説明

2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリドおよびその誘導体の製造方法

【課題】工業的規模での製造に適した2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリドおよび3−トリフルオロメチル−2−メチルフルオロベンゼンの合成方法を提供する。
【解決手段】2,3−ジメチルフルオロベンゼンを出発物質として、これを次の2工程ないし3工程に付して、上記目的化合物に誘導する。
第1工程:2,3−ジメチルフルオロベンゼンを塩素(Cl2)と反応させ、2−トリクロロメチル−6−フルオロベンザルクロリドを得る工程。
第2工程:前記2−トリクロロメチル−6−フルオロベンザルクロリドを、液相でフッ化水素(HF)と反応させ、2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリドを得る工程。
第3工程:前記2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリドを遷移金属触媒の存在下、水素(H2)と反応させ、3−トリフルオロメチル−2−メチルフルオロベンゼンを得る工程。
【代表図】 なし

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬および農薬の重要中間体である、2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリドおよび、その誘導体である3−トリフルオロメチル−2−メチルフルオロベンゼンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリドおよびその誘導体は、医農薬製造用の中間体等として有用な化合物である。例えば、特許文献1では、2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリドを加水分解して得られる2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンズアルデヒドが、抗高血圧薬や鎮静剤として用い得る6−アリール−ピロールイミダゾール誘導体を合成するための原料の1つとして用いられている。また非特許文献1)でも、医薬品開発の研究の一環として、含フッ素ベンゾチオフェン誘導体の合成を報じているが、その中の原料の1つとして2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンズアルデヒドが用いられている。さらに、特許文献2においても、糖尿病の予防・治療薬の合成原料の1つとして2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンズアルデヒドが使用されている(実施例121)。
【0003】
本発明で対象とする2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリドおよび3−トリフルオロメチル−2−メチルフルオロベンゼンについては具体的に報告された例はないが、どちらも3つの官能基を有する芳香族化合物(三置換ベンゼン)であり、それら自体も、フッ素を含む医農薬のビルディングブロックとして用い得る。
【特許文献1】米国特許4046898号明細書
【特許文献2】国際公開01/090067号パンフレット
【非特許文献1】Tetrahedron Letters,Vol.33, No.49, p.7499〜p.7502
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリドおよび3−トリフルオロメチル−2−メチルフルオロベンゼンのような三置換ベンゼンを工業規模で効率よく製造するのは、一般に難しい。
【0005】
三置換ベンゼンを製造する一般的方法として、予め二置換ベンゼンを合成した後、この二置換ベンゼンにさらに第三の官能基を導入する手法がある。しかしこの方法では、目的物の選択性が大きな問題となる。一般に、二置換ベンゼンに第三の官能基を導入する際、第三の官能基が目的部位に高選択率で導入されることは稀であり、通常、位置異性体や、複数官能基が導入された過剰反応生成物が多量に生成する。この結果、目的物の収率は低下し、高い純度の目的物を製造することも困難となる。
【0006】
これに代わる方法として、既存の三置換ベンゼンを原料として、これを官能基変換に付す方法も考えられる。しかし、2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリドおよび3−トリフルオロメチル−2−メチルフルオロベンゼンを製造するために適した三置換ベンゼンは、これまで知られていなかった。
【0007】
本発明の対象化合物に関連した構造を持つ化合物としては、前記のように2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンズアルデヒドが知られている(非特許文献1)。この化合物中のホルミル(−CHO)基をジクロロメチル基およびメチル基に変換できれば、本発明の目的化合物が得られると考えられる。しかしながら、非特許文献1に示されている2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンズアルデヒドの製造方法は、次のスキーム1に表されるものである。
【0008】
【化1】

【0009】
この方法は、「有機リチウム試薬」を必須の試薬とし、当該有機リチウム試薬、ならびに中間体の2−トリフルオロメチル−6−フルオロフェニルリチウムが極めて不安定な物質であるため、−78℃という極低温で反応を継続しなければならない。反応自体も強い発熱を伴うものであり、大量に扱う場合にはその制御が極めて困難である。すなわちこの方法は工業的な製法といえず、本発明の対象化合物の製法として適当なものとは言えない。
【0010】
この他にも、既知化合物である2−メチル−3−アミノベンゾトリフルオライド(特開平6−211755)をジアゾ化後、テトラフルオロホウ酸塩を作用させることにより、本願の目的化合物のうち3−トリフルオロメチル−2−メチルフルオロベンゼンを合成することが可能と考えられる(スキーム2)。
【0011】
【化2】

【0012】
しかし当該方法では、原料2−メチル−3−アミノベンゾトリフルオライドが高価である上、ジアゾ化後、厳しい排水規制のあるホウ素化合物を大量に使用しなければならず、工業的な実施には必ずしも有利とは言えない。
【0013】
このように、2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリドおよび3−トリフルオロメチル−2−メチルフルオロベンゼンを工業的に効率よく合成できる方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。この結果、比較的安価に入手できる2,3−ジメチルフルオロベンゼンを出発物質とし、これを2工程ないし3工程の「官能基変換」に付すことで、上記課題が解決することを見出した。
【0015】
すなわち発明者らは、2,3−ジメチルフルオロベンゼンを塩素(Cl2)と反応させると、位置選択的な塩素化が起こり、ほぼ定量的に(例えば、80%以上の収率で)2−トリクロロメチル−6−フルオロベンザルクロリドが得られる(第1工程)という知見を得た。得られた2−トリクロロメチル−6−フルオロベンザルクロリドを液相でフッ化水素(HF)と反応させたところ、本発明の第1の目的物である2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリドが収率良く(例えば、反応終了時では90%以上の収率で、蒸留精製後でも74%以上の収率で)得られる(第2工程)ことがわかった。さらに得られた2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリドを遷移金属触媒の存在下、水素(H2)と反応させると、本発明の第2の目的物である3−トリフルオロメチル−2−メチルフルオロベンゼンが収率よく(例えば、反応終了時では88%以上の収率で、蒸留精製後でも80%以上の収率で)得られることを見出した(第3工程)。
【0016】
本発明の中で、特に重要な特徴をなすのは、第1工程の「塩素化反応」である。すなわち、2,3−ジメチルフルオロベンゼンに対して、塩素(Cl2)を反応させると、フッ素基から見てメタ位のメチル基がトリクロロメチル基に、フッ素基から見てオルト位のメチル基がジクロロメチル基に変換し、2−トリクロロメチル−6−フルオロベンザルクロリドが選択的に得られる。この塩素化反応を通じて、異性体である2−トリクロロメチル−3−フルオロベンザルクロリドは事実上生成しないことがわかった(下記スキーム3)。
【0017】
【化3】

【0018】
もし、この塩素化反応において、異性体の2−トリクロロメチル−3−フルオロベンザルクロリドが有意に生成すると、その物理的性質や化学的性質が2−トリクロロメチル−6−フルオロベンザルクロリドと近似するために、目的物の精製が極めて困難になる。ところが、本発明においては、最初の工程である第1工程において、この異性体の生成が事実上ない(通常0.1%未満に抑えられる)ため、目的物が高い収率で得られるのみならず、以後の工程において、煩雑な精製手段を一切用いることなく、目的物を高い純度で製造できることとなった。
【0019】
一般に、ベンゼン核に2つのメチル基およびそれ以外の基1つが結合した「三置換ベンゼン」を塩素化に付すと、2つのメチル基がほぼ同様に塩素化を受け、2種類の塩素化生成物が得られる。例えば、本出願人が既に出願した特願2004−189274号に開示した方法によれば、3,4−ジメチルフルオロベンゼンをCl2と反応させると、2−トリクロロメチル−5−フルオロベンザルクロリドと2−トリクロロメチル−4−フルオロベンザルクロリドがほぼ1:1の比で生成し、これら2種の異性体を分離することは容易でない(スキーム4)。
【0020】
【化4】

【0021】
これに比較すると、本発明の第1工程(塩素化反応)における「位置選択性」はきわめて特異的な現象といえる。第1工程において高純度な塩素化生成物が得られるために、後の工程も効率的になし得、しかも目的とする2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンズアルデヒドおよび2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンジルアミンが、非特許文献1、特許文献1の方法に比べてはるかに穏和な条件下、高収率、高純度で製造できることとなった。
【0022】
本発明者らはさらに、上記第1工程、第2工程、第3工程の各反応プロセスが、特定の条件、操作によって特に好ましく達成できることを見出した。
【0023】
本発明者らはまた、本研究を通じて、新規の化合物である2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリドおよび3−トリフルオロメチル−2−メチルフルオロベンゼン(本発明の目的化合物)を見出し、本発明を完成した。
【0024】
すなわち、本発明は、次の[発明1]から[発明7]を骨子とする。
[発明1]次の2工程を含む、2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリドの製造方法。
第1工程:2,3−ジメチルフルオロベンゼンを塩素(Cl2)と反応させ、2−トリクロロメチル−6−フルオロベンザルクロリドを得る工程。
第2工程:前記2−トリクロロメチル−6−フルオロベンザルクロリドを、液相でフッ化水素(HF)と反応させ、2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリドを得る工程。
[発明2]発明1の方法により得られた2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリドをさらに、遷移金属触媒の存在下、水素(H2)と反応させる(第3工程)ことを特徴とする、3−トリフルオロメチル−2−メチルフルオロベンゼンの製造方法。
[発明3]第1工程の2,3−ジメチルフルオロベンゼンと塩素(Cl2)との反応が、ラジカル開始剤の存在下、または光照射下で、行われることを特徴とする、発明1または発明2に記載の方法。
[発明4]第2工程の2−トリクロロメチル−6−フルオロベンザルクロリドとフッ化水素(HF)との反応が、無溶媒で行われることを特徴とする、発明1乃至発明3の何れかに記載の方法。
[発明5]第3工程における遷移金属触媒が、パラジウムであることを特徴とする、発明2乃至発明4の何れかに記載の、3−トリフルオロメチル−2−メチルフルオロベンゼンの製造方法。
[発明6]新規物質である2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリド。
[発明7]新規物質である3−トリフルオロメチル−2−メチルフルオロベンゼン。
本発明の概要を次のスキーム5に表す。
【0025】
【化5】

【発明の効果】
【0026】
安価な原料である2,3−ジメチルフルオロベンゼンを出発物質として、2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリドおよび3−トリフルオロメチル−2−メチルフルオロベンゼンを工業的規模で、高収率で製造するための方法を提供する。本発明の方法は分離の難しい副生物の生成もなく、有害な廃棄物も生成しないことから、表題化合物を従来技術よりも格段に有利に製造できる。
【0027】
例えば、第1工程の塩素化は、2,3−ジメチルフルオロベンゼンを塩素(Cl2)と接触させ、2−トリクロロメチル−6−フルオロベンザルクロリドを得る工程であるが、原料基質に3原子のClが導入されるまでは比較的反応が速く、ラジカル開始剤の存在下または光照射下にて比較的低温(60〜80℃)で行い、その後は、170〜230℃で行うことができる。第2工程のフッ素化は、第1工程で得た2−トリクロロメチル−6−フルオロベンザルクロリドを液相でフッ化水素(HF)と接触させ、2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリドを得る工程であるが、使用するフッ化水素は2−トリクロロメチル−6−フルオロベンザルクロリド1モルに対し5〜12モルを使用し、反応温度は60〜150℃、反応圧力は1MPa〜5MPaで行うことができる。第3工程の還元反応は、第2工程で得られた2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリドを遷移金属触媒の存在下、水素(H2)と反応させ、3−トリフルオロメチル−2−メチルフルオロベンゼンを得る工程である。還元反応は反応に伴って塩化水素ガスが発生するため、発生する塩化水素を中和するのに必要な量の塩基性物質の存在下にて行い、反応温度は60〜100℃、系内における水素の圧力は0.5〜2.0MPaで行うことができる。これらの反応条件は、例えば非特許文献1に開示された前記リチウム化工程に要する極低温条件に比べ、はるかに工業的な実施に好適な、穏和な条件である。
【0028】
収率については、例えば、第1工程+第2工程(蒸留精製を含む)を合わせた収率は60%以上とすることができ、第1工程〜3工程(蒸留精製を含む)の総合収率は50%以上とすることができる。
【0029】
目的物の純度については、例えば、第1工程の塩素化では反応終了後の目的物である2−トリクロロメチル−6−フルオロベンザルクロリドの純度は80%を超え、その他の不純物としては、未完全塩素化体である2,3−ビス(ジクロロメチル)フルオロベンゼンが3.0%以下、過塩素化体である2−クロロ−6−フルオロベンザルクロリド及び2−クロロ−6−フルオロベンゾトリクロリドの合計が10%以下に抑えられる。一方、目的物の異性体である2−トリクロロメチル3−フルオロベンザルクロリドは通常0.1%未満に抑えられる。これらの不純物は、第1工程終了時の反応混合物からの蒸留精製で分離することは難しいが、そのまま第2工程のフッ素化を行っても、反応混合物の不純物プロフィールを複雑化する恐れはない。すなわち、フッ素化反応終了時の目的物である2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリドの純度は80%を超え、過フッ素化体である2−クロロフルオロメチル−3−フルオロベンゾトリフルオリドの生成は通常1%以下、同じく過フッ素化体である2−ジフルオロメチル−3−フルオロベンゾトリフルオリドの生成の生成は通常3%以下、過塩素化体のフッ素化物である2−クロロ−6−フルオロベンゾトリフルオリドの生成は通常10%以下に抑えられる。これらの不純物は蒸留精製にて容易に分離でき、蒸留精製後の2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリドの純度は99%以上とできる。また、第3工程の還元反応においても、反応終了時の目的物である3−トリフルオロメチル−2−メチルフルオロベンゼン98%程度とすることができ、不純物として3−トリフルオロメチル−2−クロロメチルフルオロベンゼンの生成が通常0.1%以下、二量化体の生成が通常2%以下(複数の化学種の合計値)に抑えられる。これらの不純物も蒸留精製にて容易に分離でき、蒸留精製後の3−トリフルオロメチル−2−メチルフルオロベンゼンの純度は99%以上とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。まず第1工程(2,3−ジメチルフルオロベンゼンの塩素化)について詳細に説明する。第1工程は、反応領域において2,3−ジメチルフルオロベンゼンを塩素(Cl2)と接触させ、2−トリクロロメチル−6−フルオロベンザルクロリドを得る工程である。
【0031】
反応領域としてはガラス容器、またはガラス、フッ素樹脂などでライニングされた反応容器が好適に採用される。ステンレス鋼、鉄などが内壁となっている反応容器の場合も反応自体は進行するが、金属が塩化物に変換され(Feの場合、FeCl3)、これがルイス酸触媒となりフリーデルクラフツ型の副反応を起こし、ベンゼン核にClが直接結合した化合物が生成することがあるので、可能な限り、ガラス容器、またはガラス、フッ素樹脂などでライニングされた反応容器を用いた方がよい。
【0032】
接触方法は特に限定されず、流通系またはバッチ式あるいは半バッチ式で行うことができる。例を挙げれば、予め反応容器に仕込まれた2,3−ジメチルフルオロベンゼンに塩素ガスを吹き込むことで行うのが一般的であり、好適に採用される。反応に伴い発生する塩化水素ガスは、未反応の塩素ガスとともに、反応領域から排出させ、水、アルカリ性水溶液などでトラップすることができる。
【0033】
本反応を進行させるためにはラジカル開始剤、例えば、2,2'−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、(1−フェニルエチル)アゾジフェニルメタン、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビスイソブチル酸ジメチル、1,1'−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2'−アゾビス(2−メチルプロパン)、2,2'−アゾビス(2−アミジノプロパン)2塩酸塩、4,4'−アゾビス(4−シアノペンタン酸)等のアゾ系化合物、過酸化ベンゾイル、過酸化ドデカノイル、過酸化ジラウロイル、t−ブチルパーオキシピバレート、ジ−t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチル−クミル−パーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン、イソブチリルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイドなどの過酸化物などのラジカル開始剤、赤燐、五塩化燐、三塩化燐、トリフェニルフォスフィン、亜リン酸トリフェニルなどの燐化合物などが使用され、また、光を照射することが行われる。さらにこれらのラジカル開始の手法を適宜組み合わせて用いても良い。また上記ラジカル開始剤を添加しなくとも、高温(概ね160℃以上)に加熱することで、系内にラジカルが発生し、同様のラジカル反応を起こすことも可能である。ただし、操作上の簡便さ、反応の選択性などを考慮すると、第1工程の塩素化は、ラジカル開始剤の存在下、あるいは光照射下で行うことが好ましく、ラジカル開始剤の存在下で行うことが特に好ましい。
【0034】
ラジカル開始剤を用いる場合、ラジカル開始剤は通常、原料1モルに対して0.0001〜1mol添加するが、0.001〜0.1モルが好ましく、0.001〜0.05モルがより好ましい。ラジカル開始剤は反応の進行状況を観察して、適宜追加することもできる。ラジカル開始剤の量が原料1モルに対して0.0001モル未満では反応が途中で停止しやすく、収率が低下する恐れがあるため好ましくなく、1モルを超えると経済的に好ましくない。また、ラジカル開始剤は必要に応じて、反応の途中で追加することもできる。
【0035】
本塩素化反応の実施に際して光照射を行う場合の光源は高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、各種ハロゲン灯、タングステンランプ、発光ダイオード等からなる群より選ばれる少なくとも一種であるが、これらのうち高圧水銀ランプ、タングステンランプが好ましい。
【0036】
本発明の塩素化は、原料基質に3原子のClが導入されるまでは比較的反応が速く、その後の塩素化は遅くなる傾向がある。このため、該塩素化を、ラジカル開始剤の存在下または光照射下に行う場合、反応の初期(塩素化度が概ね3〜4の範囲の値(例えば3.5)となるまで)は、比較的低温(通常30〜150℃、好ましくは50〜130℃、特に好ましくは60〜80℃)で行い、この温度で反応が進行しにくくなったら、より高い温度(通常150〜300℃、好ましくは160〜250℃、特に好ましくは170〜230℃)で行うことが効果的である。ここで「塩素化度」とは、その時点における反応混合物の組成から計算される、芳香環1個あたりに導入された塩素原子数の平均値を意味する。
【0037】
また、本発明の反応基質の場合、2つのメチル基が隣接しているため、両方のメチル基ともトリクロロメチル基に変換された化合物は立体障害が大きく、6つのCl原子が導入された2,3−ビス(トリクロロメチル)フルオロベンゼンが主生成物となる恐れは通常ない。
【0038】
塩素化反応は発熱を伴うので反応温度は外部から加熱または冷却するとともに塩素導入速度を変化させたり、または塩素ガスを不活性ガスで希釈することで調節することができる。反応圧力は反応に殆ど影響を及ぼさないので特に加圧することは必要がなく、通常0.05〜1MPa(絶対圧。以下、本明細書において同じ。)であり、0.1〜0.3MPaで行うことができる。
【0039】
反応に使用する塩素(Cl2)の量は、十分な収率で目的物を得るためには2,3−ジメチルフルオロベンゼン1モルに対し5モル以上であればよいが、おおよそ5〜10モル程度であり、反応装置あるいは反応操作を最適化することで5〜6モル程度とすることができる。最適化は反応条件を設定するとともに、塩素化反応が気−液接触反応であることから、接触効率を高めるための慣用の手段、例えば、ガスの導入速度の調節、撹拌装置、ガス吹き込み装置、スパージャーなどの使用、または多段塩素化反応装置による方法を適宜採用することは有効である。
【0040】
また、本発明の第1工程の塩素化は、溶媒の存在下で行うこともできるが、反応原料の2,3−ジメチルフルオロベンゼンは液体であり、また、生成物の2−トリクロロメチル−6−フルオロベンザルクロリドも反応条件下において液体であり、かつ塩素や触媒を十分に溶解させ、溶媒の役割を兼ねるので、敢えて別途溶媒を使用する必要はなく、その方が経済的にも好ましい。
【0041】
既に述べたように、第1工程の塩素化によって、主生成物として得られるのは2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリドであり、異性体である2−トリクロロメチル−3−フルオロベンザルクロリドは生成しない。上記に与えられた条件では2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリドに対して、この異性体の生成量は通常0.1%未満であり、このため、以降の反応や精製の工程が著しく容易なものになる。
【0042】
第1工程の塩素化反応で得られる反応混合物には通常、塩素化が不完全な2,3−ビス(ジクロロメチル)フルオロベンゼン、過剰に塩素化された2−クロロ−6−フルオロベンザルクロリドおよび2−クロロ−6−フルオロベンゾトリクロリドが不純物として随伴している。これらの不純物はカラムクロマトグラフィー等の精製処理により分離することもできるが、これらの沸点はお互いに近接しているため、蒸留による精製は通常困難であり、煩雑な操作を必要とする。本発明では次の第2工程後の蒸留にて十分に分離が可能となるので、本発明の利点を生かすためにも、第1工程終了後の反応混合物は敢えて精製せずに、そのまま第2工程(フッ素化反応)の原料として使用する方が好ましい。
【0043】
以下、第2工程(2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリドのフッ素化)について説明する。第2工程は、第1工程で得た2−トリクロロメチル−6−フルオロベンザルクロリドを液相でフッ化水素(HF)と接触させ、2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリドを得る工程である。
【0044】
第2工程の液相フッ素化反応は、液相フッ素化反応で慣用される金属ハロゲン化物、例えば、五塩化アンチモン、四塩化スズなどを触媒として使用することもできるが、無触媒でもよい。触媒を用いると0℃以上の温度で反応し、反応が速くなるので例えば室温以下でおこなうことが必要となることがある等、かえって反応操作が困難となるなど好ましくない場合がある。無触媒の場合、反応温度は通常40〜200℃であり、60〜150℃が好ましい。40℃未満では反応が遅く、200℃を超えると過フッ素化体である2−クロロフルオロメチル−3−フルオロベンゾトリフルオリドおよび2−ジフルオロメチル−3−フルオロベンゾトリフルオリドの生成が多くなる。またトリフルオロメチル基の分解も起こることがあり、2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリドの収率、純度を低下させるので好ましくない。
【0045】
フッ素化反応では、2−トリクロロメチル−6−フルオロベンザルクロリド1モルに対しフッ化水素を通常は3〜20モル、好ましくは4〜15モルを、さらに好ましくは5〜12モルを使用する。3モルに足りないと収率が低下するので好ましくなく、また20モルよりも多量に用いると、反応性の上では問題ないが、フッ化水素の量が増えることにより生産性を悪くするなどの工業的な問題が生じるので好ましくない。
【0046】
液相フッ素化反応は、モネル、ハステロイ、ニッケルまたはこれらの金属やポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロポリエーテル樹脂などのフッ素樹脂でライニングされた耐圧容器中で攪拌機を使用して行われ、バッチ式反応、連続式反応または半連続式反応の形式が採られる。
【0047】
反応圧力は通常0.1MPa〜10MPaであり、0.5MPa〜10MPaが好ましく、1MPa〜5MPaが特に好ましい。反応圧力は10MPaを超えても反応性の上では問題ないが、過大な装置が必要となり好ましくない。また、0.1MPa(常圧)未満では、上述した反応温度でフッ化水素が液化せず反応が進まないことがあり好ましくない。
【0048】
以上のことから、特に好ましい反応温度と反応圧力の組み合わせは60℃〜150℃、1MPa〜5MPaである。
【0049】
フッ素化反応を行う際には、不活性な溶媒を使用することもできる。その様な溶媒としては、例えば、トルエン、フルオロベンゼン、ジフオロベンゼン、ベンゾトリフルオライド、1,4−ビストリフルオロメチルベンゼンなどが挙げられる。しかし、本工程の原料、生成物ともに液体であり、溶媒が存在しなくとも反応は円滑に進むので、経済性、操作性の観点から、無溶媒の方が好ましい。
【0050】
フッ素化反応に要する時間は、温度、圧力、溶媒の有無等に依存する。しかし、過フッ素化体である2−クロロフルオロメチル−3−フルオロベンゾトリフルオリドおよび2−ジフルオロメチル−3−フルオロベンゾトリフルオリドの生成を増大させないために、本工程で必要以上に長時間反応させないことが好ましい。具体的には第2工程における反応中間体の2−クロロジフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリドが完全に消費されるよりも前か、完全に消費された後、2時間以内に反応を終了させることが望ましい。
【0051】
こうしたことから第2工程の反応時間は、反応液の組成をガスクロマトグラフィー等の手段で観測しつつ、当業者により最適化することが望ましい。上述の「特に好ましい反応温度と反応圧力の組み合わせ」の条件では、概ね5時間〜10時間の反応時間が好ましく採用される。
【0052】
第2工程の反応物は通常の方法で後処理できる。すなわち、未反応のフッ化水素を分離除去した後、水洗、アルカリ性水溶液(炭酸ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液など)での洗浄を行い、フッ化水素を系内から除去する。その後、乾燥剤等で水分を除去することもできる。
【0053】
このようにして得た反応物はそのまま第3工程の原料として用いることもできるが、第2工程終了時の反応混合物中の各成分は、お互いの分離が特に容易であるので、蒸留等の精製を行って、純度の高い2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリドを単離し、第3工程の原料に供することが特に好ましい。この精製操作としては蒸留が特に好ましい。
【0054】
蒸留を行う場合には、通常、前記の後処理によってフッ化水素を除去したものを用いる。この場合、蒸留塔の材質には制限はなく、ガラス製のもの、ステンレス製のもの、四フッ化エチレン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、PFA樹脂、ガラスなどを内部にライニングしたもの等を、用いることができる。蒸留等中には、充填剤を詰めることもできる。蒸留は、減圧条件下で行うと、比較的低い温度で達成できるため、簡便であり、好ましい。この蒸留に要求される蒸留搭の段数に制限はないが、5〜100段が好ましく、さらに好ましくは10〜50段である。
【0055】
以下、第3工程(2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリドの還元)について説明する。第3工程は、第2工程(フッ素化)で得られた2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリドを遷移金属触媒の存在下、水素(H2)と反応させ、本発明の目的化合物である3−トリフルオロメチル−2−メチルフルオロベンゼンを得る工程である。本工程の反応は、気相法、液相法のいずれによっても行うことができる。
【0056】
本工程の反応は、反応に伴って塩化水素ガスが発生し、この塩化水素ガスが遷移金属触媒を失活させることがある。この塩化水素は反応系外にパージさせることが可能であり、それが好ましい。しかし塩化水素が短時間であっても系内に残留すると、触媒活性に影響を及ぼし得る。このため、気相法、液相法の別に関わらず、発生する塩化水素ガスを吸収、希釈するために水の共存下で反応を行うことが好ましい。液相法で行う場合には、塩化水素を中和できる塩基性物質(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、燐酸ナトリウム、燐酸カリウム等、水に溶解したときにpHが8以上を示す化合物が挙げられ、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムが挙げられる。)の存在下行うと特に好ましい。塩基性物質は、反応により発生するHClを中和するのに必要な量(2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリド1当量に対して2当量以上)を用いるのが好ましい。
【0057】
当反応に用いる遷移金属触媒の遷移金属としては、パラジウム、白金、ルテニウム、イリジウムまたはロジウムが反応条件下で腐食を受けにくく、触媒活性が高く、反応条件下で腐食を受けにくいので、好ましい。この中でパラジウムは取扱いやすく、活性も高いため特に好ましい。複数種類の金属を同時に使用してもよい。遷移金属触媒は、担体に担持させて用いることが好ましく、担体としては活性炭、シリカ、アルミナが使用でき、活性炭が好ましい。担持方法は特に限定されないが、上記金属の金属化合物の溶液に担体を浸漬したり、溶液を担体に噴霧した後、乾燥させ、おおむね150℃〜350℃に加熱しながら水素ガスで還元処理することによって得られる。得られた触媒はそのまま使用しても良いが、適当量の水と混合した「水を含有する触媒(wet品)」として使用すると、取扱いやすく好ましい。またこのようにして調製できる遷移金属触媒としては、市販のもの(例えばパラジウム/活性炭触媒)を用いてもよい。
【0058】
本発明の方法において担体に担持させる遷移金属の量(金属原子に換算した量)の合計値は特に制限はないが、担体100gに対し0.1g〜10gが好ましく、0.2g〜5gが特に好ましい。0.1gに満たないと反応速度が遅くなり、10gを超えると経済的に好ましくない。このようにして調製した遷移金属触媒を、還元工程の原料化合物に対し0.1〜30重量%(水分を除いた重量)用いることが好ましく、1〜10重量%(水分を除いた重量)用いることがさらに好ましい。なお、これらの遷移金属触媒は固相触媒であるから、反応に使用した後、ろ過等の操作によって分離し、再利用することもできる。
【0059】
なお還元工程においては、次式に表される「二量化体」(H原子数とCl原子数の異なる複数の化合物)が通常副生する。
【0060】
【化6】

【0061】
@0006
この「二量化体」の副生は、添加剤を添加することによって大幅に抑制でき、目的とする3−トリフルオロメチル−2−メチルフルオロベンゼンの選択率を向上できる。添加剤としては、ヨウ素(I2)の他、ヨウ化ナトリウム(NaI)、ヨウ化カリウム(KI)、ヨウ素酸ナトリウム(NaIO3)、ヨウ素酸カリウム(KIO3)など、ヨウ素化合物が挙げられ、他にも、NaClO3、KClO3、NaBrO3、KBrO3など好適に用いることができる。これらの中で、ヨウ素(I2)が特に好ましい。添加剤の量は、原料の2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリド1モルに対し、好ましくは0.0001〜0.005モル、より好ましくは0.00025〜0.002モルである。添加剤の量に特別な制限はないが、あまりに少ないと二量化の抑制効果が低く、多すぎると目的反応の速度を低下させることがあるので好ましくない。
【0062】
還元工程の具体的な操作手順に特に制限はないが、例えば次の手順で実施することができる。加圧条件に耐えられるオートクレーブ中に2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリドを含む原料混合物と水を投入する。オートクレーブ内部の材質はポリテトラフルオロエチレン、ガラスなど、酸性条件下で腐食されにくいものが好ましい。ただし、上述の「塩基性物質」を必要量添加すればステンレス鋼の反応器を用いても反応を行うことが可能である。続いて所定量の遷移金属触媒を加え、容器を密閉し、容器内の撹拌を開始する。水素ガスのボンベに接続して加圧し、加熱する。その後は、系内が所定の圧力に維持される様、水素ガスを連続的もしくは断続的に供給すればよい。反応中は適宜、サンプリングを行って、NMR、ガスクロマトグラフィー等の分析法で反応の進行状況を測定しながら反応を実施することが好ましい。そして原料が十分に目的物に変換されたか、水素ガスがもはや吸収されなくなるまで反応を続ける。
【0063】
反応温度は50〜150℃が好ましく、60〜100℃が特に好ましい。系内における水素の圧力は常圧(0.1MPa)以上、10MPa以下であることが好ましく、0.5〜2.0MPaが特に好ましい。あまり高い圧力で実施することは、反応性の上では問題ないが、反応器に過大な強度が要求されるなど、工業的な問題が生じるので好ましくない。例えば反応器としてガラス製容器を用いる場合には、圧力の上限は通常2MPa程度であるから、反応器の強度にも注意して圧力の設定を行う必要がある。
【0064】
還元工程が終了した後の反応混合物の精製処理は、通常の有機合成の処理法に基づいて行えばよく、特に制限されない。すなわち、水洗、アルカリ性水溶液(炭酸ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液など)での洗浄を行い、酸分を系内から除去する。その後、乾燥剤等で水分を除去することもできる。
【0065】
本工程の蒸留精製は減圧条件で行うことが好ましく、蒸留を行う場合には、通常、前記の後処理によって酸分を除去したものを用いる。この場合、蒸留塔の材質には制限はなく、ガラス製のもの、ステンレス製のもの、四フッ化エチレン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、PFA樹脂、ガラスなどを内部にライニングしたもの等を、用いることができる。蒸留等中には、充填剤を詰めることもできる。この蒸留に要求される段数に制限はないが、3〜100段が好ましく、さらに好ましくは3〜50段である。
【0066】
蒸留によって、無色透明の液体3−トリフルオロメチル−2−メチルフルオロベンゼンを留分として単離される。
【実施例】
【0067】
次に実施例を示すが、本発明はこれらの実施例により、限定されない。
【0068】
[実施例1]
(実施例1−1)塩素化(第1工程)
ジムロート冷却管、温度計、塩素吹き込み管を備えた500ml四つ口フラスコに2,3−ジメチルフルオロベンゼン:248.0g及び2,2’−アゾビスブチロニトリル(AIBN):1.84g(0.56mol%)を仕込み、攪拌しながら内温を60℃に昇温し、塩素ガスを約1.0mol/Hrの速度で導入し、反応を開始した。内温を65〜72℃に保ちながら、塩素ガスを7時間供給した。その結果、反応液の塩素化度は3.65となった。
【0069】
その後、内温を190℃に上げ、さらに12時間反応を継続した。反応継続後の反応液の組成はガスクロマトグラフィーの分析から、目的物である2−トリクロロメチル−6−フルオロベンザルクロリドが74.7%、未完全塩素化体である2,3−ビス(ジクロロメチル)フルオロベンゼンが1.5%、過塩素化体である2−クロロ−6−フルオロベンザルクロリドが1.0%、2−クロロ−6−フルオロベンゾトリクロリドの17.3%であった。回収した反応液の重量は562.9gであった。異性体である2−トリクロロメチル3−フルオロベンザルクロリドは検出されなかった。この反応液(塩素化混合物)は精製することなく、続く実施例1−b(フッ素化)に使用した。
[2−トリクロルメチル−6−フルオロベンザルクロリドの物性データ]
1H−NMR(基準物質:TMS,溶媒:CDCl3
δ ppm:7.30(mlut、1.2Hz、8.3Hz、10.6Hz、1H),7.42(mlut、5.4Hz、8.3Hz、8.3Hz、1H),7.76(d、3.6Hz、1H),7.85(dd、1.2Hz、8.0Hz、1H)
19F−NMR(基準物質:CCl3F,溶媒:CDCl3
δ ppm:−102.31(1F)
GLC−MS
m/z(rel.intensity):294(M+、6.6)、265(9.9)、263(47.0)、261(100)、259(79.1)、226(23.8)、224(25.0)、191(23.3)、189(37.9)、156(15.8)、154(49.9)、119(13.3)、118(15.8)、113(14.4)、112(16.6)、99(13.1)、94(20.7)、77(15.9)
形状:白固体(精製物)
(実施例1−2)フッ素化(第2工程)および蒸留精製
攪拌機、圧力調整弁を備えた冷却還流管、熱電対、圧力計、サンプリング管を備えた金属製1Lオ−トクレ−ブに、実施例1−aで得られた塩素化混合物556.7g及び無水フッ化水素302.6gを仕込み密閉とし、撹拌しながら内温を110℃に昇温し、反応を開始した。内圧が2.9〜3.0MPaになるように圧力調整弁を調整し、反応の進行と共に発生する塩化水素を圧力調整弁から系外へ放出しながら6時間反応を行った。この時の反応液(有機相)の組成はガスクロマトグラフィーの分析から、目的物である2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリドが70.7%であった。この他に、過フッ素化体である2−クロロフルオロメチル−3−フルオロベンゾトリフルオリドが0.9%、同じく過フッ素化体である2−ジフルオロメチル−3−フルオロベンゾトリフルオリドが8.9%、過塩素化体のフッ素化物である2−クロロ−6−フルオロベンゾトリフルオリドが16.6%であった。
【0070】
反応終了後、回収した反応液を、水洗浄、炭酸水素ナトリウム水溶液洗浄、さらに水洗浄した。洗浄後の反応液に硫酸マグネシウムを加え、攪拌後濾過をした。濾液で得られた反応液の重量は417.2gであった。
【0071】
得られたフッ素化反応液はDixonパッキンを充填した45cmの蒸留塔で蒸留精製した。
【0072】
この蒸留によって1400〜1500Pa、温度76〜77℃の留分を分取したところ、純度99.5%の目的物が247.9g得られた。塩素化原料の2,3−ジメチルフルオロベンゼンからの総合収率は50.3%であった。
[2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリドの物性データ]
1H−NMR(基準物質:TMS,溶媒:CDCl3
δ ppm:7.03(d,3.1Hz、1H),7.39(mlut、1.5Hz、8.0Hz、10.7Hz、1H),7.44(dd、1.5Hz、8.0Hz、1H),7.50(mlut、4.8Hz、8.0Hz、8.0Hz、1H)
19F−NMR(基準物質:CCl3F,溶媒:CDCl3
δ ppm:−58.35(3F)、−104.21(1F)
GLC−MS
m/z(rel.intensity):246(M+、7.5)、213(32.9)211(100)、176(43.1)、161(8.1)、125(12.0)、107(16.5)、88(13.1)
形状:無色透明液体
[実施例2]
(実施例2−1)塩素化(第1工程)
ジムロート冷却管、温度計、塩素吹き込み管を備えた500ml四つ口フラスコに2,3−ジメチルフルオロベンゼン:248.0g及び2,2’−アゾビスブチロニトリル(AIBN):1.84g(0.56mol%)を仕込み、攪拌しながら内温を60℃に昇温し、塩素ガスを約1.0mol/Hrの速度で導入し、反応を開始した。内温を65〜70℃に保ちながら、塩素ガスを7時間供給した。その結果、反応液の塩素化度は3.71となった。
【0073】
その後、内温を200℃に上げ、さらに7時間反応を継続した。反応継続後の反応液の組成はガスクロマトグラフィーの分析から、目的物である2−トリクロロメチル−6−フルオロベンザルクロリドが79.6%、未完全塩素化体である2,3−ビス(ジクロロメチル)フルオロベンゼンが0.9%、過塩素化体である2−クロロ−6−フルオロベンザルクロリドが0.5%、2−クロロ−6−フルオロベンゾトリクロリドの13.2%であった。異性体である2−トリクロロメチル3−フルオロベンザルクロリドは検出されなかった。反応液の重量は562.2gであった。この反応液(塩素化混合物)は精製することなく、続く実施例3−b(フッ素化)に使用した。
(実施例2−2)フッ素化(第2工程)および蒸留精製
攪拌機、圧力調整弁を備えた冷却還流管、熱電対、圧力計、サンプリング管を備えた金属製1Lオートクレーブに、実施例3−aで得られた塩素化混合物550.0g及び無水フッ化水素303.4gを仕込み密閉とし、撹拌しながら内温を110℃に昇温し、反応を開始した。内圧が2.9〜3.0MPaになるように圧力調整弁を調整し、反応の進行と共に発生する塩化水素を圧力調整弁から系外へ放出しながら5時間反応を行った。この時の反応液(有機相)の組成はガスクロマトグラフィーの分析から、目的物である2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリドが76.5%であった。この他に、過フッ素化体である2−クロロフルオロメチル−3−フルオロベンゾトリフルオリドが0.1%、同じく過フッ素化体である2−ジフルオロメチル−3−フルオロベンゾトリフルオリドが4.0%、過塩素化体のフッ素化物である2−クロロ−6−フルオロベンゾトリフルオリドが14.3%であった。
【0074】
反応終了後、回収した反応液を、水洗浄、炭酸水素ナトリウム水溶液洗浄、さらに水洗浄した。洗浄後の反応液に硫酸マグネシウムを加え、攪拌後濾過をした。濾液で得られた反応液の重量は434.0gであった。
得られたフッ素化反応液はDixonパッキンを充填した45cmの蒸留塔で蒸留精製した。この蒸留によって2000〜2150Pa、温度81〜84℃の留分を分取したところ、純度99.2%の目的物が271.7g得られた。塩素化原料の2,3−ジメチルフルオロベンゼンからの総合収率は55.2%であった。
【0075】
[実施例−3]
(実施例3−1)塩素化(第1工程)
ジムロート冷却管、温度計、塩素吹き込み管を備えた500ml四つ口フラスコに2,3−ジメチルフルオロベンゼン:248.0g及び2,2’−アゾビスブチロニトリル(AIBN):1.84g(0.56mol%)を仕込み、攪拌しながら内温を60℃に昇温し、塩素ガスを約1.0mol/Hrの速度で導入し、反応を開始した。内温を65〜70℃に保ちながら、塩素ガスを7時間供給した。その結果、反応液の塩素化度は3.68となった。
【0076】
その後、内温を220℃に上げ、さらに5時間反応を継続した。反応継続後の反応液の組成はガスクロマトグラフィーの分析から、目的物である2−トリクロロメチル−6−フルオロベンザルクロリドが83.5%、未完全塩素化体である2,3−ビス(ジクロロメチル)フルオロベンゼンが1.0%、過塩素化体である2−クロロ−6−フルオロベンザルクロリドが0.5%、2−クロロ−6−フルオロベンゾトリクロリドの8.6%であった。異性体である2−トリクロロメチル3−フルオロベンザルクロリドは検出されなかった。反応液の重量は574.1gであった。この反応液(塩素化混合物)は精製することなく、続く実施例5−b(フッ素化)に使用した。
(実施例3−2)フッ素化(第2工程)および蒸留精製
攪拌機、圧力調整弁を備えた冷却還流管、熱電対、圧力計、サンプリング管を備えた金属製1Lオートクレーブに、実施例5−aで得られた塩素化混合物572.8g及び無水フッ化水素380.4gを仕込み密閉とし、撹拌しながら内温を100℃に昇温し、反応を開始した。内圧が2.9〜3.0MPaになるように圧力調整弁を調整し、反応の進行と共に発生する塩化水素を圧力調整弁から系外へ放出しながら10時間反応を行った。この時の反応液(有機相)の組成はガスクロマトグラフィーの分析から、目的物である2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリドが84.3%であった。この他に、過フッ素化体である2−クロロフルオロメチル−3−フルオロベンゾトリフルオリドが0.6%、同じく過フッ素化体である2−ジフルオロメチル−3−フルオロベンゾトリフルオリドが2.4%、過塩素化体のフッ素化物である2−クロロ−6−フルオロベンゾトリフルオリドが8.8%であった。
【0077】
反応終了後、回収した反応液を、水洗浄、炭酸水素ナトリウム水溶液洗浄、さらに水洗浄した。洗浄後の反応液に硫酸マグネシウムを加え、攪拌後濾過をした。濾液で得られた反応液の重量は439.6gであった。
得られたフッ素化反応液はDixonパッキンを充填した45cmの蒸留塔で蒸留精製した。この蒸留によって1550〜1650Pa、温度70〜72℃の留分を分取したところ、純度99.0%の目的物が294.5g得られた。塩素化原料の2,3−ジメチルフルオロベンゼンからの総合収率は59.9%であった。
【0078】
[実施例4]還元(第3工程)および蒸留精製
攪拌機、熱電対、圧力計、水素導入管、脱気弁を備えた金属製1Lオ−トクレ−ブに、2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリド(純度99.5%品)247.0g、5%−Pd/C(50%含水品)2.47g、30%酢酸ナトリウム水溶液574.0g、二量化防止剤としてヨウ素0.006g(25ppm)を仕込み、撹拌を開始し窒素及び水素置換後水素を導入し圧力0.5MPaすると共に内温80℃とし、4時間反応した。この時の反応液の組成はガスクロマトグラフィーの分析から目的物である3−トリフルオロメチル−2−メチルフルオロベンゼン97.8%、中間体である3−トリフルオロメチル−2−クロロメチルフルオロベンゼン0.1%、二量化体1.9%(複数の化学種の合計値)であった。
【0079】
反応終了後、回収した反応液を、濾過して触媒を取り除き、二層分離した濾液の有機物を水洗浄、炭酸水素ナトリウム水溶液洗浄、さらに水洗浄した。洗浄後の反応液に硫酸マグネシウムを加え、攪拌後、濾過をした。回収した粗3−トリフルオロメチル−2−メチルフルオロベンゼンの重量は154.8gであった。この粗3−トリフルオロメチル−2−メチルフルオロベンゼンを蒸留精製し、12800〜13000Pa、64〜68℃の留分を分取したところ、純度99.8%の目的物が141.7g得られた。還元工程の収率は80.5%であった。
[3−トリフルオロメチル−2−メチルフルオロベンゼンの物性データ]
1H−NMR(基準物質:TMS、溶媒:CDCl3
σ(ppm):2.38(s、3H)、7.21(d、1H,J=9.8Hz)、7.22(mlut、1H)、7.41(d、1H、7.6Hz)。
19F−NMR(基準物質:CCl3F、溶媒:CDCl3
σ(ppm):−61.6(s、3F)、−115.1(s、1F)。
GLC−MS
m/z(rel.intensity):178(M+、44.4)、177(12.8)、159(10.4)、158(14.0)、127(14.1)、110(7.9)、109(100)、108(6.5)、83(8.8)、63(6.2)、57(7.5)
形状:無色透明液体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の2工程を含む、2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリドの製造方法。
第1工程:2,3−ジメチルフルオロベンゼンを塩素(Cl2)と反応させ、2−トリクロロメチル−6−フルオロベンザルクロリドを得る工程。
第2工程:前記2−トリクロロメチル−6−フルオロベンザルクロリドを、液相でフッ化水素(HF)と反応させ、2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリドを得る工程。
【請求項2】
請求項1の方法により得られた2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリドをさらに、遷移金属触媒の存在下、水素(H2)と反応させる(第3工程)ことを特徴とする、3−トリフルオロメチル−2−メチルフルオロベンゼンの製造方法。
【請求項3】
第1工程の2,3−ジメチルフルオロベンゼンと塩素(Cl2)との反応が、ラジカル開始剤の存在下、または光照射下で、行われることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
第2工程の2−トリクロロメチル−6−フルオロベンザルクロリドとフッ化水素(HF)との反応が、無溶媒で行われることを特徴とする、請求項1乃至請求項3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
第3工程における遷移金属触媒が、パラジウムであることを特徴とする、請求項2乃至請求項4の何れかに記載の、3−トリフルオロメチル−2−メチルフルオロベンゼンの製造方法。
【請求項6】
2−トリフルオロメチル−6−フルオロベンザルクロリド。
【請求項7】
3−トリフルオロメチル−2−メチルフルオロベンゼン。

【公開番号】特開2006−282511(P2006−282511A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−100776(P2005−100776)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】