説明

2−アルキル−2−シクロアルケン−1−オンの製造方法

【課題】高収率、高純度で得ることができる、2−アルキル−2−シクロアルケン−1−オンの製造方法、及びそれを用いた、香料素材として有用なアルキル(3−オキソ−2−アルキルシクロアルキル)アセテートの製造方法を提供する。
【解決手段】[1]2−(1−ヒドロキシアルキル)−シクロアルカン−1−オンを、酸及び白金族金属触媒の共存下で脱水異性化させる、下記一般式(2)で表され2−アルキル−2−シクロアルケン−1−オンの製造方法、及び[2]それを用いた、香料素材として有用なアルキル(3−オキソ−2−アルキルシクロアルキル)アセテートの製造方法である。


(式中、nは1又は2、R1及びR2は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示すか、又はR1とR2とに隣接する炭素原子を介して環を形成してもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2−アルキル−2−シクロアルケン−1−オンの製造方法、及びそれを用いた、香料素材として有用なアルキル(3−オキソ−2−アルキルシクロアルキル)アセテートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2−アルキル−2−シクロアルケン−1−オンは、生理活性物質や香料の合成中間体として有用である。従来、2−アルキル−2−シクロアルケン−1−オンは、2−(1−ヒドロキシアルキル)シクロアルカノンの脱水反応によって、まず2−(アルキリデン)シクロアルカノンを合成し、次いでこれを異性化反応させることにより製造されている。
上記の脱水反応は、一般的に酸の存在下に行われることが知られており、例えば、特許文献1及び2には、シュウ酸やリン酸を用いた脱水反応が記載され、特許文献3には、固体酸を用いた脱水反応が記載されている。
上記の異性化反応は、金属触媒を用いる例が報告されており、例えば、特許文献4には、白金族金属触媒を用いた異性化反応が記載されている。
【0003】
また、脱水反応及び異性化反応を一段階で行う方法も知られている。例えば、特許文献1には、還流n−ブタノール中、塩化水素又は臭化水素を用いて、脱水と異性化とを一段階で行う方法、特許文献5には、不活性溶媒存在下、ハロゲン化水素やスルホン酸類を用いて、系外に水を除去しながら反応を行う方法、特許文献6には、高沸点溶媒存在下スルホン酸類を用いて生成する水及び2−アルキル−2−シクロペンテノンを系外に取り出しながら反応を行う方法が、それぞれ記載されている。
【0004】
上記脱水反応と異性化反応を別々に行う場合は、特許文献1〜3のように酸で脱水反応が進行し、特許文献4のように金属触媒で異性化反応は進行する。しかし、これらの場合、工程が増えて生産性が低下する上、収率も満足いくものではない。
また、特許文献1及び5,6に開示される、脱水反応及び異性化反応を、酸を用いて一段階で行う方法では、使用できる酸は強酸に限られており、反応槽の腐食性が高いため、製造設備としては腐食しない設備を使用する必要があり、また、反応中間体である2−(アルキリデン)シクロアルカノンや生成物である2−アルキル−2−シクロアルケン−1−オンが重合したり、分解したりするので収率の低下が避けられない。さらに、反応終了後のアルカリ処理、水洗処理等により、大量の廃液が副生するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭56−147740号公報
【特許文献2】特開2004−217620号公報
【特許文献3】特開2004−203844号公報
【特許文献4】特公昭58−42175号公報
【特許文献5】特開平5−92934号公報
【特許文献6】特開2001−261608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、2−アルキル−2−シクロアルケン−1−オンを高収率、高純度で得ることができる製造方法、及びそれを用いた、香料素材として有用なアルキル(3−オキソ−2−アルキルシクロアルキル)アセテートの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、2−(1−ヒドロキシアルキル)−シクロアルカン−1−オンを、酸と白金族金属触媒の共存下で脱水異性化させることにより、高収率、高純度で目的化合物を合成し得ることを見出した。
すなわち、本発明は、下記の[1]及び[2]を提供する。
[1]下記一般式(1)で表される2−(1−ヒドロキシアルキル)−シクロアルカン−1−オンを、酸及び白金族金属触媒の共存下で脱水異性化させる、下記一般式(2)で表される2−アルキル−2−シクロアルケン−1−オンの製造方法。
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、nは1又は2の整数、R1及びR2は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示すか、又はR1とR2とに隣接する炭素原子を介してシクロペンタン環又はシクロヘキサン環を形成してもよい。)
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、n、R1及びR2は前記と同じである。)
[2]上記[1]の製造方法で得られた一般式(2)で表される2−アルキル−2−シクロアルケン−1−オンと、下記一般式(3)で表されるマロン酸ジエステルとを反応させ、次いで水と反応させる、下記一般式(4)で表されるアルキル(3−オキソ−アルキルシクロアルキル)アセテートの製造方法。
【0012】
【化3】

(式中、R3は炭素数1〜3のアルキル基を示し、2個のR3は同一でも異なっていてもよい。)
【0013】
【化4】

(式中、n、R1、R2及びR3は前記と同じである。)
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、2−アルキル−2−シクロアルケン−1−オンを高収率、高純度で得ることができる製造方法、及びそれを用いた、香料素材として有用なアルキル(3−オキソ−2−アルキルシクロアルキル)アセテートの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の下記一般式(2)で表される2−アルキル−2−シクロアルケン−1−オン(以下、「化合物(2)」ともいう)の製造方法は、下記一般式(1)で表される2−(1−ヒドロキシアルキル)−シクロアルカン−1−オン(以下、「化合物(1)」ともいう)を、酸及び白金族金属触媒の共存下で、脱水異性化させることを特徴とする。
【0016】
【化5】

【0017】
(式中、nは1又は2の整数、R1及びR2は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示すか、又はR1とR2とに隣接する炭素原子を介してシクロペンタン環又はシクロヘキサン環を形成してもよい。)
【0018】
[化合物(1)及び(2)]
本発明の化合物(2)の製造方法においては、原料として化合物(1)を用いる。
前記一般式(1)及び(2)において、R1及びR2は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示すか、又はR1とR2とに隣接する炭素原子を介してシクロペンタン環又はシクロヘキサン環を形成してもよい。R1及びR2は、水素原子又は直鎖又は分岐鎖のアルキル基であることが好ましく、水素原子又は直鎖のアルキル基であることがより好ましい。
1及びR2であるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種へプチル基、各種オクチル基が挙げられる。
ここで、「R1とR2とに隣接する炭素原子を介してシクロペンタン環又はシクロヘキサン環を形成」するとは、R1が炭素原子を介してR2と結合して、又は、R2が炭素原子を介してR1と結合して、5員環又は6員環を形成」することを意味する。なお、炭素原子に結合した水素原子は、例えば炭素数1〜5のアルキル基、アルケニル基等の炭化水素基で置換していてもよい。
【0019】
化合物(1)の具体例としては、2−(1−ヒドロキシプロピル)−シクロペンタノン、2−(1−ヒドロキシブチル)−シクロペンタノン、2−(1−ヒドロキシペンチル)−シクロペンタノン、2−(1−ヒドロキシヘキシル)−シクロペンタノン、2−(1−ヒドロキシ−1−メチルブチル)−シクロペンタノン、2−(1−ヒドロキシ−2−メチルブチル)−シクロペンタノン、2−(1−ヒドロキシシクロペンチル)−シクロペンタノン、2−(1−ヒドロキシシクロヘキシル)−シクロペンタノン、2−(1−ヒドロキシプロピル)−シクロヘキサノン、2−(1−ヒドロキシブチル)−シクロヘキサノン、2−(1−ヒドロキシペンチル)−シクロヘキサノン、2−(1−ヒドロキシヘキシル)−シクロヘキサノン、2−(1−ヒドロキシ−1−メチルブチル)−シクロヘキサノン、2−(1−ヒドロキシ−2−メチルブチル)−シクロヘキサノン、2−(1−ヒドロキシシクロペンチル)−シクロヘキサノン、2−(1−ヒドロキシシクロヘキシル)−シクロヘキサノン等が挙げられる。これらの中では、2−(1−ヒドロキシプロピル)−シクロペンタノン、2−(1−ヒドロキシブチル)−シクロペンタノン、2−(1−ヒドロキシペンチル)−シクロペンタノン、2−(1−ヒドロキシヘキシル)−シクロペンタノンが好ましく、2−(1−ヒドロキシペンチル)−シクロペンタノンが特に好ましい。
【0020】
化合物(2)の具体例としては、2−プロピル−2−シクロペンテン−1−オン、2−ブチル−2−シクロペンテン−1−オン、2−ペンチル−2−シクロペンテン−1−オン、2−ヘキシル−2−シクロペンテン−1−オン、2−(1−メチルブチル)−2−シクロペンテン−1−オン、2−(2−メチルブチル)−2−シクロペンテン−1−オン、2−シクロペンチル−2−シクロペンテン−1−オン、2−シクロヘキシル−2−シクロペンテン−1−オン、2−プロピル−2−シクロヘキセン−1−オン、2−ブチル−2−シクロヘキセン−1−オン、2−ペンチル−2−シクロヘキセン−1−オン、2−ヘキシル−2−シクロヘキセン−1−オン、2−(1−メチルブチル)−2−シクロヘキセン−1−オン、2−(2−メチルブチル)−2−シクロヘキセン−1−オン、2−シクロペンチル−2−シクロヘキセン−1−オン、2−シクロヘキシル−2−シクロヘキセン−1−オン等が挙げられる。これらの中では、2−プロピル−2−シクロペンテン−1−オン、2−ブチル−2−シクロペンテン−1−オン、2−ペンチル−2−シクロペンテン−1−オン、2−ヘキシル−2−シクロペンテン−1−オンが好ましく、2−ペンチル−2−シクロペンテン−1−オンが特に好ましい。
【0021】
[化合物(1)の製法]
化合物(1)は、公知の方法により製造することができる。例えば、炭素数5又は6のシクロアルカノンと、下記一般式(6)で表されるアルデヒド又はケトンを反応させることにより得ることができる。
本発明では、このような方法で得られる化合物(1)を精製せずに用いることもできるが、触媒の活性が低下する場合等は蒸留等により精製して使用してもよい。
【0022】
【化6】

(式中、R1及びR2は前記と同じである。)
【0023】
[化合物(2)の製法]
本発明において化合物(2)は、酸及び白金族金属触媒の共存下で、化合物(1)を脱水異性化反応させることにより製造される。
<酸>
本発明に用いられる酸としては、無機酸、有機酸、及び固体酸等を用いることができる。
(無機酸、有機酸)
無機酸及び有機酸としては、一般的な酸を用いることができる。具体的には、塩酸、硫酸、リン酸、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸等の縮合リン酸等の無機酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸等の有機酸が挙げられる。
これらの酸の中でも、金属の腐食を抑える観点から、25℃における1段目の酸解離指数(pKa)が0以上、好ましくは0.5以上の酸が好ましく、具体的には、リン酸(1段目pKa:2.15)、ピロリン酸(1段目pKa:0.8)、トリポリリン酸等の縮合リン酸、酢酸(1段目pKa:4.56)シュウ酸(1段目pKa:1.04)、クエン酸(1段目pKa:2.87)、マレイン酸(1段目pKa:1.75)、フマル酸(1段目pKa:2.85)、リンゴ酸(1段目pKa:3.24)等の有機酸が挙げられる。
さらに沸点の点から、リン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸等の縮合リン酸、シュウ酸、クエン酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸等の有機酸がより好ましく、リン酸、シュウ酸が特に好ましい。
酸解離指数(pKa)は、例えば日本化学会編の化学便覧(改訂3版、昭和59年6月25日、丸善株式会社発行)に記載の酸解離指数等を利用することができる。
これらの酸は、担体に担持させて用いることもできる。担体としては、例えばシリカや活性炭が挙げられ、活性炭がより好ましい。酸の担持方法としては、酸を担体に含浸させる方法や、木質材料(オガ屑、木材チップ等)に、高温でタールの生成を抑制しながら、リン酸を添加、浸透させて木質材料の繊維質を浸食し、空気を断って500〜700℃の温度で炭化反応させてリン酸担持活性炭(リン酸賦活活性炭ともいう)を得る方法が挙げられる。これらの中では、リン酸担持活性炭が特に好ましい。
このように担体に担持させた酸は、後述する固体酸と同様に取り扱うこともでき、反応混合物からの分離・除去等も容易である。
これらの酸は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
(固体酸)
固体酸としては、公知の固体酸を用いることができる。具体的には、活性アルミナ、硫酸ジルコニア、金属リン酸塩、トリポリリン酸二水素アルミニウム、酸化チタン等の無機金属固体や、カチオン交換樹脂、シリカ−チタニア複合酸化物、シリカ−酸化カルシウム複合酸化物、シリカ−マグネシア複合酸化物、ゼオライト等が挙げられる。
固体酸は、アンモニア昇温脱離(TPD;Temperature Programmed Desorption)法において、100〜250℃の温度範囲でアンモニア(NH3)の脱離を起こす酸点の量(mmol/g)が、250℃より高い温度でNH3の脱離を起こす酸点の量(mmol/g)より多いものがより好ましい。100〜250℃の範囲でNH3の脱離を起こす酸点の量は、0.3mmol/g 以上であり、かつ250℃より高い温度でNH3の脱離を起こす酸点の量は、0.3mmol/g 未満であることがより好ましい。
【0025】
上記の酸点の量は、触媒学会参照触媒であるゼオライト; JRC−Z5−25H のhighピーク(観測される2種のピークのうち、高温側のピーク)を0.99mmol/gとしてこれに対する相対的な量として測定する。ピークの検出は、質量スペクトルにおけるアンモニアのm/e=16のフラグメントでアンモニアを定量することにより行う。
TPD(アンモニア昇温脱離)の測定法としては、一般的に行われる測定法を用いることができる。例えば、以下のような条件で前処理、NH3吸着処理、真空処理を順に行った後、TPD測定を行う。
前処理:ヘリウム中200℃まで20分で昇温、1時間保持
NH3吸着処理:50℃、2.7kPaで10分間NH3を吸着
真空処理:50℃、4時間処理
TPD測定:ヘリウムガスを50ml/minで流通、昇温速度5℃/minで600℃まで昇温
【0026】
このような酸点の分布をもつ固体酸としては、例えば、下記構造(A)、構造(B)及び金属原子(C)の少なくとも1つを有するものが好ましく挙げられ、なかでも構造(A)と金属原子(C)、構造(B)と金属原子(C)、及び構造(A)と構造(B)と金属原子(C)を含む固体酸が好ましい。
・構造(A):無機リン酸が有するOH基の少なくとも一つから水素原子が除かれた構造
・構造(B):下記一般式(7)又は(8)で表される有機リン酸が有するOH基の少なくとも一つから水素原子が除かれた構造
・金属原子(C);アルミニウム、ガリウム及び鉄から選ばれる1種以上の金属原子
【0027】
【化7】

【0028】
(式中、R4及びR5は、それぞれR10、OR10、OH、Hから選ばれ、R4及びR5の少なくとも一方は、R10又はOR10である。ただし、R10は炭素数1〜22の有機基であり、炭素数1〜15の有機基が好ましく、炭素数1〜6の有機基がより好ましい。)
【0029】
構造(A)としては、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸等の縮合リン酸等が挙げられる。これらの中では、性能の点から、オルトリン酸から誘導されるが構造(A)好ましい。
また構造(B)において、一般式(7)又は(8)で表される有機リン酸としては、ホスホン酸、ホスホン酸モノエステル、ホスフィン酸、リン酸モノエステル、リン酸ジエステル、亜リン酸モノエステル、亜リン酸ジエステル等が挙げられる。これらの中では、ホスホン酸から誘導されるが構造(B)好ましい。
また、R10としては、好ましくは炭素数1〜15、より好ましくは炭素数1〜8の有機基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種オクチル基等のアルキル基、フェニル基、3−メチルフェニル基等のアリール基等が挙げられる。
【0030】
金属原子(C)としては、性能及び/又はコストの点から、アルミニウムが好ましい。
なお、選択性その他性能を改良する目的で、アルミニウム、ガリウム、鉄以外の金属原子を少量有してもよい。また触媒中に含まれる金属原子(C)の全てが、必ずしも、構造(A)又は構造(B)と結合している必要はなく、金属原子(C)の一部分が金属酸化物又は金属水酸化物等の形で存在していてもよい。
【0031】
固体酸の調製法として、沈殿法や金属酸化物又は水酸化物に無機リン酸及び有機リン酸を含浸する方法、無機リン酸アルミニウムゲル中の無機リン酸基を有機リン酸基へ置換する方法等が用いられるが、これらの中では沈殿法が好ましい。
また、固体酸を調製する際に、高表面積の担体を共存させ、担持触媒を得ることも可能である。担体として、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、チタニア、ジルコニア、ケイソウ土、活性炭等を用いることができる。担体を過剰に用いると、活性成分の含有量が低下し、活性を低下させるため、触媒中の担体の占める割合は、90重量%以下が好ましい。
固体酸の形状は、粉末でも成型したものでもよい。また、固体酸は、全て同一組成であってもよく、異なる組成の固体酸を組み合わせて用いてもよい。
上記の無機酸、有機酸、及び固体酸は、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。固体酸のみを用いる場合は、中和工程を省略することもできる。
酸の使用量は、反応性の観点から、原料に対し0.0001質量%以上が好ましい。一方、生成する二重結合を含む化合物間の重合を抑え、収率を向上させるという観点から、酸の使用量は25質量%以下が好ましい。上記観点から、酸の使用量は、0.001〜12質量%がより好ましく、0.01〜6質量%が特に好ましい。
【0032】
<白金族金属触媒>
本発明に用いられる白金族金属触媒は、周期律表第5〜6周期の第8〜10族元素に含まれる、オスミウム(Os)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、白金(Pt)及びパラジウム(Pd)からなる群から選ばれる1種以上の金属成分を主成分として含む触媒である。これらの金属成分の中では、触媒活性等の観点から、Pt及びPdが好ましく、Pdがより好ましい。またこれらの金属成分は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。ここで、「主成分として含む」とは、触媒金属成分中に、当該成分を好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上含むことを意味する。
これらの白金族金属触媒は、他の金属成分又は副次量の助触媒を含有していてもよい。このような他の金属成分の例としては、例えば、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu等の周期律表第4周期の第4〜11族元素や、W、Ag及びAu等が挙げられる。
【0033】
触媒は、担持型、ラネー型、可溶型、粉末状、顆粒状等の形態に適宜調製して使用することができる。
担持型触媒は、触媒の耐久性等の物理的特性を改善するために金属成分を担体に担持した触媒である。担持型触媒の調製は、沈殿法、イオン交換法、蒸発乾固法、噴霧乾燥法、混練法等の公知の方法により行うことができる。担体としては、炭素(活性炭)、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、硫酸バリウム及び炭酸カルシウム等が挙げられる。これらの中では、炭素(活性炭)、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナが好ましい。
触媒としてパラジウム触媒を用いる場合の具体例としては、パラジウムカーボン、パラジウム担持アルミナ、パラジウム担持硫酸バリウム、パラジウム担持炭酸カルシウム等が挙げられる。これらの中では、反応性が高く、反応後にパラジウム触媒を容易に回収可能なパラジウムカーボン、パラジウム担持アルミナが好ましく、入手性や取り扱いの簡便さ、反応性等の観点から、パラジウムカーボンが特に好ましい。
担持型触媒における金属成分の担持量は、触媒活性の点から、担体と担持された金属成分との合計量に基づき、通常0.1〜70質量%程度が好ましい。
ラネー型触媒は多孔質のスポンジ状金属触媒であり、例えば、久保松照夫、小松信一郎著、「ラネー触媒」、共立出版(1971))等により調製することができる。
可溶型触媒を用いる場合は、例えば、硝酸、塩酸などの無機酸などの金属塩水溶液、又は各種金属塩の混合水溶液を反応系に滴下すればよい。
なお、上記の触媒として市販品を使用することもできる。
【0034】
白金族金属触媒の使用量は、反応形式により適宜最適化することができる。
回分式の場合は、反応性及び経済性の観点から、原料である化合物(1)に対して、金属量として0.0002〜3質量%が好ましく、0.002〜2質量%がより好ましく、0.005〜1質量%がさらに好ましい。
【0035】
酸と白金族金属触媒は、別々の形態で用いることもでき、また一つの形態を有する触媒として使用することもできる。例えば、酸性の担体に白金族金属を担持する形態とすれば、酸を別途添加する必要がない。
酸及び白金族金属触媒を用いる場合は、懸濁床でも固定床でもよい。
担体に担持させた酸、又は固体酸を用いた固定床反応の場合には、触媒等と反応終了物との分離工程が要らないことから、大量生産する際には有効である。
懸濁床反応でも固体触媒を使用すれば、濾過等により触媒等と反応液とを容易に分離することができ、触媒をリサイクルすることも可能である。また、反応形式は、液相でも気相でも、また回分式でも連続式でも行うことができる。
【0036】
白金族金属触媒は、水素ガス等の還元性ガスにより活性化させることができ、このような還元性ガス存在下又は流通下で行うことができる。
還元性ガスを用いる場合、中間体及び/又は生成物の一部は、二重結合が還元され、下記一般式(9)で表される2−アルキルシクロアルカン−1−オン(以下、「化合物(9)」ともいう)が生成する。
【0037】
【化8】

(式中、n、R1及びR2は前記と同じである。)
【0038】
反応は、還元性ガスと不活性ガスとの混合ガス雰囲気下又は流通下で行うことがより好ましい。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等が好ましく、窒素ガスがより好ましい。
還元性ガスの濃度は化合物(9)の副生を抑える観点から、雰囲気下の場合、還元性ガス濃度は80%以下が好ましく、50%以下がより好ましく30%以下がさらに好ましい。流通下の反応の場合、気体の流通量により濃度は適宜最適化すればよい。
なお、化合物(9)は、例えば特開平9−104681号公報に記載されているように、過酢酸等を酸化剤として用い、バイヤービリガー(Baeyer-Villiger)酸化反応(ケトンと過カルボン酸を反応させて、ケトンのカルボニル基の隣りに酸素原子が挿入されたカルボン酸エステルを得る酸化反応)を行わせることにより、香料素材として有用な、下記一般式(10)で表される5−アルキル−5−アルカノリドを製造することができる。
【0039】
【化9】

(式中、n、R1及びR2は前記と同じである。)
【0040】
<脱水異性化の反応条件>
本発明における脱水異性化の反応温度は、70〜300℃が好ましい。反応を短時間で終了させ、化合物(2)の重合及び分解を防いで収率を高めるという観点から、90〜200℃がより好ましく、100〜170℃がさらに好ましく、130〜160℃が特に好ましい。
脱水異性化は、常圧でも進行するが、減圧下で反応させることにより、生成する水を効率的に系外へ留去させ、原料及び反応生成物を留出させないで効率的に反応させることができる。反応圧力としては、反応温度に応じ、20〜200kPaの範囲とすることが好ましく、50〜150kPaの範囲とすることがより好ましい。本発明の方法においては、生成する水を留去しながら反応を行うことが好ましい。
【0041】
<溶媒>
本発明は、溶媒の存在下でも不存在下でも行うことができる。溶媒を使用しない場合は生産性、経済性の観点から有利である。溶媒としては、特に制限されないが、不活性有機溶媒、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、tert−ブタノール、n−ブタノール、2−ブタノール、イソペンタノール、ペンタノール、ヘキサノール、2−エチルブタノール、ヘプタノール、2−ヘプタノール、オクタノール、2−オクタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ベンジルアルコール、フェニルエタノール等のアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルn−ブチルケトン、メチルn−アミルケトン、メチルイソアミルケトン、エチルブチルケトン、メチルn−ヘキシルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン類、イソプロピルエーテル、n−ブチルエーテル、1,4−ジオキサン、イソアミルエーテル、n−ヘキシルエーテル、テトラヒドロピラン2−メチルフラン、ジエチレングリコールジエチルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル等のエーテル類、ギ酸n−メチル、ギ酸n−プロピル、ギ酸n−ブチル、酢酸メチル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸n−アミル、酢酸n−ヘキシル、酢酸シクロヘキシル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n−ブチル、酪酸メチル、酪酸n−ブチル、イソ吉草酸メチル、乳酸エチル、安息香酸メチル、安息香酸プロピル、フタル酸ジメチル、シュウ酸ジエチル、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、アジピン酸ジメチル等のエステル類、n−へキサン、n−オクタン、n−デカン、リグロイン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、アミルベンゼン、t−ブチルベンゼン、p−シメン、テトラリン、デカリン等の炭化水素類等が挙げられる。これらの溶媒は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
溶媒の使用量は、原料の化合物(1)に対して、0.1〜5質量倍とすることが好ましく、0.3〜2質量倍とすることがより好ましい。
【0042】
本発明の化合物(2)の製造方法によれば、反応中間体である2−(アルキリデン)シクロアルカノン、生成物である2−アルキル−2−シクロアルケン−1−オンの重合を防ぐことが可能となり、化合物(2)を高収率、高純度で得ることができる。また、腐食性、毒性の低い酸及び白金族金属触媒を用いて目的化合物を製造すること、酸及び白金族金属触媒は再利用、及び溶媒を使用しなくても目的化合物を製造することが可能である。
【0043】
[化合物(4)の製法]
上記製造方法により得られた化合物(2)を原料として、例えば特開昭56−147740号公報明細書に記載の方法により、香料素材や生理活性物質として有用な、下記一般式(4)で表されるアルキル(3−オキソ−アルキルシクロアルキル)アセテート(以下、「化合物(4)」ともいう)を得ることができる。
【0044】
【化10】

(式中、n、R1及びR2は前記と同じである。R3は炭素数1〜3のアルキル基、好ましくは直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。)
【0045】
具体的には、まず化合物(2)と下記一般式(3)で表されるマロン酸ジエステルとを塩基存在下に反応させて、下記一般式(11)で表される化合物(以下、「化合物(11)」ともいう)を得る。
原料である化合物(2)に対して、化合物(3)を、好ましくは1〜5モル倍、より好ましくは1.2〜2モル倍の割合で反応させる。
【0046】
【化11】

(式中、n、R1、R2及びR3は前記と同じであり、2個のR3は同一でも異なっていてもよい。)
【0047】
用いることのできる塩基としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、ナトリウムアルコキシド、カリウムアルコキシド等のアルカリ金属アルコキシド等が挙げられる。
塩基の使用量は化合物(2)に対して0.005〜0.2モル倍が好ましく、0.01〜0.1モル倍がより好ましい。溶媒としてはアルコール類等の極性溶媒が好ましい。
反応温度は−10〜30℃が好ましく、−2〜20℃がより好ましい。
次に、得られた化合物(11)と水とを反応させることにより、化合物(4)を製造することができる。水は、化合物(11)に対して1〜3モル倍量を加えることが好ましく、反応系中に滴下しながら反応させることが好ましい。この際の反応温度は150〜230℃が好ましく、180〜220℃が好ましい。
このようにして得られた化合物(4)は、従来に比べ、収率がよく不純物が少ないので、化合物(4)を高純度で得るための精製負荷が低減でき、香料素材として優れたものである。
【実施例】
【0048】
以下の実施例、比較例において、「%」は特記しない限り「質量%」である。また、反応圧力は、すべて101kPa(大気圧)である。
生成物の定量は、ガスクロマトグラフィー(GC)分析(Agilent Technology社製、6890N、カラム:DB−1(30m×0.25mm×0.25μm)、オーブン:100℃→5℃/min.→210℃→20℃/min.→280℃(4.5min.hold)(計30min.)、キャリア:He、流量:1.6mL/min.、注入口:200℃、検出器(FID):280℃、注入量:1μL,スプリット:100:1)による内部標準法(内部標準:ウンデカン(ナカライテスク株式会社製、純度99%))によって行った。
【0049】
合成例1(2−(1−ヒドロキシペンチル)−シクロペンタン−1−オンの合成)
滴下槽を備えた6m3の反応槽に、シクロペンタノン2241kg(26.6kmol)、水1007kg、48%NaOH11kgを仕込み、撹拌しながら15℃に冷却した後、同温度でバレルアルデヒド985kg(11.4kmol)を5時間かけて滴下した後、1時間撹拌した。反応終了後、中和し、過剰のシクロペンタノンを蒸留回収した。有機層の反応終了品1868kg中には2−(1−ヒドロキシペンチル)−シクロペンタン−1−オン 1706kgが含まれていた。
【0050】
製造例1(固体酸:EtP−AlPO4の製造)
EtP−AlPO4の製造は、特許第3942809号に従って行った。
すなわち、エチルホスホン酸(Aldrich社製、純度98%)9.9gと、85%オルトリン酸(キシダ化学株式会社製)27.7g、硝酸アルミニウム(9水和物)(Aldrich社製、純度98%)112.5gを、水1000gに溶解させた。室温にて、この混合溶液にアンモニア水溶液(キシダ化学株式会社製)を滴下し、pHを5まで上昇させた。途中、ゲル状の白色沈殿が生成した。沈殿をろ過し、水洗後、110℃で15時間乾燥した後、60メッシュ以下に粉砕し、250℃で3時間焼成することにより、固体酸:EtP−AlPO4を得た。
得られた固体酸について、ICP発光分析装置(島津製作所製、ICPS1000III)、及びCHN元素分析装置(パーキンエルマー社製、2400−2)を用いて、固体酸中の金属、リン及び炭素を測定した結果、金属16%、リン19%、炭素2.5%を含み、有機リン酸モル比xは0.17であった。
また、得られた固体酸の酸点をアンモニア昇温脱離法(TPD)によって測定〔測定装置;日本ベル株式会社製、マルチタスクTPD、測定条件;(前処理)ヘリウム中200℃まで20分で昇温、1時間保持、(NH3吸着処理)50℃、2.7kPaで10分間NH3を吸着、(真空処理)50℃、4時間処理,(TPD測定)ヘリウムを50ml/minで流通、昇温速度5℃/minで600℃まで昇温。酸点の量は、触媒学会参照触媒であるゼオライト;JRC−Z5−25Hのhighピーク(観測される2種のピークのうち、高温側のピーク)を0.99mmol/gとしてこれに対する相対的な量として決定〕した結果、100〜250℃においてアンモニアの脱離を起こす酸点の量は0.74mmol/g、250℃より高い温度範囲でアンモニアの脱離を起こす酸点の量は0.06mmol/gであった。
【0051】
実施例1
脱水管を備えた200mlの3つ口セパラブルフラスコ(ガラス製)に、合成例1に記載の製造法で得られた2−(1−ヒドロキシペンチル)−シクロペンタン−1−オン100.0g(純度85%,0.499mol)、リン酸担持活性炭(H3PO4/C:太平化学産業株式会社製,粉末、22.1%含水品、リン含有量;0.012(元素分析))1.93g、5%Pd/C(エボニック デグサ ジャパン社製、粉末、58.6%含水品)7.25gを加え、水素:窒素(容量比)=1:4の雰囲気下で140℃、101kPa(常圧)になるように加熱し混合した。
反応10時間後には、留分が17.47g得られ、反応終了物をGCにより定量した結果、2−ペンチル−2−シクロペンテン−1−オン(表1中、化合物A); 67.1g(0.441mol)が生成し、2−ペンチルシクロペンタン−1−オン(表1中、化合物B);5.3g(0.035mol)が副生していた。2−ペンチル−2−シクロペンテン−1−オンの収率は89%であった。その他の副生成物についての結果もまとめて表1に示す。
【0052】
実施例2
脱水管を備えた200mlの4つ口セパラブルフラスコ(ガラス製)に、合成例1に記載の製造法で得られた2−(1−ヒドロキシペンチル)−シクロペンタン−1−オン50.0g(純度81%、0.238mol)、2%リン酸(キシダ化学株式会社製85%リン酸を、イオン交換水で希釈して調製)0.77g(0.16mmol)、5%Pd/C(N.E.ChemCat社製,粉末、49%含水品、pH=5.8)4.9gを加え、水素:窒素(容量比)=1:7の雰囲気下で150℃、101kPaになるように加熱し混合した。
反応12時間後には、留分が8.58g得られ、反応終了物をGCにより定量した結果、2−ペンチル−2−シクロペンテン−1−オン;30.6g(0.201mol)が生成し、2−ペンチルシクロペンタン−1−オン;2.9g(0.019mol)が副生していた。2−ペンチル−2−シクロペンテン−1−オンの収率は84%であった。その他の副生成物についての結果もまとめて表1に示す。
【0053】
実施例3
脱水管を備えた200mlの4つ口セパラブルフラスコに、合成例1に記載の製造法で得られた2−(1−ヒドロキシペンチル)−シクロペンタン−1−オン50.4g(純度81%、0.240mol)、85%リン酸0.18g(1.56mmol)、5%Pd/C(形態:粉末、49%含水品、pH=5.8)4.9gを加え、水素:窒素(容量比)=1:7の雰囲気下で150℃、101kPaになるように加熱し混合した。
反応開始から11時間後には、留分が8.32g得られ、反応終了物をGCにより定量した結果、2−ペンチル−2−シクロペンテン−1−オン;28.8g(0.189mol),2−ペンチルシクロペンタン−1−オン;1.5g(0.010mol)が生成していた。2−ペンチル−2−シクロペンテン−1−オンの収率は79%であった。その他の副生成物の結果もまとめて表1に示す。
【0054】
実施例4
実施例3で得られた反応終了物をろ過して得られた触媒に、合成例1に記載の製造法で得られた2−(1−ヒドロキシペンチル)−シクロペンタン−1−オン43.3g(純度81%、0.206mol)を加え、実施例3と同様の条件で加熱し混合した。
反応開始から9.5時間後には、留分が5.35g得られ、反応終了物を分析した結果、2−ペンチル−2−シクロペンテン−1−オン26.5g(0.174mol)、2−ペンチルシクロペンタン−1−オン2.5g(0.016mol)が生成していた。2−ペンチル−2−シクロペンテン−1−オンの収率は85%であった。その他の副生成物の結果もまとめて表1に示す。またこの結果から、触媒をリサイクル使用しても同等の収率で2−ペンチル−2−シクロペンテン−1−オンが得られることが分かる。
【0055】
実施例5
脱水管を備えた200mlの4つ口セパラブルフラスコに、合成例1に記載の製造法で得られた2−(1−ヒドロキシペンチル)−シクロペンタン−1−オン50.8g(純度81%、0.243mol)、製造例1で調製した固体酸(形態:粉末)0.13g、5%Pd/C(粉末、49%含水品、pH=5.8)5.03gを加え、水素:窒素(容量比)=1:7の雰囲気下で150℃、101kPaになるように加熱し混合した。
反応開始から15.5時間後には、留分が7.81g得られ、反応終了物をGCにより定量した結果、2−ペンチル−2−シクロペンテン−1−オン31.4g(0.206mol)、2−ペンチルシクロペンタン−1−オン1.5g(0.010mol)が生成していた。2−ペンチル−2−シクロペンテン−1−オンの収率は85%であった。その他の副生成物の結果もまとめて表1に示す。
【0056】
比較例1
(脱水反応工程)
脱水管を備えた200mlの4つ口セパラブルフラスコに、合成例1に記載の製造法で得られた2−(1−ヒドロキシペンチル)−シクロペンタン−1−オン50.06g(純度81%、0.238mol)、製造例1で調製した固体酸(形態:粉末)0.13gを加え、水素:窒素(容量比)=1:7の雰囲気下で150℃、101kPaになるように加熱し混合した。
反応開始から8時間後には、留分が4.80g得られ、反応終了物をGCにより定量した結果、2−ペンチリデンシクロペンタン−1−オンが30.0g(0.197mol)含まれていることが分かった。
(ろ過工程)
得られた反応終了物をろ過して上記固体酸を除去し、ろ液43.0gを得た。このろ液中には2−ペンチリデンシクロペンタン−1−オン29.3g(0.193mol)が含まれていた。
(異性化反応工程)
脱水管を備えた200mlの4つ口セパラブルフラスコに、上記で得られたろ液43.0g、5%Pd/C(粉末、49%含水品、pH=5.8)4.17gを加え、水素:窒素(容量比)=1:7の雰囲気下で150℃、101kPaになるように加熱し混合した。
反応開始から9.5時間後、反応終了物をGCにより定量した結果、2−ペンチル−2−シクロペンテン−1−オン24.9g(0.164mol)、2−ペンチルシクロペンタン−1−オン1.5g(0.010mol)が生成していた。上記脱水反応工程、ろ過工程及び異性化反応工程の3工程を通して、2−(1−ヒドロキシペンチル)−シクロペンタン−1−オンから2−ペンチル−2−シクロペンテン−1−オンの収率は71%であった。その他の副生成物の結果もまとめて表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
実施例6
窒素雰囲気下にて、マロン酸ジメチル(Aldrich社製)208g(1.56mol)を無水メタノール(Aldrich社製)63gに溶解し、0℃に冷却して、ナトリウムメトキシド(和光純薬工業株式会社製、30%メタノール溶液)6.5g(0.035mol)を添加したものに、2−ペンチル−2−シクロペンテン−1−オン183.48g(純度84%、1.01mol)を0℃で滴下後、攪拌した。反応終了後、触媒を中和して除去し、メタノール及び未反応のマロン酸ジメチルを減圧留去して283.48gのマイケル付加物(1,4−付加物)を得た。
蒸留留出管を取り付けた反応装置に、上記で得られたマイケル付加物(1,4−付加物)を加え、215℃に加熱し、水を滴下した。発生する二酸化炭素とメタノールを留出させながら、215℃で、4時間滴下反応を行った。反応終了後、粗生成物203.27gを得た。
粗生成物を精留して得られたメチル(3−オキソ−2−ペンチルシクロペンチル)アセテート(148.71g)は、フルーティでジャスミン様の香気を有しており、香料素材としても優れたものであった。
【0059】
実施例7
SUS製113L反応装置に、合成例1に記載の製造法で得られた2−(1−ヒドロキシペンチル)−シクロペンタン−1−オン66kg(純度85%,332mol)、リン酸担持活性炭(H3PO4/C:粉末、8.7%含水品、リン含有量;0.010(元素分析))0.52kg、5%Pd/C(Evonik.Degussa社製,粉末、53.6%含水品)4.26kgを加え、水素:窒素(容量比)=1:8の雰囲気下で140℃、101kPaになるように加熱し混合した。
反応10時間後には、留分が10.8kg得られ、反応終了物をGCにより定量した結果、2−ペンチル−2−シクロペンテン−1−オン45.5kg(299mol)が生成し、2−ペンチルシクロペンタン−1−オン2.0kg(13mol)が副生していた。2−ペンチル−2−シクロペンテン−1−オンの収率は90%であった。
窒素雰囲気下にて、マロン酸ジメチル(Aldrich社製)667g(5.1mol)を無水メタノール(Aldrich社製)200gに溶解し、10℃に冷却して、ナトリウムメトキシド(和光純薬工業株式会社製,28%メタノール溶液)21.5g(0.18 mol)を添加したものに、2−ペンチル−2−シクロペンテン−1−オン500g(純度95%、3.1mol)を10℃で滴下後、攪拌した。反応終了後、触媒を中和して除去し、メタノール及び未反応のマロン酸ジメチルを減圧留去して871.6gの粗マイケル付加物を得た。
蒸留留出管を取り付けた反応装置に、上記で得られた粗マイケル付加物を加え、185℃に加熱し、水を滴下した。発生する二酸化炭素とメタノールを留出させながら、185℃で、11時間滴下反応を行った。反応終了後、粗生成物668.8gを得た。
粗生成物(250.0g)を精留して得られたメチル(3−オキソ−2−ペンチルシクロペンチル)アセテート(192.1g,2−ペンチル−2−シクロペンテン−1−オン基準の収率;73%)は、フルーティでジャスミン様の香気を有しており、香料素材としても優れたものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される2−(1−ヒドロキシアルキル)−シクロアルカン−1−オンを、酸及び白金族金属触媒の共存下で脱水異性化させる、下記一般式(2)で表される2−アルキル−2−シクロアルケン−1−オンの製造方法。
【化1】

(式中、nは1又は2の整数、R1及びR2は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示すか、又はR1とR2とに隣接する炭素原子を介してシクロペンタン環又はシクロヘキサン環を形成してもよい。)
【化2】

(式中、n、R1及びR2は前記と同じである。)
【請求項2】
酸の25℃における1段目の酸解離指数(pKa)が0以上である、請求項1に記載の2−アルキル−2−シクロアルケン−1−オンの製造方法。
【請求項3】
酸が固体酸である、請求項1に記載の2−アルキル−2−シクロアルケン−1−オンの製造方法。
【請求項4】
固体酸が、アンモニア昇温脱離(TPD)法において、100〜250℃の温度でNH3の脱離を起こす酸点の量(mmol/g)が、250℃より高い温度でNH3の脱離を起こす酸点の量(mmol/g)より多いものである、請求項3に記載の2−アルキル−2−シクロアルケン−1−オンの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法で得られた下記一般式(2)で表される2−アルキル−2−シクロアルケン−1−オンと、下記一般式(3)で表されるマロン酸ジエステルとを反応させ、次いで水と反応させる、下記一般式(4)で表されるアルキル(3−オキソ−アルキルシクロアルキル)アセテートの製造方法。
【化3】

(式中、n、R1及びR2は前記と同じである。)
【化4】

(式中、R3は炭素数1〜3のアルキル基を示し、2個のR3は同一でも異なっていてもよい。)
【化5】

(式中、n、R1、R2及びR3は前記と同じである。)

【公開番号】特開2009−269910(P2009−269910A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−89796(P2009−89796)
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】