説明

2−アルキル−2−シクロアルケノンの製造方法

【課題】
2−アルキリデンシクロアルカノンを原料として、簡便な方法で効率よく、工業的に有利に2−アルキル−2−シクロアルケノンを製造する方法を提供する。
【解決手段】
2−アルキリデンシクロアルカノンを、少なくとも一種の白金族金属を担体に担持させてなる担持型固体触媒と連続的に接触させ、異性化反応を行うことを特徴とする2−アルキル−2−シクロアルケノンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2−アルキリデンシクロアルカノンを固体触媒と接触させることにより、2−アルキル−2−シクロアルケノンを連続的に製造する方法に関する。
2−アルキル−2−シクロアルケノンは、香料や医農薬の製造中間体等として有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
従来、2−アルキル−2−シクロアルケノンは、シクロアルカノンと飽和脂肪族アルデヒドを原料とするアルドール縮合反応により、2−(1−ヒドロキシアルキル)シクロアルカノンを合成し、次いで、脱水反応により2−アルキリデンシクロアルカノンとし、さらに、二重結合の異性化反応により2−アルキル−2−シクロアルカノンとする、3段階の反応を経て合成されている。
【0003】
例えば、香料であるジャスモン酸メチルの合成中間体として有用な2−n−ペンチル−2−シクロペンテノンを工業的に製造する場合には、まず第1工程として、シクロペンタノンとバレロアルデヒドを原料とするアルドール縮合反応により、2−(1−ヒドロキシ−n−ペンチル)シクロペンタノンを合成する。次いで、第2工程として、得られた2−(1−ヒドロキシ−n−ペンチル)シクロペンタノンを脱水する反応と、それにより生成する炭素−炭素二重結合を異性化する反応を同時に行って、目的物を得る方法が採用されている。
【0004】
この方法における各工程はいずれも液相で反応が実施され、それぞれ比較的高い反応収率で目的物を得ることができる。しかしながら、この方法を採用する場合、各工程における未反応物の回収や反応生成物の精製を行う操作を伴うために、出発原料基準の目的物の全収率は低いのが現状である。また、各工程は回分式(バッチ)反応で行われるため、製造設備が複雑になり、反応操作が煩雑となってサイクル時間が長くなるという問題があった。特に第2工程では、塩酸をはじめとする液状の無機酸を触媒として使用することが一般的であるが(特許文献1)、酸による反応器材料の腐食の問題から、高級材質の使用やグラスライニング加工が必須となり、設備投資額が増大し、また、中和工程を要するため、大量の廃棄物が発生する。
【0005】
一方、脱水反応と異性化反応とを別々の工程に分けて実施する方法も知られている(特許文献2〜4)。しかし、この方法では、異性化反応の工程はアミンのハロゲン化水素塩を触媒として用いた均一形触媒反応であり、使用後の触媒は回収が困難であるため、大量の廃棄物が発生するという問題がある。
【0006】
また、特許文献5及び6には、遷移金属触媒の存在下に2−ペンチリデンシクロペンタノンを異性化させて、2−n−ペンチル−2−シクロペンテノンを得る方法が開示されている。
しかし、特許文献5に記載の方法には、触媒を活性化するために用いる水素ガスにより、2−アルキルシクロペンタノンが副生し、目的とする2−アルキル−2−シクロペンテノンを高純度で得られないという欠点がある。また。特許文献6に記載の方法では、可溶性の遷移金属触媒を用いているため、触媒の回収が困難であるという欠点を有する。さらに、これらの製造方法ではいずれもバッチ式で反応を行うものであるため、工業的生産規模で2−アルキル−2−シクロペンテノンを製造する場合には、大きな反応器が必要となり、工業的に有利なものとはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭56−147740号公報
【特許文献2】特開2004−217620号公報
【特許文献3】特開2005−126445号公報
【特許文献4】特開2004−203844号公報
【特許文献5】特公昭58−42175号公報
【特許文献6】特公昭59−29051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、2−アルキリデンシクロアルカノンを原料として、簡便な方法で効率よく、工業的に有利に2−アルキル−2−シクロアルケノンを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、2−アルキル−2−シクロアルケノンを工業的に有利に製造する方法について鋭意研究を重ねた。その結果、特定の製造プロセスを採用することにより、簡便な方法で効率よく、工業的に有利に目的物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
かくして本発明によれば、下記(1)、(2)の2−アルキル−2−シクロアルケノンの製造方法が提供される。
(1)2−アルキリデンシクロアルカノンを、少なくとも一種の白金族金属を担体に担持させてなる担持型固体触媒と連続的に接触させ、異性化反応を行うことを特徴とする2−アルキル−2−シクロアルケノンの製造方法。
(2)前記固体触媒が、少なくとも一種の白金族金属に加えて、白金族以外の金属から選ばれる少なくとも一種の金属を担持させてなる担持型固体触媒であることを特徴とする(1)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、2−アルキリデンシクロアルカノンを原料として、簡便な方法で効率よく、工業的に有利に2−アルキル−2−シクロアルケノンを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】2−(1−ヒドロキシ−n−ペンチル)シクロペンタノンから本発明で用いる2−ペンチリデンシクロペンタノンを連続的に製造する装置の概念図である。
【図2】本発明の製造方法を実施するための製造装置の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、2−アルキリデンシクロアルカノンを、少なくとも一種の白金族金属を担体に担持させてなる担持型固体触媒と連続的に接触させ、異性化反応を行うことを特徴とする2−アルキル−2−シクロアルケノンの製造方法である。
【0014】
(1)2−アルキリデンシクロアルカノン
本発明に用いる2−アルキリデンシクロアルカノンは、環状飽和脂肪族ケトン骨格を有する2−アルキリデンシクロアルカノンである。
【0015】
前記環状飽和脂肪族ケトン骨格は、通常4〜10員環、好ましくは5〜7員環、より好ましくは5員環を有する。また、前記環状飽和脂肪族ケトン骨格は、異性化反応を妨げない限り、2位以外の任意の位置に置換基を有していてもよい。
【0016】
環状飽和脂肪族ケトン骨格の具体例としては、シクロブタノン骨格;シクロペンタノン、3−メチルシクロペンタノン、3−エチルシクロペンタノン、3−n−プロピルシクロペンタノン等のシクロペンタノン骨格;
シクロヘキサノン、3−メチルシクロヘキサノン、4−メチルシクロヘキサノン、3−エチルシクロヘキサノン、4−エチルシクロヘキサノン、3−n−プロピルシクロヘキサノン、4−n−プロピルシクロヘキサノン等のシクロヘキサノン骨格;
シクロヘプタノン、3−メチルシクロヘプタノン、4−メチルシクロヘプタノン等のシクロヘプタノン骨格;
シクロオクタノン、3−メチルシクロオクタノン、4−メチルシクロオクタノン、5−メチルシクロオクタノン、3,4−ジメチルシクロオクタノン等のシクロオクタノン骨格;
シクロノナノン、3−メチルシクロノナノン、4−メチルシクロノナノン、5−メチルシクロノナノン、3,4−ジメチルシクロノナノン、3,4,5−トリメチルシクロノナノン等のシクロノナノン骨格;
シクロデカノン、3−メチルシクロデカノン、4−メチルシクロデカノン、5−メチルシクロデカノン、6−メチルシクロデカノン、3−エチルシクロデカノン、3,4−ジメチルシクロデカノン、4,5−ジメチルシクロデカノン、3,4,5,6−テトラメチルシクロデカノン等のシクロデカノン骨格;等が挙げられる。
【0017】
これらの環状飽和脂肪族ケトン骨格の中では、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノンが好ましく、シクロペンタノンがもっとも好ましい。
【0018】
本発明に用いる2−アルキリデンシクロアルカノンのアルキリデン基の炭素数は、特に限定されないが、通常、1〜10、好ましくは2〜8、より好ましくは3〜7、更に好ましくは4〜6、特に好ましくは5である。
【0019】
かかるアルキリデン基の具体例としては、メチリデン基、エチリデン基、プロピリデン基、ブチリデン基、ペンチリデン基、ヘキシリデン基、ヘプチリデン基、オクチリデン基、ノニリデン基、デシリデン基等の直鎖アルキリデン基;
【0020】
2−メチルプロピリデン基、2−メチルブチリデン基、3−エチルブチリデン基、2,2−ジメチルブチリデン基、2,3−ジメチルブチリデン基、2,2,3−トリメチルブチリデン基、2−メチルペンチリデン基、3−メチルペンチリデン基、4−メチルペンチリデン基、2,2−ジメチルペンチリデン基、3,4−ジメチルペンチリデン基、2,2,3−トリメチルペンチリデン基、2−メチルヘキシリデン基、3−メチルヘキシリデン基、4−メチルヘキシリデン基、5−メチルヘキシリデン基、2−メチルへプチリデン基、3−メチルヘプチリデン基、2−エチルヘプチリデン基、2−メチルオクチリデン基、3−メチルオクチリデン基、4−メチルオクチリデン基、2−エチルオクチリデン基、3−メチルノニリデン基、4−メチルノニリデン基等の分岐を有するアルキリデン基;
【0021】
シクロブチルメチリデン基、シクロペンチルメチリデン基、(2−メチルシクロペンチル)メチリデン基、(3−メチルシクロペンチル)メチリデン基、シクロヘキシルメチリデン基、(2−メチルシクロヘキシル)メチリデン基、(3−メチルシクロヘキシル)メチリデン基、(2−エチルシクロヘキシル)メチリデン基、シクロヘプチルメチリデン基、(2−メチルシクロヘプチル)メチリデン基、(3−メチルシクロヘプチル)メチリデン基、(4−メチルシクロヘプチル)メチリデン基、シクロオクチルメチリデン基、(2−メチルシクロオクチル)メチリデン基、シクロノニルメチリデン基、2−シクロペンチルエチリデン基、2−シクロヘキシルエチリデン基等の環状構造を有するアルキリデン基;等が挙げられる。
【0022】
これらの中でも、メチリデン基、エチリデン基、プロピリデン基、ブチリデン基、ペンチリデン基、ヘキシリデン基、ヘプチリデン基、オクチリデン基、2−メチルブチリデン基、3−メチルブチリデン基、2−メチルペンチリデン基、3−メチルペンチリデン基、4−メチルペンチリデン基、シクロブチルメチリデン基、シクロペンチルメチリデン基、シクロヘキシルメチリデン基、シクロヘプチルメチリデン基が好ましく、ブチリデン基、ペンチリデン基、ヘキシリデン基、ヘプチリデン基がより好ましく、ペンチリデン基が特に好ましい。
【0023】
本発明に用いる2−アルキリデンシクロアルカノンの具体例としては、2−ブチリデンシクロペンタノン、2−ペンチリデンシクロペンタノン、2−ヘキシリデンシクロペンタノン、2−ヘプチリデンシクロペンタノン、2−ペンチリデン−5−メチルシクロペンタノン、2−ブチリデンシクロヘキサノン、2−ペンチリデンシクロヘキサノン、2−ヘキシリデンシクロヘキサノン、2−ヘプチリデンシクロヘキサノン等が挙げられる。これらの中でも、2−ペンチリデンシクロペンタノンが特に好ましい。
【0024】
2−アルキリデンシクロアルカノンは、従来公知の方法により製造・入手することができる。例えば、シクロアルカノンエナミンとアルキルアルデヒドとの反応生成物を酸(塩酸等)で加水分解することにより容易に得ることができる。
【0025】
また、2−アルキリデンシクロアルカノンは、シクロアルカノンと脂肪族アルデヒドを原料とするアルドール縮合反応により合成される2−(ヒドロキシアルキル)シクロアルカノンを連続的に固体触媒と接触させ、脱水反応させると同時に、発生した水を反応系から除去する方法によっても得ることができる。
【0026】
(2)固体触媒
本発明においては、少なくとも一種の白金族金属を担体に担持させてなる担持型固体触媒を用いる。
白金族金属は、周期律表(長周期型)第5、6周期の第8〜10族元素(Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt)の総称である。白金族金属は一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、Pdが特に好ましい。
【0027】
本発明においては、前記固体触媒として、少なくとも一種の白金族金属に加えて、白金族以外の金属から選ばれる少なくとも一種の金属を担持させてなる担持型固体触媒を用いることが好ましい。
【0028】
白金族以外の金属としては、周期律表第2〜7族元素、周期律表第11〜14族元素、及び周期律表第8〜10族の第3周期元素から選ばれる少なくとも一種の元素が挙げられる。なかでも、周期律表第2族元素及び第7族元素が好ましく、カルシウム及びレニウムが特に好ましい。
白金族金属と白金族以外の金属の比は、白金族金属100重量部に対して、白金族以外の金属は0.05〜100重量部、好ましくは0.1〜10重量部である。
【0029】
白金族金属及び所望により白金族以外の金属を担持する担体としては、特に限定されないが、例えば、活性炭、金属酸化物、金属硫酸塩、金属炭酸塩、金属リン酸塩、ヘテロポリ酸、ゼオライト、珪藻土、ハイドロキシアパタイト、ハイドロタルサイト、モンモリロナイト、イオン交換樹脂等が挙げられる。これらは一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、活性炭、金属酸化物が好ましい。
担体と、白金族金属及び所望により用いる白金族以外の金属との比は、担体100重量部に対して、白金族金属及び所望により用いる白金族以外の金属は0.1〜60重量部、好ましくは0.5〜40重量部である。
【0030】
金属酸化物の具体例としては、酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化チタン、酸化スズ、三酸化モリブデン、酸化タングステン等が挙げられ、シリカ、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化ニオブが好ましい。
【0031】
担体に白金族金属及び所望により白金族以外の金属を担持する方法としては、共沈法、混練法、含浸法、イオン交換法等の公知の方法が挙げられる。
例えば、白金族金属の塩、及び所望により白金族以外の金属から選ばれる少なくとも一種の金属の塩の溶液を担体に加えて、一定時間静置することにより担体に含浸させ、乾燥した後、還元による活性化によって、白金族金属及び所望により白金族以外の金属を金属状態で担持させた担持型固体触媒を調製することができる。
【0032】
ここで用いる白金族金属の塩としては、特に限定されず、例えば、白金族金属の塩酸塩、臭素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩等が挙げられる。また、白金族以外の金属の塩としては、白金族以外の金属の塩酸塩、臭素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、過レニウム酸塩等が挙げられる。
【0033】
還元方法としては、水素ガスを用いた乾式法、還元剤溶液を用いた湿式法のいずれも採用できる。前者の方法を採用する場合、水素ガスとして、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスで希釈されたものを用いることもできる。
【0034】
触媒の還元温度は、触媒活性成分である白金族金属、担体、助触媒成分である他の金属の組合せにより適宜選定すればよく、特に制限は受けないが、100〜900℃の範囲が好ましい。
【0035】
用いる担持型固体触媒の形状は特に限定されず、粉末、成形品等のいずれの形態でも使用が可能である。触媒の成形法は特に限定されず、打錠、圧縮、転動造粒等の公知の方法を採用できる。粒状成形品の外観形状としては、球状、円盤状、円柱状、円筒状等が挙げられる。
【0036】
担持型固体触媒の平均粒径は特に限定されず、後述する反応管の内径に応じて適宜選定されるが、通常1〜40mmであり、好ましくは2〜20mmである。有効平均粒径が小さすぎると、連続反応を行う場合に圧力損失が増大し、運転が困難となり、有効平均粒径が大きくなりすぎると、反応管単位容積(空筒基準)当りの幾何表面積の減少により、十分な反応成績を得ることが困難となる。
【0037】
担持型固体触媒の比表面積は特に限定されないが、通常、1〜100m/gの範囲から適宜選択される。比表面積が小さすぎると、十分な触媒活性が得られず、比表面積が大きすぎると触媒活性が高くなりすぎ、副生成物の生成速度が増大し、目的生成物選択率の低下の原因となる。
【0038】
(3)異性化反応
本発明は、2−アルキリデンシクロアルカノンを、少なくとも一種の白金族金属を担体に担持させてなる担持型固体触媒と連続的に接触させ、異性化反応を行うものである。
【0039】
本発明において、「連続的に」とは、回分式(バッチ式)反応の対義語としての連続反応を意味する。すなわち、反応操作において、原料の供給と反応混合物の抜き出しが、物質収支に関する整合性を維持したまま、間断なく継続的に実施されている状態で反応を行うことをいう。
【0040】
本発明の連続反応は、気相、液相を問わず、場合に応じて適切な方法を用いればよい。使用する反応器の形状や材質は特に限定されず、攪拌槽式連続反応器、固定床流通式連続反応器等が例示されるが、反応器効率の観点から、固定床流通式連続反応器が好ましい。
【0041】
固定床流通式連続反応器の形態は特に限定されず、単管式、多管式のいずれの形態でもよい。反応器の温度制御方法は特に限定されず、熱交換式又は断熱式のいずれを使用することも可能である。
またこれらの反応器は一個でもよいし、複数の反応器を直列に連結して使用することもできる。
【0042】
反応器の材質としては、例えば、ステンレススチール等が適している。このような反応器とともに原料混合物を予め加熱する予熱器や原料混合物を気化させる気化器を使用してもよい。予熱器、気化器及び反応器は、必ずしも別個のものである必要はなく、同一の反応器と各部の温度をそれぞれの目的に適した温度としたものであってもよい。
【0043】
前記多管式固定床流通式連続反応器を採用する場合、反応管の内径は特に限定されないが、通常、5〜500mm、好ましくは7〜300mm、より好ましくは10〜200mmである。また、反応管の長さも特に限定されないが、通常、0.1〜10m、好ましくは0.2〜7mである。
【0044】
反応を攪拌槽式連続反応器で行う場合の滞留時間は、通常、0.05〜100時間、好ましくは0.2〜5時間である。固定床流通式連続反応器で行う場合には、通常、1〜500秒、好ましくは2〜300秒である。
【0045】
反応圧力(ゲージ圧)は、通常、−0.1〜1MPaG、好ましくは−0.1〜0.5MPaG、より好ましくは−0.1〜0.1MPaGである。
【0046】
また、担持型固体触媒と接触させる2−アルキリデンシクロアルカノンは、2−アルキリデンシクロアルカノンそのままであってもよいし、2−アルキリデンシクロアルカノンを適当な希釈剤で希釈したものであってもよい。
【0047】
用いる希釈剤は反応に支障をきたさない不活性物質であれば、特に限定されず、液体でも気体でもよい。例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン等の脂環式炭化水素;n−ブタノール、n−ペンタノール等のアルコール;窒素ガス等の気体;等が挙げられる。これらの希釈剤は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0048】
原料である2−シクロアルキリデンシクロアルカノンを希釈剤で希釈する場合、その使用量は、原料100重量部に対して、通常5〜2000重量部である。
【0049】
本発明においては、2−アルキリデンシクロアルカノン及び所望により希釈剤を、空間速度(液体基準原料の1時間あたりの総流量を触媒の充填容積(空筒基準)で除した値。以下、「LHSV」という。以下にて同じ。)を、通常0.001〜100Hr−1、好ましくは0.01〜20Hr−1で触媒上に導入する。LHSVが大きすぎると十分な反応成績を得ることができず、LHSVが小さすぎると副生成物の生成速度が増大し、目的生成物選択率の低下の原因となると同時に、触媒の劣化が促進されるおそれがある。
【0050】
また、2−アルキリデンシクロアルカノン及び所望により希釈剤を触媒と接触させるときの温度は、通常20〜400℃、好ましくは50〜300℃、より好ましくは80〜280℃である。具体的には、2−アルキリデンシクロアルカノン及び所望により希釈剤を、通常20〜400℃、好ましくは50〜300℃に保持された触媒上に導入する。2−アルキリデンシクロアルカノン及び所望により希釈剤を触媒と接触させるときの温度が低すぎると、十分な反応成績を得ることができず、反応温度が高すぎると副生成物の生成速度が増大し、目的生成物選択率の低下の原因となると同時に、触媒の劣化が促進されるおそれがある。
【0051】
本発明により得られる2−アルキル−2−シクロアルケノンは、必要に応じて減圧蒸留等の精製手段を施すことにより、目的とする2−アルキル−2−シクロアルケノンを純度よく単離することができる。
【0052】
本発明により得られる2−アルキル−2−シクロアルケノンの環状部は、4〜10員環、好ましくは5〜7員環、特に好ましくは5員環である。また、2−アルキル−2−シクロアルケノンの2位のアルキル基の炭素数は、通常1〜10、好ましくは2〜8、より好ましくは3〜7、更に好ましくは4〜6、特に好ましくは5である。また、2−アルキル−2−シクロアルケノンは、環状部の2位以外の部位に任意の置換基を有していてもよい。
【0053】
本発明より得られる2−アルキル−2−シクロアルケノンの具体例としては、2−n−ブチルシクロペンテノン、2−n−ペンチル−2−シクロペンテノン、2−n−ヘキシル−2−シクロペンテノン、2−n−ヘプチル−2−シクロペンテノン、2−n−ペンチル−5−メチル−2−シクロペンテノン、2−n−ブチル−2−シクロヘキセノン、2−n−ペンチル−2−シクロヘキセノン、2−n−ヘキシル−2−シクロヘキセノン、2−n−ヘプチル−2−シクロヘキセノン等が挙げられる。これらの中でも、2−n−ペンチル−2−シクロペンテノンが特に好ましい。
2−n−ペンチル−2−シクロペンテノンは、香料ジャスモン酸メチルの製造中間体として有用である。
【実施例】
【0054】
以下に、実施例及び比較例により、本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
なお、以下の実施例及び比較例において、転化率、選択率、及び反応器効率は、次のように定義する。
【0055】
転化率(%)=(反応した2−アルキリデンシクロアルカノンのモル数/供給した2−アルキリデンシクロアルカノンのモル数)×100
選択率(%)=(生成した2−アルキル−2−シクロアルケノンのモル数/反応した2−アルキリデンシクロアルカノンのモル数)×100
収率(%)=(生成した2−アルキル−2−シクロアルケノンのモル数/供給した2−アルキリデンシクロアルカノンのモル数)×100
反応器効率(kg/(m・hr))=1時間あたりの2−アルキル−2−シクロアルケノンの生成量(kg/hr)/反応器容積(m
【0056】
以下の製造例1において、2−ペンチリデンシクロペンタノンの製造は、図1に示す製造装置を使用して行った。また、以下の実施例1〜5において、2−n−ペンチル−2−シクロペンテノンの製造は、図2に示す製造装置を用いて行った。図2に示す製造装置は、本発明の製造方法を実施するための製造装置である。
【0057】
(製造例1) 2−ペンチリデンシクロペンタノンの合成
(1)第1工程
攪拌機を装備した反応器に、シクロペンタノン 151.2g(1.8モル)と、1.5重量%の水酸化ナトリウム水溶液 80g、及びバレロアルデヒド 86g(1モル)を加えて、室温で3時間攪拌した。反応終了後、反応液に塩酸を滴下して、中和処理を行った。油水分離した油層をガスクロマトグラフィー(GC)で分析した結果、2−(1−ヒドロキシ−n−ペンチル)シクロペンタノンが90%の収率で生成していた。この組成生物から未反応シクロペンタノンを蒸留除去することにより、純度90%の2−(1−ヒドロキシ−n−ペンチル)シクロペンタノン170.2gを得た。
【0058】
(2)第2工程
強酸性イオン交換樹脂(RCP160M,三菱化学社製)76mlを、図1に示すステンレススチール性の反応器31(内径22.4mm、長さ200mm)に充填し、反応器31を85℃に保持した。上記第1工程で得た2−(1−ヒドロキシペンチル)シクロペンタノンを85℃に加熱し、反応器31内を−0.05MPaGに減圧した状態で、反応器31下部より、前記2−(1−ヒドロキシペンチル)シクロペンタノンをLHSV0.8Hr−1で連続的に流通させた。反応器31の出口で得られた粗生成物をGC分析した結果、転化率は96%、選択率は87%、収率は84%であった。粗生成物を減圧蒸留して、純度97%の2−ペンチリデンシクロペンタノンを得た。
【0059】
(実施例1) 活性炭担持パラジウム触媒を用いた2−n−ペンチル−2−シクロペンテノンの製造
(1)活性炭担持パラジウム触媒の調製
活性炭(白鷺G2X、日本エンバイロケミカル社製)70gを500mlナスフラスコに量りとり、これに蒸留水200mlと濃塩酸(試薬特級、和光純薬工業社製)70mlを加え、室温で8時間静置した。静置後内容物を吸引ろ過し、ろ物を蒸留し150mlで洗浄した。得られたろ物を300mlのナスフラスコに投入し、濃塩酸31.3g、塩化パラジウム(試薬特級、和光純薬工業社製)5.3g、蒸留水200mlを混合した溶液を加えた。これを室温で12時間静置した後、エバポレーターを使用して水分を除去した。得られた固形分を空気中、120℃で5時間乾燥して触媒前駆体を得た。
【0060】
得られた触媒前駆体をステンレススチール製の充填管(内径23mm、長さ18cm)に充填し、電気炉にセットした。この充填管に窒素ガスを40ml/分の流量で流しながら、350℃で3時間乾燥した後、水素/窒素=4(体積比)の混合ガスを流しながら、350℃、5時間還元を行って、活性炭担持パラジウム触媒(4.5重量%のパラジウムを活性炭に担持させた固体触媒)を得た。
【0061】
(2)2−n−ペンチル−2−シクロペンテノンの製造
【0062】
上記で得た担持型固体触媒を、図2に示したステンレススチール製の反応器32(内径10.7mm、長さ200mm)に充填し、反応器32を220℃に保持した。触媒充填塔42に、製造例1で得た2−ペンチリデンシクロペンタノンを220℃に加熱して、反応器32下部より、LHSV0.8Hr−1で連続的に常圧下に流通させた。反応器32の出口で得られた粗生成物を定量分析した結果、転化率は73%、選択率は74%、収率は54%であった。また、このときの反応器効率は405であった。
【0063】
(実施例2) 活性炭担持パラジウム・カルシウム触媒を用いた2−n−ペンチル−2−シクロペンテノンの製造
(1)活性炭担持パラジウム・カルシウム触媒の調製
活性炭(白鷺G2X、日本エンバイロケミカル社製)70gを500mlナスフラスコに量りとり、これに蒸留水200mlと濃塩酸(試薬特級、和光純薬工業社製)70mlを加え、室温で8時間静置した。静置後内容物を吸引ろ過し、ろ物を蒸留し150mlで洗浄した。洗浄後のろ物を300mlのナスフラスコに投入し、硝酸カルシウム(試薬特級、和光純薬工業社製)29.45gを蒸留水200mlに溶解したものを加え、エバポレーターを用いて水分を蒸発させた。得られた固形物を300mlナスフラスコに投入し、濃塩酸31.3g、塩化パラジウム(試薬特級、和光純薬工業社製)5.3g、蒸留水200mlを混合した溶液を加えた。これを室温で12時間静置した後、エバポレーターを用いて水分を除去した。得られた固形分を空気中、120℃で5時間乾燥して触媒前駆体を得た。
【0064】
得られた触媒前駆体をステンレススチール製の充填管(内径23mm、長さ18cm)に充填し、電気炉にセットした。この充填管に窒素ガスを40ml/分の流量で流しながら、350℃で3時間乾燥した後、水素/窒素=4(体積比)の混合ガスを流しながら、350℃、5時間還元を行って、活性炭担持パラジウム・カルシウム触媒(4.5重量%のパラジウム、5重量%のカルシウムを活性炭に担持させた固体触媒)を調製した。
【0065】
(2)2−n−ペンチル−2−シクロペンテノンの製造
上記(1)の方法によって得られた活性炭担持パラジウム・カルシウム触媒を用いる以外は、実施例1と同様に反応を行った。転化率は84%、選択率は84%、収率は71%であった。また、このときの反応器効率は524であった。
【0066】
(実施例3) アルミナ担持パラジウム触媒を用いた2−n−ペンチル−2−シクロペンテノンの製造
(1)アルミナ担持パラジウム触媒の調製
実施例1の活性炭担持パラジウム触媒の調製法において、活性炭に代えてγ−アルミナ(N612N、日揮化学社製)を用いる以外は実施例1と同様にして、アルミナ担持パラジウム触媒を調製した。
【0067】
(2)2−n−ペンチル−2−シクロペンテノンの製造
2−ペンチリデンシクロペンタノンを240℃に加熱し、LHSV0.8Hr−1で流速110Ncm/分の窒素気流で希釈し、気相状態で反応管下部より連続的に常圧下に流通させた。反応管の出口で得られた粗生成物を定量分析した結果、転化率は88%、選択率は68%、収率は60%であった。また、このときの反応器効率は444であった。
【0068】
(実施例4) アルミナ担持パラジウム・カルシウム触媒を用いた2−n−ペンチル−2−シクロペンテノンの製造
(1)アルミナ担持パラジウム・カルシウム触媒の調製
実施例2の活性炭担持パラジウム・カルシウム触媒の調製法において、活性炭に代えてγ−アルミナ(N612N、日揮化学社製)を用いる以外は実施例2と同様にして、アルミナ担持パラジウム・カルシウム触媒(4.5重量%のパラジウム、5重量%のカルシウムをアルミナに担持させた固体触媒)を調製した。
【0069】
(2)2−n−ペンチル−2−シクロペンテノンの製造
上記(1)で得たアルミナ担持パラジウム・カルシウム触媒を用いる以外は、実施例3と同様に反応を行った。転化率は91%、選択率は70%、収率は63%であった。また、このときの反応器効率は472であった。
【0070】
(実施例5) 活性炭担持パラジウム・レニウム触媒を用いた2−n−ペンチル−2−シクロペンテノンの製造
(1)活性炭担持パラジウム・レニウム触媒の調製
活性炭(白鷺G2X、日本エンバイロケミカル社製)70gを500mlナスフラスコに量りとり、これに蒸留水200mlと濃塩酸(試薬特級、和光純薬社製)70mlを加え、室温で8時間静置した。静置後内容物を吸引ろ過し、ろ物を蒸留し150mlで洗浄した。洗浄後のろ物を300mlのナスフラスコに投入し、濃塩酸31.3g、塩化パラジウム(試薬特級、和光純薬社製)5.3g、過レニウム酸カリウム(和光純薬社製)0.22g、及び蒸留水200mlを混合した溶液を加えた。これを室温で12時間静置下後に、エバポレーターを用いて水分を除去した。得られた固形分を空気中、120℃で5時間乾燥して触媒前駆体を得た。
【0071】
得られた触媒前駆体をステンレススチール製の充填管(内径23mm、長さ18cm)に充填し、電気炉にセットした。この充填管に窒素ガスを40ml/分の流量で流しながら、350℃で3時間乾燥した後、水素/窒素=4(体積比)の混合ガスを流しながら、350℃、5時間還元を行って、活性炭担持パラジウム・レニウム触媒を得た。
【0072】
(2)2−n−ペンチル−2−シクロペテノンの製造
上記(1)の方法によって得られた活性炭担持パラジウム・レニウム触媒を用い、反応温度を200℃とした以外は、実施例1と同様に反応を行った。転化率は93%、選択率は84%、収率は78%であった。また、このときの反応器効率は568であった。
【0073】
(比較例1) バッチ法による2−n−ペンチル−2−シクロペンテノンの製造(1)
200mlの四つ口フラスコに、製造例1で得た2−ペンチリデンシクロペンタノン100g、実施例1(1)で得た4.5重量%のパラジウムを含有する活性炭担持パラジウム触媒を5g加え、還流冷却管を付し、窒素気流下、常圧下、150℃で6.5時間加熱・攪拌した。反応終了後、反応液をGCで定量分析したところ、原料転化率86%、選択率は92%、収率は79%であった。また、このときの反応器効率は61であった。
【0074】
(比較例2) バッチ法による2−n−ペンチル−2−シクロペンテノンの製造(2)
比較例1において、活性炭担持パラジウム触媒に代えてγ−アルミナ触媒を用いる以外は比較例1と同様に反応を行った。反応液をGCで定量分析したところ、原料転化率94.6%、選択率は2.5%、収率は2.4%であった。また、このときの反応器効率は18であった。
【0075】
上記の結果から、製造方法がバッチ法である比較例1は反応器効率が低く、更に固体触媒としてγ−アルミナを用い、製造方法がバッチ法である比較例2は、選択率、収率並びに反応器効率が低かった。
来れに比較して、本発明の製造方法である実施例1〜5は選択率、収率並びに反応器効率が高く、2−n−ペンチル−2−シクロペンテノンを効率よく製造できることが分かった。
【符号の説明】
【0076】
11、12・・・原料タンク
21、22・・・送液ポンプ
31、32・・・反応器
41、42・・・触媒充填塔
51、52・・・冷却器
61、62・・・反応液タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−アルキリデンシクロアルカノンを、少なくとも一種の白金族金属を担体に担持させてなる担持型固体触媒と連続的に接触させ、異性化反応を行うことを特徴とする2−アルキル−2−シクロアルケノンの製造方法。
【請求項2】
前記固体触媒が、少なくとも一種の白金族金属に加えて、白金族以外の金属から選ばれる少なくとも一種の金属を担持させてなる担持型固体触媒であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−173965(P2010−173965A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−17931(P2009−17931)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】