(DMPU)と混合したエーテル類である。次にエノラートを、オキサジリジン誘導体(特にN−ベンゼンスルホニルフェニルオキサジリジン、N−ベンゼンスルホニルm−ニトロフェニルオキサジリジン及びショウノウスルホニルオキサジリジン)のような酸化剤で処理し、7−保護13−ケト−14−ヒドロキシ−バッカチンIII誘導体を得る。
【0012】
次に、工程b)は、通常文献に記載されている条件下でカルボニル化剤(例えば、カルボニルジイミダゾール又はホスゲン)で処理して行われることによって、1,14−カルボネート誘導体を得る。本反応は、便利には不活性溶媒、好ましくはエーテル類又は塩素化溶媒中で、塩基、好ましくはピリジン又はトリエチルアミンの存在下で、−40℃〜室温の範囲の温度で行うことができる。本反応は、純粋な出発物質と前工程からの粗生成物の両方について行うことができる。
【0013】
工程c)の13位のカルボニルの還元は、エタノール中で通常−20〜−50℃の範囲の温度で、水素化ホウ素テトラブチルアンモニウムにより容易に行われ、そして2〜6時間以内に完了する。本反応はまた、メタノール、イソプロパノール、又はメタノールとテトラヒドロフランの混合物中でも行うことができる。還元剤は、化学量論量で使用することができるが、好ましくは過剰の水素化物が使用される。この還元はまた、他の水素化物、好ましくは水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、トリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウムにより、当該技術において既知の条件で達成することができる。
【0014】
7位の保護は、使用された保護基に応じた条件下で除去される。例えば、7位の保護基がtert−ブトキシカルボニルであるならば、ギ酸による加水分解をうまく利用することができる。
【0015】
出発物質の13−ケトバッカチンIIIは、以下の2つの手順のうちの1つに従って容易に調製できる。
【0016】
10−デアセチル−バッカチンIIIを、13位においてオゾンにより選択的に酸化して、13−ケト−10−デアセチルバッカチンIIIが得られる。酸化は、アルコール又は塩素化溶媒中で、特にメタノール又は塩化メチレン中で、−78℃〜室温の範囲の温度で、行うことができる。次に、13−ケト−10−デアセチル−バッカチンIIIを、位置選択的にアセチル化して、13−ケト−バッカチンIIIが得られる。
【0017】
あるいはまた、13−ケト−バッカチンIIIは、天然であるか、又は10−デアセチルバッカチンIIIの位置選択的アセチル化により得られるかのいずれかであるバッカチンIIIの酸化により得ることができる。酸化は、オゾンを用いて、又は塩化メチレンのような非プロトン性溶媒中の二酸化マンガンを用いても、0℃〜60℃の範囲の温度で、より好ましくは室温で行うことができる。
【0018】
本発明の方法は、以下のスキームに要約される:
【0019】
【化4】

【0020】
以下の実施例により本発明を更に説明する。
【0021】
使用した略語は、以下のとおりである:
AcOEt=酢酸エチル; TES=トリエチルシリル; TESCl=塩化トリエチルシリル; DCM=ジクロロメタン、THF=テトラヒドロフラン、HMPA=ヘキサメチルホスホルアミド、DMPU=1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)ピリミジノン。
【0022】
実施例1
10−デアセチル−13−ケト−バッカチンIII
10−デアセチル−バッカチンIII(3g、5mmol)を、DCM−MeOH 1:1(250ml)中に溶解し、−78℃まで冷却した。オゾン流(1.4g/ml)を、出発材料が消滅するまで、溶液中で泡立てた(2時間)。オゾン流を窒素に代えた。次に溶液を、硫化ジメチル(1ml)およびピリジン(1ml)で処理して、溶媒を留去させ、粗生成物をEtOAc(100ml)に溶解し、0.1N HClおよび氷で洗浄した。溶媒を留去させた後、標記生成物を収率90%で得た。
【0023】
実施例2
13−ケト−バッカチンIII
バッカチンIII(150g、0.25mol)を、アセトン(1.43l)中に溶解した。強力な撹拌下で、市販の二酸化マンガン(450g)を3回に分けて加えた。出発物質が消失後(4時間)、この懸濁液を濾過し、溶媒を留去した。粗生成物をEtOAc(100ml)に懸濁し、1時間還流し、次にc−Hex(100ml)を加えた。溶媒の蒸発後、標記化合物を、母液から白色の固体(140g、95%)として得た。
【0024】
実施例3
7−Boc−13−ケト−バッカチンIII
塩化メチレン(0.5ml)中の13−ケト−バッカチンIII(1.1g、1.9mmol)の溶液を、室温で四塩化炭素(14ml)中に溶解した。次に、強力な撹拌下で、1−メチルイミダゾール(35ml、0.282mmol)およびBoc2O(1.026g、4.7mmol)を加えた。溶液を20℃で撹拌下、18時間放置した。その後、溶媒をアセトン(5ml)に代え、溶液を水(5ml)に注ぎ、一晩撹拌しながら放置した。沈殿物をブフナー漏斗で収集し、n−ペンタンで洗浄し、乾燥させて、標記生成物1.1g(1.78mmol、94%)を得た。
【0025】
実施例4
14−ヒドロキシ−7−Boc−13−ケトバッカチンIII
THF−DMPU 8:2(10ml)中の7−Boc−13−ケト−バッカチンIII(0.65g、0.95mmol)の溶液を、無水THF(10ml)中のt−BuOK(0.425g、3.79mmol)の溶液に、撹拌下、−60℃で加えた。15分後、THF−DMPU 8:2(10ml)中のショウノウスルホニルオキサジリジン(2.63mmol)の溶液を加えた。出発材料が消失した後(45分)、反応を氷酢酸(0.4ml)でクエンチし、混合物を10%NH4Cl水溶液(25ml)で希釈した。有機層を水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下で蒸発させた。生成物を、精製することなく、次の工程に使用した。
【0026】
実施例5
14β−ヒドロキシ−7−Boc−13−ケトバッカチンIII 1,14−カルボネート
14−ヒドロキシ−7−Boc−13−ケトバッカチンIII(2.0g)およびカルボニルジイミダゾール(0.65g、4.0mmol)を、トルエン(11ml)中に溶解し、90分間撹拌しながら75℃で加熱した。溶液を室温に冷却し、0.2N HCl(5ml)で処理した。有機層をEtOAc(15ml)で希釈し、水で洗浄し、乾燥させ、溶媒を留去した。標記化合物を、フラッシュクロマトグラフィー(シリカゲル、cHex/DCM/Et2O、14:3.5:2.5)により、白色の固体(0.87g、1.20mmol、2工程で82%)として得た。
【0027】
実施例6
14β−ヒドロキシ−7−Boc−バッカチンIII 1,14−カルボネート
THF(3ml)中の14β−ヒドロキシ−7−Boc−13−ケトバッカチンIII 1,14−カルボネートの溶液を、無水メタノール(11ml)中の水素化ホウ素テトラブチルアンモニウム(1.29g)の溶液に、不活性雰囲気下、−50℃で加えた。4時間後、反応を水(5ml)中のクエン酸(1.5g)の溶液で、クエンチした。混合物を酢酸エチルで抽出した。有機相を硫酸マグネシウムで乾燥させ、減圧下で蒸発させた。粗生成物をカラムクロマトグラフィーにより精製して、14β−ヒドロキシ−7−Boc−バッカチンIII 1,14−カルボネート(68%)および13−epi-14β−ヒドロキシ−7−Boc−バッカチンIII 1,14−カルボネート(28%)を、変換収率70%で得た。
【0028】
実施例7
14β−ヒドロキシ−バッカチンIII 1,14−カルボネート
97%のギ酸溶液(5ml)を、ジクロロメタン(3ml)中の14β−ヒドロキシ−7−Boc−バッカチンIII 1,14−カルボネート(0.50g、0.68mol)の溶液に−8℃で加えた。反応を撹拌下、5日間保持し、次に2Nアンモニアで中和した。有機相を酢酸エチルで抽出し、乾燥させ、減圧下で蒸発させた。シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン−酢酸エチル=1.0:1.3)により、生成物を白色の固体として収率65%で得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
新規な中間体としての、下記式:
【化5】


で示される化合物である7−Boc−13−ケト−14−ヒドロキシ−バッカチンIII。
【請求項2】
新規な中間体としての、下記式:
【化6】


で示される化合物である14β−ヒドロキシ−7−Boc−13−ケト−バッカチンIII−1,14−カルボネート。
【請求項3】
新規な中間体としての、下記式:
【化7】


で示される化合物である14β−ヒドロキシ−7−Boc−13−ヒドロキシ−バッカチンIII−1,14−カルボネート。

【公開番号】特開2010−47600(P2010−47600A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−244284(P2009−244284)
【出願日】平成21年10月23日(2009.10.23)
【分割の表示】特願2003−538150(P2003−538150)の分割
【原出願日】平成14年7月18日(2002.7.18)
【出願人】(397068654)インデナ・ソチエタ・ペル・アチオニ (20)
【Fターム(参考)】