説明

2’−(4’−エチルベンジル)フェニル5−チオ−β−D−グルコピラノシドのC型結晶及びその製造方法

【課題】 2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシドの医薬品の固形製剤として、速やかな溶出を可能とする特定の結晶型およびその製造方法を提供する。
【解決手段】
上記の課題は、有機溶媒と水との混合溶媒に、2’−(4’−エチルベンジル)フェニル5−チオ−β−D−グルコピラノシドを溶解させた後、結晶化し、得られた結晶を65℃以上で乾燥させる2’−(4’−エチルベンジル)フェニル5−チオ−β−D−グルコピラノシドの結晶の製造方法などにより解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシド(2’-(4’-Ethylbenzyl)phenyl 5-thio-β-D-glucopyranoside)のC型結晶及びその製造方法などに関するものである。
【背景技術】
【0002】
WO2004−014930号公報(下記特許文献1)及びWO2004−014931号公報(下記特許文献2)に開示されるとおり、2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシド(下記式(I))は、血糖降下作用を有し、たとえば、糖尿病薬として有用な化合物である。それらの公報には、2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシドを、メタノールと水との混合溶媒により結晶化した例が開示されており、その融点は156.5℃〜157.5℃であるとされている。
【0003】
【化1】

・・・(I)
【0004】
【特許文献1】WO2004−014930号公報
【特許文献2】WO2004−014931号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らが、公知の2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシドの結晶多形について各種検討を行った結果、2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシドにはいくつかの結晶多形、水和物、および溶媒和物が存在することが明らかとなった。そこで、医薬品として求められる性状を有した特定の結晶型の2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシドを効率よく分離する方法を解明することが求められた。
【0006】
本発明は、上記状況に鑑みてなされたものであり、2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシドの医薬品の固形製剤として、速やかに溶出する特定の結晶型およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、公知の2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシドの結晶型について鋭意研究を重ねた。その結果、上記のとおり、2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシドには、種々の結晶多形、水和物、溶媒和物が存在することが明らかとなった。また、上記特許文献において融点とされていた156.5℃-157.5℃は、C型結晶の融解に起因するものであったが、これは、融点測定の昇温時にC型結晶に転移したものであることが明らかとなった。
【0008】
また、このC型結晶の他に、2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシドには、A型結晶、B型結晶、D型結晶、B型結晶が吸湿してできる0.5水和物、及びD型結晶が吸湿してできる0.5水和物が存在することが明らかになった。A型結晶は、水に混和する有機溶媒と水との混合溶媒で再結晶し、低温で乾燥することにより得られる結晶型である。B型結晶は、エタノールとヘプタンとの混合溶媒における再結晶で得られる結晶型であり、加温によりC型結晶に転移し、吸湿により前記0.5水和物に転移する。また、D型結晶は、IBA(イソブチルアルコール)溶媒和物を脱溶媒して得られる、融点が約145℃の結晶型である。本発明者らは、これらの結晶型を明らかにするとともに、新規で溶解度の高い結晶であるC型結晶を見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の第1の側面は、(a)粉末X線回折(Cu−Κα)で、2θ=8.1度、12.8度、19.6度及び23.4度にピークを有する;(b)赤外吸収スペクトルにおいて、特性吸収帯が1490cm−1、1233cm−1、840cm−1及び745cm−1にある;(c)示差走査熱量測定の吸熱ピークが157℃〜163℃にある;又は(d)融点が、157℃〜163℃にある2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシドの結晶である。このような特性を有する結晶をC型結晶とよぶ。
【0010】
本発明の第2の側面は、有機溶媒と水との混合溶媒に、2’−(4’−エチルベンジル)フェニル5−チオ−β−D−グルコピラノシドを溶解させた後、結晶化し、得られた結晶を65℃以上で乾燥させる上記に記載の2’−(4’−エチルベンジル)フェニル5−チオ−β−D−グルコピラノシドの結晶の製造方法である。
【0011】
本発明の第3の側面は、C1-C5アルコール、C1-C10アルカン、又はこれらの混合溶媒に、2’−(4’−エチルベンジル)フェニル5−チオ−β−D−グルコピラノシドを溶解させた後、結晶化し、得られた結晶を65℃以上で乾燥させる上記に記載の2’−(4’−エチルベンジル)フェニル5−チオ−β−D−グルコピラノシドの結晶の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、上記のとおり、あえて高温の乾燥工程を経て2’−(4’−エチルベンジル)フェニル5−チオ−β−D−グルコピラノシドの結晶を製造するので、2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシドのC型結晶(以下、単に「C型結晶」という)を効率的に得ることができる。そして、C型結晶は、他の結晶型のものに比較して著しく高い溶解度を有していることから、良好な有効性を示す固形製剤を製造することができると期待される。また、C型結晶は、その融点が高いので、室温付近の温度で長期間安定であり、取り扱いやすい。よって、C型結晶を用いれば、2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシドの薬理効果を有し、特に保存性や利便性に優れた医薬品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明のC型結晶について説明する。本発明のC型結晶は、下記の物性を少なくとも一つ有する、2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシドの結晶である。すなわち、(a)粉末X線回折(Cu−Κα)で、2θ=8.1度、12.8度、19.6度及び23.4度にピークを有する;(b)赤外吸収スペクトルにおいて、特性吸収帯が1490cm−1、1233cm−1、840cm−1及び745cm−1にある;(c)示差走査熱量測定の吸熱ピークが157℃〜163℃にある;及び(d)融点が、157℃〜163℃にある。これらの物性のうち1つ以上、好ましくは全てを満たすものがあげられる。
【0014】
図1は、後述の実施例により得られたC型結晶の粉末X線回折パターンである。また、図2は、後述の実施例により得られたC型結晶の赤外吸収スペクトル(ΚBr法)である。図3は、後述の実施例により得られたC型結晶の示差走査熱量測定パターンである。そして、本発明のC型結晶として、図1で示される粉末X線回折パターンを有する結晶、図2で示される赤外吸収スペクトル(ΚBr法)、又は図3で示される示差走査熱量測定パターンを有する2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシドの結晶があげられる。
【0015】
これらの図から分かるように、各物性データからは、有意な量のA型結晶、B型結晶、D型結晶、B型結晶が吸湿してできる0.5水和物、D型結晶が吸湿してできる0.5水和物などの不純物に由来する下記物性データは検出されていない。
【0016】
たとえば、A型結晶の物性データとしては、(a)X線回折パターンにおいて、Cu−Κα線による回折角(2θ)が7.3度、13.2度、19.2度及び21.8度にピークを示す、(b)赤外吸収スペクトルにおいて、特性吸収帯が1492cm−1、1238cm−1、832cm−1及び742cm−1にある、(c)示差走査熱量測定において、発熱ピークが約120℃にあり、吸熱ピークが約160℃にある、という物性データがあげられる。
【0017】
以上より、本発明の製造方法により得られるC型結晶は、基本的に純度の高い結晶であることが分かる。C型結晶の純度は高いものが望ましく、好ましくは他の結晶型のものを実質的に含まないものである。
【0018】
C型結晶は、他の結晶型のものに比較して著しく高い溶解度を有していることから、良好な有効性を示す固形製剤を製造することができると期待される。本発明のC型結晶の溶解度(25℃)として、40μg/ml〜60μg/mlがあげられ、好ましくは45μg/ml〜約55μg/mlである。また、C型結晶は、後述する試験例1〜3にて実証されたように、室温付近の温度で長期間安定であるため、取り扱いやすい。よって、C型結晶を用いれば、保存性に優れた医薬品を提供することができる。
【0019】
次に、本発明のC型結晶の製造方法について説明する。基本的には、所定の溶媒に2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシドを溶解させてから結晶を得て、高温にて乾燥する再結晶を行うことにより、C型結晶を得ることができる。なお、再結晶は、1度のみならず2度以上繰り返してもよいが、通常は1度のみ再結晶を行う。
【0020】
以下では、水系溶液からの再結晶法によるC型結晶の製造方法について説明する。この方法は、基本的には、水を含む混合溶媒に2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシドを溶解させる工程(溶解工程)と、結晶化する工程(結晶化工程)と、乾燥させる工程(乾燥工程)とを含む。さらに,精製工程など公知の工程が付加されてもよい。
【0021】
溶解工程における溶解方法は、公知の溶解方法を適宜採用できる。溶解工程に用いられる装置も公知の物を用いればよい。そして、原料として用いる2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシドは、C型結晶を含むものを用いてもよく、A型結晶、B型結晶、D型結晶などのC型結晶以外の結晶、溶媒和物、又は不定形粉末などを任意の割合で含んでいてもよい。2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシドの溶媒和物として、たとえば、B型結晶が吸湿してできる0.5水和物、又はD型結晶が吸湿してできる0.5水和物若しくはイソブチルアルコール和物などがあげられる。不定形粉末としては、たとえばアモルファスの2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシドがあげられる。これらは、たとえば、WO2004−014930号公報またはWO2004−014931号公報に開示された方法に従って製造できる。また、A型結晶は、たとえば、水に混和する有機溶媒と水との混合溶媒で再結晶し、低温で乾燥することにより得られる。B型結晶は、たとえばエタノールとヘプタンとの混合溶媒における再結晶により得ることができる。B型結晶を吸湿させることにより前記0.5水和物を得ることができる。また、D型結晶は、IBA(イソブチルアルコール)溶媒和物を脱溶媒和して得ることができる。
【0022】
有機溶媒と水との混合溶媒における「有機溶媒」は、たとえば、得られたC型結晶を医療分野で使用する場合を考慮して、医薬品に利用できる有機溶媒(薬理上許容される有機溶媒など)を用いることが好ましい。このような有機溶媒として、ヘキサン、ヘプタンのような脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素類;クロロホルムのようなハロゲン化炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、炭酸ジエチルのようなエステル類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテルのようなエーテル類;メタノ−ル、エタノ−ル、n−プロパノ−ル、イソプロパノ−ル、n−ブタノ−ル、イソブタノ−ル、t−ブタノ−ル、イソアミルアルコ−ル、ジエチレングリコール、グリセリン、オクタノール、シクロヘキサノール、メチルセロソルブのようなアルコ−ル類;アセトニトリル、イソブチロニトリルのようなニトリル類;ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドのようなアミド類;のうち1種又は2種以上を混合して用いることができる。これらのうち、有機溶媒として、好ましくは、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、ペンタノール、酢酸エチル、又はアセトンであり;さらに好ましくはエタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、ペンタノール、酢酸エチル、又はアセトンである。2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシドの濃度として、0.01重量%〜50重量%があげられ、好ましくは0.1重量%〜20重量%、さらに好ましくは1重量%〜10重量%である。
【0023】
溶解工程では、たとえば、水に有機溶媒を加えた後、2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシド(原料)を加えて、溶液を得ればよい。溶解工程における溶液の温度として、10℃〜150℃があげられ、好ましくは40℃〜120℃であり、より好ましくは70℃〜90℃であり、さらに好ましくは75℃〜85℃である。そして好ましくは、溶媒の温度を一定に保った状態で、攪拌しながら、又は攪拌せずに原料を添加する。溶解工程では、たとえば、常圧環境下において反応を進めればよい。たとえば、目視により原料が溶解した時点で、溶解工程を終了すればよい。
【0024】
結晶化工程における結晶化方法として、溶液を冷却する方法、溶液の濃度を薄めつつ冷却する方法、溶媒を蒸発させる方法、及びこれらの組み合わせなどがあげられる。これらの中では、溶液を冷却する方法、又は溶液の濃度を薄めつつ冷却する方法が好ましい。溶液の濃度を薄めつつ冷却する方法においては、たとえば、溶液に冷水を加える方法があげられる。また、静置晶析、攪拌晶析又はこれらを組み合わせて結晶化を行ってもよく、工業的には攪拌晶析が好ましい。結晶化工程では、容器の外側から冷却してもよいし、容器内に冷却装置を挿入し内部から冷却してもよい。結晶化工程では、溶液を0℃〜65℃とするものがあげられ、好ましくは、5℃〜40℃で行い、より好ましくは10℃〜35℃で行い、さらに好ましくは15℃〜30℃で行う。また、溶液にC型結晶を種晶として加えることにより、結晶化を促進することは、本発明の好ましい実施態様である。結晶化工程における圧力は、常圧で行えばよいが、溶媒を蒸発させることにより結晶化を行う場合は、減圧下(たとえば、0.1気圧〜0.9気圧にて)行うことが好ましい。結晶化時間として、1分〜24時間があげられ、好ましくは5分〜10時間であり、より好ましくは10分〜5時間である。
【0025】
上述した工程により析出したC型結晶をウエット状態で使用する場合には、そのまま分散状態で用いてもよい。また、溶液からろ過、遠心分離などにより溶媒と適度に分離して、用いてもよい。ただし、この場合、C型結晶の純度が高くならない場合がある。そこで、通常は、溶液から結晶をろ過するか又は遠心分離するなどして、結晶を溶媒から分離し、その後乾燥させることによりC型結晶を得る。ろ過方法として、たとえば、フィルターろ過、加圧ろ過、又は減圧ろ過があげられる。乾燥させる温度は、65℃以上があげられ、好ましくは65℃以上C型結晶の融点以下、またはA型結晶の融点以上C型結晶の融点以下であり、より好ましくは、80℃以上160℃以下であり、さらに好ましくは、130℃以上160℃以下であり、特に好ましくは135℃以上145℃以下である。比較的低温で乾燥を行うとA型結晶が得られるが、あえて高い温度で乾燥させることにより、C型結晶を優位に結晶化でき、C型結晶の純度を高めることができる。乾燥時間は、乾燥温度、得ようとする結晶の状態(束状態結晶、針状結晶、その平均太さなど)などにより適宜調整すればよく、たとえば、1分〜24時間があげられ、好ましくは5分〜10時間であり、より好ましくは10分〜5時間である。
【0026】
以下、C型結晶の上記とは別の製造方法について説明する。この方法は、溶媒を上記の水系溶媒以外の溶媒とする他は、上記したC型結晶の製造方法と同様に行えばよい。このような溶媒として、C1-C5アルコール、C1-C10アルカン、又はこれらの混合溶媒があげられる。これらのうちで、好ましくはC1-C5アルコール及びC1-C10アルカンの混合溶媒である。C1-C5アルコールとして、好ましくはメタノ−ル、エタノ−ル、n−プロパノ−ル、イソプロパノ−ル、n−ブタノ−ル、イソブタノ−ル、t−ブタノ−ルがあげられ、より好ましくはメタノ−ル、エタノ−ル、n−プロパノ−ル、イソプロパノ−ルなどのC1-C3アルコールであり、さらに好ましくはメタノ−ル又はエタノ−ルである。C1-C10アルカンは、直鎖アルカン、環状アルカン、又は分枝を有してよいアルカンがあげられる。これらの中では直鎖C1-C10アルカンが好ましい。より好ましくはC5-C9アルカンであり、さらに好ましくは直鎖C5-C9アルカンである。アルコールとアルカンは任意の割合で混合することができ、たとえば、重量比で1:10〜10:1、2:5〜5:2、1:3〜3:1、1:2〜2:1などがあげられる。以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。
【0027】
なお、本実施例における結晶の物性は、以下のように測定した。粉末X線回折測定は、リガク社製パウダーミニ(Powder Mini)を用い、日本薬局方一般試験法、粉末X線回折測定法に基づいて測定した。試料をガラス製ホルダーに詰め、X線はCu管球を使用した加速電圧40kV、電流30mAのCuKα線であり、スタート角3度、ストップ角40度、スキャン速度毎分4度を測定条件とした。
赤外吸収スペクトルは、堀場製作所製FT−720を用い、日本薬局方一般試験法、赤外吸収スペクトル測定法に基づいて測定した。結晶をKBr粉末と混ぜ、圧力をかけて錠剤とした(KBr法)。このKBr錠剤を、大気圧中で10回積算測定(4000cm−1〜400cm−1)した。
示差走査熱量測定は、パーキンエルマー社製パイリス(Pyris)1を用い、日本薬局方一般試験法、熱分析法に基づいて測定した。結晶を採取したアルミ容器を容器ホルダー側に装着し、空の容器を基準ホルダー側に装着した。測定条件としては、窒素を0.15MPaで流入し、30℃に保持した後5℃/minの加熱速度で200℃まで昇温させDSC測定を行った。
【0028】
[製造例1] 原料となる2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシドの製造
「1,2,3,4,6−ペンタ−O−アセチル−5−チオ−D−グルコピラノース」(1)から「2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−5−チオ−D−グルコピラノース」(2)を製造すると共に、「4,6−ジブロモフェノール」(3)と「4−エチルベンジルアルコール」(4)とから「4,6−ジブロモ−2−(4−エチルベンジル)フェノール」(5)を製造した後、これらの製造化合物(2)、(5)から「4’,6’−ジブロモ−2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−5−チオ−β−D−グルコピラノシド」(6)を製造し、この製造化合物(6)から「2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシド」(7)を得た。
【0029】
2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−5−チオ−D−グルコピラノース(2)の製造
1,2,3,4,6−ペンタ−O−アセチル−5−チオ−D−グルコピラノース(1)(34.0g,0.0837mol)のN,N−ジメチルホルムアミド(300mL)溶液に、メチルヒドラジン(6.70mL,0.120mmol)、酢酸(15mL,0.120mmol)及びN,N−ジメチルホルムアミド(10mL)の混合物を氷冷下加えた。反応液を室温にて2.5時間攪拌した後に、反応液に0.5M HCl(300mL)を氷冷下にて加え、これを酢酸エチル(250mL)で2回抽出した。合わせた有機相を水(200mL)、飽和NaHCO3水(100mL)、水(100mL)、飽和食塩水(100mL)の順で洗浄し、MgSO4、活性炭(1g)を加えた。不溶物をろ過した後に、ろ液を減圧下濃縮した。得られた残渣をイソプロピルエーテル(70mL)から結晶化し、表題化合物(2)(26.9g,88%)を無色結晶として得た。
【0030】
4,6−ジブロモ−2−(4−エチルベンジル)フェノール(5)の製造方法
4,6−ジブロモフェノール(3)、4−エチルベンジルアルコール(4)及びメタンスルホン酸の混合物を160℃で25分間加熱攪拌した。反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=9:1)にて精製し表題化合物(5)を得た。
【0031】
4’,6’−ジブロモ−2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−5−チオ−β−D−グルコピラノシド(6)の製造
2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−5−チオ−D−グルコピラノース(2)(510mg,1.4mmol)、4,6−ジブロモ−2−(4−エチルベンジル)フェノール(5)(1.05g,2.8mmol)、トリフェニルホスフィン(550mg,2.1mmol)及びトルエン(8mL)の混合物に、氷冷下、ジイソプロピルアゾジカルボキシレート(40%トルエン溶液、1.06g,2.1mmol)をゆっくり滴下した。室温で12時間攪拌した後に、反応液を濃縮し得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=7:3)にて精製し、無色粉末状の表題化合物(6)(550mg,55%)を得た。
【0032】
2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシド(7)の製造
4’,6’−ジブロモ−2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−5−チオ−β−D−グルコピラノシド(6)(410mg,0.572mmol)、炭酸カリウム(158mg,1.15mmol)、10%パラジウム活性炭(50%wet、200mg)、メタノール(20mL)の混合物を水素雰囲気下、室温で20時間攪拌した。反応液中の不溶物をセライトを通してろ過し、そのろ液を濃縮した。得られた残渣をメタノール−水から再結晶し、無色粉末状の表題化合物(7)(177mg,79%)を得た。
【0033】
[製造例2] 2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシド(7)の製造
また、製造例1とは、別の方法により標題化合物(7)を得た、具体的には、「1,2,3,4,6−ペンタ−O−アセチル−5−チオ−D−グルコピラノース」(1)から「2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−5−チオ−D−グルコピラノース」(2)を製造すると共に、「フェノール」(8)と「4−エチルベンジルアルコール」(4)とから「2−(4−エチルベンジル)フェノール」(9)を製造した後、これらの製造化合物(2)、(9)から「2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−5−チオ−β−D−グルコピラノシド」(10)を製造し、この製造化合物(10)から「2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシド」(7)を得た。
【0034】
2−(4−エチルベンジル)フェノール(9)の製造
フェノール(8)、4−エチルベンジルアルコール(4)及びメタンスルホン酸の混合物を160℃で25分間加熱攪拌した。反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=9:1)にて精製し、表題化合物(9)を得た。
【0035】
2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−5−チオ−β−D−グルコピラノシド(10)の製造
2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−5−チオ−D−グルコピラノース(2)(100mg,0.274mmol)、2−(4−エチルベンジル)フェノール(9)(117mg,0.551mmol)、トリフェニルホスフィン(144mg,0.548mmol)及びTHF(3mL)の混合物に、室温で、ジエチルアゾジカルボキシレート(40%トルエン溶液、0.24mL)をゆっくり滴下した。室温で20時間攪拌した後に、反応液を濃縮し得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=7:3)にて精製し、無色粉末状の表題化合物(10)(12mg,11%)を得た。
【0036】
2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシド(7)の製造
2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 2,3,4,6−テトラ−O−アセチル−5−チオ−β−D−グルコピラノシド(10)(310mg,0.555mmol)とメタノール(5mL)の混合液にナトリウムメトキシド(30mg,0.555mmol)を加え、室温にて10時間攪拌した。反応液に Dowex-50Wx8 イオン交換樹脂を加えて中和し、混合物を濾過した。得られたろ液を濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=20:1)にて精製し、無色粉末状の表題化合物(7)(170mg,78%)を得た。
【実施例1】
【0037】
2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシド(300mg)にエタノール(4.5ml)、精製水(7.5ml)を加えて加熱溶解し、撹拌しながら室温まで放冷し結晶を析出させた。析出した結晶をろ取した後に減圧乾燥後、140℃で3時間乾燥し、結晶を得た。この結晶の粉末X線回折パターン、臭化カリウム錠中で測定した赤外吸収スペクトル、及び示差走査熱量を図1、図2及び図3に示す。これらから、得られた結晶は、2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシドの純度の高いC型結晶であることがわかった。
【実施例2】
【0038】
2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシド(1.5g)にエタノール(15ml)を加えて加熱溶解し、そこにヘプタン(15ml)を加えて攪拌しながら室温まで放冷し結晶を析出させた。析出した結晶をろ取した後に減圧乾燥後、140℃で3時間乾燥し、結晶を得た。この結晶の粉末X線回折パターンを測定し、C型結晶であることを確認した。
【0039】
実施例1及び実施例2で得られた2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシドのC型結晶(100mg)を秤量瓶に量りとり、臭化ナトリウムで相対湿度60%(室温)に調湿したデシケータに4週間保存した。保存後の結晶型を粉末X線回折で確認した結果、依然としてC型結晶であり、変化していなかった。
【0040】
実施例1及び実施例2で得られた2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシドのC型結晶(約100mg)をガラスに量りとり密栓後、40℃に保存した。保存後1ヶ月で、結晶型を粉末X線回折により確認した。その結果、依然としてC型結晶であり、変化していなかった。
【0041】
2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシドのB型結晶の過剰量と、実施例1及び実施例2で得られた2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシドのC型結晶の過剰量とを、それぞれ水2mLに加え、速やかに振とうした。振とう後の溶解量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定し、溶解度を測定した。本試験は25℃で実施した。その結果、B型結晶の溶解度は約23μg/mlであるのに対し、C型結晶の溶解度は約50μg/mlであり、C型結晶は2倍近い溶解度であった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシドの結晶は、所定の薬理効果を有するほか、保存性などに優れるので、医薬品の原料などとして、たとえば医薬品業で利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシドのC型結晶の粉末X線回折パターンである。
【図2】図2は、2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシドのC型結晶の赤外吸収スペクトル(ΚBr法)である。
【図3】図3は、2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシドのC型結晶の示差走査熱量測定パターンである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の物性を少なくとも一つ有する、2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシドの結晶。
(a)粉末X線回折(Cu−Κα)で、2θ=8.1度、12.8度、19.6度及び23.4度にピークを有する;
(b)赤外吸収スペクトルにおいて、特性吸収帯が1490cm−1、1233cm−1、840cm−1及び745cm−1にある;
(c)示差走査熱量測定の吸熱ピークが157℃〜163℃にある;及び
(d)融点が、157℃〜163℃にある。
【請求項2】
有機溶媒と水との混合溶媒に、2’−(4’−エチルベンジル)フェニル5−チオ−β−D−グルコピラノシドを溶解させた後、結晶化し、
得られた結晶を65℃以上で乾燥させる請求項1に記載の2’−(4’−エチルベンジル)フェニル5−チオ−β−D−グルコピラノシドの結晶の製造方法。
【請求項3】
前記結晶を乾燥させる工程を、80℃以上160℃以下で行う請求項2に記載の2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシドの結晶の製造方法。
【請求項4】
前記結晶を乾燥させる工程を、130℃以上160℃以下で行う請求項2に記載の2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシドの結晶の製造方法。
【請求項5】
C1-C5アルコール、C1-C10アルカン、又はこれらの混合溶媒に、2’−(4’−エチルベンジル)フェニル5−チオ−β−D−グルコピラノシドを溶解させた後、結晶化し、
得られた結晶を65℃以上で乾燥させる請求項1に記載の2’−(4’−エチルベンジル)フェニル5−チオ−β−D−グルコピラノシドの結晶の製造方法。
【請求項6】
前記C1-C5アルコールがC1-C3アルコールであり、前記C1-C10アルカンがC5-C9アルカンである請求項5に記載の2’−(4’−エチルベンジル)フェニル5−チオ−β−D−グルコピラノシドの結晶の製造方法。
【請求項7】
前記結晶を乾燥させる工程を、80℃以上160℃以下で行う請求項5に記載の2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシドの結晶の製造方法。
【請求項8】
前記結晶を乾燥させる工程を、130℃以上160℃以下で行う請求項5に記載の2’−(4’−エチルベンジル)フェニル 5−チオ−β−D−グルコピラノシドの結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−328054(P2006−328054A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−120515(P2006−120515)
【出願日】平成18年4月25日(2006.4.25)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【復代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
【復代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
【復代理人】
【識別番号】100093676
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 純子
【復代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
【Fターム(参考)】