説明

2−アミノ−5−ヨード安息香酸の製造方法

【課題】
2−アミノ安息香酸をヨウ素化して2−アミノ−5−ヨード安息香酸を製造するに当たり、高品質の2−アミノ−5−ヨード安息香酸を、高収率、かつ安価に製造できる、効率的に極めて優れた工業的生産手段を提供する。
【解決手段】
2−アミノ安息香酸と分子状ヨウ素を酸化剤の存在下、水と相分離する有機溶剤を含む溶媒中で反応させ、該反応液または該反応液から反応生成物である2−アミノ−5−ヨード安息香酸の結晶を分離した母液に還元剤を含む水溶液を加え混合した後、相分離させた有機溶剤を回収する。このようにして回収した溶剤を仕込み溶媒として再使用することにより、品質的に優れた2−アミノ安息香酸を高い収率でしかも経済的に製造することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2−アミノ安息香酸をヨウ素化する2−アミノ−5−ヨード安息香酸の高選択的で工業的に有利な製造方法に関する。さらに詳しくは、2−アミノ安息香酸と分子状ヨウ素を酸化剤の存在下に溶媒中で反応させて2−アミノ−5−ヨード安息香酸を製造する方法において、水と相分離する有機溶剤を含む溶媒を用いて反応を行い、該反応液または該反応液から反応生成物である2−アミノ−5−ヨード安息香酸の結晶を分離した後に得られる母液に還元剤を含む水溶液を加え混合した後、相分離させた有機溶剤を分取し回収することを特徴とする、2−アミノ安息香酸から2−アミノ−5−ヨード安息香酸を製造する方法に関する。2−アミノ−5−ヨード安息香酸は医薬、農薬の他、機能化学品原料として有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
従来、2−アミノ安息香酸と分子状ヨウ素を酸化剤の存在下に溶媒中で反応させ2−アミノ−5−ヨード安息香酸を製造する方法として、次のような方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この方法はヨウ素利用効率、収率、品質の面で優れた方法であるが、使用されている溶剤は酢酸または含水酢酸のみであり、他の溶剤使用例や、過酸化水素等の過酸化物の処理に関する記載の他、溶剤回収に関する記載も示されていない。
【特許文献1】国際公開第06/016510号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、2−アミノ安息香酸をヨウ素化して2−アミノ−5−ヨード安息香酸を製造するに当たり、反応後の過酸化物の処理や溶剤回収を含めて、安価、高ヨウ素利用効率、高収率かつ高品質で、工業的に有利に2−アミノ−5−ヨード安息香酸を得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、2−アミノ安息香酸と分子状ヨウ素を酸化剤の存在下に溶媒中で反応させ、2−アミノ−5−ヨード安息香酸を製造する方法において、水と相分離する有機溶剤を含む溶媒を用いて反応を行い、該反応液または該反応液から反応生成物である2−アミノ−5−ヨード安息香酸の結晶を分離した母液に還元剤を含む水溶液を加え混合した後、相分離させた有機溶剤を分取し回収することによって、有機溶剤の再使用が極めて容易になり、結果として品質的に優れた2−アミノ−5−ヨード安息香酸を経済的に製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
即ち、本発明は、2―アミノ安息香酸をヨウ素化して2−アミノ−5−ヨード安息香酸を製造するための(1)から(6)に示す効率的に優れた製造方法に関する。
(1)2−アミノ安息香酸と分子状ヨウ素を酸化剤の存在下に溶媒中で反応させて2−アミノ−5−ヨード安息香酸を製造する方法において、水と相分離する有機溶剤を含む溶媒を用いて反応を行い、該反応液または該反応液から反応生成物である2−アミノ−5−ヨード安息香酸の結晶を分離した母液に還元剤を含む水溶液を加え混合した後、相分離させた有機溶剤を回収することを特徴とする、2−アミノ安息香酸からの2−アミノ−5−ヨード安息香酸の製造方法。
(2)水と相分離する有機溶剤が炭素数4から8のアルコールである、(1)に記載の製造方法。
(3)水と相分離する有機溶剤がn−ブチルアルコール、イソブチルアルコールの何れか一種以上である、(2)に記載の製造方法。
(4)酸化剤が過酸化水素である、(1)に記載の製造方法。
(5)分子状ヨウ素に対する過酸化水素の使用モル比が0.8から4倍モルの範囲である、(4)に記載の製造方法。
(6)回収した、水と相分離する有機溶剤を反応用の溶媒として再使用する、(1)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、医薬中間体として有用な2−アミノ−5−ヨード安息香酸を安価、高収率、高品質に製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本反応で使用する有機溶剤としては、水と相分離する有機溶剤が使用され、好ましくは炭素数が4から8のアルコールが、さらに好ましくはn−ブチルアルコール、イソブチルアルコールが使用できる。通常、炭素数が3以下のアルコールは水と相分離せず、炭素数が9以上のアルコールは水との相溶性が低くヨウ素化反応の反応速度が低下するので好ましくない。使用する有機溶剤量は、2−アミノ安息香酸1重量部に対して4から10重量部の範囲が適当である。4重量部を下回る場合は2−アミノ安息香酸が溶解しにくくなり、10重量部を上回る場合は特に支障はないが回収溶媒量が多くなるだけで不経済である。
【0008】
反応終了後、例えば、反応液に還元剤を含む水溶液を加え混合した後、該混合液を冷却し析出した反応生成物を分離することによって得られる母液から、あるいは、反応液を冷却し析出した反応生成物を分離した後、得られた母液に還元剤を含む水溶液を加えた混合液から、過酸化水素等の過酸化物を含まない有機溶剤を上相より得ることができる。これによって回収した有機溶剤をそのまま反応原料として再使用することが可能となる。なお、当然ながら、このようにして回収した有機溶剤に蒸留操作を加えた後、再使用することも妨げない。
【0009】
反応温度は20から100℃の範囲が好ましく、40から80℃がより好ましい。反応時間は反応規模、反応温度により異なるが、1から5時間の範囲が適当である。
【0010】
反応に用いる酸化剤としては、入手が容易で安価であり、反応後の還元処理も容易であることから過酸化水素が好ましい。使用する過酸化水素は、通常の過酸化水素水の形で良い。濃度としては60%を超えるような高濃度のものである必要は特になく、工業的に通常取り扱われている30から60%の濃度のもので良い。過酸化水素の量は分子状ヨウ素に対して、好ましくは0.8から4倍モル、より好ましくは1から1.5倍モルの範囲が望ましい。過酸化水素の量がそれを下回る場合は、充分な反応速度と収率が得られず、4倍モルを上回る場合は、反応速度の面では問題ないが、副反応による選択率の低下が大きくなるため好ましくない。一方、過酸化水素の添加は反応初期から全量反応系に加えても良いし、反応の進行と共に逐次添加しても良いが、反応温度制御の点から、逐次添加するほうが好ましい。また、過酸化水素以外の、過塩素酸や過ヨウ素酸、過塩素酸ナトリウムや過塩素酸カリウムなどの過塩素酸塩類、過ヨウ素酸ナトリウムや過ヨウ素酸カリウムなどの過ヨウ素酸塩類、過硫酸ナトリウムなどの過硫酸塩類などの酸化剤と、本発明の目的を妨げない範囲で適宜組み合わせて使用してもよい。
【0011】
本発明で使用する分子状ヨウ素の量は、2−アミノ安息香酸に対して0.3から0.7倍モルあれば良く、0.5倍モルが好ましい。分子状ヨウ素使用量がそれを下回る場合には2−アミノ安息香酸の転化率が低く、生産性が下がるうえ、未反応の2−アミノ安息香酸が残存することになるため、得られる2−アミノ−5−ヨード安息香酸の精製が必要となる。またそれを上回る場合には、目的物の2−アミノ−5−ヨード安息香酸が更にヨウ素化され、ジヨード化した高沸物ができるおそれがある。分子状ヨウ素は反応初期から全量反応系に加えても良いし、反応の進行と共に逐次添加しても良い。
【0012】
本発明で使用する還元剤を含んだ水溶液としては、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムおよび亜硫酸水素ナトリウム等の還元剤を含む水溶液が挙げられる。水溶液中の還元剤の添加量は過酸化物に対して1から5倍モルが好ましく、より好ましくは、1.2から3倍モルである。
【0013】
本発明の方法では、目的物である2−アミノ−5−ヨード安息香酸の選択率が高いため、反応後、冷却等によって生成物を析出させるだけで高純度の2−アミノ−5−ヨード安息香酸を高収率で得ることができる。また、反応後の過酸化物の除去処理や結晶分離後の溶媒回収および回収溶媒の再使用が容易であるため、経済的に2−アミノ−5−ヨード安息香酸の製造を実施することができる。
【実施例】
【0014】
以下、実施例および比較例をもって本発明をより詳細に説明するが、当然のことながらこれらの例にのみ本発明が限定されるものではない。

実施例1
a)2-アミノ安息香酸10.0g(72.9mmol)、分子状ヨウ素9.3g(36.6mmol)、イソブチルアルコール60gの混合物に、攪拌下、30%過酸化水素水4.1g(36.2mmol)を滴下しながら50℃で2時間反応させた後、室温に冷却し、濾過により結晶15.6gを取得した。得られた結晶および母液を高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、2-アミノ安息香酸転化率95.6%、2-アミノ-5-ヨード安息香酸選択率97.9%、2-アミノ-3-ヨード安息香酸選択率0.8%、2-アミノ-5-ヨード安息香酸単離収率80.8%、結晶中の2-アミノ-5-ヨード安息香酸純度99.3%、2-アミノ-5-ヨード安息香酸のヨウ素基準単離収率80.4%であった。
b)上記結晶分離により得られた母液67gに5%亜硫酸ナトリウム水溶液30gを加え混合した後、静置し、二相分離した上相よりイソブチルアルコール53gを含む回収液65gを得た。次いで2-アミノ安息香酸10.0g(72.9mmol)、分子状ヨウ素9.3g(36.6mmol)、およびイソブチルアルコール52gを含む上記回収液64gの混合物に、攪拌下、30%過酸化水素水4.1g(36.2mmol)を滴下しながら50℃で2時間反応させた後、室温に冷却し、濾過により結晶18.0gを取得した。得られた結晶および母液を高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、再使用した回収液中に含まれていた2-アミノ-5-ヨード安息香酸2.4gを考慮した反応成績は、2-アミノ安息香酸転化率95.6%、2-アミノ-5-ヨード安息香酸選択率98.1%、2-アミノ-3-ヨード安息香酸選択率0.9%、2-アミノ-5-ヨード安息香酸単離収率80.6%、結晶中の2-アミノ-5-ヨード安息香酸純度99.3%、2-アミノ-5-ヨード安息香酸のヨウ素基準単離収率80.2%であった。
【0015】
実施例2
イソブチルアルコールの代わりにn-ブチルアルコールを用いた以外は実施例1a)と同様に操作し結晶14.4gを取得した。得られた結晶および母液を高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、2-アミノ安息香酸転化率95.8%、2-アミノ-5-ヨード安息香酸選択率97.1%、2-アミノ-3-ヨード安息香酸選択率0.8%、2-アミノ-5-ヨード安息香酸単離収率74.5%、結晶中の2-アミノ-5-ヨード安息香酸純度99.2%、2-アミノ-5-ヨード安息香酸のヨウ素基準単離収率74.1%であった。
更に、得られた母液67gに5%亜硫酸ナトリウム水溶液30gを加え混合した後、静置し、二相分離した上相よりn-ブチルアルコール54gを含む回収液70gを得た。次いで2-アミノ安息香酸10.0g(72.9mmol)、分子状ヨウ素9.3g(36.6mmol)、およびn-ブチルアルコール50gを含む上記回収液65gの混合物に、攪拌下、30%過酸化水素水4.1g(36.2mmol)を滴下しながら50℃で2時間反応させた後、室温に冷却し、濾過により結晶18.1gを取得した。得られた結晶および母液を高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、再使用した回収液中に含まれていた2-アミノ-5-ヨード安息香酸3.2gを考慮した反応成績は、2-アミノ安息香酸転化率94.2%、2-アミノ-5-ヨード安息香酸選択率98.2%、2-アミノ-3-ヨード安息香酸選択率0.8%、2-アミノ-5-ヨード安息香酸単離収率76.9%、結晶中の2-アミノ-5-ヨード安息香酸純度99.3%、2-アミノ-5-ヨード安息香酸のヨウ素基準単離収率76.5%であった。
【0016】
比較例1
溶媒としてイソブチルアルコール60gの代わりに酢酸75gを用いた以外は実施例1と同様に操作し結晶15.7gを取得した。得られた結晶および母液を高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、2-アミノ安息香酸転化率95.3%、2-アミノ-5-ヨード安息香酸選択率97.8%、2-アミノ-3-ヨード安息香酸選択率1.4%、2-アミノ-5-ヨード安息香酸単離収率81.1%、結晶中の2-アミノ-5-ヨード安息香酸純度99.1%、2-アミノ-5-ヨード安息香酸のヨウ素基準単離収率80.7%であった。
更に、結晶分離により得られた母液82gに5%亜硫酸ナトリウム水溶液30gを加え混合し、得られた液をエバポレータにて減圧下50gに濃縮した。この濃縮物に2-アミノ安息香酸10.0g(72.9mmol)、分子状ヨウ素9.3g(36.6mmol)、および酢酸25gを加え、攪拌下、30%過酸化水素水4.1g(36.2mmol)を滴下しながら50℃で2時間反応させた後、室温に冷却し、濾過により結晶14.2gを取得した。得られた結晶および母液を高速液体クロマトグラフィーにより分析したところ、上記濃縮物中に含まれていた2-アミノ-5-ヨード安息香酸2.3gを考慮した反応成績は、2-アミノ安息香酸転化率74.4%、2-アミノ-5-ヨード安息香酸選択率96.3%、2-アミノ-3-ヨード安息香酸選択率1.3%、2-アミノ-5-ヨード安息香酸単離収率59.7%、結晶中の2-アミノ-5-ヨード安息香酸純度96.9%、2-アミノ-5-ヨード安息香酸のヨウ素基準単離収率59.4%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−アミノ安息香酸と分子状ヨウ素を酸化剤の存在下に溶媒中で反応させて2−アミノ−5−ヨード安息香酸を製造する方法において、水と相分離する有機溶剤を含む溶媒を用いて反応を行い、該反応液または該反応液から反応生成物である2−アミノ−5−ヨード安息香酸の結晶を分離した母液に還元剤を含
む水溶液を加え混合した後、相分離させた有機溶剤を回収することを特徴とする、2−アミノ安息香酸からの2−アミノ−5−ヨード安息香酸の製造方法。
【請求項2】
水と相分離する有機溶剤が炭素数4から8のアルコールである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
水と相分離する有機溶剤がn−ブチルアルコール、イソブチルアルコールの何れか一種以上である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
酸化剤が過酸化水素である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
分子状ヨウ素に対する過酸化水素の使用モル比が0.8から4倍モルの範囲である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
回収した、水と相分離する有機溶剤を反応用の溶媒として再使用する、請求項1に記載の製造方法。

【公開番号】特開2008−74722(P2008−74722A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−252835(P2006−252835)
【出願日】平成18年9月19日(2006.9.19)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】