説明

2−アミノブタンアミド・無機酸塩の製造方法

【課題】アルカリを用いて2−アミノブタンアミドを遊離させることなく、溶媒中で直接的に塩交換を行うことにより、2−アミノブタンアミド・有機酸塩から2−アミノブタンアミド・無機酸塩を高い収率および高い生産性で製造する方法を提供すること。
【解決手段】溶媒中で2−アミノブタンアミド・有機酸塩を直接的に塩交換することにより、2−アミノブタンアミド・無機酸塩を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2−アミノブタンアミド・無機酸塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2−アミノブタンアミドは、医薬品や農薬などの原料または中間体として有用な化合物である。一般に、医薬品や農薬などに用いられる化合物は、光学活性を示すことが多く、ラセミ体の最終生成物を光学分割するよりも、光学活性な原料または中間体から出発して光学活性な最終生成物を製造する方が効率的である。それゆえ、2−アミノブタンアミドの場合も、不斉炭素原子を有し、光学活性を示すことから、原料または中間体として、光学活性な形態で提供する必要がある。
【0003】
2−アミノブタンアミドは、塩基性物質であるので、光学分割する際には、光学分割剤として、光学活性な有機酸が用いられる。この場合、2−アミノブタンアミドは、光学活性な有機酸塩の形態で得られる。工業的には、この有機酸塩を、例えば、塩酸塩などの無機酸塩に変換してから原料または中間体として用いることが望ましい。
【0004】
通常、塩基性物質である有機化合物の塩交換は、アルカリ水溶液/有機溶媒の二相抽出で遊離化した後、酸処理することにより行われる。しかし、2−アミノブタンアミドは、水および有機溶媒の両方に親和性を有するので、アルカリ水溶液/有機溶媒の二相抽出を行うことが不可能である。そこで、従来技術では、特定の有機溶媒に2−アミノブタンアミド・有機酸塩を懸濁させ、この懸濁液に無機塩基を添加して有機酸を無機塩基との塩の形態で除去し、2−アミノブタンアミドを遊離させた後、酸処理することにより塩交換を行っている。
【0005】
具体的には、例えば、特許文献1には、(S)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩をメタノールに懸濁させ、アンモニアガスを吹き込んで、酒石酸を酒石酸アンモニウムとして濾別除去し、(S)−2−アミノブタンアミドを遊離させた後、この(S)−2−アミノブタンアミドを塩酸/イソプロパノールで処理して、(S)−2−アミノブタンアミド・塩酸塩を得ることが開示されている(特に、特許文献1の実施例1の3)を参照)。また、特許文献2には、(S)−2−アミノブタンアミド・(R)−マンデル酸塩を水酸化ナトリウム/メタノールに懸濁させ、マンデル酸をマンデル酸ナトリウムとして濾別除去し、(S)−2−アミノブタンアミドを遊離させた後、この(S)−2−アミノブタンアミドを塩酸/イソプロパノールで処理して、(S)−2−アミノブタンアミド・塩酸塩を得ることが開示されている(特に、特許文献2の実施例5の後半部分を参照)。
【0006】
ところが、通常、一回の操作では、全ての2−アミノブタンアミドを遊離させることはできず、2−アミノブタンアミドの回収率が低いという問題点がある。同じ操作を何度か繰り返すことにより、2−アミノブタンアミドの回収率を向上させることはできるが、極めて不経済である。また、2−アミノブタンアミドを遊離化させ、有機酸のアルカリ塩を濾別除去する工程が必要で煩雑であり、しかも、製造工程が増えることにより、2−アミノブタンアミド・無機酸塩の収率が低下する懸念がある。さらに、2−アミノブタンアミド・有機酸塩に対して多量のアルカリを用いているので、生産性が低下し、製造コストが上昇するという問題点もある。
【特許文献1】WO 2006/103696 A2
【特許文献2】CN 1583721 A
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した状況の下、本発明が解決すべき課題は、アルカリを用いて2−アミノブタンアミドを遊離させることなく、溶媒中で直接的に塩交換を行うことにより、2−アミノブタンアミド・有機酸塩から2−アミノブタンアミド・無機酸塩を高い収率および高い生産性で製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、種々検討の結果、溶媒中で2−アミノブタンアミド・有機酸塩を直接的に塩交換すれば、2−アミノブタンアミド・無機酸塩が高い収率および高い生産性で得られることを見出して、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、溶媒中で2−アミノブタンアミド・有機酸塩を直接的に塩交換することを特徴とする2−アミノブタンアミド・無機酸塩の製造方法を提供する。本発明の製造方法において、前記有機酸は、好ましくは、酒石酸またはマンデル酸である。また、前記溶媒は、好ましくは、アルコール類、ニトリル類および鎖状エーテル類よりなる群から選択される少なくとも1種である。さらに、前記無機酸は、好ましくは、ハロゲン化水素である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アルカリを用いて2−アミノブタンアミドを遊離させることなく、2−アミノブタンアミド・有機酸塩から2−アミノブタンアミド・無機酸塩を製造するので、さらに詳しくは、2−アミノブタンアミドを遊離させるためのアルカリを用いる必要がなく、また、有機酸のアルカリ塩を濾別除去する工程を必要とせず、製造工程を短縮することができるので、2−アミノブタンアミド・無機酸塩を高い収率および高い生産性で製造することができる。
【0011】
特に、溶媒としてアルコール類を用いれば、アルコール類は、2−アミノブタンアミド・無機酸塩の溶解度が非常に低く、かつ有機酸の溶解度が非常に高いので、2−アミノブタンアミド・無機酸塩の収率が向上する。また、アルコール類が有機酸とエステル化反応を起こし、生成した有機酸エステルは有機酸である場合よりもアルコール類への溶解度が高いので、アルコール類の使用量が少なくて済み、生産性が向上する。しかも、有機酸エステルは、易溶性である溶媒の種類が多いので、2−アミノブタンアミド・無機酸塩を析出させるために貧溶媒を添加する場合、貧溶媒の選択肢が広がるという利点もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明による2−アミノブタンアミド・無機酸塩の製造方法(以下「本発明の製造方法」ということがある。)は、溶媒中で2−アミノブタンアミド・有機酸塩を直接的に塩交換することを特徴とする。ここで、「直接的に塩交換する」とは、アルカリを用いて2−アミノブタンアミドを遊離させることなく、塩交換により、2−アミノブタンアミド・有機酸塩から2−アミノブタンアミド・無機酸塩を生成させることを意味する。
【0013】
原料となる2−アミノブタンアミド・有機酸塩を構成する2−アミノブタンアミドは、例えば、市販されている2−アミノブタン酸を利用するか、あるいは、プロピオンアルデヒドからStrecker法またはBucherer−Burgs法で2−アミノブタン酸を合成し、次いで、この2−アミノブタン酸をアミド化することにより、あるいはStrecker法で得られる中間体2−アミノブチロニトリルのニトリル基を加水分解してアミド基に変換することにより、容易に製造することができる。なお、2−アミノブタンアミドは、不斉炭素原子を有し、光学活性を示す場合があるが、ラセミ体であっても光学活性体またはその混合物であってもよい。それゆえ、2−アミノブタンアミドの光学純度は、特に限定されるものではない。
【0014】
原料となる2−アミノブタンアミド・有機酸塩を構成する有機酸は、2−アミノブタンアミドと塩を形成することができ、下記の無機酸によって置換され得る酸性度を有する有機酸であれば、特に限定されるものではない。有機酸の具体例としては、例えば、酒石酸、マンデル酸、リンゴ酸、乳酸、N−カルボベンゾキシ−L−フェニルアラニンなどのN−保護アミノ酸などが挙げられる。これらの有機酸のうち、酒石酸およびマンデル酸が特に好適である。なお、これらの有機酸は、不斉炭素原子を有し、光学活性を示す場合があるが、ラセミ体であっても光学活性体またはその混合物であってもよい。それゆえ、これらの有機酸の光学純度は、特に限定されるものではない。
【0015】
なお、原料となる2−アミノブタンアミド・酒石酸塩は、2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比が一定になりにくいが、高速液体クロマトグラフィー(HPLC;p−トルイル酸を内部標準物質として用いる)による含量分析により、2−アミノブタンアミド・酒石酸塩に含有される2−アミノブタンアミドの含量を求めることができる。
【0016】
原料となる2−アミノブタンアミド・有機酸塩は、溶媒に2−アミノブタンアミドを溶解した溶液と、溶媒に有機酸を溶解した溶液とを、所定の割合で混合して反応させた後、析出した塩を分離すればよい。なお、塩が析出しない場合には、反応液の溶媒を従来公知の蒸留などの方法で留去して、析出物または残渣の形態で得ればよい。この場合、2−アミノブタンアミドを溶解する溶媒と、有機酸を溶解する溶媒とは、同一であっても、異なっていてもよい。ただし、異なる溶媒を用いる場合には、相溶性を有する溶媒の組合せを用いることが好ましい。
【0017】
あるいは、原料となる2−アミノブタンアミド・有機酸塩は、2−アミノブタンアミドのラセミ体を光学活性な有機酸で光学分割することにより、製造することもできる。この場合、アルデヒド類やケトン類などの適当な触媒を用いて、エピマー化を行えば、所望の光学活性な2−アミノブタンアミド・有機酸塩の収率が向上する。
【0018】
生成物である2−アミノブタンアミド・無機酸塩を構成する無機酸は、2−アミノブタンアミドと塩を形成することができ、上記の有機酸を置換し得る酸性度を有する無機酸であれば、特に限定されるものではない。無機酸の具体例としては、例えば、ハロゲン化水素(例えば、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素)、硫酸および硝酸などが挙げられる。これらの無機酸のうち、ハロゲン化水素(例えば、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素)が特に好適である。
【0019】
塩交換における無機酸の使用量は、2−アミノブタンアミドに対して、通常、1当量以上であればよく、過剰の無機酸を回収・再利用しない場合は、好ましくは1〜3当量の範囲内である。無機酸の使用量が1当量未満であると、塩交換が充分に行われず、2−アミノブタンアミド・無機酸塩の収率および純度が低下することがある。逆に、無機酸の使用量が3当量を超えると、塩交換は充分に行えるが、必要以上に無機酸を使用することになり、生産性が低下することがある。なお、塩交換における無機酸の使用量は、過剰の無機酸を回収・再利用する場合は、2−アミノブタンアミドに対して、好ましくは1〜10当量の範囲内である。
【0020】
塩交換に用いる溶媒は、遊離した有機酸またはその反応物(例えば、有機酸エステル)を溶解すれば、特に限定されるものではない。溶媒の具体例としては、例えば、水;アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル類;1気圧、50℃の条件下で液体である炭素数1〜8のアルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール;ただし、これらのアルコール類の構造異性体を含む);アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類;などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの溶媒のうち、アルコール類、ニトリル類、鎖状エーテル類が好適であり、例えば、有機酸が酒石酸である場合は、酒石酸の溶解度が非常に高いことから、メタノールが特に好適であり、また、有機酸がマンデル酸である場合には、マンデル酸の溶解度が非常に高く、かつ2−アミノブタンアミド・無機酸塩の溶解度が非常に低いことから、アセトニトリルが特に好適である。
【0021】
塩交換における溶媒の使用量は、原料の種類や使用量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、具体的には、2−アミノブタンアミド・有機酸塩100質量部に対して、好ましくは50〜20,000質量部、より好ましくは100〜10,000質量部である。
【0022】
原料となる2−アミノブタンアミド・有機酸塩を直接的に塩交換するには、溶媒に2−アミノブタンアミド・有機酸塩を溶解および/または懸濁させ、この溶液および/または懸濁液に、無機酸のガスを吹き込むか、および/または、無機酸を含む溶媒を添加すればよい。塩交換における反応温度および反応時間は、原料の種類や使用量、無機酸の種類、溶媒の種類などに応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、具体的には、反応時間は、通常、0℃から溶媒の沸点の範囲内、好ましくは10℃〜90℃の範囲内、より好ましくは20℃〜60℃の範囲内であり、また、反応時間は、通常、瞬時から100時間の範囲内、好ましくは瞬時から24時間の範囲内、より好ましくは瞬時から6時間の範囲内である。反応終了後、必要に応じて、加熱、冷却、濃縮、希釈などの操作を行うこともできる。
【0023】
例えば、2−アミノブタンアミド・無機酸塩が溶媒に不溶性または難溶性である場合には、析出した2−アミノブタンアミド・無機酸塩をそのまま分離する。分離は、従来公知の濾過または遠心分離などの方法を用いて行う。反応に使用されなかった無機酸が反応液中に残存していることは特に問題ではないが、必要に応じて、2−アミノブタンアミド・無機酸塩を分離する前に溶媒と共に留去してもよい。また、留去した無機酸および/または溶媒は、これらをそのまま、もしくは互いに分離した後で再利用してもよい。このように、無機酸や溶媒を回収・再利用することにより、生産性が向上する。
【0024】
析出した2−アミノブタンアミド・無機酸塩中への有機酸の混入が問題である場合、別の溶媒を添加して、攪拌を継続することにより、有機酸を除去することができる。この場合、別の溶媒としては、2−アミノブタンアミド・無機酸塩および有機酸の両方が易溶性であれば、特に限定されるものではない。別の溶媒の具体例としては、例えば、水、メタノール、エタノールなどが挙げられる。別の溶媒の使用量は、塩交換の原料および溶媒の種類や使用量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、具体的には、塩交換の溶媒100質量部に対して、好ましくは3〜30質量部、より好ましくは5〜15質量部である。別の溶媒の使用量が3質量部未満であると、有機酸を除去する効果が不充分なことがある。逆に、別の溶媒の使用量が30質量部を超えると、2−アミノブタンアミド・無機酸塩が溶解しすぎて、収率が大幅に低下することがある。
【0025】
また、2−アミノブタンアミド・無機酸塩が溶媒に易溶性である場合は、遊離した有機酸またはその反応物(例えば、有機酸エステル)が析出しない程度まで溶媒を濃縮することにより、および/または、貧溶媒を添加することにより、析出した2−アミノブタンアミノ・無機酸塩を分離すればよい。分離は、従来公知の濾過または遠心分離などの方法を用いて行う。貧溶媒を添加する場合、貧溶媒は、2−アミノブタンアミド・無機酸塩が不溶性または難溶性であれば、特に限定されるものではない。貧溶媒の具体例としては、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル類;1気圧、室温の条件下で液体である炭素数2〜8のアルコール類(例えば、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール;ただし、これらのアルコール類の構造異性体を含む);アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類;などが挙げられる。これらの貧溶媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0026】
なお、濃縮により留去した溶媒は、従来公知の蒸留などの方法で回収・再利用してもよい。また、析出した2−アミノブタンアミド・無機酸塩を分離した後の溶液中の溶媒または貧溶媒は、従来公知の蒸留などの方法で回収・再利用してもよい。さらに、析出した2−アミノブタンアミド・無機酸塩を分離した後の溶液中に含有される有機酸および/または有機酸エステルは、例えば、濃縮することにより容易に回収することができる。この場合、有機酸エステルは、例えば、加水分解して有機酸とし、この有機酸を回収・再利用してもよい。このように、溶媒、貧溶媒、有機酸などを回収・再利用することにより、生産性が向上する。
【0027】
以上、説明したように、本発明の製造方法によれば、アルカリを用いて2−アミノブタンアミドを遊離させることなく、2−アミノブタンアミド・有機酸塩を直接的に塩交換することにより、2−アミノブタンアミド・無機酸塩を高い収率および高い生産性で製造することができる。本発明の製造方法により得られる2−アミノブタンアミド・無機酸塩の収率は、原料となる2−アミノブタンアミド・有機酸塩に含有される2−アミノブタンアミドを基準にして、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上である。また、本発明の製造方法により得られる2−アミノブタンアミド・無機酸塩は、例えば、医薬品や農薬などの原料または中間体として幅広く利用することができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0029】
≪実施例1≫
(S)−2−アミノブタンアミド・(R)−マンデル酸塩20gをアセトニトリル108gに懸濁させ、この懸濁液に塩化水素ガス3.4g(1.2当量)を吹き込んだ。この反応液を50℃で2時間熟成した後、10℃まで緩やかに冷却し、析出物を吸引濾過により濾別した。得られた濾過ケーキをアセトニトリル50gで洗浄し、50℃で4時間乾燥させて、(S)−2−アミノブタンアミド・塩酸塩10.6gを得た。収率97%。
【0030】
≪実施例2≫
(S)−2−アミノブタンアミド・(R)−マンデル酸塩191gをアセトニトリル1,026gに懸濁させ、この懸濁液に塩化水素ガス33g(1.2当量)を吹き込んだ。この反応液を50℃で1時間熟成した後、過剰の塩化水素ガスを追い出す目的でアセトニトリル191gを減圧留去してから、残留液にアセトニトリル159gを添加した後、さらにアセトニトリル153gを減圧留去した。残留液に水103gとアセトニトリル76gとの混合液を添加し、50℃で1時間熟成した後、5℃以下まで緩やかに冷却し、析出物を吸引濾過により濾別した。得られた濾過ケーキをアセトニトリル244gで洗浄し、50℃で5時間乾燥させて、(S)−2−アミノブタンアミド・塩酸塩91gを得た。収率87%。
【0031】
≪実施例3≫
(S)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩140gをメタノール575gに懸濁し、この懸濁液に塩化水素ガス25g((S)−2−アミノブタンアミドの分析含量に対して1.3当量)を吹き込んだ。この反応液からメタノール466gを留去した後、残留液に貧溶媒としてアセトニトリル327gを添加し、5℃まで緩やかに冷却し、析出物を吸引濾過により濾別した。得られた濾過ケーキをアセトニトリル71gで洗浄し、50℃で5時間乾燥させて、(S)−2−アミノブタンアミド・塩酸塩77gを得た。収率95%。
【0032】
なお、2−アミノブタンアミド・酒石酸塩は、2−アミノブタンアミドと酒石酸との組成比が一定になりにくいので、本実施例の収率は、原料となる(S)−2−アミノブタンアミド・(L)−酒石酸塩および生成物である(S)−2−アミノブタンアミド・塩酸塩に含有される2−アミノブタンアミドを高速液体クロマトグラフィー(HPLC;p−トルイル酸を内部標準物質として用いた)で含量分析した結果から求めた分析収率である。
【0033】
≪評価≫
アルカリを用いて2−アミノブタンアミドを遊離することなく、2−アミノブタンアミド・マンデル酸塩を直接的に塩交換することにより、2−アミノブタンアミド・塩酸塩を製造した実施例1および2、ならびに、アルカリを用いて2−アミノブタンアミドを遊離することなく、2−アミノブタンアミド・酒石酸塩を直接的に塩交換することにより、2−アミノブタンアミド・塩酸塩を製造した実施例3では、それぞれ97%、87%および95%という高い収率で、かつ、有機酸のアルカリ塩を濾別除去する工程を必要とせず、高い生産性で、2−アミノブタンアミド・塩酸塩が得られた。
【0034】
これに対し、水酸化ナトリウムを用いて2−アミノブタンアミドを遊離させ、マンデル酸ナトリウムを濾別除去した後、塩酸で処理することにより、2−アミノブタンアミド・塩酸塩を製造している特許文献1記載の方法では、2−アミノブタンアミド・マンデル酸塩に対して多量の水酸化ナトリウムを用いており、また、2−アミノブタンアミドを遊離させ、マンデル酸ナトリウムを濾別除去する工程が必要であるので、生産性が低い。さらに、アンモニアを用いて2−アミノブタンアミドを遊離させ、酒石酸アンモニウムを濾別除去した後、塩酸で処理することにより、2−アミノブタンアミド・塩酸塩を製造している特許文献2記載の方法では、70%というかなり低い収率でしか2−アミノブタンアミド・塩酸塩が得られず、しかも、2−アミノブタンアミド・酒石酸塩に対して多量のアンモニアを用いており、また、2−アミノブタンアミドを遊離させ、酒石酸アンモニウムを濾別除去する工程が必要であるので、生産性が低い。
【0035】
かくして、本発明の製造方法によれば、アルカリを用いて2−アミノブタンアミドを遊離させることなく、溶媒中で直接的に塩交換を行うことにより、2−アミノブタンアミド・有機酸塩から2−アミノブタンアミド・無機酸塩を高い収率および高い生産性で製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の製造方法は、2−アミノブタンアミド・無機酸塩を高い収率および高い生産性で製造することができるので、この化合物を原料または中間体として用いる医薬品または農薬の製造分野に多大の貢献をなすものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒中で2−アミノブタンアミド・有機酸塩を直接的に塩交換することを特徴とする2−アミノブタンアミド・無機酸塩の製造方法。
【請求項2】
前記有機酸が酒石酸またはマンデル酸である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記溶媒がアルコール類、ニトリル類および鎖状エーテル類よりなる群から選択される少なくとも1種である請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
前記無機酸がハロゲン化水素である請求項1〜3のいずれか1項記載の製造方法。

【公開番号】特開2008−308412(P2008−308412A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−155163(P2007−155163)
【出願日】平成19年6月12日(2007.6.12)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】